(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6935180
(24)【登録日】2021年8月27日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】乳由来リン脂質含有粉末、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23J 7/00 20060101AFI20210906BHJP
【FI】
A23J7/00
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-189063(P2016-189063)
(22)【出願日】2016年9月28日
(65)【公開番号】特開2018-50510(P2018-50510A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】特許業務法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 朋樹
(72)【発明者】
【氏名】十亀 仁美
(72)【発明者】
【氏名】李 娟
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】富澤 章
【審査官】
澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−167646(JP,A)
【文献】
特開平07−087886(JP,A)
【文献】
特開2007−089535(JP,A)
【文献】
特開平03−251143(JP,A)
【文献】
特開2003−339326(JP,A)
【文献】
特開2004−081192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01J1/00−99/00,A23J1/00−7/00,
A23C1/00−23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/CAPlus/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳製品を含む出発原料をpH4.0〜5.0となるように調整し、塩化カルシウムを添加して生成した沈殿を除去して上清を得る工程と、
上清を膜処理により濃縮する工程と、
濃縮液のpHを9.0〜10.0に調整してたんぱく質凝集物を可溶解化し、乾燥する工程と、
を含むことを特徴とする乳由来リン脂質含有粉末の製造方法。
【請求項2】
前記乳製品が、バターミルク、バターミルク粉還元液、バターゼラム、およびバターゼラム粉還元液のうち少なくとも一つである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
バターミルク、バターミルク粉還元液、バターゼラム、およびバターゼラム粉還元液のうち少なくとも一つの乳製品を含む出発原料にタンパク質分解酵素を添加してタンパク質を分解する工程と、
タンパク質を分解した後、前記タンパク質分解酵素を失活させる工程と、
前記タンパク質分解酵素を失活させた後、膜処理により前記分解されたタンパク質を分離して濃縮液を得る工程と、
前記濃縮液を乾燥する工程と
を含むことを特徴とする乳由来リン脂質含有粉末の製造方法。
【請求項4】
前記膜処理は、分画粒子径1.4μm以下の精密ろ過による処理であることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記膜処理は、分画分子量10kDa以上の限外ろ過による処理であることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記タンパク質分解酵素が、動物由来プロテアーゼ、植物由来プロテアーゼ、細菌由来プロテアーゼ、菌類由来プロテアーゼ、および藻類由来プロテアーゼから選ばれる少なくとも一つの酵素であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記タンパク質分解酵素が、Bacillus属由来であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記タンパク質分解酵素が、Aspergillus属由来であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記タンパク質分解酵素が、中性またはアルカリ性酵素であることを特徴とする請求項3〜8のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳由来リン脂質含有粉末、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆レシチンや卵黄レシチンは、天然物由来のリン脂質粗製物として、食品製造における乳化剤等として広く利用されているが、近年、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリンのような乳由来リン脂質が種々の生理機能を有することが報告され、注目されている。
ホスファチジルセリンやホスファチジルコリンは神経機能や運動機能の発達・維持に深くかかわること、スフィンゴミエリンは乳幼児の腸管成熟化機能を有することが報告されている。スフィンゴミエリンは、スフィンゴシンと脂肪酸からなるセラミド骨格にホスホコリンが結合した構造を有する物質で、脳や神経組織に大量に存在する。また、スフィンゴミエリンは大豆リン脂質や卵黄リン脂質には僅かにしか含まれていないが、乳中には豊富に含まれており、牛乳中のリン脂質の約30%を占める。
このようなことから、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリンのような、乳由来リン脂質を高濃度で含有する乳由来リン脂質高含有粉末は、機能性食品、母乳代替品又は医薬品の原料として広く利用することができる。
【0003】
乳由来のリン脂質を含有する粉末としては、バターゼラムを原料として製造された粉末が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1記載の方法では、バターゼラム又はバターゼラム粉還元液をpH 4.0〜5.0の酸性に調整し、塩化カルシウムを添加して生成したタンパク質の等電点沈殿を遠心分離等により除去し、その後、pHを中性に調整してから上清を限外濾過又は精密濾過して得られた濃縮液を乾燥することによって、乳由来のリン脂質を含有する乳由来複合脂質含有粉末を得ている。
【0004】
また、バターミルク粉をはじめとした乳製品をクロロホルム/メタノール/水(4/8/3)の溶媒やアセトン等の有機溶媒を用いて、乳製品中のリン脂質を抽出する方法が知られている(特許文献2)。この方法では、リン脂質を90%以上の高純度まで濃縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−89535号公報
【特許文献2】特開平3−47192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、pH調整して出発原料中に含まれるタンパク質を凝集沈殿させてから遠心分離等を行う場合、粒子径の小さい凝集沈殿物は遠心分離等でも取りきれず、遠心上清を酸性のまま保持している間に再び凝集が発生する。このため、得られる粉末にはタンパク質の凝集物が残存してしまう。この粉末を食品素材として利用すると、粉末に含まれる脂質は油滴になり、乳糖やミネラルは水に溶けるが、残存したタンパク質凝集物は不溶成分となる。これらの不溶成分のメディアン径は30μm以上と比較的大きいため、食品素材を含む食品を食した際に「ざらつき」食感を感じてしまう。
また、タンパク質が凝集沈殿するときに出発原料に含まれるリン脂質の約30%が沈殿中に取り込まれてしまい、タンパク質凝集物の沈殿を除去する工程でリン脂質も除去されてしまうため、乳由来リン脂質含有粉末として回収する歩留まりが低くなってしまう。
一方で、特許文献2の有機溶媒を用いる方法では、食品素材の調製には認められていない有機溶媒を使用する方法であるため、得られる乳由来リン脂質含有粉末の食品への利用が困難である。
本発明は、これらの問題点を解決しようとするものであり、乳製品を出発原料として製造される乳由来リン脂質含有粉末において、タンパク質の凝集物が残存することを抑制し、リン脂質の歩留まりを向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、乾燥物中に脂質45〜70重量%を含有し、脂質に含まれる乳由来のリン脂質の乾燥物中の含量が20重量%以上であり、5%水溶液としたときの不溶成分のメディアン径が10μm以下である乳由来リン脂質含有粉末である。
また、本発明は、乳製品を含む出発原料の水溶液にタンパク質分解酵素を添加してタンパク質を分解する工程と、タンパク質を分解した後に酵素を失活させる工程と、酵素を失活させた後に、分解されたタンパク質を膜処理によって分離して濃縮液を得る工程と、濃縮液を乾燥する工程とを含むことを特徴とする乳由来リン脂質含有粉末の製造方法である。
さらに、本発明は、乳製品を含む出発原料の水溶液を酸性化する工程と、塩化カルシウムを添加して生成した凝集物を遠心分離等により除去して上清を得る工程と、上清を膜処理によって濃縮する工程と、濃縮液をアルカリ化して残存した凝集物を可溶化する工程と、濃縮液を乾燥する工程を含むことを特徴とする乳由来リン脂質含有粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乳由来リン脂質含有粉末を水溶液にしたときの不溶成分のメディアン径を小さくしたため、食品素材に利用した場合であっても、「ざらつき」食感を抑えることができる。
また、本発明の製造方法によれば、出発原料に含まれるタンパク質を酵素分解により低分子化させてから除去することでタンパク質凝集物が粉末中に残存することを抑制し、タンパク質とともにリン脂質が除去されることを防いでリン脂質の歩留まりを向上させることができる。本発明によれば、原料中のリン脂質の回収率を90%以上にすることができ、最終産物の歩留まりを原料固形分の15%以上にすることができる。
また、従来の製法では、除去されたタンパク質凝集沈殿物が半固形状の副産物として発生したため、その処理が別途必要となっていた。これに対し、本製法で副産物として発生する膜透過液は液体であるため、従来の半固形状の副産物に比べて扱いが容易である。さらに、この液体には、原料中のタンパク質が酵素で分解されたペプチドやアミノ酸などのタンパク質分解物、および乳糖やミネラルが含まれており、食品等の乳固形源として利用することもできる。
本発明の乳由来リン脂質含有粉末、または本発明の製造方法によって得られた乳由来リン脂質含有粉末および副産物は、機能性食品、母乳代替品又は医薬品の原料として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の乳由来リン脂質高含有粉末を製造する方法について説明する。
バターゼラム粉中のリン脂質の含有量は5重量%以上であり、バターミルク粉中の0.5重量%に比べて10倍高い。また、バターゼラムはAMF(Anhydrous Milk Fat,バターオイル)製造における副産物として生成するため安価である。このため、バターゼラムやバターゼラム粉は乳由来リン脂質含有粉末の原料とすることができる。
バターゼラム粉を用いる場合は、10重量%程度の濃度となるように水に溶解して還元した後に、タンパク質分解酵素であるプロテアーゼを添加し、バターゼラム中のタンパク質を低分子化する。
酵素処理に用いるプロテアーゼとしては、ペプシン、キモトリプシン、トリプシン、パンクレアチンなどの動物由来プロテアーゼ、パパイン、ブロメライン、フィシンなどの植物由来プロテアーゼ、細菌(乳酸菌、枯草菌、放線菌)、菌類(キノコ、酵母、カビ)などの微生物や藻類が産生するエンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼ等、いずれのプロテアーゼでも用いることができる。特にBacillus属やAspergillus属の産生する中性/アルカリ性プロテアーゼのタンパク質分解能が高く好ましい。また、酵素は、精製酵素、半精製酵素、粗製酵素、破砕菌体など液体または粉体を問わず、いずれの形態でもよい。酵素溶液を調製する際の溶媒は特に限定されず、酵素が変性や失活せず、食品衛生上問題ないものであればよい。
使用可能なプロテアーゼの具体例として、例えば、スミチーム FP-G(新日本化学工業社製)、スミチームLP-50D(新日本化学工業社製)、スミチーム MP(新日本化学工業社製)、プロチン SD-AY10(天野エンザイム社製)、プロチン NY100(天野エンザイム社製)、ペプチダーゼR(天野エンザイム社製)、プロテアックス(天野エンザイム社製)、プロテアーゼM「アマノ」SD(天野エンザイム社製)、プロテアーゼP「アマノ」6SD(天野エンザイム社製)、ブロメラインF(天野エンザイム社製)、サモアーゼPC10F(天野エンザイム社製)、パンチダーゼ NP-2(ヤクルト薬品工業社製)、アロアーゼ NP-10(ヤクルト薬品化学工業社製)、オリエンターゼ 22BF(エイチビイアイ社製)、オリエンターゼ OP(エイチビイアイ社製)、ヌクレイシン(エイチビイアイ社製)、マルチフェクト PR 6L(デュポン社製)、マルチフェクト PR 7L(デュポン社)、アクチナーゼ AS(科研ファルマ社製)、デナチーム AP(ナガセケムテックス社製)、マキシプロPSP(DSM社製)、マキシプロ FPC(DSM社製)、エンチロン NBS-100(洛東化成社製)、アルカラーゼ(ノボザイムズ社製)、プロタメックス(ノボザイムズ社製)、フレーバーザイム(ノボザイムズ社製)がある。
酵素処理の条件について、酵素反応温度およびpHは必ずしも酵素の至適温度・pHで反応させる必要はなく、風味劣化や腐敗を防止できるような温度、pHで反応させることが好ましい場合もある。反応時間は5分〜24時間であるが、微生物増殖の観点から5時間以内が好ましい。
なお、添加する酵素は1種でもよいが、2種以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0010】
得られた酵素分解バターゼラムには、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、乳糖、ミネラル、さらに対象とするリン脂質を含む脂質成分が存在する。リン脂質以外の成分の除去及び低減のために、膜分離技術を応用する。バターゼラム中に含まれるタンパク質および脂質は限外濾過膜又は精密濾過膜を透過することはできない。一方でタンパク質を低分子化することで生じたペプチド、アミノ酸やその他の成分である乳糖、ミネラルは限外濾過膜又は精密濾過膜を透過することができる。このため、プロテアーゼ処理したバターゼラムを限外濾過膜又は精密濾過膜で濃縮および透析濾過をおこなうことで、脂質以外の成分を透過液側に除去し、リン脂質の濃縮をおこなうことができる。得られる濃縮液の固形分中に占める脂質成分の割合は45〜70重量%と高いが、食品工業で通常利用されている噴霧乾燥装置で容易に粉末化することができ、リン脂質含量20重量%以上となる粉末を得ることができる。
なお、膜処理に用いる膜種は有機膜、無機膜を問わず、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、高分子量ポリビニルアルコールなどのポリマーからなるものでも、セラミックス、ゼオライト、ジルコニア、シリカ、アルミナ等の無機物からなるものでも構わない。また、分離膜の形状は、平膜、中空糸膜、スパイラル膜、セラミックス膜などいずれの形状のものも用いることができる。
分離膜は限外濾過膜又は精密濾過膜のいずれかまたは両方を用いることができるが、酵素分解バターゼラム中のペプチド、アミノ酸、乳糖、ミネラルをできるだけ除去し、かつ脂質画分をできるだけ濃縮液側に残存させるために、望ましくは精密濾過膜、より望ましくは分画粒子径0.1〜1.4μmの精密濾過膜を用いることが好ましい。
乾燥手段としては、例えば、凍結乾燥、真空乾燥、熱風乾燥等を適宜用いることができる。
得られた本発明の粉末は、タンパク質、糖質含量、ミネラル含量が低く、乾燥物中脂質を45〜70重量%含有し、かつ脂質のうちリン脂質を乾燥物中20重量%以上含有しており、5%水溶液としたときの不溶成分のメディアン径が10μm以下である乳由来リン脂質含有粉末である。
なお、バターゼラム又はバターゼラム粉還元液をpH 4.0〜5.0の酸性に調整し、塩化カルシウムを添加して生成したタンパク質の等電点沈殿を遠心分離等により除去して得られた上清を、限外濾過又は精密濾過して膜濃縮し、得られた濃縮液をpH9.0〜10.0のアルカリ性にpH調整することによりたんぱく質の凝集物を可溶化し、乾燥することによっても、上記と同様の乳由来リン脂質含有粉末を得ることが可能であるが、リン脂質の回収率や得られる粉末の歩留まりの点で前述の方法に劣る。
【0011】
次に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0012】
原料のバターゼラム粉(TATUA社) 20kg(うち脂質3.0kg、リン脂質1.6kg)に対して50℃に加温した水180kgを加えて攪拌・溶解することにより、固形分10重量%のバターゼラム還元液を調製した。このバターゼラム還元液に対して、Aspergillus oryzae由来のプロテアーゼ(スミチームLP-50D、新日本化学工業社)をバターゼラム粉のタンパク質重量の1重量%添加し、50℃、5時間反応させ、酵素分解バターゼラム液を得た。得られた酵素分解バターゼラム液については、酵素を失活させた後、分画粒子径1.4μmの精密濾過膜処理を行い、濃縮液を回収し、凍結乾燥処理により乾燥を行って、実施例の乳由来リン脂質粉末を得た。
得られた粉末の重量は5.0kgで、うち脂質は2.9kg、リン脂質は1.5kgであり、得られた粉末の乾燥物中の脂質は58重量%、乳由来のリン脂質は乾燥物中30重量%であった。また、原料バターゼラム粉から得られた粉末へのリン脂質の回収率は94%、歩留まりは25%であり、得られた粉末を5%水溶液としたときの不溶成分のメディアン径(体積基準の累積50%粒子径)をレーザー回折式粒度分布計によって測定したところ、5.1μmであった。
なお、本発明の乳由来リン脂質粉末の脂質およびリン脂質含量は以下の方法で定量した。
乳由来リン脂質粉末1gを1.25wt%シュウ酸カリウム水溶液5mLに溶解した後に、エタノール6mL、ジエチルエーテル15mL、石油エーテル15mLを順次加えて水平振とうして脂質を溶媒相に抽出し、溶媒相を回収後に溶媒を揮発させて残った油分の重量より脂質含量を算出した。上記油分25mgに過塩素酸 0.5 mL、硝酸 2.0 mLを添加して100℃、60分で加熱後、硝酸を3 mL加え、120℃〜140℃まで10℃刻みで10分間、150℃〜170℃までは10℃刻みで30分間それぞれ加熱して湿式灰化し、その後、ホスファC-テストワコーを用いて無機リンの定量をおこなった。得られた無機リン量にフォスファチジルセリン換算係数25.4を乗じてリン脂質量に換算した。
【0013】
〔比較例1〕
原料のバターゼラム粉(TATUA社)20kg(うち脂質3.0kg、リン脂質1.6kg)に対して50℃に加温した水180kgを加えて撹拌・溶解することにより、固形分10重量%のバターゼラム還元液を調製した。このバターゼラム還元液に対して10%塩酸を添加することでpH4.4となるように調整した。同時に塩化カルシウムを全体量の0.02重量%となるように添加し、次いで50℃で30分間保持することでカゼインを凝集させた。生成したカゼインの沈殿は遠心分離機で処理することにより完全に除去して上清を得た。この上清を回収し、凍結乾燥処理により粉末を得た。
得られた粉末の重量は2.4kgで、うち脂質は1.4kg、リン脂質は0.7kgであり、得られた粉末の乾燥物中の脂質は58重量%、乳由来のリン脂質は乾燥物中29重量%であった。また、原料バターゼラム粉から得られた粉末へのリン脂質の回収率は44%、歩留まりは12%で、実施例1と比較してリン脂質の回収率と歩留まりが悪かった。
得られた粉末を5%水溶液としたときの不溶成分のメディアン径(体積基準の累積50%粒子径)をレーザー回折式粒度分布計によって測定したところ、32.6μmと実施例1に比べて大きかった。
〔比較例2〕
原料のバターゼラム粉(TATUA社) 20kg(うち脂質3.0kg、リン脂質1.6kg)に対して50℃に加温した水180kgを加えて攪拌・溶解することにより、固形分10重量%のバターゼラム還元液を調製した。得られたバターゼラム粉還元液については分画粒子径1.4μmの精密濾過膜処理を行い、濃縮液を回収し、凍結乾燥処理により乾燥を行って、乳由来リン脂質粉末を得た。
得られた粉末8.5kgのうち、脂質は2.9kg、リン脂質は1.5kg、タンパク質は3.9kgであり、得られた粉末の乾燥物中の脂質は34重量%、乳由来のリン脂質は乾燥物中18重量%と実施例1と比較して低くなった。これは原料中のタンパク質が透過液側に十分に除去できておらず、相対的に脂質およびリン脂質含量が低くなったと考えられる。原料バターゼラム粉から得られた粉末へのリン脂質の回収率は94%、歩留まりは43%であった。
得られた粉末を5%水溶液としたときの不溶成分のメディアン径(体積基準の累積50%粒子径)をレーザー回折式粒度分布計によって測定したところ、0.44μmであった。
〔比較例3〕
原料のバターゼラム粉(TATUA社) 20kg(うち脂質3.0kg、リン脂質1.6g)に対して50℃に加温した水180kgを加えて攪拌・溶解することにより、固形分10重量%のバターゼラム還元液を調製した。このバターゼラム還元液に対して、Aspergillus oryzae由来のプロテアーゼ(スミチームLP-50D、新日本化学工業社)をバターゼラム粉のタンパク質重量の1重量%添加し、50℃、一時間反応させ、酵素分解バターゼラム液を得た。得られた酵素分解バターゼラム液については、酵素を失活させた後、分画粒子径1.4μmの精密濾過膜処理を行い、濃縮液を回収し、凍結乾燥処理により乾燥を行って、実施例の乳由来リン脂質粉末を得た。
得られた粉末7.8kgのうち、脂質は2.9kg、リン脂質は1.5kg、タンパク質は3.2kgであり、得られた粉末の乾燥物中の脂質は37重量%、乳由来のリン脂質は乾燥物中19重量%と実施例1と比較して低くなった。これは原料中のタンパク質の分解が不十分なために透過液側への除去が不十分になり、相対的に脂質およびリン脂質含量が低くなったと考えられる。原料バターゼラム粉から得られた粉末へのリン脂質の回収率は94%、歩留まりは39%であった。
得られた粉末を5%水溶液としたときの不溶成分のメディアン径(体積基準の累積50%粒子径)をレーザー回折式粒度分布計によって測定したところ、0.42μmであった。
【実施例2】
【0014】
原料のバターゼラム(Uelzena社) 50kg(固形5kgうち脂質0.65kg、リン脂質0.33kg) に対して50℃に加温した水450kgを加えて攪拌・溶解することにより、固形分10重量%のバターゼラム粉還元液を調製した。このバターゼラム粉還元液に対して、Aspergillus oryzae由来のプロテアーゼ(スミチームFP-G、新日本化学工業社)をバターゼラム粉のタンパク質重量の1重量%添加し、50℃、5時間反応させ、酵素分解バターゼラム液を得た。得られた酵素分解バターゼラム液については、酵素を失活させた後、分画分子量10kDaの限外濾過膜処理を行い、濃縮液を回収し、凍結乾燥処理により乾燥を行って、本実施例の乳由来リン脂質粉末を得た。
得られた粉末の重量は1.1kgで、うち脂質は0.61kg、リン脂質は0.31.kgであり、得られた粉末の乾燥物中の脂質は55重量%、乳由来のリン脂質は乾燥物中28重量%含有し、原料バターゼラム粉のリン脂質の回収率は91%であり、歩留まりは22.0%であった。
得られた粉末を5%水溶液としたときの不溶成分のメディアン径(体積基準の累積50%粒子径)をレーザー回折式粒度分布計によって測定したところ、7.3μmであった。
【0015】
〔試験例1〕
得られた乳由来リン脂質粉末のメディアン径の違いが、喫食時の「ざらつき」食感に及ぼす影響を確認するため、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2および比較例3で得られた粉末の5%水溶液を調製して官能評価を実施した。表1に官能評価結果を示す。併せて、得られた粉末の乾燥物中の脂質含量と、乳由来のリン脂質含量を示す。
実施例1および実施例2で得られた乳由来リン脂質粉末の5%水溶液は、不溶成分のメディアン径が10μm以下になるので、ざらつきを感じなかった。一方、比較例1で得られた乳由来リン脂質粉末の5%水溶液には、メディアン径が30μm以上の不溶成分が残存してしまうため、ざらつきを感じた。また、比較例2、3で得られた乳由来リン脂質粉末の5%水溶液は、ざらつきを感じなかった。
【0016】
【表1】
【実施例3】
【0017】
原料のバターゼラム(Uelzena社) 50kg(固形5kgうち脂質0.65kg、リン脂質0.33kg) に対して50℃に加温した水450kgを加えて攪拌・溶解することにより、固形分10重量%のバターゼラム粉還元液を調製した。このバターゼラム粉還元液に対して、由来の異なる4種類のプロテアーゼをタンパク質重量の1重量%添加し、50℃、5時間反応させ、酵素分解バターゼラム液を得た。得られた酵素分解バターゼラム液については、酵素を失活させた後、分画粒子径1.4μmの精密濾過膜処理を行い、濃縮液を回収し、凍結乾燥処理により乾燥を行って、本実施例の乳由来リン脂質粉末を得た。
表2に、酵素処理に用いたプロテアーゼ、および得られた粉末それぞれを5%水溶液としたときの不溶成分のメディアン径(体積基準の累積50%粒子径)をレーザー回折式粒度分布計によって測定した結果を示す。本実施例で調製した乳由来リン脂質粉末は、酵素処理に使用したプロテアーゼ種によらず、5%水溶液としたときの不溶成分のメディアン径が10μm以下となった。これらの粉末の5%水溶液を調整して官能評価を実施したところ、実施例1および実施例2の結果と同様に、ざらつきを感じなかった。
【0018】
【表2】
【実施例4】
【0019】
原料のバターゼラム粉(TATUA社)20kg(うち脂質3.0kg、リン脂質1.6kg)に対して50℃に加温した水180kgを加えて撹拌・溶解することにより、固形分10重量%のバターゼラム還元液を調製した。このバターゼラム還元液に対して10%塩酸を添加することでpH4.4となるように調整した。同時に塩化カルシウムを全体量の0.02重量%となるように添加し、次いで50℃で30分間保持することでカゼインを凝集させた。生成したカゼインの沈殿は遠心分離機で処理することにより完全に除去して上清を得た。この上清を分画粒子径1.4μmの精密濾過膜処理を行い、濃縮液を回収した。この濃縮液のpHが9.5となるように水酸化ナトリウムを加えて残存したたんぱく質凝集物を可溶解化し、凍結乾燥処理により粉末を得た。
得られた粉末の重量は2.5kgで、うち脂質は1.4kg、リン脂質は0.7kgであり、得られた粉末の乾燥物中の脂質は56重量%、乳由来のリン脂質は乾燥物中28重量%であった。また、原料バターゼラム粉から得られた粉末へのリン脂質の回収率は44%、歩留まりは12%であった。得られた粉末を5%水溶液としたときの不溶成分のメディアン径(体積基準の累積50%粒子径)をレーザー回折式粒度分布計によって測定したところ、9.6μmであった。
メディアン径は実施例1と同程度であったが、実施例1と比較してリン脂質の回収率と歩留まりが悪かった。