(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プラズマCVD工程では、前記原料ガスに加えて、前記処理容器内に前記反応ガスを供給し、前記下層膜の形成は、前記原料ガスと前記反応ガスとをプラズマ化させて行なわれることを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
前記プラズマCVD工程が、前記下層膜が3nm以下の予め設定された膜厚となるまでの期間行われた後、前記プラズマALD工程を実施することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の成膜方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態に係る成膜方法の内容を説明する前に、発明者らが見出したプラズマALD法により成膜される膜におけるラフネスの傾向について、
図1、2を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、一般的な半導体装置の製造途中のデバイス構造の一例を示している。
図1に示すデバイスは、ウエハWであるSi基板51の上面側に絶縁膜である窒化シリコン(SiN)膜52を積層し、このSiN膜52にコンタクトホール50を形成した後、バリア膜であるチタン膜53を成膜してから、さらにタングステン(W)膜54を積層することにより、コンタクトホール50内にタングステンを埋め込んだ構造となっている。コンタクトホール50は、SiN膜52の上層側に形成される配線とSi基板51とを接続する役割を果たす。
また、多層配線構造の半導体装置においては、上記配線のさらに上層側に積層された層間絶縁膜にも配線間の接続用のビアホールが形成され、当該ビアホール内にもバリア膜などの目的でTi膜53が形成される場合がある(多層配線構造については不図示)。
【0012】
ここで近年、コンタクトホール50やビアホール(不図示)は、アスペクト比(コンタクトホール50やビアホールの開口径に対する深さの比)が大きくなる傾向がある。一方で、従来、Ti膜53などの金属膜の成膜に用いられてきた物理気相成長(Physical Vapor Deposition、PVD)法は、ステップカバレッジの良好な膜が得られにくく、高アスペクト比のホール内の成膜には向いていないという問題がある。
そこで発明者らは、ステップカバレッジの良好な膜が得られるプラズマALD法を利用してTi膜53の成膜を行うことを検討した。
【0013】
Ti膜53の成膜においては、成膜される膜の原料となるTi元素を含む原料ガスとして四塩化チタン(TiCl
4)ガスを用い、この原料ガスと反応させる反応ガスとして水素(H
2)ガスとアルゴン(Ar)ガスとを含むものを用いた。そして、成膜対象のウエハWが配置された処理容器内に原料ガスを供給してウエハWの表面に吸着させる吸着段階と、処理容器内へ反応ガスを供給すると共に、この反応ガスをプラズマ化させ、ウエハWの表面に吸着した原料ガスと反応させる反応段階と、を交互に繰り返し実施するプラズマALD法によりTi膜53を得た。
【0014】
プラズマALD法により成膜されたTi膜53は、高アスペクト比のコンタクトホール50内の内部全体に形成され、良好なステップカバレッジが得られた。一方で、このTi膜53は、原料ガスと反応ガスとの混合ガスを処理容器内でプラズマ化してウエハWの表面にTi膜53を堆積させるプラズマCVD法と比較してラフネスが大きくなってしまうことが分かった(後述の比較例1−1参照)。
発明者らは、ラフネスの大きなTi膜53を用いると、コンタクトホール50を介したSi基板51−配線間のコンタクト抵抗が大きくなるなど、電気的特性が悪化することを把握している。
【0015】
そこで発明者らは、ステップカバレッジの良好なプラズマALD法を採用しつつ、Ti膜53のラフネスを改善する手法を開発するにあたり、プラズマALD法により成膜したTi膜53のラフネスが増大するメカニズムについて検討した。
【0016】
図2は、プラズマALD法により成膜されるTi膜53のラフネスが大きくなる理由として推定されるメカニズムを模式的に示している。
図2(a)は、吸着段階を実施し、Si基板51(ウエハW)の表面に原料ガスのTiCl
481が吸着した状態を示している。
【0017】
一般にALD法は、成膜対象のウエハWの表面に、原料ガスを吸着させて均一な分子層を形成した後、当該分子層と反応ガスとを反応させ、反応により得られた原子や分子の層を堆積させることにより均一な膜厚の膜を得る手法である。
しかしながら、吸着段階後の実際のSi基板51の表面においては、吸着したTiCl
481同士の間に隙間があり、Si基板51の表面の一部が露出した状態となっている。
【0018】
この状態において次の反応段階を実施すると、反応ガスのプラズマ化により生成したHラジカル801などの活性種によってTiCl
481が還元され、膜材料となる金属チタン(Ti804)が得られる。
一方で、
図2(b)に示すように、露出しているSi基板51の表面が反応ガスのプラズマに曝され、Hラジカル801などがSi基板51に作用すると、Si基板51の表面の一部が削られて凹部が形成される。また、TiCl
481が還元されて得られたTi804の一部は、Si基板51を構成するSi803と結合し、プラズマに対して安定なTiSi82などの化合物を部分的に生成する。なお、802はTiCl
481から還元除去されたClやHClである。
【0019】
この結果、Si基板51の表面には、Si基板51が削られて形成された凹部と、Si基板51の表面に部分的に生成した化合物(
図2(b)に示す例ではTiSi82)によって形成された凸部とが混在した状態となる。
このような凹凸が形成されたSi基板51の表面に、プラズマALD法により金属チタンを積層してTi膜53を形成すると、
図2(c)に示すように下地側のSi基板51の凹凸が、Ti膜53の表面にも凹凸として反映され、ラフネスが大きくなってしまうものと推測される。
【0020】
以上に推定したTi膜53のラフネス増大のメカニズムによれば、Si基板51の表面へのTi膜53の積層を開始する初期段階において、Si基板51の表面をできるだけ平坦な状態に保つことが、その上に積層されるTi膜53のラフネスの増大を抑えるポイントになると考えられる。
【0021】
そこで本例の成膜方法は、Ti膜53の成膜の初期段階において、プラズマCVD法により金属チタンの下層膜53Aを形成した後、プラズマALD法を実施して下層膜53A上に共通の材料からなる上層膜53Bを積層することにより、ラフネスの増大を抑えつつ、カバレッジの良好なTi膜53の成膜を行う。
以下、
図3を参照しながら上記成膜方法を実施するための成膜装置の構成例について説明する。
【0022】
図3に示すように成膜装置は、金属製の真空容器である処理容器1内に、ウエハWを載置するための載置台2を設けた構成となっている。処理容器1の側面には、ウエハの搬入出用の搬入出口11と、この搬入出口11を開閉するゲートバルブ12とが設けられている。
【0023】
処理容器1の本体上には、角型のダクトを円環状に湾曲させて構成した金属製の排気ダクト13が積み重ねられている。排気ダクト13の内周面には、処理空間313から流れ出たガスが排気されるスリット状の開口部131が形成されている。排気ダクト13の外壁面に形成された排気口132には真空ポンプなどからなる排気部65が接続されている。排気口132や排気部65は、処理空間313内の真空排気を行う真空排気部に相当する。
【0024】
載置台2は、前記排気ダクト13より内側の位置に配置され、セラミクス製や金属製の円板により構成されている。載置台2の内部には、ウエハWを例えば350℃〜550℃の範囲内の成膜温度に加熱するための不図示のヒーターが埋設されている。また載置台2には、ウエハWを所定の載置領域内に固定するための図示しない静電チャックを設けてもよい。さらに載置台2には、前記載置領域の外周側の領域、及び載置台2の側周面を周方向に亘って覆うカバー部材22が設けられている。
【0025】
載置台2は、処理容器1の底面を貫通する支持部材23及び、板状の支持台232を介して昇降機構24に接続されている。昇降機構24は、ウエハWの受け渡し位置(
図3に一点鎖線で記載してある)と、ウエハWへの成膜が行われる処理位置との間で載置台2を昇降させる。
処理容器1は支持部材23の周囲を囲み、支持台232に接続されたベローズ231により気密に保たれている。また載置台2の下方側には、載置台2に設けられた貫通口を介して載置台2の上面から突出し、ウエハWを持ち上げるための昇降自在な複数本の支持ピン25が設けられている。
【0026】
排気ダクト13の上面側には、金属製の円板部材からなる支持板32が設けられている。排気ダクト13と支持板32との間には、リング状の絶縁部材134が配置され、この絶縁部材134の上面の溝内に収容されたO−リング133により、処理容器1内が気密に保たれている。また、前記絶縁部材134により、排気ダクト13に対して支持板32は絶縁されている。支持板32の下面側には金属製の天板部材31が支持固定されている。
【0027】
天板部材31の下面側には凹部が形成され、この凹部の中央側の領域は平坦になっている。天板部材31の下面側には、当該下面の全体を覆うように金属製のシャワーヘッド42が設けられている。シャワーヘッド42は、載置台2と対向する平坦な円板部分と、この円板の周縁部に形成され、下方側に突出した環状突起部43とを備える。
【0028】
載置台2を処理位置まで上昇させたとき、環状突起部43の下端は、隙間を介して載置台2側のカバー部材22の上面と対向するように配置される。シャワーヘッド42の下面及び環状突起部43と、載置台2の上面とによって囲まれた空間は、ウエハWに対する成膜が行われる処理空間313となる。
【0029】
また天板部材31側の凹部とシャワーヘッド42との間には、ガスを拡散させるための拡散空間420が構成されている。シャワーヘッド42には、その全面に亘って多数のガス吐出孔421が穿設され、ウエハWに向けて反応ガスを供給することができる。
【0030】
さらに前記拡散空間420内には、複数個のガス分散部41が、例えば同心円状に配置されている。
図3、5などに示すように各ガス分散部41は、上面側が開口し、下面側が塞がれた扁平な円筒形状の部材の側面に、周方向に沿って複数のガス吐出孔411を設けた構成となっている。各ガス分散部41の上面側の開口は、天板部材31内に形成された複数のガス供給路312の下流端側の開口と接続されている。
【0031】
各ガス供給路312は、天板部材31の上面と支持板32の下面との間に形成されたバッファ室である拡散部311に接続されている。
支持板32には、前記拡散部311に水素ガスとプラズマ形成用のアルゴンガスとを含む反応ガスを供給するための反応ガス供給路321、及び同じく拡散部311に塩化チタンガス及び希釈用のアルゴンガスとを含む原料ガスを供給するための原料ガス供給路322が形成されている。
【0032】
反応ガス供給路321は、途中で分岐した配管を介してアルゴンガス供給部61、水素ガス供給部62に接続されている。また原料ガス供給路322は、途中で分岐した配管を介してアルゴンガス供給部63、塩化チタンガス供給部64に接続されている。各配管には、ガスの給断を行う開閉バルブ602と、ガス供給量の調整を行う流量調整部601とが設けられている。なお図示の便宜上、
図3においてはアルゴンガス供給部61、63を別々に示したが、これらは共通のアルゴンガス供給部を用いてもよい。
【0033】
さらに支持板32には、整合器662を介してプラズマ形成用の高周波電源部661が接続されている。高周波電源部661からは、例えば13.56MHzの高周波電力が供給される。各々金属部材によって構成され、互いに締結された支持板32、天板部材31、シャワーヘッド42は、一体となってプラズマ形成用の上部電極を構成する。
【0034】
一方、載置台2側には、前記上部電極との間で平行平板電極を構成する下部電極21が設けられている。例えば載置台2がセラミクス製である場合は、載置台2の内部には、円板状の下部電極21が埋設されている。本例の成膜装置において、下部電極21は接地されている(
図3)。また、載置台2が金属製である場合には、載置台2の本体を接地することにより当該載置台2を下部電極としてもよい(不図示)。
【0035】
上記構成において、上部電極である支持板32、天板部材31、シャワーヘッド42と載置台2側の下部電極21との間に高周波電力を印加することにより、拡散空間420や処理空間313内のガスを容量結合によりプラズマ化することができる。なお、高周波電力は上部電極側に印加する場合に限らず、下部電極21側に印加してもよい。この場合には、上部電極側が接地される。
【0036】
成膜装置は、
図3に示すように制御部7と接続されている。制御部7は例えば図示しないCPU(Central Processing Unit)と記憶部とを備えたコンピュータからなり、記憶部には成膜装置により実施される成膜方法、即ち、処理容器1(処理空間313)内に配置されたウエハWに対して、予め決められた順番や流量で原料ガスや反応ガスを供給すると共に、所定のタイミングにてこれらのガスのプラズマを形成してTi膜の成膜を実行する制御についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカードなどの記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0037】
以上に説明した構成を備えた成膜装置によって実施される成膜方法の内容について
図4〜8を参照しながら説明する。
はじめに、排気部65によって予め真空排気された処理容器1内にて、載置台2を受け渡し位置まで降下させ、ゲートバルブ12を開放し、外部の真空搬送室に設けられたウエハ搬送機構の搬送アームを処理容器1内に進入させる。搬送アームには、成膜対象のウエハWが保持されており、支持ピン25を上昇させて搬送アームからウエハWを受け取る。しかる後、支持ピン25を降下させ、不図示のヒーターによって予め設定された成膜温度に昇温された載置台2上にウエハWを載置する。
【0038】
次いで、搬送アームを退避させると共にゲートバルブ12を閉じ、載置台2を処理位置まで上昇させ、処理容器1内の圧力調整を行った後、成膜を開始する。
ここで、本例の成膜方法においては、
図4に示すように、プラズマCVD工程と、プラズマALD工程との2段階に分けてTi膜53の成膜が行われる。
【0039】
はじめに、プラズマCVD工程においては、
図4、5に示すように、原料ガス供給路322を介した原料ガスの供給と、反応ガス供給路321を介した反応ガスの供給とが並行して行われる。予め設定された流量で供給された原料ガス及び反応ガスは拡散部311内で合流し、互いに混合された混合ガスとなる。混合ガスは、ガス供給路312、ガス分散部41を介して拡散空間420に流れ込む。
【0040】
拡散空間420に流れ込み、当該拡散空間420内に広がった混合ガスは、シャワーヘッド42に設けられたガス吐出孔421から、ウエハWが配置されている処理空間313へと流れ込む。処理空間313内の混合ガスは、載置台2上に載置されたウエハWの上面に沿って、ウエハWの径方向外側へ向けて流れた後、環状突起部43の下端と、カバー部材22との間の隙間を介して排気ダクト13側へと流れ出す。排気ダクト13に流れ込んだ混合ガスは、排気口132を介して外部へ排気される。
なお、後述のプラズマALD工程の吸着段階や反応段階においても、拡散部311へ流れ込んだ各種のガスは、
図5を用いて説明した例と同様の挙動を示して流れる。
【0041】
図4のタイムチャート及び
図5に示すように、原料ガス、反応ガスの供給を開始してから予め設定した時間が経過したら、高周波電源部661から例えば100〜500Wの範囲内の300Wの高周波電力を印加して(
図4中には「RF印加」と記してある)、混合ガスをプラズマ化する。
【0042】
原料ガスと反応ガスとの混合ガスをプラズマ化することにより、プラズマ内には四塩化チタンや水素の活性種が生成され、これら活性種の反応により金属チタン粒子が得られる。金属チタン粒子はウエハWであるSi基板51の表面に堆積して、下層膜53Aを形成する(プラズマCVD工程、
図8(a))。
【0043】
プラズマCVD工程においては、プラズマの持つエネルギーは、主として当該プラズマ内におけるCVD反応(四塩化チタンや水素の活性種から金属チタン粒子を得る反応)に利用される。そこでSi基板51が露出した状態である成膜の初期段階では、プラズマCVD工程により成膜を実施することにより、Si基板51の表面の削れや、Si基板51と原料ガスとの反応に伴うプラズマに対して安定な化合物の部分的な生成を抑えて、Si基板51表面における凹凸の形成を抑制することができる。
【0044】
また、このプラズマCVD工程においては、後段のプラズマALD工程と比較して高周波電源部661より印加される電力が小さい(プラズマCVD工程:300W、プラズマALD工程:800W)。Si基板51の表面が露出している段階では、プラズマを形成するエネルギーを低く抑えることによっても、Si基板51の表面における凹凸の形成を抑制している。
【0045】
上述のプラズマCVD工程により、3nm以下の予め設定された膜厚(例えば1nm)の下層膜53Aを形成する。しかる後、原料ガスの供給とRF印加を停止してプラズマCVD工程を終了する。
本例では、反応ガスの供給を継続することにより、当該反応ガスを、処理空間313内に残存する原料ガスをパージするパージガスとしても利用している。但し、反応ガスと切り替えて窒素ガスなどの不活性ガス(下層膜53Aと反応しない不活性ガスを選択することが好ましい)をパージガスとして供給してもよいことは勿論である。
【0046】
処理空間313内の原料ガスが排気されたら、原料ガスの供給を再開して、下層膜53Aが形成されたSi基板51の表面に原料ガス(TiCl
481)を吸着させる(
図4の吸着段階、
図6、
図8(b))。
図6には、原料ガスの供給と並行して反応ガスの供給を継続する例を示しているが、原料ガスの供給期間中は反応ガスの供給を停止してもよい。
図8(b)に示すように、処理空間313に供給された原料ガス中のTiCl
481は、Si基板51上に形成された下層膜53Aの表面に吸着する。
【0047】
予め設定された時間、吸着段階を実施したら、原料ガスの供給を停止する一方で、反応ガスの供給を継続して処理空間313内に残存する原料ガスをパージする(
図4のパージ期間(1))。予め設定された時間が経過し、処理空間313内に残存する原料ガスが排出されタイミングとなったら、高周波電源部661から供給する高周波電力を500〜1500Wの範囲内の800Wに増加させて、反応ガスをプラズマ化する(
図4の反応段階、
図7、
図8(c))。
【0048】
反応ガスのプラズマ化により、Hラジカル801などの活性種が生成し、この活性種によって下層膜53Aの表面に吸着したTiCl
481が還元され、金属チタンが得られる。
図8(c)に示すように、この反応段階においては、Si基板51の表面が、プラズマCVD工程にて形成された下層膜53Aによって覆われた状態となっている。このため、Si基板51の表面が露出している状態でプラズマALD工程を開始する場合(
図2(b))と比較して、Si基板51の表面の削れによる凹部の形成や、Si基板51の表面での化合物の部分的な形成に伴う凸部の形成が抑制される。
【0049】
予め設定された時間だけ反応段階を実行したら、高周波電源部661より印加する高周波電力を停止させて反応段階を終了する。そして、反応ガスの供給を継続し処理空間313内に残存する反応ガスの活性種などをパージする(
図4のパージ期間(2))。
【0050】
こうして
図4に示す「吸着段階→パージ期間(1)→反応段階→パージ期間(2)→…」のサイクルを予め設定された回数だけ繰り返し実行することにより、所望の膜厚の上層膜53Bを形成する(プラズマALD工程)。そして、プラズマCVD工程にて形成された下層膜53Aと、プラズマALD工程にて形成された上層膜53Bとが本例の成膜方法によって成膜されたTi膜53となる。
【0051】
ここで、プラズマALD工程の反応段階においては、プラズマCVD工程の高周波電力と比べて大きな、例えば800Wの電力を印加することにより、下層膜53Aの表面に吸着したTiCl
481を短時間で十分に反応させ、比較的短い時間で緻密な上層膜53Bを成膜することができる。
【0052】
プラズマCVD工程によりSi基板51の表面への凹凸の形成を抑えて下層膜53Aを形成し、その上に上層膜53Bを積層しているので、Si基板51の表面が露出した状態でプラズマALD工程を開始する場合と比較して、ラフネスの小さなTi膜53を得ることができる(後述の実施例1参照)。
【0053】
プラズマALD工程にて、上述のサイクを例えば数十回〜数百回繰り返し、所望の膜厚のTi膜53が成膜されたら、パージガスとしての反応ガスの供給を停止する。しかる後、載置台2を受け渡し位置まで降下させると共に、ゲートバルブ12を開いて搬送アームを進入させる。そして、搬入時とは逆の手順で支持ピン25から搬送アームにウエハWを受け渡し、成膜後のウエハWを搬出させた後、次のウエハWの搬入を待つ。
【0054】
本実施の形態に係る成膜方法によれば以下の効果がある。プラズマCVD工程によりSi基板51(ウエハW)の表面に金属元素(上述の例では金属チタン)を含む下層膜53Aを形成した後、プラズマALD工程により前記下層膜53Aと共通の材料からなる上層膜53Bを当該下層膜53A上に積層する。この結果、プラズマALD法を実施する際にはSi基板51の表面が下層膜で覆われているので、プラズマALD工程の実施に起因するSi基板51表面における凹凸の形成が抑えられ、比較的表面粗さの小さなTi膜53を成膜することができる。
【0055】
ここで上述のプラズマCVD工程においては、四塩化チタンを含む原料ガスと、水素を含む反応ガスとを用いてTi膜53の成膜を行う例について説明した。しかしながら、プラズマCVD工程においてHラジカル801などの活性種を生成する反応ガスを用いて下層膜53Aを形成することは必須ではない。例えば、四塩化チタンガスとプラズマ形成用のアルゴンガスとを含む原料ガスのみを供給し、当該原料ガスをプラズマ化することによってもTiCl
481の分解により下層膜53Aを形成することができる。
【0056】
また、本例の成膜方法で成膜する膜についてもTi膜53に限定されるものではない。例えば、五塩化タンタル(TaCl
5)を含む原料ガスと、水素を含む反応ガスとを用いて金属タンタルの膜(Ta膜)を成膜してもよい。
【0057】
さらに、成膜する膜は金属膜に限定されるものではなく、無機膜の成膜を行ってもよい。例えばTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)を含む原料ガスと、オゾンガスを含む反応ガスとの反応によるSiO
2膜の成膜や、四塩化チタンを含む原料ガスと、アンモニア(NH
3)を含む反応ガスとの反応によるTiN膜の成膜を行ってもよい。また、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)などの複合酸化物の成膜を行う場合のように、2種類の原料ガス(ストロンチウムやチタンを各々含む原料ガス)と、反応ガス(オゾンガスなど)といった3種類以上の原料ガス/反応ガスを組み合わせて成膜を行ってもよいことは勿論である。
【0058】
この他、プラズマCVD工程やプラズマALD工程の際に、プラズマを形成する手法についても
図3に示した平行平板を用いる例に限定されない。例えば、誘導結合によりガスをプラズマ化するICP(Inductively Coupled Plasma)アンテナや、マイクロ波によりガスをプラズマ化するマイクロ波アンテナを支持板32側などに設けて拡散空間420や処理空間313内のガスをプラズマ化してもよい。
【0059】
さらには成膜装置の構成についても
図3などに示す枚葉式の成膜装置に限定されるものではない。例えば、多数枚のウエハを上下方向に並べて保持する棚状のウエハボートを石英製の処理容器内に挿入し、外部に設けられたヒーターにより処理容器内を加熱しながら、原料ガスやプラズマ化した反応ガスなどを順番に供給してプラズマCVD工程やプラズマALD工程を実施する、縦型熱処理装置と呼ばれるバッチ式の成膜装置を用いてもよい。また、回転テーブルの回転軸の周囲に、周方向に沿って複数枚のウエハWを載置し、原料ガスやプラズマ化した反応ガスが供給される互いに区画された処理室が形成された処理容器内にて回転テーブルを回転させ、回転テーブル上に載置されたウエハWがこれら処理室を通過することにより、ウエハWへの原料ガスや反応ガスの供給を行うセミバッチ式の成膜装置についても、本例の成膜方法は適用することができる。
【実施例】
【0060】
(実験1)
成膜条件を種々変化させてSi基板51の表面にTi膜53を成膜し、各Ti膜53のラフネスを確認した。
A.実験条件
図3に示す枚葉式の成膜装置を用い、真空排気された処理容器1内にウエハWを配置すると共に、四塩化チタンとアルゴンガスとを含む原料ガスと、及び水素とアルゴンガスとを含む反応ガスとを用い、プラズマCVD法、プラズマALD法の実施条件を変化させて成膜を行った。原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いてTi膜53の表面を測定した結果に基づき、各手法にて成膜したTi膜53についての単位面積当たりの二乗平均粗さ(RMS:Root Mean Square)、算術平均粗さ(Sa)、最大高さ粗さ(Sz)を求めた。
(実施例1)プラズマCVD工程(高周波電源部661からの印加電力300W)にて厚さ1nmの下層膜53Aを形成した後、プラズマALD工程(同じく印加電力800W)にて厚さ5nmの上層膜53Bを形成してTi膜53を得た。処理容器1内の圧力は1.88torr(250Pa)、成膜温度は420℃である。また原料ガスの供給流量は四塩化チタン/アルゴン=14.7sccm/300sccm、反応ガスの供給流量は水素/アルゴン=7000sccm/300sccmであり、プラズマALD工程の吸着段階における原料ガスの供給時間は0.05秒、反応段階における高周波電力の印加時間は1秒とした。
(比較例1−1)プラズマCVD工程を実施せず、プラズマALD法のみにより6nmのTi膜53を成膜した。プラズマALD法の実施条件は実施例1と同様である。
(比較例1−2)プラズマCVD工程に替えて、高周波電源部661からの印加電力を300WとしたプラズマALD法により、厚さ1nmの下層膜53Aを形成し、その後、実施例1と同様の条件で厚さ5nmの上層膜53Bを形成しTi膜53を得た。
(参照例1)プラズマCVD法のみにより厚さ6nmのTi膜53を成膜した。高周波電源部661からの印加電力を1500Wとした点を除いて、プラズマCVD法の実施条件は実施例1と同様である。Si基板51との相互作用(Si基板51の表面が削れることによる凹部の形成や、Si基板51の表面に化合物が形成されることに伴う凸部の形成)が小さい本法を基準にして、各実施例、比較例にて得られたTi膜53のラフネスを評価する。
【0061】
B.実験結果
各実施例、比較例、参照例にて得られたTi膜53のラフネスの算出結果を表1に示す。また、実施例1、比較例1−1にて得られたTi膜53をTEM(Transmission Electron Microscope)により撮像した結果を各々、
図9(a)、(b)に示す。
【表1】
【0062】
プラズマCVD工程にて下層膜53Aを形成した後に、プラズマALD工程により上層膜53Bを形成して得た実施例1に係るTi膜53は、いずれの算出方法により求めたラフネスについても、参照例1よりも良好な結果が得られた。また、
図9(a)に示すTEM画像においても、凹凸の少ない滑らかな表面を有するTi膜53を成膜できていることが明確に確認できる。
【0063】
これに対して、プラズマALD法のみを用いて成膜を行った比較例1−1に係るTi膜53は、いずれの算出方法により求めたラフネスについても参照例1よりも2倍以上の大きな値となった。また、また、
図9(b)に示すTEM画像においても、凹凸の多いラフネスの大きなTi膜53となっている。
【0064】
また、高周波の供給電力を300Wまで減少させたプラズマALDにより下層膜53Aの成膜を行った比較例1−2は、プラズマALD法のみの比較例1−1に比べると、いずれの算出法により求めたラフネスについても改善している。しかしながら、ラフネス改善の判断基準とした参照例1と比べると、ラフネスは悪化しており改善の度合いは十分ではない。
上記実施例、比較例の結果によれば、プラズマCVD工程により下層膜53Aを形成した後、プラズマALD工程により上層膜53Bを形成して、Ti膜53の成膜を行う本例の成膜方法は、ラフネスの良好な膜を得るうえで好適な成膜方法であると評価できる。
【0065】
(実験2)
コンタクトホール50が形成されたSi基板51の表面にTi膜53を成膜してステップカバレッジの状態を確認した。
A.実験条件
開口径12nm、アスペクト比17のコンタクトホール50が形成されたSi基板51に対し、実施例1、比較例1−1と同様の手法でTi膜53の成膜を行い、コンタクトホール50の内部におけるTi膜53の膜厚を測定した。
(実施例2)実施例1と同様の手法によりTi膜53を成膜した。
(参照例2)比較例1−1と同様の手法によりTi膜53を成膜した。既述のようにプラズマALD法はステップカバレッジの良好な成膜方法であるので、本法により得られたTi膜53を基準として実施例2のステップカバレッジを評価する。
【0066】
B.実験結果
実施例2、参照例2のTEM画像を各々
図10、
図11に示す。これらの図には、Si基板51の表面(フィールド部)、コンタクトホール50の上部側面(ネック部−トップサイド部)、コンタクトホール50の中間部側面(ミドルサイド部)、コンタクトホール50の下部側面(ボトムサイド部)、及びコンタクトホール50の底面(ボトム部)の拡大画像を併せて示してある。また、拡大画像に適宜、併記した数値は、各部におけるTi膜53の膜厚、及びフィールド部のTi膜53の膜厚に対する各部のTi膜53の膜厚の比をパーセント表示したものである。
【0067】
実施例2の結果によれば、Ti膜53の膜厚が薄くなる傾向があるミドルサイド部やボトムサイド部においても、フィールド部の52〜62%程度の膜厚のTi膜53を成膜することができている。これは、プラズマALD法のみにより成膜を行った参照例2の結果(フィールド部の61〜63%)と比較して、実用上、十分な膜厚を有するTi膜53が成膜されていると評価できる。従って、プラズマCVD法により下層膜53Aを形成した後、プラズマALD法により上層膜53Bを形成する本例の成膜方法を採用する場合においても、カバレッジの良好なTi膜53を成膜することが可能であることが確認できた。