特許第6935900号(P6935900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6935900
(24)【登録日】2021年8月30日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】脱臭及び窒素除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/58 20060101AFI20210906BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20210906BHJP
   B01D 53/84 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   B01D53/58ZAB
   C02F3/34 101B
   C02F3/34 101A
   C02F3/34 101D
   C02F3/34 Z
   C02F3/34 101C
   B01D53/84
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-28218(P2017-28218)
(22)【出願日】2017年2月17日
(65)【公開番号】特開2018-130705(P2018-130705A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年8月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、農林水産省、家畜ふん尿処理過程からの悪臭低減技術の高度化委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100169579
【弁理士】
【氏名又は名称】村林 望
(72)【発明者】
【氏名】安田 知子
(72)【発明者】
【氏名】福本 泰之
(72)【発明者】
【氏名】和木 美代子
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102614774(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102002408(CN,A)
【文献】 特開平11−262790(JP,A)
【文献】 特開平11−309334(JP,A)
【文献】 特開平11−169650(JP,A)
【文献】 特開2012−245488(JP,A)
【文献】 特開平08−243346(JP,A)
【文献】 特開2006−081953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34−53/73
B01D 53/74−53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
C02F 3/28−3/34
A61L 9/00−9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアガスを硝化反応及び硫黄脱窒反応に供する、活性汚泥を接種した大谷石を充填した脱臭槽と、
前記脱臭槽にチオ硫酸ナトリウムを含有する水を供給する給水槽と、
を備える、脱臭及び脱窒処理装置であって、
前記脱臭槽において、アンモニアが、大谷石に吸着された状態で、大谷石の表面で増殖した活性汚泥中の硝化菌により硝化され、亜硝酸、硝酸に変換され、一方で、硫黄源としてチオ硫酸ナトリウムを添加することで、活性汚泥中の硫黄酸化細菌により硫黄脱窒反応が起き、チオ硫酸と、亜硝酸及び硝酸が反応し、チオ硫酸の酸化により硫酸が生成し、窒素を窒素ガスとして除去する、
前記装置
【請求項2】
アンモニアガスが家畜排泄物処理過程から生じるものである、請求項1記載の装置。
【請求項3】
水が硫黄脱窒汚泥をさらに含有する、請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
水のpHが7.0〜8.8である、請求項1〜3のいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
アンモニアガスを、活性汚泥を接種した大谷石及びチオ硫酸ナトリウムの存在下で硝化反応及び硫黄脱窒反応に供する工程を含む、脱臭及び脱窒処理方法であって、
前記工程において、アンモニアが、大谷石に吸着された状態で、大谷石の表面で増殖した活性汚泥中の硝化菌により硝化され、亜硝酸、硝酸に変換され、一方で、硫黄源としてチオ硫酸ナトリウムを添加することで、活性汚泥中の硫黄酸化細菌により硫黄脱窒反応が起き、チオ硫酸と、亜硝酸及び硝酸が反応し、チオ硫酸の酸化により硫酸が生成し、窒素を窒素ガスとして除去する、
前記方法
【請求項6】
アンモニアガスが家畜排泄物処理過程から生じるものである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
反応がさらに硫黄脱窒汚泥の存在下で行われる、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
反応がpH7.0〜8.8下で行われる、請求項5〜7のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば家畜排泄物処理過程から生じるアンモニアを主体とした臭気を除去し、且つ窒素を除去するための方法及び当該方法に利用する脱臭及び窒素除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、家畜糞の堆肥化処理では、アンモニアを主体とする臭気が生じるため、微生物を利用して生物学的に処理する生物脱臭法が利用されることが多い。生物脱臭システムでは、アンモニアガスは水への溶解により気相から除去された後、微生物による硝化反応により亜硝酸又は硝酸に変換される。また、一般に脱臭用微生物の活性を維持するために、水を散水しており、アンモニアと硝酸、亜硝酸を含む脱臭廃水が生じる。水を循環利用する際(循環散水方式)には、窒素が蓄積していくため、長期的には微生物の活性低下が起こる。
このため、生物脱臭廃水の窒素を効率的に除去する技術が求められている。
【0003】
循環散水方式の生物脱臭装置の微生物活性の低下を抑制する方法としては、散水用水のイオン濃度を希釈により適正濃度まで下げる方法(特許文献1)が知られている。当該方法では、イオン濃度の上限を、亜硝酸、硝酸イオン濃度を10,000ppm以下、硫酸イオン濃度で5,000ppm以下、電気伝導度では100mS/m以下を目安としている。
【0004】
一方、脱窒を利用した生物脱臭方法も開発されている(特許文献2〜6及び非特許文献1等)。特許文献2は、多孔質木質系ろ材に硝化菌と脱窒菌を生息させ、臭気を吸収した水をろ材上面に散水するシステムを開示する。特許文献3は、廃鋳物砂を脱臭材として用い、堆肥化の結露水や脱臭廃水を脱臭槽で処理するシステムを開示する。脱窒には臭気発生源となる有機性廃棄物由来の有機物を利用している。特許文献4等では、脱窒作用を有する微生物の養分として有機物を供給する装置を別途備えたシステムが提案されている。また、特許文献5及び6は、アンモニアの吸収による除去後の硝化反応において、硝酸化を抑制し、亜硝酸化液を得てアナモックス細菌により脱窒するシステムを開示する。これらの亜硝酸化方法として、アンモニウムイオン濃度、亜硝酸濃度、pHの制御範囲等が示されている。また、非特許文献1は、生物脱臭槽にアンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌から成るグラニュールを添加し、脱臭槽内で亜硝酸化と脱窒を同時に行うことができることを報告する。亜硝酸化は、主にイオン濃度により制御している。即ち、特許文献5及び6と非特許文献1の亜硝酸化の制御方法は、亜硝酸化と硝酸化を行う細菌の遊離アンモニア又は遊離亜硝酸濃度への耐性の違いを利用したものであると考えられる。
【0005】
しかしながら、上述のように、単に希釈でイオン濃度を下げる方法では、大量の水を補給する必要があり、また脱臭廃水量も増えてしまうため、廃水処理費と水代によりランニングコストが高くなる。生物脱臭装置と別に脱窒装置を設ける場合には、設備コストが高くなる。脱窒のための電子供与体として、多孔質有機性のろ材を使用したり、臭気発生源となる有機性廃棄物由来の有機物を供給するシステムでは、物質収支が不明確で、流入負荷変動に対する脱窒反応の制御が困難である。
【0006】
また、電子供与体として有機物を添加又は利用するシステムでは、残存有機物の処理が必要となる場合も出てくるため、さらにシステムが複雑化する。
【0007】
アナモックス細菌を利用した方法では、アナモックス細菌の増殖速度が遅く、現状ではアナモックス汚泥、又はアンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌から成るグラニュールを入手することが困難である。また、生物脱臭槽内では比較的硝酸化が進行しやすく、安定的に亜硝酸化を維持することが困難である。アナモックス反応では若干の硝酸が生成し、後段に硝酸の脱窒工程が必要になる場合も生ずる。
【0008】
このように、家畜排泄物処理過程等から生じるアンモニアを主体とした臭気を除去し、且つ同時に窒素を除去する技術が未だに求められている。
【0009】
ところで、特許文献7は、消臭方法において臭気の吸着に大谷石を使用することを開示する。
【0010】
また、特許文献8は、汚濁水の浄化処理法において硝化菌とゼオライトとを担体に担持させることを開示する。
【0011】
さらに、特許文献9は、大気中の窒素酸化物の除去方法において、脱窒菌が硝酸イオンや亜硝酸イオンを嫌気条件下で脱窒するときの電子供与体としてチオ硫酸ナトリウムが利用されることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000-42353号公報
【特許文献2】特開2002-273154号公報
【特許文献3】特許第3638010号公報
【特許文献4】特開2006-35028号公報
【特許文献5】特許第5008249号公報
【特許文献6】特開2010-274160号公報
【特許文献7】特開2004-236865号公報
【特許文献8】特開平11-262790号公報
【特許文献9】特開平7-256055号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】De Clippeleir et al. 2012. Environmental Science and Technology. 46:8826-8833
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、家畜排泄物処理過程等から生じるアンモニアを主体とした臭気を除去し、且つ同時に窒素を除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、循環散水方式の生物脱臭装置(リアクター)において、硝化反応を行う脱臭槽内で、チオ硫酸を電子供与体に用いた脱窒を同時に行うことで、効率的にアンモニアを主体とした臭気を除去し、且つ同時に窒素を除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は以下を包含する。
(1)アンモニアガスを硝化反応及び硫黄脱窒反応に供する、活性汚泥を接種した脱臭資材を充填した脱臭槽と、前記脱臭槽にチオ硫酸ナトリウムを含有する水を供給する給水槽とを備える、脱臭及び脱窒処理装置。
(2)アンモニアガスが家畜排泄物処理過程から生じるものである、(1)記載の装置。
(3)脱臭資材が大谷石又はロックウールである、(1)又は(2)記載の装置。
(4)水が硫黄脱窒汚泥をさらに含有する、(1)〜(3)のいずれか1記載の装置。
(5)水のpHが7.0〜8.8である、(1)〜(4)のいずれか1記載の装置。
(6)アンモニアガスを、活性汚泥を接種した脱臭資材及びチオ硫酸ナトリウムの存在下で硝化反応及び硫黄脱窒反応に供する工程を含む、脱臭及び脱窒処理方法。
(7)アンモニアガスが家畜排泄物処理過程から生じるものである、(6)記載の方法。
(8)脱臭資材が大谷石又はロックウールである、(6)又は(7)記載の方法。
(9)反応がさらに硫黄脱窒汚泥の存在下で行われる、(6)〜(8)のいずれか1記載の方法。
(10)反応がpH7.0〜8.8下で行われる、(6)〜(9)のいずれか1記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、家畜排泄物処理過程等から生じるアンモニアを主体とした臭気を除去し、且つ同時に窒素を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る脱臭及び脱窒処理装置を示す模式図である。
図2】実施例において使用したリアクターの概要を示す図である。
図3】硫酸でトラップされたアンモニア態窒素の推移を示すグラフである。
図4】循環水中のイオン濃度及びpHの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る脱臭及び脱窒処理装置(以下、「本装置」と称する)は、臭気であるアンモニアガスを硝化反応及び硫黄脱窒反応に供する、活性汚泥を接種した脱臭資材を充填した脱臭槽と、該脱臭槽にチオ硫酸ナトリウムを含有する水を供給する給水槽とを備えるものである。また、本発明に係る脱臭及び脱窒処理方法は、本装置を用いて、アンモニアガスを、活性汚泥を接種した脱臭資材及びチオ硫酸ナトリウムの存在下で硝化反応及び硫黄脱窒反応に供する工程を含むものである。
【0020】
本発明においては、循環散水方式の生物脱臭装置(本装置)において、硝化反応を行う脱臭槽内で、チオ硫酸を電子供与体に用いた脱窒を同時に行わせる。そのための手段として、既存の循環水槽(給水槽)にチオ硫酸ナトリウムを適宜添加し、必要に応じて、脱臭槽にチオ硫酸ナトリウムと硝酸で集積した硫黄脱窒汚泥を適宜添加する。
【0021】
具体的に、リアクター(本装置)において、脱臭槽に活性汚泥を接種した脱臭資材を充填し、悪臭成分のアンモニアガスを通す一方で、給水槽内の循環水にチオ硫酸ナトリウムを添加する。反応として、アンモニアが、脱臭資材に吸着された状態で、脱臭資材の表面で増殖した活性汚泥中の微生物(硝化菌)により硝化され、亜硝酸、硝酸に変換され、一方で、硫黄源としてチオ硫酸ナトリウムを添加したことで、活性汚泥中の硫黄酸化細菌により硫黄脱窒反応が起き、チオ硫酸と、亜硝酸及び硝酸が反応し、チオ硫酸の酸化により硫酸が生成し、窒素を窒素ガスとして除去する。このようにして、当該リアクターでアンモニアが除去され、且つ、循環水中の硝酸が減少することとなる。
【0022】
ここで、アンモニアガスとしては、例えば家畜糞の堆肥化処理過程等の家畜排泄物処理過程から生じるもの等が挙げられる。さらには、畜産農業のみならず、肥料製造工場、ゴミ処理場、下水処理場、食品加工工場等のアンモニアを主体とする悪臭の発生事業場におけるアンモニアガスを本発明において処理することができる。
【0023】
脱臭資材としては、大谷石、ロックウール、軽石等が挙げられ、大谷石又はロックウールが好ましい。本発明において使用する大谷石としては、例えば栃木県産大谷石粒等の市販の大谷石粉(2〜約10mm径)が挙げられる。また、本発明において使用するロックウールとは、例えば玄武岩等の天然岩石や高炉スラグを高温で溶融し、繊維化することにより生成された人造鉱物繊維であり、例えばロックウール脱臭材等の市販のものを使用することができる。
【0024】
また、本装置の脱臭槽に充填される脱臭資材に接種する活性汚泥としては、例えば養豚排水処理施設において活性汚泥法により処理された養豚排水由来の活性汚泥が挙げられる。例えば、養豚排水処理施設の活性汚泥を硝化菌培地(Juhler S., Revsbech N.P., Schramm A., Herrmann M., Ottosen L.D.M. and Nielsen L.P. (2009) Distribution and rate of microbial processes in an ammonia-loaded air filter biofilm. Appl. Environ. Microbiol. 75:3705-3713. あるいはKruemmel and Heinz (1982) Effect of organic matter on growth and cell yield of ammonia-oxidizing bacteria. Arch. Microbiol. 133:50-54など)において15〜30℃(好ましくは28℃)で、数週間好気的に培養し、得られた培養物を活性汚泥として使用することができる。また、本装置の運転前に、当該培養を本装置の脱臭槽において脱臭資材存在下で行うこともできる。
【0025】
活性汚泥は、遠心分離により硝化菌培地あるいは蒸留水で洗った後、脱臭資材に対して例えば10〜30%(v/v)の割合で接種する。
【0026】
さらに、給水槽から供給されるチオ硫酸ナトリウムを含有する水(循環水)に、硫黄脱窒反応を行う硫黄酸化細菌を主として含む硫黄脱窒汚泥を添加してもよい。硫黄脱窒培地(橋本奨、古川憲治、塩山昌彦 (1989) 硫黄脱窒菌の集積と単体硫黄への順養.水質汚濁研究、12, 431-440)と活性汚泥とが例えば9:1(vol/vol)の比となるように混合し、20〜35℃下で一週間程度、嫌気的に培養する。培養後、遠心分離等により回収した培養物(活性汚泥)を本発明における硫黄脱窒汚泥として使用することができる。硫黄脱窒汚泥は、給水槽1L当たり例えば2〜3 g(湿重)添加する。脱臭資材に接種する活性汚泥及び硫黄脱窒汚泥は、硝化反応を行う硝化菌(例えば、アンモニア酸化細菌であるニトロソモナス科(Nitrosomonadaceae)に属する微生物、亜硝酸酸化細菌であるニトロスピラ属(Nitrospira)に属する微生物)及び硫黄脱窒反応を行う硫黄脱窒菌(例えば、チオバチルス・チオフィルス(T. thiophilus)やチオバチルス・チオパルス(T. thioparus)等のチオバチルス属(Thiobacillus)に属する微生物)を含有する。
【0027】
また、給水槽から供給される循環水中のチオ硫酸ナトリウム含有量としては、例えば200〜6,000 mg/L(好ましくは、500〜3,000 mg/L)が挙げられる。
【0028】
さらに、pHの低下は、アンモニア酸化細菌が利用できる形態である非イオン態のアンモニア濃度の低下を引き起こすため、アンモニア酸化が阻害されると考えられている(Suzuki I., Dular U. and Kwok S.C. (1974) Ammonia or ammonium ion as substrate for oxidation by Nitrosomonas europaea cells and extracts. J. Bacteriol. 120:556-558)。そこで、給水槽から供給されるチオ硫酸ナトリウムを含有する水(循環水)のpHは、弱アルカリ側(例えばpH7.0〜8.8、好ましくはpH7.5前後)に制御されることが好ましい。
【0029】
図1は、本装置の一例を示す模式図である。図1に示すように、本装置1は、脱臭槽2と該脱臭槽にチオ硫酸ナトリウムを含有する水を供給する給水槽3とを備える。また、本装置1においては、脱臭槽と給水槽との間に貯留槽4を備えていてもよい。
【0030】
脱臭槽2には、活性汚泥を接種した脱臭資材が充填される。活性汚泥を接種した脱臭資材は、例えば加水前のロックウール脱臭材の場合は約0.4 kg/L、大谷石粒の場合は約0.9 kg/Lで脱臭槽2に充填する。
【0031】
脱臭槽2の下部からアンモニアガス5を、例えばアンモニア容積負荷:35〜65 NH3/m3/日で通気する。本装置1は、アンモニアガス通気量を制御する手段(例えば、ガス混合器、ガス流量調整器等)を備えていてもよい。
【0032】
一方、給水槽3からポンプ6を介して貯留槽4へ、次いでポンプ7を介して脱臭槽2の上部から循環水としてチオ硫酸ナトリウム(及び硫黄脱窒汚泥)を含有する水を供給する。循環水は、例えば脱臭槽容積の約3%を1日から数日(好ましくは1〜2日、乾燥する場合は1日)おきに1回散水する。また、循環水は、脱臭槽2の下部から貯留槽4へと返送される。
処理ガス8は、脱臭槽2の上部から系外に排出することができる。
【0033】
以上に説明する本発明は、従来技術と比較して以下の利点を有する:
水で希釈する方法と異なり、必要な供給水量が増加することはなく、廃水量は増加しない;
脱窒槽を別に設けるわけではないので、設備コストは上がらない。チオ硫酸ナトリウム供給槽としては、既存の給水槽を利用することで、設備コストを抑えることが可能となる;
担体由来、又は臭気発生源となる有機性廃棄物由来の有機物を利用する場合と異なり、添加する電子供与体の量を正確に把握することが可能となるため、脱窒反応の制御をより正確に行うことが可能となる;
チオ硫酸ナトリウムが必要量以上に添加されても別途廃水処理は必要とならないため、脱窒の後処理が不要である;
硫黄脱窒菌は環境中に普遍的に存在しており、硫黄脱窒菌の増殖速度は、例えばThiobacillus thiophilusで0.051/hであり(Kellermann and Griebler, 2009. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology.59:583-588.)、菌体の補充が必要となった場合でも比較的容易に準備することができる;
脱臭槽内で硝酸化を阻害する必要がなく、イオン濃度の制御が容易になる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
1.材料及び方法
1−1.リアクターの運転条件及びアンモニア除去性能評価
図2にリアクターの概要を示す。直径7.5 cm、高さ30 cmのポリカーボネート製円筒リアクターに、脱臭資材を0.8Lずつ充填した。脱臭資材としてロックウール(ロックウール脱臭システムに使用される充填材(パナソニック環境エンジニアリング製);籾殻、ゼオライト、ウレタンチップを含む。以下、「RW」と称する)と大谷石粉(大谷石粒(大谷石材共同組合);2〜約10mm径、以下、「O」と称する)を用いた。処理区はRWとOそれぞれについて硫黄資材の添加有りと添加無しの計4区を設けた。脱臭資材は充填時の水分になるように予め滅菌蒸留水を添加した上で、回分式活性汚泥法による養豚排水処理施設の活性汚泥を硝化菌培地(Juhler et al. 2009)に再懸濁し、12%(v/v)混合した。20℃の恒温室内で、純アンモニアガスをエアコンプレッサーで約100 ppmに希釈し、下部から約0.4L/分で通気した。上部から循環水(120mL)を一日から数日おきに一回当たり約24 mL散水した。散水前に循環水の減少分を補充するため、所定量まで滅菌蒸留水を加えた。
【0035】
装置立ち上げ2週間後に、硫黄資材添加区の循環水に、チオ硫酸脱窒条件で集積した汚泥を添加した。チオ硫酸脱窒集積汚泥は、硫黄脱窒培地(橋本ら1989)と上記の活性汚泥が9:1(vol/vol)になるように密閉容器に入れ、28℃で6日間培養後、遠心分離により回収した。培養中に硝酸とチオ硫酸の消失を確認し、培養液を各区に10mLずつ使用した。同時にチオ硫酸ナトリウムとtrace metal element(橋本ら1989)を添加した(図3及び4並びに表2において、「+S」はチオ硫酸ナトリウム及びチオ硫酸脱窒集積汚泥の添加を意味する)。チオ硫酸ナトリウムの添加量は、運転開始1週間後の硝酸濃度に対して、以下に示した硫黄脱窒の理論反応式(Bisogni and Driscoll, 1977)に基づき必要なS/N比となるように設定した。
【0036】
0.844 S2O32- + NO3-+ 0.347 CO2 + 0.0865 HCO3- + 0.0865 NH4++ 0.434 H2O → 0.0865 C5H7O2N + 0.5 N2 + 1.689 SO42- + 0.697 H+
その後4回追加した。
【0037】
アンモニア除去性能を評価するため、各処理区のガス流路の最終段に3mol/L硫酸トラップをつけ、流出アンモニアを回収した。流入量把握のために資材を充填しないリアクターを別途運転した。
【0038】
1−2.循環水の成分分析
散水前に循環水を0.1mL採取し、pHをガラス電極法(LAQUA twin pHメーター、HORIBA)で、NH4+、NO2-、 NO3-、S2O32-、SO42-濃度をイオンクロマトグラフ(HIC-NS、Shimadzu)で測定した。アンモニアをトラップした硫酸溶液は希釈しイオンクロマトグラフによりアンモニウム濃度を測定した。
【0039】
1−3.脱臭資材の微生物解析
試験終了時の52日目に担体を採取し、DNA抽出キット(FastDNA SPIN Kit for Soil、MO Bio)を用いて全DNAを抽出した。QIAEX II Gel Extraction Kit (Qiagen)を用いて精製した後、Fluorescent DNA Quantitation Kit (Bio-rad)によりDNA濃度を測定した。アンモニア酸化細菌に特異的なプライマーであるamoA-1F/amoA-2R(Rotthauwe et al. 1997)を用いて以下の条件でリアルタイムPCRを行った。CFX96リアルタイムシステム(Bio-rad)を使用し、2×SsoAdvanced universal SYBR Green supermixを10μL、プライマーを各0.5μM、鋳型DNAを2.7〜3.9 ng含む計20μLの反応系で行った。増幅条件は、98℃3分熱変性後、98℃15秒、60℃1分を40サイクルで行い、その後融解曲線解析を65℃から95℃の範囲で行った。検量線は既知量のNitrosospira multiformis(NCIMB 11849)とNitrosomonas europaea(NBRC 14298)のamoA遺伝子を用い作成した。既知濃度のamoA遺伝子をサンプルに添加し、PCR阻害率を求め、サンプルのamoAコピー数を補正した。
【0040】
また、一般細菌の16S rRNA遺伝子をターゲットとした次世代シークエンス解析をSutoら(2017)と同様の方法により行い、硫黄脱窒菌の存在を確認した。
【0041】
2.結果及び考察
2−1.アンモニア除去性能と循環水成分の変化
使用前と充填時の脱臭資材の水分はRWとOでそれぞれ56%と60%、16%と20%であり、O区では脱臭資材中の水分保持量が少なかった。
【0042】
アンモニア態窒素は一日当たり約25.7mg流入していたが、いずれの処理区においても99%以上除去された(図3)。チオ硫酸ナトリウムの添加後数日で、O区では循環水中の亜硝酸・硝酸濃度の減少が見られた(図4a、4b)。O区で、硝酸の減少は硫酸生成を伴っており(図4e)、硫黄脱窒が起きていることが示唆された。このときのO区のpHは、チオ硫酸無添加より若干低くなる傾向を示し、特に試験期間後半で顕著に低下した(図4d)。一方、RW区ではチオ硫酸ナトリウム添加を開始した18日後に漸く硝酸生成速度の低下がみられた(図4a)。27日目に亜硝酸の低下が見られ(図4b)、硫酸の生成が確認された(図4e)。52日目の循環水中の無機態窒素濃度についてチオ硫酸ナトリウムの添加ありと添加なしの区を比較すると、チオ硫酸ナトリウムの添加によりRW区とO区でそれぞれ28%と44%低減された(表1)。
【0043】
【表1】
【0044】
RW区で硝酸・亜硝酸の低下が、チオ硫酸添加後日数が経過した後に見られた理由として、以下のことが考えられる。硫黄脱窒菌であるThiobacillus denitrificansの硝酸還元酵素系は亜硝酸によって阻害されることが示されており(Baalsrud and Baalsrud、1954)、その阻害濃度として200mg/L(Claus and Kutzner, 1985)又は150mg/L(Oh et al. 2000)との報告がある。RW区ではチオ硫酸ナトリウムを添加した1週間後には亜硝酸濃度が200mg/Lを超えており、その後も700mg/L前後まで蓄積していたため、硫黄脱窒反応が阻害された可能性が考えられた。一方、硝酸濃度の低下が始まった時点ではまだ亜硝酸濃度が600mg/L以上残存していたので、亜硝酸の阻害以外の要因も考えられる。
【0045】
2−2.微生物解析
脱臭素材のアンモニア酸化細菌に由来するamoA遺伝子コピー数は、RW区とO区とも、ng DNA当たり104オーダーであったが、硫黄添加によりRW区で27%、O区で31%減少していた。
【0046】
循環水中のアンモニウム濃度の推移をみると、特にO区の硫黄添加区で、試験期間後半でアンモニウム濃度が高めに推移しており、上述したようにpHの低下が認められた(図4c、4d)。pHの低下は、アンモニア酸化細菌が利用できる形態である非イオン態のアンモニア濃度の低下を引き起こすため、アンモニア酸化が阻害されると考えられている(Suzuki et al. 1974)。別の試験により、大谷石を充填したリアクターで、pHを弱アルカリ側に保つことで、硝化を阻害せずに窒素除去ができる可能性を示唆するデータを得た(表2)。
【0047】
【表2】
【0048】
脱臭資材の微生物解析の結果、RW区、O区ともに、チオ硫酸ナトリウム添加区でのみ硫黄脱窒菌を含むThiobacillus属が検出された。本試験では上述したように、チオ硫酸ナトリウムで集積した汚泥を接種したため、接種した菌が脱臭試験リアクター内で硫黄脱窒反応に関与していたことを裏付ける結果であると判断された。
【0049】
アンモニア酸化細菌であるNitrosomonas属とNitrosospira属を含むNitrosomonadaceae科の各区における存在割合は、amoA遺伝子コピー数と同様の傾向を示していた。また、亜硝酸酸化細菌であるNitrospira属の存在割合はO区でRW区より高いことが示唆された。
【0050】
3.まとめ
循環散水方式の生物脱臭装置において、硫黄脱窒と硝化を組み合わせて、アンモニア除去に加え、循環水中の無機態窒素の蓄積を抑制できることが明らかとなった。ロックウール、大谷石いずれにおいても硫黄脱窒反応は生じるものの、本実施例の運転条件においては、大谷石とチオ硫酸ナトリウムの組み合わせで、ロックウールを使用した場合より循環水中の無機態窒素除去率をより高められることが示唆された。
【0051】
4.参考文献
Baalsrud K. and Baalsrud K.S. (1954) Studies on Thiobacillus denitrificans. Arch. Mikrobiol. 20:34-62.
Bisogni J.J.Jr. and Driscoll C.T.Jr. (1977) Denitrification using Thiosulfate and Sulfide, Proc. of Am. Soc. Civ. Eng., J. Env. Eng. Div. 103:593-604.
Claus G. and Kutzner H.J. (1985) Physiology and kinetics of autotrophic denitrification by Thiobacillus denitrificans. Appl. Microbiol. Biotechnol. 22:283-288.
Juhler S., Revsbech N.P., Schramm A., Herrmann M., Ottosen L.D.M. and Nielsen L.P. (2009) Distribution and rate of microbial processes in an ammonia-loaded air filter biofilm. Appl. Environ. Microbiol. 75:3705-3713.
Kellermann C. and Griebler C. (2009) Thiobacillus thiophilus sp. nov., a chemolithoautotrophic, thiosulfate-oxidizing bacterium isolated from contaminated aquifer sediments. Int. J. System. Evol. Microbiol. 59:583-588.
Kruemmel and Heinz (1982) Effect of organic matter on growth and cell yield of ammonia-oxidizing bacteria. Arch. Microbiol. 133:50-54.
Oh S.E., Kim K.S., Choi H.C., Cho J. and Kim I.S. (2000) Kinetics and physiological characteristics of autotrophic denitrification by denitrifying sulfur bacteria. Water Sci. Technol. 42:59-68.
Rotthauwe J.H., Witzel K.P. and Liesack W. (1997) The ammonia monooxygenase structural gene amoA as a functional marker: molecular fine-scale analysis of natural ammonia-oxidizing populations. Appl. Environ. Microbiol. 63:4704-4712.
Suto R., Ishimoto C., Chikyu M., Aihara Y., matsumoto T., Uenishi H., Yasuda T., Fukumoto Y. and Waki M. (2017) Anammox biofilm in activated sludge swine wastewater treatment plants. Chemosphere. 167:300-307.
Suzuki I., Dular U. and Kwok S.C. (1974) Ammonia or ammonium ion as substrate for oxidation by Nitrosomonas europaea cells and extracts. J. Bacteriol. 120:556-558.
橋本奨、古川憲治、塩山昌彦 (1989) 硫黄脱窒菌の集積と単体硫黄への順養.水質汚濁研究、12, 431-440.
【符号の説明】
【0052】
1:本発明に係る脱臭及び脱窒処理装置
2:脱臭槽
3:給水槽
4:貯留槽
5:アンモニアガス
6:ポンプ
7:ポンプ
8:処理ガス
図1
図2
図3
図4