【実施例】
【0034】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
1.材料及び方法
1−1.リアクターの運転条件及びアンモニア除去性能評価
図2にリアクターの概要を示す。直径7.5 cm、高さ30 cmのポリカーボネート製円筒リアクターに、脱臭資材を0.8Lずつ充填した。脱臭資材としてロックウール(ロックウール脱臭システムに使用される充填材(パナソニック環境エンジニアリング製);籾殻、ゼオライト、ウレタンチップを含む。以下、「RW」と称する)と大谷石粉(大谷石粒(大谷石材共同組合);2〜約10mm径、以下、「O」と称する)を用いた。処理区はRWとOそれぞれについて硫黄資材の添加有りと添加無しの計4区を設けた。脱臭資材は充填時の水分になるように予め滅菌蒸留水を添加した上で、回分式活性汚泥法による養豚排水処理施設の活性汚泥を硝化菌培地(Juhler et al. 2009)に再懸濁し、12%(v/v)混合した。20℃の恒温室内で、純アンモニアガスをエアコンプレッサーで約100 ppmに希釈し、下部から約0.4L/分で通気した。上部から循環水(120mL)を一日から数日おきに一回当たり約24 mL散水した。散水前に循環水の減少分を補充するため、所定量まで滅菌蒸留水を加えた。
【0035】
装置立ち上げ2週間後に、硫黄資材添加区の循環水に、チオ硫酸脱窒条件で集積した汚泥を添加した。チオ硫酸脱窒集積汚泥は、硫黄脱窒培地(橋本ら1989)と上記の活性汚泥が9:1(vol/vol)になるように密閉容器に入れ、28℃で6日間培養後、遠心分離により回収した。培養中に硝酸とチオ硫酸の消失を確認し、培養液を各区に10mLずつ使用した。同時にチオ硫酸ナトリウムとtrace metal element(橋本ら1989)を添加した(
図3及び4並びに表2において、「+S」はチオ硫酸ナトリウム及びチオ硫酸脱窒集積汚泥の添加を意味する)。チオ硫酸ナトリウムの添加量は、運転開始1週間後の硝酸濃度に対して、以下に示した硫黄脱窒の理論反応式(Bisogni and Driscoll, 1977)に基づき必要なS/N比となるように設定した。
【0036】
0.844 S
2O
32- + NO
3-+ 0.347 CO
2 + 0.0865 HCO
3- + 0.0865 NH
4++ 0.434 H
2O → 0.0865 C
5H
7O
2N + 0.5 N
2 + 1.689 SO
42- + 0.697 H
+
その後4回追加した。
【0037】
アンモニア除去性能を評価するため、各処理区のガス流路の最終段に3mol/L硫酸トラップをつけ、流出アンモニアを回収した。流入量把握のために資材を充填しないリアクターを別途運転した。
【0038】
1−2.循環水の成分分析
散水前に循環水を0.1mL採取し、pHをガラス電極法(LAQUA twin pHメーター、HORIBA)で、NH
4+、NO
2-、 NO
3-、S
2O
32-、SO
42-濃度をイオンクロマトグラフ(HIC-NS、Shimadzu)で測定した。アンモニアをトラップした硫酸溶液は希釈しイオンクロマトグラフによりアンモニウム濃度を測定した。
【0039】
1−3.脱臭資材の微生物解析
試験終了時の52日目に担体を採取し、DNA抽出キット(FastDNA SPIN Kit for Soil、MO Bio)を用いて全DNAを抽出した。QIAEX II Gel Extraction Kit (Qiagen)を用いて精製した後、Fluorescent DNA Quantitation Kit (Bio-rad)によりDNA濃度を測定した。アンモニア酸化細菌に特異的なプライマーであるamoA-1F/amoA-2R(Rotthauwe et al. 1997)を用いて以下の条件でリアルタイムPCRを行った。CFX96リアルタイムシステム(Bio-rad)を使用し、2×SsoAdvanced universal SYBR Green supermixを10μL、プライマーを各0.5μM、鋳型DNAを2.7〜3.9 ng含む計20μLの反応系で行った。増幅条件は、98℃3分熱変性後、98℃15秒、60℃1分を40サイクルで行い、その後融解曲線解析を65℃から95℃の範囲で行った。検量線は既知量のNitrosospira multiformis(NCIMB 11849)とNitrosomonas europaea(NBRC 14298)のamoA遺伝子を用い作成した。既知濃度のamoA遺伝子をサンプルに添加し、PCR阻害率を求め、サンプルのamoAコピー数を補正した。
【0040】
また、一般細菌の16S rRNA遺伝子をターゲットとした次世代シークエンス解析をSutoら(2017)と同様の方法により行い、硫黄脱窒菌の存在を確認した。
【0041】
2.結果及び考察
2−1.アンモニア除去性能と循環水成分の変化
使用前と充填時の脱臭資材の水分はRWとOでそれぞれ56%と60%、16%と20%であり、O区では脱臭資材中の水分保持量が少なかった。
【0042】
アンモニア態窒素は一日当たり約25.7mg流入していたが、いずれの処理区においても99%以上除去された(
図3)。チオ硫酸ナトリウムの添加後数日で、O区では循環水中の亜硝酸・硝酸濃度の減少が見られた(
図4a、4b)。O区で、硝酸の減少は硫酸生成を伴っており(
図4e)、硫黄脱窒が起きていることが示唆された。このときのO区のpHは、チオ硫酸無添加より若干低くなる傾向を示し、特に試験期間後半で顕著に低下した(
図4d)。一方、RW区ではチオ硫酸ナトリウム添加を開始した18日後に漸く硝酸生成速度の低下がみられた(
図4a)。27日目に亜硝酸の低下が見られ(
図4b)、硫酸の生成が確認された(
図4e)。52日目の循環水中の無機態窒素濃度についてチオ硫酸ナトリウムの添加ありと添加なしの区を比較すると、チオ硫酸ナトリウムの添加によりRW区とO区でそれぞれ28%と44%低減された(表1)。
【0043】
【表1】
【0044】
RW区で硝酸・亜硝酸の低下が、チオ硫酸添加後日数が経過した後に見られた理由として、以下のことが考えられる。硫黄脱窒菌であるThiobacillus denitrificansの硝酸還元酵素系は亜硝酸によって阻害されることが示されており(Baalsrud and Baalsrud、1954)、その阻害濃度として200mg/L(Claus and Kutzner, 1985)又は150mg/L(Oh et al. 2000)との報告がある。RW区ではチオ硫酸ナトリウムを添加した1週間後には亜硝酸濃度が200mg/Lを超えており、その後も700mg/L前後まで蓄積していたため、硫黄脱窒反応が阻害された可能性が考えられた。一方、硝酸濃度の低下が始まった時点ではまだ亜硝酸濃度が600mg/L以上残存していたので、亜硝酸の阻害以外の要因も考えられる。
【0045】
2−2.微生物解析
脱臭素材のアンモニア酸化細菌に由来するamoA遺伝子コピー数は、RW区とO区とも、ng DNA当たり10
4オーダーであったが、硫黄添加によりRW区で27%、O区で31%減少していた。
【0046】
循環水中のアンモニウム濃度の推移をみると、特にO区の硫黄添加区で、試験期間後半でアンモニウム濃度が高めに推移しており、上述したようにpHの低下が認められた(
図4c、4d)。pHの低下は、アンモニア酸化細菌が利用できる形態である非イオン態のアンモニア濃度の低下を引き起こすため、アンモニア酸化が阻害されると考えられている(Suzuki et al. 1974)。別の試験により、大谷石を充填したリアクターで、pHを弱アルカリ側に保つことで、硝化を阻害せずに窒素除去ができる可能性を示唆するデータを得た(表2)。
【0047】
【表2】
【0048】
脱臭資材の微生物解析の結果、RW区、O区ともに、チオ硫酸ナトリウム添加区でのみ硫黄脱窒菌を含むThiobacillus属が検出された。本試験では上述したように、チオ硫酸ナトリウムで集積した汚泥を接種したため、接種した菌が脱臭試験リアクター内で硫黄脱窒反応に関与していたことを裏付ける結果であると判断された。
【0049】
アンモニア酸化細菌であるNitrosomonas属とNitrosospira属を含むNitrosomonadaceae科の各区における存在割合は、amoA遺伝子コピー数と同様の傾向を示していた。また、亜硝酸酸化細菌であるNitrospira属の存在割合はO区でRW区より高いことが示唆された。
【0050】
3.まとめ
循環散水方式の生物脱臭装置において、硫黄脱窒と硝化を組み合わせて、アンモニア除去に加え、循環水中の無機態窒素の蓄積を抑制できることが明らかとなった。ロックウール、大谷石いずれにおいても硫黄脱窒反応は生じるものの、本実施例の運転条件においては、大谷石とチオ硫酸ナトリウムの組み合わせで、ロックウールを使用した場合より循環水中の無機態窒素除去率をより高められることが示唆された。
【0051】
4.参考文献
Baalsrud K. and Baalsrud K.S. (1954) Studies on Thiobacillus denitrificans. Arch. Mikrobiol. 20:34-62.
Bisogni J.J.Jr. and Driscoll C.T.Jr. (1977) Denitrification using Thiosulfate and Sulfide, Proc. of Am. Soc. Civ. Eng., J. Env. Eng. Div. 103:593-604.
Claus G. and Kutzner H.J. (1985) Physiology and kinetics of autotrophic denitrification by Thiobacillus denitrificans. Appl. Microbiol. Biotechnol. 22:283-288.
Juhler S., Revsbech N.P., Schramm A., Herrmann M., Ottosen L.D.M. and Nielsen L.P. (2009) Distribution and rate of microbial processes in an ammonia-loaded air filter biofilm. Appl. Environ. Microbiol. 75:3705-3713.
Kellermann C. and Griebler C. (2009) Thiobacillus thiophilus sp. nov., a chemolithoautotrophic, thiosulfate-oxidizing bacterium isolated from contaminated aquifer sediments. Int. J. System. Evol. Microbiol. 59:583-588.
Kruemmel and Heinz (1982) Effect of organic matter on growth and cell yield of ammonia-oxidizing bacteria. Arch. Microbiol. 133:50-54.
Oh S.E., Kim K.S., Choi H.C., Cho J. and Kim I.S. (2000) Kinetics and physiological characteristics of autotrophic denitrification by denitrifying sulfur bacteria. Water Sci. Technol. 42:59-68.
Rotthauwe J.H., Witzel K.P. and Liesack W. (1997) The ammonia monooxygenase structural gene amoA as a functional marker: molecular fine-scale analysis of natural ammonia-oxidizing populations. Appl. Environ. Microbiol. 63:4704-4712.
Suto R., Ishimoto C., Chikyu M., Aihara Y., matsumoto T., Uenishi H., Yasuda T., Fukumoto Y. and Waki M. (2017) Anammox biofilm in activated sludge swine wastewater treatment plants. Chemosphere. 167:300-307.
Suzuki I., Dular U. and Kwok S.C. (1974) Ammonia or ammonium ion as substrate for oxidation by Nitrosomonas europaea cells and extracts. J. Bacteriol. 120:556-558.
橋本奨、古川憲治、塩山昌彦 (1989) 硫黄脱窒菌の集積と単体硫黄への順養.水質汚濁研究、12, 431-440.