特許第6935906号(P6935906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6935906
(24)【登録日】2021年8月30日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】流体動態計測装置及び流体動態計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/12 20180101AFI20210906BHJP
【FI】
   G01N23/12
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-81985(P2017-81985)
(22)【出願日】2017年4月18日
(65)【公開番号】特開2018-179848(P2018-179848A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】田中 憲一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 暁
(72)【発明者】
【氏名】梶本 剛
(72)【発明者】
【氏名】松村 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】尾形 陽一
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−130414(JP,A)
【文献】 特開昭63−259447(JP,A)
【文献】 米国特許第06229146(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
G01T 1/00− 7/12
G01B 15/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内を流体とともに流通する放射性物質を含むマーカーから放出される放射線量を計測する検出器と、
前記検出器に、所定の計測時間ごとの前記放射線量を計測させる制御部と、
前記マーカーの動態と、前記検出器で計測された前記放射線量との相関関係を表す近似式を記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、
前記検出器で計測された流動状態の前記マーカーから放出された放射線量と、前記近似式とから算出された前記マーカーの位置及び速さの少なくともいずれかを含む動態に基づいて、前記流体の動態を計測する、
流体動態計測装置。
【請求項2】
前記近似式は、前記検出器と前記マーカーとの距離と、前記検出器で計測された前記放射線量との相関関係を表す近似式であり、
前記計測時間の長さは、
静止状態の前記マーカーから放出された放射線量の計測値に対する、定速移動状態の前記マーカーから放出された放射線量の計測値の誤差が、所定の閾値以下となるように設定され、
前記制御部は、
前記マーカーの動態として、前記マーカーの位置を算出する、
請求項1に記載の流体動態計測装置。
【請求項3】
複数の前記検出器を備え、
前記制御部は、
それぞれの前記検出器で計測された流動状態の前記マーカーから放出された放射線量と、前記近似式とに基づいて、前記マーカーの位置を算出する、
請求項2に記載の流体動態計測装置。
【請求項4】
前記制御部は、
複数の計測時間区間で算出された前記マーカーの位置に基づいて、前記マーカーの速度を算出する、
請求項2又は3に記載の流体動態計測装置。
【請求項5】
前記近似式は、前記マーカーの速さと、前記検出器で計測された前記放射線量との相関関係を表す近似式であり、
前記制御部は、
前記検出器で計測された流動状態の前記マーカーから放出された放射線量と、前記近似式に基づいて、前記マーカーの速さを算出する、
請求項1に記載の流体動態計測装置。
【請求項6】
配管内を流体とともに流通する放射性物質を含むマーカーから放出された放射線量を計測する計測ステップと、
前記マーカーの動態と検出器で検出された前記マーカーから放出された放射線量との相関関係を表す近似式と、前記計測ステップで計測された流動状態の前記マーカーから放出された放射線量とから算出された前記マーカーの位置及び速さの少なくともいずれかを含む動態に基づいて、前記流体の動態を計測する分析ステップと、
を含む流体動態計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体動態計測装置及び流体動態計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマス発電では、メタン発酵処理の効率化のために、バイオマスの水熱処理が行われる。水熱処理されたバイオマスは、配管内を通って、水熱処理設備から発酵槽へと搬送される。この際、搬送されるバイオマスは、高温高圧となる。したがって、強度の高い不透明な鋼管等が、搬送用の配管に用いられる。
【0003】
このような不透明な配管では、配管内を流通するバイオマス等の流体を目視できないため、流体の動態を計測することは困難である。不透明な配管の内部等、視認できない内部の状態を計測する方法として、例えば、特許文献1の放射線透過撮影による方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−112475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の放射線透過撮影方法は、X線照射器と検出器を、対象物を挟んで対向する位置に配置し、対象物によって減弱されるX線の度合いを評価する。そのため、本方法による計測装置は、X線照射器を含み、大がかりで汎用性に乏しい。また、特許文献1の放射線透過撮影方法は、対象物の断層画像を作成して対象物の状態を計測するため、配管中を移動する対象物の位置、移動速度等を解析することは困難である。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、簡素な構成で、配管中の流体の動態を計測することができる流体動態計測装置及び流体動態計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る流体動態計測装置は、
配管内を流体とともに流通する放射性物質を含むマーカーから放出され放射線量を計測する検出器と、
前記検出器に、所定の計測時間ごとの前記放射線量を計測させる制御部と、
前記マーカーの動態と、前記検出器で計測された前記放射線量との相関関係を表す近似式を記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、
前記検出器で計測された流動状態の前記マーカーから放出された放射線量と、前記近似式とから算出された前記マーカーの位置及び速さの少なくともいずれかを含む動態に基づいて、前記流体の動態を計測する。
【0008】
また、前記近似式は、前記検出器と前記マーカーとの距離と、前記検出器で計測された前記放射線量との相関関係を表す近似式であり、
前記計測時間の長さは、
静止状態の前記マーカーから放出された放射線量の計測値に対する、定速移動状態の前記マーカーから放出された放射線量の計測値の誤差が、所定の閾値以下となるように設定され、
前記制御部は、
前記マーカーの動態として、前記マーカーの位置を算出する、
こととしてもよい。
【0009】
また、複数の前記検出器を備え、
前記制御部は、
それぞれの前記検出器で計測された流動状態の前記マーカーから放出された放射線量と、前記近似式とに基づいて、前記マーカーの位置を算出する、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記制御部は、
複数の計測時間区間で算出された前記マーカーの位置に基づいて、前記マーカーの速度を算出する、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記近似式は、前記マーカーの速さと、前記検出器で計測された前記放射線量との相関関係を表す近似式であり、
前記制御部は、
前記検出器で計測された流動状態の前記マーカーから放出された放射線量と、前記近似式に基づいて、前記マーカーの速さを算出する、
こととしてもよい。
【0012】
本発明の第2の観点に係る流体動態計測方法は、
配管内を流体とともに流通する放射性物質を含むマーカーから放出された放射線量を計測する計測ステップと、
前記マーカーの動態と検出器で検出された前記マーカーから放出された放射線量との相関関係を表す近似式と、前記計測ステップで計測された流動状態の前記マーカーから放出された放射線量とから算出された前記マーカーの位置及び速さの少なくともいずれかを含む動態に基づいて、前記流体の動態を計測する分析ステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡素な構成で、配管中の流体の動態を計測することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1に係る流体動態計測装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係る流体動態計測装置の機能ブロック図である。
図3】実施の形態1に係る流体動態計測処理のフローチャートである。
図4】マーカーの位置と放射線の計数値の関係を示すグラフである。
図5】配管内のアクチュエータとマーカーを示す配管の断面図である。
図6】計測時間内で定速移動するマーカーの状態を示す概念図である。
図7】マーカーの速さと、定速移動状態の計数値と静止状態の計数値との比の関係を示すグラフである。
図8】基準計数値と近似式の一例を示すグラフである。
図9】2つの検出器を用いる場合の検出器と配管内部を示す平面図である。
図10】2つの検出器を用いる場合のマーカー位置と計数値の関係を示すグラフである。
図11】実施の形態2に係る流体動態計測処理のフローチャートである。
図12】マーカーMkの速さと計数値の関係を示す概念図である。
図13】マーカーMkの速さと計数値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る流体動態計測装置及び流体動態計測方法について説明する。
【0016】
(実施の形態1)
本実施の形態では、配管内を流通する、水熱処理されたバイオマス(以下、流体Bmという)の動態を計測する流体動態計測装置を例に説明する。本実施の形態に係る流体動態計測装置1は、図1に示すように、検出器10、計測装置本体12を備える。また、計測装置本体12は、制御部20、記憶部30、入力部32を備える。
【0017】
検出器10は、図1に示すように、配管80の近傍に設置され、配管80の内部を流通する放射性物質を含むマーカーMkから放出される放射線量を計測する。マーカーMkは、配管80の内部を流体Bmとともに流通する。本実施の形態では、マーカーMkの放射性物質として137Cs(セシウム137)の微小片を用いる。また、検出器10は、微量のタリウム(Tl)を添加したヨウ化ナトリウム(NaI)の結晶を用いるNaI(Tl)検出器であり、マーカーMkから放出されるガンマ線を計数することで、放射線量を計測する。
【0018】
検出器10は、図1に示すように、配管80の長手方向、すなわち流体の流れる方向(以下、この方向を+x方向、これと逆方向を−x方向という)に直交し、計測面が配管80側となるように配置される。
【0019】
記憶部30は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであり、後述する制御部20で算出された近似式F1、流体動態計測装置1の各機能を実現するための動作プログラム及びデータが記憶されている。
【0020】
入力部32は、タッチパネル、キーボード等の入力デバイスであって、計測を行うユーザによる入力を受け付けるとともに、入力された情報を制御部20に送信する。
【0021】
制御部20は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、水晶発振器等から構成されており、流体動態計測装置1全体の動作を制御する。制御部20は、記憶部30、制御部20のROM等に記憶されている各種動作プログラム及びデータをRAMに読み込んでCPUを動作させることにより、制御部20の各機能を実現させる。これにより、制御部20は、図2に示す検出器10を制御する検出器制御部201、後述する近似式F1を算出する近似式算出部202、計測時間Tを評価する計測時間評価部203として動作する。
【0022】
続いて、図を参照しつつ、流体動態計測装置1の流体動態計測処理について説明する。
【0023】
図3のフローチャートに示すように、本実施の形態に係る流体動態計測処理は、初期データ取得ステップ、計測時間設定ステップ、近似式生成ステップ、計測ステップ、分析ステップを含む。流体動態計測装置1は、まず、初期データ取得ステップを実行する。初期データ取得ステップが開始されると、ユーザは、計測時間Tを設定する(ステップS11)。計測時間Tは、マーカーMkから放出される放射線量を計測する単位時間である。流体動態計測装置1は、設定された計測時間Tを1つの計測時間区間、すなわち1フレームとして、放射線量の計測を行う。
【0024】
マーカーMkから放出される時間あたりの放射線量は、大凡一定である。したがって、計測時間Tにおける計数値の大きさの観点では、計測時間Tが短いほど、計数値は少なくなり、計測誤差は相対的に増大する。一方、計測時間Tが長いほど、計数値は多くなるため、計測誤差は相対的に減少する。
【0025】
また、検出器10で計測される放射線量(計数値)は、図4に示すように、マーカーMkが検出器10に最も近接する位置(x=0)で最大となり、マーカーMkが検出器10から離れるほど小さくなる。したがって、計測時間Tにおける計数値の変化の観点では、計測時間Tが短いほど、計測時間T内での計数値の変化は小さくなり、計測誤差は相対的に減少する。一方、計測時間Tが長いほど、計測時間T内での計数値の変化は大きくなるため、計測誤差は相対的に増大する。
【0026】
本実施の形態では、計数値を大きくして安定した計測を行うため、計測時間Tは、例えば、過去の計測データに基づいてなるべく大きい値に設定される。本実施の形態では、T=2秒とする。そして、後述する計測時間設定ステップで、計測時間Tの妥当性を評価する。
【0027】
続いて、配管80内にマーカーMkを配置し、静止状態のマーカーMkから放出される放射線量を計測する(ステップS12)。具体的には、図5に示すように、配管80内にアクチュエータ82を挿入し、アクチュエータ82の可動部82aにマーカーMkを設置する。検出器10の正面の位置(x=0)を中心として、+x方向、−x方向に一定の間隔で計測位置を設定する。そして、それぞれの計測位置で、静止状態のマーカーMkから放出される放射線量を計測する。本実施の形態では、一定の間隔を2cmとして計測位置を設定し、マーカーMkを移動させて、各計測位置での放射線量を計測する。
【0028】
ユーザは、入力部32にマーカーMkの位置を入力するとともに、計測実行指示を入力する。入力部32は、制御部20の検出器制御部201に、マーカーMkの位置情報と計測実行指示を送信する。計測実行指示を受信すると、検出器制御部201は、設定された計測時間Tで放射線量を計測する。この操作を繰り返して、設定された各計測位置で計測を行う。各計測位置での計測が終了すると、制御部20は、マーカーMkの位置情報と計測した放射線量(計数値)を基準計数値として、記憶部30に記憶させる(ステップS13)。
【0029】
続いて、計測対象となる流体Bmについて想定される流速範囲内で、マーカーMkを定速移動させつつ、マーカーMkから放出される放射線量を計測する(ステップS14)。計測される放射線量(計数値)は、マーカーMkの移動速度が大きいほど、大きい計測誤差を含む。計測時間TにおけるマーカーMkの移動距離が大きくなることで、計測時間T内での放射線計数値の変化量が大きくなるためである。
【0030】
したがって、想定される流速範囲内での計測精度を保証するため、想定される流速範囲の上限、すなわち最大速度VmaxでマーカーMkを移動させつつ、マーカーMkから放出される放射線量を計測する。
【0031】
より具体的には、ユーザが入力部32から、計測開始指示を入力すると、制御部20は、計測時間Tの計測フレームごとに最大速度Vmaxで定速移動するマーカーMkから放出される放射線量を計測する。計測は、図6に示す各計測フレームにおけるマーカーMkの中間位置(t=T/2)が、静止状態のマーカーMkについて計測した各計測位置と一致するタイミングで行われる。言い換えれば、各計測フレームでのマーカーMkの中間位置は、基準計数値に含まれる位置情報である各計測位置に一致する。計測が終了すると、ユーザは、計測フレームごとに、マーカーMkの位置(計測フレーム内の中間位置)を入力部32に入力する。入力部32は、入力されたマーカーMkの位置を位置情報として制御部20に送信する。そして、制御部20は、受信した位置情報と、これに対応するフレームで計測された放射線量(計数値)とを定速計数値として、記憶部30に記憶させる(ステップS15)。
【0032】
続いて、計測時間Tの評価を行う(ステップS16)。すなわち、上記ステップS11で設定した計測時間Tが妥当であるか否かについて、評価を行う。評価は、例えば、以下に示す評価式によって算出される誤差Dが、閾値として予め定められた許容誤差ε以下であるか否かによって行う。
【0033】
【数1】
【0034】
ただし、nは計測位置の数、ms(xi)は計測位置x=xiにおける静止状態のマーカーMkの放射線量、mv(xi)は計測位置x=xiにおける最大速度VmaxのマーカーMkの放射線量。
【0035】
具体的には、制御部20は、記憶部30から、基準計数値と定速計数値を読み出す。そして、制御部20の計測時間評価部203は、上述の評価式と、読み出した基準計数値、定速計数値に基づいて誤差Dを算出する。
【0036】
上式で算出された誤差Dが、所定の許容誤差ε以下である場合(ステップS16;YES)、制御部20は、ステップS11で設定した計測時間Tをそのまま計測時間Tとして、記憶部30に記憶させる(ステップS18)。
【0037】
一方、誤差Dが、許容誤差εよりも大きい場合(ステップS16;NO)、制御部20は、計測時間Tをより短い時間に更新する(ステップS17)。これにより、計測時間T内での計数値の変化は小さくなるため、誤差Dを小さくすることができる。本実施の形態では、制御部20は、ステップS11で設定した計測時間Tの1/2の長さの時間、すなわちT=1秒を新たな計測時間Tに設定するとともに、記憶部30に記憶させる。そして、ステップS12に戻り、マーカーMkを静止させた状態及び最大速度Vmaxで定速移動させた状態での、マーカーMkの放射線量を計測する(ステップS13〜15)。その後、ステップS16の計測時間Tの評価を行い、誤差Dが許容誤差ε以下となるまで、計測時間Tの調整と評価を繰り返す。これにより、静止状態のマーカーMkから放出される放射線量の計測値に対する、定速移動状態のマーカーMkから放出される放射線量の計測値の誤差Dが、閾値である許容誤差ε以下となるように設定される。
【0038】
本実施の形態では、マーカーMkの移動速度を1〜10cm/secの範囲と想定して、上述の初期データ取得ステップ、計測時間設定ステップを実行し、計測時間Tを0.5秒と設定する。この場合、図7に示すように、想定速度範囲内での計数値の比(定速移動状態の計数値/静止状態の計数値)は0.95以上である。したがって、想定速度範囲内での計数値と静止状態との計数値の差は、計測時間T=1〜2秒の場合と比較して、大幅に小さくなっていることがわかる。
【0039】
計測時間Tが決定された後、制御部20の近似式算出部202は、近似式生成ステップを開始し、記憶部30から、基準計数値を読み出す。そして、基準計数値のマーカーMkの位置情報と放射線量との関係に基づいて、近似式F1を算出する(ステップS19)。近似式F1の算出方法はデータ点数、制御部20の演算能力等によって選定すればよい。本実施の形態では、図8に示すように、6次の多項式近似を用いる。これにより、マーカーMkの位置と放射線量との相関関係を表す近似式F1が生成される。
【0040】
続いて、流体動態計測装置1は計測ステップを実行する。計測ステップが開始されると、制御部20は、上記のステップS18で決定された計測時間Tを記憶部30から読み出す。そして、制御部20の検出器制御部201は、検出器10を制御して、マーカーMkの放射線量の計測を開始する。また、ユーザは、計測対象である配管80内部の流体BmとともにマーカーMkを配管80内に流通させる。制御部20は、計測時間Tの計測フレームごとに流動状態のマーカーMkから放出される放射線量(計数値)を計測する(ステップS20)。そして、各計測フレームの計測時刻である時刻情報と、放射線量を流動計数値として、記憶部30に記憶させる(ステップS21)。計測時刻は、計測フレームの中間の時刻、すなわち計測フレームの開始時刻からT/2後の時刻である。
【0041】
続いて、流体動態計測装置1は、分析ステップを実行する。制御部20は、記憶部30に記憶されている流動計数値と、近似式F1から、各計測時刻での計数値に対応するマーカーMkの位置xを算出する(ステップS22)。制御部20は、時刻情報と算出された位置情報を流体動態情報として、記憶部30に記憶させる(ステップS23)。これにより、流体動態計測装置1は、マーカーMkの位置と時刻の関係を算出し、配管80内を流れる流体Bmの動態を計測する。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態に係る流体動態計測装置1は、X線照射器を用いないため、小型で簡素な構成とすることができる。また、近似式F1を用いて、マーカーMkの位置を算出することができるので、配管80内の流体Bmの動態を正確に計測することが可能となる。
【0043】
本実施の形態では、1つの検出器10を用いることとしたが、これに限られない。例えば、図9に示すように2つの検出器10A、10Bを用いることとしてもよい。1つの検出器10のみを用いた場合、図4に示すように、ある1つの計数値から、マーカーMkの位置として2つの候補位置(検出器10を通り過ぎる前の位置及び通り過ぎた後の位置)が算出される。したがって、1つの計測フレームのみでは、マーカーMkの位置を一意に決定できない場合がある。これに対して、2つの検出器10A、10Bを用いた場合、各検出器10A、10BとマーカーMkとの距離を算出することができるので、図10に示すように、マーカーMkの位置を一意に決定することが可能となる。
【0044】
また、本実施の形態では、近似式F1は、制御部20の近似式算出部202で算出されることとしたが、これに限られない。例えば、静止状態のマーカーMkから放出される放射線量に基づいて、ユーザが近似式F1を算出し、この近似式F1を記憶部30に記憶させることとしてもよい。これにより、多様な近似式F1を用いて流体Bmの動態を計測することができる。
【0045】
また、本実施の形態では、近似式F1により算出されたマーカーMkの位置から流体Bmの位置を計測することとしたが、これに限られない。例えば、異なる計測フレームにおいて算出されたマーカーMkの位置から、これらの計測フレーム間でのマーカーMkの速度を計測することとしてもよい。これにより、配管80の内部の流体Bmの速度を計測することができる。
【0046】
また、本実施の形態では、近似式F1は、基準計数値に基づいて算出することとしたが、これに限られない。例えば、基準計数値と、定速計数値との平均値から近似式F1を算出することとしてもよい。これにより、想定速度範囲内のより大きな速度で流体Bm及びマーカーMkが移動した場合に、算出されるマーカーMkの位置の誤差を小さくすることができる。
【0047】
また、本実施の形態では、計測装置本体12は、記憶部30を備えることとしたが、これに限られない。例えば、記憶部30は、USB(Universal Serial Bus)インタフェースを介して接続された外部記憶装置であってもよい。また、イーサネット(登録商標)を介してLAN(Local Area Network)接続されたデータサーバであってもよい。記憶部30を外部記憶装置とすることにより、流体動態計測装置1で計測した流体Bmの動態を表すデータを、外部のコンピュータ装置で分析、保存することが容易となる。
【0048】
(実施の形態2)
続いて、本発明の実施の形態2に係る流体動態計測装置1について説明する。本実施の形態に係る流体動態計測装置1では、近似式F2として、マーカーMkの速さと放射線量の関係を表す式を用いる点で、上記実施の形態1と異なる。その他の構成は実施の形態1と同様であるので、同じ符号を付す。
【0049】
本実施の形態に係る流体動態計測装置1は、検出器10を1台とし、マーカーMkが検出器10の正面の位置(x=0)を通過した時のマーカーMkの速さを計測する。
【0050】
以下、図11を参照しつつ、本実施の形態に係る流体動態計測装置1の計測方法について説明する。
【0051】
図11のフローチャートに示すように、本実施の形態に係る流体動態計測処理は、初期データ取得ステップ、近似式生成ステップ、計測ステップ、分析ステップを含む。流体動態計測処理では、まず、計測時間Tを設定する(ステップS31)。計測時間Tは、実施の形態1と同様に、例えば、過去の計測データに基づいて設定される。
【0052】
続いて、配管80の内部にアクチュエータ82とマーカーMkを設置して、静止状態でマーカーMkから放出される放射線量を計測する(ステップS32)。本実施の形態では、マーカーMkを、検出器10の正面の位置(x=0)に配置して、設定された計測時間Tの放射線量を計測する。そして、計測された放射線量(計数値)C0を記憶部30に記憶させる(ステップS33)。
【0053】
続いて、想定速度範囲内の最大速度Vmaxの1/2の速度で移動させた場合のマーカーMkから放出される放射線量を計測する(ステップS34)。放射線量は、計測時間T内のマーカーMkの中間位置がx=0となるタイミングで計測される。そして、計測された放射線量(計数値)C1を記憶部30に記憶させる(ステップS35)。
【0054】
また、想定速度範囲内の最大速度Vmaxで移動させた場合のマーカーMkから放出される放射線量を計測する(ステップS36)。放射線量は、ステップS34と同様に、計測時間T内のマーカーMkの中間位置がx=0となるタイミングで計測される。そして、計測された放射線量(計数値)C2を記憶部30に記憶させる(ステップS37)。
【0055】
本実施の形態では、上記ステップS31で設定する計測時間Tを2秒とする。計測時間Tは一定であるので、計測時間T内にマーカーMkが移動する距離は、図12に示すように、マーカーMkの速さが小さい場合(LA)より、マーカーMkの速さが大きい場合(LB)の方が大きくなる。すなわち、マーカーMkの速さが大きいと、計測時間T内に、検出器10から遠く、計数値が小さい位置まで移動することとなる。したがって、計測時間T内の計数値は、マーカーMkの速さが小さい場合(CA)より、マーカーMkの速さが大きい場合(CB)の方が小さくなる。
【0056】
図13は、計測時間T=2秒で、マーカーMkの速さを1〜10cm/secで変化させた場合の、計数値を表すグラフである。計測位置x=0において、マーカーMkの速さが大きいほど、計数値は小さくなっていることがわかる。
【0057】
ステップS31〜S37の初期データ取得ステップが終了すると、近似式生成ステップとして、マーカーMkの速さと計数値の関係を表す近似式F2を算出する(ステップS38)。
【0058】
近似式F2の算出は、例えば、最小二乗法を用いた直線近似によって行われる。これにより、マーカーMkの速さと放射線量との相関関係を表す近似式F2が生成される。制御部20は、生成された近似式F2を記憶部30に記憶させる。
【0059】
続いて、流体動態計測装置1は、計測ステップを実行する。計測ステップでは、制御部20は、ステップS31で決定された計測時間Tを記憶部30から読み出す。そして、制御部20の検出器制御部201は、検出器10を制御して、マーカーMkの放射線量の計測を開始する。また、ユーザは、計測対象である配管80内部の流体BmとともにマーカーMkを配管80内に流通させる。制御部20は、計測時間Tの計測フレームごとに流動状態のマーカーMkから放出される放射線量を計測する(ステップS39)。そして、各計測フレームの放射線量データを記憶部30に記憶させる。
【0060】
制御部20は、ユーザから終了指示が入力された場合、又は計数値が所定の終了基準、例えば500カウントを下回った場合に、計測を終了させる。
【0061】
続いて、制御部20は、記憶部30に記憶された放射線量データのうち、計数値が最も大きいデータを、最近接フレームのデータ、すなわちマーカーMkが検出器10に最も近接した時点のデータとして選択する(ステップS40)。続いて、記憶部30から近似式F2を読み出し、近似式F2と選択した最近接フレームにおける計数値に基づいて、マーカーMkの最近接位置での速さを算出する(ステップS41)。また、制御部20は、算出されたマーカーMkの速さを流体動態情報として、記憶部30に記憶させる(ステップS42)。これにより、流体動態計測装置1は、マーカーMkの速さを算出し、配管80内を流れる流体Bmの動態を計測する。
【0062】
以上説明したように、本実施の形態に係る流体動態計測装置1は、マーカーMkが検出器10に最も近接した位置での放射線の計数値と、マーカーMkの速さの関係を表す近似式F2を用いる。これにより、配管80の内部の流体Bmの速さを計測することが可能となる。
【0063】
本実施の形態では、近似式F2は、制御部20の近似式算出部202で算出されることとしたが、これに限られない。例えば、速度ごとのマーカーMkから放射される放射線量に基づいて、ユーザが近似式F2を算出し、この近似式F2を記憶部30に記憶させることとしてもよい。これにより、多様な近似式F2を用いて流体Bmの動態を計測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、バイオマス水熱処理において、配管内を流通する媒質の動態を計測する動態計測装置に好適である。また、本発明は、バイオマス水熱処理における媒質の動態計測装置に限らず、不透明な配管内を流通する流体の動態計測装置に応用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 流体動態計測装置、10,10A,10B 検出器、12 計測装置本体、20 制御部、201 検出器制御部、202 近似式算出部、203 計測時間評価部、30 記憶部、32 入力部、80 配管、82 アクチュエータ、82a 可動部、Mk マーカー、Bm 流体
図1
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図13