(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の磁気センサセルのそれぞれは、前記出力信号に応じた大きさで、前記磁気センサが検出した入力磁場を低減させるフィードバック磁場を発生させる第1の磁場生成部を更に有し、
前記出力部は、前記第1の磁場生成部が前記フィードバック磁場を発生するために流すフィードバック電流に応じた前記出力信号を出力する、
請求項1に記載の磁場計測装置。
前記磁気センサのそれぞれは、磁気抵抗素子と前記磁気抵抗素子の両端に配置された二つの磁気収束板とを含み、前記磁気抵抗素子は、二つの前記磁気収束板に挟まれた位置に配置される、請求項2に記載の磁場計測装置。
前記第1の磁場生成部は、前記磁気抵抗素子および二つの前記磁気収束板を取り囲むように、前記磁気センサが検出対象とする磁場の軸方向に沿って巻かれている第1のコイルを含む、請求項3に記載の磁場計測装置。
前記複数の磁気センサセルのそれぞれは、前記磁気センサと、前記第1の磁場生成部と、前記出力部とをそれぞれ含む3つのセンサ部を有し、磁場を前記3軸方向で検出可能である、請求項2から5のいずれか一項に記載の磁場計測装置。
前記計測データ演算部は、前記計測データから生成した磁場計測データによって示される前記入力磁場の空間分布を、正規直交関数の空間分布を持つ磁場を前記磁気センサアレイで検出したときに前記磁気センサのそれぞれが出力する信号ベクトルを基底ベクトルとして信号分離する信号空間分離部を更に有し、
前記指標算出部は、前記信号空間分離部が信号分離した結果に基づいて、前記指標を算出する、請求項1または6に記載の磁場計測装置。
前記指標算出部は、前記計測データから生成した前記複数の磁気センサセルにおける磁場計測データの統計に基づいて、前記指標を算出する、請求項1から7のいずれか一項に記載の磁場計測装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
図1は、本実施形態に係る心磁計測装置10の構成を示す。心磁計測装置10は、磁場計測装置の一例であって、磁気抵抗素子を用いて、人間の心臓の電気活動により生成される磁場である心磁を計測する。また、心磁計測装置10は、人間以外の生体の心磁を計測するために用いられてもよい。
【0019】
心磁計測装置10は、本体部100と、情報処理部150とを備える。本体部100は、被験者の心磁をセンシングするためのコンポーネントであり、磁気センサユニット110と、ヘッド120と、駆動部125と、ベース部130と、ポール部140とを有する。
【0020】
磁気センサユニット110は、心磁計測時に被験者の胸部における心臓に向かう位置に配置され、被験者の心磁をセンシングする。ヘッド120は、磁気センサユニット110を支持し、磁気センサユニット110を被験者に対向させる。駆動部125は、磁気センサユニット110およびヘッド120の間に設けられ、キャリブレーションを行う場合にヘッド120に対する磁気センサユニット110の向きを変更する。本実施形態に係る駆動部125は、図中のZ軸を中心に磁気センサユニット110を360度回転させることができる第1アクチュエータと、Z軸と垂直な軸(図中の状態においてはX軸)を中心に磁気センサユニット110を回転させる第2アクチュエータとを含み、これらを用いて磁気センサユニット110の方位角および天頂角を変更する。図中の駆動部125として示したように、駆動部125は図中のY軸方向から見るとY字形状を有し、第2アクチュエータは、磁気センサユニット110を図中X軸中心に360度回転させることができる。
【0021】
ベース部130は、他の部品を支える基台であり、本実施形態においては心磁計測時に被験者が乗る台となっている。ポール部140は、ヘッド120を被験者の胸部の高さに支持する。ポール部140は、磁気センサユニット110の高さを被験者の胸部の高さに調整するべく上下方向に伸縮可能であってよい。
【0022】
情報処理部150は、本体部100により計測したデータを処理して表示・印刷等により出力するためのコンポーネントである。情報処理部150は、PC(パーソナルコンピュータ)、タブレット型コンピュータ、スマートフォン、ワークステーション、サーバコンピュータ、または汎用コンピュータ等のコンピュータであってよく、複数のコンピュータが接続されたコンピュータシステムであってもよい。これに代えて、情報処理部150は、心磁計測の情報処理用に設計された専用コンピュータであってもよく、専用回線によって実現された専用ハードウェアであってもよい。
【0023】
図2は、本実施形態に係る磁気センサユニット110の構成を示す。磁気センサユニット110は、磁気センサアレイ210およびセンサデータ収集部230を有する。磁気センサアレイ210は、複数の磁気センサセル220を有し、三次元空間内の複数の箇所において3軸方向の入力磁場を検出可能である。本図において、磁気センサアレイ210は、X方向、Y方向およびZ方向のそれぞれに複数の磁気センサセル220(例えば、X方向に8個、Y方向に8個、およびZ方向に2個の計128個の磁気センサセル220)が平面状に配置されている。
【0024】
センサデータ収集部230は、磁気センサアレイ210に含まれる複数の磁気センサセル220に電気的に接続され(図示せず。)、複数の磁気センサセル220からのセンサデータ(検出信号)を収集して情報処理部150へと供給する。
【0025】
図3は、本実施形態に係る磁気センサアレイ210中の磁気センサセル220の構成および配置を示す。複数の磁気センサセル220のそれぞれは、各々が磁気抵抗素子を有する少なくとも1つのセンサ部300を有する。本図においては、複数の磁気センサセル220のそれぞれが、3つのセンサ部300x〜z(「センサ部300」と総称する。)を有し、入力磁場を3軸方向で検出可能である場合を一例として示す。しかしながら、複数の磁気センサセル220のいずれもが、3つのセンサ部300x〜zを有することには限定されず、磁気センサアレイ210の少なくとも一部で、三次元空間内の複数の箇所において3軸方向の入力磁場を検出可能であればよい。センサ部300xはX軸方向に沿って配置されX軸方向の磁場を検出可能である。また、センサ部300yはY軸方向に沿って配置されY軸方向の磁場を検出可能である。また、センサ部300zはZ軸方向に沿って配置されZ軸方向の磁場を検出可能である。本図において一点鎖線で示される拡大図によって示されるように、本実施形態において、各センサ部300は、それぞれ、磁気抵抗素子の両端に磁気収束板が配置されている。したがって、各センサ部300は、磁気収束板に挟まれた狭い位置に配置された磁気抵抗素子を用いて磁場の空間分布をサンプリングすることにより、各軸方向において、空間におけるサンプリング点を明確にすることができる。各センサ部300の構成の詳細については後述する。
【0026】
本図において、センサ部300x、300y、および300zにより検出する磁場の3軸方向と、磁気センサセル220を配列する三次元の方向とが同一方向である。これにより、測定磁場の分布の各成分の把握が容易となる。また、3つのセンサ部300x、300y、および300zは、各磁気センサセル220内において、磁気センサセル220を配列する三次元方向それぞれから見て互いに重ならず、かつ、3つのセンサ部300の間に設けるギャップ側に一端が設けられ、他端が当該ギャップから離れるように3軸方向の各軸方向に延伸して配置されていることが好ましい。一例として、本図において、磁気センサセル220の正面視左下の角部に空隙(ギャップ)が設けられ、センサ部300x、300y、および300zは、一端が当該空隙に接するように設けられ、他端が当該空隙から離れるようにX軸、Y軸、およびZ軸方向の各軸方向に延伸して配置されている例を示す。本図において、センサ部300x、300y、および300zが、立方体状の磁気センサセル220の一角部から互いに垂直な3辺に沿って配置され、該一角部に空隙が設けられている。しかしながら、検出する磁場の3軸方向と磁気センサセル220を配列する三次元の方向とは異なっていてもよい。例えば、検出する磁場の3軸方向としてX軸、Y軸、およびZ軸に代えて、極座標系のr軸、θ軸、およびφ軸を用いてもよい。また、磁気センサセル220を配列する三次元の方向として、X軸、Y軸およびZ軸に代えて、極座標系のr軸、θ軸、およびφ軸を用いてもよい。検出する磁場の3軸方向と磁気センサセル220を配列する三次元の方向とが異なる場合、磁気センサセル220内におけるセンサ部300の配置や、磁気センサセル220の配列方向に制約を受けることがなく、磁気センサアレイ210の設計の自由度を増すことができる。また、磁気センサセル220の角部にギャップを設けることなく、センサ部300x、300y、および300zが設けられてもよい。この場合、磁気センサセル220を小さく構成することができ、このため、このような複数の磁気センサセル220を有する磁気センサアレイ210を小型化することが可能となる。
【0027】
図4は、本実施形態に係る磁気抵抗素子を有する磁気センサの入出力特性の一例を示す。本図は、横軸が磁気センサに入力する入力磁場の大きさBを示し、縦軸が磁気センサの検出信号の大きさV_xMR0を示す。磁気センサは、例えば、巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magneto−Resistance)素子またはトンネル磁気抵抗(TMR:Tunnel Magneto−Resistance)素子等を有し、予め定められた一軸方向の磁場の大きさを検出する。
【0028】
このような磁気センサは、入力磁場Bに対する検出信号V_xMR0の傾きである磁気感度が高く、10pT程度の微小な磁場を検出することができる。その一方で、磁気センサは、例えば、入力磁場Bの絶対値が1μT程度で検出信号V_xMR0が飽和してしまい、入出力特性の直線性が良好な範囲が狭い。そこで、このような磁気センサにフィードバック磁場を発生させる閉ループを加えると、磁気センサの直線性を改善することができる。このような磁気センサについて次に説明する。
【0029】
図5は、本実施形態に係るセンサ部300の構成例を示す。センサ部300は、複数の磁気センサセル220のそれぞれの内部に設けられ、磁気センサ520と、第1の磁場生成部530と、出力部540と、を含む。なお、センサ部300の一部、例えば第1の増幅回路532および出力部540は、磁気センサセル220側ではなくセンサデータ収集部230側に設けられてもよい。
【0030】
磁気センサ520は、
図4で説明した磁気センサと同様に、GMR素子またはTMR素子等の磁気抵抗素子を有する。また、磁気センサ520のそれぞれは、磁気抵抗素子と磁気抵抗素子の両端に配置された二つの磁気収束板とを含み、磁気抵抗素子は、二つの磁気収束板に挟まれた位置に配置される。磁気センサ520が有する磁気抵抗素子は、感磁軸の正の方向を+X方向とした場合に、+X方向の磁場が入力すると抵抗値が増加し、−X方向の磁場が入力すると抵抗値が減少するように形成されてよい。即ち、磁気センサ520が有する磁気抵抗素子の抵抗値の変化を観測することにより、当該磁気センサ520に入力する磁場Bの大きさを検出することができる。例えば、磁気センサ520の磁気感度をSとすると、磁気センサ520の入力磁場Bに対する検出結果は、S×Bと算出できる。なお、磁気センサ520は、一例として、電源等が接続され、抵抗値の変化に応じた電圧降下を、入力磁場の検出結果として出力する。磁気センサ520の構成の詳細については後述する。
【0031】
第1の磁場生成部530は、出力部540が出力する出力信号に応じた大きさで、磁気センサ520が検出した入力磁場を低減させるフィードバック磁場を発生させ、磁気センサ520に与える。第1の磁場生成部530は、例えば、磁気センサ520に入力する磁場Bとは逆向きで、絶対値が当該入力磁場と略同一のフィードバック磁場B_FBを発生させ、入力磁場を打ち消すように動作する。第1の磁場生成部530は、第1の増幅回路532と、第1のコイル534とを含む。
【0032】
第1の増幅回路532は、磁気センサ520の入力磁場の検出結果に応じた電流をフィードバック電流I_FBとして出力する。磁気センサ520が有する磁気抵抗素子が、少なくとも1つの磁気抵抗素子を含むブリッジ回路により構成される場合、第1の増幅回路532の入力端子対には、ブリッジ回路の出力がそれぞれ接続される。そして、第1の増幅回路532は、ブリッジ回路の出力に応じた電流をフィードバック電流I_FBとして出力する。第1の増幅回路532は、例えば、トランスコンダクタンスアンプを含み、磁気センサ520の出力電圧に応じたフィードバック電流I_FBを出力する。例えば、第1の増幅回路532の電圧・電流変換係数をGとすると、フィードバック電流I_FBは、G×S×Bと算出できる。
【0033】
第1のコイル534は、フィードバック電流I_FBに応じたフィードバック磁場B_FBを発生させる。第1のコイル534は、磁気センサ520が有する磁気抵抗素子および磁気抵抗素子の両端に配置された二つの磁気収束板を取り囲むように、磁気センサ520が検出対象とする磁場の軸方向に沿って巻かれている。第1のコイル534は、磁気センサ520の全体にわたって均一のフィードバック磁場B_FBを発生させることが望ましい。例えば、第1のコイル534のコイル係数をβとすると、フィードバック磁場B_FBは、β×I_FBと算出できる。ここで、フィードバック磁場B_FBは、入力磁場Bを打ち消す向きに発生するので、磁気センサ520に入力する磁場は、B−B_FBに低減されることになる。したがって、フィードバック電流I_FBは、次式のように示される。
【数1】
【0034】
(数1)式をフィードバック電流I_FBについて解くと、センサ部300の定常状態におけるフィードバック電流I_FBの値を算出することができる。磁気センサ520の磁気感度Sおよび第1の増幅回路532の電圧・電流変換係数Gが十分に大きいとすると、(数1)式から次式が算出される。
【数2】
【0035】
出力部540は、第1の磁場生成部530がフィードバック磁場B_FBを発生するために流すフィードバック電流I_FBに応じた出力信号V_xMRを出力する。出力部540は、例えば、抵抗値Rの抵抗性素子を有し、当該抵抗性素子にフィードバック電流I_FBが流れることによって生じる電圧降下を出力信号V_xMRとして出力する。この場合、出力信号V_xMRは、(数2)式より次式のように算出される。
【数3】
【0036】
以上のように、センサ部300は、外部から入力する磁場を低減させるフィードバック磁場を発生するので、磁気センサ520に実質的に入力する磁場を低減させる。これにより、センサ部300は、例えば、磁気センサ520として
図4に示した非線形性であり、動作磁場範囲が狭い特性を有する磁気抵抗素子を用い、入力磁場Bの絶対値が1μTを超えても、検出信号V_xMRが飽和することを防止できる。このようなセンサ部300の入出力特性を次に説明する。
【0037】
図6は、本実施形態に係るセンサ部300の入出力特性の一例を示す。本図は、横軸がセンサ部300に入力する入力磁場の大きさBを示し、縦軸がセンサ部300の検出信号の大きさV_xMRを示す。センサ部300は、磁気感度が高く、10pT程度の微小な磁場を検出することができる。また、センサ部300は、例えば、入力磁場Bの絶対値が100μTを超えても、検出信号V_xMRの良好な線形性を保つことができる。
【0038】
即ち、本実施形態に係るセンサ部300は、例えば、入力磁場Bの絶対値が数百μT以下といった、予め定められた入力磁場Bの範囲において、当該入力磁場Bに対する検出結果が線形性を有するように構成される。このようなセンサ部300を用いることにより、心磁信号のように微弱な磁気的信号を簡便に検出することができる。
【0039】
図7は、本実施形態に係る磁気センサ520の構成例を示す。本図において、磁気センサ520は、磁気抵抗素子710と、磁気抵抗素子710の両端に配置された磁気収束板720および730とを有する。磁気収束板720および730は、磁気抵抗素子710を間に挟むように、磁気抵抗素子710の両端に配置されている。本図において、磁気収束板720は、感磁軸に沿って磁気抵抗素子710の負側に設けられ、磁気収束板730は、感磁軸に沿って磁気抵抗素子710の正側に設けられている。なお、ここで、感磁軸は、磁気抵抗素子710を形成する磁化固定層において固定された磁化の方向に沿っていてよい。また、感磁軸の負側から正側に向かって磁場が入力されると、磁気抵抗素子710の抵抗は増加または減少してよい。磁気収束板720および730は、例えばパーマロイ等の透磁率の高い材料により形成される。そして、磁気センサ520が本図に示すように構成される場合、第1のコイル534は、磁気抵抗素子710と、磁気抵抗素子710の両端に配置された磁気収束板720および730との断面を取り囲むように、磁気センサ520が検出対象とする磁場の軸方向に沿って巻かれている。また、磁気センサ520は、1つの磁気センサ520内に複数の磁気抵抗素子710を有する場合、磁気抵抗素子およびその両端に配置された磁気収束板を含む組を複数有してもよい。その場合、磁気抵抗素子およびその両端に配置された磁気収束板を含む組を1つのコイルで取り囲むように第1のコイル534が巻かれてもよい。
【0040】
このような磁気センサ520において、感磁軸の負側から正側に磁場が入力されると、透磁率の高い材料で形成された磁気収束板720および730が磁化されることにより、本図において破線で示すような磁束の分布が発生する。すると、磁気収束板720および730が磁化されることにより発生する磁束は、二つの磁気収束板720および730の間に挟まれた磁気抵抗素子710の位置を通過することとなる。このため、磁気抵抗素子710の位置における磁束密度は、磁気収束板720および730を配置することによって大幅に増加させることができる。また、本図のように、磁気収束板720および730に挟まれた狭い位置に配置された磁気抵抗素子710を用いて磁場の空間分布をサンプリングすることにより、空間におけるサンプリング点を明確にすることができる。
【0041】
図8は、本実施形態に係る磁気センサ520にフィードバック磁場を発生させた時の磁束分布を示す。
図8においては、
図7と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。本実施形態に係る磁気センサ520において、第1のコイル534にフィードバック電流が供給されると、第1のコイル534がフィードバック磁場を発生させることにより、本図において一点鎖線で示すような磁束の分布が発生する。このフィードバック磁場により発生する磁束は、磁気抵抗素子710に入力され磁気収束板720および730によって磁気増幅された磁場の空間分布をキャンセルするように空間分布する。このため、磁気センサ520は、本図に示すように磁気抵抗素子710の両端に磁気収束板720および730が配置されている場合には、磁気抵抗素子710の位置における磁場分布をフィードバック磁場によって正確にキャンセルすることができるため、入力磁場と出力電圧との間の線形性が高いセンサを実現することができる。
【0042】
図9は、本実施形態に係るセンサ部300の他の構成例を示す。
図9においては、
図5と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。本図におけるセンサ部300は、入力磁場Bから、入力磁場Bの大部分を占める環境磁場成分をキャンセルし、入力磁場Bに含まれる微小成分である心磁成分を高い分解能で検出する。本図において、センサ部300はさらに、電流DA変換器910および第2の磁場生成部920を更に含む。
【0043】
電流DA変換器910は、デジタル値をアナログ電流に変換するDAコンバータである。電流DA変換器910は、入力磁場の各軸成分を検出した結果をデジタル信号で受け取り、当該デジタル信号に対応する電流値を第2の磁場生成部920に供給する。ここで、電流DA変換器910は、例えば、磁気センサアレイ210を用いて入力磁場Bを検出した場合に得られる複数のx軸成分Bxの平均値から算出された値を、x軸成分のデジタル信号として受け取ってよい。同様に、電流DA変換器910は、磁気センサアレイ210を用いて入力磁場Bを検出した場合に得られる複数のy軸成分Byの平均値から算出された値、および、z軸成分Bzの平均値から算出された値を、それぞれ、y軸成分のデジタル信号、および、z軸成分のデジタル信号として受け取ってよい。
【0044】
第2の磁場生成部920は、電流DA変換器910に接続され、電流DA変換器910から供給された電流値に応じた大きさで、入力磁場Bの大部分を占める環境磁場を低減させるキャンセル磁場B_Envを発生させ、それを磁気センサ520に与える。第2の磁場生成部920は、例えば、環境磁場とは逆向きで、絶対値が当該環境磁場と略同一のキャンセル磁場B_Envを発生させ、環境磁場を打ち消すように動作する。第2の磁場生成部920は、第2の増幅回路922と、第2のコイル924とを含む。
【0045】
第2の増幅回路922は、電流DA変換器910および第2のコイル924に接続され、電流DA変換器910から供給された電流値に応じた電流をキャンセル電流I_Compとして出力する。
【0046】
第2のコイル924は、一端が第2の増幅回路922に接続され、他端が接地されている。第2のコイル924は、第2の増幅回路922から供給されたキャンセル電流I_Compに応じたキャンセル磁場B_Envを発生させる。第2のコイル924は、磁気センサ520が有する磁気抵抗素子710および磁気抵抗素子710の両端に配置された二つの磁気収束板720および730を取り囲むように、磁気センサ520が検出対象とする磁場の軸方向に沿って巻かれている。第2のコイル924は、磁気センサ520の全体にわたって均一のキャンセル磁場B_Envを発生させることが望ましい。例えば、第2のコイル924のコイル係数をβ2とすると、キャンセル磁場B_Envは、β2×I_Compと算出できる。ここで、キャンセル磁場B_Envは、入力磁場Bを打ち消す向きに発生するので、磁気センサ520に入力する磁場は、B−B_Envに低減されることになる。
【0047】
なお、第1のコイル534に加えて、当該第2のコイル924を、磁気抵抗素子710および磁気抵抗素子710の両端に配置された二つの磁気収束板720および730に巻く場合には、第1のコイル534および第2のコイル924の2本を並列に磁気抵抗素子710および磁気収束板720、730に巻いてよい。
【0048】
複数の磁気センサセル220のそれぞれは、磁気センサ520として本図に示すような磁気センサ520を採用することにより、磁気センサが検出する入力磁場に含まれる環境磁場を低減させるキャンセル磁場を発生させる第2の磁場生成部を更に含んでよい。これにより、心磁計測装置10の磁気センサアレイ210は、各軸方向について、入力磁場Bの大部分を占める環境磁場が、キャンセル磁場B_Envで減殺された合成磁場を検出するので、入力磁場Bの微小成分である心磁成分を高い分解能で検出することができる。
【0049】
図10は、本実施形態に係る磁気センサ520の構成の具体例を示す。
図10においては、
図7と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。本図において、磁気抵抗素子710は、磁化自由層1010および磁化固定層1020を有する。一般に、磁気抵抗素子710は、絶縁体の薄膜層を二つの強磁性体層で挟み込んだ構造である。磁化自由層1010は、二つの強磁性体層のうち、磁化方向が外部磁界に応じて変化する層である。また、磁化固定層1020は、二つの強磁性体層のうち、磁化方向が外部磁界に対して変化しない層である。
【0050】
本具体例において、磁気抵抗素子710は、磁化自由層1010が下部に配置され、磁化自由層1010の上部に絶縁体の薄膜層(図示せず)を介して磁化固定層1020が配置される、いわゆるボトムフリー構造の磁気抵抗素子である。ボトムフリー構造の磁気抵抗素子は、磁化自由層1010を比較的広い面積で形成することができるため、高い磁気感度を得ることができる。
【0051】
また、本具体例において、磁気センサ520は、磁気抵抗素子710の上部に絶縁層(図示せず)を介して磁気収束板720および730が、磁気抵抗素子710を中央に挟むようにその両端に配置されている。これにより、磁気抵抗素子710は、磁気収束板720および730に挟まれた狭い空間に配置される。
【0052】
ここで、本図において、磁化自由層1010における感磁軸方向に沿った長さを磁化自由層長さL_Freeと定義する。また、磁化自由層1010における上面視で感磁軸方向に垂直な軸に沿った長さを磁化自由層幅W_Freeと定義する。また、磁化固定層1020における感磁軸方向に沿った長さを磁化固定層長さL_Pinと定義する。また、磁化固定層1020における上面視で感磁軸方向に垂直な軸に沿った長さを磁化固定層幅W_Pinと定義する。また、磁気収束板の外側の一端から磁化自由層の外側の一端までの感磁軸方向に沿った長さ(本図において、磁気収束板720の左端から右端までの感磁軸方向に沿った長さ、および、磁気収束板730の右端から左端までの感磁軸方向に沿った長さ)を磁気収束板長さL_FCと定義する。また、磁気収束板における上面視で感磁軸方向に垂直な軸に沿った長さを磁気収束板幅W_FCと定義する。また、磁気収束板における側面視で感磁軸方向に垂直な軸に沿った長さを磁気収束板厚さT_FCと定義する。また、二つの磁気収束板720および730の感磁軸方向に沿った間隔(本図において、磁気収束板720の右端から磁気収束板730の左端までの感磁軸方向に沿った長さ)を磁気収束板間隔G_FCと定義する。また、磁化自由層1010の厚み方向の中心から磁気収束板の底面までの、側面視で感磁軸方向に垂直な軸に沿った間隔を磁気収束板高さH_FCと定義する。
【0053】
図11は、本具体例に係る磁気センサ520において、磁気収束板間隔G_FCを変えた場合の磁気増幅率のシミュレーション結果を示す。本図において、横軸は磁気収束板間隔G_FCをμm単位で示し、縦軸は磁気増幅率を示す。ここで、本シミュレーションにおいて、磁化自由層長さL_Freeは100μm、磁化自由層幅W_Freeは140μm、磁化固定層長さL_Pinは40μm、磁化固定層幅W_Pinは20μm、磁気収束板幅W_FCは300μm、磁気収束板高さH_FCは0.6μmとした。これらのパラメータについては以下に示すシミュレーションにおいても全て共通の値とした。本シミュレーションにおいては、さらに、磁気収束板長さL_FCは10mmとし、磁気収束板厚さT_FCは10μm、30μm、50μm、および100μmとしてシミュレーションを行った。
【0054】
本図に示されるように、磁気センサ520は、磁気収束板間隔G_FCを狭めるほど磁気増幅率が高くなっている。ここで、磁化自由層長さL_Freeが100μmであるので、磁気収束板間隔G_FCが100μmである場合、側面視において、磁気収束板の側面と磁化自由層1010の側面が揃う(すなわち、
図10において、磁気収束板720の右端と磁化自由層1010の左端、および、磁気収束板730の左端と磁化自由層1010の右端が側面視で揃う)こととなる。本シミュレーション結果によれば、磁気センサ520は、磁気収束板間隔G_FCが100μmよりも小さい場合に、磁気増幅率がさらに高くなっている。したがって、磁気センサ520は、磁気抵抗素子710の両端に配置される磁気収束板720および730の感磁軸方向の間隔(磁気収束板間隔G_FC)が、磁気抵抗素子710の磁化自由層1010の感磁軸方向の長さ(磁化自由層長さL_Free)よりも小さいと、より高い磁気増幅率を得られるので好ましい。また、磁気センサ520は、磁気収束板間隔G_FCを磁化固定層長さL_Pin(40μm)よりも小さくしてもよい。すなわち、磁気センサ520は、磁気収束板が上面視で磁化固定層の一部と重複するように磁気収束板を配置してもよい。
【0055】
図12は、本具体例に係る磁気センサ520において、磁気収束板長さL_FCを変えた場合の磁気増幅率のシミュレーション結果を示す。本図において、横軸は磁気収束板長さL_FCをmm単位で示し、縦軸は磁気増幅率を示す。本シミュレーションにおいては、磁気収束板厚さT_FCは10μm、磁気収束板間隔G_FCは20μmとしてシミュレーションを行った。
【0056】
本図に示されるように、磁気センサ520は、磁気収束板長さL_FCを長くするほど磁気増幅率が高くなっている。これは、透磁率の高い材料で形成された磁気収束板を長くするほど、発生する磁束が増えるためであるといえる。したがって、磁気センサ520は、磁気抵抗素子710の両端に磁気収束板を設けるにあたって、設計上可能な限り磁気収束板の感磁軸方向の長さ(磁気収束板長さL_FC)を大きくすると、より高い磁気増幅率を得られるので好ましい。具体的に、磁気収束板の感磁軸方向の長さ(磁気収束板長さL_FC)は1mm以上であると、高い磁気増幅効果が得られるので好ましい。特に、本図に示されるように、磁気センサ520は、磁気収束板長さL_FCが10mmより小さい範囲では磁気増幅率の増加効果が高い。また、磁気収束板長さL_FCが10mm以上であれば、100倍以上の磁気増幅率が得られる。したがって、心磁計測において、微弱な心磁をより正確に検出するために、磁気収束板の感磁軸方向の長さ(磁気収束板長さL_FC)は10mm以上であるとより好ましい。
【0057】
図13は、本具体例に係る磁気センサ520において、磁気収束板厚さT_FCを変えた場合の磁気増幅率のシミュレーション結果を示す。本図において、横軸は磁気収束板厚さT_FCをμm単位で示し、縦軸は磁気増幅率を示す。本シミュレーションにおいては、磁気収束板長さL_FCは10mm、磁気収束板厚さT_FCは10μm、磁気収束板間隔G_FCは20μmとしてシミュレーションを行った。
【0058】
本図に示されるように、磁気センサ520は、磁気収束板厚さT_FCを厚くしていくと、ある点まで磁気増幅率は増加していき、その後、磁気増幅率が減少していく傾向にある。これは、ある点までは透磁率の高い材料で形成された磁気収束板を厚くするほど、発生する磁束が増えるため磁気増幅率が増加し、ある点を過ぎると、その磁気増幅効果よりも磁気収束板の厚み方向の中心が磁気抵抗素子710から遠ざかり、磁気収束板により収束させた磁束が磁気抵抗素子710を通過しにくくなる影響が強くなるためといえる。したがって、磁気収束板の厚さ(磁気収束板厚さT_FC)は、概ね100μm以内であると、より高い磁気増幅効果が得られるので好ましい。
【0059】
図14は、本具体例に係る磁気センサ520において、磁気収束板間隔G_FCを一定として、磁気収束板長さL_FC/磁気収束板間隔G_FCを変えた場合の、磁気増幅率のシミュレーション結果を示す。本図において、横軸は磁気収束板長さL_FCを磁気収束板間隔G_FCで割った値を示し、縦軸は磁気増幅率を示す。本シミュレーションにおいては、磁気収束板厚さT_FCは10μm、磁気収束板間隔G_FCは20μmとしてシミュレーションを行った。
【0060】
図14に示されるように、磁気センサ520は、磁気収束板長さL_FC/磁気収束板間隔G_FCが大きくなるほど磁気増幅率が高くなっている。これは、
図11において磁気収束間隔G_FCが小さくなるほど磁気増幅率が高くなること、および、
図12において磁気収束板長さL_FCが長くなるほど磁気増幅率が高くなることを反映しているといえる。本図に示されるように、磁気センサ520は、磁気収束板の感磁軸方向の長さ(磁気収束板長さL_FC)が、磁気抵抗素子710の両端に配置される磁気収束板720および730の感磁軸方向の間隔(磁気収束板間隔G_FC)の10倍より大きいと、高い磁気増幅効果が得られるので好ましい。特に、磁気センサ520は、磁気抵抗素子710の両端に配置される磁気収束板720および730の感磁軸方向の間隔(磁気収束板間隔G_FC)が、磁気抵抗素子710の磁化自由層1010の感磁軸方向の長さ(磁化自由層長さL_Free)よりも小さく、磁気収束板の感磁軸方向の長さ(磁気収束板長さL_FC)が、磁気抵抗素子710の磁化自由層1010の感磁軸方向の長さの10倍より大きいと、より高い磁気増幅効果が得られるのでより好ましい。さらに、磁気センサ520は、
図11のシミュレーション結果から磁化自由層長さが100μmである場合、磁気収束板間隔G_FCが100μmより小さいことがより好ましく、
図12のシミュレーション結果から10mm以上であることがより好ましいことが示されており、これらを踏まえて、磁気収束板の感磁軸方向の長さ(磁気収束板長さL_FC)が、磁気抵抗素子710の両端に配置される磁気収束板720および730の感磁軸方向の間隔(磁気収束板間隔G_FC)の100倍以上であると、より高い磁気増幅率を得られるのでより好ましい。このように、磁気センサ520は、磁気収束板長さL_FCと磁気収束板間隔G_FCとを適切に設計することにより、高い磁気増幅率を実現することができる。
【0061】
図15は、本具体例に係る磁気センサ520において、磁気収束板長さL_FCを一定として、磁気収束板長さL_FC/磁気収束板間隔G_FCを変えた場合の、磁気増幅率のシミュレーション結果を示す。本図において、横軸は磁気収束板長さL_FCを磁気収束板間隔G_FCで割った値を示し、縦軸は磁気増幅率を示す。本シミュレーションにおいては、磁気収束板長さL_FCは10mmとし、磁気収束板厚さT_FCは10μm、30μm、50μm、および100μmとしてシミュレーションを行った。
【0062】
図16は、本実施形態に係る磁気センサ520を、磁気センサアレイ210における複数の磁気センサセル220のセンサ部300に適用した例を示す。
図16においては、
図3と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。本図において、複数の磁気センサセル220は、3つのセンサ部300x、300y、および300zにおける磁気センサ520として
図7に示す構成例に係る磁気センサ520を用いる。複数の磁気センサセル220は、それぞれのセンサ部300に磁気抵抗素子710の両端に磁気収束板720および730が配置された磁気センサ520を用いることにより、上述したような磁気増幅効果を得るとともに、空間におけるサンプリング点を明確にすることができる。
【0063】
また、心磁計測装置10は、複数の磁気センサセル220のそれぞれのセンサ部300における磁気センサ520として、磁気収束板長さL_FCと磁気収束板間隔G_FCとが最適化された磁気センサ520を用いることにより、例えば100倍を超える磁気増幅率を実現することができ、心磁計測において、微弱な心磁をより正確に検出することが可能となる。
【0064】
さらに、本図に示すように、複数の磁気センサセル220における3軸の磁気センサであるセンサ部300x、300y、および300zは、X軸、Y軸、およびZ軸の三次元方向それぞれから見て、互いに重ならず、かつ、3軸の磁気センサの間に設けるギャップに一端が設けられ、他端が当該ギャップから離れるように3軸方向の各軸方向に延伸して配置されている。一例として、本図において、磁気センサセル220の正面視左下の角部に空隙(ギャップ)が設けられ、センサ部300x、300y、および300zは、一端が当該空隙に接するように設けられ、他端が当該空隙から離れるように、X軸、Y軸、およびZ軸方向の各軸方向に延伸して配置されている例を示す。本図に示すように、センサ部300x、300y、および300zが有するコイルまたは磁性体が、互いに重ならないように配置されていることは、以下の点で好ましい。まず、互いに重ならない配置により、サンプリング点をさらに明確にでき、磁場の各成分の把握がさらに容易となる。また、センサ部300x、300y、および300zが有する他軸感度を互いに等価なものとみなすことができ、線形代数の較正演算が容易となる。なお、この他軸感度は、センサ部300x、300y、および300zが有するコイル、または磁性体による相互干渉によって発生するものである。複数の磁気センサセル220のそれぞれのセンサ部300をこのような構成とすることにより、心磁計測装置10は、心磁計測において、微弱な心磁をより正確に検出することが可能となる。他の一例として、磁気センサセル220の角部にギャップを設けることなく、センサ部300x、300y、および300zが設けられてもよい。この場合、磁気センサセル220を小さく構成することができ、このため、このような複数の磁気センサセル220を有する磁気センサアレイ210を小型化することが可能となる。
【0065】
また、磁気センサアレイ210は、複数の磁気センサセル220が互いに最近接させる形で配置されている。心磁計測装置においては、心磁の空間分布を計測することによって心臓における電気活動を検出するため、隣接する磁気センサセル220は、互いに近接して配置されていることが望ましく、例えば、虚血性心不全の診断などで用いられる場合には、必要な空間分解能を得るために、感磁軸方向に隣接するセンサ部の間隔(本図におけるL)を3cm以下とすることが望ましい。
【0066】
このような限られた間隔の中でも高い磁気感度を得るために、複数の磁気センサセル220のセンサ部300は、磁気収束板の感磁軸方向の長さL_FCをできるだけ大きくすることが望ましい。より詳細には、二つの磁気収束板の感磁軸方向の長さと、二つの磁気収束板の感磁軸方向の間隔の和が、感磁軸方向に隣接するセンサ部の間隔の半分より大きくなるように(すなわち、2×磁気収束板長さL_FC+磁気収束板間隔G_FC>0.5×Lを満たすように)、各センサ部300における磁気センサ520を設計すると、限られた間隔の中でも高い磁気感度を得ることができるため、好ましい。
【0067】
一般に、このように各センサ部300を接近して配置すると、各3軸センサの間での相互の磁気干渉が無視できなくなるが、本実施形態に係る心磁計測装置10によれば、後述するように各3軸センサ自身の磁気感度誤差(X、Y、およびZ軸での主軸感度のミスマッチ、および、他軸感度)だけでなく、隣接するセンサ部からの磁気干渉も含めて補正することが可能である。
【0068】
図17は、本実施形態に係る磁気センサアレイ210、センサデータ収集部230、およびセンサデータ処理部1700の構成を示す。
【0069】
磁気センサアレイ210は、複数の磁気センサセル220を有する。複数の磁気センサセル220のそれぞれは、上述のとおり複数のセンサ部300x〜zを有してよい。本図においては、磁気センサアレイ210が各次元方向に有する複数の磁気センサセル220のうち、位置[i,j,k]、[i+1,j,k]、[i,j+1,k]、および、[i,j,k+1]に関する部分を示す。
【0070】
センサデータ収集部230は、複数のAD変換器1710およびクロック発生器1712を有する。複数のAD変換器1710は、磁気センサセル220の複数のセンサ部300x〜zのそれぞれに対応して設けられており、対応するセンサ部300が出力するアナログの検出信号(
図6のセンサ出力信号V_xMR)をデジタルの計測データV(Vx,Vy,Vz)に変換する。ここで、Vx、Vy、およびVzは、センサ部300x、300y、および300zからの検出信号をデジタルに変換した計測値(例えばデジタルの電圧値)である。
【0071】
クロック発生器1712は、サンプリングクロックを発生させ、共通のサンプリングクロックを複数のAD変換器1710のそれぞれへ供給する。そして、複数のAD変換器1710のそれぞれは、クロック発生器1712から供給された共通のサンプリングクロックに応じてAD変換を行う。したがって、異なる位置に設けられた3軸のセンサ部300x〜zの出力をそれぞれAD変換する複数のAD変換器1710の全てが同期動作をする。これにより、複数のAD変換器1710は、異なる空間に設けられた3軸のセンサ部300x〜zの検出結果を同時にサンプリングすることができる。
【0072】
センサデータ処理部1700は、複数の磁気センサセル220のそれぞれに対応して設けられた複数の計測データ取得部1720、および、計測データ演算部1721を有する。計測データ演算部1721は、複数の較正演算部1730、複数のデータ出力部1740、基底ベクトル記憶部1750、信号空間分離部1760、指標算出部1770、指標出力部1780、および、故障判定部1790を有する。
【0073】
計測データ取得部1720は、測定対象磁場(例えば、心臓の電気活動により発生する心磁)を含む入力磁場に基づく計測データを取得する。計測データ取得部1720は、それぞれ対応する磁気センサセル220に接続された3つのAD変換器1710に接続され、磁気センサアレイ210を構成する複数の磁気センサセル220内のセンサ部300x〜zによって計測された計測データをそれぞれ取得する。具体的に、計測データ取得部1720は、AD変換器1710によってデジタルに変換された計測データV(Vx,Vy,Vz)を所定のタイミングTでラッチするフリップフロップ等を用いて構成されてよい。
【0074】
計測データ演算部1721は、計測データ取得部1720が取得した計測データを較正する。例えば、較正演算部1730は、計測データ取得部1720に接続され、計測データ取得部1720が取得した計測データを、較正パラメータを用いて較正する。較正演算部1730による計測データの較正の概要は以下のとおりである。位置[i,j,k]にある磁気センサセル220に入力される磁場をB(B
x,B
y,B
z)とし、センサ部300x、300y、300zによる3軸磁気センサの検出結果を計測データV(Vx,Vy,Vz)とする。この場合、3軸磁気センサの磁気センサ特性を3軸センサ磁気感度行列Sとすると、3軸磁気センサの検出結果Vは次式のように示すことができる。
【数4】
【0075】
ここで、Sxx、Syy、Szzは、それぞれセンサ部300x、300y、300zの主軸方向の感度を表し、Sxy、Sxz、Syx、Syz、Szx、Szyは他軸方向の感度を表している。また、Vos,x、Vos,y、Vos,zは、それぞれセンサ部300x、300y、300zの主軸方向のオフセットを表している。
【0076】
センサ部300のそれぞれが、検出すべき入力磁場の範囲において、当該入力磁場に対する検出結果が線形性を有するので、3軸センサ磁気感度行列Sの各要素は、入力磁場Bの大きさとは無関係な略一定の係数となる。また、センサ部300が他軸感度を有していても、当該センサ部300の検出結果が線形性を有していれば、3軸センサ磁気感度行列Sの各要素は、入力磁場Bの大きさとは無関係な略一定の係数となる。
【0077】
したがって、較正演算部1730は、3軸センサ磁気感度行列Sの逆行列S−1とオフセット(Vos,x,Vos,y,Vos,z)とを用いることで、次式のように、計測データV(Vx,Vy,Vz)を元の入力された磁場を示す磁場計測データB(B
x,B
y,B
z)に変換することができる。なお、この変換は、センサ部300x〜zが上述の磁気収束板を備えている場合も成立する。これは、磁気センサセル220がセンサ部300x〜zを利用した3軸磁気センサとして構成されるためであり、線形代数を利用した変換が可能となるからである。
【数5】
【0078】
較正演算部1730は、環境磁場計測データを用いて3軸センサ磁気感度行列Sの逆行列S−1およびオフセット(Vos,x,Vos,y,Vos,z)を算出し、計測データ取得部1720により取得された計測データVを、これらの較正パラメータを用いて磁場計測データBに変換してデータ出力部1740に供給する。
【0079】
以上のように、各センサ部300が線形性を有するので、較正演算部1730は、略一定の係数を用いて計測データVを磁場計測データBに変換することができる。すなわち、較正演算部1730が用いる略一定の係数は、環境磁場データを用いて一組の較正パラメータとして定めることができる。
【0080】
データ出力部1740は、較正演算部1730によって較正された磁場計測データBを信号空間分離部1760に供給する。
【0081】
基底ベクトル記憶部1750は、信号空間分離部1760が磁場計測データBを信号分離するために必要な基底ベクトルを予め記憶し、これを信号空間分離部1760へ供給する。
【0082】
信号空間分離部1760は、計測データVから生成した磁場計測データB、例えば、較正演算部1730が計測データVを較正して生成した磁場計測データBによって示される入力磁場の空間分布を、正規直交関数の空間分布を持つ磁場を磁気センサアレイ210で検出したときに磁気センサ520のそれぞれが出力する信号ベクトルを基底ベクトルとして信号分離する。この際、信号空間分離部1760は、信号分離に必要な基底ベクトルを、基底ベクトル記憶部1750から取得する。そして、信号空間分離部1760は、基底ベクトル記憶部1750から取得した基底ベクトルを用いて、磁場計測データBによって示される磁場の空間分布を、測定対象磁場である心磁と外乱磁場とに信号分離し、外乱磁場を抑制して心磁を算出し、これを出力する。
【0083】
指標算出部1770は、計測データ演算部1721、例えば、較正演算部1730における較正の精度を示す指標εを算出する。指標算出部1770は、信号空間分離部1760に接続され、信号空間分離部1760が信号分離した結果に基づいて、指標εを算出する。これについては後述する。
【0084】
指標出力部1780は、指標算出部1770に接続され、指標算出部1770が算出した指標εを出力する。この際、指標出力部1780は、例えば、指標εを表示部に表示させてもよいし、指標εをネットワークを介して他の装置に供給してもよい。また、指標出力部1780は、本図に示すように、指標εを故障判定部1790に供給する。
【0085】
故障判定部1790は、指標算出部1770が算出した指標εに基づいて、心磁計測装置10の故障を判定する。
【0086】
図18は、本実施形態に係る心磁計測装置10が磁場の空間分布を信号分離するフローを示す。ステップ1810において、基底ベクトル記憶部1750は、基底ベクトルを記憶する。一例として、基底ベクトル記憶部1750は、心磁の計測前に、球面調和関数の空間分布を持つ磁場を磁気センサアレイ210で検出したときに複数の磁気センサ520のそれぞれが出力する信号ベクトルを基底ベクトルとして記憶する。すなわち、基底ベクトル記憶部1750は、空間内の予め定められた点を座標原点に指定した時に球面調和関数を空間サンプリングして得られる磁場信号ベクトルを基底ベクトルとして記憶する。ここで、球面調和関数とは、n次元ラプラス方程式の解となる斉次多項式を単位球面に制限することで得られる関数であり、球面上での正規直交性を有する。なお、本図においては、一例として、基底ベクトル記憶部1750が基底ベクトルを記憶するステップ1810を、心磁計測装置10による磁場の空間分布を信号分離するフローにおける最初のステップとした場合について示す。しかしながら、基底ベクトル記憶部1750は、心磁計測装置10による磁場の空間分布を信号分離するフローの前に、基底ベクトルを事前に記憶しておいてもよい。また、基底ベクトル記憶部1750は、シミュレーション結果等により予め決められている信号ベクトルを基底ベクトルとして記憶してもよい。
【0087】
次に、ステップ1820において、信号空間分離部1760は、磁気センサアレイ210によって計測され、較正演算部1730によって較正された磁場計測データBを、データ出力部1740から取得する。
【0088】
また、ステップ1830において、信号空間分離部1760は、ステップ1810において基底ベクトル記憶部1750が基底ベクトルとして記憶した信号ベクトルを、基底ベクトル記憶部1750から取得する。なお、本フローにおいて、ステップ1820とステップ1830とはどちらが先に行われてもよい。
【0089】
ステップ1840において、信号空間分離部1760は、ステップ1820において取得した磁場計測データBによって示される磁場の空間分布を、ステップ1830において取得した信号ベクトルを基底ベクトルとして利用して級数展開する。そして、信号空間分離部1760は、級数展開によって得られたベクトルから、磁場の空間分布を測定対象磁場と外乱磁場とに信号分離する。なお、正規直交関数は球面調和関数であってよい。また、信号空間分離部1760は、信号分離するにあたって、基底ベクトルの係数を最小2乗法により計算する。
【0090】
そして、ステップ1850において、信号空間分離部1760は、ステップ1840において信号分離した結果に基づいて、外乱磁場を抑制して測定対象磁場である心磁だけを算出して出力し、処理を終了する。以下、これについて詳細に説明する。
【0091】
静磁場B(r)は、ラプラス方程式Δ・V(r)=0を満たすポテンシャルV(r)を用いて、次式のように、ポテンシャルV(r)の空間勾配(gradient)として求められる。ここで、rは座標原点からの位置を表す位置ベクトルであり、Δはラプラシアンであり、μは透磁率であり、∇はベクトル微分演算を表す演算子である。
【数6】
【0092】
そして、ラプラス方程式の解は、一般に、正規直交関数系である球面調和関数Y
l,m(θ,φ)を使った級数展開の形での解を持つため、ポテンシャルV(r)は次式で表すことができる。ここで、|r|は位置ベクトルrの絶対値(座標原点からの距離)であり、θおよびφは球座標における2つの偏角であり、lは方位量子数であり、mは磁気量子数であり、αおよびβは多極モーメントであり、LinおよびLoutはそれぞれ被験者から見て磁気センサアレイ210の手前の空間と奥の空間のそれぞれについての級数の数である。方位量子数lは正の整数をとり、磁気量子数mは−lから+lまでの整数をとる。すなわち、例えばlが1のとき、mは−1、0、および1であり、例えばlが2のとき、mは−2、−1、0、1、および2である。なお、磁場においては単磁極が存在しないことから、(数7)において方位量子数lは、0からではなく1から始まっている。(数7)における第1項は、座標原点からの距離に反比例する項であり、被験者から見て磁気センサアレイ210の手前の空間に存在するポテンシャルを示している。また、(数7)における第2項は、座標原点からの距離に比例する項であり、被験者から見て磁気センサアレイ210の奥の空間に存在するポテンシャルを示している。
【数7】
【0093】
したがって、(数6)および(数7)によれば、静磁場B(r)は、次式で表すことができる。ここで、(数8)における第1項は、被験者から見て磁気センサアレイ210の手前の空間に存在する磁場源、すなわち、心臓の電気活動が作る心磁(測定対象磁場)を示している。また、(数8)における第2項は、被験者から見て磁気センサアレイ210の奥の空間に存在する磁場源が作る外乱磁場を示している。
【数8】
【0094】
球面調和関数を使った級数展開の形でラプラス方程式の解を表した場合、その一般解は無限級数となるが、生体磁場を計測するのに十分なSNR(信号ノイズ比、すなわち、外乱磁場及びセンサノイズに対する測定対象磁場信号の比)が得られればよく、実際には10項程度の級数で表せば十分であると言われている。また、脳磁計における信号空間分離の級数については、Lin=8、Lout=3程度でよいと言われている。したがって、本実施形態においても、Lin=8、Lout=3の場合を一例として説明する。しかしながら、LinおよびLoutの値は、これに限定されるものではなく、外乱磁場を十分抑制し測定対象磁場だけを算出するのに十分な、いかなる数値であってもよい。
【0095】
ここで、各磁気センサセル220におけるセンサ部300x、y、およびzの感磁軸方向と磁気感度を表すベクトルを、それぞれ、nx、ny、およびnzとし、添字tを転置行列として、a
l,mおよびb
l,mを次式のように定義する。すなわち、a
l,mおよびb
l,mを、センサ部300x、y、およびzの感磁軸方向と磁気感度を表す各ベクトル)nx、ny、nzと、三次元のベクトル信号である球面調和関数との内積を成分として有するベクトルとして定義する。これは、各磁気センサセル220において、球面調和関数を直交座標系でサンプリングすることを意味している。なお、このa
l,mおよびb
l,mは磁気センサセル220の個数を3倍した数の次元を持つベクトルとなる。また、各センサ部300の感磁軸方向と磁気感度を表す各ベクトルnx、ny、nzは、先述した主軸方向の感度、および、他軸方向の感度と対応したベクトルでよい。nxは、Sxx、Sxy、Sxzに対応してよい。nyは、Syx、Syy、Syzに対応してよい。nzは、Szx、Szy、Szzに対応してよい。例えば、
図29に示す変形例のように、計測データ演算部1721は、較正演算部1730に代えて、基底ベクトル較正部1771を有してもよい。このような構成において、基底ベクトル較正部1771は、指標算出部1770によって算出された指標εに基づいて、センサ部300x、y、およびzの主軸方向の感度と他軸方向の感度補正を含めてa
l,mおよびb
l,mを計算することによって基底ベクトルを較正し、基底ベクトル記憶部1750は、較正された基底ベクトルであるa
l,mおよびb
l,mを記憶する。本変形例に係る心磁計測装置10の信号空間分離部1760は、動作時に、基底ベクトル記憶部1750に記憶されている、較正された基底ベクトルであるa
l,mおよびb
l,mを用いて、上述したように、磁場計測データBによって示される磁場の空間分布を、測定対象磁場である心磁と外乱磁場とに信号分離し、外乱磁場を抑制して心磁を算出し、これを出力する。このようにして算出された心磁は、各磁気センサセル220の磁気感度(主軸感度、他軸感度)の補正が行われている。
【数9】
【0096】
そうすると、ある時刻にそれぞれの磁気センサセル220において出力されるセンサ出力ベクトルΦは、以下の式で表すことができる。
【数10】
【0097】
さらに、Sin、Sout、Xin、およびXoutをそれぞれ次のように定義する。すなわち、Sinを、l=1からl=Linまで、各lにおいてm=−lからlまでの整数をとった時の各ベクトルaを順に列に並べた、計Lin・(Lin+2)列のベクトルと定義する。また、Soutを、l=1からL=Loutまで、各lにおいてm=−lからlまでの整数をとった時の各ベクトルbを順に列に並べた、計Lout・(Lout+2)列のベクトルと定義する。また、Xinを、l=1からl=Linまで、各lにおいてm=−lからlまでの整数をとった時の各多極モーメントαを順に列に並べたベクトルを転置した、計Lin・(Lin+2)行のベクトルと定義する。また、Xoutを、l=1からl=Linまで、各lにおいてm=−1からlまでの整数をとった時の各多極モーメントβを順に列に並べたベクトルを転置した、計Lout・(Lout+2)行のベクトルと定義する。
【数11】
【0098】
そうすると、センサ出力ベクトルΦは、次式に示すように、基底ベクトル行列Sと縦ベクトルXの内積の形で表すことができる。ここで、基底ベクトル行列Sは、基底ベクトルを示し、例えば、ステップ1830において、信号空間分離部1760が基底ベクトル記憶部1750から取得したものである。また、縦ベクトルXは、基底ベクトルに係る係数を示す。
【数12】
【0099】
本実施形態に係る信号空間分離部1760は、ステップ1840において、この(数12)で得られたセンサ出力ベクトルΦのモデル式に基づいて、次式を用いてΦ=S・Xを最小2乗近似で満たす縦ベクトル^X(ここで、「^X」は、(数13)における左辺を示し、Xのハット(推定値)を意味するものとする。)を決定する。これにより、信号空間分離部1760は、ステップ1840において、磁場の空間分布を解くことができる。この際、信号空間分離部1760は、外乱磁場の大きさが予め定められた範囲を超える場合に、測定対象磁場である心磁を高精度に計測できない旨の警告を出してもよい。これにより、心磁計測装置10は、装置が故障している場合や、測定対象磁場を高精度に計測することができない程大きな外乱磁場が存在している場合等の状況において、心磁を計測してしまうことを事前に防止することができる。この場合に、信号空間分離部1760は、例えば、^Xout・Soutの各成分のいずれかの大きさが予め定められた閾値を超える場合に外乱磁場の大きさが予め定められた範囲を超えると判断してもよいし、^Xout・Soutの各成分の大きさの和や平均が予め定められた閾値を超える場合に外乱磁場の大きさが予め定められた範囲を超えると判断してもよい。
【数13】
【0100】
そして、ステップ1850において、信号空間分離部1760は、ステップ1840において決定した縦ベクトルを用いて、^Xout・Soutを減少させて外乱磁場成分、すなわち、(数8)における第2項の成分を抑制した結果を出力する。信号空間分離部1760は、^Xin・Sinだけを結果として出力することで、外乱磁場成分を抑制して、測定対象磁場である心磁成分、すなわち、(数8)における第1項の成分だけを出力してもよい。
【0101】
これにより、本実施形態に係る心磁計測装置10によれば、複数の磁気センサセル220を有し、三次元空間内の複数の箇所において3軸方向の入力磁場を検出可能な磁気センサアレイ210を用いて計測された磁場計測データBによって示される磁場の空間分布を、測定対象磁場である心磁と外乱磁場とに信号分離することができる。また、心磁計測装置10は、外乱磁場成分を抑制して心磁成分だけを出力するので、心磁をより高精度に計測することができる。また、複数のセンサ部300がそれぞれ磁気収束板を有するので、センサ部300の磁気感度を高めるとともに、空間サンプリング点を明確化することができ、信号空間分離技術との親和性をより高めることができる。さらに、心磁計測装置10が較正演算部1730を有する場合には、高精度な較正(主軸感度ミスマッチ、他軸感度、およびオフセット等)を実現でき、複数のセンサ部300のキャリブレーション誤差を、信号空間分離段階で処理するのではなく、その前段で低減させることができるので、より高精度に測定対象磁場成分を取り出すことができる。
【0102】
図19は、本実施形態に係る心磁計測装置10が、指標εを算出して指標εに基づいた制御を行うフローを示す。ステップ1910において、較正演算部1730は、上述の(数5)に基づいて、計測データVを較正して磁場計測データBを生成する。そして、較正演算部1730は、磁場計測データBをデータ出力部1740を介して信号空間分離部1760へ供給する。
【0103】
ステップ1920において、信号空間分離部1760は、磁場計測データBによって示される入力磁場の空間分布を、
図18のフローに従って、信号分離する。そして、信号空間分離部1760は、信号分離した結果を指標算出部1770へ供給する。この際、信号空間分離部1760は、信号分離した結果として、例えば、センサ出力ベクトルΦ、基底ベクトル行列S、および、縦ベクトル^Xを指標算出部1770へ供給してよい。
【0104】
ステップ1930において、指標算出部1770は、信号空間分離部1760が信号分離した結果に基づいて、計測データ演算部1721、例えば、較正演算部1730における較正の精度を示す指標εを算出する。指標算出部1770は、例えば、次式に示すように、センサ出力ベクトルΦから、基底ベクトル行列Sと縦ベクトル^Xとの内積を減算して指標εを算出してよい。すなわち、指標算出部1770は、ある時刻にそれぞれの磁気センサセル220において出力されるセンサ出力ベクトルΦを、最小2乗法を用いて基底ベクトル行列S=[Sin,Sout]によって張られる部分空間へマッピングした際の誤差を、ベクトルの成分ごとに算出し、これを指標εとする。そして、指標算出部1770は、算出した指標εを指標出力部1780へ供給する。
【数14】
【0105】
次に、指標出力部1780は、指標εを表示部に表示させる。そして、指標出力部1780は、指標εを故障判定部1790に供給する。この際、指標出力部1780はさらに、指標εをネットワークを介して他の装置に供給してもよい。
【0106】
ステップ1940において、故障判定部1790は、指標εが予め定められた基準の範囲内であるか否か判定する。故障判定部1790は、例えば、次式に示すように、指標の2乗が、予め定められた閾値E_Thの2乗未満であるか否か判定する。すなわち、故障判定部1790は、指標εのベクトルの大きさが予め定められた閾値E_th未満であるか否か判定する。
【数15】
【0107】
ここで、指標εは、磁気センサアレイ210が有する複数の磁気センサセル220内に含まれるセンサ部300の数に対応するベクトルの成分からなる。故障判定部1790は、例えば、複数の成分ごとの指標を算出し、それらの平均が予め定められた基準の範囲内であるか否か判定してよい。これに代えて、故障判定部1790は、算出した複数の成分ごとの指標のうち、大きさが最大となる成分の指標、大きさが最小となる成分の指標、および、複数の成分の中央値のいずれかが予め定められた基準の範囲内であるか否か判定してもよい。
【0108】
そして、故障判定部1790は、指標εが予め定められた基準の範囲内であると判定した場合、較正演算部1730において精度よく較正されたと判断して処理を終了する。すなわち、故障判定部1790は、較正演算部1730において精度よく較正されているので、心磁計測装置10の計測結果が、信頼性が高いものであると判断し、さらなる処理を要求しない。
【0109】
一方、ステップ1940において、指標εが予め定められた基準の範囲内でないと判定した場合、故障判定部1790は、ステップ1950において、較正演算部1730における較正回数が予め定められた回数以内であるか否か判定する。
【0110】
そして、較正回数が予め定められた回数以内でなかったと判定された場合、ステップ1960において、故障判定部1960は、心磁計測装置10に故障が生じているものと判定して処理を終了する。この際、故障判定部1960は、心磁計測装置10に故障が生じている旨を表示部に表示、または、音で報知してもよい。また、故障判定部1960は、ステップ1940において算出したベクトルの成分ごとの指標から、心磁計測装置10の故障箇所を推定して、それを出力してもよい。この際、故障判定部1960は、予め定められた基準の範囲内にないと判定された指標に対応する磁気センサセル220やセンサ部300を特定する情報を出力してよい。また、故障判定部1960は、例えば、ベクトルの成分ごとの指標を、対応する磁気センサセル220やセンサ部300にマッピングした指標マップを出力してもよい。
【0111】
一方、ステップ1950において、較正回数が予め定められた回数以内であると判定された場合、故障判定部は、較正演算部1730に対して、計測データを再較正する旨を指示する。そして、ステップ1970において、較正演算部1730は、較正パラメータを変更して、処理をステップ1910に戻し、変更された較正パラメータを用いて再較正を行い、処理を継続する。この際、較正演算部1730は、例えば、環境磁場の計測を再び行って、センサ部300の主軸感度、他軸感度、および、オフセットを再調整して較正パラメータを変更してもよい。
【0112】
なお、
図19のフローは、被験者が心磁計測装置10の計測位置にいる場合に行われてもよいし、被験者が心磁計測装置10の計測位置に来る前に事前に行われてもよい。この場合、故障判定部は、被験者がいる場合といない場合とで、故障判定に用いる閾値E_Thを異なる値に設定してもよい。
【0113】
このように、本実施形態に係る心磁計測装置10は、計測データ演算部1721、例えば、較正演算部1730における較正の精度を示す指標εを算出し、指標εに基づいた制御を行う。これにより、本実施形態に係る心磁計測装置10によれば、較正演算部1730において精度よく較正されたかどうかを把握することができる。また、本実施形態に係る心磁計測装置10によれば、指標εを表示することで、心磁計測装置10の計測結果の信頼性をユーザに知らせることができる。また、本実施形態に係る心磁計測装置10によれば、指標εに基づいて心磁計測装置10の故障を判定し、故障箇所を推定することができる。また、本実施形態に係る心磁計測装置によれば、計測データ演算部1721、例えば、較正演算部1730が、指標算出部1770が算出した指標εに基づいて、計測データVを再較正するので、精度よく較正された状態で心磁を計測することができる。
【0114】
図20は、本実施形態の変形例に係る磁気センサアレイ210、センサデータ収集部230、およびセンサデータ処理部1700の構成を示す。
図20においては、
図17と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。本図において、計測データ演算部1721は、基底ベクトル記憶部1750および信号空間分離部1760に代えて、勾配磁場演算部2000を有する。また、指標算出部1770は、信号空間分離部1760に代えて、データ出力部1740に接続されている。
【0115】
勾配磁場演算部2000は、データ出力部1740から供給された磁場計測データBを用いて勾配磁場を算出する。本変形例において、勾配磁場演算部2000は、3軸方向の全ての磁場に対して三次元の全ての方向についての勾配磁場を算出する。これによって、より詳細な勾配磁場分布を得ることができる。これに代えて、勾配磁場演算部2000は、3軸方向の一部の磁場に対してのみ勾配磁場を算出してもよい。また、勾配磁場演算部2000は、三次元方向の一部の方向についてのみ勾配磁場を算出してもよい。これにより、必要な勾配磁場成分のみを算出することができ、勾配磁場演算部2000における演算処理の負荷を低減できる。
【0116】
また、本変形例においては、検出する磁場の3軸方向と磁気センサセル220を配列する三次元方向とが同一方向である。これにより、後に示す勾配磁場の分布図において勾配磁場の各成分の把握が容易となる。これに代えて、検出する磁場の3軸方向と磁気センサセル220を配列する三次元方向とが異なっていてもよい。両者が異なる場合、磁気センサセル220内におけるセンサ部300の配置や、磁気センサセル220の配列方向に制約を受けることがなく、磁気センサアレイ210の設計の自由度を増すことができる。
【0117】
勾配磁場演算部2000は、複数の磁気センサセル220のうちの隣接する磁気センサセル220間で計測された磁場計測データBを用いて隣接する磁気センサセル220間の磁場の差分を算出することで、すなわち磁場計測データBの差分を算出することで、勾配磁場を算出する。勾配磁場演算部2000は、複数の隣接する磁気センサセル220間で計測された磁場計測データBを用いて2次以上の勾配磁場を算出してもよい。
【0118】
図21は、本変形例に係る心磁計測装置10がN次の勾配磁場を算出するフローを示す。ステップ2110において、勾配磁場演算部2000は、nに1を代入する。ステップ2120において、勾配磁場演算部2000は、各位置における磁気センサセル220により計測された磁場計測データBを取得する。ここで、位置[i,j,k]の磁気センサセル220により計測された磁場計測データを次の(数16)式のように表記する。
【数16】
【0119】
ステップ2130において、勾配磁場演算部2000は、磁気センサアレイ210に含まれる隣接する各磁気センサセル220間の磁場計測データBを用いて磁場の1次の差分を算出することで、1次の勾配磁場を算出する。勾配磁場演算部2000は、X軸方向についての1次の勾配磁場を、磁気センサセル220[i+1,j,k]と磁気センサセル220[i,j,k]との間で計測された磁場計測データを用いて次式により算出する。
【数17】
【0120】
すなわち、勾配磁場演算部2000は、磁気センサセル220[i+1,j,k]におけるX軸の磁場計測データB
xi+1,j,kから磁気センサセル220[i,j,k]におけるX軸の磁場計測データB
xi,j,kを減算して磁気センサセル220[i+1,j,k]と磁気センサセル220[i,j,k]との間の磁場計測データのX軸成分の差分を算出し、これを磁気センサセル220[i+1,j,k]と磁気センサセル220[i,j,k]との間の距離Δxで除すことで、位置[i,j,k]における磁場計測データのX軸成分に対するX軸方向についての1次の勾配磁場を算出する。
【0121】
同様に、勾配磁場演算部2000は、磁気センサセル220[i+1,j,k]におけるY軸の磁場計測データB
yi+1,j,kから磁気センサセル220[i,j,k]におけるY軸の磁場計測データB
yi,j,kを減算して磁気センサセル220[i+1,j,k]と磁気センサセル220[i,j,k]との間の磁場計測データのY軸成分の差分を算出し、これを磁気センサセル220[i+1,j,k]と磁気センサセル220[i,j,k]との間の距離Δxで除すことで、位置[i,j,k]における磁場計測データのY軸成分に対するX軸方向についての1次の勾配磁場を算出する。
【0122】
同様に、勾配磁場演算部2000は、磁気センサセル220[i+1,j,k]におけるZ軸の磁場計測データB
zi+1,j,kから磁気センサセル220[i,j,k]におけるZ軸の磁場計測データB
zi,j,kを減算して磁気センサセル220[i+1,j,k]と磁気センサセル220[i,j,k]との間の磁場計測データのZ軸成分の差分を算出し、これを磁気センサセル220[i+1,j,k]と磁気センサセル220[i,j,k]との間の距離Δxで除すことで、位置[i,j,k]における磁場計測データのZ軸成分に対するX軸方向についての1次の勾配磁場を算出する。
【0123】
また、勾配磁場演算部2000は、X軸方向についての1次の勾配磁場と同様に、Y軸方向についての1次の勾配磁場を、磁気センサセル220[i,j+1,k]と磁気センサセル220[i,j,k]との間で計測された磁場計測データを用いて次式により算出する。
【数18】
【0124】
また、勾配磁場演算部2000は、X軸方向についての1次の勾配磁場と同様に、Z軸方向についての1次の勾配磁場を、磁気センサセル220[i,j,k+1]と磁気センサセル220[i,j,k]との間で計測された磁場計測データを用いて次式により算出する。
【数19】
【0125】
勾配磁場演算部2000は、(数17)〜(数19)式の演算により、3軸の磁場計測データに対して三次元方向について、以下の1次の勾配磁場を得ることができる。なお、勾配磁場演算部2000は、各磁気センサセル220間の距離Δx=Δy=Δzを1単位として1次の勾配磁場を算出してもよい。この場合、勾配磁場演算部2000は、磁場計測データの差分を1次の勾配磁場としてみなすことができる。
【数20】
【0126】
ステップ2140において、勾配磁場演算部2000は、nがNに等しいか否か判定する。nがNに等しい場合、勾配磁場演算部2000は、処理を終了する。ステップ2140において、nがNに等しくない場合、勾配磁場演算部2000は、処理をステップ2150へ進め、nを1インクリメントする。そして、勾配磁場演算部2000は、処理をステップ2160へ進める。
【0127】
ステップ2160において、勾配磁場演算部2000は、磁場のn−1次の勾配磁場を用いてn次の勾配磁場を算出する。一例として、勾配磁場演算部2000は、2次の勾配磁場の算出前のステップ2130において、(数17)式に加えて、X軸方向についての1次の勾配磁場として磁気センサセル220[i+2,j,k]と磁気センサセル220[i+1,j,k]との間で計測された磁場計測データを用いて、位置[i+1,j,k]における1次の勾配磁場を次式により算出済みである。
【数21】
【0128】
そこで、2次の勾配磁場を算出する場合のステップ2160において、勾配磁場演算部2000は、(数17)式および(数21)式で算出した1次の勾配磁場を用いて次式によりX軸方向についての2次の勾配磁場を算出する。
【数22】
【0129】
すなわち、勾配磁場演算部2000は、位置[i+1,j,k]におけるX軸方向についての1次の勾配磁場から位置[i,j,k]におけるX軸方向についての1次の勾配磁場を減算した値を、X軸方向における隣接する磁気センサセル220間の距離ΔXで除すことで、X軸方向についての2次の勾配磁場を算出する。
【0130】
勾配磁場演算部2000は、Y軸方向、Z軸方向についてもX軸方向と同様の演算により、2次の勾配磁場を算出することができる。次に、勾配磁場演算部2000は、処理をステップ2140へ戻し、以下処理を繰り返す。これにより、勾配磁場演算部2000は、隣接する磁気センサセル220間で計測された磁場計測データを用いて3軸の磁場計測データに対して3次元方向についてのn次の勾配磁場を取得することができる。
【0131】
ここで、N=1の場合、勾配磁場演算部2000は、Δx=Δy=Δzが十分小さいとして、ステップ2130で得られた(数20)式で与えられる1次の勾配磁場を以下のように表すことができる。
【数23】
【0132】
N=2の場合、勾配磁場演算部2000は、1次の勾配磁場と本図のフローにより以下の2次の勾配磁場を取得する。
【数24】
【0133】
Nが2より大きい場合、勾配磁場演算部2000は、1次および2次の勾配磁場と本図のフローにより以下のn次の勾配磁場を取得する。
【数25】
【0134】
このように、本変形例の心磁計測装置10によれば、(数23)、(数24)、(数25)式に示されるように、3軸の磁場計測データに対して三次元方向についての勾配磁場をもれなく得ることができる。また、本変形例の心磁計測装置10によれば、隣接する磁気センサセル220間の磁場からの演算となるので、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向のみの2次以上の勾配磁場だけでなく、∂
2B/∂x∂y、∂
2B/∂y∂z、∂
2B/∂z∂xのような、異なる軸方向に偏微分した形式に相当する勾配磁場成分も得られる。
【0135】
図22は、本変形例に係る心磁計測装置10により得られる1次の勾配磁場分布の一例を示す。
図23は、本変形例に係る心磁計測装置10により得られる2次の勾配磁場分布の一例を示す。これらの図は、(X,Y)=(0,−5cm)の点にX=5mm、Y=0.5mm、Z=0.5mmの磁石をN極がX軸の正方向を向くように配置し、(X,Y)=(0,5cm)の点にX=5mm、Y=0.5mm、Z=0.5mmの磁石をN極がX軸の負方向を向くように配置し、30cm×30cmの平面を1cm間隔の格子点で、磁石の置かれた面から高さZ=1cmで心磁計測装置10によって計測した場合の勾配磁場分布を示す。これらの図において、各座標におけるドット密度は任意単位における勾配磁場の大きさを示しており、ドット密度が小さい方が勾配磁場が大きいことを表している。
図22は、この条件によって得られた1次の勾配磁場分布のうちの∂B
x/∂x成分を示した図であり、
図23は、この条件によって得られた2次の勾配磁場分布のうちの∂
2B
x/∂x
2成分を示した図である。
【0136】
図22および
図23に示すように、本変形例に係る心磁計測装置10によれば、算出した勾配磁場を可視化した勾配磁場分布を得ることができる。なお、本図においては、1次の勾配磁場分布については∂B
x/∂x成分、2次の勾配磁場分布については∂
2B
x/∂x
2成分のみを一例として示したが、心磁計測装置10は、他の勾配成分や3次以上の勾配磁場についても同様に勾配磁場分布を得ることができる。
【0137】
図24は、本変形例に係る心磁計測装置10が、指標εを算出して指標εに基づいた制御を行うフローを示す。
図24においては、
図21と同じステップに対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。本図においては、ステップ1920およびステップ1930に代えて、ステップ2400を有する。
【0138】
ステップ2400において、指標算出部1770は、計測データから生成した複数の磁気センサセル220における磁場計測データの統計、例えば、較正演算部1730が計測データを較正して生成した複数の磁気センサセル220における磁場計測データの統計に基づいて、指標εを算出する。例えば、指標算出部1770は、次式により、複数の磁気センサセル220における磁場計測データの平均値を計算する。すなわち、指標算出部1770は、複数の磁気センサセル220におけるそれぞれの磁場計測データの総和を、磁気センサセル220の個数で除算することで、磁場計測データの平均値を計算する。
【数26】
【0139】
そして、指標算出部1770は、次式により、複数の磁気センサセル220のそれぞれにおける指標εを算出する。すなわち、指標算出部1770は、磁気センサセル220のそれぞれにおける磁場計測データから、(数26)により計算した磁場計測データの平均値を減算することで、複数の磁気センサセル220のそれぞれにおける指標εを算出する。
【数27】
【0140】
なお、上述の説明では、磁場計測データの平均値からの差に基づいて指標εを算出する場合について説明したが、これに限定されるものではない。指標算出部1770は、例えば、磁気センサセル220のそれぞれにおける磁場計測データから、平均値に代えて、中央値を減算することで、複数の磁気センサセル220のそれぞれにおける指標εを算出してもよい。一般に、平均値は外れ値の影響を受けやすい。したがって、指標算出部1770は、平均値に代えて中央値を用いることで、外れ値の影響を低減した指標εを算出してもよい。このように、指標算出部1770は、複数の磁気センサセル220における磁場計測データの、様々な統計に基づいて、指標εを算出してよい。
【0141】
このように、本変形例に係る心磁計測装置10は、磁場計測データに基づいて指標εを算出するので、
図18に示すフローのような複雑な演算を要する信号分離処理を行わずに、指標εを算出することができる。
【0142】
図25は、本実施形態の変形例に係る心磁計測装置10が曲面状に配置された磁気センサアレイ210を用いて心磁を計測する例を示す。本変形例において、磁気センサアレイ210は、X方向、Y方向およびZ方向のそれぞれに複数の磁気センサセル220(例えば、X方向に12個、Y方向に8個、およびZ方向に2個の計192個の磁気センサセル220)が曲面状に配置されている。各磁気センサセル220は、三次元格子空間における曲面形状に含まれる格子点にそれぞれ配置されている。なお、ここで、格子点とは、X方向、Y方向およびZ方向にそれぞれ予め定められた間隔で等間隔に設けられた格子状の点である。一例として、各磁気センサセル220は、X方向、Y方向およびZ方向のいずれか一の方向から見たときに、一の方向に直交する方向に凸を有する曲面に沿うように配置されている。本図においては、各磁気センサセル220が、Y方向から見たときに、Z軸のプラス方向に凸を有する曲面に沿うように配置されている例を示す。磁気センサアレイ210は、曲面状の被験者の胸部周りに沿って巻かれる。すなわち、磁気センサアレイ210は、被験者の胸部周りの曲率と略同等の曲率を有する曲面状に配置される。したがって、磁気センサアレイ210は、被験者の正面中央部がZ軸のプラス方向に突出するような曲面となり、ここでは、このような曲面を凸を有する曲面と表現している。この際、磁気センサアレイ210は、例えば、各磁気センサセル220の各頂点が、Z軸のプラス方向に凸を有する予め定められた曲面を超えない範囲で、できる限りZ軸のマイナス方向に配置されるように、各磁気センサセル220を三次元格子空間における格子点にそれぞれ配置することで、Z軸のプラス方向に凸を有する曲面形状を形成してよい。
【0143】
そして、本変形例において、心磁計測装置10は、被験者の胸部が曲面の中心側に位置するように、すなわち、測定対象磁場源である心臓が曲面の中心側に位置するように磁気センサアレイ210を配置して心磁を計測する。これにより、心磁計測装置10は、測定対象磁場源である心臓に近い位置で計測した磁場計測データBを用いて信号空間分離することで、高精度に測定対象磁場と外乱磁場とを分離することができる。同様の理由により、心磁計測装置10は、高精度に磁場の勾配分布を取得することができる。なお、この際、磁気センサアレイ210は、曲面の曲率が被験者の胸部周りの曲率と略同等であると、測定対象磁場源である心臓により近い位置で磁場を計測できるため、好ましい。
【0144】
図26は、本実施形態の変形例に係る心磁計測装置10が閉曲面状に配置された磁気センサアレイ210を用いて心磁を計測する例を示す。本変形例において、磁気センサアレイ210は、X方向、Y方向およびZ方向のそれぞれに複数の磁気センサセル220(例えば、X方向に16個、Y方向に8個、およびZ方向に4個の計512個の磁気センサセル220)が閉曲面状に配置されている。各磁気センサセル220は、三次元格子空間における閉曲面形状に含まれる格子点にそれぞれ配置されている。本変形例においても、磁気センサアレイ210は、
図25と同様、X方向、Y方向およびZ方向のいずれか一の方向から見たときに、一の方向に直交する方向に凸を有する曲面に沿うように配置された複数の磁気センサセル220を有する。本変形例において、磁気センサアレイ210は、さらに、当該一の方向に直交する方向に凹を有する曲面に沿うように配置された複数の磁気センサセル220を有する。そして、磁気センサアレイ210は、凸を有する曲面形状と凹を有する曲面形状とを合わせて閉曲面形状を形成する。一例として、本図においては、磁気センサアレイ210が、Y方向から見たときに、Z軸のプラス方向に凸を有する曲面に沿うように配置された複数の磁気センサセル220と、Z軸のプラス方向に凹を有する曲面に沿うように配置された複数の磁気センサセル220とを有し、Z軸のプラス方向に凸を有する曲面形状と凹を有する曲面形状とを合わせて閉曲面形状を形成する例を示す。
【0145】
そして、本変形例において、心磁計測装置10は、被験者の胸部を閉曲面で囲むように、すなわち、測定対象磁場源である心臓を閉曲面で囲むように磁気センサアレイ210を配置して磁場を計測する。これにより、心磁計測装置10は、心臓の電気活動により被験者の前方に生成される心磁に加えて、被験者の後方に生成される心磁を計測し、前方および後方で計測した磁場計測データBを用いて信号空間分離することで、より高精度に測定対象磁場と外乱磁場とを分離することができる。同様の理由により、心磁計測装置10は、高精度に磁場の勾配分布を取得することができる。なお、本変形例においても、
図25と同様、磁気センサアレイ210は、曲面の曲率が被験者の胸部周りの曲率と略同等であると、磁場源である心臓により近い位置で磁場を計測できるため、好ましい。
【0146】
また、これまでに述べた心磁計測装置10は、ある時刻にそれぞれの磁気センサセル220において出力されるセンサ出力ベクトルΦを用いて信号源を推定することができる。一般に、生体という体積導体内に能動電流が発生すると、これから流出し、またこれに戻る体積電流が導体内に広く分布する。心臓の任意の位置r1における全電流密度をJ(r1)、透磁率をμとすると、計測位置rにおける磁束密度B(r)は、ビオ・サバールの法則を用いて次式のように表すことができる。
【数28】
【0147】
ここで、(数28)に基づけば、センサ出力ベクトルΦは、次式に示すように、係数行列Lと電流密度ベクトルJとの内積として表すことができる。
【数29】
【0148】
心磁計測装置10は、センサ出力ベクトルΦの値、および、その値が計測された位置を取得することができるので、次式に示すように、当該センサ出力ベクトルΦと係数行列Lの逆行列との内積により、電流密度ベクトルJを算出することができる。これにより、本実施形態に係る心磁計測装置10によれば、センサ出力ベクトルΦに基づいて電流密度ベクトルJを算出するので、計測された磁場からその磁場を発生させた信号源、すなわち、心臓の電気活動によって生成された電流を推定することができる。
【数30】
【0149】
図27は、本実施形態に係る磁気センサアレイ210の変形例を示す。
図27においては、
図16と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。本図において、磁気センサアレイ210が有する複数の磁気センサセル220のそれぞれは、角部に空隙(ギャップ)を設けることなく、センサ部300x、300y、および300zが設けられている。このように、複数の磁気センサセル220のそれぞれは、センサ部300をこのように配置しても、各センサ部300x、300y、および300zが、X軸、Y軸、およびZ軸の三次元方向それぞれから見て互いに重ならないように配置することができる。このような配置とすることにより、複数のセンサ部300x、300y、および300zを磁気センサセル220内に分散して配置することができ、1つの角部に複数のセンサ部300x、300y、および300zが集中して配置されることを防ぐことができる。本実施形態に係る心磁計測装置10は、このようにセンサ部300が配置された磁気センサアレイ210を用いて計測データを取得してもよい。
【0150】
本発明の様々な実施形態は、フローチャートおよびブロック図を参照して記載されてよく、ここにおいてブロックは、(1)操作が実行されるプロセスの段階または(2)操作を実行する役割を持つ装置のセクションを表わしてよい。特定の段階およびセクションが、専用回路、コンピュータ可読媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプログラマブル回路、および/またはコンピュータ可読媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプロセッサによって実装されてよい。専用回路は、デジタルおよび/またはアナログハードウェア回路を含んでよく、集積回路(IC)および/またはディスクリート回路を含んでよい。プログラマブル回路は、論理AND、論理OR、論理XOR、論理NAND、論理NOR、および他の論理操作、フリップフロップ、レジスタ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラマブルロジックアレイ(PLA)等のようなメモリ要素等を含む、再構成可能なハードウェア回路を含んでよい。
【0151】
コンピュータ可読媒体は、適切なデバイスによって実行される命令を格納可能な任意の有形なデバイスを含んでよく、その結果、そこに格納される命令を有するコンピュータ可読媒体は、フローチャートまたはブロック図で指定された操作を実行するための手段を作成すべく実行され得る命令を含む、製品を備えることになる。コンピュータ可読媒体の例としては、電子記憶媒体、磁気記憶媒体、光記憶媒体、電磁記憶媒体、半導体記憶媒体等が含まれてよい。コンピュータ可読媒体のより具体的な例としては、フロッピー(登録商標)ディスク、ディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EPROMまたはフラッシュメモリ)、電気的消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM)、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)、コンパクトディスクリードオンリメモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)、ブルーレイ(RTM)ディスク、メモリスティック、集積回路カード等が含まれてよい。
【0152】
コンピュータ可読命令は、アセンブラ命令、命令セットアーキテクチャ(ISA)命令、マシン命令、マシン依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ、またはSmalltalk、JAVA(登録商標)、C++等のようなオブジェクト指向プログラミング言語、および「C」プログラミング言語または同様のプログラミング言語のような従来の手続型プログラミング言語を含む、1または複数のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されたソースコードまたはオブジェクトコードのいずれかを含んでよい。
【0153】
コンピュータ可読命令は、汎用コンピュータ、特殊目的のコンピュータ、若しくは他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサまたはプログラマブル回路に対し、ローカルにまたはローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット等のようなワイドエリアネットワーク(WAN)を介して提供され、フローチャートまたはブロック図で指定された操作を実行するための手段を作成すべく、コンピュータ可読命令を実行してよい。プロセッサの例としては、コンピュータプロセッサ、処理ユニット、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ等を含む。
【0154】
図28は、本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。コンピュータ2200にインストールされたプログラムは、コンピュータ2200に、本発明の実施形態に係る装置に関連付けられる操作または当該装置の1または複数のセクションとして機能させることができ、または当該操作または当該1または複数のセクションを実行させることができ、および/またはコンピュータ2200に、本発明の実施形態に係るプロセスまたは当該プロセスの段階を実行させることができる。そのようなプログラムは、コンピュータ2200に、本明細書に記載のフローチャートおよびブロック図のブロックのうちのいくつかまたはすべてに関連付けられた特定の操作を実行させるべく、CPU2212によって実行されてよい。
【0155】
本実施形態によるコンピュータ2200は、CPU2212、RAM2214、グラフィックコントローラ2216、およびディスプレイデバイス2218を含み、それらはホストコントローラ2210によって相互に接続されている。コンピュータ2200はまた、通信インターフェイス2222、ハードディスクドライブ2224、DVD−ROMドライブ2226、およびICカードドライブのような入/出力ユニットを含み、それらは入/出力コントローラ2220を介してホストコントローラ2210に接続されている。コンピュータはまた、ROM2230およびキーボード2242のようなレガシの入/出力ユニットを含み、それらは入/出力チップ2240を介して入/出力コントローラ2220に接続されている。
【0156】
CPU2212は、ROM2230およびRAM2214内に格納されたプログラムに従い動作し、それにより各ユニットを制御する。グラフィックコントローラ2216は、RAM2214内に提供されるフレームバッファ等またはそれ自体の中にCPU2212によって生成されたイメージデータを取得し、イメージデータがディスプレイデバイス2218上に表示されるようにする。
【0157】
通信インターフェイス2222は、ネットワークを介して他の電子デバイスと通信する。ハードディスクドライブ2224は、コンピュータ2200内のCPU2212によって使用されるプログラムおよびデータを格納する。DVD−ROMドライブ2226は、プログラムまたはデータをDVD−ROM2201から読み取り、ハードディスクドライブ2224にRAM2214を介してプログラムまたはデータを提供する。ICカードドライブは、プログラムおよびデータをICカードから読み取り、および/またはプログラムおよびデータをICカードに書き込む。
【0158】
ROM2230はその中に、アクティブ化時にコンピュータ2200によって実行されるブートプログラム等、および/またはコンピュータ2200のハードウェアに依存するプログラムを格納する。入/出力チップ2240はまた、様々な入/出力ユニットをパラレルポート、シリアルポート、キーボードポート、マウスポート等を介して、入/出力コントローラ2220に接続してよい。
【0159】
プログラムが、DVD−ROM2201またはICカードのようなコンピュータ可読媒体によって提供される。プログラムは、コンピュータ可読媒体から読み取られ、コンピュータ可読媒体の例でもあるハードディスクドライブ2224、RAM2214、またはROM2230にインストールされ、CPU2212によって実行される。これらのプログラム内に記述される情報処理は、コンピュータ2200に読み取られ、プログラムと、上記様々なタイプのハードウェアリソースとの間の連携をもたらす。装置または方法が、コンピュータ2200の使用に従い情報の操作または処理を実現することによって構成されてよい。
【0160】
例えば、通信がコンピュータ2200および外部デバイス間で実行される場合、CPU2212は、RAM2214にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理に基づいて、通信インターフェイス2222に対し、通信処理を命令してよい。通信インターフェイス2222は、CPU2212の制御下、RAM2214、ハードディスクドライブ2224、DVD−ROM2201、またはICカードのような記録媒体内に提供される送信バッファ処理領域に格納された送信データを読み取り、読み取られた送信データをネットワークに送信し、またはネットワークから受信された受信データを記録媒体上に提供される受信バッファ処理領域等に書き込む。
【0161】
また、CPU2212は、ハードディスクドライブ2224、DVD−ROMドライブ2226(DVD−ROM2201)、ICカード等のような外部記録媒体に格納されたファイルまたはデータベースの全部または必要な部分がRAM2214に読み取られるようにし、RAM2214上のデータに対し様々なタイプの処理を実行してよい。CPU2212は次に、処理されたデータを外部記録媒体にライトバックする。
【0162】
様々なタイプのプログラム、データ、テーブル、およびデータベースのような様々なタイプの情報が記録媒体に格納され、情報処理を受けてよい。CPU2212は、RAM2214から読み取られたデータに対し、本開示の随所に記載され、プログラムの命令シーケンスによって指定される様々なタイプの操作、情報処理、条件判断、条件分岐、無条件分岐、情報の検索/置換等を含む、様々なタイプの処理を実行してよく、結果をRAM2214に対しライトバックする。また、CPU2212は、記録媒体内のファイル、データベース等における情報を検索してよい。例えば、各々が第2の属性の属性値に関連付けられた第1の属性の属性値を有する複数のエントリが記録媒体内に格納される場合、CPU2212は、第1の属性の属性値が指定される、条件に一致するエントリを当該複数のエントリの中から検索し、当該エントリ内に格納された第2の属性の属性値を読み取り、それにより予め定められた条件を満たす第1の属性に関連付けられた第2の属性の属性値を取得してよい。
【0163】
上で説明したプログラムまたはソフトウェアモジュールは、コンピュータ2200上またはコンピュータ2200近傍のコンピュータ可読媒体に格納されてよい。また、専用通信ネットワークまたはインターネットに接続されたサーバーシステム内に提供されるハードディスクまたはRAMのような記録媒体が、コンピュータ可読媒体として使用可能であり、それによりプログラムを、ネットワークを介してコンピュータ2200に提供する。
【0164】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。また、本発明を実施の形態として、磁場計測装置が心磁計測装置であるとして説明したが、心磁計測装置に限定されるものでなく、人間の心臓以外の臓器の電気活動により生成される磁場を計測する装置(例えば消化器系の医療診断におけるトモグラフィーで使用される装置)であってよい。
【0165】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。