(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0023】
本実施形態に係るガスバリア性フィルム100は、
図1の(a)及び(b)に示すように、可撓性基材10と、可撓性基材10の少なくとも一方の表面上に形成される無機薄膜層20とを備える。
図1の(a)に示すように、無機薄膜層20は、可撓性基材10の一方の表面上にのみ設けられていてもよく、
図2の(b)に示すように、無機薄膜層20は、可撓性基材10の両方の表面上に設けられていてもよい。
【0024】
(可撓性基材10)
可撓性基材10は、無機薄膜層20を保持可能な可撓性薄膜である。可撓性基材10の例は、樹脂フィルムであり、無色透明な樹脂フィルムが好適である。
樹脂の例は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル樹脂;アセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルサルファイド(PES)が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を組合せて用いることもできる。これらの中でも、透明性、耐熱性、線膨張性等の必要な特性に合せて、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂の中から選択して用いることが好ましく、PET、PEN、環状ポリオレフィンを用いることがより好ましい。
【0025】
可撓性基材10は、未延伸の樹脂基材であってもよく、未延伸の樹脂基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、樹脂基材の流れ方向(MD方向)、及び/又は、樹脂基材の流れ方向と直角方向(TD方向)に延伸した延伸樹脂基材であってもよい。
【0026】
可撓性基材10は、上述した樹脂の層を2層以上積層した積層体であることもできる。可撓性基材10が複数の層を有する場合、無機薄膜層20と直接接触する層は他の層の表面を平坦化するための平坦化層として機能する層を有することができる。平坦化層の例は、アクリル系UV硬化性樹脂などの樹脂層である。
【0027】
可撓性基材10の厚みは、ガスバリア性フィルム100を製造する際の安定性等を考慮して適宜設定されるが、真空中においても可撓性基材10の搬送が容易であることから、5〜500μmであることが好ましい。さらに、後述するプラズマCVD法により無機薄膜層20を形成する場合、可撓性基材10の厚みは10〜200μmであることがより好ましく、15〜100μmであることがさらに好ましい。
【0028】
可撓性基材10を構成する層は、λ/4位相差フィルム、λ/2位相差フィルムなどの、面内における直交2成分の屈折率が互いに異なる位相差フィルムであってもよい。位相差フィルムの材料としては、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、液晶化合物の配向固化層などを例示することができる。中でもポリカーボネート系樹脂フィルムが、コスト的に安価で均一なフィルムが入手可能であるため好ましく用いられる。製膜方法としては、溶剤キャスト法やフィルムの残留応力を小さくできる精密押出法などを用いることができるが、均一性の点で溶剤キャスト法が好ましく用いられる。延伸方法は、特に制限なく、均一な光学特性が得られるロール間縦一軸、テンター横一軸延伸など適用できる。
【0029】
可撓性基材10を構成する層がλ/4位相差フィルムである場合の波長550nmでの面内位相差Re(550)は、100nm〜180nmであることができ、好ましくは110nm〜170nmであり、さらに好ましくは120nm〜160nmである。
【0030】
可撓性基材10を構成する層がλ/2位相差フィルムである場合の波長550nmでの面内位相差Re(550)は、220nm〜320nmであることができ、好ましくは240nm〜300nmであり、さらに好ましくは250nm〜280nmである。
【0031】
可撓性基材10が位相差フィルムである場合に、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆波長分散性を示してもよく、位相差値が測定光の波長に応じて小さくなる正の波長分散特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示してもよい。
【0032】
可撓性基材10が逆波長分散性を示す位相差フィルムである場合、可撓性基材10の波長λでの位相差をRe(λ)と表記したときに、可撓性基材10は、Re(450)/Re(550)<1及びRe(650)/Re(550)>1を満たすことができる。
【0033】
なお、可撓性基材10の表面には、無機薄膜層20等との密着性の観点から、その表面を清浄するための表面活性処理を施してもよい。このような表面活性処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理が挙げられる。
【0034】
(無機薄膜層20)
無機薄膜層20としては、公知のガスバリア性を有する無機材料の層を適宜利用することができる。無機材料の例は、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属酸炭化物、及び、これらのうちの少なくとも2種を含む混合物である。また、無機材料としては、上述した薄膜層を2層以上積層した多層膜を用いることもできる。
【0035】
中でも、無機薄膜層20は、より高度な水蒸気透過防止性能を発揮できるといった観点、並びに、耐屈曲性、製造の容易性及び低製造コストといった観点から、少なくとも珪素原子(Si)、酸素原子(O)、及び炭素原子(C)を含有することが好ましい。
【0036】
この場合、無機薄膜層20は、一般式がSiO
αC
βで表される化合物が主成分であることができる。ここで、「主成分である」とは、材質の全成分の質量に対してその成分の含有量が50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であることをいう。この一般式において、αは2未満の正数から選択され、βは2未満の正数から選択される。前記の一般式におけるαおよびβの一以上は、無機薄膜層20の厚さ方向において一定の値でもよいし、変化していてもよい。
厚さ方向における変化とは、例えばαおよびβの数値が、それぞれ無機薄膜層20の厚さ方向で周期的に増減を繰り返す性質を有する。高度な水蒸気透過防止機能を発揮できるといった観点、および耐屈曲性を発現するという観点から、無機薄膜層20の厚さ方向における珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有し、かつ、Si,O及びCの全原子数に対する炭素の原子数比の平均値が、11at%以上21at%以下であることが好ましい。
【0037】
さらに無機薄膜層20は珪素原子、酸素原子および炭素原子以外の元素、例えば、水素原子、窒素原子、ホウ素原子、アルミニウム原子、リン原子、イオウ原子、フッ素原子および塩素原子のうちの一以上の原子を含有していてもよい。
【0038】
無機薄膜層20が、珪素原子、酸素原子および炭素原子に加え、水素原子を含有する場合、一般式がSiO
αC
βH
γで表される化合物が主成分であることが好ましい。ここで、「主成分である」とは、材質の全成分の質量に対してその成分の含有量が50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であることをいう。この一般式において、αは2未満の正数、βは2未満の正数、γは6未満の正数からそれぞれ選択される。前記の一般式におけるα、βおよびγの一以上は、前記薄膜層の厚さ方向で一定の値でもよいし、変化していてもよい。
【0039】
無機薄膜層20は、無機薄膜層中の珪素原子(Si)に対する炭素原子(C)の平均原子数比をC/Siで表した場合に、緻密性を高くし、微細な空隙やクラック等の欠陥を少なくする観点から、0.10<C/Si<0.70(好ましくは、0.10<C/Si<0.50)の範囲にあると好ましく、0.15<C/Si<0.65(好ましくは、0.15<C/Si<0.45)の範囲にあるとより好ましく、0.20<C/Si<0.40の範囲にあるとさらに好ましく、0.25<C/Si<0.35の範囲にあると特に好ましい。
また、無機薄膜層20は、薄膜層中の珪素原子(Si)に対する酸素原子(O)の平均原子数比をO/Siで表した場合に、緻密性を高くし、微細な空隙やクラック等の欠陥を少なくする観点から、1.40<O/Si<1.90(好ましくは、1.50<O/Si<1.90)の範囲にあると好ましく、1.50<O/Si<1.85(好ましくは、1.55<O/Si<1.85)の範囲にあるとより好ましく、1.60<O/Si<1.80の範囲にあるとさらに好ましく、1.65<O/Si<1.75の範囲にあると特に好ましい。
なお、平均原子数比C/SiおよびO/Siは、下記条件にてXPSデプスプロファイル測定を行い、得られた珪素原子、酸素原子及び炭素原子の分布曲線から、それぞれの原子の厚み方向における平均原子濃度を求めた後、平均原子数比C/SiおよびO/Siを算出できる。
<XPSデプスプロファイル測定>
エッチングイオン種:アルゴン(Ar
+)
エッチングレート(SiO
2熱酸化膜換算値):0.05nm/sec
エッチング間隔(SiO
2換算値):10nm
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名「VG Theta Probe」
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポット及びそのサイズ:800×400μmの楕円形
【0040】
無機薄膜層20は、無機薄膜層表面に対して赤外分光測定(ATR法)を行った場合、950〜1050cm
−1に存在するピーク強度(I
1)と、1240〜1290cm
−1に存在するピーク強度(I
2)との強度比が下記式(2)を満たす範囲にあってもよい。
0.01≦I
2/I
1<0.05 (2)
赤外分光測定(ATR法)から算出したピーク強度比I
2/I
1は、無機薄膜層20中のSi−O−Siに対するSi−CH
3の相対的な割合を表すと考えられる。式(2)で表される関係を満たす無機薄膜層20は、緻密性が高く、微細な空隙やクラック等の欠陥が少なくなるため、ガスバリア性に優れ、かつ耐衝撃性に優れたものとなると考えられる。ピーク強度比I
2/I
1の範囲について、無機薄膜層20の緻密性を高く保持する観点から、0.02≦I
2/I
1<0.04の範囲が好ましい。
さらに、上記ピーク強度比I
2/I
1の範囲を満たす場合には、ガスバリア性フィルム100が適度に滑りやすくなり、よりブロッキングしにくくなる。逆にI
2/I
1が大きいすなわちSi−Cが多すぎると屈曲性が悪く、かつ滑りにくくなる傾向があり、また、I
2/I
1が小さいすなわちSi−Cが少なすぎても屈曲性が低下する傾向がある。
無機薄膜層20の表面の赤外分光測定は、プリズムにゲルマニウム結晶を用いたATRアタッチメント(PIKE MIRacle)を備えたフーリエ変換型赤外分光光度計(日本分光製、FT/IR−460Plus)によって測定できる。
【0041】
無機薄膜層20は、無機薄膜層表面に対して赤外分光測定(ATR法)を行った場合、950〜1050cm
−1に存在するピーク強度(I
1)と、770〜830cm
−1に存在するピーク強度(I
3)との強度比が下記式(3)の範囲にあってもよい。
0.25≦I
3/I
1≦0.50 (3)
赤外分光測定(ATR法)から算出したピーク強度比I
3/I
1は、無機薄膜層20中のSi−O−Siに対するSi−CやSi−O等の相対的な割合を表すと考えられる。式(3)で表される関係を満たす無機薄膜層は、高い緻密性を保持しつつ、炭素が導入されることから耐屈曲性に優れ、かつ耐衝撃性に優れたものとなると考えられる。ピーク強度比I
3/I
1の範囲について、無機薄膜層の緻密性と耐屈曲性のバランスを保つ観点から、0.25≦I
3/I
1≦0.50の範囲が好ましく、0.30≦I
3/I
1≦0.45の範囲がより好ましい。
【0042】
前記薄膜層は、薄膜層表面に対して赤外分光測定(ATR法)を行った場合、770〜830cm
−1に存在するピーク強度(I
3)と、870〜910cm
−1に存在するピーク強度(I
4)との強度比が下記式(4)の範囲にあってもよい。
0.70≦I
4/I
3<1.00 (4)
赤外分光測定(ATR法)から算出したピーク強度比I
4/I
3は、無機薄膜層20中のSi−Cに関連するピーク同士の比率を表すと考えられる。式(4)で表される関係を満たす無機薄膜層は、高い緻密性を保持しつつ、炭素が導入されることから耐屈曲性に優れ、かつ耐衝撃性に優れたものとなると考えられる。ピーク強度比I
4/I
3の範囲について、無機薄膜層の緻密性と耐屈曲性のバランスを保つ観点から、0.70≦I
4/I
3<1.00の範囲が好ましく、0.80≦I
4/I
3<0.95の範囲がより好ましい。
【0043】
無機薄膜層20の厚さは、無機薄膜層を曲げた時に割れ難くするという観点から、5〜3000nmであることが好ましい。さらに、グロー放電プラズマを用いて、プラズマCVD法により薄膜層を形成する場合には、基材を通して放電しつつ前記薄膜層を形成することから、10〜2000nmであることがより好ましく、100〜1000nmであることがさらに好ましい。
【0044】
無機薄膜層20は、平均密度が1.8g/cm
3以上の高い密度となっていてもよい。なお、無機薄膜層の「平均密度」は、ラザフォード後方散乱法(Rutherford Backscattering Spectrometry:RBS)で求めた珪素の原子数、炭素の原子数、酸素の原子数と、水素前方散乱法(Hydrogen Forward scattering Spectrometry:HFS)で求めた水素の原子数とから測定範囲の薄膜層の重さを計算し、測定範囲の薄膜層の体積(イオンビームの照射面積と膜厚との積)で除することで求められる。無機薄膜層20が1.8g/cm
3以上の密度を有していることにより、無機薄膜層20は、緻密性が高く、微細な空隙やクラック等の欠陥を少ない構造を有する。さらに、無機薄膜層が珪素原子、酸素原子、炭素原子および水素原子からなる場合には、無機薄膜層の平均密度は2.22g/cm
3未満であることが好ましい。
【0045】
このような珪素原子、酸素原子、及び、炭素原子を含む無機材料の層は、化学気相成長法(CVD法)で形成されることが好ましく、中でも、グロー放電プラズマなどを用いたプラズマ化学気相成長法(PECVD法)で形成されることがより好ましい。
【0046】
原料ガスの例は、珪素原子及び炭素原子を含有する有機ケイ素化合物である。このような有機ケイ素化合物の例は、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサンである。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性及び得られる無機薄膜層20のガスバリア性等の特性の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが好ましい。また、これらの有機ケイ素化合物は、1種を単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0047】
また、上記原料ガスに対して、上記原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物を形成可能とする反応ガスを適宜選択して混合することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、1種を単独で又は2種以上を組合せて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組合せて使用することができる。原料ガスと反応ガスの流量比は、成膜する無機材料の原子比に応じて適宜調節できる。
【0048】
上記原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
【0049】
また、真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、0.5Pa〜50Paの範囲とすることが好ましい。
【0050】
本実施形態にかかるガスバリア性フィルム100において、ガスバリア性フィルム100の一方の表面と他方の表面との間の静止摩擦係数は、0.85以上2.0以下である。
【0051】
静止摩擦係数は、上面及び下面を有するガスバリア性フィルム100を2枚に分割し、1枚目のガスバリア性フィルムの上面と、2枚目のガスバリア性フィルム100の下面とを接触させるようにして、静止摩擦係数を測定すればよい。静止摩擦係数は、JIS P8147の傾斜法に準拠し、温度23℃、湿度50RH%の環境下にて測定することができる。
【0052】
静止摩擦係数を調整するには、ガスバリア性フィルム100の両面の表面粗さを調節すればよい。たとえば、
図1の(a)のように、無機薄膜層20が可撓性基材10の一方面のみに設けられている場合には、無機薄膜層20の露出面の表面粗さと、可撓性基材10の露出面の表面粗さとを調節すればよい。
図1の(b)のように、無機薄膜層20が可撓性基材10の両方面に設けられている場合には、一方の無機薄膜層20の露出面の表面粗さと、他方の無機薄膜層20の露出面の表面粗さとを調節すればよい。ガスバリア性フィルム100の少なくとも一方の面の表面粗さを大きくすると、表裏面間の静止摩擦係数は小さくなる傾向がある。
【0053】
無機薄膜層20の表面粗さは、たとえば、無機薄膜層20の成膜条件における真空チャンバー内の圧力(真空度)や成膜厚み等の条件や、無機成膜層の組成や密度(緻密性)や、成膜速度に応じて調節できる。特に、真空チャンバー内の圧力を適切に制御して無機薄膜層の密度を調節することにより表面粗さを調節することが好ましい。
図1の(b)のように、無機薄膜層20が可撓性基材10の両方面に設けられている場合には、片方の無機薄膜層のみ、密度を調節して表面粗さを3nm以上に設定することによりブロッキングの防止と水蒸気透過防止機能とを両立することができる。また、無機薄膜層20の表面粗さは、下地となる可撓性基材10の表面粗さや、無機薄膜層20と可撓性基材10との間に配置される中間層の表面粗さを調節することによっても調節できる。
【0054】
可撓性基材10の表面粗さを調節するには、コロナ処理等の処理をすればよい。
【0055】
無機薄膜層20の表面の算術平均粗さRaは、3nm以上であることができる。算術平均粗さRaは、ガスバリア性フィルムを粘着剤付きエポキシ板に貼りつけた後、その表面を白色干渉顕微鏡で観察することにより得ることができる。算術平均粗さRaとは、JIS B0601 2001による算術平均粗さである。
【0056】
また、本実施形態にかかるガスバリア性フィルム100において、ガスバリア性フィルム100から切り出した50mm四方の部分を当該部分の中央部が水平面に接するように載置したとき、水平面から反り上がった四隅までの距離の平均値が2mm以下である。
【0057】
この平均値は以下のようにして測定できる。まず、ガスバリア性フィルム100を温度23℃、湿度50RH%の条件に48時間保持する。次に、当該ガスバリア性フィルム100から50mm四方の部分を切り出してサンプルを得る。サンプルの中央部が水平面に接するようにサンプルを水平面上に載置して、水平面から4隅までの距離を合計4点得る。
最後に、これら4点の平均値を得る。
【0058】
ガスバリア性フィルム100の反りを低減して平面性を向上させるには、表裏面の各無機薄膜層の応力をバランスさせたり、片方の面の無機薄膜層とその下のコーティング層との応力をバランスさせたり、無機薄膜層自体の残留応力を低減したり、またこれらを組み合わせて両面の応力をバランスさせればよい。応力は、無機薄膜層形成時の成膜圧力、膜厚、コーティング層形成時の硬化収縮度合等により調整できる。
【0059】
ガスバリア性フィルム100の40℃90%RHにおける水蒸気透過度は、0.1g/m
2/day以下であることができ、0.001g/m
2/day以下であってもよい。水蒸気透過度は、特開2005−283561号公報に開示された装置及び方法で測定できる。
【0060】
本実施形態に係るガスバリア性フィルム100によれば、ロールに巻き取った後にロール内でフィルム同士がくっついてしまうブロッキング、及び、ロールに巻き取る際にフィルムの端面の位置が軸方向にずれてしまう巻ズレが抑制される。この理由は明らかではないが、ガスバリア性フィルム100の平面性が高いことによりロールの巻き締まり時において接触面での応力の均一性が高く、局所的に高い応力で接触する部分ができにくくなってブロッキングを抑制できる点と、ガスバリア性フィルム100の表裏面間の静止摩擦係数がある程度大きいことによりフィルム同士が滑りにくくなって、巻きずれしにくくなる点とが1つの要因となり得る。
【0061】
(光学フィルム200)
続いて、本発明の実施形態に係る、光学フィルム200について説明する。
【0062】
図2の(a)の光学フィルム200は、粘接着剤層80、上述のガスバリア性フィルム100、粘接着剤層5、λ/4位相差フィルム30、粘接着剤層5、直線偏光子層40をこの順に有する。なお、ガスバリア性フィルム100の一方の面上におけるλ/4位相差フィルム30及び直線偏光子層40の順番は逆でもよい。
【0063】
図2の(b)の光学フィルム200は、粘接着剤層80、上述のガスバリア性フィルム100、粘接着剤層5、λ/4位相差フィルム30、粘接着剤層5、λ/2位相差フィルム50、粘接着剤層5、直線偏光子層40をこの順に有する。なお、ガスバリア性フィルム100の一方の面上における、λ/4位相差フィルム30、λ/2位相差フィルム50、及び、直線偏光子層40の順番は特に限定されず、任意の順番でよい。
【0064】
(粘接着剤層)
粘接着剤層5、80としては、例えば粘着剤層、接着剤層等が挙げられる。
(粘着剤層)
粘着剤層は、光学フィルム200をフレキシブル画像表示素子に貼りつけるための粘着剤として好適である。粘着層の例としては、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、エポキシ系粘着剤等が挙げられる。粘着剤層の厚みは、たとえば、5〜100μmであり、好ましくは5〜50μmとすることができる。なお、この粘着剤層の表面には、使用に供されるまで、剥離フィルムを貼り合わせることできる。
【0065】
粘着剤層の面内方向の水拡散係数は、60℃、湿度90%RHにおいて、0.05mm
2/hrであることができる。
【0066】
また、85℃85%RH環境下で500hr保管後のガスバリア性フィルム100と粘着剤層との間のJIS K 6854−2に準拠した接着強度が500gf/10mm以上であることができる。
【0067】
(接着剤層)
接着剤層は、フィルム同士を貼りつける接着剤として好適である。接着剤層の例は、たとえば、ポリビニルアルコール系接着剤等の水系接着剤、カチオン重合系またはラジカル重合系の活性エネルギー線硬化型接着剤である。接着剤層の厚みは、たとえば、0.1〜20μmであり、好ましくは0.2〜10μmであり、より好ましくは0.5〜5μmである。
【0068】
また、85℃85%RH環境下で500hr保管後のガスバリア性フィルム100と接着剤層との間のJIS K 6854−2に準拠した接着強度が500gf/10mm以上であることができる。
【0069】
(λ/4位相差フィルム)
λ/4位相差フィルム30は、λ/4板として機能する、すなわち、入射光に対して進相軸と遅相軸との間にπ/2(=λ/4)の位相差を与えるフィルムである。
【0070】
λ/4位相差フィルム30の550nmの波長での面内位相差Re(550)は、100nm〜180nmであることができ、好ましくは110nm〜170nmであり、さらに好ましくは120nm〜160nmである。
【0071】
λ/4位相差フィルム30の厚みは、λ/4板として最も適切に機能し得るように設定され得る。言い換えれば、厚みは、所望の面内位相差が得られるように設定され得る。厚みは、1μm〜80μmであることができ、10μm〜60μmであることもでき、30μm〜50μmであることもできる。
【0072】
λ/4位相差フィルム30の材料としては、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、環状オレフィンポリマー、液晶化合物の配向固化層などを例示することができる。中でもポリカーボネート系樹脂フィルム、コスト的に安価で均一なフィルムが入手可能であるため好ましく用いられる。製膜方法としては、溶剤キャスト法やフィルムの残留応力を小さくできる精密押出法などを用いることができるが、均一性の点で溶剤キャスト法が好ましく用いられる。延伸方法は、特に制限なく、均一な光学特性が得られるロール間縦一軸、テンター横一軸延伸など適用できる。
【0073】
λ/4位相差フィルム30は、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆波長分散性を示してもよく、位相差値が測定光の波長に応じて小さくなる正の波長分散特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示してもよい。
【0074】
λ/4位相差フィルム30が逆波長分散性を示す場合には、視野角補償が向上するという効果がある。この場合、λ/4位相差フィルム30の波長λでの面内位相差をRe(λ)と表記したときに、Re(450)/Re(550)<1及びRe(650)/Re(550)>1を満たすことができる。
【0075】
(λ/2位相差フィルム50)
λ/2位相差フィルム50は、λ/2板として機能する、すなわち、入射光に対して進相軸と遅相軸との間にπ(=λ/2)の位相差を与えるフィルムである。
【0076】
λ/2位相差フィルム50の波長550nmでの面内位相差Re(550)は、220nm〜320nmであることができ、好ましくは240nm〜300nmであり、さらに好ましくは250nm〜280nmである。
【0077】
λ/2位相差フィルム50の厚みは、λ/2板として最も適切に機能し得るように設定され得る。言い換えれば、厚みは、所望の面内位相差が得られるように設定され得る。具体的には、厚みは、1μm〜80μmであることができ、10μm〜60μmであることもでき、30〜50μmであることもできる。
【0078】
λ/2位相差フィルム50の材料や製法は、λ/4位相差フィルム30と同様とすることができる。
【0079】
(直線偏光子層40)
直線偏光子層40は、直線偏光機能を有するフィルムである。このような直線偏光子層40の例は、吸収異方性を有する色素を吸着させた延伸フィルム、又は、吸収異方性を有する色素を塗布したフィルムである。吸収異方性を有する色素の例は、ヨウ素などの二色性色素であり、基材の例はポリビニルアルコール系樹脂である。
【0080】
吸収異方性を有する色素を吸着させた延伸フィルムの製法の1例は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより、その二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、及びホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造された偏光子の少なくとも一方の面に接着剤を介して透明保護フィルムで挟み込むことで作製される。
【0081】
直線偏光子層40の厚さは5〜40μmとすることができ、5〜30μmとすることもできる。
【0082】
直線偏光子層40の一方面又は両面は、トリアセチルセルロース等の保護フィルムを有していることもできる。
【0083】
円偏光を得るために、λ/4位相差フィルム30の進相軸と、直線偏光子層40の透過軸とが45°で交差するように、λ/4位相差フィルム30及び直線偏光子層40を配置することができる。
【0084】
図2の(a)のような光学フィルム200では、ガスバリア機能に加えて、λ/4位相差フィルム30及び直線偏光子層40によって直線偏光を円偏光に変換する機能を付与できる。また、
図2の(b)のような光学フィルム200では、λ/2位相差フィルム50を所定角度でさらに設けることにより、光学フィルム200に逆波長分散性を付与することができる。
【0085】
また、ブロッキング及び巻ズレを抑制できるガスバリア性フィルム100を用いているので、キズなどの外観不良がなく、面品質が良い光学フィルムが得られるという効果がある。
【0086】
(光学フィルム300)
続いて、本発明の実施形態に係る、光学フィルム300について説明する。
【0087】
図3の(a)の光学フィルム300は、粘接着剤層80、上述のガスバリア性フィルム100、粘接着剤層5、直線偏光子層40をこの順に有する。本実施形態では、ガスバリア性フィルム100の可撓性基材10として、上記光学フィルム200のλ/4位相差フィルム30が用いられている。
【0088】
図3の(b)の光学フィルム200は、粘接着剤層80、上述のガスバリア性フィルム100、粘接着剤層5、λ/2位相差フィルム50、粘接着剤層5、直線偏光子層40をこの順に有する。本実施形態では、ガスバリア性フィルム100の可撓性基材10として、上記光学フィルム200のλ/4位相差フィルム30が用いられている。なお、ガスバリア性フィルム100上における、λ/2位相差フィルム50、及び、直線偏光子層40の順番は逆でもよい。
【0089】
また、
図3の(a)及び(b)では、ガスバリア性フィルム100の粘接着剤層80側の面のみに無機薄膜層20が設けられているが、直線偏光子層40及びλ/2位相差フィルム50側にさらに無機薄膜層20が設けられていてもよい。
【0090】
図3の(a)のような光学フィルム300では、ガスバリア機能に加えて、λ/4位相差フィルム30及び直線偏光子層40によって直線偏光を円偏光に変換する機能を付与できる。また、
図2の(b)のような光学フィルム200では、λ/2位相差フィルム50を所定角度でさらに設けることにより、光学フィルム300に逆波長分散性を付与することができる。
【0091】
また、ブロッキング及び巻ズレを抑制できるガスバリア性フィルム100を用いているので、キズなどの外観不良がなく、面品質が良い光学フィルムが得られるという効果がある。
【0092】
(フレキシブルディスプレイ)
本実施形態に係るフレキシブルディスプレイ1000は、
図4に示すように、フレキシブル画像表示パネル700、及び、フレキシブル画像表示パネル700の表面上に設けられた、ガスバリア性フィルム100を備える。フレキシブルディスプレイ1000は、ガスバリア性フィルム100に代えて、光学フィルム200又は光学フィルム300であることができる。
【0093】
フレキシブル画像表示パネル700としては、公知のTFT等の液晶パネル、有機ELパネルを使用できる。
【0094】
光学フィルム200、300の粘接着剤層80を利用してフレキシブル画像表示パネル700に光学フィルム200、300を固定することが好ましい。ガスバリア性フィルム100の一方面に、粘接着剤層を設けて、フレキシブル画像表示パネル700に貼りつけてもよい。
【実施例】
【0095】
以下、具体的実施例により、本発明について詳しく説明する。ガスバリア性フィルムの静止摩擦係数測定、算術平均粗さRa測定、水蒸気透過度測定、平面性測定、ロール搬送性の評価、及び、搬送後の外観の評価;粘接着剤層の調製、水拡散係数の評価、及び、ガスバリア性フィルムと粘接着剤層との剥離強度測定;ガスバリア性フィルムの湿熱耐久試験を以下の方法で行った。
【0096】
<ガスバリア性フィルムの静止摩擦係数の測定>
JIS P 8147の傾斜法に準拠してガスバリア性フィルムの静止摩擦係数を測定した。温度23℃、湿度50%RHの環境下にて、一方のガスバリア性フィルムを一方の面(A面)が上向きになるように傾斜台へ固定し、別のガスバリア性フィルムを上記A面とは反対のB面が下向きになるようにおもり用試験片に固定し、測定した。
【0097】
<ガスバリア性フィルムの算術平均粗さRaの測定>
ガスバリア性フィルムを粘着付きエポキシ板に面固定させた後、白色干渉顕微鏡(Micromap、菱化システム社製)を用いて以下の条件にてガスバリア性フィルムの表面の算術平均粗さRaを測定した。
[測定条件]
対物レンズ:10倍
データ点数:640×480点
【0098】
<ガスバリア性フィルムの水蒸気透過度の測定>
温度40℃、湿度90%RHの条件において、カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によってガスバリア性フィルムの水蒸気透過度を測定した。
【0099】
<ガスバリア性フィルムの平面性の評価>
ガスバリア性フィルム100を温度23℃、湿度50RH%の条件に48時間保持する。次に、当該ガスバリア性フィルム100から50mm四方の部分を切り出してサンプルを得る。サンプルの中央部が水平面に接するようにサンプルを水平面上に載置し、水平面から4隅までの距離をそれぞれ得る。そして、得られた4つの距離の平均値を得る。
【0100】
<ガスバリア性フィルムの搬送性の評価>
幅300mm〜2000mm、長さ100m以上のガスバリア性フィルムのロールを用意し、ロールからフィルムを巻出して別の芯にロール状に巻き取った。この工程で、ブロッキングや巻ズレが発生せず、巻出し及び巻取りに支障がない場合を、「良好」とした。ブロッキングが発生した場合は「ブロッキング」と、巻ズレが発生した場合を「巻ズレ」と評価した。
【0101】
<搬送後のガスバリア性フィルムの外観の評価>
上記の搬送テストの後、ガスバリア性フィルムから210mm×297mmの矩形領域を切り出し、表面検査ランプ(FYシリーズ、フナテック社製)での全面目視確認、およびマイクロスコープ(品名デジタルマイクロスコープ、ハイロックス社製、対物レンズ35倍)での全面観察を行った。傷(搬送傷)が無ければ「外観良」とし、一つでも傷(搬送傷)を確認した場合を「外観不良」と判定した。
【0102】
<粘着剤層の調製>
アクリル共重合樹脂(日本合成化学工業社製、コーポニールN−7136)に酸化カルシウムを50wt%混合して均一分散させた後、離型PETフィルム上に塗布し、乾燥させて厚み25μmの粘着剤層を作製した。この粘着剤層をホットステージ上で温度100℃で1時間乾燥させた。
【0103】
<粘着剤層の水拡散係数の評価>
ガラス板上に、25mm×25mmの矩形状にカルシウムを厚さ100nmで蒸着した後、矩形状のカルシウムよりも大きなサイズの矩形状の粘着剤層を、矩形状のカルシウムの外側に均等幅Lではみ出るように貼り付けた後、さらに粘着剤層の上にガラス板を貼り付けて、水拡散係数評価セルを作製した。この水拡散係数評価セルを温度60℃、湿度90%RHの恒温恒湿槽に入れ、矩形状のカルシウムのエッジシュリンクが開始した時間をθ(hr)、粘着剤層の各辺とカルシウムの各辺との間の距離(上記均等幅)をL(mm)とした場合、D=L
2/6θの式から算出して水拡散係数D(mm
2/hr)を求めた。水拡散係数は、0.03mm
2/hrであった。
【0104】
<ガスバリア性フィルムと粘着剤層の間の剥離強度の測定>
ガスバリア性フィルムと粘着剤層の間の剥離強度測定を、JIS K 6854−2に準拠して実施した。
2枚のガスバリア性フィルムを、気泡が入らないようにして粘着剤層で貼りつけて、ガスバリア性フィルム/粘着剤層/ガスバリア性フィルムの3層積層体を得た。この3層積層体を、温度85℃、湿度85%RHの環境下で500hr静置した。その後、一方のガスバリア性フィルムをSUS板に接着剤で面固定して引張試験機の下側に固定し、他方のガスバリア性フィルムを180度折り曲げて、引張試験機の上側のチャックに固定し、温度23℃、湿度50%RHの環境下にて、引張速度2.5m/minで剥離して剥離強度を測定した。
【0105】
<粘着剤層の湿熱耐久試験>
温度23℃のグローブボックス中(水分濃度10ppm以下)で、ガスバリア性フィルムと、ホットステージ上で温度100℃で1時間乾燥させた粘着剤層とを、気泡が入らないようにしてラミネートしてガスバリア性フィルム/封止粘着フィルムの積層体を作製した。次に、ガラス板上に25mm×25mmの矩形状にカルシウムを厚さ100nmで蒸着した後、50mm×50mmの矩形状に切り出したガスバリア性フィルム/封止粘着フィルムの積層体の封止粘着フィルムを、カルシウム蒸着部の4辺と積層体の4辺がそれぞれ平行になるように、グローブボックス内で気泡が入らないようにしてガラス板に貼り付けて、湿熱耐久試験セルを作製した。積層体の4辺とカルシウムの4辺の間の距離は、それぞれ12.5mmとするように貼り付けた。
【0106】
得られた湿熱耐久試験セルを、温度60℃、湿度90%RHの恒温恒湿槽に入れて1000時間静置させた後、セルを取り出して、カルシウム蒸着面が点欠陥、透過率低下、エッジシュリンク(4辺端部からの透明化)の何れも生じていない場合を「劣化なし」と判定した。
【0107】
(無機薄膜層の製法1)
可撓性基材を真空チャンバー内の送り出しロールに装着し、真空チャンバー内を1×10
−3Pa以下にした後、可撓性基材に無機薄膜層の成膜を行う。無機薄膜層を形成させるために用いるプラズマCVD装置においては、一対のロール状電極表面にそれぞれ可撓性基材を密接させながら搬送させ、一対の電極間でプラズマを発生させて、原料をプラズマ中で分解させて可撓性基材上に無機薄膜層を形成させる。前記の一対の電極は、磁束密度が電極および可撓性基材表面で高くなるように電極内部に磁石が配置されており、プラズマ発生時に電極及び可撓性基材上でプラズマが高密度に拘束される。無機薄膜層の成膜にあたっては、成膜ゾーンとなる電極間の空間に向けてヘキサメチルジシロキサンガスを100sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute、0℃、1気圧基準)、酸素ガスを900sccm導入し、電極ロール間に0.6kW、周波数70kHzの交流電力を供給し、放電してプラズマを発生させる。次いで、真空チャンバー内の排気口周辺における圧力が1Paになるように排気量を調節した後、プラズマCVD法により可撓性基材上に緻密な無機薄膜層を形成する。
【0108】
得られた無機薄膜層を酸素原子、珪素原子、炭素原子、及び、水素原子から構成され、赤外分光測定(FT−IR)を行ったところ、得られた赤外吸収スペクトルから、950〜1050cm
−1に存在するピーク強度(I
1)と、1240〜1290cm
−1に存在するピーク強度(I
2)との吸収強度比(I
2/I
1)を求めると、I
2/I
1=0.03であった。また、950〜1050cm
−1に存在するピーク強度(I
1)と、770〜830cm
−1に存在するピーク強度(I
3)との吸収強度比(I
3/I
1)を求めると、I
3/I
1=0.37であった。また、770〜830cm
−1に存在するピーク強度(I
3)と、870〜910cm
−1に存在するピーク強度(I
4)との吸収強度比(I
4/I
3)を求めると、I
4/I
3=0.91であった。また、XPSデプスプロファイル測定を行い、得られた珪素原子、酸素原子及び炭素原子の分布曲線から、それぞれの原子の厚み方向における平均原子濃度を求めた後、平均原子数比C/SiおよびO/Siを算出した結果、平均原子数比C/Si=0.65、O/Si=1.58であった。
【0109】
(無機薄膜層の製法2)
酸素ガスの供給量を2000sccmとし、電極ロール間に供給する交流電力を0.8kWとし、真空チャンバー内の排気口周辺における圧力が3Paになるように排気量を調整する以外は製法1と同様にして、可撓性基材上に無機薄膜層を形成する。
【0110】
製法2によって得た無機薄膜層のXPSデプスプロファイル測定を行い、得られた珪素原子、酸素原子及び炭素原子の分布曲線から、それぞれの原子の厚み方向における平均原子濃度を求めた後、平均原子数比C/SiおよびO/Siを算出した結果、平均原子数比C/Si=0.29、O/Si=1.74であった。
【0111】
(無機薄膜層の製法3)
酸素ガスの供給量を1400sccmとし、電極ロール間に供給する交流電力を1.2kWとし、真空チャンバー内の排気口周辺における圧力が5Paになるように排気量を調節する以外は、製法1と同様にして、可撓性基材上に無機薄膜層を形成する。
【0112】
(実施例1)
可撓性基材として算術平均粗さRaが0.8nmのシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン社製、ZF16、厚み50μm:COP1と記載する。)のみを使用し、その一方の面(A面)へ製法1により膜厚300nmの無機薄膜層Aを形成した。無機薄膜層Aの算術平均粗さRaは1.2nmであった。次に、可撓性基材のもう一方の面(B面)へ製法3により厚み300nmの無機薄膜層Bを形成して、ガスバリア性フィルムを得た。無機薄膜層Aと無機薄膜層Bの応力がバランスするように、成膜圧力および厚みを調整した結果、平面性は0.2mmだった。無機薄膜層Bの算術平均粗さRaは3.8nmであった。表裏面間の静止摩擦係数は1.6であった。
【0113】
(実施例2)
COP1の一方の面(A面)へコロナ処理した後に、当該A面に透明UV硬化樹脂で平坦化層(東亜合成UV3701、膜厚1.5μm、平均面粗さ0.5nm)を形成して、2層を有する可撓性基材を得た。この可撓性基材の一方の面(平坦化層を有するA面)に製法1により膜厚850nmの無機薄膜層Aを形成した。平坦化層側の無機薄膜層Aの算術平均粗さRaは0.9nmであった。可撓性基材のもう一方の面(B面)へ製法3の条件で膜厚850nmの無機薄膜層Bを形成して、ガスバリア性フィルムを得た。無機薄膜層A+平坦化層と、無機薄膜層Bとの応力がバランスするように、成膜圧力および厚みを調整した結果、平面性は0.3mmだった。COP1側の無機薄膜層Bの算術平均粗さRaは4.5nmであった。表裏面間の静止摩擦係数は1.0であった。
【0114】
(実施例3)
シクロオレフィンポリマー製のλ/4位相差フィルム(日本ゼオン社製、ZM16−138、厚み86μm、算術平均粗さRa0.9nm:COP2と記載する。)の一方の面(A面)へコロナ処理した後に、当該A面にUV硬化樹脂で平坦化層(東亜合成UV3701、膜厚1.5μm、平均面粗さ0.5nm)を形成した可撓性基材を用いる以外は、実施例2と同様とした。平坦化層側の無機薄膜層Aの算術平均粗さRaは0.9nmであった。COP2側の無機薄膜層Bの算術平均粗さRaは4.3nmであった。無機薄膜層A+平坦化層と、無機薄膜層Bとの応力がバランスするように、成膜圧力および厚みを調整した結果、平面性は0.4mmだった。
【0115】
(実施例4)
COP1の一方の面(A面)へ製法2により膜厚220nmの無機薄膜層Aを形成した。
無機薄膜層Aの算術平均粗さRaは1.0nmであった。次に、可撓性基材のもう一方の面(B面)へ製法3により厚み300nmの無機薄膜層Bを形成して、ガスバリア性フィルムを得た。無機薄膜層Aと無機薄膜層Bの応力がバランスするように厚みを調整した結果、平面性は0.5mmだった。無機薄膜層Bの算術平均粗さRaは3.8nmであった。表裏面間の静止摩擦係数は0.9であった。
【0116】
(比較例1)
COP1の両面ともに製法1の条件で無機薄膜層A、Bを形成する以外は、実施例1と同様とした。無機薄膜層A、Bの算術平均粗さRaは1.2nmであった。
【0117】
(比較例2)
PETフィルム(二軸延伸、片面離型処理、厚み75μm)を可撓性基材とし、PETフィルムの離型処理した面とは反対面上に、製法1の条件で膜厚500nmの無機薄膜層Aを形成した。無機薄膜層Aの算術平均粗さRaは1.8nmであった。PETフィルムの離型処理した面の算術平均粗さRaは3.0nmであった。
条件及び結果を表1及び表2に示す。
【表1】
【表2】