特許第6936703号(P6936703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6936703レーザ装置、及びレーザ装置のゲイン調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6936703
(24)【登録日】2021年8月31日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】レーザ装置、及びレーザ装置のゲイン調整方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 3/06 20060101AFI20210909BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   G01C3/06 120Z
   G01S7/481 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-213764(P2017-213764)
(22)【出願日】2017年11月6日
(65)【公開番号】特開2019-86362(P2019-86362A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 慎一
【審査官】 櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−145550(JP,A)
【文献】 特開2014−071028(JP,A)
【文献】 特開平11−084006(JP,A)
【文献】 特開2013−021804(JP,A)
【文献】 実開平06−028773(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 3/00− 3/32
G01S 7/48− 7/51
G01S 17/00−17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射するレーザ光源と、
入力された駆動指令に基づいて、前記レーザ光源を、所定の基準軸を中心として回転させる角度調整手段と、
前記基準軸に設定された原点位置からの前記レーザ光源の回転角度を検出する角度検出手段と、
所定の一定速度で前記レーザ光源を前記原点位置まで回転させる前記駆動指令を前記角度調整手段に出力した際の前記レーザ光源の回転速度からゲインを設定するゲイン設定手段と、
前記ゲイン設定手段により設定されたゲインに基づいて、前記角度調整手段による前記レーザ光源の回転を制御する制御手段と、を備える
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ装置において、
前記角度調整手段は、前記基準軸として第一軸と、前記第一軸に交差する第二軸とを有し、前記第一軸を回転中心として前記レーザ光源を回転させる第一角度調整手段、及び前記第二軸を回転中心として前記レーザ光源を回転させる第二角度調整手段を含み、
前記ゲイン設定手段は、前記レーザ光源の第一軸回りの回転速度に基づいて前記第一角度調整手段に対するゲインを設定し、前記レーザ光源の第二軸回りの回転速度に基づいて前記第二角度調整手段に対するゲインを設定する
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ装置において、
前記レーザ光源は、標的に対して出射するレーザ光と、前記標的から反射されたレーザ光との干渉から前記標的までの距離を測長するレーザ干渉計であり、
当該レーザ干渉計は、前記レーザ干渉計から出射されるレーザ光である出射光と、前記標的により反射されたレーザ光である反射光との光軸のずれ量を検出する光軸検出センサーと、を備え、
前記制御手段は、前記ずれ量が所定値以下となるように前記角度調整手段の駆動を制御する
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーザ装置において、
前記制御手段は、電源の投入時に、所定の一定速度で前記レーザ光源を前記原点位置まで移動させる前記駆動指令を前記角度調整手段に出力する
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項5】
レーザ光を出射するレーザ光源と、入力された駆動指令に基づいて、前記レーザ光源を、所定の基準軸を中心として回転させる角度調整手段と、前記基準軸に設定された原点位置からの前記レーザ光源の回転角度を検出する角度検出手段と、を備えたレーザ装置のゲイン調整方法であって、
所定の一定速度で前記レーザ光源を前記原点位置まで回転させる前記駆動指令を前記角度調整手段に出力して原点を検出する原点検出工程と、
前記原点検出工程において、前記角度検出手段により検出される単位時間あたりの角度変化量に基づいてゲインを設定するゲイン設定工程と、
を実施することを特徴とするレーザ装置のゲイン調整方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を出射するレーザ装置、及びレーザ装置のゲイン調整方法に関し、特に、標的に対してレーザ光を追尾させるレーザトラッカー及びそのゲイン調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、標的に対してレーザ光を照射するレーザ装置(例えばレーザトラッカー等)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載のレーザ装置は、移動体に設けられたレトロリフレクタに対してレーザ光を照射し、移動体を追尾するようにレーザ光の照射方向を変更するレーザトラッカーである。
具体的には、このレーザトラッカーは、レーザ干渉計と、レーザ干渉計から出力されるレーザ光(出射光)の光軸方向を任意の方向に向ける2軸回転機構と、レトロリフレクタで反射された戻り光(反射光)の光軸のずれを検出する検出センサーとを備える。そして、レーザトラッカーは、検出センサーによって出射光と入射光とのずれを検出して、出射光と入射光とが同軸となるように2軸回転機構をフィードバック制御し、レトロリフレクタの中心に出射光が照射されるように追尾させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−229066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、レーザ光の出射方向を回転軸機構によって回転軸回りで回転させて制御するレーザ装置では、回転軸の軸受の摩擦係数が経年変化等によって徐々に変化する。このような場合、所定の駆動信号を回転機構のモーターに入力した際の回転速度も変化するため、レーザ光の出射方向を所定方向に回転させる際の駆動特性が低下するとの課題がある。
特に、特許文献1に記載のようなレーザトラッカーでは、レトロリフレクタを追尾するように、レーザ光の出射方向を制御する必要がある。しかしながら、例えば、軸受の摩擦係数が低くなると、レーザ光の照射位置がレトロリフレクタを越えて移動してしまい、摩擦係数が高くなると、レーザ光の照射位置がレトロリフレクタの移動に追いつかなくなってしまい、追尾性能が低下する。このため、従来のレーザトラッカーでは、このような課題を解決するために、2軸回転機構をステップ駆動させた際に検出されるレーザ干渉計の回転速度に係る速度信号をサンプリングし、操作者が、その信号波形を確認して、2軸回転機構の駆動制御系に係るゲインを手動で調整する必要があった。
【0005】
本発明は、レーザ光の出射方向を所定方向に回転させる際の駆動特性の低下を抑制可能なレーザ装置、及びレーザ装置のゲイン調整方法を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザ装置は、レーザ光を出射するレーザ光源と、入力された駆動指令に基づいて、前記レーザ光源を、所定の基準軸を中心として回転させる角度調整手段と、前記基準軸に設定された原点位置からの前記レーザ光源の回転角度を検出する角度検出手段と、所定の一定速度で前記レーザ光源を前記原点位置まで回転させる前記駆動指令を前記角度調整手段に出力した際の前記レーザ光源の回転速度からゲインを設定するゲイン設定手段と、前記ゲイン設定手段により設定されたゲインに基づいて、前記角度調整手段による前記レーザ光源の回転を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明では、レーザ光源と、レーザ光源を、基準軸を回転中心として回転させる角度調整手段とを備えるレーザ装置であって、制御手段は、ゲイン設定手段により設定されたゲインに基づいて角度調整手段によるレーザ光源の回転を制御する。そして、このゲイン設定手段は、レーザ光源を一定の駆動速度で原点位置まで回転させる原点検出動作を実施した際のレーザ光源の回転速度に基づいてゲインを設定する。
すなわち、レーザ光を所定の角度に出射するレーザ装置では、通常、角度調整手段によるレーザ光源の出射角度を角度検出手段により検出してレーザ光の照射方向を所望の方向に合わせる。このようなレーザ装置では、レーザ光の方向制御の前に、角度検出手段(例えばロータリーエンコーダ等)の原点位置を検出するために、レーザ光源を原点位置まで移動させる原点検出動作を実施する。本発明では、このような原点検出動作を行う際に、レーザ光源を一定の速度で回転させる旨の駆動信号を角度調整手段に出力し、その際のレーザ光源の回転速度に基づいて、ゲインを調整する。つまり、原点検出動作において、指令した速度よりも検出された回転速度が速い場合にはゲインを小さくし、指令した速度よりも検出された回転速度が遅い場合にはゲインを大きくする。
これにより、例えば、経年変化によってレーザ光源を回転させる角度調整手段の回転軸とその軸受とに摩擦係数の変化が生じた場合でも、レーザ光の方向制御の前に、摩擦係数の変化に対応して、角度調整手段の駆動制御系のゲインを適正な値に調整することができ、レーザ光の出射方向を所定方向に回転させる際の駆動特性の低下を抑制できる。
【0008】
本発明のレーザ装置において、前記角度調整手段は、前記基準軸として第一軸と、前記第一軸に交差する第二軸とを有し、前記第一軸を回転中心として前記レーザ光源を回転させる第一角度調整手段、及び前記第二軸を回転中心として前記レーザ光源を回転させる第二角度調整手段を含み、前記ゲイン設定手段は、前記レーザ光源の第一軸回りの回転速度に基づいて前記第一角度調整手段に対するゲインを設定し、前記レーザ光源の第二軸回りの回転速度に基づいて前記第二角度調整手段に対するゲインを設定することが好ましい。
【0009】
本発明では、角度調整手段は、第一軸及び第二軸を回転中心とした2軸回転機構であり、レーザ光源の出射方向を三次元空間の任意の方向に合わせることができる。そして、本発明では、ゲイン設定手段は、レーザ光源を第一軸回りで回転させる第一角度調整手段と、レーザ光源を第二軸回りで回転させる第二角度調整手段とのそれぞれに対するゲインを設定する。
このため、第一角度調整手段における回転軸の軸受構成における摩擦係数の変化量と、第二角度調整手段における回転軸の軸受構成における摩擦係数の変化量とがそれぞれ異なる場合でも、それぞれの摩擦係数の変化に対応した適切なゲインを設定することができる。
【0010】
本発明のレーザ装置において、前記レーザ光源は、標的に対して出射するレーザ光と、前記標的から反射されたレーザ光との干渉から前記標的までの距離を測長するレーザ干渉計であり、当該レーザ干渉計は、前記レーザ干渉計から出射されるレーザ光である出射光と、前記標的により反射されたレーザ光である反射光との光軸のずれ量を検出する光軸検出センサーと、を備え、前記制御手段は、前記ずれ量が所定値以下となるように前記角度調整手段の駆動を制御することが好ましい。
本発明では、レーザ光源から出射されるレーザ光(出射光)と、標的から反射されるレーザ光(反射光)との光軸のずれ量を検出し、制御手段は、そのずれ量が所定値以下となるように、角度調整手段の駆動を制御する。このようなレーザ装置では、レーザ光源からのレーザ光を標的に対して追尾させることができる。
このように、レーザ光を標的に追尾させるように移動させる場合では、経年変化による角度調整手段の各軸受機構の摩擦係数が変化すると、標的への追尾性能が低下してしまう。これに対して、本発明では、原点検出動作を行った際に角度調整手段の駆動制御系に係るゲインが最適な値に設定されることで、レーザ光で標的を追尾する際の追尾性能を向上させることができる。
【0011】
本発明のレーザ装置において、前記制御手段は、電源の投入時に、所定の一定速度で前記レーザ光源を前記原点位置まで移動させる前記駆動指令を前記角度調整手段に出力することが好ましい。
本発明では、レーザ装置の電源が投入された際に、制御手段により原点検出動作が実施され、その際に検出される角度調整手段の各軸回りの回転速度に基づいてゲインが設定される。つまり、本発明では、レーザ装置の電源が投入される度に、適正なゲインが設定されることになり、経年劣化による角度調整手段の駆動特性の低下をより確実に抑制できる。
【0012】
本発明のレーザ装置のゲイン調整方法は、レーザ光を出射するレーザ光源と、入力された駆動指令に基づいて、前記レーザ光源を、所定の基準軸を中心として回転させる角度調整手段と、前記基準軸に設定された原点位置からの前記レーザ光源の回転角度を検出する角度検出手段と、を備えたレーザ装置のゲイン調整方法であって、所定の一定速度で前記レーザ光源を前記原点位置まで回転させる前記駆動指令を前記角度調整手段に出力して原点を検出する原点検出工程と、前記原点検出工程において、前記角度検出手段により検出される単位時間あたりの角度変化量に基づいてゲインを設定するゲイン設定工程と、を実施することを特徴とする。
本発明では、上記発明と同様に、原点検出工程(原点検出動作)によって原点を検出する際に、角度検出手段により検出される単位時間当たりの角度変化量(つまり回転速度)に基づいて、角度調整手段の駆動制御系のゲインが設定される。したがって、角度調整手段の回転軸の軸受機構において、経年劣化等による摩擦係数の変化が生じている場合でも、レーザ光の方向制御の前に、摩擦係数の変化に対応した適正なゲインを調整することができ、レーザ光の出射方向を所定方向に回転させる際の駆動特性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第一実施形態のレーザトラッカーの概略構成を示す図。
図2】第一実施形態のレーザトラッカーの制御構成を示す図。
図3】第一実施形態のレーザトラッカーにおけるゲイン調整方法を示すフローチャート。
図4】速度信号渡過応答の評価及びゲイン調整処理を示すフローチャート。
図5】第二実施形態のレーザトラッカーにおけるゲイン調整方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第一実施形態]
以下、本発明の第一実施形態について説明する。
[装置構成]
図1は、本実施形態のレーザトラッカー10の概略構成を示す図である。図2は、本実施形態のレーザトラッカー10の制御構成を示す概略図である。
図1において、本実施形態のレーザトラッカー10は、本発明のレーザ装置に相当し、このレーザトラッカー10は、三次元空間を任意に移動可能に支持された標的31の動的位置を追尾しつつ、その三次元位置を計測したり、レーザトラッカー10から標的31までの距離を測長したりするものである。この標的31は、三次元に移動可能な図示されない移動機構に、ヘッド30を介して支持される。このような機構の具体例としては、例えばテーブルに対して主軸が三次元移動する工作機械や三次元測定装置等が挙げられる。
標的31は、レトロリフレクタであり、ヘッド30に装着される。標的31としては他の再帰反射体であってもよい。
【0015】
レーザトラッカー10は、ベース11、第一支持部12、第二支持部13、レーザ干渉計14、及び制御部15を有する。
ベース11は、例えば工作機械や三次元測定装置等のステージ32上に載置(又は固定)される。
第一支持部12は、ベース11に対して第一回転機構16(図2参照)により、第一軸L1(基準軸)を回転中心として回転可能に支持される。第一軸L1は、例えば、ステージ32の上面に対して直交する軸となる。
第二支持部13は、第一支持部12に対して第二回転機構17(図2参照)により、第二軸L2(基準軸)を回転中心として回転可能に支持される。第二軸L2は、第一軸L1に対して交差(本実施形態では直交)する軸である。
第一軸L1と第二軸L2の交点は、レーザトラッカー10による測定基準点Mとなる。
【0016】
第一回転機構16は、図2に示すように、本発明の角度調整手段及び第一角度調整手段を構成する第一モーター161と、本発明の角度検出手段を構成する第一エンコーダ162と、を含んで構成される。また、第一回転機構16には、第一支持部12をベース11に対して回転可能に支持する第一軸受機構163を有する。
第一モーター161は、第一支持部12を、第一軸L1を中心に回転させるモーターである。第一エンコーダ162は、例えばロータリーエンコーダにより構成され、第一原点位置(θ=0°)からの第一支持部12の回転角度(方位角θ)を検出する。
同様に、第二回転機構17は、本発明の角度調整手段及び第二角度調整手段を構成する第二モーター171と、本発明の角度検出手段を構成する第二エンコーダ172と、を含んで構成される。また、第二回転機構17には、例えば第二支持部13を第一支持部12に対して回転可能に支持する第二軸受機構173を有する。
第二モーター171は、第二支持部13を、第二軸L2を中心に回転させるモーターである。第二エンコーダ172は、例えばロータリーエンコーダにより構成され、第二原点位置(φ=0°)からの第二支持部13の回転角度(仰角φ)を検出する。
【0017】
レーザ干渉計14は、第二支持部13に支持され、2つの回転機構16,17で指定される方角(方位角θ、仰角φ)に向けてレーザ光(出射光)を照射し、標的31で再帰反射されたレーザ光(反射光)を受光し、照射光と反射光との干渉から測定基準点Mと標的31との距離の変化を測定する。
また、レーザ干渉計14は、出射光の主光軸と、反射光の主光軸とを検出する光軸検出センサー141(図2参照)を備える。この光軸検出センサー141としては、例えば、特開2007−309677号公報に記載された従来の構成のセンサーを用いることができ、半透過鏡により出射光と反射光とのそれぞれを光スポット位置検出素子に反射させ、光スポット位置検出素子で出射光のスポット位置と反射光のスポット位置との位置からずれ量を検出する構成等が例示できる。
【0018】
制御部15は、図2に示すように、光軸検出センサー141に接続される、第一制御部151及び第二制御部152を備える。第一制御部151及び第二制御部152は、本発明の制御手段に相当し、光軸検出センサーにより検出される出射光と反射光との光軸のずれ量が0となるように、第一モーター161及び第二モーター171をフィードバック制御する。
また、第一制御部151と第一モーター161との間には、第一プログラマブルゲインアンプ(以降、第一PGA153と称する)が設けられ、第二制御部152と第二モーター171との間には、第二プログラマブルゲインアンプ(以降、第二PGA154と称する)が設けられる。
【0019】
さらに、制御部15は、第一PGA153及び第二PGA154のゲインを設定するゲイン設定手段155を備える。
ゲイン設定手段155は、原点検出動作において、第一エンコーダ162から出力される速度信号、及び第二エンコーダ172から出力される速度信号をサンプリングし、これらの速度信号を速度信号過渡応答としてその評価を行い、評価結果に基づいてゲインを設定する。ゲイン設定手段155によるゲインの設定方法の詳細に関しては、後述する。
【0020】
[レーザトラッカー10におけるゲイン調整方法]
次に、上述したレーザトラッカー10におけるゲイン調整方法について説明する。
図3は、本実施形態におけるゲイン調整方法を示すフローチャートである。
本実施形態のレーザトラッカー10では、例えば操作者の操作によって、電源が投入されると、制御部15は、レーザトラッカー10の駆動モードを初期化モードに切替え(ステップS1)、原点検出動作(原点検出工程)を開始する。
この原点検出動作では、制御部15は、レーザ干渉計14の角度(方位角θ及び仰角φ)を原点位置(θ,φ)(=(0°,0°))に向かって移動させる(ステップS2)。この際、制御部15は、予め設定された一定の速度(基準速度)でレーザ干渉計14を回転させる旨の駆動指令を、第一モーター161及び第二モーター171に出力する。なお、第一モーター161により駆動される方位角方向の基準速度(第一基準速度)と、第二モーター171により駆動される仰角方向の基準速度(第二基準速度)とは、それぞれ異なる速度であってもよい。
【0021】
次に、ゲイン設定手段155は、ステップS2のレーザ干渉計14の回転移動における速度信号(速度信号過渡応答)のサンプリングを実施する(ステップS3)。速度信号過渡応答のサンプリングは、例えば、第一エンコーダ162や第二エンコーダ172から出力される検出信号の単位時間当たりのパルス数(角度変化量)をカウントすることで得られる。第一エンコーダ162からの検出信号に基づいて方位角方向の角速度の速度信号過渡応答が検出でき、第二エンコーダ172からの検出信号に基づいて仰角方向の角速度の速度信号過渡応答が検出できる。また、サンプリングされた速度信号過渡応答は、制御部15に設けられたメモリ(図示略)等の記憶回路に記憶される。
【0022】
この後、レーザ干渉計14の方位角θがθ=θ(=0°)となり、仰角φがφ=φ(=0°)となると、原点が検出されたとして、第一モーター161及び第二モーター171の駆動を停止、つまり、レーザ干渉計14の移動を停止する(ステップS4)。
【0023】
そして、ゲイン設定手段155は、メモリに記憶された速度信号過渡応答を読み出し、その評価を行うとともにゲインを設定する(ステップS5;ゲイン設定工程)。図4は、速度信号過渡応答の評価方法を示すフローチャートである。
このステップS5では、ゲイン設定手段155は、まず、速度信号過渡応答がオーバーシュートしているか否かを判定する(ステップS51)。
ステップS51においてYesと判定される場合は、第一回転機構16の第一軸受機構163や第二回転機構17の第二軸受機構173の摩擦係数が小さくなっており、レーザ干渉計14の回転速度が、基準速度よりも速くなっているので、ゲインを減少させる(ステップS52)。
【0024】
一方、ステップS51においてNoと判定された場合、ゲイン設定手段155は、速度信号過渡応答の時定数が所定値以上となるか否かを判定する(ステップS53)。
ステップS53においてYesと判定される場合は、第一回転機構16における軸受(図示略)の摩擦係数が大きくなっており、レーザ干渉計14の回転速度が、基準速度となるまでの時間が長くなっているので、ゲインを増大させる(ステップS54)。
ステップS53においてNoと判定される場合は、現在の第一PGA153や第二PGA154で設定されているゲインが最適な値であるとして、ゲインの変更は行わない(ステップS55)。
【0025】
なお、上記の速度信号過渡応答の評価は、方位角方向、及び仰角方向の双方でそれぞれ実施される。すなわち、第一エンコーダ162から出力される検出信号に基づいた方位角方向の速度信号過渡応答の判定により、第一PGA153のゲインを設定する。例えば、方位角方向の速度信号過渡応答がオーバーシュートしている場合、第一PGA153のゲインを予め設定された値だけ減少させる。また、方位角方向の速度信号過渡応答の時定数が所定値以上である場合、第一PGA153のゲインを予め設定された値だけ増大させる。
また、第二エンコーダ172から出力される検出信号に基づいた仰角方向の速度信号過渡応答の判定により、第二PGA154のゲインを同様に設定する。
【0026】
以上の後、制御部15は、ステップS5において、ゲインが変更されたか否かを判定する(ステップS6)。ステップS6においてYesと判定された場合(ゲイン変更有)、制御部15は、第一モーター161及び第二モーター171を、例えば予め設定された駆動量だけ駆動させてレーザ干渉計14を所定位置に移動させ(ステップS7)、ステップS2に戻る。すなわち、再度、原点検出動作を実施させ、その際にサンプリングされる速度信号過渡応答に基づいて、設定されたゲインが最適であるか否かを判定する。
以上の処理を、ステップS6においてNoと判定されるまで繰り返し実施されることで、第一回転機構16及び第二回転機構17の駆動制御に係るゲインが最低な値に設定される。そして、ステップS6においてNoと判定されると、ステップS4で検出された原点を原点として決定し(ステップS8)、初期化モードを終了する(ステップS9)。
【0027】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態のレーザトラッカー10では、レーザ干渉計14を原点位置まで回転させて原点位置を検出する原点検出動作において、レーザ干渉計14を一定の基準速度で移動させる。そして、ゲイン設定手段155は、この原点位置検出動作における速度信号過渡応答がオーバーシュートしている場合にゲインを減少させ、速度信号過渡応答の時定数が長い場合にゲインを増大させる。これにより、第一回転機構16の第一軸受機構163や第二回転機構17の第二軸受機構173において、経年変化等による摩擦係数の変動が生じていたとしても、その影響をキャンセルする最適な制御ゲインを設定することができる。よって、レーザトラッカー10により標的31を追尾させる際の追尾性能の低下を抑制できる。
【0028】
本実施形態では、ゲイン設定手段155は、方位角方向の回転角度を検出する第一エンコーダ162からの検出信号に基づく速度信号過渡応答により、第一PGA153のゲインを設定する。また、仰角方向の回転角度を検出する第二エンコーダ172から出力された検出信号に基づく速度信号過渡応答により、第二PGA154のゲインを設定する。これにより、方位角方向に対応する第一モーター161の駆動制御のためのゲイン、及び仰角方向に対応する第二モーター171の駆動制御のためのゲインを、それぞれ適正に設定することができる。
【0029】
本実施形態では、制御部15は、電源投入時に初期化モードに動作モードを切り替えて、原点検出動作を実施させる。したがって、レーザトラッカー10により標的31を追尾させる追尾処理の前に、第一回転機構16や第二回転機構17の駆動制御系のゲインを最適な値に設定することができる。また、電源投入による起動時に毎回ゲイン調整が実施されることになるので、経年劣化による追尾性能の低下を確実に抑制できる。
【0030】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。
上述した第一実施形態では、ステップS2からステップS4でレーザ干渉計14を原点位置まで移動させた後に速度信号過渡応答に基づいたゲイン調整を実施した。これに対して、本実施形態では、ステップS2の後、ステップS4までの間にゲイン調整を実施する点で上記第一実施形態と相違する。
なお、本実施形態のレーザトラッカー10は、上述した第一実施形態と同様の構成を有するものであるため、各構成の詳細な説明は省略する。また、以降の説明においても、同一構成については同符号を付し、その説明は省略又は簡略化する。
【0031】
図5は、本実施形態のレーザトラッカー10のゲイン調整方法を示すフローチャートである。
図5に示すように、本実施形態では、第一実施形態と同様に、レーザトラッカー10に電源が投入されると、制御部15は、ステップS1で動作モードを初期化モードに切替え、ステップS2に示すように、レーザ干渉計14を原点位置に向かって一定の基準速度で回転移動させる。また、ステップS3に示すように、移動開始からの速度信号過渡応答を検出する。
【0032】
さらに、本実施形態では、制御部15は、ステップS2の移動開始からの経過時間を計測する。そして、制御部15は、ステップS2から所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS11)。
ステップS11においてYesと判定されると、レーザ干渉計14の移動を一次停止させ(ステップS12)、ステップS5に示す速度信号過渡応答の評価によるゲイン調整(第一実施形態のステップS51〜ステップS55)を実施する。この後、ステップS2に戻り、一時停止した位置からレーザ干渉計14を再び原点位置に向かって移動させるとともに速度信号過渡応答を検出する。
また、ステップS11において、Noと判定された場合は、制御部15は、原点位置が検出されたか否かを判定し(ステップS13)、ステップS13においてNoと判定された場合は、ステップS11に戻る。
つまり、本実施形態では、レーザ干渉計14が原点位置に移動するまで、周期的に移動と一時停止を繰り返して、一時停止される毎に検出された速度信号過渡応答に基づいたゲイン調整が実施される。
【0033】
一方、ステップS13においてYesと判定されると、第一実施形態と同様に、ステップS4からステップS9の処理が実施される。つまり、最後にステップS12において一時停止した位置から原点位置までの間に検出した速度信号過渡応答の評価及びゲイン調整を実施する。
【0034】
なお、図5に示す例では、ステップS6において、ゲイン変更有と判定された場合に、ステップS7により任意の位置にレーザ干渉計14を移動させて再度ゲイン調整の処理を繰り返す例を示すが、これに限られない。本実施形態では、周期的に複数回の速度信号過渡応答の評価を行ってゲイン調整を実施するので、ステップS6及びステップS7の処理を省略してもよい。
【0035】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態では、原点検出動作において、レーザ干渉計14の回転と停止とを周期的に繰り返してゲイン調整を実施する。この場合、例えば、レーザ干渉計14を原点位置に移動させた後にゲイン調整を実施する場合に比べて、早期に最適なゲインに収束させることができ、ゲイン調整に係る時間を短縮できる。
【0036】
[変形例]
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲の変形等は本発明に含まれるものである。
例えば、上記実施形態では、本発明のレーザ装置として、標的31に対してレーザ光を追尾させて、標的31と測定基準点Mとの距離を計測する装置を例示したが、これに限定されない。
例えば、測長機能を有さず、標的31を追尾するのみのレーザ追尾装置であってもよい。すなわち、上記実施形態のレーザ干渉計14の代わりに、レーザ光を出射するレーザ光源と、出射光と反射光とのずれ量を検出する光軸検出センサーとを有するレーザ追尾センサーを用いてもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、2軸回転機構により、レーザ干渉計14を方位角θ及び仰角φで回転させる構成を例示したが、これに限定されない。例えば、標的31が方位角方向にのみ変位する場合では、レーザ干渉計14を仰角方向に回転移動させる第二回転機構17が設けられていなくてもよい。この場合、レーザ干渉計14を、第一原点位置を検出する原点検出動作において一定速度で回転させ、その際の速度信号過渡応答によりゲインを設定すればよい。
【0038】
上記実施形態では、制御部15は、電源投入時に初期化モードを動作モードに切り替えて原点検出動作を実施し、その際の速度信号過渡応答に基づいてゲインを調整する例を示したが、これに限定されない。
例えば、操作者の操作によって原点位置を検出する原点検出動作が指令された際にも、上記実施形態と同様の処理を実施して、ゲイン調整を実施してもよい。この場合、レーザトラッカー10の長時間使用による各回転機構16,17の摩擦係数の変化にも対応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、レーザ光の出射するレーザ光源やレーザ干渉計を回転軸回りに回転させることでレーザ光の出射方向を変更するレーザ装置、レーザトラッカー等に利用できる。
【符号の説明】
【0040】
10…レーザトラッカー(レーザ装置)、11…ベース、12…第一支持部、13…第二支持部、14…レーザ干渉計(レーザ光源)、15…制御部、16…第一回転機構、17…第二回転機構、31…標的、141…光軸検出センサー、151…第一制御部(制御手段)、152…第二制御部(制御手段)、153…第一PGA、154…第二PGA、155…ゲイン設定手段、161…第一モーター(角度調整手段、第一角度調整手段)、162…第一エンコーダ(角度検出手段)、163…第一軸受機構、171…第二モーター(角度調整手段、第二角度調整手段)、172…第二エンコーダ(角度検出手段)、173…第二軸受機構、L1…第一軸(基準軸)、L2…第二軸(基準軸)。
図1
図2
図3
図4
図5