【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「血中分子・遺伝子診断自動化システムの研究開発(血中循環がん細胞検出技術)」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、癌を患っている患者における全生存予後を決定する方法であって、
1)該患者から得られた生物試料から標的細胞を濃縮して濃縮液を得る工程と、
2)前記濃縮液において細胞核を有し、かつ白血球マーカーおよび上皮系マーカーが実質的に発現していない細胞を光学的に検出し、計数する工程と、
3)計数された標的細胞数と全生存予後を関連づける工程
を含む、前記方法に関する。
【0015】
本発明において、対象は、癌を患っている患者において、全生存予後が決定される。患者が患っている癌は、任意の癌であることができ、原発癌でもよいし転移癌であってもよい。患者が患う癌としては、特に限定されないが、例えば下記の群から選ばれる。白血病、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫などの造血細胞悪性腫瘍、脳腫瘍、乳がん、子宮体がん、子宮頚がん、卵巣がん、食道癌、胃癌、虫垂癌、大腸癌、肝臓癌、胆嚢癌、胆管癌、膵臓癌、副腎癌、消化管間質腫瘍、中皮腫−口腔底癌、歯肉癌、舌癌、頬粘膜癌などの喉頭癌口腔癌、頭頚部癌、唾液腺癌、副鼻腔癌、甲状腺癌、腎臓がん、肺癌、骨肉腫、骨癌、前立腺癌、精巣腫瘍、腎臓癌、膀胱癌、皮膚癌、肛門癌などが挙げられる。患者は、治療を受けた後の患者であってもよいし、治療前の患者であってもよいが、治療予後を決定する観点から治療後の患者が好ましい。
【0016】
本発明において、生物試料とは、細胞を含む試料であれば任意の試料のことをいい、生体から取得された生体試料並びに細胞培養や組織培養などで得られる培養試料を含む。生体試料としては、尿、血液、血漿、血清、唾液、精液、糞便、痰、髄液、羊水、リンパ液、腹水、細胞の凝集物、腫瘍、リンパ節又は動脈といった器官や肝臓、肺、脾臓、腎臓、皮膚などの組織に由来する試料が挙げられる。培養試料としては、細胞培養物、組織培養物、又はそれらの培養液が挙げられる。これらの生物試料は、試料の種類に応じて、希釈、混合、分散、懸濁などの処理をおこなって、予め液体試料を調製することもできる。
【0017】
本発明は、生物試料中の生きた目的の細胞(以下、標的細胞とも言う)を検出することを目的としている。本発明において検出される標的細胞は、実験に応じて任意の細胞、例えば赤血球、白血球やES細胞、iPS細胞に代表される幹細胞、内皮細胞、細菌、微生物等を標的とすることができるが、癌の早期診断や転移診断を行なう観点では、主に癌細胞を標的とすることが好ましい。本発明で標的とされる癌細胞の中でも、血液やリンパ液などの循環器系を通じて遠隔転移する循環腫瘍細胞(CTC)を標的とすることが好ましい。このような癌細胞としては、例えば胃癌、大腸癌、食道癌、肝臓癌、肺癌、すい臓癌、膀胱癌、乳癌、口腔癌(扁平上皮癌)、子宮癌(上皮性腫瘍)、血液細胞癌(リンパ腫、白血病)由来の細胞が例示できる。CTC細胞を標的細胞とする場合、標的細胞は、細胞核を有し、かつ白血球マーカーおよび上皮系マーカーが実質的に発現していない細胞である。
【0018】
白血球マーカーおよび上皮系マーカーが実質的に発現していないとは、これらのマーカーの発現がほとんど見られないことをいい、例えば白血球マーカーを発現する白血球や、上皮系マーカーを発現する上皮細胞などのマーカー発現対照細胞と比較して、マーカーの発現が、半分未満、好ましくは1/3未満、より好ましくは1/5未満、さらにより好ましくは1/10未満である場合に実質的に発現しないとすることができる。白血球マーカーや上皮系マーカーを発現しないことが知られている陰性対照細胞、例えば血管内皮細胞、間葉系幹細胞と比較して同等の発現である細胞を、実質的に発現しないとすることができる。
【0019】
濃縮工程
濃縮工程は、生物試料から標的細胞を濃縮し、濃縮液を得る工程である。比重分離を利用することで、標的細胞を含む細胞懸濁液から、標的細胞を含む画分を分離回収することで、全細胞中の標的細胞の割合を増加することができる。標的細胞を含む画分を収容した部分と、細胞懸濁液中に含まれる夾雑物及び/又は標的細胞以外の細胞を含む画分を収容した部分とに分離可能な容器を使用することで、この比重分離による標的細胞を含む画分の分離回収が容易になる。一般に、生細胞と死細胞とでは比重が異なっていることから、生物試料の比重差を利用することで生細胞を死細胞から分離して濃縮することができる。また損傷を受けた細胞の比重が高くなることから、標的細胞の中でも無傷の細胞を分離出来る点からも好ましい(WO2014/192919号参照)。
【0020】
このような濃縮工程としては、具体的に密度勾配溶液を用いることで、標的細胞を濃縮することができる。生物試料の中で、例えば血液試料中には、赤血球、白血球、及び血小板をはじめ様々な細胞が存在しているが、後の工程において標的細胞の検出を行なうために、全細胞中の標的細胞の割合を増加させることが望ましい。濃縮工程は、密度勾配溶液に生物試料を重層し、遠心分離を行なうことで行なうことができる。生きた標的細胞が密度勾配溶液との境界から回収することができ、それにより生きた標的細胞を濃縮することができる。濃縮を達成できる遠心速度や密度勾配は当業者が適宜選択することができる。
【0021】
濃縮工程は、上記の通り生細胞を分離し濃縮することができる。このような濃縮工程では、生細胞を完全に分離することを意図するものではなく、生細胞の割合が増加しさえすれば濃縮工程としては十分である。生物試料中の死細胞の混入率によっても変化しうるが、濃縮工程後の死細胞の割合が、20%未満、好ましくは15%未満、さらに好ましくは10%未満、さらにより好ましくは5%未満になることが好ましい。
【0022】
濃縮工程を実施するための器具として、例えば
図1の細胞分離濃縮構造体を用いることができる。分離濃縮構造体1は、2及び3の2つの筒状部材からなる。分離濃縮構造体の上部を構成する筒状部材2は開口を有し、筒状部材3は、一端が閉塞して底部5を形成している。筒状部材2及び3は、それぞれ開口又は底部の反対の端に連通開口6が設けられ、該両部材が連結された場合に両筒状部材の内部空間が連通し、全体として一つの分離濃縮構造体を形成する。
【0023】
密度勾配溶液25は、分離濃縮構造体1において、その底部(筒状部材3の閉塞端5)から分離部近傍まで注入する(
図5)。より具体的には、分離濃縮構造体を静置した場合に、密度勾配溶液の液面高さが上側の筒状部材2の連通開口端より高くなる(筒状部材2側になる)、すなわち、下側の筒状部材(筒状部材3)を分離した際に、遠心分離操作により密度勾配溶液を通過して筒状部材3の閉塞端5側に移動した成分を密度勾配溶液の大半とともに筒状部材3に、密度勾配溶液上に維持された目的成分(細胞)を筒状部材2に維持された状態で分離できる程度、好ましくは1mm程度、高くなるよう注入する。その後、生物試料溶液26を密度勾配溶液25の上に重層し、開口部をキャップ4で密閉し(
図5)、遠心分離操作を行なう。遠心分離操作は、一般には1000から2000×g程度の低速で実施すれば良いが、目的とする細胞の密度や使用する密度勾配溶液の密度を勘案し、目的とする細胞が密度勾配溶液の上に維持される条件を選択する。例えば目的とする細胞(標的細胞)が生きた腫瘍細胞であり、上記のような遠心を行なうのであれば、腫瘍細胞の種類に応じて密度勾配溶液の密度を1.060〜1.095g/mLの範囲で設定することができる。密度勾配溶液の密度は、標的細胞の回収率を高める観点から、1.075g/mL以上が好ましく、1.080g/mL以上が好ましく、1.085g/mL以上がさらに好ましく、1.090g/mL以上がさらにより好ましい。標的細胞の濃縮率を高める観点から、1.100g/mL以下が好ましく、1.096g/mL以下がより好ましく、1.093g/mL以下がさらに好ましい。より具体的には密度勾配溶液の密度は、1.082〜1.091g/mLの範囲とすることが好ましい。また生理学的浸透圧は200〜450mOsm/kgの範囲で設定することができる。死細胞の混入率を低くさせる観点から、280mOsm/kg以上が好ましく、300mOsm/kg以上がさらにより好ましい。標的細胞の回収率を高める観点では、300mOsm/kg以上が好ましく、350mOsm/kg以上がさらに好ましく、380mOsm/kg以上がさらにより好ましい。より具体的には密度勾配溶液の浸透圧は、300〜400mOsm/kgがより好ましい範囲である。溶液のpHは、細胞が損傷を受けない範囲で任意に選択することができ、例えばpH6.8〜7.8の範囲に調整することが例示できる。
【0024】
遠心分離操作により、密度勾配溶液の密度より大きな密度を有する成分(例えば死滅した細胞など)は密度勾配溶液の勾配層を通過して下側の筒状部材(筒状部材3)中に移動する。一方、密度勾配溶液より小さな密度の目的とする細胞27(標的細胞、例えば生きた腫瘍細胞など)は、上側の筒状部材(筒状部材2)内の密度勾配溶液の上に維持される(
図6)。そこで開口部の密閉を維持したまま連結された筒状部材を
図1で示した状態となるように分離すれば、上側の筒状部材(筒状部材2)中に目的とする細胞(標的細胞)を含む分画27を回収することができる(
図6)。この分画は、例えばキャップ4を取り外すことによって密閉状態を開放することで下方へ滴下させる等すれば、特別の熟練を要することなく容易に回収できる。一方、下側の筒状部材(筒状部材3)中に移動した分画については、例えば当該筒状部材とともに廃棄等することができる。
【0025】
濃縮工程には、標的細胞を濃縮することを目的として、さらに選択工程を含んでもよい。このような選択工程としては、例えば血液試料を用いた場合に、溶血処理が行なわれる。溶血工程が行なわれることで、赤血球の細胞数を減じることができ、それにより標的細胞が選択的に濃縮される。かかる選択工程は、濃縮のための遠心分離の後に行なわれてもよいし、遠心分離前に行なわれてもよい。選択工程後に、さらに遠心分離が行なわれてもよい。
【0026】
溶血工程後、溶血処理液を遠心分離することで所望とする細胞を含むペレットを回収し、後述する検出工程を実施することができる。前記ペレットを、マンニトール、グルコース、スクロースなどの糖を含む溶液に懸濁させると、細胞へのダメージが少なくなるため好ましく、前記糖を含む溶液に塩化カルシウムや塩化マグネシウムなどの電解質や、BSAやカゼイン等のタンパク質、親水性高分子を結合したタンパク質をさらに含んでもよい。添加する糖の濃度は等張液となる濃度とすればよく、糖としてマンニトールを用いる場合は終濃度で250mMから350mMの間とすればよい。
【0027】
溶血工程後、溶血処理液を遠心分離することで分離回収した所望とする細胞は、例えば、スライドに塗布したり、顕微鏡や光学検出器などで観察したり、フローサイトメトリーを用いて検出すればよい。なお顕微鏡や光学検出器などにより観察することで細胞を検出する場合、前記細胞を含む懸濁液を展開工程に供することが好ましい。
【0028】
展開工程
展開工程は、濃縮工程を経て得られた濃縮液を基板上に展開することにより行なわれる。濃縮液を展開することで、濃縮液に含まれる細胞を検出に適した間隔で基板上に分布させることができる。非凝集状態で展開させることが好ましく、展開前に濃縮液を十分に懸濁しておくことが好ましい。展開工程は、細胞を検出に適した間隔で基板上に分布させることができれば任意の手法を用いることができ、単に濃縮液を基板上に適用するのみであってもよいが、必要に応じてさらなる処理を行なってもよい。一例として、濃縮液を基板上に適用後に、振動や誘導泳動力をあたえることにより、細胞を展開することもできる。細胞を均一に展開するために、基板上に保持孔があけられていることが好ましく、各保持孔につき、概ね一個の細胞を配置することで、その後の検出工程にて標的細胞の検出が容易になる。所望される細胞の展開密度に応じて、濃縮液中の細胞数を計数し、適切な細胞数が展開されるように希釈されてもよく、また展開に供する濃縮液を計量して展開することもできる。
【0029】
展開工程に用いる器具として、例えば
図2の生物試料検出構造体8を使用することができる。本構造体8は、後の検出工程において細胞の存在を示す物質により発せられる光を検出するために細胞をそれぞれ保持する複数の保持孔(貫通孔)7を有する構造体であって、平板状の基板9上に配置されている。また、前記基板および上蓋基板10は透光性材料からなり、前記基板の前記保持孔側および上蓋基板の表面に設けられた電極はITOなどの透明電極であることが好ましい。これにより、保持孔から発せられる光を基板の上側もしくは下側から観察することが可能となる。保持孔は絶縁体膜11から構成されているが、遮光膜12を備えていてもよい。遮光膜を設けることにより、例えば絶縁体膜自体の自家蛍光に起因するバックグラウンドノイズや隣接する保持孔からの漏れ光に起因するクロストークノイズなどの光ノイズを低減することができ、各保持孔内の観察対象物質により発せられる光のみを高感度かつ高精度に検出することができる。
【0030】
また、前記構造体は、前記保持孔の上に前記細胞を含む懸濁液を収容する収容部13を備えており、前記保持孔が前記収容部と連通するように設けられている。また収容部には細胞懸濁液を導入する導入口14、細胞懸濁液を排出する排出口15を備える。
【0031】
保持孔内へ細胞を捕捉する方法としては、誘電泳動力を利用する。この誘電泳動力により、生きた細胞を数秒程度の極めて短い時間で多数の保持孔に捕捉することができる。誘電泳動力を細胞に作用させるには、収容部及び保持孔を懸濁液で満たした状態で、保持孔の部分に電気力線が集中するような交流電界をかければよい。かかる交流電界を印加するための構成として、
図2の構造体の他に
図3に示すように、前記基板の前記保持孔側の表面に、互いに異なる保持孔に対応する位置にそれぞれ配置される一対の電極(櫛状電極18)を構成する電極16、17が設けられ、前記保持孔は、前記保持孔の上表面から前記基板上の櫛状電極まで延在する、という構成を採用することができる。いずれの構成の場合も、保持孔の底部に電極を露出させ、2つの電極の間に所定の波形を有する交流電圧を印加することで、誘電泳動力により懸濁液中の細胞を保持孔内へ捕捉することが可能である。また保持孔をアレイ状に配置することで、電極間に印加した電圧によって生じる電界がすべての保持孔にほぼ均等に生じることになり、すべての保持孔に対して同じように細胞を誘導し捕捉することができる。
【0032】
図4は本発明に用いる生物試料検出装置を示した図である。本発明に用いる生物試料検出装置の一例として、
図2に示した基板9、上蓋基板10と、前記電極に誘電泳動力24を発生させるための交流電圧を印加する交流電源19と、前記交流電源からの電圧印加後に、前記構造体の保持孔に捕捉された細胞23の存在を示す物質により発せられる光20を検出する検出部21とを備える。検出部の一例としては蛍光顕微鏡を例示できる。
【0033】
前記構造体一対の電極には、導電線22を介して交流電源が接続される。交流電源は、保持孔に細胞を移動させ、捕捉する誘電泳動力に必要な電界を発生させるのに十分な電圧を電極間に印加できればよい。具体的には、ピーク電圧が1Vから20V程度で、周波数10kHzから10MHz程度の正弦波、矩形波、三角波、台形波等の波形の交流電圧を印加できる電源が例示できる。特に生きた細胞を移動させ、1つの保持孔に1個の細胞のみを捕捉し得る周波数および波形として周波数100kHzから3MHzの矩形波を使用すること特に好ましい。かかる波形の交流電圧としては、矩形波は、波形が正弦波、三角波、台形波である場合に比べて、瞬時に設定したピーク電圧に到達するため、細胞を保持孔に向けて速やかに移動させることが可能となり、2個以上の細胞が重なるように保持孔に入る確率を低くできる(1つの保持孔に1個の細胞のみを捕捉し得る確率が高くなる)。細胞は電気的にコンデンサーと見なすことができるが、矩形波のピーク電圧が変化しない間は、保持孔に捕捉された細胞には電流が流れ難くなって電気力線が生じ難くなり、この結果、細胞を捕捉した保持孔には誘電泳動力が発生し難くなる。従って、一度保持孔に細胞が捕捉されると、別の細胞が同一の保持孔に捕捉される確率は低くなり、代わりに電気力線が生じ誘電泳動力が発生している他の保持孔(細胞が捕捉されていない、空の保持孔)に、順次、細胞が捕捉される。
【0034】
なお、本発明に用いる生物試料検出装置では、直流成分を有しない交流電圧を発生する電源を採用することが好ましい。直流成分を有する交流電圧を印加すると、直流成分により発生した静電気力(電気泳動力)により細胞が特定の方向に偏った力を受けて移動し、誘電泳動力による細胞捕捉が困難になるからである。また直流成分を有する交流電圧を印加すると、細胞を含有する懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じて発熱し、細胞が熱運動を起こすため誘電泳動力による動きを制御できなくなり、保持孔に移動させて捕捉することが困難になる。なお、直流成分を有する交流電圧とは、周波数デューティ比が50%でない電圧、オフセットを有する電圧、周期が極端に長い(例えば1秒以上)電圧などをいう。
【0035】
また前記保持孔に捕捉した生物試料に電圧を1回以上印加した後、生きた細胞を検出してもよい。電圧の印加方法に特に制限は無く、生物試料に電圧を印加できれば特に制限は無い。例えば本発明に用いる構造体に備えられた電極間に、電圧を印加することが例示できる。電圧は、直流電圧または交流電圧、もしくは直流電圧と交流電圧の両方を同時にまたは交互に印加してもよい。電圧の大きさ、印加時間等の条件は適宜設定することができ、生存活性の高い細胞も含め、ほとんどの細胞が死滅しなければ特に制限はない。例えば直流電圧の場合は、数V〜数十V、印加時間は数ナノ秒〜数ミリ秒程度が例示できる。直流電圧の電圧印加時間は、例えば電圧が50V程度の場合に数分以上印加すると、生存活性の高い細胞も含め、ほとんどの細胞が死滅してしまうため、最大でも1ミリ秒程度の印加時間が好ましい。たとえば、本発明の構造体を用いた場合、50Vで30マイクロ秒を例示できる。
【0036】
また交流電圧は、電圧の正負の値を数ナノ秒〜数百ミリ秒で繰り返す電圧であれば特に制限はない。例えばピーク電圧が1Vから20V程度で、周波数100kHzから3MHz程度の正弦波、矩形波、三角波、台形波等の波形の交流電圧を印加できる電源が例示できる。交流電圧の電圧印加時間は、電圧が1Vから20V程度の場合、30分以下の印加時間が好ましく、15分以下の印加時間がさらに好ましい。
【0037】
上記直流電圧または/かつ交流電圧を印加する繰り返し回数は1回以上であれば特に制限はないが、繰り返し回数が多いと生存活性の高い細胞も含め、ほとんどの細胞が死滅する。例えば、
図2の構造体を用いた場合、50Vで30マイクロ秒の直流電圧を印加する繰り返し回数、または、20V、1MHzの交流電圧を印加する繰り返し回数は、ともに3回程度を例示できる。
【0038】
このような電圧(直流電圧または/かつ交流電圧)を印加することにより、細胞膜の破損しつつある生存活性の弱い細胞を死滅させ、より高い生存活性を有する生きた細胞を選別することができる。また生物試料に電圧を印加するための電源は、誘電泳動を発生させる交流電源を用いてもよい。
【0039】
検出工程
本工程では、溶血処理液を遠心分離することで分離回収した細胞から、標的細胞内ではほとんど発現していないタンパク質を利用して当該細胞を検出すればよい。標的細胞内でほとんど発現していないタンパク質としては、上皮系細胞で特異的に発現する上皮系マーカーに関するタンパク質や白血球で特異的に発現する白血球マーカーに関するタンパク質などがあげられる。より具体的には上皮系マーカーとしてはサイトケラチン(CK)やEpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)、白血球マーカーとしてはCD45が例示できる。なおCKにはCK1からCK20まで20種類のタンパク質が知られているが、そのいずれもが本発明で利用可能な、上皮系細胞で発現するタンパク質に含まれる。本発明の検出工程では、白血球マーカー、上皮マーカー、又はその組合せを発現していない細胞を検出することで、標的細胞を検出することができる。さらに細胞核を有している細胞を標的細胞として検出することができる。
【0040】
また、所望とする細胞をさらに大きさにより検出してもよい。癌細胞の多くは赤血球、白血球と比較してサイズが大きいことが知られており(非特許文献:Rostagno P.et al.,Anticancer Res.,17(4A),2481−2485(1997))、当該細胞を赤血球および白血球と比較してサイズが大きな細胞で抽出することにより、上皮間葉転移を起こした腫瘍組織由来の間葉系細胞を精度よく検出することが可能となる。赤血球のサイズは、直径7〜8μm、厚さが2μm程度の円盤形であり、白血球は、種類に応じてサイズは異なるもののおよそ直径6〜15μm程度の球状である。一方で、癌細胞、特にCTCは、10〜30μm程度の大きさを有することから、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上の大きさの標的細胞として検出することができる。
【0041】
また、所望とする細胞のサイズが白血球とほぼ同等の場合、所望とする細胞をさらに細胞核の大きさにより検出してもよい。癌細胞の多くは白血球と比較して細胞核のサイズが大きいことが知られており、当該細胞を白血球と比較して細胞核のサイズが大きな細胞で抽出することにより、白血球と細胞サイズがほぼ同程度の所望とする細胞を精度よく検出することが可能となる。細胞核のサイズは細胞核領域を標識することの出来る試薬等を用いて、標識領域を比較してもよい。また、細胞核のサイズの比較は白血球であることが判別できた細胞(DAPI陽性/CD45陽性/CK陰性)を参照することで、細胞核のサイズが白血球と比較して大きいものを標的細胞として検出してもよい。本工程に用いる標的細胞の検出フローの一例を
図7に示す。
【0042】
細胞内でのタンパク質発現の検出方法に特に限定はなく、当該タンパク質を直接呈色試薬や蛍光試薬で染色させて検出してもよいし、当該タンパク質に対する標識化抗体、又は当該タンパク質に対する一次抗体とそれに対する標識二次抗体を用いて検出してもよいし、当該タンパク質の遺伝子を特異的に増幅して検出してもよい。中でも当該タンパク質に対する標識化抗体を用いて検出する方法は、当該タンパク質を簡便、高感度、かつ特異的に検出できる方法であり好ましい方法といえる。なお抗体に標識する物質も特に限定はなく、一例としてフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、Alexa Fluor(商品名)などの蛍光物質があげられる。検出工程では、検出された標的細胞を計数することができる。計数は、検出工程で取得された画像に基づいて、標的細胞を自動で読み取るソフトウェアにより行なわれてもよいし、手動で行なわれてもよい。
【0043】
関連付け工程
検出工程により検出された標的細胞数を、患者における予後と、当該患者における標的細胞数との関係を示す識別表やグラフなどに従い、患者の生存予後を決定することができる。そのような識別表やグラフは、予め患者群において標的細胞数を検査し、さらに予後を追跡調査することで決定することができる。本発明により決定される予後として、一例として、根治群、再発群、要治療群などに分類することができ、さらには1年生存率、3年生存率、5年生存率、及び10年生存率など、生存率により分類することもできる。この関連付け工程は、医師が行なわずに、医療補助者などが行なうことができるし、装置及びソフトウェア上で自動で関連付けすることができる。したがって、本発明の予後の決定方法は、診断のための予備的方法ということもできる。
【0044】
標的細胞数と、患者における予後との関係については、追跡試験を行なうことで決定することができる。そのような関係は、患者が患っている癌疾患の種類及びステージに応じて決定することもできる。治療後の患者血液所定量あたりの標的細胞数に応じて、1年生存率、3年生存率、5年生存率、及び10年生存率との関係を予め決定することで、予後を決定することができる。
【0045】
本発明の予後決定は、治療方針の決定や治療効果のモニタリングにおいて精度よい情報を提供することができる。本発明による予後決定は、患者が抱える病状における危険性や生存の確率に関する情報を医師に与え、最適な療法を選択させることが出来るために、不必要な治療を患者に行なうリスクを低減させることに繋がる。そのため、不必要な治療に対する費用の節約だけでなく、最適な治療選択による患者の予後改善に寄与することができる。また本発明の方法は、癌患者の予後診断だけでなく、腫瘍の早期発見や転移診断にも展開することが可能であり、癌患者以外の健常者に対する癌診断のスクリーニングにも展開することが可能である。本発明の予後決定方法に従い、要治療群や、低い生存率と決定された患者には、さらに抗癌剤の投与、放射線療法適用、手術など適切な医療行為をさらに行なうことができる。
【0046】
以下、本発明の癌患者の予後予測する方法の一例として、血液試料中に含まれる標的細胞を検出する方法を説明するが、本発明は本説明の内容に限定されるものではない。
(1)癌の疑いのある患者もしくは癌患者から血液を採取する。なお血液を採取する際、クエン酸、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの抗凝固剤を添加してもよい。また必要に応じ、採取した血液を生理食塩水などで希釈してもよい。
(2)採取した血液(または希釈した血液)の所定量を、密度勾配遠心を用いて、標的細胞を含む画分分離する。密度勾配遠心は細胞をその比重に基づき分離する方法であり、密度勾配を形成した媒体(密度勾配溶液)上に採取した血液(または希釈した血液)を重層した後、遠心分離を行ない、標的細胞を含む層(上層)を回収することで、不要な細胞やごみを除去した標的細胞を含む画分を得る。なお密度勾配遠心を行なう前に、採取した血液(または希釈した血液)に、不要な細胞である赤血球、白血球と結合可能な結合剤(例えば、RosetteSep(StemCell Technologies社製))を添加することもできる。前記結合剤は、赤血球、白血球、および/またはこれら細胞の表面抗原と結合することで細胞凝集体を形成し、これら細胞の密度を大きくすることができるため、密度勾配遠心法による標的細胞の分離を容易にする。
(3)(2)で得られた標的細胞を含む画分に塩化アンモニウムを含む溶液を添加して撹拌することで、当該画分に混入した赤血球を溶血させる。本操作により、分離回収した標的細胞の観察が良好になる。
(4)(3)で得られた溶血処理後の標的細胞を含む溶液を遠心分離することで血液成分を除去し、当該細胞をペレット状にした後、適切な溶液を用いて当該細胞を懸濁させる。
(5)(4)で調製した標的細胞を含む懸濁液を再度遠心分離し、当該細胞を含むペレットを回収する。なお必要に応じ、前記回収したペレットを溶液に再度懸濁させ、遠心分離する工程を追加してもよい。
(6)(5)で得られた濃縮された標的細胞を、例えばWO2011/149032号に記載の装置を用いて基板上に展開し、保持部へ保持させた後、当該細胞に対し保存および膜透過処理を施す。保存処理剤としては、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドドナー化合物(加水分解を受けることでホルムアルデヒドを放出可能な化合物)、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド類や、メタノール、エタノールなどのアルコール類や、重金属を含む溶液が例示できる。細胞膜透過処理剤としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類や、サポニンなどの界面活性剤が例示できる。
(7)抗体による非特異的な反応を防ぐため、保存および膜透過処理後の標的細胞を保持した保持部に対しタンパク質によるブロッキング処理を施した後、蛍光基が修飾された白血球が発現するタンパク質、もしくは上皮系細胞が発現するタンパク質に対する抗体や、細胞核を蛍光染色させる試薬を添加し、洗浄後、蛍光顕微鏡などで細胞の蛍光像および明視野像を観察する。白血球が発現するタンパク質に対する抗体としては、抗CD45抗体を用いることができる。また、上皮系細胞が発現するタンパク質に対する抗体としては、抗CK抗体や抗EpCAM抗体などを用いることができる。細胞核を蛍光染色させる試薬としては、4’,6−diamidino−2−phenylindole(DAPI)やHoechst 33342(商品名)などを用いることができる。
(8)観察した蛍光像および明視野像を基に標的細胞を検出することができる。標的細胞は、細胞核が標識されており、抗CD45抗体では標識されず、抗CK抗体でも標識されず、さらに赤血球や白血球と比較して明視野像での細胞の形状が大きい細胞である。
【0047】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は当該例に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
実施例1 CK陰性細胞数と病態の相関
(1)インフォームドコンセントを得た胃癌患者から、血液を治療経過に合わせて4回採取した。前記患者から採血した時点としては、以下の:
臓器転移は確認されず、リンパ節転移のみが認められたステージIVであり、化学療法はまだ行なわれていない状況(採血1)、
採血1から4週間経過しており、化学療法が2サイクル行なわれた後に、病状の変化が認められていない状況(採血2)、
採血2から4週間経過しており、CT画像診断による病状の変化が認められていない状況(採血3)、または、
採血3から7週間経過しており、摂食時に通過障害が発生する病状の悪化が認められた状況(採血4)、
で採血を行なった。また、採血4から半年以内に、当該患者は亡くなっている。
(2)(1)で採取した血液に、生理食塩水、白血球・血小板結合剤(RosetteSep、StemCell Technologies社製)を添加することで、希釈血液試料を調製した。
(3)調製した希釈血液試料を、密度1.091g/mLの密度勾配溶液に重層し、2000×gで10分間、室温にて遠心後、上清を回収した。
(4)(3)で回収した上清に、0.9%(w/v)塩化アンモニウムと0.1%(w/v)炭酸水素カリウムと含む溶血液で30mLまでメスアップし、300×gで10分間、室温にて遠心分離した。当該操作により上清に混入した赤血球が破壊され、分離回収した細胞の観察が良好になる。
(5)上清を除去後、分離回収した細胞を含むペレットを、300mMマンニトールを含む溶液30mLで再懸濁し、300×gで5分間、室温にて遠心分離後、上清を除去した。再度300mMマンニトールを含む溶液30mLで再懸濁した後、300×gで5分間、室温にて遠心分離し、上清を除去した。当該操作は、血液成分を除去し、標的細胞を濃縮するための操作である。
(6)(5)で上清を除去した細胞を含む懸濁液を細胞診断チップに展開し、交流電圧を3分間印加することで前記チップが有する保持部に細胞を保持させた。本実施例で用いた細胞診断チップは、直径30μmで深さ40μmの微細孔からなる微細孔を複数有した絶縁体と前記絶縁体と下部電極基板の間に設置した遮光性のクロム膜とからなる保持部を、厚さ1mmのスペーサーと下部電極基板とで挟んだ構造であり、前記スペーサーを上部電極基板と下部電極基板とで挟んだ構造である。
(7)(6)の条件で交流電圧を印加しながら、0.01(w/v)%のポリ−L−リジンを含む300mMマンニトール水溶液を導入し、3分間静置後、前記交流電圧の印加を停止し、前記水溶液を吸引除去した。
(8)50%(v/v)エタノールと1%(w/v)ホルムアルデヒドを含む水溶液(以下、細胞膜透過試薬)を導入し、10分間静置することで、細胞膜を透過させ、保持部に導入した細胞を標本化した。
(9)細胞膜透過試薬を吸引除去し、PBS(Phosphate buffered saline)を導入することで、残留した細胞膜透過試薬を洗浄した。
(10)細胞膜内外のタンパク質と特異的に結合可能な蛍光標識された抗体と、細胞核を標識する蛍光試薬(DAPI:4’,6−diamidino−2−phenylindole(株式会社同仁化学研究所))を含む水溶液(以下、標識試薬)を導入し、30分間静置した。なお前記標識された抗体として、白血球表面に発現しているCD45に対する抗体(Beckman−Coulter)と、上皮系細胞の細胞質内で発現しているCKに対する抗体(Miltenyi Biotec)を用いている。
(11)標識試薬を吸引除去し、PBSを導入することで、残留した標識試薬を除去した。
(12)(11)で標識した細胞を含む細胞診断チップを蛍光顕微鏡のステージ上に載置した後、複数の保持孔に捕捉した全ての細胞を観察するために保持部全体の撮像を行なった。これにはコンピューター制御式電動ステージ、電子増倍型冷却CCDカメラ(EMCCD;FLOVEL,ADT−100)を装備した蛍光顕微鏡(IX71; Olympus)を用いた。画像取得及び解析ソフトウェアにはLabVIEW(National Instruments)を用いた。
(13)(12)で撮像した細胞の中から、
細胞核を有していることを示すDAPIで染色されている細胞(DAPI陽性)であり、
白血球で発現しているCD45に対する抗体で染色されていない細胞(CD45陰性)であり、
上皮系の性質を有していることを示すCKに対する抗体で染色されていない細胞(CK陰性)であり、かつ、
赤血球や白血球と比較して明視野像での細胞の形状が大きい細胞である、上記特徴を満たした標的細胞(DAPI陽性/CD45陰性/CK陰性細胞)を計数した。
【0049】
比較例1 DAPI陽性/CD45陰性/CK陽性細胞の検出(その1)
実施例1(13)において撮像した細胞の中から、DAPI陽性であり、CD45陰性であり、かつCK陽性である、DAPI陽性/CD45陰性/CK陽性細胞を計数した他は、実施例1と同様な方法で、DAPI陽性/CD45陰性/CK陽性細胞の計数を行なった。
【0050】
比較例2 セルサーチ法での検出(その1)
実施例1(1)で採血した血液を用いて、上皮系細胞マーカーであるEpCAMを発現している細胞を濃縮し、DAPI陽性であり、CD45陰性であり、かつCK陽性である細胞の測定が可能な先行技術であるCellSearch(セルサーチ)システム(Janssen Diagnostics)を用いて、CTCの計数を行なった。
【0051】
実施例1、比較例1および比較例2での検出細胞数の結果を表1に示す。病状が悪化した採血4において、実施例1でのCK陰性細胞数は、比較例1(0個/3mL血液)および比較例2(0個/3mL血液)で計数した細胞数と比較して、23個/3mL血液と多く、病状との相関が確認された。また、実施例1でのCK陰性細胞の検出数の経時的変化は、比較例1および比較例2では検出細胞数が減少していったのに対して、増加していく傾向が見られた。この結果は、患者の予後と相関しており、精度のよい予後予測が可能であることを示唆している。さらに、比較例1の採血2では化学療法による癌組織崩壊に伴うCK陽性細胞の検出数が増加したのに対して、実施例1ではCK陰性細胞数の検出増加は見られなかった。この結果は、化学療法による組織崩壊がCK陰性細胞の検出数の急激な増加に影響を与えないことを示しており、治療効果を予測する上で誤った情報を与えるリスクの回避が可能であることを示している。
【表1】
【0052】
比較例3 血液検査項目との比較
実施例1(1)で採血した血液を用いて、消化器官での腫瘍診断時の診断マーカーとして従来から用いられているCEAとCA19−9の値を測定した。
比較例3の結果を表2に示す。CA19−9に関しては、正常であることを示す基準値(37U/mL)以下の値をすべての採血時のサンプルが示しており、病態との相関は認められなかった。CEAに関しては、正常であることを示す基準値(5ng/mL)以上の値をすべての採血時のサンプルが示した。しかし、採血1から採血3までは経時的に値が低下していき、一見治療効果があるように見られたが、採血4では病態が悪化し、CEAの値も上昇する傾向となった。この結果は、CEAの測定では治療効果を含めた予後を予測することは困難であることを示している。
【表2】
【0053】
実施例2 CK陰性細胞数と病態進行期間との相関(その1)
実施例1(1)と同様に癌患者からインフォームドコンセントを得て血液を採取した。癌患者としては、以下の:
腫瘍の大きさの和が20%以上増加かつ絶対値においても5mm以上増加、または新病変の出現が認められる状態(PD:Progressive Disease)までの期間が、採血後のCTC検出評価から133日後であったステージIVの乳癌患者A、
PDまでの期間が、採血後のCTC検出評価から295日後であったステージIVの乳癌患者B、
PDまでの期間が、採血後のCTC検出評価から17日後であった終末期のステージIVの口腔癌患者A、
PDまでの期間が、採血後のCTC検出評価から83日後であった終末期のステージIVの口腔癌患者B、
PDまでの期間が、採血後のCTC検出評価から91日後であったステージIVの小細胞肺癌患者A、
PDまでの期間が、採血後のCTC検出評価から268日後であったステージIVの小細胞肺癌患者B、
PDまでの期間が、採血後のCTC検出評価から137日後であったステージIBの非小細胞肺癌患者A、または
採血後のCTC検出評価から250日間にPDと認められなかったステージIAの非小細胞肺癌患者B、
から採血を行なった。次に、実施例1(2)〜(12)と同様な方法で撮像を行い、撮像した細胞の中から、DAPI陽性であり、CD45陰性であり、かつCK陰性である、標的細胞(DAPI陽性/CD45陰性/CK陰性細胞)を計数した。
【0054】
実施例3 CK陰性細胞数と病態進行期間との相関(その2)
実施例2で採血した血液を用いて、撮像された画像において、DAPI陽性であり、CD45陰性であり、CK陰性であり、かつ赤血球や白血球と比較して明視野像での細胞の形状が大きい細胞である、上記特徴を満たした標的細胞(DAPI陽性/CD45陰性/CK陰性細胞)を計数した。
【0055】
比較例4 DAPI陽性/CD45陰性/CK陽性細胞の検出(その2)
実施例2で採血した血液を用いて、撮像された画像において、DAPI陽性であり、CD45陰性であり、かつCK陽性である、DAPI陽性/CD45陰性/CK陽性細胞を計数した。
【0056】
比較例5 セルサーチ法での検出(その2)
実施例2で採血した血液を用いた他は、比較例2と同様な方法で、CellSearch(セルサーチ)システム(Janssen Diagnostics)を用いて、CTCの計数を行なった。
【0057】
実施例2、実施例3、比較例4および比較例5での検出細胞数の結果を表3に示す。実施例2での乳癌患者において、PDまでの期間が長く予後の良い乳癌患者Bで計数したCK陰性細胞数209個/3mL血液と比較して、PDまでの期間が短く予後の悪い乳癌患者Aでは1926個/3mL血液と多く、病態進行期間との相関が確認された。同様に、実施例2での小細胞肺癌患者においては、PDまでの期間が長く予後の良い小細胞肺癌患者Bで計数した細胞数204個/3mL血液と比較して、PDまでの期間が短く予後の悪い小細胞肺癌患者Aでは2994個/3mL血液と多くなり、病態進行期間との相関が確認された。また非小細胞肺癌患者においては、PDまでの期間が長く予後の良い非小細胞肺癌患者Bで計数した細胞数130個/3mL血液と比較して、PDまでの期間が短く予後の悪い非小細胞肺癌患者Aでは460個/3mL血液と多くなり、病態進行期間との相関が確認された。一方、口腔癌患者においては、PDまでの期間が長く予後の良い口腔癌患者Bで計数した細胞数1316個/3mL血液と比較して、PDまでの期間が短く予後の悪い口腔癌患者Aでは679個/3mL血液と少なくなり、病態進行期間との相関は確認されなかった。この口腔癌患者の結果は、予後の悪い口腔癌患者Aおよび予後の良い口腔癌患者BどちらもPDまでの期間が短いために、予後との相関が得られなかったと考えられる。この口腔癌を除く癌腫において検出されたCK陰性細胞数が多いと病態の悪化までの期間が短くなり、病態進行期間との相関が確認された。
【0058】
実施例3での乳癌患者において、PDまでの期間が長く予後の良い乳癌患者Bで計数したCK陰性細胞数1個/3mL血液と比較して、PDまでの期間が短く予後の悪い乳癌患者Aでは22個/3mL血液と多く、病態進行期間との相関が確認された。同様に、実施例3での口腔癌患者においては、PDまでの期間が長く予後の良い口腔癌患者Bで計数した細胞数1個/3mL血液と比較して、PDまでの期間が短く予後の悪い口腔癌患者Aでは44個/3mL血液と多くなり、病態進行期間との相関が確認された。また、小細胞肺癌患者においては、PDまでの期間が長く予後の良い小細胞肺癌患者Bで計数した細胞数2個/3mL血液と比較して、PDまでの期間が短く予後の悪い小細胞肺癌患者Aでは41個/3mL血液と多くなり、病態進行期間との相関が確認された。さらに非小細胞肺癌患者においては、PDまでの期間が長く予後の良い非小細胞肺癌患者Bで計数した細胞数6個/3mL血液と比較して、PDまでの期間が短く予後の悪い非小細胞肺癌患者Aでは12個/3mL血液と多くなり、病態進行期間との相関が確認された。どの癌腫においても検出された細胞の形状が大きいCK陰性細胞数が多いと病態の悪化までの期間が短くなり、病態進行期間との相関が確認された。
【0059】
一方、比較例4でのCK陽性細胞の検出数において、口腔癌でのみPDまでの期間が長く予後の良い口腔癌患者Bで計数した細胞数0個/3mL血液と比較して、PDまでの期間が短く予後の悪い口腔癌患者Aでは26個/3mL血液と多くなったが、乳癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌では検出数がすべて0個/3mL血液となり、病態進行期間との相関は確認されなかった。
【0060】
また、比較例5での検出細胞数において、小細胞肺癌でのみPDまでの期間が長く予後の良い小細胞肺癌患者Bで計数した細胞数0個/3mL血液と比較して、PDまでの期間が短く予後の悪い小細胞肺癌患者Aでは4個/3mL血液と多くなったが、乳癌、口腔癌、非小細胞肺癌では検出数がすべて0個/3mL血液となり、病態進行期間との相関は確認されなかった。
【0061】
これらの結果は、癌腫に関わらずCK陰性細胞数が患者の予後と相関していることを示しており、精度のよい予後予測が可能であることを示唆している。
【表3】