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特許6937009全固体アルカリ金属二次電池用の固体電解質層及び全固体アルカリ金属二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937009
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】全固体アルカリ金属二次電池用の固体電解質層及び全固体アルカリ金属二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20210909BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210909BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20210909BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20210909BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/052
   H01M10/054
   H01M4/40
   H01B1/06 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-94161(P2017-94161)
(22)【出願日】2017年5月10日
(65)【公開番号】特開2018-190658(P2018-190658A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2020年4月14日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度国立研究開発法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発特別重点技術領域「次世代蓄電池」 委託研究産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】林 晃敏
(72)【発明者】
【氏名】辰巳砂 昌弘
【審査官】 川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−219722(JP,A)
【文献】 特開2009−193803(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/187448(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01B 1/00−1/24
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属負極、固体電解質層及び正極とから構成される全固体二次電池用の固体電解質層であって、
前記金属負極が、Li及びNaから選択されるアルカリ金属の負極であり、
前記固体電解質層が、
(i)AS−M(AはLi及びNaから選択され、MはP、Si、Ge、B、Al、Sn、Sb及びGaから選択され、xとyは、Mの種類に応じて、化学量論比を与える数である)で表される固体電解質及び、
(ii)前記アルカリ金属の無機化合物
を含み、
前記アルカリ金属の無機化合物が、前記アルカリ金属の電位を0Vとすると、0Vと、前記固体電解質の電位窓の下限との間の範囲に含まれ又は、前記範囲と重複する電位窓を有し、
前記アルカリ金属の無機化合物が、100℃において、前記固体電解質のみの層の安定作動可能電流密度を1とすると、前記固体電解質層の安定作動可能電流密度を1より大きくし得る量で前記固体電解質層に含まれることを特徴とする全固体アルカリ金属二次電池用の固体電解質層。
【請求項2】
前記アルカリ金属の無機化合物が、前記アルカリ金属がLiの場合、LiO、LiS、LiP、LiN及びLiX(Xは、F、Cl、Br及びIから選択される)から選択され、前記アルカリ金属がNaの場合、NaO、NaS、NaP、NaN及びNaX(Xは、F、Cl、Br及びIから選択される)から選択される請求項1に記載の全固体アルカリ金属二次電池用の固体電解質層。
【請求項3】
前記AS−MがLiS−Pであり、前記アルカリ金属の無機化合物がLiO、LiS、LiP、LiN及びLiX(Xは、F、Cl、Br及びIから選択される)から選択され、前記AS−Mとアルカリ金属の無機化合物が1:99〜99:1(モル比)の割合で含まれる請求項1又は2に記載の全固体アルカリ金属二次電池用の固体電解質層。
【請求項4】
前記AS−Mが、ASとMとを50:50〜90:10(モル比)の割合で含む請求項1〜のいずれか1つに記載の全固体アルカリ金属二次電池用の固体電解質層。
【請求項5】
正極及び金属負極と、正極と金属負極間に位置する固体電解質層とを備え、
前記金属負極が、Li及びNaから選択されるアルカリ金属の負極であり、
前記固体電解質層が、請求項1〜のいずれか1つに記載の固体電解質層であることを
特徴とする全固体アルカリ金属二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体アルカリ金属二次電池用の固体電解質層及び全固体アルカリ金属二次電池に関する。更に詳しくは、本発明は、Li及びNaから選択されるアルカリ金属から構成される金属負極を備えた全固体アルカリ金属二次電池用の固体電解質層及び全固体アルカリ金属二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高電圧、高容量を有するため、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ノートパソコン、電気自動車等の電源として多用されている。一般に流通しているリチウムイオン二次電池は、電解質として、電解塩を非水系溶媒に溶解した液状電解質を使用している。非水系溶媒には、可燃性の溶媒が多く含まれているため、安全性の確保が望まれている。
安全性を確保するために、非水系溶媒を使用せずに、電解質を固体材料から形成する、いわゆる固体電解質層を使用した全固体リチウム二次電池が提案されている。この全固体リチウム二次電池は、正極及び負極と、正極と負極間に位置する固体電解質層とを備えた構成を有している。固体電解質層を構成する材料としては、硫化物系のリチウム含有固体電解質が知られている。
【0003】
全固体リチウム二次電池の負極に使用する材料として、種々の材料が提案されている。まず、考えられるのは金属リチウムそのものを負極として使用することである。金属リチウムからなる負極は、最も高い理論容量を全固体リチウム二次電池に付与できる。
しかし、金属リチウムからなる負極は、充放電を繰り返すことで、不均一な溶解析出により、デンドライトが発生し、このデンドライトが全固体リチウム二次電池を短絡させることが知られている。そのため、金属リチウムの不均一な溶解析出を抑制するために、インジウム(In)のような他の金属とリチウムとの合金を負極として使用することが、全固体リチウム二次電池の技術分野では通常行われている(K. Takada et al., Solid State Ionics, 86-88(1996), 877-882:非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K. Takada et al., Solid State Ionics, 86-88(1996), 877-882
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他の金属とリチウムとの合金を負極として使用すると、デンドライトの発生はある程度抑制できる。しかし、他の金属を含むことで、負極の容量が低下してしまう。そのため、金属リチウムそのものを負極として使用しつつ、デンドライトの発生を抑制した全固体リチウム二次電池の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者等は、金属リチウムの溶解析出を均一にすることでデンドライトの発生を抑制するという理論の下で検討した結果、硫化物系のリチウム含有固体電解質と特定のリチウムの無機化合物とを含む固体電解質層を使用すれば、デンドライトの発生が抑制された全固体リチウム二次電池を提供できることを見いだし本発明に到った。なお、デンドライトの発生の抑制は、金属リチウムだけの課題ではなく、金属ナトリウムでの課題でもあると発明者等は考えている。
【0007】
かくして本発明によれば、金属負極、固体電解質層及び正極とから構成される全固体二次電池用の固体電解質層であって、
前記金属負極が、Li及びNaから選択されるアルカリ金属の負極であり、
前記固体電解質層が、
(i)AS−M(AはLi及びNaから選択され、MはP、Si、Ge、B、Al、Sn、Sb及びGaから選択され、xとyは、Mの種類に応じて、化学量論比を与える数である)で表される固体電解質及び、
(ii)前記アルカリ金属の無機化合物
を含み、
前記アルカリ金属の無機化合物が、前記アルカリ金属の電位を0Vとすると、0Vと、前記固体電解質の電位窓の下限との間の範囲に含まれ又は、前記範囲と重複する電位窓を有することを特徴とする全固体アルカリ金属二次電池用の固体電解質層が提供される。
また、本発明によれば、正極及び金属負極と、正極と金属負極間に位置する固体電解質層とを備え、
前記金属負極が、Li及びNaから選択されるアルカリ金属の負極であり、
前記固体電解質層が、上記固体電解質層であることを特徴とする全固体アルカリ金属二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アルカリ金属を金属負極として使用してもデンドライトの発生が抑制され、かつ高容量の全固体アルカリ金属二次電池及び、その電池に使用される固体電解質層を提供できる。
また、以下の構成のいずれかを有する場合、デンドライトの発生がより抑制され、かつより高容量の全固体アルカリ金属二次電池を提供できる。
(1)アルカリ金属の無機化合物が、アルカリ金属がLiの場合、LiO、LiS、LiP、LiN及びLiX(Xは、F、Cl、Br及びIから選択される)から選択され、アルカリ金属がNaの場合、NaO、NaS、NaP、NaN及びNaX(Xは、F、Cl、Br及びIから選択される)から選択される。
(2)アルカリ金属の無機化合物が、100℃において、固体電解質のみ層の安定作動可能電流密度を1とすると、固体電解質層の安定作動可能電流密度を1より大きくし得る量で固体電解質層に含まれる。
(3)AS−MがLiS−Pであり、アルカリ金属の無機化合物がLiO、LiS、LiP、LiN及びLiX(Xは、F、Cl、Br及びIから選択される)から選択され、AS−Mとアルカリ金属の無機化合物が1:99〜99:1(モル比)の割合で含まれる。
(4)AS−Mが、ASとMとを50:50〜90:10(モル比)の割合で含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】アルカリ金属の無機化合物と固体電解質の電位窓の関係を概説するためのグラフである。
図2】比較例1の定電流サイクル試験結果を示すグラフである。
図3】比較例2の定電流サイクル試験結果を示すグラフである。
図4】比較例4の定電流サイクル試験結果を示すグラフである。
図5】実施例1の定電流サイクル試験結果を示すグラフである。
図6】実施例2の定電流サイクル試験結果を示すグラフである。
図7図6の拡大図である。
図8】実施例4の定電流サイクル試験結果を示すグラフである。
図9】実施例2の定電流サイクル試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(全固体アルカリ金属二次電池用の固体電解質層)
本発明の固体電解質層は、金属負極、固体電解質層及び正極とから構成される全固体二次電池用の固体電解質層である。特に、金属負極は、Li及びNaから選択されるアルカリ金属の負極である。アルカリ金属を金属負極として使用すると、デンドライトの発生が懸念されるが、本発明の固体電解質は、デンドライトの発生を抑制することが可能である。そのため、本発明の固体電解質層は、高容量の全固体二次電池を提供可能である。
固体電解質層は、
(i)AS−M(AはLi及びNaから選択され、MはP、Si、Ge、B、Al、Sn、Sb及びGaから選択され、xとyは、Mの種類に応じて、化学量論比を与える数である)で表される固体電解質及び、
(ii)アルカリ金属の無機化合物
を含む。
【0011】
(1)固体電解質
固体電解質は、AS−Mで表される。ASは、Li2S又はNa2Sである。
は、硫化物であり、MはP、Si、Ge、B、Al、Sn、Sb及びGaから選択され、xとyは、Mの種類に応じて、化学量論比を与える数である。Mとして使用可能な6種の元素は、種々の価数をとり得、その価数に応じてxとyを設定できる。例えばPは3価及び5価、Siは4価、Geは2価及び4価、Bは3価、Alは3価、Snは2価及び4価、Sbは3価及び5価、Gaは3価をとり得る。具体的なMとしては、P、SiS、GeS、B、Al、Ga、SnS、SnS、Sb、Sb等が挙げられる。この内、Pが特に好ましい。これら具体的なMは、1種のみ使用してもよく、2種以上併用してもよい。例えば、2種併用する場合は、AS−Mx1y1−Mx2y2(x1、x2、y1及びy2はx及びyと同じ)で表され、具体例としては、AS−P−GeSが挙げられる。
【0012】
SとMの配合割合は、固体電解質として使用可能でありさえすれば、特に限定されない。
SとMとの比は、50:50〜90:10(モル比)の割合であることが好ましい。Li2S又はNa2Sの比が50より小さい場合や90より大きい場合、イオン伝導度が低くなることがある。より好ましい比は60:40〜80:20であり、更に好ましい比は70:30〜80:20である。
固体電解質は、ガラス状であっても、ガラスセラミックス状であってもよい。なお、ガラス状とは、実質的に非結晶状態を意味する。ここで、実質的にとは、100%非結晶状態に加えて、結晶状態の固体電解質が微分散している場合を含んでいる。ガラスセラミックス状とは、ガラス状の固体電解質をガラス転移点以上の温度で加熱することにより生じる状態を意味する。
ガラスセラミックス状の固体電解質は、非晶質状態のガラス成分中に、結晶質部が分散した状態であってもよい。結晶質部の割合は、ガラスセラミックス全体に対して、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。なお、結晶質部の割合は固体NMRにより測定可能である。
更に、ガラスセラミックス状の固体電解質は、対応するガラス状の固体電解質に存在していたガラス転移点が存在しないものであることが好ましい。
【0013】
(2)アルカリ金属の無機化合物
アルカリ金属の無機化合物は、アルカリ金属の電位を0Vとすると、0Vと、固体電解質の電位窓の下限との間の範囲に含まれ又は、範囲と重複する電位窓を有する化合物である。アルカリ金属の無機化合物と固体電解質の電位窓の関係を図1を用いて概説する。図1において、LiGPSから右側の棒グラフが固体電解質の電位窓を意味し、LiPから左側の棒グラフがアルカリ金属の無機化合物の電位窓を意味する。例えば、固体電解質として、75LiS−25P(LiPSに対応)を使用する場合、固体電解質の電位窓の下限は、約2Vである(アルカリ金属の電位を0Vとした場合)。この場合、選択可能なアルカリ金属の無機化合物は、0Vと2Vの範囲に含まれ又はこの範囲と重複する電位窓を有する化合物である。図1において、含まれる電位窓を有する化合物は、LiN及びLiPである。また、重複する電位窓を有する化合物は、LiS、LiO、LiI、LiCl及びLiFである。なお、図1中、LiGPSはLi10GeP12、LiZOはLiLaZr12、LiTOはLi0.33La0.56TiO、LATPはLi1.3Ti1.7Al0.3(PO、LAGPはLi1.5Al0.5Ge1.5(PO、LiSiCONはLi3.5Zn0.25GeOをそれぞれ意味する。
アルカリ金属の無機化合物は、アルカリ金属がLiの場合、LiO、LiS、LiP、LiN及びLiX(Xは、F、Cl、Br及びIから選択される)から選択でき、アルカリ金属がNaの場合、NaO、NaS、NaP、NaN及びNaX(Xは、F、Cl、Br及びIから選択される)から選択できる。
【0014】
(3)アルカリ金属の無機化合物の含有量
固体電解質層中のアルカリ金属の無機化合物の含有量は、充放電の繰り返しにより、アルカリ金属の負極からのデンドライトの発生を抑制できさえすれば、特に限定されない。アルカリ金属の無機化合物は、少なくとも固体電解質層中に含まれていさえすれば、デンドライトの発生を抑制できるため、好適な含有量の下限は、固体電解質100質量部に対して、0質量部より多い量である。また、好適な含有量の上限は、固体電解質の量が少なくなると固体電解質層の導電率が低下するため、100質量部未満である。
アルカリ金属の無機化合物の含有量は、次の量より多い量であることが好ましい。即ち、アルカリ金属の無機化合物は、100℃において、固体電解質のみ層の安定作動可能電流密度を1とすると、固体電解質層の安定作動可能電流密度を1より大きくし得る量で固体電解質層に含まれることが好ましい。この量で含まれることで、安定に作動可能な全固体アルカリ金属二次電池を提供できる。
【0015】
ここで、安定作動可能電流密度とは、定電流サイクル試験に固体電解質層を付した際の短絡直前の電流密度を意味する。具体的には、固体電解質層を一対のアルカリ金属製の電極で挟んだセルを用意する。一方の電極から他方の電極に向けて、1時間特定の電流密度の電流を印加した後、他方の電極から一方の電極に向けて、1時間前記と同じ電流密度の電流を印加する。この2つの印加を1回のサイクルAとして5回繰り返す。次に、一方の電極から他方の電極に向けて、5時間前記と同じ電流密度の電流を印加した後、他方の電極から一方の電極に向けて、5時間前記と同じ電流密度の電流を印加する。この2つの印加を1回のサイクルBとして5回繰り返す。5回のサイクルAの印加と続く5回のサイクルBの印加をまとめてサイクルセットと称する。徐々に電流密度を上げながら、サイクルセットを繰り返し、短絡直前の電流密度を安定作動可能電流密度と称する。
例えば、LiPSガラス製の固体電解質層の安定作動可能電流密度は0.38mAcm−2であり、54LiPS・46LiIガラス製の固体電解質層の安定作動可能電流密度は1.53mAcm−2である。従って、固体電解質のみの層の安定作動可能電流密度を1とすると、固体電解質層の安定作動可能電流密度が約4(1.53÷0.38)を示す量で固体電解質層に含まれていることになる。
【0016】
アルカリ金属の無機化合物の含有量は、次の量より少ない量であることが好ましい。即ち、導電率をa.b×10(aは1〜9の整数、bは0〜9の整数、Tは乗数)で表すと、アルカリ金属の無機化合物と固体電解質とを含む固体電解質層の導電率の乗数が、固体電解質のみの層の導電率の乗数以上となる量でアルカリ金属の無機化合物が含まれていることが好ましい。この量で含まれることで、安定に作動可能な全固体アルカリ金属二次電池を提供できる。
より具体的には、固体電解質(AS−M)がLiS−Pであり、アルカリ金属の無機化合物がLiO、LiS、LiP、LiN及びLiX(Xは、F、Cl、Br及びIから選択される)から選択される場合、AS−Mとアルカリ金属の無機化合物は1:99〜99:1(モル比)の割合で固体電解質層に含まれていることが好ましい。このモル比は、10:90〜95:5であることがより好ましく、50:50〜90:10であることが更に好ましい。
【0017】
(4)他の成分
固体電解質層は、固体電解質及びアルカリ金属の無機化合物以外に、全固体アルカリ金属二次電池に使用されている他の成分を含んでいてもよい。例えば、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Ti、Fe、Zn及びBi等の金属酸化物、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン等の結着材が挙げられる。
【0018】
(5)固体電解質層の製造方法
固体電解質の製造方法は、ASとM及び必要に応じて他の成分を混合可能な方法であれば、特に限定されない。特に、より均一に各成分を混合する観点から、メカニカルミリング処理により製造することが好ましい。
メカニカルミリング処理は、均一に各成分を混合できさえすれば、処理装置及び処理条件には特に限定されない。
処理装置としては、通常ボールミルが使用できる。ボールミルは、大きな機械的エネルギーが得られるため好ましい。ボールミルの中でも、遊星型ボールミルは、ポットが自転回転すると共に、台盤が自転の向きと逆方向に公転回転するため、高い衝撃エネルギーを効率よく発生できるので、好ましい。
【0019】
処理条件は、使用する処理装置に応じて適宜設定できる。例えば、ボールミルを使用する場合、回転速度が大きいほど及び/又は処理時間が長いほど、原料を均一に混合できる。なお、「及び/又は」は、A及び/又はBで表現すると、A、B又は、A及びBを意味する。具体的には、遊星型ボールミルを使用する場合、50〜600回転/分の回転速度、0.1〜20時間の処理時間、1〜100kWh/原料1kgの条件が挙げられる。より好ましい処理条件としては、200〜500回転/分の回転速度、1〜10時間の処理時間、6〜50kWh/原料1kgが挙げられる。
上記メカニカルミリング処理により、ガラス状の固体電解質が得られる。ガラスセラミックス状の固体電解質は、ガラス状の固体電解質をガラス転移点以上の温度で加熱することにより得ることができる。
【0020】
次に、固体電解質とアルカリ金属の無機化合物とが混合される。混合方法は、上記と同様、より均一に各成分を混合する観点から、メカニカルミリング処理であることが好ましい。この処理に使用する装置及び条件は、上記固体電解質の製造に使用する装置及び条件と同様とすることができる。
固体電解質とアルカリ金属の無機化合物とは、例えば、所定の厚さになるようにプレスすることにより固体電解質層とすることができる。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1〜1mmとすることができる。
【0021】
(全固体アルカリ金属二次電池)
全固体アルカリ金属二次電池は、正極及び金属負極と、正極と金属負極間に位置する固体電解質層とを備えている。
金属負極は、Li及びNaから選択されるアルカリ金属の負極である。
固体電解質層は、上記固体電解質とアルカリ金属の無機化合物とを含む固体電解質層である。
【0022】
正極は、特に限定されず、全固体アルカリ金属二次電池に通常使用される正極をいずれも使用できる。
正極は、通常、正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、Liの負極の場合は、LiTi12、LiCoO、LiMnO、LiVO、LiCrO、LiNiO、LiNiMn、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、S、LiS等が挙げられる。また、Naの負極の場合は、NaTi12、NaCoO、NaMnO、NaVO、NaCrO、NaNiO、NaNiMn、NaNi1/3Co1/3Mn1/3、S、NaS等が挙げられる。正極活物質はLiNbO、NaNbO、Al、NiS等の材料で被覆されていてもよい。
【0023】
更に、正極は、必要に応じて、結着剤、導電剤等を含んでいてもよい。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン等が挙げられる。
導電剤としては、天然黒鉛、人工黒鉛、アセチレンブラック、気相成長カーボンファィバ(VGCF)等が挙げられる。
正極は、例えば、正極活物質及び、任意に結着剤、導電剤、固体電解質等を混合し、得られた混合物をプレスすることで、ペレット状として得ることができる。
正極及び/又は負極は、SUS(ステンレススチール)、アルミニウム又は銅等の集電体上に形成されていてもよい。
全固体二次電池は、例えば、正極と、固体電解質層と、金属負極とを積層し、プレスすることにより得ることができる。
【0024】
金属負極と固体電解質層との間には、Au、Pt、In、Al、Sn、Si等から選択される金属層を設けてもよい。また、金属層は、正極と固体電解質層との間に設けられていてもよい。
金属層は、金属負極及び/又は正極の一部を覆っていてもよいが、よりサイクル寿命を延ばす観点から、全面を覆っていることが好ましい。
金属層は、気相法により形成できる。気相法により形成することで、固体電解質層の表面に密着性よく、かつ緻密に形成できる。その結果、充放電時のLiの溶解及び析出により生じるデンドライトの発生を抑制できるため、サイクル寿命を延ばすことが可能となる。また、金属層表面の凹凸が、固体電解質層表面の凹凸より小さくなるように、金属層が形成されていることが好ましい。このように形成することで、固体電解質層と金属負極及び/又は正極との密着性を向上でき、その結果、長サイクル寿命の全固体リチウム二次電池を提供できる。
気相法としては、蒸着法、CVD法、スパッタ法等が挙げられる。この内、蒸着法が簡便である。
金属層の厚さは、Liの溶解及び析出の可逆性を改善できさえすれば特に限定されない。例えば、0.01〜10μmの厚さとすることができる。より好ましい厚さは、0.03〜0.1μmである。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。以下の実施例及び比較例において、LiSは三津和化学薬品社製(純度99.9%)、Pはアルドリッチ社製(純度99.9%)、LiIはアルドリッチ社製(純度99.99%)、LiNはアルドリッチ社製(純度99.5%)の試薬をそれぞれ使用した。また、以下の実施例及び比較例において、ガラス状のLiPS及びガラスセラミック状のLiPSと60LiS−25Pは、以下の手順で製造した。
(ガラス状のLiPSの製造例)
LiS及びPを75:25のモル比となるように計量し、遊星型ボールミルに投入した。投入後、メカニカルミリング処理することで、ガラス状のLiPS(75NaS・25P)を得た。
遊星型ボールミルは、Fritsch社製Pulverisette P−7を使用し、ポット及びボールはZrO製であり、45mlのポット内に直径4mmのボールが500個入っているミルを使用した。メカニカルミリング処理は、510rpmの回転速度、室温、乾燥窒素グローブボックス内で20時間行った。
【0026】
なお、上記製造法は、Akitoshi Hayashi et al., Journal of Non−Crystalline Solids 356 (2010) 2670−2673のExperimentalの記載に準じている。得られたガラス状のLiPSは、ミリングによる反応によって立方晶LiPSが一部生成しているものの、ガラス成分を含んでいることをDTA測定により確認した。
【0027】
(ガラスセラミック状のLiPSの製造例)
上記ガラス状のLiPSを、室温(25℃)から結晶化温度以上の220℃に向かって加熱することで、ガラスセラミック状のLiPSを得た。更に、220℃に達してから、室温(約25℃)に向かってガラスセラミック状のLiPSを冷却した。
【0028】
(ガラスセラミック状の60LiS−25Pの製造例)
LiS及びPを60:25のモル比となるように計量したこと以外は、ガラス状のLiPSの製造例と同様にして、ガラス状の60LiS−25Pを得た。ガラス状の60LiS−25Pを使用すること以外は、ガラスセラミック状のLiPSの製造例と同様にして、ガラスセラミック状の60LiS−25Pを得た。
【0029】
比較例1
100mg秤量した固体電解質としてのガラス状のLiPSを面積0.785cmの成形部を有するペレット成形機を用いて、370MPaの圧力でプレスすることで、ペレット状の固体電解質層(厚さ約1mm)を得た。
比較例2
100mg秤量したガラスセラミック状のLiPSを使用すること以外は、比較例1と同様にして、ペレット状の固体電解質層(厚さ約1mm)を得た。
比較例3
100mg秤量したガラスセラミック状の60LiS−25Pを使用すること以外は、比較例1と同様にして、ペレット状の固体電解質層(厚さ約1mm)を得た。
比較例4
100mg秤量したLiIを使用すること以外は、比較例1と同様にして、ペレット状の固体電解質層(厚さ約1mm)を得た。
【0030】
実施例1
ガラス状のLiPSとLiIとを11:89のモル比となるように計量し、遊星型ボールミルに投入した。投入後、メカニカルミリング処理した。処理物100mgを使用すること以外は、比較例1と同様にして、ペレット状の固体電解質層(厚さ約1mm)を得た。
遊星型ボールミルは、Fritsch社製Pulverisette P−7を使用し、ポット及びボールはZrO製であり、45mlのポット内に直径4mmのボールが500個入っているミルを使用した。メカニカルミリング処理は、510rpmの回転速度、室温、乾燥窒素グローブボックス内で20時間行った。
実施例2
ガラス状のLiPSとLiIとを54:46のモル比となるように計量した後、実施例1と同様にして処理した。処理物100mgを使用すること以外は、比較例1と同様にして、ペレット状の固体電解質層(厚さ約1mm)を得た。
実施例3
ガラスセラミック状のLiPSとLiNとを50:10のモル比となるように計量した後、実施例1と同様にして処理した。処理物100mgを使用すること以外は、比較例1と同様にして、ペレット状の固体電解質層(厚さ約1mm)を得た。
実施例4
ガラスセラミック状の60LiS−25PとLiNとを1:10のモル比となるように計量した後、実施例1と同様にして処理した。処理物100mgを使用すること以外は、比較例1と同様にして、ペレット状の固体電解質層(厚さ約1mm)を得た。
【0031】
実施例1〜4及び比較例1〜4の固体電解質層の安定作動可能電流密度を以下の手順の定電流サイクル試験により測定した。
固体電解質層を一対のリチウム電極(リチウム箔製、厚さ0.25mm)と一対のステンレス箔製の集電体とで挟んだ積層体を用意した。一対の集電体のそれぞれから端子を延在させた後、アルミラミネートフィルム(生産日本社製ラミジップ)に真空封入した。封入後、冷間製水圧成形機(NPaシステム社製CIP−H)を用いて、80MPaの静水圧でプレスすることにより、リチウム電極対称セルを得た。100℃の雰囲気下で、一方の電極から他方の電極に向けて、1時間特定の電流密度の電流を印加した後、他方の電極から一方の電極に向けて、1時間前記と同じ電流密度の電流を印加した。この2つの印加を1回のサイクルAとして5回繰り返した。次に、一方の電極から他方の電極に向けて、5時間前記と同じ電流密度の電流を印加した後、他方の電極から一方の電極に向けて、5時間前記と同じ電流密度の電流を印加した。この2つの印加を1回のサイクルBとして5回繰り返した。5回のサイクルAの印加と続く5回のサイクルBの印加をまとめてサイクルセットと称した。徐々に電流密度を上げながら、サイクルセットを繰り返し、短絡直前の電流密度を安定作動可能電流密度と称した。電流密度(mAcm−2)は、0.13、0.25、0.38、0.51、0.64、0.76、0.89、1.02、1.15、1.28、1.40、1.53、1.66の順で上げた。
また、導電率測定器(ソーラトロン社製SI1260)を用いて、導電率(室温及び100℃)も測定した。
安定動作可能電流密度及び導電率を表1に示す。表中、Gはガラス状、GCはガラスセラミック状の固体電解質を意味する。
【0032】
【表1】
【0033】
比較例3の固体電解質層は、0.38mAcm−2の電流密度で、安定に作動させることができないことを確認した。従って、比較例3の固体電解質層の安定動作可能電流密度は、0.38mAcm−2未満である。また、比較例4の固体電解質層は、図4から、安定動作可能電流密度が0.13mAcm−2未満であることが分かる。
表1において、実施例1及び2と比較例1との安定動作可能電流密度、実施例3と比較例2との安定動作可能電流密度、実施例4と比較例3との安定動作可能電流密度のそれぞれを比較すると、固体電解質層がアルカリ金属の無機化合物を含むことで、安定動作可能電流密度を顕著に向上できることが分かる。
比較例1、2及び4、実施例1、2及び4の定電流サイクル試験結果を示すグラフを図2〜6及び8に示す。図6の拡大図を図7に示す。図の縦軸はリチウム金属の電位基準のセル電位を、横軸は経過時間(時)を意味する。これら図から、固体電解質にアルカリ金属の無機化合物を加えることで、金属リチウムを負極として使用しても、充放電の繰り返しにデンドライトの発生を抑制しつつ長時間耐え得る固体電解質層を提供できることが分かる。
【0034】
実施例2の定電流サイクル試験に用いたものと同じリチウム電極対称セルを用意した。電流密度を1.25mAcm−2に、電流の印加時間を4時間にそれぞれ固定すること以外は、上記と同様の定電流サイクル試験にこのセルを付した。結果を図9に示す。図9から、800時間を超える定電流サイクル試験に付しても、サイクル波形が変化せず、安定して金属リチウムの溶解析出を生じ得る固体電解質層が得られていることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9