特許第6937143号(P6937143)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937143
(24)【登録日】2021年9月1日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】化学除染装置及び化学除染方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20210909BHJP
【FI】
   G21F9/28 525Z
   G21F9/28 525D
   G21F9/28 525B
   G21F9/28 521B
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-57398(P2017-57398)
(22)【出願日】2017年3月23日
(65)【公開番号】特開2018-159647(P2018-159647A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石田 一成
(72)【発明者】
【氏名】細川 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 淳司
(72)【発明者】
【氏名】大内 智
(72)【発明者】
【氏名】坪川 尚史
(72)【発明者】
【氏名】風間 正彦
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−134407(JP,A)
【文献】 特開2004−325177(JP,A)
【文献】 特開2015−052512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
G21F 9/06
G21F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントを構成する部材を化学除染するための化学除染装置であって、
上流から順に、前記部材の表面の酸化皮膜を溶解するための酸化除染剤及び還元除染剤を前記部材に供給可能な除染剤供給装置と、
前記部材に供給された前記還元除染剤に紫外線を照射する紫外線照射装置と、
前記紫外線照射装置によって紫外線が照射された前記還元除染剤に含まれる金属イオンを除去するイオン交換樹脂塔と、
前記イオン交換樹脂塔によって金属イオンが除去された前記還元除染剤に酸化剤を供給する酸化剤供給装置と、
前記酸化剤供給装置によって前記酸化剤が供給された前記還元除染剤を分解する触媒塔と、を備え、
前記紫外線照射装置によって前記還元除染剤に含まれる3価のFeイオンの少なくとも一部が2価のFeイオンに還元された前記還元除染剤が前記イオン交換樹脂塔に供給され、
前記還元除染剤がヒドラジンを含む有機酸であり、
さらに、前記部材と前記紫外線照射装置との間にヒドラジン分解装置が設けられ、
前記ヒドラジン分解装置によってヒドラジンが分解された前記還元除染剤が前記イオン交換樹脂塔に供給される構成を有することを特徴とする化学除染装置。
【請求項2】
請求項記載の化学除染装置において、
前記ヒドラジン分解装置が、前記還元除染剤に酸化剤を供給するヒドラジン分解用酸化剤供給装置と、前記ヒドラジン分解用酸化剤供給装置によって前記酸化剤が供給された前記還元除染剤を触媒によって分解するヒドラジン分解用触媒塔を有することを特徴とする化学除染装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化学除染装置において、
前記還元除染剤がシュウ酸水溶液又はシュウ酸及びマロン酸を含む水溶液であることを特徴とする化学除染装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の化学除染装置において、
前記紫外線照射装置が低圧水銀ランプであることを特徴とする化学除染装置。
【請求項5】
原子力プラントを構成する部材を化学除染するための化学除染方法であって、
前記部材の表面に還元除染剤を供給して前記部材の表面の酸化皮膜を溶解する還元除染剤供給工程と、
前記還元除染剤に含まれる金属イオンを除去する浄化工程と、
前記浄化工程によって前記金属イオンが除去された前記還元除染剤に酸化剤を供給した後、触媒によって分解する還元除染剤分解工程と、を有し、
前記浄化工程は、前記還元除染剤に紫外線を照射して前記還元除染剤に含まれる3価の
Feイオンの少なくとも一部を2価のFeイオンに還元する紫外線照射工程と、
前記紫外線照射工程によって生成された2価のFeイオンをイオン交換樹脂にて除去する工程と、を有し、
前記還元除染剤が、ヒドラジンを含む有機酸であり、
さらに、前記浄化工程の前に、前記還元除染剤に含まれる前記ヒドラジンを分解するヒドラジン分解工程を有することを特徴とする化学除染方法。
【請求項6】
請求項記載の化学除染方法において、
前記ヒドラジン分解工程は、前記還元除染剤に酸化剤を供給するヒドラジン分解用酸化剤供給工程と、前記ヒドラジン分解用酸化剤供給工程によって前記酸化剤が供給された前記還元除染剤を触媒によって分解するヒドラジン触媒分解工程を有することを特徴とする化学除染方法。
【請求項7】
請求項またはに記載の化学除染方法において、
前記還元除染剤がシュウ酸水溶液又はシュウ酸及びマロン酸を含む水溶液であることを特徴とする化学除染方法。
【請求項8】
請求項またはに記載の化学除染方法において、
前記紫外線照射工程において用いられる紫外線照射装置が低圧水銀ランプであることを特徴とする化学除染方法。
【請求項9】
請求項またはに記載の化学除染方法において、
前記還元除染剤供給工程の前に、前記部材の表面に酸化除染剤を供給して前記部材の表面の酸化皮膜を溶解する酸化除染剤供給工程を有することを特徴とする化学除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学除染装置及び化学除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントにおいて、定期検査作業時及びプラント廃止措置におけるプラント解体時等の作業者の被ばく線量を低減するために、また、プラント解体時に発生する放射性廃棄物の量を低減するために、従来、放射性核種に汚染された原子力プラントの構成部材(機器及び配管等)の表面から化学薬品により放射性核種を除去する作業(以下、「化学除染」と称する。)が行われている。
【0003】
化学除染は、一般に、酸化除染剤を使用する除染(酸化除染)と還元除染剤を使用する除染(還元除染)を交互に複数回繰り返して実施される。酸化除染は、酸化除染剤(例えば、過マンガン酸カリウム)によって主に部材表面のクロム(Cr)酸化皮膜を除去する。還元除染は、還元除染剤(例えば、シュウ酸等を含む有機酸)によって、主に部材表面の鉄(Fe)酸化皮膜を除去する。このとき、部材への影響を考慮して、ヒドラジンの添加によって還元除染剤のpHが調整される。
【0004】
除染剤(酸化剤及び還元剤)に溶解させた金属イオンや放射性核種は、還元除染中にイオン交換樹脂を充填したイオン交換樹脂塔に通水して、イオン交換樹脂に吸着させて除去する。酸化除染に使用された過マンガン酸カリウム等は、酸化除染後に還元剤であるシュウ酸と反応してマンガンイオンに還元分解され、イオン交換樹脂塔に吸着されて除去される。還元除染に使用されたシュウ酸及びヒドラジンは、後段の触媒塔において分解される。
【0005】
従来の化学除染方法及び装置に関する技術として、例えば特許文献1がある。特許文献1には、放射性核種に汚染された金属部材表面から放射性核種を化学的に除去する化学除染法において、少なくとも2種類以上の成分を含有する還元除染剤を用いて還元除染する工程、上記工程の後に還元除染剤の中の少なくとも2種類以上の化学物質を分解する分解装置を用いて還元除染剤の分解を行う工程を含むことを特徴とする化学除染方法及び装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−105295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
還元除染によって還元剤に溶解したFeイオンが触媒塔に付着すると、Fe酸化物として触媒に付着し、触媒寿命を低下させる。また、触媒にFe酸化物が付着すると、シュウ酸及びヒドラジンの分解率が低下することが報告されている(参考文献1)。
【0008】
参考文献1:K.Ishida他、「Low Corrosive Chemial Decontamination Method Using pH Control,(II)Decomposition of Reducing Agent by Using Catalyst with Hydrogen Peroxide」、Journal of Nuclear Science and Technology、39巻、9号、p.941(2002年)
したがって、還元除染後、イオン交換樹脂において、還元除染剤中に溶解したFeイオンの除去効率をより一層高めることが望まれている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、還元除染によって還元除染剤に溶解したFeイオンのイオン交換樹脂における除去効率を高め、後段の触媒塔の触媒へのFe酸化物の付着を抑制することが可能な化学除染装置及び化学除染方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するため、原子力プラントを構成する部材を化学除染するための化学除染装置であって、上流から順に、部材の表面の酸化皮膜を溶解するための酸化除染剤及び還元除染剤を部材に供給可能な除染剤供給装置と、部材に供給された還元除染剤に紫外線を照射する紫外線照射装置と、紫外線照射装置によって紫外線が照射された還元除染剤に含まれる金属イオンを除去するイオン交換樹脂塔と、イオン交換樹脂塔によって金属イオンが除去された還元除染剤に酸化剤を供給する酸化剤供給装置と、酸化剤供給装置によって酸化剤が供給された還元除染剤を分解する触媒塔と、を備える化学除染装置を提供する。紫外線照射装置によって、還元除染剤に含まれる3価のFeイオンの少なくとも一部を2価のFeイオンに還元した上で、イオン交換樹脂塔に供給する構成を有する。そして、上記還元除染剤がヒドラジンを含む有機酸であり、部材と紫外線照射装置との間にヒドラジン分解装置が設けられ、該ヒドラジン分解装置によってヒドラジンが分解された還元除染剤がイオン交換樹脂塔に供給される構成を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記目的を達成するため、原子力プラントを構成する部材を化学除染するための化学除染方法であって、部材の表面に還元除染剤を供給して部材の表面の酸化皮膜を溶解する還元除染剤供給工程と、還元除染剤に含まれる金属イオンを除去する浄化工程と、浄化工程によって上記金属イオンが除去された還元除染剤に酸化剤を供給した後、触媒によって分解する還元除染剤分解工程と、を有する化学除染方法を提供する。浄化工程は、還元除染剤に紫外線を照射して還元除染剤に含まれる3価のFeイオンの少なくとも一部を2価のFeイオンに還元する紫外線照射工程と、その後紫外線照射工程によって生成された2価のFeイオンをイオン交換樹脂にて除去する工程と、を有し、上記還元除染剤が、ヒドラジンを含む有機酸であり、さらに、浄化工程の前に、還元除染剤に含まれるヒドラジンを分解するヒドラジン分解工程を有する。
【0012】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、還元除染によって還元除染剤に溶解したFeイオンのイオン交換樹脂における除去効率を高め、後段の触媒塔の触媒へのFe酸化物の付着を抑制することが可能な化学除染装置及び化学除染方法を提供することができる。
【0014】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】還元除染剤の陽イオン交換樹脂通水前後のFeイオン濃度の変化を表すグラフ。
図2】還元除染剤中のFeイオンの除去速度に及ぼす紫外線照射の影響を調べる実験に用いた装置を示す模式図。
図3】各時間でのFeイオン濃度を初期Feイオン濃度で除した値と通水時間との関係を示すグラフ。
図4】実施例1に係る化学除染装置を示す模式図である。
図5図4の酸化剤供給装置8の詳細を示す模式図である。
図6】実施例2に係る化学除染装置を示す模式図である。
図7図6のヒドラジン分解装置24の詳細を示す模式図である。
図8】本発明に係る化学除染方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本発明の基本思想]
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、還元除染剤に含まれるFeイオンのうち、3価のFeイオンよりも2価のFeイオンの方が、イオン交換樹脂で除去されやすいことを見出した。つまり、還元除染剤をイオン交換樹脂塔に導く前に、還元除染剤中に含まれる3価のFeイオンを2価に変換すれば、還元除染剤に含まれるFeイオンのイオン交換樹脂塔における除去効率を高めることができ、その後、還元除染剤を後段の触媒塔に通水した際に、触媒へのFe酸化物の付着を防止することができることができることを見出した。本発明は、該知見に基づくものである。
【0017】
上記知見を見出した実験について、より詳細に説明する。図1は還元除染剤の陽イオン交換樹脂通水前後のFeイオン濃度の変化を表すグラフである。還元除染剤は、シュウ酸2000mg/L及びヒドラジン600mg/Lを含む水溶液に、Fe酸化物(Fe)を溶解させたものを準備した。この水溶液を、ヒドラジンで飽和吸着させた陽イオン交換樹脂に通水し、通水前後で2価のFeイオン及び3価のFeイオン濃度がそれぞれどのように変化するかを調査した。
【0018】
図1に示すように、2価のFeイオンは陽イオン交換樹脂で約85%除去されたが、3価のFeイオンは約30%しか除去されなかった。すなわち、2価のFeイオンの方が3価のFeイオンよりも陽イオン交換樹脂によって除去されやすいため、還元除染剤中に含まれる3価の鉄イオンを2価の鉄イオンに変換した上で陽イオン交換樹脂に通水すれば、陽イオン交換樹脂におけるFeイオンの除去効果が高まることがわかった。
【0019】
上記知見は、本発明において見出された新規なものである。2価のFeイオンの方が3価のFeイオンよりも陽イオン交換樹脂によって除去されやすい理由については明らかではないが、2価のFeイオンと還元除染剤に含まれるシュウ酸との錯イオンの方が、3価のFeイオンとシュウ酸との錯イオンよりも分子構造のかさが低いことが影響しているものと考えられる。
【0020】
次に、還元除染剤中の3価のFeイオンを2価のFeイオンに変換させる方法について、検討した。従来、紫外線照射により、Feイオンの価数が3価から2価に還元されることが知られている(参考文献2)。参考文献2には、紫外線照射により下記式1の反応が生じ、続いて、式2の反応が生じることでFeイオンの価数が3価から2価に還元されることが示されている。下記式1及び式2において、FeIIIが3価の鉄イオンを表し、FeIIが2価の鉄イオンを表す。
【0021】
FeIII(C3−→FeII(C2−+・C…式1
・C+FeIII(C3−
→2CO+FeII(C2−+C2−…式2
参考文献2:篠塚則子、「遷移金属錯イオンの可視・紫外吸収スペクトルと光化学反応」、生産研究、18巻、10号、p.263(1966年)
上述したように、紫外線照射により還元除染剤中の3価のFeイオンを2価のFeイオンに変換する方法は、廃棄物も増えず、プラントに設置するのに簡便であると考えられる。そこで、本発明では、還元除染剤に紫外線を照射して3価のFeイオンを2価のFeイオンに変換した上で、還元除染剤を陽イオン交換樹脂塔に通水することとした。
【0022】
紫外線照射によるFeイオンの陽イオン交換樹脂塔における除去効果を実証する実験を行った。図2は還元除染剤中のFeイオンの除去速度に及ぼす紫外線照射の影響を調べる試験に用いた装置を示す模式図である。図2に示すように、試験装置40は、還元除染剤タンク41、ポンプ42、紫外線照射装置43及びイオン交換樹脂塔(水素型イオン交換樹脂塔)44を有する。タンク41中に還元除染剤が充填されており、ポンプ42を介して紫外線照射装置43及びイオン交換樹脂塔44の順に通水される。
【0023】
具体的には、シュウ酸鉄アンモニウム((NHFe(C)を溶解させた水溶液を水素型の陽イオン交換樹脂に通水してアンモニウムイオン(NH)を除去することにより生成したシュウ酸鉄水溶液に、シュウ酸を添加して、シュウ酸濃度を2000mg/L、Feイオン70mg/Lを含む還元除染剤2Lを作製した。作製した水溶液には、2価のFeイオンが18mg/L含まれていた。次に、図2の還元除染剤タンク41に上記水溶液を収容し、還元除染剤を流量3.6L/hのポンプ42で紫外線照射装置43とイオン交換樹脂塔44を循環させながら、紫外線照射の有無によりFeイオン濃度がどのように変化するかを調べた。紫外線照射には6Wの低圧水銀ランプを使用した。
【0024】
図3は各時間でのFeイオン濃度を初期Feイオン濃度で除した値と通水時間との関係を示すグラフである。図3に示すように、紫外線を照射しない場合(白抜き四角プロット)は、Feイオンがほとんど陽イオン交換樹脂で除去されなかった。一方、紫外線を照射すると(ハッチング四角プロット)、Feイオン濃度が時間とともに低下していることから、Feイオンがイオン交換樹脂塔44で除去されていることが分かった。
【0025】
さらに、マロン酸を添加してマロン酸濃度を5400mg/L、シュウ酸濃度を2000mg/LとしたFeイオン70mg/Lを含む還元除染剤について試験した結果(ハッチング三角プロット)、シュウ酸濃度を2000mg/Lとした鉄イオン70mg/Lを含む還元除染剤と同様に紫外線照射すると、通水時間が2時間の時点でシュウ酸鉄単独の場合よりもFeイオン濃度が低下することがわかった。
【0026】
以上の試験結果より、シュウ酸を含む還元除染剤に含まれるFeイオンの価数を紫外線照射により3価から2価に還元した上で陽イオン交換樹脂塔に通水し、Feイオンを除去してから触媒塔に通水してシュウ酸を分解する構成にすれば、還元除染剤の触媒分解時における触媒へのFe酸化物析出を防止できることが分かった。さらに、還元除染剤にマロン酸を添加することで、Feイオンの除去効率が更に高まることがわかった。
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0028】
[化学除染装置]
図4は実施例1に係る化学除染装置を示す模式図である。図1に示すように、本実施例に係る化学除染装置23aは、除染対象1にポンプ2と配管3を接続して、循環流路を形成している。配管3には、上流から順に、循環流路を流れる水溶液(系統水)の温度を上げるための加熱器4、系統水に紫外線を照射するための紫外線照射装置5、系統水中に溶解した金属イオンや放射性核種を吸着して系統水中から除去するためのイオン交換樹脂を充填したイオン交換樹脂塔6、酸化剤と還元除染剤との化学反応を促進するための触媒を充填した触媒塔7が設けられている。イオン交換樹脂塔6には、H型イオン交換樹脂を用いることが望ましい。紫外線照射装置5の紫外線源は、低圧水銀ランプが望ましい。また、触媒塔7に使用する触媒としては0.5%Ru担持活性炭触媒が望ましい。
【0029】
さらに、紫外線照射装置5、陽イオン交換樹脂塔6及び触媒塔7をバイパスさせる配管10と、イオン交換樹脂塔6と触媒塔7の間において、配管3と配管10を接続する配管11を有する。
【0030】
紫外線照射装置5及びイオン交換樹脂塔6に流れる系統水量を調整するために、配管3と配管10の接続部と紫外線照射装置5の間に流量調整弁15が設けられ、配管3と配管10の接続部と配管10と配管11の接続部の間に流量調整弁14が設けられている。また、触媒塔7に流れる系統水量を調整するために、イオン交換樹脂塔6と触媒塔7を接続する配管3と配管11の接続部の下流に流量調整弁16が設けられ、配管11に流量調整弁17が設けられている。配管10を流れる系統水が触媒塔7に流れ込まないように、配管11の流量調整弁11の下流に逆止弁18が設けられている。
【0031】
循環流路に酸化剤(具体的には過酸化水素水等)を供給するために、配管3及び配管11の接続部と触媒塔7との間に配管12を介して酸化剤供給装置8が設けられている。また、循環流路に除染剤(酸化除染剤及び還元除染剤)を供給するために、配管13を介して除染剤供給装置9が設けられている。
【0032】
循環流路には、系統水を採取するための採水管19,21が設けられている。採水管19は、系統水中の金属イオン濃度及び化学除染剤等の濃度を測定するために、ポンプ2と加熱器4を接続する配管3に設けられている。採水管19には、弁20が設けられている。また、採水管21は、イオン交換樹脂塔6を通過した系統水に含まれる金属イオン濃度及び化学除染剤(酸化剤及び還元剤)等の濃度を測定するための系統水を採取するために、陽イオン交換樹脂塔6と流量調整弁16を接続する配管3に設けられる。採水管21には、弁22が設けられている。
【0033】
図5図4の酸化剤供給装置8の詳細を示す模式図である。図5に示すように、酸化剤供給装置8は、酸化剤を収容するタンク51と、弁52と、ポンプ53とを配管54で接続して構成される。図5の配管54が、図4の配管12に接続されている。除染剤供給装置9も、酸化剤供給装置8と同様の構成である。
【0034】
上述した構成の他、図1には示していないが、化学除染装置23aには、系統水量の変動が大きい場合は、除染対象1と触媒塔7を接続する配管3に水位調整タンクを設置し、更に除染対象1と水位調整タンクの間にポンプを設置する構成を有していてもよい。また、配管3に冷却器を設置して、化学除染後に系統水を強制的に冷却可能な構成としてもよい。除染対象1に脱イオン水を供給したり、化学除染後に系統水を排水させるための配管や弁が無い場合は、配管3に配管を設置し、この配管に系統水の流れを制御する弁を設置してもよい。
【0035】
また、還元除染剤分解後に化学除染装置23aを設置した状態で、除染剤分解後に残留した粒子成分を除去したり、除染剤分解後に残留した微量のイオン成分を除去する場合は、除染剤分解後に残留した粒子成分を除去するためのフィルターや、除染剤分解後に残留した微量のイオン成分を除去するための混合樹脂塔を配管3に設置してもよい。なお、混合樹脂塔は、H型陽イオン交換樹脂とOH型陰イオン交換樹脂を混合したイオン交換樹脂を充填した塔である。
【0036】
[化学除染方法]
次に、化学除染装置23aを用いて除染対象1の化学除染を行う手順を以下に示す。図8は本発明に係る化学除染方法の一例を示すフローチャートである。図8に示すように、本発明に係る化学除染方法は、準備工程(S1)、昇温工程(S2)、酸化除染工程(S3)、酸化除染剤分解工程(S4)、還元除染及び浄化工程(S5)、還元除染剤分解及び浄化工程(S6)及び冷却工程(S7)の手順で行なう。
【0037】
除染対象1の放射性核種が取り込まれている表面の酸化物が、Feを主体とした酸化物の場合は、酸化除染工程(S3)及び酸化除染剤分解工程(S4)を省略し、昇温工程(S2)の後に還元除染及び浄化工程(S5)、還元除染剤分解及び浄化工程(S6)及び冷却工程(S7)を行う。また、除染対象1の放射性核種付着量が、還元剤分解及び浄化工程(S6)の後に目標値を下回らなかった場合は、酸化除染工程(S3)〜還元除染剤分解及び浄化工程(S6)を繰り返す(繰り返し工程(S8))ことで放射性核種を目標値まで除去する。以下、各工程について詳述する。
【0038】
(1)準備工程(S1)
除染対象1に化学除染装置23aを接続し、弁20及び弁22は「閉」とし、他の弁及び流量調整弁は「開」として、除染対象1と化学除染装置23aにイオン交換水を充填する。イオン交換水を充填する際に、系統水量V(単位:L)を、積算流量計等を使用して把握する。系統水の準備ができたら次のステップに移行する。
【0039】
(2)昇温工程(S2)
ポンプ2を起動させて系統水を循環させながら、加熱器4を起動させて系統水の温度を上げる。系統水の温度を80℃〜95℃となるように制御することが好ましい。所定の温度に達したら次のステップに移行する。
【0040】
(3)酸化除染工程(S3)
除染剤供給装置9に酸化除染剤を充填する。酸化除染剤としては、過マンガン酸カリウム又は過マンガン酸が好適である。系統水中の酸化剤濃度CSMn(単位:mg/L)が200〜500mg/Lとなるようにタンク51に酸化剤を充填する。タンク51の酸化剤量をVOMn(単位:L)とすると、タンク51の酸化剤濃度COMn(単位:mg/L)は式3で計算される。
【0041】
OMn=CSMn×V÷VOMn…式3
流量調整弁15を「閉」、流量調整弁14を「開」とし、除染剤供給装置9のタンク51に入れた酸化剤を系統に供給する。具体的には、弁52を開いて、ポンプ53を起動する。タンク51に入れた酸化剤の供給が終了したらポンプ53を停止して、弁52を閉じる。酸化除染剤を全量供給後、2〜6h程度系統水を循環させたら次のステップに移行する。
【0042】
(4)酸化除染剤分解工程(S4)
除染剤供給装置9のタンク51にシュウ酸溶液を充填する。酸化除染剤として過マンガン酸カリウムを供給した場合、過マンガン酸カリウムとシュウ酸は以下の式4の通り反応を起こす。
【0043】
2KMnO+5(COOH)
=2Mn(OH)+2KOH+5CO+2HO…式4
したがって、過マンガン酸カリウムを水酸化マンガンに分解するために必要なシュウ酸濃度CROA2(単位:mg/L)は、過マンガン酸カリウム濃度COMn(単位:mg/L)、除染剤供給装置9のタンク51に充填するシュウ酸溶液の容量VROA2(単位:L)とすると、式5で計算される。
【0044】
ROA2=(5/2)×(90/158)×COMn×V÷VROA2…式5
酸化剤として過マンガン酸を供給した場合、過マンガン酸とシュウ酸は以下の式6の通り反応する。
【0045】
2HMnO+5(COOH)
=2Mn(OH)+5CO+4HO…式6
したがって、過マンガン酸を水酸化マンガンに分解するために必要なシュウ酸濃度CROA2(単位:mg/L)は、過マンガン酸濃度COMn2(単位:mg/L)とすると、式7で計算される。
【0046】
ROA2=(5/2)×(90/120)×COMn2×V÷VROA2…式7
弁52を開いて、ポンプ53を起動してシュウ酸を供給する。タンク51に入れたシュウ酸の供給が終了したらポンプ53を停止して、弁52を閉じる。系統水の色が紫色から薄茶色になることを確認して次のステップに移行する。
【0047】
(5)還元除染、浄化(S5)
流量調整弁16を「閉」、流量調整弁17を「開」とし、流量調整弁15と流量調整弁14の開度を調整して紫外線照射装置5とイオン交換樹脂塔6に通水し、紫外線照射装置5を起動する。紫外線照射装置5とイオン交換樹脂塔6に通水する流量は、1時間あたりイオン交換樹脂塔6に充填したイオン交換樹脂の容量の30〜60倍の容量が望ましい。
【0048】
続いて、還元除染剤を除染剤供給装置9から供給する。還元剤としては、除染対象1がステンレス鋼の場合はシュウ酸、除染対象1が炭素鋼の場合はシュウ酸とマロン酸の混合溶液が好適である。除染対象1がステンレス鋼でシュウ酸を添加する場合は系統水中のシュウ酸濃度CSOA(単位:mg/L)が2000〜3000mg/Lとなるようにタンク51にシュウ酸溶液を充填する。タンク51のシュウ酸溶液量をVROA(単位:L)とするとタンク51のシュウ酸濃度CROA(単位:mg/L)は以下の式8で計算される。
【0049】
ROA=CSOA×V÷VROA…式8
除染対象1が炭素鋼でシュウ酸とマロン酸の混合溶液を添加する場合は系統水中のシュウ酸濃度CSOA、マロン酸濃度CSMAが各々100〜400mg/L、2000〜5400mg/Lとなるようにタンク51にシュウ酸マロン酸混合溶液を充填する。タンク51のシュウ酸濃度は上述した式4で計算される。タンク51のマロン酸濃度CRMA(単位:mg/L)は以下の式9で計算される。シュウ酸とマロン酸を混合しているのでタンク51のマロン酸の体積はシュウ酸の体積VROAと同じである。
【0050】
RMA=CSMA×V÷VROA…式9
弁52を開いて、ポンプ53を起動する。タンク51に入れた還元剤の供給が終了したらポンプ53を停止して、弁52を閉じる。還元剤の供給が終了してから6〜12h程度系統水を循環させたら次のステップに移行する。
【0051】
除染対象1の表面の金属酸化皮膜が溶解すると、3価のFeイオンの発生源が減少する。紫外線照射装置5で紫外線照射を続けると、3価のFeイオンが2価の鉄イオンに還元されイオン交換樹脂塔6での鉄イオンが除去されるため、イオン交換樹脂塔6の下流の系統水のFeイオン濃度は低下する。
【0052】
ここで、紫外線の照射条件とFeイオンの分解時間の一例を示す。紫外線照射により還元除染剤の単位体積に付与されるエネルギーは紫外線照射量に比例し、紫外線照射装置を流れる還元除染剤流量(FUV)に反比例する。紫外線照射によって付与されたエネルギー(PUV)と3価の鉄イオン濃度(C)に比例して鉄イオンが還元すると考えると、鉄イオン還元速度は以下の式A1で表される。kは反応速度係数(単位:LW−1−2)である。式A1を積分すると式A2となる。ここでCは初期の3価の鉄イオン濃度である。
【0053】
【数1】
【0054】
【数2】
【0055】
試験条件(FUV=6L/h、PUV=6W)と図3に示すデータより、k=2.2789L/(W・h)と計算される。
【0056】
=50mg/L、PUV=2000W、FUV=3000L/hと仮定すると、C=1mg/Lに3価のFeイオン濃度を低減するのに1.2h程度かかると計算される。
【0057】
定期的に採水管21から弁22を開いて採水して鉄イオン濃度を原子吸光光度計等で測定し、一定濃度(例えば1mg/L)以下になった時点で次のステップに移行すると、後述する浄化工程(S6)で触媒へのFe酸化物の付着を確実に抑制することができる。
【0058】
(6)還元除染剤分解、浄化工程(S6)
酸化剤供給装置8のタンク51に過酸化水素水を充填する。次に流量調整弁16,17の開度を調整して触媒塔7に系統水を通水する。触媒塔7への通水流量FCAT(単位:L/h)は、1時間あたり触媒塔7に充填した触媒の容量の20〜30倍の容量が望ましい。
【0059】
次に、酸化剤供給装置8から過酸化水素水を供給する。過酸化水素水は、シュウ酸やマロン酸と過酸化水素の反応等量の1から2倍となるように供給するのが望ましい。シュウ酸は以下の式10、マロン酸は以下の式11で過酸化水素と反応する。
【0060】
(COOH)+H=2CO+2HO…式10
+4H=3CO+6HO…式11
タンク51に充填した過酸化水素水濃度をCHP、系統水のシュウ酸濃度及びマロン酸濃度を各々CSOA3(単位:mg/L)及びCSMA3(単位:mg/L)とすると、酸化剤供給装置8からの過酸化水供給流量FHP(単位:L/h)は、以下の式12で計算される。
【0061】
HP=(1〜2)×{(CSOA3/90)+4×(CSMA3/104)}
×FCAT÷(CHP/34)…式12
弁52を開いて、ポンプ53を起動する。ポンプ53は流量を適切に調整できるプランジャー式のポンプが望ましい。
【0062】
最初のシュウ酸濃度、マロン酸濃度を元に計算した過酸化水素供給量でシュウ酸、マロン酸の分解を実施してもよい。一方、定期的に弁20を開にして採水管19から系統水を採取してシュウ酸、マロン酸濃度をイオンクロマトグラフにより測定し、測定濃度に基づき式10により過酸化水素水供給速度を変化させても良い。測定濃度に基づき過酸化水素供給量を変化させると、過酸化水素水供給量を減らせる経済的メリットがある。
【0063】
系統水のシュウ酸及びマロン酸が10mg/L以下になるか、系統水の導電率が1mS/m以下になったら次のステップに移行する。
【0064】
(7)冷却工程(S7)
ポンプ2、加熱器4を停止して系統水の温度を室温まで下げる。化学除染装置に冷却器27を設置した場合はポンプ2を運転したまま加熱器4を停止し、冷却器27を起動して系統水の温度が室温に下がるまで冷却を続ける。
【0065】
紫外線照射装置を備える化学除染装置が開示されている従来技術について説明する。以下の参考文献3には、Fe(III)錯体に紫外線を照射して2価の鉄塩とCOに分解し、生成した2価の鉄塩とシュウ酸と過酸化水素を反応させ、Fe(III)錯体とHOに分解する構成を有する廃液処理装置が開示されている。参考文献3には、本願発明の触媒塔に相当する構成は開示されていない。また、参考文献3において、酸化剤(過酸化水素)は、Fe2+をFe3+に酸化するために用いており、酸化剤を供給する酸化剤用導管7は、カチオン交換器10及び紫外線照射装置5との間に設けられている。すなわち、カチオン交換器10よりも上流において、有機酸(シュウ酸)に酸化剤が添加されている。
【0066】
参考文献3:特開2000‐81498号公報
【0067】
また、以下の参考文献4には、還元除染剤(シュウ酸)にオゾン又はオゾン水溶液を加え、紫外線又は放射線照射あるいは過酸化水素を供給してシュウ酸を分解する化学除染装置が記載されている。
【0068】
参考文献4:特開2000‐81498号公報
参考文献4には、本願発明の触媒塔に相当する構成は開示されていない。参考文献4では、還元除染剤を陰イオン交換樹脂に通す前にシュウ酸を分解するために酸化剤(オゾン又はオゾン水溶液)を用いていることから、イオン交換部27よりも上流において、還元剤にオゾン発生器28によってオゾン又はオゾン水溶液が添加される。
【0069】
一方、本願発明において、酸化剤は還元剤を触媒分解するために用いるものであり、酸化剤供給装置8は、陽イオン交換樹脂塔6と触媒塔7との間に設けられている。つまり、陽イオン交換樹脂塔6よりも下流側に酸化剤供給装置8が設けられるものである点が、参考文献3及び参考文献4の装置と異なっている。
【実施例2】
【0070】
図6は実施例2に係る化学除染装置を示す模式図である。図6は、シュウ酸及びヒドラジンを含む還元除染剤を使用する場合に好適な化学除染装置の一例である。図6に示す化学除染装置23bは、流量調整弁15と紫外線照射装置5を接続する配管3に配管3をバイパスする配管32を設置し、配管32にヒドラジン分解装置24を設置する。そして、ヒドラジン分解装置24を挟むように、配管32に弁33,弁34を設置し、配管3と配管32の接続部間を接続する配管3に弁35を設置する。ここで、ヒドラジン分解装置24とは、還元除染剤中に含まれるヒドラジンを窒素と水に分解する装置である。
【0071】
図7図6のヒドラジン分解装置24の詳細を示す模式図である。図7に示すように、ヒドラジン分解装置24は、配管74に触媒塔(ヒドラジン分解用触媒塔)75を設置し、触媒塔75の上流にタンク(ヒドラジン分解用タンク)71、弁72及びポンプ73を設置した構成となっている。触媒塔75に使用する触媒としては、0.5%Ru担持活性炭触媒が望ましい。図7の配管76は、図6の配管32に接続されている。その他の構成は、実施例1の化学除染装置23aと同様であるので、説明を省略する。
【0072】
以下に、本実施例に係る化学除染装置23bを用いた場合の化学除染方法について説明する。基本的な流れは図8に示す実施例1の手順と同様である。また、図8に示す準備工程(S1)〜酸化剤分解工程(S4)までは実施例1と同じであるので、還元除染及び浄化工程(S5)から説明する。各手順の詳細を次に示す。
【0073】
(5)還元除染、浄化工程(S5´)
弁33、弁34及び流量調整弁16を「閉」とし、流量調整弁17及び弁35を「開」とし、流量調整弁15と流量調整弁14の開度を調整して紫外線照射装置5とイオン交換樹脂塔6に通水する。このとき紫外線照射装置5は起動しない(紫外線照射を行わない)。紫外線照射装置5とイオン交換樹脂塔6に通水する流量は、1時間あたりイオン交換樹脂塔6に充填したイオン交換樹脂の容量の30〜60倍の容量が望ましい。
【0074】
続いて、還元剤供給装置9から還元除染剤としてシュウ酸を供給する。シュウ酸濃度CSOA(単位:mg/L)が2000−3000mg/Lとなるようにタンク51にシュウ酸溶液を充填する。タンク51のシュウ酸溶液量をVROA(単位:L)とすると、タンク51のシュウ酸濃度CROA(単位:mg/L)は式8で計算される。
【0075】
ROA=CSOA×V÷VROA…式8
弁52を開いて、ポンプ53を起動する。タンク51に入れた還元剤の供給が終了したらポンプ53を停止して、弁52を閉じる。
【0076】
続いて、還元剤供給装置9からヒドラジンを供給する。ヒドラジン濃度CSHyd(単位:mg/L)が400〜600mg/Lとなるようにタンク51にヒドラジン溶液を充填する。ただし、ヒドラジンはイオン交換樹脂塔6で吸着されるため、系統水に残るヒドラジンに加えてイオン交換樹脂に吸着されるヒドラジンを供給する必要がある。
【0077】
ヒドラジンは1価の陽イオンとして吸着するので、イオン交換樹脂塔6に充填のイオン交換樹脂の吸着容量をX(単位:eq/L)、イオン交換樹脂量をVCEXRとすると、必要なヒドラジン量MHyd(単位:mg)は式13で計算される。
【0078】
Hyd=32000×X×VCEXR…式13
タンク51のヒドラジン溶液量をVRHyd(単位:L)とするとタンク51のヒドラジン濃度CRHyd(単位:mg/L)は式14で計算される。
【0079】
RHyd=(CSHyd×V+MHyd)÷VRHyd…式14
弁52を開いて、ポンプ53を起動する。タンク51に入れたヒドラジンの供給が終了したらポンプ53を停止して、弁52を閉じる。
【0080】
還元剤の供給が終わったら、6〜12h程度系統水を循環させたら次のステップに移行する。
【0081】
(6)還元除染剤分解、浄化工程(S6´)
弁33、弁34を開、弁35を閉にしてヒドラジン分解装置24に系統水を通水する。ヒドラジン分解装置24のタンク71に過酸化水素水を入れて、弁72を「開」にし、ポンプ73を起動して過酸化水素水を供給する。ポンプ73は適切に流量調整できるプランジャーポンプが望ましい。ヒドラジンは、以下の式15に示すように過酸化水素と反応して窒素、水となる。
【0082】
+2H=N+4HO…式15
過酸化水素水供給流量FHP2(単位:L/h)は、ヒドラジン分解装置24の流量FCAT(単位:L/h)、ヒドラジン分解装置24のタンク41充填した過酸化水素水濃度をCHP2(単位:mg/L)、系統水のヒドラジン濃度CRHyd2(単位:mg/L)とすると以下の式16で計算される。
【0083】
HP2=2×(CHyd2/32)×FCAT÷(CHP2/34)…式16
過酸化水素水供給流量はヒドラジンの初期濃度に対して一定でも良いが、定期的に弁20を開けて採水管19から系統水を採取し、ヨウ素滴定により分析した濃度を基に過酸化水素供給流量を変化させたほうが過酸化水素供給量を減らすことが出来てきて経済的に好ましい。
【0084】
ヒドラジン分解装置24を起動してから、紫外線照射装置5を起動する。流量調整弁16と流量調整弁17の開度を調整して触媒塔7に通水する。触媒塔7への通水流量FCAT(単位:L/h)は1時間あたり触媒塔7に充填した触媒の容量の20〜30倍の容量が望ましい。
【0085】
次に酸化剤供給装置8から過酸化水素水を供給する。過酸化水素水は、シュウ酸と過酸化水素の反応等量の1から2倍となるように供給するのが望ましい。シュウ酸は以下の式10で過酸化水素と反応する。
【0086】
(COOH)+H=2CO+2HO…式10
タンク51に充填した過酸化水素水濃度をCHP、系統のシュウ酸濃度をCSOA3(単位:mg/L)すると、酸化剤供給装置8からの過酸化水供給流量FHP(単位:L/h)は式17で計算される。
【0087】
HP=(1〜2)×(CSOA3/90)×FCAT÷(CHP/34)…式17
弁52を開いて、ポンプ53を起動する。ポンプ53は流量を適切に調整できるプランジャー式のポンプが望ましい。
【0088】
最初のシュウ酸濃度を元に計算した過酸化水素供給量でシュウ酸の分解を実施してもよい。一方、定期的に弁20を開にして採水管19から系統水を採取してシュウ酸濃度をイオンクロマトグラフにより測定し、測定濃度に基づき式17により過酸化水素水供給速度を変化させても良い。測定濃度に基づき過酸化水素供給量を変化させると、過酸化水素水供給量を減らせる経済的メリットがある。
【0089】
系統水のシュウ酸、ヒドラジンの濃度が10mg/L以下になるか、系統水の導電率が1mS/m以下になったら、次のステップに移行する。なお、次の冷却工程(S7)は実施例1と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0090】
以上説明したように、本発明によれば、Feイオンを含む還元除染剤を触媒塔で分解する前に、紫外線を照射して還元剤中の3価のFeイオンを2価のFeイオンに還元して陽イオン交換樹脂にて除去する。このようにすることで、触媒塔の触媒へのFe酸化膜の析出を抑制し、触媒寿命を長期化すること及び触媒塔での還元剤の分解効率の低下を防止できることが実証された。
【0091】
本発明によれば、触媒塔へのFe酸化物及び放射性核種の付着を抑制することができるため、触媒塔の寿命を延長することができる。触媒塔の利用期間を長くすることで、触媒塔に掛かる費用及び二次廃棄物処理費用を低減できる。
【0092】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0093】
1…除染対象(原子力プラント構成部材)、2,42,53,73…ポンプ、3、10、11、12、13、32、54、74、76…配管、4…加熱器、5,43…紫外線照射装置、6,44…イオン交換樹脂塔、7…触媒塔、75…ヒドラジン分解用触媒塔、8…酸化剤供給装置、71…ヒドラジン分解用タンク、9…除染剤供給装置、14,15,16,17…流量調整弁、18…逆止弁、19,21…採水管、20、22、33、34、35、52,72…弁、23a,23b…化学除染装置、24…ヒドラジン分解装置、40…試験装置、41…タンク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8