(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
<リチウム複合金属酸化物の製造方法>
本発明のリチウム複合金属酸化物の製造方法は、金属複合化合物の製造工程と、リチウム複合金属酸化物の製造工程を任意の工程とし、その後の第1洗浄工程と第2洗浄工程とを必須の工程として備える。
以下、各工程について説明する。
【0010】
本発明のリチウム複合金属酸化物の製造方法において、まず、リチウム以外の金属、すなわち、Ni、Co及びMnから構成される必須金属、並びに、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVのうちいずれか1種以上の任意金属を含む金属複合化合物を調製し、当該金属複合化合物を適当なリチウム塩と焼成することが好ましい。金属複合化合物としては、金属複合水酸化物又は金属複合酸化物が好ましい。以下に、正極活物質の製造方法の一例を、金属複合化合物の製造工程と、リチウム複合金属酸化物の製造工程とに分けて説明する。
【0011】
(金属複合化合物の製造工程)
金属複合化合物は、通常公知のバッチ共沈殿法又は連続共沈殿法により製造することが可能である。以下、金属として、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む金属複合水酸化物を例に、その製造方法を詳述する。
【0012】
まず共沈殿法、特に特開2002−201028号公報に記載された連続法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を反応させ、Ni
aCo
bMn
c(OH)
2(式中、a+b+c=1)で表される複合金属水酸化物を製造する。
【0013】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れかを使用することができる。上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、及び塩化コバルトのうちの何れかを使用することができる。上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、及び塩化マンガンのうちの何れかを使用することができる。以上の金属塩は、上記Ni
aCo
bMn
c(OH)
2の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。
【0014】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケル、コバルト、及びマンガンのイオンと錯体を形成可能なものであり、例えばアンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
【0015】
沈殿に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要ならばアルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加する。
【0016】
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給させると、ニッケル、コバルト、及びマンガンが反応し、Ni
aCo
bMn
c(OH)
2が製造される。反応に際しては、反応槽の温度が例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内で制御され、反応槽内のpH値は例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御され、反応槽内の物質が適宜撹拌される。反応槽は、形成された反応沈殿物を分離のためオーバーフローさせるタイプのものである。
【0017】
反応槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、最終的に得られるリチウム複合金属酸化物を所望の物性に制御することができる。
【0018】
以上の反応後、得られた反応沈殿物を水で洗浄した後、乾燥し、ニッケルコバルトマンガン複合化合物としてのニッケルコバルトマンガン水酸化物を単離する。また、必要に応じて弱酸水や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ溶液で洗浄してもよい。なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。
【0019】
(リチウム複合金属酸化物の製造工程)
上記金属複合酸化物又は水酸化物を乾燥した後、リチウム塩と混合する。乾燥条件は、特に制限されないが、例えば、金属複合酸化物又は水酸化物が酸化・還元されない条件(酸化物が酸化物のまま維持される、水酸化物が水酸化物のまま維持される)、金属複合水酸化物が酸化される条件(水酸化物が酸化物に酸化される)、金属複合酸化物が還元される条件(酸化物が水酸化物に還元される)のいずれの条件でもよい。酸化・還元がされない条件のためには、窒素、ヘリウム及びアルゴン等の希ガス等の不活性ガスを使用すればよく、水酸化物が酸化される条件では、酸素又は空気を雰囲気下として行えばよい。また、金属複合酸化物が還元される条件としては、不活性ガス雰囲気下、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を使用すればよい。リチウム塩としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウムのうち何れか一つ、または、二つ以上を混合して使用することができる。
金属複合酸化物又は水酸化物の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。以上のリチウム塩と金属複合金属水酸化物とは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を用いる場合、リチウム塩と当該複合金属水酸化物は、LiNi
aCo
bMn
cO
2(式中、a+b+c=1)の組成比に対応する割合で用いられる。ニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物及びリチウム塩の混合物を焼成することによって、リチウム−ニッケルコバルトマンガン複合酸化物が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の加熱工程が実施される。
【0020】
上記金属複合酸化物又は水酸化物と、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物との焼成温度としては、特に制限はないが、600℃以上1100℃以下であることが好ましく、750℃以上1050℃以下であることがより好ましく、800℃以上1025℃以下がさらに好ましい。
【0021】
焼成時間は、3時間以上50時間以下が好ましい。焼成時間が50時間を超えると、リチウムの揮発によって実質的に電池性能に劣る傾向となる。焼成時間が3時間より少ないと、結晶の発達が悪く、電池性能が悪くなる傾向となる。なお、上記の焼成の前に、仮焼成を行うことも有効である。この様な仮焼成の温度は、300℃以上850℃以下の範囲で、1時間以上10時間以下行うことが好ましい。
【0022】
(洗浄工程)
本実施形態は、第1の洗浄工程と、前記第1洗浄工程で得られた洗浄物を洗浄する第2の洗浄工程と、を有する。第1の洗浄工程は原料に由来する残留する炭酸リチウムを洗浄し、除去する工程である。第2の洗浄工程は、第1の洗浄工程で用いた洗浄液の残留成分を洗浄し、除去する工程である。
【0023】
・第1洗浄工程
焼成後に、第1の洗浄液で洗浄する第1洗浄工程を行う。第1の洗浄液は、アルカリ金属を含有する化合物を含むアルカリ性洗浄液である。
前記アルカリ性洗浄液が含むアルカリ金属を含有する化合物としては、例えば、LiOH(水酸化リチウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、Li
2CO
3(炭酸リチウム)、Na
2CO
3(炭酸ナトリウム)、及びK
2CO
3(炭酸カリウム)からなる群より選ばれる1種以上の無水物並びにその水和物を挙げることができる。リチウム複合金属酸化物からのリチウムの溶出をより抑制できる観点から、水酸化リチウム又は炭酸リチウムが好ましく、水酸化リチウムがより好ましい。
【0024】
第1の洗浄液は、上記アルカリ金属を含有する化合物を水に溶解させることにより調製できる。アルカリ金属を含有する化合物の水溶液の濃度は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が特に好ましい。また、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
第1の洗浄液の濃度が、上記下限値以上であることにより、リチウム複合金属酸化物からのリチウムの溶出をより抑制できる。
第1の洗浄液の濃度が、上記上限値以下であることにより、製造されるリチウム複合金属酸化物中に、アルカリ金属を含有する化合物が残留することを抑制できる。
【0025】
本実施形態においては、前記第1の洗浄液中のアルカリ金属の濃度が、後述する第2の洗浄液中のアルカリ金属の濃度よりも高いことを特徴とする。
第1の洗浄液を用いて洗浄工程を行うことにより、洗浄液中にリチウム複合金属酸化物中のリチウム成分が溶出することを抑制できると推察される。このため、製造されるリチウム複合金属酸化物の粒子表面のリチウム成分の濃度傾斜が小さく、粒子表面のリチウム濃度を高くできると考えられる。これにより、初回充放電効率が高いリチウム複合金属酸化物を製造することができる。
【0026】
・第2洗浄工程
第1洗浄工程後、第2の洗浄液で洗浄する第2工程を有する。第2の洗浄液はアルカリ性洗浄液である。
第2の洗浄液が含有するアルカリ成分としては、例えば、LiOH(水酸化リチウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、Li
2CO
3(炭酸リチウム)、Na
2CO
3(炭酸ナトリウム)、K
2CO
3(炭酸カリウム)および(NH
4)
2CO
3(炭酸アンモニウム)からなる群より選ばれる1種以上の無水物並びにその水和物を挙げることができる。第2の洗浄液は水酸化リチウム水溶液であることが好ましい。また、第2の洗浄液として、アンモニア水を使用することもできる。
【0027】
第2の洗浄液としてのアルカリ性洗浄液は、アルカリ成分としてアルカリ金属を含む洗浄液であってもよく、アルカリ成分としてアルカリ金属を含まずにアンモニア水を洗浄液として使用してもよく、アルカリ成分としてアルカリ金属を含み、さらにアンモニア水を含む洗浄液を使用してもよい。本実施形態において、第2のアルカリ洗浄液がアルカリ成分としてアルカリ金属を含む場合には、前記第1の洗浄液中のアルカリ金属の濃度が、第2の洗浄液中のアルカリ金属の濃度よりも高いことを特徴とする。
第2のアルカリ性洗浄液として、アルカリ成分としてアルカリ金属を含まずにアンモニア水を使用する場合には、第2のアルカリ性洗浄液中のアンモニアおよびアンモニウムイオン濃度が、第1の洗浄液中のアルカリ金属の濃度より高くてもよい。
前記第1の洗浄液中のアルカリ金属の濃度は、第2の洗浄液中のアルカリ金属の濃度に比べて、2倍以上であることが好ましい。
【0028】
第2の洗浄液は、上記アルカリ成分を水に溶解させることにより調製できる。アルカリ成分の水溶液の濃度は、0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上が特に好ましい。また、上限値は前記第1の洗浄液中のアルカリ成分の濃度よりも低ければよく、例えば、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
第2の洗浄液の濃度が、上記下限値以上であることにより、製造されるリチウム複合金属酸化物中に含まれるリチウム成分が溶出する事を抑制しつつ、第1の洗浄液の残留成分を洗浄により除去できる。
第2の洗浄液の濃度が、上記上限値以下であることにより、第2の洗浄液に含まれるアルカリ金属を含有する化合物が残留する事を抑制しつつ、第1の洗浄液の残留成分を洗浄により除去できる。
【0029】
第1洗浄工程及び第2洗浄工程において、洗浄液とリチウム複合金属酸化物とを接触させる方法としては、各洗浄液の水溶液中に、リチウム複合金属酸化物を投入して撹拌する方法や、各洗浄液の水溶液をシャワー水として、リチウム複合金属酸化物にかける方法や、第1の洗浄液により洗浄し、次いで、第1の洗浄液から分離したリチウム複合金属酸化物のウェットケーキを第2の洗浄液に投入し、撹拌する方法(リスラリー、リパルプ)が挙げられる。
好ましい実施形態としては、第1の洗浄液に、リチウム複合金属酸化物を投入して撹拌した後、各洗浄液の水溶液からリチウム複合金属酸化物を分離し、次いで、第2の洗浄液をシャワー水として、分離後のリチウム複合金属酸化物にかける方法等が挙げられる。
【0030】
(乾燥工程)
上記洗浄工程後、ろ過等により洗浄液からリチウム複合金属酸化物を分離する。その後乾燥し、粉砕後に適宜分級され、リチウム二次電池に適用可能な正極活物質とされる。
【0031】
本実施形態において、製造されるリチウム複合金属酸化物は下記組成式(I)で表されることが好ましい。
Li[Li
x(Ni
(1−y−z−w)Co
yMn
zM
w)
1−x]O
2 ・・・(I)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属元素であり、0≦x≦0.2、0<y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1を満たす。)
【0032】
サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるxは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることが特に好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるxは0.1以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.06以下であることが特に好ましい。
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0033】
また、電池抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるyは0.005以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.05以上であることが特に好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるyは0.35以下であることがより好ましく、0.33以下であることが特に好ましい。
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0034】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるzは0.01以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.1以上であることが特に好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるzは0.4以下であることが好ましく、0.38以下であることがより好ましく、0.35以下であることが特に好ましい。
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0035】
また、電池抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるwは0を超えることが好ましく、0.0005以上であることがより好ましく、0.001以上であることが特に好ましい。また、高い電流レートにおいて放電容量が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるwは0.09以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることが特に好ましい。
wの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0036】
前記組成式(I)におけるMはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。
【0037】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるMは、Ti、Mg、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の金属であることが好ましく、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の金属であることがより好ましい。
【0038】
(層状構造)
リチウムニッケル複合酸化物の結晶構造は、層状構造であり、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0039】
六方晶型の結晶構造は、P3、P3
1、P3
2、R3、P−3、R−3、P312、P321、P3
112、P3
121、P3
212、P3
221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P−31m、P−31c、P−3m1、P−3c1、R−3m、R−3c、P6、P6
1、P6
5、P6
2、P6
4、P6
3、P−6、P6/m、P6
3/m、P622、P6
122、P6
522、P6
222、P6
422、P6
322、P6mm、P6cc、P6
3cm、P6
3mc、P−6m2、P−6c2、P−62m、P−62c、P6/mmm、P6/mcc、P6
3/mcm、P6
3/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0040】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P2
1、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P2
1/m、C2/m、P2/c、P2
1/c、C2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0041】
これらのうち、放電容量が高いリチウム二次電池を得る観点から、結晶構造は、空間群R−3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0042】
本発明に用いるリチウム化合物は、炭酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウムのうち何れか一つ、又は、二つ以上を混合して使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム及び炭酸リチウムのいずれか一方又は両方が好ましい。
リチウム二次電池用正極活物質のハンドリング性を高める観点から、リチウム複合金属酸化物粉末に含まれる炭酸リチウム成分は0.4質量%以下であることが好ましく、0.39質量%以下であることがより好ましく、0.38質量%以下であることが特に好ましい。
また、リチウム二次電池用正極活物質のハンドリング性を高める観点から、リチウム複合金属酸化物粉末に含まれる水酸化リチウム成分は0.35質量%以下であることが好ましく、0.25質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることが特に好ましい。
【0043】
<リチウム二次電池>
次いで、リチウム二次電池の構成を説明しながら、本発明のリチウム二次電池用正極活物質を、リチウム二次電池の正極活物質として用いた正極、およびこの正極を有するリチウム二次電池について説明する。
【0044】
本実施形態のリチウム二次電池の一例は、正極および負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0045】
図1は、本実施形態のリチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0046】
まず、
図1(a)に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、および一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0047】
次いで、
図1(b)に示すように、電池缶5に電極群4および不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7および封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0048】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0049】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0050】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0051】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極は、まず正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0052】
(導電材)
本実施形態の正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率および出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、および正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0053】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0054】
(バインダー)
本実施形態の正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0055】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体との密着力および正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0056】
(正極集電体)
本実施形態の正極が有する正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0057】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体に正極合剤を担持させてもよい。
【0058】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0059】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。
【0060】
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
(負極)
本実施形態のリチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、および負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0061】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0062】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0063】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO
2、SiOなど式SiO
x(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO
2、TiOなど式TiO
x(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V
2O
5、VO
2など式VO
x(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe
3O
4、Fe
2O
3、FeOなど式FeO
x(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO
2、SnOなど式SnO
x(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO
3、WO
2など一般式WO
x(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li
4Ti
5O
12、LiVO
2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
【0064】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti
2S
3、TiS
2、TiSなど式TiS
x(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V
3S
4、VS
2、VSなど式VS
x(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe
3S
4、FeS
2、FeSなど式FeS
x(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo
2S
3、MoS
2など式MoS
x(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS
2、SnSなど式SnS
x(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS
2など式WS
x(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb
2S
3など式SbS
x(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se
5S
3、SeS
2、SeSなど式SeS
x(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0065】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li
3N、Li
3−xA
xN(ここで、AはNiおよびCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0066】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0067】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属などを挙げることができる。
【0068】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Si、Li−Sn、Li−Sn−Niなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金;Cu
2Sb、La
3Ni
2Sn
7などの合金;を挙げることもできる。
【0069】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0070】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0071】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0072】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0073】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0074】
(セパレータ)
本実施形態のリチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。
【0075】
本実施形態において、セパレータは、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0076】
また、セパレータの空孔率は、好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0077】
(電解液)
本実施形態のリチウム二次電池が有する電解液は、電解質および有機溶媒を含有する。
【0078】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(COCF
3)、Li(C
4F
9SO
3)、LiC(SO
2CF
3)
3、Li
2B
10Cl
10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl
4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2およびLiC(SO
2CF
3)
3からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0079】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0080】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒および環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという多くの特長を有する。
【0081】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPF
6などのフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0082】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖又はポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi
2S−SiS
2、Li
2S−GeS
2、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−B
2S
3、Li
2S−SiS
2−Li
3PO
4、Li
2S−SiS
2−Li
2SO
4、Li
2S−GeS
2−P
2S
5などの硫化物を含む無機系固体電解質が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。これら固体電解質を用いることで、リチウム二次電池の安全性をより高めることができることがある。
【0083】
また、本実施形態のリチウム二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【0084】
以上のような構成の正極活物質は、上述した本実施形態のリチウム含有複合金属酸化物を用いているため、正極活物質を用いたリチウム二次電池の初回充放電効率を向上させることができる。
【0085】
また、以上のような構成の正極は、上述した本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を有するため、リチウム二次電池の初回充放電効率を向上させることができる。
【0086】
さらに、以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した正極を有するため、従来よりも初回充放電効率の高い二次電池となる。
【実施例】
【0087】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0088】
本実施例においては、リチウム複合金属酸化物の評価、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池の作製評価を、次のようにして行った。
【0089】
<組成分析>
後述の方法で製造されるリチウム複合金属酸化物粉末の組成分析は、得られたリチウム複合金属酸化物の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
【0090】
<リチウム二次電池用正極の作製>
後述する製造方法で得られるリチウム複合金属酸化物を正極活物質とし、該正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、リチウム二次電池用正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N−メチル−2−ピロリドンを有機溶媒として用いた。
【0091】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得た。このリチウム二次電池用正極の電極面積は1.65cm
2とした。
【0092】
<リチウム二次電池用負極の作製>
次に、負極活物質として人造黒鉛(日立化成株式会社製MAGD)と、バインダーとしてCMC(第一工業薬製株式会社製)とSBR(日本エイアンドエル株式会社製)とを、負極活物質:CMC:SRR=98:1:1(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の負極合剤を調製した。負極合剤の調製時には、溶媒としてイオン交換水を用いた。
【0093】
得られた負極合剤を、集電体となる厚さ12μmのCu箔に塗布して60℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用負極を得た。このリチウム二次電池用負極の電極面積は1.77cm
2とした。
【0094】
<リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製>
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
<リチウム二次電池用正極の作製>で作製したリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上に積層フィルムセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層(厚み16μm))を置いた。ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネート(以下、ECと称することがある。)とジメチルカーボネート(以下、DMCと称することがある。)とエチルメチルカーボネート(以下、EMCと称することがある。)の30:35:35(体積比)混合液に、LiPF
6を1.0mol/lとなるよ
うに溶解したもの(以下、LiPF
6/EC+DMC+EMCと表すことがある。)を用
いた。
次に、負極として金属リチウムを用いて、前記負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型ハーフセルR2032。以下、「ハーフセル」と称することがある。)を作製した。
【0095】
<放電試験>
<リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製>で作製したハーフセルを用いて、以下に示す条件で初回充放電試験を実施した。
【0096】
<充放電試験条件>
試験温度:25℃
充電最大電圧4.3V、充電時間6時間、充電電流0.2CA、定電流定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電時間5時間、放電電流0.2CA、定電流放電
【0097】
(実施例1)
1.リチウム複合金属酸化物1の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0098】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液と硫酸アルミニウム水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子とアルミニウム原子との原子比が87.5:9.5:2.0:1.0となるように混合して、混合原料液を調製した。
【0099】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、窒素ガスを連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが11.0となるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物を得た。
酸化タングステンを61g/Lで溶解した水酸化リチウム水溶液を作製した。作製したタングステン溶解水酸化リチウム水溶液をW/(Ni+Co+Mn+W)=0.004となるように前記ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物に被着させ、ニッケルコバルトマンガンアルミニウムタングステン複合水酸化物1を得た。
【0100】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガンアルミニウムタングステン複合水酸化物1と水酸化リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn+Al+W)=1.10となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下760℃で5時間焼成し焼成品1を得た。
【0101】
[第1洗浄工程]
200gの焼成品1を、467gの15質量%水酸化リチウム水溶液に加えてスラリー状の液を調製し、該スラリー状の液を10分間撹拌し、第1の洗浄工程を行った。
【0102】
[第2洗浄工程]
前記第1の洗浄工程で得られたスラリー状の液を吸引ろ過し、得られたウェットケーキに対して更に2000gの1.0質量%水酸化リチウム水溶液を加えて吸引ろ過し、第2の洗浄工程を行った。その後、150℃で12時間大気雰囲気下で乾燥させた。
得られた乾燥粉にアルミナナノパウダーを被着させ、酸素雰囲気下760℃で10時間焼成し、目的のリチウム複合金属酸化物1を得た。
【0103】
2.リチウム複合金属酸化物1の評価
得られたリチウム複合金属酸化物1の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.02、y=0.092、z=0.020、w=0.024、M=W,Alであった。
【0104】
(実施例2)
1.リチウム複合金属酸化物2の製造
第1の洗浄工程、及び第2の洗浄工程を、下記表1に示す洗浄液を用いて行った以外は、実施例1と同様の方法によりリチウム複合金属酸化物2を製造した。
【0105】
2.リチウム複合金属酸化物2の評価
得られたリチウム複合金属酸化物2の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.02、y=0.092、z=0.020、w=0.023、M=W,Alであった。
【0106】
(比較例1)
1.リチウム複合金属酸化物3の製造
第1の洗浄工程、及び第2の洗浄工程を、下記表1に示す洗浄液を用いて行った以外は、実施例1と同様の方法によりリチウム複合金属酸化物3を製造した。
【0107】
2.リチウム複合金属酸化物3の評価
得られたリチウム複合金属酸化物3の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=−0.02、y=0.093、z=0.021、w=0.024、M=W,Alであった。
【0108】
(比較例2)
1.リチウム複合金属酸化物4の製造
第1の洗浄工程、及び第2の洗浄工程を、下記表1に示す洗浄液を用いて行った以外は、実施例1と同様の方法によりリチウム複合金属酸化物4を製造した。
【0109】
2.リチウム複合金属酸化物4の評価
得られたリチウム複合金属酸化物4の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=−0.01、y=0.092、z=0.018、w=0.023、M=W,Alであった。
【0110】
(比較例3)
1.リチウム複合金属酸化物5の製造
第1の洗浄工程、及び第2の洗浄工程を、下記表1に示す洗浄液を用いて行った以外は、実施例1と同様の方法によりリチウム複合金属酸化物5を製造した。
【0111】
2.リチウム複合金属酸化物5の評価
得られたリチウム複合金属酸化物5の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=−0.02、y=0.092、z=0.018、w=0.023、M=W,Alであった。
【0112】
【表1】
【0113】
上記結果に示した通り、本発明を適用した洗浄工程を実施した実施例1〜2は、本発明を適用しない比較例1〜3よりも、初回充放電効率が高かった。これは、本発明を適用した場合には、純水で洗浄した場合に比べて、リチウム複合金属酸化物からのリチウムの溶出が小さく、リチウム複合金属酸化物表面のリチウムの濃度傾斜が小さいためと考察できる。