(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記脂肪酸が、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸、カプロン酸からなる群より選択される少なくとも一種の脂肪酸である、請求項1又は2に記載の母乳パッド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1に開示された細菌の増殖を阻害する技術を母乳パッドに適用しても、母乳に起因する不快な臭いを十分に抑制することができず、母乳パッドにおいて発生する悪臭の解決には至っていないのが現状である。
また、悪臭を抑制する手段として、消臭剤等の消臭成分を用いる手段が一般的に知られているが、かかる手段の殆どは、悪臭の原因となる臭気成分の生成を抑制するものではなく、生成された臭気成分を消臭成分で吸着することにより悪臭を抑制するものであるため、臭気成分が消臭成分に接触しない限りその効果を十分に発揮することはできない。しかしながら、母乳パッドは、そのような消臭成分が装着者(授乳者)の乳房を介して乳児に経口摂取されるのを防ぐために、消臭成分の配置位置には制約があり、その配置位置によっては、消臭成分の効果を十分に発揮できない虞があった。
【0006】
そこで、本発明は、母乳に起因する悪臭の発生を十分に抑制することのできる母乳パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、母乳に起因する悪臭の発生原因について鋭意調査及び分析を行ったところ、母乳パッドにおいて発生する悪臭は、細菌の分解により生成されるアンモニアや有機酸等よりも、母乳中に含まれる脂質が、同じく母乳中に含まれるリパーゼという分解酵素により加水分解されて生じる、脂肪酸(例えば、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸等)がその主な発生原因であることを突き止め、さらに、その脂肪酸の生成自体を抑制することで、母乳パッドにおける悪臭の発生を十分に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の一態様(態様1)は、母乳中の脂質由来の脂肪酸の発生を抑制する脂肪酸発生抑制剤を含む母乳パッドである。
【0009】
本態様の母乳パッドは、母乳中の脂質由来の脂肪酸の発生を抑制する脂肪酸発生抑制剤を含むため、不快な臭いの原因となる脂肪酸の発生を抑制し、結果的に、母乳パッドにおける母乳由来の悪臭の発生を十分に抑制することができる。
【0010】
また、本発明の別の態様(態様2)では、上記態様1の母乳パッドにおいて、前記脂肪酸が、炭素数2〜6の短鎖脂肪酸である。
【0011】
本態様の母乳パッドは、母乳中の脂質由来の脂肪酸のうち、不快且つ強烈な臭いの原因となる炭素数2〜6の短鎖脂肪酸を標的として、その発生を抑制するため、上述の悪臭の発生をより効率よく抑制することができる。
【0012】
本発明の更に別の態様(態様3)では、上記態様1又は2の母乳パッドにおいて、前記脂肪酸が、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸、カプロン酸からなる群より選択される少なくとも一種の脂肪酸である。
【0013】
本態様の母乳パッドは、発生を抑制する対象の脂肪酸を、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸、カプロン酸からなる群より選択される少なくとも一種の脂肪酸に限定しているため、特に不快且つ強烈な臭いの原因となるこれらの脂肪酸の発生を抑制することで、悪臭の発生をより的確且つ効果的に抑制することができる。
【0014】
本発明の更に別の態様(態様4)では、前記態様1〜3のいずれかの母乳パッドにおいて、前記脂肪酸発生抑制剤が、リパーゼに対する活性阻害剤である。
【0015】
本態様の母乳パッドは、脂肪酸発生抑制剤がリパーゼに対する活性阻害剤であるため、母乳中に含まれるリパーゼの活性を阻害することで母乳中に含まれる脂質が加水分解され難くなり、脂肪酸の生成を的確に抑制することができる。
【0016】
本発明の更に別の態様(態様5)では、上記態様4の母乳パッドにおいて、前記リパーゼが、リポプロテインリパーゼである。
【0017】
本態様の母乳パッドは、脂肪酸発生抑制剤がリポプロテインリパーゼに対する活性阻害剤であるため、母乳中に含まれるリパーゼ(すなわち、リポプロテインリパーゼ(Liporotein Lipase)及び胆汁酸活性化リパーゼ(Bile Salt-Stimulated Lipase))のうち、特に母乳中の脂質の加水分解に寄与すると考えられるリポプロテインリパーゼの活性を阻害することで、母乳中の脂質がより一層加水分解され難くなり、脂肪酸の生成をより的確且つ効果的に抑制することができる。
【0018】
本発明の更に別の態様(態様6)では、上記態様4又は5の母乳パッドにおいて、前記活性阻害剤は、分子構造中にガロイル基を有する。
【0019】
本態様の母乳パッドは、リパーゼに対する活性阻害剤が分子構造中にガロイル基を有するものであるため、活性阻害剤のガロイル基が母乳中の脂質の加水分解に寄与するリパーゼの活性基と結合し、拮抗阻害の状態を形成することで、母乳中の脂質がより確実に加水分解され難くなり、脂肪酸の生成をより確実且つ効果的に抑制することができる。
【0020】
本発明の更に別の態様(態様7)では、上記態様4〜6のいずれかの母乳パッドにおいて、前記活性阻害剤は、ガロイル基を有するポリフェノール類である。
【0021】
本態様の母乳パッドは、リパーゼに対する活性阻害剤がガロイル基を有するポリフェノール類であるため、上述の拮抗阻害の状態をより形成し易く、脂肪酸の生成をより容易且つ的確に抑制することができる。
【0022】
本発明の更に別の態様(態様8)では、上記態様7の母乳パッドにおいて、前記ポリフェノール類が、植物樹皮、マメ科植物のカワラケツメイ、茶又は柿に由来するポリフェノールである。
【0023】
本態様の母乳パッドは、リパーゼに対する活性阻害剤がガロイル基を有する、植物樹皮、マメ科植物のカワラケツメイ、茶又は柿に由来するポリフェノールであるため、上述のとおり脂肪酸の発生をより的確に抑制することができる上、母乳パッドに含まれる活性阻害剤が天然成分に由来することで、かかる活性阻害剤による人体への影響(すなわち、装着者の肌面及び該肌面を介して経口摂取し得る乳児への影響)等の不安感を装着者に与え難くすることができる(換言すれば、装着者に安心感を与えることができる)。
【0024】
本発明の更に別の態様(態様9)では、上記態様7又は8の母乳パッドにおいて、前記脂肪酸発生抑制剤の変色を抑制する変色抑制剤を更に含む。
【0025】
本態様の母乳パッドは、脂肪酸発生抑制剤の変色を抑制する変色抑制剤を更に含むため、上記特定のポリフェノール類からなる脂肪酸発生抑制剤によって脂肪酸の発生を十分に抑制することができる上、上述の変色抑制剤を含むことによって、脂肪酸発生抑制剤のポリフェノール類が酸化して変色することにより装着者に不安感や不快感を与えるというようなことを、生じ難くすることができる。
【0026】
本発明の更に別の態様(態様10)では、上記態様9の母乳パッドにおいて、前記変色抑制剤が酸化防止剤である。
【0027】
本態様の母乳パッドは、脂肪酸発生抑制剤の変色を抑制する変色抑制剤が酸化防止剤であるため、脂肪酸発生抑制剤のポリフェノール類の酸化自体を抑制し、当該脂肪酸発生抑制剤の変色をより確実に生じ難くすることができる。
【0028】
本発明の更に別の態様(態様11)では、上記態様9〜10のいずれかの母乳パッドにおいて、前記変色抑制剤は、前記脂肪酸発生抑制剤の溶媒である水を含む。
【0029】
本態様の母乳パッドは、脂肪酸発生抑制剤の変色を抑制する変色抑制剤が脂肪酸発生抑制剤の溶媒である水を含むため、上述の脂肪酸発生抑制剤の変色の発生を的確に制御することができる(すなわち、変色を目立たなくすることができる)とともに、変色抑制剤(すなわち、水)による人体への影響等の不安感を装着者に与え難くすることもできる。
【0030】
本発明の更に別の態様(態様12)では、上記態様1〜11のいずれかの母乳パッドにおいて、前記母乳パッドは、装着者の肌面側に位置する内面シートと、該内面シートの非肌面側に位置する吸収体と、を有し、前記脂肪酸発生抑制剤が前記内面シートと前記吸収体の間に配置されている。
【0031】
本態様の母乳パッドは、脂肪酸発生抑制剤が内面シートと吸収体の間に配置されているため、脂肪酸発生抑制剤を吸収体に吸収される前の母乳に接触させることができ、当該脂肪酸発生抑制剤を母乳に対してより確実に作用させることができる。また、脂肪酸発生抑制剤が内面シートよりも非肌面側に配置されていると、脂肪酸発生抑制剤が装着者の肌面に付着し難くなり、更には、装着者(授乳者)の肌面を介して乳児に経口摂取され難くなるため、かかる脂肪酸発生抑制剤による人体への影響等の不安感を装着者に与え難くすることができる。
【0032】
本発明の更に別の態様(態様13)では、上記態様1〜12のいずれかの母乳パッドにおいて、前記脂肪酸発生抑制剤は、前記母乳パッドを構成する複数のシートのうち、最も高密度のシートに配置されている。
【0033】
本態様の母乳パッドは、脂肪酸発生抑制剤が母乳パッドを構成する複数のシートのうち、最も高密度のシートに配置されているため、脂肪酸発生抑制剤が装着者の動きや母乳の流動等によって移動し難く、当該脂肪酸発生抑制剤の作用をより確実に発揮させることができる上、脂肪酸発生抑制剤が酸化等により変色し易い場合には、かかる高密度のシートによって脂肪酸発生抑制剤の変色を視認され難くすることができる。
【0034】
本発明の更に別の態様(態様14)は、母乳中の脂質由来の脂肪酸の発生を抑制する、母乳パッド用の脂肪酸発生抑制剤である。
【0035】
本態様の母乳パッド用の脂肪酸発生抑制剤は、不快な臭いの原因となる母乳中の脂質由来の脂肪酸の発生自体を抑制するため、結果的に、母乳パッドにおける母乳由来の悪臭の発生を十分に抑制することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、母乳に起因する悪臭の発生を十分に抑制することのできる母乳パッドを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の母乳パッドの好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書においては、特に断りのない限り、「展開した状態で水平面上に置いた対象物(例えば、母乳パッド等)を、垂直方向の上方側から対象物の厚さ方向に見ること」を、単に「平面視」という。
【0039】
本明細書において用いられる各種方向等については、特に断りのない限り、以下のとおりである。
本明細書において、母乳パッドの「縦方向D
L」は、「平面視における母乳パッドにおいて当該母乳パッドの装着時に上下方向となる方向」を指し、「横方向D
C」は、「平面視における母乳パッドにおいて当該母乳パッドの装着時に左右方向(水平方向)となる方向」を指し、「厚さ方向D
T」は、「展開した状態で水平面上に置いた母乳パッドに対して垂直方向」を指し、これらの縦方向D
L、横方向D
C及び厚さ方向D
Tは、互いに直交する関係にある。
また、本明細書では、母乳パッドの厚さ方向D
Tにおいて、「母乳パッドの装着時に、装着者の肌面に対して相対的に近位側」を「肌面側」といい、「母乳パッドの装着時に、装着者の肌面に対して相対的に遠位側」を「非肌面側」という。ここで、「装着時」とは、装着者が母乳パッドを装着した時点(すなわち、使用可能な状態を形成した時点)からその状態を維持している間(すなわち、装着している間)を意味する。
【0040】
図1は、本発明の一実施形態に係る母乳パッド1を、外装シート5側(非肌面側)から見た斜視図であり、
図2は、母乳パッド1を、展開した状態で内面シート2側(肌面側)から厚さ方向D
Tに見た平面図である。また、
図3は、
図2の母乳パッド1を、横方向D
Cに延びる縦方向中央軸線C
2に沿った断面図である。
図1〜
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る母乳パッド1は、互いに直交する縦方向D
L、横方向D
C及び厚さ方向D
Tを有し、平面視にて、略円形形状の横方向D
Cの両端部の各々が縦方向D
Lに延びる直線で切断されたような外形形状を有している。なお、本発明において、母乳パッドの外形形状は、このような態様のものに限定されず、装着者の乳房を包み込むように覆うことができるものであれば、任意の外形形状(例えば、円形や楕円形、角の丸い四角形など)を採用することができる。
【0041】
また、上述の実施形態における母乳パッド1は、
図3に示すように、厚さ方向D
Tにおいて、装着者の肌面側S
1に位置する液透過性の内面シート2と、非肌面側S
2に位置する液不透過性の外面シート3と、これらの間に位置する吸収部材4とを、基本構成として備えており、さらに、外面シート3の非肌面側S
2の表面にホットメルト型接着剤等の任意の接着剤層(不図示)を介して接合され且つ外面シート3の横方向D
Cにおける両端部を非肌面側S
2から覆うようにして横方向D
Cの両端部が肌面側S
1へ折り返された外装シート5と、当該外装シート5の折り返された部分に挟まれ且つ縦方向D
Lに延在する1対の弾性部材EL(なお、本実施形態においては、弾性部材ELは、
図3に示すように、横方向D
Cにおける一方の端部の折り返された部分と他方の端部の折り返された部分の各々に、1対ずつ(合計4本)配置されている。)と、外装シート5の非肌面側S
2の表面に配置され且つ縦方向D
Lに延在するストライプ状の4本の粘着剤等からなる止着部6と、を備えている。なお、止着部6を除くこれらの構成部材は、各部材間がホットメルト型接着剤等の任意の接着剤によって接合された積層構造を形成している。
【0042】
かかる母乳パッド1は、外装シート5の非肌面側S
2の表面に配置された止着部6によって装着者の下着(例えば、ブラジャー等)の内側の表面に着脱自在に固定された後、内面シート2の肌面側S
1の表面が装着者の乳房の少なくとも一部を覆うように当接して使用される。
【0043】
そして、本実施形態の母乳パッド1においては、
図3に示すように、吸収部材4が、母乳を吸収及び保持し得る吸収性材料(例えば、パルプや高吸収性ポリマー等)によって形成された吸収体41と、該吸収体41の肌面側S
1の表面を覆うように配置された肌面側S
1の被覆シート42と、吸収体41の非肌面側S
2の表面を覆い且つ吸収体41及び被覆シート42を非肌面側S
2から包むように配置された非肌面側S
2の被覆シート43と、によって構成されており、さらに、上記肌面側S
1の被覆シート42には、母乳中の脂質に由来する脂肪酸の発生を抑制する脂肪酸発生抑制剤が配置されている。なお、本実施形態においては、脂肪酸発生抑制剤は、溶媒である水に溶解して水溶液とした後、その水溶液を肌面側S
1の被覆シート42の表面に塗工することによって配置されている。
【0044】
このように、本実施形態の母乳パッド1は、母乳中の脂質に由来する脂肪酸の発生を抑制する脂肪酸発生抑制剤を含んでいるため、不快な臭いの原因となる脂肪酸の発生自体を抑制することができ、結果的に、母乳由来の悪臭の発生を十分に抑制することができる。
さらに、本実施形態においては、かかる脂肪酸発生抑制剤が、内面シート2と吸収体41の間に位置する肌面側S
1の被覆シート42に配置されているため、脂肪酸発生抑制剤が吸収体41に吸収される前の母乳に接触し易く、当該脂肪酸発生抑制剤を母乳に対してより確実に作用させることができる。また、脂肪酸発生抑制剤が、内面シート2よりも非肌面側S
2に位置していることで、脂肪酸発生抑制剤が装着者の肌面に付着し難くなり、更には、装着者(授乳者)の肌面を介して乳児に経口摂取され難くなるため、かかる脂肪酸発生抑制剤による人体への影響等の不安感を、装着者に与え難くすることができる。
【0045】
以下、本発明の母乳パッドを構成する主な構成要素について、上述の実施形態に係る母乳パッド1を用いて更に詳細に説明する。
【0046】
[脂肪酸発生抑制剤]
上述の実施形態において、母乳パッド1は、吸収体41の肌面側S
1に位置する肌面側S
1の被覆シート42に、母乳中の脂質に由来する脂肪酸の発生を抑制する脂肪酸発生抑制剤が配置されている。かかる脂肪酸発生抑制剤は、装着者から排出された母乳が母乳パッド1の内面シート2を透過して上述の肌面側S
1の被覆シート42に到達したときに、母乳中に含まれる脂質の分解酵素であるリパーゼ(主に、リポプロテインリパーゼ)の活性を阻害するように作用する活性阻害剤である。より具体的には、本実施形態に用いられる活性阻害剤は、リパーゼにおける母乳中の脂質の加水分解に寄与する活性基と結合して、拮抗阻害の状態を形成することで、母乳中の脂質を加水分解され難くする、いわゆる酵素阻害剤の一種である。
【0047】
なお、本発明において、脂肪酸発生抑制剤は、母乳中に含まれる脂質に由来する脂肪酸の発生を抑制し得るものであれば、上述の活性阻害剤に限定されず、例えば、後述するようなリパーゼによる脂質の加水分解反応自体を生じ難くする反応条件や反応環境を形成するもの、すなわち、加水分解反応の抑制剤(例えば、脱水剤等)や反応環境の調整剤(例えば、pH調整剤、発熱剤等)などを用いることもできる。
【0048】
上述の実施形態では、脂肪酸発生抑制剤として、母乳中に含まれるリパーゼに対する活性阻害剤を用いているため、母乳中に含まれる脂質を加水分解するリパーゼの活性を阻害して、かかる加水分解によって生じる、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸の生成を抑制することができ、結果的に、母乳パッド1における母乳由来の悪臭の発生を十分に抑制することができる。
【0049】
ここで、母乳中に含まれる主な脂質は、オレイン酸(炭素数18の1価の不飽和脂肪酸)、パルミチン酸(炭素数16の飽和脂肪酸)及びリノール酸(炭素数18の2価の不飽和脂肪酸)が結合したトリグリセリドであり、このトリグリセリドがリパーゼの作用によって加水分解されると、選択的にオレイン酸とリノール酸が遊離し、さらに、このリノール酸が酵素分解や酸化分解等により分解されることで、悪臭の原因となる種々の脂肪酸(例えば、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸)が生成されるものと推定される。
【0050】
このような悪臭の原因となる種々の脂肪酸の中でも、炭素数2〜6の短鎖脂肪酸、特に、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸、カプロン酸は、強い不快感を与える臭いを有し、しかもその臭いが強烈である(すなわち、少量でもその臭いを感取させ得る)ため、本発明においては、脂肪酸発生抑制剤が、このような炭素数2〜6の短鎖脂肪酸の生成を抑制するものが好ましく、特に酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸、カプロン酸からなる群より選択される少なくとも一種の脂肪酸の生成を抑制するものが好ましい。このような不快且つ強烈な臭いの原因となる炭素数2〜6の短鎖脂肪酸を標的として、その発生を抑制することで、母乳パッドにおける悪臭の発生をより効率よく抑制することができる。さらに、発生を抑制する対象の脂肪酸を、特に不快且つ強烈な臭いの原因となる酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸、カプロン酸からなる群より選択される少なくとも一種の脂肪酸に限定して、これらの脂肪酸の発生を抑制することで、悪臭の発生をより的確且つ効果的に抑制することができる。
【0051】
本発明における脂肪酸発生抑制剤は、母乳中に含まれる脂質に由来する脂肪酸の発生を抑制し得るものであれば特に制限されず、例えば、上述の実施形態のようなリパーゼに対する活性阻害剤のほか、リパーゼによる脂質の加水分解反応自体を生じ難くする反応条件や反応環境を形成するもの、すなわち、加水分解反応の抑制剤(例えば、脱水剤等)や反応環境の調整剤(例えば、pH調整剤、発熱剤等)などを用いることもできる。加水分解反応の抑制剤や反応環境の調整剤は、母乳中に含まれるリパーゼの活性基には結合しない(すなわち、リパーゼ自体には作用しない)ものの、リパーゼによる脂質の加水分解反応の反応自体を起こり難くすることで、脂肪酸の生成を抑制するものであり、例えば、母乳中に含まれる水分を除去する脱水剤や乾燥剤;母乳のpHをリパーゼによる加水分解反応が進行し難い弱アルカリ性(好ましくは、pH9.5以上)に調整するpH調整剤;母乳の温度をリパーゼによる加水分解反応が進行し難い温度(好ましくは、50℃以上)に加熱する発熱剤などが挙げられる。
【0052】
これらの各種脂肪酸発生抑制剤の中でも、母乳パッド中における脂肪酸発生抑制効果の実効性及び装着者や乳児等の人体への影響に対する安全性などの観点から、上述のリパーゼに対する活性阻害剤を用いることが好ましい。このような活性阻害剤は、その他の脂肪酸発生抑制剤に比べて、母乳成分の個体差や母乳パッドの装着状態、装着環境等の影響によらず、母乳中に含まれるリパーゼの活性を阻害し易いため、母乳中に含まれる脂質をより確実に加水分解され難くし、脂肪酸の生成をより的確に抑制することができる。
【0053】
なお、本発明において、活性阻害剤がリパーゼの活性を阻害する形態は特に制限されず、上述の実施形態のようなリパーゼにおける加水分解に寄与する活性基と結合して拮抗阻害の状態を形成することにより、加水分解反応の反応開始を阻害するもののほか、リパーゼにおける上述の活性基とは異なる部位に結合して、かかる活性基を脂質へ作用し難くする状態(非拮抗阻害)を形成することにより、加水分解反応の進行を阻害するものであっても、これらの各形態を組み合わせたものであってもよい。
【0054】
さらに、本発明においては、脂肪酸発生抑制剤が、リポプロテインリパーゼに対する活性阻害剤であることが好ましい。脂肪酸発生抑制剤がリポプロテインリパーゼに対する活性阻害剤であると、母乳中に含まれるリパーゼ(すなわち、リポプロテインリパーゼ及び胆汁酸活性化リパーゼ)のうち、母乳中の脂質の加水分解に主に寄与すると考えられるリポプロテインリパーゼの活性を阻害するため、母乳中の脂質をより一層加水分解され難くすることができ、脂肪酸の生成をより的確且つ効果的に抑制することができる。
【0055】
本発明において、脂肪酸発生抑制剤として用い得るリパーゼの活性阻害剤としては、本発明の効果を奏し得る限り特に制限されず、例えば、緑茶、紅茶、ウーロン茶等の茶葉から抽出される茶カテキン等のカテキン類;渋柿から抽出される柿タンニン等のタンニン類;シャクヤク、オウレン、オウバク、ボタンピ、ゲンノショウコ、クジン、ドッカツ、リョウキョウ、ビンロウシ、ヨウバイヒ、ケツメイシ等の生薬の抽出物;ピーマン、南瓜、しめじ、舞茸、ひじき、リンゴ、高麗人参、生姜等の天然食品素材の抽出物;ヒノキ、ブドウ種子、柿の葉、弟切草、アカメガシワの樹皮、サンシュユの果実、ミロバランの果実、トチュウの葉、ユッカの葉又は種子、ジャスミンの花又は葉、山査子の果実、大豆胚芽、マメ科植物のカワラケツメイ(例えば、モクセンナ等)の葉等の植物の抽出物などの天然由来成分(特に、カテキン類やタンニン類等のポリフェノール類)のほか、セチリスタット、オルリスタット、エベラクトンB等の医薬成分なども用いることができる。
【0056】
このような活性阻害剤の中でも、活性阻害効果の点から、分子構造中にガロイル基を有するものが好ましく、さらに、ガロイル基を有するポリフェノール類がより好ましく、植物樹皮、マメ科植物のカワラケツメイ、茶又は柿に由来する、ガロイル基を有するポリフェノールが特に好ましい。
【0057】
活性阻害剤が分子構造中にガロイル基を有するものであると、かかるガロイル基が脂質の加水分解に寄与するリパーゼの活性基と結合して、拮抗阻害の状態を形成するため、母乳中の脂質がより確実に加水分解され難くなり、脂肪酸の生成をより確実且つ効果的に抑制することができる。さらに、活性阻害剤がガロイル基を有するポリフェノール類であると、上述の拮抗阻害の状態をより形成し易くなるため、脂肪酸の生成をより容易且つ的確に抑制することができる。特に、このガロイル基を有するポリフェノール類が、植物樹皮、マメ科植物のカワラケツメイ、茶又は柿に由来するポリフェノールであると、上述のとおり脂肪酸の生成をより的確に抑制することができる上、母乳パッドに含まれる活性阻害剤が天然成分に由来することで、かかる活性阻害剤による人体への影響等の不安感を装着者に与え難くすることができる。このようなガロイル基を有するポリフェノールとしては、エピガロカテキンガレート(EGCg)、エピカテキンガレート(ECg)、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)等のガレート型カテキンのほか、柿タンニンなどが挙げられる。
なお、上記のガロイル基を有するポリフェノールのうち、カテキンガレート及びガロカテキンガレートは、茶葉を含む天然植物中には殆ど存在しないため、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート又はこれらの混合物を加熱処理(例えば、80℃以上)して熱異性化(エピマー化)することにより、得ることができる。
【0058】
[変色抑制剤]
そして、母乳パッドが脂肪酸発生抑制剤として上述のポリフェノール類を含む場合、母乳パッドは、脂肪酸発生抑制剤の変色を抑制する変色抑制剤を更に含んでいることが好ましい。母乳パッドがこのような変色抑制剤を含んでいると、上述のポリフェノール類からなる脂肪酸発生抑制剤によって脂肪酸の発生を十分に抑制することができる上、変色抑制剤によって、脂肪酸発生抑制剤のポリフェノール類が酸化して変色するのを抑制することができる。これにより、脂肪酸発生抑制剤が変色して装着者に不安感や不快感を与えるというようなことを、生じ難くすることができる。
【0059】
本発明において、変色抑制剤は、上述のポリフェノール類からなる脂肪酸発生抑制剤の変色を抑制し得るものであれば特に制限されず、例えば、ビタミンC、(アスコルビン酸)、ビタミンE(トコフェノール)等のビタミン類、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、イソアスコルビン酸などの酸化防止剤のほか、脂肪酸発生抑制剤の溶媒である水などを用いることもできる。
【0060】
上述の酸化防止剤は、脂肪酸発生抑制剤のポリフェノール類の酸化自体を抑制するため、当該脂肪酸発生抑制剤の変色をより確実に生じ難くすることができる。また、変色抑制剤としての水は、脂肪酸発生抑制剤の水溶液濃度を低くすることで容易に添加することができ、これにより、上述の脂肪酸発生抑制剤の変色の発生を的確に制御することができる(すなわち、変色を目立たなくすることができる)とともに、変色抑制剤(すなわち、水)による人体への影響等の不安感を装着者に与え難くすることもできる。
【0061】
また、本発明においては、上述の変色抑制剤の代わりに又は変色抑制剤とともに、上述のポリフェノール類からなる脂肪酸発生抑制剤の変色を隠蔽する変色隠蔽手段を備えていてもよい。
そのような変色隠蔽手段としては、上述の脂肪酸発生抑制剤の変色を隠蔽し得るものであれば特に制限されず、例えば、上述の脂肪酸発生抑制剤の変色後の色が母乳パッドの肌面側及び/又は非肌面側の表面から視認できない色(隠蔽色)或いは上述の変色後の色が目立たなくなる色(補色)の着色剤(例えば、顔料や染料等)によって着色された着色シート;上述の脂肪酸発生抑制剤の変色後の色が母乳パッドの肌面側及び/又は非肌面側の表面から視認できない又は視認し難い程度の高い密度を有するシートなどの隠蔽性シートが挙げられ、これらの隠蔽性シートは、脂肪酸発生抑制剤が含有されるシートの肌面側及び/又は非肌面側の位置に別途配置してもよいし、脂肪酸発生抑制剤が含有されるシート自体であってもよいし、内面シートや外面シート、外装シート等の母乳パッドを構成するシート状部材であってもよい。
【0062】
[内面シート]
上述の実施形態において、母乳パッド1に用いられる内面シート2は、
図2及び
図3に示すように、平面視にて、母乳パッド1の縦方向D
Lにおける一方側の端縁から他方側の端縁にわたって延在するとともに、横方向D
Cにおける一方側の端縁から他方側の端縁にわたって延在する、母乳パッド1の全体の外形形状及び外形寸法と同様の外形形状及び外形寸法を有しており、母乳パッド1の厚さ方向D
Tにおいて、装着者の肌面(具体的には、装着者の乳房の肌面)に当接し得る肌面側S
1の位置に配置されて、装着者から排出された母乳を非肌面側S
2に位置する吸収部材4へと素早く移行させることのできる、液透過性のシート状部材によって形成されている。
なお、本発明において、内面シートの外形形状は、このような特定の態様のものに限定されず、装着者の乳房を包み込むように覆うことができるものであれば、任意の外形形状(例えば、円形や楕円形、角の丸い四角形など)を採用することができる。
【0063】
内面シートとして用い得る液透過性のシート状部材としては、母乳を透過し得る所定の液透過性を有するものであれば特に制限されず、例えば、エアースルー不織布、スパンボンド不織布等の不織布や織布、編布などのシート状の繊維構造体(すなわち、繊維シート);複数の開孔部を有する開孔樹脂フィルムなどを好適に用いることができる。かかるシート状部材は、界面活性剤により親水化処理が施されていてもよく、また、消臭剤や抗菌剤などの任意の添加剤を含んでいてもよい。なお、これらの添加剤は、単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0064】
内面シートとして上述の繊維シートを用いる場合、その構成繊維は、特に制限されず、例えば、粉砕パルプ、コットン等のセルロース繊維、レーヨン等の再生セルロース繊維、アセテート等の半合成セルロース繊維などのセルロース系繊維;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂又はこれらの熱可塑性樹脂の二種類以上を任意に組み合わせた熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂繊維などが挙げられ、これらの繊維は単独で用いても、二種類以上の繊維を併用してもよい。
また、内面シートとして上述の開孔樹脂フィルムを用いる場合、その構成樹脂は特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂、6−ナイロン等のポリアミド系樹脂などの熱可塑性樹脂又はこれらの熱可塑性樹脂の二種類以上を任意に組み合わせた熱可塑性樹脂組成物などが挙げられる。
【0065】
なお、内面シートとして用い得る液透過性のシート状部材の外形寸法(厚み等)や坪量等は、かかるシート状部材が母乳パッドの内面シートとして機能し得るものであれば特に制限されず、所望の液透過性や強度等に応じた任意の外形寸法や坪量等を採用することができる。
【0066】
[外面シート]
上述の実施形態において、母乳パッド1に用いられる外面シート3は、平面視にて、母乳パッド1の縦方向D
L及び横方向D
Cに延在し且つ吸収部材4の非肌面側の表面の大部分(例えば、吸収部材4の非肌面側S
2の表面面積の60%以上等)を覆うことのできる所定の外形形状及び外形寸法を有しており、母乳パッド1の厚さ方向D
Tにおいて、吸収部材4の非肌面側S
2に配置されて、母乳パッド1内(特に、吸収部材4)に吸収及び保持された母乳が母乳パッド1の外部へ漏れ出ないようにすることのできる、液不透過性のシート状部材によって形成されている。なお、本実施形態においては、外面シート3は、吸収部材4の非肌面側S
2の表面の一部とホットメルト型接着剤等の任意の接着剤層(不図示)を介して接合されている。
本発明において、外面シートの外形形状は、外面シートとしての機能を奏し得る形状であれば特に制限されず、任意の外形形状(例えば、円形、楕円形、角の丸い四角形、或いは内面シートと同様の形状など)を採用することができる。
【0067】
外面シートとして用い得る液不透過性のシート状部材としては、母乳の透過を防ぎ得る所定の液不透過性を有するもの(更に好ましくは、通気性を併せ持つもの)であれば特に制限されず、例えば、防水処理を施した又は疎水性を有する合成樹脂繊維からなる、SMS不織布、スパンボンド不織布、ポイントボンド不織布等の不織布や合成樹脂材料からなる有孔又は無孔の樹脂シートなどを好適に用いることができる。かかるシート状部材は、消臭剤や抗菌剤などの任意の添加剤を含んでいてもよく、これらの添加剤は、単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0068】
また、外面シートとして上述の不織布又は樹脂シートを用いる場合、その構成材料(不織布の場合は、当該不織布の構成繊維を形成する材料)は、液不透過性を阻害しないものであれば特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂又はこれらの熱可塑性樹脂の二種類以上を任意に組み合わせた熱可塑性樹脂組成物などを好適に用いることができる。
【0069】
なお、外面シートとして用い得る液不透過性のシート状部材の外形寸法や坪量等は、かかるシート状部材が母乳パッドの外面シートとして機能し得るものであれば特に制限されず、所望の液不透過性等に応じた任意の外形寸法や坪量等を採用することができる。
【0070】
また、このような外面シートを備えることは、本発明の母乳パッドにおいては必須の構成要件ではないため、例えば、後述の外装シートが外面シートとしても機能し得る場合等には、母乳パッドは、このような外面シートを備えていなくてもよい。
【0071】
[吸収体]
上述の実施形態において、母乳パッド1に用いられる吸収部材4は、
図2に示すように、平面視にて、母乳パッド1の中央部(縦方向D
Lに延びる横方向中央軸線C
1と横方向D
Cに延びる縦方向中央軸線C
2との交点を含む部分)を含む領域に位置し、上述の母乳パッド1の全体の外形形状と同様の、略円形形状の横方向D
Cの両端部が縦方向D
Lに延びる直線で切断されたような外形形状を有するとともに、母乳パッド1の外形寸法よりも一回り小さい外形寸法を有している。
さらに、吸収部材4は、母乳パッド1の厚さ方向D
Tにおいて、内面シート2と外面シート3の間に配置されて、内面シート2を透過してきた母乳を吸収して保持し得る吸収体41を備えている。
なお、本発明において、吸収部材の外形形状は、上述のような特定の態様のものに限定されず、所定の吸収性能を発揮し得る形状であれば任意の外形形状(例えば、円形、楕円形、矩形、角の丸い四角形など)を採用することができる。
【0072】
上述の実施形態において、吸収部材4は、パルプ等の親水性繊維と高吸収性ポリマー(SAP)の粒状物との混合物からなる吸収性材料によって形成された吸収体41と、該吸収体41の肌面側S
1の表面を覆うように配置された肌面側S
1の被覆シート42と、吸収体41の非肌面側S
2の表面を覆い且つ吸収体41及び被覆シート42を非肌面側S
2から包むように配置された非肌面側S
2の被覆シート43と、によって構成されており、さらに、上述の肌面側S
1の被覆シート42には、母乳中の脂質に由来する脂肪酸の発生を抑制する脂肪酸発生抑制剤が配置されている。
【0073】
なお、本発明において、脂肪酸発生抑制剤の配置位置は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、脂肪酸発生抑制剤は、上述の肌面側の被覆シートのほか、例えば、内面シートの非肌面側の表面又は内部、該内面シートの非肌面側に任意に配置される中間シートの肌面側及び/又は非肌面側の表面或いは内部、吸収体の肌面側の表面又は内部(すなわち、パルプ等の吸収性材料と混合された形態)などの任意の位置に配置することができる。但し、脂肪酸発生抑制剤が、上述の実施形態のように内面シートと吸収体の間に配置されていると、脂肪酸発生抑制剤を、吸収体に吸収される前の母乳に対してより確実に作用させることができる上、脂肪酸発生抑制剤が、内面シートよりも非肌面側に位置していることで、脂肪酸発生抑制剤が装着者の肌面に付着し難くなり、更には、装着者(授乳者)の肌面を介して乳児に経口摂取され難くなるため、かかる脂肪酸発生抑制剤による人体への影響等の不安感を、装着者に与え難くすることができるという利点もある。
【0074】
また、別の観点では、脂肪酸発生抑制剤は、母乳パッドを構成する複数のシート(例えば、上述の内面シート、中間シート、肌面側の被覆シート等)のうち、最も高密度のシートに配置されていてもよい。脂肪酸発生抑制剤がこのような最も高密度のシートに配置されていると、脂肪酸発生抑制剤が装着者の動きや母乳の流動等によって移動し難いため、当該脂肪酸発生抑制剤の作用をより確実に発揮させることができる上、脂肪酸発生抑制剤が酸化等により変色し易い場合には、かかる高密度のシートによって脂肪酸発生抑制剤の変色を視認され難くすることができる。
【0075】
ここで、吸収体に用い得る吸収性材料は、母乳を吸収及び保持し得るものであれば上述の実施形態のものに限定されず、当分野において公知の任意の吸収性材料を用いることができる。そのような吸収性材料としては、例えば、フラッフパルプ等のパルプ、コットン、レーヨン、アセテートなどのセルロース系繊維;アクリル酸ナトリウムコポリマー等の高吸収性ポリマーからなる粒状物;及びこれらを任意に組み合わせた混合物などが挙げられる。
【0076】
また、吸収体の肌面側及び非肌面側の各々に配置される被覆シートも、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、例えば、針葉樹晒クラフトパルプを主原料として形成された、坪量が10.0g/m
2〜15.0g/m
2程度のティッシュペーパーやエアースルー不織布、スパンボンド不織布などの任意の不織布を用いることができる。
【0077】
なお、吸収部材の全体の外形寸法や坪量等は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、所望の吸収性能や強度等に応じた任意の外形寸法や坪量等を採用することができる。
【0078】
[外装シート]
上述の実施形態において、母乳パッド1に用いられる外装シート5は、平面視にて、母乳パッド1の縦方向D
Lにおける一方側の端縁から他方側の端縁にわたって延在するとともに、横方向D
Cにおける一方側の端縁から他方側の端縁にわたって延在する、母乳パッド1の全体の外形形状及び外形寸法と同様の外形形状及び外形寸法を有しており(
図1を参照)、母乳パッド1の厚さ方向D
Tにおいて、外面シート3の非肌面側S
2の表面にホットメルト型接着剤等の任意の接着剤層(不図示)を介して接合され、且つ外面シート3の横方向D
Cにおける両端部を非肌面側S
2から包むようにして、横方向D
Cの両端部が肌面側S
1へ折り返された状態で配置されている(
図3を参照)。この外装シート5は、母乳パッド1において最も非肌面側S
2に位置し、外面シート3と同様に、母乳パッド1内(特に、吸収部材4)に吸収及び保持された母乳が母乳パッド1の外部へ漏れ出ないようにしつつ、母乳パッド1の外形を画定する、液不透過性のシート状部材によって形成されている。
なお、本発明において、外装シートの外形形状は、外装シートとしての機能を奏し得る形状であれば特に制限されず、任意の外形形状(例えば、円形、楕円形、角の丸い四角形など)を採用することができる。
【0079】
外装シートとして用い得る液不透過性のシート状部材としては、母乳の透過を防ぎ得る所定の液不透過性を有するもの(更に好ましくは、通気性を併せ持つもの)であれば特に制限されず、例えば、上述の外面シートと同様の不織布や樹脂シートなどを用いることができる。なお、外装シートは、1枚のシート状部材から構成されていても、2枚以上のシート状部材から構成されていてもよい。
【0080】
外装シートとして用い得る液不透過性のシート状部材の外形寸法や坪量等は、かかるシート状部材が母乳パッドの外装シートとして機能し得るものであれば特に制限されず、所望の液不透過性や強度等に応じた任意の外形寸法や坪量等を採用することができる。
【0081】
また、このような外装シートを備えることは、本発明の母乳パッドにおいては必須の構成要件ではないため、例えば、上述の外面シートが外装シートとしても機能し得る場合等には、母乳パッドは、このような外装シートを備えていなくてもよい。
【0082】
本発明の母乳パッドは、上述の実施形態等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。なお、本明細書において、「第1」、「第2」等の序数は、当該序数が付された事項を区別するためのものであり、各事項の順序や優先度、重要度等を意味するものではない。
【実施例】
【0083】
以下、実施例及び比較例を例示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
本発明の脂肪酸発生抑制剤を含む母乳パッドを想定して、各種脂肪酸発生抑制剤が実際の母乳中に含まれるリパーゼの活性へ与える影響を検証した。
実施例1
授乳期の母乳提供者から提供された実際の母乳に、脂肪酸発生抑制剤として分子構造中にガロイル基を有するエピガロカテキンガレート体を多く含むポリフェノールの市販品(株式会社 伊藤園製、商品名「テアフラン30A」)を0.5%の添加量(質量%)で添加し、添加直後と、37℃に保温しながら所定時間後のリパーゼの酵素活性量(μmol/L)を、後述する<酵素活性量の測定方法>に基づいて測定した。
その一方で、脂肪酸発生抑制剤を添加していない母乳(以下、「未添加の母乳」という。)についても、同様の時間毎にリパーゼの酵素活性量を測定し、さらに、この未添加の母乳の酵素活性量を100%としたときの実施例1の酵素活性量の割合(%)を、各時間毎に算出し、得られた値をリパーゼの酵素活性低下率(%)とした。
【0085】
<酵素活性量の測定方法>
(1)各種試薬の調製
以下の配合割合にて、基質溶液、反応停止液及び検量線用サンプル液の各種試薬を調製する。
(a)基質溶液
1mol/Lのトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)3mLと、蒸留水で希釈した50mmol/Lの2−メトキシエタノール60μLと、ジメチルスルホキシド(DMSO)で希釈した103mmol/Lのミリスチン酸ρ−ニトロフェニル120μLと、蒸留水8.82mLとを、所定の容器内で混合することにより、基質溶液を調製する。
(b)反応停止液
アセトン15mLと、n−ヘプタン6mLとを所定の容器内で混合することにより、反応停止液を調製する。
(c)検量線用サンプル液
ρ−ニトロフェノールをDMSOに溶解し、1mol/Lの溶液(1M溶液)を調製する。この1M溶液を0.25mol/LのTrisで100倍に希釈し、10mmol/Lの溶液(10mM溶液)を調製し、さらに、0.25mol/LのTrisで適宜希釈して、検量線用のサンプル液を調製する。
(2)リパーゼの酵素活性量(μmol/L)の測定
(i) 2mLのチューブに基質溶液を0.5mLずつ注入する。
(ii) 基質溶液を注入した2mLのチューブに、測定用サンプル(母乳及び脂肪酸発生抑制剤を含む母乳)10μLを注入し、直ちに30℃に加温した水槽中でインキュベートする。
(iii) 15分後、上記2mLのチューブに、反応停止液0.7mLを添加する。
(iv) 反応停止液を添加した2mLをボルテックスミキサーにより旋回させ、内容液を懸濁させた後、さらに、遠心力6100×gで2分間遠心分離する。
(v) 遠心分離後の内容液のうち、下部の水層を、
0.5mLずつ別の2mLチューブに回収する。
(vi) 回収したサンプル液及び検量線用サンプル液を200μLずつ96ウェルプレートに移す。
(vii) ρ−ニトロフェノールの存在を示す405nmの吸光度を吸光プレートリーダーで測定する。
なお、ここで測定されるρ−ニトロフェノールの検出量は、リパーゼによってミリスチン酸ρ−ニトロフェニルが加水分解されて生成されたρ−ニトロフェノールの量に相当するものである。
【0086】
実施例2
脂肪酸発生抑制剤の添加量を1.0%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各時間後のリパーゼの酵素活性量を測定し、さらに、実施例2のリパーゼの酵素活性低下率の値を求めた。
【0087】
実施例3〜5
脂肪酸発生抑制剤として分子構造中にガロイル基を有する柿タンニンを多く含むポリフェノールの市販品(リリース科学工業株式会社製、商品名「PANCIL COS−17」)を用い、添加量(質量%)をそれぞれ5%、10%及び20%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各時間毎のリパーゼの酵素活性量を測定し、さらに、実施例3〜5のリパーゼの酵素活性低下率の値を求めた。
【0088】
比較例1
脂肪酸発生抑制剤として分子構造中にガロイル基を有していないポリフェノールであるルチンを用い、添加量(質量%)を0.125%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各時間毎のリパーゼの酵素活性量を測定し、さらに、比較例1のリパーゼの酵素活性低下率の値を求めた。
【0089】
このようにして得られた各実施例及び比較例のリパーゼの酵素活性低下率の値は、以下の表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1に示すように、脂肪酸発生抑制剤としてガロイル基を有するポリフェノール(エピガロカテキン又は柿タンニン)を用いた実施例1〜5は、リパーゼの酵素活性低下率が低く、リパーゼの活性を十分に抑制できていることが分かった。
一方、ガロイル基を有していないポリフェノール(ルチン)を用いた比較例1は、リパーゼの酵素活性低下率が未添加の母乳に比べて高くなっており、リパーゼの活性を抑制するどころか、活性が促進されていたため、比較例1に用いたルチンは、脂肪酸発生抑制剤としては機能しないことが分かった。
また、実施例1及び2と、実施例3〜5との比較から、柿タンニンは、極めて優れたリパーゼの活性阻害効果を有していることが分かった。