特許第6938248号(P6938248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6938248基板処理装置、基板処理方法及び記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6938248
(24)【登録日】2021年9月3日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】基板処理装置、基板処理方法及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20210909BHJP
【FI】
   H01L21/304 651B
   H01L21/304 651L
【請求項の数】21
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-131473(P2017-131473)
(22)【出願日】2017年7月4日
(65)【公開番号】特開2019-16654(P2019-16654A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100106655
【弁理士】
【氏名又は名称】森 秀行
(72)【発明者】
【氏名】丸 本 洋
【審査官】 堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−037551(JP,A)
【文献】 特開2015−023182(JP,A)
【文献】 特開2004−128495(JP,A)
【文献】 特開2017−005230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を処理液によって処理する処理工程と、
回転する前記基板に前記処理液よりも揮発性が高い第1乾燥液を供給して液膜を形成した後に、前記基板上における前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離が次第に大きくなるように前記第1乾燥液の前記供給位置を移動させ、これによって乾燥領域を同心円状に拡げてゆきながら前記基板を乾燥させる乾燥工程と、
を備え、
前記乾燥工程は、前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記処理液よりも揮発性が高い第2乾燥液を前記基板に供給することを含み、このときの前記基板上における前記基板の回転中心から前記第2乾燥液の供給位置までの距離は、前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離よりも大きく、
前記乾燥工程において、前記第1乾燥液は第1乾燥液ノズル移動機構により移動させられる第1乾燥液ノズルから供給され、前記第2乾燥液は第2乾燥液ノズル移動機構により移動させられる第2乾燥液ノズルから供給され、前記第1乾燥液ノズルの移動速度および前記第2乾燥液ノズルの移動速度が、前記第1乾燥液ノズル移動機構および前記第2乾燥液ノズル移動機構によりそれぞれ個別に調整される、基板処理方法。
【請求項2】
前記第1乾燥液と前記第2乾燥液は同じ成分を有する液である、請求項1記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記第1乾燥液及び前記第2乾燥液はIPA(イソプロピルアルコール)である、請求項2記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記第1乾燥液と前記第2乾燥液は異なる成分を有する液である、請求項1記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記第2乾燥液を前記基板に供給するときにおける前記第1乾燥液の温度は、前記第2乾燥液の温度よりも高い、請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記第2乾燥液を前記基板に供給するときにおける前記第2乾燥液の流量は、前記第1乾燥液の流量よりも大きい、請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記基板上における前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離が大きくなるに伴い前記第1乾燥液の流量を大きくする、請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記第2乾燥液を前記基板に供給するときにおいて、前記第1乾燥液の温度は前記第2乾燥液の温度よりも高く、前記第2乾燥液の流量は前記第1乾燥液の流量よりも大きい、請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記乾燥工程は、前記乾燥領域に向けて乾燥ガスを基板に供給することをさらに含む、請求項1から8のうちのいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記乾燥ガスが前記乾燥領域とその外側の非乾燥領域との間の界面の近傍に向けて供給されるよう、前記乾燥ガスの供給位置を移動させてゆく、請求項9記載の基板処理方法。
【請求項11】
基板を処理液によって処理する処理工程と、
回転する前記基板に前記処理液よりも揮発性が高い第1乾燥液を供給して液膜を形成した後に、前記基板上における前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離が次第に大きくなるように前記第1乾燥液の前記供給位置を移動させ、これによって乾燥領域を同心円状に拡げてゆきながら前記基板を乾燥させる乾燥工程と、
を備え、
前記乾燥工程は、前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記処理液よりも揮発性が高い第2乾燥液を前記基板に供給することを含み、このときの前記基板上における前記基板の回転中心から前記第2乾燥液の供給位置までの距離は、前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離よりも大きく、
前記第1乾燥液と前記第2乾燥液は異なる成分を有する液である、基板処理方法。
【請求項12】
基板を処理液によって処理する処理工程と、
回転する前記基板に前記処理液よりも揮発性が高い第1乾燥液を供給して液膜を形成した後に、前記基板上における前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離が次第に大きくなるように前記第1乾燥液の前記供給位置を移動させ、これによって乾燥領域を同心円状に拡げてゆきながら前記基板を乾燥させる乾燥工程と、
を備え、
前記乾燥工程は、前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記処理液よりも揮発性が高い第2乾燥液を前記基板に供給することを含み、このときの前記基板上における前記基板の回転中心から前記第2乾燥液の供給位置までの距離は、前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離よりも大きく、
前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記第2乾燥液を前記基板に供給するときにおける前記第1乾燥液の温度は、前記第2乾燥液の温度よりも高い、基板処理方法。
【請求項13】
基板を処理液によって処理する処理工程と、
回転する前記基板に前記処理液よりも揮発性が高い第1乾燥液を供給して液膜を形成した後に、前記基板上における前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離が次第に大きくなるように前記第1乾燥液の前記供給位置を移動させ、これによって乾燥領域を同心円状に拡げてゆきながら前記基板を乾燥させる乾燥工程と、
を備え、
前記乾燥工程は、前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記処理液よりも揮発性が高い第2乾燥液を前記基板に供給することを含み、このときの前記基板上における前記基板の回転中心から前記第2乾燥液の供給位置までの距離は、前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離よりも大きく、
前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記第2乾燥液を前記基板に供給するときにおける前記第2乾燥液の流量は、前記第1乾燥液の流量よりも大きい、基板処理方法。
【請求項14】
基板を処理液によって処理する処理工程と、
回転する前記基板に前記処理液よりも揮発性が高い第1乾燥液を供給して液膜を形成した後に、前記基板上における前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離が次第に大きくなるように前記第1乾燥液の前記供給位置を移動させ、これによって乾燥領域を同心円状に拡げてゆきながら前記基板を乾燥させる乾燥工程と、
を備え、
前記乾燥工程は、前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記処理液よりも揮発性が高い第2乾燥液を前記基板に供給することを含み、このときの前記基板上における前記基板の回転中心から前記第2乾燥液の供給位置までの距離は、前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離よりも大きく、
前記基板上における前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離が大きくなるに伴い前記第1乾燥液の流量を大きくする、基板処理方法。
【請求項15】
基板を処理液によって処理する処理工程と、
回転する前記基板に前記処理液よりも揮発性が高い第1乾燥液を供給して液膜を形成した後に、前記基板上における前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離が次第に大きくなるように前記第1乾燥液の前記供給位置を移動させ、これによって乾燥領域を同心円状に拡げてゆきながら前記基板を乾燥させる乾燥工程と、
を備え、
前記乾燥工程は、前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記処理液よりも揮発性が高い第2乾燥液を前記基板に供給することを含み、このときの前記基板上における前記基板の回転中心から前記第2乾燥液の供給位置までの距離は、前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離よりも大きく、
前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記第2乾燥液を前記基板に供給するときにおいて、前記第1乾燥液の温度は前記第2乾燥液の温度よりも高く、前記第2乾燥液の流量は前記第1乾燥液の流量よりも大きい、基板処理方法。
【請求項16】
基板を処理液によって処理する処理工程と、
回転する前記基板に前記処理液よりも揮発性が高い第1乾燥液を供給して液膜を形成した後に、前記基板上における前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離が次第に大きくなるように前記第1乾燥液の前記供給位置を移動させ、これによって乾燥領域を同心円状に拡げてゆきながら前記基板を乾燥させる乾燥工程と、
を備え、
前記乾燥工程は、前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記処理液よりも揮発性が高い第2乾燥液を前記基板に供給することを含み、このときの前記基板上における前記基板の回転中心から前記第2乾燥液の供給位置までの距離は、前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離よりも大きく、
前記乾燥工程は、前記乾燥領域に向けて乾燥ガスを基板に供給することをさらに含み、前記乾燥ガスが前記乾燥領域とその外側の非乾燥領域との間の界面の近傍に向けて供給されるよう、前記乾燥ガスの供給位置を移動させてゆく、基板処理方法。
【請求項17】
基板を水平に保持するための基板保持部と、
前記基板保持部を鉛直軸周りに回転させるための回転機構と、
前記基板保持部に保持された基板の表面に処理液を供給する処理液ノズルと、
前記基板を乾燥させるための第1乾燥液を供給する第1乾燥液ノズルと、
前記基板を乾燥させるための第2乾燥液を供給する第2乾燥液ノズルと、
前記処理液ノズルに前記処理液を供給する処理液供給機構と、
前記第1乾燥液ノズルに前記第1乾燥液を供給する第1乾燥液供給機構と、
前記第2乾燥液ノズルに前記第2乾燥液を供給する第2乾燥液供給機構と、
前記処理液ノズルを水平方向に移動させる処理液ノズル移動機構と
前記第1乾燥液ノズルを水平方向に移動させる第1乾燥液ノズル移動機構と、
記第2乾燥液ノズルを水平方向に移動させる第2乾燥液ノズル移動機構と、
前記処理液供給機構、前記第1乾燥液供給機構、前記第2乾燥液供給機構、前記処理液ノズル移動機構、前記第1乾燥液ノズル移動機構および前記第2乾燥液ノズル移動機構個別に制御して、請求項1からのうちのいずれか一項に記載の基板処理方法を実行させる制御部と、
を備えた基板処理装置。
【請求項18】
前記基板を乾燥させるための乾燥ガスを供給するガスノズルと、前記ガスノズルに前記乾燥ガスを供給する乾燥ガス供給機構と、前記ガスノズルを水平方向に移動させるガスノズル移動機構と、をさらに備え、
前記制御部は、前記乾燥ガス供給機構および前記ガスノズル移動機構も制御して、請求項9または10に記載の基板処理方法を実行させる、請求項17記載の基板処理装置。
【請求項19】
基板を水平に保持するための基板保持部と、
前記基板保持部を鉛直軸周りに回転させるための回転機構と、
前記基板保持部に保持された基板の表面に処理液を供給する処理液ノズルと、
前記基板を乾燥させるための第1乾燥液を供給する第1乾燥液ノズルと、
前記基板を乾燥させるための第2乾燥液を供給する第2乾燥液ノズルと、
前記処理液ノズルに前記処理液を供給する処理液供給機構と、
前記第1乾燥液ノズルに前記第1乾燥液を供給する第1乾燥液供給機構と、
前記第2乾燥液ノズルに前記第2乾燥液を供給する第2乾燥液供給機構と、
前記処理液ノズル、前記第1乾燥液ノズル及び前記第2乾燥液ノズルを水平方向に移動させるノズル移動機構と、
前記処理液供給機構、前記第1乾燥液供給機構、前記第2乾燥液供給機構及び前記ノズル移動機構を制御して、請求項11から15のうちのいずれか一項に記載の基板処理方法を実行させる制御部と、
を備えた基板処理装置。
【請求項20】
基板を水平に保持するための基板保持部と、
前記基板保持部を鉛直軸周りに回転させるための回転機構と、
前記基板保持部に保持された基板の表面に処理液を供給する処理液ノズルと、
前記基板を乾燥させるための第1乾燥液を供給する第1乾燥液ノズルと、
前記基板を乾燥させるための第2乾燥液を供給する第2乾燥液ノズルと、
前記基板を乾燥させるための乾燥ガスを供給するガスノズルと、
前記処理液ノズルに前記処理液を供給する処理液供給機構と、
前記第1乾燥液ノズルに前記第1乾燥液を供給する第1乾燥液供給機構と、
前記第2乾燥液ノズルに前記第2乾燥液を供給する第2乾燥液供給機構と、
前記ガスノズルに前記乾燥ガスを供給する乾燥ガス供給機構と、
前記処理液ノズル、前記第1乾燥液ノズル、前記第2乾燥液ノズル及び前記ガスノズルを水平方向に移動させるノズル移動機構と、
前記処理液供給機構、前記第1乾燥液供給機構、前記第2乾燥液供給機構、前記乾燥ガス供給機構及び前記ノズル移動機構を制御して、請求項16に記載の基板処理方法を実行させる制御部と、
を備えた基板処理装置。
【請求項21】
基板処理装置の動作を制御するためのコンピュータにより実行されたときに、前記コンピュータが前記基板処理装置を制御して請求項1から20のうちのいずれか一項に記載の基板処理方法を実行させるプログラムが記録された記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の基板を処理液で処理した後に乾燥させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程には、半導体ウエハ等の基板の表面にノズルから薬液を供給することにより基板にウエットエッチング、薬液洗浄等の液処理を施す工程が含まれる。薬液が供給された後に、基板にはリンス液例えばDIW(純水)が供給され、その後基板が乾燥させられる。
【0003】
特許文献1には、DIWで濡れている基板の表面の中心部に高揮発性かつ低表面張力の液体であるIPAを供給し、その後、IPAの供給位置を基板の中心部から周縁部に向けて移動させてゆき、これにより乾燥界面(IPAが乾燥して無くなった乾燥領域と、IPAの液膜が存在する非乾燥領域との界面を意味する)を徐々に基板の周縁部に向けて拡げてゆきながら、基板の表面を乾燥させることが記載されている。このような方法で乾燥を行うことにより、乾燥工程におけるパーティクルの発生、パターンの倒壊等の不具合が生じることを防止することができる。また、特許文献1には、IPAの供給と同時に基板表面の乾燥領域に窒素ガスを供給することが記載されている。窒素ガスが乾燥界面よりやや半径方向内側の位置に吹き付けられるように、窒素ガスの供給位置が基板の中心部から周縁部に向けて移動させられる。このように窒素ガスを供給することにより、乾燥が促進されかつ均一化される。
【0004】
しかし、近年の高集積化や高アスペクト比化が進んだ半導体装置の製造においては、上述した方法をもってしてもパターン倒壊が発生するようになってきている。パターン倒壊を回避するための乾燥方法として、昇華乾燥、超臨界乾燥などがあるが、これらの乾燥方法は高コストである。また、近年では、IPA残渣等の欠陥に対する基準がより厳しくなってきており、上述した方法では基準を満たさない場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−036180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、乾燥界面における乾燥条件の最適化をしつつ、基板表面において液膜が壊れることを防止することができる基板の乾燥技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、基板を処理液によって処理する処理工程と、回転する前記基板に前記処理液よりも揮発性が高い第1乾燥液を供給して液膜を形成した後に、前記基板上における前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離が次第に大きくなるように前記第1乾燥液の前記供給位置を移動させ、これによって乾燥領域を同心円状に拡げてゆきながら前記基板を乾燥させる乾燥工程と、を備え、前記乾燥工程は、前記第1乾燥液を前記基板に供給しながら前記処理液よりも揮発性が高い第2乾燥液を前記基板に供給することを含み、このときの前記基板上における前記基板の回転中心から前記第2乾燥液の供給位置までの距離は、前記基板の回転中心から前記第1乾燥液の供給位置までの距離よりも大きい、基板処理方法が提供される。
【0008】
本発明の他の実施形態によれば、基板を水平に保持するための基板保持部と、前記基板保持部を鉛直軸周りに回転させるための回転機構と、前記基板保持部に保持された基板の表面に処理液を供給する処理液ノズルと、前記基板を乾燥させるための第1乾燥液を供給する第1乾燥液ノズルと、前記基板を乾燥させるための第2乾燥液を供給する第2乾燥液ノズルと、前記処理液ノズルに前記処理液を供給する処理液供給機構と、前記第1乾燥液ノズルに前記第1乾燥液を供給する第1乾燥液供給機構と、前記第2乾燥液ノズルに前記第2乾燥液を供給する第2乾燥液供給機構と、前記処理液ノズル、前記第1乾燥液ノズル及び前記第2乾燥液ノズルを水平方向に移動させるノズル移動機構と、 前記処理液供給機構、前記第1乾燥液供給機構、前記第2乾燥液供給機構及び前記ノズル移動機構を制御して、上記の基板処理方法を実行させる制御部とを備えた基板処理装置が提供される。
【0009】
本発明の更に他の実施形態によれば、基板処理装置の動作を制御するためのコンピュータにより実行されたときに、前記コンピュータが前記基板処理装置を制御して上記の基板処理方法を実行させるプログラムが記録された記憶媒体が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上記の実施形態によれば、第2乾燥液ノズルから乾燥液を供給することにより、基板の周縁部で乾燥液の液膜が壊れることを防止することができる。このため、第1乾燥液ノズルからの乾燥液の供給条件の、乾燥界面付近の乾燥液の状態の最適化のみを考慮して決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る基板処理システムの概略構成を示す平面図である。
図2】前記基板処理システムに含まれる処理ユニットの概略構成を示す縦断面図である。
図3図2に示した処理ユニットの内部の平面図である。
図4】乾燥工程について説明する概略図である。
図5】ウエハ表面の乾燥界面付近の状態について説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る基板処理システムの概略構成を示す図である。以下では、位置関係を明確にするために、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を規定し、Z軸正方向を鉛直上向き方向とする。
【0014】
図1に示すように、基板処理システム1は、搬入出ステーション2と、処理ステーション3とを備える。搬入出ステーション2と処理ステーション3とは隣接して設けられる。
【0015】
搬入出ステーション2は、キャリア載置部11と、搬送部12とを備える。キャリア載置部11には、複数枚の基板、本実施形態では半導体ウエハ(以下ウエハW)を水平状態で収容する複数のキャリアCが載置される。
【0016】
搬送部12は、キャリア載置部11に隣接して設けられ、内部に基板搬送装置13と、受渡部14とを備える。基板搬送装置13は、ウエハWを保持するウエハ保持機構を備える。また、基板搬送装置13は、水平方向および鉛直方向への移動ならびに鉛直軸を中心とする旋回が可能であり、ウエハ保持機構を用いてキャリアCと受渡部14との間でウエハWの搬送を行う。
【0017】
処理ステーション3は、搬送部12に隣接して設けられる。処理ステーション3は、搬送部15と、複数の処理ユニット16とを備える。複数の処理ユニット16は、搬送部15の両側に並べて設けられる。
【0018】
搬送部15は、内部に基板搬送装置17を備える。基板搬送装置17は、ウエハWを保持するウエハ保持機構を備える。また、基板搬送装置17は、水平方向および鉛直方向への移動ならびに鉛直軸を中心とする旋回が可能であり、ウエハ保持機構を用いて受渡部14と処理ユニット16との間でウエハWの搬送を行う。
【0019】
処理ユニット16は、基板搬送装置17によって搬送されるウエハWに対して所定の基板処理を行う。
【0020】
また、基板処理システム1は、制御装置4を備える。制御装置4は、たとえばコンピュータであり、制御部18と記憶部19とを備える。記憶部19には、基板処理システム1において実行される各種の処理を制御するプログラムが格納される。制御部18は、記憶部19に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって基板処理システム1の動作を制御する。
【0021】
なお、かかるプログラムは、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、その記憶媒体から制御装置4の記憶部19にインストールされたものであってもよい。コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体としては、たとえばハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルディスク(MO)、メモリカードなどがある。
【0022】
上記のように構成された基板処理システム1では、まず、搬入出ステーション2の基板搬送装置13が、キャリア載置部11に載置されたキャリアCからウエハWを取り出し、取り出したウエハWを受渡部14に載置する。受渡部14に載置されたウエハWは、処理ステーション3の基板搬送装置17によって受渡部14から取り出されて、処理ユニット16へ搬入される。
【0023】
処理ユニット16へ搬入されたウエハWは、処理ユニット16によって処理された後、基板搬送装置17によって処理ユニット16から搬出されて、受渡部14に載置される。そして、受渡部14に載置された処理済のウエハWは、基板搬送装置13によってキャリア載置部11のキャリアCへ戻される。
【0024】
図2に示すように、処理ユニット16は、チャンバ20と、基板保持機構30と、処理流体供給部40と、回収カップ50とを備える。
【0025】
チャンバ20は、基板保持機構30と処理流体供給部40と回収カップ50とを収容する。チャンバ20の天井部には、FFU(Fan Filter Unit)21が設けられる。FFU21は、チャンバ20内にダウンフローを形成する。
【0026】
基板保持機構30は、保持部31と、支柱部32と、駆動部33とを備える。保持部31は、ウエハWを水平に保持する。支柱部32は、鉛直方向に延在する部材であり、基端部が駆動部33によって回転可能に支持され、先端部において保持部31を水平に支持する。駆動部33は、支柱部32を鉛直軸まわりに回転させる。かかる基板保持機構30は、駆動部33を用いて支柱部32を回転させることによって支柱部32に支持された保持部31を回転させ、これにより、保持部31に保持されたウエハWを回転させる。
【0027】
処理流体供給部40は、ウエハWに対して処理流体を供給する。処理流体供給部40は、処理流体供給源70に接続される。
【0028】
回収カップ50は、保持部31を取り囲むように配置され、保持部31の回転によってウエハWから飛散する処理液を捕集する。回収カップ50の底部には、排液口51が形成されており、回収カップ50によって捕集された処理液は、かかる排液口51から処理ユニット16の外部へ排出される。また、回収カップ50の底部には、FFU21から供給される気体を処理ユニット16の外部へ排出する排気口52が形成される。
【0029】
図3に示すように、処理ユニット16は、ウエハWに薬液としてのDHF(希フッ酸)を供給する薬液ノズル41と、ウエハWにリンス液としてのDIW(純水)を供給するリンスノズル42と、ウエハWに乾燥液としてのIPA(イソプロピルアルコール)を供給する第1乾燥液ノズル43と、ウエハWに乾燥液としてのIPA(イソプロピルアルコール)を供給する第2乾燥液ノズル44と、ウエハWに乾燥ガスとして不活性ガスここでは窒素ガスを供給するガスノズル45とを備えている。これらのノズル41〜45は、図2において処理流体供給部40として概略的に示されていたものである。
【0030】
薬液ノズル41、リンスノズル42及び第1乾燥液ノズル43は第1ノズルアーム46に取り付けられている。第1ノズルアーム46は、昇降回転機構46Aにより昇降可能かつ鉛直軸線周りに旋回可能である。第1ノズルアーム46は、薬液ノズル41、リンスノズル42及び第1乾燥液ノズル43を、ウエハWの上方を矢印M1に示すように移動させることができる。第2乾燥液ノズル44は、昇降回転機構47Aにより昇降可能かつ鉛直軸線周りに旋回可能な第2ノズルアーム47に取り付けられており、ウエハWの上方を矢印M2に沿って移動することができる。ガスノズル45は、昇降回転機構48Aにより昇降可能かつ鉛直軸線周りに旋回可能な第3ノズルアーム48に取り付けられており、ウエハWの上方を矢印M3に沿って移動することができる。
【0031】
第1乾燥液ノズル43は、斜め下方に向けて乾燥液を吐出することができるように、第1ノズルアーム46に取り付けられている。詳細には、真上から第1乾燥液ノズル43を見たときに、第1乾燥液ノズル43からウエハWの回転方向(図3の矢印R)に沿うような方向(図3の矢印D1)に乾燥液が吐出されるようになっている。このように第1乾燥液ノズル43を設けることにより、第1乾燥液ノズル43から吐出された乾燥液がウエハWの表面に衝突したときに、液跳ねが生じることを抑制することができる。
【0032】
第2乾燥液ノズル44は、斜め下方に向けて乾燥液を吐出することができるように、第2ノズルアーム47に取り付けられている。詳細には、真上から第2乾燥液ノズル44を見たときに、第2乾燥液ノズル44からウエハWの回転方向(図3の矢印R)に沿うような方向(図3の矢印D2)に乾燥液が吐出されるようになっている。このように第2乾燥液ノズル44を設けることにより、第2乾燥液ノズル44から吐出された乾燥液がウエハWの表面のIPAの液膜(第1乾燥液ノズル43から吐出されたIPAに由来する)に衝突したときに、液跳ねが生じることを抑制することができる。
【0033】
薬液ノズル41及びリンスノズル42は、第1乾燥液ノズル43と同様の向きに液を吐出することができるように、第1ノズルアーム46に取り付けられている。薬液ノズル41及びリンスノズル42は、鉛直方向下方に液を吐出することができるように、第1ノズルアーム46に取り付けられていてもよい。
【0034】
ガスノズル45は、斜め下方に向けて乾燥ガスを吐出することができるように、第3ノズルアーム48に取り付けられている。詳細には、真上からガスノズル45を見たときに、ガスノズル45からウエハWの半径方向に沿うような方向(図3の矢印D3)に乾燥ガスが吐出されるようになっている。このようにガスノズル45を設けることにより、ウエハWに形成された乾燥コアを効率良く拡げることができる。
【0035】
薬液ノズル41には薬液供給機構71が接続され、リンスノズル42にはリンス液供給機構72が接続され、第1乾燥液ノズル43には第1乾燥液供給機構73が接続され、第2乾燥液ノズル44には第2乾燥液供給機構74が接続され、ガスノズル45にはガス供給機構75が接続されている。詳細な図示は省略するが、各供給機構(71〜75)は、処理流体(薬液、リンス液、乾燥液、乾燥ガス)の供給源(タンク、工場用力等)と、各供給源とそれに対応するノズル(41〜45)を接続する管路と、各管路に介設された開閉弁及び流量調整弁等の流量制御機器とを備えており、制御された流量で各ノズル(41〜45)に処理流体を供給することができる。
【0036】
本実施形態において乾燥液として用いられるIPAは、リンス液を構成するDIWと混和性があるのでDIWを容易に置換することができ、DIWより揮発性が高いため容易に乾燥させることができるので、乾燥液として好適に用いることができる。さらに、IPAはDIWより表面張力が低いため、高アスペクト比の微細パターンの倒壊を抑制することもできる。乾燥液はIPAに限定されるものではなく、上記の特徴を有する他の有機溶剤例えばHFO(ハイドロフルオロオレフィン)、HFE(ハイドロフルオロエーテル)を乾燥液として用いることもできる。
【0037】
本実施形態において乾燥ガスとして用いられる窒素ガスは、低酸素濃度、低湿度であり、ウエハ表面にウオーターマーク等の欠陥が発生することを防止する上で効果的である。乾燥ガスとして、他の不活性ガス例えばアルゴンガスを用いることもできる。
【0038】
次に、上記の基板液処理装置の動作について説明する。なお、下記の動作は、制御装置4の記憶部19に記録されたプログラムを実行することによって制御部18が発生する制御信号によって制御される。
【0039】
まず、チャンバ20の一側壁に設けられたシャッタ23(図3)が開けられて、図示しない搬送アーム(図1の基板搬送装置17のアーム)に保持されたウエハWが、搬入出口24を通ってチャンバ20内に搬入される。次に、ウエハWが、搬送アームから基板保持機構30の保持部31(図3ではその一部がウエハWの周囲に見える)に渡され、保持部31により水平に保持される。
【0040】
[薬液処理工程]
次に、第1ノズルアーム46により、薬液ノズル41がウエハWの中心部の真上の位置に移動する。また、基板保持機構30の駆動部33により、ウエハWを保持した保持部31が回転駆動され、これによりウエハWが鉛直軸線周りに回転する。この状態で、薬液供給機構71により薬液ノズル41に供給されたDHFが、薬液ノズル41からウエハWの表面の中心部に供給される。供給されたDHFは、ウエハWの表面を遠心力により周縁部に向かって広がりながら流れ、これによりウエハWの表面にDHFの液膜が形成された状態でウエハWに薬液処理が施される。ウエハWは、後述の乾燥工程が完了するまでの間、継続的に回転させられる。
【0041】
[リンス処理工程]
薬液処理を所定時間行った後、薬液ノズル41からのDHF液の供給を停止し、これとほぼ同時に、リンス液供給機構72によりリンスノズル42に供給されたDIWが、リンスノズル42からウエハWの表面の中心部に供給される。供給されたDIWは、ウエハWの表面を遠心力により周縁部に向かって広がりながら流れ、これによりウエハWの表面にDIWの液膜が形成された状態でウエハWにリンス処理が施される。
【0042】
[乾燥工程]
次に、乾燥工程について説明する。なお、今後の説明の便宜のため、図4に示すように、第1及び第2乾燥液ノズル43,44から吐出されたIPAのウエハW表面への着液点P1,P2(これはこれらのノズルの吐出口の軸線とウエハW表面との交点と実質的に一致する)の位置、またはこれら着液点P1,P2のウエハWの回転中心Oからの距離R1,R2を、第1及び第2乾燥液ノズル43,44の位置を示す指標として用いることもある。また、ガスノズル45から吐出されるガスの主流が衝突するウエハWの表面上の位置であるガス衝突点Pg(これはガスノズル45の吐出口の軸線とウエハWの表面との交点と実質的に一致する)、またはガス衝突点PgのウエハWの回転中心Oからの距離Rgを、ガスノズル45の位置を示す指標として用いることとする。
【0043】
リンス処理を所定時間行った後、リンスノズル42からのDIWの吐出を停止し、これとほぼ同時に、第1乾燥液供給機構73により第1乾燥液ノズル43に供給されたIPAが、第1乾燥液ノズル43からウエハWの表面の中心部に供給される(このときの距離R1はほぼゼロである)。供給されたIPAは、ウエハWの表面を遠心力により周縁部に向かって広がりながら流れ、これによりウエハWの表面にあったDIWがIPAに置換され、ウエハWの表面がIPAの液膜で覆われる。
【0044】
また、第1乾燥液ノズル43からのIPAの供給が開始されると同時に、あるいは供給が開始された後の適当なタイミングで、予めウエハWの上方の供給位置に待機していた第2乾燥液ノズル44に第2乾燥液供給機構74からIPAが供給され、第2乾燥液ノズル44からIPAがウエハWの表面の中心部よりも半径方向外側の位置(P2)に向けて吐出される(このとき距離R2>距離R1である)。第2乾燥液ノズル44から供給されたIPAは、第1乾燥液ノズル43から供給された後にウエハWの表面に液膜を形成しているIPAの流れと合流する。これにより、これによりウエハWの表面のうちの第2乾燥液ノズル44からのIPAの着液点(P2)よりも半径方向外側の領域に、より厚いIPAの液膜が形成される。
【0045】
ウエハWの表面にあったDIWがIPAに置換され、ウエハWの表面がIPAの液膜で覆われた後、第1乾燥液ノズル43を移動させ、第1乾燥液ノズル43をからの乾燥液の着液点(P1)を半径方向外側に移動させてゆく。第1乾燥液ノズル43が移動を開始し着液点(P1)がウエハの中心(回転中心)Oを離れたら、ガスノズル45をウエハの中心部の真上の近傍に移動させ、ガスノズル45からウエハWの中心部に向けて窒素ガスを吐出する(このとき距離R1>距離Rgである)。これにより、ウエハWの表面の中心部に円形の乾燥コアDCが形成される。乾燥コアDCは、ガスノズル45からウエハWの中心部に向けて窒素ガスを吐出しなくてもIPAに作用する遠心力により形成されるので、乾燥コアが形成されてから、ウエハW表面の乾燥コアDC内にガスノズル45から窒素ガスを供給してもよい。
【0046】
以下、本明細書において、乾燥コアDC(IPAが既に除去された乾燥領域)と、その外側のIPA液膜が存在している領域との間の境界を、「乾燥界面」と呼ぶこととし、この乾燥界面は図4において参照符号Bで示される。
【0047】
乾燥コアDCが形成された後、第1乾燥液ノズル43及びガスノズル45を半径方向外側に移動させてゆくことにより、乾燥コアが同心円状に半径方向外側に広がってゆき、最終的にはウエハWの表面の全域が乾燥する。ガスノズル45からのガスのガス衝突点Pgの位置が乾燥界面Bよりもやや半径方向内側に存在するように、ガスノズル45を移動させることが好ましい。なお、距離R1−距離Rgの値が一定となるように第1乾燥液ノズル43及びガスノズル45を半径方向外側に移動させてゆくことができる。
【0048】
第1乾燥液ノズル43及びガスノズル45を半径方向外側に移動させてゆくと同時に、第2乾燥液ノズル44も半径方向外側に移動させてゆく。このとき、ガスノズル45がウエハWの周縁の真上に到達するまでの間(つまりRgがウエハWの半径と等しくなるまでの間)、距離R2>距離R1>距離Rgの関係が維持される。なお、このとき距離R2−距離R1の値を一定に維持ながら、第1乾燥液ノズル43及び第2乾燥液ノズル44を半径方向外側に移動させてもよい。
【0049】
次に、乾燥コアを拡げてゆく時における第1乾燥液ノズル43、第2乾燥液ノズル44及びガスノズル45の作用について詳細に説明する。
【0050】
図5は、乾燥界面B付近の状況を示している。図4の左側が乾燥コアDCが形成されているウエハWの中心側であり、右側がウエハWの周縁側である。領域IはIPAの液膜が非常に薄くなっており、この領域IにおけるIPAの薄膜は境界層とみなすことができ、IPAはその粘性によりウエハWに引っ張られるのでウエハWに対する相対速度は非常に低くなる。従って、領域IにあるIPAは、遠心力により外側に移動することによってではなく、蒸発によって消滅する。一方、領域IIでは液膜の厚さが比較的大きいため、領域IIの液膜の上部にあるIPAは遠心力によりウエハWに対して比較的高速で周縁側に移動し、領域IIの液膜の下部にあるIPAは、次の時点に、領域Iとなる。上述したように、領域I内においてはウエハWの表面の薄膜を形成するIPAがウエハW表面に対する相対速度が非常に低い状態で蒸発するため、IPAの蒸発に付随して生じる乾燥不良(IPA残渣の発生、不均一乾燥)は、領域I内で発生する。このような乾燥不良を防止するには、領域I内のIPA薄膜の膜厚を均一化し、かつ、蒸発速度を大きくすることが好ましい、ということが発明者の研究によりわかっている。
【0051】
領域I内のIPA薄膜の膜厚を均一化し、かつ、蒸発速度を速くするためには、第1乾燥液ノズル43から吐出されるIPAの流量を小さくし、このIPAの温度を沸点未満、例えば約70℃まで高くすることがよい。第1乾燥液ノズル43から吐出されるIPAの流量を大きくすると、乾燥界面B付近におけるIPAの液膜の膜厚が不均一となり乾燥ムラが生じやすいため、IPAの流量は液膜形成に支障の無い範囲でなるべく小さくすることが好ましい。また、IPAの温度を高くすると、IPAの蒸発速度が速くなるだけでなく、IPAの表面張力が低下するのでパターン倒壊抑制の観点からも好ましい。
【0052】
第1乾燥液ノズル43から吐出されるIPAの温度を高くするために、第1乾燥液供給機構73にIPAの加熱手段を設けることができる。加熱手段としては、IPA供給源としてのタンクに設けたヒータ、あるいは、IPA管路に設けられたインラインヒータ等が例示される。加熱手段については図示していない。
【0053】
一方で、第1乾燥液ノズル43から吐出されるIPAの流量を小さくしたり、温度を高くしたりすると、第1乾燥液ノズル43からのIPAの着液点P1より半径方向外側の全領域でIPAの液膜が維持できないおそれがある。すなわち、ウエハWの周縁部でIPAの液膜が壊れて、ウエハWの表面が露出し、乾燥欠陥が生じるおそれがある。
【0054】
これに対して、本実施形態では、第2乾燥液ノズル44が、第1乾燥液ノズル43からのIPAのウエハ上への着液点P1よりも半径方向外側の着液点P2にIPAを供給する。これにより、着液点P2より半径方向外側の領域(破線の円より外側の領域)におけるIPAの液膜を厚くして、ウエハWの周縁部でIPAの液膜が壊れることを防止する。従って、第1乾燥液ノズル43からのIPAの供給は、着液点P1から着液点P2までに至るリング状の領域(乾燥界面Bから破線の円までのリング状領域)内においてIPAの液膜が壊れることを防止できる限りにおいて、任意の条件で行うことができる。つまり、第1乾燥液ノズル43から供給されるIPAの流量及び温度を、領域I内のIPA薄膜の膜厚の最適化及び均一化に適した値に設定することができる。
【0055】
第2乾燥液ノズル44から供給されるIPAの温度は、第1乾燥液ノズル43から供給されるIPAの温度よりも低いこと(例えば常温であること)が好ましい。こうすることにより、第2乾燥液ノズル44からのIPAの着液点P2より半径方向外側の領域におけるIPAの温度を下げ、IPAの蒸発を抑制することができる。このため、ウエハWの周縁部でIPAの液膜が壊れることをより確実に防止することができる。また、第2乾燥液ノズル44から供給されるIPAの流量を小さくすることもでき、IPAの使用量の削減を図ることができる。
【0056】
好適な一実施形態においては、第1乾燥液ノズル43から供給されるIPAは相対的に高温かつ小流量であり、第2乾燥液ノズル44から供給されるIPAは相対的に低温かつ大流量である。第1乾燥液ノズル43から供給されるIPAの流量及び温度を領域I内で好適な乾燥が行われるような値に実験により定め、次いで、第1乾燥液ノズル43から供給されるIPAの流量及び温度の条件の下で、ウエハWの周縁部でIPAの液膜が壊れないように第2乾燥液ノズル44から供給されるIPAの流量及び温度を実験により定めればよい。
【0057】
第1乾燥液ノズル43から供給されるIPAの流量は、このIPAの供給位置(着液点P1)がウエハWの周縁部に近づくに従って増加させることが好ましい。前述した領域Iはリング状の領域であり、周縁部に近づくに従って領域Iの面積は大きくなる。このため、単位面積当たりのIPAの供給量をそろえるために、IPAの供給量を増加させるのがよい。
【0058】
上記実施形態によれば、乾燥液(IPA)を供給するために2つの乾燥液ノズル(第1乾燥液ノズル43及び第2乾燥液ノズル44)を設け、ウエハW上において、ウエハWの回転中心Oから第2乾燥液ノズル44からの乾燥液の着液点P2(供給位置)までの距離R2を、ウエハWの回転中心Oから第1乾燥液ノズル43からの乾燥液の着液点P1(供給位置)までの距離R1より大きくしている。第2乾燥液ノズル44から適切な条件で乾燥液を供給することにより、ウエハW周縁部において液膜が壊れることを防止することができるため、第1乾燥液ノズル43からの乾燥液の供給条件を最適な乾燥界面の形成のみを考慮して決定することができる。このため、乾燥欠陥の発生を容易に防止することができる。
【0059】
第1乾燥液ノズル43の移動速度は一定でもよいし、第1乾燥液ノズル43の半径方向位置(あるいは距離R1)に応じて変化させてもよい。第2乾燥液ノズル44の移動速度は一定でもよいし、第2乾燥液ノズル44の半径方向位置(あるいは距離R2)に応じて変化させてもよい。第2乾燥液ノズル44から供給されるIPAの流量は一定でもよいし、第2乾燥液ノズル44の半径方向位置(あるいは距離R2)に応じて変化させてもよい。ガスノズル45の移動速度は一定でもよいし、ガスノズル45の半径方向位置(あるいは距離Rg)に応じて変化させてもよい。ガスノズル45から供給される窒素ガスの流量は一定でもよいし、ガスノズル45の半径方向位置(あるいは距離Rg)に応じて変化させてもよい。第1乾燥液ノズル43、第2乾燥液ノズル44及びガスノズル45の位置関係(例えば値R2−R1,値R1−Rg等)は一定でもよいし、変化させてもよい。
【0060】
上記実施形態においては、第1乾燥液ノズル43から供給される乾燥液(第1乾燥液)及び第2乾燥液ノズル44から供給される乾燥液(第2乾燥液)はともにIPAであったが、これには限定されず、第1乾燥液と第2乾燥液は異なっていてもよい。この場合、HFO及びHFEはIPAよりも低粘度かつ低表面張力であるため、パターン倒壊防止のため第1乾燥液として用いるのがよい。一方、HFO及びHFEはIPAより高価であるため、単に液膜維持のために供給される第2乾燥液としてはIPAを用いるのがよい。
【0061】
なお、乾燥コアDCは、ガスノズル45からの窒素ガスの吐出がされなくても、IPAに作用する遠心力及びIPAの自然乾燥により生じうる。また、乾燥コアDCは、ガスノズル45か吐出される窒素ガスによりIPAの液膜を押し広げてゆかなくても、IPAの液膜に作用する遠心力のみによっても広がってゆく。従って、窒素ガスの供給は行わなくてもよく、この場合、ガスノズル45を省略することができる。しかしながら、窒素ガスの供給を行った方が、乾燥コアの形成促進及び乾燥コアの拡張促進の観点から好ましい。
【0062】
また、被処理基板は、半導体ウエハWに限定されるものではなく、ガラス基板、セラミック基板等の他の種類の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
W 基板(ウエハ)
4 制御装置
31 基板保持部(保持部)
33 回転機構(駆動部)
42 処理液ノズル(リンスノズル)
43 第1乾燥液ノズル
44 第2乾燥液ノズル
45 ガスノズル
72 処理液供給機構(リンス液供給機構)
73 第1乾燥液供給機構
74 第2乾燥液供給機構
75 ガス供給機構
46〜48,46A〜48A ノズル移動機構(ノズルアーム、昇降回転機構)
P1 第1乾燥液の供給位置(着液点)
P2 第2乾燥液の供給位置(着液点)
O 基板の回転中心
R1 OからP1までの距離
R2 OからP2までの距離
DC 乾燥領域(乾燥コア)
図1
図2
図3
図4
図5