(54)【発明の名称】金属錯体およびその製造方法、当該金属錯体を含むオレフィン重合用触媒成分およびオレフィン重合用触媒、並びに、当該オレフィン重合用触媒を用いたα−オレフィン重合体の製造方法
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「極性基含有ポリプロピレン:触媒開発と樹脂設計」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Angewandte Chemie, International Edition,2015年,Vol.54, No.42,p.12447-12451
【文献】
Journal of the Chemical Society, Dalton Transactions: Inorganic Chemistry (1972-1999),1978年,No.3,p.257-262
【文献】
Journal of the Chemical Society, Dalton Transactions: Inorganic Chemistry (1972-1999),1978年,No.9,p.1119-1126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、一般式[I]又は[II]で表される化合物と、ニッケル、パラジウム、コバルト、銅またはロジウム等の周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物とを接触させることにより得られる反応生成物、すなわち、一般式[III]で表される金属錯体(以下、金属錯体[III]と称することもある。)、並びにそれを触媒成分とし、その触媒成分の存在下に行う(a)α−オレフィンの重合体又は共重合体の製造方法、及び(a)α−オレフィンと(b)(メタ)アクリル酸エステルモノマー、ビニルモノマー又はアリルモノマーとの共重合体の製造方法である。
本発明において、「重合」とは、1種類のモノマーの単独重合と複数種のモノマーの共重合を総称するものであり、特に両者を区別する必要がない場合には、総称して単に「重合」と記載する。また、本発明において、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの両方を含む。
【0014】
1.金属錯体
本発明の金属錯体は、下記一般式[I]又は[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物とを接触させることにより得られる。
【0016】
本発明において「接触」とは、上記一般式[I]又は[II]中のE
1が、上記遷移金属と配位結合を形成でき、かつ/又は、これら一般式中のX
1が、上記遷移金属と単結合を形成できるように、これら一般式で表される化合物(以下、これらをまとめてリンフェノレート化合物と称する場合がある。)と、上記遷移金属化合物とが十分近傍に存在することを意味する。そして、リンフェノレート化合物と上記遷移金属化合物とを接触させるとは、これらの化合物を十分近傍に存在させ、上記2種類の結合の少なくともいずれか一方が形成できるように、これらの化合物を混合することを意味する。
リンフェノレート化合物と上記遷移金属化合物とを混合する条件は、特に限定されない。これらの化合物を直に混合してもよいし、溶媒を用いて混合してもよい。特に、均一な混合を達成する観点から、溶媒を用いることが好ましい。
得られる金属錯体中において、リンフェノレート化合物は配位子となることから、リンフェノレート化合物と上記遷移金属化合物との反応は、通常、配位子交換反応となる。得られる金属錯体が上記遷移金属化合物よりも熱力学的に安定である場合には、リンフェノレート化合物と上記遷移金属化合物とを室温(15〜30℃)で混合することにより配位子交換反応が進行する。一方、得られる金属錯体が上記遷移金属化合物よりも熱力学的に不安定である場合には、配位子交換反応を十分に進行させるため、上記混合物を適宜加熱することが好ましい。
【0017】
一般式[I]又は[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物とを接触させることにより得られる金属錯体としては、後述する一般式[III]に示す構造を有すると推定される。
しかし、一般式[I]又は[II]で表される化合物は、リンフェノレート化合物であり、これは二座配位子であるから、当該化合物を周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物と接触させた場合には、一般式[III]に示す構造以外の構造を有する金属錯体が生成する可能性がある。例えば、一般式[I]又は[II]中のX
1のみが遷移金属と結合を形成する場合や、これらの式中のE
1のみが遷移金属と結合を形成する場合も考えられる。また、一般式[III]に示す金属錯体は、リンフェノレート化合物と遷移金属化合物との1:1反応生成物であるところ、遷移金属の種類によっては異なる組成比の反応生成物が得られることも考えられる。例えば、2分子以上のリンフェノレート化合物が1つの遷移金属と錯体を形成する場合も考えられるし、リンフェノレート化合物1分子が2つ以上の遷移金属と反応して多核錯体を合成する場合も考えられる。
本発明においては、このような一般式[III]に示す構造以外の構造を有する金属錯体が、一般式[III]に示す金属錯体と同様に、α−オレフィン(共)重合体の製造に用いることが可能であることを否定するものではない。
【0018】
以下、一般式[I]および[II]中のR
1〜R
6、E
1、X
1、ならびに、一般式[I]中のZ、mについて説明する。
R
1は、炭素数1〜30の直鎖状アルキル基、炭素数3〜30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数3〜30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアリールアルキル基、または炭素数7〜30のアルキルアリール基を表す。これらのうち、好ましいものとしては、上記直鎖状アルキル基、分岐した非環状アルキル基、側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、及びアリールアルキル基が挙げられる。
上記直鎖状アルキル基、分岐した非環状アルキル基、アルケニル基、側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、及びアルキルアリール基の各炭素数の上限は、好ましくは25であり、より好ましくは20であり、さらに好ましくは15である。
【0019】
R
1の例のうち、炭素数1〜30の直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等の炭素数1〜10の直鎖状アルキル基がより好ましく、炭素数1〜4の直鎖状アルキル基がさらに好ましい。
R
1の例のうち、炭素数3〜30の分岐した非環状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基(t−ブチル基)、sec−ブチル基、イソペンチル基(3−メチルブチル基)、t−ペンチル基(1,1−ジメチルプロピル基)、sec−ペンチル基(1−メチルブチル基)、2−メチルブチル基、ネオペンチル基(2,2−ジメチルプロピル基)、1,2−ジメチルプロピル基、イソヘキシル基(4−メチルペンチル基)等の炭素数3〜10の分岐した非環状アルキル基がより好ましく、炭素数3〜8の分岐した非環状アルキル基がさらに好ましい。
R
1の例のうち、炭素数2〜30のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、スチリル基、シンナミル基が挙げられる。アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、スチリル基等の炭素数3〜8のアルケニル基が好ましく、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、スチリル基等の炭素数4〜8のアルケニル基がより好ましい。
R
1の例のうち、炭素数3〜30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、2−メチルシクロペンチル基、3−メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−エチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基、デカヒドロナフチル基(ビシクロ[4,4,0]デシル基)等の炭素数3〜10の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基がより好ましく、炭素数3〜6の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基がさらに好ましい。
R
1の例のうち、炭素数6〜30のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、ビフェニル基、アントラセニル基、テルフェニル基、フェナントレニル基、トリフェニレニル基、クリセニル基、ピレニル基、テトラセニル基等の炭素数6〜18のアリール基がより好ましく、炭素数6〜12のアリール基がさらに好ましい。
R
1の例のうち、炭素数7〜30のアリールアルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基(2−フェニルエチル基)、9−フルオレニル基、ナフチルメチル基、1−テトラリニル基等の炭素数7〜15のアリールアルキル基がより好ましく、炭素数7〜10のアリールアルキル基がさらに好ましい。
R
1の例のうち、炭素数7〜30のアルキルアリール基としては、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜20のアルキルアリール基が好ましく、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基等の炭素数7〜15のアルキルアリール基がより好ましい。
これらの中でより好ましいものとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられ、R
1がt−ブチル基であることがさらに好ましい。
【0020】
R
2,R
3およびR
4は、それぞれ独立に、(i)水素、(ii)ハロゲン、(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子を含有する基からなる群より選ばれる基を有していてもよい特定の基、又は(iv)ヘテロ原子含有置換基を表す。
(ii)ハロゲンとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子が好ましい。
(iii)に使用されるヘテロ原子としては、酸素、窒素、リン、硫黄、セレン、ケイ素、ハロゲン、ホウ素が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、フッ素、塩素が好ましい。
(iii)に使用される「ヘテロ原子を含有する基」としては、具体的には、後述する(iv)ヘテロ原子含有置換基と同様の基が挙げられる。「ヘテロ原子を含有する基」としては、例えば、アルコキシ基(OR
9)、エステル基(CO
2R
9)等が挙げられる。なお、R
9は後述の通りである。
以上の(iii)においては、R
2〜R
4に相当する置換基の総炭素数が、好ましくは1〜30であり、より好ましくは2〜25であり、さらに好ましくは4〜20である。
以上を踏まえ、(iii)「ヘテロ原子およびヘテロ原子を含有する基からなる群より選ばれる基を有していてもよい特定の基」とは、(iii−A)炭素数1〜30の直鎖状アルキル基、炭素数3〜30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数3〜30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアリールアルキル基、及び炭素数7〜30のアルキルアリール基、(iii−B)上記(iii−A)のそれぞれの基に上記ヘテロ原子が1又は2以上置換している基、(iii−C)上記(iii−A)のそれぞれの基に上記「ヘテロ原子を含有する基」が1又は2以上置換している基、並びに、(iii−D)上記(iii−A)のそれぞれの基に、上記ヘテロ原子が1又は2以上置換し、かつ、上記「ヘテロ原子を含有する基」が1又は2以上置換している基を指す。(iii−C)については、例えば、アルコキシ基が置換しているアルキル基や、エステル基が置換しているアリール基等が挙げられる。
(iv)ヘテロ原子含有置換基とは、具体的には、OR
9、CO
2R
9、CO
2M’、C(O)N(R
8)
2、C(O)R
9、SR
9、SO
2R
9、SOR
9、OSO
2R
9、P(O)(OR
9)
2−y(R
8)
y、CN、NHR
9、N(R
9)
2、Si(OR
8)
3−x(R
8)
x、OSi(OR
8)
3−x(R
8)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
2)
2M’、及びエポキシ含有基を指す。ここで、R
8は水素または炭素数1〜20の炭化水素基を表す。また、R
9は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す。
【0021】
R
2,R
3およびR
4は、それぞれ独立に、好ましいものとして、(i)水素原子;(ii)フッ素原子、塩素原子、臭素原子;(iii)メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基;(iv)メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリメチルシリルオキシ基、トリメトキシシロキシ基、シクロヘキシルアミノ基、スルフォン酸ナトリウム、スルフォン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等が挙げられる。
これらの中で特に好ましいものとしては、(i)水素原子;(iii)メチル基、イソブチル基、tert−ブチル基(t−ブチル基)、sec−ブチル基、ペンタフルオロフェニル基;(iv)メトキシ基、トリメチルシリル基、トリメチルシリルオキシ基、シクロヘキシルアミノ基等が挙げられる。特に、R
3は、水素、メチル基又はt−ブチル基であることが好ましく、R
3は水素又はt−ブチル基であることがより好ましい。
【0022】
なお、R
2,R
3およびR
4から適宜選択された複数の基が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素、窒素、硫黄からなる群より選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5〜8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
また、R
2内に含まれる複数の基が互いに連結し、R
2上に環を形成してもよい。R
3、又はR
4のいずれかが複数の基を含む場合も同様である。
【0023】
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、ヘテロ原子およびヘテロ原子を含有する基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数4〜6の直鎖状アルキル基、炭素数4〜6の2級アルキル基、炭素数4〜6の3級アルキル基、または炭素数4〜6のアルケニル基を表す。なお、本発明における2級アルキル基及び3級アルキル基には、いずれも脂環式環を有するアルキル基が含まれる。
R
5及びR
6は、金属Mの近傍にあって、立体的および/または電子的にMに相互作用を及ぼす。こうした効果を及ぼすためには、R
5及びR
6は、上記各炭素数の範囲内で分岐構造を有するのが好ましい。ここでいう分岐構造には、環状構造も含まれる。
R
5及びR
6の例のうち、炭素数4〜6の直鎖状アルキル基としては、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基が挙げられ、この中でも炭素数4〜5の直鎖状アルキル基が好ましい。
R
5及びR
6の例のうち、炭素数4〜6の2級アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、ペンタン−2−イル基、ペンタン−3−イル基、3−メチル−2−ペンチル基、2−メチル−3−ペンチル基、2−メチルシクロペンチル基、3−メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、この中でも炭素数4〜5の2級アルキル基が好ましい。
R
5及びR
6の例のうち、炭素数4〜6の3級アルキル基としては、tert−ブチル基(t−ブチル基)、t−ペンチル基(1,1−ジメチルプロピル基)、2−メチル−2−ペンチル基、3−メチル−3−ペンチル基、t−ヘキシル基(1,1−ジメチルブチル基)、1,2−ジメチルシクロブチル基、1−メチルシクロペンチル基等が挙げられ、この中でも炭素数4〜5の3級アルキル基が好ましい。
R
5及びR
6の例のうち、炭素数4〜6のアルケニル基としては、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基が挙げられ、この中でも炭素数4〜5のアルケニル基が好ましい。
これらの中で特に好ましいものとしては、tert−ブチル基(t−ブチル基)、t−ペンチル基(1,1−ジメチルプロピル基)、2−メチル−2−ペンチル基、3−メチル−3−ペンチル基、1−メチルシクロペンチル基、などを挙げることができる。これらの中でも、R
5又はR
6のいずれか一方がt−ブチル基であることがより好ましく、R
5及びR
6がいずれもt−ブチル基であることがさらに好ましい。
【0024】
R
5及びR
6に使用されるヘテロ原子としては、酸素、窒素、リン、硫黄、セレン、ケイ素、ハロゲン、ホウ素が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、フッ素、塩素が好ましい。また、これらのヘテロ原子を含む基としては、酸素含有基として、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、エステル基が挙げられ、窒素含有基としては、アミノ基、アミド基が挙げられ、硫黄含有基としては、チオアルコキシ基やチオアリーロキシが挙げられ、リン含有置換基としては、ホスフィノ基が挙げられ、セレン含有基としては、セレニル基が挙げられ、ケイ素含有基としては、トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基が挙げられ、フッ素含有基としては、フルオロアルキル基、フルオロアリール基が挙げられ、ホウ素含有基としては、アルキルホウ素基、アリールホウ素基が挙げられる。これらのヘテロ原子含有基のうち、もっとも好ましいのは、アルコキシ基またはアリーロキシ基である。
【0025】
前記したヘテロ原子含有基に含まれるヘテロ原子としては、遷移金属に配位可能なものが好ましい。こうした遷移金属に配位可能なヘテロ原子を含むヘテロ原子含有基の具体的な例としては、以下のようなものが挙げられる。
すなわち、酸素含有基として、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基などのアリーロキシ基、アセチル基、ベンゾイル基などのアシル基、アセトキシ基、カルボキシエチル基、カルボキシt−ブチル基、カルボキシフェニル基などのエステル基などを挙げることができる。窒素含有基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ−n−プロピルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基などのジアルキルアミノ基などを挙げることができる。硫黄含有基としては、チオメトキシ基、チオエトキシ基、チオ−n−プロポキシ基、チオイソプロポキシ基、チオ−n−ブトキシ基、チオ−t−ブトキシ基、チオフェノキシ基などのチオアルコキシ基、p−メチルチオフェノキシ基、p−メトキシチオフェノキシ基などのチオアリーロキシ基などを挙げることができる。リン含有置換基としては、ジメチルホスフィノ基、ジエチルホスフィノ基、ジ−n−プロピルホスフィノ基、シクロヘキシルホスフィノ基などのジアルキルホスフィノ基などを挙げることができる。セレン含有基としては、メチルセレニル基、エチルセレニル基、n−プロピルセレニル基、n−ブチルセレニル基、t−ブチルセレニル基、フェニルセレニル基などのセレニル基を挙げることができる。
【0026】
E
1は、リン、砒素またはアンチモンを表す。この中でも、E
1はリンであることが好ましい。
X
1は、酸素または硫黄を表す。この中でも、X
1は酸素であることが好ましい。
Zは、水素、または脱離基を表す。Zは、具体的には、水素原子、R
9SO
2基(ここでR
9は、前記したとおりである)、CF
3SO
2基などを挙げることができる。
mはZの価数を表す。
【0027】
一般式[II]は、アニオンの形で表されているが、そのカウンターカチオンは、本発明における遷移金属化合物との反応を阻害しない限りにおいて、任意のものを用いることができる。カウンターカチオンとしては、具体的には、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウム、周期表1族〜14族の金属イオンを挙げることができる。これらのうち好ましくは、NH
4+、R
94N
+(ここでR
9は、前記したとおりであり、4つのR
9は、同じでも異なっていてもよい。以下同様である。)、R
94P
+、Li
+、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+、Al
3+であり、さらに好ましくは、R
94N
+、Li
+、Na
+、K
+である。
【0028】
本発明における上記一般式[I]及び[II]中の置換基等の具体的な組み合わせを、下記表1に示す。Z及びmは一般式[I]のみに関わる。ただし、具体例は、下記例示に限定されるものではない。
【0030】
化合物の構造の理解のため、上記表1に記載の化合物7の構造式と名称を示す。この構造式の化合物は、2−(ジ−t−ブチルホスファニル)−6−t−ブチルフェノールと称する。
【0032】
一般式[I]、[II]で示される化合物については、公知の合成法に基づいて合成することができる。
【0033】
上記一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物中に、下記一般式[III]で表される本発明の金属錯体が含まれる。ただし、上述したように、当該製造方法によって得られる金属錯体の構造は、一般式[III]に示す構造のみに限定されるものではない。
【0035】
上記一般式[III]中、R
1〜R
6、E
1、X
1は上記の通りである。このように、上記反応生成物中の金属錯体と、一般式[III]に示す金属錯体との間には、ベンゼン環を含む主骨格や、これら置換基(R
1〜R
6、E
1、X
1)の点において錯体構造の共通性がある。
以下、一般式[III]中のM、R
7、L
1について説明する。
本発明において、Mは、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属である。Mは、好ましくは、10族のニッケル、パラジウム、白金および9族のコバルト、ロジウムおよび11族の銅であり、さらに好ましくは、10族のニッケル、パラジウム、白金であり、最も好ましくは10族のニッケルまたはパラジウムである。
Mの価数については2価が好ましい。ここでMの価数とは、有機金属化学で用いられる形式酸化数(formal oxidation number)を意味する。すなわち、ある元素が関与する結合中の電子対を電気陰性度の大きい元素に割り当てたとき、その元素の原子上に残る電荷の数を指す。例えば、本発明の一般式[III]において、E
1がリン、X
1が酸素、Mがニッケル、R
7がフェニル基、L
1がピリジンであり、ニッケルがリン、酸素、フェニル基の炭素、ピリジンの窒素と結合を形成している場合、ニッケルの形式酸化数、すなわちニッケルの価数は2価となる。なぜならば、上述の定義に基づき、これらの結合において、電子対は、ニッケルよりも電気陰性度の大きいリン、酸素、炭素、窒素に割り当てられ、電荷は、リンが0、酸素が−1、フェニル基が−1、ピリジンが0で、錯体は、全体として電気的に中性であるため、ニッケル上に残る電荷は+2となるからである。
2価の遷移金属としては、例えば、ニッケル(II)、パラジウム(II)、白金(II)、コバルト(II)が好ましく、2価以外では、銅(I)またはロジウム(III)も好ましい。
【0036】
本発明においてR
7は、水素原子、またはヘテロ原子およびヘテロ原子を含有する基からなる群より選ばれる基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表す。本発明における重合または共重合反応は、MとR
7の結合に本発明における(a)成分または(b)成分が挿入されることによって、開始されると考えられる。したがって、R
7の炭素数が過度に多いと、この開始反応が阻害される傾向にある。このため、好ましいR
7としては、置換基に含まれる炭素数を除く炭素数が1〜16、さらに好ましくは当該炭素数が1〜10である。
R
7の具体的な例としては、ヒドリド基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、p−メチルフェニル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基等を挙げることができる。
【0037】
本発明において、L
1は、Mに配位したリガンドを表す。本発明におけるリガンドL
1は、配位結合可能な原子として、酸素、窒素、硫黄を有する炭素数1〜20の炭化水素化合物である。また、L
1として、遷移金属に配位可能な炭素−炭素不飽和結合を有する炭化水素化合物(ヘテロ原子を含有していてもよい)も使用することができる。好ましくは、L
1の炭素数は、1〜16であり、さらに好ましくは1〜10である。また一般式[III]中のMと配位結合するL
1としては、電荷を持たない化合物が好ましい。
【0038】
本発明における好ましいL
1としては、環状不飽和炭化水素類、ホスフィン類、ピリジン類、ピペリジン類、アルキルエーテル類、アリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類、環状エーテル類、アルキルニトリル誘導体、アリールニトリル誘導体、アルコール類、アミド類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類、アミン類などを挙げることができる。さらに好ましいL
1としては、環状オレフィン類、ホスフィン類、ピリジン類、環状エーテル類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類が挙げられ、特に好ましいL
1として、トリアルキルホスフィン、ピリジン、ルチジン(ジメチルピリジン)、ピコリン(メチルピリジン)、R
9CO
2R
8(R
8およびR
9の定義は、前記の通り)を挙げることができる。
なお、R
7とL
1が互いに結合して環を形成してもよい。そのような例として、シクロオクタ−1−エニル基を挙げることができ、これも本発明における好ましい様態である。
【0039】
本発明における上記一般式[III]中の置換基等の具体的な組み合わせを、下記表2に示す。ただし、具体例は、下記例示に限定されるものではない。
【0041】
金属錯体の構造の理解のため、上記表2に記載の錯体7aの構造式と名称を示す。この構造式の化合物は、(2−(ジ−t−ブチルホスファニル)−6−t−ブチルフェニルフェノラート)((1,4,5−η)−4−シクロオクテン−1−イル)ニッケル(II)と称する。
【0043】
また、表2に例示した各化合物の中心金属Mがニッケルの代わりに、パラジウムに代わった化合物も例示される。
【0044】
本発明で用いられる遷移金属化合物については、一般式[I]または[II]で示される化合物と反応して、重合能を有する錯体を形成可能なものが使用される。これらは、プリカーサー(前駆体)とも呼ばれることがある。
例えば、ニッケルを含む遷移金属化合物としては、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、一般式:Ni(CH
2CR
13CH
2)
2で表される錯体[ここでR
13は、水素原子、ハロゲン原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基、OR
8、CO
2R
8、CO
2M’、C(O)N(R
9)
2、C(O)R
8、SR
8、SO
2R
8、SOR
8、OSO
2R
8、P(O)(OR
8)
2−y(R
9)
y、CN、NHR
8、N(R
8)
2、Si(OR
9)
3−x(R
9)
x、OSi(OR
9)
3−x(R
9)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
8)
2M’またはエポキシ含有基を表す(ここで、R
8は、炭素数1〜20の炭化水素基を表し、R
9は、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0〜3の整数を表し、yは0〜2の整数を表す。)。]、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)、一般式:Ni(CH
2SiR
133)
2L
12で表される錯体(ここでR
13、L
1は、上記の通りである。)、一般式:NiR
132L
12で表される錯体(ここでR
13、L
1は、上記の通りである。)等を使用することができる。
また、9族、10族または11族の遷移金属を含む遷移金属化合物については、一般式:MR
13pL
1q(ここで、Mは、9族、10族または11族の遷移金属であり、R
13およびL
1は、本明細書に記載した通りであり、pおよびqは、Mの価数を満たす0以上の整数である。)を使用することができる。
【0045】
これらの遷移金属化合物のうち、好ましく用いられるものは、ニッケル(0)ビス(1,5−シクロオクタジエン)、NiPhCl(PEt
3)
2、NiPhCl(PPh
3)
2、NiPhCl(TMEDA)(以下、TMEDAはテトラメチルエチレンジアミンを表す。)、NiArBr(TMEDA)(ここで、Ar=4−フルオロフェニルである。)、一般式:Ni(CH
2CR
13CH
2)
2で表される錯体で表される錯体(ここでR
13は上記の通りである。)、一般式:Ni(CH
2SiR
133)
2L
12で表される錯体(ここでR
13、L
1は上記の通りである。)、一般式:NiR
132L
12で表される錯体(ここでR
13、L
1は、上記の通りである。)、Pd(dba)
2、Pd
2(dba)
3、Pd
3(dba)
4(ここで、dbaは、ジベンジリデンアセトンを表す。)、Pd(OCOCH
3)
2、(1,5−シクロオクタジエン)Pd(メチル)(クロリド)である。
特に好ましくは、ニッケル(0)ビス(1,5−シクロオクタジエン)、NiPhCl(PEt
3)
2、NiPhCl(PPh
3)
2、NiPhCl(TMEDA)、NiArBr(TMEDA)(ここで、Ar=4−フルオロフェニルである。)、Ni(CH
2CHCH
2)
2、Ni(CH
2CMeCH
2)
2、Ni(CH
2SiMe
3)
2(Py)
2(以下Pyは、ピリジンを表す。)、Ni(CH
2SiMe
3)
2(Lut)
2(以下Lutは、2,6−ルチジンを表す。)、NiPh
2(Py)
2、NiPh
2(Lut)
2,Pd(dba)
2、Pd
2(dba)
3、Pd
3(dba)
4(ここで、dbaは、ジベンジリデンアセトンを表す。)、Pd(OCOCH
3)
2、(1,5−シクロオクタジエン)Pd(メチル)(クロリド)である。
【0046】
本発明の反応生成物は、前述の一般式[I]または[II]で表される化合物と前述の遷移金属化合物[IV]とを、例えば[I]+[II]:[IV]=1:99〜99:1(モル比)を、0〜100℃のトルエンやベンゼン等の有機溶媒中で、減圧〜加圧下で1〜86400秒間接触させることにより、得ることができる。遷移金属化合物として、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(COD)
2)のトルエンやベンゼン溶液を用いる場合には、溶液の色が黄色から、例えば赤色に変化することにより、反応生成物の生成が確認できる。
【0047】
本反応後、遷移金属化合物を構成している成分であって、当該化合物中の遷移金属以外の成分は、一般式[I]中のZを除いた部分や一般式[II]の化合物によって置換されて、本発明の一般式[III]で表される金属錯体が生成する。この置換反応は、定量的に進行するほうが好ましいが、場合によっては完全に進行しなくてもよい。反応終了後、一般式[III]で表される錯体以外に、一般式[I]、[II]、及び遷移金属化合物由来の他の成分が共存するが、本発明の重合反応または共重合反応を行う際に、これらの他の成分は、除去してもよいし、除去しなくてもよい。一般的には、これらの他の成分は、除去した方が、高活性が得られるので好ましい。
なお、反応を行う際に、本発明に係るL
1を共存させてもよい。本発明に係るMとして、ニッケルやパラジウムを用いた場合には、ルイス塩基性のL
1を系内に共存させることによって、精製した一般式[III]の錯体の安定性が増す場合があり、このような場合には、L
1が本発明の重合反応または共重合反応を阻害しない限りにおいて、L
1を共存させることが好ましい。
【0048】
本発明において、反応をα−オレフィンの重合やα−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器とは別の容器で、予め行ったうえで、得られた一般式[III]の錯体をα−オレフィンの重合やα−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に供してもよいし、反応をこれらのモノマーの存在下に行ってもよい。また、反応を、α−オレフィンの重合やα−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器の中で行ってもよい。この際に、これらのモノマーは存在していてもよいし、存在していなくてもよい。また、一般式[I]及び[II]で示される成分については、それぞれ単独の成分を用いてもよいし、それぞれ複数種の成分を併用してもよい。特に、分子量分布やコモノマー含量分布を広げる目的には、こうした複数種の併用が有用である。
【0049】
2.金属錯体の製造方法
本発明の製造方法においては、上述したように、一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物とを接触させることにより、一般式[III]で表される金属錯体を製造することができる。
【0050】
3.オレフィン重合用触媒成分
本発明のオレフィン重合用触媒成分は、上記金属錯体、又は上記製造方法で得られる金属錯体を含むことを特徴とする。
本発明においては、一般式[III]で表される金属錯体を、重合または共重合の触媒成分として使用することができる。前記したように、一般式[III]で表される金属錯体は、一般式[I]または[II]と遷移金属錯体成分との反応によって、形成させることができる。一般式[III]で表される金属錯体を触媒成分に用いる場合、単離したものを用いてもよいし、担体に担持したものを用いてもよい。こうした担持α−オレフィンの重合やα−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器中で、これらのモノマーの存在下または非存在下で行ってもよいし、該反応器とは別の容器中で行ってもよい。
【0051】
使用可能な担体としては、本発明の主旨をそこなわない限りにおいて、任意の担体を用いることができる。一般に、無機酸化物やポリマー担体が好適に使用できる。具体的には、SiO
2、Al
2O
3、MgO、ZrO
2、TiO
2、B
2O
3、CaO、ZnO、BaO、ThO
2等またはこれらの混合物が挙げられ、SiO
2−Al
2O
3、SiO
2−V
2O
5、SiO
2−TiO
2、SiO
2−MgO、SiO
2−Cr
2O
3等の混合酸化物も使用することができ、無機ケイ酸塩、ポリエチレン担体、ポリプロピレン担体、ポリスチレン担体、ポリアクリル酸担体、ポリメタクリル酸担体、ポリアクリル酸エステル担体、ポリエステル担体、ポリアミド担体、ポリイミド担体などが使用可能である。これらの担体については、粒径、粒径分布、細孔容積、比表面積などに特に制限はなく、任意のものが使用可能である。
【0052】
無機ケイ酸塩としては、粘土、粘土鉱物、ゼオライト、珪藻土等が使用可能である。これらは、合成品を用いてもよいし、天然に産出する鉱物を用いてもよい。粘土、粘土鉱物の具体例としては、アロフェン等のアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイト等のハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物、アタパルジャイト、セピオライト、パイゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、リョクデイ石群等が挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。人工合成物としては、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライト等が挙げられる。これら具体例のうち好ましくは、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロサイト、ハロサイト等のハロサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられ、特に好ましくはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられる。
【0053】
これらの担体は、そのまま用いてもよいが、塩酸、硝酸、硫酸等による酸処理および/または、LiCl、NaCl、KCl、CaCl
2、MgCl
2、Li
2SO
4、MgSO
4、ZnSO
4、Ti(SO
4)
2、Zr(SO
4)
2、Al
2(SO
4)
3等の塩類処理を行ってもよい。該処理において、対応する酸と塩基を混合して反応系内で塩を生成させて処理を行ってもよい。また粉砕や造粒等の形状制御や乾燥処理を行ってもよい。
【0054】
4.オレフィン重合用触媒
本発明のオレフィン重合用触媒は、下記の成分(A)及び(B)、更に必要に応じて(C)を含むことを特徴とする。
成分(A):上記金属錯体、又は上記製造方法で得られる金属錯体
成分(B):成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物又はイオン交換性層状珪酸塩
成分(C):有機アルミニウム化合物
【0055】
成分(A)は、上記金属錯体、又は上記製造方法で得られる金属錯体であり、1種類の金属錯体のみを用いてもよいし、2種類以上の金属錯体を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
成分(B)の一つとして、有機アルミニウムオキシ化合物が挙げられる。上記有機アルミニウムオキシ化合物は、分子中に、Al−O−Al結合を有し、その結合数は通常1〜100、好ましくは1〜50個の範囲にある。このような有機アルミニウムオキシ化合物は、通常、有機アルミニウム化合物と水とを反応させて得られる生成物である。
有機アルミニウムと水との反応は、通常、不活性炭化水素(溶媒)中で行われる。不活性炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素及び芳香族炭化水素が使用できるが、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素を使用することが好ましい。
【0057】
有機アルミニウムオキシ化合物の調製に用いる有機アルミニウム化合物は、下記一般式で表される化合物がいずれも使用可能であるが、好ましくはトリアルキルアルミニウムが使用される。
(R
x)
tAl(X
3)
(3−t)
(一般式中、R
xは、炭素数1〜18、好ましくは1〜12のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基を示し、X
3は、水素原子又はハロゲン原子を示し、tは、1≦t≦3の整数を示す。)
トリアルキルアルミニウムのアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基などのいずれでも差し支えないが、メチル基、イソブチル基が好ましく、メチル基であることが特に好ましい。上記有機アルミニウム化合物は、2種以上混合して使用することもできる。
【0058】
水と有機アルミニウム化合物との反応比(水/Alモル比)は、0.25/1〜1.2/1、特に、0.5/1〜1/1であることが好ましく、反応温度は、通常−70〜100℃、好ましくは−20〜20℃の範囲にある。反応時間は、通常5分〜24時間、好ましくは10分〜5時間の範囲で選ばれる。反応に要する水として、単なる水のみならず、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物などに含まれる結晶水や反応系中に水が生成しうる成分も利用することもできる。
なお、上記した有機アルミニウムオキシ化合物のうち、アルキルアルミニウムと水とを反応させて得られるものは、通常、アルミノキサンと呼ばれ、特にメチルアルミノキサン(実質的にメチルアルミノキサン(MAO)からなるものを含む)は、有機アルミニウムオキシ化合物として、好適である。MAO溶液を溶媒留去して得られた固体状のドライメチルアルミノキサン(DMAO)もまた好適である。
もちろん、有機アルミニウムオキシ化合物として、上記した各有機アルミニウムオキシ化合物の2種以上を組み合わせて使用することもでき、また、前記有機アルミニウムオキシ化合物を前述の不活性炭化水素溶媒に溶解又は分散させた溶液としたものを用いても良い。
【0059】
また、成分(B)の具体例として、イオン交換性層状珪酸塩が挙げられる。イオン交換性層状珪酸塩(以下、単に「珪酸塩」と略記する場合がある。)は、イオン結合などによって構成される面が互いに結合力で平行に積み重なった結晶構造を有し、且つ、含有されるイオンが交換可能である珪酸塩化合物をいう。珪酸塩は、各種公知のものが知られており、具体的には、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)に記載されている。
本発明において、成分(B)として好ましく用いられるものは、スメクタイト族に属するもので、具体的にはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイトなどを挙げることができる。中でも、共重合体部分の重合活性、分子量を高める観点からモンモリロナイトが好ましい。
【0060】
大部分の珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出されるため、イオン交換性層状珪酸塩以外の夾雑物(石英やクリストバライトなど)が含まれることが多く、本発明で用いられるスメクタイト族の珪酸塩に夾雑物が含まれていてもよい。
珪酸塩は酸処理及び/又は塩類処理を行ってもよい。該処理においては、対応する酸と塩基を混合して反応系内で塩を生成させて処理を行ってもよい。
【0061】
成分(B)として、前記の有機アルミニウムオキシ化合物と、イオン交換性層状珪酸塩との混合物を用いることもできる。更に、それぞれを単独でも用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0062】
成分(C)として使用される、有機アルミニウム化合物の一例は、次の一般式で表される。
Al(R
p)
aX
(3−a)
一般式中、R
pは、炭素数1〜20の炭化水素基、Xは、水素、ハロゲン、アルコキシ基又はシロキシ基を示し、aは0より大きく3以下の数を示す。
一般式で表される有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムモノメトキシドなどのハロゲン又はアルコキシ含有アルキルアルミニウムが挙げられる。
【0063】
これらの中では、トリイソブチルアルミニウムが好ましい。また、上記の有機アルミニウム化合物を2種以上併用してもよい。また、上記のアルミニウム化合物をアルコール、フェノールなどで変性して用いてもよい。これらの変性剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、フェノール、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノールなどが例示され、好ましい具体例は、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノールである。
【0064】
本発明に係るオレフィン重合用触媒の調製法においては、成分(A)、(B)、更に必要に応じて(C)を接触させる方法は、特に限定されないが、次の様な方法を例示することができる。
【0065】
(i)成分(A)と成分(B)とを接触させた後に、成分(C)を添加する方法
(ii)成分(A)と成分(C)とを接触させた後に、成分(B)を添加する方法
(iii)成分(B)と成分(C)とを接触させた後に、成分(A)を添加する方法
(iv)各成分(A)、(B)、(C)を同時に接触させる方法。
更に、各成分中で別種の成分を混合物として用いてもよいし、別々に順番を変えて接触させてもよい。なお、この接触は、触媒調製時だけでなく、オレフィンによる予備重合時又はオレフィンの重合時に行ってもよい。
又、成分(B)と成分(C)とを接触させた後、成分(A)と成分(C)の混合物を加えるというように、成分を分割して各成分に接触させてもよい。
上記の各成分(A)(B)(C)の接触は、窒素などの不活性ガス中において、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素溶媒中で行うことが好ましい。接触は、−20℃から溶媒の沸点の間の温度で行うことができ、特に室温から溶媒の沸点の間での温度で行うのが好ましい。
【0066】
5.α−オレフィン重合体の製造方法
本発明のα−オレフィン重合体の製造方法の一実施形態は、上記重合用触媒の存在下で、(a)α−オレフィンを重合又は共重合するものである。
本発明における成分(a)は、一般式:CH
2=CHR
10で表されるα−オレフィンである。ここで、R
10は、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基であり、分岐、環、および/または不飽和結合を有していてもよい。R
10の炭素数が20より大きいと、十分な重合活性が発現しない傾向がある。このため、なかでも、好ましい(a)成分としては、R
10が水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であるα−オレフィンが挙げられる。
さらに好ましい(a)成分としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキセン、スチレンが挙げられる。なお、単独の(a)成分を使用してもよいし、複数の(a)成分を併用してもよい。
本発明のα−オレフィン重合体の製造方法、及びα−オレフィン共重合体の製造方法においては、(a)α−オレフィンがプロピレンであることが特に好ましい。
【0067】
本発明のα−オレフィン重合体の製造方法の他の実施形態は、上記重合用触媒の存在下に、(a)α−オレフィンと、(b)(メタ)アクリル酸エステルモノマー、ビニルモノマー又はアリルモノマーとを共重合するものである。
【0068】
本発明における(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、一般式:CH
2=C(R
11)CO
2(R
12)で表される。ここで、R
11は、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であり、分岐、環、および/または不飽和結合を有していてもよい。R
12は、炭素数1〜30の炭化水素基であり、分岐、環、および/または不飽和結合を有していてもよい。さらに、R
12内の任意の位置にヘテロ原子を含有していてもよい。
R
11の炭素数が11以上であると、十分な重合活性が発現しない傾向がある。したがって、R
11は、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であるが、好ましい(メタ)アクリル酸エステルとしては、R
11が水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基であるものが挙げられる。より好ましい(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、R
11がメチル基であるメタクリル酸エステルまたはR
11が水素原子であるアクリル酸エステルが挙げられる。同様に、R
12の炭素数が30を超えると、重合活性が低下する傾向がある。よって、R
12の炭素数は1〜30であるが、R
12は、好ましくは炭素数1〜12であり、さらに好ましくは炭素数1〜8である。
また、R
12内に含まれていても良いヘテロ原子としては、酸素、硫黄、セレン、リン、窒素、ケイ素、フッ素、ホウ素等が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、酸素、ケイ素、フッ素が好ましく、酸素が更に好ましい。また、R
12は、ヘテロ原子を含まないものも好ましい。
【0069】
さらに好ましい(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸−2−アミノエチル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸エチレンオキサイド、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジメチルアミド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等が挙げられる。なお、単独の(メタ)アクリル酸エステルを使用してもよいし、複数の(メタ)アクリル酸エステルを併用してもよい。
【0070】
本発明におけるビニルモノマーは、含ハロゲン、含窒素、含酸素、含硫黄等の極性基を有するビニルモノマーで、特にハロゲン、水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基、ホルミル基、エステル基、エポキシ基、ニトリル基等を含有するビニルモノマーである。具体的には、5−ヘキセン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−1−オール、10−ウンデセン酸エチル、10−ウンデセン−1−オール、12−トリデセン−2−オール、10−ウンデカノイック酸、メチル−9−デセネート、t−ブチル−10−ウンデセネート、1,1−ジメチル−2−プロペン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−ブテン酸、3−ブテン−1−オール、N−(3−ブテン−1−イル)フタルイミド、5−ヘキセン酸、5−ヘキセン酸メチル、5−ヘキセン−2−オン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。この中でも、特に3−ブテン−1−オール、10−ウンデセン酸エチル、10−ウンデセン−1−オールが好ましい。
【0071】
本発明におけるアリルモノマーは、炭素数3のアリルモノマー(プロぺニルモノマー)、アリル基を有する、炭素数4以上のアリル系モノマーが例示される。アリルモノマーは、含ハロゲン、含窒素、含酸素、含硫黄等の極性基を有するアリルモノマーで、特にハロゲン、水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基、ホルミル基、エステル基、エポキシ基、ニトリル基等を含有するビニルモノマーである。好ましい具体例として、酢酸アリル、アリルアルコール、アリルアミン、N−アリルアニリン、N−t−ブトキシカルボニル−N−アリルアミン、N−ベンジルオキシカルボニル−N−アリルアミン、N−アリル−N−ベンジルアミン、塩化アリル、臭化アリル、アリルエーテル、ジアリルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、特に酢酸アリル、アリルアルコールが好ましく、酢酸アリル、アリルエーテル、ジアリルエーテルがより好ましい。
【0072】
本発明の重合反応は、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素溶媒や液化α−オレフィン等の液体、また、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、安息香酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、ホルミアミド、アセトニトリル、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のような極性溶媒の存在下あるいは非存在下に行われる。また、ここで記載した液体化合物の混合物を溶媒として使用してもよい。さらに、イオン液体も溶媒として使用可能である。なお、高い重合活性や高い分子量を得るうえでは、上述の炭化水素溶媒やイオン液体がより好ましい。
【0073】
本発明では、公知の添加剤の存在下または非存在下で重合反応を行うことができる。添加剤としては、ラジカル重合を禁止する重合禁止剤や、生成共重合体を安定化する作用を有する添加剤が好ましい。例えば、キノン誘導体やヒンダードフェノール誘導体などが好ましい添加剤の例として挙げられる。具体的には、モノメチルエーテルハイドロキノンや、2,6−ジ−t−ブチル4−メチルフェノール(BHT)、トリメチルアルミニウムとBHTとの反応生成物、4価チタンのアルコキサイドとBHTとの反応生成物などが使用可能である。また、添加剤として、無機およびまたは有機フィラーを使用し、これらのフィラーの存在下で重合を行っても良い。さらに、本発明に係るL
1やイオン液体を添加剤として用いてもよい。
【0074】
本発明における好ましい添加剤として、ルイス塩基が挙げられる。適切なルイス塩基を選択することにより、活性、分子量、アクリル酸エステルの共重合性を改良することができる。ルイス塩基の量としては、重合系内に存在する触媒成分中の遷移金属Mに対して、0.0001当量〜1000当量、好ましくは0.1当量〜100当量、さらに好ましくは、0.3当量〜30当量である。ルイス塩基を重合系に添加する方法については、特に制限はなく、任意の手法を用いることができる。例えば、本発明の触媒成分と混合して添加してもよいし、モノマーと混合して添加してもよいし、触媒成分やモノマーとは独立に重合系に添加してもよい。また、複数のルイス塩基を併用してもよい。また、本発明に係るL
1と同じルイス塩基を用いてもよいし、異なっていてもよい。
【0075】
ルイス塩基としては、芳香族アミン類、脂肪族アミン類、アルキルエーテル類、アリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類、環状エーテル類、アルキルニトリル類、アリールニトリル類、アルコール類、アミド類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類、ホスフェート類、ホスファイト類、チオフェン類、チアンスレン類、チアゾール類、オキサゾール類、モルフォリン類、環状不飽和炭化水素類などを挙げることができる。これらのうち、特に好ましいルイス塩基は、芳香族アミン類、脂肪族アミン類、環状エーテル類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類であり、なかでも好ましいルイス塩基は、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピペリジン誘導体、イミダゾール誘導体、アニリン誘導体、ピペリジン誘導体、トリアジン誘導体、ピロール誘導体、フラン誘導体である。
【0076】
具体的なルイス塩基化合物としては、ピリジン、ペンタフルオロピリジン、2,6−ルチジン、2,4−ルチジン、3,5−ルチジン、ピリミジン、N、N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール、2,2’−ビピリジン、アニリン、ピペリジン、1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ピリジル)−s−トリアジン、キノリン、8−メチルキノリン、フェナジン、1,10−フェナンスロリン、N−メチルピロール、1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]−ウンデカ−7−エン、1,4−ジアザビシクロ−[2,2,2]−オクタン、トリエチルアミン、ベンゾニトリル、ピコリン、トリフェニルアミン、N−メチル−2−ピロリドン、4−メチルモルフォリン、ベンズオキサゾール、ベンゾチアゾール、フラン、2,5−ジメチルフラン、ジベンゾフラン、キサンテン、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、ジベンゾチオフェン、チアンスレン、トリフェニルホスフォニウムシクロペンタジエニド、トリフェニルホスファイト、トリフェニルホスフェート、トリピロリジノホスフィン、トリス(ピロリジノ)ボランなどを挙げることができる。
【0077】
本発明において、重合形式に特に制限はない。媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合、気化したモノマー中で行う気相重合、または、高温高圧で液化したモノマーに生成重合体の少なくとも一部が溶解する高圧イオン重合などが好ましく用いられる。また、バッチ重合、セミバッチ重合、連続重合のいずれの形式でもよい。また、リビング重合であってもよいし、連鎖移動を併発しながら重合を行ってもよい。さらに、いわゆるchain transfer agent(CSA)を併用し、chain shuttlingや、coordinative chain transfer polymerization(CCTP)を行ってもよい。
【0078】
未反応モノマーや媒体は、生成共重合体から分離し、リサイクルして使用してもよい。リサイクルの際、これらのモノマーや媒体は、精製して再使用してもよいし、精製せずに再使用してもよい。生成共重合体と未反応モノマーおよび媒体との分離には、従来公知の方法が使用できる。例えば、濾過、遠心分離、溶媒抽出、貧溶媒を使用した再沈などの方法が使用できる。
重合温度、重合圧力および重合時間に、特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。すなわち、重合温度は、通常−20℃〜290℃、好ましくは0℃〜250℃、共重合圧力は、0.1MPa〜300MPa、好ましくは、0.3MPa〜250MPa、重合時間は、0.1分〜10時間、好ましくは、0.5分〜7時間、さらに好ましくは1分〜6時間の範囲から選ぶことができる。
【0079】
本発明において、重合は、一般に不活性ガス雰囲気下で行われる。例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素雰囲気が使用でき、窒素雰囲気が好ましく使用される。なお、少量の酸素や空気の混入があってもよい。
重合反応器への触媒とモノマーの供給に関しても特に制限はなく、目的に応じてさまざまな供給法をとることができる。たとえばバッチ重合の場合、あらかじめ所定量のモノマーを重合反応器に供給しておき、そこに触媒を供給する手法をとることが可能である。この場合、追加のモノマーや追加の触媒を重合反応器に供給してもよい。また、連続重合の場合、所定量のモノマーと触媒を重合反応器に連続的に、または間歇的に供給し、重合反応を連続的に行う手法をとることができる。
【0080】
共重合体の組成の制御に関しては、複数のモノマーを反応器に供給し、その供給比率を変えることによって制御する方法を一般に用いることができる。その他、触媒の構造の違いによるモノマー反応性比の違いを利用して共重合組成を制御する方法や、モノマー反応性比の重合温度依存性を利用して共重合組成を制御する方法が挙げられる。
重合体の分子量制御には、従来公知の方法を使用することができる。すなわち、重合温度を制御して分子量を制御する方法、モノマー濃度を制御して分子量を制御する方法、連鎖移動剤を使用して分子量を制御する方法、遷移金属錯体中のリガンド構造の制御により分子量を制御する等が挙げられる。連鎖移動剤を使用する場合には、従来公知の連鎖移動剤を用いることができる。例えば、水素、メタルアルキルなどを使用することができる。
また、(b)成分自身が一種の連鎖移動剤となる場合には、(b)成分の(a)成分に対する比率や、(b)成分の濃度を制御することによっても、分子量調節が可能である。遷移金属錯体中のリガンド構造を制御して、分子量調節を行う場合には、前記したR
2、R
3中のヘテロ原子含有基の種類、数、配置を制御したり、金属Mのまわりに嵩高い置換基を配置したり、前記したR
6中にヘテロ原子を導入したりすることによって、一般に分子量が向上する傾向を利用することができる。なお、金属Mに対して、アリール基やヘテロ原子含有置換基などの電子供与性基が相互作用可能となるように電子供与性基を配置することが好ましい。こうした電子供与性基が金属Mと相互作用可能であるかどうかは、一般に、分子模型や分子軌道計算で電子供与性基と金属Mとの距離を測定することによって判断できる。
【0081】
特に本発明により得られる共重合体は、共重合体の極性基にもとづく効果により、良好な塗装性、印刷性、帯電防止性、無機フィラー分散性、他樹脂との接着性、他樹脂との相溶化能などが発現する。こうした性質を利用して、本発明の共重合体は、さまざまな用途に使用することができる。例えば、フィルム、シート、接着性樹脂、バインダー、相溶化剤、ワックスなどとして使用可能である。
【実施例】
【0082】
以下の実施例および比較例において本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
以下の合成例で、とくに断りのない限り、操作は精製窒素雰囲気下で行い、溶媒は脱水・脱酸素したものを用いた。
【0083】
1.評価法
(1)重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnおよび分子量分布Mw/Mn:以下のGPC測定により求めた。
はじめに、試料約20mgをポリマーラボラトリー社製高温GPC用前処理装置PL−SP 260VS用のバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHTを含有するo−ジクロロベンゼン(BHT濃度=0.5g/L)を加え、ポリマー濃度が0.1質量%になるように調整した。ポリマーを上記高温GPC用前処理装置PL−SP 260VS中で135℃に加熱して溶解させ、グラスフィルターにて濾過して試料を調製した。なお、本発明におけるGPC測定において、グラスフィルターに捕捉されたポリマーはなかった。次に、カラムとして、東ソー社製TSKgel GMH−HT(30cm×4本)およびRI検出器を装着したウォーターズ社製GPCV 2000を使用してGPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液注入量:約520μL、カラム温度:135℃、溶媒:o−ジクロロベンゼン、流量:1.0mL/minを採用した。分子量の算出は以下のように行った。すなわち、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料およびエチレン系重合体の粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、該校正曲線に基づいて分子量の算出を行った。なお、粘度式としては、[η]=K×Mαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38E−4、α=0.70を使用し、エチレン系重合体に対しては、K=4.77E−4、α=0.70を使用し、プロピレン系重合体に対しては、K=1.03E−4、α=0.78を使用した。
【0084】
2.リガンドの合成
(合成例1):リガンドB−394の合成
以下のスキームに従ってリガンドB−394を合成した。
なお、以降の化学式中、−OMOMとはメトキシメトキシ基(−OCH
2OCH
3)を表す。
【0085】
【化7】
【0086】
(1)化合物2の合成
2−tert−ブチルフェノール(化合物1、100.0g、66.6mmol、10.2mL)に、水素化ナトリウム(7.46g、186.4mmol、純度60%)のTHF懸濁溶液250mLを0℃で加え、0℃で30分撹拌した。反応混合物にクロロメチルエーテル(10.7g、133.1mmol、10.1mL)を0℃で加え、15℃で15時間撹拌した。その後、反応混合物に水酸化カリウム水溶液(2M、200mL)をゆっくりと加え、15℃で30分撹拌した。その後、酢酸エチル(100mLx2)で抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで粗生成物を得た。粗生成物はシリカゲルカラム(展開溶媒に石油エーテル)で精製し、化合物2を得た(8.8g、45.3mmol、収率68.1%)。
【0087】
(2)化合物3aの合成
化合物2(5.0g、25.7mmol)のTHF60mL溶液に、n−ブチルリチウム(2.5M、10.3mL、25.8mmol)を0℃で加え、0℃で1時間撹拌した。その後、ヨウ素(6.5g、25.7mmol、5.2mL)を0℃で加え、15℃で15時間撹拌した。反応混合物に氷水20mLを加え、酢酸エチル(20mLx2)で抽出した。有機相はチオ硫酸ナトリウム20mL、水20mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後に、濃縮することで、化合物3aを得た。その後精製することなく、次反応に用いた。
【0088】
(3)化合物5の合成
窒素雰囲気下で、水素化アルミニウムリチウム(4.2g、110.7mmol)のTHF懸濁溶液110mLに、化合物4(20.0g、110.7mmol、21.1mL)のジエチルエーテル40mL溶液を0℃でゆっくりと加えた。混合物は35℃で5時間撹拌した。反応混合物にTHF20mLと水20mLを0℃でゆっくりと加え、その後35℃で3時間撹拌した。反応混合物は蒸留により、すべての揮発物を回収した。その後、有機相は硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を除去した。70mmHgで蒸留し、沸点50−55℃の画分を回収し、化合物5を無色透明オイルとして得た(8.2g、55.7mmol、収率50.4%)。
【0089】
(4)化合物6aの合成
窒素雰囲気下で、化合物3a(200.0mg、468.5μmol)、化合物5(68.5mg、468.5μmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(42.9mg、46.9μmol)、ビス[2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル(50.5mg、93.7μmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド(90.1mg、937.0μmol)にトルエン5mLを加え、100℃で16時間撹拌した。反応混合物を濃縮し、水15mLを加えた後に、酢酸エチル(15mLx2)で抽出した。有機相は塩水15mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで粗生成物を得た。粗生成物はシリカゲルカラム(展開溶媒に石油エーテル)で精製し、化合物6aを得た。
【0090】
(5)リガンドB−394の合成
化合物6a(2.5g、7.4mmol)のジクロロメタン溶液20mLにHCl/酢酸エチル(4M、40.0mL)を0℃で加え、25℃で2時間撹拌した。反応混合物を濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物は飽和炭化水素ナトリウム水溶液30mLでpH6.5〜7.0に調製し、その後ジクロロメタン(25mLx3)で抽出した。有機相は塩水25mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することでB−394を得た(1.6g、5.4mmol、収率73.5%)。
1HNMR(400MHz,CDCl
3,δ,ppm):8.21(d,J=12Hz,1H),7.41(dt,J=7.6Hz,2.8Hz,1H),6.81−6.76(m,1H),6.79(t,J=7.6Hz,1H),1.40(s,9H),1.23(s,9H),1.20(s,9H);
31PNMR(162MHz,CDCl
3,δ,ppm)−6.75(s).
【0091】
(合成例2):リガンドB−400の合成
以下のスキームにしたがってリガンドB−400を合成した。
【0092】
【化8】
【0093】
(1)化合物12の合成
化合物11(5.0g、24.2mmol)とp−トルエンスルホン酸(378.5mg、2.4mmol)のジクロロメタン溶液にN−ヨードスクシンイミド(6.0g、26.7mmol)を加え、25℃で16時間撹拌した。反応混合物は飽和チオ硫酸ナトリウム30mLでクエンチし、その後酢酸エチル(20mLx3)で抽出した。有機相は塩水25mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで粗生成物を得た。粗生成物はシリカゲルカラム(展開溶媒に石油エーテル)で精製し、化合物12を得た(8.0g、24.1mmol、収率99.4%)。
【0094】
(2)化合物3bの合成
化合物12(8.0g、24.1mmol)のTHF溶液20mLに水素化ナトリウム(1.4g、36.1mmol、純度60%)を0℃で加えた。その後、クロロメチルメチルエーテル(2.5g、31.3mmol、2.4mL)を加え、25℃で16時間撹拌した。反応混合物は飽和炭化水素ナトリウム水溶液25mLを0℃で加えクエンチし、酢酸エチル(15mLx3)で抽出した。有機相は塩水10mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで粗生成物を得た。粗生成物は、シリカゲルカラム(展開溶媒に石油エーテル)で精製し、化合物3bを得た(5.2g、13.8mmol、収率57.4%)。
【0095】
(3)化合物6bの合成
窒素雰囲気下で、化合物3b(5.2g、13.8mmol)、上記リガンドB−394の合成に用いた化合物5(2.0g、13.8mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(1.3g、1.4mmol)、ビス[2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル(1.5g、2.8mmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド(2.7g、27.6mmol)にトルエン20mLを加え、100℃で16時間撹拌した。その後、反応混合物を濃縮することで粗生成物を得た。粗生成物はシリカゲルカラム(展開溶媒に石油エーテル/酢酸エチル=10/1)で精製し、その後石油エーテル中での再結晶によって化合物6bを得た(3.0g、7.6mmol、収率55.0%)。
【0096】
(4)リガンドB−400の合成
化合物6b(2.8g、7.1mmol)のジクロロメタン20mLにHCl/酢酸エチル(4M、20.0mL)を0℃で加え、25℃で2時間撹拌した。その後、反応混合物を濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物は飽和炭化水素ナトリウム水溶液30mLでpH6.5〜7.0に調製し、ジクロロメタン(25mLx3)で抽出した。有機相は塩水25mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することでB−400を得た(2.2g、6.3mmol、収率88.4%)。
1HNMR(400MHz,CDCl
3,δ,ppm):7.98(d,J=12.4Hz,1H),7.34(t,J=2.5Hz,1H),7.26−7.21(m,1H),1.32(s,9H),1.23(s,9H),1.14(s,9H),1.11(s,9H);
31PNMR(162MHz,CDCl
3,δ,ppm)−5.35(s).
【0097】
(比較合成例1):リガンドB−399の合成
以下のスキームにしたがってリガンドB−399を合成した。
【0098】
【化9】
【0099】
(1)化合物22の合成
化合物21(4.0g、29.0mmol)のTHF溶液30mLにn−ブチルリチウム(2.5M、12.2mL、30.0mmol)を0℃で添加し、0℃で1時間撹拌した。その後、ジ−tert−ブチルクロロホスフィン(5.2g、29.0g、5.5mL)を−78℃で添加し、15℃で12時間撹拌した。反応溶液は、氷水20mLに注ぎ入れ、酢酸エチル(20mLx2)で抽出した。有機相は、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで粗生成物を得た。粗生成物はシリカゲルカラム(展開溶媒に石油エーテル:酢酸エチル=1:0−50:1)で精製し、化合物22を得た(3.5g、9.0g、収率31.2%)。
【0100】
(2)化合物23の合成
アルゴン雰囲気下で、化合物22(3.9g、13.9mmol)のTHF溶液10mLにBH
3・THF(1.0M、16.7mL、16.7mmol)を−78℃で添加し、10℃で1時間撹拌した。BH
3・ジメチルスルフィド(10M、1.7mL、16.7mmol)を−78℃で加え、10℃で12時間撹拌した。この反応溶液に、氷水10mLを0℃で添加し、揮発成分は減圧下で留去した。水20mL添加し、酢酸エチル(20mLx3)で抽出した。有機相は無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで白色固体を得た。白色固体は酢酸エチル10mLで再結晶し、化合物23を得た(1.5g、5.1mmol、収率36.4%)。
【0101】
(3)リガンドB−399の合成
アルゴン雰囲気下で、化合物23(5.4g、18.2mmol)のジクロロメタン20mLにHCl/酢酸エチル(4M、80.0mL、320.0mmol)を0℃で添加し、10℃で3時間撹拌した。揮発成分は減圧下で留去し、ジクロロメタン100mLを加えた。有機相は、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100mLで洗浄し、濃縮することでリガンドB−399を得た(4.0g、16.8mmol、収率92.1%)。
1HNMR(400MHz,CDCl
3,δ,ppm):7.85(s,1H),7.57(dt,J=7.6Hz,1.4Hz,1H),7.28(td,J=7.7Hz,1.6Hz,1H),6.94(td,J=7.2Hz,1.2Hz,1H),6.87(td,J=7.5Hz,1.2Hz,1H),1.32(s,9H),1.29(s,9H);
31PNMR(162MHz,CDCl
3,δ,ppm)−6.21(s).
【0102】
3.錯体の合成
(実施例1):錯体(B−394)Ni((1,4,5−η)−COE)の合成
以下の操作は、すべて高純度アルゴン雰囲気下で行った。以下、ビス−1、5−シクロオクタジエンニッケル(0)をNi(COD)
2と称し、(1,4,5−η)−4−シクロオクテン−1−イル配位子を(1,4,5−η)−COEと称する。
初めに25mLのナスフラスコに、上記リガンドB−394(42mg、0.14mmol)を秤り取った。次に、Ni(COD)
2(43mg、0.16mmol)を別のフラスコに秤り取り、トルエン(8.0mL)に溶解させ、20mmol/mLのNi(COD)
2トルエン溶液を調製した。得られた溶液は、黄色透明であった。ここで得られたNi(COD)
2トルエン溶液7.1mLを、リガンドB−394を入れたナスフラスコに加え、溶液を得た。その後、室温で1時間撹拌した。この時、溶液の色が次第に暗黄色〜褐色に変化し、沈殿がないことを確認し、B−394とNi(COD)
2の反応生成物((B−394)Ni((1,4,5−η)−COE))の20mmol/mL溶液を得た。ここで、反応生成物の濃度は、B−394とNi(COD)
2が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0103】
(実施例2):錯体(B−400)Ni((1,4,5−η)−COE)の合成
上記実施例1において、リガンドB−394の替わりにリガンドB−400を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、錯体(B−400)Ni((1,4,5−η)−COE)を合成した。
【0104】
(実施例3):錯体(B−394)Ni(4−Fluorophenyl)Pyの合成
以下のスキームにしたがって錯体(B−394)Ni(4−Fluorophenyl)Pyを合成した。
【0105】
【化10】
【0106】
グローブボックス中、15mLバイアルにリガンドB−394(100mg、0.34mmol)と水素化カリウム(27mg、0.68mmol)を入れて、ジエチルエーテル5mLを加え、室温で10分撹拌した。反応混合物はセライトを通してろ過し、セライトはジエチルエーテル5mLで洗浄した。Ni(4−Fluorophenyl)Br(TMEDA)(TMEDA:テトラメチルエチレンジアミン)は、非特許文献Molecules (2014), 19(9), 13603−13613.を参考に合成した。Ni(4−Fluorophenyl)Br(TMEDA)(126mg、0.36mmol)を上記ジエチルエーテルろ液に加え、室温で12時間撹拌した。反応混合物はセライトを通してろ過し、セライトはジエチルエーテル3mLで洗浄した。このろ液に、ピリジン(29mg、0.37mmol)を加え、室温で10時間撹拌した。その後、反応混合物中の溶媒を留去することにより、固体を得た。得られた固体をヘキサン20mLに加え、この混合物をセライトに通してろ過し、セライトをヘキサン5mLで洗浄し、得られたろ液中の溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物にヘキサン1.5mLを加え、−35℃で終夜静置した。析出した固体をろ過により回収し、冷やしたヘキサンで洗浄した。得られた黄色固体を室温で2時間減圧乾燥することで、錯体(B−394)Ni(4−Fluorophenyl)Pyを得た(144mg、80%)。
1HNMR(400MHz,δ,C
6D
6)8.63(d,J=5.6Hz,2H),7.68(t,J=7.0Hz,2H),7.34−7.31(m,2H),6.78(t,J=9.0Hz,2H),6.66(t,J=7.4Hz,1H),6.58(td,J=7.6,2.0Hz,1H),6.36(t,J=7.0Hz,2H),1.41(d,J=4.0Hz,18H),1.38(s,9H);
31PNMR(162MHz,δ,C
6D
6)60.3;
19FNMR(376MHz,δ,C
6D
6)−124.0;
13CNMR(101MHz,δ,C
6D
6)175.54(d,J=17Hz,1C),161.58(dd,J=240,1.3Hz,1C),150.35(s,2C),144.43(dd,J=37,3.2Hz,1C),139.24(d,J=4.9Hz,2C),138.47(d,J=7.4Hz,1C),136.52(s,1C),131.93(d,J=1.1Hz,1C),129.11(d,J=1.7Hz,1C),123.37(s,2C),118.02(d,J=41Hz,1C),113.14(dd,J=18,2.2Hz,2C),112.71(d,J=6.6Hz,1C),36.33(d,J=18Hz,2C),34.97(d,J=1.4Hz,1C),30.17(d,J=4.1Hz,6C),29.65(s,3C).
Elemental analysis,Calcd for C
29H
39FNNiOP;C,66.18;H,7.47;N,2.66;found C,66.19;H,7.73;N,2.54.
【0107】
(比較例1):錯体(B−399)Ni((1,4,5−η)−COE)の合成
上記実施例1において、リガンドB−394の替わりにリガンドB−399を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、錯体(B−399)Ni((1,4,5−η)−COE)を合成した。
【0108】
4.プロピレン重合又は共重合
(実施例1A):実施例1の錯体を用いたプロピレン重合
内容積2Lの誘導攪拌式オートクレーブに、プロピレン(500mL)を導入した。実施例1の錯体((B−394)Ni((1,4,5−η)−COE))を窒素ガスでオートクレーブに導入した。混合物を攪拌しながらオートクレーブを50℃に昇温した。50℃に達した時点から所定時間重合させた。未反応モノマーを除去した後、オートクレーブを開放し、加熱乾燥を行い、重合体を得た。
【0109】
(実施例2A):実施例2の錯体を用いたプロピレン重合
実施例1Aにおいて、実施例1の錯体((B−394)Ni((1,4,5−η)−COE))の替わりに実施例2の錯体((B−400)Ni((1,4,5−η)−COE))を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の手順により、重合体を得た。
【0110】
(実施例3A):実施例3の錯体を用いたプロピレン重合
実施例1Aにおいて、実施例1の錯体((B−394)Ni((1,4,5−η)−COE))の替わりに実施例3の錯体((B−394)Ni(4−Fluorophenyl)Py)を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の手順により、重合体を得た。
【0111】
(実施例1B):実施例1の錯体を用いた共重合
実施例1Aにおいて、実施例1の錯体を窒素ガスでオートクレーブに導入した後に、さらに3−ブテン−1−オールを加えたこと以外は、実施例1Aと同様の手順により、共重合体を得た。共重合体中のコモノマー含有率は、
1HNMR測定により、プロピレン:コモノマーのモル比を決定し、コモノマー含量mol%という表記で表に記載した。
【0112】
(実施例2C):実施例2の錯体を用いた共重合
実施例1Aにおいて、実施例1の錯体((B−394)Ni((1,4,5−η)−COE))の替わりに実施例2の錯体((B−400)Ni((1,4,5−η)−COE))を用いたこと、及び実施例2の錯体を窒素ガスでオートクレーブに導入した後に、さらに10−ウンデセン酸エチルを加えたこと以外は、実施例1Aと同様の手順により、共重合体を得た。共重合体中のコモノマー含有率は、
1HNMR測定により、プロピレン:コモノマーのモル比を決定し、コモノマー含量mol%という表記で表に記載した。
【0113】
(実施例3D):実施例3の錯体を用いた共重合
50mLステンレス鋼オートクレーブを120℃の乾燥機で3時間乾燥した後に、組み立てて、125℃で2時間減圧乾燥した。室温まで冷却後、アルゴン下で、オートクレーブに実施例3の錯体((B−394)Ni(4−Fluorophenyl)Py)(10.0μmol、10.0mL、1.00mmol/Lトルエン溶液)とトルエン(10mL)を加えた。その後、プロピレン10g、アクリル酸メチルを加えた。その後、オートクレーブの温度を50℃とし、内容物を64時間撹拌した。室温まで冷却後、プロピレンをパージし、エタノール20mLにより反応をクエンチし、重合物をろ過により回収した。重合物を100〜120℃で2時間減圧乾燥し、目的とする共重合体を得た。共重合体中のコモノマー含有率は、
1HNMR測定により、プロピレン:コモノマーのモル比を決定し、コモノマー含量mol%という表記で表に記載した。
【0114】
(比較例1A):比較例1の錯体を用いたプロピレン重合
実施例1Aにおいて、実施例1の錯体((B−394)Ni((1,4,5−η)−COE))の替わりに比較例1の錯体((B−399)Ni((1,4,5−η)−COE))を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の手順により、重合体を得た。
【0115】
下記表3は、実施例1〜実施例3及び比較例1の錯体の合成に用いたニッケル原料及びリガンドを比較したものである。
【0116】
【表3】
【0117】
下記表4は、プロピレンを用いた重合又は共重合について、実施例1A〜実施例3A、実施例1B、実施例2C、実施例3D、及び比較例1Aの重合条件及び重合結果をまとめたものである。表4中の重合活性は、重合に用いた錯体1molあたり、重合時間1時間あたりの共重合体収量(g)を表す。表4には、重合体に関するGPC測定結果として、重量平均分子量Mw、及び分子量分布Mw/Mnを載せた。表4中の共重合量は、重合に供した全モノマー量中における、コモノマーの取込量の割合を示す。
【0118】
【表4】
【0119】
5.考察
上記表4の比較例1Aから分かるように、従来の錯体(比較例1)を用いたポリプロピレン重合では、重合活性が4.0×10
3(g/mol/hr)と低く、得られる重合体の分子量Mwは3,200と小さい。これに対し、上記表4の実施例1A〜実施例3Aから分かるように、本発明の金属錯体(実施例1〜実施例3)を用いたポリプロピレン重合では、重合活性が1.1×10
5(g/mol/hr)以上と高く、得られる重合体の分子量Mwは15,900以上と大きい。このように、R
1に炭化水素基を用いた本発明の金属錯体は、R
1が水素の場合(比較例1)と比較して、ポリプロピレン重合において高い重合活性を発揮でき、かつより高分子量のポリプロピレンが得られる。また、得られたポリプロピレンの分子量分布Mw/Mnは2.3以下に収まる。
また、上記表4の実施例1B、実施例2C及び実施例3Dから分かるように、本発明の金属錯体により、α−オレフィンと極性基含有モノマーとの共重合が、良好な重合活性で達成される。
以上より、本発明の金属錯体は、従来よりも高い重合活性でより高分子量のα−オレフィン単独重合体が得られ、かつ、良好な重合活性でα−オレフィンと極性基含有モノマーとの共重合を達成でき、優れた技術的意義を持つことが明らかである。