特許第6939411号(P6939411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6939411
(24)【登録日】2021年9月6日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】半導体光素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/026 20060101AFI20210909BHJP
【FI】
   H01S5/026 616
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-207298(P2017-207298)
(22)【出願日】2017年10月26日
(65)【公開番号】特開2019-79993(P2019-79993A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2019年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】硴塚 孝明
(72)【発明者】
【氏名】松尾 慎治
【審査官】 百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−225320(JP,A)
【文献】 特開平09−051142(JP,A)
【文献】 特開2009−070835(JP,A)
【文献】 特開平09−162484(JP,A)
【文献】 特開2007−158351(JP,A)
【文献】 特開2013−222795(JP,A)
【文献】 特開2015−220324(JP,A)
【文献】 特開平05−158085(JP,A)
【文献】 特開2005−353910(JP,A)
【文献】 特開2003−241152(JP,A)
【文献】 特開2009−135555(JP,A)
【文献】 特開2015−220290(JP,A)
【文献】 特開2015−220323(JP,A)
【文献】 特開2013−168513(JP,A)
【文献】 特開2010−267801(JP,A)
【文献】 特開2006−287144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板と、前記シリコン基板上にSiO2層が形成された、2層構造を有する基板と、
前記基板上に形成された電界吸収変調器領域であって、コア層の積層面に平行な方向かつ光導波方向に直交する方向のコア層の両側の前記基板上に、半導体極性の異なるクラッド層をそれぞれ配置した導波路構造を有する電界吸収変調器領域と、
前記基板上に形成されたレーザ領域であって、コア層の積層面に平行な方向かつ光導波方向に直交する方向のコア層の両側の基板上に、半導体極性の異なるクラッド層をそれぞれ配置し、前記電界吸収変調器領域のクラッド層の半導体極性とは逆に配置した導波路構造を有するレーザ領域と、
前記電界吸収変調器領域と前記レーザ領域とを接続する接続導波路領域であって、真性半導体による埋め込み導波路で形成され、前記真性半導体の両脇は前記基板のSiO2層で埋め込まれた構造を有する接続導波路領域とを備え、
前記電界吸収変調器領域と前記レーザ領域を光導波方向に見た一方の側の、半導体極性の異なる2つの前記クラッド層が共通電極により接続され、前記共通電極を接地し、前記電界吸収変調器領域に逆バイアス電源を接続し、前記レーザ領域に順バイアス電源を接続する
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項2】
請求項に記載の半導体光素子であって、
前記接続導波路領域の前記真性半導体による埋め込み導波路が、前記接続導波路領域の
前記電界吸収変調器領域と前記レーザ領域に接する光導波方向の両側の光入出力部分から
前記接続導波路領域の中央部分に向かって埋め込み幅を狭くするように形成されている
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項3】
請求項に記載の半導体光素子であって、
前記接続導波路領域の前記真性半導体による埋め込み導波路が
前記接続導波路領域の中央部分には前記真性半導体による埋め込みがないように形成されている
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体光素子であって、
前記接続導波路領域の全体が真性半導体による埋め込みがない細線導波路で形成される
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の半導体光素子であって、
前記電界吸収変調器領域と前記レーザ領域のコア層が量子井戸構造である
ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の半導体光素子であって、
前記基板が、半絶縁性(SI)InP基板である
ことを特徴とする半導体光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信器用光源などに利用される半導体光素子の構造に関する。より詳細には、半導体レーザと光変調器を集積した変調器集積光源に用いられる変調器集積レーザのような半導体光素子の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及に伴うネットワークトラフィック量の爆発的な増大により、光ファイバ伝送の高速・大容量化が著しい。半導体レーザは、光ファイバ通信を支える光源デバイスとして発展を続けてきた。特に、分布帰還型(Distributed Feedback:DFB)半導体レーザによる単一モード光源の実現は、時分割多重方式、及び波長分割多重(Wavelengh Division Multiplexing:WDM)方式による光ファイバ通信の高速化、大容量化に大きく寄与してきた。
【0003】
近年、光通信はコアネットワークやメトロネットワーク等のテレコム領域に限らず、データセンタ間、ラック間、さらにはボード間の短距離のデータ通信にも適用されている。例えば、100GbitイーサネットはWDM型の多波長アレイ光源の構成を用いて標準化されており、短距離光通信の大容量化が急速に進んでいる。これらの背景に際し、光送信器の高速化かつ低消費電力化は必須であり、集積されたレーザ光源からの光を電気信号で変調して出力する高性能な変調光源として、変調器集積型半導体レーザが進展してきた。
【0004】
特に単一モードDFBレーザと電界吸収(ElectroAbsorption:EA)型光変調器を同一基板上にモノリシックに集積したEA−DFBレーザは、小型でかつ消費電力が低く、40Gbit/sを超える高速変調が可能であるため(非特許文献1)、100km以下の比較的短距離用の光送信器として実用化されている。2017年現在、400Gbitイーサネットの標準化が整いつつあり、50Gbit/s級のPAM(Pulse Amplitude Moduation)に対応可能なEA−DFBレーザが望まれるところである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】W. Kobayashi et al., “Design and Fabrication of 10-/40-Gb/s, Uncooled Electroabsorption Modulator Integrated DFB Laser With Butt-Joint Structure,”IEEE Journal of Lightwave Technology, vol. 28, no.1, pp.164-171, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
EA−DFBレーザは、EA変調器と単一モードDFBレーザを同一基板上に集積して形成される。EA変調器は、変調される光の通過する光導波路コアとなる量子井戸活性層に、変調電気信号による電界を与えたときの光吸収係数の変化により光変調動作する。
【0007】
図1(a)に、一般的な従来のEA変調器の変調領域の基板断面図を示す。図1(a)において、変調される光は、基板面内方向(紙面に垂直ないし紙面内の左右方向)に量子井戸層(コア層、活性層)1を通過するものとする。
【0008】
量子井戸層1は、バンドギャップの大きい材料で構成されたバリア層とバンドギャップの小さい材料で構成された井戸層を、交互に周期的に複数積層した多層構造である。この量子井戸層1(通常は非ドープの真性半導体であり、i型と表現される)の上層と下層に、半導体極性の異なるクラッド層、例えばp型クラッド層(p−InP)2に対して、n型クラッド層(n−InP)3を配置した3層で、pin半導体構造が形成されている。pin半導体構造を挟んで面対向する上下の電極により、変調信号源41からの変調電気信号とともに逆バイアスによって、上下方向(量子井戸層1に垂直な方向、縦方向)に電界が印加される。この電界により、量子井戸層1を通過する光に対する光吸収係数が制御され、光が変調される。
【0009】
図1(b)は、電界ゼロの場合(実線)と所定の電界を印加した場合(点線)の、上記量子井戸構造のEA変調器の波長に対する吸収係数(光吸収スペクトル)の変化を示す図である。量子井戸構造の光吸収スペクトルは、バンド間遷移波長に対応するバンド間吸収(図1(b)の「バンド端」より左側の区間)と、その長波長側にある励起子吸収ピークからなる。
【0010】
電界を印加すると、量子井戸層1内のキャリアの局在により光吸収スペクトルの励起子吸収ピークが低下し、さらに実効的なバンドギャップが縮小することにより吸収スペクトルが長波長シフトする、いわゆる量子閉じ込めシュタルク(QCSE)効果が生じる。したがって一般的には、レーザの動作波長を励起子吸収波長よりも長波長側に設定し、電界を与えることによる光吸収係数の増大によって、光変調動作が達成される。
【0011】
EA−DFBレーザ素子10は、光導波路コア層に沿って設けられた電界吸収(EA)変調器領域と、DFBレーザとして機能するレーザ領域とにより構成され、レーザ領域で発生したレーザ光が電界吸収変調器領域で変調されて出力光となる。
【0012】
図2、3に、一般的な従来のEA−DFBレーザの導波路構造の基板断面図を示す。図2(a)は、レーザ領域9における光導波路コア層(光軸)に垂直な基板断面図、図2(b)は、電界吸収変調器領域8における光導波路コア層に垂直な基板断面図である。図3は、光導波路コア層に沿った光軸を含む基板断面図である。
【0013】
図2(a)、(b)において、n型基板でもあるn型クラッド層(n−InPクラッド層/基板)3の上には、半絶縁性InP埋込み層15 により両脇を埋め込まれて、変調器のコア層(量子井戸層、活性層)1またはレーザコア層(量子井戸層、活性層)4が別組成で別々に形成されている。両コア層1,4の上には、共通のp型クラッド層2と2つのp型コンタクト層7、2つのp電極6が形成されている。
【0014】
図3に示されるように、両コア層1,4は接続導波路領域13の光導波路で結合されている。レーザコア層4の上部には、レーザの発振波長を決める回折格子11が形成される。両コア層1,4の上部には、共通のp型クラッド層2と2つのp型コンタクト層7、2つのp電極6が形成されている。n型クラッド層/基板3の下には、共通のn電極5が設けられて接地されている。
【0015】
EA−DFBレーザでは、電界吸収変調器とレーザを独立にバイアス駆動するために、電気的な分離が必要である。図3に示す従来構造の例では、基板3を共通化してn電極5で接地している。一方、p電極側ではエッチングにより導波モードに影響がない範囲で接続導波路領域13上部のp型クラッド層2を薄くしており、更にコンタクト層7を除去している。これにより、p電極6は電界吸収変調器領域8とレーザ領域9で電気的に2つに分離されている。
【0016】
このような構造で、図1で説明した通り、電界吸収変調器領域8では逆バイアス、すなわちp電極6の電位がn電極5よりも低い状態で駆動する必要がある。一方、レーザ領域9では電流注入動作のために順バイアス、すなわちp電極6の電位がn電極5よりも高い状態で駆動する必要がある。
【0017】
したがって、例えば電界吸収変調器の変調信号源(バイアス電圧源)41によるバイアス電圧の絶対値をVbEA、レーザ領域のバイアス電圧の絶対値をVbLDとすると、両者の電気的極性は逆であり、p電極側での電圧差は|VbEA+VbLD|と、和の絶対値となり、接続導波路領域13の部分にかかる電位差がかなり大きくなってしまう。
【0018】
例えば一般的なレーザの順バイアス電圧は+1〜+3V程度、変調器の逆バイアス電圧は−1〜−4V程度であるので、最大7Vもの電圧が接続導波路領域13の導波路に加わることになる。加えて、接続導波路領域13は、エッチングにより薄くはされているものの伝導性を有するクラッド領域2で接続されているために、リーク電流が発生する。このリーク電流を抑制するためには、接続導波路領域13の導波路長を充分長くすることが必要となり、素子の長さが長尺化する。例えば、非特許文献1では接続導波路領域13の導波路長は50μmが設定されている。
【0019】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、作製工程が簡易で、電気的分離特性に優れた、高性能な電界吸収変調器集積レーザを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、このような目的を達成するために、以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0021】
(発明の構成1)
シリコン基板と、前記シリコン基板上にSiO2層が形成された、2層構造を有する基板と、
前記基板上に形成された電界吸収変調器領域であって、コア層の積層面に平行な方向かつ光導波方向に直交する方向のコア層の両側の前記基板上に、半導体極性の異なるクラッド層をそれぞれ配置した導波路構造を有する電界吸収変調器領域と、
前記基板上に形成されたレーザ領域であって、コア層の積層面に平行な方向かつ光導波方向に直交する方向のコア層の両側の基板上に、半導体極性の異なるクラッド層をそれぞれ配置し、前記電界吸収変調器領域のクラッド層の半導体極性とは逆に配置した導波路構造を有するレーザ領域と、
前記電界吸収変調器領域と前記レーザ領域とを接続する接続導波路領域であって、真性半導体による埋め込み導波路で形成され、前記真性半導体の両脇は前記基板のSiO2層で埋め込まれた構造を有する接続導波路領域とを備え、
前記電界吸収変調器領域と前記レーザ領域を光導波方向に見た一方の側の、半導体極性の異なる2つの前記クラッド層が共通電極により接続され、前記共通電極を接地し、前記電界吸収変調器領域に逆バイアス電源を接続し、前記レーザ領域に順バイアス電源を接続する
ことを特徴とする半導体光素子。
【0023】
(発明の構成
発明の構成に記載の半導体光素子であって、
前記接続導波路領域の前記真性半導体による埋め込み導波路が、前記接続導波路領域の
前記電界吸収変調器領域と前記レーザ領域に接する光導波方向の両側の光入出力部分から
前記接続導波路領域の中央部分に向かって埋め込み幅を狭くするように形成されている
ことを特徴とする半導体光素子。
【0024】
(発明の構成
発明の構成に記載の半導体光素子であって、
前記接続導波路領域の前記真性半導体による埋め込み導波路が
前記接続導波路領域の中央部分には前記真性半導体による埋め込みがないように形成されている
ことを特徴とする半導体光素子。
【0025】
(発明の構成
発明の構成1に記載の半導体光素子であって、
前記接続導波路領域の全体が真性半導体による埋め込みがない細線導波路で形成される
ことを特徴とする半導体光素子。
【0026】
(発明の構成
発明の構成1乃至のいずれか1項に記載の半導体光素子であって、
前記電界吸収変調器領域と前記レーザ領域のコア層が量子井戸構造である
ことを特徴とする半導体光素子。
【0028】
(発明の構成
発明の構成1乃至のいずれか1項に記載の半導体光素子であって、
前記基板が、半絶縁性(SI)InP基板である
ことを特徴とする半導体光素子。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、変調器領域とレーザ領域の間の電位差が抑制され、かつ電気的な分離が向上するために、リーク電流を抑制し、電圧耐性が向上する。また、接続導波路が真性半導体から構成されるために電気的抵抗が高く、かつ光損失が抑制されるために、接続導波路を短くできるため、素子の小型化を実現できる。
【0030】
また、変調器領域、レーザ領域のコア層の両側にn層、p層を設けて横方向に電圧を印加する構造であることから、変調器の上下方向には屈折率の低い領域で挟んだ薄膜構造を採用することが可能であり、高い光閉じ込めを実現できる。加えて、電極が面対向せず、素子容量が電極面積の影響を受けにくく、薄膜のp型クラッド層およびn型クラッド層の厚さにより素子容量が規定されるため、垂直方向電界型の変調器と比較して単位長あたりの容量を抑制できる。さらに、変調器領域の活性層に量子井戸構造を使用し、量子井戸への横方向(量子井戸層の積層面に平行な方向)電界印加を用いることにより、変調効率が増大する。
【0031】
以上のように、小型かつ電気的な分離特性に優れたEA−DFBレーザを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】従来のEA変調器の基板断面図1(a)と、QCSE効果による光吸収スペクトルの変化を示す図1(b)である。
図2】従来のEA−DFBレーザの導波路方向に垂直な基板断面の図である。図2(a)はレーザ領域における、図2(b)は変調器領域における基板断面図である。
図3】従来のEA−DFBレーザの、導波路方向に沿った基板断面図である。
図4】本発明の実施例1の半導体光素子の、全体構造を示す斜視図である。
図5】本発明の実施例1の半導体光素子の、導波路方向に垂直な基板断面の図である。図5(a)はレーザ領域における、図5(b)は接続導波路領域における、図5(c)は変調器領域における基板断面図である。
図6】本発明の実施例1の半導体光素子の、電源との接続を説明する上面図である。
図7】本発明の実施例1の変調器領域の、吸収係数の変化と消光特性の説明図である。
図8】本発明の実施例1の変形例1の半導体光素子の上面図8(a)と、接続導波路領域の2ヶ所における部分基板断面図8(b)、8(c)である。
図9】本発明の実施例1の変形例2の半導体光素子の、電源との接続を説明する上面図である。
図10】本発明の実施例2の半導体光素子の、全体構造を示す斜視図である。
図11】本発明の実施例2の半導体光素子の、導波路方向に垂直な基板断面の図である。図11(a)はレーザ領域における、図11(b)は接続導波路領域における、図11(c)は変調器領域における基板断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0034】
(実施例1)
図4は、本発明の実施例1の半導体光素子の全体構造を示す斜視図である。また、図5は、本発明の実施例1の半導体光素子の、導波路方向に垂直な基板断面の図である。図5(a)はレーザ領域9における、図5(b)は接続導波路領域13における、図5(c)は変調器領域8における基板断面図である。図6は、本発明の実施例1の半導体光素子の半導体領域の上面図であり、駆動電源との接続方法を説明するために電極もあわせて示した図である。
【0035】
図4図5で示したように、本発明の実施例1の半導体光素子では、基板はシリコン基板20の上にSiO2層21が形成された2層構造であり、この基板の上に基板面に平行な横方向の電流注入構造および電圧印加構造を有する埋め込みコア層が形成されている。
【0036】
EA変調器領域8、接続導波路領域13、およびレーザ領域9のコア層23、24は、ともに例えば6層InGaAsP量子井戸から形成される。変調器領域8と接続導波路領域13は、量子井戸のフォトルミネッセンス波長1.48μmの同一のコア層23を使用することができる。また、レーザ領域9のコア層24の量子井戸のフォトルミネッセンス波長は1.55μmである。コア幅は、いずれも0.7μmであり、コア層を含むスラブ層の厚さは350nmである。
【0037】
図5(a)、(c)に示すように、コア層(量子井戸層)23、24の両側の基板上には、コア層の積層面に平行な方向かつ光導波方向に直交する方向の両側から電圧を与えるために、異なるタイプ(型、半導体極性)のドーピングが施されたInPクラッド層25,26により埋め込まれている。このとき、レーザ領域9と変調器領域8においてInPクラッド層25,26の配置は、半導体のドーピング極性(p型/n型)が、光導波方向に見てコア層を挟んで基板の左右両側で逆になるように、入れ替えて配置されている。
【0038】
すなわち、図5(a)のレーザ領域9のコア層24の左側には、Znドーピング濃度1×1018cm-3のp型クラッド層26が、コア層24の右側には、Siドーピング濃度1×1018cm-3のn型クラッド層25が形成されている。
【0039】
一方、図5(c)の変調器領域8のコア層23の左側には、Siドーピング濃度1×1018cm-3のn型クラッド層25が、コア層23の右側には、Znドーピング濃度1×1018cm-3のp型クラッド層26が形成されている。
【0040】
なお、図5(b)の接続導波路領域13のコア層23の周囲は、クラッド層として真性半導体(i−InP)層22で埋め込まれ、その両脇は基板上層のSiO2層21に続くSiO2層で埋め込まれており、右側で共通電極50を支持している。
【0041】
図5(a)、(c)にあるように、レーザ領域9および変調器領域8のクラッド層25,26の上部には、それぞれInGaAsコンタクト層27、28が形成され、それぞれドーピング濃度1×1019cm-3のn型ドーピング、p型ドーピングが施されている。さらに、コンタクト層の領域の上にはn電極29またはp電極30および共通電極50が形成され、電極間の表面にはSiO2保護膜31または表面回折格子12が形成されている。見易さのため、図4の斜視図にはSiO2保護膜31は表示していない。
【0042】
図4の斜視図、図6の上面図に示すように、本発明の実施例1の半導体光素子は、変調器領域8とレーザ領域9、両領域間の接続導波路領域13から構成されている。レーザ領域9の活性層長は600μm、変調器領域8の活性層長は200μm、接続導波路領域13の長さは20μmである。
【0043】
図4の斜視図に示すように、レーザ領域9のコア層24の上部には厚さ10nmのSiN絶縁膜が形成され、SiNとSiO2からなるブラッグ波長1.55μmのλ/4シフト回折格子構造が表面回折格子12を形成している。
【0044】
図6に示すように、変調器領域8とレーザ領域9は、両領域間の接続導波路領域13のInP層をエッチングすることで分離される。また、変調器領域8およびレーザ領域9のn型クラッド層25、p型クラッド層26は、それぞれの領域の必要な部分のみに形成されている。
【0045】
また、図4図6に示すように、EA変調器領域8のp型クラッド層26側の電極、レーザ領域9のn型クラッド層25側の電極は、電気的に接続された一体の共通電極50として形成され、接地されている。
【0046】
この導波路構造を持つ素子を作製するにあたり、SiO2/Si基板(21/20)上へInP薄膜を形成するには、ウエハ接合等の技術を用いることができる。また、InP、InGaAsP等の結晶成長には有機金属気相成長法(MOVPE)を用いることができ、レーザ導波路構造および回折格子の作製にはウェットエッチングまたはドライエッチング等の一般的な半導体レーザの作製方法を用いることができる。
【0047】
活性層(コア層)23,24の左右の電流注入用のクラッド層25,26は、真性InPを埋め込み再成長し、その後にイオン注入または熱拡散等の手法で、不純物半導体を形成できる。この手法により再成長を繰り返すことなく、必要な領域のみにドーピング領域を形成できる。また、n型ドーピングのInPおよびp型ドーピングのInPを、それぞれ埋め込み再成長によって形成してもよい。また、表面回折格子12は、活性層の形成後に、レーザ表面への電子ビーム露光によるパタン形成とエッチングを行うことにより形成することができる。
【0048】
図7に、本素子の変調器領域8の消光特性を示す。図7(a)は、厚さ10nm、バンドギャップ波長1.45μmのInGaAsP量子井戸構造に対し、基板に平行な方向に種々の強度の電界を印加した場合の吸収係数スペクトルの変化である。電界強度の範囲は0kV/cmから100kV/cmとした。電界印加により励起子吸収が抑制されて吸収スペクトルが広がり、加えてバンド端吸収が2次元フランツ・ケルディッシュ効果により変化し、励起子吸収ピークに対して長波長側で吸収係数が増大する。
【0049】
図7(b)には、複数のレーザ発振波長における本素子の変調器領域8の消光特性を示す。レーザの発振波長が1.55μmに設定されているため、電圧振幅0.8V程度の1V以下の駆動電圧で、10dBの消光特性を実現することができる。
【0050】
図6の実施例1上面図には、本素子を駆動するための電源の接続構成も合わせて示している。変調器領域8のp側の電極、レーザ領域9のn側の電極は共に、一体の共通電極50として形成され接地されている。
【0051】
また、変調器領域8のn電極29には変調器バイアス電圧源(変調信号源)41を、レーザ領域9のp電極30にはレーザ駆動電流源42を接続して、変調器領域8には逆バイアス、レーザ領域9には順バイアスを与える。
【0052】
このとき本発明では、コア層23,24の両側のクラッド層の半導体極性(p型/n型)が、変調器領域8とレーザ領域9で逆の配置であるため、2つのバイアス電源の電圧極性は同じとなる。
【0053】
すなわち変調器側のバイアス電圧の絶対値をVbEA、レーザ領域のバイアス電圧の絶対値をVbLDとすると、変調器領域8のn電極29とレーザ領域9のp電極30間の電位差は、|VbEA−VbLD|と、差の絶対値となる。すなわち、電位差が電圧の絶対値の差分で表されるため、従来構造と比較して接続導波路に加わる電界を抑制することができる。
【0054】
また図6では、接続導波路領域13のコア層23は、真性半導体(i−InP)層22で埋め込まれているので、変調器とレーザの間がpin構造となる。このため、接続導波路領域が導電性の不純物半導体で接続されている図3の従来構造と比較すると、リーク電流の抑制効果が高い。
【0055】
特に変調器のバイアス電圧の絶対値がレーザのバイアス電圧よりも高い、すなわちVbEA>VbLDの場合、図6でコア層23,24より上の部分の変調器側のnクラッド25とレーザ側のpクラッド26間が逆バイアスとなり、電流リークをほぼ完全に抑制できる。
【0056】
また、VbEA<VbLDであっても、電位差が拡散電位内に収まっていればほとんど電流は流れない。電位差がそれ以上であっても、本実施例では接続導波路領域13が真性半導体22で構成されているために抵抗が高く、電流リークを抑制できる。
【0057】
加えて、全ての領域が埋め込み導波路で形成されているため、導波路間の高い光結合を実現できる。また、接続導波路領域13が真性半導体で構成されているために光損失が低いことも特徴である。
【0058】
このように本発明の構成によれば、レーザ領域と変調器領域の良好な電気的な分離を有するEA−DFBレーザを実現できる。
【0059】
(実施例1の変形例1)
図8に、実施例1の変形例1を示す。図4から6の実施例1では、接続導波路領域13を真性半導体22による埋め込み導波路で構成したが、より高抵抗化するために、接続導波路領域13の導波路幅を狭くすることも有効である。
【0060】
図8(a)は実施例1の変形例1の半導体部分の上面図、図8(b)、(c)は図8(a)のA−A’、B−B’における基板断面図の概要を示す図である。
【0061】
例えば、図8(a)、(b)に示す通り、接続導波路領域13の変調器領域8とレーザ領域9に接する光導波方向の両側の光入出力部分を、真性半導体(i−InP)22による埋め込み導波路構造(図8(b))として、接続導波路領域13の中央部分に向かってi−InP層22の埋め込み幅を狭くする、ないしは中央部分ではi−InP層22の埋め込みをなくし、コア層23のみとする(図8(c))ことにより、光結合を劣化させることなく、変調器領域8とレーザ領域9の間の分離抵抗を増大できる。
【0062】
この実施例1の変形例1の接続導波路領域13の中央部分では、図8(c)のB−B‘断面図のように、導波路コア層23の左右両側の埋め込みi−InP層22を完全に除いた細線導波路構造にしても構わない。また、光入出力部分を含めて全ての接続導波路領域13を、埋め込みi−InP層22のない細線導波路構造にすることもできる。この構成では、光結合効率はやや劣るが電気的分離の効果がより高い。
【0063】
この構成でも、接続導波路領域13のコア層23の周囲の、i−InP層22で埋め込まれた部分以外の両脇は、基板上層のSiO2層21と同じSiO2層で埋め込まれており、共通電極50を支持している。
【0064】
(実施例1の変形例2)
図9に実施例1の変形例2を示す。図6の実施例1では変調器領域8のp電極とレーザ領域9のn電極を共通化して一体の共通電極50として接地する構成を示したが、図9の実施例1の変形例2では、両領域の半導体極性(型、ドーピング)およびバイアス電圧の極性を図6の実施例1と逆にして、変調器領域8側のn電極とレーザ領域9側のp電極を共通化して一体の共通電極50として接地している。
【0065】
そして、変調器領域8側のp電極30に(負の)逆バイアスの電源(変調信号源)41、レーザ領域9側のn電極29に(負の)順バイアスの電源(レーザ駆動電流源)42を接続している。
【0066】
図9の実施例1の変形例2の場合も、変調器領域8のp電極30とレーザ領域9のn電極29の間の電位差は|VbEA−VbLD|となり、従来構造と比較して、接続導波路に加わる電界を抑制できる。
【0067】
(実施例2)
図10は、本発明の実施例2の半導体光素子の全体構造を示す斜視図である。図11は、実施例1の図5と同様に、本発明の実施例2の半導体光素子の光軸方向に見た導波路方向に垂直な、レーザ領域9の基板断面図11(a)、接続導波路領域13の基板断面図11(b)、および変調器領域8の基板断面図11(c)である。
【0068】
図10の本発明の実施例2では、図4の実施例1と異なり、基板は単層の半絶縁性(SI)InP基板40であり、この基板の上に基板面に平行な横方向の電流注入構造および電圧印加構造を有する埋め込みコア層が形成されている。
【0069】
EA変調器領域8、接続導波路領域13、およびレーザ領域9の各コア層23、24は、ともに例えば20層InGaAsP量子井戸から形成される。変調器領域8と接続導波路領域13は、量子井戸のフォトルミネッセンス波長1.48μmの同一のコア層23を使用することができる。また、レーザ領域9のコア層24の量子井戸のフォトルミネッセンス波長は1.55μmである。コア幅は、いずれも0.8μmであり、埋め込み層の厚さは400nmである。
【0070】
図11(a)、(c)に示すように、変調器領域8、およびレーザ領域9のコア層(量子井戸層)23,24の両側の基板上には、コア層の積層面に平行な方向かつ光導波方向に直交する方向の両側から電圧を与えるために、異なるタイプ(型、半導体極性)のドーピングが施されたInPクラッド層25,26より埋め込まれている。このとき、レーザ領域9と変調器領域8において、InPクラッド層25,26の配置は、半導体のドーピング極性(p型/n型)が、光導波方向に見てコア層を挟んで基板の左右で逆になるように、入れ替えて配置されている。
【0071】
すなわち、図11(a)のレーザ領域9のコア層24の左側には、Znドーピング濃度1×1018cm-3のp型クラッド層26が、コア層24の右側には、Siドーピング濃度1×1018cm-3のn型クラッド層25が形成されている。
【0072】
一方、図11(c)の変調器領域8のコア層23の左側には、Siドーピング濃度1×1018cm-3のn型クラッド層25が、コア層23の右側には、Znドーピング濃度1×1018cm-3のp型クラッド層26が形成されている。
【0073】
なお、図11(b)の接続導波路領域13のコア層23の周囲は、クラッド層として真性半導体(i−InP)22で埋め込まれ、その両脇は基板上層のSiO2層21に続くSiO2層で埋め込まれており、右側で共通電極50を支持している。
【0074】
実施例2においても、実施例1の変形例1(図8)と同様に、接続導波路領域13の埋め込み幅を狭くする、ないしは中央部分で埋め込みをなくしてもよい。さらには、光入出力部分を含めて、全ての光接続導波路領域13を埋め込みi−InP層22のない細線導波路構造にすることもできる。
【0075】
図11(a)(c)にあるように、レーザ領域9および変調器領域8のクラッド層25,26の上部には、それぞれInGaAsコンタクト層27,28が形成され、それぞれドーピング濃度1×1019cm-3のn型ドーピング、p型ドーピングが施されている。さらに、コンタクト層27,28の領域の上には電流注入用の電極29,30、および共通電極50が形成され、電極間の表面にはSiO2保護膜31または表面回折格子12が形成されている。見易さのため、図10の斜視図にはSiO2保護膜31は表示していない。
【0076】
図10の実施例2の半導体光素子は、実施例1の図4と同様に、変調器領域8とレーザ領域9、両領域間の接続導波路領域13から構成されている。レーザ領域9の活性層長は600μm、変調器領域8の活性層長は200μm、接続導波路領域13の長さは20μmである。
【0077】
図10の斜視図に示すように、レーザ領域9のコア層24の上部には厚さ100nmのSiN絶縁膜が形成され、SiNとSiO2からなるブラッグ波長1.55μmのλ/4シフト回折格子構造が表面回折格子12を形成している。
【0078】
また、接続導波路領域13は、図11(b)の断面図に示すように、コア層23が真性半導体(i−InP)22で埋め込まれている埋込み導波路により構成されている。
【0079】
図10、11に示すように、変調器領域8とレーザ領域9は、両領域間のInP領域をエッチングすることで分離される。また、変調器領域8およびレーザ領域9のn型クラッド層、p型クラッド層は、それぞれの領域の必要な部分のみに形成されている。
【0080】
また、図10図11に示すように、変調器領域8のp型クラッド層26側の電極、レーザ領域9のn型クラッド層25側の電極は、電気的に接続された一体の共通電極50として形成されている。
【0081】
本実施例2の構成も、実施例1と同様に一般的な半導体素子の作製方法により作製できる。
【0082】
本実施例2においても、実施例1の図6と同様に駆動電圧源(電流源)41,42を接続することにより、リーク電流を抑制し、電圧耐性の高いEA−DFBレーザを実現できる。特に本実施例2の構造は、InP基板上にレーザを構成しているために放熱の効果が高い。また、光のモードが低損失な半絶縁性InP領域に広がっているために損失が低く、レーザの光出力の増大に有利である。
【0083】
以上説明したように、本発明により、レーザ領域と変調器領域の電気的分離に優れたEA−DFBレーザを実現することができる。なお、本発明に係る半導体光素子の構造は各実施例の形態に留まらない。動作波長は1.55μmとしたが、1.3μm帯等、その他の波長に対しても設計変更の範囲で実現できる。例えば、InP基板上のInGaAsP系レーザの構成であれば、動作波長1μmから2μmの範囲で実現できる。
【0084】
また、レーザのコア層24はInGaAsP系としたが、InGaAlAs系など、他の化合物半導体材料も適用することができる。また、本実施例においてはレーザ領域と変調器領域、接続領域のコア層を量子井戸構造としたが、いずれかの領域、もしくは全ての領域をバルク構造にすることもできる。また、回折格子12はSiNとSiO2により構成したが、SiONやSiOx等、その他の絶縁膜で構成しても構わないし、InPの表面をエッチングすることで形成しても構わない。また、レーザのコア層24の上下に直接、回折格子を形成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように本発明によれば、簡易な作製方法により、電気的分離特性に優れたEA−DFBレーザを実現することが可能となり、光通信システム用の光送信器に広範に利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 量子井戸層(コア層、活性層)
2 p型クラッド層(p−InP)
3 n型クラッド層(n−InP)/基板
4 レーザコア層(量子井戸層、活性層)
5、6 n電極、p電極
7 p型コンタクト層
8 電界吸収(EA)変調器領域
9 レーザ領域
10 EA−DFBレーザ素子
11 回折格子
12 表面回折格子
13 接続導波路領域
15 半絶縁性InP埋込み層
20 シリコン基板
21 SiO2
22 真性半導体(i−InP)層
23、24 コア層(量子井戸層、活性層)
25、26 n型クラッド層、p型クラッド層
27、28 (n型/p型)コンタクト層
29、30 n電極、p電極
31 SiO2保護膜
40 半絶縁性(SI)InP単層基板
41 変調信号源(バイアス電圧源)
42 レーザ駆動電流源
50 共通電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11