特許第6939741号(P6939741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6939741
(24)【登録日】2021年9月6日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】希土類化合物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/00 20200101AFI20210909BHJP
   C01F 17/206 20200101ALI20210909BHJP
   C01F 17/218 20200101ALI20210909BHJP
【FI】
   C01F17/00
   C01F17/206
   C01F17/218
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-162406(P2018-162406)
(22)【出願日】2018年8月31日
(65)【公開番号】特開2020-33237(P2020-33237A)
(43)【公開日】2020年3月5日
【審査請求日】2020年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】綿谷 和浩
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−507630(JP,A)
【文献】 特開平09−255331(JP,A)
【文献】 特開2016−204168(JP,A)
【文献】 特開2011−116622(JP,A)
【文献】 特開2007−126349(JP,A)
【文献】 特開2003−206475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 17/00−17/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属イオンと尿素とを含む水溶液を加熱し、尿素の加水分解生成物と、希土類金属イオンとの反応により希土類化合物を生成させて、該希土類化合物の粒子を製造する方法であって、
上記希土類金属イオンを含む水溶液に、下記構造式
【化1】
(式中、mは1、nは1である。)
で表されるアセチレングリコール−エチレンオキシド付加物を添加して混合する工程と、アセチレングリコール−エチレンオキシド付加物を混合した上記水溶液に、更に、尿素を添加して混合し、加熱する工程
を含むことを特徴とする希土類化合物粒子の製造方法。
【請求項2】
更に、上記加熱工程において生成した希土類化合物の沈殿物を固液分離し、得られた固形分を、酸素を含む雰囲気中で焼成することにより希土類酸化物を得る工程を含むことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
上記希土類金属イオンが、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる1種類以上の希土類金属のイオンを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスの原料や添加剤として有用な希土類化合物粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類化合物は、産業上重要な素材である。なかでも、希土類化合物の微粒子はセラミックスや電子部品の主剤や添加剤として重要な役割を担っている。希土類化合物を、特に電子部品やセラミックスの添加剤として使用する場合は、一般的に、主材成分に対して分散性が高いことが要求されている。そのため、近年、希土類化合物の微粒子の開発が進んでおり、例えば、特許文献1:特開2000−44234号公報には、比表面積が比較的高い希土類酸化物の製造方法が記載されている。しかし、近年では、電子部品やセラミックスの添加剤に関して、より一層の特性向上や焼結温度の低下を目的として、より粒径の小さい希土類化合物に対する要求が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−44234号公報
【特許文献2】特開2000−239019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
尿素を含む水溶液を加熱することで、尿素が加水分解されて発生する炭酸イオンやアンモニウムイオンによって、金属イオンを沈殿させる方法は、尿素法と呼ばれ、金属化合物を得る方法として知られている。尿素法は、均一沈殿法と呼ばれる沈殿方法の1種であり、比較的粒径の揃った小さい粒子を得ることができる。希土類金属イオンの場合も、希土類金属塩の水溶液に尿素を加えて加熱することで、希土類金属の炭酸塩、塩基性炭酸塩、水酸化物などの希土類化合物の沈殿を生成させることができる(例えば、特許文献2:特開2000−239019号公報)。
【0005】
近年では、希土類酸化物などの希土類化合物の粒子において、より小さい粒子が求められており、また、そのような微細な希土類化合物粒子を容易に製造する方法が求められている。尿素法による希土類化合物の生成も、均一沈殿法という性質上、比較的粒径の揃った、サブミクロンサイズの粒子を得ることは容易である。しかし、一般的に、尿素法により希土類化合物粒子を得る方法で、サブミクロンサイズ程度の粒子を得ることは容易であるが、更に小さなナノサイズの粒子を得ることは容易ではない。また、粒子の粒度分布についても、よりシャープな粒度分布が求められている。これは、セラミックスや電子材料などに使用する際に、同じ平均粒径をもっていても、大きな粒子が混ざっていると、その部分で異常粒成長や、特性不良が起こりやすくなるためである。そのため、電子部品やセラミックス材料に求められる特性として、平均粒径が小さいことと同時に、粒度分布における分散指数が低いことも求められている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、分散性が高く、かつ粒径が小さく、更に、分散指数が低い希土類化合物の粒子を、簡便、かつ容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、尿素の加水分解生成物と、希土類金属イオンとの反応により希土類化合物を沈殿物として生成させて、希土類化合物の粒子を製造する際、希土類金属イオンと尿素とを含む水溶液に、アセチレングリコール−エチレンオキシド付加物を添加し、アセチレングリコール−エチレンオキシド付加物の存在下で水溶液を加熱すること、具体的には、希土類金属イオンを含む水溶液に、特定の構造を有するアセチレングリコール−エチレンオキシド付加物を添加して混合し、アセチレングリコール−エチレンオキシド付加物を混合した水溶液に、更に、尿素を添加して混合し、加熱することにより希土類化合物の粒子が得られ、更に、得られた沈殿物を固液分離し、得られた固形分を、酸素を含む雰囲気中で焼成することにより希土類酸化物が得られることを見出し、これらの粒子は、分散媒に分散させたときの分散性が高く、スラリー中で、粒径が小さく(例えば、中央粒径(メジアン径)が50nm以下であり)、また、粒度分布における分散指数が低い(粒度分布がシャープな)希土類化合物や希土類酸化物の微粒子となること、希土類化合物又は希土類酸化物の粒子を製造するためのこの方法が、このような粒子の製造方法として、極めて、簡便、かつ容易であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記の希土類化合物粒子の製造方法を提供する。
1.希土類金属イオンと尿素とを含む水溶液を加熱し、尿素の加水分解生成物と、希土類金属イオンとの反応により希土類化合物を生成させて、該希土類化合物の粒子を製造する方法であって、
上記希土類金属イオンを含む水溶液に、下記構造式
【化1】
(式中、mは1、nは1である。)
で表されるアセチレングリコール−エチレンオキシド付加物を添加して混合する工程と、アセチレングリコール−エチレンオキシド付加物を混合した上記水溶液に、更に、尿素を添加して混合し、加熱する工程
を含むことを特徴とする希土類化合物粒子の製造方法。
2.更に、上記加熱工程において生成した希土類化合物の沈殿物を固液分離し、得られた固形分を、酸素を含む雰囲気中で焼成することにより希土類酸化物を得る工程を含むことを特徴とする1記載の製造方法。
3.上記希土類金属イオンが、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる1種類以上の希土類金属のイオンを含むことを特徴とする1又は2記載の製造方法。
また、本発明は、下記の希土類酸化物粒子及び希土類酸化物粒子含有スラリーが関連する。
[1]分散媒に分散させたときの粒子の体積基準の中央粒径D50が50nm以下であることを特徴とする希土類酸化物粒子。
[2]更に、溶媒に分散させたときの粒子の下記式(1)
(D90−D10)/D50 (1)
(式中、D10、D50及びD90は、各々、粒径分布における体積基準の累積10%径、50%径及び90%径である。)
により算出される分散指数Sが1以下であることを特徴とする[1]記載の希土類酸化物粒子。
[3]分散媒と希土類酸化物粒子とを含むスラリーであって、希土類酸化物粒子の体積基準の中央粒径D50が50nm以下であることを特徴とする希土類酸化物粒子含有スラリー。
[4]上記希土類酸化物粒子の下記式(1)
(D90−D10)/D50 (1)
(式中、D10、D50及びD90は、各々、粒径分布における体積基準の累積10%径、50%径及び90%径である。)
により算出される分散指数Sが1以下であることを特徴とする[3]記載の希土類酸化物粒子含有スラリー。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、分散媒に分散させたときの分散性が高く、スラリー中で、粒径が小さく、また、粒度分布における分散指数が低い希土類化合物や希土類酸化物の微粒子を、簡便、かつ容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1で得た酸化イットリウム粒子の粒度分布を示す図である。
図2】実施例2で得た酸化ホルミウム粒子の粒度分布を示す図である。
図3】比較例1で得た酸化イットリウム粒子の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明においては、希土類金属イオンと尿素とを含む水溶液を加熱し、尿素の加水分解生成物と、希土類金属イオンとの反応により希土類化合物を生成させて、希土類化合物の粒子を製造する。この場合、水溶性の希土類金属塩の水溶液とすることにより希土類金属イオンを含む水溶液を調製することができる。水溶液中の希土類金属イオンの濃度は、0.01モル/L以上、特に0.02モル/L以上で、0.1モル/L以下、特に0.05モル/L以下が好ましい。希土類金属イオンとしては、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる1種類以上の希土類金属のイオンを含むことが好適であり、水溶性の希土類金属塩は、これらの希土類金属イオンの水溶液を与えるもの、例えば、硝酸塩、塩化物などが用いられる。
【0012】
また、希土類金属イオンの一部を、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる1種類以上の希土類金属のイオンを、これら9種の希土類金属以外の希土類金属のイオン、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Euから選ばれる1種類以上の希土類金属のイオンに置換して、両者を併用してもよい。その場合、水溶液中の、全ての希土類金属のイオンの合計の濃度を、0.01モル/L以上、特に0.02モル/L以上で、0.1モル/L以下、特に0.05モル/L以下とすることが好ましく、水溶性の希土類金属塩、例えば、硝酸塩、塩化物などを併用すればよい。
【0013】
また、希土類金属イオンを含む水溶液には、アセチレングリコール−エチレンオキシド付加物が添加される。アセチレングリコール−エチレンオキシド付加物は、下記構造式
【化2】
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数であり、かつm及びnの少なくとも一方は1以上である。)で表される構造を有するものが好適である。アセチレングリコール−エチレンオキシド付加物としては、市販品を用いることができる。
【0014】
アセチレングリコール−エチレンオキシド付加物の添加量は、希土類金属イオンを含む水溶液1L当たり、0.01g以上、特に0.5g以上であることが好ましい。アセチレングリコール−エチレンオキシド付加物の添加量が多いほど、粒径がより小さい粒子を得ることができるが、希土類化合物の回収時の固液分離において、析出物の回収に時間がかかったり、歩留りが下がったりする場合があるため、現実的な上限は、通常、5g以下、特に3g以下である。
【0015】
希土類金属イオンを含む水溶液には、尿素も含まれる。尿素の量は希土類金属イオンの量に対して、モル比で5倍以上、特に10倍以上で、30倍以下、特に20倍以下が好ましい。尿素の量が上記範囲未満の場合、希土類化合物の生成に時間がかかりすぎる場合があり、希土類化合物の回収量(歩留り)が低下するおそれがある。また。尿素の量が上記範囲を超える場合は、経済性の点で不利となるおそれがある。
【0016】
希土類金属イオンを含む水溶液には、更に、アセチレングリコール−エチレンオキシド付加物及び尿素以外の化合物、例えば、過酸化水素、ポリカルボン酸などを添加してもよい。
【0017】
混合水溶液を調製する際の各成分の混合順は、特に制限されるものではないが、まず、希土類金属イオン(希土類金属塩)と、アセチレングリコール−エチレンオキシド付加物とを混合した後に、尿素を添加して混合すると、より微細、かつ均一な粒子を得る点において有利である。
【0018】
本発明の希土類化合物の製造方法においては、これらの成分を含む混合水溶液を加熱することにより、尿素を加水分解し、加水分解により生成した炭酸イオン、アンモニウムイオンなどの加水分解生成物を、希土類金属イオンと反応させて、希土類化合物の沈殿を生成させる。加熱温度は70℃以上、特に90℃以上が好ましく、混合水溶液の沸点以下、特に沸点未満とすることが好ましく、例えば、100℃以下とすることがより好ましい。加熱時間は、尿素の添加量が多いほど、また、加熱温度が高いほど、短くしてよいが、通常30〜200分間である。
【0019】
生成した沈殿は、沈降性の低いスラリー状になっているが、濾別、デカンテーション、遠心分離等の沈降分離などの方法で固液分離することができる。得られる沈殿は非常に小さい粒子であるため、通常の濾過では、粒子がフィルターを通過してしまうおそれが高いため、遠心沈降法で固液分離することが好ましい。固形分に含まれる未反応の尿素や、残留アニオンなどを除去する場合には、固液分離後に得られた固形分を、純水などで水洗するとよい。固形分は、更に、必要に応じて、大気中などの酸素を含む雰囲気下や、不活性ガス雰囲気下で、乾燥することができる。このようにして得られた希土類化合物の粒子は、希土類金属の種類により、炭酸塩、塩基性炭酸塩、水酸化物などからなっている。
【0020】
沈殿として得られた希土類化合物粒子は、そのまま使用することができるが、更に、焼成して、希土類酸化物とすることもできる。固液分離後、固形分として回収された希土類化合物粒子は、そのままの状態で焼成すると、多くの場合、凝集、焼結により、塊状になってしまうため、焼成後に得られる希土類酸化物を分散性の良好な微粒子として回収するためには、固液分離後、乾燥してから焼成することが好ましい。この乾燥の温度は、150℃以下、特に80℃以下、とりわけ60℃以下が好ましい。希土類金属の種類によっては、乾燥温度が高すぎると、希土類化合物の再結晶が起こり、微粒子としての性質を損なうおそれがある。乾燥時間は、1日(24時間)以上であることが好ましく、特に限定されるものではないが、通常、7日(168時間)以下が好ましい。また、乾燥雰囲気は、特に限定されるものではなく、大気中などの酸素を含む雰囲気でも、不活性ガス雰囲気でもよい。
【0021】
乾燥した希土類化合物は、解砕機などを用いて解砕することが好ましい。乾燥された希土類化合物は、粒子同士が水素結合などのごく弱い力で結合していると考えられるため、比較的弱い力で解す程度で、粒子が容易に分離する。解砕機は、ジェットミル、ロールミル、ハンマーミル、ビーズミル、ボールミルなどを用いることができ、解砕により得たい粒子の状態に応じて、適宜選択すればよい。
【0022】
希土類酸化物を得るための焼成は、大気、酸素ガスなどの酸素を含む雰囲気下で、500℃以上、特に550℃以上、とりわけ600℃以上で、1,000℃以下、特に900℃以下の温度で実施することが好ましい。焼成時間は、好ましくは5分以上であり、通常6時間以下である。
【0023】
本発明の製造方法により、体積基準の中央粒径(メジアン径)D50が50nm以下、特に20nm以下、とりわけ10nm以下の希土類化合物粒子又は希土類酸化物粒子を得ることができる。ここで、中央粒径D50は粒径分布における累積50%径である。粒度分布及び中央粒径の測定は、動的光散乱方式による測定(動的光散乱式粒度分布測定装置による測定)が好適である。この方法は、特に1〜1,000nm程度の粒径の測定に適している。
【0024】
また、一般的に微粒子は、粒子サイズが小さくなるほど、表面エネルギーが大きくなるため、凝集粒子を生じやすい。正しい前処理をせずに粒度分布を測定した場合、往々にして凝集粒子を測定することになり、実際の粒径よりも大きい測定値が得られてしまう。サブミクロン以下の大きさの粒子の粒径の正しい評価には、測定方式のみならず、試料の前処理の方法も重要である。本発明の希土類化合物粒子又は希土類酸化物粒子の前処理としては、エタノールを溶媒とし、少量の分散剤(例えば、ジグリセリンラウレートなど)を添加した試料を、ビーズミルにて分散することが有効であり、これにより、凝集の無い状態を作り出すことができ、動的光散乱方式による測定と組み合わせることで、微粒子の正確な粒径評価が可能となるため好ましい。
【0025】
本発明の製造方法により、分散媒に分散させたときの粒子の中央粒径D50が50nm以下、特に20nm以下、とりわけ10nm以下である希土類酸化物粒子を得ることができ、このような希土類酸化物粒子と分散媒とを含むスラリーを得ることができる。
【0026】
また、本発明の製造方法により、分散媒に分散させたときの粒子の下記式(1)
(D90−D10)/D50 (1)
(式中、D10、D50及びD90は、各々、粒径分布における体積基準の累積10%径、50%径及び90%径である。)
により算出される分散指数Sが1以下である希土類酸化物粒子を得ることができ、このような希土類酸化物粒子と分散媒とを含むスラリーを得ることができる。D10、D50及びD90の測定は、動的光散乱方式による測定(動的光散乱式粒度分布測定装置による測定)が好適である。
【0027】
分散媒としては、水、アルコールなどの有機溶媒用いることができ、有機溶媒は水溶性のものが好ましく、特にエタノールが好ましい。希土類酸化物粒子の分散は、分散媒と混合して攪拌する以外にも、公知の分散手法、例えば、ビーズミルにて分散することが有効である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0029】
[実施例1]
1000L容器に、純水800Lを加え、更に、硝酸イットリウム水溶液を、イットリウムイオンの濃度が0.05モル/Lになるように加えて、約950Lの水溶液を得た。次いで、下記構造式
【化3】
(式中、mは1、nは1である。)
で表されるアセチレングリコール−エチレンオキシド付加物を1,000g加えて混合して水溶液を得た。更に、この水溶液に、イットリウムイオンに対して、モル比で15倍の量の尿素を加えて混合した水溶液を得、加水分解反応を進行させるために、95℃に加熱して90分間保持し、その後、室温まで冷却した。その結果、尿素の加水分解と、加水分解生成物とイットリウムイオンとの反応により、主成分として、イットリウムの塩基性炭酸塩を含む希土類化合物(イットリウム化合物)の沈殿物が生成した。加熱中は、攪拌翼により、水溶液をゆっくり攪拌し、容器内で水溶液の温度分布が均一になるようにした。
【0030】
次に、反応後の液から、遠心分離機を用いて沈殿物を固液分離した。更に、未分解の尿素や残留する硝酸イオンなどを除去するために、回収した固形分を水洗した。次に、得られた希土類化合物粒子を55℃で5日間乾燥後、乾燥物をジェットミルにて解砕した。次に、解砕した希土類化合物粒子を600℃で4時間焼成して、酸化イットリウム粒子を得た。
【0031】
得られた酸化イットリウム粒子10gを200gのエタノール及び5gのジグリセリンラウレートと混合後、ビーズミルにて2時間分散した。分散した酸化イットリウム粒子の粒度分布を測定した。粒度分布の測定には、動的光散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル社製、Nanotrac WaveII)を用いた(以下の粒度分布測定において同じ。)。結果を図1及び表1に示す。得られた酸化イットリウム粒子は、中央粒径D50が5.3nm、D90が7.8nm、D10が4.2nm、上述した式(1)により算出された分散指数Sが約0.679であり、小粒径で非常にシャープな粒度分布を示すものであった。
【0032】
【表1】
【0033】
[実施例2]
1000L容器に、純水800Lを加え、更に、硝酸ホルミウム水溶液を、ホルミウムイオンの濃度が0.05モル/Lになるように加えて、約950Lの水溶液を得た。次いで、実施例1で用いたアセチレングリコール−エチレンオキシド付加物を3,000g加えて混合して水溶液を得た。更に、この水溶液に、ホルミウムイオンに対して、モル比で15倍の量の尿素を加えて混合した水溶液を得、加水分解反応を進行させるために、95℃に加熱して4時間保持し、その後、室温まで冷却した。その結果、尿素の加水分解と、加水分解生成物とホルミウムイオンとの反応により、主成分として、ホルミウムの塩基性炭酸塩を含む希土類化合物(ホルミウム化合物)の沈殿物が生成した。加熱中は、攪拌翼により、水溶液をゆっくり攪拌し、容器内で水溶液の温度分布が均一になるようにした。
【0034】
次に、反応後の液から、遠心分離機を用いて沈殿物を固液分離した。更に、未分解の尿素や残留する硝酸イオンなどを除去するために、回収した固形分を水洗した。次に、得られた希土類化合物粒子を55℃で5日間乾燥後、乾燥物をジェットミルにて解砕した。次に、解砕した希土類化合物粒子を600℃で4時間焼成して、酸化ホルミウム粒子を得た。
【0035】
得られた酸化ホルミウム粒子10gを200gのエタノール及び5gのジグリセリンラウレートと混合後、ビーズミルにて2時間分散した。分散した酸化ホルミウム粒子の粒度分布を測定した。結果を図2及び表2に示す。得られた酸化ホルミウム粒子は、中央粒径D50が4.1nm、D90が6.3nm、D10が3.3nm、上述した式(1)により算出された分散指数Sが約0.732であり、小粒径で非常にシャープな粒度分布を示すものであった。
【0036】
【表2】
【0037】
[比較例1]
1000L容器に、純水800Lを加え、更に、硝酸イットリウム水溶液を、イットリウムイオンの濃度が0.05モル/Lになるように加えて、約950Lの水溶液を得た。次いで、36%過酸化水素水溶液を100g加えて混合して水溶液を得た。更に、この水溶液に、イットリウムイオンに対して、モル比で15倍の量の尿素を加えて混合した水溶液を得、加水分解反応を進行させるために、95℃に加熱して4時間保持し、その後、室温まで冷却した。その結果、尿素の加水分解と、加水分解生成物とイットリウムイオンとの反応により、主成分として、イットリウムの塩基性炭酸塩を含む希土類化合物(イットリウム化合物)の沈殿物が生成した。加熱中は、攪拌翼により、水溶液をゆっくり攪拌し、容器内で水溶液の温度分布が均一になるようにした。
【0038】
次に、反応後の液から、遠心分離機を用いて沈殿物を固液分離した。更に、未分解の尿素や残留する硝酸イオンなどを除去するために、回収した固形分を水洗した。次に、得られた希土類化合物粒子を55℃で5日間乾燥後、乾燥物をジェットミルにて解砕した。次に、解砕した希土類化合物粒子を600℃で4時間焼成して、酸化イットリウム粒子を得た。
【0039】
得られた酸化イットリウム粒子10gを200gのエタノール及び5gのジグリセリンラウレートと混合後、ビーズミルにて2時間分散した。分散した酸化イットリウム粒子の粒度分布を測定した。結果を図3及び表3に示す。得られた酸化イットリウム粒子は、中央粒径D50が102.5nm、D90が189nm、D10が55.8nm、上述した式(1)により算出された分散指数Sが約1.30であり、実施例1と比較して大きな粒子であり、ブロードな粒度分布を示すものであった。
【0040】
【表3】
図1
図2
図3