特許第6940104号(P6940104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6940104加熱処理グルテン及びこれを用いた醸造産物並びにこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6940104
(24)【登録日】2021年9月6日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】加熱処理グルテン及びこれを用いた醸造産物並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 1/12 20060101AFI20210909BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20210909BHJP
   A23L 27/24 20160101ALI20210909BHJP
   A23L 7/104 20160101ALI20210909BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20210909BHJP
   A23L 27/21 20160101ALI20210909BHJP
   A23L 27/50 20160101ALI20210909BHJP
   A23L 11/70 20210101ALI20210909BHJP
   C12G 3/08 20060101ALI20210909BHJP
   C12J 1/00 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   A23J1/12
   C12N1/14 A
   A23L27/24
   A23L7/104
   A23L27/00 D
   A23L27/21 B
   A23L27/50 101A
   A23L11/70
   C12G3/08 102
   C12J1/00 Z
【請求項の数】15
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2020-77085(P2020-77085)
(22)【出願日】2020年4月24日
【審査請求日】2021年3月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(73)【特許権者】
【識別番号】317006214
【氏名又は名称】株式会社Mizkan
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】上林 和幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】夏目 岬
(72)【発明者】
【氏名】田中 友理
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−116917(JP,A)
【文献】 特表2002−505091(JP,A)
【文献】 特開2002−345421(JP,A)
【文献】 特開昭61−177979(JP,A)
【文献】 特開2005−013146(JP,A)
【文献】 特開昭50−095494(JP,A)
【文献】 特開昭52−130996(JP,A)
【文献】 特開2006−197896(JP,A)
【文献】 特開2007−228946(JP,A)
【文献】 岩切健二ほか,米及び甘藷等の連続α化条件の確立とその高度利用に関する研究,宮崎県工業試験場・宮崎県食品加工研究開発センター, 1992, vol.37, p.139-145
【文献】 山澤正勝ほか,市販活性グルテンの品質特性と米粉食パンへの利用,名古屋文理大学紀要, 2020年3月, 第20号, p.77-87
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J
A23L
C12G
C12J
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/CAplus/AGRICOLA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾熱処理グルテンを少なくとも含む原料を製麹してなる麹であって、前記乾熱処理グルテンが、小麦由来精製グルテンの乾熱処理物であると共に、以下(1)、(2)及び(3)を充足する、麹。
(1)白度が40以上85未満である。
(2)未処理グルテンのグルテンバイタリティを100とした場合に、加熱処理グルテンのグルテンバイタリティが3以上85未満である。
(3)L色空間表色系において、
値が45以上90以下、
値が1以上20以下、及び、
値が10以上45以下である。
【請求項2】
麹に使用される原料総量に対する前記熱処理グルテンの乾燥質量割合が、7.5質量%以上80質量%以下である、請求項に記載の麹。
【請求項3】
固体状である、請求項又はに記載の麹。
【請求項4】
請求項の何れか一項に記載の麹を原料として使用した醸造産物を含む発酵調味料。
【請求項5】
発酵調味料に使用される原料総量に対する前記麹の乾燥質量割合が、10質量%以上100質量%以下である、請求項に記載の発酵調味料。
【請求項6】
請求項又はに記載の発酵調味料に化学的、物理的、及び/又は生物的処理を施してなる発酵調味料処理物。
【請求項7】
求項の何れか一項に記載の麹、請求項又はに記載の発酵調味料、及び/又は、請求項に記載の発酵調味料処理物を原料として含む飲食品。
【請求項8】
飲食品の総量に対する前記の熱処理グルテン、麹、発酵調味料及び/又は発酵調味料処理物の配合割合が、湿潤基準質量で0.03質量%以上である、請求項に記載の飲食品。
【請求項9】
液状であって、食酢飲料、調味酢、ポン酢、つゆ、たれ、及びドレッシングから選ばれる1種以上である、請求項又はに記載の飲食品。
【請求項10】
請求項1〜の何れか一項に記載の麹の製造に使用される乾熱処理グルテンを製造する方法であって、小麦由来精製物であるグルテンを、前記(1)、(2)及び(3)を充足するようにグルテンを熱処理することを含む製造方法。
【請求項11】
請求項の何れか一項に記載の麹を製造する方法であって、請求項10に記載の製造方法により得られた乾熱処理グルテンを少なくとも含む原料を製麹することを含む製造方法。
【請求項12】
請求項又はに記載の発酵調味料を製造する方法であって、求項の何れか一項に記載の麹を少なくとも含む原料を発酵させることを含む製造方法。
【請求項13】
請求項に記載の発酵調味料処理物を製造する方法であって、請求項又はに記載の発酵調味料を少なくとも含む原料に、化学的、物理的、及び/又は生物的処理を施すことを含む製造方法。
【請求項14】
請求項の何れか一項に記載の飲食品を製造する方法であって、求項の何れか一項に記載の麹、請求項又はに記載の発酵調味料、及び/又は、請求項に記載の発酵調味料処理物を、原料の少なくとも一部として配合することを含む製造方法。
【請求項15】
飲食品の風味・嗜好性を改善する方法であって、求項の何れか一項に記載の麹、請求項又はに記載の発酵調味料、及び/又は、請求項に記載の発酵調味料処理物を、前記の飲食品に混合することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱処理グルテン及びこれを原料に用いた麹、発酵調味料等の醸造産物、並びにこれらの加熱処理グルテン及び醸造産物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵調味料等の醸造産物の製造において、グルテンやグルテンを多く含む小麦粉の強力粉等は、酸やアルカリ、酵素や麹菌等の分解作用を受けるとグルタミン酸を多量に生成するため、旨味の強化に使用されることがある。
【0003】
食酢の製造において、特許文献1ではその旨味源であるグルタミン酸の、特許文献2では機能性成分であるGABA(γ−アミノ酪酸)の富化のために、グルテンや小麦粉(強力粉)を麹や諸味の原料に使用し、グルタミン酸を富化する技術が開示されている。しかしながら、これらの技術では、グルテン含有量の高い小麦粉等や精製グルテンを醸造産物の原料とする場合、グルテンやその分解物由来の特異臭(粉臭やアミノ酸液臭)が最終産物にまで強く残ってしまったりすることが課題となっていた。
【0004】
また、食酢以外の発酵調味料の製造工程において、特許文献3には、pH7.5以上のアルカリ水を吸水させたコーングルテンミールに加熱変性処理を施し製麹する技術が、特許文献4では、製麹時にリンやカリウム等のミネラルや脂肪酸塩を添加する技術が開示されている。しかしながら、これらの技術でも、アルカリ処理時の特有の不快臭の発生に伴う最終産物における異臭の生成や、添加物の使用に伴う異味の生成という課題があった。
【0005】
また、特許文献5には、グルテン40〜90%からなる原料を用いて製麹し、常法により醸造することによりしょうゆ様の淡色調味液を得る方法が開示されている。また、特許文献6には、乾物換算質量でグルテン25〜100%を配合した混合原料を用いて製麹し、これを用いた濃厚調味液の製造法が開示されている。しかしながら、これらの技術でも、グルテンやその分解物由来の特異臭(粉臭やアミノ酸液臭)が最終産物にまで残ってしまうという課題は、解決されていなかった。
【0006】
すなわち、上記のように、グルテンを用いて醸造産物である発酵調味料の旨味力価を高めるための技術検討には様々な例が認められるが、これらに伴う異味異臭の発生により、発酵調味料そのものの特徴的な風味や被添加飲食品の風味がマスキングされたり、損なわれてしまったりするという課題があった。さらには、発酵調味料の旨味力価が高すぎたり、風味を濃厚にしすぎたが故に、調味料特有の好ましい風味が損なわれたり、当該調味料を使用した飲食品(調味料等)や被添加飲食品(料理等)が有する好ましい風味を損なってしまったりするという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−177979号公報
【特許文献2】特開2005−013146号公報
【特許文献3】特開昭50−095494号公報
【特許文献4】特開昭52−130996号公報
【特許文献5】特開2006−197896号公報
【特許文献6】特開2007−228946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上から、本発明の課題は、グルテンを原料として用いることにより、旨味力価を強化し、或いは濃厚な風味を付与した発酵調味料やこれを使用した飲食品(調味料等)や被添加飲食品(料理等)において、斯かる発酵調味料や飲食品・被添加飲食品が有する特有の好ましい風味がグルテンによって損なわれるのを防止しつつ、その風味の特徴が嗜好的に好ましく発現されるよう修飾し、その嗜好性を向上させる手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の事情に鑑みて鋭意研究した結果、従来の技術にない、白度及びグルテンバイタリティを一定範囲内に調整した加熱処理グルテンが、優れた呈味修飾機能を有することを見出し、上記課題を簡易に解決できることを新規に知見した。そして、斯かる知見に基づいてさらに鋭意研究を進めることにより、下記の発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、例えば次の[1]〜[20]を提供するものである。
[1]醸造産物の原料として用いられる加熱処理グルテンであって、以下(1)及び(2)を充足する加熱処理グルテン。
(1)白度が40以上85未満である。
(2)未処理グルテンのグルテンバイタリティを100とした場合に、加熱処理グルテンのグルテンバイタリティが3以上85未満である。
[2]更に以下(3)を充足する、項[1]に記載の加熱処理グルテン。
(3)L色空間表色系において、
値が45以上90以下、
値が1以上20以下、及び、
値が10以上45以下である。
[3]加熱処理が乾熱処理である、項[1]又は[2]に記載の加熱処理グルテン。
[4]グルテンが小麦由来精製物である、項[1]〜[3]の何れか一項に記載の加熱処理グルテン。
[5]項[1]〜[4]の何れか一項に記載の加熱処理グルテンを原料として用いた麹。
[6]麹に使用される原料総量に対する前記加熱処理グルテンの乾燥質量割合が、7.5質量%以上80質量%以下である、項[5]に記載の麹。
[7]固体状である、項[5]又は[6]の何れか一項に記載の麹。
[8]項[5]〜[7]の何れか一項に記載の麹を原料として用いた発酵調味料。
[9]発酵調味料に使用される原料総量に対する前記麹の乾燥質量割合が、10質量%以上100質量%以下である、項[8]に記載の発酵調味料。
[10]項[8]又は[9]に記載の発酵調味料に化学的、物理的、及び/又は生物的処理を施してなる発酵調味料処理物。
[11]項[1]〜[4]の何れか一項に記載の加熱処理グルテン、項[5]〜[7]の何れか一項に記載の麹、項[8]又は[9]に記載の発酵調味料、及び/又は、項[10]に記載の発酵調味料処理物を原料として含む飲食品。
[12]飲食品の総量に対する前記の加熱処理グルテン、麹、発酵調味料及び/又は発酵調味料処理物の配合割合が、湿潤基準質量で0.03質量%以上である、項[11]に記載の飲食品。
[13]液状であって、食酢飲料、調味酢、ポン酢、つゆ、たれ、及びドレッシングから選ばれる1種以上である、項[11]又は[12]に記載の飲食品。
[14]項[1]〜[4]の何れか一項に記載の加熱処理グルテンを製造する方法であって、前記(1)及び(2)を充足するようにグルテンを加熱処理することを含む製造方法。
[15]加熱処理が乾熱処理である、項[14]に記載の製造方法。
[16]項[5]〜[7]の何れか一項に記載の麹を製造する方法であって、項[1]〜[4]の何れか一項に記載の加熱処理グルテンを少なくとも含む原料を製麹することを含む製造方法。
[17]項[8]又は[9]に記載の発酵調味料を製造する方法であって、項[1]〜[4]の何れか一項に記載の加熱処理グルテン及び/又は項[5]〜[7]の何れか一項に記載の麹を少なくとも含む原料を発酵させることを含む製造方法。
[18]項[10]に記載の発酵調味料処理物を製造する方法であって、項[8]又は[9]に記載の発酵調味料を少なくとも含む原料に、化学的、物理的、及び/又は生物的処理を施すことを含む製造方法。
[19]項[11]〜[13]の何れか一項に記載の飲食品を製造する方法であって、項[1]〜[4]の何れか一項に記載の加熱処理グルテン、項[5]〜[7]の何れか一項に記載の麹、項[8]又は[9]に記載の発酵調味料、及び/又は、項[10]に記載の発酵調味料処理物を、原料の少なくとも一部として配合することを含む製造方法。
[20]飲食品の風味・嗜好性を改善する方法であって、項[1]〜[4]の何れか一項に記載の加熱処理グルテン、項[5]〜[7]の何れか一項に記載の麹、項[8]又は[9]に記載の発酵調味料、及び/又は、項[10]に記載の発酵調味料処理物を、前記の飲食品に混合することを含む方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、グルテンを原料として用いることにより、旨味力価を強化し、或いは濃厚な風味を付与した発酵調味料やこれを使用した飲食品(調味料等)や被添加飲食品(料理等)において、斯かる発酵調味料や飲食品・被添加飲食品が有する特有の好ましい風味がグルテンによって損なわれるのを防止しつつ、その風味の特徴が嗜好的に好ましく発現されるよう修飾し、その嗜好性を向上させる手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施態様を記載するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない限りにおいて、任意の改変を加えて実施することが可能である。
【0013】
[醸造産物]
本発明における「醸造産物」とは、その原料中の、非資化・非消化性成分や難資化・難消化性成分を除くほぼ全ての構成成分が、各種発酵微生物やこれらが産生する各種酵素類や添加された酵素剤類等によって資化・消化作用を受け、原料が元の態様を留めず、大きく変化した物、及びこれに使用される微生物発酵や酵素作用を受けた原料を指す。具体的には、糸状菌の発酵作用を受けた麹や、酵母の発酵作用を受けた酒母、及びこれらを原料の一部又は全部として使用する、食酢類、酒類、みりん類、味噌類、しょうゆ類、その他「発酵調味料」と呼ばれる群の調味料類等の液状調味料や半固体状の発酵調味料、さらにはこれらを顆粒化や粉末化させた固体状調味料が挙げられる。即ち、本明細書において「醸造産物」とは、後述する「麹」、「発酵調味料」、「発酵調味料処理物」、更にはこれらを含む「飲食品」を全て含む概念である。尚、本発明の効果の奏効の観点から、醸造産物としては、醸造酢、清酒、本みりん、味噌、本醸造しょうゆがより好ましい。一方、本発明における「醸造産物」には、その製造工程において軽い酵母発酵や乳酸発酵を介して製造されるパン類や製菓類、麺類等は含まれない。
【0014】
[加熱処理グルテン]
本発明の一側面は、醸造産物の原料として用いられる加熱処理グルテン(本発明の加熱処理グルテン)に関する。本発明において「グルテン」とは、穀類の胚乳から精製されるタンパク質の一種であるグルテリン(代表的には小麦由来のグルテニン)とグリアジンが水を吸収して網目状につながったものを代表とする、グルテン様タンパク質の総称である。
【0015】
本発明の加熱処理グルテンの性状としては、水分を含んだ状態であっても、これを乾燥させたものであってもよい。また、その態様は限定されるものではなく、精製されたものであっても、穀類に含有される態様であってもよいが、その入手性と操作性の観点から、各種穀類から精製された態様であることが好ましく、さらには乾燥されたペレット状や粒状、粉末状であることが好ましく、後述する加熱処理の操作性の観点から、特には粉末状であることがより好ましい。
【0016】
本発明の加熱処理グルテンの由来原料としては、特に限定されるものではなく、各種穀類に含有される態様、各種穀類から精製されたグルテンを混合した態様、グルテンを含有する穀類と精製グルテンを混合した態様であってもよい。ただし、その入手性と操作性の観点から、本発明におけるグルテンは小麦由来であることが好ましく、小麦粉に含有される態様でもよいが、小麦粉から精製された態様であることがより好ましい。尚、精製とは、必ずしも純度が100%である必要はなく、実際上の観点から、目安として80%以上の純度であればよい。
【0017】
[白度]
本発明において「白度」とは、小麦粉・そば粉・でんぷん・砂糖・薬品・タルク・石灰・セメント等、さまざまな粉体の白さの指標であって、市販の白度計で測定できる。具体的には、反射率測定式である、粉体白度計(ケット社製、C−130)を用いて、白度標準板を対照(白度100)として測定できる。尚、本発明の加熱処理グルテンの白度の測定において、グルテンをその一部として含む穀類の場合には、原料粉末を水洗し、グルテン分を増粘・凝集させ分離・精製した後、変色が生じないよう、50℃程度の低温で水分含量が8%程度以下になるまで乾燥させた後、粉砕し、100メッシュ(目開き150μm)の篩分け下の粉体を測定することで求める。精製されたグルテンの場合は、変色が生じないよう、50℃程度の低温で水分含量が8%程度以下になるまで乾燥させた後、粉砕し、100メッシュ(目開き150μm)の篩分け下の粉体を測定することで求める。
【0018】
本発明の加熱処理グルテンの白度の範囲は、本発明の効果の奏効の観点から、上限としては、85未満であればよいが、中でも75未満、さらには70未満が好ましい。一方で、白度の下限としては、加熱処理による異臭(例えば焦げ臭)の付加の虞の観点から、40以上であればよいが、中でも45以上であることが好ましい。
【0019】
[グルテンバイタリティ]
本発明において「グルテンバイタリティ」とは、グルテンが変性を起こしグルテン特有の性質である弾性及び伸展性が失われた程度を示すものである。具体的には、グルテンバイタリティは、以下の式で求められる。
【数1】
【0020】
ここで、可溶性粗タンパク含有量は、希酢酸(0.05規定)40mLの入った容器に粉末状態のグルテン2gを加え、常温で1時間、攪拌抽出し、当該処理物の全量を、遠沈管に移し、5000rpm、5分間の遠心分離を行った後、No.2ろ紙ろ過にて固液分離し、得られたろ液を回収する。次いで、希酢酸(0.05規定)40mLで、当初に攪拌抽出した容器を洗い、その洗液の全量を遠沈管に移し、5000rpm、5分間の遠心分離を行った後、No.2ろ紙ろ過にて固液分離し、得られたろ液を回収する。回収した全てのろ液の全量を希酢酸(0.05規定)で100mLにメスアップ後、全窒素測定装置スミグラフ(住化分析センター製、NCH−22A)での燃焼法(改良デュマ法)の常法に準じて全窒素含有量を測定し、窒素−タンパク換算係数(6.25)を乗じて可溶性粗蛋含有量(質量%)として算出する。
【0021】
また、全粗タンパク含有量は、粉末状態のグルテン0.1gをそのままスミグラフにて全窒素含有量を測定し、上記と同様にスミグラフでの燃焼法(改良デュマ法)の常法に準じて全窒素含有量を測定し、窒素−タンパク質換算係数(6.25)を乗じて全粗タンパク含有量(質量%)として算出する。
【0022】
尚、本発明において、加熱処理グルテンのグルテンバイタリティは、別途記載ある場合を除き、加熱処理しない(未処理)グルテンのグルテンバイタリティを100とした場合の相対値として示すものとする。
【0023】
本発明の加熱処理グルテンのグルテンバイタリティの範囲としては、加熱処理しない(未処理)グルテンのグルテンバイタリティを100とした場合の相対値として、下限としては3以上であればよいが、焦げ臭の風味への影響の虞の観点から、5以上がより好ましい。一方で、上限としては、85未満であればよいが、本発明効果のより強い奏効の観点から、75未満がより好ましく、65未満がさらに好ましい。
【0024】
また、本発明において、グルテンをその一部として含む穀類についてグルテンバイタリティを測定する場合には、原料の変色が生じないよう、原料を50℃程度の低温で水分含量が8%程度以下になるまで乾燥させた後、粉砕し、100メッシュ(目開き150μm)の篩分け下の粉体を試料として用いることで求める。
【0025】
[L色空間表色系]
本発明において「L(エルスター・エースター・ビースター)色空間表色系」とは、国際照明委員会(CIE)が策定した、人間の目で見える全ての色を記述でき、機器固有モデルの基準として利用できるように意図したものであって(JIS Z 8781−4)、分光色彩計(日本電色工業社製、SD3000)を用いて測定する。具体的には、白度の測定の場合と同様に試料を調製し、グルテンの100メッシュ(目開き150μm)の篩分け下の粉体を試料として専用のセルに充填して測定する。なお、L、a、及びbの3つの座標は、色の明度(L:0は黒色、100は白の拡散色、100超は白の反射色)、赤色/マゼンタ色と緑色の間の位置(a:負の値は緑色寄り、正の値はマゼンタ色寄り)、及び黄色と青色との間の位置(b:負の値は青色寄り、正の値は黄色寄り)に対応している。
【0026】
本発明の加熱処理グルテンのL色空間表色系におけるL値、a値、及びb値は、本発明の効果のより顕著な奏効の観点から、以下の範囲とすることが好ましい。
値:上限としては、90以下が好ましく、87以下がより好ましく、85以下がさらに好ましく、下限としては、45以上が好ましく、55以上がより好ましい。
値:上限としては、20以下が好ましく、15以下がより好ましく、下限としては、1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2以上がさらに好ましい。
値:上限としては、45以下が好ましく、40以下がより好ましく、下限としては、10以上が好ましく、20以上がより好ましく、25以上がさらに好ましい。
【0027】
尚、本発明において、グルテンのL、a、及びbの各値の測定において、グルテンをその一部として含む穀類の場合には、原料粉末を水洗し、グルテン分を増粘・凝集させ分離・精製した後、変色が生じないよう、50℃程度の低温で水分含量が8%程度以下になるまで乾燥させた後、粉砕し、100メッシュ(目開き150μm)の篩分け下の粉体を試料として用いることで求める。
【0028】
[加熱処理]
本発明の加熱処理グルテンは、グルテンの白度及びグルテンバイタリティがそれぞれ上記範囲に調整されるように、グルテンを加熱処理することにより製造することができる。グルテンの加熱処理の手段としては特に限定されるものではないが、湿熱処理、乾熱処理等が挙げられる。均質な調整の観点及び取り扱い性、本発明の効果の奏効の観点から、中でも乾熱処理が好ましい。乾熱処理の具体的方法としては、特に限定されるものではないが、焦げ臭等の異臭の付加の虞、本発明の効果の奏効の観点から、直火焙煎等の直接加熱処理よりも、溝型撹拌式の一例であるパドルドライヤー(パドルドライヤー加熱)や、加熱した金属ロールによる押圧式(加熱金属ロール押圧)、加熱釜中での攪拌式(加熱釜攪拌)等の間接加熱処理によるものが好ましい。さらには、より均質な調整操作が可能で、連続処理が可能で、後の粉砕処理が不要な観点から、溝型撹拌式であることが好ましい。
【0029】
尚、加熱処理の具体的条件は、グルテンの白度及びグルテンバイタリティが上記一定範囲に調整されるよう、その手段に合わせて適宜選択・調整すればよいが、その目安としては、温度(品温)としては例えば140℃以上210℃以下の範囲、時間としては例えば1分間以上240分間以下の範囲、圧力としては例えば0MPa以上10MPa以下の範囲であることが好ましい。
【0030】
[麹]
本発明の別の側面は、本発明の加熱処理グルテンを原料の一部又は全部として用いた麹(本発明の麹)に関する。本発明において「麹」とは、食酢類や酒類、みりん類、味噌類、しょうゆ類、その他「発酵調味料」と呼ばれる群の調味料類等の醸造等、一般に発酵調味料等の製造工程において用いられる麹を指し、麹菌の種類やその原料や発酵条件等の製造方法は常法に準じて調製されるものであれば何ら限定されない。具体的には、麹菌の種類としては、アスペルギルス(Aspergillus)属であることが好ましく、中でも、代謝産物の風味への影響や発酵効率の観点から、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)又はショウユコウジカビ(Aspergillus sojae)であることが好ましい。これらは市販の種麹を入手して用いることができる。
【0031】
本発明の麹は、本発明の加熱処理グルテンを少なくとも含む原料を製麹することにより、製造することができる。本発明の加熱処理グルテンのみを原料として製麹してもよいが、発酵性の観点や醸造産物の好ましい複雑な風味の観点から、本発明の加熱処理グルテンの他に、糖質を含む前記その他原料を適宜組み合わせて製麹することが好ましい。製麹に使用されるグルテン以外の原料としては、一般的な米や小麦、コーン、大麦、大豆等の穀類や豆類等を用いることができる。これらは特に限定されるものではないが、これらから選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらは、粉末状や粒状、割砕状等、その使用態様も特に限定されず、操作性や目的とする醸造産物に合わせて適宜調整、選択すればよい。尚、この場合、製麹前に本発明の加熱処理グルテンとその他の原料を混合してから製麹してもよく、本発明の加熱処理グルテンを原料とした麹と、本発明の加熱処理グルテンを含まない原料を用いた麹を混合する態様であってもよい。尚、製麹性や製造効率の観点から前者が好ましい。
【0032】
本発明の麹における、原料総量に対する本発明の加熱処理グルテンの割合は、本発明の効果の奏効の観点から、乾燥質量換算で、下限としては7.5質量%以上であればよいが、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。上限としては、麹の酵素活性の観点も鑑みた場合、80質量%以下であればよいが、70質量%以下がより好ましい。尚、本発明における、「乾燥質量換算で」とは、水分が0質量%における質量換算値を指す。
【0033】
但し、本発明の麹において、本発明の加熱処理グルテンの原料総量中の割合は、所望する発酵調味料(後述)の成分組成・含有量と、所望する本発明の呈味修飾効果(後述)の強度のバランスを取りながら、適宜調整することが現実的であり、そのように原料の配合割合を調整すればよい。すなわち、本発明の麹の原料総量中の本発明の加熱処理グルテンの配合割合は、必ずしも限定されるものではない。
【0034】
本発明の麹の発酵条件として、その温度や水分、加水の有無、通風回数や送風量や速度、手入れ回数やその度合い、タイミング、発酵期間等は、麹が所望する品質になるよう、常法に即して適宜調整すればよい。尚、本発明の効果の奏効の観点において、前述した加熱処理グルテンの使用以外において、本発明の麹の調製には、一般的な製造条件や発酵条件が適用できる。ただし、生産効率や取り扱い性の観点から、液体状の麹に比して、固体状の麹が好ましい。また、固体状の麹は、生のまま使用してもよいし、その酵素活性が完全に失活しない程度に乾燥させてから使用してもよいが、取り扱い性の観点から後者が好ましい。
【0035】
[発酵調味料]
本発明の別の側面は、本発明の加熱処理グルテン及び/又は本発明の麹を原料の一部又は全部として用いた発酵調味料(本発明の発酵調味料)に関する。本発明において「発酵調味料」とは、醸造産物であって、グルテン及び/又は麹を原料の一部又は全部として使用し、発酵工程を通して製造される調味料を意味する。
【0036】
本発明において「発酵工程」とは、糸状菌や乳酸菌、酵母、酢酸菌等の発酵微生物及び/又はその酵素を介して原料が資化、変換、分解等の消化を受け、原料が発酵工程特有の香りや味を付与されるものである。例えば、糸状菌であれば、タンパク質からのアミノ酸の生成、澱粉からの単糖やオリゴ糖の生成等が挙げられる。乳酸菌であれば、糖質からの乳酸やアセトイン等の生成、酵母であれば、糖質からのエタノールや高級アルコール、HEMF(4-hydroxy-2(or 5)-ethyl-5(or 2)-methyl-3(2H)-furanone)等の生成等が挙げられる。酢酸菌であれば、エタノールからの酢酸や酢酸エチル等の生成等が挙げられる。また、微生物そのものの代謝を介さない、微生物が産生する各種酵素(例えば、プロテアーゼ、アミラーゼ等)を介して原料が変換や分解等の消化を受ける酵素反応による作用を用いることも発酵工程に含まれる。さらに、これらが同時に作用するものも発酵工程に含まれる。
【0037】
発酵微生物そのものの代謝により製造される発酵調味料の例としては、食酢類や酒類や味噌類やしょうゆ類や、もち米、米麹、アルコールを発酵させた後に、塩を加えて塩分を約2%に調節した、一般に「発酵調味料」と呼称されるものの類等が挙げられ、発酵微生物由来の酵素作用を働かせて発酵させて製造される発酵調味料の例としては、みりん類等が挙げられる。尚、両者が同時に作用する例としては、食酢や酒やしょうゆ等の工程の一部(一例として初発の液化、糖化工程とアルコール発酵の同時進行等)等にこれが認められる。また、複数の菌種が同時に発酵に作用してもよい。具体的には、しょうゆの発酵(乳酸菌と酵母)が挙げられる。中でも、本発明の発酵調味料としては、本発明の麹を原料として用いる発酵調味料であれば、何ら限定されるものではないが、本発明の麹を多量に用いることにより本発明の効果が顕著に奏される点から、醸造酢、清酒、本みりん、味噌、本醸造しょうゆであることが好ましい。また、発酵調味料には製造助剤(例えば酵素類や珪藻土類、活性炭類、消泡剤類等)が使用される場合があるが、本発明の効果を妨げない範囲おいて、適宜選択、使用してもよい。尚、これら発酵調味料の分類や製法は、農林水産省による品質表示基準や日本農林規格に準ずればよい。
【0038】
尚、本発明の発酵調味料において、その原料総量中の本発明の麹の配合割合は、乾燥質量換算で、下限としては、本発明の奏効の観点から、10質量%以上が好ましく、中でも20質量%以上、さらには30質量%以上が好ましい。一方で、上限としては、何ら制限されるものではないが、100質量%以下が好ましい。本発明の発酵調味料において、麹以外の原料としては、本発明の加熱処理グルテンや各種穀類や穀類加工品類(酒かす等)を、本発明の効果が奏され、本発明の発酵調味料が製造できる範囲において、適宜種類の選択・組み合わせ、適宜配合割合の調整を行って用いることができる。その使用のタイミングとしては、特に制限されず、本発明の効果が奏され、本発明の発酵調味料が製造できる時点の工程に適宜組み込むことができる。
【0039】
尚、所望する発酵調味料の成分組成・含有量と、所望する本発明の呈味修飾効果の強度のバランスを取りながら、発酵調味料中の本発明の麹の配合割合や、本発明の麹中の本発明の加熱処理グルテンの配合割合を適宜調整することが現実的であり、そのように原料の配合割合を調整すればよい。すなわち、必ずしも、発酵調味料中の原料総量中の本発明の麹の配合割合は規定されるものではない。
【0040】
[発酵調味料処理物]
本発明の別の側面は、本発明の発酵調味料を原料の一部又は全部として用いた発酵調味料処理物(本発明の発酵調味料処理物)に関する。本発明において「発酵調味料処理物」とは、発酵調味料に任意の処理を施したものを意味する。本発明の発酵調味料処理物としては、本発明の発酵調味料を少なくとも含む原料に、本発明の効果が失われない限りにおいて、何らかの化学的、物理的、及び/又は生物的処理を施したものが挙げられる。具体的には、本発明の加熱処理グルテンや加熱処理グルテンを使用した麹を原料として用いて調製した発酵調味料に何らかの処理を施したものであれば、何ら限定されるものではないが、一例として、減圧処理等で濃縮した発酵調味料の濃縮物、更には、塩分を多量に含む発酵調味料(例えばしょうゆ)をイオン交換膜等にて脱塩処理した発酵調味料処理物等が挙げられる。尚、これら処理は、本発明の効果が失われない限りにおいては、単一の処理を施したものでもよいし、複数の処理を施してもよく、所望する品質に合わせてその条件も適宜調整すればよい。尚、本発明の効果の奏効の観点から、化学的、物理的、及び/又は生物的処理としては、脱塩及び/又は濃縮処理が好ましい。即ち、本発明の発酵調味料処理物としては、本発明の発酵調味料を少なくとも含む原料に、脱塩及び/又は濃縮処理を施して得られる処理物が好ましい。尚、脱塩及び/又は濃縮処理としては、例えばイオン交換膜法による脱塩及び/又は真空減圧濃縮処理が好ましい。
【0041】
[飲食品]
本発明の別の側面は、前述した本発明の加熱処理グルテン、本発明の麹、本発明の発酵調味料、及び/又は、本発明の発酵調味料処理物(以下「本発明の加熱処理グルテン/麹/発酵調味料/処理物」と略称する。)を、原料の少なくとも一部として含む飲食品(本発明の飲食品)に関する。
【0042】
本発明の飲食品の種類としては、本発明の効果を奏するものであれば何ら限定されないが、液状飲食品や、半固体状飲食品、液状調味料や半固体状調味料を顆粒化や粉末化させた固体状飲食品が挙げられる。具体例としては、食酢飲料、調味酢、ポン酢、つゆ、たれ、ドレッシング、ケチャップ、マヨネーズ、ソース(ウスターソース、オイスターソース、デミグラスソース)、みりん風調味料、発酵調味料と呼称される類の調味料、料理酒、酢味噌、液味噌、甜麺醤、コチュジャン、スープ、各種粉末調味料、スープの素、各種料理の素、ふりかけ等が挙げられる。中でもより好ましくは、飲食品の風味の増強の観点から、展延性の高い液状飲食品や半固体状飲食品が好ましく、液状飲食品がさらに好ましい。特には、本発明の発酵調味料やその処理物の配合割合の高い、食酢飲料、調味酢、ポン酢、つゆ、たれ、又はドレッシングであることが特に好ましい。ここで、液状調味料には、2倍濃縮品等の使用時に薄めるタイプのものがあるが、本発明の効果が奏される範囲において、これら態様は問わない。
【0043】
本発明の飲食品において、本発明の加熱処理グルテン/麹/発酵調味料/処理物は、何れか一種が原料として配合されていればよいが、複数が原料として用いられていてもよい。また、本発明の飲食品は、1種又は2種以上の本発明の加熱処理グルテン/麹/発酵調味料/処理物からなるものでもよく、他の1種又は2種以上の原料を含むものでもよい。後者の場合には、本発明の加熱処理グルテン/麹/発酵調味料/処理物を主体とする飲食品に、他の原料を添加してなる態様の飲食品でもよく、他の原料を主体とする飲食品に、本発明の加熱処理グルテン/麹/発酵調味料/処理物を添加してなる態様の飲食品でもよい。なお、本明細書では、本発明の飲食品そのものと、これを使用して味付けした料理等とを包含して、適宜、被添加飲食品と呼ぶ場合がある。
【0044】
尚、本発明の効果の奏効の観点から、飲食品総量に対する本発明の加熱処理グルテン/麹/発酵調味料/処理物の合計配合割合は、湿潤基準質量として、下限として0.03質量%以上であることが好ましく、中でも0.05質量%以上、さらには0.1質量%以上、さらには0.3質量%以上、さらには1質量%以上、特には4質量%以上であることが好ましい。上限としては、100質量%の場合、本発明の発酵調味料となるため、特に定められるものではない。
【0045】
但し、本発明の飲食品の製造に当たっては、所望する飲食品の成分組成・含有量と、所望する本発明の呈味修飾効果の強度のバランスを取りながら、本発明の飲食品中の本発明の発酵調味料及び/又は本発明の発酵調味料処理物の配合割合、本発明の発酵調味料及び/又は本発明の発酵調味料処理物中の本発明の麹の配合割合、及び/又は、本発明の麹中の本発明の加熱処理グルテンの配合割合を適宜調整することが現実的であり、そのように原料の配合割合を調整すればよい。すなわち、本発明の飲食品総量中の本発明の加熱処理グルテン/麹/発酵調味料/処理物の配合割合は、必ずしも限定されるものではない。
【0046】
本発明の飲食品の製造方法は、制限されるものではないが、1種又は2種以上の本発明の加熱処理グルテン/麹/発酵調味料/処理物と、任意により他の1種又は2種以上の原料とを混合すると共に、必要に応じて任意の処理を加えればよい。その具体的な製造方法や原料、処理の種類や条件等は何ら限定されるものではなく、飲食品の種類やその他の条件等に応じて、常法に基づき適宜選択して実施すればよい。
【0047】
[加熱処理グルテン、麹、発酵調味料、発酵調味料処理物、及び飲食品の製造方法]
本発明の別の側面は、前述した本発明の加熱処理グルテン、本発明の麹、本発明の発酵調味料、本発明の発酵調味料処理物、及び本発明の飲食品のそれぞれの製造方法に関する。これらの詳細については、何れも前述したとおりである。
【0048】
[飲食品の風味・嗜好性の改善方法]
本発明の別の側面は、飲食品の風味を修飾し、及び/又は、嗜好性を向上させる方法(本発明の風味・嗜好性改善方法)にも関する。本発明の風味・嗜好性改善方法は、前述した本発明の加熱処理グルテン、本発明の麹、本発明の発酵調味料、及び/又は、本発明の発酵調味料処理物(本発明の加熱処理グルテン/麹/発酵調味料/処理物)を、飲食品と混合することにより、飲食品の風味を修飾し、及び/又は、嗜好性を向上させることを含む。
【0049】
前述したように、本発明の加熱処理グルテンや、これを含む本発明の麹、本発明の発酵調味料、及び本発明の発酵調味料処理物は、呈味・風味を修飾し、及び/又は、嗜好性を向上させる効果を有する。従って、本発明の加熱処理グルテン/麹/発酵調味料/処理物を飲食品と混合することにより、飲食品の呈味・風味を修飾し、及び/又は、嗜好性を向上させることが可能である。本発明の風味・嗜好性改善方法により改善される飲食品の種類やその風味・嗜好性の種類は、限定されるものではないが、例えば以下に挙げる例が挙げられる。
【0050】
一例としては、食酢類の場合、本発明の加熱処理グルテンを原料として使用することで、酸味の刺激(酢かど)が抑制され、まろやかな風味となる。酒類の場合、アルコールの刺激が抑制され、まろやかな風味となる。みりん類の場合、甘味が増強され、厚みが増した風味となる。味噌類、しょうゆ類、その他「発酵調味料」類の場合、塩味の刺激(塩かど)が抑制され、まろやかになるとともに、旨味が持続(味伸び)する風味となる。
【0051】
また、本発明の発酵調味料及び/又は本発明の発酵調味料処理物において、これらを飲食品に仕立てた場合(例えば液状飲食品にした場合)、一例としては、本発明の発酵調味料である食酢と果汁と香料とを使用した食酢飲料の場合、酢かどや塩かどが抑制され、まろやかになる一方で、果汁本来の風味や香料の風味が増強され、全体的に飲みやすくメリハリの利いた風味となり、嗜好性が向上する。
【0052】
さらには、本発明の発酵調味料である食酢と市販のしょうゆとを使用したポン酢の場合、酢かどや塩かどが抑制され、まろやかになる一方で、ゆず果汁の香りと味が増強され、全体的にメリハリの利いた豊かな風味となり、嗜好性が向上する。尚、ここで市販のしょうゆを本発明の発酵調味料であるしょうゆ類とした場合には、より一層の風味の向上がなされ、より好ましい。
【0053】
また、本発明の発酵調味料である酒類と通常の麹を用いて調製したみりん類の場合、アルコールの刺激が抑制され、まろやかになる一方で、甘味が増強され、厚みが増した風味となり、嗜好性が向上する。尚、ここで通常の麹を本発明の麹とした場合には、より一層の風味の向上がなされ、より好ましい。
【0054】
また、本発明の発酵調味料である味噌類と市販のしょうゆとを使用したごま入りしゃぶしゃぶのたれの場合、塩かどが抑制され、まろやかになる一方で、ごまの香りと味が増強され、全体的にメリハリの利いた豊かな風味となり、嗜好性が向上する。尚、ここで市販のしょうゆを本発明の発酵調味料であるしょうゆとした場合には、より一層の風味の向上がなされ、より好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
[試験1:グルテンの加熱処理条件の違いによる本発明の効果の検証]
本試験では、市販の乾燥グルテン粉(バイタルグルテン、非失活)を用いて、後述する各種の加熱処理等を施し、得られたグルテン試料を評価に供することで、グルテンの前処理条件の違いによる本発明の効果の差異を検証した。
【0057】
具体的に、比較例1では、加熱処理を施さないグルテン粉末を用いた。比較例2では、加熱処理を施さないグルテン粉末の10質量%水懸濁液を調製し、これにエンド型プロテアーゼを含有する市販のプロテアーゼ製剤を0.5質量%添加し、55℃で2時間、攪拌しながら保持し、酵素処理した。酵素処理後、90℃達温処理により酵素を失活させ、ろ紙ろ過にて固形分を回収し、金属トレイに薄く延ばした後、70℃下で4時間乾燥させ、これを回収した後、ミル機で粉砕し、酵素処理粉末を得た。試験例1では、グルテン粉末に対して直接湿熱処理である過熱水蒸気処理(180℃、12分)を行った後、スプレードライで乾燥して得られた加熱処理グルテン粉末を用いた。試験例2〜4では、グルテン粉末に対してそれぞれ異なる間接乾熱処理を行って得られた加熱処理グルテン粉末を用いた。具体的に、試験例2のグルテンには、溝型撹拌式の一例であるパドルドライヤー加熱(180℃、12分)を行い、試験例3のグルテンには、加熱金属ロールによる押圧加熱(180℃、1.0MPa)を行い、試験例4のグルテンには、加熱釜による攪拌加熱(180℃、12分)を行った。試験例5のグルテンとしては、グルテン粉末に対して直接乾熱処理であるロータリーキルンによる直火加熱(180℃、12分)を行って得られた加熱処理グルテン粉末を用いた。
【0058】
こうして得られた比較例1、2及び試験例1〜5のグルテン試料を用いて、上述した好ましい方法により、白度及びグルテンバイタリティの測定を行った。
【0059】
また、これらの比較例1、2及び試験例1〜5のグルテン試料を用いて、呈味修飾作用の評価を行った。具体的には、各グルテン試料を10倍の蒸留水に混合し、よく攪拌した後、No.2ろ紙を用いたろ過によりろ液を採取(グルテン抽出液)した(水抽出法)。別途調製した各呈味溶液(酢酸3質量%水溶液、スクロース1質量%水溶液、食塩0.3質量%水溶液、グルタミン酸ナトリウム0.3質量%水溶液)に、前記の各試料のグルテン抽出液を、それぞれ容量比で10%添加することにより、各試料評価用の呈味溶液を調製した。本評価用呈味溶液を用いて官能試験を行い、その結果を、別途蒸留水を10%添加して調製した対照用呈味溶液(対照例1)の結果と比較することにより、各試料の呈味修飾作用を評価した。
【0060】
各官能試験を行う官能検査員としては、予め食品の味、食感や外観等の識別訓練を実施した上で、特に成績が優秀で、商品開発経験があり、食品の味、食感や外観等の品質についての知識が豊富で、各官能検査項目に関して絶対評価を行うことが可能な検査員を選抜した。次に、以上の手順で選抜された訓練された官能検査員10名が、各試料評価用呈味溶液及びについて、その品質を評価する官能試験を行った。この官能試験では、呈味修飾効果について、その変化について自由記述させ、官能検査員の過半数が同様に感じた結果を総合的なコメントとして示した。そして、その呈味修飾効果の強さ(ここで風味とは味と香りを総合的にとらえた感覚を指す)、及びその影響による嗜好性の変化について「総合評価」として、以下の基準に従い、それぞれ7点満点で評価を行った。また、前記の何れの評価項目でも、事前に検査員全員で標準試料の評価を行い、評価基準の用語やスコアについて標準化を行った上で、10名によって客観性のある官能検査を行った。評価項目の評価は、7段階の評点の中から、各検査員が自らの評価と最も近い数字をどれか一つ選択する方式で評価した。評価結果の集計は、10名のスコアの算術平均値から算出し、小数点以下は四捨五入した。
【0061】
<評価基準1:総合評価(呈味修飾効果の強さとその嗜好性への影響)>
7:風味の変化(呈味修飾)が著しく強く、嗜好性が大きく向上する。
6:風味の変化(呈味修飾)が強く、嗜好性が向上する。
5:風味の変化(呈味修飾)がやや強く、嗜好性がやや向上する。
4:風味の変化(呈味修飾)はあるが、嗜好性の変化は小さい。
3:風味の変化(呈味修飾)は若干あるが、嗜好性の変化はほとんどない。
2:風味の変化がなく、嗜好性は変わらない。
1:風味の変化(呈味修飾)があるが、嗜好性が低下する。
【0062】
結果を表1に示す。
【0063】
【表1-1】

【表1-2】
【0064】
比較例1の未処理グルテンは、対照例1の蒸留水と同じく、呈味修飾効果が認められなかった。比較例2の酵素処理グルテンは、苦みが強く異味と感じられ、嗜好性が低下した。これらに対して、試験例1〜5の加熱処理グルテンは、加熱方法の違いによらず、全ての加熱処理グルテンで呈味修飾効果が認められた。ただし、試験例1の湿熱処理に比べて、試験例2〜5の乾熱処理の方が、呈味修飾効果が強く、嗜好性が向上する方向に呈味修飾されることが認められた。また、試験例5の直接乾熱処理に比べて、試験例2〜4の間接乾熱処理の方が、他の風味の影響(わずかな焦げ臭がつく)が小さい点で好ましく、かつ、呈味修飾効果がより強く好ましいことが分かった。また、試験例3及び4の加熱方式では、加熱処理後にダマが認められ、粉砕を必要としたが、試験例2の加熱方式ではその必要は認められず、操作性の観点からより好適であることが分かった。
【0065】
[試験2:加熱処理グルテンの白度、グルテンバイタリティの範囲の検証]
試験1の結果によれば、加熱処理を施したグルテンが呈味修飾効果を有することが明らかになった。そこで本試験では、加熱処理の程度と本発明の効果との関係について検証した。
【0066】
グルテンが受ける熱負荷の度合いの指標として、その色(白度)とグルテンの変性度合い(グルテンバイタリティ)に着目し、試験1の試験例2の調製手順において、パドルドライヤーによる加熱処理の温度及び時間を種々変更したほかは、同様の手順でグルテン粉末に対して加熱処理等を行うことにより、白度及びグルテンバイタリティを適宜調整した試験例6〜13及び比較例2〜4のグルテン試料を調製した。得られた試験例6〜13及び比較例2〜4のグルテン試料について、試験1と同様の手順により、呈味修飾作用の評価を行った。
【0067】
結果を表2に示す。
【0068】
【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】
【0069】
結果、本発明の呈味修飾効果を奏する加熱処理グルテンの白度の範囲は、下限としては40以上であればよいことがわかった。尚、焦げ臭の風味への影響の虞の観点から、45以上がより好ましいことが分かった。この範囲未満になると、グルテンに焦げ臭が強く付与され、これの水抽出液を添加した各種呈味溶液は、異味異臭が強く付与され、もはや呈味の増強作用の有無の判定は困難となってしまった。一方で、白度の上限としては、85未満であればよいことが分かった。尚、本発明の効果のより強い奏効の観点から、75未満がより好ましく、70未満がさらに好ましいことが分かった。
【0070】
一方で、本発明の効果を奏する加熱処理グルテンのグルテンバイタリティの範囲は、未処理のグルテンのグルテンバイタリティを100とした場合、下限としては3以上であればよいことが分かった。尚、焦げ臭の風味への影響の虞の観点から、5以上がより好ましいことが分かった。この範囲未満になると、グルテンに焦げ臭が強く付与され、その水抽出液を添加した各種呈味溶液は、異味異臭が強く付与され、もはや呈味の増強作用の有無の判定は困難となってしまった。一方で、グルテンバイタリティの上限としては、85未満であればよいことが分かった。尚、本発明効果のより強い奏効の観点から、75未満がより好ましく、65未満がさらに好ましいことが分かった。
【0071】
[試験3:加熱処理グルテンのL値の範囲の検証]
本試験では、加熱度合いの程度及びその態様について、さらに詳細に色調を調べることによって、より精密に本発明の効果を奏する色調の範囲について検証した。試料としては、前述の試験例6〜13及び比較例1,4のグルテン試料を用いた。色調の評価基準としては、L色空間表色系を採用、上述した好ましい方法によって、L、a、bの各値を測定した。また、試験1と同様の手順により、呈味修飾作用の評価を行った。
【0072】
結果を表3に示す。
【0073】
【表3-1】

【表3-2】
【0074】
結果、本発明の呈味修飾効果を奏するL、a、bの各値の範囲は、以下の範囲であることが分かった。即ち、L値の上限としては、90以下が好ましく、87以下がより好ましく、85以下がさらに好ましいことが分かった。一方で、下限としては、45以上が好ましく、55以上がより好ましいことが分かった。a値の上限としては、20以下が好ましく、15以下がより好ましいことが分かった。一方、下限としては、1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2以上がさらに好ましいことが分かった。b値の上限としては、45以下が好ましく、40以下がより好ましいことが分かった。一方、下限としては、10以上が好ましく、20以上がより好ましく、25以上がさらに好ましいことが分かった。
【0075】
[試験4:加熱処理グルテンを使用した麹の調製および麹の本発明の効果の検証]
本試験では、試験1〜3において、加熱処理グルテンにおいて認められた本発明の効果が、製麹後にどう変化するかについて検証した。
【0076】
製麹方法としては、製麹装置として半自動式箱型製麹装置(フジワラテクノアート製)を用い、種麹として市販の清酒用の黄麹(ニホンコウジカビ:Aspergillus oryzae)を選択し、原料として試験例1にて評価した各種加熱処理グルテン(原料総量中の50質量%)と、糖質源として米粉(原料総量中の50質量%)を用い、これらを混合後、常法にて蒸煮し、適宜ほぐし、降温した後、種麹を均一に接種した。温調(自動)、間欠通風(自動)、間欠散水(手動)、間欠手入れ(手動)を行いつつ、試験例14〜18及び比較例5として、異なる加熱処理条件下で、常法により製麹し、2日後、水分が10%以下になるまで温風乾燥して、乾燥麹試料を得た。調製した麹試料の本発明の効果の検証は、試験1と同様に水抽出法で各麹の水抽出液を採取し、試験1と同様に評価した。
【0077】
結果を表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
結果、比較例5の未処理のグルテンを用いた原料は、吸水によりグルテンが膨潤し、原料がダマとなり、製麹できなかった。それ以外の加熱処理グルテンを用いた原料は、製麹が可能であった。中でも、間接乾熱処理を行った試験例15(パドルドライヤー加熱)、試験例16(加熱金属ロール押圧)及び試験例17(加熱釜攪拌)の場合、製麹性は良好で、何らの困難性や課題は生じず、よくはぜ込んだ品質の良い麹が得られた。これに対して、湿熱処理を行った試験例14(過熱水蒸気)の場合は、グルテンがやや吸水・膨潤する傾向を有し、製麹性(特に手入れ時の粘着、ダマの発生)にやや困難を伴った。また、直接乾熱処理(ロータリーキルン)を行った試験例18の場合は、製麹性は良好であったが、粒状になって製麹機底面の通風孔から落下し若干の欠減を生じたり、若干はぜ込みが弱かったりという課題を伴った。
【0080】
一方で、驚くべきことに、先の試験1〜3で認められた、本発明の加熱処理グルテンの呈味修飾効果は、これを原料として製麹することで、その修飾の質には変化はなかったものの、その強度が著しく増強された。これは、製麹性が良好であった、間接乾熱処理グルテン(パドルドライヤー加熱、加熱金属ロール押圧、加熱釜攪拌)を用いた場合に顕著であった。他の湿熱処理(過熱水蒸気)、直接乾熱処理(ロータリーキルン)の場合は、その製麹性に課題を伴ったからか、増強の程度は比較的小さかった。
【0081】
以上から、本発明の呈味修飾効果は、本発明の加熱処理グルテンのみならず、これを原料として使用して製麹した場合においても認められ、さらには、その強度が著しく増強されることが分かった。そのメカニズムとしては定かではないが、グルテンの加熱処理による効果成分の生成に加えて、製麹による効果成分の変化及び/又はさらなる生成が、本発明の効果にかかわっていることが推察された。
【0082】
[試験5:麹菌の種類が本発明の効果に及ぼす影響の検証]
前述の試験4において、本発明の加熱処理グルテンを原料として使用して製麹することによって、本発明の呈味修飾効果が著しく増強されることが分かった。そこで、本試験では、麹菌の種類とその増強効果の程度、有無について検証を行った。
【0083】
本試験は、麹菌の種菌(種麹)として表5に試験例19〜24として記載した各種類を使用した以外は、試験4と同様に実施した。評価は試験1と同様に行った。
【0084】
結果を表5に示す。
【0085】
【表5】
【0086】
結果、試験例21のアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、試験例22のアワモリコウジカビ(Aspergillus awamori)を用いた場合、クエン酸と思われる弱い酸味が生成した以外は、特別な呈味のする麹はなく、種麹の種類にかかわらず、製麹後に本発明の呈味修飾効果は著しく増強された。試験例21、試験例22の場合は、その他に比べてやや強度に劣ったが、これは生成されたクエン酸の影響によるものかもしれない。
【0087】
以上から、使用する種麹の菌種としては特に限定されるものではないが、アスペルギルス(Aspergillus)属であることが好ましく、中でもニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)又はショウユコウジカビ(Aspergillus sojae)がより好ましいことが分かった。
【0088】
尚、表5には示さなかったが、麹の原料として、小麦以外でグルテン様タンパク質を含むライ麦、大麦のグルテンもこれら穀類から分離、精製し、パドルドライヤーを用いて、180℃、12分間の加熱処理を施し、上記と同様の試験に供した。結果、どの種麹の種類においても、小麦由来グルテンの場合と同様の良好な結果を示した。
【0089】
[試験6:本発明の麹に使用される本発明の加熱処理グルテンの配合量の範囲の検証]
前述の試験4及び5において、製麹時に、原料総量に対し、乾燥質量換算で、50質量%の米粉を糖質源として加熱処理グルテンに配合した。そこで本試験では、麹において、本発明の効果が増強される、加熱処理グルテン以外の原料の配合割合の範囲についての検証を行った。
【0090】
本試験は、原料中の加熱処理グルテンの割合を、表6に試験例25〜36及び比較例6として記載した割合に調整した以外は、試験4と同様に実施した。評価は試験1と同様に行った。
【0091】
結果を表6に示す。
【0092】
【表6-1】

【表6-2】
【0093】
結果、本発明の効果を奏する、原料総量中の本発明の加熱処理グルテンの割合としては、その下限としては、乾燥質量換算で、7.5質量%以上であればよいが、本発明の強い奏効の観点から、10質量%以上が好ましく、中でも15質量%以上が好ましく、製麹による本発明の効果の増強の観点から、さらには20質量%以上、特には30質量%以上が好ましいことが分かった。一方で、上限としては、製麹品質(すなわち、醸造原料としての麹の酵素作用等の機能性)を含めた観点から、80質量%以下が好ましく、特には70質量%以下が好ましいことが分かった。
【0094】
[試験7:グルテン以外の原料の種類による影響の検証]
前述の試験4〜6において、麹菌の糖質源として、米粉を用いた場合、本発明の呈味修飾効果の増強効果が認められた。そこで本試験では、米粉以外の原料においても、これが認められるか否かを検証した。
【0095】
本試験は、原料中の加熱処理グルテン以外の原料として、表7に試験例37〜44として記載したものを用いた以外は、試験6と同様に実施した。評価は試験1と同様に行った。
【0096】
結果を表7に示す。
【0097】
【表7】
【0098】
結果、糖質源として、米粉以外の、グルテンを含んだ小麦粉、脱脂大豆粉、小麦ふすま粉、大麦粉を使用しても、製麹性は良好で、本発明の効果の増強効果が認められた。さらに、粉状でない、割砕大豆、粒玄米を使用した場合においても、同様の効果が認められることが分かった。すなわち、糖質を含む原料であれば、その種類や態様にかかわらず、製麹することで本発明の効果が顕著に増強されることが確認された。
【0099】
[試験8:発酵調味料(食酢及び酒)の調製と本発明の効果の有無の検証]
本試験では、試験1〜3で検証した加熱処理グルテンを使用した、試験4〜7で検証した本発明の麹を用いて、本発明の効果を有する発酵調味料が調製できるか否かを検証した。尚、ここでは、発酵調味料の代表として、食酢及び酒を選択し、次の方法でこれらを調製した。
【0100】
原料粉として、30kgの原料粉(内、試験例2と同様に調製した加熱処理グルテンを原料総量中の70質量%、米粉を原料総量中の30質量%)を量り取り、混合した後に70Lの60℃の水に攪拌しながら投入し、市販の液化酵素を0.05質量%(5g)、市販の糖化酵素を0.05質量%(5g)添加した後、加水し、諸味総量を100Lに調整した。その後、攪拌しながら60℃で30分間ホールド、75℃で30分間ホールド、90℃で30分間ホールドを経て、諸味を液化、糖化した。その後、容器を密閉した後、120℃に昇温し、温度を維持したまま10分間ホールドし、酵素を失活させた。次に、60℃に降温し、市販のプロテアーゼを0.1質量%(10g)、市販のグルタミナーゼを0.01質量%(1g)添加し、60℃を維持し、緩く攪拌させながら、18時間酵素処理を行った。その後、90℃に昇温し、温度を維持したまま10分間ホールドし、酵素を失活させるとともに、殺菌を行った。その後、諸味を冷却し、糖化諸味を得た。次に、回収した糖化諸味100Lに、市販の乾燥清酒酵母0.1質量%(1g)を投入し、30分間攪拌後、攪拌を止め、25℃に温調して2日間アルコール発酵を行った。次に、密閉容器にて90℃に達温し、殺菌を行い、酒諸味を得た。次いで、回収した酒諸味をヤブタ式圧搾機にて固液分離を行い、清澄な酒(アルコール濃度5容量%)80Lを得た(試験例46の試料)。
【0101】
前記調製した酒(アルコール濃度5容量%)10L及び市販の米酢(酢酸酸度4.5%)10Lを用い、これらを1:1で混合し、酢もとを調製した。酢もとを密閉容器中で90℃に達温して殺菌した後、降温し30℃に調整した。これを液深60cm、容量30Lの容器に注入し、酢酸発酵中の他の酢諸味から生育旺盛な酢酸菌膜を採取し、その表面に2cm角大の酢酸菌膜を植菌した。これを30℃恒温室で、アルコール濃度が0.3容量%以下になるまで約1週間酢酸発酵させた。酢酸菌膜を取り除いた後、これを加圧容器中で0.20μmフィルターろ過し、ろ液を90℃に達温して殺菌した後、降温して食酢(酢酸酸度4.5%)を得た(試験例48の試料)。
【0102】
尚、対照として、本発明の加熱処理グルテンを、加熱処理グルテンを使用して調製した麹の代替として使用し、さらに、麹由来の酵素を酵素剤(市販の液化酵素を仕込み量に対して0.1質量%、市販の糖化酵素を仕込み量に対して0.1質量%、市販のプロテアーゼを仕込み量に対して0.5%、市販のペプチダーゼを仕込み量に対して0.1質量%、市販のグルタミナーゼを仕込み量に対して0.01質量%)に代替して使用し、同様に調製した食酢と酒を調製して、比較評価に用いた(対照2及び3の試料)。また、評価によって差が認められた風味について、これが由来する又は影響すると思われた成分のみを試験例と成分添加によって合わせた比較対象も調製し、比較評価に用いた。尚、本来、本発明の効果がないと思われる生グルテンを製麹した対照として用いる予定であったが、生グルテンは原料諸味の調製の際に、水分を吸収して膨潤し、ダマになり、液化・糖化処理が不能であったため、選択することができなかった。そこで、本発明の加熱処理グルテンを製麹しない対照(試験例45及び47の試料)として、試験例1で評価した最も呈味修飾効果の弱かった、湿熱処理(過熱水蒸気)グルテンを用いた。評価は試験1と同様に行った。
【0103】
上記調製した対照2及び3並びに試験例45〜48の食酢及び酒について評価を行った。評価は試験1と同様に行った。
【0104】
結果を表8に示す。
【0105】
【表8】
【0106】
結果、本発明の発酵調味料である食酢及び酒は、対照に比べて酒ではアルコール刺激が著しく抑制され、まろやかになっており、同様に食酢では酢酸刺激が著しく抑制され、まろやかになっており、発酵調味料においても本発明の呈味修飾効果が奏されることが分かった。ここで、呈味修飾効果の強度について、酒の場合と食酢の場合を比較したとき、食酢でやや弱い評価であったが、これは、製造工程において、約半量の市販の食酢を混ぜていることに起因して、効果成分が薄くなったためと思われた。尚、本発明の加熱処理グルテンを原料に使用して、加熱処理グルテンのまま原料に使用した場合には、本発明の呈味修飾効果は認められるものの、製麹して原料に使用した場合に比べて、それほど大きくないことが分かった。
【0107】
[試験9:発酵調味料中における本発明の麹の割合の範囲の検証]
前記試験8において、本発明の加熱処理グルテン及びこれを用いた本発明の麹を使用した本発明の発酵調味料(食酢及び酒)においても本発明の呈味修飾効果が奏されることが分かった。そこで本試験では、本発明の呈味修飾効果が奏される、本発明の発酵調味料中における本発明の加熱処理グルテンを原料として用いた本発明の麹の、発酵調味料中の原料総量中の割合の範囲について検証を行った。本発明の麹として、試験例29で調製した麹(呈味修飾効果が最も強く、かつ、本発明の加熱処理グルテンの含量が最も少ない麹)を使用し、その配合割合を表9に試験例49〜59として表示するように変化させたほかは、試験8と同様に食酢及び酒の製造を行い、評価は試験1と同様に行った。
【0108】
結果を表9に示す。
【0109】
【表9】
【0110】
結果、食酢及び酒において、本発明の呈味修飾効果が奏されるための、本発明の発酵調味料の原料総量中の本発明の麹の使用量の下限としては、乾燥質量換算で、10質量%以上が好ましく、中でも20質量%以上、さらには30質量%以上、特には45質量%以上が好ましいことが分かった。上限としては100質量%以下であればよいことが分かった。
【0111】
ただし、上記試験において使用した麹は、本発明の加熱処理グルテンが麹全量中の30質量%であることから、使用する麹の原料総量中に占める本発明の加熱処理グルテンの割合が異なる場合、特に多い場合は、呈味修飾効果はより強くなると思われ、少ない場合はより弱くなるものと思われた。また、本発明の麹以外の原料による生成物(ここでは糖やエタノールや酢酸)を多量に回収することを期待する場合は、本発明の麹の配合割合を減らすことをやむを得ない場合がある。
【0112】
このように、所望する発酵調味料の成分組成・含有量と、所望する本発明の呈味修飾効果の強度のバランスを取りながら、適宜麹中の本発明の加熱処理グルテンの配合割合や、発酵調味料中の本発明の麹の配合割合を適宜調整することが現実的であり、そのように原料割合を調整すればよい。すなわち、必ずしも、本発明の発酵調味料の原料総量中の本発明の麹の配合割合は規定されるものではない。
【0113】
[試験10:その他発酵調味料(みりん、発酵調味料、味噌、しょうゆ)の調製と本発明の効果の検証]
本試験では、発酵調味料の代表として、みりん、所謂「発酵調味料」、味噌、しょうゆを選択し、次の方法で調製し、試験8の食酢及び酒で認められた、本発明の呈味修飾効果の有無の検証を行った。
【0114】
・みりん
みりんは次のように調製した。もち米300gを常法にて蒸煮し、蒸し米を得た。これに試験例28で調製した麹(呈味修飾効果が最も強く、かつ、本発明の加熱処理グルテンの含量が最も少ない麹)300gをよく混合した。次に、これらを市販の焼酎(アルコール35容量%)600mLに混合し、よく混ぜ合わせた。密閉容器に移し、常温で半年間熟成させた。この後、諸味をざるで漉し、ろ液をさらに、さらし布で濾し、清澄なみりんを得た。尚、この半量を量り取り、全容量に対して2質量%の食塩を添加し、よく溶解して、所謂「発酵調味料」も調製した(試験例58の試料)。
【0115】
・味噌
味噌は次のように調製した。大豆2kgを一晩、十分量の水に浸漬し、吸水させた。これを常法で蒸煮し、蒸し豆を得た。蒸し豆をよく潰した後、これに試験例28と同様(ただし、種麹は味噌用の種麹を用いた)に調製した麹(呈味修飾効果が最も強く、かつ、本発明の加熱処理グルテンの含量が最も少ない麹)1kgと食塩500g及び一握りの市販の味噌(発酵菌の植菌用)を混ぜ、よく混合したものを混合し、適量の水を添加し、容器に移し、落し蓋と重しを載せ、常温で半年間、発酵・熟成させた。熟成中は、様子を見ながら、適宜、攪拌、塩ふりを行った。熟成後、半固体状の味噌を得た(試験例60の試料)。
【0116】
・しょうゆ
しょうゆは次のように調製した。大豆2kgを一晩、十分量の水に浸漬し、吸水させた。これを常法で蒸煮し、蒸し豆を得た。次に、炒った全粒小麦を粉砕した物0.75kg、試験例29で使用した加熱処理グルテン0.75kgをよく混合し、これに種麹(しょうゆ用)を少量添加した後、よく攪拌し、さらに、これらと蒸し豆とを良く混合し、トレイに薄くもった後、32℃程度に温調した室内で、製麹した。仕込み後18時間で、手入れを行い、原料をよくほぐした。その後、室内の温度を28℃程度に温調し、仕込み後29時間で、再度手入れを行い、原料をよくほぐした。次に、室内の温度を26℃程度に温調し、適宜何度か手入れを行った。仕込み後45時間で製麹を終了し、しょうゆ麹を得た。4Lの水に食塩1kgを溶解した食塩水を調製し、これに麹を全量混合し、よく混ぜ合わせてしょうゆ諸味とした。これを冷暗所で発酵させ、発酵中は、適宜、櫂入れを行い、途中、市販のしょうゆ用の乳酸菌及び酵母を植菌し、1年間発酵させた。この後、諸味をざるで漉し、ろ液をさらに、さらし布で濾し、清澄なしょうゆ(生揚げ)を得た。さらにこの後、常法にて火入れを行い殺菌して、しょうゆを得た(試験例62の試料)。
【0117】
尚、上記、各発酵調味料について、対照として、加熱処理グルテンを、麹の代替として使用し、さらに、麹由来の酵素を酵素剤(市販の液化酵素を仕込み量に対して0.1質量%、市販の糖化酵素を仕込み量に対して0.1質量%、市販のプロテアーゼを仕込み量に対して0.5%、市販のペプチダーゼを仕込み量に対して0.1質量%、市販のグルタミナーゼを仕込み量に対して0.01質量%)に代替して使用し、同様に調製した各発酵調味料を調製して、比較評価に用いた(対照4〜6の試料)。また、評価によって差が認められた風味について、これが由来する又は影響すると思われる成分のみを試験例と成分添加によって合わせた比較対照も調製し、比較評価に用いた。尚、本来、本発明の効果がないと思われる生グルテンを対照として用いたかったが、生グルテンは麹の調製の際に、水分を吸収して膨潤し、ダマになり、製麹が不能であったため、選択することができなかった。そこで、製麹しない対照(試験例57、59、及び61の試料)を、試験例1で評価した最も呈味修飾効果の弱かった、湿熱処理(過熱水蒸気)グルテンを用いて調製した。
【0118】
結果を表10に示す。
【0119】
【表10】
【0120】
結果、みりん、所謂「発酵調味料」、味噌、しょうゆの各発酵調味料においても、試験例8と同様の結果が得られた。すなわち、本発明の発酵調味料であるみりん、味噌及びしょうゆは、対照に比べてみりんや所謂「発酵調味料」ではアルコール刺激が著しく抑制され、まろやかになっており、同様に味噌やしょうゆでは食塩刺激が著しく抑制され、まろやかになったとともに、後味の旨味の伸びが増強されており、発酵調味料においても本発明の呈味修飾効果が奏されることが分かった。尚、加熱処理グルテンのまま原料に使用した場合には、本発明の呈味修飾効果は認められるものの、製麹して原料に使用した場合に比べて、それほど大きくないことが分かった。尚、上記調製した各発酵調味料は、市販の代表的な各発酵調味料と同様の色調、物性を有していた。
【0121】
[試験11:発酵調味料処理物の調製と本発明の効果の検証]
本試験では、試験8又は10にて調製した本発明の発酵調味料について、表11に示す各種処理を施した場合について、本発明の効果が維持されるか否かを検証した。発酵調味料の代表として、酒としょうゆを選択した。
【0122】
酒は、試験8の試験例46で調製した酒を用い、これを減圧濃縮して、固形分を濃縮するとともに、蒸留回収したエタノールをこれに戻し、エタノール20容量%の濃縮酒を調製した。この発酵調味料処理物を用いて、試験10と同様に、焼酎の代わりに当該濃縮酒を使用し、みりんを調製した(試験例63の試料)。
【0123】
しょうゆは、試験10の試験例62で調製したしょうゆを用い、これをイオン交換膜を用いて、電気透析し脱塩処理した後、これを減圧濃縮して、水飴状の濃厚濃縮物を調製した(試験例64の試料)。
【0124】
これら調製した本発明の発酵調味料の発酵調味料処理物について、表11に示す各飲食品(料理)に使用して、本発明の呈味修飾効果について評価した。評価は試験1と同様に行った。
【0125】
結果を表11に示す。
【0126】
【表11】
【0127】
結果、酒を真空濃縮した濃縮酒を用いたみりん並びにしょうゆをイオン交換膜脱塩処理及び真空濃縮したしょうゆ濃縮物は、被添加飲食品(料理)に添加して使用した場合、料理の具材が本来有する好ましい風味を著しく呈味修飾(増強)し、嗜好性を好ましく向上できることが分かった。
【0128】
[試験12:各種飲食品の調製と本発明の効果の検証]
本試験では、試験8、試験10、11にて調製した本発明の各種発酵調味料及び/又は発酵調味料処理物を用いて、表12に示す各種飲食品を調製し、本発明の効果の有無を検証した。
【0129】
表12に示す組成によって、表12に示す各種調味料(試験例65〜70の試料)を調製し、その呈味品質について評価した。評価は試験1と同様に行った。
【0130】
結果を表12に示す。
【0131】
【表12】
【0132】
結果、表12に示す発酵調味料の内、全てを本発明の発酵調味料とした場合、調製された飲食品は、上記発酵調味料を市販の発酵調味料として使用した場合の対照(表中に記載せず。全てで風味に変化なく、評点「2」。)に比べて、表12に示すように、全ての飲食品で、飲食品中の原料素材の好ましい風味の呈味修飾(増強)効果及び/又は被添加飲食品(料理)の具材が本来有する好ましい風味の呈味修飾(増強)効果を奏し、嗜好性を好ましく向上できることが分かった。
【0133】
[試験13:飲食品中の本発明の発酵調味料の配合の範囲の検証]
試験12で各種飲食品において、本発明の発酵調味料を配合した場合に、発酵調味料中の原料素材及び/又は被添加飲食品の呈味修飾作用が奏されることが分かった。そこで本試験では、酸辣湯風味の鍋つゆを本発明の発酵調味料を使用した飲食品の代表として調製し、本発明の効果が奏される、本発明の発酵調味料の配合割合の範囲について検証した。
【0134】
表13に示すように、本発明の発酵調味料である食酢及びしょうゆを、本発明の食酢及びしょうゆと市販の食酢及び市販のしょうゆを使用して、その配合割合を変化させ、酸辣湯風味の鍋つゆを調製した(試験例71〜79の試料)。これらの鍋つゆ試料を用いて、具材として白菜としいたけを用いて鍋を調理し、試食により本発明の効果について評価した。評価は、市販の発酵調味料を対照(対照9)として、試験1の尺度を用いて実施した。
【0135】
結果を表13に示す。
【0136】
【表13-1】

【表13-2】
【0137】
結果、本発明の飲食品において、本発明の効果を奏する、本発明の発酵調味料の配合割合としては、湿潤基準質量として、下限としては、0.03質量%以上が好ましいことが分かった。本発明の効果のより強い奏効の観点からは、中でも0.05質量%以上、さらには0.1質量%以上、さらには0.3質量%以上、さらには1質量%以上、特には4質量%以上が好ましいことが分かった。上限としては、100質量%の場合、本発明の発酵調味料となるため、特に定められるものではない。
【0138】
尚、先にも述べたように、所望する発酵調味料の成分組成・含有量と、所望する本発明の呈味修飾効果の強度のバランスを取りながら、適宜麹中の本発明の加熱処理グルテンの配合割合や、発酵調味料中の本発明の麹の配合割合を適宜調整することが現実的であり、そのように原料割合を調整すればよい。すなわち、本発明の飲食品中の本発明の発酵調味料の配合割合は、必ずしも規定されるものではない。
【0139】
以上、本発明の加熱処理グルテン、当該加熱処理グルテンを原料とした麹、当該麹を原料とした発酵調味料、当該発酵調味料の発酵調味料処理物、当該発酵調味料及び/又は当該発酵調味料処理物を原料として用いた飲食品は、本発明の呈味修飾効果を奏し、嗜好性が向上することが確認された。尚、本発明の麹や発酵調味料、発酵調味料処理物、飲食品の製造方法・条件は、常法の範囲であれば何ら本発明の効果の奏効を妨げるものでないことも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の加熱処理グルテン及びこれを原料に用いた醸造産物は、食品分野で簡便に幅広く使用することができ、極めて高い有用性を有する。
【要約】
【課題】グルテンを原料として用いることにより、旨味力価を強化し、或いは濃厚な風味を付与した発酵調味料やこれを使用した飲食品(調味料等)や被添加飲食品(料理等)において、斯かる発酵調味料や飲食品・被添加飲食品が有する特有の好ましい風味がグルテンによって損なわれるのを防止しつつ、その風味の特徴が嗜好的に好ましく発現されるよう修飾し、その嗜好性を向上させる手段を提供する。
【解決手段】醸造産物の原料として用いられる加熱処理グルテンであって、以下(1)及び(2)を充足する加熱処理グルテン。
(1)白度が40以上85未満である。
(2)未処理の原料のグルテンバイタリティを100としたときに、加熱処理グルテンのグルテンバイタリティが3以上85未満である。
【選択図】なし