【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
[試験1:グルテンの加熱処理条件の違いによる本発明の効果の検証]
本試験では、市販の乾燥グルテン粉(バイタルグルテン、非失活)を用いて、後述する各種の加熱処理等を施し、得られたグルテン試料を評価に供することで、グルテンの前処理条件の違いによる本発明の効果の差異を検証した。
【0057】
具体的に、比較例1では、加熱処理を施さないグルテン粉末を用いた。比較例2では、加熱処理を施さないグルテン粉末の10質量%水懸濁液を調製し、これにエンド型プロテアーゼを含有する市販のプロテアーゼ製剤を0.5質量%添加し、55℃で2時間、攪拌しながら保持し、酵素処理した。酵素処理後、90℃達温処理により酵素を失活させ、ろ紙ろ過にて固形分を回収し、金属トレイに薄く延ばした後、70℃下で4時間乾燥させ、これを回収した後、ミル機で粉砕し、酵素処理粉末を得た。試験例1では、グルテン粉末に対して直接湿熱処理である過熱水蒸気処理(180℃、12分)を行った後、スプレードライで乾燥して得られた加熱処理グルテン粉末を用いた。試験例2〜4では、グルテン粉末に対してそれぞれ異なる間接乾熱処理を行って得られた加熱処理グルテン粉末を用いた。具体的に、試験例2のグルテンには、溝型撹拌式の一例であるパドルドライヤー加熱(180℃、12分)を行い、試験例3のグルテンには、加熱金属ロールによる押圧加熱(180℃、1.0MPa)を行い、試験例4のグルテンには、加熱釜による攪拌加熱(180℃、12分)を行った。試験例5のグルテンとしては、グルテン粉末に対して直接乾熱処理であるロータリーキルンによる直火加熱(180℃、12分)を行って得られた加熱処理グルテン粉末を用いた。
【0058】
こうして得られた比較例1、2及び試験例1〜5のグルテン試料を用いて、上述した好ましい方法により、白度及びグルテンバイタリティの測定を行った。
【0059】
また、これらの比較例1、2及び試験例1〜5のグルテン試料を用いて、呈味修飾作用の評価を行った。具体的には、各グルテン試料を10倍の蒸留水に混合し、よく攪拌した後、No.2ろ紙を用いたろ過によりろ液を採取(グルテン抽出液)した(水抽出法)。別途調製した各呈味溶液(酢酸3質量%水溶液、スクロース1質量%水溶液、食塩0.3質量%水溶液、グルタミン酸ナトリウム0.3質量%水溶液)に、前記の各試料のグルテン抽出液を、それぞれ容量比で10%添加することにより、各試料評価用の呈味溶液を調製した。本評価用呈味溶液を用いて官能試験を行い、その結果を、別途蒸留水を10%添加して調製した対照用呈味溶液(対照例1)の結果と比較することにより、各試料の呈味修飾作用を評価した。
【0060】
各官能試験を行う官能検査員としては、予め食品の味、食感や外観等の識別訓練を実施した上で、特に成績が優秀で、商品開発経験があり、食品の味、食感や外観等の品質についての知識が豊富で、各官能検査項目に関して絶対評価を行うことが可能な検査員を選抜した。次に、以上の手順で選抜された訓練された官能検査員10名が、各試料評価用呈味溶液及びについて、その品質を評価する官能試験を行った。この官能試験では、呈味修飾効果について、その変化について自由記述させ、官能検査員の過半数が同様に感じた結果を総合的なコメントとして示した。そして、その呈味修飾効果の強さ(ここで風味とは味と香りを総合的にとらえた感覚を指す)、及びその影響による嗜好性の変化について「総合評価」として、以下の基準に従い、それぞれ7点満点で評価を行った。また、前記の何れの評価項目でも、事前に検査員全員で標準試料の評価を行い、評価基準の用語やスコアについて標準化を行った上で、10名によって客観性のある官能検査を行った。評価項目の評価は、7段階の評点の中から、各検査員が自らの評価と最も近い数字をどれか一つ選択する方式で評価した。評価結果の集計は、10名のスコアの算術平均値から算出し、小数点以下は四捨五入した。
【0061】
<評価基準1:総合評価(呈味修飾効果の強さとその嗜好性への影響)>
7:風味の変化(呈味修飾)が著しく強く、嗜好性が大きく向上する。
6:風味の変化(呈味修飾)が強く、嗜好性が向上する。
5:風味の変化(呈味修飾)がやや強く、嗜好性がやや向上する。
4:風味の変化(呈味修飾)はあるが、嗜好性の変化は小さい。
3:風味の変化(呈味修飾)は若干あるが、嗜好性の変化はほとんどない。
2:風味の変化がなく、嗜好性は変わらない。
1:風味の変化(呈味修飾)があるが、嗜好性が低下する。
【0062】
結果を表1に示す。
【0063】
【表1-1】
【表1-2】
【0064】
比較例1の未処理グルテンは、対照例1の蒸留水と同じく、呈味修飾効果が認められなかった。比較例2の酵素処理グルテンは、苦みが強く異味と感じられ、嗜好性が低下した。これらに対して、試験例1〜5の加熱処理グルテンは、加熱方法の違いによらず、全ての加熱処理グルテンで呈味修飾効果が認められた。ただし、試験例1の湿熱処理に比べて、試験例2〜5の乾熱処理の方が、呈味修飾効果が強く、嗜好性が向上する方向に呈味修飾されることが認められた。また、試験例5の直接乾熱処理に比べて、試験例2〜4の間接乾熱処理の方が、他の風味の影響(わずかな焦げ臭がつく)が小さい点で好ましく、かつ、呈味修飾効果がより強く好ましいことが分かった。また、試験例3及び4の加熱方式では、加熱処理後にダマが認められ、粉砕を必要としたが、試験例2の加熱方式ではその必要は認められず、操作性の観点からより好適であることが分かった。
【0065】
[試験2:加熱処理グルテンの白度、グルテンバイタリティの範囲の検証]
試験1の結果によれば、加熱処理を施したグルテンが呈味修飾効果を有することが明らかになった。そこで本試験では、加熱処理の程度と本発明の効果との関係について検証した。
【0066】
グルテンが受ける熱負荷の度合いの指標として、その色(白度)とグルテンの変性度合い(グルテンバイタリティ)に着目し、試験1の試験例2の調製手順において、パドルドライヤーによる加熱処理の温度及び時間を種々変更したほかは、同様の手順でグルテン粉末に対して加熱処理等を行うことにより、白度及びグルテンバイタリティを適宜調整した試験例6〜13及び比較例2〜4のグルテン試料を調製した。得られた試験例6〜13及び比較例2〜4のグルテン試料について、試験1と同様の手順により、呈味修飾作用の評価を行った。
【0067】
結果を表2に示す。
【0068】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0069】
結果、本発明の呈味修飾効果を奏する加熱処理グルテンの白度の範囲は、下限としては40以上であればよいことがわかった。尚、焦げ臭の風味への影響の虞の観点から、45以上がより好ましいことが分かった。この範囲未満になると、グルテンに焦げ臭が強く付与され、これの水抽出液を添加した各種呈味溶液は、異味異臭が強く付与され、もはや呈味の増強作用の有無の判定は困難となってしまった。一方で、白度の上限としては、85未満であればよいことが分かった。尚、本発明の効果のより強い奏効の観点から、75未満がより好ましく、70未満がさらに好ましいことが分かった。
【0070】
一方で、本発明の効果を奏する加熱処理グルテンのグルテンバイタリティの範囲は、未処理のグルテンのグルテンバイタリティを100とした場合、下限としては3以上であればよいことが分かった。尚、焦げ臭の風味への影響の虞の観点から、5以上がより好ましいことが分かった。この範囲未満になると、グルテンに焦げ臭が強く付与され、その水抽出液を添加した各種呈味溶液は、異味異臭が強く付与され、もはや呈味の増強作用の有無の判定は困難となってしまった。一方で、グルテンバイタリティの上限としては、85未満であればよいことが分かった。尚、本発明効果のより強い奏効の観点から、75未満がより好ましく、65未満がさらに好ましいことが分かった。
【0071】
[試験3:加熱処理グルテンのL*a*b*値の範囲の検証]
本試験では、加熱度合いの程度及びその態様について、さらに詳細に色調を調べることによって、より精密に本発明の効果を奏する色調の範囲について検証した。試料としては、前述の試験例6〜13及び比較例1,4のグルテン試料を用いた。色調の評価基準としては、L
*a
*b
*色空間表色系を採用、上述した好ましい方法によって、L
*、a
*、b
*の各値を測定した。また、試験1と同様の手順により、呈味修飾作用の評価を行った。
【0072】
結果を表3に示す。
【0073】
【表3-1】
【表3-2】
【0074】
結果、本発明の呈味修飾効果を奏するL
*、a
*、b
*の各値の範囲は、以下の範囲であることが分かった。即ち、L
*値の上限としては、90以下が好ましく、87以下がより好ましく、85以下がさらに好ましいことが分かった。一方で、下限としては、45以上が好ましく、55以上がより好ましいことが分かった。a
*値の上限としては、20以下が好ましく、15以下がより好ましいことが分かった。一方、下限としては、1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2以上がさらに好ましいことが分かった。b
*値の上限としては、45以下が好ましく、40以下がより好ましいことが分かった。一方、下限としては、10以上が好ましく、20以上がより好ましく、25以上がさらに好ましいことが分かった。
【0075】
[試験4:加熱処理グルテンを使用した麹の調製および麹の本発明の効果の検証]
本試験では、試験1〜3において、加熱処理グルテンにおいて認められた本発明の効果が、製麹後にどう変化するかについて検証した。
【0076】
製麹方法としては、製麹装置として半自動式箱型製麹装置(フジワラテクノアート製)を用い、種麹として市販の清酒用の黄麹(ニホンコウジカビ:Aspergillus oryzae)を選択し、原料として試験例1にて評価した各種加熱処理グルテン(原料総量中の50質量%)と、糖質源として米粉(原料総量中の50質量%)を用い、これらを混合後、常法にて蒸煮し、適宜ほぐし、降温した後、種麹を均一に接種した。温調(自動)、間欠通風(自動)、間欠散水(手動)、間欠手入れ(手動)を行いつつ、試験例14〜18及び比較例5として、異なる加熱処理条件下で、常法により製麹し、2日後、水分が10%以下になるまで温風乾燥して、乾燥麹試料を得た。調製した麹試料の本発明の効果の検証は、試験1と同様に水抽出法で各麹の水抽出液を採取し、試験1と同様に評価した。
【0077】
結果を表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
結果、比較例5の未処理のグルテンを用いた原料は、吸水によりグルテンが膨潤し、原料がダマとなり、製麹できなかった。それ以外の加熱処理グルテンを用いた原料は、製麹が可能であった。中でも、間接乾熱処理を行った試験例15(パドルドライヤー加熱)、試験例16(加熱金属ロール押圧)及び試験例17(加熱釜攪拌)の場合、製麹性は良好で、何らの困難性や課題は生じず、よくはぜ込んだ品質の良い麹が得られた。これに対して、湿熱処理を行った試験例14(過熱水蒸気)の場合は、グルテンがやや吸水・膨潤する傾向を有し、製麹性(特に手入れ時の粘着、ダマの発生)にやや困難を伴った。また、直接乾熱処理(ロータリーキルン)を行った試験例18の場合は、製麹性は良好であったが、粒状になって製麹機底面の通風孔から落下し若干の欠減を生じたり、若干はぜ込みが弱かったりという課題を伴った。
【0080】
一方で、驚くべきことに、先の試験1〜3で認められた、本発明の加熱処理グルテンの呈味修飾効果は、これを原料として製麹することで、その修飾の質には変化はなかったものの、その強度が著しく増強された。これは、製麹性が良好であった、間接乾熱処理グルテン(パドルドライヤー加熱、加熱金属ロール押圧、加熱釜攪拌)を用いた場合に顕著であった。他の湿熱処理(過熱水蒸気)、直接乾熱処理(ロータリーキルン)の場合は、その製麹性に課題を伴ったからか、増強の程度は比較的小さかった。
【0081】
以上から、本発明の呈味修飾効果は、本発明の加熱処理グルテンのみならず、これを原料として使用して製麹した場合においても認められ、さらには、その強度が著しく増強されることが分かった。そのメカニズムとしては定かではないが、グルテンの加熱処理による効果成分の生成に加えて、製麹による効果成分の変化及び/又はさらなる生成が、本発明の効果にかかわっていることが推察された。
【0082】
[試験5:麹菌の種類が本発明の効果に及ぼす影響の検証]
前述の試験4において、本発明の加熱処理グルテンを原料として使用して製麹することによって、本発明の呈味修飾効果が著しく増強されることが分かった。そこで、本試験では、麹菌の種類とその増強効果の程度、有無について検証を行った。
【0083】
本試験は、麹菌の種菌(種麹)として表5に試験例19〜24として記載した各種類を使用した以外は、試験4と同様に実施した。評価は試験1と同様に行った。
【0084】
結果を表5に示す。
【0085】
【表5】
【0086】
結果、試験例21のアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、試験例22のアワモリコウジカビ(Aspergillus awamori)を用いた場合、クエン酸と思われる弱い酸味が生成した以外は、特別な呈味のする麹はなく、種麹の種類にかかわらず、製麹後に本発明の呈味修飾効果は著しく増強された。試験例21、試験例22の場合は、その他に比べてやや強度に劣ったが、これは生成されたクエン酸の影響によるものかもしれない。
【0087】
以上から、使用する種麹の菌種としては特に限定されるものではないが、アスペルギルス(Aspergillus)属であることが好ましく、中でもニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)又はショウユコウジカビ(Aspergillus sojae)がより好ましいことが分かった。
【0088】
尚、表5には示さなかったが、麹の原料として、小麦以外でグルテン様タンパク質を含むライ麦、大麦のグルテンもこれら穀類から分離、精製し、パドルドライヤーを用いて、180℃、12分間の加熱処理を施し、上記と同様の試験に供した。結果、どの種麹の種類においても、小麦由来グルテンの場合と同様の良好な結果を示した。
【0089】
[試験6:本発明の麹に使用される本発明の加熱処理グルテンの配合量の範囲の検証]
前述の試験4及び5において、製麹時に、原料総量に対し、乾燥質量換算で、50質量%の米粉を糖質源として加熱処理グルテンに配合した。そこで本試験では、麹において、本発明の効果が増強される、加熱処理グルテン以外の原料の配合割合の範囲についての検証を行った。
【0090】
本試験は、原料中の加熱処理グルテンの割合を、表6に試験例25〜36及び比較例6として記載した割合に調整した以外は、試験4と同様に実施した。評価は試験1と同様に行った。
【0091】
結果を表6に示す。
【0092】
【表6-1】
【表6-2】
【0093】
結果、本発明の効果を奏する、原料総量中の本発明の加熱処理グルテンの割合としては、その下限としては、乾燥質量換算で、7.5質量%以上であればよいが、本発明の強い奏効の観点から、10質量%以上が好ましく、中でも15質量%以上が好ましく、製麹による本発明の効果の増強の観点から、さらには20質量%以上、特には30質量%以上が好ましいことが分かった。一方で、上限としては、製麹品質(すなわち、醸造原料としての麹の酵素作用等の機能性)を含めた観点から、80質量%以下が好ましく、特には70質量%以下が好ましいことが分かった。
【0094】
[試験7:グルテン以外の原料の種類による影響の検証]
前述の試験4〜6において、麹菌の糖質源として、米粉を用いた場合、本発明の呈味修飾効果の増強効果が認められた。そこで本試験では、米粉以外の原料においても、これが認められるか否かを検証した。
【0095】
本試験は、原料中の加熱処理グルテン以外の原料として、表7に試験例37〜44として記載したものを用いた以外は、試験6と同様に実施した。評価は試験1と同様に行った。
【0096】
結果を表7に示す。
【0097】
【表7】
【0098】
結果、糖質源として、米粉以外の、グルテンを含んだ小麦粉、脱脂大豆粉、小麦ふすま粉、大麦粉を使用しても、製麹性は良好で、本発明の効果の増強効果が認められた。さらに、粉状でない、割砕大豆、粒玄米を使用した場合においても、同様の効果が認められることが分かった。すなわち、糖質を含む原料であれば、その種類や態様にかかわらず、製麹することで本発明の効果が顕著に増強されることが確認された。
【0099】
[試験8:発酵調味料(食酢及び酒)の調製と本発明の効果の有無の検証]
本試験では、試験1〜3で検証した加熱処理グルテンを使用した、試験4〜7で検証した本発明の麹を用いて、本発明の効果を有する発酵調味料が調製できるか否かを検証した。尚、ここでは、発酵調味料の代表として、食酢及び酒を選択し、次の方法でこれらを調製した。
【0100】
原料粉として、30kgの原料粉(内、試験例2と同様に調製した加熱処理グルテンを原料総量中の70質量%、米粉を原料総量中の30質量%)を量り取り、混合した後に70Lの60℃の水に攪拌しながら投入し、市販の液化酵素を0.05質量%(5g)、市販の糖化酵素を0.05質量%(5g)添加した後、加水し、諸味総量を100Lに調整した。その後、攪拌しながら60℃で30分間ホールド、75℃で30分間ホールド、90℃で30分間ホールドを経て、諸味を液化、糖化した。その後、容器を密閉した後、120℃に昇温し、温度を維持したまま10分間ホールドし、酵素を失活させた。次に、60℃に降温し、市販のプロテアーゼを0.1質量%(10g)、市販のグルタミナーゼを0.01質量%(1g)添加し、60℃を維持し、緩く攪拌させながら、18時間酵素処理を行った。その後、90℃に昇温し、温度を維持したまま10分間ホールドし、酵素を失活させるとともに、殺菌を行った。その後、諸味を冷却し、糖化諸味を得た。次に、回収した糖化諸味100Lに、市販の乾燥清酒酵母0.1質量%(1g)を投入し、30分間攪拌後、攪拌を止め、25℃に温調して2日間アルコール発酵を行った。次に、密閉容器にて90℃に達温し、殺菌を行い、酒諸味を得た。次いで、回収した酒諸味をヤブタ式圧搾機にて固液分離を行い、清澄な酒(アルコール濃度5容量%)80Lを得た(試験例46の試料)。
【0101】
前記調製した酒(アルコール濃度5容量%)10L及び市販の米酢(酢酸酸度4.5%)10Lを用い、これらを1:1で混合し、酢もとを調製した。酢もとを密閉容器中で90℃に達温して殺菌した後、降温し30℃に調整した。これを液深60cm、容量30Lの容器に注入し、酢酸発酵中の他の酢諸味から生育旺盛な酢酸菌膜を採取し、その表面に2cm角大の酢酸菌膜を植菌した。これを30℃恒温室で、アルコール濃度が0.3容量%以下になるまで約1週間酢酸発酵させた。酢酸菌膜を取り除いた後、これを加圧容器中で0.20μmフィルターろ過し、ろ液を90℃に達温して殺菌した後、降温して食酢(酢酸酸度4.5%)を得た(試験例48の試料)。
【0102】
尚、対照として、本発明の加熱処理グルテンを、加熱処理グルテンを使用して調製した麹の代替として使用し、さらに、麹由来の酵素を酵素剤(市販の液化酵素を仕込み量に対して0.1質量%、市販の糖化酵素を仕込み量に対して0.1質量%、市販のプロテアーゼを仕込み量に対して0.5%、市販のペプチダーゼを仕込み量に対して0.1質量%、市販のグルタミナーゼを仕込み量に対して0.01質量%)に代替して使用し、同様に調製した食酢と酒を調製して、比較評価に用いた(対照2及び3の試料)。また、評価によって差が認められた風味について、これが由来する又は影響すると思われた成分のみを試験例と成分添加によって合わせた比較対象も調製し、比較評価に用いた。尚、本来、本発明の効果がないと思われる生グルテンを製麹した対照として用いる予定であったが、生グルテンは原料諸味の調製の際に、水分を吸収して膨潤し、ダマになり、液化・糖化処理が不能であったため、選択することができなかった。そこで、本発明の加熱処理グルテンを製麹しない対照(試験例45及び47の試料)として、試験例1で評価した最も呈味修飾効果の弱かった、湿熱処理(過熱水蒸気)グルテンを用いた。評価は試験1と同様に行った。
【0103】
上記調製した対照2及び3並びに試験例45〜48の食酢及び酒について評価を行った。評価は試験1と同様に行った。
【0104】
結果を表8に示す。
【0105】
【表8】
【0106】
結果、本発明の発酵調味料である食酢及び酒は、対照に比べて酒ではアルコール刺激が著しく抑制され、まろやかになっており、同様に食酢では酢酸刺激が著しく抑制され、まろやかになっており、発酵調味料においても本発明の呈味修飾効果が奏されることが分かった。ここで、呈味修飾効果の強度について、酒の場合と食酢の場合を比較したとき、食酢でやや弱い評価であったが、これは、製造工程において、約半量の市販の食酢を混ぜていることに起因して、効果成分が薄くなったためと思われた。尚、本発明の加熱処理グルテンを原料に使用して、加熱処理グルテンのまま原料に使用した場合には、本発明の呈味修飾効果は認められるものの、製麹して原料に使用した場合に比べて、それほど大きくないことが分かった。
【0107】
[試験9:発酵調味料中における本発明の麹の割合の範囲の検証]
前記試験8において、本発明の加熱処理グルテン及びこれを用いた本発明の麹を使用した本発明の発酵調味料(食酢及び酒)においても本発明の呈味修飾効果が奏されることが分かった。そこで本試験では、本発明の呈味修飾効果が奏される、本発明の発酵調味料中における本発明の加熱処理グルテンを原料として用いた本発明の麹の、発酵調味料中の原料総量中の割合の範囲について検証を行った。本発明の麹として、試験例29で調製した麹(呈味修飾効果が最も強く、かつ、本発明の加熱処理グルテンの含量が最も少ない麹)を使用し、その配合割合を表9に試験例49〜59として表示するように変化させたほかは、試験8と同様に食酢及び酒の製造を行い、評価は試験1と同様に行った。
【0108】
結果を表9に示す。
【0109】
【表9】
【0110】
結果、食酢及び酒において、本発明の呈味修飾効果が奏されるための、本発明の発酵調味料の原料総量中の本発明の麹の使用量の下限としては、乾燥質量換算で、10質量%以上が好ましく、中でも20質量%以上、さらには30質量%以上、特には45質量%以上が好ましいことが分かった。上限としては100質量%以下であればよいことが分かった。
【0111】
ただし、上記試験において使用した麹は、本発明の加熱処理グルテンが麹全量中の30質量%であることから、使用する麹の原料総量中に占める本発明の加熱処理グルテンの割合が異なる場合、特に多い場合は、呈味修飾効果はより強くなると思われ、少ない場合はより弱くなるものと思われた。また、本発明の麹以外の原料による生成物(ここでは糖やエタノールや酢酸)を多量に回収することを期待する場合は、本発明の麹の配合割合を減らすことをやむを得ない場合がある。
【0112】
このように、所望する発酵調味料の成分組成・含有量と、所望する本発明の呈味修飾効果の強度のバランスを取りながら、適宜麹中の本発明の加熱処理グルテンの配合割合や、発酵調味料中の本発明の麹の配合割合を適宜調整することが現実的であり、そのように原料割合を調整すればよい。すなわち、必ずしも、本発明の発酵調味料の原料総量中の本発明の麹の配合割合は規定されるものではない。
【0113】
[試験10:その他発酵調味料(みりん、発酵調味料、味噌、しょうゆ)の調製と本発明の効果の検証]
本試験では、発酵調味料の代表として、みりん、所謂「発酵調味料」、味噌、しょうゆを選択し、次の方法で調製し、試験8の食酢及び酒で認められた、本発明の呈味修飾効果の有無の検証を行った。
【0114】
・みりん
みりんは次のように調製した。もち米300gを常法にて蒸煮し、蒸し米を得た。これに試験例28で調製した麹(呈味修飾効果が最も強く、かつ、本発明の加熱処理グルテンの含量が最も少ない麹)300gをよく混合した。次に、これらを市販の焼酎(アルコール35容量%)600mLに混合し、よく混ぜ合わせた。密閉容器に移し、常温で半年間熟成させた。この後、諸味をざるで漉し、ろ液をさらに、さらし布で濾し、清澄なみりんを得た。尚、この半量を量り取り、全容量に対して2質量%の食塩を添加し、よく溶解して、所謂「発酵調味料」も調製した(試験例58の試料)。
【0115】
・味噌
味噌は次のように調製した。大豆2kgを一晩、十分量の水に浸漬し、吸水させた。これを常法で蒸煮し、蒸し豆を得た。蒸し豆をよく潰した後、これに試験例28と同様(ただし、種麹は味噌用の種麹を用いた)に調製した麹(呈味修飾効果が最も強く、かつ、本発明の加熱処理グルテンの含量が最も少ない麹)1kgと食塩500g及び一握りの市販の味噌(発酵菌の植菌用)を混ぜ、よく混合したものを混合し、適量の水を添加し、容器に移し、落し蓋と重しを載せ、常温で半年間、発酵・熟成させた。熟成中は、様子を見ながら、適宜、攪拌、塩ふりを行った。熟成後、半固体状の味噌を得た(試験例60の試料)。
【0116】
・しょうゆ
しょうゆは次のように調製した。大豆2kgを一晩、十分量の水に浸漬し、吸水させた。これを常法で蒸煮し、蒸し豆を得た。次に、炒った全粒小麦を粉砕した物0.75kg、試験例29で使用した加熱処理グルテン0.75kgをよく混合し、これに種麹(しょうゆ用)を少量添加した後、よく攪拌し、さらに、これらと蒸し豆とを良く混合し、トレイに薄くもった後、32℃程度に温調した室内で、製麹した。仕込み後18時間で、手入れを行い、原料をよくほぐした。その後、室内の温度を28℃程度に温調し、仕込み後29時間で、再度手入れを行い、原料をよくほぐした。次に、室内の温度を26℃程度に温調し、適宜何度か手入れを行った。仕込み後45時間で製麹を終了し、しょうゆ麹を得た。4Lの水に食塩1kgを溶解した食塩水を調製し、これに麹を全量混合し、よく混ぜ合わせてしょうゆ諸味とした。これを冷暗所で発酵させ、発酵中は、適宜、櫂入れを行い、途中、市販のしょうゆ用の乳酸菌及び酵母を植菌し、1年間発酵させた。この後、諸味をざるで漉し、ろ液をさらに、さらし布で濾し、清澄なしょうゆ(生揚げ)を得た。さらにこの後、常法にて火入れを行い殺菌して、しょうゆを得た(試験例62の試料)。
【0117】
尚、上記、各発酵調味料について、対照として、加熱処理グルテンを、麹の代替として使用し、さらに、麹由来の酵素を酵素剤(市販の液化酵素を仕込み量に対して0.1質量%、市販の糖化酵素を仕込み量に対して0.1質量%、市販のプロテアーゼを仕込み量に対して0.5%、市販のペプチダーゼを仕込み量に対して0.1質量%、市販のグルタミナーゼを仕込み量に対して0.01質量%)に代替して使用し、同様に調製した各発酵調味料を調製して、比較評価に用いた(対照4〜6の試料)。また、評価によって差が認められた風味について、これが由来する又は影響すると思われる成分のみを試験例と成分添加によって合わせた比較対照も調製し、比較評価に用いた。尚、本来、本発明の効果がないと思われる生グルテンを対照として用いたかったが、生グルテンは麹の調製の際に、水分を吸収して膨潤し、ダマになり、製麹が不能であったため、選択することができなかった。そこで、製麹しない対照(試験例57、59、及び61の試料)を、試験例1で評価した最も呈味修飾効果の弱かった、湿熱処理(過熱水蒸気)グルテンを用いて調製した。
【0118】
結果を表10に示す。
【0119】
【表10】
【0120】
結果、みりん、所謂「発酵調味料」、味噌、しょうゆの各発酵調味料においても、試験例8と同様の結果が得られた。すなわち、本発明の発酵調味料であるみりん、味噌及びしょうゆは、対照に比べてみりんや所謂「発酵調味料」ではアルコール刺激が著しく抑制され、まろやかになっており、同様に味噌やしょうゆでは食塩刺激が著しく抑制され、まろやかになったとともに、後味の旨味の伸びが増強されており、発酵調味料においても本発明の呈味修飾効果が奏されることが分かった。尚、加熱処理グルテンのまま原料に使用した場合には、本発明の呈味修飾効果は認められるものの、製麹して原料に使用した場合に比べて、それほど大きくないことが分かった。尚、上記調製した各発酵調味料は、市販の代表的な各発酵調味料と同様の色調、物性を有していた。
【0121】
[試験11:発酵調味料処理物の調製と本発明の効果の検証]
本試験では、試験8又は10にて調製した本発明の発酵調味料について、表11に示す各種処理を施した場合について、本発明の効果が維持されるか否かを検証した。発酵調味料の代表として、酒としょうゆを選択した。
【0122】
酒は、試験8の試験例46で調製した酒を用い、これを減圧濃縮して、固形分を濃縮するとともに、蒸留回収したエタノールをこれに戻し、エタノール20容量%の濃縮酒を調製した。この発酵調味料処理物を用いて、試験10と同様に、焼酎の代わりに当該濃縮酒を使用し、みりんを調製した(試験例63の試料)。
【0123】
しょうゆは、試験10の試験例62で調製したしょうゆを用い、これをイオン交換膜を用いて、電気透析し脱塩処理した後、これを減圧濃縮して、水飴状の濃厚濃縮物を調製した(試験例64の試料)。
【0124】
これら調製した本発明の発酵調味料の発酵調味料処理物について、表11に示す各飲食品(料理)に使用して、本発明の呈味修飾効果について評価した。評価は試験1と同様に行った。
【0125】
結果を表11に示す。
【0126】
【表11】
【0127】
結果、酒を真空濃縮した濃縮酒を用いたみりん並びにしょうゆをイオン交換膜脱塩処理及び真空濃縮したしょうゆ濃縮物は、被添加飲食品(料理)に添加して使用した場合、料理の具材が本来有する好ましい風味を著しく呈味修飾(増強)し、嗜好性を好ましく向上できることが分かった。
【0128】
[試験12:各種飲食品の調製と本発明の効果の検証]
本試験では、試験8、試験10、11にて調製した本発明の各種発酵調味料及び/又は発酵調味料処理物を用いて、表12に示す各種飲食品を調製し、本発明の効果の有無を検証した。
【0129】
表12に示す組成によって、表12に示す各種調味料(試験例65〜70の試料)を調製し、その呈味品質について評価した。評価は試験1と同様に行った。
【0130】
結果を表12に示す。
【0131】
【表12】
【0132】
結果、表12に示す発酵調味料の内、全てを本発明の発酵調味料とした場合、調製された飲食品は、上記発酵調味料を市販の発酵調味料として使用した場合の対照(表中に記載せず。全てで風味に変化なく、評点「2」。)に比べて、表12に示すように、全ての飲食品で、飲食品中の原料素材の好ましい風味の呈味修飾(増強)効果及び/又は被添加飲食品(料理)の具材が本来有する好ましい風味の呈味修飾(増強)効果を奏し、嗜好性を好ましく向上できることが分かった。
【0133】
[試験13:飲食品中の本発明の発酵調味料の配合の範囲の検証]
試験12で各種飲食品において、本発明の発酵調味料を配合した場合に、発酵調味料中の原料素材及び/又は被添加飲食品の呈味修飾作用が奏されることが分かった。そこで本試験では、酸辣湯風味の鍋つゆを本発明の発酵調味料を使用した飲食品の代表として調製し、本発明の効果が奏される、本発明の発酵調味料の配合割合の範囲について検証した。
【0134】
表13に示すように、本発明の発酵調味料である食酢及びしょうゆを、本発明の食酢及びしょうゆと市販の食酢及び市販のしょうゆを使用して、その配合割合を変化させ、酸辣湯風味の鍋つゆを調製した(試験例71〜79の試料)。これらの鍋つゆ試料を用いて、具材として白菜としいたけを用いて鍋を調理し、試食により本発明の効果について評価した。評価は、市販の発酵調味料を対照(対照9)として、試験1の尺度を用いて実施した。
【0135】
結果を表13に示す。
【0136】
【表13-1】
【表13-2】
【0137】
結果、本発明の飲食品において、本発明の効果を奏する、本発明の発酵調味料の配合割合としては、湿潤基準質量として、下限としては、0.03質量%以上が好ましいことが分かった。本発明の効果のより強い奏効の観点からは、中でも0.05質量%以上、さらには0.1質量%以上、さらには0.3質量%以上、さらには1質量%以上、特には4質量%以上が好ましいことが分かった。上限としては、100質量%の場合、本発明の発酵調味料となるため、特に定められるものではない。
【0138】
尚、先にも述べたように、所望する発酵調味料の成分組成・含有量と、所望する本発明の呈味修飾効果の強度のバランスを取りながら、適宜麹中の本発明の加熱処理グルテンの配合割合や、発酵調味料中の本発明の麹の配合割合を適宜調整することが現実的であり、そのように原料割合を調整すればよい。すなわち、本発明の飲食品中の本発明の発酵調味料の配合割合は、必ずしも規定されるものではない。
【0139】
以上、本発明の加熱処理グルテン、当該加熱処理グルテンを原料とした麹、当該麹を原料とした発酵調味料、当該発酵調味料の発酵調味料処理物、当該発酵調味料及び/又は当該発酵調味料処理物を原料として用いた飲食品は、本発明の呈味修飾効果を奏し、嗜好性が向上することが確認された。尚、本発明の麹や発酵調味料、発酵調味料処理物、飲食品の製造方法・条件は、常法の範囲であれば何ら本発明の効果の奏効を妨げるものでないことも確認された。