特許第6940282号(P6940282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キユーピー株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6940282
(24)【登録日】2021年9月6日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】米の品質向上剤及び品質向上方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 61/00 20060101AFI20210909BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   A01N61/00 Z
   A01G7/06 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-11698(P2017-11698)
(22)【出願日】2017年1月25日
(65)【公開番号】特開2018-117579(P2018-117579A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年8月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年8月25日発表 第63回 日本食品科学工学会 発表資料
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉田 幸治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 滋
(72)【発明者】
【氏名】有泉 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 遼
(72)【発明者】
【氏名】山形 徳光
【審査官】 高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−171402(JP,A)
【文献】 特開2008−212128(JP,A)
【文献】 特開2013−071857(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103524227(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第104591872(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第105859466(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第106187422(CN,A)
【文献】 テンシプレッサーを用いた米飯物性測定法,農研機構ホームページ,食品総合研究所1995年の成果情報,[online],1995年,https://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nfri/1995/nfri95-07.html,検索日:2020年7月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G
A01N
A01P
C05D
C05G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粳米の稲の栽培に用いる米飯の品質向上剤であって、
卵殻を有効成分として含有し、
下記方法で栽培した稲を、下記方法で炊飯し、下記方法で測定した米飯の粘りを−500〜−225gw/cmに強くし及び、硬さを1650〜2250gw/cm硬くさせるものである、
米飯の粘り及び硬さ向上剤。
<栽培方法>
栽培前期である田植えから15日後に、1坪あたり卵殻の使用量として150g以上1000g以下の量を均一散布し栽培する。
<炊飯方法>
測定用の米を精米し、米の水分含量を13.5%に調整した後、5つのアルミカップに10gずつとり、水を14g加える。その後電気釜(National、SR-SW182)の外釜に500mlの水を加え、5つのアルミカップをその中に並べ、25分の蒸し調理後、10分間蒸らす。
<粘りと硬さの測定方法>
米飯の粘りと硬さは、テンシプレッサー(タケトモ電機、Myboysystem)を用いて、下記手順により測定する。
手順:25℃で2時間インキュベーターに保温した米飯粒1粒を無作為にサンプリングし、その米飯粒1粒を長径方向が水平になるように測定ステージ上に並べる。次に、これら米飯粒を圧縮率90%(各米飯粒の厚さが初めの厚みの10%になるまで潰す)で測定する。なお、円柱状プランジャーを使用して測定し、米飯試料について、上記操作を異なる米飯粒を用いて20回繰り返し、その平均値を測定値とする。米粒は、1つのアルミカップから4粒ずつ、計20粒ランダムに選択する。粘りの測定値については、圧縮時の付着力の値であり、硬さの測定値については圧縮時における反発力の最大値の値である。
【請求項2】
請求項1記載の米飯の粘り及び硬さ向上剤において、
1坪あたり卵殻として150g以上使用するものである、
米飯の粘り及び硬さ向上剤。
【請求項3】
粳米の稲の栽培に用いる米飯の粘り及び硬さ向上方法であって、
卵殻を有効成分として用い、
下記方法で栽培した稲を、下記方法で炊飯したときに、下記方法で測定した米飯の粘りを−500〜−225gw/cmに強くし及び、硬さを1650〜2250gw/cm硬くさせるものである、
米飯の粘り及び硬さ向上方法。
<栽培方法>
栽培前期である田植えから15日後に、1坪あたり卵殻の使用量として150g以上1000g以下の量を均一散布し栽培する。
<炊飯方法>
測定用の米を精米し、米の水分含量を13.5%に調整した後、5つのアルミカップに10gずつとり、水を14g加える。その後電気釜(National、SR-SW182)の外釜に500mlの水を加え、5つのアルミカップをその中に並べ、25分の蒸し調理後、10分間蒸らす。
<粘りと硬さの測定方法>
米飯の粘りと硬さは、テンシプレッサー(タケトモ電機、Myboysystem)を用いて、下記手順により測定する。
手順:25℃で2時間インキュベーターに保温した米飯粒1粒を無作為にサンプリングし、その米飯粒1粒を長径方向が水平になるように測定ステージ上に並べる。次に、これら米飯粒を圧縮率90%(各米飯粒の厚さが初めの厚みの10%になるまで潰す)で測定する。なお、円柱状プランジャーを使用して測定し、米飯試料について、上記操作を異なる米飯粒を用いて20回繰り返し、その平均値を測定値とする。米粒は、1つのアルミカップから4粒ずつ、計20粒ランダムに選択する。粘りの測定値については、圧縮時の付着力の値であり、硬さの測定値については圧縮時における反発力の最大値の値である。
【請求項4】
請求項3記載の米飯の粘り及び硬さ向上方法において、
1坪あたり卵殻として150g以上使用するものである、
米飯の粘り及び硬さ向上方法。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稲の栽培に用いる米の品質向上剤及び品質向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人は粘りが強く、軟らかい米を好む傾向がある。そのため、日本を代表するブランド米である例えば、コシヒカリは、粘りがあり、歯ごたえが軟らかく、味や香り等が非常に優れているため、大変人気が高く、日本全国で栽培されている。
【0003】
飲食店や加工食品の製造等でも、コシヒカリのような粘りがあり、軟らかい米が使用されている。
しかしながら、飲食店や加工食品の製造等においては、一度に大量に炊飯や調理を行うため、コシヒカリのような粘りがあり、軟らかい米は、米粒同士の結着や潰れが発生し易い。さらに、軟らかい米は、製造設備への米の付着が起き易く、その結果、歩留りが低下し、加工がし難いという問題があった。
このような問題からコシヒカリに比べ硬い米、例えば、ササニシキ等が飲食店や加工食品の製造用として広く用いられている。
しかしながら、硬い米は、大量炊飯する飲食店や加工食品等の加工用としては適しているものの、一般的に粘りが少なく、乾燥しやすい傾向にある。その結果、得られた加工食品において、それ自体の食味や品質の低下につながっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−171402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、外食や加工食品業界でも問題なく使用できる品質の米を得るための、稲の栽培に用いる米の品質向上剤及び品質向上方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、稲の栽培に用いる米の品質向上のための有効成分として卵殻を用いたところ、意外にも米の品質が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)稲の栽培に用いる米の品質向上剤であって、卵殻を有効成分として含有する、米の品質向上剤、
(2)(1)に記載の米の品質向上剤において、米の品質向上剤が、米飯の粘り及び/又は硬さを向上させる、米の品質向上剤、
(3)(1)または(2)の記載のいずれかの米の品質向上剤において、米の品質向上剤が、粳米の米飯の粘りを−500〜−225gw/cm及び/又は、硬さを1650〜2250gw/cmに向上させる、米の品質向上剤、
(4)稲の栽培に用いる米の品質向上方法であって、卵殻を有効成分として用いる、米の品質向上方法、
(5)(4)に記載の米の品質向上方法において、米の品質向上方法が、米飯の粘り及び/又は硬さを向上させる、米の品質向上方法、
(6)(4)または(5)に記載の米の品質向上方法において、米の品質向上方法が、粳米の米飯の粘りを−500〜−225gw/cm及び/又は、硬さを1650〜2250gw/cmに向上させる、米の品質向上方法、
である。
【0008】
ところで卵殻は土壌の放射能物質低減剤として提案されている(特許文献1)。
しかしながら、特許文献1には、米本来の品質である例えば、米飯の粘りや硬さ等を向上できることは、何ら記載も示唆もされていない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、米を炊飯したときに、粘り及び/又は硬さがある米飯とすることができる、稲の栽培に用いる米の品質向上剤及び品質向上方法を提供することができる。したがって、本発明は、外食や加工食品業界でも問題なく使用できる品質の米を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0011】
<本発明の特徴>
本発明は、稲の栽培に用いる米の品質向上剤及び品質向上方法であって、卵殻を有効成分として用いることを特徴とする。
【0012】
<米の品質向上に関して>
本発明の米の品質向上とは、米を炊飯したときの米本来の品質を向上させるものである。炊飯したときの米本来の品質を向上させる項目としては、例えば、硬さ、粘り、ツヤ、味、香り、色等が挙げられる。
本発明においては、特に、粘り及び/又は硬さを向上させるものである。
【0013】
<稲の栽培の際に用いる本発明の形態>
稲の栽培の際に用いる本発明の形態は、土壌改良剤として用いられている一般的な形態と同様の形態で用いることができる。本発明においては、特に限定するものではないが、例えば、粉末、顆粒、ペレット等が挙げられる。
【0014】
<卵殻>
本発明の有効成分として用いる卵殻としては、一般に市販で流通されている卵殻を用いると良い。
また、本発明は、卵殻の原料として、容易に入手しやすい観点から鶏卵由来のものを用いるのが良い。
【0015】
<卵殻の大きさ>
本発明の卵殻の大きさは、特に限定しないが、土壌に撒く際の舞い上がりによる作業効率を考慮し、大きさの下限値は、最長辺の長さが30μm以上が好ましく、さらに80μm以上が好ましい。一方、大きさの上限値は、土壌中での分散を考慮し、最長辺の長さが15mm以下が好ましく、さらに10mm以下が好ましい。
【0016】
<稲の栽培の際に用いる卵殻の使用量>
本発明において、稲の栽培の際に用いる卵殻の使用量は、本発明の効果が得られる程度使用すればよく、具体的には、1a(アール)あたり、5kg以上が好ましく、さらに10kg以上が好ましい。
一方、使用量の上限値については、使用量に応じた期待する程の効果が得られ難いため、1a(アール)あたり、50kg以下が好ましく、さらに30kg以下が好ましい。
なお、前記使用量の下限値は、1坪あたり、それぞれ150g以上、300g以上、上限値は、1坪あたり、それぞれ1750g以下、1000g以下である。
【0017】
<稲の栽培の際に用いる卵殻の使用方法>
本発明の卵殻の使用方法としては、栽培の直前、前期、中期または後期等いずれの時期に用いてもよい。さらに本発明は、これらの使用時期を組み合わせて使用してもより。本発明は、本発明の効果が得られやすいことから、特に、栽培の直前又は前記の時期が好ましい。
なお、使用時期を組み合わせて使用した場合の卵殻の使用量は、その合計使用量が、前記卵殻の使用量となる。
【0018】
<稲>
本発明は、水稲、陸稲等のいずれの稲にも用いることができる。
本発明においては特に、有効成分である卵殻の効果が得られやすいため、水稲が好ましい。
【0019】
<米の種類等>
本発明は、いずれの米にも用いることができる。米の種類等としては、例えば、コシヒカリ、ササニシキ、あきたこまち、バスマティ等の粳米、こがねもち、ヒメノモチ等の糯米が挙げられる。
本発明は、卵殻の使用量に応じた効果が得られやすいことから、粳米が好ましく、さらにジャポニカ米が好ましく、特にコシヒカリが好ましい。
【0020】
<米飯の粘り>
本発明により米の品質は向上する具体的には例えば、粳米の米飯の粘りにおいて、喫食時においしさを感じやすいことから、−500〜−225gw/cmが好ましく、さらに−500〜−250gw/cmが好ましく、特に−500〜−325gw/cmが好ましい。
なお、後述の試験法による測定値と粘りは負の相関があるため、米の粘りは負の値になる。つまり、前記負の値が大きいほど、米飯の粘りがあることになる。
【0021】
<米飯の硬さ>
本発明の米の品質の向上、具体的には例えば、粳米の米飯の硬さにおいて、米粒同士の結着や潰れが生じ難いことから、1650〜2250gw/cmが好ましく、さらに1700〜2250gw/cmが好ましく、特に1875〜2250gw/cmが好ましい。
【0022】
<米の品質向上剤における卵殻の含有量>
本発明の品質向上剤に用いる卵殻の含有量は、作業効率の面から、5〜100%とすることが好ましく、さらに20〜100%とすることが好ましい。
【0023】
< その他の成分>
本発明の品質向上剤には、上述の卵殻以外の成分としては、本発明の効果を損なわない範囲で、賦形剤や一般的に農作物を栽培する際に用いられる土壌改良剤成分であれば、適宜選択し用いることができる。具体的に、賦形剤としては澱粉やデキストリン等が挙げられる。肥料成分としては、チッ素、リン酸、カリウム、マグネシウム等が挙げられる。肥料成分の中でもカリウムを多く含んでも効果があり、例えば、塩化カリウムを、1a(アール)あたり、7.5kg以上含む場合でも効果がある。なお、前記塩化カリウム量は1坪あたりは250g以上である。
【0024】
以下に本発明の米の品質向上剤、及び米の品質向上方法の実施例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【実施例】
【0025】
[試験例1]
予め、下記表1に記載の配合原料を均一に粉体混合して、実施例1、実施例2及び比較例1の品質向上剤を調製した。その後田植えを行い、土壌中の栄養成分移行を防ぐため、9坪/1区画とし、区ごとに波板で仕切りを設けた。栽培前期である田植えから15日後、常法の土壌改良剤の利用方法と同様に、9坪/1区画に対し、実施例1、実施例2及び比較例1の各品質向上剤の全量を均一に散布し、稲を栽培した。
測定用に使用する米は1区画の中心1坪から収穫し、その米を炊飯し、粘りと硬さを測定し、これを表1の粘りと硬さの測定値とした。
なお、土壌改良剤として知られているカリウムを全ての実施例及び比較例に用い、卵殻の量を変更して炊飯後の粘りと硬さを測定した。
また、炊飯と測定は、下記の方法で行った。
【0026】
<炊飯方法>
測定用の米を精米し、米の水分含量を13.5%に調整した後、5つのアルミカップに10gずつとり、水を14g加えた。その後電気釜(National、SR-SW182)の外釜に500mlの水を加え、5つのアルミカップをその中に並べ、25分の蒸し調理後、10分間蒸らした。
なお、米の水分含量は食糧庁標準計測方法に従いケット水分計で測定した。
【0027】
<粘りと硬さの測定方法>
本発明において、米飯の粘りと硬さは、テンシプレッサー(タケトモ電機、Myboysystem)を用いて、下記手順により測定した。
手順:25℃で2時間インキュベーターに保温した米飯粒1粒を無作為にサンプリングし、その米飯粒1粒を長径方向が水平になるように測定ステージ上に並べた。次に、これら米飯粒を圧縮率90%(各米飯粒の厚さが初めの厚みの10%になるまで潰す)で測定した。
なお、円柱状プランジャーを使用して測定し、米飯試料について、上記操作を異なる米飯粒を用いて20回繰り返し、その平均値を測定値とした。米粒は、1つのアルミカップから4粒ずつ、計20粒ランダムに選択した。
粘りの測定値については、圧縮時の付着力の値であり、硬さの測定値については圧縮時における反発力の最大値の値である。
【0028】
【表1】
【0029】
表1より、比較例1の粘り及び硬さに比べ、実施例1、2の粘り及び硬さは向上していることが分かる。つまり、米飯の粘り及び/又は硬さを向上させるために、稲の栽培の際に用いる卵殻の使用量は1坪当たり150g以上用いることが好ましく、このとき粳米の米飯の粘りは−500〜−225gw/cm及び/又は、硬さは1650〜2250gw/cmとなり好ましい。
また、米飯の粘り及び/又は硬さを向上させるために、稲の栽培の際に用いる卵殻の使用量は1坪当たり300g以上用いることがより好ましく、このとき粳米の米飯の粘りは−500〜−325gw/cm及び/又は、硬さは1875〜2250gw/cmとなり特に好ましい。
【0030】
以上より、卵殻は米飯の粘り及び/又は硬さを向上させるのに有効であると言える。