(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
プロセスチーズ類はそのまま食されるだけでなく、様々な加工食品の材料としても広く用いられている。加工食品の材料として用いられるプロセスチーズ類は、加工食品の種類により求められる特徴が異なる。
外食や惣菜に用いられるプロセスチーズ類のひとつとして、製造適性と耐熱保形性が付与され、かつ加熱時のオイルオフが抑制されたものが求められている。すなわち、プロセスチーズ類の製造時においては製造ライン中での流動性を有し、加熱調理時においては耐熱保形性を有し、かつオイルオフしないプロセスチーズ類が求められている。
【0003】
特許文献1は、耐熱保形性の高さと食感および風味の良さを両立しつつ、簡便に製造することができるプロセスチーズを提供することを目的とし、ナチュラルチーズに対して、1.5〜3.5重量部の溶融塩が添加され、前記溶融塩は、前記溶融塩の総量に対して、50〜70重量部のクエン酸塩またはモノリン酸塩と、10〜50重量部のポリリン酸塩と、0〜20重量部のメタリン酸塩またはピロリン酸塩と、を含み、また、前記ナチュラルチーズが含有する蛋白質に対して0.5〜12重量部のポリグリセリン脂肪酸エステルが、前記ナチュラルチーズに添加され、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB値が3〜8かつヨウ素価が60以上、または、HLB値が4〜12かつヨウ素価が2以下、から選ばれる1種または2種類以上であるプロセスチーズを開示している。また、特許文献1は、前記プロセスチーズが、保持期間10秒以上1分以内、かつ保持温度120〜140℃のジュール加熱処理を含む製造工程により得られることを開示している。
【0004】
特許文献2は、原料チーズとして低脂肪のものを選ばず、また、チーズにα澱粉およびアルブミン等を添加することなく、また、耐熱性を付与するために保温施設等を設けることなく、畜肉・水産練製品又は製菓・製パン用の耐熱性を有するプロセスチーズを得ることを課題とし、ナチュラルチーズ100重量部に溶融塩1.0〜2.5重量部を添加し90〜120℃に加熱溶融して、乳化し、同温度に2〜20分間保持し又は保持することなく耐熱性を有するプロセスチーズの製造方法を開示している。
【0005】
特許文献3は、優れた耐熱性と良好な風味や軟らかい組織を有することを特徴とする、特殊な工程を設ける必要が無い簡便な方法で製造できるプロセスチーズ類およびその製造方法を提供することを課題とし、pH6.0に調整した濃度1.0%水溶液の濁度が2.0以上である縮合リン酸塩を溶融塩として配合することにより、優れた耐熱性を有するプロセスチーズ類およびその製造方法を開示している。
【0006】
上記したように、いずれの文献においても、プロセスチーズ類の製造時においては製造ライン中での流動性を有し、加熱調理時においては耐熱保形性を有し、かつオイルオフしないプロセスチーズ類は開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、製造適性と耐熱保形性を兼ね備え、かつ加熱時のオイルオフが抑制されたプロセスチーズ類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明には以下の構成が含まれる。
(1)粘度が300dPa・s以下であることを特徴とするプロセスチーズ類。
粘度:10℃のプロセスチーズ類3kgを5リットル容体積の縦型せん断式乳化 機に入れ、プロセスチーズ類を1500rpmで撹拌しながら縦型せん断式乳化機 のジャケット内に水蒸気を吹き込むことでプロセスチーズ類を80℃とし、80℃ としたプロセスチーズ類をビスコテスターVT−04F型粘度計(ローター1又は 2を使用、リオン株式会社製)を用いて測定することにより得られる粘度(dPa ・s)の値
(2)耐熱保形性が70%以上であることを特徴とする(1)に記載のプロセスチーズ類。
耐熱保形性:10℃のプロセスチーズ類を直径30mm、高さ15mmの円柱状 に成型し、成型した10℃のプロセスチーズ類をオーブンで150℃、12分間の 条件で加熱し、加熱後のプロセスチーズ類を室温にて室温とした時の高さH(mm )の値を用いて以下の式により得られる値、耐熱保形性(%)=H/15x100
(3)オイルオフが20平方センチメートル以下であることを特徴とする(1)又は(2 )のいずれか1つに記載のプロセスチーズ類。
オイルオフ:10℃のプロセスチーズ類を直径10mm、高さ20mmの円柱状 に成型し、ろ紙(JIS P 3801に規定される5種C規格、0.22mm厚 )上に静置し、オーブンで90℃、120分間の条件で加熱し、加熱後のプロセス チーズ類をろ紙上から除いて、ろ紙に染み出したオイルの面積(平方センチメート ル)の値
【発明の効果】
【0010】
本発明は、製造適性と耐熱保形性を兼ね備え、かつ加熱時のオイルオフが抑制されたプロセスチーズ類を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のプロセスチーズ類について説明する。
(製造適性)
本願では、10℃のプロセスチーズ類3kgを5リットル容体積の縦型せん断式乳化機(ニチラク機械株式会社製)に入れ、プロセスチーズ類を1500rpmで撹拌しながら縦型せん断式乳化機のジャケット内に水蒸気を吹き込むことでプロセスチーズ類を80℃とし、80℃としたプロセスチーズ類をビスコテスターVT−04F型粘度計(ローター1又は2を使用、リオン株式会社製)を用いて測定し、測定により得られた粘度が300dPa・s以下となるものを、製造適性を有するプロセスチーズ類とした。
なお、製造適性の評価に用いる乳化機は、上記した縦型せん断式乳化機(ニチラク機械株式会社製)と同様の容量、攪拌能力、加温能力を有するものも用いることができる。
【0012】
(耐熱保形性)
本願では、10℃のプロセスチーズ類を直径30mm、高さ15mmの円柱状に成型し、成型した10℃のプロセスチーズ類をデッキオーブン(フジマック社製)で150℃、12分間の条件で加熱し、加熱後のプロセスチーズ類を室温にて室温とした時の高さH(mm)の値を用いて以下の式により得られる値を耐熱保形性とし、耐熱保形性が70%以上のものを、耐熱保形性を有するプロセスチーズ類とした。
耐熱保形性(%)=H/15×100
なお、耐熱保形性の評価に用いるオーブンは、上記したデッキオーブン(フジマック社製)と同様の加温能力を有するものも用いることができる。
【0013】
(オイルオフ)
本願では、10℃のプロセスチーズ類を直径10mm、高さ20mmの円柱状に成型し、ろ紙(JIS P 3801に規定される5種C規格、0.22mm厚)上に静置し、デッキオーブン(フジマック社製)で90℃、120分間の条件で加熱し、加熱後のプロセスチーズ類をろ紙上から除いて、ろ紙に染み出したオイルの面積(オイルオフ面積)を測定し、このオイルオフ面積が20平方センチメートル以下であるものをオイルオフが抑制されたプロセスチーズ類とした。
なお、オイルオフの評価に用いるオーブンは、上記したデッキオーブン(フジマック社製)と同様の加温能力を有するものも用いることができる。
【0014】
(プロセスチーズ類)
本願のプロセスチーズ類は、上記(製造適性)に記載した条件で測定した粘度が300dPa・s以下であるが、200dPa・s以下が好ましく、100dPa・s以下がさらに好ましい。
【0015】
本願のプロセスチーズ類は、上記の(耐熱保形性)に記載した条件で測定した耐熱保形性が70%以上であるが、90%以上が好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0016】
本願のプロセスチーズ類は、上記の(オイルオフ)に記載した条件で測定したこのオイルオフ面積が20平方センチメートル以下であるが、18平方センチメートル以下が好ましく、15平方センチメートル以下がさらに好ましい。
【0017】
(原材料)
本願のプロセスチーズ類の原材料と添加量について説明する。
本発明のプロセスチーズ類に使用する原料チーズは、特に限定はなく、チェダーチーズ、ゴーダチーズ、エダムチーズ、エメンタールチーズ、パルメザンチーズ、カマンベールチーズ、ブルーチーズ、クリームチーズ、クワルクチーズ、カッテージチーズなどが例示される。
原料チーズの添加量は、プロセスチーズ類中40重量%以上85重量%以下であればよ い。
【0018】
本発明のプロセスチーズ類の脂質含量は、10重量%以上35重量%以下であればよく、15重量%以上35重量%以下がより好ましく、20重量%以上35重量%以下がさらに好ましい。
【0019】
本発明のプロセスチーズ類に使用する溶融塩は、プロセスチーズ類の製造で一般に用いられるものであればどのようなものでも使用することができ、クエン酸塩、酒石酸塩、モノリン酸塩、ジリン酸塩、ポリリン酸塩等を例示できる。
溶融塩はこれらのうちのひとつ又は複数を用いることができるが、溶融塩中30重量%以上のジリン酸塩と、ポリリン酸塩と、を含む溶融塩が好ましく、ジリン酸塩の単独での使用がさらに好ましい。
溶融塩の添加量は、プロセスチーズ類中0.2重量%以上4重量%以下であればよいが、0.2重量%以上3重量以下が好ましく、1.2重量%以上2.5重量%以下がさらに好ましい。
【0020】
本発明のプロセスチーズ類に使用する乳化剤は、食品に使用でき、かつHLBが3以上12以下のものであればどのようなものでも使用することができ、HLBが3以上10以下のものが好ましく、HLBが3以上7以下のものがさらに好ましい。
乳化剤はグリセロール、プロピレングリコール、ソルビタン、ショ糖の各種脂肪酸エステル、レシチン等が例示できるが、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンから選択される1つ又は複数を用いるのが好ましい。
【0021】
乳化剤の添加量は、プロセスチーズ類中の脂質含量に対して0.25重量%以上45重量%以下であればよいが、0.5重量%以上40重量%以下が好ましく、1重量%以上30重量%以下がさらに好ましい。
【0022】
上記した原料チーズ、溶融塩、乳化剤の他に、バター、クリーム、脱脂粉乳、ホエー粉、バターミルク粉、全脂粉乳などの乳製品や、風味付けを目的として各種食品、香料、香辛料などを加えることについても特に制限はない。
【0023】
本願は、原料チーズの添加量と、プロセスチーズ類の脂質含量と、溶融塩の種類および添加量と、乳化剤のHLBおよび添加量と、を上記した条件を満たすように調整することを一様態として開示するものであり、これにより製造適性と耐熱保形性を有し、かつ加熱時のオイルオフが抑制されたプロセスチーズ類を得ることができる。
【0024】
(製造方法)
プロセスチーズ類の製造方法について説明する。
本発明のプロセスチーズ類の製造は、一般的なプロセスチーズ類の製法に従えばよい。すなわち、原料チーズ、溶融塩、乳化剤、およびその他の原材料を秤量し、これらを加熱乳化し、所望の容器に充填すればよい。
70℃程度で1時間〜20時間程度保持するエージング工程、通電加熱による瞬間高温処理工程等の特別な設備および工程は不要である。
【0025】
加熱乳化の温度は、65℃以上120℃以下であればよいが、70℃以上110℃以下が好ましく、75℃以上100℃以下がさらに好ましい。
加熱乳化に用いる乳化機は、ケトル乳化釜、チーズクッカー、サーモシリンダー、高速せん断式乳化機等の通常のプロセスチーズ類の製造に用いられるものであればどのようなものでも使用可能であり、通常のプロセスチーズ類の製造と同様の操作で製造することができる。
【0026】
加熱乳化後のプロセスチーズ類は、65℃以上で充填されるホットパック方式(ポーション、個別包装スライス、カルトン等)、15℃から35℃程度まで冷却しながら成型し、その後、さらに冷却して包装するコールドパック方式により充填・包装することができる。
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
表1に示す配合の実施例品1から実施例品5と比較例品1から比較例品3を調製した。また、表2に示す配合の実施例品6と実施例品7を調製した。
上記した実施例品1から実施例品7と比較例品1から比較例品3は以下の条件で調製した。すなわち、すべての原材料(40kg)を60リットル容体積の縦型せん断式乳化機(ニチラク機械株式会社製)に投入し、蒸気で加温しながら撹拌し、85℃達温後30秒間保持することで加熱乳化をおこない、加熱乳化後に塩化ビニル製の袋に500gを充填し、ヘッドスペースがないように包装し、10℃まで冷却した。
【0028】
(試験例)
調製した実施例品1から実施例品5と比較例品1から比較例品3を以下の3つの評価に供した。
(製造適性の評価)
10℃のプロセスチーズ類3kgを5リットル容体積の縦型せん断式乳化機(ニチラク機械株式会社製)に入れ、プロセスチーズ類を1500rpmで撹拌しながら縦型せん断式乳化機のジャケット内に水蒸気を吹き込むことでプロセスチーズ類を80℃とし、80℃としたプロセスチーズ類をビスコテスターVT−04F型粘度計(ローター1又は2を使用、リオン株式会社製)を用いて測定した。測定により得られた粘度が300dPa・s以下となるものを、製造適性を有するプロセスチーズ類とした。
(耐熱保形性の評価)
10℃のプロセスチーズ類を直径30mm、高さ15mmの円柱状に成型し、成型した10℃のプロセスチーズ類をデッキオーブン(フジマック社製)で150℃、12分間の条件で加熱し、加熱後のプロセスチーズ類を室温にて室温とした時の高さH(mm)の値を用いて以下の式により得られる値を耐熱保形性とした。耐熱保形性が70%以上のものを、耐熱保形性を有するプロセスチーズ類とした。
耐熱保形性(%)=H/15×100
(オイルオフの評価)
10℃のプロセスチーズ類を直径10mm、高さ20mmの円柱状に成型し、ろ紙(JIS P 3801に規定される5種C規格、0.22mm厚)上に静置し、デッキオーブン(フジマック社製)で90℃、120分間の条件で加熱し、加熱後のプロセスチーズ類をろ紙上から除いて、ろ紙に染み出したオイルの面積(オイルオフ面積)を測定した。このオイルオフ面積が20平方センチメートル以下であるものをオイルオフが抑制されたプロセスチーズ類とした。
【0029】
実施例品1から実施例品5および比較例品1から比較例品3の評価結果を表1に示す。
比較例品1および比較例品2が粘度が300dPa・s以上であり、プロセスチーズ類の製造時に必要となる流動性がなく、製造適性を有さなかった。
耐熱保形性は、比較例品3で30%と低く、70%を大きく下回り、耐熱保形性を有さなかった。オイルオフは、比較例品3で、40平方センチメートルであり20平方センチメートルを超過し、オイルオフが抑制されなかった。
【0030】
比較例品1から比較例品3に対して、実施例品1から実施例品5は、製造適性、耐熱保形性を有し、かつオイルオフも抑制されていた。
【0031】
(表1)
【0032】
実施例品6および実施例品7の評価結果を表2に示す。
実施例品6と実施例品7は、製造適性と耐熱保形性を有し、かつオイルオフも抑制されていた。
【0033】
(表2)