(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
「単位」とは、単量体が重合して直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。「単量体に基づく単位」は、以下、単に「単位」ともいう。なお、重合体が含む全単位に対する、それぞれの単位の含有量(モル%)は、含フッ素重合体の製造に際して使用する成分の仕込み量から決定できる。
「粒子」は、25℃にて固体である、つぶ状の物体である。
「粒子の平均粒子径」は、レーザー回折法を測定原理とした公知の粒度分布測定装置(Sympatec社製、商品名「Helos−Rodos」等。)を用いて測定される粒度分布より体積平均を算出して求められる値である。
「酸価」と「水酸基価」は、それぞれ、JIS K 0070−3(1992)の方法に準じて測定される値である。
「ガラス転移温度」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定される、重合体の中間点ガラス転移温度である。「ガラス転移温度」は「Tg」ともいう。
「溶融粘度」とは、回転式レオメータを用いて、10℃/分の昇温条件にて130℃から200℃まで重合体を昇温した際の、所定温度における重合体の溶融粘度の値である。
「数平均分子量」および「質量平均分子量」は、ポリスチレンを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される値である。「数平均分子量」は「Mn」ともいい、「質量平均分子量」は「Mw」ともいう。
【0010】
「体積粒度分布指標値」は、粒子の粒度分布を分割して得られる粒度範囲に対して、体積に関して小径側から累積分布を描いて、累積16%となる粒径を体積粒径D16v、累積84%となる粒径を体積粒径D84vと定義した場合に、(D84v/D16v)
1/2として算出される値である。「体積粒度分布指標」は、コールターマルチサイザーII(ベックマン−コールター社製)を用いて測定される粒子の粒度分布を基にして算定できる。なお、「体積粒度分布指標値」は、「GSDv」とも記す。
【0011】
「平均円形度」は、ランダムに選択した100個の粒子の円形度から、下記式により算出する値である(ただし、下記式中、Ciは円形度を示し、fiは粒子の頻度を示す)。円形度は、フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000(シスメックス社製)」を用いて測定した際の、粒子の投影像の周囲長に対する粒子の投影面積に等しい円の周囲長である。
【0013】
本発明の粉体塗料は、フルオロオレフィンに基づく単位を有する含フッ素重合体を含む粒子と、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を含む粒子とを含む。
また、該エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を含む粒子の平均粒子径が、1〜20μmである。
また、該含フッ素重合体を含む粒子の平均粒子径が、該エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を含む粒子の平均粒子径よりも大きい。
本発明の粉体塗料を加熱して形成される塗膜(以下、「本塗膜」ともいう。)は、基材密着性に優れる。これは、以下の理由によると推測される。
従来の粉体塗料を用いて形成される塗膜は、粉体塗料に含まれる樹脂の粒子が基材上にパッキングされて形成する際に、粒子間に空隙が生じる。その結果、粒子を溶融して塗膜化するときに、この空隙によって塗膜と基材との密着性が不十分になると推測される。
このような問題に対して、本発明の粉体塗料によれば、粒子径の異なる2種以上の粒子を用い、大きい方の粒子同士の隙間に小さい方の粒子が入り込むので、粒子間の空隙を小さくでき、その結果、本塗膜と基材との密着性が向上したと考えられる。
さらに、粉体塗料を基材に塗装する際、含フッ素重合体と、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂との帯電量の関係から、粒子径の小さいエポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を含む粒子の方が基材の表面に付着しやすく、粒子径の大きい含フッ素重合体を含む粒子は基材の表面から離れて堆積しやすい。したがって、基材の表面の僅かな凹凸に対して、粒子径の小さいエポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を含む粒子が密に付着するため、本塗膜と基材との密着性が向上したと考えられる。
【0014】
本発明の粉体塗料は、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を含む粒子であって、平均粒子径が1〜20μmである粒子(以下、「粒子E」ともいう。)を含む。
本発明の粉体塗料は、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂の一方の樹脂を含む粒子を含んでいればよく、エポキシ樹脂を含む粒子およびポリエステル樹脂を含む粒子の両方の粒子を含んでもよいし、エポキシ樹脂およびポリエステル樹脂の両方の樹脂を含む粒子を含んでもよい。
また、粒子Eは、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂のみからなっていてもよく、含フッ素重合体等の他の樹脂や後述する粉体塗料に含まれ得る成分をさらに含んでいてもよい。粒子Eは、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を主たる成分とするのが好ましく、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を25〜100質量%含むのが好ましい。
【0015】
エポキシ樹脂の具体例としては、三菱化学社製の「エピコート(登録商標) 1001」、「エピコート(登録商標) 1002」、「エピコート(登録商標) 4004P」、DIC社製の「エピクロン(登録商標) 1050」、「エピクロン(登録商標) 3050」、新日鉄住金化学社製の「エポトート(登録商標) YD−012」、「エポトート(登録商標) YD−014」、「エポトート(登録商標) YDCN704」、ナガセケムテックス社製の「デナコール(登録商標) EX−711」、ダイセル社製の「EHPE3150」が挙げられる。
【0016】
ポリエステル樹脂の具体例としては、ダイセル・オルネクス社製の「CRYLCOAT(登録商標) 4642−3」、「CRYLCOAT(登録商標) 4890−0」、「CRYLCOAT(登録商標) 4842−3」、日本ユピカ社製の「ユピカコート(登録商標) GV−250」、「ユピカコート(登録商標) GV−740」、「ユピカコート(登録商標) GV−175」、「ユピカコート(登録商標) GV−110」、DSM社製の「Uralac(登録商標) 1680」が挙げられる。
【0017】
粒子Eの平均粒子径は、1〜20μmであり、3〜20μmがより好ましく、5〜15μmが特に好ましい。これにより、含フッ素重合体を含む粒子間に粒子Eが配置されやすくなり、本塗膜の基材密着性が向上する。
粒子Eの平均円形度は、粉体塗料の流動性および本塗膜の平滑性の観点から、0.90以上が好ましく、0.92〜0.99がより好ましく、0.95〜0.99が特に好ましい。
粒子EのGSDvは、粉体塗料の帯電安定性および本塗膜の平滑性の観点から、1.30以下が好ましく、1.10〜1.30がより好ましく、1.15〜1.30が特に好ましい。
【0018】
粒子Eは、混練粉砕法、スプレードライ法、析出法等によってエポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を微粒子化して得られる。なお、粒子Eが後述する粉体塗料に含まれ得る成分(有機系紫外線吸収剤、有機系光安定剤、硬化剤、硬化触媒等の添加剤)を含む場合には、これらの成分を併用してもよい。
ここで、混練粉砕法とは、混練して乾燥させたエポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を粉砕して分級し、粒子Eを得る方法である。また、スプレードライ法とは、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を含む溶液を噴霧しつつ乾燥させて、粒子Eを得る方法である。また、析出法とは、溶媒とエポキシ樹脂またはポリエステル樹脂とを含み、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂が溶媒に溶解または粒子状に分散している溶液からエポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を晶析させて、粒子Eを得る方法である。
【0019】
本発明の粉体塗料は、含フッ素重合体を含む粒子(以下、「粒子F」ともいう。)を含む。粒子Fに含まれる含フッ素重合体は、フルオロオレフィンに基づく単位(以下、「単位F」ともいう。)を含む。
フルオロオレフィンは、水素原子の1個以上がフッ素原子で置換されたα−オレフィンである。フルオロオレフィンは、フッ素原子で置換されていない水素原子の1個以上が塩素原子で置換されていてもよい。
フルオロオレフィンの具体例としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレンおよびビニリデンフルオリドが挙げられる。フルオロオレフィンは、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
単位Fの含有量は、含フッ素重合体が有する全単位に対して、本塗膜の耐候性の観点から、20〜70モル%が好ましく、40〜60モル%がより好ましい。
【0020】
粒子Fに含まれる含フッ素重合体は、水酸基またはカルボキシ基を有する単量体(以下、「単量体C」ともいう。)に基づく単位(以下、「単位C」ともいう。)を含むのが好ましい。これにより、粒子Fの帯電が軽減され、粒子が密にパッキングされる。さらに、塗装において水酸基またはカルボキシ基が架橋点となって含フッ素重合体の架橋が進行するため、本塗膜の塗膜強度が向上する。また、水酸基またはカルボキシ基と基材表面との相互作用により、本塗膜の基材密着性が向上する。
粒子Fに含まれる含フッ素重合体は、水酸基を有する単量体に基づく単位(以下、「単位C1」ともいう。)およびカルボキシ基を有する単量体に基づく単位(以下、「単位C2」ともいう。)の両方を含んでもいてもよいし、一方のみを含んでもいてもよい。
単位C1を含む場合、硬化剤としてイソシアナート系硬化剤を用いると、本塗膜の塗膜強度がさらに向上する。また、単位C2を含む場合、カルボジイミド系硬化剤、アミン系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤またはエポキシ系硬化剤を用いると、本塗膜の塗膜強度がさらに向上する。特に、単位C2を含む場合に使用する硬化剤は、イソシアナート系硬化剤を使用する場合のような高温(200℃程度)を必要としない利点がある。
【0021】
水酸基を有する単量体の具体例としては、CH
2=CHO−CH
2−cycloC
6H
10−CH
2OH、CH
2=CHCH
2O−CH
2−cycloC
6H
10−CH
2OH、CH
2=CHOCH
2CH
2OH、CH
2=CHCH
2OCH
2CH
2OH、CH
2=CHOCH
2CH
2CH
2CH
2OH、CH
2=CHCH
2OCH
2CH
2CH
2CH
2OHおよびCH
2=CHCH
2OHが挙げられる。単量体C1は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
カルボキシ基を有する単量体の具体例としては、CH
2=CHCOOH、CH(CH
3)=CHCOOH、CH
2=C(CH
3)COOHおよび式CH
2=CH(CH
2)
n2COOHで表される化合物(ただし、n2は1〜10の整数を示す。)が挙げられる。
なお、本明細書においては、単位C1を含む含フッ素重合体の水酸基を、カルボキシ基を有する基に変換して、単位C2を含む含フッ素重合体としてもよい。具体的には、単位C1を含む含フッ素重合体と酸無水物(無水コハク酸、無水フタル酸等)とを反応させて、該含フッ素重合体の水酸基がカルボキシ基を有する基に変換された、単位C2を含む含フッ素重合体が挙げられる。
単量体C2は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
単位Cの含有量は、本塗膜の塗膜強度の観点から、粒子Fに含まれる含フッ素重合体が含む全単位に対して、3〜20モル%が好ましく、5〜15モル%がより好ましい。
【0023】
粒子Fに含まれる含フッ素重合体は、耐水性、耐薬品性、耐熱性、柔軟性等の塗膜物性を調整する観点から、さらに、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を有する、ビニルエーテル、ビニルエステルまたはアリルエステルに基づく単位(以下、「単位D」ともいう。)を含むのが好ましい。
上記ビニルエーテル、ビニルエステルまたはアリルエステルの具体例としては、エチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、ピバル酸ビニルエステル、ネオノナン酸ビニルエステル(HEXION社製、商品名「ベオバ9」。)、ネオデカン酸ビニルエステル(HEXION社製、商品名「ベオバ10」。)、安息香酸ビニルエステル、tert−ブチル(メタ)アクリレート、およびベンジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記ビニルエーテル、ビニルエステルまたはアリルエステルは、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
単位Dの含有量は、含フッ素重合体が有する全単位に対して、0〜50モル%が好ましく、25〜40モル%がより好ましい。
【0024】
粒子Fの平均粒子径は、粒子Eの平均粒子径よりも大きければ特に限定されず、通常20μm超100μm以下であり、25〜90μmが好ましく、25〜80μmがより好ましい。
【0025】
粒子Fに含まれる含フッ素重合体の200℃における溶融粘度は、5〜200Pa・sが好ましく、本塗膜の表面平滑性の観点から、5〜150Pa・sがより好ましく、5〜100Pa・sがさらに好ましい。
含フッ素重合体のTgは、粉体塗料の耐ブロッキング性の観点から、35〜150℃が好ましく、40〜100℃がより好ましく、50〜60℃がさらに好ましい。
含フッ素重合体のMnは、本塗膜の柔軟性の観点から、2000〜30000が好ましく、5000〜20000がより好ましく、8000〜18000がさらに好ましい。
含フッ素重合体のMnに対するMwの比は、本塗膜の耐衝撃性の観点から、1.0〜8.0が好ましく、1.0〜6.0がより好ましく、1.0〜5.0がさらに好ましい。
含フッ素重合体が単位C1を含む含フッ素重合体である場合、該含フッ素重合体の水酸基価は、1〜150mgKOH/gが好ましく、3〜100mgKOH/gがより好ましく、5〜50mgKOH/gがさらに好ましい。この範囲において、含フッ素重合体の架橋密度による本塗膜の柔軟性、耐衝撃性および基材密着性と、含フッ素重合体の熱安定性とがバランスする。
含フッ素重合体が単位C2を含む含フッ素重合体である場合、該含フッ素重合体の酸価は、1〜150mgKOH/gが好ましく、3〜100mgKOH/gがより好ましく、5〜50mgKOH/gがさらに好ましい。この範囲において、含フッ素重合体の架橋密度による本塗膜の柔軟性、耐衝撃性および基材密着性と、含フッ素重合体の熱安定性とがバランスする。
【0026】
粒子Fは、上述した粒子Eと同様の方法で製造できる。また、粒子Fは、含フッ素重合体のみからなっていてもよく、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等の他の樹脂や後述する粉体塗料に含まれ得る成分をさらに含んでいてもよい。粒子Fは、含フッ素重合体を主たる成分とするのが好ましく、含フッ素重合体を25〜100質量%含むのが好ましい。
【0027】
基材上に、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を主とする層と、含フッ素重合体を主とする層とが、この順に積層した本塗膜が得られやすい観点から、含フッ素重合体のSP値と、他の樹脂のSP値との差は、絶対値で0.4〜16(J/cm
3)
1/2が好ましい。なお、エポキシ樹脂およびポリエステル樹脂の両方を含む場合には、その両方の樹脂のSP値と、含フッ素重合体のSP値と、が上記関係にあるのが好ましい。
本発明の粉体塗料中における、含フッ素重合体に対する、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂(両方の樹脂を含む場合はその合計量)の質量比は、0.3〜3.5が好ましく、0.35〜3がより好ましい。
【0028】
本発明の粉体塗料は、本塗膜の耐光性の観点から、有機系紫外線吸収剤をさらに含むのが好ましい。
有機系紫外線吸収剤としては、サリチル酸エステル系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系化合物等が挙げられる。
有機系紫外線吸収剤の具体例としては、BASF製の「Tinuvin 326」(分子量:315.8、融点:139℃)、「Tinuvin 405」(分子量:583.8、融点:74〜77℃)、「Tinuvin 460」(分子量:629.8、融点:93〜102℃)、「Tinuvin 900」(分子量:447.6、融点:137〜141℃)、「Tinuvin 928」(分子量:441.6、融点:109〜113℃)、Clariant製の「Sanduvor VSU powder」(分子量:312.0、融点:123〜127℃)、Clariant製の「Hastavin PR−25 Gran」(分子量:250.0、融点:55〜59℃)が挙げられる。
有機系紫外線吸収剤は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の粉体塗料が有機系紫外線吸収剤を含む場合、有機系紫外線吸収剤の含有量は、粉体塗料の全質量に対して、0.01〜15質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましい。
【0029】
本発明の粉体塗料は、紫外線から本塗膜を保護する観点から、有機系光安定剤を含むのが好ましい。
有機系光安定剤としては、ヒンダードアミン化合物が好ましい。ヒンダードアミン化合物の具体例としては、BASF製の「Tinuvin 111FDL」(分子量:2,000〜4,000、融点:63℃)、「Tinuvin 144」(分子量:685、融点:146〜150℃)、「Tinuvin 152」(分子量:756.6、融点:83〜90℃)、Clariant製の「Sanduvor 3051 powder」(分子量:364.0、融点:225℃)、Clariant製の「Sanduvor 3070 powder」(分子量:1,500、融点:148℃)、Clariant製の「VP Sanduvor PR−31」(分子量:529、融点:120〜125℃)が挙げられる。
有機系光安定剤は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の粉体塗料が有機系光安定剤を含む場合、有機系光安定剤の含有量は、粉体塗料の全質量に対して、0.01〜15質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましい。
【0030】
本発明の粉体塗料は、硬化剤を含むのが好ましい。硬化剤は、水酸基またはカルボキシ基と反応し得る基を2以上有する化合物であって、含フッ素重合体を架橋させる化合物である。硬化剤は、該反応し得る基を、通常2〜30有する。
含フッ素重合体が単位C1を含む場合には、硬化剤は、イソシアナート基を有する化合物またはブロック化イソシアナート基を2以上有する化合物が好ましい。
含フッ素重合体が単位C2を含む場合には、硬化剤は、エポキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、またはβ−ヒドロキシアルキルアミド基を2以上有する化合物が好ましい。
【0031】
イソシアナート基を2以上有する化合物の具体例としては、イソホロンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート等の脂環族ポリイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート等の脂肪族ポリイソシアナート、および、これらの変性体が挙げられる。
【0032】
ブロック化イソシアナート基を2以上有する化合物の具体例としては、ジイソシアナート(トリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)、メチルシクロヘキサンジイソシアナート、ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサンイソホロンジイソシアナート、ダイマー酸ジイソシアナート、リジンジイソシアナート等)とブロック化剤とを反応させて得られる化合物が挙げられる。
ブロック化剤の具体例としては、アルコール、フェノール、活性メチレン、アミン、イミン、酸アミド、ラクタム、オキシム、ピラゾール、イミダゾール、イミダゾリン、ピリミジン、グアニジン等が挙げられる。
【0033】
エポキシ基を2以上有する化合物の具体例としては、トリグリシジルイソシアヌレート(以下、「TGIC」と称する。)、TGICのグリシジル基部分にメチレン基を導入した「TM239」(日産化学工業社製)、トリアジン骨格を有するエポキシ化合物である「TEPIC−SP」(日産化学工業社製)、トリメリット酸グリシジルエステルとテレフタル酸グリシジルエステルの混合物である「PT−910」(HUNTSMAN社製)が挙げられる。
【0034】
カルボジイミド基を2以上有する化合物の具体例としては、ジカルボジイミドおよびポリカルボジイミド(ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフタレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等)が挙げられる。
【0035】
オキサゾリン基を2以上有する化合物の具体例としては、日本触媒社製のエポクロス WS−500、WS−700、K−2010、K−2020、K−2030(以上、全て商品名)が挙げられる。
β−ヒドロキシアルキルアミド基を2以上有する化合物の具体例としては、PrimidXL−552(EMS社製)が挙げられる。
本発明の粉体塗料が硬化剤を含む場合、硬化剤の含有量は、粉体塗料中の含フッ素重合体の全質量に対して、1〜50質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。
【0036】
本発明の粉体塗料は、硬化触媒を含んでもよい。硬化触媒は、硬化剤を用いた際の硬化反応を促進する化合物であり、硬化剤の種類に応じて、公知の硬化触媒から選択できる。
【0037】
本発明の粉体塗料は、必要に応じて上記以外の成分、例えば、無機系紫外線吸収剤、つや消し剤、レベリング剤、表面調整剤、脱ガス剤、可塑剤、充填剤、熱安定剤、増粘剤、分散剤、界面活性剤、帯電防止剤、防錆剤、シランカップリング剤、防汚剤、低汚染化処理剤等を含んでもよい。
【0038】
本発明の粉体塗料は、上記エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を含む粒子と、上記含フッ素重合体を含む粒子と、を含んでいればよく、他の成分を含んでいてもよい。
例えば、本発明の粉体塗料は、上記エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を含む粒子と、上記含フッ素重合体を含む粒子と、必要に応じて他の成分(有機系紫外線吸収剤、有機系光安定剤、硬化剤、硬化触媒、他の添加剤等)と、をドライブレンドして製造できる。
【0039】
本発明の塗膜付き基材は、本発明の粉体塗料により形成された塗膜(本塗膜)を有する。
基材の材質の具体例としては、無機物、有機物、有機無機複合材が挙げられる。
無機物の具体例としては、コンクリート、自然石、ガラス、金属(鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮、チタン、これらの合金等)が挙げられる。
有機物の具体例としては、プラスチック、ゴム、接着剤、木材が挙げられる。
有機無機複合材の具体例としては、繊維強化プラスチック、樹脂強化コンクリート、繊維強化コンクリートが挙げられる。
基材は、金属が好ましく、アルミニウムまたはアルミニウム合金がより好ましい。アルミニウム製の基材は、防食性に優れ、軽量で、外装部材等の建築材料用途に適している。
基材は、化成処理等の表面処理がされている基材であってもよい。
基材としてアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材を用いる場合、基材は化成処理薬剤で表面処理されているのが好ましい。言い換えると、基材は、化成処理被膜をその表面上に有する、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材が好ましい。
化成処理薬剤の種類は、クロムを含まない化成処理薬剤が好ましく、ジルコニウム系化成処理薬剤またはチタニウム系化成処理薬剤がより好ましい。
【0040】
基材の形状、サイズ等は、特に限定されない。
基材の具体例としては、コンポジットパネル、カーテンウォール用パネル、カーテンウォール用フレーム、ウィンドウフレーム等の建築用の外装部材、タイヤホイール、自動車部材、建機、自動2輪等の輸送機器の部材が挙げられる。
【0041】
本塗膜の厚さは、20〜1000μmが好ましく、20〜500μmがより好ましい。 特に、アルミニウムカーテンウォール等の高層ビル用の部材等の用途では、20〜90μmが好ましい。海岸沿いに設置されたエアコンの室外機、信号機のポール、標識等の耐候性の要求が高い用途では、100〜200μmが好ましい。
【0042】
本発明の塗膜付き基材の製造方法は、本発明の粉体塗料を基材上に付与して塗装層を形成し、該塗装層を加熱処理して基材上に本塗膜を形成して製造するのが好ましい。
塗装層の形成方法としては、静電塗装法、静電吹付法、静電浸漬法、噴霧法、煙霧法、流動浸漬法、吹付法、スプレー法、溶射法、プラズマ溶射法等の塗装法によって、本発明の粉体塗料を基材上に塗装する方法が好ましい。本塗膜の表面平滑性と隠蔽性の観点から、粉体塗装ガンを用いた静電塗装法または煙霧法が好ましい。
粉体塗装ガンの具体例としては、コロナ帯電型塗装ガン、摩擦帯電型塗装ガンが挙げられる。コロナ帯電型塗装ガンは、粉体塗料をコロナ放電処理して吹き付ける塗装ガンである。摩擦帯電型塗装ガンは、粉体塗料を摩擦帯電処理して吹き付ける塗装ガンである。
【0043】
塗装層を加熱処理する際は、基材上の塗装層を加熱して、基材上に粉体塗料の溶融物からなる溶融膜を形成するのが好ましい。なお、溶融膜の形成は、基材への塗装層の形成と同時にしてもよく、塗装層を形成した後に別途行ってもよい。
粉体塗料を加熱して溶融し、その溶融状態を所定時間維持するための加熱温度と加熱維持時間は、粉体塗料の組成、塗膜の膜厚等により適宜設定される。
加熱温度は、通常120℃〜300℃であり、140℃〜250℃がより好ましい。加熱維持時間は、通常2〜60分間である。
基材上に形成された溶融膜は、20〜25℃まで冷却することにより、本塗膜を形成させるのが好ましい。冷却は、急冷してもよく徐冷してもよく、本塗膜の基材密着性の観点から、徐冷が好ましい。
【0044】
本発明の塗装物品の製造方法の好適態様の一つとしては、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化処理による被膜を形成した後、上記粉体塗料を塗装して塗装層を形成し、該塗装層を硬化させて該基材の表面に本塗膜を形成する、塗装物品の製造方法(以下、「二次電解着色法」ともいう。)が挙げられる。
ここで、陽極酸化処理によって形成される被膜は、無数の細孔が形成された多孔質被膜である。そのため、微細な平均粒子径をもつ粒子Eを含む粉体塗料であれば、該多孔質被膜の細孔に均一に入り込み、塗装層の基材密着性がより向上する。
【0045】
陽極酸化処理は、硫酸、リン酸等の無機酸、またはシュウ酸等の有機酸を含む電解液中で、基材を陽極に接続して、電流を印加して実施される。
陽極酸化処理の前には、基材表面の脱脂またはエッチング処理が実施されてもよい。エッチング処理によって、基材表面の自然酸化被膜を除去できる。
【0046】
二次電解着色法において、陽極酸化被膜処理の後、粉体塗料の塗装前に、陽極酸処理によって形成された被膜に対して、電解着色処理をしてもよい。また、電解着色処理後、粉体塗料の塗装前に、仮封孔処理をしてもよい。
粉体塗料の塗装方法としては、上述した通り各種方法が用いられるが、静電塗装法であるのが好ましい。二次電解着色方式において、塗装層を硬化させる際の加熱温度は、200℃以下が好ましい。
【0047】
本発明の塗装物品は、本発明の塗膜付き基材を有する。したがって、本発明の塗装物品は、基材密着性に優れる塗膜を有するため、加工性と高耐久性を求められる用途にも好適に使用できる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0049】
〔粉体塗料の製造に使用した成分〕
(含フッ素重合体)
単位F:クロロトリフルオロエチレン(CTFE)
単位C:4−ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)
単位D:シクロヘキシルビニルエーテル(CHVE)、エチルビニルエーテル(EVE)
(含フッ素重合体以外の重合体)
エポキシ樹脂:新日鉄住金化学社製、エポトート(商品名)YDCN704
ポリエステル樹脂:日本ユピカ社製、GV−110
【0050】
(添加剤)
硬化剤:ブロック化イソシアナート基を2以上有する化合物(エボニック社製、ベスタゴン(登録商標)B1530)
表面調整剤:ビックケミー社製、BYK−360P(商品名)
脱ガス剤:ベンゾイン
顔料:酸化チタン顔料(デュポン社製、Ti−Pure R960(商品名)、酸化チタン含有量:89質量%)
硬化触媒:ジブチルスズジラウレートのキシレン溶液(100倍希釈品)
【0051】
[含フッ素重合体の製造例]
〔例1〕
オートクレーブに、CTFE(387g)、CHVE(326g)、HBVE(84.9g)、炭酸カリウム(12.3g)、キシレン(503g)およびエタノール(142g)を導入して昇温し、65℃に保持した。続いて、オートクレーブ内に、tert−ブチルペルオキシピバレートの50質量%キシレン溶液(20mL)を添加して11時間重合した。続いて、オートクレーブ内溶液をろ過し、得られたろ液を脱気し、含フッ素重合体を含む溶液を得た。該溶液を、65℃にて24時間真空乾燥し、さらに130℃にて20分間真空乾燥して得られるブロック状の含フッ素重合体を粉砕して、粉末状の含フッ素重合体1を得た。
含フッ素重合体1は、CTFEに基づく単位、CHVEに基づく単位およびHBVEに基づく単位を、この順に50モル%、39モル%および11モル%含む重合体であった。含フッ素重合体1の詳細な物性を表1に示す。
【0052】
〔例2〕
例1の粉末状の含フッ素重合体1をメチルエチルケトンに溶解させてなるワニス(220g)に、無水コハク酸(9.8g)および触媒としてトリエチルアミン(0.70g)を加え、75℃で5時間反応させて、含フッ素重合体1を含む溶液を得た。該溶液を、65℃にて24時間真空乾燥し、さらに130℃にて20分間真空乾燥して得られるブロック状の含フッ素重合体を粉砕して、粉末状の含フッ素重合体2を得た。
含フッ素重合体2は、CTFEに基づく単位、CHVEに基づく単位、HBVEに基づく単位、およびHBVEに基づく単位の水酸基に無水コハク酸が付加して形成された単位(側鎖に−O(CH
2)
4OC(O)CH
2CH
2COOHを有する単位。以下、「HBVE−SA」ともいう。)を、この順に50モル%、39モル%、4モル%および7モル%含む重合体であった。含フッ素重合体2の詳細な物性を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
[粉体塗料の製造例]
〔例3および例4〕
表2に記載の、粒子に含まれる成分、トリデシルホスファイト(0.12g)、およびメチルエチルケトン(67g)を均一になるまで混合して得られた溶液を用いて、スプレードライ法によって、平均粒子径が15μmの粒子1および2をそれぞれ得た。
【0055】
〔例5〜例7〕
表2に記載の、粒子に含まれる成分を高速ミキサ(佑崎有限公司社製)にて混合し、2軸押出機(サーモプリズム社製、16mm押出機)を用いて、120℃のバレル設定温度にて溶融混練して、ペレットを得た。該ペレットを粉砕機(FRITSCH社製、製品名:ロータースピードミルP14)を用いて25℃で粉砕し、さらに150メッシュの網を用いて分級して、平均粒子径が40μmの粒子3〜5をそれぞれ得た。
例3〜例7で得られた粒子1〜5の詳細な物性を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
粒子1の70質量部と、粒子3の30質量部とを高速ミキサにて混合し、粉体塗料1を得た。混合する粒子の種類を表3のように変更する以外は、同様にして、粉体塗料2〜4を得た。得られた粉体塗料の粒子組成(質量%)を、表3にまとめて示す。
【0058】
[粉体塗料の使用例]
〔例8〜例11〕
粉体塗料1を、クロメート処理されたアルミニウム板(基材)の一面に、静電塗装機(小野田セメント社製、GX3600C)を用いて静電塗装し、200℃雰囲気中で20分間保持して、粉体塗料から形成された厚さ55〜65μmの塗膜付きアルミニウム板1を得た。得られた塗膜付きアルミニウム板を試験片1として、後述の評価に供した。
粉体塗料1を粉体塗料2〜4に変更する以外は同様にして、塗膜付きアルミニウム板2〜4および試験片2〜4を得た。得られた試験片2〜4を後述の評価に供した。
【0059】
[塗膜の評価方法]
(塗膜の基材密着性1)
クロスカット法(JIS K 5600−5−6)によって判定した。得られた試験片の塗膜を1mm間隔100マスの碁盤目状にカットし、その上に粘着テープを貼付し、続けてその粘着テープを剥離したときに、100マスのうち、粘着テープによって剥離しなかったマス目の数(マス数/100)から、以下の基準で基材密着性を評価した。
○:マス数が90以上である。
×:マス数が90未満である。
(塗膜の基材密着性2)
円筒形マンドレル法(JIS K 5600−5−1)によって判定した。得られた試験片の塗膜面を外にして、規定された半径のマンドレルに沿って折り曲げたときに、塗膜の表面に割れやはがれ等の致命的な変状が生じるかを目視で評価した。
○:半径2mm未満でも割れやはがれが生じない。
×:半径2mm以上でも割れやはがれが生じる。
評価結果を、表3にまとめて示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3に示すように、含フッ素重合体を含む粒子と、平均粒子径が所定範囲にあるエポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を含む粒子とを含み、該含フッ素重合体を含む粒子の平均粒子径が、該エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂を含む粒子の平均粒子径よりも大きい粉体塗料を用いて形成された塗膜は、塗膜の基材密着性に優れていた。