特許第6942996号(P6942996)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6942996ビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法、並びに二官能かご型シルセスキオキサン誘導体、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6942996
(24)【登録日】2021年9月13日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】ビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法、並びに二官能かご型シルセスキオキサン誘導体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/21 20060101AFI20210916BHJP
【FI】
   C07F7/21CSP
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-71115(P2017-71115)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-214351(P2017-214351A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2020年1月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-105153(P2016-105153)
(32)【優先日】2016年5月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭太
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】白井 裕行
(72)【発明者】
【氏名】熊木 尚
(72)【発明者】
【氏名】亀井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】会津 和郎
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101906116(CN,A)
【文献】 特表2005−509042(JP,A)
【文献】 国際公開第01/010871(WO,A1)
【文献】 特開2012−138503(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/153876(WO,A1)
【文献】 MAEGAWA, T et al.,Synthesis and Polymerization of a para-Disubstituted T8-caged Hexaisobutyl-POSS Monomer,Chemistry Letters,2014年,Vol. 43,pp. 1532-1534
【文献】 MAEGAWA, T et al.,para-Bisvinylhexaisobutyl-substituted T8 caged monomer: synthesis and hydrosilylation polymerization,Polymer Chemistry,2015年,Vol. 6,pp. 7500-7504
【文献】 ATA, S et al.,Thermally amendable and thermally stable thin film of POSS tethered Poly(methyl methacrylate)(PMMA) synthesized by ATRP,European Polymer Journal,2016年,Vol. 75,pp. 276-290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアルコキシシランと、下記一般式(II)で表されるビニルアルコキシシランと、LiOHとを水存在下で反応させる工程と、クロマトグラフィー法による分離精製工程と、を有する下記一般式(III)で表されるビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
【化1】
[一般式(I)中、Rは炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を表す。Rはそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を表す。
一般式(II)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を表す。
一般式(III)中、Rは一般式(I)と同じ炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を表す。]
【請求項2】
前記反応させる工程が生成物を酸で処理することを含む、請求項1に記載のビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(I)で表されるアルコキシシランと、一般式(II)で表されるビニルアルコキシシランとモル比率80:20〜50:50で反応させる、請求項1又は2に記載のビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記クロマトグラフィー法が液体順相である、請求項1〜のいずれか一項に記載のビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記クロマトグラフィー法で用いる展開溶剤がヘキサンを含む有機溶剤である、請求項1〜のいずれか一項に記載のビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(1)で表される、二官能かご型シルセスキオキサン誘導体。
【化3】
[一般式(1)中、Rは、直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、Xは、単結合を表し、Yは、炭素数1〜25の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、炭素数3〜25のシクロアルキレン基、または炭素数6〜25のアリーレン基を表し、2個の−X−CH−CH−S−Y−OHで表される基は、互いに同一であっても、異なってもよい。]
【請求項7】
下記一般式(2)で表されるケイ素化合物と下記一般式(3)で表されるチオール化合物とを反応させて、下記一般式(1)で表される二官能かご型シルセスキオキサン誘導体を製造する工程を含む、二官能かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
【化4】
[一般式(2)中、Rは、直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、Xは、単結合を表。]
【化5】
[一般式(3)中、Yは、炭素数1〜25の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、炭素数3〜25のシクロアルキレン基、または炭素数6〜25のアリーレン基を表す。]
【化6】
[一般式(1)中、Rは、直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、Xは、単結合を表し、Yは、炭素数1〜25の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、炭素数3〜25のシクロアルキレン基、または炭素数6〜25のアリーレン基を表し、2個の−X−CH−CH−S−Y−OHで表される基は、互いに同一であっても、異なってもよい。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、ビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法に関する。また、本発明の他の実施形態は、二官能かご型シルセスキオキサン誘導体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にアルコキシド基に代表される、3つの加水分解性基を有する有機ケイ素化合物はシランカップリング剤として既に広く使用されている。このシランカップリング剤を加水分解した後、縮合して得られるシルセスキオキサン化合物には、特定の構造がないランダム構造、構造を決定できるラダー構造やかご型構造があることが知られている。特に、かご型構造のシルセスキオキサンは耐熱性、電気絶縁性、透明性などにおいて優れた特性をもつことから、半導体や電子材料として注目され、数多くの研究が報告されている。
【0003】
これらのうち、8つのSiから構成され、対称性の高いかご型シルセスキオキサンはT8と呼ばれている。このT8ではSi上の8つの置換基のすべてが反応性置換基に変換された誘導体、即ち8置換T8、もしくは1つが他の反応性置換基に変換された誘導体、即ち一置換X−T8は置換基の異なる数多の誘導体が商品化されている(特許文献1及び2)。
【0004】
また、このT8のうち、Si上の2つが他の反応性置換基に変換された誘導体、即ち二置換2X−T8は、例えば非特許文献1のように、2種類のトリアルコキシシランもしくはトリクロロシラン化合物から合成できることが知られている。しかし、反応性置換基がビニル基の場合、合成原料となるビニルトリクロロシランやアルキルトリクロロシランは水との反応性が高く、大気中の水蒸気とさえ反応してしまう。また、反応の副生成物として発生する塩酸ガスは腐食性が高く、ガラスコーティングなどを施した特殊な製造設備が必要となってくる。また、クロロシランから生成するシラノールは酸存在下で縮合を起こしやすく、熱力学的に安定な生成物以外に速度論的な反応機構で副生成物が生じてしまい、目的の化合物の収率が減少する傾向がある。そのため、目的の二置換2X−T8を収率良く得るためには反応条件や反応原料の仕込み比に工夫が必要となる。
【0005】
最近になって、非特許文献2や3のように、一置換X−T8から2段階でp位の二置換2X−T8を選択的に合成する方法が提案された。二置換2X−T8は高分子主鎖にシルセスキオキサンを精密に導入できることから、これまでにない特性をもつ高分子が期待される。しかし、この方法は原料のシラン化合物から一置換X−T8までの合成に2段階必要なことから、結果的に4段階の製造法となってしまう。また、高分子主鎖に導入した場合、o位やm位の二置換2X−T8が必ずしも特性低下を招くとは考えらないため、工業的には選択的なp位二置換2X−T8の製造方法に制約されるものではない。
【0006】
また、非特許文献2や3の方法は、トリアルコキシシランもしくはトリクロロシラン化合物から合成するため、上記非特許文献1と同様の問題がある。更に、トリアルコキシシランもしくはトリクロロシラン化合物として存在しない官能基を導入することは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5362160号公報
【特許文献2】特表2005−509042号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Organometallic Chemistry,(1994),483,33〜38
【非特許文献2】Chemistry Letters,(2014),43,1532〜1534
【非特許文献3】Polymer Chemistry,(2015),6,7500〜7504
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
工業的に優れた二置換ビニル−T8を製造する方法を提供するもので、本発明の一実施形態は、ビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法を提供することを一課題とする。
また、本発明の他の実施形態は、新規のヒドロキシ基を有する官能基が2個導入された二官能かご型シルセスキオキサン誘導体、及びその製造方法を提供することを一課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
[1]下記一般式(I)で表されるアルコキシシランと、下記一般式(II)で表されるビニルアルコキシシランと、塩基性化合物とを水存在下で反応させる工程と、クロマトグラフィー法による分離精製工程と、を有する下記一般式(III)で表されるビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
【0011】
【化1】
[一般式(I)中、Rは炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を表す。Rはそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を表す。一般式(II)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を表す。一般式(III)中、Rは一般式(I)と同じ炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を表す。]
[2]前記反応させる工程が生成物を酸で処理することを含む、上記[1]に記載のビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
[3]前記塩基性化合物が下記(IV)表される化合物である上記[1]又は[2]に記載のビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
【0012】
【化2】
[一般式(IV)中、MはLi、Na、Kからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含む。]
[4]前記一般式(I)で表されるアルコキシシランと、一般式(II)で表されるビニルアルコキシシランとのモル比率が80:20〜50:50である上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載のビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
[5]前記クロマトグラフィー法が液体順相である上記[1]〜[4]のいずれか一項に記載のビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
[6]前記クロマトグラフィー法で用いる展開溶剤がヘキサンを含む有機溶剤である上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載のビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
【0013】
[7]下記一般式(1)で表される、二官能かご型シルセスキオキサン誘導体。
【化3】
[一般式(1)中、Rは、直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、Xは、単結合、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、または炭素数6〜14のアリーレン基を表し、Yは、炭素数1〜25の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、炭素数3〜25のシクロアルキレン基、または炭素数6〜25のアリーレン基を表し、2個の−X−CH−CH−S−Y−OHで表される基は、互いに同一であっても、異なってもよい。]
【0014】
[8]下記一般式(2)で表されるケイ素化合物と下記一般式(3)で表されるチオール化合物とを反応させて、二官能かご型シルセスキオキサン誘導体を製造する工程を含む、二官能かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法。
【化4】
[一般式(2)中、Rは、直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、Xは、単結合、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、または炭素数6〜14のアリーレン基を表し、2個の−X−CH=CHで表される基は、互いに同一であっても、異なってもよい。]
【化5】
[一般式(3)中、Yは、炭素数1〜25の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、炭素数3〜25のシクロアルキレン基、または炭素数6〜25のアリーレン基を表す。]
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、安価な製造設備を用いて一段階の反応で、二置換ビニル−T8を収率良く製造できる。
本発明の他の実施形態によれば、ヒドロキシ基を有する官能基が2個導入された二官能かご型シルセスキオキサン誘導体、及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1の各フラクション分割を示す図。
図2】実施例1の各フラクションのMALDI−TOF MS測定結果。
図3】実施例1の各フラクションのH NMRスペクトル。
図4】実施例1の各フラクションの13C NMRスペクトル。
図5】実施例1の各フラクションの29Si NMRスペクトル。
図6】ビスビニルPOSSの位置異性体。
図7】実施例2のMALDI−TOF MS測定結果。
図8】実施例1のビスビニルPOSSの1H NMRスペクトル。
図9】実施例2のH NMRスペクトル。
図10】実施例1のビスビニルPOSSの13C NMRスペクトル。
図11】実施例2の13C NMRスペクトル。
図12】実施例1のビスビニルPOSSの29Si NMRスペクトル。
図13】実施例2の29Si NMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について説明するが、以下の例示によって本発明は限定されない。
「ビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法」
(一般式(I)で表される化合物、アルコキシシラン)
本発明の製法では、下記一般式(I)で表される化合物の少なくとも1種を用いる。
【0018】
【化6】
【0019】
一般式(I)中、Rはアルキル基もしくはアリール基を表す。炭素数1〜12のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜8のアルキル基であることがより好ましい。Rで表されるアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。メチル基、エチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、イソオクチル基、フェニル基等を挙げることができる。一般式(I)において、Rはそれぞれ独立してアルキル基を表し、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。Rで表されるアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。Rで表されるアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基等を挙げることができる。中でもRで表されるアルキル基は、反応性の制御の観点から、炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
【0020】
(一般式(II)で表される化合物、ビニルアルコキシシラン)
【0021】
【化7】
一般式(II)において、Rはそれぞれ独立してアルキル基を表し、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。Rで表されるアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。Rで表されるアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基等を挙げることができる。中でもRで表されるアルキル基は、反応性の制御の観点から、炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
【0022】
(一般式(III)で表される化合物)
【0023】
【化8】
一般式(III)の化合物は二置換ビニル−T8を表す。T8とは8つのSiから構成され、対称性の高いかご型シルセスキオキサンの総称である。二置換とは8つのSiに結合した有機基のうち、2つが反応性置換基であることを意味し、一般式(III)の場合はビニル基となる。有機基は、一般式(I)に由来するRと同一のものとなる。また、ビニル基が結合している位置については、ベンゼン環と同じような命名則を当てはめれば、酸素を一つ介した2つのSiにビニル基があるo位、酸素−Si−酸素を介した2つのSiにビニル基があるm位、さらに、対角の位置になるp位の3種類がある。本発明では、この3種類のうちいずれの構造でもよい。また、少なくとも3種のうち一つ以上の構造を含んでいればよい。
【0024】
(一般式(IV)で表される化合物)
【0025】
【化9】
本発明で用いる塩基性化合物は一般式(IV)で表される化合物であることが好ましい。
一般式(IV)において、MはLi、Na、Kからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含むものであれば特に制限はない。但し、反応性の制御や収率の観点から、Liであることが好ましい。塩基性や求核性がやや低下したアルカリ金属水酸化物は良い選択性を示し、反応性置換基Xの付け根のSiが優先的に脱離する。特にこのなかでLi水酸化物は塩基性や求核性が最も低く、シラン原料の仕込み比に応じた熱力学的に安定な生成物を得るのに有利である。
【0026】
製造を行う媒体に特に制限はないが、前記一般式(I)で表されるアルコキシシランと、一般式(II)で表されるビニルアルコキシシランとの相溶性が高く、混合した場合には均一の溶液を与え、一方で一般式(IV)のM(OH)との相溶性が低く、混合した場合には溶解せずにM(OH)が系中に残存している溶剤が好ましい。均一に分散したシラン原料は熱力学的に安定な生成物を与えることに有利である。また、M(OH)濃度は反応中に系内で低濃度のまま一定である方が、熱力学的に安定な生成物を与えることに有利である。
また、溶媒に水を添加することで、水存在下で反応を進行させることができる。水は、一般式(I)で表されるアルコキシシランと一般式(III)で表されるビニルアルコキシシランの合計100質量部に対して、5〜15質量部で添加すればよい。
【0027】
シラン原料である一般式(I)で表されるアルコキシシランと、一般式(II)で表されるビニルアルコキシシランとのモル比率は、二置換ビニル−T8が生成すれば特に制限はない。仕込み比に応じて統計熱力学的に化合物が得られるとすると、二置換ビニル−T8が目的化合物の場合、75:25が最も収率が大きくなると期待されるモル比率となる。そのためモル比率は90:10〜40:60が好ましい。さらに、同時に生成するT8、一置換ビニル−T8、三置換ビニル−T8を順相のクロマトグラフィーで除去することを考えると、85:15〜45:55が好ましい。さらに、好ましくは80:20〜50:50がよい。
【0028】
合成を実施する際の媒体は、前述のようにLiOHに対する溶解性が低く、シラン原料や水とは相溶するものが好ましい。具体的にはメタノールとアセトンの混合溶媒が好ましい。このとき、混合する比率に特に制限はない。
また、合成を実施するときの温度に特に制限はない。但し反応時間を短縮する観点から、30〜56℃が好ましく、40〜55℃がより好ましい。
【0029】
反応後の生成物から二置換ビニル−T8を分離精製する方法はクロマトグラフィー法を用いるとよい。クロマトグラフィーの方法はシリカ粒子を充填剤としたカラムを用いた順相液体クロマトグラフィーが好ましい。順相液体クロマトグラフィーを用いることで、生成するT8、一置換ビニル−T8、三置換ビニル−T8は僅かに分子がもつ分極状態が僅かに異なるため、順に流出させることができる。また、これら分子の分極は小さいため、展開溶剤は極性が低く安価なヘキサンや石油エーテルを含む溶剤が好ましい。
【0030】
「二官能かご型シルセスキオキサン誘導体」
一実施形態による二官能かご型シルセスキオキサン誘導体は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
【0031】
【化10】
【0032】
一般式(1)中、Rは、直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、Xは、単結合、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、または炭素数6〜14のアリーレン基を表し、Yは、炭素数1〜25の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、または炭素数6〜25のアリーレン基を表し、2個の−X−CH−CH−S−Y−OHで表される基は、互いに同一であっても、異なってもよい。
【0033】
二官能かご型シルセスキオキサン誘導体は、かご型シルセスキオキサン骨格を含み、8個のSiのうち2個に反応性を示す官能基が導入される。一般式(1)で表される化合物では、−Rで表される基が非反応性であり、−X−CH−CH−S−Y−OHで表される基が反応性を示すようになる。これによって、ヒドロキシ基を有する官能基が2個導入された二官能かご型シルセスキオキサン誘導体を提供することができる。
【0034】
一般式(1)中、Rは、直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表す。
で表されるアルキル基は、炭素数1〜12であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜8であり、直鎖または分岐鎖を有してもよい。
で表されるシクロアルキル基は、炭素数3〜12であることが好ましく、より好ましくは炭素数3〜8である。この炭素数の範囲内で、シクロアルキル基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
で表されるアリール基は、炭素数6〜14であることが好ましく、より好ましくは6〜12であり、さらに好ましくは炭素数6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリール基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
としては、例えば、メチル基、エチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、イソオクチル基、フェニル基等を挙げることができる。
は、好ましくは、炭素数1〜12のアルキル基またはフェニル基であり、より好ましくは炭素数1〜8のアルキル基またはフェニル基である。
【0035】
一般式(1)において、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよい。6個のRは、全て同一であることが好ましい。
【0036】
一般式(1)中、Xは、単結合、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、または炭素数6〜14のアリーレン基を表す。
Xで表されるアルキレン基は、炭素数1〜8であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜3であり、直鎖または分岐鎖を有してもよい。
Xで表されるシクロアルキレン基は、炭素数3〜8であることが好ましく、より好ましくは炭素数3〜6である。この炭素数の範囲内で、シクロアルキレン基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
Xで表されるアリーレン基は、炭素数6〜14であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜12であり、さらに好ましくは6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリーレン基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
Xとしては、例えば、単結合、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、i−プロピレン基、n−ブチレン基、i−ブチレン基、sec−ブチレン基、t−ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、i-オクチレン基、2−エチルヘキシレン基、3−エチルヘキシレン基、2−メチルペンチレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基等を挙げることができる。
Xは、好ましくは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基もしくはフェニレン基であり、より好ましくは、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基であり、一層好ましくは、単結合である。
【0037】
一般式(1)中、Yは、炭素数1〜25の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、炭素数3〜25のシクロアルキレン基、または炭素数6〜25のアリーレン基を表す。
Yで表されるアルキレン基は、炭素数1〜25であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜8であり、直鎖または分岐鎖を有してもよい。
Yで表されるシクロアルキレン基は、炭素数3〜25であることが好ましく、より好ましくは炭素数3〜8である。この炭素数の範囲内で、シクロアルキレン基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
Yで表されるアリーレン基は、炭素数6〜25であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜14であり、さらに好ましくは6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリーレン基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
Yとしては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、i−プロピレン基、n−ブチレン基、i−ブチレン基、sec−ブチレン基、t−ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、i-オクチレン基、2−エチルヘキシレン基、3−エチルヘキシレン基、2−メチルペンチレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基等を挙げることができる。
Yは、好ましくは、炭素数1〜25のアルキレン基であり、より好ましくは、炭素数1〜8のアルキレン基である。
【0038】
一般式(1)において、2個の−X−CH−CH−S−Y−OHで表される基は、互いに同一であっても、異なってもよい。2個の−X−CH−CH−S−Y−OHで表される基は、互いに同一であることが好ましい。
【0039】
一般式(1)において、シルセスキオキサン骨格を構成する8個のケイ素原子のうち2個のケイ素原子に−X−CH−CH−S−Y−OHで表される基が結合し、その他の6個のケイ素原子にRが結合する。
シルセスキオキサン骨格に−X−CH−CH−S−Y−OHで表される基が導入される位置は特に限定されないが、例えば、1個の酸素原子を介して隣り合う2つのSiに導入されてもよく(o位)、酸素原子−Si−酸素原子を介した2つのSiに導入されてもよく(m位)、互いに対角に位置する2つのSiに導入されてもよい(p位)。
【0040】
「二官能かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法」
以下、一般式(1)で表される二官能かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法の一例について説明する。なお、一般式(1)で表される二官能かご型シルセスキオキサン誘導体は、以下の製造方法によって製造されたものに限定されない。
一般式(1)で表される二官能かご型シルセスキオキサン誘導体の製造方法としては、例えば、下記一般式(2)で表されるケイ素化合物を用いて製造される工程を含む。
さらに、この製造方法は、下記一般式(3)で表されるチオール化合物を用いて製造される工程を含むことが好ましい。
好ましくは、一般式(2)で表されるケイ素化合物と一般式(3)で表されるチオール化合物とを反応させて、二官能かご型シルセスキオキサン誘導体を製造する工程を含む。
【0041】
【化11】
【0042】
一般式(2)中、Rは、直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、Xは、単結合、または、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、または炭素数6〜14のアリーレン基を表し、2個の−X−CH=CHで表される基は、互いに同一であっても、異なってもよい。
【0043】
一般式(2)中のRは、上記一般式(1)で表される化合物においてRとして導入される基であり、詳細は上記一般式(1)で説明した通りである。
また、一般式(2)中のXは、上記一般式(1)で表される化合物においてXとして導入される基であり、詳細は上記一般式(1)で説明した通りである。
【0044】
一般式(2)で表されるケイ素化合物の一例として、一般式(2)においてXが単結合である下記一般式(III)で表されるケイ素化合物を好ましく用いることができる。一般式(III)の詳細は、上記した通りである。
【0045】
【化12】
【0046】
一般式(2)において、2個の−X−CH=CHで表される基は、互いに同一であっても、異なってもよい。2個の−X−CH=CHで表される基は、互いに同一であることが好ましい。
【0047】
一般式(2)で表されるケイ素化合物は、2個のビニル基を有する。このケイ素化合物に、ヒドロキシ基を有するチオール化合物をチオールエン反応によって結合させることで、一般式(2)で表されるケイ素化合物に2個のヒドロキシ基を導入することができる。チオール化合物としては、一般式(3)で表されるチオール化合物を用いることができる。
【0048】
【化13】
【0049】
一般式(3)中、Yは、炭素数1〜25の直鎖または分岐鎖を有するアルキレン基、炭素数3〜25のシクロアルキレン基、または炭素数6〜25のアリーレン基を表す。
一般式(3)中のYは、上記一般式(1)で表される化合物においてYとして導入される基であり、詳細は上記一般式(1)で説明した通りである。
【0050】
一般式(2)で表されるケイ素化合物と一般式(3)で表されるチオール化合物との反応に際してラジカル開始剤を用いてもよい。
ラジカル開始剤としては、特に制限されないが、公知の熱重合開始剤、及び光重合開始剤のいずれも使用できる。
熱重合開始剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエード等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物類等が好適に使用され、好ましくは、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)である。
光重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、及びオリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)が挙げられる。
これらのラジカル開始剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
上記開始剤の添加量は、一般式(2)で表される化合物100質量部に対し0.1〜5.0質量部であり、より好ましくは0.5〜3.0重量部である。
【0051】
一般式(2)で表されるケイ素化合物と一般式(3)で表されるチオール化合物との反応は、溶媒中で行うことが好ましい。
溶媒に特に制限はないが、一般式(2)で表されるケイ素化合物、一般式(3)で表されるチオール化合物、及び重合開始剤の溶解性に応じて任意に選択できる。
溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メトキシプロピルアセテート、乳酸エチル、酢酸エチル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド、クロロホルム、トルエン等が挙げられ、好ましくは、酢酸エチルである。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
反応温度は、使用する重合開始剤および溶媒によって異なるが、チオール−エン反応の反応速度から40〜90℃が好ましく、60〜80℃がより好ましい。
一般式(1)で表される二官能かご型シルセスキオキサン誘導体は、核磁気共鳴装置(NMR)及び/または質量分析(MS)により構造を確認することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0054】
「ビニル基含有かご型シルセスキオキサン誘導体の製造」
<実施例1>
500mL三口フラスコに、アセトンを300mL、メタノールを40mL、精製水を5.60mL加え、ジムロート冷却器、温度計、滴下ロートを備えて窒素雰囲気とした。塩基性化合物としてLiOH一水和物を7.00g加え撹拌しながらオイルバスで液温が55℃となるように加熱した。滴下ロートに一般式(I)で表されるアルコキシシランとしてイソブチルトリメトキシシランを49.00g、一般式(II)で表されるビニルアルコキシシランとしてビニルトリメトキシシランを13.56g秤取し、50分間かけてゆっくり滴下した。滴下後に液温を50℃とし、18時間窒素雰囲気下で加熱撹拌した。加熱後、オイルバスを外し室温(25℃)まで放冷し、1NのHCl溶液を150mL加えたところ、白濁した。そのまま1時間撹拌し、上澄みを傾斜して除いた。残った白色粘稠物をアセトニトリル100mLで3回洗浄した後、ヘキサンを加えて白色粘稠物を溶解した。この溶液を500mLフラスコに定量的に移し、エバポレーターで溶剤を留去してオイルポンプで減圧乾燥し、白色粘稠物34.64gを得た。
【0055】
得られた白色粘稠物を分取精製した。
中圧カラムによる分取精製は株式会社ワイエムシィ製「LC−forte/R」、カラムは株式会社山善製「ユニバーサルカラムプレミアム(2L)」を用いた。分取条件10mL/min、展開溶剤はヘキサンとした。白色粘稠物2.64gをヘキサン1.47gに溶解させてカラム上部に直接チャージした。流出RI検出をモニターしながら図1に示すような流出時間で各フラクションに分割し、フラクションごとにエバポレーターで溶剤を留去してオイルポンプで減圧乾燥して、各フラクションから白色結晶を得た。各フラクションから得られた白色結晶の質量を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
フラクション2〜4から得られた白色結晶についてBruker Daltonics社製「AutoFlex」を用いてMALDI−TOF MS分析を行った。結果を図2に示す。図2から、H+とNa+付加体のピークが観測された。
各フラクションから得られた白色結晶の観測値と、ビニルPOSS(POSS;かご型オリゴシルセスキオキサン(Polyhedral Oligomeric SilSesquioxanes))、ビスビニルPOSS、トリスビニルPOSSの計算値とを表2に示す。フラクション2がビニルPOSS、フラクション3が目的のビスビニルPOSS、フラクション4がトリスビニルPOSSであった。
【0058】
ビスビニルPOSSについて、ビニル基の結合位置を調べるために、フラクション1〜5から得られた白色結晶をCDCl(重水素化クロロホルム)に溶解させて、Bruker社製「Avance300」を用い、H、13C及び29Si NMRを測定した。それらの測定結果を、それぞれ図3図4図5に示した。
【0059】
【表2】
【0060】
フラクション2のビニルPOSSの結果と比較すると、ビスビニルPOSSは2種のビニル基を持つことが分かる。しかし、図6のように可能な構造3種のうちどの2種かはこれらNMRの結果からは判断できない。
【0061】
「二官能かご型シルセスキオキサン誘導体の製造」
<実施例2>
20mL三口フラスコに、ビスビニルヘキサイソブチルPOSS(POSS:かご型オリゴシルセスキオキサン;一般式(2)においてRがイソブチル基、Xが単結合;上記実施例1の製造方法によって製造したフラクション3のビスビニルPOSS)を1.0g、酢酸エチル(株式会社ゴードー製)を4.0mL、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル、株式会社日本ファインケム製)を0.017g加えた。この三口フラスコは、ジムロート冷却器、温度計、窒素配管を備えており、室温(25℃)で15〜20分、窒素バブリングとともにマグネチックスターラーを用いて混合物を撹拌した。
次に、この三口フラスコをオイルバスで液温が40℃となるように加熱後、6−メルカプト−1−ヘキサノール(HS−(CH−OH;一般式(3)においてYがヘキシレン基;東京化成工業株式会社製)をガスタイトシリンジに0.37mL量り取り滴下した。
滴下後に、反応混合物を76〜78℃に加熱して還流条件下で4時間撹拌した。撹拌後、オイルバスから三口フラスコを外し室温まで放冷し、反応物を100mLフラスコに定量的に移し、エバポレーターで溶媒を留去した。得られた白色固体をアセトニトリル20mLで洗浄した後、No.5Cのろ紙を用いてろ別し、ロータリーエバポレーターにより減圧乾燥し、白色結晶1.0gを得た(収率:77%)。
【0062】
得られた白色結晶をTHF(テトラヒドロフラン;和光純薬株式会社製)に溶解し、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「Chromaster」を用いてゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を行った。この白色結晶は、ポリスチレン換算での重量平均分子量(Mw)が975、数平均分子量(Mn)が964であり、きれいな単分散性(Mw/Mn=1.0)を示した。
【0063】
得られた白色結晶についてBruker Daltonics社製「AutoFlex」を用いてMALDI−TOF MS分析を行った。結果を図7に示す。図7の丸印部分にNa付加体のピークが観測された。得られた白色結晶のNa付加体の観測値(MALDI−TOF MS結果)とヘキサイソブチル−2[(6−ヒドロキシヘキシル)チオ]エチルPOSSの計算値(Exact Mass)とそのNa付加体の計算値(Na付加体)を表3に示す。Na付加体の観測値はNaの原子量分(22.99)だけ大きい値となっている。その結果、得られた白色結晶はヘキサイソブチル−2[(6−ヒドロキシヘキシル)チオ]エチルPOSSであると確認された。
【0064】
【表3】
【0065】
ヘキサイソブチル−2[(6−ヒドロキシヘキシル)チオ]エチルPOSSについて構造同定のために、得られた白色結晶をCDCl(重水素化クロロホルム)に溶解させて、Bruker社製「Avance300」を用い、H、13Cおよび29Si NMRを測定した。
測定条件は以下の通りである。
H NMR)
観測核:
共鳴周波数:300MHz
測定温度:25℃
基準物質:テトラメチルシラン
13C NMR)
観測核:13
共鳴周波数:75MHz
測定温度:25℃
基準物質:テトラメチルシラン
29Si NMR)
観測核:29Si
共鳴周波数:60MHz
測定温度:25℃
基準物質:テトラメチルシラン
【0066】
実施例1で得られたビスビニルPOSSのH、13Cおよび29Si NMRの測定結果からビニル基に由来するピーク部分を抜き出したものをそれぞれ図8図10及び図12に示す。
実施例2で得られたヘキサイソブチル−2[(6−ヒドロキシヘキシル)チオ]エチルPOSSのH、13Cおよび29Si NMRの測定結果をそれぞれ図9図11及び図13に示す。
H NMRチャートから、6ppm付近に確認される原料のビスビニルPOSSのビニル基のピーク(図8)は消失し、図9に示すヒドロキシル基に由来する3.6ppm付近のピークが確認された。
13C NMRチャートからも、原料のビスビニルPOSSのビニル基に由来する129.7ppmと136.0ppm付近のピーク(図10)の消失を確認し、図11に示す25.4ppm、28.6ppm、29.4ppm、31.6ppm、32.6ppm、62.7ppmに6−ヒドロキシヘキシルに由来する合計6本のピークが確認された。
29Si NMRチャートからも、原料のビスビニルPOSSのビニル基に由来する−81.5ppm付近のピーク(図12)が消失し、図13に示す6−ヒドロキシヘキシル基に由来する−70.1ppm付近のピークが確認された。
【0067】
以上により実施例2で合成した白色結晶の構造は下記化学式(4)で表されると確認された。
【化14】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13