特許第6943334号(P6943334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6943334
(24)【登録日】2021年9月13日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】嫌気性代謝閾値推定方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/329 20210101AFI20210916BHJP
   A61B 5/346 20210101ALI20210916BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20210916BHJP
【FI】
   A61B5/329
   A61B5/346
   A61B5/0245 Z
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-513420(P2020-513420)
(86)(22)【出願日】2019年4月10日
(86)【国際出願番号】JP2019015577
(87)【国際公開番号】WO2019198742
(87)【国際公開日】20191017
【審査請求日】2020年5月28日
(31)【優先権主張番号】特願2018-76549(P2018-76549)
(32)【優先日】2018年4月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雄一
(72)【発明者】
【氏名】都甲 浩芳
(72)【発明者】
【氏名】松浦 伸昭
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−029258(JP,A)
【文献】 特開2015−173768(JP,A)
【文献】 特開2004−275281(JP,A)
【文献】 特開2004−000646(JP,A)
【文献】 特開2016−214872(JP,A)
【文献】 特開平09−038051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02−5/0295
A61B 5/24−5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者が行う運動の運動強度を取得する第1取得ステップと、
運動を行う前記対象者の心電波形を取得する第2取得ステップと、
取得された前記心電波形から、予め定められた特徴量を取得する第3取得ステップと、
前記予め定められた特徴量と取得された前記運動強度との関係に基づいて前記対象者の嫌気性代謝閾値を推定する推定ステップと、
を備え、
前記推定ステップは、取得された前記運動強度に対する前記予め定められた特徴量の変化における屈曲点に対応する運動強度に基づいて前記対象者の前記嫌気性代謝閾値を推定する
嫌気性代謝閾値推定方法において、
前記予め定められた特徴量は、心電波形に含まれるT波の高さであることを特徴とする嫌気性代謝閾値推定方法。
【請求項2】
対象者が行う運動の運動強度を取得する第1取得ステップと、
運動を行う前記対象者の心電波形を取得する第2取得ステップと、
取得された前記心電波形から、予め定められた特徴量を取得する第3取得ステップと、
前記予め定められた特徴量と取得された前記運動強度との関係に基づいて前記対象者の嫌気性代謝閾値を推定する推定ステップと、
を備え、
前記推定ステップは、取得された前記運動強度に対する前記予め定められた特徴量の変化における屈曲点に対応する運動強度に基づいて前記対象者の前記嫌気性代謝閾値を推定する
嫌気性代謝閾値推定方法において、
前記予め定められた特徴量は、心電波形に含まれるT波の高さ×心拍数であることを特徴とする嫌気性代謝閾値推定方法。
【請求項3】
請求項または請求項に記載の嫌気性代謝閾値推定方法において、
前記第3取得ステップは、心電波形に含まれるR波のピーク値からS波のピーク値までのRS高さを取得し、前記T波の高さを前記RS高さ、前記R波の高さ、または前記S波の深さのいずれかを用いて前記T波の高さを規格化する
ことを特徴とする嫌気性代謝閾値推定方法。
【請求項4】
対象者が行う運動の運動強度を取得する第1取得ステップと、
運動を行う前記対象者の心電波形を取得する第2取得ステップと、
取得された前記心電波形から、予め定められた特徴量を取得する第3取得ステップと、
前記予め定められた特徴量と取得された前記運動強度との関係に基づいて前記対象者の嫌気性代謝閾値を推定する推定ステップと、
を備え、
前記推定ステップは、取得された前記運動強度に対する前記予め定められた特徴量の変化における屈曲点に対応する運動強度に基づいて前記対象者の前記嫌気性代謝閾値を推定する
嫌気性代謝閾値推定方法において、
前記予め定められた特徴量は、心電波形に含まれるR波の高さであることを特徴とする嫌気性代謝閾値推定方法。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の嫌気性代謝閾値推定方法において、
前記第1取得ステップで取得される前記運動強度は、心拍数から計算した運動強度の値であることを特徴とする嫌気性代謝閾値推定方法。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の嫌気性代謝閾値推定方法において、
前記推定ステップは、前記予め定められた特徴量と取得された前記運動強度との関係において、前記運動強度の値が50%から90%の範囲に存在する前記屈曲点を用いて、前記対象者の前記嫌気性代謝閾値を推定することを特徴とする嫌気性代謝閾値推定方法。
【請求項7】
対象者が行う運動の運動強度を取得する運動強度取得部と、
運動を行う前記対象者の心電波形を取得し、その心電波形から予め定められた特徴量を取得する特徴量取得部と、
前記予め定められた特徴量と取得された前記運動強度との関係に基づいて前記対象者の嫌気性代謝閾値を推定する推定部と、
を備え、
前記推定部は、取得された前記運動強度に対する前記予め定められた特徴量の変化における屈曲点に対応する運動強度に基づいて前記対象者の前記嫌気性代謝閾値を推定する
嫌気性代謝閾値推定装置において、
前記予め定められた特徴量は、心電波形に含まれるT波の高さであることを特徴とする嫌気性代謝閾値推定装置。
【請求項8】
対象者が行う運動の運動強度を取得する運動強度取得部と、
運動を行う前記対象者の心電波形を取得し、その心電波形から予め定められた特徴量を取得する特徴量取得部と、
前記予め定められた特徴量と取得された前記運動強度との関係に基づいて前記対象者の嫌気性代謝閾値を推定する推定部と、
を備え、
前記推定部は、取得された前記運動強度に対する前記予め定められた特徴量の変化における屈曲点に対応する運動強度に基づいて前記対象者の前記嫌気性代謝閾値を推定する
嫌気性代謝閾値推定装置において、
前記予め定められた特徴量は、心電波形に含まれるT波の高さ×心拍数であることを特徴とする嫌気性代謝閾値推定装置。
【請求項9】
対象者が行う運動の運動強度を取得する運動強度取得部と、
運動を行う前記対象者の心電波形を取得し、その心電波形から予め定められた特徴量を取得する特徴量取得部と、
前記予め定められた特徴量と取得された前記運動強度との関係に基づいて前記対象者の嫌気性代謝閾値を推定する推定部と、
を備え、
前記推定部は、取得された前記運動強度に対する前記予め定められた特徴量の変化における屈曲点に対応する運動強度に基づいて前記対象者の前記嫌気性代謝閾値を推定する
嫌気性代謝閾値推定装置において、
前記予め定められた特徴量は、心電波形に含まれるR波の高さであることを特徴とする嫌気性代謝閾値推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性代謝閾値推定方法および装置に関し、特に心電波形を用いて嫌気性代謝閾値を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツや日常生活において、対象者の運動状態を管理することで適切なトレーニングをすることが可能になる。対象者の運動状態を管理するための値として嫌気性代謝閾値(Anaerobic threshold:AT、以下「AT」という。)が知られている。
【0003】
ATは有酸素運動から無酸素運動に切り替わる転換点となる運動強度のことである(例えば、非特許文献1参照)。ATよりも高い運動強度で対象者がトレーニングすると無酸素運動の能力が向上し、ATよりも低い運動強度で対象者がトレーニングすると有酸素運動の能力が向上するといわれている。
【0004】
従来から、ATは様々な方法で測定されており、乳酸値を基準とした場合は乳酸性閾値(Lactate threshold:LT、以下「LT」という。)と呼ばれる。また、呼気中の炭酸ガス濃度を基準とした場合におけるATは換気性閾値(Ventilatory threshold:VT、以下「VT」という。)と呼ばれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】http://sugp.wakasato.jp/Material/Medicine/cai/text/subject02/no8/html/section9.html(2018年3月1日検索)
【非特許文献2】https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%83%E9%9B%BB%E5%9B%B3(2018年3月7日検索)
【非特許文献3】http://www.cardiac.jp/view.php?lang=ja&target=normal_ecg_pattern.xml(2018年3月7日検索)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のLTの測定では、少量ではあるが採血が必要となるためLTを常時計測することは困難である。また、従来のVTの測定では、呼気ガスを収集するマスクおよび大型の装置が必要となり、VTを簡易に測定することが困難である。そのため、従来の技術では、簡易にATを測定することができなかった。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、より簡易に対象者のATを推定することができる嫌気性代謝閾値推定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明に係る嫌気性代謝閾値推定方法は、対象者が行う運動の運動強度を取得する第1取得ステップと、運動を行う前記対象者の心電波形を取得する第2取得ステップと、取得された前記心電波形から、予め定められた特徴量を取得する第3取得ステップと、前記予め定められた特徴量と取得された前記運動強度との関係に基づいて前記対象者の嫌気性代謝閾値を推定する推定ステップと、を備え、前記推定ステップは、取得された前記運動強度に対する前記予め定められた特徴量の変化における屈曲点に対応する運動強度に基づいて前記対象者の前記嫌気性代謝閾値を推定し、前記予め定められた特徴量は、心電波形に含まれるT波の高さ、心電波形に含まれるT波の高さ×心拍数、心電波形に含まれるR波の高さの何れかであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る嫌気性代謝閾値推定装置は、対象者が行う運動の運動強度を取得する運動強度取得部と、運動を行う前記対象者の心電波形を取得し、その心電波形から予め定められた特徴量を取得する特徴量取得部と、前記予め定められた特徴量と取得された前記運動強度との関係に基づいて前記対象者の嫌気性代謝閾値を推定する推定部と、を備え、前記推定部は、取得された前記運動強度に対する前記予め定められた特徴量の変化における屈曲点に対応する運動強度に基づいて前記対象者の前記嫌気性代謝閾値を推定し、前記予め定められた特徴量は、心電波形に含まれるT波の高さ、心電波形に含まれるT波の高さ×心拍数、心電波形に含まれるR波の高さの何れかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、運動を行う対象者の心電波形における予め定められた特徴量と、対象者が行う運動の運動強度との関係から、運動強度に対するその特徴量の変化における屈曲点を抽出し、屈曲点の情報に基づいてATを算出する。そのため、より簡易に対象者のATを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の原理を説明するための図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係るAT推定装置の原理を説明するための図である。
図3図3は、本発明の実施の形態に係るAT推定装置の原理を説明するための図である。
図4図4は、本発明の実施の形態に係るAT推定装置の機能構成を示すブロック図である。
図5図5は、本発明の実施の形態に係るAT推定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図6図6は、本発明の実施の形態に係るAT推定方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図1から図6を参照して詳細に説明する。
[発明の原理]
図1は、心電波形を示す図である(非特許文献2および非特許文献3参照)。本発明の実施の形態に係るAT推定方法は、対象者の心電波形から指標となる予め定められた特徴量を抽出し、その特徴量に基づいて対象者の運動状態を管理するためのATを推定する。
【0013】
本実施の形態に係るAT推定方法では、図1に示す心電波形に含まれる特徴的な波形や波形間隔のうち、T波の高さを心電波形(心電図)の特徴量として用いる(非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0014】
図2は、漸増負荷試験により取得したT波高さと心拍数との積(T波高さ×心拍数)と運動強度の関係を示す図である。本実施の形態では、運動強度として心拍数(Heart Rate Reserve:HRR)からカルボーネン法によって計算した値が用いられる。なお、運動強度とは、運動を行う対象者の身体能力を基準とした運動の激しさを表す尺度である。
【0015】
図2の点線に示すように、運動強度が80%となる近辺にて、グラフに屈曲点がみられることがわかる。このT波高さ×心拍数の値が屈曲する点における運動強度がATとなることが実験により示された。
【0016】
図3は、T波高さ×心拍数を用いて算出したATと、呼気ガス測定器によって測定したATとをそれぞれ心拍数(bpm)に換算して比較した図である。図3において、縦軸は本実施の形態に係るAT推定方法により推定されたATであり、横軸は呼気ガス測定器によって測定したATである。
【0017】
図3に示すように、相関関数がR=0.86であり、p<0.05であることから、T波高さ×心拍数で算出されたATと呼気ガス測定器によって測定されたATとは、有意な正の相関関係がある。このことから、本実施の形態に係るAT推定方法は、T波高さ×心拍数と運動強度との関係において、T波高さ×心拍数の値が屈曲する点を見つけることで、ATが推定できることがわかる。
【0018】
[実施の形態]
以下、本発明に係るAT推定方法を実施するためのAT推定装置1について詳細に説明する。
図4は、第1の実施の形態に係るAT推定装置1の機能構成を示すブロック図である。AT推定装置1は、生体情報取得部11、記憶部12、推定部13、および出力部14を備える。
【0019】
AT推定装置1は、対象者が漸増負荷試験のような運動強度が徐々に上がる運動を行ったときのT波高さ×心拍数と運動強度との関係を求める。AT推定装置1は、T波高さ×心拍数の値が屈曲する点を抽出し、その屈曲点における運動強度をATとして算出する。前述したように、屈曲点はT波高さ×心拍数と運動強度との関係において、運動強度の値が80%となる付近、具体的には、図2に示すように50〜90%の範囲内に存在する。
【0020】
生体情報取得部11は、心拍数取得部(運動強度取得部)111およびT波高さ取得部(特徴量取得部)112を備える。
生体情報取得部11は、対象者の心拍および心電に関する情報を、対象者に装着された外部の心拍計および心電計の機能を備える生体センサ(図示しない)などから取得する。このとき、生体情報取得部11は、上述した実験結果から、対象者において運動強度が徐々に増加する運動を開始してから、その運動強度が90%程度までの期間にわたる心拍および心電に関する情報を取得すればよい。
【0021】
心拍数取得部111は、対象者に装着された生体センサから、対象者が運動強度を徐々に上げる漸増負荷試験のような運動を行う期間にわたる心拍数を取得する。取得された心拍数のデータは、記憶部12に記憶される。
【0022】
T波高さ取得部112は、対象者に装着された生体センサで測定された対象者の心電波形から、その心電波形におけるT波高さのデータを取得する。また、T波高さ取得部112は、取得した対象者のT波高さの値に、心拍数取得部111によって取得された心拍数を掛けた値(T波高さ×心拍数)を求める。T波高さ取得部112が求めたT波高さ×心拍数のデータは、記憶部12に記憶される。
【0023】
また、T波高さ取得部112は、対象者の心電波形から、図1に示すように、R波のピーク値とS波のピーク値までの高さを示すRS高さを取得して、T波高さをRS高さで規格化することができる。T波高さ取得部112は、RS高さで規格化して補正されたT波高さに基づいて、T波高さ×心拍数を求めることができる。あるいは、T波高さ取得部112は、T波高さをR波高さ、またはS波深さで規格化して用いてもよい。
【0024】
記憶部12は、生体情報取得部11によって取得された対象者の心拍数およびT波高さ×心拍数のデータを記憶する。
【0025】
推定部13は、屈曲点処理部131およびAT算出部132を備える。
推定部13は、生体情報取得部11によって取得された対象者の心拍数およびT波高さ×心拍数のデータに基づいて、対象者のATを推定する。
【0026】
屈曲点処理部131は、心拍数取得部111によって取得された対象者の心拍数のデータとT波高さ取得部112によって求められたT波高さ×心拍数のデータを記憶部12から読み出して、T波高さ×心拍数と運動強度との関係を求める。このとき、図2で示したような関係が求められる。
【0027】
また、屈曲点処理部131は、対象者におけるT波高さ×心拍数と運動強度との関係から、心拍数取得部111によって取得された心拍数に対するT波高さ×心拍数の変化における屈曲点を抽出する。屈曲点は、運動強度が50〜90%の範囲に存在する。屈曲点処理部131は、T波高さ×心拍数の値の屈曲点に対応する対象者の運動強度を求めて記憶部12に記憶する。
【0028】
AT算出部132は、屈曲点処理部131によって抽出された屈曲点における対象者の運動強度に基づいて、対象者のATを算出する。
より詳細には、AT算出部132は、屈曲点処理部131によって抽出された屈曲点における対象者の運動強度をATとして算出する。
【0029】
AT算出部132は、算出された対象者のATの値を記憶部12に記憶する。
【0030】
出力部14は、推定部13によって推定された対象者のATなどの情報を出力する。より具体的には、出力部14は、表示画面などにおいて、AT算出部132によって算出されたATの値を表示する。
【0031】
[AT推定装置のハードウェア構成]
次に、上述した機能構成を有するAT推定装置1のハードウェア構成について図5のブロック図を参照して説明する。
【0032】
図5に示すように、AT推定装置1は、バス101を介して接続されるCPU103と主記憶装置104とを有する演算装置102、通信制御装置105、センサ106、外部記憶装置107、表示装置108を備えるコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。
【0033】
CPU103と主記憶装置104とは、演算装置102を構成する。主記憶装置104には、CPU103が各種制御や演算を行うためのプログラムが予め格納されている。演算装置102によって、図4に示した推定部13を含むAT推定装置1の各機能が実現される。
【0034】
通信制御装置105は、AT推定装置1と各種外部電子機器との間を通信ネットワークNWにて接続するための制御装置である。通信制御装置105は、対象者に装着された後述のセンサ106から通信ネットワークNWを介して心拍数や心電波形のデータを受信してもよい。
【0035】
センサ106は、例えば、心拍計および心電計などの生体センサによって実現される。センサ106は、対象者が運動を行う期間にわたって、例えば、対象者の胸部や手首などに装着され、対象者の心拍数および心電波形を測定する。例えば、胸部に装着されるセンサ106は、図示しない電極で心電波形を測定し、さらにその変化から心拍を検出し、心拍と心拍との間の間隔から一分間当たりの拍動回数を心拍数として測定する。
【0036】
外部記憶装置107は、読み書き可能な記憶媒体と、その記憶媒体に対してプログラムやデータなどの各種情報を読み書きするための駆動装置とで構成されている。外部記憶装置107には、記憶媒体としてハードディスクやフラッシュメモリなどの半導体メモリを使用することができる。外部記憶装置107は、データ記憶部107a、プログラム格納部107b、図示しないその他の格納装置で、例えば、この外部記憶装置107内に格納されているプログラムやデータなどをバックアップするための格納装置などを有することができる。
【0037】
データ記憶部107aには、センサ106で測定された対象者の心電波形と心拍数に関する情報が記憶されている。データ記憶部107aは、図4で示した記憶部12に対応する。
【0038】
プログラム格納部107bには、本実施の形態における心拍数やT波高さの取得処理や、屈曲点処理、AT算出処理などのATの推定に必要な処理を実行するための各種プログラムが格納されている。
【0039】
表示装置108は、AT推定装置1の表示画面を構成し、出力部14として機能する。表示装置108は液晶ディスプレイなどによって実現される。
【0040】
[AT推定装置の動作]
次に、上述した本発明のAT推定方法を実施するためのAT推定装置1の動作について、図6のフローチャートを参照して説明する。まず、図示しない心拍計および心電計の機能を有する生体センサが対象者の胸部や手首などに装着され、対象者は漸増負荷試験のような徐々に運動強度が増加するように設定された運動を開始する。運動を開始してから、対象者における運動強度が、例えば、90%を超える程度までの期間にわたって、生体センサにより対象者の心拍数と心電波形が計測される。
【0041】
心拍数取得部111は、対象者が運動を実施する期間にわたる心拍数のデータを取得する(ステップS1)。次に、T波高さ取得部112は、対象者が運動を実施する期間にわたる心電波形のデータを取得し、その心電波形のデータからT波高さのデータを取得する(ステップS2)。
【0042】
次に、T波高さ取得部112は、心電波形のデータからR波のピーク値からS波のピーク値までのRS高さを取得して、RS高さで規格化したT波高さに基づきT波高さ×心拍数のデータを求める(ステップS3)。なお、T波高さ取得部112は、外部の生体センサで求められたT波高さの測定値またはT波高さ×心拍数の値、あるいは、RS高さで規格化されたT波高さ×心拍数の値を取得する構成を採用してもよい。
【0043】
次に、屈曲点処理部131は、取得されたT波高さ×心拍数と心拍数で換算された運動強度との関係を求める(ステップS4)。屈曲点処理部131が求めた対象者のT波高さ×心拍数と運動強度との関係において、T波高さ×心拍数の値が屈曲する屈曲点を抽出し、そのT波高さ×心拍数の屈曲点の値に対応する運動強度を求める(ステップS5)。前述したように、屈曲点は運動強度が50〜90%の範囲において抽出されることに基づいて、運動強度の値について50〜90%の範囲のみを用いることも可能である。
【0044】
次に、AT算出部132は、ステップS4で求められたT波高さ×心拍数の値の屈曲点となる運動強度の値に基づいて、ATを算出する(ステップS6)。すなわち、AT算出部132は、屈曲点となる運動強度の値を、ATとして求める。なお、算出された対象者のATは、出力部14によって出力される。また、出力部14は、ATとして求めた運動強度は他の指標、例えば心拍数(bpm)やパワー(Watt)などに変換して出力しても良い。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態によれば、対象者の心電波形におけるT波高さを特徴量として用いる。また、T波高さ×心拍数と運動強度との関係に基づいて、運動強度が50〜90%程度の範囲内でみられるT波高さ×心拍数の値の屈曲点での運動強度の値から対象者のATを推定する。そのため、採血や大型な装置を必要とせず、より簡易に対象者のATを推定することができる。
【0046】
また、上述したように屈曲点が抽出される可能性のより高い運動強度の値の範囲50〜90%のデータを用いてATを算出することで、ATを算出する際の計算量を削減することができる。
【0047】
また、T波高さをRS高さ、R波の高さ、またはS波の深さによる規格化で補正するので、例えば、心電計の電極が汗などで水濡れしたことによってノイズが含まれる場合であってもより正確なT波高さに基づいてATを算出することができる。
【0048】
なお、説明した実施の形態では、心拍数(HR)から計算した運動強度を用いる場合について説明した。しかし、運動強度は、心拍数に限られず、パワー、スピード、回転数など運動の種類や取得データによってその種類を変えてもよい。
【0049】
また、説明した実施の形態では、対象者が漸増負荷試験のような運動を実施し、その実施期間にわたる心拍数や心電波形に関するデータが取得される場合について説明した。しかし、対象者が行う運動は、漸増負荷試験に限られず、例えば、ランダムな運動であってもよい。対象者がランダムな運動を行った場合においても、対象者の心電波形からT波高さ×心拍数を求め、同様にT波高さ×心拍数と運動強度との関係を求めればよい。
【0050】
また、説明した実施の形態では、対象者のT波高さ×心拍数のデータを用いて運動強度との関係を求めた。しかし、T波のみを用いても同様に運動強度との関係から屈曲点を抽出し、対応する運動強度の値をATとして算出できる。
【0051】
また、同様に、T波高さと同じように対象者の運動によって高さが変化するR波の高さを特徴量として用いてもよい。
【0052】
以上、本発明の嫌気性代謝閾値推定方法および嫌気性代謝閾値推定装置における実施の形態について説明したが、本発明は説明した実施の形態に限定されるものではなく、請求項に記載した発明の範囲において当業者が想定し得る各種の変形を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…AT推定装置、11…生体情報取得部、12…記憶部、13…推定部、14…出力部、111…心拍数取得部、112…T波高さ取得部、131…屈曲点処理部、132…AT算出部、101…バス、102…演算装置、103…CPU、104…主記憶装置、105…通信制御装置、106…センサ、107…外部記憶装置、107a…データ記憶部、107b…プログラム格納部、108…表示装置、NW…通信ネットワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6