(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6943423
(24)【登録日】2021年9月13日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】ペプチド、それを含む小胞体ストレスマーカー及びそれを用いた小胞体ストレスの測定方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/46 20060101AFI20210916BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20210916BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20210916BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20210916BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20210916BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20210916BHJP
【FI】
C07K14/46ZNA
C12Q1/37
C12Q1/02
G01N33/53 D
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-150714(P2017-150714)
(22)【出願日】2017年8月3日
(65)【公開番号】特開2019-26621(P2019-26621A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】今泉 和則
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】松久 幸司
【審査官】
山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/108394(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0281040(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0210713(US,A1)
【文献】
Tomohiko Murakami et al.,Cleavage of the membrane-bound transcription factor OASIS in response to endoplasmic reticulum stress,Journal of Neurochemistry,2006年,Vol. 96,p. 1090-1100
【文献】
Kezhong Zhang et al.,Endoplasmic Reticulum Stress Activates Cleavage of CREBH to Induce a Systemic Inflammatory Response,Cell,2006年02月10日,Vol. 124,p. 587-599
【文献】
Xi Chen et al,The Journal of Biological Chemistry,2002年04月12日,Vol. 277, No. 15,p. 13045-13052
【文献】
Shinichi Kondo et al.,BBF2H7, a Novel Transmembrane bZIP Transcription Factor, Is a New Type of Endoplasmic Reticulum Stress Transducer,MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY,2007年03月,Vol. 27, No. 5,p. 1716-1729
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/
C12Q 1/
G01N 33/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/EMBASE/BIOSIS(STN)
SwissProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATF6又はOASISファミリータンパク質のC末端側及びN末端側がSite‐1プロテアーゼ及びSite‐2プロテアーゼによって切断された残部であるペプチドの複数が凝集した凝集体。
【請求項2】
前記ペプチドは、配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項1に記載の凝集体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の凝集体と結合する結合分子を含むことを特徴とする小胞体ストレスの検出キット。
【請求項4】
対象の生物学的試料を、請求項1又は2に記載の凝集体と結合する結合分子と接触させて、前記生物学的試料中の前記凝集体を定量するステップと、
前記生物学的試料中の前記凝集体の量と基準値とを比較して、前記量が前記基準値よりも高い場合に前記対象が小胞体ストレスを受けていると判定し、前記量が前記基準値よりも低い場合に前記対象が小胞体ストレスを受けていないと判定するステップとを含む小胞体ストレスの判定方法。
【請求項5】
細胞株に対して小胞体ストレスを与えるステップと、
前記細胞株に小胞体ストレスを緩和する候補化合物を処理するステップと、
前記細胞株中の請求項1又は2に記載の凝集体の生成量を測定するステップと、
前記候補化合物による処理後の前記細胞株中の前記生成量が、前記候補化合物による処理前の前記細胞株中の前記生成量よりも小さい場合に、前記候補化合物を小胞体ストレスを緩和する化合物として選択するステップとを備えていることを特徴とする小胞体ストレスを緩和する化合物のスクリーニング方法。
【請求項6】
細胞株に対して小胞体ストレスを与えるステップと、
前記細胞株を請求項1又は2に記載の凝集体の生成を抑制する候補化合物で処理した処理細胞株群と、前記候補化合物で処理していない未処理細胞株群とに分けるステップと、
前記処理細胞株群及び前記未処理細胞株群中の請求項1又は2に記載のペプチド及びその凝集体のそれぞれを定量して、前記処理細胞株群における前記凝集体の量と前記未処理細胞株群における前記凝集体の量とを比較するステップと、
前記処理細胞株群における前記凝集体の量が前記未処理細胞株群における前記凝集体の量よりも小さい場合に、前記候補化合物を前記凝集体の生成を抑制する化合物として選択するステップとを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の凝集体の生成を抑制する化合物のスクリーニング方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の凝集体を構成する単量体のペプチドと、該請求項1又は2に記載のペプチドの凝集体の生成を抑制する候補化合物又は前記凝集体の生成を抑制しない対照化合物とを混合するステップと、
前記混合された前記単量体のペプチド及び前記凝集体のそれぞれを定量して、前記候補化合物と混合した場合と前記対照化合物と混合した場合とのそれぞれの前記ペプチド及び前記凝集体の量を比較するステップと、
前記候補化合物と混合した場合に、前記対照化合物と混合した場合と比較して前記凝集体の生成量が小さい場合に、前記候補化合物を前記凝集体の生成を抑制する化合物として選択するステップとを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の凝集体の生成を抑制する化合物のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドに関し、特に、小胞体ストレスにより生じるペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は、虚血、酸化ストレス及び感染等の様々な異常環境に曝されると、その小胞体内に不完全なタンパク質が大量に生成され、これにより細胞傷害が起こる。このような現象は小胞体ストレスとして知られている。細胞に対して小胞体ストレスが持続的に長時間負荷されるか、又は一過的に強いストレスが負荷されると、当該細胞はアポトーシスによる細胞死を起こす。
【0003】
近年、持続的な小胞体の機能異常は、糖尿病などの代謝性疾患、動脈硬化性疾患、脳神経系疾患、骨・軟骨疾患などの発症にも関与していることがわかり、疾患治療のターゲットとして注目されている(例えば、非特許文献1〜4を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】浅田梨絵、今泉和則: 小胞体ストレス、脳科学辞典、[online]2014年2月20日、インターネット(URL: https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%B0%8F%E8%83%9E%E4%BD%93%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9)
【非特許文献2】Ariyasu D et al. Int J Mol Sci. 2017 Feb 11;18(2). pii:E382.
【非特許文献3】Kadowaki H et al. Genes. 2013 Jul 1;4(3):p306-333.
【非特許文献4】Hughes A et al. Int J Mol Sci. 2017 Mar 20;18(3). pii:E665.
【非特許文献5】Mueller UC et al. Nat Rev Neurosci. 2017 May;18(5):p281-298.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、小胞体ストレスは、疾患治療のターゲットとして注目されているものの、現在までに小胞体ストレスを検知するための疾患診断マーカーや、小胞体ストレスを緩和するための疾患治療薬は開発されていない。
【0006】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、小胞体ストレスを検知するためのバイオマーカーを提供し、小胞体ストレスに関連する疾患の診断や治療に有用な診断マーカーを提供することにある。さらに、本発明の目的は、小胞体ストレスを緩和するための候補化合物、及び小胞体ストレスに関連する疾患を治療するための候補薬剤のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、細胞が小胞体ストレスを受けることにより小胞体ストレスセンサーであるATF6及びOASISファミリーのN末端及びC末端が切断されて、特定のペプチド(小ペプチド)が生じることを見出して本発明を完成した。
【0008】
具体的に、本発明に係るペプチドは、ATF6又はOASISファミリータンパク質のC末端側及びN末端側がSite‐1プロテアーゼ(S1P)及びSite‐2プロテアーゼ(S2P)によってそれぞれ切断された残部であることを特徴とする。
【0009】
細胞は小胞体ストレスを受けると上述のように、膜貫通型タンパク質であるATF6及びOASISファミリーのN末端及びC末端がS1P及びS2Pにより切断される。その結果、N末端側とC末端側を失った残部のペプチドが生じることとなる。すなわち、細胞に対する小胞体ストレスの負荷と、細胞中における当該ペプチドの発生とは強く関連している。従って、当該ペプチドは、細胞における小胞体ストレスを検知するためのマーカーとして利用できる。
【0010】
本発明に係るペプチドは、配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列で構成されていてもよい。
【0011】
本発明に係るバイオマーカーは、上記ペプチド、又は複数の該ペプチドが凝集したペプチド凝集体からなり、小胞体ストレスを検出するために用いられることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るバイオマーカーは、細胞が小胞体ストレスを受けた際に生じる上記ペプチドによって構成されているため、当該バイオマーカーを用いることで細胞における小胞体ストレスを有効に検出することができる。また、上記ペプチドは、後に説明する通り、複数の単量体が凝集した凝集体の形態でも存在する。例えばアミロイドβの凝集体等のペプチド凝集体は細胞毒性を起こすことが知られており、当該本発明に係るペプチドも、凝集により細胞毒性が生じる可能性がある。このため、当該ペプチド凝集体をバイオマーカーとして利用することは、当該ペプチドに起因する細胞毒性の検出にも有効と考えられる。
【0013】
本発明に係る診断マーカーは、上記ペプチド、又は複数の該ペプチドが凝集したペプチド凝集体からなり、小胞体ストレスに関連する疾病を診断するために用いられることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る診断マーカーは、上記バイオマーカーと同様に、上記本発明に係るペプチド又はペプチド凝集体で構成されているため、小胞体ストレスを有効に検出できる。小胞体ストレスは、上述の通り、種々の疾病の原因となると考えられている。従って、本発明に係る診断マーカーは、小胞体ストレスを検知すると共に、小胞体ストレスに関連する疾病の診断に用いることができる。
【0015】
本発明に係る診断マーカーは、特に、小胞体ストレスに関連すると考えられている代謝性疾患、動脈硬化性疾患、脳神経系疾患又は骨・軟骨疾患の診断マーカーとして用いることができる。
【0016】
本発明に係る小胞体ストレスの測定方法は、対象の生物学的試料を、上記バイオマーカーと結合する結合分子と接触させる工程を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る小胞体ストレスの測定方法では、上記バイオマーカーと結合する結合分子を用いる。このため、当該結合分子に対して、周知の光学的又は化学的定量法を利用することで、対象の生物学的試料中の上記バイオマーカー量を測定することができる。その結果、対象の小胞体ストレスを測定することができる。なお、結合分子としては、例えば抗体等を用いることができる。抗体を用いる場合、例えばEnzyme Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)法を利用することで、当該バイオマーカーの定量をすることが可能である。
【0018】
本発明に係る小胞体ストレスに関連する疾病のリスク測定方法は、対象の生物学的試料を、上記診断マーカーと結合する結合分子と接触させる工程を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る小胞体ストレスに関連する疾病のリスク測定方法においても、上記小胞体ストレスの測定方法と同様に、上記診断マーカーと結合する結合分子を用いる。このため、当該結合分子に対して、周知の光学的又は化学的定量法を利用することで、対象の生物学的試料中の上記診断マーカー量を測定することができる。その結果、対象の小胞体ストレスに関連する疾病のリスクを測定することができる。なお、上記小胞体ストレスの測定方法の場合と同様に、結合分子としては、例えば抗体等を用いることができる。その場合、例えばELISA法を利用することで、当該診断マーカーの定量をすることが可能である。
【0020】
本発明に係る小胞体ストレスを緩和する化合物のスクリーニング方法は、細胞株に対して小胞体ストレスを与えるステップと、前記細胞株に小胞体ストレスを緩和する候補化合物を処理するステップと、前記細胞株中の前記本発明に係るバイオマーカーを定量するステップとを備えていることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る小胞体ストレスを緩和する化合物のスクリーニング方法では、小胞体ストレスを受けた細胞株に対して、小胞体ストレスを緩和する候補化合物を処理した後に、細胞株中の上記本発明に係るバイオマーカーの量を定量する。このため、当該候補化合物を処理していない対照と、処理した場合のバイオマーカーの量を比較することによって、候補化合物が小胞体ストレスを緩和する効果を有するか否かを判定できる。本方法は、上述のような簡便な作業のみで行うことができるため、小胞体ストレスを緩和する可能性がある多数の候補化合物のスクリーニングに利用することができる。
【0022】
本発明に係る小胞体ストレスに関連する疾病を治療する薬剤のスクリーニング方法は、細胞株に対して小胞体ストレスを与えるステップと、前記細胞株に小胞体ストレスに関連する疾病を治療する候補薬剤を処理するステップと、前記細胞株中の前記本発明に係る診断マーカーを定量するステップとを備えていることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る小胞体ストレスに関連する疾病を治療する薬剤のスクリーニング方法では、上記小胞体ストレスの緩和のための化合物のスクリーニング方法と同様に、まず、小胞体ストレスを受けた細胞株に対して、小胞体ストレスに関連する疾病を治療する候補薬剤を処理する。その後に、細胞株中の上記本発明に係る診断マーカーの量を定量する。このため、上記方法と同様に、候補薬剤が小胞体ストレスに関連する疾病を治療する効果を有するか否かを判定できる。本方法も、上述のような簡便な作業のみで行うことができるため、小胞体ストレスに関連する疾病を治療する可能性がある多数の候補薬剤のスクリーニングに利用することができる。
【0024】
本発明に係る前記ペプチドの凝集を抑制する化合物のスクリーニング方法は、細胞株に対して小胞体ストレスを与えるステップと、前記細胞株に前記ペプチドの凝集を抑制する候補化合物を処理するステップと、前記細胞株中の前記ペプチド及びその凝集体のそれぞれを定量して、前記ペプチドの凝集の程度を評価するステップとを備えていることを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る小胞体ストレスに関連する疾病を治療する薬剤のスクリーニング方法は、細胞株に対して小胞体ストレスを与えるステップと、前記細胞株に小胞体ストレスに関連する疾病を治療する候補薬剤を処理するステップと、前記細胞株中の前記ペプチド及びその凝集体のそれぞれを定量して、前記ペプチドの凝集の程度を評価するステップとを備えていることを特徴とする。
【0026】
上述した通り、本発明に係るペプチドは、小胞体ストレスにより産生され、さらに互いに凝集して凝集体を形成することにより、種々の疾病を引き起こす細胞毒性を生じる可能性がある。すなわち、当該凝集を抑制することにより、上記種々の疾病を治療できると考えられるため、当該凝集を抑制する化合物を得ることは極めて重要である。上記本発明に係るスクリーニング方法によると、細胞に対して当該ペプチドの凝集を抑制する候補化合物を処理した後に、ペプチド及びその凝集体を定量することにより、当該凝集が抑制されているか否かを判定できる。従って、上記小胞体ストレスによる当該ペプチド凝集体に起因する疾病を治療するための薬剤のスクリーニングに特に有用である。
【0027】
本発明に係る前記ペプチドの凝集を抑制する化合物のスクリーニング方法は、前記ペプチドと、前記ペプチドの凝集を抑制する候補化合物とを混合するステップと、前記混合されたペプチド及びその凝集体のそれぞれを定量して、前記ペプチドの凝集の程度を評価するステップとを備えていることを特徴とする。
【0028】
また、本発明に係る小胞体ストレスに関連する疾病を治療する薬剤のスクリーニング方法は、前記ペプチドと、小胞体ストレスに関連する疾病を治療する候補薬剤とを混合するステップと、前記混合されたペプチド及びその凝集体のそれぞれを定量して、前記ペプチドの凝集の程度を評価するステップとを備えていることを特徴とする。
【0029】
本発明に係るスクリーニング方法は、上記のように細胞に小胞体ストレスを与えて細胞内に上記ペプチドを発現させて行うことに限られず、人工的に合成したペプチドを用いることも可能である。例えば、細胞外で人工的に合成した当該ペプチドに、上記候補化合物又は候補薬剤を作用させて、スクリーニングを行うことも可能である。このような方法を用いることによって、より簡便に、ペプチドの凝集を抑制する候補化合物及び小胞体ストレスに関連する疾病を治療する候補薬剤をスクリーニングすることが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るペプチドは、細胞が小胞体ストレスを受けることにより生成されるため、当該ペプチドを、小胞体ストレスを検知するためのマーカーとして利用することが可能である。また、小胞体ストレスは上記種々の疾病の原因となると考えられているため、当該ペプチドを利用して、上記疾患を検知することも可能となる。さらには、上記ペプチドを利用することで、小胞体ストレスを緩和する候補化合物や小胞体ストレスに関連する疾病を治療する候補薬剤のスクリーニングをすることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】細胞が小胞体ストレスを受ける時の、ATF6及びOASISファミリータンパク質の切断機序について説明するための図である。
【
図2】マウスBBF2H7発現プラスミドを示す図である。
【
図3】(a)はマウスBBF2H7由来の小ペプチドの配列を示す図であり、(b)は当該小ペプチドの疎水性を示すグラフである。
【
図4】小胞体ストレスとマウスBBF2H7由来の小ペプチドの量との関係を示すウエスタンブロットの結果の写真である。
【
図5】マウスBBF2H7の凝集性を示すウエスタンブロットの結果の写真である。
【
図6】(a)はマウスBBF2H7の凝集性を示すゲルろ過クロマトグラフィーの結果のグラフであり、(b)は該クロマトグラフィーにより分離された各画分におけるマウスBBF2H7の存在を確認したウエスタンブロットの結果の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0033】
本発明に係るペプチドは、ATF6又はOASISファミリーの膜貫通型タンパク質のC末端側及びN末端側がS1P及びS2Pによって切断された残部(小ペプチド)である。
【0034】
ATF6及びOASISファミリーのタンパク質は2型の1回膜貫通型タンパク質である。OASISファミリーは、OASIS、BBF2H7、Luman、CREB4及びCREBHを含む(例えば、非特許文献2等を参照)。
【0035】
細胞が小胞体ストレスを受けた際の、ATF6及びOASISファミリータンパク質の切断機序について
図1を参照しながら説明する。
図1に示すように、ATF6及びOASISファミリータンパク質は、通常小胞体に局在している。細胞に小胞体ストレスが負荷されるとATF6及びOASISファミリータンパク質はゴルジ体に運ばれ、S1PによりC末端側が切断され、S2PによりN末端側が切断され、すなわち2段階の切断を受ける。なお、切断されたN末端部分は転写因子として働く。
【0036】
上記2段階の切断を受けてC末端側及びN末端側を失ったATF6及びOASISファミリータンパク質の残部である小ペプチドは、膜貫通領域を含み、後に説明する通り、疎水性が高いという特徴を有する。上記のように生成される小ペプチドは、アルツハイマー病患者の脳に沈着するアミロイドβタンパク質と産生機構及び物性(例えば非特許文献5を参照)が類似しており、細胞内外で蓄積される可能性が考えられる。特に、小ペプチドは、後に説明する通り凝集性を示し、その蓄積によって細胞毒性を起こす可能性も考えられる。
【0037】
ATF6及びOASISファミリータンパク質の各アミノ酸配列は、GenBank等の配列データベースに公開されており、いずれも公知である。S1P及びS2Pは特定のアミノ酸配列を認識してペプチドを切断し、特にS1PはRXXLの配列を認識することが知られている。ATF6及びOASISファミリータンパク質がS1P及びS2Pに切断されて生じる小ペプチドは、約50個前後のアミノ酸からなる。
【0038】
例えばマウスBBF2H7がS1P及びS2Pによる切断を受けて生じる小ペプチドは、45個のアミノ酸からなり、配列番号1のアミノ酸配列(CFAVAFGSFFQGYGPYPSATKMALPSQHPLSEPYTASVVRSRNLL)を有する。また、ヒトBBF2H7がS1P及びS2Pによる切断を受けて生じる小ペプチドは、45個のアミノ酸からなり、配列番号2のアミノ酸配列(CFAVAFGSFFQGYGPYPSATKMALPSQHSLQEPYTASVVRSRNLL)を有することが容易に想定される。
【0039】
上述の通り、小ペプチド及びその凝集体は、細胞が小胞体ストレスを受けた際に産生するため、それらを検出することができれば、小胞体ストレスを検出するためのバイオマーカーとして利用可能と考えられる。また、小胞体ストレスは上記種々の疾病の原因と考えられるため、小ペプチド及びその凝集体は、小胞体ストレスに関連する疾病の診断マーカーとしても利用可能と考えられる。
【0040】
小胞体ストレスに関連する疾病としては、代謝性疾患、動脈硬化性疾患、脳神経系疾患又は骨・軟骨疾患等が挙げられる。代謝性疾患は、例えば糖尿病、高血圧及び脂質異常症等を含む。動脈硬化性疾患は、例えば心筋梗塞、狭心症及び脳卒中等を含む。脳神経系疾患は、例えばパーキンソン病、ポリグルタミン病、アルツハイマー病及び筋萎縮性側索硬化症等を含む。骨・軟骨疾患は、例えば軟骨無形成症、軟骨低形成症、骨端異形成症及び変形性関節症等を含む。
【0041】
小ペプチド及びその凝集体は、上述した通り、細胞内に存在するが、細胞膜を通過して細胞外にも排出されて、その結果、例えば血中に排出され得る。このため、小ペプチド及びその凝集体を上記バイオマーカーや診断マーカーとして用いる場合、まず、測定対象となるヒトや動物から採血し、得られた血液と小ペプチド及びその凝集体に結合する結合分子とを接触させる。その後に、当該結合分子を定量することでバイオマーカー又は診断マーカーとしての小ペプチド及びその凝集体を定量することが可能である。当然に、血液以外の尿や唾液等の体液を用いてもよい。
【0042】
上記結合分子としては、小ペプチドを抗原として結合する抗体や、小ペプチドとの相互作用が可能なペプチド又はその他の化合物等を用いることができる。また結合分子の定量方法としては、結合分子に蛍光物質やタグを結合させて、周知の光学的又は化学的方法により定量したり、結合分子に結合可能な検出用の2次抗体を用いて免疫学的方法により定量することも可能である。
【0043】
また、小ペプチドは、上述の通り、小胞体ストレスにより生じて、その産生及び凝集、さらには蓄積により細胞毒性を生じ、上記疾病に関与するおそれがある。従って、小ペプチドの産生及び凝集、さらには蓄積を防ぐことにより、小胞体ストレスを緩和して上記疾病の治療をすることができると考えられる。このため、上記バイオマーカーや診断マーカーとしての小ペプチドを、小胞体ストレスを緩和する候補化合物や小胞体ストレスに関連する疾病を治療する候補薬剤のスクリーニングに用いることが可能である。
【0044】
具体的に、細胞株にタプシガルギン等の小胞体ストレス誘発剤を予め処理して小胞体ストレスを与えた後に、候補化合物又は候補薬剤を処理する。その後、上記結合分子を用いたバイオマーカー又は診断マーカーの定量方法と同様に、細胞内の小ペプチド量を定量する。そして、小胞体ストレスを与え、候補化合物又は候補薬剤を処理していない対照の細胞株と比較して、候補化合物又は候補薬剤を処理した細胞株中の小ペプチド量が減少しているか否かを判定する。細胞株中の小ペプチド量が減少していれば、当該候補化合物又は候補薬剤は、小胞体ストレスを緩和し、小胞体ストレスに関連する疾病を治療する可能性があるといえる。このように、本発明の小ペプチドは、小胞体ストレスを緩和する候補化合物や小胞体ストレスに関連する疾病を治療する候補薬剤のスクリーニングにも利用可能である。
【0045】
また、小ペプチドの量に限らず、当該小ペプチドの凝集量を評価することで、当該凝集を抑制する候補化合物及び当該凝集に起因する疾病を治療するための候補薬剤のスクリーニングも可能である。例えば、細胞に対して上記候補化合物又は候補薬剤の処理をした後に、ウエスタンブロット法やクロマトグラフィー法等を利用して、当該小ペプチド及びその凝集体のそれぞれを定量することにより、当該ペプチドの凝集体の量や割合を評価できる。このような手法を利用して、当該ペプチド単量体に対する凝集体の割合を減少させる化合物又は薬剤をスクリーニングすることができる。
【0046】
上述のように細胞に対して小胞体ストレスを与えることにより、細胞内に当該小ペプチドを産生させた条件下でスクリーニングを行うことができるが、本発明はこのようなスクリーニング方法に限られない。本発明は、このような方法以外に、細胞を用いずに人工的に合成したペプチドを用いたスクリーニング方法も含む。例えば、本発明は、細胞外で人工的に合成した当該ペプチドに、上記候補化合物又は候補薬剤を作用させた後に、当該ペプチドの凝集を評価することにより、候補化合物又は候補薬剤をスクリーニングする方法も含む。
【0047】
以上のような方法を用いることで、小胞体ストレスに関連する種々の疾病を治療するのに有効な薬剤をスクリーニングすることが可能となる。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明に係るペプチド、それを含む小胞体ストレスマーカー及びそれを用いた小胞体ストレスの測定方法を詳細に説明するための実施例を示す。まず、マウスBBF2H7がS1P及びS2Pによる切断を受けて生じる小ペプチドの配列決定のために行った試験について説明する。
【0049】
ヒト胎児腎細胞株HEK293T細胞に対して、ScreenfectA(和光純薬)を用いてマウスBBF2H7発現プラスミドのトランスフェクションを行った。トランスフェクションはScreenfectAに添付されている製品プロトコルに従い行った。なお、
図2に示すように、マウスBBF2H7発現プラスミドは、pcDNA3.1(+)(Invitrogen)のEcoRIサイトとXhoIサイトの間に、開始コドン上流にコザック配列(CCACC)を付加したマウスBBF2H7cDNAを挿入して作製した。
【0050】
トランスフェクションを行った翌日に、細胞から培地を除き、小胞体ストレス誘発剤である1μMタプシガルギン(和光純薬)及びプロテアソーム阻害剤である10μM MG132(和光純薬)を含む10%ウシ胎児血清含有ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM培地)を添加した。薬剤処理から12時間後に細胞を回収し、プロテアーゼインヒビターカクテル(プロテアーゼインヒビターカクテルセット5、和光純薬)を添加した細胞溶解バッファー(1% TritonX−100、10mM Tris−HCl pH7.4、150mM NaCl、1mM EDTA)で細胞を溶解後に遠心分離を行い、上清を細胞溶解液とした。
【0051】
得られた細胞溶解液にプロテインGアガロースビーズ(Invitrogen)を添加して予備洗浄した後に、ウサギ抗BBF2H7由来小ペプチド抗体及びプロテインGアガロースビーズを添加して、4℃で一晩反応させて免疫沈降法を行った。反応させたビーズを洗浄バッファー(0.1% TritonX−100、10mM Tris−HCl pH7.4、150mM NaCl、1mM EDTA)で3回洗浄した後に、2×Tricine−PAGEサンプルバッファー(25mM Tris−HCl pH6.8、20% グリセロール、6% SDS、3% 2‐メルカプトエタノール、0.025% CBB−G250)を添加して100℃で5分間の処理を行った。その後、8M尿素添加ポリアクリルアミドゲル(16%T、6%C)を用いてTricine−SDS−PAGEによりサンプルの展開を行った。
【0052】
電気泳動による展開後のゲルから、5kDaから8kDaのペプチドが泳動された部分を切り出して0.06%SDS含有50mM炭酸アンモニウム水溶液とともに透析チューブ(MWCO1,000、スペクトラポアRC透析チューブ、フナコシ)に入れ、0.06%SDS含有50mM炭酸アンモニウム水溶液中で電気溶出することでゲル中のペプチドを回収した。回収したペプチドを遠心濃縮機(TOMY)によって濃縮し、2×Tricine−PAGEサンプルバッファーを添加して100℃で5分間の処理を行った。処理したペプチドサンプルは8M尿素添加ポリアクリルアミドゲル(16%T、6%C)を用いてTricine−SDS−PAGEにより展開後、PVDF膜(Immobilon−P
SQ, Millipore)に転写した。転写したPVDF膜をCBB染色し、検出された当該ペプチド(小ペプチド)のバンドを切り出してエドマン分解法によるアミノ酸シークエンシングに供した(大阪大学蛋白質研究所に委託、機種はABI社Procise491cLCを用いた)。
【0053】
アミノ酸シークエンシングにより得られた小ペプチドのアミノ酸配列は、
図3(a)に示す45個のアミノ酸からなる配列である。このアミノ酸配列について、Kyte−Doolittleの疎水性指標を用いて、当該小ペプチドの疎水性について評価した結果を
図3(b)に示す。
図3(b)に示すように、当該小ペプチドは疎水性が高いペプチドであることが認められる。
【0054】
次に、当該小ペプチドと小胞体ストレスとの関連性について検討するために、小胞体ストレスを受けた細胞内の全長BBF2H7と、S1P及びS2Pにより切断されたBBF2H7由来の小ペプチドとの量をウエスタンブロット法により評価した。その方法と結果について以下に説明する。
【0055】
まず、HEK293T細胞に対して、上記と同様にScreenfectAを用いて上記マウスBBF2H7発現プラスミドのトランスフェクションを行った。トランスフェクションから24時間後に培養上清を除去し、1μMタプシガルギンを含む10%ウシ胎児血清含有DMEM培地を添加した後、0時間後、6時間後、9時間後、12時間後及び24時間後に細胞を回収した。回収した細胞はそれぞれ上記プロテアーゼインヒビターカクテルを添加した上記細胞溶解バッファーで溶解後に遠心分離を行い、上清を細胞溶解液とした。回収した細胞溶解液の一部を4×SDSサンプルバッファー(250mM Tris−HCl pH6.8、8% SDS、40% グリセロール、20% 2‐メルカプトエタノール、0.04% ブロモフェノールブルー)と混合して100℃で5分間の処理をした。その後に、ポリアクリルアミドゲル(8%T、1.5%C)を用いたSDS−PAGE及びウエスタンブロットによってBBF2H7の全長を検出した。
【0056】
一方、BBF2H7由来小ペプチドの回収は、細胞溶解液に対して上記ウサギ抗BBF2H7由来小ペプチド抗体及びプロテインGアガロースビーズを用いた免疫沈降法と同様の方法により行った。回収した小ペプチドを含む溶液に対して、Triceine−SDS−PAGE及びウエスタンブロットを行うことによってBBF2H7由来小ペプチドを検出した。
【0057】
転写の際のPVDF膜として、BBF2H7全長の検出ではImmobilon−P(Millipore)を用い、BBF2H7由来小ペプチドの検出ではImmobilon−P
SQを用いた。PVDF膜へタンパク質を転写した後、BBF2H7全長の検出では5%スキムミルク/TBST(0.1% Tween−20、10mM Tris−HCl pH7.5、100mM NaCl)を、BBF2H7由来小ペプチドの検出では1%ウシ血清アルブミン/TBSTを用いていずれも室温で1時間のブロッキングを行った。その後、Canget signal1(東洋紡)に希釈した各1次抗体を4℃で一晩反応させた。
【0058】
1次抗体による反応後、転写膜をTBSTで洗浄した後、2次抗体としてHRP標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(Santa Cruz)/TBSTを室温で1時間反応させた後、TBSTで5回洗浄し、化学発光法により検出を行った(ATTO社のLuminographを使用)。その結果を
図4に示す。
【0059】
図4に示すように、細胞に対してタプシガルギン(Tg)を添加し、小胞体ストレスを与えた直後(0hr)は、BBF2H7の全長(BBF2H7full)が多く、BBF2H7のN末端側断片(BBF2H7−N)やBBF2H7由来小ペプチドはほとんど検出されなかった。タプシガルギン(Tg)の添加から6時間後、9時間後、12時間後、24時間後と経過するに従って、BBF2H7の全長は減少し、BBF2H7のN末端側断片が増大し、特にBBF2H7由来小ペプチドは顕著に増大した。この結果から、細胞が小胞体ストレスを受けることによって、BBF2H7は切断され、小ペプチドが生成されることが示唆された。
【0060】
なお、BBF2H7全長及びBBF2H7由来小ペプチドの検出に用いた1次抗体は、ウサギにそれぞれの抗原を接種し、その後にウサギの血清から取得した。BBF2H7全長を検出するための抗体を得るために、日本住血吸虫由来グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)融合マウスBBF2H7−N末端断片(1番目から292番目のアミノ酸までの断片)を抗原に用いた。従って、BBF2H7全長を検出するための抗体は、BBF2H7のN末端側を検出するため、BBF2H7のN末端側断片も検出する。一方、BBF2H7由来小ペプチドを検出するための抗体を得るために、スカシガイ由来ヘモシアニン(KLH)コンジュゲート合成ペプチド(配列:CPYPSATKMALPSQHPLSEPYTASVVRS(配列番号3))を抗原に用いた。なお、ウサギへの抗原免疫及び血清回収はスクラム社に委託して行った。抗血清から上記各抗体の回収は以下のように行った。
【0061】
まず、抗血清に1/9量の200mMリン酸緩衝液(pH7.0)を添加した後、抗血清と等量の飽和硫酸アンモニウム水溶液を徐々に加えた。混合して氷上で1時間静置後に遠心分離を行い、得られた沈殿を50%飽和硫酸アンモニウム水溶液で洗浄した。洗浄した沈殿を20mMリン酸緩衝液(pH7.0)で溶解することで抗体粗精製画分を得た。得られた抗体粗精製画分を、それぞれの抗体に対応したアフィニティーカラムへと添加し、抗体をカラムに結合させた。アフィニティーカラムとして、抗BBF2H7N末端抗体の精製ではマルトース結合タンパク質融合マウスBBF2H7(1−292)タンパク質をNHS activatedカラム(GEヘルスケア)に結合させたものを、抗BBF2H7由来小ペプチド抗体の精製では非コンジュゲート体の抗原ペプチドをNHS activatedカラムに結合させたものを用いた。その後20mMリン酸緩衝液(pH7.0)で洗浄することでカラムに非特異的に吸着する物質を除去した。洗浄後のカラムに100mMグリシン−HCl(pH2.7)を添加することで結合させた抗体を溶出し回収した。溶出後の抗体はすぐに1M Tris−HCl(pH9.0)を添加することで中和した。溶出した抗体は脱塩カラム(PD−10、GEヘルスケア)を用いて溶媒をPBS(−)へと置換した後に、0.05%となるようにアジ化ナトリウムを添加して4℃で保管した。精製した抗体の濃度はBCAassay法(BCA assay kit、Thermo)によりウシ血清アルブミンを標準品として測定した。また抗体の純度はSDS−PAGEによる電気泳動及びCBB染色により確認した。以上のようにして、上記それぞれの1次抗体を得た。
【0062】
次に、BBF2H7由来小ペプチドの凝集性を検討した。そのための方法及び結果を以下に説明する。まず、上記試験と同様に、HEK293T細胞に対して、上記ScreenfectAを用いて、上記マウスBBF2H7発現プラスミドのトランスフェクションを行った。また、これとは別に、HEK293T細胞に対して、上記ScreenfectAを用いて、S1P認識サイトに変異を加えてS1Pによる切断を受けない変異型BBF2H7発現プラスミドのトランスフェクションを行った。変異型BBF2H7発現プラスミドは、上記pcDNA3.1(+)のEcoRIサイトとXhoIサイトの間に、開始コドン上流にコザック配列(CCACC)を付加したマウスBBF2H7 S1P認識サイト変異体cDNA(427番目のアルギニンをアラニンに、430番目のロイシンをバリンに置換した変異体)を挿入して構築した(
図2を参照)。
【0063】
上記トランスフェクションから24時間後に培養上清を除去し、1μMタプシガルギンを含む10%ウシ胎児血清含有DMEM培地を添加し、12時間後に細胞を回収した。回収した細胞は上記プロテアーゼインヒビターカクテルを添加した上記細胞溶解バッファーで溶解後に遠心分離を行い、上清を細胞溶解液とした。回収後に、上記と同様に、BBF2H7由来小ペプチド検出抗体を用いて免疫沈降法を行った。その後、当該抗体を1次抗体とし、上記HRP標識ヤギ抗ウサギIgG抗体を2次抗体として用いて、上記試験で行ったウエスタンブロット法と同様にして、BBF2H7由来小ペプチドを検出した。その結果を
図5に示す。
【0064】
図5に示すように、マウスBBF2H7が発現され(Mouse BBF2H7)、タプシガルギンが処理された細胞(Tg1μM)では、BBF2H7由来小ペプチド(約6kDa)が検出された。さらに、その2倍の大きさの位置にもバンドが認められ、これはBBF2H7由来小ペプチドの二量体(dimer)と考えられる。一方、S1Pによる切断を受けない変異型BBF2H7が発現された細胞(Mouse BBF2H7 S1Pmutant)では、タプシガルギン処理しない場合(Control)、及びタプシガルギン処理した場合(Tg1μM)のいずれであっても、BBF2H7由来小ペプチドの単量体(monomer)及び二量体(dimer)のいずれも検出されなかった。
【0065】
次に、上記試験と同様に、HEK293T細胞に対して、上記ScreenfectAを用いて上記マウスBBF2H7発現プラスミドのトランスフェクションを行った。トランスフェクションの24時間後に培地を除き、1μMタプシガルギン及び10μM MG132を含む10%ウシ胎児血清含有DMEM培地を添加した。薬剤処理から12時間後に細胞を回収し、上記プロテアーゼインヒビターカクテルを添加した上記細胞溶解バッファーで細胞を溶解後に遠心分離を行い、上清を細胞溶解液とした。得られた細胞溶解液に対して上記のようにBBF2H7由来小ペプチド検出抗体を用いて免疫沈降法を行い、BBF2H7由来小ペプチドを精製した。続いて、得られた小ペプチドをPBS中で37℃、24時間インキュベートした後にゲルろ過クロマトグラフィーによって、分子量に従って分画した。その結果を
図6(a)に示す。
【0066】
図6(a)に示すように、670kDa以上の高分子量の画分(Fraction2、3)に大きなピークが観察された。
【0067】
続いて、上記のように分画されたFraction1〜15のそれぞれを上記BBF2H7由来小ペプチド検出抗体を用いて免疫沈降法を行い、上記試験と同様にBBF2H7由来小ペプチド検出抗体を用いてウエスタンブロット法を行った。その結果を
図6(b)に示す。
【0068】
図6(b)に示すように、Fraction2、3においてBBF2H7由来小ペプチドが検出された。Fraction2、3は上記クロマトグラフィーでピークが認められた670kDa以上の高分子量の画分であり、すなわち、BBF2H7由来小ペプチドは高度に凝集していると示唆される。
【0069】
図5及び
図6に示す結果から、BBF2H7由来小ペプチドは、細胞内において単量体でも存在するが、互いに凝集した凝集体の形態でも存在していると示唆される。
【0070】
以上の結果から、OASISファミリーであるBBF2H7は、細胞内において、細胞が小胞体ストレスを受けることにより、そのC末端側及びN末端側が切断されて、小ペプチドが生じることが示された。さらに、その小ペプチドは凝集して凝集体を形成することも示された。従って、当該小ペプチドは、小胞体ストレスを検知するためのバイオマーカーとして用いることができ、さらには、小胞体ストレスに関連する各種疾病の診断に用いられる診断マーカーとして利用可能であるといえる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]