特許第6943940号(P6943940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6943940
(24)【登録日】2021年9月13日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】銅合金線材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20210927BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20210927BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210927BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20210927BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20210927BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20210927BHJP
【FI】
   C22C9/00
   C22F1/08 C
   H01B13/00 501D
   H01B1/02 A
   H01B5/02 Z
   !C22F1/00 606
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630G
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 660Z
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 691Z
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】9
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2019-233350(P2019-233350)
(22)【出願日】2019年12月24日
(62)【分割の表示】特願2015-535539(P2015-535539)の分割
【原出願日】2014年9月5日
(65)【公開番号】特開2020-73722(P2020-73722A)
(43)【公開日】2020年5月14日
【審査請求日】2020年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-185542(P2013-185542)
(32)【優先日】2013年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼澤 司
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−280860(JP,A)
【文献】 特開2001−148205(JP,A)
【文献】 特開2014−047401(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/029717(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/068124(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/068126(WO,A1)
【文献】 特許第4932974(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00
C22F 1/08
H01B 13/00
H01B 1/02
H01B 5/02
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agを0.1〜4質量%含有し、残部がCuと不可避的不純物からなる銅合金線材であって、<100>方位を有する結晶粒の面積率が全測定面積の30%以上である銅合金線材。
【請求項2】
前記<100>方位を有する結晶粒の面積率が全測定面積の50%以上である請求項1に記載の銅合金線材。
【請求項3】
前記<100>方位を有する結晶粒の面積率が全測定面積の75%未満である請求項1又は2に記載の銅合金線材。
【請求項4】
母材の平均結晶粒径が0.2μm以上5μm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅合金線材。
【請求項5】
前記線材の横断面の半径をr(mm)または線材の厚さをt(mm)と表わす場合に、該横断面の中心Oから線材最表面に向かって0.7rまたは0.7tまでの領域を中心部、その外側の線材最表面までを外周部としたとき、外周部の<100>方位を有する結晶粒の全測定面積に対する面積率Io(100)と中心部の<100>方位を有する結晶粒の全測定面積に対する面積率Ii(100)が、Io(100)/Ii(100)>1.2で表わされる関係を満足する請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅合金線材。
【請求項6】
前記線材の横断面の半径をr(mm)または線材の厚さをt(mm)と表わす場合に、該横断面の中心Oから線材最表面に向かって0.7rまたは0.7tまでの領域を中心部、その外側の線材最表面までを外周部としたとき、外周部の<100>方位を有する結晶粒の全測定面積に対する面積率Io(100)と中心部の<100>方位を有する結晶粒の全測定面積に対する面積率Ii(100)が、Io(100)/Ii(100)<0.8で表わされる関係を満足する請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅合金線材。
【請求項7】
<100>方位を有する結晶粒の面積率が全測定面積の55%以上であるとともに<111>方位を有する結晶粒の面積率が全測定面積の25%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の銅合金線材。
【請求項8】
前記<100>方位を有する結晶粒の面積率は、EBSD法において、銅合金線材サンプルの横断面を平滑にして測定面とし、該銅合金線材サンプルに対して、真空度を10−4〜10−5Pa程度、加速電圧は20〜30Vとし、OIMソフトウェアで計算される信頼性指数、CI値、が0.2以上となるような測定条件に調整した後、前記測定面を銅合金線材サンプルの直径方向全体において0.02μmステップで結晶粒の有する方位を測定し、該測定の結果に基づき、全測定面積に対する<100>方位を有する結晶粒の面積率を算出したものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の銅合金線材。
【請求項9】
Agを0.1〜4質量%含有し、残部がCuと不可避的不純物からなる合金組成を与える銅合金材料を溶解、鋳造して荒引線を得て、
該荒引線に、加工度ηが0.5以上4以下の冷間加工と中間焼鈍を少なくとも1回ずつこの順で繰り返して所定の線径の線材を得て、ここで、前記中間焼鈍をバッチ式で行う場合は不活性ガス雰囲気下で400〜800℃で30分〜2時間の熱処理を行い、または、前記中間焼鈍を連続式で行う場合は不活性ガス雰囲気下で500〜850℃で0.1〜5秒の熱処理を行い、その後、
該線材に、加工度ηが0.5以上4以下の最終冷間加工と最終焼鈍をこの順で行い、ここで、前記最終焼鈍をバッチ式で行う場合は不活性ガス雰囲気下で350〜500℃で30分〜2時間の熱処理を行い、または、前記最終焼鈍を連続式で行う場合は不活性ガス雰囲気下で400〜700℃で0.1〜5秒の熱処理を行う
請求項1〜8のいずれか1項に記載の銅合金線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金線材及びその製造方法に関し、特にマグネットワイヤ用極細銅合金線材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の発達に伴い電子部品の小型化が進み、線径が0.1mm以下の極細銅合金線(丸線)に対する需要が増えてきている。例えば、携帯電話、スマートフォンなどに使用されているマイクロスピーカ用コイルは線径が0.1mm以下の極細線(マグネットワイヤ)をコイル状に巻きつけ加工して製造されている。
【0003】
この巻線加工にはターン形成が可能なだけの靭性(伸び)が必要であり、従来靭性に優れる純銅が用いられてきた。しかし、純銅は導電性に優れるが強度が低い。また、コイル振動に伴う疲労耐性が低い為にコイル寿命が短いという問題がある。さらには、長尺の銅合金線材からコイル巻き線加工できるコイル成形性のさらなる向上が求められていた。
【0004】
これらの問題を解決するため、導電率を殆ど下げずに引張強さを上げることのできるAg 2〜15質量%を含有する高濃度のCu−Ag合金を使用し、最終加工の加工度を規定することで伸びと強度を両立させることが提案されている(特許文献1)。また、一般的に加工を加えた金属や合金は引張強さが上昇して伸びが低下する。この為、これに一定温度以上の熱処理を加えることで再び伸びが回復して強度が低下する。そこで、この熱処理の温度を軟化温度以下で行うことにより低濃度の合金でも強度と伸びを両立させることが提案されている(特許文献2)。しかし、この方法は熱処理温度、時間のコントロールが難しい。そこで、0.05〜0.2質量%のAgと0.003〜0.01質量%のZrを銅中に添加することで軟化温度範囲を広くし、強度と伸びを両立させる半軟化処理を行う技術が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−280860号公報
【特許文献2】特許3941304号公報
【特許文献3】特公平4−77060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、マグネットワイヤの長寿命化の要求や更なる電子部品の小型化によるマグネットワイヤの極細化(例えば、線径0.07mm以下)の要求にともない、銅合金線材の高強度化と伸びの向上の両立に加えて、コイル巻き線加工性の向上と、耐屈曲疲労特性のさらなる向上が求められてきている。耐屈曲疲労特性は、コイル寿命の尺度の1つである。
特許文献1に記載されている手法は、2〜15%までの高濃度のAgを含有する高コストな合金に対するものである。この為、より低濃度のCu−Ag合金やAgを含まない銅合金でも十分強度と伸びが発揮できるような技術が求められている。また、特許文献1に記載されているように、より強度を上げるためAg含有量を増やすと、その反面、導電性が低下してしまう。さらに、Agは耐熱性を向上させる元素であり、熱処理が困難となる。また、極細線まで加工する場合には最終加工度を規定するだけでは十分特性が出ない場合がある。
特許文献2に記載されている銅合金で導電率、伸びを確保したまま更なる高強度化、耐屈曲疲労性向上を図ることは困難である。
さらに、低濃度のCu−Ag合金に微量のZrを添加して半軟化処理をする手法(特許文献3)は容易に伸びと強度を両立させることができる。しかし、高強度化の点では不十分であった。
また、近時、マグネットワイヤの形状としては、丸線に限らず、角線や平角線の採用も検討されている。これらの角線や平角線の場合にも、前記丸線の線径に相当する程度に厚さが薄い線材とすることが要求されている。
【0007】
本発明はかかる従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであり、高い強度と良好な伸びのバランスに優れ、これに加えて、その銅合金線材を用いて得られるコイルの特性(コイル寿命、コイル成形性)に優れた例えばマグネットワイヤ等に用いられる銅合金線材を、安価で提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、高い強度と良好な伸びのバランスに優れ、これに加えて、その銅合金線材を用いて得られるコイルの特性(コイル寿命、コイル成形性)にも優れた例えばマグネットワイヤ等に用いられる銅合金線材を開発すべく、種々の銅合金、その熱処理及び加工条件について鋭意検討を行った。その結果、銅合金線材の再結晶集合組織を制御することによって、引張強さと伸びを高いレベルで両立させ、そのコイル特性(コイル寿命、コイル成形性)にも優れた銅合金線材が得られることを見い出した。本発明は、この知見に基づいて完成されるに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明によれば以下の手段が提供される。
(1)Agを0.1〜4質量%含有し、残部がCuと不可避的不純物からなる銅合金線材であって、<100>方位を有する結晶粒の面積率が全測定面積の30%以上である銅合金線材。
(2)前記<100>方位を有する結晶粒の面積率が全測定面積の50%以上である(1)に記載の銅合金線材。
(3)前記<100>方位を有する結晶粒の面積率が全測定面積の75%未満である(1)又は(2)に記載の銅合金線材。
(4)母材の平均結晶粒径が0.2μm以上5μm以下である(1)〜(3)のいずれか1項に記載の銅合金線材。
(5)前記線材の横断面の半径をr(mm)または線材の厚さをt(mm)と表わす場合に、該横断面の中心Oから線材最表面に向かって0.7rまたは0.7tまでの領域を中心部、その外側の線材最表面までを外周部としたとき、外周部の<100>方位を有する結晶粒の全測定面積に対する面積率Io(100)と中心部の<100>方位を有する結晶粒の全測定面積に対する面積率Ii(100)が、Io(100)/Ii(100)>1.2で表わされる関係を満足する(1)〜(4)のいずれか1項に記載の銅合金線材。
(6)前記線材の横断面の半径をr(mm)または線材の厚さをt(mm)と表わす場合に、該横断面の中心Oから線材最表面に向かって0.7rまたは0.7tまでの領域を中心部、その外側の線材最表面までを外周部としたとき、外周部の<100>方位を有する結晶粒の全測定面積に対する面積率Io(100)と中心部の<100>方位を有する結晶粒の全測定面積に対する面積率Ii(100)が、Io(100)/Ii(100)<0.8で表わされる関係を満足する(1)〜(4)のいずれか1項に記載の銅合金線材。
(7)<100>方位を有する結晶粒の面積率が全測定面積の55%以上であるとともに<111>方位を有する結晶粒の面積率が全測定面積の25%以下であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の銅合金線材。
(8)前記<100>方位を有する結晶粒の面積率は、EBSD法において、銅合金線材サンプルの横断面を平滑にして測定面とし、該銅合金線材サンプルに対して、真空度を10−4〜10−5Pa程度、加速電圧は20〜30Vとし、OIMソフトウェアで計算される信頼性指数、CI値、が0.2以上となるような測定条件に調整した後、前記測定面を銅合金線材サンプルの直径方向全体において0.02μmステップで結晶粒の有する方位を測定し、該測定の結果に基づき、全測定面積に対する<100>方位を有する結晶粒の面積率を算出したものである、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の銅合金線材。
(9)Agを0.1〜4質量%含有し、残部がCuと不可避的不純物からなる合金組成を与える銅合金材料を溶解、鋳造して荒引線を得て、
該荒引線に、加工度ηが0.5以上4以下の冷間加工と中間焼鈍を少なくとも1回ずつこの順で繰り返して所定の線径の線材を得て、ここで、前記中間焼鈍をバッチ式で行う場合は不活性ガス雰囲気下で400〜800℃で30分〜2時間の熱処理を行い、または、前記中間焼鈍を連続式で行う場合は不活性ガス雰囲気下で500〜850℃で0.1〜5秒の熱処理を行い、その後、
該線材に、加工度ηが0.5以上4以下の最終冷間加工と最終焼鈍をこの順で行い、ここで、前記最終焼鈍をバッチ式で行う場合は不活性ガス雰囲気下で350〜500℃で30分〜2時間の熱処理を行い、または、前記最終焼鈍を連続式で行う場合は不活性ガス雰囲気下で400〜700℃で0.1〜5秒の熱処理を行う
(1)〜(8)のいずれか1項に記載の銅合金線材の製造方法。
【0010】
ここで、本明細書において、半軟化状態とは銅合金線材の伸びが10%以上、好ましくは10%〜30%を満たす状態をいう。また、半軟化処理とは、前記半軟化状態を与える熱処理をいう。また、半軟化温度範囲とは、熱処理後の銅合金線材が伸び7%〜30%を満たす状態を与える範囲の熱処理温度をいう。これに対して、軟化温度とは、熱処理後の銅合金線材において引張強さがそれ以上低下しなくなる状態を与える熱処理温度をいう。
一方、軟化状態とは銅合金線材の伸びが30%を超えて回復された状態をいう。また、軟化処理とは、前記軟化状態を与える高温での熱処理をいう。
本発明において、線材とは、丸線の他に、角線や平角線を含む意味である。従って、本発明の線材とは、特に断らない限り、丸線、角線、平角線を合わせていう。ここで、線材のサイズとは、丸線(幅方向(TD)の断面が円形)であれば丸線材の線径φ(前記断面の円の直径)を、角線(幅方向の断面が正方形)であれば角線材の厚さt及び幅w(いずれも、前記断面の正方形の一辺の長さで同一である)を、平角線(幅方向の断面が長方形)であれば平角線材の厚さt(前記断面の長方形の短辺の長さ)及び幅w(前記断面の長方形の長辺の長さ)を、それぞれいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コイルとして必要な高い強度とコイル成形に必要な良好な伸びとのバランスに優れ、これに加えて、その銅合金線材を用いて得られるコイルの特性(具体的には、耐屈曲疲労特性で表わされるコイル寿命と、長尺の銅合金線材を少ない不具合でコイルに成形できるコイル成形性)にも優れた銅合金線材を得ることができる。本発明の銅合金線材は、例えばマグネットワイヤ等に好適に用いることができる。
また、本発明の銅合金線材の製造方法によれば、安価に安定して前記銅合金線材を製造することができる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明における銅合金線材の外周部と中心部を模式的に示した説明図である。図1(a)は、本発明の銅合金丸線材について、その横断面での中心をO、半径をr(mm)と表わした場合の、外周部と中心部を模式的に示す。中心Oから0.7rまでの内側が中心部である。図1(b)は、本発明の銅合金平角線材について、その横断面の幅をw(mm)、高さ(平角線材の厚さ)をt(mm)と表わした場合の、外周部と中心部を模式的に示す。図では、0.7tまでの内側が中心部である。
図2図2は、実施例で行った屈曲疲労破断回数(繰返破断回数)を測定する試験に用いた装置を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態をより詳細に説明する。
【0014】
[合金組成]
本発明の実施形態である銅合金線材は、Agを0.1〜4質量%含有し、残部はCuと不可避的不純物からなる。あるいは、この銅合金線材は、前記Agに加えて又は前記Agに代えて、Sn、Mg、Zn、In、Ni、Co、Zr及びCrからなる群から選ばれる少なくとも1種を各々の含有量として0.05〜0.3質量%含有し、残部はCuと不可避的不純物からなるものであってもよい。ここで、合金添加元素の含有量について単に「%」という場合は、「質量%」の意味である。ここで、Sn、Mg、Zn、In、Ni、Co、Zr及びCrからなる群から選ばれる少なくとも1種の合金成分の合計含有量には特に制限はない。銅合金線材の導電率の著しい低下を防ぐためには、Ag以外のSn、Mg、Zn、In、Ni、Co、Zr及びCrからなる群から選ばれる少なくとも1種の合金成分の含有量は合計で好ましくは0.5質量%以下である。
本実施形態の銅合金線材においては、Agを単独で含有する。あるいは、Sn、Mg、Zn、In、Ni、Co、Zr及びCrからなる群から選ばれる少なくとも1種を単独で含有してもよく、あるいは、これらのAgとSn、Mg、Zn、In、Ni、Co、Zr及びCrからなる群から選ばれる少なくとも1種とを両方とも含有してもよい。
【0015】
これらの元素は、それぞれ固溶強化型あるいは析出強化型の元素であり、Cuにこれらの元素を添加することで導電率を大幅に低下させることなく強度を上げることができる。
この添加によって、銅合金線材自体の強度が上がり、耐屈曲疲労特性が向上する。一般に耐屈曲疲労特性は引張強さに比例する。しかし、引張強さを大きくするために加工を加えると伸びが低下しマグネットワイヤ等の極細銅合金線材へ成形することができなくなる。ここで、屈曲疲労時に銅合金線材にかかる曲げ歪は線材の外周部ほど大きく、中心部に近いほど曲げ歪量は小さくなる。実施形態によれば、線材全体が半軟化状態を維持している。この為、線材全体としての伸びを十分確保することができるので、マグネットワイヤ等の極細銅合金線材への成形が可能となる。
【0016】
Agは、これらの元素の中でも特に導電率を下げずに強度を上げることができる元素であって、例えばマグネットワイヤ等に用いられる実施形態に係る銅合金としてCu−Ag系合金は好適である。Agは、実施形態に係る銅合金における必須添加元素である。実施形態において、Ag含有量は0.1〜4%とし、好ましくは0.5〜2%である。Ag含有量が少なすぎる場合、十分な強度を得ることができない。また、Ag含有量が多すぎると導電性が低下するとともにコストが高くなりすぎる。
【0017】
Sn、Mg、Zn、In、Ni、Co、Zr及びCrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素は、実施形態に係る銅合金における必須添加元素の別の一例である。実施形態において、これらの元素の含有量は各々の含有量として0.05〜0.3%とし、好ましくは0.05〜0.2%である。この含有量が各々の含有量として少なすぎる場合、これらの元素添加による強度上昇の効果が殆ど見込めない。また、この含有量が多すぎる場合、導電率の低下が大きすぎて、マグネットワイヤ等の銅合金線材として不適である。
これらの元素は、それぞれ固溶強化型あるいは析出強化型の元素であり、Cuにこれらの元素を添加することで導電率を大幅に低下させることなく強度を上げることができる。この添加によって、銅合金線材自体の強度が上がり、耐屈曲疲労特性が向上する。
【0018】
[結晶方位]
本実施形態の銅合金線材は、<100>組織が全体の30%以上であることを特徴としている。ここで、<100>組織が全体の30%以上であるとは、図1(a)に示す線材の横断面を軸方向からEBSD法で観察した際に、<100>方位を有する結晶粒の面積率が全測定面積の30%以上であることをいう。銅線を引抜加工、熱処理を行うと、<100>集合組織と<111>集合組織が発達するが、本発明者は様々な組織を持つ銅合金極細線材について検討を重ねた結果、<100>組織が全体の30%以上、好ましくは50%以上を占める銅合金線材が、伸びと引張強度に優れるとともにコイル特性にも優れることを見い出した。また、<100>集合組織が多すぎると強度が若干低下するため、<100>集合組織が全体の75%未満であることが好ましい。
【0019】
また、線材全体の金属組織の結晶方位比率が同じであっても、線材の外周部と中心部に勾配がある(つまり、結晶方位の制御の程度に差がある)場合には、得られる線材の特性に差が生じる。
ここで、本実施形態の銅合金線材が、丸線材の場合には、その横断面の円の半径をr(mm)と表わす場合に、該横断面の中心Oから線材最表面に向かって0.7rまでの領域を中心部とし、その外側の線材最表面までを外周部とする(図1(a)参照)。
また、本実施形態の銅合金線材が、平角線材の場合には、その横断面の矩形の幅をw(mm)、厚さ(矩形の高さ)をt(mm)と表わす場合に、該横断面の中心側から線材最表面に向かって0.7tまでの領域を中心部とし、その外側の線材最表面までを外周部とする(図1(b)参照)。
【0020】
本実施形態の1つの実施態様においては、外周部の<100>方位を有する結晶粒の全測定面積に対する面積率Io(100)と中心部の<100>方位を有する結晶粒の全測定面積に対する面積率Ii(100)が、Io(100)/Ii(100)>1.2で表わされる関係を満足することが好ましい。この関係を満たすとき、コイル成形性がより向上する。これは、コイル成形時の曲げ加工により耐えやすくなるためである。この態様は、曲げ半径の小さい小径コイルに加工する場合に特に適している。
また、本実施形態の別の実施態様においては、Io(100)/Ii(100)<0.8で表わされる関係を満たすことが好ましい。この関係を満たすとき、コイルの耐屈曲疲労特性がより向上し、コイル寿命が向上する。これは振動疲労や屈曲疲労を受けやすい外周部の強度が高くなるためである。この態様は、丸線材の線径がより細いかまたは平角線材の厚さがより薄くて、屈曲寿命が要求される場合に特に適している。
本実施形態において好ましくは、前記2つの実施態様の内から、必要とするコイル特性に応じて適した結晶組織の形態、つまり外周部と中心部で異なる<100>方位の集積状態を選択して形成することが出来る。この形成法の詳細は後述する。
【0021】
[EBSD法]
本実施形態における上記結晶方位の観察と解析には、EBSD法を用いる。EBSD法とは、Electron BackScatter Diffraction法の略で、走査電子顕微鏡(SEM)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折を利用した結晶方位解析技術のことである。
本実施形態におけるEBSD測定では、線材の横断面に対して所定ステップでスキャンして、各結晶粒の有する方位を測定(解析)する。ここで、本実施形態では、その測定の結果、<100>方位とのズレ角が±10度以内である面を<100>面と定義し、線材の横断面を軸方向からEBSD法で観察した際に、<100>方位とのズレ角が±10度以内である面を有する結晶粒を<100>方位を有する結晶粒と定義する。このような定義に基づいて、<100>面を有する結晶粒の面積の値を特定する。そして、線材の横断面を軸方向からEBSD法で観察した際に、<100>方位を有する結晶粒の面積の全測定面積に対する割合から、<100>方位を有する結晶粒の面積率(%)を算出する。
ここで全測定面積とは、上記のようにスキャンした面積の総和のことを言う。
前記スキャンステップは、試料の結晶粒の大きさに応じて適宜決定すればよい。
サンプルの測定点は、銅合金線材サンプル全体を代表する測定結果が得られる条件で設定されることが好ましく、径方向の少なくとも2点の測定によるものであってもよいが、サンプルの中心点と径方向に等間隔に対向した2点からなる計3点か、それ以上が好ましい。とくに本実施形態のような極細線の場合、直径が十分小さいため、直径全体で細かいステップでのスキャンが容易に可能である。よって銅合金線材サンプルの直径方向全体をたとえば0.02μmステップ程度の細かいステップでスキャンし、その測定した全面積を全測定面積として扱うことが好ましい。
このようなEBSD測定による結晶粒の解析において得られる情報は、電子線が試料に侵入する数10nmの深さまでの情報を含んでいる。しかし、測定している広さに対して充分に小さい為、本明細書中では、前記情報を結晶粒の面積情報として扱う。また、結晶粒の平均面積は線材の軸方向(長手方向、LD)で異なる為、軸方向で何点かを任意にとって平均を取ることが好ましい。
【0022】
[銅合金線材の母材の結晶粒径]
本実施形態での特性をさらに向上させるために結晶粒径は0.2μm以上5μm以下が好ましい。結晶粒が小さすぎる場合、結晶粒が過剰に微細であるため加工硬化能が低下し、伸びが若干低下する場合がある。一方、結晶粒径が大きすぎる場合、不均一変形を生じやすくなり、やはり伸びが低下してしまう場合がある。
【0023】
[製造方法]
本実施形態の銅合金線材の製造方法について説明する。
前記のとおり、本実施形態の銅合金線材の形状は、丸線に限定されず、角線や平角線としても良いので、これらについて以下に説明する。
【0024】
[丸線材の製造方法]
まず、本実施形態の銅合金丸線材の製造方法は、例えば、鋳造、冷間加工(具体的には冷間伸線加工であり、中間冷間加工ともいう。)、中間焼鈍、最終冷間加工及び最終焼鈍の各工程からなる。ここで、冷間加工と中間焼鈍とは、必要に応じてこの順で行えばよく、これらをこの順で2回以上繰り返して行ってもよい。冷間加工と中間焼鈍とを繰り返す回数は、特に制限されるものではないが、通常1回〜5回であり、好ましくは2回〜4回である。鋳塊サイズと最終線径が近い場合(例えば、鋳塊から最終線径までの加工度で0.5〜4の範囲の場合、つまり、鋳塊サイズが小さいもしくは最終線径が太い場合)は必ずしも中間焼鈍を必要とせずに省略することができる。この場合、中間焼鈍後の中間伸線としての冷間加工も省略する。
【0025】
[鋳造]
坩堝にてCuとAg、及び/又は、Sn、Mg、Zn、In、Ni、Co、Zr、Cr等の添加元素を溶解し鋳造する。溶解するときの坩堝の雰囲気は酸化物の生成を防止するために真空もしくは窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。鋳造方法には特に制限はなく、例えば横型連続鋳造機やUpcast法などの連続鋳造伸線法を用いることができる。これらの連続鋳造伸線法によれば、鋳造から伸線の工程を連続して行うことによって、通常直径φ8〜23mm程度の荒引線が得られる。
一方、連続鋳造伸線法によらない場合には、鋳造によって得たビレット(鋳塊)を伸線加工に付すことによって、同様に直径φ8〜23mm程度の荒引線を得る。
【0026】
[冷間加工、中間焼鈍]
この荒引線に対して冷間加工と熱処理(中間焼鈍)を必要に応じて少なくとも1回ずつこの順で繰り返して行う。これらの冷間加工と熱処理(中間焼鈍)を施すことによって、直径が通常φ0.1mm〜0.01mmの細径線を得る。
ただし、このような工程を経なくとも所望の線径の細径線が得られる場合は、本工程を行わなくともよい。
【0027】
この各冷間加工での加工度及び加工率について述べる。
各々の冷間加工は、加工度(η)が0.5以上4以下の範囲内で線材(荒引線)を得るように行う。
ここで、加工度(η)は、加工前の線材の断面積をS、加工後の線材の断面積をSとした時に、η=ln(S/S)で定義される。
この加工度が小さすぎる場合は、加工後の熱処理(中間焼鈍)によって強度、伸びが十分発現せず、また、工程数が増えてしまうためエネルギー消費量が大きくなる為に製造効率が悪く、好ましくない。また、加工度が大きすぎる場合は、<100>集合組織の配向性(前記の<100>方位を有する結晶粒の面積率)が30%未満と小さくなって<111>集合組織が多くなってしまい、仕上焼鈍(最終焼鈍)後の組織にも影響を与え伸びが低くなる。
【0028】
ここで、各冷間加工は、複数回の冷間加工パスで行ってもよい。連続する2つの熱処理(中間焼鈍)間の冷間加工のパス数は、特に制限されるものではなく、通常2〜40回とする。
前記Io(100)/Ii(100)>1.2としたい場合、最終冷間加工前までの中間冷間加工における各加工パスにおいて1回当たりの加工率は12%以上35%以下とし、最終冷間加工のみ3%以上12%未満の加工率で行うことが好ましい。
一方、前記Io(100)/Ii(100)<0.8としたい場合、中間冷間加工及び仕上冷間加工(最終冷間加工)の全てについて、各加工パスにおける1回当たりの加工率をそれぞれ3%以上12%未満で行うことが好ましい。
ここで、1回当たりの加工率とは、当該加工工程の複数回の加工パスにおける各回の加工パスの平均加工率をいう。
前記2つのいずれの加工率で冷間加工を行う場合でも、中間冷間加工は、当該冷間加工工程での加工度ηが0.5以上4以下の範囲で行うことが好ましい。
各冷間加工(中間冷間伸線又は仕上冷間伸線)工程での加工率(圧下率、断面減少率とも言う。)とは、伸線工程前の線材の線径t(mm)と伸線工程後の線材の線径t(mm)を用いて、下式の式によって算出される値をいう。
加工率(%)={(t−t)/t}×100={1−(t/t)}×100
このように本実施形態では、大きな加工を行う場合に加工度、小さな加工を行う場合に加工率で加工の程度を表している。
【0029】
特許文献3に示された製造方法では、最終熱処理前の加工における加工度のみを制御している。これに対して、本実施形態の製造方法では、各2つの熱処理工程間での冷間加工として各中間冷間伸線及び仕上冷間伸線での加工度を全て適正に制御することによって、再結晶集合組織の配向性を抑制することができて、強度と伸びがバランスよく高いレベルとされ、さらにコイル特性にも優れた銅合金線材とすることができる。
【0030】
この各冷間加工の後には、必要に応じて中間焼鈍を行う。前述のとおり、鋳塊サイズと最終線径が近い場合には中間焼鈍を省略してもよい。
中間焼鈍を行う熱処理方法としては大きく分けてバッチ式と連続式が挙げられる。
バッチ式の熱処理は処理時間、コストがかかるため生産性に劣るが、温度や保持時間の制御が行いやすいため特性の制御を行いやすい。これに対して、連続式の熱処理は伸線加工工程と連続で熱処理が行えるため生産性に優れる。しかし、連続式の熱処理は、極短時間で熱処理を行う必要があるため熱処理温度と時間を正確に制御し特性を安定して実現させることが必要である。このように、それぞれの熱処理方法は以上のように長所と短所があるため、目的に沿った熱処理方法を選択する。
なお、一般に、熱処理温度が高いほど短時間で、熱処理温度が低いほど長時間で熱処理を行う。
【0031】
中間焼鈍をバッチ式で行う場合は、例えば窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気の熱処理炉で、300〜800℃で30分〜2時間熱処理を行う。特に、Ag、Zrといった耐熱性を高める元素を添加した場合は400℃以上800℃以下で30分〜2時間熱処理することが好ましい。
以下、バッチ式で行う中間焼鈍をバッチ焼鈍と略記する。
【0032】
一方、連続式の熱処理としては、通電加熱式と雰囲気内走間熱処理式が挙げられる。
まず、通電加熱式は、伸線工程の途中に電極輪を設け、電極輪間を通過する銅合金線材に電流を流し、銅合金線材自身に発生するジュール熱によって熱処理を行う方法である。
次に、雰囲気内走間熱処理式は、伸線の途中に加熱用容器を設け、所定の温度に加熱された加熱用容器雰囲気の中に銅合金線材を通過させ熱処理を行う方法である。
いずれの熱処理方法も銅合金線材の酸化を防止するために不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
中間焼鈍を連続式で行う場合の熱処理条件は、400〜850℃で0.1〜5秒行うことが好ましい。特に、Ag、Zrといった耐熱性を高める元素を添加した場合は500℃以上850℃以下で0.1〜5秒熱処理することが好ましい。
以下、前記通電加熱式と雰囲気内走間熱処理式の2種類の連続式焼鈍をそれぞれ電流焼鈍、走間焼鈍と略記する。
このいずれかの熱処理による中間焼鈍に付すことによって、銅線の伸びが15%以上となるようにする。伸びが15%未満となるような不十分な熱処理を行うと十分な歪の除去と再結晶ができずに<111>の加工集合組織が多く残存してしまうため、最終製品で十分な伸びを発現することができない。また、好ましくは中間焼鈍としての前記熱処理は、銅合金線材として用いた銅合金の再結晶温度から100℃以上高くならないように熱処理に付すことによって、半軟化状態とすることが好ましい。熱処理が過剰であって軟化状態にしてしまうと、結晶粒が粗大化してしまうため、不均一変形を引き起こし易くなり、最終製品で伸びが十分に出なくなってしまう場合がある。
【0033】
[仕上冷間加工(最終冷間加工)]
前記冷間加工と中間焼鈍が施された線材に対して、仕上冷間加工を施して、所望の線径とする。この仕上冷間加工も、前記中間の冷間加工と同様に、銅線の加工度(η)が0.5以上4以下となる範囲内で行う。加工度が小さすぎる場合は、十分な加工を与えられないため銅線の加工効果が不十分となり、仕上焼鈍後に得られる銅線の強度が不十分となってしまう。一方、加工度が大きすぎる場合は、仕上焼鈍後に<100>集合組織を30%以上得ることができず、十分な伸びを得ることができない。好ましくは、仕上冷間加工は加工度(η)が0.5以上3以下となる範囲内で行う。この好ましい加工度で仕上冷間加工を行うことによって、<100>集合組織を50%以上とするとともに、引張強度350MPa以上、伸び10%以上というより優れた銅合金線材を得ることができる。
さらに、前記Io(100)/Ii(100)の値を好ましく制御する為の仕上冷間加工の各加工パスにおける加工率は、中間の冷間加工の項で併せて説明したごとく、前述のとおりに設定することが好ましい。
【0034】
[仕上焼鈍(最終焼鈍)]
上記仕上冷間加工工程により所望のサイズまで伸線加工した銅合金線材に対して、最終熱処理として仕上焼鈍を施す。
仕上焼鈍をバッチ式で行う場合は、300〜500℃で30分〜2時間の熱処理を行う。一方、仕上焼鈍を連続式で行う場合は、300〜700℃で0.1〜5秒の熱処理を行う。特に、Ag、Zrといった耐熱性を高める元素を添加した場合は、バッチ式の場合は350℃以上500℃以下の熱処理を行う。一方、連続式の場合は400℃以上700℃以下で熱処理を行う必要がある。
以下、バッチ式で行う仕上焼鈍をバッチ焼鈍と略記する。また、前記2種類の連続式で行う仕上焼鈍をそれぞれ、電流焼鈍、走間焼鈍と略記する。
前記仕上焼鈍の熱処理は、この熱処理後の最終製品である銅合金線材の引張強さが350MPa以上、伸び10%以上の特性を満たすような条件で行う。完全に軟化する温度、つまり再結晶温度より低い温度で熱処理に付すことによって、半軟化状態とすることが好ましい。
このとき、銅合金線材の組成や加工率によって、仕上焼鈍である熱処理後の引張強さ、伸びの特性が若干変化するため、仕上焼鈍である熱処理によって得られる銅合金線材の引張強さが350MPa以上、伸びが10%以上となるような加熱温度、加熱時間となるように調整する。
【0035】
[平角線材の製造方法]
次に、本実施形態の銅合金平角線材の製造方法について説明する。本実施形態の銅合金平角線材の製造方法は、平角線加工工程を有する以外は、前記丸線材の製造方法と同様である。具体的には、本実施形態の平角線材の製造方法は、例えば、鋳造、冷間加工(冷間伸線)、平角線加工、最終熱処理(最終焼鈍)の各工程をこの順に施してなる。必要に応じて、冷間加工と平角線加工の間に中間焼鈍(中間熱処理)を入れても良いことも、前記丸線材の製造方法と同様である。鋳造、冷間加工、中間焼鈍、最終焼鈍の各工程の加工・熱処理の各条件とそれらの好ましい条件や、冷間加工と中間焼鈍の繰り返し回数も、丸線材の製造方法と同様である。
【0036】
[平角線加工]
平角線加工の前までは、丸線材の製造と同様にして、鋳造で得た鋳塊に冷間加工(伸線加工)を施して丸線形状の荒引線を得て、必要により中間焼鈍を施す。平角線加工としては、こうして得た丸線(荒引線)に、圧延機による冷間圧延、カセットローラーダイスによる冷間圧延、プレス、引抜加工等を施す。この平角線加工により、幅方向(TD)断面形状を長方形に加工して、平角線の形状とする。この圧延等は、通常1〜5回のパスによって行う。圧延等の際の各パスでの圧下率と合計圧下率は、特に制限されるものではなく、所望の平角線サイズが得られるように適宜設定すればよい。ここで、圧下率とは平角線加工を行った時の圧延方向の厚さの変化率であり、圧延前の厚さをt、圧延後の厚さをtとした時、圧下率(%)は{1−(t/t)}×100で表される。また、本実施形態において平角線加工での加工度ηはη=ln(t/t)と定義する。例えば、この合計圧下率は、10〜90%とし、各パスでの圧下率は、10〜50%とすることができる。ここで、本実施形態において、平角線の断面形状には特に制限はないが、アスペクト比は通常1〜50、好ましくは1〜20、さらに好ましくは2〜10である。アスペクト比(下記のw/tとして表わされる)とは、平角線の幅方向(TD)断面を形成する長方形の短辺に対する長辺の比である。平角線のサイズとしては、平角線材の厚さtは前記幅方向(TD)断面を形成する長方形の短辺に等しく、平角線材の幅wは前記幅方向(TD)断面を形成する長方形の長辺に等しい。平角線材の厚さtは、通常0.1mm以下、好ましくは0.07mm以下、より好ましくは0.05mm以下である。平角線材の幅wは、通常1mm以下、好ましくは0.7mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下である。
この平角線材を厚さ方向に巻線加工する場合、上述した本実施形態による丸線材と同様に、高い引張強度、伸び、導電率を発現することができる。ここで、平角線材を厚さ方向に巻線加工するとは、平角線材の幅wをコイルの幅として、平角線をコイル状に巻きつけることをいう。
【0037】
[角線材の製造方法]
さらに、角線材を製造する場合には、前記平角線材の製造方法において、幅方向(TD)断面が正方形(w=t)となるように設定すればよい。
【0038】
[平角線材及び角線材の製造方法の別の実施形態]
前記の製造方法に代えて、所定の合金組成の板材または条材を製造し、これらの板または条をスリットして、所望の線幅の平角線材または角線材を得ることができる。
この製造工程として、例えば、鋳造、熱間圧延、冷間圧延、仕上焼鈍、スリット加工からなる方法がある。必要に応じて冷間圧延の途中に中間焼鈍を入れても良い。スリット加工は場合によっては仕上焼鈍の前に行っても良い。
【0039】
[物性]
以上で説明した本実施形態の製造方法によって、<100>集合組織の面積率が30%以上、好ましくは50%以上(好ましくは75%未満)の銅合金線を得ることができる。以下、特に断らない限り、丸線材、角線材の両方の態様について説明しているものとする。
本実施形態の銅合金線材は、好ましくは350MPa以上の引張強さを有する。引張強度が小さすぎる場合には、細径化したときの強度が足りず、屈曲疲労特性に劣ることがある。
本実施形態の銅合金線材は、好ましくは10%以上の伸びを有する。伸びが小さすぎる場合には、コイルを成形する際に破断等の不具合が生じてしまうことがある。
本実施形態の銅合金線材は、好ましくは70%IACS以上、好ましくは80%IACS以上、さらに好ましくは90%IACS以上の導電率を有する。導電率が高い方がエネルギーロスが低いため、例えばマグネットワイヤとして好ましい。マグネットワイヤとして導電率は70%IACS以上が必要であり、好ましくは80%IACS以上、さらに好ましくは90%IACS以上である。
本実施形態の銅合金線材は、好ましくは、極細線マグネットワイヤとして成形可能な高い伸びを有する。また、本実施形態の銅合金線材は、好ましくは耐屈曲疲労性(コイル寿命)が高い。本実施形態の銅合金線材は、好ましくは、他のコイル特性としてコイル成形性にも優れる。さらに、本実施形態の銅合金線材は、好ましくは導電率が高い。
【0040】
[線径または線材の厚さ、用途]
本実施形態の銅合金線材の線径または線材の厚さには、特に制限はないが、好ましくは0.1mm以下、さらに好ましくは0.07mm以下、より好ましくは0.05mm以下である。線径または線材の厚さの下限値には特に制限はないが、現在の技術では通常0.01mm以上である。
本実施形態の銅合金線材の用途は、特に制限されないが、例えば、携帯電話、スマートフォンなどに使用されているスピーカコイルに用いられる極細線であるマグネットワイヤ等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に、本実施形態を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
[丸線材の実施例、参考例、比較例]
鋳造材は、0.5〜4質量%のAg、及び/又は、各々の含有量として0.05〜0.3質量%のSn、Mg、Zn、In、Ni、Co、Zr及びCrからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がCuと不可避的不純物からなる表1−1、2−1〜2−3、4−1、5−1に示した種々の合金組成を有する本発明例(実施例)の銅合金材料と参考例の銅合金材料と比較例の銅合金材料とを、それぞれ横型連続鋳造方法でφ8〜22mmの鋳塊(荒引線)に鋳造した。
この荒引線に冷間加工(中間冷間伸線)、中間焼鈍(中間熱処理)、仕上冷間加工(仕上冷間伸線)及び仕上焼鈍(仕上熱処理)をこの順に施して、各々表中に示した各種線径の、各丸線材サンプル(供試材)を作成した。
中間焼鈍、仕上焼鈍の熱処理は、バッチ焼鈍、電流焼鈍、走間焼鈍の3パターンから選ばれるいずれかの方式で実施し、いずれも窒素雰囲気下で行った。各表中には、行った熱処理の方式を「バッチ」、「電流」、「走間」と示した。当該熱処理の熱処理温度と熱処理時間を各欄に示した。なお、中間焼鈍及び仕上焼鈍は、熱処理1→熱処理2→熱処理3→…として、行った順に示した。「熱処理X」として示した「X」が何回目(第X回目)に行った焼鈍であるかの順番(番号)を示す。この内、最後に行った熱処理が仕上焼鈍である。各表に示した試験例では、中間焼鈍を1回から4回行った場合と、中間焼鈍を1回も行わなかった場合とがある。各試験例において「熱処理X」の項の「線径」欄に示した値は、当該第X回目の熱処理に付す直前の冷間加工(中間冷間伸線又は仕上冷間伸線)後の線材の線径である。この冷間加工(中間冷間伸線又は仕上冷間伸線)における加工度を「加工度」の欄に示した。
表2−4〜2−6には、最終に施した冷間加工(仕上冷間伸線)における加工度を「最終加工での加工度」の欄に示した。
表5−1には、当該冷間加工(中間冷間伸線又は仕上冷間伸線)の各1パスの加工における加工率を「1回の加工率」の欄に示した。
【0043】
[平角線材の実施例、参考例、比較例]
前記丸線材と同様にして、但し、鋳塊を冷間加工(伸線)して得た荒引線に中間焼鈍(表中の熱処理1)を付した後、少なくとも1回ずつの冷間加工(伸線)と中間焼鈍(表中の熱処理2→熱処理3→熱処理4)に付した後に、平角線加工を施してから仕上焼鈍(表中の熱処理3、熱処理4、熱処理5のいずれか)を施して、平角線材サンプルを作製した。
平角線加工は、表3−1〜3−2に示したように、各平角線加工前に線径φ(mm)であった丸線を、厚さt(mm)×幅w(mm)のサイズの平角線に冷間圧延によって加工した。
表3−2には、最終に施した冷間加工(仕上冷間伸線)における加工度を「最終加工での加工度」の欄に示した。
【0044】
表1−1〜5−2に、本実施例による銅合金線材と参考例の銅合金線材と比較例の銅合金線材の製造条件と得られた銅合金線材の特性を示す。
【0045】
[特性]
以上のようにして得た丸線材と平角線材のサンプルについて、各種特性を試験、評価した。
【0046】
引張強さ(TS)、伸び(El)は、それぞれ仕上焼鈍後の銅合金線材について、JIS Z2201、Z2241に従い測定した。表中では、「熱処理後引張強さ」、「熱処理後伸び」とそれぞれ示した。引張強さは350MPa以上を合格と判断した。伸びは10%以上を合格と判断した。
【0047】
結晶粒径(GS)は、各サンプルの横断面のミクロ組織観察から切断法(JIS G0551)により測定した。
【0048】
再結晶集合組織の結晶方位は、EBSD(Electron Backscatter Diffraction)法により、以下のように測定、評価した。まず銅合金線材サンプルの横断面全体を平滑にして、EBSD法で測定可能な平面とした。具体的にはサンプルの観察面をクロスセクションポリッシャ(CP)加工や電解研磨等で平滑面とした。次に各銅合金線材サンプルの横断面に対して0.02μmステップでスキャンして、各結晶粒の有する方位を解析した。ここで測定機は電子線発生源をJSM‐7001FA(日本電子製)、EBSD検出器をOIM5.0HIKARI(TSL)で構成されるものを使用した。該解析には、TSLソリューション社製の解析ソフトOIMソフトウェア(商品名)を用いた。前記測定機における測定条件は、例えば、真空度を10−4〜10−5Pa程度、加速電圧は20〜30Vとし、OIMソフトウェアで計算される信頼性指数(Confidence Index:CI値)が0.2以上となるような測定条件に調整した。このCI値を0.2以上として測定を行うことにより、より正確な測定結果が得られる。このような測定の結果、<100>方位とのズレ角が±10度以内である面を<100>面と定義し、各銅合金線材サンプルの横断面を軸方向からEBSD法で観察した際に、<100>方位とのズレ角が±10度以内である面を有する結晶粒を<100>方位を有する結晶粒と判定し、その面積の値を特定した。そして、そのように特定された<100>方位を有する結晶粒の面積の全測定面積に対する割合から、<100>方位を有する結晶粒の面積率(%)を求めた。各表では、<100>面積率と示す。同様に、<111>方位とのズレ角が±10度以内である面を<111>面と定義し、<111>方位を有する結晶粒の面積率(%)を算出した。各表では、<111>面積率と示す。
さらに、各銅合金丸線材サンプルの横断面の半径をr(mm)と表わす場合に、該横断面の中心Oから線材最表面に向かって0.7rまでの領域を中心部とし、その外側の線材最表面までを外周部とする(図1(a)参照)。前記と同様にEBSD法にて、外周部の<100>方位を有する結晶粒の全測定面積に対する面積率Io(100)と、中心部の<100>方位を有する結晶粒の全測定面積に対する面積率Ii(100)とを求めた。これらの値から、Io(100)/Ii(100)の値を計算し、表5−2に示した。
【0049】
コイル寿命は、図2に示した装置により屈曲疲労試験を行い、銅合金線材の供試材が破断するまでの屈曲疲労破断回数を測定し、その破断回数で評価した。この試験では、まず図2に示すように、試料として最終線径φまたは線材の厚さtの銅合金線材の試料をダイスで挟み、線材のたわみを抑えるため下端部に20gの錘(W)をつるして荷重を掛けた。平角線の場合には、線材の厚さ方向(ND)でサンプルをダイスで挟むようにセットした。試料の上端部は接続具で固定した。この状態で試料を左右に90度ずつ折り曲げて、毎分100回の速さで繰り返しの曲げを行い、破断するまでの曲げ回数をそれぞれの試料について測定した。なお、曲げ回数は、図中の1→2→3の一往復を一回と数え、また、2つのダイス間の間隔は、試験中に銅合金線材の試料を圧迫しないように1mmとした。破断の判定は、試料の下端部に吊るした錘が落下したときに、破断したものと判断した。なおダイスの曲率によって、曲げ半径(R)は1mmとした。破断に至るまでの繰り返し曲げ回数(屈曲疲労破断回数)が2501回以上であったものを「AA(特に優)」、2001〜2500回であったものを「A(優)」、1501〜2000回であったものを「B(良)」、1001〜1500回であったものを「C(可)」、1000回以下であったものを「D(劣)」と評価した。
【0050】
導電率(EC)は、JIS H0505に従い測定した。導電率が70%IACS以上を合格、80%IACS以上を良、90%IACS以上を優、70%IACS未満を不合格と評価した。
【0051】
コイル成形性は、銅合金線材の供試材100kmを直径5mm(φ5mm)のコイルに巻き線加工したときの断線発生頻度を試験して、100kmあたりの断線頻度で評価した。断線の発生頻度が0回以上0.3回未満であったものを「A(優)」、0.3回以上0.6回未満であったものを「B(良)」、0.6回以上1.0回未満であったものを「C(可)」、1.0回以上であったものを「D(劣)」として評価した。
【0052】
総合評価は、前記引張強度、伸び、及び前記コイル特性(コイル寿命、コイル成形性、導電率)から判断して、低コストで極細線コイル用銅合金線材として優れるものを「A(優)」、次いで「B(良)」、「C(可)」、「D(劣)」で評価した。
【0053】
表1−1〜1−3にCu−2%Ag合金線を最終線径0.1mm(φ0.1mm)となるよう加工、熱処理した本発明例の丸線材のサンプル(実施例1〜10)と比較例の丸線材のサンプル(比較例1〜10)の特性を測定、評価した結果を示す。
【0054】
【表1-1】
【0055】
【表1-2】
【0056】
【表1-3】
【0057】
実施例1〜10はいずれも、<100>方位の集合組織の面積率が30%以上となるように加工、熱処理条件を適正に調整した為に、引張強さ350MPa以上、伸び10%以上といずれも高く、かつ、コイル寿命とコイル成形性も良好な特性を示している。特に、仕上焼鈍前の仕上冷間加工における最終加工度(η)が0.5以上3以下の実施例2〜5は<100>集合組織の面積率が50%以上であって、伸びが15%以上と高く、コイル寿命もさらに良好な特性を示している。<100>集合組織の面積率が75%以上であった実施例1は他の実施例と比較すると、強度はそれ程高くなかった。仕上焼鈍前の仕上冷間加工における最終加工度(η)が3を超え3.5未満であった実施例6、7は、前記実施例2〜5に比べると、伸びはそれ程高くなかった。また、仕上焼鈍前の仕上冷間加工における最終加工度(η)が3.5〜4.0の間の値であった実施例8、9は結晶粒径が0.1μmと微細化したため、他の実施例と比較すると、伸びはそれ程高くなかった。中間焼鈍温度が850℃と熱処理条件が高かった実施例10も同様に、他の実施例と比較すると、伸びはそれ程高くなかった。この為、これらの実施例8、9、10では、他の実施例と比較すると、コイル成形性はそれ程高くなかった。
【0058】
これに対し、比較例1〜6では最終の冷間加工度が大きすぎるために<100>集合組織が少なく伸びが劣った。比較例7、8は最終冷間加工中間焼鈍前の加工度(η)が4を超えて大きすぎたために、同様に、<111>方位の集合組織が多く残存して<100>方位の集合組織の面積率が小さく、伸びが劣った。比較例9では中間焼鈍(熱処理3)が不十分であったために加工ひずみを十分に除去することが出来ずに次工程に持ち越してしまったため、<100>集合組織の面積率が小さく、伸びが劣った。比較例10では熱処理前の加工度が高すぎたのと併せ、中間焼鈍の温度も高すぎたために、結晶粒が粗大化してしまい、伸びが劣った。これらの比較例1〜10は、いずれも伸びに加えてコイル成形性にも劣った。
このように、本実施形態によれば、熱処理温度と加工度を適正に調整することで<100>集合組織を制御することができて、より高いレベルの強度と伸びを有するとともに、コイル特性にも優れた銅合金線材を得ることができる。
【0059】
表2−1〜2−9にCu−2%Ag合金以外の様々な合金組成の銅合金丸線材の実施例と参考例と比較例を示す。
表2−4〜2−6中、「最終加工での加工度」の欄には、「熱処理1〜5」の内、最終に行った熱処理x(x回目、x=最終)の直前に行った最終の仕上冷間加工(x回目、x=最終)における加工度を示した。
【0060】
【表2-1】
【0061】
【表2-2】
【0062】
【表2-3】
【0063】
【表2-4】
【0064】
【表2-5】
【0065】
【表2-6】
【0066】
【表2-7】
【0067】
【表2-8】
【0068】
【表2-9】
【0069】
Cuに(1)Ag[実施例]及び/又は(2)Sn、Mg、Zn、In、Ni、Co、Zr及びCrからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素[参考例]を添加した銅合金丸線材の場合にも、Cu−Ag合金[実施例]の場合と同様に、<100>組織量を制御して所定の<100>方位を有する結晶粒の面積率とすることによって、伸びと強度が高く、かつ、コイル特性にも優れた特性を示した。この中で、Cu−Ag系合金の丸線材[実施例]は他の銅合金丸線材[参考例と比較例]と比較して強度が高い。例えば、ほぼ同じ加工と熱処理を施した実施例17と参考例26を比較すると実施例17の方が特性に優れており、Cu−Ag合金丸線材[実施例]は特にマグネットワイヤに好適であることが分かる。
【0070】
表3−1〜3−3に平角線材の実施例と参考例と比較例を示す。
表3−1〜3−2中、平角線加工後のサイズを厚さt(mm)×幅w(mm)で示した。「熱処理2、熱処理3又は熱処理4」の内、最終に行った中間熱処理x(x回目、x=最終)後の線径φ(mm)の丸線に対して、平角線加工を「熱処理3、熱処理4又は熱処理5」の欄に示した加工で施した。最後に行った「熱処理3、熱処理4又は熱処理5」の欄に示した熱処理が最終熱処理(最終焼鈍)である。
【0071】
【表3-1】
【0072】
【表3-2】
【0073】
【表3-3】
【0074】
表3−1〜3−3から、平角線材の場合にも、前記表1−1〜1−3や表2−1〜2−9に示した丸線材の場合と同様の結果となったことがわかる。
【0075】
表4−1〜4−2にCu−2%Ag合金で最終線径をφ0.05mm〜0.2mmまで振った場合の丸線材について本実施例と比較例を示す。
【0076】
【表4-1】
【0077】
【表4-2】
【0078】
屈曲試験は曲げ歪がいずれの線径でも一定となるように曲げ半径Rを1mmに固定して試験を行った。比較例に対して、いずれの線径の銅合金丸線材でも本実施例の方が伸び、強度共に優れ、かつ、コイル特性にも優れた特性を示した。特に線径が細い銅合金丸線材の場合、より本実施例と比較例との性能差が顕著となり、極細線で本発明は非常に有効であることが分かる。
なお、平角線材の場合にも、前記丸線材の場合と同様の結果が得られる。
【0079】
表5−1〜5−2にCu−2%Ag合金丸線材で各冷間加工工程(中間冷間加工及び仕上冷間加工)での1パスあたりの加工率を変化させたときの特性の変化を示す。
【0080】
【表5-1】
【0081】
【表5-2】
【0082】
実施例96〜105は、各熱処理(中間焼鈍である熱処理1〜2及び仕上焼鈍である熱処理3)前の線径、加工度、熱処理条件は同じであるが、各加工工程での1パスあたりの加工率を変化させたものである。実施例96〜105は、いずれも<100>集合組織の面積率30%以上を満たす銅合金丸線材である。
実施例96〜98は、中間冷間加工である熱処理1と熱処理2の前及び仕上冷間加工である熱処理3と前の各工程での1パスあたりの加工率が全て3%以上12%未満の範囲にあり、組織はIo(100)/Ii(100)<0.8を満たしている。これらの実施例96〜98は、組織がIo(100)/Ii(100)>1.2を満たす実施例99〜101と、組織が均一で0.8≦Io(100)/Ii(100)≦1.2を満たす実施例102〜105と比較して、よりコイル寿命に優れている。
一方、実施例99〜101は、最終冷間加工工程(最終焼鈍である熱処理3の前の加工工程)以外の中間冷間加工である熱処理1と熱処理2の前の各工程での1パスあたりの加工率は12%以上35%未満であって、かつ、最終冷間加工工程(最終焼鈍である熱処理3の前の加工工程)での加工率が3%以上12%未満であり、組織はIo(100)/Ii(100)>1.2を満たしている。これらの実施例99〜101は、組織がIo(100)/Ii(100)<0.8を満たす実施例96〜98と、組織が均一で0.8≦Io(100)/Ii(100)≦1.2を満たす実施例102〜105と比較して、よりコイル成形性に優れている。
ここで、組織が均一とは、前記説明からも分かるとおり、線材の中心部と外周部とで<100>集合組織制御の状態に大きな差がないことをいう。これは、中心部で<100>集合組織がより多くなるように制御したIo(100)/Ii(100)<0.8の状態や、外周部で<100>集合組織がより多くなるように制御したIo(100)/Ii(100)>1.2の状態と比較した場合に対して、組織状態の制御の程度を相対的な差に基づいて述べたものである。
【0083】
これに対して、比較例59〜62の銅合金丸線材は、1パスあたりの加工率を変化させてIo(100)/Ii(100)比率を変化させたものであるが、本実施例の条件である<100>集合組織の面積率30%以上を満たしていないため、伸びとコイル成形性の特性が劣った。
このように、Io(100)/Ii(100)比率を変化させることで、コイル成形性やコイル寿命により優れた銅合金丸線材を狙って別々に製造することが出来ることが分かる。
また以上の各実施例において、<100>面積率が55%以上、<111>面積率が25%以下の場合には、総合評価がB以上となっており、好ましい特性が得られることが分かった。
なお、平角線材の場合にも、前記丸線材の場合と同様の結果が得られる。
【0084】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0085】
本願は、2013年9月6日に日本国で特許出願された特願2013−185542に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
図1
図2