【文献】
G.Itami et al.,"A Novel Design Method for Miniaturizing FSS Based on Theory of Meta-materials",2017 International Symposium on Antennas and Propagation (ISAP),2017年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記特性計算部で計算された補正後の反射損失と挿入損失、及び外部から入力される所望の共振周波数を入力とし、補正後の共振周波数と前記所望の共振周波数の差を求め、該差から前記構造パラメータを再設定する構造パラメータ再設定部を
備え、
前記構造パラメータ再設定部は、
前記差が所定の大きさになるまで前記構造パラメータの再設定を繰り返す
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の周波数選択板設計装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明に係る共振器の単位セル、及びその構造パラメータついて図面を用いて説明する。
【0014】
(単位セル)
周波数選択板は、波長と同程度以下の寸法の導体パターンで形成された共振器の単位セルが一定の周期pで配列される。単位セルの構造には、リング型、ダイポールアレイ型、トライホール型、パッチ型、及びエルサレムクロス型などがある。
【0015】
この中で、共振周波数の定式化が比較的に容易なモデルは、エルサレムクロス型である。
図1は、エルサレムクロス型の単位セルの平面図を模式的に示す図である。
【0016】
図1に示すようにエルサレムクロス型の単位セル11は、誘電体基板10の上に十字状の導電パターンを形成したものである。単位セル11は一定の周期pで誘電体基板10の上に配置される。導電パターンの厚さはtである。
【0017】
導電パターンの形状は、幅w、長さlの横パターン12と、同寸法の縦パターン13が十字を形成し、横パターン12と縦パターン13のそれぞれの端部には幅h、長さbの電極パターン4が4つ形成される形状である。電極パターン4の幅h方向の端部は、隣接する同形状の単位セル11の電極パターン4と電極間距離dの間隔を空けて対向する。
【0018】
横パターン12と縦パターン13のそれぞれはインダクタンスLを形成する。また、4つの電極パターン4のそれぞれは、隣接する単位セル11の電極パターン4との間でキャパシタンスCを形成する。
【0019】
このように単位セル11の形状は、単位セル11の周期p、横パターン12と縦パターン13の幅w、横パターン12と縦パターン13の長さl、電極パターン4の幅h、電極パターン4の長さb、各導電パターンの厚さt、及び電極間距離dによって特定される。
【0020】
以降、単位セル11の形状を特定するこれらのパラメータを構造パラメータと称する。この構造パラメータによって、単位セル11のインダクタンスLとキャパシタンスCは、次式で表せる。
【0022】
ここで周期pは、p=l+d+2hで表せる。
【0023】
なお、構造パラメータのそれぞれの値は、次のようにすると良い。インダクタンスLは、周期pによって決定されるので、l/pの値は例えば0.7〜0.9程度にすると良い。またインダクタンスLの近似では、t≪wを仮定しているのでt<0.1wとすると良い。また、w≪h≦0.1〜0.3p程度、d/p≧0.01程度、w≪h,h/p>0.3程度にすると良い。
【0024】
共振周波数の理論値f
thは次式で表せる。
【0026】
図2は、式(3)で計算した共振周波数の理論値f
thと、電磁界解析で求めた共振周波数を示す図である。共振周波数は、挿入損失S
21の周波数特性で示す。
図2において、実線は電磁界解析の結果、破線は理論値f
thである。また、パラメータは、単位セル11の周期pと入射波長λの比p/λとした。
【0027】
図2に示すように、電磁界解析の結果と理論値f
thとの間に乖離が見られる。その乖離は、パラメータのp/λが大きくなるほど増加する。
【0028】
図3は、単位セル11の周期pと入射波長λの比p/λと、電磁界解析で求めた共振周波数f
aと理論値f
thの比fa/f
thとの関係を示す図である。
図3に示すようにp/λ=0.1付近から、共振周波数の理論値f
thからの乖離が増え始め、単位セル11の周期pが理論値f
thの波長の1/4倍(0.25)になると、電磁界解析で求めた共振周波数f
aは理論値f
thの70%程度になる。つまり、単位セル11を小さくすると理論値f
thとの乖離が大きくなる。
【0029】
本実施形態に係る周波数選択板設計装置100は、この乖離を小さくすることを目的とする。
【0030】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。複数の図面中同一のものに
は同じ参照符号を付し、説明は繰り返さない。
【0031】
〔第1実施形態〕
図4は、本発明の第1実施形態に係る周波数選択板設計装置の機能構成例を示すブロック図である。
図4に示す周波数選択板設計装置100は、LC生成部20、補正共振点計算部30、及び特性計算部40を備える。
【0032】
周波数選択板設計装置100は、例えば、ROM、RAM、CPU等からなるコンピュータで実現される。各機能構成部をコンピュータによって実現する場合、各機能構成部が有すべき機能の処理内容はプログラムによって記述される。
【0033】
図5は、周波数選択板設計装置100の処理手順を示すフローチャートである。
図5も参照してその動作を説明する。
【0034】
LC生成部20は、単位セル11の構造を表す構造パラメータを入力とする(ステップS1)。構造パラメータは、上記の単位セル11の周期p、横パターン12と縦パターン13の幅w、横パターン12と縦パターン13の長さl、電極パターン4の幅h、電極パターン4の長さb、各導電パターンの厚さt、及び電極間距離dである。構造パラメータは、利用者によって入力される。各構造パラメータには、上記のように好ましい範囲がある。
【0035】
次に、LC生成部20は、入力された構造パラメータに基づいて、上記の式(1)と式(2)に基づいてインダクタンスLとキャパシタCを生成する(ステップS2)。生成されたインダクタンスLとキャパシタCは、補正共振点計算部30と特性計算部40に出力される。
【0036】
補正共振点計算部30は、補正回路を、外部から入力される計算回数n、LC生成部20で生成されたインダクタンスLとキャパシタンスCを入力として、インダクタンスLを計算回数nで分割した分布インダクタンスL/nのそれぞれに仮想キャパシタンスC
Vが並列に接続された伝送線路が、キャパシンタンスCで終端される回路でモデル化する。モデル化した補正回路を
図6に示す。
【0037】
図6に示すように、補正回路は、インダクタンスLをn分割した分布インダクタンスL/nに仮想キャパシタC
Vが並列に接続されて伝送路化され、その伝送路の出力がキャパシタンスCで終端されて構成される。
【0038】
補正回路で生じる位相差Δφ′は、電信方程式から次式によって定まる。
【0040】
ここで実際の位相差を、エルサレムクロス型の単位セルで考える。
【0041】
図7は、エルサレムクロス型の単位セルの平面を模式的に示す平面図である。
図7に示すように、単位セル11の電極パターン4は、縦横に隣接する単位セルの電極パターン4との間でキャパシタンスCで結合する。
【0042】
図7において、単位セル11の中心に対して片方の半分の面をn分割したときに発生する位相差は式(5)で表せる。
【0044】
なお、従来この位相差(式(5))は考慮されていなかった。そのために、単位セル11を小さくすると理論値f
thとの乖離が大きくなる(
図3)。
【0045】
したがって、補正回路で生じる単位位相差Δφ′と、実際の単位位相差Δφを等しくする(式(6))ようにすれば、適切な共振周波数を計算することが可能になる。
【0047】
式(6)から仮想キャパシタンスC
Vを求めると式(7)で表せる。
【0049】
自由空間の電磁波の分散関係kc
0=ωで伝搬する入射電磁波と結合することを踏まえると、次式(8)が得られる。
【0051】
ここでc
0は真空中の光速である。つまり、周期pとインダクタンスLと分割数nが決定すれば、実特性を模擬した適切な周波数設計が可能になる。例えば、周期p=10mm、n=50、L=6.4×10
9Hとすると、仮想キャパシタンスC
V≒0.0036pfとなる。
【0052】
また、単位セル11の縦横の周期pが同じ場合、TMモード、TEモードのどちらでも同じ位相差が発生するため同様に適用可能である。分割数nは、補正回路の分割数を表すため、大きくすると計算量は多くなるが、その分、精度を上げることができる。上記の位相整合条件導出には、十分に大きな数の分割数nを仮定している。
【0053】
補正回路におけるインピーダンスを考えたとき、分割数nが十分大きいと仮定し、kΔx=kと見る。そうすると、補正回路は、
図8に示す伝送路で表すことができる。
図8に示す伝送線路のインピーダンスZ′は次式で表せる。Z
rは、キャパシタンスCのインピーダンスである。
【0055】
共振条件Z′=0より、補正共振周波数f
Cと、式(3)で計算した補正前共振周波数f
thとの関係は、単位セル11の周期pと共振波長の比p/λを用いて式(10)で表せる。式(10)は補正係数を意味する。
【0057】
単位セル11の構造パラメータを変化させて電磁界解析で求めた共振周波数と、式(10)で求めた補正共振周波数f
Cの比較を行った。表1に、電磁界解析を行った単位セル11の構造パラメータを示す。
【0059】
図9は、表1に示す構造パラメータの単位セル11を電磁界解析して求めた共振周波数をプロットし、式(10)の補正係数を実線で示す。
図9の横軸は単位セル11の周期pと共振波長の比p/λ、縦軸は補正係数f
C/f
thである。
【0060】
図9に示すように、理論曲線(式(10))と、電磁界解析して求めた共振周波数は良く一致する。このように補正係数は、補正前共振周波数f
thと補正共振周波数f
Cを良く一致させる。
【0061】
特性計算部40は、LC生成部20で生成されたインダクタンスLとキャパシタンスC、及び補正共振点計算部30で計算された補正共振周波数f
Cを入力として、インダクタンスLとキャパシタンスCから補正前共振周波数f
thを計算し、補正共振周波数f
Cを補正前共振周波数f
thで除して補正係数を求め、補正前の反射損失と挿入損失にそれぞれ補正係数を乗じて補正後の反射損失と挿入損失を計算する(ステップS4)。
【0062】
補正前共振周波数f
thは、インダクタンスLとキャパシタンスCからなるLC直列共振回路で構成されるインピーダンスZの4端子回路からS
11とS
21の周波数特性を算出する。
図10は、4端子回路を示す図である。
【0063】
S
11は端子1の反射損失(リターンロス)、S
21は端子1から端子2への挿入損失(インサーションロス)を表す。
図10に示すZ
0は、自由空間の特性インピーダンスである。
【0064】
次に、特性計算部40は、補正前共振周波数f
thのS
11とS
21の周波数軸に補正係数f
C/f
thを乗じて補正後の共振周波数f
CのS
11とS
21を計算する。この方法によれば、L/Cの値を一定に保ち曲線の外形を変化させない。
【0065】
図11は、補正前共振周波数f
thのS
21に補正係数f
C/f
thを乗じて補正後の共振周波数f
CのS
21を計算する様子を模式的に示す図である。実験結果を実線、シミュレーション結果を破線で示す。
【0066】
図11に示すように、補正後の共振周波数は、実験結果の周波数(実線)に近づいていることが分かる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係る周波数選択板設計装置100は、共振器の単位セル11を平面上に配列した周波数選択板の設計を支援する周波数選択板設計装置であって、単位セル11の構造を表す構造パラメータを入力として該単位セル11のインダクタンスLとキャパシタンスCを生成するLC生成部20と、外部から入力される計算回数n、インダクタンスL、及びキャパシタンスCを入力として、補正回路を、インダクタンスLを計算回数nで分割した分布インダクタンスのそれぞれに仮想キャパシタンスC
Vが並列に接続された伝送線路がキャパシタンスCで終端される回路でモデル化し、仮想キャパシタンスC
Vは単位セル11で生じる位相差と伝送線路で生じる位相差を整合させるものである補正回路のインピーダンスから補正共振周波数f
Cを計算する補正共振点計算部30と、インダクタンスL、キャパシタンスC、及び補正共振周波数f
Cを入力とし、インダクタンスLとキャパシタンスCから補正前共振周波数f
thを計算し、補正共振周波数f
Cを補正前共振周波数f
thで除して補正係数f
C/f
thを求め、補正前の反射損失S
11と挿入損失S
21にそれぞれ補正係数f
C/f
thを乗じて補正後の反射損失S
11と挿入損失S
21を計算する特性計算部40とを備える。
【0068】
これにより、周波数選択板の構造パラメータからその周波数特性を精度良く推定することが出来る。
【0069】
〔第2実施形態〕
図12は、本発明の第2実施形態に係る周波数選択板設計装置の機能構成例を示すブロック図である。
図12に示す周波数選択板設計装置200は、構造パラメータ再設定部240を備える点で周波数選択板設計装置100(
図4)と異なる。
【0070】
図13は、周波数選択板設計装置200の処理手順を示すフローチャートである。周波数選択板設計装置200の処理手順は、周波数選択板設計装置100の処理手順に対してステップS5以降の手順が追加される点で異なる。
【0071】
構造パラメータ再設定部250は、特性計算部40で計算された補正後の反射損失S
11及び挿入損失S
21の共振周波数f
Cと、外部から入力される所望の共振周波数f
0との差分を計算する(ステップS5)。
【0072】
構造パラメータ再設定部250で計算された差分が、所定量よりも小さければ、周波数選択板設計装置200は動作を終了する(ステップS6のNO)。また、差分が所定量よりも大きければ差分が小さくなるように構造パラメータを再設定する(ステップS7)。
【0073】
再設定は、横パターン12と縦パターン13の幅w、横パターン12と縦パターン13の長さl、電極パターン4の幅h、電極パターン4の長さb、各導電パターンの厚さt、及び電極間距離dの何れかを新たに設定する。差分が大きい場合は、キャパシタンスCを決める構造パラメータを再設定する。差分を微調整する場合は、インダクタンスLを決める構造パラメータを再設定する。
【0074】
差分が大きい場合は、電極間距離dを変更する。また、差分が小さい場合は、横パターン12と縦パターン13の長さl又は電極パターン4の長さbを変更する。
【0075】
変更方法は、周波数を低くする場合は、横パターン12と縦パターン13の長さlを大きく、電極間距離dを小さく、電極パターン4の長さbを大きくの何れか又はその全部を行う。周波数を高くする場合は、その逆を行う。
【0076】
構造パラメータが再設定された後は、差分が所定量よりも小さくなるまでステップS3〜S7を繰り返す。この差分を最適化するアルゴリズムには、例えば遺伝アルゴリズム(GA)等の既存のアルゴリズムを用いることができる。
【0077】
以上述べたように、本実施形態に係る周波数選択板設計装置200は、特性計算部40で計算された補正後の反射損失と挿入損失、及び外部から入力される所望の共振周波数を入力とし、補正後の共振周波数f
Cと所望の共振周波数f
0の差を求め、該差から構造パラメータを再設定する構造パラメータ再設定部250を備え、構造パラメータ再設定部250は、差が所定の大きさになるまで構造パラメータの再設定を繰り返す。これにより、周波数選択板の周波数特性の精度を高めることができる。
【0078】
以上説明したように本実施形態に係る周波数選択板設計装置100,200によれば、周波数選択板の周波数特性を定量的に推定することができる。なお、上記の実施形態の説明において、導電パターンの形状は、エルサレムクロス型(
図1)の例で説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。構造パラメータによってインダクタンスL及びキャパシタCが定式化できれば、本発明を適用することができる。
【0079】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。