特許第6944963号(P6944963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6944963フレキシブルプリント基板用圧延銅箔、フレキシブル銅張積層板およびフレキシブルプリント回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6944963
(24)【登録日】2021年9月15日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】フレキシブルプリント基板用圧延銅箔、フレキシブル銅張積層板およびフレキシブルプリント回路基板
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20210927BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20210927BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20210927BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20210927BHJP
   B21B 1/40 20060101ALI20210927BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20210927BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20210927BHJP
【FI】
   C22C9/00
   H05K1/09 A
   H05K1/03 670
   C22F1/08 B
   B21B1/40
   B21B3/00 L
   !C22F1/00 622
   !C22F1/00 627
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686Z
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 661A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-39549(P2019-39549)
(22)【出願日】2019年3月5日
(65)【公開番号】特開2020-143321(P2020-143321A)
(43)【公開日】2020年9月10日
【審査請求日】2020年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 雄大
【審査官】 松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−044005(JP,A)
【文献】 特開2016−139680(JP,A)
【文献】 特開2010−227971(JP,A)
【文献】 特開2008−248331(JP,A)
【文献】 特開2003−193211(JP,A)
【文献】 特開2015−175005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00
H05K 1/09
H05K 1/03
C22F 1/08
B21B 1/40
B21B 3/00
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS−H0500(C1011)に規定する無酸素銅に対し、Agを300〜355質量ppm含有し、残部不可避不純物からなり、
25℃から350℃に達するまで5秒間以上かけて加熱し、さらにそれぞれ350℃で30分間保持する加熱パターンA、又は25℃から350℃に1秒間で到達する加熱パターンBで大気加熱後、圧延面のX線回折で求めた(200)面の強度(I)が、微粉末銅のX線回折で求めた(200)面の強度(I)に対し、前記加熱パターンAによるI/I≧50.8、前記加熱パターンBによるI/I46.0であるフレキシブルプリント基板用圧延銅箔。
【請求項2】
請求項1に記載のフレキシブルプリント基板用圧延銅箔と、樹脂とを積層してなるフレキシブル銅張積層板。
【請求項3】
請求項2に記載のフレキシブル銅張積層板を有するフレキシブルプリント回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲性を要求されるフレキシブルプリント基板用圧延銅箔、フレキシブル銅張積層板およびフレキシブルプリント回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント回路基板(FPC : Flexible Printed Circuit)は、フレキシブル銅張積層板(FCCL : Flexible Cupper Clad Laminate)に回路を形成したものである。そして、FCCLは、銅箔の片面又は両面に樹脂を積層してなるが、この樹脂にはポリイミドが用いられることが多い。FCCLとしてはその構造から三層FCCLと二層FCCLがある。
三層FCCLは、ポリイミドなどの樹脂フィルムと導電材となる銅箔とを、エポキシ樹脂やアクリル樹脂などの接着剤で貼り合せた構造となっている。一方、二層FCCLは、ポリイミドなどの樹脂と導電材となる銅箔が直接接合された構造となっている。二層FCCLは三層FCCLに比べて耐熱性、寸法安定性、耐屈曲性などに優れる(非特許文献1)。
【0003】
FPCに用いられる銅箔には高い屈曲性が求められる。銅箔に屈曲性を付与するための方法として、銅箔の(200)面の結晶方位の配向度を高める技術(特許文献1)、銅箔の板厚方向に貫通する結晶粒の割合を多くする技術(特許文献2)、銅箔のオイルピットの深さに相当する表面粗さRy(最大高さ)を2.0μm以下に低減する技術(特許文献3)が知られている。
屈曲部分に使用されるFPCは、銅箔にポリイミドのワニスを塗布し、熱を加えて乾燥、硬化させ積層板とするキャスト法と呼ばれる方法や、予め接着力のある熱可塑性ポリイミドを塗布したポリイミドフィルムと銅箔とを重ねて加熱ロールなどを通して圧着するラミネート法と呼ばれる方法によって製造される二層FCCLを用いている。
例えばキャスト法で高屈曲性を得たフレキシブル銅張積層板が知られている(特許文献4)。このFCCL製造工程における熱処理により、銅箔は再結晶する。
【0004】
ところで、FPCを携帯電話やスマートフォン、タブレットPC等の筐体の狭空間に収納するために、ハゼ折り上に折り曲げたり、ハードディスクドライブのリードライトケーブルのような小さい曲率半径で連続的に繰り返し屈曲させることがあり、より厳しい屈曲性が要求される。
ここで、ハゼ折りとは、薄い筐体へ収納するために折り目をつけて折り曲げるような態様を差し、FPCの上面側が180度反転して下面側になるよう折り曲げることを「ハゼ折り」と称する。
【0005】
そして、ハゼ折り等の厳しい曲げに対応するため、上記特許文献1記載の技術では、銅箔に微量のAgやSn等を添加することで、FCCL製造の加熱処理時に銅箔のアニールによる軟化が進行するとともに、ある特定の方向(200面)に結晶方位が揃った立方集合組織を発達させている。
これにより、銅箔に屈曲時のストレスが付加された場合、結晶内で発生する転移及びその移動が結晶粒界に蓄積することなく、表面方向に移動することで結晶粒界でのクラック発生及び進展による破壊を抑制して優れた屈曲特性を発現する。
高屈曲性のFPCを実現するための重要な点の一つは、FCCLを製造する際の加熱処理時に、銅箔の金属組織を屈曲性にとって好ましい状態に再結晶させることである。屈曲性に最も好ましい金属組織は、立方体方位が非常に発達し、かつ結晶粒界が少ない、換言すれば結晶粒が大きな組織である。ここで立方体方位の発達の程度は、200面のX線回折強度比I/I(I:銅箔の200面の回折強度、I:銅粉末の200面の回折強度)の大きさで表すことができ、この値が大きいほど立方体方位が発達していることを示す。
【0006】
キャスト法で二層FCCLを製造する場合、積層時(銅箔に樹脂材料を塗布した時)に段階的に温度を高めていく過程で、銅箔中に再結晶の核生成と再結晶粒の成長が起こる。そして、キャスト法で銅箔を200℃に達するまでに4秒以上かけて加熱し、さらに200℃で30分保持したのちに室温まで冷却したとき、室温で測定した200面のX線回折強度比I/Iが40以上であれば、高い屈曲性が得られる。
一方、ラミネート法で二層FCCLを製造する場合、既に接着剤が塗布され乾燥されたポリイミドフィルムと、銅箔とを加熱ロールで圧着するが、溶剤等を蒸発させる必要がないため、ポリイミドが硬化反応を起こす温度まで一気に昇温することが可能である。しかしながら速い速度で昇温すると、多方向の方位の核が生成して成長し、立方体方位の発達が抑制される。従って、積層時に比較的ゆっくり加熱を行うキャスト法に比べ、ラミネート法の場合に屈曲性が低下する傾向がある(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3009383号公報
【特許文献2】特開2006?117977号公報
【特許文献3】特開2001?058203号公報
【特許文献4】特開2006−237048号公報
【特許文献5】特開2009−292090号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】フジクラ技報 株式会社フジクラ、No.109 pp.31−35(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、二層FCCLの製造方法としては、それぞれ加熱条件が異なるキャスト法とラミネート法とがあるが、加熱条件に依らずに安定して屈曲性が得られるFPC用銅箔が要求されている。
特に、より厳しい屈曲性であるハゼ折り性に優れたFPC用銅箔が要望されている。
そこで、本発明は、フレキシブル銅張積層板の製造時の加熱条件に依らずに安定して屈曲性が得られ、特にハゼ折り性に優れたフレキシブルプリント基板用圧延銅箔、フレキシブル銅張積層板およびフレキシブルプリント回路基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは種々検討した結果、二層FCCLの製造を模した時の加熱処理により、(200)面の強度がI/I≧45となる銅箔であれば、二層FCCLの製造時の加熱条件に依らずに安定して屈曲性が得られることを見出した。
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明のフレキシブルプリント基板用圧延銅箔は、JIS−H0500(C1011)に規定する無酸素銅に対し、Agを300〜355質量ppm含有し、残部不可避不純物からなり、25℃から350℃に達するまで5秒間以上かけて加熱し、さらにそれぞれ350℃で30分間保持する加熱パターンA、又は25℃から350℃に1秒間で到達する加熱パターンBで大気加熱後、圧延面のX線回折で求めた(200)面の強度(I)が、微粉末銅のX線回折で求めた(200)面の強度(I)に対し、前記加熱パターンAによるI/I≧50.8、前記加熱パターンBによるI/I46.0である。
【0013】
本発明のフレキシブル銅張積層板は、前記フレキシブルプリント基板用圧延銅箔と、樹脂とを積層してなる。
【0014】
本発明のフレキシブルプリント回路基板は、前記フレキシブル銅張積層板を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フレキシブル銅張積層板の製造時の加熱条件に依らずに安定して屈曲性が得られ、特にハゼ折り性に優れたフレキシブルプリント基板用圧延銅箔、フレキシブル銅張積層板およびフレキシブルプリント回路基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例のFPCの外観を模式的に示す図である。
図2】ハゼ折り試験の手順を模式的に示す図である。
図3】実施例および比較例のAg濃度と最終冷間圧延の加工度(真ひずみ)ηの関係を示した図である。
図4】実施例および比較例の、キャスト法相当及びラミネート法相当の焼鈍後の銅箔のI/Iを示した図である。
図5】実施例および比較例のFPCのハゼ折り試験による破断回数を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るフレキシブルプリント基板用圧延銅箔について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
【0018】
(組成)
フレキシブルプリント基板用圧延銅箔の組成は、Cuを99.0質量%以上含み、残部不可避不純物からなる。
特に、JIS−H0500(C1011)に規定する無酸素銅に対し、Agを280〜360質量ppm含有してなる組成が好ましい。
Agの含有量が280質量ppm未満であると、圧延により材料に導入されるひずみ量が少なくなり、立方体集合組織の成長が不十分となって後述するI/I≧45が実現できないことがある。特に、積層時に銅箔が急速加熱されるラミネート法相当の場合、立方体集合組織がさらに成長し難くなる。
Agの含有量が360質量ppmを超えると、銅箔の再結晶温度が高くなり、二層FCCL製造時の加熱をしても再結晶が十分に起こらず、銅箔中に未再結晶粒が多く残存し、得られたFPCのハゼ折り性が著しく劣る。
より好ましくは、無酸素銅に対し、Agを290〜340質量ppm含有する。
【0019】
圧延銅箔の厚さに特に制限はなく、要求特性に応じて適宜選択すればよく、例えば1〜100μmとすることができる。特に、ハゼ折り性や微細回路形成性を向上させるためには厚みが薄い方がよく、好ましくは6〜35μm、より好ましくは9〜18μmとすることができる。
【0020】
[集合組織]
本発明の実施形態に係るフレキシブルプリント基板用圧延銅箔においては、常温(25℃)から350℃に達するまで5秒間以上かけて加熱し、さらに350℃で30分間保持する加熱パターンA、又は常温(25℃)から350℃に1秒間かけて到達する加熱パターンBで大気加熱後、圧延面のX線回折で求めた(200)面の強度(I)が、微粉末銅(325mesh、水素気流中で300℃で1時間加熱してから使用)のX線回折で求めた(200)面の強度(I)に対し、I/I≧45である。
350℃で30分間の加熱は、キャスト法による二層FCCLの製造時の加熱条件を模したものであり、銅箔が常温(25℃)から350℃までゆっくり加熱されることを表す。
又、350℃で1秒間の加熱は、ラミネート法による二層FCCLの製造時の加熱条件を模したものであり、ラミネート法による最高温度(350℃)までの急加熱(1秒間で常温(25℃)から350℃に到達)を表す。
なお、強度(I)、(I)は常温(25℃)で測定する。又、上記加熱パターンA、Bで最高温度350℃まで加熱した後の銅箔は、自然放冷で常温まで冷却されるが、このときの冷却速度は特に規定しなくとも、銅箔の集合組織には影響はないと考えられる。
【0021】
以上のように、I/I≧45に規定することで、屈曲性に優れた立方体方位が非常に発達し、フレキシブル銅張積層板の製造時の加熱条件に依らずに安定して屈曲性が得られ、特にハゼ折り性に優れた銅箔となる。
I/Iの上限は、例えば100である。
【0022】
(製造)
本発明の実施形態に係るフレキシブルプリント基板用圧延銅箔は、通常、インゴットを熱間圧延、冷間圧延と焼鈍の繰り返し、の順で行って製造することができる。
最終冷間圧延での圧延加工度を92.0〜99.8%(真ひずみηが2.53〜6.21)にするとよい。
ここで、図3に後述する実施例および比較例のAg濃度と真ひずみηの関係を示す。
図3に示すように、圧延銅箔中のAg濃度が高くなるほど、最終冷間圧延での圧延加工度(真ひずみ)ηを高くしないと、再結晶の駆動力となるひずみを導入し難く、I/I≧45の実現が困難になる傾向にある。一方、ηを高くし過ぎると、圧延銅箔中に立方体集合組織の成長を阻害するせん断帯が多く導入されてしまい、やはりI/I≧45の実現が困難になる傾向にある。
【0023】
そこで、図3の実施例と比較例を区別するべく実験的に求めた2つの右上がりの直線B-C,A−Dの間の領域で最終冷間圧延を行うよう、圧延銅箔中のAgの濃度をCAg(質量ppm)としたとき、(0.04×CAg-9.3)≦η≦(0.04CAg-7.3)とする。
直線A−Dは、η=(0.04×CAg-9.3)で表され、直線B-Cは、η=(0.04×CAg-7.3)で表される。又、直線A−Bは圧延銅箔中のAgの濃度の下限であるCAg=280質量ppmを表し、直線C−Dは圧延銅箔中のAgの濃度の上限であるCAg=360質量ppmを表す。
【0024】
なお、真ひずみηは次式により定義される。
η=ln{(最終冷間圧延直前の材料の断面積)/(最終冷間圧延直後の材料の断面積)}
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0026】
[圧延銅箔の製造]
表1に記載した組成の銅合金を原料としてインゴットを鋳造し、800℃以上で厚さ10mmまで熱間圧延を行い、表面の酸化スケールを面削した後、冷間圧延と焼鈍とを繰り返し、最後に最終冷間圧延で厚み0.009〜0.018mmに仕上げた。表1に記載した無酸素銅は、JIS−H0500(C1011)に規格されている。
最終冷間圧延での圧延加工度を85〜99.9%(真ひずみηで1.9〜6.6)とし、実施例の最終冷間圧延での圧延加工度(真ひずみη)は試料のAg濃度(280〜360ppm)範囲内で、図3に示すように、上述の(0.04×CAg-9.3)≦η≦(0.04CAg-7.3)の範囲に調整した。
【0027】
このようにして得られた各圧延銅箔試料について、I/Iおよび耐ハゼ折り性の評価を行った。
(1)立方体集合組織(I/I
銅箔試料を上記した加熱パターンA及びBでそれぞれ加熱後、25℃にて圧延面のX線回折で求めた(200)面強度の積分値(I)を求めた。この値をあらかじめ測定しておいた微粉末銅(325mesh、水素気流中で300℃で1時間加熱してから使用)の(200)面強度の積分値(I)で除し、I/Iの値を計算した。
【0028】
(2)耐ハゼ折り性
銅箔試料を上記した加熱パターンA及びBでそれぞれ加熱して再結晶させたのち、ポリイミドフィルムの片面(銅箔と接着する面)に熱可塑性ポリイミド接着剤を2μm塗工後乾燥し、27μm厚の樹脂層を形成した。この樹脂層の接着剤面に銅箔を積層して真空熱プレスを行い、FCCLを作製した。その後、エッチングにより回路形成をして図1に示すFPCを作製した。
【0029】
図2に示すように、テスターでFPCの導通を確認しながら荷重100NでFPCをハゼ折りと曲げ戻しを繰り返し実施し、FPCの耐ハゼ折り性を調査した。
具体的には、ステンレス製のステージの上にループ状に緩く曲げたFPCを図2(1)のように乗せ、同じくステンレス製の押し子を6mm/minの速度で降下させ、図2(2)のように100Nの荷重でFPCをハゼ折りする。5秒間100Nの荷重をかけ続けたのち、図2(3)のように押し子を1,000mm/minの速度で上昇させ、ハゼ折りされたFPCを広げる。その後、図2(4)のように100Nの荷重を5秒間、FPCにかけてFPCを曲げ戻し、図2(5)のように再び押し子を1,000mm/minの速度で上昇させ、FPCをループ状に緩く曲げる。
【0030】
図2(1)〜(5)を1サイクルとし、何サイクル目でFPCの回路が破断して導通が取れなくなる(=FPCの回路が破断する)かを調査した。
破断に至るハゼ折り回数が7回以下を悪い(×)、8回以上14回以下を普通(△)、15回以上を良い(○)と判定した。評価が△か○であれば、実用上問題がない。
【0031】
得られた結果を表1に示す。総合判定は以下のようにした。総合判定が◎、○、△であれば、キャスト法、ラミネート法のいずれのでFCCLが製造されても、高い耐ハゼ折り性を発現する。
◎:キャスト法相当焼鈍後とラミネート法相当焼鈍後のハゼ折り試験の判定がどちらも○
○:キャスト法相当焼鈍後とラミネート法相当焼鈍後のハゼ折り試験の判定で、一方が○、他方が△
△:キャスト法相当焼鈍後とラミネート法相当焼鈍後のハゼ折り試験の判定がどちらも△
×:キャスト法相当焼鈍後とラミネート法相当焼鈍後のハゼ折り試験の判定の少なくとも一方が×
【0032】
【表1】


【0033】
表1から明らかなように、各実施例の場合、キャスト法相当、ラミネート法相当のいずれの焼鈍後においても銅箔がI/I≧45を満たしていた。そのため、キャスト法相当、ラミネート法相当のいずれの焼鈍後の銅箔を用いて作製されたFPCも高い耐ハゼ折り性を示した。
【0034】
比較例1、4、5の場合、図3の直線A−Dより加工度ηが下側にあり、Ag濃度に対し加工度が不足していることを意味する。このため、再結晶の駆動力となるひずみの蓄積量が少なく、銅箔の再結晶温度が高くなった。その結果、キャスト法相当又はラミネート相当の少なくとも一方の焼鈍で銅箔が十分に再結晶せず、耐ハゼ折り性が劣った。又、ひずみの溜まりやすくクラックの起点となりうる未再結晶粒が残存したものと考えられる。
【0035】
Ag濃度が280ppm未満の比較例2の場合、圧延により材料に導入されるひずみ量が少なくなり、ラミネート相当の焼鈍で立方体集合組織の成長が不十分となって、I/I≧45を満足しなかった。このため、耐ハゼ折り性が劣った。
なお、比較例2において、キャスト相当の焼鈍では立方体集合組織が十分に成長してI/I≧45を満足した理由は、キャスト法の方が、積層時に銅箔がゆっくり加熱されるので、立方体集合組織が成長し易いからである。
【0036】
Ag濃度が360ppmを超えた比較例3の場合、再結晶温度が高くなったため、キャスト法相当又はラミネート相当の少なくとも一方の焼鈍で銅箔が十分に再結晶せず、耐ハゼ折り性が劣った。又、ひずみの溜まりやすくクラックの起点となりうる未再結晶粒が残存したものと考えられる。
【0037】
比較例6、7の場合、図3の直線B−Cより加工度ηが上側にあり、Ag濃度に対し加工度ηが高過ぎることを意味する。このため、キャスト法相当又はラミネート相当の少なくとも一方の焼鈍でI/I<45となり、耐ハゼ折り性が劣った。
これは、加工度ηが高過ぎて銅箔にせん断帯が多く導入された結果、立方体集合組織の発達が阻害され、他の方位を持つ結晶粒が成長したためと考えられる。つまり、立方体集合組織が成長する時、他の方位を持つ周囲の結晶粒を飲み込みながら立方体集合組織の結晶粒が成長するが、せん断帯が存在すると立方体集合組織の成長が阻害され、他の方位を持つ結晶粒が残って成長すると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5