特許第6945241号(P6945241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6945241フィルム用樹脂組成物、フィルム、基材付フィルム、金属/樹脂積層体、樹脂硬化物、半導体装置、および、フィルム製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945241
(24)【登録日】2021年9月16日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】フィルム用樹脂組成物、フィルム、基材付フィルム、金属/樹脂積層体、樹脂硬化物、半導体装置、および、フィルム製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20210927BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20210927BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20210927BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/38
   C08K3/22
   B32B27/18 Z
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-526043(P2018-526043)
(86)(22)【出願日】2017年6月26日
(86)【国際出願番号】JP2017023454
(87)【国際公開番号】WO2018008450
(87)【国際公開日】20180111
【審査請求日】2020年1月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-133027(P2016-133027)
(32)【優先日】2016年7月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小松 史和
(72)【発明者】
【氏名】青木 一生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳也
(72)【発明者】
【氏名】高杉 寛史
(72)【発明者】
【氏名】寺木 慎
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−006586(JP,A)
【文献】 特開2015−174906(JP,A)
【文献】 特開2016−074546(JP,A)
【文献】 特開2011−012193(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/145961(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/035354(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
B32B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化樹脂(A)と、六方晶窒化ホウ素の二次凝集粒子(B)と、を含み、
前記六方晶窒化ホウ素の二次凝集粒子(B)が、7MPa以上の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−1)と、3MPa以上7MPa未満の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−2)と、を含
前記六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−1)と、前記六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−2)と、の配合割合(質量比)((B−1)/(B−2))は、10〜0.05である、フィルム用樹脂組成物。
【請求項2】
アルミナ粒子(C)を含有する、請求項1に記載のフィルム用樹脂組成物。
【請求項3】
前記アルミナ粒子(C)と、前記六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B)と、の配合割合(質量比)((C)/(B))は、1以下である、請求項に記載のフィルム用樹脂組成物。
【請求項4】
硬化剤(D)を含有する、請求項1〜のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物により形成されるフィルム。
【請求項6】
プラスチック基材の少なくとも一面に形成されている、請求項1〜のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物からなる層を有する、基材付フィルム。
【請求項7】
金属板もしくは金属箔の少なくとも一面に形成されている、請求項1〜のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物からなる層を有する、金属/樹脂積層体。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物が用いられた半導体装置。
【請求項10】
請求項1〜のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物を、プラスチック基材、金属板、もしくは金属箔の少なくとも一面に塗布することによりフィルムを形成することを含む、フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フィルム用樹脂組成物、フィルム、基材付フィルム、金属/樹脂積層体、樹脂硬化物、半導体装置、および、フィルム製造方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品および電気部品などの、小型化および高出力化が進んでいる。これらの放熱設計は、大きな技術課題のひとつである。特に、低い熱伝導率を有する絶縁層の高熱伝導化は、大きな課題である。
絶縁層の高熱伝導化の手法としては、絶縁層を形成している樹脂中に、絶縁性の無機充填材を添加することが一般的に知られている。無機充填材としては、アルミナなどの金属酸化物、および、窒化アルミニウムなどの金属窒化物等が一般的に用いられている。窒化ホウ素の一次粒子は、一般的に鱗片状の形状を有している。そのため、窒化ホウ素の一次粒子は、平面方向に高い熱伝導率を有している。そこで、この平面方向への高い熱伝導率を効率的に引き出すために、鱗片状の一次粒子を凝集させることにより、二次粒子を形成することが知られている。この二次粒子を使用することにより、鱗片状の一次粒子を用いる場合に比べて、高い熱伝導率が得られる(特開2010−157563号、再公表特許第2013−145961号など)。
【0003】
上記絶縁層の形成には、絶縁層を形成している樹脂材料と、絶縁性の無機充填材と、を含有する樹脂組成物が用いられる。ただし、ハンドリング性のよさから、樹脂組成物を用いて作製されたフィルムが用いられる場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記フィルム用の樹脂組成物には、窒化ホウ素の二次粒子を絶縁性の充填材として添加することが、熱伝導性の観点から、好ましいと考えられていた。しかし、樹脂組成物を用いて作製されたフィルムで形成された絶縁層は、意図した熱伝導性を発揮できない場合があることが明らかになった。
【0005】
本開示の目的は、上記した従来技術における問題点を解決するため、絶縁性および熱伝導性に優れたフィルムの作製に用いられるフィルム用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した。その結果、窒化ホウ素の二次粒子は崩れやすいため、フィルム用樹脂組成物に均一分散させる際に二次粒子が崩れてしまうこと、そのため、樹脂組成物を用いて作製されたフィルムの熱伝導率が低くなる場合があること、が明らかになった。一方で、二次粒子の破壊強度が高すぎると、作製されたフィルムをプレス硬化しても、フィルムが十分に圧縮されないこと、そのため、高い熱伝導率を有する硬化物が得られない場合があること、が明らかになった。
【0007】
本開示は、上記の知見に基づいてなされた、熱硬化樹脂(A)と、六方晶窒化ホウ素の二次凝集粒子(B)と、を含み、前記六方晶窒化ホウ素の二次凝集粒子(B)が、7MPa以上の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−1)と、3MPa以上7MPa未満の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−2)と、を含む、フィルム用樹脂組成物を提供する。
【0008】
本実施形態のフィルム用樹脂組成物において、好ましくは、前記六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−1)と、前記六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−2)と、の配合割合(質量比)((B−1)/(B−2))が、10〜0.05である。
【0009】
本実施形態のフィルム用樹脂組成物は、アルミナ粒子(C)を含有してもよい。
本実施形態のフィルム用樹脂組成物において、好ましくは、前記アルミナ粒子(C)と、前記六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B)と、の配合割合(質量比)((C)/(B))は1以下である。
【0010】
本実施形態のフィルム用樹脂組成物は、好ましくは、硬化剤(D)を含有することが好ましい。
【0011】
また、本開示は、本実施形態のフィルム用樹脂組成物により形成されるフィルムを提供する。
【0012】
また、本開示は、プラスチック基材の少なくとも一面に形成されている、本実施形態のフィルム用樹脂組成物からなる層を有する、基材付フィルムを提供する。
【0013】
また、本開示は、金属板もしくは金属箔の少なくとも一面に形成されている、本実施形態のフィルム用樹脂組成物からなる層を有する、金属/樹脂積層体を提供する。
【0014】
また、本開示は、本実施形態のフィルム用樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物を提供する。
【0015】
また、本開示は、本実施形態のフィルム用樹脂組成物が用いられた半導体装置を提供する。
【0016】
また、本開示は、本実施形態のフィルム用樹脂組成物を、プラスチック基材、金属板、もしくは金属箔の少なくとも一面に塗布することによりフィルムを形成することを含む、フィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本実施形態のフィルム用樹脂組成物によれば、絶縁性および熱伝導性に優れたフィルムを形成することができる。絶縁性および熱伝導性に優れたこのフィルムは、半導体装置等の層間接着剤として、好ましく用いられる。
【実施形態の説明】
【0018】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
本実施形態のフィルム用樹脂組成物は、熱硬化樹脂(A)と、六方晶窒化ホウ素の二次凝集粒子(B)と、を含む。本実施形態のフィルム用樹脂組成物の各成分について、以下に記載する。
【0019】
(A)熱硬化樹脂
(A)成分の熱硬化樹脂は特に限定されない。ただし、その硬化温度は、好ましくは80℃以上250℃以下、より好ましくは130℃以上200℃以下である。硬化温度が250℃以上の場合には、接着する部材が変形すること、および、フィルム中の樹脂が流れ出して十分な接着性が得られないこと、等の不具合が発生するおそれがある。一方、80℃より低い場合には、フィルムを塗布そして乾燥する工程で硬化反応が進んでしまう。そのため、部材を接着する際に十分な接着性が得らないおそれがある。
【0020】
(A)成分の熱硬化樹脂は、硬化に寄与する官能基を分子内に1つ以上有する化合物である。加熱により官能基が反応することで3次元的網目構造を形成される。これにより、硬化が進行する。硬化物特性の点から、好ましくは1分子に2つ以上の官能基が含まれる。(A)成分の熱硬化樹脂の例としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、及びポリイミド樹脂が挙げられる。この中でも、エポキシ樹脂が好ましい。
【0021】
エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビフェノール等のビスフェノール化合物およびこれらの誘導体(例えば、アルキレンオキシド付加物);水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールF、水素添加ビフェノール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、およびシクロヘキサンジエタノール等の脂環構造を有するジオールおよびこれらの誘導体;ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール等の脂肪族ジオールおよびこれらの誘導体;フルオレン又はフルオレン誘導体等をエポキシ化して得られるグリシジル基を2つ以上有する多官能性エポキシ樹脂;トリヒドロキシフェニルメタン骨格またはアミノフェノール骨格を有し、かつ、2つ以上のグリシジル基を有する多官能性エポキシ樹脂;および、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等をエポキシ化して得られる多官能性エポキシ樹脂、が挙げられる。ただし、本実施形態に用いられるエポキシ樹脂は、これらの例に限定されない。高Tg化の観点からは、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂が好ましい。また、耐熱性の観点からは、アミノフェノール骨格を有するエポキシ樹脂が好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂は、常温で固体の樹脂であってもよく、常温で液状の樹脂であってもよい。両者を併用することもできる。ただし、常温で液状の樹脂を含むエポキシ樹脂が、フィルム成膜性の観点から好ましい。
【0023】
(A)成分の熱硬化樹脂は、好ましくは、フェノキシ樹脂のような高分子成分を含む。高分子成分が含まれることにより、未硬化のフィルム形状が安定すること、および、成膜時および硬化前のフィルムの取り扱いが容易になること、などの利点が得られる。
(A)成分の熱硬化樹脂として、フェノキシ樹脂が用いられる場合、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、およびビスフェノールA−ビスフェノールF共重合型フェノキシ樹脂、といった各種フェノキシ樹脂を用いることができる。
(A)成分の熱硬化樹脂として、フェノキシ樹脂が用いられる場合、そのフェノキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000〜200,000である。
【0024】
(A)成分の熱硬化樹脂として、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂とが併用される場合、両者の配合割合(エポキシ樹脂の質量)/(フェノキシ樹脂の質量)は、好ましくは0.01〜50、より好ましくは0.1〜10、さらに好ましくは0.2〜5である。
【0025】
(B)六方晶窒化ホウ素の二次凝集粒子
六方晶窒化ホウ素の二次凝集粒子は、フィルム用樹脂組成物を用いて作製されるフィルムの熱伝導性を高める目的で添加される。
【0026】
本実施形態のフィルム用樹脂組成物では、(B)成分の六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子として、異なる凝集破壊強度を有する2種類の粒子、具体的には、7MPa以上の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−1)と、3MPa以上7MPa未満の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−2)と、が併用される。
後述する実施例に示されるように、7MPa以上の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子のみが用いられた場合、フィルム用樹脂組成物を加熱プレスした際に二次凝集粒子が崩れにくい。そのため、フィルムが十分に圧縮されないので、所定の熱伝導率が得られない。
一方、7MPa未満の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子のみが用いられた際には、混合そして分散等の塗工液作製途中で二次凝集粒子の一部が崩れてしまう。そのため、この場合もまた所定の熱伝導率が得られない。
【0027】
これに対し、本実施形態のフィルム用樹脂組成物では、7MPa以上の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−1)と、3MPa以上7MPa未満の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−2)と、が併用されている。これにより、混合そして分散等の塗工液作製途中で、3MPa以上7MPa未満の凝集破壊強度を有する二次凝集粒子(B−2)の一部が崩れても、7MPa以上の凝集破壊強度を有する二次凝集粒子(B−1)が崩れにくいため、フィルム用樹脂組成物内に十分な量の凝集粒子が存在する。その上、加熱プレスした際には、3MPa以上7MPa未満の凝集破壊強度を有する二次凝集粒子(B−2)がフィルム内に存在することにより、フィルムが圧縮されやすい。そのため、所定の熱伝導率を得ることができる。
なお、後述する実施例に示されるように、7MPa以上の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子と、3MPa未満の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子と、が併用された場合は、混合そして分散等の塗工液の調製の過程で、3MPa未満の凝集破壊強度を有する二次凝集粒子が崩れてしまう。そのため、この場合もまた所定の熱伝導率が得られない。
【0028】
本実施形態のフィルム用樹脂組成物において、六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−1)と、六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−2)と、の好ましい配合割合(質量比)((B−1)/(B−2))は、10〜0.05である。両者の配合割合(質量比)((B−1)/(B−2))が10よりも大きい場合、フィルム用樹脂組成物を加熱プレスした際に、フィルムが十分に圧縮されない。そのため、所定の熱伝導率が得られないおそれがある。両者の配合割合(質量比)((B−1)/(B−2))が0.05より低い場合、混合そして分散等の塗工液の調製の過程で、(B)成分の粒子の大部分を占める、3MPa以上7MPa未満の凝集破壊強度を有する二次凝集粒子(B−2)の一部が崩れる。このため、所定の熱伝導率が得られないおそれがある。
両者の配合割合(質量比)((B−1)/(B−2))は、より好ましくは1〜0.1、更に好ましくは0.7〜0.2である。
【0029】
本実施形態のフィルム用樹脂組成物には、好ましくは、フィルム用樹脂組成物の全成分の合計質量に対する質量%で、40〜80質量%の(B)成分の六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子含有されている。この含有量が40質量%未満の場合、フィルム内の熱伝導フィラーの量が不十分なため、加熱プレス後所定の熱伝導率が得られないおそれがある。含有量が80質量%を超える場合は、フィルム用樹脂組成物を用いて作製されるフィルムが脆いため、フィルムの形状を維持することが難しい。そのため、フィルムの取り扱いが困難になる。(B)成分の六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子の含有量は、より好ましくは45〜70質量%、更に好ましくは50〜60質量%である。
【0030】
(C)アルミナ粒子
本実施形態のフィルム用樹脂組成物は、さらにアルミナ粒子(C)を含有してもよい。(C)成分として、アルミナ粒子が添加されることにより、フィルム用樹脂組成物を用いて作製されるフィルムは、大きな比重を有する。これにより、熱伝導率のみならず、成膜性も向上する。その結果として絶縁破壊電圧も向上する。
本実施形態のフィルム用樹脂組成物が、(C)成分として、アルミナ粒子を含有する場合、(C)成分と、(B)成分の六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子と、の配合割合(質量比)((C)/(B))は、好ましくは1以下である。(C)成分のアルミナ粒子と、(B)成分と、の配合割合(質量比)((C)/(B))が1を超える場合、所定の熱伝導率が得られないなどの不具合が発生するおそれがある。上記配合割合(質量比)((C)/(B))は、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.1〜0.4である。
【0031】
(C)成分として、アルミナ粒子が含有される場合、その粒径に特に制限はない。ただし、好ましくは、フィルム用樹脂組成物を用いて作製するフィルムの膜厚よりも小さい粒径を有するアルミナ粒子が使用される。フィルム用樹脂組成物を用いて作製するフィルムの膜厚より、(C)成分のアルミナ粒子の粒径が大きい場合、フィルム用樹脂組成物を用いて作製されるフィルムの絶縁破壊電圧が低下する等の不具合が発生するおそれがある。
(C)成分のアルミナ粒子は、より好ましくは、フィルム用樹脂組成物を用いて作製するフィルムの膜厚の1/2以下の粒径を有する。
(C)成分のアルミナ粒子の形状は特に限定されない。球状、丸み状、板状、および繊維状などの任意の形状を有するアルミナ粒子を用いることができる。
【0032】
本実施形態のフィルム用樹脂組成物は、さらに以下の成分を任意成分として含有してもよい。
【0033】
(D)硬化剤
本実施形態のフィルム用樹脂組成物は、(A)成分の熱硬化樹脂の硬化剤として、(D)成分を含有してもよい。(A)成分の熱硬化樹脂がエポキシ樹脂の場合、用いることのできる硬化剤としての(D)成分の例としては、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、および酸無水物系硬化剤が挙げられる。これらの中でも、イミダゾール系硬化剤が、エポキシ樹脂に対する硬化性および接着性の観点から、好ましい。
【0034】
(その他の成分)
本実施形態のフィルム用樹脂組成物には、誘電率、線膨張係数、樹脂の流動性、難燃性などを調整する等の目的で、(B)成分の六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子、および、(C)成分のアルミナ粒子以外の無機充填材、例えば、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化珪素、ダイアモンド、あるいは炭化珪素などを添加することができる。
また、接着力の調整、あるいは、無機添加物の均一分散などを目的とするシラン化合物、あるいは、塗工液の沈降防止等を目的とする分散剤あるいはレオロジーコントロール剤、などを添加することも可能である。
【0035】
本実施形態のフィルム用樹脂組成物は、上記(A)および(B)成分と、必要に応じて添加する(C)および(D)成分と、その他の成分と、を含む原料を、有機溶剤に溶解又は分散等させることにより、得られる。これらの原料の溶解又は分散等の方法は、特に限定されない。ただし、好ましくは、原料は、プラネタリーミキサーなどで低速で攪拌された後、細管式の湿式分散装置等で分散される。原料がビーズミルあるいはボールミルなどを用いて分散された場合には、二次凝集粒子が崩れることにより、所定の熱伝導率が得られないおそれがある。
【0036】
本実施形態のフィルムは、上述のフィルム用樹脂組成物を用いて、形成される。具体的には、フィルム用樹脂組成物が、所望の支持体の少なくとも一面に塗布された後、乾燥されることによりフィルムが形成される。支持体の材質は、特に限定されない。このような材質の例として、銅およびアルミニウム等の金属板および金属箔;および、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のプラスチック基材等が挙げられる。これらの支持体は、シリコーン系化合物等で離型処理されていてもよい。
なお、プラスチック基材の少なくとも一面に本実施形態の樹脂組成物からなる層を形成することにより、本実施形態の基材付フィルムが得られる。
一方、金属板もしくは金属箔の少なくとも一面に本実施形態の樹脂組成物からなる層を形成することにより、本実施形態の金属/樹脂積層体が得られる。
【0037】
フィルム用樹脂組成物を支持体に塗布する方法は、特に限定されない。ただし、薄膜化および膜厚制御の点からは、マイクログラビア法、スロットダイ法、あるいはドクターブレード法が好ましい。スロットダイ法により、厚さが、例えば、5〜500μmのフィルムを得ることができる。
【0038】
乾燥条件は、フィルム用樹脂組成物に使用される有機溶剤の種類および量、および、塗布の厚み等に応じて、適宜、設定することができる。例えば、50〜120℃で、1〜30分程度で乾燥することができる。このようにして得られたフィルムは、良好な保存安定性を有する。なお、フィルムは、所望のタイミングで、支持体から剥離することができる。
【0039】
上記の手順で得られるフィルムは、例えば、80℃以上250℃以下、好ましくは130℃以上200℃以下の温度で、30〜180分間熱硬化させることができる。
【0040】
上記の手順で得られるフィルムの厚さは、好ましくは5μm以上500μm以下である。フィルムの厚さが5μm未満の場合、絶縁性などの要求されるフィルム特性が得られなくなるおそれがある。厚さが500μmを超えると、フィルムの熱伝導性が低下する。そのため、フィルムが半導体装置等の層間接着に使用された場合に、半導体装置等の放熱性が乏しくなるおそれがある。フィルムの厚さは、より好ましくは10μm以上400μm以下で、さらに好ましくは50μm以上300μm以下である。
【0041】
本実施形態のフィルムは、硬化後において、優れた熱伝導性を有する。具体的には、本実施形態のフィルムは、硬化後において、好ましくは9W/m・K以上の熱伝導率を有する。熱伝導率が9W/m・K未満であると、フィルムが半導体装置等の層間接着に使用された場合に、半導体装置等の放熱性が乏しくなるおそれがある。より好ましくは、本実施形態のフィルムは、硬化後において、11W/m・K以上の熱伝導率を有する。
【0042】
本実施形態のフィルムは、硬化後において、優れた絶縁性を有する。具体的には、本実施形態のフィルムは、硬化後において、好ましくは5kV/100μm以上の絶縁破壊電圧を有する。絶縁破壊電圧が5kV/100μm未満であると、半導体装置等に要求される絶縁性を満足できないおそれがある。より好ましくは、本実施形態のフィルムは、硬化後において、7kV/100μm以上の絶縁破壊電圧を有する。
【0043】
本実施形態の半導体装置の、半導体装置の構成要素の間の層間接着には、本実施形態のフィルム用樹脂組成物が用いられている。具体的には、たとえば、基板と放熱板との間の層間接着、電子部品と基板との間の層間接着、もしくは、電子部品を覆う絶縁層などに、本実施形態のフィルム用樹脂組成物が用いられる。または、電子部品を含む装置内で、本実施形態のフィルム用樹脂組成物により形成されるフィルム、フィルム用樹脂組成物からなる層が形成されている基材付フィルム、あるいは、フィルム用樹脂組成物からなる層が形成された金属/樹脂積層体が用いられている。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により、本実施形態を詳細に説明する。ただし、本実施形態はこれらに限定されることはない。
【0045】
(実施例1〜9、比較例1〜3)
表1に示す配合で、(A)成分の熱硬化樹脂、その他添加剤、および、有機溶剤としてのメチルエチルケトンがプラネタリーミキサーに投入されて、30分間攪拌された。その後、(B)成分の六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子、および、(C)成分のアルミナ粒子が投入されて1時間攪拌された。さらに、(D)成分の硬化剤が添加されて、10分間攪拌された。得られた混合液を湿式微粒化装置(MN2−2000AR 吉田機械興業株式会社製)にて分散することにより、樹脂組成物を含む塗工液が得られた。得られた樹脂組成物を含む塗工液をプラスチック基材(離型処理を施したPETフィルム)の片面に塗布することにより、厚さ約100μmのフィルムが作製された。
【0046】
フィルム用樹脂組成物の調製時に使用した成分は以下の通り。
(A)成分:熱硬化性樹脂
(A−1):液状エポキシ樹脂、品名630、三菱化学株式会社製
(A−2):固形エポキシ樹脂、品名CG−500、大阪ガスケミカル株式会社製
(A−3):フェノキシ樹脂、品名YX7200、三菱化学株式会社製
(B)成分:六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子
(B−1a):品名FP−40(超高強度品)、デンカ株式会社製、凝集破壊強度8.2MPa
(B−1b):品名FP−70(超高強度品)、デンカ株式会社製、凝集破壊強度7.7MPa
(B−2):品名HP−40MF100、水島合金鉄株式会社製、凝集破壊強度4.8MPa
(B´):品名FP−40(通常強度品)、デンカ株式会社製、凝集破壊強度1.3MP
なお、(B)成分の六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子の凝集破壊強度は、以下に示す方法で測定した。
測定には、微小圧縮試験機(品名MCT−510、株式会社島津製作所製)が用いられた。負荷速度0.8924mN/sで圧縮力を上昇させる過程で、変位が大きく変化する点が、凝集体が破壊した試験力と判断された。その試験力と粒子の大きさとから粒子の凝集破壊強度が以下の式により算出された。
Cs(Pa)=2.48×P/πd2
Cs:凝集破壊強度(Pa)
P:破壊点における試験力(N)
d:測定した粒子の測定径(mm)
(D)成分:硬化剤
なお、品種毎の凝集破壊強度は、同品種の六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子からランダムに取り出された10個のサンプルの凝集破壊強度を測定することにより、求められた。それらの10個の測定値の平均値が、その品種の凝集破壊強度として、求められた。
【0047】
(C)成分:アルミナ粒子
(C−1):品名DAW0735、デンカ株式会社製 (平均粒径 7μm)
(D)成分:硬化剤
(D−1)品名EH−2021、イミダゾール系硬化剤、四国化成工業株式会社製
(D−2)品名2PHZPW、イミダゾール系硬化剤、四国化成工業株式会社製
(E)成分:その他成分
(E−1)分散剤、品名ED216、楠本化成株式会社
(E−2)シランカップリング剤、品名KBM403、信越化学工業株式会社製
(E−3):レオロジーコントロール剤、品名BYK−410、ビックケミー・ジャパン株式会社製
【0048】
上記の手順で調製および作製された塗工液および基材付フィルムの評価が、以下の方法により実施された。
<成膜性評価>
上記の手順で調製された塗工液を用いて、ナイフコータでライン速度0.5m/分にてフィルムが成膜された。90℃で10分間乾燥することにより得られた未硬化フィルムの状態が観察された。結果が、下記基準で評価された。
B:きれいに成膜できる
C:成膜は可能であるが、やや脆く取り扱いに注意が必要
D:成膜不可
【0049】
<熱伝導率測定方法>
フィルムが、300〜600μmの厚さを有するように、積層された。180℃で1時間真空プレス(プレス硬化時の圧力は5〜10MPa)することにより、硬化フィルムが作製された。このフィルムの比重が、アルキメデス法にて、測定された。硬化フィルムが10mm角に切断された後、熱伝導率測定装置(ネッチ・ジャパン株式会社製)を用いて熱拡散率が測定された。更に、別途求められた比熱を使用して、下記式により、熱伝導率が求められた。
熱伝導率(W/m・K)=熱拡散率×比熱×比重
得られた結果を下記基準で評価した。
A:11(W/m・K)以上
B:9(W/m・K)以上
D:9(W/m・K)未満
<絶縁破壊電圧測定方法>
フィルムを180℃で1時間真空プレス(プレス硬化時の圧力は5〜10MPa)することにより、硬化フィルムが作製された。測定には、絶縁破壊電圧測定装置(品名DAC−WT−50、総研電機株式会社製)が用いられた。硬化フィルムが挟みこまれている電極間に200V/sで電圧を加えていく過程で、絶縁層が破壊したときの電圧が測定された。なお、測定は、5回行われた。得られた測定値の平均値が、その組成物の絶縁破壊電圧として、求められた。
得られた結果は、下記基準により、評価された。
A:7(kV/100μm)以上
B:5(kV/100μm)以上7(kV/100μm)未満
D:5(kV/100μm)未満
【0050】
結果を下記表に示す。
【表1】
【表2】
実施例1〜9は、いずれもC以上の成膜性を示した。さらに、これら実施例は、いずれもB以上の熱伝導率および耐電圧を示した。なお、実施例2,3,および5では、六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−1)および(B−2)の配合割合が、実施例1とは異なっている。実施例4では、7MPa以上の凝集破壊強度を有す六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−1)の種類が、他の実施例とは異なっている。実施例6〜9では、他の実施例と異なり、アルミナ粒子(C)が添加されている。六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−1)のみが添加されている比較例1、六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−2)のみが添加されている比較例2、および、六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−2)の代わりに、3MPa未満の凝集破壊強度を有する六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B´)が添加されている比較例3では、いずれも熱伝導率がDだった。
本開示の実施形態に係るフィルム用樹脂組成物は、以下の第1〜5のフィルム用樹脂組成物であってもよい。
上記第1のフィルム用樹脂組成物は、熱硬化樹脂(A)、六方晶窒化ホウ素の二次凝集粒子(B)と、を含む樹脂組成物であって、前記六方晶窒化ホウ素の二次凝集粒子(B)が、凝集破壊強度が7MPa以上の六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−1)と、凝集破壊強度が3MPa以上7MPa未満の六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−2)と、を含むフィルム用樹脂組成物である。
上記第2のフィルム用樹脂組成物は、前記六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−1)と、前記六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B−2)と、の配合割合(質量比)((B−1)/(B−2))は10〜0.05である、上記第1のフィルム用樹脂組成物である。
上記第3のフィルム用樹脂組成物は、さらにアルミナ粒子(C)を含有する、上記第1または2のフィルム用樹脂組成物である。
上記第4のフィルム用樹脂組成物は、前記アルミナ粒子(C)と、前記六方晶窒化ホウ素二次凝集粒子(B)と、の配合割合(質量比)((C)/(B))は1以下である、上記3のフィルム用樹脂組成物である。
上記第5のフィルム用樹脂組成物は、さらに、硬化剤(D)を含有する、上記1〜4のいずれかのフィルム用樹脂組成物である。
本開示の実施形態に係るフィルムは、上記第1〜5のいずれかのフィルム用樹脂組成物により形成されるフィルムであってもよい。
本開示の実施形態に係る基材付フィルムは、プラスチック基材の少なくとも一面に上記第1〜5のいずれかのフィルム用樹脂組成物からなる層が形成された基材付フィルムであってもよい。
本開示の実施形態に係る金属/樹脂積層体は、金属板もしくは金属箔の少なくとも一面に上記第1〜5のいずれかのフィルム用樹脂組成物からなる層が形成された金属/樹脂積層体であってもよい。
本開示の実施形態に係る樹脂硬化物は、上記第1〜8のいずれかのフィルム用樹脂組成物、を硬化させた樹脂硬化物であってもよい。
本開示の実施形態に係る半導体装置は、上記第1〜5のいずれかのフィルム用樹脂組成物を用いた半導体装置であってもよい。
本開示の実施形態に係るフィルムの製造方法は、上記第1〜5のいずれかのフィルム用樹脂組成物をプラスチック基材、あるいは、金属板もしくは金属箔の少なくとも一面に本開示の実施形態に係るフィルム用樹脂組成物を塗布することによりフィルムを形成するフィルムの製造方法であってもよい。