特許第6945319号(P6945319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6945319-排水処理方法および排水処理装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945319
(24)【登録日】2021年9月16日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】排水処理方法および排水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/28 20060101AFI20210927BHJP
【FI】
   C02F3/28 Z
   C02F3/28 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-66401(P2017-66401)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-167177(P2018-167177A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2020年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】本永 朝将
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 準平
(72)【発明者】
【氏名】河本 恭介
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−110507(JP,A)
【文献】 特開2013−169523(JP,A)
【文献】 特開2009−183910(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/070459(WO,A1)
【文献】 特開2008−155072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28− 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機排水を酸発酵槽において酸発酵させ、酸発酵排水を得る酸発酵工程と、
前記酸発酵排水をメタン発酵槽においてメタン発酵させ、メタン発酵排水を得るメタン発酵工程と、を行う排水処理方法であって、
メタン発酵排水を前記酸発酵槽に返送する第一返送工程と、
メタン発酵排水を、前記酸発酵槽を介することなく、前記メタン発酵槽に返送する第二返送工程と、を独立してい、
前記第一返送工程は、前記酸発酵槽に供給される有機排水量と前記酸発酵槽に返送される返送水量によって前記酸発酵槽が所定の滞留時間になるように前記返送水量を制御するものであり、
前記第二返送工程は、前記メタン発酵槽における槽内の有機物濃度を所定値以下に維持するように前記メタン発酵槽に返送される返送水量を制御するものである排水処理方法。
【請求項2】
有機排水を酸発酵させる酸発酵槽と、前記酸発酵槽からの酸発酵排水をメタン発酵させるメタン発酵槽とを備えた排水処理装置であって、
前記メタン発酵槽からのメタン発酵排水を貯留する貯留槽を設け、前記貯留槽のメタン発酵排水を前記酸発酵槽に返送する第一返送路と、前記貯留槽のメタン発酵排水を前記酸発酵槽を介することなく前記メタン発酵槽に返送する第二返送路とを設け、前記第一返送路に返送される返送水量と、前記第二返送路に返送される返送水量とを独立に制御可能な返送水分配部を設け
前記返送水分配部は、
前記酸発酵槽に供給される有機排水量と前記酸発酵槽に返送される返送水量によって前記酸発酵槽が所定の滞留時間になるように前記返送水量を制御して、前記酸発酵槽での有機排水滞留時間を調整する滞留時間調節機構と、
前記メタン発酵槽における槽内の有機物濃度を所定値以下に維持するように、前記メタン発酵槽に返送される返送水量を制御して、前記メタン発酵槽の有機物濃度を調整する有機物濃度維持機構とを備える排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機排水を酸発酵槽において酸発酵させ、酸発酵排水を得る酸発酵工程と、前記酸発酵排水をメタン発酵させ、メタン発酵排水を得るメタン発酵工程と、を行う排水処理方法および有機排水を酸発酵させる酸発酵槽と、酸発酵槽からの酸発酵排水をメタン発酵させるメタン発酵槽と、を備えた排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン発酵は、排水処理の重要なユニットプロセスとして古くから知られているが、設備が嵩だかいという問題があり、比較的規模の大きな水処理設備としての導入が検討される場合が多い。このような水処理設備としては、酸発酵と、メタン発酵とを組み合わせた下水処理システムなどが知られている。
【0003】
このような下水処理システムに用いられる排水処理装置では、酸発酵槽における微生物生育条件とメタン発酵槽における微生物生育条件とは異なるために、酸発酵槽およびメタン発酵槽の環境をともに良好に維持することは困難であった。例えば、酸発酵槽で生成した酸発酵排水成分が、メタン発酵の阻害成分を含んでいたり、メタン発酵槽の負荷を維持するには酸発酵槽における処理効率が低下したりするなど種々の問題が発生することが報告されており、このような場合、メタン発酵の阻害になる要因として酸発酵排水のpHや、有機物濃度が挙げられている(たとえば特許文献1,2)。そしてこれらの要因を解消するために、メタン発酵槽からのメタン発酵排水を酸発酵槽に返送する返送工程を行うことが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平3−011835号公報
【特許文献1】特開2004−098003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、酸発酵槽の環境をメタン発酵に適した酸発酵排水が得られるように調整したとしても、有機排水の水質や発生量が変動した際に、メタン発酵槽における環境に対してその酸発酵排水の水質が成分として適合しても、有機物濃度として不適合となり、やはりメタン発酵槽におけるメタン発酵が適正に進行しなくなる場合があるという問題があった。具体的にはメタン発酵槽におけるメタン発酵が良好に進行しない場合、メタン発酵後のメタン発酵排水に含まれる有機酸が高濃度になり排水基準に適合しなくなる問題が発生する。
【0006】
したがって、本発明は上記実状に鑑み、酸発酵槽とメタン発酵とをともに適正に行える排水処理方法及び排水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的のための本発明の排水処理方法の特徴構成は、
有機排水を酸発酵槽において酸発酵させ、酸発酵排水を得る酸発酵工程と、
前記酸発酵排水をメタン発酵槽においてメタン発酵させ、メタン発酵排水を得るメタン発酵工程と、を行う排水処理方法であって、
メタン発酵排水を前記酸発酵槽に返送する第一返送工程と、
メタン発酵排水を、前記酸発酵槽を介することなく、前記メタン発酵槽に返送する第二返送工程と、を独立してい、
前記第一返送工程は、前記酸発酵槽に供給される有機排水量と前記酸発酵槽に返送される返送水量によって前記酸発酵槽が所定の滞留時間になるように前記返送水量を制御するものであり、
前記第二返送工程は、前記メタン発酵槽における槽内の有機物濃度を所定値以下に維持するように前記メタン発酵槽に返送される返送水量を制御するものである点にある。
【0008】
上記特徴構成によると、メタン発酵排水を酸発酵槽に返送する第一返送工程を行うことにより、有機排水を酸発酵させ、酸発酵排水を得る酸発酵工程を、酸発酵槽においてより適した環境で行える。例えば、酸発酵槽のpHは低く、メタン発酵排水のpHは高いために、酸発酵槽のpHが下がりすぎないように酸発酵槽内のpHを調整することができる。また、有機排水の流量に関わらず酸発酵槽における有機排水の滞留時間を一定に維持することによって、酸発酵が十分に行われる構成とするとともに、酸発酵排水の排出量を常時安定させられる。
また、メタン発酵排水をメタン発酵槽に返送する第二返送工程を行うことにより、前記酸発酵排水をメタン発酵させ、メタン発酵排水を得るメタン発酵工程を、メタン発酵槽において適した環境で行うことができる。たとえば、メタン発酵排水により有機物濃度を低下できるので、メタン発酵排水をメタン発酵槽に返送することで、酸発酵槽からの有機物濃度によらず、安定したメタン発酵を行うことができる。
【0009】
したがって、酸発酵槽における酸発酵と、メタン発酵槽におけるメタン発酵の進行を、個別に最適化できるようになり、酸発酵及びメタン発酵がともに安定して行われる条件での排水処理が好適に行われる。
【0011】
また、上記構成によると、酸発酵槽における排水(有機排水および返送水)の量が酸発酵槽における滞留時間が一定に制御されることになる。これにより有機排水量(濃度)によらず安定した酸発酵が行えるようになる。
【0013】
また、上記構成によるとメタン発酵槽における排水(酸発酵排水及び返送水)の有機物濃度が一定に制御されるから、その排水のメタン発酵槽における負荷が一定に制御されることになる。これにより、酸発酵排水の有機物濃度によらず、さらにいえば、有機排水の有機物濃度にもよらず、安定したメタン発酵が行えるようになる。
【0014】
また、上述の第一返送工程と第二返送工程とは処理水量および有機物濃度という全く別のパラメータによる制御を行うものであるから、それぞれ独立に制御することができ、有機排水の性状、酸発酵環境の変動に影響されることなくメタン発酵槽内のメタン発酵環境を好適に維持することができる。
【0015】
また、本発明の排水処理装置の特徴構成は、有機排水を酸発酵させる酸発酵槽と、前記酸発酵槽からの酸発酵排水をメタン発酵させるメタン発酵槽とを備えた排水処理装置であって、
前記メタン発酵槽からのメタン発酵排水を貯留する貯留槽を設け、前記貯留槽のメタン発酵排水を前記酸発酵槽に返送する第一返送路と、前記貯留槽のメタン発酵排水を前記酸発酵槽を介することなく前記メタン発酵槽に返送する第二返送路とを設け、前記第一返送路に返送される返送水量と、前記第二返送路に返送される返送水量とを独立に制御可能な返送水分配部を設け
前記返送水分配部は、
前記酸発酵槽に供給される有機排水量と前記酸発酵槽に返送される返送水量によって前記酸発酵槽が所定の滞留時間になるように前記返送水量を制御して、前記酸発酵槽での有機排水滞留時間を調整する滞留時間調節機構と、
前記メタン発酵槽における槽内の有機物濃度を所定値以下に維持するように、前記メタン発酵槽に返送される返送水量を制御して、前記メタン発酵槽の有機物濃度を調整する有機物濃度維持機構とを備える点にある。
【0016】
すなわち、メタン発酵排水を貯留する貯留槽を設けるから、メタン発酵排水を上流側に返送する際に、安定して返送水用のメタン発酵排水を提供することができる。このメタン発酵排水を返送水として利用する際、第一返送路により、酸発酵槽にメタン発酵排水を返送することができ、第二返送路によりメタン発酵槽にメタン発酵排水を返送することができる。これらの返送水量は、返送水分配部によりそれぞれ独立に制御可能としてあるから、酸発酵槽及びメタン発酵槽の環境をそれぞれ調整することができ、最終的な有機排水処理効率を最適化することができる。したがって、安定して高い処理効率を発揮できる排水処理装置を提供できた。
【0018】
また、酸発酵槽における排水処理の効率に影響する特に重要なパラメータとして排水の滞留時間が挙げられる。酸発酵槽に供給される有機排水の量が変動すると、酸発酵槽内の有機物に対して酸発酵が行われる時間が変動することになる。すると、有機排水中の有機物のうち、酸発酵で消費されるべき有機物が完全に酸に変換されるとは限らない。さらに言えば、後続のメタン発酵槽における排水処理にて有機物濃度が変動したり発酵阻害要因となるような成分が残留したりする虞が生じる。これに対して滞留時間調整機構を設けてあれば、有機排水量に関わらず酸発酵槽における排水の滞留時間を十分確保して酸発酵が十分行われる(酸が生成する)ようにするとともに、酸発酵槽内のpHが低下しすぎない環境を容易に維持することができる。このような滞留時間調節機構としては、たとえば、前記有機排水量と前記酸発酵槽に返送される返送水量との和が所定量になるように返送水量を制御できるが、これに限るものではない。
【0019】
また、メタン発酵槽における排水処理効率に影響する特に重要なパラメータとして有機物濃度(負荷)が挙げられる。メタン発酵槽に供給される酸発酵排水に含まれる有機物濃度が変動すると、メタン発酵槽内の有機物に対してメタン発酵が行われる微生物量が十分確保できなくなり、有効なメタン発酵が進行しにくくなる。これに対して有機物濃度維持機構を設けてあれば、酸発酵排水の有機物濃度によらず排水の有機物濃度を一定に維持することができるため、安定したメタン発酵が行えるものである。このような有機物濃度維持機構としては、たとえば、前記有機物濃度を所定値以下に維持するように返送水量を制御するものを採用することができるが、これに限るものではない。
【発明の効果】
【0020】
したがって、酸発酵槽とメタン発酵とをともに適正に行えるようになり、これらを連携させた高度な排水処理を行えるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】排水処理装置のフロー図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態にかかる排水処理装置を説明する。尚、以下に好適な実施形態を記すが、これら実施形態はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0023】
〔排水処理装置〕
本発明の実施形態にかかる排水処理装置は、図1に示すように、有機排水を酸発酵させる酸発酵槽1と、酸発酵槽1からの酸発酵排水をメタン発酵させるメタン発酵槽2と、メタン発酵槽2からのメタン発酵排水を貯留する貯留槽3とを備える。また、貯留槽3のメタン発酵排水を酸発酵槽1に返送する第一返送路R1と、貯留槽3のメタン発酵排水をメタン発酵槽2に返送する第二返送路R2とを設ける。これにより、第一返送路R1に返送される返送水量と、第二返送路R2に返送される返送水量とを独立に制御可能な返送水分配部Wを設けて構成してある。
【0024】
〔酸発酵槽〕
酸発酵槽1は、有機排水を上部より受け入れて、有機排水を酸発酵槽1において酸発酵させ、酸発酵排水を得る酸発酵工程を行う酸処理容器10に、有機排水を導入する有機排水導入部11と、酸処理容器10内で所定時間滞留した酸発酵排水がオーバーフローする形態で排出される酸発酵排水排出部12と、貯留槽3からの返送水を導入する第一返送水導入部13とを備える。
また、有機排水導入部11には、有機排水流量計14を備え、酸処理容器10に導入される有機排水の流量を検知して、有機排水導入部11に導入される有機排水量と第一返送水導入部13に返送される返送水量との和が所定量になるように返送水量を制御する第一返送工程が行われる。
返送水量の制御は、返送水分配部Wにより行われ、返送水分配部Wは、有機排水流量計14からの出力に応じて、第一返送水導入部13に接続された第一返送路R1に設けられる第一流量調整弁V1を制御する滞留時間調節機構W1を有する。これにより、酸発酵槽1に導入される排水量が一定に保持され、返送水流量計15に基づいて酸発酵槽1に導入される有機排水量を調整することにより、酸発酵槽1内での有機排水の滞留時間が一定に維持されるように制御する。具体的には有機排水量が増加するにしたがって返送水量を減少させることにより酸発酵槽1に導入される排水量が一定に保持される。
【0025】
〔メタン発酵槽〕
メタン発酵槽2は、酸発酵排水を下部より受け入れて、酸発酵排水をメタン発酵させメタン発酵排水を得るメタン発酵工程を行うメタン発酵容器20に、酸発酵排水を下部から導入する酸発酵排水導入部21と、メタン発酵容器20内でメタン発酵されたメタン発酵排水がオーバーフローする形態で排出されるメタン発酵排水排出部22とを備える。また、メタン発酵容器20には、メタン発酵容器20内を撹拌して内部に貯留される排水を均一に維持するための撹拌装置23を備える。また、メタン発酵槽2内で生成したメタンを取り出すメタンガス路24を接続してある。
また、メタン発酵容器20内部に貯留される排水の有機物濃度をモニタする有機物濃度計25を備え、有機物濃度を所定値以下に維持するように返送水量を制御する第二返送工程が行われる。
酸発酵排水排出部12と酸発酵排水導入部21とを接続する移送路L1には、貯留槽3のメタン発酵排水を返送水としてメタン発酵槽2に返送する第二返送路R2が接続される第二返送水導入部26が設けられている。第二返送水導入部26に返送される返送水量の制御は、返送水分配部Wにより行われ、返送水分配部Wは、有機物濃度計25からの出力に応じて、第二返送路R2に設けられる第二流量調整弁V2を制御する有機物濃度維持機構W2を有する。これにより、メタン発酵槽2に導入される酸発酵排水の有機物濃度は一定に保持され、メタン発酵槽2内での負荷が一定に維持されるように制御する。具体的には、酸発酵排水の有機物濃度が増加するにしたがって返送水量を増加させることによってメタン発酵槽2内の有機物濃度が一定になるように制御される。これは、有機排水量が増加するのに従って返送水量を増加させることにあたるので、第一返送工程における制御とは逆の対応となっている。
【0026】
〔貯留槽〕
貯留槽3は、メタン発酵排水を貯留する貯留容器30にメタン発酵排水を上部から受け入れるメタン発酵排水導入部31と、余剰のメタン発酵排水をオーバーフローで処理済排水として外部に放流する処理済み排水排出部32とを備える。また、貯留されるメタン発酵排水を返送水として取り出す返送水抽出部33が設けられ、返送水抽出部33に設けられる返送ポンプPにより、貯留槽3内のメタン発酵排水を返送水として汲み上げられるように構成してある。
【0027】
〔返送路〕
貯留槽3に立設される返送水抽出部33は返送ポンプPを介して返送水を上流側に返送する返送路Rに接続されている。返送路Rは、メタン発酵排水を返送水として酸発酵槽1に返送する第一返送路R1と、メタン発酵排水を返送水としてメタン発酵槽2に返送する第二返送路R2とを有し、返送路Rには、返送水量を調節する返送水調整弁Vを設けてある。また、前述のように、返送水を酸発酵槽1に返送する第一返送路R1が設けられ、返送水をメタン発酵槽2に返送する第二返送路R2が設けられており、返送水調整弁Vと、第一、第二返送路R1,R2に設けられる第一、第二流量調整弁V1,V2とを調整する返送水分配部Wを設けてある。返送水分配部Wは、有機排水の流量及びメタン発酵槽2の有機物濃度に基づいて返送水の流量を独立に制御する。
【0028】
〔実施例〕
上記排水処理装置において硫酸酸性の13000mg/Lの有機排水を処理する場合の排水の処理状況を表1に示す。表1においては、上記有機排水の流量が8.1L/d〜14.5L/dに変動した場合の酸発酵排水の酸濃度及び有機物濃度、メタン発酵槽の有機物濃度をそれぞれ求め、第一、第二返送路返送水量を調整することにより、メタン発酵槽の有機物濃度を有機物負荷容量(この例では5000mg/L)に維持する制御を行った例を示している。
まず、酸発酵槽1に導入される有機排水量と、返送水流量計15により求められる第一返送路R1の返送水を第一返送水導入部13に導入することにより、有機排水量に応じて酸発酵槽1に流入する排水量(有機排水量+第一返送路返送水量)を28L/dに調整する(第一返送工程)。すると、酸発酵槽1では有機排水に対して3〜4時間の滞留時間を確保でき、有機排水量に応じた比率で有機酸(酢酸及びプロピオン酸)を生成することが分かった。なお、この滞留時間が不足すると、酸発酵が十分に進まず、酸発酵排水中の有機酸量が十分に増加しないものである。
次に、第二返送路R2により、返送水を供給してメタン発酵槽2内の有機物濃度を5000mg/L以下になるように調整する(第二返送工程)。すると、メタン発酵槽2に供給される有機物濃度(調整された有機物濃度)は、メタン発酵槽2で処理可能な負荷に維持され、返送水による流量の増加はあるものの、有機排水を十分に処理できることが明らかになった。なお、この際、メタン発酵排水中の有機酸量は、酢酸120mg/L、プロピオン酸140mg/Lとなっており、排水基準であるプロピオン酸300mg/L以下、総有機酸量600mg/L以下の基準を十分満たすものとなっていた。
【0029】
【表1】
【0030】
〔比較例〕
尚、上記実施例により得られた酸発酵排水をそのままメタン発酵槽2に導入してメタン発酵を行った場合、つまり第一返送工程のみを行い第二返送工程を行わなかった場合、メタン発酵槽2内における想定有機物濃度は、有機酸濃度とは異なる比率で増加するため、想定有機物濃度がメタン発酵槽2の有機物負荷容量を上回る状況となる。このときのメタン発酵排水中の有機酸量は、酢酸300mg/L、プロピオン酸460mg/Lで、排水基準を満たさないものであるとともに、有機酸のメタン発酵が十分に進んでいないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によると、酸発酵とメタン発酵とをともに適正に行えるので、安定した排水処理が行える排水処理装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 :酸発酵槽
2 :メタン発酵槽
3 :貯留槽
14 :有機排水流量計
25 :有機物濃度計
R1 :第一返送路
R2 :第二返送路
W :返送水分配部
図1