特許第6945480号(P6945480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6945480クランクシャフトおよびクランクシャフトのカウンターウエイトの質量設定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945480
(24)【登録日】2021年9月16日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】クランクシャフトおよびクランクシャフトのカウンターウエイトの質量設定方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 3/20 20060101AFI20210927BHJP
   F02B 75/16 20060101ALI20210927BHJP
   F02B 75/20 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   F16C3/20
   F02B75/16
   F02B75/20
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-46506(P2018-46506)
(22)【出願日】2018年3月14日
(65)【公開番号】特開2019-158030(P2019-158030A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2020年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】景山 健太
(72)【発明者】
【氏名】大河 誠
(72)【発明者】
【氏名】内海 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 幸司
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−147139(JP,A)
【文献】 特開昭57−051042(JP,A)
【文献】 特開2012−247044(JP,A)
【文献】 特開昭60−208655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/20
F16F 15/24−15/26
F02B 75/16、75/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受に回転可能に支持される4つのメインジャーナルと、
前記メインジャーナルに対して偏心して配置される3つのクランクピンと、
前記メインジャーナルと前記クランクピンとを連結する6つのクランクアームと、
を備える3気筒エンジン用のクランクシャフトであって、
軸方向一端側から順に、4つの前記メインジャーナルは第1〜第4メインジャーナルであり、3つの前記クランクピンは第1〜第3クランクピンであり、6つの前記クランクアームは第1〜第6クランクアームであり、
さらに、前記第1クランクアームに連なる第1カウンターウエイトと、前記第2クランクアームに連なる第2カウンターウエイトと、前記第5クランクアームに連なる第5カウンターウエイトと、前記第6クランクアームに連なる第6カウンターウエイトと、を備え、
前記第1、第2カウンターウエイトが同じ質量である場合と比較して、前記第2メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減できるように、前記第1カウンターウエイトよりも前記第2カウンターウエイトは軽量であり、
前記第5、第6カウンターウエイトが同じ質量である場合と比較して、前記第3メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減できるように、前記第6カウンターウエイトよりも前記第5カウンターウエイトは軽量であり、
さらに、前記第3クランクアームに連なる第3カウンターウエイトと、前記第4クランクアームに連なる第4カウンターウエイトと、を備え、
前記第1、第2、第5、第6カウンターウエイトよりも前記第3、第4カウンターウエイトは軽量であることを特徴とするクランクシャフト。
【請求項2】
軸受に回転可能に支持される4つのメインジャーナルと、
前記メインジャーナルに対して偏心して配置される3つのクランクピンと、
前記メインジャーナルと前記クランクピンとを連結する6つのクランクアームと、
を備える3気筒エンジン用のクランクシャフトであって、
軸方向一端側から順に、4つの前記メインジャーナルは第1〜第4メインジャーナルであり、3つの前記クランクピンは第1〜第3クランクピンであり、6つの前記クランクアームは第1〜第6クランクアームであり、
さらに、前記第1クランクアームに連なる第1カウンターウエイトと、前記第2クランクアームに連なる第2カウンターウエイトと、前記第5クランクアームに連なる第5カウンターウエイトと、前記第6クランクアームに連なる第6カウンターウエイトと、を備え、
前記第1、第2カウンターウエイトが同じ質量である場合と比較して、前記第2メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減できるように、前記第1カウンターウエイトよりも前記第2カウンターウエイトは軽量であり、
前記第5、第6カウンターウエイトが同じ質量である場合と比較して、前記第3メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減できるように、前記第6カウンターウエイトよりも前記第5カウンターウエイトは軽量であり、
前記第3クランクアームに連なる第3カウンターウエイトと、前記第4クランクアームに連なる第4カウンターウエイトと、を備えないことを特徴とするクランクシャフト。
【請求項3】
前記軸方向一端側から見て、前記第1〜第4メインジャーナルの正回転方向を+θ方向、逆回転方向を−θ方向として、
前記第2カウンターウエイトの−θ方向端は、前記第1カウンターウエイトの−θ方向端よりも、+θ方向にずれて配置されており、
前記第5カウンターウエイトの+θ方向端は、前記第6カウンターウエイトの+θ方向端よりも、−θ方向にずれて配置されている請求項1または請求項2に記載のクランクシャフト。
【請求項4】
軸受に回転可能に支持される4つのメインジャーナルと、
前記メインジャーナルに対して偏心して配置される3つのクランクピンと、
前記メインジャーナルと前記クランクピンとを連結する6つのクランクアームと、
を備える3気筒エンジン用のクランクシャフトであって、
軸方向一端側から順に、4つの前記メインジャーナルは第1〜第4メインジャーナルであり、3つの前記クランクピンは第1〜第3クランクピンであり、6つの前記クランクアームは第1〜第6クランクアームであり、
さらに、前記第1クランクアームに連なる第1カウンターウエイトと、前記第2クランクアームに連なる第2カウンターウエイトと、前記第5クランクアームに連なる第5カウンターウエイトと、前記第6クランクアームに連なる第6カウンターウエイトと、を備え、
前記第1、第2カウンターウエイトが同じ質量である場合と比較して、前記第2メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減できるように、前記第1カウンターウエイトよりも前記第2カウンターウエイトは軽量であり、
前記第5、第6カウンターウエイトが同じ質量である場合と比較して、前記第3メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減できるように、前記第6カウンターウエイトよりも前記第5カウンターウエイトは軽量であり、
前記軸方向一端側から見て、前記第1〜第4メインジャーナルの正回転方向を+θ方向、逆回転方向を−θ方向として、
前記第2カウンターウエイトの−θ方向端は、前記第1カウンターウエイトの−θ方向端よりも、+θ方向にずれて配置されており、
前記第5カウンターウエイトの+θ方向端は、前記第6カウンターウエイトの+θ方向端よりも、−θ方向にずれて配置されていることを特徴とするクランクシャフト。
【請求項5】
前記第1、第2カウンターウエイトが同じ質量であり、前記第5、第6カウンターウエイトが同じ質量である場合の、前記第2、第3メインジャーナルに作用する合成慣性力を算出する合成慣性力算出ステップと、
前記合成慣性力が小さくなるように、前記第1カウンターウエイトに対して前記第2カウンターウエイトを軽量化し、前記第6カウンターウエイトに対して前記第5カウンターウエイトを軽量化する軽量化ステップと、
を有する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のクランクシャフトのカウンターウエイトの質量設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3気筒エンジン用のクランクシャフトおよびクランクシャフトのカウンターウエイトの質量設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、3気筒エンジン用のクランクシャフトは、4つのメインジャーナルと、3つのクランクピンと、を備えている。4つのメインジャーナルは、各々、軸受により回転可能に支持されている。4つのメインジャーナルを挟んで、3つのクランクピンの径方向反対側には、各々、カウンターウエイトが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−43625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クランクシャフトには、燃費向上等の観点から、軽量化が要求されている。クランクシャフト軽量化の一つの方策として、3つのクランクピンのうち中央のクランクピン用のカウンターウエイトの小型化(軽量化)が考えられる。しかしながら、カウンターウエイトは、クランクピンなどの慣性力(遠心力)を、打ち消す機能を有している。このため、中央のクランクピン用のカウンターウエイトを小型化すると、慣性力のバランスが崩れ、中央のクランクピンの軸方向両側の2つのメインジャーナルのフリクション(軸受との摩擦によるエネルギ損失)が大きくなる。そこで、本発明は、フリクションを低減可能なクランクシャフトおよびクランクシャフトのカウンターウエイトの質量設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のクランクシャフトは、軸受に回転可能に支持される4つのメインジャーナルと、前記メインジャーナルに対して偏心して配置される3つのクランクピンと、前記メインジャーナルと前記クランクピンとを連結する6つのクランクアームと、を備える3気筒エンジン用のクランクシャフトであって、軸方向一端側から順に、4つの前記メインジャーナルは第1〜第4メインジャーナルであり、3つの前記クランクピンは第1〜第3クランクピンであり、6つの前記クランクアームは第1〜第6クランクアームであり、さらに、前記第1クランクアームに連なる第1カウンターウエイトと、前記第2クランクアームに連なる第2カウンターウエイトと、前記第5クランクアームに連なる第5カウンターウエイトと、前記第6クランクアームに連なる第6カウンターウエイトと、を備え、前記第1、第2カウンターウエイトが同じ質量である場合と比較して、前記第2メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減できるように、前記第1カウンターウエイトよりも前記第2カウンターウエイトは軽量であり、前記第5、第6カウンターウエイトが同じ質量である場合と比較して、前記第3メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減できるように、前記第6カウンターウエイトよりも前記第5カウンターウエイトは軽量であることを特徴とする。
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のクランクシャフトのカウンターウエイトの質量設定方法は、前記第1、第2カウンターウエイトが同じ質量であり、前記第5、第6カウンターウエイトが同じ質量である場合の、前記第2、第3メインジャーナルに作用する合成慣性力を算出する合成慣性力算出ステップと、前記合成慣性力が小さくなるように、前記第1カウンターウエイトに対して前記第2カウンターウエイトを軽量化し、前記第6カウンターウエイトに対して前記第5カウンターウエイトを軽量化する軽量化ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第2メインジャーナルには、第1クランクピン、第2クランクピン、第2カウンターウエイトなどから、慣性力が加わる。本発明のクランクシャフトによると、第1カウンターウエイトよりも第2カウンターウエイトは軽量である。このため、第1カウンターウエイトと第2カウンターウエイトとが同じ質量である場合と比較して、第2メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減することができる。
【0008】
第3メインジャーナルには、第2クランクピン、第3クランクピン、第5カウンターウエイトなどから、慣性力が加わる。本発明のクランクシャフトによると、第6カウンターウエイトよりも第5カウンターウエイトは軽量である。このため、第5カウンターウエイトと第6カウンターウエイトとが同じ質量である場合と比較して、第3メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減することができる。
【0009】
このように、本発明のクランクシャフトによると、第2、第3メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減することができる。このため、第2、第3メインジャーナルのフリクションを低減することができる。
【0010】
また、本発明のクランクシャフトのカウンターウエイトの質量設定方法(以下、適宜「質量設定方法」と略称する。)によると、第1、第2カウンターウエイト間に質量差を設定することにより、第2メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減することができる。同様に、第5、第6カウンターウエイト間に質量差を設定することにより、第3メインジャーナルに作用する合成慣性力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のクランクシャフトの一実施形態であるクランクシャフトの斜視図である。
図2】同クランクシャフトの右面図である。
図3図2のIII−III方向断面図である。
図4図2のIV−IV方向断面図である。
図5】同クランクシャフトのカウンターウエイトの質量設定方法の合成慣性力算出ステップにおける、第3メインジャーナルに作用する慣性力の模式ベクトル図である。
図6】同質量設定方法の軽量化ステップにおける、第3メインジャーナルに作用する慣性力の模式ベクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のクランクシャフトおよび質量設定方法の実施の形態について説明する。
【0013】
(クランクシャフトの構成)
まず、本実施形態のクランクシャフトの構成について説明する。図1に、本実施形態のクランクシャフトの斜視図を示す。図2に、同クランクシャフトの右面図を示す。なお、図1図2に示すのは、第2クランクピン2Pに連結されているピストン(図略)が上死点に位置している状態である。
【0014】
図1図2に示すように、本実施形態のクランクシャフト1は、直列3気筒のエンジン用のクランクシャフトである。クランクシャフト1は、第1〜第4メインジャーナル1J〜4Jと、第1〜第3クランクピン1P〜3Pと、第1〜第6クランクアーム1A〜6Aと、第1〜第6カウンターウエイト1W〜6Wと、を備えている。クランクシャフト1の前端(軸方向一端)には、プーリ(図略)が配置されている。クランクシャフト1の後端(軸方向他端)には、フライホイール90が配置されている。クランクシャフト1の上側には、燃焼室(図略)が配置されている。
【0015】
第1〜第4メインジャーナル1J〜4Jは、各々、前後方向に延在している。第1〜第4メインジャーナル1J〜4Jは、前後方向に一列に並んでいる。第1〜第4メインジャーナル1J〜4Jつまりクランクシャフト1は、第1〜第4軸受1B〜4Bにより、第1〜第4メインジャーナル1J〜4Jの軸心O周りに回転可能に支持されている。
【0016】
第1〜第3クランクピン1P〜3Pは、各々、前後方向に延在している。第1〜第3クランクピン1P〜3Pには、各々、軸受(図略)を介して、コンロッド(図略)が装着されている。前側から見て、第1〜第3クランクピン1P〜3Pは、軸心Oに対して、互いに120°ずつずれて配置されている。
【0017】
第1〜第6クランクアーム1A〜6Aは、第1〜第4メインジャーナル1J〜4Jと、第1〜第3クランクピン1P〜3Pと、の間に介在している。第1〜第6カウンターウエイト1W〜6Wは、軸心Oを挟んで、第1〜第6クランクアーム1A〜6Aの径方向(軸心Oの延在方向に対する径方向)反対側に配置されている。
【0018】
(第1〜第6カウンターウエイト1W〜6Wの形状)
次に、第1〜第6カウンターウエイトの形状について説明する。図2に示すように、第3、第4カウンターウエイト3W、4Wの形状は同一である。このため、第3、第4カウンターウエイト3W、4Wの質量は同一である。
【0019】
第1、第2、第5、第6カウンターウエイト1W、2W、5W、6Wは、第3、第4カウンターウエイト3W、4Wよりも、径方向外側に張り出している。また、第1、第2、第5、第6カウンターウエイト1W、2W、5W、6Wは、第3、第4カウンターウエイト3W、4Wよりも、周方向(後述する±θ方向)に長く延在している。このため、第1、第2、第5、第6カウンターウエイト1W、2W、5W、6Wは、第3、第4カウンターウエイト3W、4Wよりも、質量が大きい。
【0020】
図3に、図2のIII−III方向断面図を示す。なお、第2クランクピン2P、第1、第3カウンターウエイト1W、3W、第2メインジャーナル2J、第2軸受2Bを点線で示す。また、軸心O周りのクランクシャフト1の正回転方向(前側から見て時計回り方向)を+θ方向、逆回転方向(前側から見て反時計回り方向)を−θ方向とする。図3に示すように、第2カウンターウエイト2Wと第1カウンターウエイト1Wとの相違点は、−θ方向端1Wa、2Waの周方向位置だけである。第2カウンターウエイト2Wの−θ方向端2Waは、第1カウンターウエイト1Wの−θ方向端1Waよりも、+θ方向にずれて配置されている。図1にハッチングで示すように、この分だけ、第2カウンターウエイト2Wは、第1カウンターウエイト1Wよりも、軽量である。
【0021】
図4に、図2のIV−IV方向断面図を示す。なお、第3クランクピン3P、第6カウンターウエイト6W、第3メインジャーナル3J、第3軸受3Bを点線で示す。また、軸心O周りのクランクシャフト1の正回転方向を+θ方向、逆回転方向を−θ方向とする。図4に示すように、第5カウンターウエイト5Wと第6カウンターウエイト6Wとの相違点は、+θ方向端5Wb、6Wbの周方向位置だけである。第5カウンターウエイト5Wの+θ方向端5Wbは、第6カウンターウエイト6Wの+θ方向端6Wbよりも、−θ方向にずれて配置されている。図1にハッチングで示すように、この分だけ、第5カウンターウエイト5Wは、第6カウンターウエイト6Wよりも、軽量である。
【0022】
(クランクシャフト1の第1、第2、第5、第6カウンターウエイト1W、2W、5W、6Wの質量設定方法)
次に、クランクシャフト1の第1、第2、第5、第6カウンターウエイト1W、2W、5W、6Wの質量設定方法について説明する。質量設定方法は、合成慣性力算出ステップと、軽量化ステップと、を有している。
【0023】
合成慣性力算出ステップにおいては、第1、第2カウンターウエイト1W、2Wが同じ質量であると仮定する。並びに、第5、第6カウンターウエイト5W、6Wが同じ質量であると仮定する。そして、この場合の、第2、第3メインジャーナル2J、3Jに作用する合成慣性力を、算出する。
【0024】
図5に、本実施形態のクランクシャフトのカウンターウエイトの質量設定方法の合成慣性力算出ステップにおける、第3メインジャーナルに作用する慣性力の模式ベクトル図を示す。なお、慣性力を示す矢印の方向、長さは模式的なものである。また、図5は、図4に対応している。また、図5に示す第5カウンターウエイト5Wは、図4に示す第6カウンターウエイト6Wと同じ形状である。
【0025】
図5に示すように、第3メインジャーナル3Jには、第2クランクピン2Pから慣性力f2Pが、第3クランクピン3Pから慣性力f3Pが、第4カウンターウエイト4Wから慣性力f4Wが、第5カウンターウエイト5Wから慣性力f5Wが、各々作用している。すなわち、第3メインジャーナル3Jには、合成慣性力f3J(慣性力f2P、f3P、f4W、f5Wの合力)が作用している。
【0026】
第2メインジャーナル2Jにも、第3メインジャーナル3J同様に、合成慣性力(図3に示す第1クランクピン1Pからの慣性力、第2クランクピン2Pからの慣性力、第2カウンターウエイト2Wからの慣性力、第3カウンターウエイト3Wからの慣性力の合力)が作用している。
【0027】
軽量化ステップにおいては、算出した合成慣性力が小さくなるように、第1カウンターウエイト1Wに対して、第2カウンターウエイト2Wを軽量化する。並びに、第6カウンターウエイト6Wに対して、第5カウンターウエイト5Wを軽量化する。ただし、軽量化対象部分Rは、図5に示す合成慣性力f3Jの方向を挟んで、−θ方向90°から+θ方向90°に亘る部分である。すなわち、軽量化ステップにおいては、第2、第5カウンターウエイト2W、5Wのうち、軽量化対象部分Rに含まれる部分を軽量化することにより、第2、第3メインジャーナル2J、3Jに作用する合成慣性力を小さくする。
【0028】
図6に、本実施形態のクランクシャフトのカウンターウエイトの質量設定方法の軽量化ステップにおける、第3メインジャーナルに作用する慣性力の模式ベクトル図を示す。なお、慣性力を示す矢印の方向、長さは模式的なものである。また、図6は、図5に対応している。
【0029】
図6に示すように、第5カウンターウエイト5Wを軽量化すると、慣性力F5W(図5のf5Wに対応)の方向、大きさ(長さ)が変化する。このため、第3メインジャーナル3Jには、合成慣性力F3J(図5のf3Jに対応。慣性力f2P、f3P、f4W、F5Wの合力)が作用している。図5図6に示すように、軽量化ステップ後の合成慣性力F3Jは、合成慣性力算出ステップ後(軽量化ステップ前)の合成慣性力f3Jよりも、小さくなっている。このため、第3メインジャーナル3Jのフリクションを低減することができる。また、軽量化ステップ後の+θ方向端5Wbは、合成慣性力算出ステップ後の+θ方向端5Wbよりも、−θ方向にずれて配置されている。この分だけ、第5カウンターウエイト5Wを、軽量化することができる。なお、クランクシャフト1全体の質量バランス調整のため、第6カウンターウエイト6Wの質量を大きくしてもよい。
【0030】
第2メインジャーナル2Jに対しても、第3メインジャーナル3J同様に、軽量化ステップを実行することができる。すなわち、第2メインジャーナル2Jに作用する合成慣性力を小さくすることができる。また、第2メインジャーナル2Jのフリクションを低減することができる。また、図3を援用して示すように、軽量化ステップ後の−θ方向端2Waは、合成慣性力算出ステップ後の−θ方向端2Wa(図3における−θ方向端1Wa)よりも、+θ方向にずれて配置されている。この分だけ、第2カウンターウエイト2Wを、軽量化することができる。なお、クランクシャフト1全体の質量バランス調整のため、第1カウンターウエイト1Wの質量を大きくしてもよい。
【0031】
CAE(Computer Aided Engineering)解析の結果、上述した質量設定方法を用いて、合成慣性力算出ステップ後のフリクションを100%として、第3メインジャーナル3Jのフリクションを、4.9%低減することができた。同様に、第2メインジャーナル2Jのフリクションも低減することができた。また、クランクシャフト1全体の質量バランス調整のため、第1、第6カウンターウエイト1W、6Wの質量を大きくしたものの、合成慣性力算出ステップ後のクランクシャフト1の質量を100%として、クランクシャフト1の質量を0.17%軽量化することができた。
【0032】
(作用効果)
次に、本実施形態のクランクシャフトおよび質量設定方法の作用効果について説明する。図5図6に示すように、第3メインジャーナル3Jには、第2クランクピン2P、第3クランクピン3P、第4カウンターウエイト4W、第5カウンターウエイト5Wなどから、慣性力f2P、f3P、f4W、f5W、F5Wが加わる。本実施形態のクランクシャフト1によると、第6カウンターウエイト6Wよりも第5カウンターウエイト5Wは軽量である。このため、第5カウンターウエイト5Wと第6カウンターウエイト6Wとが同じ質量である場合と比較して、第3メインジャーナル3Jに作用する合成慣性力f3J、F3Jを低減することができる。
【0033】
同様に、第2メインジャーナルには、第1クランクピン1P、第2クランクピン2P、第2カウンターウエイト2W、第3カウンターウエイト3Wなどから、慣性力が加わる。本実施形態のクランクシャフト1によると、第1カウンターウエイト1Wよりも第2カウンターウエイト2Wは軽量である。このため、第1カウンターウエイト1Wと第2カウンターウエイト2Wとが同じ質量である場合と比較して、第2メインジャーナル2Jに作用する合成慣性力を低減することができる。
【0034】
このように、本実施形態のクランクシャフト1によると、第2、第3メインジャーナル2J、3Jに作用する合成慣性力を低減することができる。このため、第2、第3メインジャーナル2J、3Jのフリクションを低減することができる。また、フリクション低減後のクランクシャフト1において、質量バランス調整が不要な場合は、クランクシャフト1を軽量化することができる。また、フリクション低減後のクランクシャフト1において、質量バランス調整が必要な場合であっても、クランクシャフト1の重量増を抑制することができる。
【0035】
図3に示すように、前側から見て、第2カウンターウエイト2Wの−θ方向端2Waは、第1カウンターウエイト1Wの−θ方向端1Waよりも、+θ方向にずれて配置されている。このため、−θ方向端1Wa、2Waが同じ位置に配置されている場合と比較して、第2メインジャーナル2Jに作用する合成慣性力を低減することができる。また、第2カウンターウエイト2Wを軽量化することができる。
【0036】
図4に示すように、前側から見て、第5カウンターウエイト5Wの+θ方向端5Wbは、第6カウンターウエイト6Wの+θ方向端6Wbよりも、−θ方向にずれて配置されている。このため、+θ方向端5Wb、6Wbが同じ位置に配置されている場合と比較して、第3メインジャーナル3Jに作用する合成慣性力を低減することができる。また、第5カウンターウエイト5Wを軽量化することができる。
【0037】
本実施形態のクランクシャフト1の第1、第2、第5、第6カウンターウエイト1W、2W、5W、6Wの質量設定方法によると、第1、第2カウンターウエイト1W、2W間に質量差、形状差を設定することにより、第2メインジャーナル2Jに作用する合成慣性力を低減することができる。同様に、第5、第6カウンターウエイト5W、6W間に質量差、形状差を設定することにより、第3メインジャーナル3Jに作用する合成慣性力f3Jを低減することができる。
【0038】
図5に示すように、第3メインジャーナル3Jに作用する合成慣性力f3Jを低減する場合、第5カウンターウエイト5Wの軽量化対象部分Rは、合成慣性力f3Jの方向を挟んで−θ方向90°から+θ方90°に亘る部分(±90°以下の部分)に設定されている。軽量化対象部分Rを当該部分に設定したのは、±90°超過の場合、却って合成慣性力f3Jが増加するおそれがあるからである。第2カウンターウエイト2Wの軽量化対象部分Rについても同様である。
【0039】
図3に示すように、前側から見て、軸心Oに対する第2クランクピン2Pの重心Gの位置を0°位置として、第2カウンターウエイト2Wにおける、−7°位置から+83°位置までの部分(軽量部分R2W)の質量は、残部よりも軽量である。このため、第2メインジャーナル2Jに作用する合成慣性力を低減することができる。図4に示すように、前側から見て、軸心Oに対する第2クランクピン2Pの重心Gの位置を0°位置として、第5カウンターウエイト5Wにおける、−84°位置から+6°位置までの部分(軽量部分R5W)の質量は、残部よりも軽量である。このため、第3メインジャーナル3Jに作用する合成慣性力を低減することができる。
【0040】
<その他>
以上、本発明のクランクシャフトおよび質量設定方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0041】
本発明のクランクシャフトは、第2、第3メインジャーナル2J、3Jのフリクションが大きくなりがちなクランクシャフトに用いるのに好適である。例えば、第3、第4カウンターウエイト3W、4Wを有しないクランクシャフト1や、第1、第2、第5、第6カウンターウエイト1W、2W、5W、6Wよりも第3、第4カウンターウエイト3W、4Wが軽量のクランクシャフト1として具現化するのに、好適である。
【0042】
図5に示すように、質量設定方法において、第2、第3メインジャーナル2J、3Jに作用する慣性力f2P、f3P、f4W、f5Wの種類、方向、大きさなどは特に限定しない。例えば、第3、第4カウンターウエイト3W、4Wを有しないクランクシャフト1の場合、第3、第4カウンターウエイト3W、4Wの慣性力は、第2、第3メインジャーナル2J、3Jに作用しない。
【0043】
また、第2、第5カウンターウエイト2W、5Wの軽量化の方法は特に限定しない。例えば、第1、第6カウンターウエイト1W、6Wに対して、第2、第5カウンターウエイト2W、5Wを薄肉化してもよい。また、第2、第5カウンターウエイト2W、5Wに孔を開設してもよい。
【0044】
第1〜第4軸受1B〜4Bの種類は特に限定しない。滑り軸受、ころ軸受でもよい。ころ軸受と比較して、滑り軸受は、第1〜第4メインジャーナル1J〜4Jのフリクションが大きくなりやすい。このため、本発明のクランクシャフトを滑り軸受に採用すると、効果的にフリクションを低減することができる。本発明のクランクシャフトを用いるエンジンの種類は特に限定しない。2ストロークエンジン、4ストロークエンジンなどであってもよい。また、ピストンのストローク方向は特に限定しない。垂直方向でも、水平方向でも、垂直方向および水平方向に対して交差する方向でもよい。また、エンジンと電池(二次電池、燃料電池など)とを併用してもよい。エンジンの駆動対象物は、自動車、バイクなどでもよい。
【符号の説明】
【0045】
1:クランクシャフト、1A〜6A:第1〜第6クランクアーム、1B〜4B:第1〜第4軸受、1J〜4J:第1〜第4メインジャーナル、1P〜3P:第1〜第3クランクピン、1W〜6W:第1〜第6カウンターウエイト、1Wa:−θ方向端、2Wa:−θ方向端、5Wb:+θ方向端、6Wb:+θ方向端、90:フライホイール、G:重心、O:軸心、R:軽量化対象部分、R2W:軽量部分、R5W:軽量部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6