特許第6945562号(P6945562)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6945562溶接により接合した鉄製部品の洗浄前処理の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945562
(24)【登録日】2021年9月16日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】溶接により接合した鉄製部品の洗浄前処理の方法
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/08 20060101AFI20210927BHJP
   C23C 22/78 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   C23G1/08
   C23C22/78
【請求項の数】14
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-562355(P2018-562355)
(86)(22)【出願日】2017年6月9日
(65)【公表番号】特表2019-517624(P2019-517624A)
(43)【公表日】2019年6月24日
(86)【国際出願番号】EP2017064063
(87)【国際公開番号】WO2017212011
(87)【国際公開日】20171214
【審査請求日】2020年6月8日
(31)【優先権主張番号】102016210289.3
(32)【優先日】2016年6月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・シュトゥルム
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルフリート・ゼルヴェ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ディーツ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ヨン−シリングス
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0011323(US,A1)
【文献】 特開昭56−156781(JP,A)
【文献】 特開昭60−026680(JP,A)
【文献】 特開昭62−007882(JP,A)
【文献】 特開2001−220685(JP,A)
【文献】 特開平04−259387(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/065661(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00−1/36
C23C 22/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄又は鋼鉄から成る材料であるその部品の少なくとも一部が、溶接によりその部品の残部に一体的に接合された、少なくとも一部分において溶接により組み立てられた部品を、
a)全量で少なくとも1g/kgのアミノアルコール、
b)全量で少なくとも0.5g/kgの、少なくとも6のエチレン及び/又はプロピレンのオキシド単位を有するアルコールにおいて6〜12の炭素原子を有する脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラート、及び
c)鉄イオン
を含む、フッ化物を含まない硫酸水溶液の酸洗液へと接触させることを特徴とする、洗浄前処理のための方法。
【請求項2】
成分a)の前記アミノアルコールが、1,3−アミノアルコール及びそのエチレン又は1,2−プロピレンのグリコールモノエーテルから、好ましくは1,3−アミノアルコールから、特に好ましくはモノ−、ジ−及び/又はトリエタノールアミンから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミノアルコールの割合が、少なくとも2g/kg、好ましくは少なくとも4g/kg、しかし好ましくは20g/kgを、特に好ましくは10g/kgを超えないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
成分b)の前記脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラートが、16未満、好ましくは14未満、しかし好ましくは10より大きいHLB値を持つことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
成分b)の前記脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラートが、エトキシラートから、好ましくは8〜10のエチレンオキシド単位を有するアルコールにおいて8〜12の炭素原子を有する脂肪族アルコールのエトキシラートから選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸洗液中における成分b)の前記脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラートの割合が、少なくとも1g/kg、好ましくは少なくとも2g/kg、しかし好ましくは10g/kg以下、特に好ましくは6g/kg以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
6未満のエチレン及び/又はプロピレンのオキシド単位を有するアルコールにおいて6〜12の炭素原子を有する脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラートが、さらに酸洗液中に含まれることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも10g/kg、しかし好ましくは70g/kg以下、特に好ましくは50g/kg以下、の成分c)の鉄イオンが、酸洗液中に含まれることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記酸洗液が、全量で1g/kg未満、好ましくは0.1g/kg未満、特に好ましくは0.01g/kg未満、のPOとして計算される溶解したリン酸塩を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記酸洗が、前記部品のアルカリ脱脂に先行され、好ましくは中間のすすぎ工程を伴う前記アルカリ脱脂に速やかに先行され、アルカリ脱脂が少なくともpH10で行われることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記酸洗が、前記部品の湿式化学変換処理に後続される、好ましくは中間のすすぎ及び/又は乾燥工程を伴い又は伴わず、特に好ましくは中間の乾燥工程を伴わず、前記処理に速やかに後続されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記湿式化学変換処理が、pHが1を上回るが、5を下回る酸性水溶液の成分により行われ、好ましくは皮膜形成リン酸塩処理であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
pHが2.0を下回り、
i)40〜120g/kg、好ましくは60〜90g/kg、のSOとして計算される硫酸、
ii)2〜20g/kg、好ましくは4〜10kg、のアミノアルコール、
iii)0.5〜5g/kg、好ましくは1〜3kg/g、の少なくとも6のエチレン及び/又はプロピレンのオキシド単位を有するアルコールにおいて6〜12の炭素原子を有する脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラート、
iv)10〜50g/kgの鉄イオン、
v)50mg/kg未満、好ましくは10mg/kg未満、特に好ましくは1mg/kg未満、のフッ化物イオン、
vi)1g/kg未満、好ましくは0.1g/kg未満、特に好ましくは0.01g/kg未満、のPOとして計算される溶解したリン酸塩
を含む、酸性水溶液の酸洗液。
【請求項14】
0.5〜5g/kg、好ましくは1〜3g/kg、の6未満のエチレン及び/又はプロピレンのオキシド単位を有するアルコールにおいて6〜12の炭素原子を有する脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラートが、さらに成分vii)として含まれることを特徴とする、請求項13に記載の前記酸洗液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接により接合した鉄製部品の洗浄前処理のための方法に関するものであり、この方法においては、溶接工程由来の残留物が前記部品の表面から除かれ、このようにして、後続の湿式化学変換処理が欠陥のない塗装を生み出すことが可能となる。洗浄前処理のため、前記部品を、アミノアルコール、アルコールにおいて6〜12の炭素原子を有する脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラート、及び鉄イオンを含む硫酸水溶液の酸洗液へと接触させる。その酸洗液は、フッ化物が存在していなくても効果のあるものである。さらなる態様において、本発明は、溶接により接合した鉄製部品の洗浄前処理のための、酸性水溶液の酸洗液を含む。
【背景技術】
【0002】
金属部品を洗浄することは、湿式化学的に行われるどの工業的製造工程においても、製造の前工程から生じる不純物を部品表面から取り除き、再現可能な方法で高品質の部品が生産されるよう後続の完成へと向け、表面を適応させるために必要とされる、最初の方法段階である。部品は、大抵すでに様々な素材又は半完成品から組み立てられており、対応する複雑な形態を有する。金属部品の湿式化学的前処理へ向けた製造工程における洗浄の役割は、それゆえ、第一に、描画潤滑油(drawing lubricant)、防錆油のような表面補助剤、物質が除かれる又は除かれない成形のための材料加工由来の現像処理液、又は接合方法由来の残留物を除くこと、及び単に金属の基本基板の性質といった化学的プロフィルに由来する均一な表面を整えることにある。使用される材料の製造工程及び不純物を伴う表面の積層に応じ、多くの水性洗浄剤が、この目的に対し、原則的には市販されているが、その効果は、しばしば酸洗による物質の除去に基づくもので、界面活性物質の使用による不純物の可溶化により増強する。国際公開第2004/065661号に公開されている酸性水溶液の洗浄剤は、この原理に基づいており、洗浄剤は成形助剤由来の不純物を含む金属部品に対するもので、無機pH調整ビルダー(性能向上剤)に加え、エトキシル化脂肪族アルコールに基づく非イオン性界面活性剤の混合物を含む。
【0003】
例えば、金属材料を酸洗できる及び正確には、このようにしてまた表面の不純物を取り除くことが可能な多くの利用可能な洗浄剤があるにも関わらず、湿式化学変換処理、すなわちリン酸塩処理中における、腐食又は塗装下塗りに対する一時的な保護を与えるために溶接により生じる鉄から成る金属間の一体化接合領域における部品表面の洗浄は、問題があり、特にスラグを形成する溶接溶加材由来の残留物が、単に従来の洗浄剤の使用では前記部品の表面から十分に取り除くことができないためである。これは、特にほとんどフッ化物を含まず、それゆえ特に環境保護に関連する理由のために所望される洗浄剤に当てはまる。さらに、経済的な観点から、洗浄中の工程温度はできる限り低く、処理時間はできる限り短く保つ、といった要求がある。この種の性能範囲は、現在のところ、鉄から成る材料の溶接により接合された部品の洗浄向けの、市販の洗浄剤では、十分満足に達成することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、この要求を満たし、鉄又は鋼鉄から成る材料であるその部品の少なくとも一部が、溶接によりその部品の残部に一体的に接合された、少なくとも一部分において溶接により組み立てられた部品の、洗浄前処理のための方法を構築するものであって、その方法においては、前記部品を、フッ化物を含まない、
a)全量で少なくとも1g/kgのアミノアルコール、
b)全量で少なくとも0.5g/kgの、少なくとも6のエチレン及び/又はプロピレンのオキシド単位を有するアルコールにおいて6〜12の炭素原子を有する脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラート、及び
c)鉄イオン
を含む、硫酸水溶液の酸洗液へと接触させる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明における意味において、『溶接』という用語は、熱又は熱及び圧力の利用による同一の又は異なる金属間での一体化接合、及び少なくとも一部分において一体化接合を生じさせる溶接溶加材の使用の事である。溶接溶加材は通常、被覆された金属ワイヤ又はコアを含む溶加材ワイヤの形態、及び地金ワイヤと併用する粉状の形態であり、隙間を埋めることにより一体化接合を促進する機能に加え、溶融した溶接溶化材金属成分上でのスケール(溶接焼け)形成の抑制及び溶接領域において材料を結合する、溶接中での保護的機能を有する。この場合、前記被覆、コア又は溶接溶加材パウダーは、しばしば、溶接点を完全にとり囲む無機、非金属物質から成り、溶接工程における溶融物の凝固は、このようにして、周囲の大気からの保護を与える。本発明による溶接方法は、全てのアーク溶接法、特にガスシールドメタルアーク溶接(MIG/MAG)、タングステン不活性ガス溶接(TIG)、スプレーアーク溶接及びレーザー及び電子ビーム溶接法、並びに前記方法の組み合わせを含む。
【0006】
後続する湿式化学変換処理という観点から、溶接溶加材の使用によりケイ素が供給された、溶接により接合した前記部品の領域を洗浄することは、表面上に位置する溶接スラグにおいてのものであろうと、溶融した金属ワイヤにおいてのものであろうと、特に挑戦的である。本発明による方法においては、前記部品は、それゆえケイ素含有溶接溶加材の使用により達成される溶接により特に組み立てられる。この場合において、ケイ素は、溶接溶加材の成分として、ワイヤの合金成分(『金属電極』)、スラグ形成コア又はワイヤの被覆(『溶接ワイヤ電極』又は『棒及びワイヤ電極』)又は溶接パウダーの化学成分となり得る。
【0007】
本発明によると、鉄又は鋼鉄から成る材料であるその部品の少なくとも一部が、溶接により前記部品の残部と一体的に結合された、少なくとも一部分において溶接により組み立てられた部品、の洗浄前処理は、少なくともこれ/これらの一体的に溶接された接合部(複数含)のその領域及びその直接隣接する領域(複数含)を酸洗液へと接触させること、好ましくは全部品を酸洗液へと接触させることを、含む。溶融した溶接溶加材(『ウェルド(weld)』)による一体化接合を取り囲む結合領域は、直接一体化溶接接合部に隣接しており、この領域において、適切な測定において、その溶接の最小の広がりを超える範囲のくぼみとならない圧子を用いて測定される、EN ISO 6507−1:2005による平均ビッカース硬さ(VH)は、5%より大きい差で、溶接に先立つ同様の材料のそれとは異なる。
【0008】
本発明による方法における洗浄前処理を受ける部品は、好ましくは、溶接により少なくとも一部分においては鋼鉄シート、プロファイル鋼及び/又は鋼鉄鋳鋼部分から組み立てられるものである。
【発明の効果】
【0009】
驚くべきことに、溶接溶加材の残留物(『溶接スラグ』)は、環境保護に関する理由により問題があると分類されるべき、存在すべき、高度に複雑なフッ化物を伴わず、アミノアルコール及び脂肪族アルコールから選択される非イオン性界面活性剤の組み合わせに基づく硫酸の酸洗液により、部品から効果的に除かれることが発見された。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明によると、硫酸酸洗液は、そのpHが、2.0を下回り、好ましくは1.0を下回り、及びS0として計算される、少なくとも20g/kgの硫酸、好ましくは40g/kgの硫酸が含まれ、pKs1値が2.0未満の他の酸の割合、及びSOとして計算される硫酸の当量に基づくそれらのアニオンは、好ましくは全量にして5g/kg未満、特に好ましくは全量にして1g/kg未満という特徴を有する。好ましい実施形態において、硫酸酸洗液は、少なくとも60g/kg、しかし、経済的理由のため、好ましくは120g/kg未満、特に好ましくは90g/kgのSOとして計算される硫酸を含む。
【0011】
本発明による方法において用いられる硫酸酸洗液は、またフッ化物を含まず、それは全量にして50mg/kg未満、好ましくは10mg/kg未満、特に好ましくは、1mg/kg未満のフッ化物イオンが含まれることを意味し、20℃でフッ素検知電極を使用することで、酸洗液中におけるTISAB(TISAB:全イオン強度調整緩衝液)緩衝液の一部におけるフッ化物イオンの割合を決定することが可能で、緩衝液の酸洗液の一部に対する混合比は、体積比にして1:1である。TISAB緩衝液は、58gのNaCl、1gのクエン酸ナトリウム及び50mLの氷酢酸を500mLの純水(κ < 1μScm−1)に溶解させ、5NのNaOHを用いてpHを5.3に合わせ、再度純水(κ < 1μScm−1)で全体積を1000mLにすることで調整される。
【0012】
酸洗液に必要不可欠な成分としての成分a)のアミノアルコールに関し、1,3−アミノアルコール及びエチレン又はその1,2−プロピレングリコールモノエーテル、例えば、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−(2−アミノエトキシ)プロパノールは、特に効果的であることが見つかっており、それゆえ本発明による方法においてはそれらの使用が好ましく、1,3−アミノアルコールが特に好ましい。1,3−アミノアルコールは、好ましくはジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、N−メチルジエタノールアミン、モノ−、ジ−及び/又はトリエタノールアミン、及びモノ−、ジ−及びトリイソプロパノールアミンから選択される。これに関し、特に好ましいのは、モノ−、ジ−又はトリエタノールアミン及びそれらの混合物である。これに関し、トリエタノールアミン及びモノエタノールアミンの両方を含む酸洗液が有利であることが見つかっている。
【0013】
本発明により、溶接により接合した部品を効率的に酸洗するためには、アミノアルコールの割合、特に好ましくは1,3−アミノアルコール及びエチレン又はその1,2−プロピレングリコールモノエーテル、特に好ましくは1,3−アミアルコール、が少なくとも2g/kg、特に好ましくは少なくとも4g/kg、しかし好ましくは20g/kg、経済的理由のため、特に好ましくは10g/kgを超えないことが、好ましい。特に好ましい方法は、全ての1,3−アミノアルコールが少なくとも80重量%、好ましくは90重量%で、酸洗液中の、好ましくは全ての1,3−アミノアルコール及びエチレン又はその1,2−プロピレングリコールモノエーテル、特に好ましくは全てのアミノアルコールが、モノ−、ジ−及び/又はトリエタノールアミンから選択されることである。
【0014】
本発明による方法において、部品から除かれるべき溶接スラグが除かれるには、成分b)の非イオン性界面活性剤が、酸洗液中に存在することがまた必要不可欠である。
【0015】
この目的のために、非イオン性界面活性剤が、酸洗工程において、部品の効果的な濡れ及び溶接スラグの分離と分散を促進する特別なHLB値を持つ場合には、有利である。この点において、成分b)の脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラートが、16未満、特に好ましくは14未満、しかし好ましくは10より大きいHLB値を持つ方法が好ましい。HLB(hydrophlic-lipophilic balance)(親水性−親油性バランス)値は、経験的変数であり、次のように計算される:
HLB=20*(1−M/M)
ここでM:非イオン性界面活性剤における親油基の分子量、M:非イオン性界面活性剤の分子量。
【0016】
本発明による方法における好ましい実施形態において、成分b)の脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラートは、エトキシラート、好ましくは、8〜10のエチレンオキシド単位及び脂肪族アルコールの脂肪族官能基中、8〜12の炭素原子を有する脂肪族アルコールのエトキシラートから選択される。
【0017】
本発明による方法においては、少なくとも1g/kgの酸洗液中における、ある割合の成分a)の脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラートが、十分な効果を奏させるといった点で、有利であり、それゆえ好ましい。特に好ましくは、酸洗液中における成分b)の脂肪族アルコールの前記割合は、少なくとも2g/kgであるが、好ましくは10g/kg以下、経済的理由のため、特に好ましくは、6g/kg以下である。
【0018】
脂肪族アルコールにおいて6〜12の炭素原子を含み、6未満のエチレン及び/又はプロピレンのオキシド単位を含む脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラートが、酸洗液中において同時に存在することが、前記部品の表面から溶接スラグを除くのに有利であることが見つかっている。この種の酸洗液は、それゆえ好ましくは、本発明における方法において利用されるべきであり、成分b)に対するその割合は、質量にして、好ましくは1:10から4:10の範囲である。
【0019】
本発明による方法において、酸洗挙動が、補助する形で、部品上で達成され、それゆえ溶接スラグが、経済的に実行可能な時間内に部品から除かれるためには、鉄イオンがまた酸洗液中に存在することが必要である。したがって、本発明による方法においては、少なくとも10g/kgの鉄イオンが酸洗液中に含まれることが好ましい。同時に、酸洗中に前記部品表面で水酸化鉄(III)が沈殿することは避けるべきであり、そしてそれゆえ、本発明によると、好ましくは70g/kg以下、特に好ましくは50g/kg以下、の鉄イオンが酸洗液中に含まれるべきである。
【0020】
この場合において、水溶性の塩、好ましくは水溶性の鉄(II)イオンの塩、特に硫酸鉄(II)、が鉄イオン源として利用される。代わりに、成分a)及びb)を含む硫酸酸洗液の鉄粉もまた添加することができ、それにより多量の鉄イオンが放出される。後者の場合、酸の消費により、硫酸酸洗液のpHは、必要があれば、調整することができる。
【0021】
本発明による方法による方法においては、酸洗の過程において、前記部品の金属表面が、先に不動態化していないこと、及びきれいにされた表面及び前記部品の外見上光沢を帯びた金属表面が、後の工程で湿式化学変換処理を受けるだけになっていることが、また好ましい。本発明における好ましい実施形態において、全量にして1g/kg未満、好ましくは0.1g/kg未満、特に好ましくは0.01g/kg未満、のPOとして計算される溶解したリン酸塩、がそれゆえ酸洗液中に含まれる。同じ理由のため、全量にして好ましくは0.01g/kg、特に好ましくは0.001g/kg未満の、水溶性の元素Zr及び/又はTiの化合物が、酸洗液中に含まれ、各々の場合において特定の元素に基づく。
【0022】
本発明による方法においては、表面の有機不純物が完全に除かれるには、酸洗の前に前記部品のアルカリ脱脂が行われていることが好ましく、特に好ましくは前記アルカリ脱脂が、中間のすすぎ処理と共に直前に行われ、アルカリ脱脂が少なくともpH10で行われることである。
【0023】
本発明によると、すすぎ工程は以前から、水溶性液体媒体によって、水溶性の残留物、強固に付着していない化学物質を除くため、及び例えば、アルカリ脱脂などの先行する湿式化学処理工程から持ち込まれた固体粒子を、部品に付着した湿った皮膜と共に、きれいにする前記部品から引き離すために利用されている。この場合、水溶性の液体媒体は、亜属(subgroup)元素、金属元素又はポリマー有機化合物を伴う金属材料より生産される部品の、重大な表面被履を引き起こす化学成分を全く含まない。そうした重大な表面被履は、特定の元素又は特定の有機ポリマー化合物に関しては、部品に付着した湿った皮膜の持ち越しの利益及び除去の損失を考慮することなしに、液体のすすぎ媒体が、これらの部品を、水洗いした表面1平方メートル当たり少なくとも10ミリグラム、好ましくは水洗いした表面1平方メートル当たり少なくとも1ミリグラム、消耗した場合には、いずれの場合にも起こり得る。
【0024】
本発明における文脈においてすでに述べ、本発明に関する対処される問題として議論したように、前記部品の洗浄前処理は、処理中、可能な限り均一で塗料付着性を向上させる不動態皮膜が前記部品の表面上に及び特に溶接スラグ由来の不純物を有するその領域において生成する湿式化学処理に向け、前記部品を整えるために、特に利用されている。それゆえ、本発明によると、酸洗は、前記部品の湿式化学変換処理に後続されるのが好ましく、好ましくは再度直後に、中間のすすぎ工程及び/又は乾燥工程を伴う又は伴わない、特に好ましくは中間の乾燥工程を伴わない、前記処理が後続する方法が好ましい。
【0025】
本発明によると、乾燥工程とは、溶接により組み立てられた前記部品の表面に付着する水性の液体皮膜の乾燥が、技術的手段の供給及び使用、特に熱エネルギーを供給すること又はエアフローを応用することによりもたらされる、何らかの方法段階のことである。
【0026】
本発明によると、湿式化学変換処理とは、少なくとも鉄又は鋼鉄の前記部品の表面を、不動態化及び処理された鉄又は鋼鉄材料の表面上での実質上無機化成皮膜を生じさせる水性の成分と接触させるもの、を意味すると理解される。この場合、化成皮膜は、前記部品の鉄又は鋼鉄の表面であり、酸化又は水酸化皮膜でなく、その主なカチオン成分が鉄イオンであるもの上における何らかの無機皮膜である。化成皮膜は、それゆえリン酸鉄皮膜であり得る。
【0027】
本発明によると、前記湿式化学変換処理は、好ましくはpHが1より大きく、しかし5より小さい酸性水溶液の成分によって行われ、好ましくは皮膜形成リン酸塩処理である。本発明によると、皮膜形成リン酸塩処理は、少なくとも0.5g/mのPOとして計算される皮膜層が生じるリン酸塩処理の形態である。そのようなリン酸塩処理の形態は、表面処理の当業者にはよく知られており、例えば、リン酸亜鉛処理として又はトリカチオンリン酸塩処理と称されるものとして知られている。
【0028】
本発明によると、前記湿式化学変換処理は、順に好ましくは、中間のすすぎ処理及び/又は乾燥工程を伴い又は伴わず、好ましくは中間の乾燥工程を伴わず、前記部品のめっき塗装、好ましくは電気塗装に後続される。
【0029】
さらなる態様において、本発明は、溶接により生成した鉄及び/又は鋼鉄から成る材料間での一体化接合を有する部品の洗浄前処理に向けた本発明による方法において、特に適切に使用され得る酸性水溶液の酸洗液を含む。
【0030】
本発明によるそのような酸洗液は、pH2.0を下回り、以下を含む。:
i)40〜120g/kg、好ましくは60〜90g/kg、のSOとして計算される、硫酸、
ii)2〜20g/kg、好ましくは4〜10g/kg、のアミノアルコール、
iii)0.5〜5g/kg、好ましくは1〜3g/kg、の少なくとも6のエチレン及び/又はプロピレンのオキシド単位を有するアルコールにおいて6〜12の炭素原子を有する脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラート、
iv)10〜50g/kgの鉄イオン、
v)50mg/kg未満、好ましくは10mg/kg未満、特に好ましくは1mg/kg未満、のフッ化物イオン、
vi)1g/kg未満、好ましくは0.1g/kg未満、特に好ましくは0.01g/kg未満、のPOとして計算される、溶解したリン酸塩。
【0031】
好ましい化学構造という点で、本発明による方法における文脈においてすでに述べた、前記の硫酸酸洗液の成分a)〜c)の実施形態は、また本発明による酸性水溶液の酸洗液の成分ii)〜iv)の好ましい実施形態でもある。
【0032】
好ましい実施形態において、0.5〜5g/kg、好ましくは1〜3g/kg、の6未満のエチレン及び/又はプロピレンのオキシド単位を有するアルコールにおいて6〜12の炭素原子を有する脂肪族アルコールのエトキシラート及び/又はプロポキシラートが、さらに成分vii)として、本発明による酸洗液中に含まれる。
【0033】
本発明による酸性水溶液の酸洗液は、好ましくは1重量%未満、好ましくは0.1重量%未満、のi)〜vi)以外の成分を含む。
【実施例】
【0034】
2つの切り出しの鋼鉄シート(200×200×2 mm)から金属活性ガス溶接(混合ガス M20:90% アルゴン、10% CO)により組み立てられた試験片を、下で定めた工程段階で処理した。溶接は、スラグ形成ケイ素含有溶接溶化材を使用する、AWS A 5.28/A 5.28M:2007規格に従って行った。溶接ビードは、長さおよそ100mm、幅およそ2−3mmであった。
【0035】
A. アルカリ脱脂:
試験片を、Bonderite(登録商標)C−AD 1563(3重量%)及びBonderite(登録商標)C−AD 1400(0.3重量%)の混合物に65℃で10分間浸した。
【0036】
B.酸性酸洗液:
B.1 試験片を、以下を含む硫酸酸洗液に、60℃で4分間浸した:
a)77.8g/kg 硫酸
b)1.5g/kg エトキシル化(8EO)脂肪族アルコール(C10)
c)20g/kg 硫酸鉄(II)
d)0.45g/kg エトキシル化(4EO)脂肪族アルコール(C8)
B.2 試験片を、以下を含む混合酸酸洗液に、60℃で15分間浸した:
a)150g/kg 硫酸
b)70g/kg リン酸
c)40g/kg 硫酸鉄(II)
d)1.8g/kg 二フッ化アンモニウム
【0037】
C.リン酸亜鉛処理:
試験片を、しかしながらBonderite(登録商標)M−AC 950に、25℃で1分間処理する直前に、中間の純水(κ < 1μScm−1)でのすすぎ工程と共に、Bonderite(登録商標)M−ZN 958に、52℃で4分間浸し、試験片を活性化した。
【0038】
本発明による工程順序A−B.1−Cにおいて、光沢を帯びた金属表面が、溶接シーム領域に得られた。溶接スラグ由来の最小量の残留物は、この領域において、光学顕微鏡を使用することによってのみ確認することができた。走査型電子顕微鏡(SEM)により良好な全般に亘っての光学的結果が確認され、エネルギ−分散型X線分光法(EDX)により、少量のケイ素がなお一部検出することができるのみであることが証明された。
【0039】
対照的に、フッ素含有混合酸酸洗液を使用する従来の工程順序A−B.2−Cにおいては、3倍の処理時間にもかかわらず、溶接スラグの残留物が、裸眼でも光沢のない点として認識された。光学電子顕微鏡及びREMはこの事を確認した。さらに、リン酸亜鉛皮膜は、酸洗の前又及び直後には、溶接スラグの残留物が裸眼で確かめられた領域においては形成されていなかった。