【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.応用物理学会先進パワー半導体分科会第4回講演会・予稿集、平成29年11月1日 2.応用物理学会先進パワー半導体分科会第4回講演会、平成29年11月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/次世代パワーエレクトロニクス/SiCに関する拠点型共通基盤技術開発/SiC次世代パワーエレクトロニクスの統合的研究開発」 委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電力の変換(直流・交流変換や電圧変換)や制御を担うパワーエレクトロニクスは、省エネルギー化のためのキーテクノロジーであると期待されている。
パワーエレクトロニクスはこれまでシリコン(Si)により性能向上が図られてきたが、理論的に限界が見えてきたため、次世代材料として炭化珪素(SiC)が注目されている。
炭化珪素(SiC)はシリコン(Si)に比べて、絶縁破壊電界強度が10倍、バンドギャップが3倍等、優れた性能を有することから、炭化珪素単結晶基板を使用したSiCパワーデバイスの高耐電圧化、低電力損失化が期待される。
【0003】
SiCパワーデバイスは、炭化珪素単結晶基板上に炭化珪素エピタキシャル層を形成した炭化珪素エピタキシャルウェハ(SiCエピタキシャルウェハ)を用いて作製される。炭化珪素単結晶基板は、溶液法や昇華法等で作製した炭化珪素のバルク単結晶(インゴット)から加工して得られ、炭化珪素エピタキシャル層は、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によって形成される。
【0004】
炭化珪素単結晶基板は通常、ステップフロー成長で炭化珪素エピタキシャル層を形成可能とするために(0001)面から所定のオフ角を付けたものが用いられる。以下では、オフ角を有する炭化珪素単結晶基板を単にオフ基板ということがある。
<11−20>方向のオフ基板が市販されているため、通常は<11−20>方向のオフ基板が用いられている(例えば、特許文献1〜4参照)。以下では、かかる炭化珪素単結晶基板を「<11−20>方向のオフ基板」ということがある。
【0005】
一方、<01−10>方向のオフ基板を用いた炭化珪素エピタキシャルウェハについても報告がある(例えば、特許文献5、特許文献6参照)。
特許文献5には、オフ角のオフ方向が<11−20>方向に対して±5°以下の範囲内か、または<01−10>方向に対して±5°以下の範囲内にある炭化珪素基板を用いた炭化珪素エピタキシャルウェハが記載されている(例えば、請求項1参照)。
また、特許文献6には、オフ角のオフ方向が<11−20>方向または<01−10>方向である炭化珪素基板を用い、貫通転位の転位線の方向が[0001]c軸から所定の角度内にあり、エピタキシャル膜の不純物濃度の方が炭化珪素単結晶基板の不純物濃度よりも低くされ、かつ、エピタキシャル膜の不純物濃度が1×10
17cm
-3以下とされている炭化珪素エピタキシャルウェハが記載されている(例えば、請求項1、段落0016、段落0043、参照)。
特許文献5及び特許文献6に開示されている発明では、<11−20>方向のオフ基板あるいは<01−10>方向のオフ基板のいずれかがその発明を実現すために必須というものではなく、いずれの基板も用いることができるというものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで、n型炭化珪素単結晶基板へのSiCエピタキシャル成長や、比較的高抵抗率のp型炭化珪素単結晶基板へのSiCエピタキシャル成長では、<11−20>方向のオフ基板を用いてきたが、品質について特に大きな問題はなかった。
一方、p型炭化珪素単結晶基板については低抵抗化が困難であったため、低抵抗率のp型炭化珪素単結晶基板上にSiCエピタキシャル成長させた炭化珪素エピタキシャルウェハについては検討されてこなかった(例えば、特許文献7参照)。
【0009】
近年、低抵抗率のp型炭化珪素単結晶基板が研究・実験レベルで作製されるようになってきた(例えば、昇華法を用いたものは特許文献8、非特許文献1、非特許文献2参照、溶液法を用いたものは特許文献9参照)。
【0010】
SiCパワーデバイスは、耐電圧が1kV領域の中耐電圧領域、耐電圧が5kV領域の高耐電圧領域と進んできたが、上述の通り、低抵抗率のp型炭化珪素単結晶基板が入手可能になり、耐電圧が10kV以上の超高耐電圧領域のnチャンネルSiC−IGBTの本格的な研究が始まりつつある。nチャンネルSiC−IGBTの実現には、低抵抗率のp型炭化珪素バルク成長と低抵抗率のp型炭化珪素単結晶基板上のn型SiCエピタキシャル成長が重要な要素である。
なお、10kV以上の超高耐電圧パワーデバイス(超高耐電圧領域)では、耐電圧1kV領域のパワーデバイスに比べれば、エピタキシャル層の膜厚が1桁以上厚い、いわゆる厚膜(100μm以上)のエピタキシャル層が必要になる。
【0011】
本発明者は、低抵抗率のp型炭化珪素単結晶基板を用いて、n型SiCエピタキシャル成長を行い、nチャンネルSiC−IGBTに用いることが可能な炭化珪素エピタキシャルウェハを作製し、その評価を行うことによって、かかる炭化珪素エピタキシャルウェハにおける課題を見出し、その課題を解決して本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、低抵抗率のp型炭化珪素単結晶基板を用いて高品質な炭化珪素エピタキシャルウェハ及びその製造方法、並びに炭化珪素半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の代表的なものを例示すれば以下の通りである。
【0014】
(1)本発明の第1の態様に係る炭化珪素エピタキシャルウェハは、(0001)面に対してオフ角を持つ第1主面を有し、抵抗率が0.4Ωcm未満のp型4H−SiC単結晶基板と、前記p型4H−SiC単結晶基板の前記第1主面上に設けられた炭化珪素エピタキシャル層と、を備え、前記オフ角のオフ方向が<01−10>方向である。
【0015】
(2)本発明の第2の態様に係る炭化珪素エピタキシャルウェハは、(0001)面に対してオフ角を持つ第1主面を有し、Alのドーピング濃度が3×10
19cm
−3より大きいp型4H−SiC単結晶基板と、前記p型4H−SiC単結晶基板の前記第1主面上に設けられた炭化珪素エピタキシャル層と、を備え、前記オフ角のオフ方向が<01−10>方向である。
【0016】
(3)上記態様において、前記炭化珪素エピタキシャル層の界面転位密度が10cm
−1以下であってもよい。
【0017】
(4)上記態様において、前記第1主面は、(0001)Si面であってもよい。
【0018】
(5)上記態様において、前記炭化珪素エピタキシャル層はn型であってもよい。
【0019】
(6)本発明の第3の態様に係る炭化珪素半導体装置は、上記態様の炭化珪素エピタキシャルウェハを用いたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の炭化珪素エピタキシャルウェハによれば、低抵抗率のp型炭化珪素単結晶基板を用いて高品質な炭化珪素エピタキシャルウェハを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
(炭化珪素エピタキシャルウェハ)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる炭化珪素エピタキシャルウェハ10を模式的に示した断面図である。
炭化珪素エピタキシャルウェハ10は、(0001)面に対してオフ角を持つ第1主面1aを有し、抵抗率が0.4Ωcm未満のp型4H−SiC単結晶基板1と、p型4H−SiC単結晶基板1の第1主面1a上に設けられた炭化珪素エピタキシャル層2と、を備え、オフ角のオフ方向が<01−10>方向である。第2主面1bは炭化珪素エピタキシャル層2が設けられていない面である。
【0024】
<p型4H−SiC単結晶基板>
炭化珪素(SiC)は多くの結晶多形を有するが、本発明の基板は4H−SiC基板である。
4H−SiC単結晶基板としては、溶液法や昇華法等で作製した炭化珪素バルク結晶から切り出した4H−SiC単結晶基板を用いることができる。
また、p型4H−SiC単結晶基板1としては、n型4H−SiC単結晶基板上にp型4H−SiCエピタキシャル膜が形成されたものでもよい。
【0025】
p型4H−SiC単結晶基板1のオフ方向は<01−10>方向である。
<01−10>方向は本発明の効果を奏する限り、ずれが許容される。限定するものではないが、目安をいえば、<01−10>方向に対して±5°以下の範囲内であればよく、<01−10>方向に対して±3°以下の範囲内であれば、より好ましく、<01−10>方向に対して±1°以下の範囲内であれば、さらに好ましい。
【0026】
p型4H−SiC単結晶基板1は、抵抗率が0.4Ωcm未満であるが、好ましくは0.2Ωcm以下であり、より好ましくは0.1Ωcm以下であり、さらに好ましくは0.05Ωcm以下である。限定するものではないが、下限の目安を示すと、0.02Ωcmである。
【0027】
p型4H−SiC単結晶基板のオフ角としてはいずれのオフ角のものも用いることもできるが、コスト削減の観点からはオフ角が小さいもの例えば、0°超え8°以下のものが好ましい。
【0028】
p型を付与するためのアクセプタ不純物としては例えば、アルミニウム(Al)または硼素(B)を用いることができる。なお、p型SiC単結晶基板では結晶多形の制御等のためにアクセプタとドナーの両方の不純物を添加するコドープというテクニックが使用され、アクセプタ不純物アルミニウム(Al)とドナー不純物窒素(N)が同時に添加されることがある(非特許文献2)。この場合にはアクセプタ不純物をドナー不純物よりも高い濃度とすることで、SiC単結晶基板はp型とされる。
不純物濃度は、p型4H−SiC単結晶基板の抵抗率を0.4Ωcm未満にする濃度である。
【0029】
p型4H−SiC単結晶基板の厚さとしては特に限定するものではないが、例えば、200μm以上700μm以下であり、好ましくは300μm以上600μm以下とすることができる。
4度オフ基板としては350μmの厚みのものを用いることが多いが、500μm厚のものも市販されている。
【0030】
<炭化珪素エピタキシャル層>
炭化珪素エピタキシャル層の膜厚は特に限定するものではないが、目安を例示すれば、0.2μm以上500μm以下とすることできる。また、本発明の炭化珪素エピタキシャルウェハをIGBT等の耐圧が10kV以上のSiCデバイスに用いる場合、いわゆる厚膜(100μm以上)であることが好ましい。高耐圧のパワーデバイスに適した炭化珪素エピタキシャルウェハとするためである。
このエピ膜の最適な膜厚はデバイスの耐電圧の設計仕様に応じて決まり、超高耐電圧のデバイスについては150μm、200μm、250μm程度が必要となる。
上限を例示すれば、エピタキシャル成長の難しさの観点で500μm程度が挙げられる。
【0031】
炭化珪素エピタキシャル層は、p型4H−SiC単結晶基板のSi面及びC面のいずれに形成することもできるが、Si面に形成するのが好ましい。
【0032】
本発明の炭化珪素エピタキシャルウェハをIGBT等の耐圧が10kV以上のSiCデバイスに用いる場合、p型4H−SiC単結晶基板と炭化珪素エピタキシャル層の合計厚さ(すなわち、炭化珪素エピタキシャルウェハの厚さ)は450μm以上とすることができる。
例えば、p型4H−SiC単結晶基板の厚さが350μmでかつ炭化珪素エピタキシャル層の厚さが100μmの場合が相当する。
本発明の炭化珪素エピタキシャルウェハをIGBT等の耐圧が10kV以上のSiCデバイスに用いる場合、p型4H−SiC単結晶基板と炭化珪素エピタキシャル層の合計厚さ(すなわち、炭化珪素エピタキシャルウェハの厚さ)は600μm以上とすることができる。
例えば、p型4H−SiC単結晶基板の厚さが350μmでかつ炭化珪素エピタキシャル層の厚さが250μmの場合が相当する。
【0033】
p型4H−SiC単結晶基板の外径は特に限定するものではないが、目安を例示すれば75mm以上とすることができる。
【0034】
図2は、本発明の第2実施形態にかかる炭化珪素エピタキシャルウェハ20を模式的に示した断面図である。
炭化珪素エピタキシャルウェハ20は、(0001)面に対してオフ角を持つ第1主面11aを有し、Alのドーピング濃度が3×10
19cm
−3より大きいp型4H−SiC単結晶基板11と、p型4H−SiC単結晶基板1の第1主面11a上に設けられた炭化珪素エピタキシャル層12と、を備え、オフ角のオフ方向が<01−10>方向である。
第2主面11bは炭化珪素エピタキシャル層2が設けられていない面である。
【0035】
p型4H−SiC単結晶基板11は、Alのドーピング濃度が3×10
19cm
−3より大きいが、好ましくは6×10
19cm
−3以上であり、より好ましくは1×10
20cm
−3以上であり、さらに好ましくは2×10
20cm
−3以上である。限定するものではないが、上限の目安を示すと、6×10
20cm
−3である。
【0036】
炭化珪素エピタキシャルウェハ20において、第1実施形態にかかる炭化珪素エピタキシャルウェハ10と同様な点は説明を省略する。
【0037】
<p型4H−SiC単結晶基板の作製方法による比較>
(1)溶液法低抵抗率p型基板、及びそれを用いた炭化珪素エピタキシャルウェハ
Si−Al溶媒を用いた溶液法で成長させたAlのドーピング濃度が6×10
19cm
−3、抵抗率0.18Ωcm、<11−20>方向に4°オフのp型4H−SiC単結晶基板(厚さ:350μm)を用いて、Si面上にCVD法を用いてn型SiCエピタキシャル成長を行い、炭化珪素エピタキシャルウェハを作製した。エピタキシャル成長は成長温度1570℃〜1580℃、成長圧力2.7kPa、C/Si比0.8、成長速度15μm/hの条件で行い、炭化珪素エピタキシャル層の膜厚は20μmであり、炭化珪素エピタキシャル層のキャリア濃度は5×10
14cm
−3であった。炭化珪素エピタキシャル層はn型とされ、狙いのキャリア濃度となるように窒素(N)をドープした。以下では、この場合の基板を溶液法低抵抗率p型基板ということがあり、また、炭化珪素エピタキシャルウェハを溶液法低抵抗率p型基板使用の炭化珪素エピタキシャルウェハということがある。
(2)昇華法低抵抗率p型基板、及びそれを用いた炭化珪素エピタキシャルウェハ
昇華法で成長させた、Alのドーピング濃度が1×10
20cm
−3、抵抗率0.13Ωcm、<11−20>方向に4°オフのp型4H−SiC単結晶基板(厚さ:350μm)を用いて、Si面上にCVD法を用いてn型SiCエピタキシャル成長を行い、炭化珪素エピタキシャルウェハを作製した。エピタキシャル成長の条件、炭化珪素エピタキシャル層の膜厚、及び、炭化珪素エピタキシャル層のキャリア濃度は上記(1)の炭化珪素エピタキシャルウェハと同様にした。以下では、この場合の基板を昇華法低抵抗率p型基板ということがあり、また、炭化珪素エピタキシャルウェハを昇華法低抵抗率p型基板使用の炭化珪素エピタキシャルウェハということがある。
(3)昇華法高抵抗率p型基板、及びそれを用いた炭化珪素エピタキシャルウェハ
昇華法で成長させた、Alのドーピング濃度が3×10
19cm
−3、抵抗率0.4Ωcm、<11−20>方向に4°オフのp型4H−SiC単結晶基板(厚さ:350μm)を用いて、Si面上にCVD法を用いてn型SiCエピタキシャル成長を行い、炭化珪素エピタキシャルウェハを作製した。エピタキシャル成長の条件、炭化珪素エピタキシャル層の膜厚、及び、炭化珪素エピタキシャル層のキャリア濃度は上記(1)の炭化珪素エピタキシャルウェハと同様にした。以下では、この場合の基板を昇華法高抵抗率p型基板ということがあり、また、炭化珪素エピタキシャルウェハを昇華法高抵抗率p型基板使用の炭化珪素エピタキシャルウェハということがある。
【0038】
図3に、溶液法低抵抗率p型基板使用の炭化珪素エピタキシャルウェハ(
図3中のB)、昇華法低抵抗率p型基板使用の炭化珪素エピタキシャルウェハ(
図3中のA)、及び、昇華法高抵抗率p型基板使用の炭化珪素エピタキシャルウェハ(
図3中のC)について、p型4H−SiC単結晶基板のAlのドーピング濃度と抵抗率との関係、及び、250cm
−1以上の高密度の界面転位の存在の有無(ない場合には○、ある場合には×)を示すグラフである。SiCエピタキシャル層中の界面転位の密度は750nmロングパスフィルタを用いたフォトルミネッセンス(PL)像によって評価した。
Alのドーピング濃度と抵抗率とは相関があり、Alのドーピング濃度が高くなるとキャリアが増えて抵抗率が下がり、Alのドーピング濃度が低くなるとキャリアが減って抵抗率が上がる。
【0039】
溶液法低抵抗率p型基板使用の炭化珪素エピタキシャルウェハ(
図3中のB)、昇華法低抵抗率p型基板使用の炭化珪素エピタキシャルウェハ(
図3中のA)、及び、昇華法高抵抗率p型基板使用の炭化珪素エピタキシャルウェハ(
図3中のC)のそれぞれの界面転位密度はそれぞれ、250cm
−1、250cm
−1、0cm
−1であった。
【0040】
ここで、SiC単結晶基板と炭化珪素エピタキシャル層の界面に界面転位が存在すると、エピタキシャル層中に基底面転位を伴う転位ハーフループが発生する。エピタキシャル層中に基底面転位を伴う転位ハーフループが発生し、デバイスの駆動領域に基底面転位が存在すると、通電によって基底面転位が積層欠陥に拡張し、SiCデバイスの信頼性に悪影響を与える。そのため、一般に界面転位を低減しつつエピタキシャル成長を行う技術が必要になる。
【0041】
図3に基づくと、250cm
−1以上の高密度の界面転位の発生の有無には、基板の作製方法によらず、Alのドーピング濃度、及び、抵抗率の閾値が存在することがわかる。
図3に基づくと、Alのドーピング濃度の閾値は3〜6×10
19cm
−3にあり、抵抗率の閾値は0.2〜0.4Ωcmにある。
【0042】
本発明者は、従来用いられてきた、低濃度Alドープ(例えば、3×10
19cm
−3以下)あるいは高抵抗率(例えば、0.4Ωcm以上)のp型4H−SiC単結晶基板を使用した炭化珪素エピタキシャルウェハでは高密度の界面転位の発生はなかったが、高濃度Alドープ(例えば、3×10
19cm
−3より大)あるいは低抵抗率(例えば、0.4Ωcm未満)のp型4H−SiC単結晶基板を使用した炭化珪素エピタキシャルウェハでは、高密度の界面転位が発生することを初めて見出した。
このような新規な知見は、最近になって低抵抗率のp型炭化珪素単結晶基板が入手可能になったことで初めて得られたものである。
【0043】
本発明者は、この新規な課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、本発明の炭化珪素エピタキシャルウェハに想到したものである。
【0044】
高密度の界面転位の存在の原因を検討する。
p型4H−SiC単結晶基板の成長方法によらず、Alのドープ濃度に支配されることを考慮すると、従来の低濃度Alドープの高抵抗率のp型4H−SiC単結晶基板とn型エピタキシャル膜と比べて、高濃度にAlを添加された低抵抗率のp型4H−SiC単結晶基板とn型エピタキシャル膜とは格子定数差や熱膨張係数差が増大したことによって、成長界面での応力が大きくなったことが一因であると推測される。
【0045】
一方、SiC単結晶基板内の基底面転位のバーガースベクトルとオフ方向とが平行なときに、SiC単結晶基板内の基底面転位がSiCエピタキシャル層に伝搬しやすい、すなわち、SiCエピタキシャル層中で貫通刃状転位に変換しにくいという報告がある(非特許文献3参照)。
SiC単結晶基板内の基底面転位のバーガースベクトルは<11−20>方向であるから、本発明者は、<01−10>方向にオフ角を有する低抵抗率のp型4H−SiC単結晶基板を用いて作製した炭化珪素エピタキシャルウェハを評価することとした。
【0046】
<p型4H−SiC単結晶基板のオフ方向による比較>
図4に、上記(1)の炭化珪素エピタキシャルウェハについて、回折ベクトル[−1−128]における、2mm×2mmの範囲の反射トポグラフ像を示す。
図4において、オフ方向と直交する方向に直線状に伸びているコントラストの明るい線が界面転位である。
像全面に高密度な界面転位が存在していることがわかる。界面転位の密度は250cm
−1(視野内に50本)であった。
【0047】
図5に、<01−10>方向に4°オフのp型4H−SiC単結晶基板を用いた以外は、
図4に反射トポグラフ像を示した炭化珪素エピタキシャルウェハと同様の条件で作製した炭化珪素エピタキシャルウェハ(以下、<01−10>方向のオフ基板使用の炭化珪素エピタキシャルウェハということがある)について、回折ベクトル[−1−128]における、2mm×2mmの範囲の反射トポグラフ像を示す。
オフ方向と直交する方向に直線状に伸びているコントラストの明るい線が界面転位である。
図4に比べると、界面転位の密度は激減していることがわかる。界面転位の密度は10cm
−1(視野内に2本)であった。
【0048】
これは、基板内の基底面転位のバーガースベクトル<11−20>とオフ方向が平行にならない<01−10>方向のオフ基板を用いることにより、エピタキシャル成長界面において基底面転位から貫通刃状転位への変換が促進され、界面転位密度が激減したものと考えられる。
【0049】
以上の通り、本発明者が見出した、高濃度Alドープ(例えば、3×10
19cm
−3より大)あるいは低抵抗率(例えば、0.4Ωcm未満)のp型4H−SiC単結晶基板を使用した炭化珪素エピタキシャルウェハにおける、高密度の界面転位の発生の課題は、<11−20>方向のオフ基板に替えて、<01−10>方向のオフ基板を用いることによって、解決できることがわかった。
【0050】
(炭化珪素半導体装置)
図6は、本発明の一実施形態にかかる炭化珪素半導体装置100を模式的に示した断面図である。
炭化珪素半導体装置100は、プレーナゲート構造を有するnチャネルSiC−IGBTであり、炭化珪素エピタキシャルウェハSWを用いて作製されている。
【0051】
炭化珪素半導体装置100は、p型炭化珪素単結晶基板101と、n型エピタキシャル層102と、ボディ領域103と、エミッタ領域104と、p+領域105と、ゲート絶縁膜108と、ゲート電極109と、層間絶縁膜110と、エミッタコンタクト電極112と、エミッタ配線113と、コレクタ電極114とを有する。
【0052】
p型炭化珪素単結晶基板101、ボディ領域103およびp+領域105の各々はp型を有し、n型エピタキシャル層102およびエミッタ領域104の各々はn型を有する。エミッタ領域104の不純物濃度はn型エピタキシャル層102の不純物濃度よりも高い。p+領域105の不純物濃度はボディ領域103の不純物濃度よりも高い。ボディ領域103は、n型エピタキシャル層102の上に設けられている。エミッタ領域104は、ボディ領域103によってn型エピタキシャル層102から隔てられるようにボディ領域103の上に設けられている。p+領域105は、エミッタ領域104と接するようにボディ領域103の上に設けられている。
【0053】
ゲート絶縁膜108は、n型エピタキシャル層102とエミッタ領域104とをつなぐようにボディ領域103の上に設けられている。ゲート絶縁膜108は、好ましくは酸化膜であり、例えば酸化珪素膜である。ゲート電極109は、ゲート絶縁膜108の上に設けられている。ゲート電極109は、導電体から作られており、例えば、不純物が添加されたポリシリコン、またはAlから作られている。
【0054】
エミッタコンタクト電極112はエミッタ領域104およびp+領域105の各々の上に設けられている。エミッタコンタクト電極112は、エミッタ領域104およびp+領域105の各々にオーミックに接続された電極であり、好ましくはシリサイドから作られており、たとえばニッケルシリサイドから作られている。エミッタ配線113は、エミッタコンタクト電極112および層間絶縁膜110の各々の上に設けられている。層間絶縁膜110は、ゲート電極109とエミッタ配線113との間を電気的に絶縁するように設けられている。層間絶縁膜110は、たとえば酸化珪素膜である。
【0055】
コレクタ電極114はp型炭化珪素単結晶基板101の底面側に設けられている。コレクタ電極114は、p型炭化珪素単結晶基板101にオーミックに接続された電極であり、好ましくはシリサイドから作られており、たとえばニッケルシリサイドから作られている。
【0056】
(炭化珪素半導体装置の製造方法)
本発明の炭化珪素半導体装置は公知の成膜手段を用いて製造できる。
図6に示した炭化珪素半導体装置100を例として、本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法を
図7〜
図9を用いて説明する。
まず、
図7に示すように、p型4H−SiC単結晶基板101とp型4H−SiC単結晶基板101の第1主面上に設けられた炭化珪素エピタキシャル層102Aとを備え、オフ角のオフ方向が<01−10>方向である、本発明の炭化珪素エピタキシャルウェハSWを準備する。炭化珪素エピタキシャルウェハSWは例えば、
図1に示した炭化珪素エピタキシャルウェハ10あるいは
図2に示した炭化珪素エピタキシャルウェハ20である。
【0057】
次に、
図8に示すように、炭化珪素エピタキシャル層102Aにイオン注入によって、p型を有するボディ領域103と、ボディ領域103によってドリフト層102から隔てられるようにボディ領域103の上に設けられn型を有するエミッタ領域104とを形成する。また、ボディ領域103の上にp+領域105が形成する。ドリフト層102は、炭化珪素エピタキシャル層102Aにおいて、ボディ領域103、エミッタ領域104およびp+領域105を除く領域である。
【0058】
次に、
図9に示すように、ゲート絶縁膜108を形成し、次いでゲート絶縁膜108上にゲート電極109を形成し、次いで、層間絶縁膜110を形成する。さらに、例えば、RIEによって、エミッタコンタクト電極112を形成すべき領域に対応する層間絶縁膜110およびゲート絶縁膜108を除去する。この層間絶縁膜110およびゲート絶縁膜108が除去された領域上にエミッタコンタクト電極112を形成する。さらに、エミッタ配線113を形成すると、炭化珪素半導体装置100が得られる。