(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
R−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素うちの少なくとも一種であり、Ndを必ず含む。TはFe又はFeとCoであり、Bは硼素である)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。
【0003】
R−T−B系焼結磁石は、主としてR
2T
14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるR
2T
14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料であり、R−T−B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
高温では、R−T−B系焼結磁石の保磁力H
cJ(以下、単に「H
cJ」という場合がある)が低下するため、不可逆熱減磁が起こる。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR−T−B系焼結磁石では、高いH
cJを有することが要求されている。
【0005】
R−T−B系焼結磁石において、R
2T
14B化合物中のRに含まれる軽希土類元素RL(例えば、NdやPr)の一部を重希土類元素RH(例えば、DyやTb)で置換すると、H
cJが向上することが知られている。RHの置換量の増加に伴い、H
cJは向上する。
【0006】
しかし、R
2T
14B化合物中のRLをRHで置換すると、R−T−B系焼結磁石のH
cJが向上する一方、残留磁束密度B
r(以下、単に「B
r」という場合がある)が低下する。また、特にDyなどのRHは、資源存在量が少ないうえ、産出地が限定されているなどの理由から、供給が安定しておらず、価格が大きく変動するなどの問題を有している。そのため、近年、RHをできるだけ使用することなく、H
cJを向上させることが求められている。
【0007】
特許文献1には、Dyの含有量を抑制しつつ保磁力の高いR−T−B系希土類焼結磁石が開示されている。この焼結磁石の組成は、一般に用いられてきたR−T−B系合金に比べてB量が相対的に少ない特定の範囲に限定され、かつ、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素Mを含有している。その結果、粒界にR
2T
17相が生成され、このR
2T
17相から粒界に形成される遷移金属リッチ相(R
6T
13M)の体積比率が増加することにより、H
cJが向上する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示による拡散源の例示的な実施形態は、
(1)Pr−Ga合金の粉末である。
(2)前記Pr−Ga合金の粉末は、平均結晶粒径が3μmを超える金属間化合物の粒子から構成されている。
(3)前記粒子の断面は薄片形状である。
【0015】
拡散源が、平均結晶粒径3μm超の金属間化合物の粒子から構成されているため、特性のばらつきを抑制しつつR−T−B系焼結磁石のH
cJを向上させることが可能になる。
【0016】
本開示において、拡散源は、メルトスピニング法及び/又はストリップキャスト法によって作製された合金を粉砕することにより得られた合金の粉末である。そのため、拡散源を構成する粉末の粒子の断面は薄片形状である。
【0017】
以下、本開示の実施形態を説明する。なお、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。たとえば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。本発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面及び以下の説明を提供する。これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0018】
<拡散源>
[Pr−Ga合金]
Pr−Ga合金のPrは、Pr−Ga合金の全体の65〜97質量%である。このPrの30質量%以下をNdで置換することができ、Prの20質量%以下をDy及び/又はTbで置換することができる。GaはPr−Ga合金全体の3質量%〜35質量%であり、Gaの50質量%以下をCuで置換することができる。Pr−Ga合金は、不可避的不純物を含んでいても良い。なお、本発明における「Prの30%以下をNdで置換することができ」とは、Pr−Ga合金中のPrの含有量(質量%)を100%とし、そのうち30%をNdで置換できることを意味する。例えば、Pr−Ga合金中のPrが70質量%(Gaが30質量%)であれば、Ndを21質量%まで置換することができる。すなわち、Prが49質量%、Ndが21質量%となる。Dy、Tb、Cuの場合も同様である。
【0019】
Pr及びGaを上記範囲内としたPr−Ga合金の粉末をR−T−B系焼結磁石素材に対して後述する拡散工程を行うことにより、Gaを、粒界を通じて磁石内部の奥深くまで拡散させることができる。Prは、Nd、Dy及び/又はTbと置換することができるが、それぞれの置換量が上記範囲を超えるとPrが少なすぎるため、高いB
rと高いH
cJを得ることができない。好ましくは、前記Pr−Ga合金のNd含有量は不可避的不純物含有量以下(およそ1質量%以下)である。Gaは、50%以下をCuで置換することができるが、Cuの置換量が50%を超えるとH
cJが低下する可能性がある。
【0020】
本開示において、Pr−Ga合金は、メルトスピニング法及び/又はストリップキャスト法によって作製される。
【0021】
メルトスピニング法は、高速で回転する金属製冷却ロールの表面に合金の溶湯を噴射することにより、合金溶湯を冷却ロールの表面に接触させ、急冷凝固させる。適切な量の合金溶湯を冷却ロールの表面に接触させるため、内径が例えば1mm程度に絞られたオリフィス(孔)を介して合金溶湯の噴射が行なわれる。形成される合金は、非晶質又は微結晶質である。また、形成される合金は、リボン状の薄帯や鱗片状の薄帯を呈しており、その厚みは10μmオーダー(100μm未満)である。
【0022】
また、ストリップキャスト法は、回転するロール上に溶湯を流し、薄板状に急冷凝固させることにより、薄板状の合金を連続的に鋳造する方法である。形成される合金は薄板状を呈しており、その厚みは100μmオーダー(例えば100μm〜500μm程度であり、例えば篩いにより確認する)である。
【0023】
メルトスピニング法及び/又はストリップキャスト法により作製さた合金を粉砕して得られた合金の粉末(拡散源)における粒子の断面は薄片形状である。本開示における「粒子の断面は薄片形状である」とは、合金の粉末(拡散源)における粒子の断面を観察すると、薄片形状であることをいう。さらに本開示における薄片形状とは真円度の平均が0.70以下であることをいう。本開示における真円度とは、対象となる図形(粉末粒子)の(4π×面積)を(周囲の長さの2乗)で割った値である。これらの計算を10回行い(10個の粉末粒子を調べ)、その平均値を求めることで真円度の平均値を求め、真円度の平均値が0.70以下であるかどうか確認する。本開示における真円度は、円は1.00であり、形状が細長くなるにつれ値が小さくなる。
【0024】
Pr−Ga合金の溶湯を、メルトスピニング法及び/又はストリップキャスト法によって急冷凝固する場合、冷却速度を厳密に制御することは難しい。このため、合金を粉砕して得た粉末粒子は、粉末粒子ごとに組織の構造がばらつきやすい。例えば、粉末粒子内に生成される微小な結晶粒のサイズが粒子ごとに大きく変化し得る。具体的には、非晶質が形成されたり、平均結晶粒径が1μmの粒子が形成されたり、平均結晶粒径が3μmの粒子が形成されたりする。このような組織の構造および平均結晶粒径のばらつきが生じると、後述する拡散工程において、粒子を構成する相の溶融温度、およびPr及びGaを拡散源として供給するレートにばらつきが生じる。このようなばらつきは、最終的に磁石特性のばらつきを招来する。その結果、高いB
rと高いH
cJを有さないR−T−B系焼結磁石が得られる場合がある。
【0025】
このような課題を解決するため、本開示の実施形態では、Pr−Ga合金の粉末(拡散源)は、平均結晶粒径が3μmを超える金属間化合物の粒子から構成する。これにより、Pr−Ga合金の粉末を構成する粉末粒子の結晶性を改質し、均一性に優れた拡散源を得ることができる。そして、前記拡散源を用いることにより拡散工程における磁気特性のばらつきを抑制することができる。ここで金属間化合物相とは、拡散源を構成する粉末粒子内における金属間化合物の結晶粒全体のことをいう。拡散源を構成する粉末粒子内における金属間化合物が複数種類ある場合は、一番含有量の多い金属間化合物の結晶粒全体のことをいう。また、拡散源を構成するPr−Ga合金の粉末における全てが、平均結晶粒径3μmを超える金属間化合物の粒子から構成されている必要は必ずしもない。拡散源(Pr−Ga合金の粉末全体)の80体積%以上は、平均結晶粒径が3μmを超える金属間化合物の粒子から構成されていれば本開示の効果を得ることができる。
【0026】
このような構成にするためには、例えば以下に説明する熱処理を行う。
以下に説明する熱処理を行う。
【0027】
[合金粉末の熱処理]
本開示のある実施形態では、メルトスピニング法により得た合金又は前記合金を粉砕して得たPr−Ga合金の粉末に対して、前記合金の粉末の融点よりも270℃低い温度以上、融点以下の温度で熱処理を行う。
【0028】
なお、熱処理は、Pr−Ga合金を熱処理し、熱処理後のPr−Ga合金を粉砕することにより拡散源を得る場合や、Pr−Ga合金を粉砕して得たPr−Ga合金の粉末に対して熱処理を行うことにより拡散源を得る場合があるため、いずれのタイミングで行ってもよい。また、粉砕はピンミル等の公知の粉砕方法を用いればよい。
【0029】
この熱処理により拡散源を構成するPr−Ga合金の粉末は、平均結晶粒径が3μmを超える粒子から構成される。例えば熱処理の時間は30分以上10時間以下であり得る。
【0030】
Pr−Ga合金又はPr−Ga合金の粉末に対する熱処理温度がPr−Ga合金又はPr−Ga合金の粉末の融点より270℃低い温度未満であると、温度が低すぎるため合金の粉末を構成する粉末粒子における金属間化合物の平均結晶粒径が3μm以下となり、結晶性が改質しない可能性があり、融点を超えると粉末どうしが溶着して拡散処理を効率よくできない可能性がある。好ましくは、拡散源を構成する粉末粒子の平均粒径は3.5μm以上20μm以下である。
【0031】
また、本開示のある実施形態では、ストリップキャスト法により得た合金又は前記合金を粉砕して得た合金の粉末に対して、前記合金又は前記合金の粉末の融点よりも230℃低い温度以上、融点以下の温度で熱処理を行う。この熱処理により拡散源を構成する合金の粉末は、平均結晶粒径が3μmを超える粒子から構成される。このように、メルトスピニング法とストリップキャスト法とで得た合金の違いにより好ましい熱処理範囲は異なる。
【0032】
熱処理は、炉内の雰囲気を調整することにより、熱処理後の拡散源における酸素含有量を0.5質量%以上4.0質量%以下にすることが好ましい。Pr−Ga合金又はPr−Ga合金の粉末の表面の全体を意図的に酸化させることにより、得られた拡散源(粉末粒子)と大気との接触時間や湿度の差異などによって生じ得る粒子ごとの特性ばらつきを低減することができ、拡散工程における磁気特性のばらつきを更に低減することができる。また、大気中の酸素と接して発火する可能性が低減する。このため、拡散源の品質管理が容易になる。
【0033】
拡散源は、実施形態において、粉末の状態にある。粉末状態にある拡散源の粒度は篩わけすることによって調整され得る。また、篩わけで排除される粉末が10質量%以内であれば、その影響は少ないので、篩わけせずに用いてもよい。
【0034】
また、平均結晶粒径が3μmを超える金属間化合物の粒子から構成される拡散源を得るには、上述した熱処理以外の方法を用いてもよい。例えば、メルトスピニング法及び/又はストリップキャスト法で得られた合金に対する冷却条件や保持温度時間等を調整することにより、平均結晶粒径が3μmを超える金属間化合物の粒子を得てもよい。
【0035】
本開示の実施形態に係る拡散源の使用方法について説明する。使用方法には以下の工程が含まれる。
1.R−T−B系焼結磁石素材を用意する工程
2.拡散源を用意する工程
3.拡散工程
【0036】
1.R−T−B系焼結磁石素材を用意する工程
R−T−B系焼結磁石素材としては、公知の磁石を使用することができる。
【0037】
好ましくは、R−T−B系焼結磁石素材は以下の組成を有する。
R:27.5〜35.0質量%(Rは希土類元素うちの少なくとも一種であり、Ndを必ず含む)、
B:0.80〜0.99質量%、
Ga:0〜0.8質量%、
M:0〜2質量%(MはCu、Al、Nb、Zrの少なくとも一種)、
残部T(TはFe又はFeとCo)及び不可避的不純物、
を含有し、下記不等式(1)を満足する。
[T]/55.85>14[B]/10.8 (1)
ここで、[T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量である。
この不等式を満足するということは、Bの含有量がR
2T
14B化合物の化学量論組成比よりも少ない、すなわち、主相(R
2T
14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が少ないことを意味している。
【0038】
このような組成のR−T−B系焼結磁石素材と本開示の拡散源とを処理容器内に配置し、後述する拡散工程を行うことにより、さらに高いB
rと高いH
cJを得ることが可能となる。
【0039】
2.拡散源を用意する工程
上述した拡散源を用意する。拡散源については説明済みのため説明を省略する。
【0040】
3.拡散工程
R−T−B系焼結磁石素材及び拡散源を処理容器内に配置し、前記R−T−B系焼結磁石素材及び前記拡散源を真空又は不活性ガス雰囲気中、600℃超950℃以下の温度で加熱することにより、前記拡散源に含まれるPr及びGaを前記R−T−B系焼結磁石素材の表面から内部に拡散させる。これにより、拡散源からPrやGaを含む液相が生成し、その液相がR−T−B系焼結磁石素材中の粒界を経由して焼結素材表面から内部に拡散導入される。これにより、Prと共にGaを、粒界を通じてR−T−B系焼結磁石素材の奥深くまで拡散させることができる。熱処理の温度が600℃以下であると、PrやGaを含む液相量が少なすぎて高いH
cJを得ることが出来ない可能性があり、950℃を超えるとH
cJが低下する可能性がある。また、好ましくは、拡散工程(600℃超950℃以下)が実施されたR−T−B系焼結磁石を拡散工程にて実施した温度から5℃/分以上の冷却速度で300℃まで冷却した方が好ましい。より高いH
cJを得ることができる。さらに好ましくは、300℃までの冷却速度は15℃/分以上である。
【0041】
拡散工程は、まず、R−T−B系焼結磁石素材及び拡散源を処理容器内に配置する。このとき、R−T−B系焼結磁石素材と拡散源とは、処理容器内で接触することが好ましい。例えば、R−T−B系焼結磁石素材表面を拡散源(粉末層)で覆い、拡散工程を行うことができる。例えば、拡散源を分散媒中に分散させたスラリーをR−T−B系焼結磁石素材表面に塗布した後、分散媒を蒸発させて拡散源とR−T−B系焼結磁石素材とを接触させてもよい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、アルデヒド及びケトンを例示できる。さらに、例えば、流動浸漬法を用いることにより、粘着剤が塗布されたR−T−B系焼結磁石素材に粉末状の拡散源を付着させる方法、R−T−B系焼結磁石素材に粉末状の拡散源を振り掛ける方法、などがあげられる。また、拡散源を収容した処理容器に振動、搖動、回転を与えたり、処理容器内で拡散源の粉末を流動させてもよい。
【0042】
図1Aは、本開示によるR−T−B系焼結磁石の製造方法で使用され得るR−T−B系焼結磁石素材100の一部を模式的に示す断面図である。図面には、R−T−B系焼結磁石素材100の上面100a、及び側面100b、100cが示されている。本開示の製造方法に用いられるR−T−B系焼結磁石素材の形状及びサイズは、図示されているR−T−B系焼結磁石素材100の形状及びサイズに限定されない。図示されているR−T−B系焼結磁石素材100の上面100a、及び側面100b、100cは平坦であるが、R−T−B系焼結磁石素材100の表面は凹凸又は段差を有していても良いし、湾曲していてもよい。
【0043】
図1Bは、拡散源を構成する粉末粒子30が表面に位置する状態のR−T−B系焼結磁石素材100の一部を模式的に示す断面図である。R−T−B系焼結磁石素材100の表面に位置する拡散源を構成している粉末粒子30は、不図示の粘着層を介して、R−T−B系焼結磁石素材100の表面に付着してもよい。そのような粘着層は、たとえば、R−T−B系焼結磁石素材100の表面に塗布されて形成され得る。粘着層を利用すれば、R−T−B系焼結磁石素材100の向きを変えることなく、法線方向が異なる複数の領域(例えば上面100aと側面100b)に対して拡散源の粉末を一つの塗布工程で簡単に付着させることができる。
【0044】
使用可能な粘着剤としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、PVP(ポリビニルピロリドン)などがあげられる。粘着剤が水系の粘着剤の場合、塗布の前にR−T−B系焼結磁石を予備的に加熱してもよい。予備加熱の目的は余分な溶媒を除去し粘着力をコントロールすること、及び、均一に粘着剤を付着させることである。加熱温度は60〜100℃が好ましい。揮発性の高い有機溶媒系の粘着剤の場合はこの工程は省略してもよい。
【0045】
R−T−B系焼結磁石素材表面に粘着剤を塗布する方法は、どのようなものでも良い。塗布の具体例としては、スプレー法、浸漬法、ディスペンサーによる塗布などがあげられる。
【0046】
ある好ましい態様では、R−T−B系焼結磁石素材の表面全体(全面)に粘着剤が塗布されている。R−T−B系焼結磁石素材の表面全体ではなく、一部に付着させてもよい。特にR−T−B系焼結磁石素材の厚さが薄い(例えば2mm程度)場合は、R−T−B系焼結磁石素材の表面のうち、一番面積の広い一つの表面に拡散源の粉末を付着させるだけで磁石全体にPr及びGaを拡散させることができ、H
cJを向上させることができる場合がある。
【0047】
R−T−B系焼結磁石素材100の表面に接触している拡散源を構成する粉末粒子は、前述したように、均一性に優れた組織を有している。このため、後述する拡散のための加熱を行うと、拡散源に含まれるPr及びGaをR−T−B系焼結磁石素材の表面から内部に無駄なく効率的に拡散することができる。
【0048】
拡散源の磁石表面上への塗布量は、拡散源のGaの量がR−T−B系焼結磁石100質量%に対して、例えば0.1〜1.0質量%(好ましくは、0.1〜0.5質量%)の範囲内になるように設定され得る。
【0049】
なお、拡散源に含まれるPr及びGaの量は、粉末粒子のPr及びGaの濃度だけでなく、拡散源を構成する粉末粒子の粒度にも依存する。従って、Pr及びGaの濃度を一定にしたまま、拡散源を構成する粉末粒子の粒度を調整することによっても拡散されるPr及びGaの量を調整することが可能である。
【0050】
拡散工程の後に更に、真空又は不活性ガス雰囲気中、前記拡散工程で実施した温度よりも低い温度で且つ、450℃以上750℃以下の温度で第二の熱処理を実施してもよい。拡散工程と、第二の熱処理を実施する工程との間に、他の工程、例えば冷却工程、拡散源とR−T−B系焼結磁石素材とが混合した状態からR−T−B系焼結磁石素材を取り出す工程などが実行され得る。
【実施例】
【0051】
実験例1
[R−T−B系焼結磁石素材の準備]
R−T−B系焼結磁石素材がおよそ表1のNo.A−1及びA−2に示す組成となるように各元素の原料を秤量し、ストリップキャスティング法により合金を作製した。得られた各合金を水素粉砕法により粗粉砕し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粉砕粒径D
50が4μmの微粉砕粉(原料合金粉末)を得た。前記微粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100質量%に対して0.05質量%添加、混合した後磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。得られた成形体を、真空中、1060℃以上1090℃以下(サンプル毎に焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)で4時間焼結し、R−T−B系焼結磁石素材を得た。得られたR−T−B系焼結磁石素材の密度は7.5Mg/m
3 以上であった。得られたR−T−B系焼結磁石素材の成分の結果を表1に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した。以下表2、表4も同様である。また、本発明の不等式(1)を満足する場合は「○」と、満足しない場合は「×」と記載した。なお、表1の各組成を合計しても100質量%にはならない。これは、表1に挙げた成分以外の成分(例えばO(酸素)やN(窒素)など)が存在するためである。
【0052】
【表1】
【0053】
[拡散源を得る工程]
表2に示すNo.a−1のPr−Ga合金の粉末をメルトスピニング法により作製して用意した。具体的には、80kPaのアルゴン雰囲気としたチャンバー内にて、オリフィス径0.8mmの石英ノズル内で原料を高周波溶解した後、100kPaのバックプレッシャーを印加して、溶湯をCuロール上へ噴射した。Cuロール周速度は組成に応じて10〜40m/sの範囲で行った。次に前記Pr−Ga合金に対して、500℃(No.a−1のPr−Ga合金の融点である580℃よりも80℃低い温度)で2時間の熱処理を行い、熱処理後のPr−Ga合金をピンミル粉砕することにより、拡散源を得た。拡散源(合金粉末)の粒度は、200μm以下(篩いにより確認)であった。
【0054】
【表2】
【0055】
[拡散工程]
表1のNo.A−1及びA−2のR−T−B系焼結磁石素材を切断、研削加工し、7.4mm×7.4mm×7.4mmの立方体とした。次に、No.A−1のR−T−B系焼結磁石素材において、配向方向に垂直な面(二面)にR−T−B系焼結磁石素材100質量部に対して前記拡散源を3質量部(一面あたり1.5質量部)散布した。その後、50Paに制御した減圧アルゴン中で、900で4時間加熱する拡散工程を行った。さらに拡散工程後のR−T−B系焼結磁石及びNo.A−2(拡散工程を行わなかったR−T−B系焼結磁石素材)に対して、50Paに制御した減圧アルゴン中で、500℃で3時間の第二の熱処理を行いR−T−B系焼結磁石(No.1及び2)を作製した。得られたR−T−B系焼結磁石のNo.1に対して、Pr−Ga合金の濃化部を除去するため表面研削盤を用いて各サンプルの全面を0.2mmずつ切削加工し、7.0mm×7.0mm×7.0mmの立方体状のサンプルを得た。R−T−B系焼結磁石のNo.2に対しても同様の切削加工を施し、7.0mm×7.0mm×7.0mmの立方体状のサンプルを得た。得られたNo.1のR−T−B系焼結磁石(拡散源を用いてPrやGaを拡散させたサンプル)の組成を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定したところ、No.2(No.2は、拡散源を用いていないため、No.A−2と同じ組成)の組成と同等であった。
【0056】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B−HトレーサによってB
r及びH
cJを測定した。測定結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
上述したようにNo.1と2はほぼ同じ組成にも係らず、表3に示す通り本発明の実施形態(No.1)の方が高いB
rと高いH
cJが得られている。
【0059】
実験例2
実験例1と同様にして、質量比でNd:24.0%、Pr:7.0%、B:0.86%、Cu:0.1%、Al:0.1%、Ga:0.2%、Co:0.8%、Fe:67.0%の組成のR−T−B系焼結磁石素材を作製した(不等式(1)は満足している)。前記R−T−B系焼結磁石素材の寸法は、厚さ5.0mm×幅7.5mm×長さ35mmであった。
【0060】
次に、表4に示す組成のPr−Ga合金を実験例1と同様にしてメルトスピニング法により作製して用意した。次に、前記Pr−Ga合金の粉末に対して、表4に示す条件(温度及び時間)で熱処理を行い(但し、No.3は熱処理なし)、熱処理後のPr−Ga合金をピンミル粉砕することにより拡散源(No.3〜17)を得た。拡散源(合金粉末)の粒度は、200μm以下(篩いにより確認)であった。また、得られた拡散源における金属間化合物相の平均結晶粒径を以下の方法により測定した。まず、拡散源を構成する粉末粒子の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察しコントラストから相別し、各相の組成をエネルギー分散X線分光(EDX)を用いて分析し金属間化合物相を特定した。次に画像解析ソフト(Scandium)を用いて、一番面積比率の高い金属間化合物相を一番含有量の高い金属間化合物相とし、当該金属間化合物相の結晶粒径を求めた。具体的には金属間化合物相における結晶粒の数及び結晶粒の全面積を画像解析ソフト(Scandium)を用いて求め、求めた結晶粒の全面積を結晶粒の数で割ることにより平均面積を求めた。そして数式1により得られた平均面積から結晶粒径Dを求めた。
【0061】
【数1】
【0062】
ここで、Dは結晶粒径、Sは平均面積である。
【0063】
これらの作業を5回行い(5個の粉末粒子を調べ)、その平均値を求めることで拡散源における金属間化合物相の平均結晶粒径を求めた。結果を表4の平均結晶粒径に示す。なお、No.3は拡散源に熱処理を行っていないため、金属間化合物相の結晶粒径が小さすぎて(1μm以下の微小な結晶粒)測定することができなかった。また、実験例1で使用した拡散源についても同様にして平均結晶粒径を求めた所、平均結晶粒径は4.4μmであり、本開示の範囲内であった。
【0064】
次に拡散源を構成する粉末粒子が薄片形状であるかどうか確認した。拡散源を構成する粉末粒子の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、画像解析ソフト(Scandium)を用いて(粉末粒子)の(4π×面積)を(周囲の長さの2乗)で割った値を求めた。これらの計算を10回行い(10個の粉末粒子を調べ)、その平均値を求めることにより真円度の平均値を求めた。No.3〜No.17における真円度の平均値は0.40〜0.60の範囲あり、粒子の断面は薄片形状(0.70以下)であることを確認した。また、実験例1で使用した拡散源についても同様にして真円度の平均値を求めた所、真円度の平均値は0.58であり、本開示の範囲内であった。
【0065】
次に、R−T−B系焼結磁石素材に粘着剤を塗布した。塗布方法は、R−T−B系焼結磁石素材をホットプレート上で60℃に加熱後、スプレー法でR−T−B系焼結磁石素材全面に粘着剤を塗布した。粘着剤としてPVP(ポリビニルピロリドン)を用いた。
【0066】
次に、粘着剤を塗布したR−T−B系焼結磁石素材に対して、表4のNo.3〜17の拡散源を付着させた。拡散源を付着させたR−T−B系焼結磁石素材は、拡散源の種類ごと(No.3〜17ごと)に50個づつ準備した。付着方法は、容器に拡散源(合金粉末)を広げ、粘着剤を塗布したR−T−B系焼結磁石素材を常温まで降温させた後、容器内で拡散源をR−T−B系焼結磁石素材全面にまぶすように付着させた。
【0067】
次に、前記R−T−B系焼結磁石素材及び拡散源を処理容器内に配置し、900℃で8時間加熱することにより、前記拡散源に含まれるPr及びGaを前記R−T−B系焼結磁石素材の表面から内部に拡散する拡散工程を行った。拡散後のR−T−B系焼結磁石の中央部分から厚さ4.5mm×幅7.0mm×長さ7.0mmの立方体を切り出し、拡散源の種類ごと(No.3〜17ごと)に10個づつB−Hトレーサにより保磁力を測定し、得られた保磁力の最大値から保磁力の最小値を差し引いた値を磁気特性ばらつき(△H
cJ)として求めた。△H
cJの値を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
表4に示すように、Pr−Ga合金の粉末に熱処理をしていないNo.3(比較例)及び熱処理温度が本開示の範囲外であるNo.9(比較例)と比べ本発明例(No.4〜8、No.10〜17)は、いずれも△H
cJが半分程度であり拡散工程における磁気特性のばらつきが抑制されている。