特許第6947102号(P6947102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6947102
(24)【登録日】2021年9月21日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】熱硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/42 20060101AFI20210930BHJP
   C08L 77/12 20060101ALI20210930BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   C08G59/42
   C08L77/12
   C08L63/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-63969(P2018-63969)
(22)【出願日】2018年3月29日
(65)【公開番号】特開2019-172864(P2019-172864A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2020年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 佑希
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−25894(JP,A)
【文献】 特開平6−287271(JP,A)
【文献】 特開2011−46868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/
C08L63/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸無水物基を2つ以上有する化合物(a)と、下記式(1)で表される同一分子内にアミノ基と水酸基を有する化合物(b)からの生成物である重合体(A)、エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)及び溶剤(C)とを含有する熱硬化性組成物であって、前記酸無水物基を2つ以上有する化合物(a)がN−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ベンジルマレイミドおよびインデンからなる群から選択される少なくとも1つ、並びに無水マレイン酸を共重合組成に含む重合体である熱硬化性組成物。
【化1】
式(1)において、Rは2価の有機基である。
【請求項2】
前記化合物(b)のRが、分岐してもよい炭素数1〜10のアルキレン又は下記式(2)で表される2価の基である、請求項1に記載の熱硬化性組成物;

−CHCH(OCHCH− (2)

式(2)において、mは1〜9の整数である。
【請求項3】
前記エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)が芳香環を有する化合物である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の熱硬化性組成物から形成される硬化膜。
【請求項5】
請求項に記載の硬化膜を透明保護膜として有するカラーフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品における絶縁材料、半導体装置におけるパッシベーション膜、バッファーコート膜、層間絶縁膜、平坦化膜、液晶表示素子における層間絶縁膜、カラーフィルター用保護膜等の形成に用いることができる熱硬化性組成物、それによる透明膜、及びその膜を有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子等の素子の製造工程には、様々な機能を有する有機薄膜を形成する工程が含まれる。例えば、ブラックマトリックスレジストの成膜・パターニング・熱処理工程、カラーフィルターレジストの成膜・パターニング・熱処理工程、カラーフィルター保護膜の成膜・パターニング・熱処理工程、ITO導電膜の成膜工程、ITOパターニング用のフォトレジスト成膜・パターニング・ウェットエッチング・レジスト剥離工程、ITOアニーリング工程、配向膜の成膜・熱処理・ラビング(偏光露光)工程等である。これらの各種工程の中で、素子には有機溶剤、酸、アルカリ溶液等の種々の薬品への接触の機会があり、また電極をスパッタリングによって形成する際には表面が局所的に高温に晒される場合もある。そのため、各種の素子の表面の劣化、損傷、変質を防止する目的で表面保護膜が設けられる場合がある。これらの保護膜には、上記のような製造工程中の各種処理に耐えることができる諸特性が要求される。具体的には、耐熱性、耐溶剤性・耐酸性・耐アルカリ性等の耐薬品性、耐水性、ガラス等の下地基板への密着性、透明性、耐傷性、塗布性、平坦性、耐光性等が要求される。特に、表示素子に求められる信頼性の要求特性が向上するに伴い、表示素子部材に求められる耐熱性、具体的には熱処理時のアウトガスの低減が重要視されている。これは、上に述べた各種の有機薄膜を形成する際には常に熱処理による薄膜の架橋反応・緻密化が行われるため、工程を通して幾度も素子に熱が加えられることになる。そのため、アウトガスが多量に発生する保護膜を用いると下層からのアウトガスにより上層の薄膜形成が影響を受け、結果として表示品位の低下、信頼性の低下を引き起こすためである。
【0003】
これまでに、高い耐熱性を有する保護膜を提供するために、ポリイミド材料を保護膜として利用する提案がされている(特許文献1)。また、高い耐熱性と透明性を特徴とするシロキサン材料を用いた保護膜も提案されている(特許文献2、3)。あるいは、エポキシ樹脂とメラミン樹脂を使用した保護膜や、アクリル樹脂やポリエステル樹脂を用いた保護膜が提案されている(特許文献4、5、6)。
【0004】
しかしながら、ポリイミド材料を用いた保護膜では、ポリイミドやポリイミド前駆体(ポリアミド酸)溶液を調製するためには、N−メチルピロリドンやγ−ブチロラクトン等の強い溶解力を有する、いわゆるポリイミド溶媒を用いる必要があり、下地の有機薄膜を溶解してしまう問題がある。これは特にカラーフィルター用の保護膜として用いる場合には大きな問題となる。また、ポリイミドには電荷移動相互作用(CT相互作用)により可視光領域に光吸収帯の裾が伸びてしまうために着色する問題もある。一方、シロキサン材料(ゾルゲル材料)を用いる場合には、耐熱性と透明性は十分であるが、シラノール基の反応完結に必要とされる温度が300℃以上にもなるために、下地の有機薄膜の劣化を招いてしまう問題や、熱硬化時の硬化収縮によって薄膜にクラック(亀裂)が生じる問題もある。加えて、シロキサン材料の−Si−O−Si−結合がアルカリ溶液によって容易に加水分解してしまう難点もある。また、エポキシ樹脂とメラミン樹脂を用いた材料の場合には、使用溶媒や熱処理温度に問題はないものの耐熱性が十分ではなく、また黄変の問題も生じる。アクリル系材料やポリエステル樹脂を用いた場合にも基本骨格であるアクリル部位・ポリエステル部位の耐熱性が十分ではなく、アウトガスの問題が生じていた。特にポリエステル材料は原料が一部未反応のまま残存する問題もあり、精製工程で取り除くことは可能だが、コストがかかるため精製工程なしでのアウトガス低減が求められていた。
【0005】
一方、ポリエステルとアミド酸構造の両方を有するポリエステルアミド酸を用いた保護膜も開示されている(特許文献7)。この場合、エステル部位とアミド酸部位とが重合体中に不均一に存在することと、原料アルコール成分の残存によりアウトガス低減効果は限定的であった。
【0006】
上記の状況から、高い耐熱性(低アウトガス性)と、他の諸特性、特に、平坦性、透明性、下地への密着性を両立させる材料が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−163016
【特許文献2】特開昭62−242918
【特許文献3】特開平7−331178
【特許文献4】特開昭63−131103
【特許文献5】特開平8−50289
【特許文献6】特開2013−253263
【特許文献7】特開2008−156546
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、耐熱性(低アウトガス性)、平坦性、透明性、密着性に優れた硬化膜を与える熱硬化性組成物、及び該熱硬化性組成物によって形成される硬化膜を提供することであり、更には該硬化膜を有する電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、酸無水物基を2つ以上有する化合物と、同一分子内にアミノ基と水酸基とを有する化合物とを熱反応させた共重合体と、エポキシ基を2つ以上有する化合物、そしてこれらを溶解し得る溶剤とを含有する熱硬化性組成物を用いることで本発明を完成するに至った。本発明は以下の構成を含む。
【0010】
[1] 酸無水物基を2つ以上有する化合物(a)と、下記式(1)で表される同一分子内にアミノ基と水酸基を有する化合物(b)からの生成物である重合体(A)、エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)及び溶剤(C)とを含有する熱硬化性組成物。
【化1】
式(1)において、Rは2価の有機基である。
【0011】
[2] 前記酸無水物基を2つ以上有する化合物(a)が、芳香族酸二無水物、脂肪族酸二無水物及び無水マレイン酸を共重合組成に含む重合体から選ばれる少なくとも1つである、[1]項に記載の熱硬化性組成物。
【0012】
[3] 前記化合物(b)のRが、分岐してもよい炭素数1〜10のアルキレン又は下記式(2)で表される2価の基である、[1]項に記載の熱硬化性組成物;

−CHCH(OCHCH− (2)

式(2)において、mは1〜9の整数である。
【0013】
[4] 前記エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)が芳香環を有する化合物である、[1]項に記載の熱硬化性組成物。
【0014】
[5] [1]〜[4]のいずれか1項に記載の熱硬化性組成物から形成される硬化膜。
【0015】
[6] [5]項に記載の硬化膜を透明保護膜として有するカラーフィルター。
【発明の効果】
【0016】
本発明の好ましい態様に係る熱硬化性組成物は耐熱性、平坦性、透明性、密着性、殊に耐熱性において特に優れた材料であり、カラー液晶表示素子のカラーフィルター保護膜として用いた場合、表示品位を向上させることができる。特に、染色法、顔料分散法、電着法及び印刷法により製造されたカラーフィルターの保護膜として有用である。また、各種光学材料の保護膜及び透明絶縁膜としても使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.本発明の熱硬化性組成物
本発明の熱硬化性組成物は、酸無水物基(−CO−O−CO−)を2つ以上有する化合物(a)と、式(1)で表される化合物(b)とを熱反応させた生成物である重合体(A)、エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)及び溶剤(C)を含む熱硬化性組成物であって、重合体(A)100重量部に対し、エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)が10〜500重量部であることを特徴とする熱硬化性組成物である。
【0018】
1−1.重合体(A)
重合体(A)は、酸無水物基を2つ以上有する化合物(a)と、式(1)で表される化合物(b)とを熱反応させて得られる。化合物(a)が選択される範囲には、芳香族酸二無水物及び脂肪族酸二無水物が包含され、また無水マレイン酸と無水マレイン酸以外のその他の重合性単量体を共重合した重合体(酸無水物基を2つ以上有していればよい)が包含され、これらから選ばれる少なくとも1つを使用することができる。以降、本明細書中で「無水マレイン酸以外のその他の重合性単量体」のことを「その他の重合性単量体」と表記する。無水マレイン酸と共重合するその他の重合性単量体には特に制限は無いが、耐熱性の観点から、N置換マレイミド、インデン、スチレン等が好ましい。
【0019】
無水マレイン酸とその他の重合性単量体の共重合には、ラジカル共重合が利用でき、開始剤として熱ラジカル開始剤の使用が好ましい。
【0020】
また、重合体(A)の合成には、少なくとも溶剤が必要である。この溶剤をそのまま残してハンドリング性等を考慮した液状やゲル状の組成物としてもよく、また、この溶剤を除去して運搬性などを考慮した固形状の組成物としてもよい。
【0021】
本発明の目的を損なわない範囲で上記以外の他の化合物を含んでいてもよい。他の原料の例として、連鎖移動剤を含んでよい。
【0022】
1−1−1.酸無水物基を2つ以上有する化合物(a)
本発明では、重合体(A)を得るための原料として酸二無水物を使用する。酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2−[ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)]ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)(商品名;TMEG−100、新日本理化株式会社)、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、エタンテトラカルボン酸二無水物、及びブタンテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらのうち1種以上を用いることができる。
【0023】
また、本発明では、無水マレイン酸とその他の重合性単量体との共重合体を、酸無水物基を2つ以上有する化合物として用いることができる。この場合、利用できるその他の重合性単量体として、具体的にはN−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ベンジルマレイミドが挙げられる。また、イソブテン、スチレン、インデン、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、グリシジルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、2−フェニルエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートが挙げられる。
【0024】
1−1−2.同一分子内にアミノ基と水酸基を有する化合物(b)
本発明では、重合体(A)を得るための材料として、同一分子内にアミノ基と水酸基を有する化合物を用いる。そのような化合物として、2−アミノエタノール、3−アミノ−1−プロパノール、5−アミノ−1−ペンタノール、6−アミノ−1−ヘキサノール、8−アミノ−1−オクタノール、10−アミノ−1−デカノール、12−アミノ−1−ドデカノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−(4−アミノフェニル)エタノール、2−(4−アミノシクロヘキシル)エタノール、4−アミノシクロヘキサノールが挙げられる。入手の容易さと耐熱性の観点から、2−アミノエタノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノールが好適である。ここで挙げた化合物は複数を併用することもできる。
【0025】
1−1−3.重合体(A)の合成に用いる溶剤
重合体(A)を得るための合成に用いる溶剤の具体例として、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、プロピオン酸ブチル、乳酸エチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、3−オキシプロピオン酸メチル、3−ヒドロキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシプロピオン酸プロピル、2−メトキシプロピオン酸メチル、2−メトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシプロピオン酸プロピル、2−エトキシプロピオン酸メチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−メトキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−エトキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸メチル、2−オキソブタン酸エチル、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、及びジエチレングリコールメチルエチルエーテル、が挙げられる。溶剤は、これらの1種であってもよいし、これらの2種以上の混合物であってもよい。
【0026】
1−1−4.無水マレイン酸を含む共重合体の合成に用いる分子量調整剤
無水マレイン酸を含む共重合体の合成時には、分子量が高くなることを抑制し、優れた保存安定性を発現するために、分子量調整剤をさらに含有してもよい。分子量調整剤としては、メルカプタン類、キサントゲン類、キノン類、ヒドロキノン類及び2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。
【0027】
分子量調整剤の具体例としては、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、メトキノン、p−ベンゾキノン、メチル−p−ベンゾキノン、t−ブチル−p−ベンゾキノン、アントラキノン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸、ジメチルキサントゲンスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。
【0028】
分子量調整剤は単独で用いてもよく、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
1−1−5.重合体(A)の合成方法
本発明で用いられる重合体(A)は、酸無水物を2つ以上有する化合物(a)と、式(1)で表される化合物(b)とを熱反応させて得られる。このとき、酸無水物の官能基当たりのモル数と式(1)で表される化合物(b)の官能基当たりのモル数を以下の範囲にする必要がある。ここで、官能基とは、酸無水物基、アミノ基、水酸基を意味する。

0.5≦X≦5.0
X=酸無水物のモル数/(アミノ基のモル数+水酸基のモル数)

この範囲であれば、重合体の溶剤への溶解性が高く、組成物の耐熱性、平坦性、密着性が良好であるが、より好ましくは0.7≦X≦4.0であり、さらに好ましくは1.0≦X≦3.0である。
【0030】
反応溶剤は、溶質100重量部に対し、80重量部以上使用すると、反応がスムーズに進行するので好ましい。反応は40℃〜200℃で、0.2〜20時間反応させる。
【0031】
一方、酸無水物を有する化合物には、前述したように無水マレイン酸とその他の重合性単量体を共重合した重合体を利用することもできる。このラジカル重合の際は、40℃〜120℃の反応温度が好ましく、60℃〜80℃の反応温度がより好ましい。ラジカル重合終了後、室温まで冷却し、式(1)で表される化合物を添加し、40〜200℃で0.1〜6時間反応させる。
【0032】
このようにして合成される重合体(A)においては、式(1)で表される化合物(b)が共重合体や使用溶剤への溶解性が低い場合でも、熱反応後には均一の透明液となり、欠陥のない均一な薄膜を形成することが可能となる。逆に、2つ以上の水酸基を有する化合物をラジカル共重合体の重合後に熱反応させずに単純に系に添加した場合は、2つ以上の水酸基を有する化合物の析出が生じる場合もあり、その場合は均一な薄膜を形成できない。このため、重合体(A)に誘導することで、欠陥のない薄膜を形成することが可能となる。
【0033】
得られた重合体(A)の重量平均分子量は、好ましくは、1,000〜1,000,000であり、2,000〜500,000がより好ましい。これらの範囲にあれば、塗布性、平坦性が良好である。
【0034】
本明細書中の重量平均分子量は、GPC法(カラム温度:35℃、流速:1ml/min)により求めたポリスチレン換算での値である。標準のポリスチレンには、分子量が645〜132,900のポリスチレン(例えば、アジレント・テクノロジー株式会社のポリスチレンキャリブレーションキットPL2010−0102)、カラムにはPLgel MIXED−D(アジレント・テクノロジー株式会社)を用い、移動相としてTHFを使用して測定することができる。本明細書中の市販品の重量平均分子量はカタログ掲載値である。
【0035】
1−2.エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)
本発明に用いられるエポキシ化合物は、1分子当たりエポキシ基を2つ以上有する化合物である。エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)は1種でも2種以上でもよい。
【0036】
1−2−1.エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)の例
エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)の例は、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールAノボラック型エポキシ化合物、脂肪族ポリグリシジルエーテル化合物、環式脂肪族エポキシ化合物、エポキシ基を有する単量体の重合体、エポキシ基を有する単量体と他の単量体との共重合体、及びシロキサン結合部位を有するエポキシ化合物である。
【0037】
ビスフェノールA型エポキシ化合物の市販品の具体例は、jER 828、1004、1009(いずれも商品名;三菱ケミカル株式会社)である。ビスフェノールF型エポキシ化合物の市販品の具体例は、jER 806、4005P(いずれも商品名;三菱ケミカル株式会社)である。グリシジルエーテル型エポキシ化合物の市販品の具体例は、TECHMORE VG3101L(商品名;株式会社プリンテック)、EHPE3150(商品名;株式会社ダイセル)、EPPN−501H、502H(いずれも商品名;日本化薬株式会社)、及びjER 1032H60(商品名;三菱ケミカル株式会社)である。グリシジルエステル型エポキシ化合物の市販品の具体例は、デナコール EX−721(商品名;ナガセケムテックス株式会社)、及び1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル(商品名;東京化成工業株式会社)である。ビフェニル型エポキシ化合物の市販品の具体例は、jER YX4000、YX4000H、YL6121H(いずれも商品名;三菱ケミカル株式会社)、及びNC−3000、NC−3000−L、NC−3000−H、NC−3100(いずれも商品名;日本化薬株式会社)である。フェノールノボラック型エポキシ化合物の市販品の具体例は、EPPN−201(商品名;日本化薬株式会社)、及びjER 152、154(いずれも商品名;三菱ケミカル株式会社)等である。クレゾールノボラック型エポキシ化合物の市販品の具体例は、EOCN−102S、103S、104S、1020(いずれも商品名;日本化薬株式会社)等である。ビスフェノールAノボラック型エポキシ化合物の市販品の具体例は、jER 157S65、157S70(いずれも商品名;三菱ケミカル株式会社)である。環式脂肪族エポキシ化合物の市販品の具体例は、セロキサイド2021P、3000(いずれも商品名;株式会社ダイセル)である。シロキサン結合部位を有するエポキシ化合物の市販品の具体例は、1,3−ビス[2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル]テトラメチルジシロキサン(商品名;ジェレストインコーポレイテッド)、TSL9906(商品名;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)、COATOSIL MP200(商品名;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)、コンポセラン SQ506(商品名;荒川化学株式会社)、ES−1023(商品名;信越化学工業株式会社)である。
【0038】
尚、TECHMORE VG3101L(商品名;株式会社プリンテック)は2−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−2−[4−[1,1−ビス[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]エチル]フェニル]プロパンと1,3−ビス[4−[1−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−1−[4−[1−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−1−メチルエチル]フェニル]エチル]フェノキシ]−2−プロパノールとの混合物である。EHPE3150(商品名;株式会社ダイセル)は2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物である。セロキサイド2021P(商品名;株式会社ダイセル)は3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートである。セロキサイド3000(商品名;株式会社ダイセル)は1−メチル−4−(2−メチルオキシラニル)−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンである。COATOSIL MP200(商品名;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)は、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを原料成分とする重合体である。
【0039】
エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)は上記の化合物を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
1−2−2.重合体(A)に対するエポキシ基を2つ以上有する化合物(B)の割合
本発明の熱硬化性組成物における重合体(A)100重量部に対するエポキシ基を2つ以上有する化合物(B)の総量の割合は、10〜500重量部である。エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)の総量の割合がこの範囲であると、平坦性、耐熱性、耐薬品性、下地密着性のバランスが良好である。エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)の総量は50〜300重量部の範囲であることが好ましいが、これは重合体(A)、エポキシ硬化剤とのモル比を調整して決定する。
【0041】
1−3.溶剤(C)
本発明の熱硬化性組成物には、溶剤(C)が用いられる。本発明の熱硬化性組成物に用いられる溶剤(C)は、重合体(A)およびエポキシ基を2つ以上有する化合物(B)を溶解できる溶剤が好ましい。当該溶剤の具体例は、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、プロピオン酸ブチル、乳酸エチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、酢酸3−メトキシブチル、3−オキシプロピオン酸メチル、3−ヒドロキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシプロピオン酸プロピル、2−メトキシプロピオン酸メチル、2−メトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシプロピオン酸プロピル、2−エトキシプロピオン酸メチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−メトキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−エトキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸メチル、2−オキソブタン酸エチル、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、及びジエチレングリコールメチルエチルエーテルである。溶剤は、これらの1種でもよく、これらの2種以上の混合物でもよい。
【0042】
1−4.その他の成分
本発明の熱硬化性組成物には、塗布均一性、接着性、透明性、平坦性、及び耐薬品性を向上させるために各種の添加剤を添加することができる。添加剤には、エポキシ硬化剤、溶剤、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、フッ素系又はシリコン系のレベリング剤・界面活性剤、シランカップリング剤等の密着性向上剤、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、リン系、イオウ系化合物等の酸化防止剤、分子量調整剤、エポキシ硬化剤が主に挙げられる。
【0043】
1−4−1.界面活性剤
本発明の熱硬化性組成物には、塗布均一性を向上させるために、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤の具体例は、ポリフローNo.75、ポリフローNo.90、ポリフローNo.95(いずれも商品名、共栄社化学株式会社)、ディスパーベイク(Disperbyk)−161、ディスパーベイク−162、ディスパーベイク−163、ディスパーベイク−164、ディスパーベイク−166、ディスパーベイク−170、ディスパーベイク−180、ディスパーベイク−181、ディスパーベイク−182、BYK−300、BYK−306、BYK−310、BYK−320、BYK−330、BYK−342、BYK−346、BYK−361N、BYK−UV3500、BYK−UV3570(いずれも商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社)、KP−341、KP−368、KF−96−50CS、KF−50−100CS(いずれも商品名、信越化学工業株式会社)、サーフロン(Surflon)−S611(商品名、AGCセイミケミカル株式会社)、フタージェント222F、フタージェント208G、フタージェント251、フタージェント710FL、フタージェント710FM、フタージェント710FS、フタージェント601AD、フタージェント650A、FTX−218、(いずれも商品名、株式会社ネオス)、メガファックF−410、メガファックF−430、メガファックF−444、メガファックF−472SF、メガファックF−475、メガファックF−477、メガファックF−552、メガファックF−553、メガファックF−554、メガファックF−555、メガファックF−556、メガファックF−558、メガファックF−559、メガファックR−94、メガファックRS−75、メガファックRS−72−K、メガファックRS−76−NS、メガファックDS−21(いずれも商品名、DIC株式会社)、TEGO Twin 4000、TEGO Twin 4100、TEGO Flow 370、TEGO Glide 440、TEGO Glide 450、TEGO Rad 2200N(いずれも商品名、エボニックジャパン株式会社)、フルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、フルオロアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル、フルオロアルキルアンモニウムヨージド、フルオロアルキルベタイン、フルオロアルキルスルホン酸塩、ジグリセリンテトラキス(フルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル)、フルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、フルオロアルキルアミノスルホン酸塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ソルビタンラウレート、ソルビタンパルミテート、ソルビタンステアレート、ソルビタンオレエート、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、及びアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩が挙げられる。これらから選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0044】
これらの界面活性剤の中でも、BYK−306、BYK−342、BYK−346、KP−341、KP−368、サーフロン−S611、フタージェント710FL、フタージェント710FM、フタージェント710FS、フタージェント601AD、フタージェント650A、メガファックF−477、メガファックF−556、メガファックF−559、メガファックRS−72−K、メガファックDS−21、TEGO Twin 4000、フルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、フルオロアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル、フルオロアルキルスルホン酸塩、フルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、及びフルオロアルキルアミノスルホン酸塩の中から選ばれる少なくとも1種であると、熱硬化性組成物の塗布均一性が高くなるので好ましい。
【0045】
本発明の熱硬化性組成物における界面活性剤の含有量は、熱硬化性組成物全量に対して0.01〜10重量%であることが好ましい。
【0046】
1−4−2.カップリング剤
本発明の熱硬化性組成物は、形成される硬化膜と基板との密着性をさらに向上させる観点から、カップリング剤をさらに含有してもよい。
【0047】
このようなカップリング剤として、例えば、シラン系、アルミニウム系又はチタネート系のカップリング剤を用いることができる。具体的には、3−グリシジルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(例えば、商品名、サイラエースS510、JNC株式会社)、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(例えば、商品名、サイラエースS530、JNC株式会社)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(例えば、商品名;サイラエースS810、JNC株式会社)、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランの共重合体(例えば、商品名、COATOSIL MP200、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)等のシラン系カップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤、及びテトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタネート系カップリング剤を挙げることができる。
【0048】
これらの中でも、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランが、密着性を向上させる効果が大きいため好ましい。
【0049】
カップリング剤の含有量は、熱硬化性組成物全量に対して、0.01重量%以上、かつ10重量%以下であることが、形成される硬化膜と基板との密着性が向上するので好ましい。
【0050】
1−4−3.酸化防止剤
本発明の熱硬化性組成物は、透明性の向上、硬化膜が高温に晒された場合の黄変を防止する観点から、酸化防止剤をさらに含有してよい。
【0051】
本発明の熱硬化性組成物には、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、リン系、イオウ系化合物などの酸化防止剤を添加してもよい。この中でもヒンダードフェノール系が耐候性の観点から好ましい。具体例としては、Irganox1010、Irganox1010FF、Irganox1035、Irganox1035FF、Irganox1076、Irganox1076FD、Irganox1098、Irganox1135、Irganox1330、Irganox1726、Irganox1425 WL、Irganox1520L、Irganox245、Irganox245FF、Irganox259、Irganox3114、Irganox565、Irganox565DD(いずれも商品名、BASFジャパン株式会社)、ADK STAB AO−20、ADK STAB AO−30、ADK STAB AO−50、ADK STAB AO−60、ADK STAB AO−80(いずれも商品名、株式会社ADEKA)が挙げられる。この中でもIrganox1010、ADK STAB AO−60がより好ましい。
【0052】
酸化防止剤は、熱硬化性組成物全量に対して、0.1〜10重量部添加して用いられる。
【0053】
1−4−4.エポキシ硬化剤
本発明の熱硬化性組成物は、平坦性、耐薬品性を向上させるために、エポキシ硬化剤をさらに含有してもよい。エポキシ硬化剤としては、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、ピラゾール系硬化剤、トリアゾール系硬化剤、触媒型硬化剤、及びスルホニウム塩、ベンゾチアゾニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等の感熱性酸発生剤などがあるが、硬化膜の着色を避けること及び硬化膜の耐熱性の観点から、酸無水物系硬化剤又はイミダゾール系硬化剤、またはその併用が好ましい。
【0054】
前記酸無水物系硬化剤の具体例は、無水マレイン酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロトリメリット酸無水物等の脂肪族ジカルボン酸無水物;無水フタル酸、トリメリット酸無水物等の芳香族多価カルボン酸無水物、並びにスチレン−無水マレイン酸共重合体である。これらの中でも耐熱性と溶剤に対する溶解性のバランスの良好な、トリメリット酸無水物及びヘキサヒドロトリメリット酸無水物が好ましい。
【0055】
前記イミダゾール系硬化剤の具体例は、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイトである。これらの中でも硬化性と溶剤に対する溶解性のバランスの良好な、2−ウンデシルイミダゾールが好ましい。
【0056】
エポキシ硬化剤を使用する場合、エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)100重量部に対するエポキシ硬化剤の割合は、0.1〜60重量部である。エポキシ硬化剤が酸無水物系硬化剤の場合の添加量については、より詳細には、エポキシ基に対して、エポキシ硬化剤中のカルボン酸無水物基又はカルボキシル基が0.1〜1.5倍当量になるよう添加するのが好ましい。このとき、カルボン酸無水物基は2価で計算する。カルボン酸無水物基又はカルボキシル基が0.15〜0.8倍当量になるよう添加すると耐薬品性が一層向上するので、より好ましい。
【0057】
1−4−5.紫外線吸収剤
本発明の熱硬化性組成物は、形成した透明膜の劣化防止能をさらに向上させる観点から紫外線吸収剤を含んでもよい。
【0058】
紫外線吸収剤の具体例は、TINUVIN P、TINUVIN 120、TINUVIN 144、TINUVIN 213、TINUVIN 234、TINUVIN 326、TINUVIN 571、TINUVIN 765(いずれも商品名、BASFジャパン株式会社)である。
【0059】
紫外線吸収剤は熱硬化性組成物全量に対して、0.01〜10重量部添加して用いられる。
【0060】
1−4−6.凝集防止剤
本発明の熱硬化性組成物は、固形分を溶剤となじませ、凝集を防止させる観点から凝集防止剤を含んでもよい。
【0061】
凝集防止剤の具体例は、ディスパーベイク(Disperbyk)−145、ディスパーベイク−161、ディスパーベイク−162、ディスパーベイク−163、ディスパーベイク−164、ディスパーベイク−182、ディスパーベイク−184、ディスパーベイク−185、ディスパーベイク−2163、ディスパーベイク−2164、BYK−220S、ディスパーベイク−191、ディスパーベイク−199、ディスパーベイク−2015(いずれも商品名;ビックケミー・ジャパン株式会社)、FTX−218、フタージェント710FM、フタージェント710FS(いずれも商品名、株式会社ネオス)、フローレンG−600、フローレンG−700(いずれも商品名、共栄社化学株式会社)である。
【0062】
凝集防止剤は熱硬化性組成物全量に対して、0.01〜10重量部添加して用いられる。
【0063】
1−4−7.熱架橋剤
本発明の熱硬化性組成物は、耐熱性、耐薬品性、膜面内均一性、可撓性、柔軟性、弾性をさらに向上させる観点から熱架橋剤を含んでもよい。
【0064】
熱架橋剤の具体例は、ニカラックMW−30HM、ニカラックMW−100LM、ニカラックMX−270、ニカラックMX−280、ニカラックMX−290、ニカラックMW−390、ニカラックMW−750LM、(いずれも商品名、(株)三和ケミカル)である。
【0065】
熱架橋剤は熱硬化性組成物全量に対して、0.1〜10重量部添加して用いられる。
【0066】
1−5.熱硬化性組成物の保存
本発明の熱硬化性組成物は、−30℃〜25℃の範囲で保存すると、組成物の経時安定性が良好になる。保存温度が−20℃〜10℃であれば、析出物もなく一層好ましい。
【0067】
2.熱硬化性組成物から形成される硬化膜
本発明の熱硬化性組成物は、重合体(A)、エポキシ基を2つ以上有する化合物(B)、溶剤(C)を混合し、目的とする特性によっては、更にエポキシ硬化剤、界面活性剤、カップリング剤、酸化防止剤、及びその他の添加剤を必要により選択して添加することができる。
【0068】
上記のようにして調製された、熱硬化性組成物(溶剤がない固形状態の場合には溶剤に溶解させた後)を、基体表面に塗布し、例えば加熱等により溶剤を除去すると、塗膜を形成することができる。基体表面への熱硬化性組成物の塗布は、スピンコート法、ロールコート法、ディッピング法、及びスリットコート法等従来から公知の方法により塗膜を形成することができる。次いでこの塗膜はホットプレート、又はオーブン等で仮焼成される。仮焼成条件は各成分の種類及び配合割合によって異なるが、通常70〜150℃で、オーブンなら5〜15分間、ホットプレートなら1〜5分間である。その後、塗膜を硬化させるために本焼成される。本焼成条件は、各成分の種類及び配合割合によって異なるが、通常180〜250℃、好ましくは200〜250℃で、オーブンなら30〜90分間、ホットプレートなら5〜30分間であり、加熱処理することによって硬化膜を得ることができる。
【0069】
このようにして得られた硬化膜は、加熱時において、重合体(A)がエポキシ基を2つ以上有する化合物(B)と反応して三次元ネットワークを形成するために、非常に強靭であり、透明性、耐熱性、耐薬品性、平坦性、密着性に優れている。又、耐光性、耐スパッタ性、耐傷性、塗布性に関しても、同様の理由から、優れることが期待される。したがって、本発明の硬化膜は、カラーフィルター用の保護膜として用いると効果的であり、このカラーフィルターを用いて、液晶表示素子や固体撮像素子を製造することができる。又、本発明の硬化膜は、カラーフィルター用の保護膜以外にも、TFTと透明電極間に形成される透明絶縁膜や透明電極と配向膜間に形成される透明絶縁膜として用いると効果的である。更に、本発明の硬化膜は、LED発光体の保護膜として用いても効果的である。
【実施例】
【0070】
次に本発明を合成例、実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0071】
合成例、実施例、及び比較例に使用した化合物を成分毎に記しておく。
【0072】
[合成例1]重合体(A1)溶液の合成
攪拌機付き四つ口フラスコに、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(EDM)、4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA)、2−アミノエタノール(AE)を下記の重量で仕込み、乾燥窒素気流下150℃で3時間加熱攪拌し、重合体溶液を得た。
EDM 10.01g
ODPA 8.360g
AE 1.646g
【0073】
その後、溶液を室温まで冷却し、淡黄色透明な重合体(A1)の50重量%溶液を得た。溶液の一部をサンプリングし、GPC分析(ポリスチレン標準)により重量平均分子量を測定した。その結果、得られた重合体(A1)の重量平均分子量は3,000であった。
【0074】
[合成例2]重合体(A2)の合成
以下に示すように、3−メトキシプロピオン酸メチル(MMP、仕込み全量の70%を使用)、N−シクロヘキシルマレイミド、無水マレイン酸を攪拌機と冷却器付き四つ口フラスコに仕込み、窒素気流下80℃で加熱攪拌した。次に、ラジカル開始剤V−65(和光純薬工業製)とα−メチルスチレンダイマーの混合物のMMP溶液(仕込み全量の30%を使用)を滴下漏斗に仕込み、1時間かけて滴下重合を行った。その後、80℃で2時間加熱攪拌し、ラジカル共重合体を得た。
MMP 25.90g
N−シクロヘキシルマレイミド 6.464g
無水マレイン酸 3.537g
V−65 0.1000g
α−メチルスチレンダイマー 0.0500g
【0075】
室温まで冷却した後、2−アミノエタノール(AE)を1.102g添加し、150℃で3時間加熱攪拌し、重合体(A2)溶液を得た。溶液の一部をサンプリングし、GPC分析(ポリスチレン標準)により重量平均分子量を測定した。その結果、得られた重合体(A2)の重量平均分子量は16,100であった。
【0076】
[合成例3〜5]重合体(A3)〜(A5)溶液の合成
合成例1、2の方法に準じて、表1に記載の温度、時間、及び割合(単位:g)で各成分を反応させ、重合体溶液を得た。
【0077】
[比較合成例1]ポリエステルアミド酸(R1)溶液の合成
ポリエステルアミド酸を表1に記載の温度、時間、及び割合で反応させ、ポリエステルアミド酸(R1)溶液を得た。ただし、一段階目の反応はODPAと1,4−ブタンジオール(BD)の反応で150℃にて3時間行い、その後、二段目の反応として、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンと反応を120℃にて1時間行った。
【0078】
【表1】
【0079】
表1中に略称で記した、合成例及び比較合成例で使用した化合物は、それぞれ以下の通りである。
ODPA: 4,4’−オキシジフタル酸無水物
CHMI: N−シクロヘキシルマレイミド
IN: インデン
MAH: 無水マレイン酸
AE: 2−アミノエタノール
AEE: 2−(2−アミノエトキシ)エタノール
BD: 1,4−ブタンジオール
mDDS: 3,3’−ジアミノジフェニルスルホン
V−65: 2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル);和光純薬工業(株)製
α−MSD: α−メチルスチレンダイマー
EDM: ジエチレングリコールメチルエチルエーテル
MMP: 3−メトキシプロピオン酸メチル
【0080】
[実施例1]
合成例1で得られた重合体(A1)の50重量%溶液、3官能エポキシ化合物としてVG3101L、硬化剤としてトリメリット酸無水物(TMA)、シランカップリング剤としてS510、酸化防止剤としてADK STAB AO−60、界面活性剤としてF−556、及び希釈溶剤として3−メトキシプロピオン酸メチル(MMP)を表2に記載の割合(重量部)で混合溶解し、メンブランフィルター(孔径0.2μm)で濾過し、熱硬化性組成物を得た。
【0081】
[実施例2〜5及び比較例1]
実施例1の方法に準じて、表2に記載の割合(重量部)で各成分を混合溶解し、熱硬化性組成物を得た。
【0082】
【表2】
【0083】
得られたそれぞれの熱硬化性組成物を用いて、以下に記載する方法で、耐熱性、平坦性、下地密着性を評価した。実施例1〜5の硬化膜の評価結果を表3にまとめて記載した。また、比較例1として、ポリエステルアミド酸を含有する熱硬化性組成物の、耐熱性、平坦化性、下地密着性を評価した。評価結果を表3に合わせて記載した。
【0084】
[耐熱性の評価方法]
得られた熱硬化性組成物をガラス基板上に650rpmで10秒間スピンコートし、80℃のホットプレート上で2分間プリベークした。続いて、オーブン中230℃で30分間熱処理し、硬化膜付きガラス基板を得た。得られた硬化膜付きガラス基板において、段差・表面粗さ・微細形状測定装置(商品名;P−17、KLA TENCOR株式会社)を用いて膜厚を測定し、膜厚が1.5μmになるようにスピンコート条件を調整した。その後、硬化膜付きガラス基板から硬化膜を削り取り、熱重量・示差熱測定装置(TG−DTA)にて230℃で60分間ホールド測定を行い、230℃到達時からの重量減少が0.5%以下であった場合○、それ以上であった場合を×として、実測値と共に示した。
【0085】
[平坦性の評価方法]
予め段差・表面粗さ・微細形状測定装置(商品名;P−17、KLA TENCOR株式会社)を用いて表面段差を測定したレジストパターンを含む凹凸基板(ライン100μm、スペース50μm、膜厚1μmのパターン基板)上に、得られた熱硬化性組成物を650rpmで10秒間スピンコートし、80℃のホットプレート上で2分間プリベークした。続いてオーブン中230℃で30分間熱処理し、保護膜の平均膜厚1.5μmである硬化膜付きカラーフィルター基板を得た。その後、得られた硬化膜付きカラーフィルター基板に対して、表面段差を測定した。硬化膜無しカラーフィルター基板及び硬化膜付きカラーフィルター基板の表面段差の最大値(以下、「最大段差」と略記)から、下記計算式を用いて平坦化率を算出し、結果を表3に示した。平坦性の結果は、100〜80%を◎、79〜60%を○、60%未満を×と評価した。

平坦化率(%)=((凹凸基板の最大段差−硬化膜付き凹凸基板の最大段差)/凹凸基板の最大段差)×100
【0086】
[密着性の評価方法]
得られた熱硬化性組成物を凹凸基板上(ライン:100μm、スペース:50μm、膜厚:1.0μm)に650rpmで10秒間スピンコートし、80℃のホットプレート上で2分間プリベークした。続いてオーブン中230℃で30分間熱処理し、硬化膜付きガラス基板を得た。得られた硬化膜付き凹凸基板と、同様に作製した硬化膜付きガラス基板の両者において、クロスカット試験(JIS K 5400、剥離テープ:3M製No.361使用)を行い、以下の分類0〜5に従って評価し、分類0〜1を○、分類2〜3を△、分類4〜5を×とした。

<分類0>・・・カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない。
<分類1>・・・カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に5%を上回ることはない。
<分類2>・・・塗膜がカットの縁に沿って,及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
<分類3>・・・塗膜がカットの縁に沿って,部分的又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は目のいろいろな部分が,部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
<分類4>・・・塗膜がカットの縁に沿って,部分的又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に35%を上回ることはない。
<分類5>・・・分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0087】
[透明性の評価方法]
得られた熱硬化性組成物をガラス基板上に650rpmで10秒間スピンコートし、80℃のホットプレート上で2分間プリベークした。続いて、オーブン中230℃で30分間熱処理し、膜厚1.5μmである硬化膜付きガラス基板を得た。得られた硬化膜付きガラス基板において、紫外可視近赤外分光光度計(商品名;V−670、日本分光株式会社)により硬化膜の400nmにおける光透過率を測定した。この場合、リファレンスとしてガラス基板のみを用い、硬化膜単体の光透過率を算出した(この場合、多重反射による干渉は考慮しない)。光透過率が98%以上の場合を透明性○、透過率が95%未満の場合を透明性×、その間を△と評価した。
【0088】
表3に示した結果から明らかなように、実施例1〜5の熱硬化性組成物は、耐熱性、平坦性、密着性、透明性を満足することがわかる。一方で、比較例1ではすべての特性を満足することはできなかった。
【0089】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の熱硬化性組成物より得られた硬化膜は、耐熱性、平坦性、下地密着性がいずれも良好であり、カラーフィルター、LED発光素子及び受光素子等の各種光学材料等の保護膜、並びに、TFTと透明電極間及び透明電極と配向膜間に形成される絶縁膜として利用できる。