特許第6947124号(P6947124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6947124硬化性シリコーンゲル組成物及びシリコーンゲル硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6947124
(24)【登録日】2021年9月21日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】硬化性シリコーンゲル組成物及びシリコーンゲル硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20210930BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20210930BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K9/06
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-102933(P2018-102933)
(22)【出願日】2018年5月30日
(65)【公開番号】特開2019-206658(P2019-206658A)
(43)【公開日】2019年12月5日
【審査請求日】2020年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 正
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 俊介
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−153969(JP,A)
【文献】 特開昭57−044659(JP,A)
【文献】 特開2013−076101(JP,A)
【文献】 特開2003−165906(JP,A)
【文献】 特開2013−082907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00− 101/14
C08K 3/00− 13/08
H01L 23/28− 23/30
C09J 9/00− 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(E)成分、
(A)下記一般式(1)
【化1】
(式中、xは30〜1,000の整数、yは0〜50の整数である。R1はメチル基又はフェニル基であり、Phはフェニル基である。)
で表される、ケイ素原子に結合したビニル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有する直鎖状オルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)(H(R)2SiO1/2)単位とSiO4/2単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(式中、Rは脂肪族不飽和結合を除く非置換又は置換1価炭化水素基を示す。):0.01〜10質量部、
(C)下記一般式(2)
【化2】
[式中、mは0又は1であり、nは1〜500の整数である。Zは下記一般式(3)
【化3】
(式中、nは上記の通りである。)
で示される基である。]
で表される、ケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1〜50質量部、
(D)付加反応触媒:有効量、
(E)表面が、疎水化処理度(理論値)10〜90%である部分的に疎水化処理された煙霧質シリカ:0.1〜50質量部
を含有する硬化性シリコーンゲル組成物であって、(B)成分の配合量(質量)が(C)成分の配合量(質量)より少なく、かつ、硬化して得られる硬化物の針入度がJIS K2220において10〜100であるシリコーンゲル硬化物を与えるものである硬化性シリコーンゲル組成物。
【請求項2】
(A)成分中のケイ素原子に結合したビニル基に対する(B)成分及び(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計が、モル比で0.4〜1.2である請求項1に記載の硬化性シリコーンゲル組成物。
【請求項3】
(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子(Hc)に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子(Hb)のモル比が、0.1≦(Hb/Hc)≦2.0の範囲内である請求項1又は2に記載の硬化性シリコーンゲル組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物からなるシリコーンゲル硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性シリコーンゲル組成物に関し、特には、良好な流動性を有し、比較的低温にて硬化することが可能で、かつ硬化後のシリコーンゲル硬化物が柔軟であり、衝撃に対して破壊されにくいシリコーンゲル硬化物が得られる付加反応硬化型の硬化性シリコーンゲル組成物、及び該組成物の硬化物からなるシリコーンゲル硬化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、付加反応硬化型の硬化性シリコーンゲル組成物は、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、ケイ素原子に結合したビニル基等のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン及び付加反応触媒を含有し、前記ケイ素原子に結合した水素原子のアルケニル基への付加反応により硬化物を得る付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物として調製される。この硬化性シリコーンゲル組成物を加熱して付加反応を進行することにより硬化(架橋)したシリコーンゲル硬化物は、耐熱性、耐候性、耐油性、耐寒性、電気絶縁性等に優れ、低弾性率かつ低応力であることにより、車載電子部品、民生用電子部品等の電子部品の保護に用いられている。シリコーンゲル硬化物の特徴である低弾性率かつ低応力であることは、他のエラストマー製品には見られない。また、近年では、車載電子部品や民生用電子部品の高信頼性化などの要求から、封止に用いられるシリコーンゲル材料に対しては、広い温度領域でも低弾性率を維持できる材料の要求が高まっている。
【0003】
防振特性を有するシリコーンゲル硬化物は、電子部品を衝撃や振動から保護するために用いられている。このようなシリコーンゲル硬化物を形成するための硬化性シリコーンゲル組成物として、例えば、特開平3−139565号公報(特許文献1)では、1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン、R13SiO1/2単位、R122SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなり、R13SiO1/2単位とR122SiO1/2単位の合計モル数とSiO4/2単位のモル比が(0.6:1)〜(4.0:1)の範囲内であるケイ素原子結合アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンレジン、少なくとも分子鎖両末端にケイ素原子結合水素原子を含有するジオルガノポリシロキサン及びヒドロシリル化反応用触媒からなる硬化性オルガノポリシロキサン(シリコーン)ゲル組成物が提案されている。
【0004】
また、特開平6−234922号公報(特許文献2)では、一分子中に含有されるケイ素原子に結合した有機基中、平均0.15〜0.35モル%がアルケニル基であるオルガノポリシロキサン、非官能性オルガノポリシロキサン、ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に平均2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び付加反応触媒を含有してなる硬化性の低弾性率シリコーンゲル組成物が提案されている。
【0005】
また、特開平5−209127号公報(特許文献3)では、1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を含有し、環状ジオルガノシロキサンの含有量が0.5重量%以下であるジオルガノポリシロキサン、ケイ素原子結合アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンレジン、分子鎖両末端にケイ素原子結合水素原子を含有するジオルガノポリシロキサン、ヒドロシリル化反応用触媒及び無機質充填剤からなる硬化性オルガノポリシロキサン(シリコーン)ゲル組成物も提案されている。
【0006】
さらに、特開平08−225743号公報(特許文献4)では、一分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン、R3SiO1/2単位とSiO4/2単位を(R3SiO1/2a(SiO4/21.0のように含むオルガノポリシロキサンレジン、一分子中に平均2個以上のケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノポリシロキサン、ヒドロシリル化反応用触媒からなる硬化性のシリコーンゲル組成物も提案されている。
【0007】
しかし、特開平3−139565号公報、特開平6−234922号公報、特開平5−209127号公報、特開平08−225743号公報において提案された硬化性シリコーンゲル組成物を硬化して得られるシリコーンゲル硬化物は、高い温度を加えなければ、シリコーンゲル硬化物を得ることができないという問題があった。また、得られるシリコーンゲル硬化物の柔軟性は確保できるものの、強い衝撃に対してシリコーンゲル硬化物が破壊してしまうという問題が残り、可動変位が大きい分野への応用や手芸用途への応用は不適とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−139565号公報
【特許文献2】特開平6−234922号公報
【特許文献3】特開平5−209127号公報
【特許文献4】特開平08−225743号公報
【特許文献5】米国特許第3,220,972号明細書
【特許文献6】米国特許第3,159,601号明細書
【特許文献7】米国特許第3,159,662号明細書
【特許文献8】米国特許第3,775,452号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、良好な流動性を有し、比較的低温にて硬化することが可能で、かつ硬化後のシリコーンゲル硬化物が柔軟であり、衝撃に対して破壊されにくいシリコーンゲル硬化物が得られる硬化性シリコーンゲル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ベースポリマーとしてケイ素原子に結合したビニル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有する直鎖状オルガノポリシロキサンと、(H(R)2SiO1/2)で示されるジオルガノハイドロジェンシロキシ単位とSiO4/2単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサンレジン)と、ケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、付加反応触媒と、特定の疎水化処理度を有する部分的に表面疎水化処理された煙霧質シリカとを含有してなり、上記三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量(質量)が直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量(質量)より少ない硬化性シリコーンゲル組成物を付加反応により硬化させ、得られる硬化物の針入度がJIS K2220において10〜100である硬化性シリコーンゲル組成物は、流動性が良好で、比較的低温においても素早く反応が進行し、短時間でシリコーンゲル硬化物を得ることができ、かつ上述した煙霧質シリカを配合することで、得られるシリコーンゲル硬化物が柔軟であり、衝撃に対して破壊されにくいシリコーンゲル硬化物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記の硬化性シリコーンゲル組成物及びシリコーンゲル硬化物を提供する。
[1]
下記(A)〜(E)成分、
(A)下記一般式(1)
【化1】
(式中、xは30〜1,000の整数、yは0〜50の整数である。R1はメチル基又はフェニル基であり、Phはフェニル基である。)
で表される、ケイ素原子に結合したビニル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有する直鎖状オルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)(H(R)2SiO1/2)単位とSiO4/2単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(式中、Rは脂肪族不飽和結合を除く非置換又は置換1価炭化水素基を示す。):0.01〜10質量部、
(C)下記一般式(2)
【化2】
[式中、mは0又は1であり、nは1〜500の整数である。Zは下記一般式(3)
【化3】
(式中、nは上記の通りである。)
で示される基である。]
で表される、ケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1〜50質量部、
(D)付加反応触媒:有効量、
(E)表面が、疎水化処理度(理論値)10〜90%である部分的に疎水化処理された煙霧質シリカ:0.1〜50質量部
を含有する硬化性シリコーンゲル組成物であって、(B)成分の配合量(質量)が(C)成分の配合量(質量)より少なく、かつ、硬化して得られる硬化物の針入度がJIS K2220において10〜100であるシリコーンゲル硬化物を与えるものである硬化性シリコーンゲル組成物。
[2]
(A)成分中のケイ素原子に結合したビニル基に対する(B)成分及び(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計が、モル比で0.4〜1.2である[1]に記載の硬化性シリコーンゲル組成物。
[3]
(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子(Hc)に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子(Hb)のモル比が、0.1≦(Hb/Hc)≦2.0の範囲内である[1]又は[2]に記載の硬化性シリコーンゲル組成物。
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載の硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物からなるシリコーンゲル硬化物。
【0012】
なお、本発明において、シリコーンゲル硬化物とは、オルガノポリシロキサンを主成分とする架橋密度の低い硬化物であって、JIS K2220(1/4コーン)による針入度が10〜100のものを意味する。これは、JIS K6253によるゴム硬度測定では測定値(ゴム硬度値)が0となり、有効なゴム硬度値を示さない程低硬度(即ち、軟らか)で低架橋密度であり、かつ、低弾性(低応力性)であるオルガノポリシロキサン硬化物に相当し、この点において、いわゆるシリコーンゴム硬化物(ゴム状弾性体)とは別異のものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の硬化性シリコーンゲル組成物は、特に良好な流動性を有し、比較的低温にて硬化することが可能で、かつ硬化後のシリコーンゲル硬化物が柔軟であり、衝撃に対して破壊されにくいシリコーンゲル硬化物が得られるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の硬化性シリコーンゲル組成物は、下記の(A)〜(E)成分を必須成分として含有してなるものである。
以下、各成分について詳細に説明する。なお、本明細書において、粘度は25℃における値である。
【0015】
〔(A)オルガノポリシロキサン〕
(A)成分は、本発明の硬化性シリコーンゲル組成物の主剤(ベースポリマー)である。該(A)成分は、下記一般式(1)で表される、ケイ素原子に結合したビニル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有する直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【化4】
(式中、xは30〜1,000の整数、yは0〜50の整数である。R1はメチル基又はフェニル基であり、Phはフェニル基である。)
【0016】
上記式(1)中、xは30〜1,000の整数であることが必要であり、好ましくは50〜800の整数、より好ましくは100〜750の整数である。xが30未満であると、(A)成分のオルガノポリシロキサンの粘度が低くなってしまい、またxが1,000を超えると、逆に(A)成分のオルガノポリシロキサンの粘度が高くなってしまうため、作業性に悪影響を与える。
【0017】
yは0〜50の整数であることが必要であり、特に、−40℃以下の条件においても弾性率変化が小さいシリコーンゲル硬化物が必要とされる場合には、yの値は3〜30の整数であることが好ましい。ここでyが3未満となると、期待する耐寒性能を得ることができない可能性がある。上記のような低温条件下での使用が想定されない場合は、yの値は0であってもよい。また、yが50を超える数値であると、(A)成分のオルガノポリシロキサンの粘度が高くなってしまうため、作業性に悪影響を与える他、フェニル基が多すぎるため泡抜けが悪い、即ち脱泡性が悪くなるおそれがある。
【0018】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの粘度は特に限定されないが、組成物の取扱作業性、得られるシリコーンゲル硬化物の強度、及び流動性が良好となる点から、25℃における粘度が50〜300,000mPa・sであることが好ましく、100〜100,000mPa・sであることがより好ましく、500〜50,000mPa・sであることが特に好ましく、1,000〜30,000mPa・sであることがさらに好ましい。なお、本発明において、粘度は、回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)により測定することができる(以下、同じ)。また、重合度(又は分子量)は、例えば、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0019】
また(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
〔(B)三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサンレジン)〕
本発明の(B)成分は、(H(R)2SiO1/2)単位(以下、MH単位と記す)とSiO4/2単位(以下、Q単位と記す)を必須構成単位として含有する三次元網状構造(樹脂状又はレジン状)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(式中、Rは脂肪族不飽和結合を除く非置換又は置換1価炭化水素基を示す。)であり、本発明の硬化性シリコーンゲル組成物が架橋する際の架橋剤(硬化剤)として作用すると同時に、硬化性シリコーンゲル組成物から得られるシリコーンゲル硬化物に柔軟性と耐衝撃性を付与するための必須成分である。(B)成分の三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子内に2個以上のMH単位(即ち、2個以上のSiH基(ケイ素原子に結合した水素原子))と1個以上のQ単位を含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのことを指す。
【0021】
ここで、MH単位とQ単位は必須構成単位であるが、分子内に(CH33SiO1/2単位(以下M単位)、(CH3)SiO3/2単位(以下T単位)、HSiO3/2単位(以下TH単位)を任意に含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いても、本発明の効果を十分得ることが可能である。
【0022】
なお、分子中におけるQ単位に対するMH単位のモル比;[MH]/[Q]は、0.3〜1.5、特に0.5〜1.2程度であることが好ましく、また、分子中における全シロキサン単位に対するMH単位とQ単位との合計は、50モル%以上(即ち、50〜100モル%)、特に75モル%以上(75〜100モル%)であることが好ましい。
従って、前記の任意構成単位であるM単位、T単位及びTH単位の合計は、50モル%以下(0〜50モル%)、特に25モル%以下(0〜25モル%)であることが望ましい。
【0023】
(B)成分の三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度は特に限定されないが、25℃における粘度が5〜500mPa・sであることが好ましく、10〜300mPa・sであることがより好ましい。(B)成分の粘度が低すぎると(B)成分の配合量の微量な変化によって得られるシリコーンゲル硬化物の物性が大きく変化する場合があり、高すぎると(B)成分の配合量を大きく変えないと所望のシリコーンゲル硬化物の物性に制御できなかったり、コスト的にも不利になったりする場合がある。
【0024】
(B)成分の三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのSiH基量(濃度)は、0.001〜0.1mol/gであることが好ましく、0.005〜0.03mol/gであることがより好ましい。(B)成分のSiH基量が少なすぎると架橋点が少なすぎて目的とするシリコーンゲル硬化物が得られない場合があり、多すぎると架橋点が多すぎるため、得られるシリコーンゲル硬化物が硬くなったり、ゴム状(弾性体)になってしまう場合がある。
【0025】
また(B)成分のMH単位とQ単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
(B)成分の添加量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.01〜10質量部の範囲であり、0.1〜5質量部の範囲であることが好ましい。0.01質量部未満であると、得られるシリコーンゲル硬化物が軟らかすぎたり、最悪の場合は硬化物が得られないおそれがある。また、10質量部を超えると、得られるシリコーンゲル硬化物の柔軟性が損なわれたり、架橋点が多すぎるために得られるシリコーンゲル硬化物が脆くなる。
【0027】
〔(C)ケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン〕
次に、本発明の(C)成分は、上記(A)、(B)成分と反応し、相互を架橋させる架橋剤として作用するものである。該(C)成分は、下記一般式(2)
【化5】
[式中、mは0又は1であり、nは1〜500の整数である。Zは下記一般式(3)
【化6】
(式中、nは上記の通りである。)
で示される基である。]
で表される、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【0028】
上記式(2)中、mは0もしくは1のどちらかである。これは、使用する(B)成分のMH単位とQ単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中の含有SiH基量や(B)成分の三次元網状構造の違いにより、得られるシリコーンゲル硬化物の硬度が変化することがあるため、これを調整しやすくするものである。mが2以上の場合は得られるシリコーンゲル硬化物の柔軟性が低下するほか、得られるシリコーンゲル硬化物が脆くなってしまう。
【0029】
また、nは1〜500の整数であることが必要であり、好ましくは3〜300の整数、より好ましくは5〜100の整数、さらに好ましくは10〜50の整数である。nが1未満であると、(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度が低くなり、作業性が悪くなるほか、得られるシリコーンゲル硬化物が硬すぎたりするおそれがある。またnが500を超える数値であると、(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度が高くなってしまうため、作業性に悪影響を与える。
【0030】
(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度は特に限定されないが、25℃における粘度が5〜500mPa・sであることが好ましく、10〜300mPa・sであることがより好ましい。(C)成分の粘度が低すぎると(C)成分の配合量の微量な変化によって得られるシリコーンゲル硬化物の物性が大きく変化する場合があり、高すぎると(C)成分の配合量を大きく変えないと所望のシリコーンゲル硬化物の物性に制御できなかったり、コスト的にも不利になったりする場合がある。
【0031】
(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンのSiH基量は、作業性を考慮する点から、0.0001〜0.01mol/gであることが好ましく、0.0002〜0.005mol/gであることがより好ましい。
【0032】
また(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いてもよいし、mもしくはnの数値が全く異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの添加量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.1〜50質量部の範囲であり、0.5〜20質量部の範囲であることが好ましい。0.1質量部未満であると、得られるシリコーンゲル硬化物が軟らかすぎたり、最悪の場合は硬化物が得られないおそれがある。また、50質量部を超えると、得られるシリコーンゲル硬化物の柔軟性が損なわれたり、シリコーンゲル硬化物の硬度が高くなりすぎたりする。
【0034】
ここで、(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン中に含まれるSiH基(Hc)に対する前述した(B)成分のMH単位とQ単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中に含まれるSiH基(Hb)のモル比としては、0.1≦(Hb/Hc)≦2.0、特に0.15≦(Hb/Hc)≦1.9の範囲内であることが望ましい。これは、(Hb/Hc)が0.1未満の場合、架橋点として(B)成分が導入される比率が少なくなるため、得られるシリコーンゲル硬化物が十分に架橋することができなくなったり、強度が低いシリコーンゲル硬化物となったりする。また、逆に(Hb/Hc)が2.0を超える場合、得られるシリコーンゲル硬化物の柔軟性が損なわれたり、架橋点が多すぎるために得られるシリコーンゲル硬化物が脆くなる。
【0035】
また、前述した(A)成分のオルガノポリシロキサン中のケイ素原子に結合したビニル基(Vi)に対し、前述した(B)成分のMH単位とQ単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンと(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンに含まれる合計SiH基(H)の比が、モル比でH/Vi=0.4〜1.2の範囲内であることが好ましく、特にH/Vi=0.6〜1.1の範囲内であることがより好ましい。H/Vi=0.4未満の場合、得られるシリコーンゲル硬化物が軟らかすぎたり、最悪の場合は硬化物が得られないおそれがある。また、H/Vi=1.2を超えると、得られるシリコーンゲル硬化物の柔軟性が損なわれたり、架橋点が多すぎるために得られるシリコーンゲル硬化物が脆くなる可能性が高く、さらにH/Viが高値となると、SiH基が大過剰となるため、得られるシリコーンゲル硬化物が軟らかくなったり、経時で発泡したりする場合がある。
【0036】
〔(D)付加反応触媒〕
次に、(D)成分の付加反応触媒については、前記ビニル基とケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として白金族金属系触媒等の周知の触媒が挙げられる。
【0037】
この白金族金属系触媒としては、ヒドロシリル化反応触媒として公知のものが全て使用できる。例えば、白金黒、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・zH2O、H2PtCl6・zH2O、NaHPtCl6・zH2O、KHPtCl6・zH2O、Na2PtCl6・zH2O、K2PtCl4・zH2O、PtCl4・zH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・zH2O(式中、zは0〜6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(例えば、前掲の特許文献5参照)、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(例えば、前掲の特許文献6〜8参照)、白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム−オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。これらの中で、好ましいものとして、相溶性の観点及び塩素不純物の観点から、塩化白金酸をシリコーン変性したものが挙げられ、具体的には例えば塩化白金酸をテトラメチルジビニルジシロキサンで変性した白金触媒が挙げられる。
【0038】
(D)成分の添加量は、触媒としての有効量(いわゆる触媒量)でよく、好適には、(A)、(B)、(C)成分の合計量に対し、白金原子の質量換算で0.1〜1,000ppm、好ましくは0.5〜300ppm、より好ましくは1〜100ppmである。
【0039】
〔(E)表面が部分的に疎水化処理された煙霧質シリカ〕
次に(E)成分である煙霧質シリカは、本組成物を硬化させた際に得られるシリコーンゲル硬化物に耐衝撃性を付与させるための補強性充填剤としての特定の煙霧質シリカ(ヒュームドシリカ)を指す。ここで用いる煙霧質シリカは、未処理の煙霧質シリカの表面に存在するシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)の一部が、特定の疎水化処理度の範囲内に部分的に表面疎水化処理された煙霧質シリカであって、下記の疎水化処理度(理論値)が、計算上、5〜90%、好ましくは10〜70%、より好ましくは15〜50%(理論値)の範囲内で表面疎水化処理された煙霧質シリカを使用する。
【0040】
本発明において、疎水化処理度(理論値)とは、配合する煙霧質シリカが表面未処理の煙霧質シリカである場合に該表面未処理の煙霧質シリカの表面全体に存在する水酸基の合計モル量に対する、疎水化処理剤によって疎水化された水酸基のモル量の比率を意味するものであって、計算上、下記の式によって算出することができる。この疎水化処理剤は、本発明の組成物に配合する前に予め煙霧質シリカを表面疎水化処理する際に使用した疎水化処理剤であっても、あるいは、本発明の組成物を調製する際に、該組成物中で表面未処理の煙霧質シリカを表面疎水化処理するために組成物中に同時に配合する疎水化処理剤であってもよい。即ち、本発明の(E)成分である表面が部分的に疎水化処理された煙霧質シリカは、本発明の組成物に配合される前に予め部分的に表面疎水化処理されたものであってもよく、また、本発明の組成物を調製する際に、該組成物中で部分的に表面疎水化処理されたものであってもよい。なお、該表面疎水化処理は、通常、表面未処理の煙霧質シリカと疎水化処理剤とを、好ましくは密閉容器内で、また水の存在下で、加熱下に均一に混合処理することによって行うことができる。
【0041】
疎水化処理度(理論値;モル%)=[疎水化処理剤の当量]/{[煙霧質シリカの表面積の合計(m2)]×[表面未処理の煙霧質シリカ単位面積当たりの水酸基密度(OH個数/m2)]÷[6.02×1023]+[系内の水分(モル量)]}×100(%)
なお、[煙霧質シリカの表面積の合計(m2)]=[煙霧質シリカの比表面積(m2/g)]×[煙霧質シリカの配合量(g)]、
[表面未処理の煙霧質シリカ単位面積当たりの水酸基密度]=2.5×1018(OH個数/m2*
として算出する。
*「ヒュームドシリカ エアロジルの基本特性」(エボニック デグッサ)
(tb-11-basic-characteristics-of-aerosil-fumed-silica-ja)
37頁、3.6.2.1リチウムアルミニウムハイドライド法(LiAlH4法)より
【0042】
従って、本発明において、計算上、表面未処理(即ち、疎水化処理度(理論値)=0%)の煙霧質シリカ単位面積当たりの水酸基密度は2.5個(OH/nm2)、完全疎水化処理(即ち、疎水化処理度(理論値)=100%)の煙霧質シリカ単位面積当たりの水酸基密度は0個(OH/nm2)であり、部分的に表面疎水化処理された煙霧質シリカは、例えば、疎水化処理度(理論値)=5%の場合、単位面積当たりの水酸基密度=2.375個(OH/nm2)、疎水化処理度(理論値)=90%の場合、単位面積当たりの水酸基密度=0.25個(OH/nm2)であることを意味する。
【0043】
煙霧質シリカの疎水化処理度が90%より高い場合、得られるシリコーンゲル硬化物の補強効果(引裂強度等)が低下してしまう。また、得られるシリコーンゲル硬化物は該部分疎水化処理煙霧質シリカの配合量に強度が依存し、十分な強度を得るためには該部分疎水化処理煙霧質シリカの配合量を多くする必要がある。また逆に、用いる煙霧質シリカの疎水化処理度が5%より低い場合、得られるシリコーンゲル組成物の水酸基が多いため、シリコーンゲル組成物内の煙霧質シリカの水酸基が疑似架橋を起こすため、得られるシリコーンゲル組成物の粘度が、経時で極度に上昇(増粘)したり、非流動性へと性状変化することがある。そして、得られるシリコーンゲル硬化物は煙霧質シリカの水酸基が多いため、柔軟性が低いシリコーンゲル硬化物となったり、疑似架橋が崩壊すると粘性に富んだシリコーンゲル硬化物になったりするため、安定的なシリコーンゲル硬化物になりにくい。上記のように、煙霧質シリカの疎水化処理度は、得られるシリコーンゲル組成物の流動性と得られるシリコーンゲル硬化物の耐衝撃性に非常に密接な関係がある。
【0044】
ここで、表面未処理の煙霧質シリカの比表面積(BET吸着法による)は、50〜400m2/gの範囲内が好ましく、130〜300m2/gの範囲内がより好ましい。比表面積が小さすぎると十分な補強効果が得られないため、得られるシリコーンゲル硬化物の強度が低下する場合があり、大きすぎると未硬化時のシリコーンゲル組成物の粘度が上昇してしまうため、作業性が低下する場合がある。
【0045】
本発明に用いられる表面処理剤としては、オルガノシラザン(ヘキサメチルジシラザン、オクタメチルトリシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジメチル−1,1,3,3−テトラビニルジシラザンなど)、オルガノクロロシラン(メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランなど)、オルガノシロキサン(ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジメチル−1,1,3,3−テトラビニルジシロキサンなど)、オルガノアルコキシシラン(メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシランなど)の中から選ばれることが好ましく、その中でもオルガノシラザン、オルガノアルコキシシランを使用することが特に好ましい。また場合により、表面処理剤に加えて、任意に水を配合することもできる。
【0046】
なお、(E)成分の表面が部分的に所定の処理度(5〜90%)に疎水化処理された煙霧質シリカを調製する際に使用する表面処理剤の種類とその量及び水の量は、組成物中に配合する表面未処理の煙霧質シリカの配合量と比表面積から算出される表面OH基の総量に基づく上記疎水化処理度(理論値)の式における疎水化処理度が5〜90%となるような種類と量で、表面処理剤の種類とその量及び水の量を適宜選択すればよい。
【0047】
煙霧質シリカの表面疎水化処理方法は特に限定されないが、上記(A)成分と表面未処理の煙霧質シリカ、表面処理剤及び場合により水を配合して、加熱下に均一に混合して、表面が部分的に疎水化処理された煙霧質シリカが(A)成分中に均一に分散したマスターバッチとすることにより、組成物の調製と同時に(あるいは調製の途中で)、煙霧質シリカ表面の水酸基を処理する方法がより好ましい。
上記加熱温度としては100〜200℃、特に130〜180℃が好ましく、加熱時間としては、0.5〜10時間、特に1〜5時間が好ましい。
【0048】
(E)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲であり、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは5〜25質量部の範囲である。0.1質量部未満では十分な補強性が得られないため、得られるシリコーンゲル硬化物が衝撃に対し破壊されてしまう問題を生じ、その逆に50質量部を超えると、得られるシリコーンゲル組成物の粘度が高くなり、作業性が悪化する。
【0049】
〔その他の任意成分〕
本発明の硬化性シリコーンゲル組成物には、上記(A)〜(E)成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で任意成分を配合することができる。この任意成分としては、例えば、反応抑制剤、煙霧質シリカ以外の無機質充填剤、ケイ素原子結合水素原子及びケイ素原子結合アルケニル基等のヒドロシリル化付加反応に関与する官能性基を含有しない無官能性のオルガノポリシロキサン(例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンなどのいわゆるシリコーンオイル等)、耐熱性付与剤、難燃性付与剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0050】
反応抑制剤は、上記硬化性シリコーンゲル組成物の反応を抑制するための成分であって、具体的には、例えば、アセチレン系、アミン系、カルボン酸エステル系、亜リン酸エステル系等の反応抑制剤が挙げられる。
【0051】
煙霧質シリカ以外の無機質充填剤としては、例えば、結晶性シリカ、沈降性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機質充填剤;これらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物で部分的に表面疎水化処理した充填剤等が挙げられる。また、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等を配合してもよい。
【0052】
〔硬化性シリコーンゲル組成物の硬化〕
本発明の硬化性シリコーンゲル組成物は、上記(A)〜(E)成分(任意成分が配合される場合には、任意成分も含む)を常法に準じて混合することにより調製することができる。その際に、混合される成分を必要に応じて2パート又はそれ以上のパートに分割して混合してもよく、例えば、(A)成分の一部及び(D)成分及び(E)成分からなるパートと、(A)成分の残分と、(B)成分、(C)成分からなるパートとに分割して混合することも可能である。常温にて未硬化組成物を保管する際は、(A)成分の一部及び(D)成分及び(E)成分からなるパートと、(A)成分の残分と、(B)成分、(C)成分からなるパートとに分割することがより好ましい。その後、本発明の硬化性シリコーンゲル組成物を常温もしくは用途に応じた温度条件下で硬化させることによりシリコーンゲル硬化物が得られる。
【0053】
本発明の硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物は、JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度が10〜100であることが好ましく、より好ましくは15〜90、さらに好ましくは20〜80である。針入度が10未満になると、得られるシリコーンゲル硬化物の硬さが硬すぎるため、使用できる用途に制限を生じる。また逆に、針入度が100を超えると、得られるシリコーンゲル硬化物が軟らかすぎるため、形状保持性が低下したり、衝撃に対して耐えられる強度を得ることができなかったりする。なお、本発明の硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物の針入度を上記範囲とするためには、上記(A)〜(E)成分を所定の配合比率で均一に混合した組成物を調製し、該組成物を通常の条件で硬化させることによって達成できる。
【0054】
本発明の硬化性シリコーンゲル組成物は、可動変異が大きい分野(電気電子用途、防水シール用途、建築用途、模型用途など)や手芸用途(ホビー用途、玩具用途など)に用いることが好適である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表し、「Vi」は「ビニル基」を表す。粘度は、25℃の条件において回転粘度計により測定した。針入度は、JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度であり、離合社製自動針入度計RPM−101を用いて測定した。
【0056】
[実施例1]
(A)成分である、下記式(4);
【化7】
で示される25℃での粘度が30,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを100部、(A)成分である、下記式(5);
【化8】
で示される25℃での粘度が5,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを120部、ヘキサメチルジシラザンを9.0部及び水2.2部を加えて混合したのち、比表面積が約300m2/gである表面未処理の煙霧質シリカ(商品名;アエロジル300(エボニック社製))を45部入れ、密閉容器内で均一に混合したのち、160〜170℃にて約4時間熱処理混合を行って部分的に煙霧質シリカの表面疎水化を行うと共に、該部分疎水化処理煙霧質シリカがジメチルポリシロキサン中に均一に分散したマスターバッチを調製した(計算上の疎水化処理度(理論値);約62%、水酸基密度=約0.95個(OH/nm2))。その後、上記にて得られたマスターバッチに、25℃での粘度が30mPa・sである両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(任意成分)を215部及び白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.30部入れ、均一に攪拌した。その後、(B)成分である、25℃での粘度が40mPa・s、SiH量が0.0102mol/gであるMH単位とQ単位を含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを0.35部、(C)成分である、下記式(6);
【化9】
で示される25℃での粘度が17mPa・s、SiH量が0.00136mol/gであるオルガノハイドロジェンポリシロキサン5.6部を均一に混合したのち、真空脱泡機にて脱気し、組成物1を得た((C)成分>(B)成分、(Hb/Hc)=0.47、H/Vi=1.04)。得られた組成物1を23℃で24時間硬化したところ、針入度50のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0057】
[実施例2]
(A)成分である、下記式(7);
【化10】
で示される25℃での粘度が30,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを100部、ヘキサメチルジシラザンを2.5部及び水0.6部を加えて混合したのち、比表面積が約300m2/gである表面未処理の煙霧質シリカ(商品名;アエロジル300(エボニック社製))を12部入れ、密閉容器内で均一に混合したのち、160〜170℃にて約4時間熱処理混合を行って部分的に煙霧質シリカの表面疎水化を行うと共に、該部分疎水化処理煙霧質シリカがジメチルポリシロキサン中に均一に分散したマスターバッチを調製した(計算上の疎水化処理度(理論値);約64%、水酸基密度=約0.90個(OH/nm2))。その後、上記にて得られたマスターバッチに25℃での粘度が30mPa・sである両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(任意成分)を55部及び白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.17部入れ、均一に攪拌した。その後、(B)成分である、25℃での粘度が40mPa・s、SiH量が0.0102mol/gであるMH単位とQ単位を含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを0.17部、(C)成分である、下記式(8);
【化11】
で示される25℃での粘度が35mPa・s、SiH量が0.00065mol/gであるオルガノハイドロジェンポリシロキサン1.7部を均一に混合したのち、真空脱泡機にて脱気し、組成物2を得た((C)成分>(B)成分、(Hb/Hc)=1.57、H/Vi=0.79)。得られた組成物2を23℃で24時間硬化したところ、針入度50のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0058】
[実施例3]
(A)成分である、下記式(9);
【化12】
で示される25℃での粘度が1,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを100部、ヘキサメチルジシラザンを2.5部及び水0.6部を加えて混合したのち、比表面積が約300m2/gである表面未処理の煙霧質シリカ(商品名;アエロジル300(エボニック社製))を9部入れ、密閉容器内で均一に混合したのち、160〜170℃にて約4時間熱処理混合を行って部分的に煙霧質シリカの表面疎水化を行うと共に、該部分疎水化処理煙霧質シリカがジメチルポリシロキサン中に均一に分散したマスターバッチを調製した(計算上の疎水化処理度(理論値);約70%、水酸基密度=約0.75個(OH/nm2))。その後、上記にて得られたマスターバッチに白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.15部入れ、均一に攪拌した。その後、(B)成分である、25℃での粘度が40mPa・s、SiH量が0.0102mol/gであるMH単位とQ単位を含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを0.20部、(C)成分である、下記式(10);
【化13】
で示される25℃での粘度が17mPa・s、SiH量が0.00136mol/gであるオルガノハイドロジェンポリシロキサン5.2部を均一に混合したのち、真空脱泡機にて脱気し、組成物3を得た((C)成分>(B)成分、(Hb/Hc)=0.29、H/Vi=0.75)。得られた組成物3を23℃で24時間硬化したところ、針入度50のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0059】
[比較例1]
(A)成分である、下記式(11);
【化14】
で示される25℃での粘度が30,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを100部、(A)成分である、下記式(12);
【化15】
で示される25℃での粘度が5,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを120部、ヘキサメチルジシラザンを1.0部及び水2.2部を加えて混合したのち、比表面積が約300m2/gである表面未処理の煙霧質シリカ(商品名;アエロジル300(エボニック社製))を45部入れ、密閉容器内で均一に混合したのち、160〜170℃にて約4時間熱処理混合を行って部分的に煙霧質シリカの表面疎水化を行うと共に、該部分疎水化処理煙霧質シリカがジメチルポリシロキサン中に均一に分散したマスターバッチを調製した(計算上の疎水化処理度(理論値);約7.0%、水酸基密度=約2.33個(OH/nm2))。その後、上記にて得られたマスターバッチに25℃での粘度が30mPa・sである両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(任意成分)を215部及び白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.30部入れ、均一に攪拌した。その後、(B)成分である、25℃での粘度が40mPa・s、SiH量が0.0102mol/gであるMH単位とQ単位を含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを0.35部、(C)成分である、下記式(13);
【化16】
で示される25℃での粘度が17mPa・s、SiH量が0.00136mol/gであるオルガノハイドロジェンポリシロキサン5.6部を均一に混合したのち、真空脱泡機にて脱気し、組成物4を得た((C)成分>(B)成分、(Hb/Hc)=0.47、H/Vi=1.04)。得られた組成物4を23℃で24時間硬化したところ、針入度20のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0060】
[比較例2]
(A)成分である、下記式(14);
【化17】
で示される25℃での粘度が30,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを100部と、(A)成分である、下記式(15);
【化18】
で示される25℃での粘度が5,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを120部と、ヘキサメチルジシラザン10.8部を加えて混合したのち、比表面積が約300m2/gである表面未処理の煙霧質シリカ(商品名;アエロジル300(エボニック社製))を45部入れ、密閉容器内で均一に混合したのち、160〜170℃にて約4時間熱処理混合を行って煙霧質シリカの完全な表面疎水化を行うと共に、該疎水化処理煙霧質シリカがジメチルポリシロキサン中に均一に分散したマスターバッチを調製した(計算上の疎水化処理度(理論値);約100%、水酸基密度=0個(OH/nm2))。その後、上記にて得られたマスターバッチに25℃での粘度が30mPa・sである両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(任意成分)を215部及び白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.30部入れ、均一に攪拌した。その後、(B)成分である、25℃での粘度が40mPa・s、SiH量が0.0102mol/gであるMH単位とQ単位を含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを0.35部、(C)成分である、下記式(16);
【化19】
で示される25℃での粘度が17mPa・s、SiH量が0.00136mol/gであるオルガノハイドロジェンポリシロキサン5.6部を均一に混合したのち、真空脱泡機にて脱気し、組成物5を得た((C)成分>(B)成分、(Hb/Hc)=0.47、H/Vi=1.04)。得られた組成物5を23℃で24時間硬化したところ、針入度50のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0061】
[比較例3]
実施例1において、比表面積が約300m2/gである煙霧質シリカを除いた以外は同様にして、組成物6を調製した((C)成分>(B)成分、(Hb/Hc)=0.47、H/Vi=1.04)。得られた組成物6を23℃で24時間硬化したところ、針入度70のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0062】
[比較例4]
(A)成分である、下記式(17);
【化20】
で示される25℃での粘度が30,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを100部、(A)成分である、下記式(18);
【化21】
で示される25℃での粘度が5,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを120部、ヘキサメチルジシラザンを9.0部及び水2.2部を加えて混合したのち、比表面積が約300m2/gである表面未処理の煙霧質シリカ(商品名;アエロジル300(エボニック社製))を45部入れ、密閉容器内で均一に混合したのち、160〜170℃にて約4時間熱処理混合を行って部分的に煙霧質シリカの表面疎水化を行うと共に、該部分疎水化処理煙霧質シリカがジメチルポリシロキサン中に均一に分散したマスターバッチを調製した(計算上の疎水化処理度(理論値);約62%、水酸基密度=約0.95個(OH/nm2))。その後、上記にて得られたマスターバッチに25℃での粘度が30mPa・sである両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(任意成分)を215部及び白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.30部入れ、均一に攪拌した。その後、下記式(19);
【化22】
で示される25℃での粘度が90mPa・s、SiH量が0.00501mol/gであるオルガノハイドロジェンポリシロキサン0.30部と、(C)成分である、下記式(20);
【化23】
で示される25℃での粘度が17mPa・s、SiH量が0.00136mol/gであるオルガノハイドロジェンポリシロキサン5.6部を均一に混合したのち、真空脱泡機にて脱気し、組成物7を得た((B)成分非含有、H/Vi=0.85)。得られた組成物7を23℃で24時間硬化したところ、針入度50のシリコーンゲル硬化物を得た。
【0063】
[比較例5]
(A)成分である、下記式(21);
【化24】
で示される25℃での粘度が30,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを100部、(A)成分である、下記式(22);
【化25】
で示される25℃での粘度が5,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを120部、ヘキサメチルジシラザンを9.0部及び水2.2部を加えて混合したのち、比表面積が約300m2/gである表面未処理の煙霧質シリカ(商品名;アエロジル300(エボニック社製))を45部入れ、密閉容器内で均一に混合したのち、160〜170℃にて約4時間熱処理混合を行って部分的に煙霧質シリカの表面疎水化を行うと共に、該部分疎水化処理煙霧質シリカがジメチルポリシロキサン中に均一に分散したマスターバッチを調製した(計算上の疎水化処理度(理論値);約62%、水酸基密度=約0.95個(OH/nm2))。その後、上記にて得られたマスターバッチに25℃での粘度が30mPa・sである両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(任意成分)を215部及び白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.30部入れ、均一に攪拌した。その後、(B)成分である、25℃での粘度が40mPa・s、SiH量が0.0102mol/gであるMH単位とQ単位を含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを1.0部、(C)成分である、下記式(23);
【化26】
で示される25℃での粘度が17mPa・s、SiH量が0.00136mol/gであるオルガノハイドロジェンポリシロキサン0.8部を均一に混合したのち、真空脱泡機にて脱気し、組成物8を得た((C)成分<(B)成分、(Hb/Hc)=9.38、H/Vi=1.05)。得られた組成物8を23℃で24時間硬化したところ、針入度6の硬化物を得た。
【0064】
[比較例6]
実施例1において、(B)成分である25℃での粘度が40mPa・s、SiH量が0.0102mol/gであるMH単位とQ単位を含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを除いた以外は同様にして、組成物9を調製した((B)成分非含有、H/Vi=0.71)。得られた組成物9を23℃で24時間硬化したところ、未硬化状態であり、硬化物を得ることはできなかった。
【0065】
[比較例7]
実施例1において、(C)成分である、下記式(6);
【化27】
で示される25℃での粘度が17mPa・s、SiH量が0.00136mol/gであるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを除いた以外は同様にして、組成物10を調製した((C)成分非含有、H/Vi=0.33)。得られた組成物10を23℃で24時間硬化したところ、未硬化状態であり、硬化物を得ることはできなかった。
【0066】
上記実施例1〜3、比較例1〜7で得られた組成物の粘度、及びその組成物を硬化させて得られたシリコーンゲル硬化物の針入度とJIS K6249に準ずる切断時伸び、引張強さ、引裂強さ(クレセント型)の測定値を表1に示す。
【0067】
なお、組成物の粘度は、25℃の条件において回転粘度計により測定を行った。その時の粘度が30Pa・sを超える値になった場合、作業性の観点から不合格と判定した。
シリコーンゲル硬化物の針入度は、JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度であり、離合社製自動針入度計RPM−101を用いて測定した。針入度は、10未満であるものを不合格と判定した。
次いで得られた硬化性シリコーンゲル組成物を2mmの型枠に流し込み、23℃にて24時間養生して2mm厚のゲルシート(シリコーンゲル硬化物)を得、JIS K6249に準じて切断時伸び、引張強さ、引裂強さ(クレセント型)の測定を行い、引裂強さが0.80kN/m未満であるものを不合格とした。
【0068】
【表1】
【0069】
[評価]
実施例1〜3の組成物は、本発明の要件を満たすものであり、良好な流動性と柔軟性、耐衝撃性の指標である引裂強さが強いシリコーンゲル硬化物が得られることがわかる。
これに対し、比較例1の組成物は、煙霧質シリカの疎水化処理度が約7.0%と低いため、得られる組成物の粘度が高く、作業性が劣っているほか、得られるシリコーンゲル硬化物の引裂強さも0.80kN/m未満となっている。
比較例2の組成物は、比較例1とは正反対で、煙霧質シリカの疎水化処理度が100%(完全疎水化処理)と高く、得られる組成物の粘度は低く、得られるシリコーンゲル硬化物は非常に良好な伸び値を示しているが、耐衝撃性の指標である引裂強さは低い結果となっている。これは用いる煙霧質シリカの表面疎水化処理が過剰に起きたため、水酸基による疑似架橋がなくなり、引裂強さが低くなったと推定する。
比較例3の組成物は、煙霧質シリカを含まず、オルガノポリシロキサンのみのシリコーンゲル硬化物(ノンフィラー系)となったため、引張強さと引裂強さが低下する。
比較例4の組成物は、(B)成分であるMH単位とQ単位を含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの代わりとして、側鎖にSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いて組成物としている。このシリコーンゲル硬化物は柔軟なシリコーンゲル硬化物を得ることができるが、MH単位とQ単位を含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いたときよりも分子内架橋点の形成が少ないため、耐衝撃性の指標である引裂強さは低くなってしまう。
比較例5の組成物は、(B)成分であるMH単位とQ単位を含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量が(C)成分であるケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量より多く、かつ硬化して得られる硬化物の針入度がJIS K2220において10未満となってしまうため、柔軟性を損なうほか、引裂強さにおいても本発明品より低い値、即ち耐衝撃性は低い結果となっている。
さらに比較例6は、(B)成分であるMH単位とQ単位を含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含まず、(C)成分であるケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンのみを架橋剤として有するため、架橋点の形成ができず、得られた組成物から硬化物を得ることができなかった。
また、比較例7は、(C)成分であるケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含まず、(B)成分であるMH単位とQ単位を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンのみを架橋剤として有するものであり、さらにH/Vi=0.33となっており、Vi基に対するSiH基の量が少ないため、得られた組成物から硬化物を得ることができなかった。
上記の結果から、本発明の有効性が確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の硬化性シリコーンゲル組成物は、特に良好な流動性を有し、作業性に優れ、かつ比較的低温硬化が可能で、かつ硬化性シリコーンゲル組成物を硬化することにより得られるシリコーンゲル硬化物は、柔軟性と耐衝撃性を両立したシリコーンゲル硬化物となり得る。そのため、可動変位が大きい分野(とりわけ建築用途や自動車産業等や電子部品等)への応用や手芸用途への応用が期待できる。また、低温においても硬化性が良好であるため、耐衝撃性の高いポッティング材として使用することができる。そのため、生産性向上と信頼性向上が期待できる。本発明の硬化性シリコーンゲル組成物は非常に有効な技術となり得る。