特許第6947690号(P6947690)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6947690(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールの製造方法及び(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6947690
(24)【登録日】2021年9月21日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールの製造方法及び(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/42 20060101AFI20210930BHJP
   C07C 47/21 20060101ALI20210930BHJP
   C07C 41/48 20060101ALI20210930BHJP
   C07C 43/303 20060101ALI20210930BHJP
   C07D 301/14 20060101ALI20210930BHJP
   C07D 303/32 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   C07C45/42
   C07C47/21
   C07C41/48
   C07C43/303
   C07D301/14
   C07D303/32
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-104778(P2018-104778)
(22)【出願日】2018年5月31日
(65)【公開番号】特開2019-210217(P2019-210217A)
(43)【公開日】2019年12月12日
【審査請求日】2020年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】金生 剛
(72)【発明者】
【氏名】渡部 友博
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−155013(JP,A)
【文献】 特開2007−70276(JP,A)
【文献】 SCIENTIFIC REPORTS,2017年,7:7330,1−6
【文献】 Tetrahedron Letters,2010年,51 ,2852−2854
【文献】 Prog. Essent. Oil Res., Proc. Int. Symp. Essent. Oils,1986年,215−225
【文献】 CHEM. COMMUN.,2003年,2284−2285
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/42
C07C 47/21
C07F 9/535
C07F 9/54
C07C 43/303
C07C 41/48
C07D 303/32
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(3)
ArCH(CHCH=CHCH(OR)(OR) (3)
(式中、Arは同じでも異なっていてもよいアリール基を表し、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜18の一価の炭化水素基を表すか、又は互いに結合してR−Rとして炭素数1〜18の二価の炭化水素基を表す。また、Xはハロゲン原子を表す。)
で表される1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物と、塩基として用いる金属アルコキシドとの脱プロトン化反応により、下記一般式(4)
ArP=CH(CHCH=CHCH(OR)(OR) (4)
(式中、Arは同じでも異なっていてもよいアリール基を表し、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜18の一価の炭化水素基を表すか、又は互いに結合してR−Rとして炭素数1〜18の二価の炭化水素基を表す。)
で表される(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物を得る工程と、
前記(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)と、下記式(5)
CHCHCHO (5)
で表されるプロパナールとのウィッティヒ反応により、下記一般式(6)
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜18の一価の炭化水素基又は互いに結合してR−Rとして炭素数1〜18の二価の炭化水素基を表す。)
で表される1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物を得る工程と、
前記1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物の加水分解反応により、下記式(7)
【化2】
で表される(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールを得る工程と
を少なくとも含む(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールの製造方法。
【請求項2】
前記加水分解反応が、前記ウィッティヒ反応に続けてイン・サイチュ(in situ)で行われる請求項1に記載の(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールの製造方法の各工程と、
前記(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールのエポキシ化反応により、下記式(8)
【化3】
で表される(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナールを得る工程と
を少なくとも含む(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料等である(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールの製造方法及びサクラ等の害虫であるクビアカツヤカミキリ(Aromia bungii)の集合フェロモンである(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中国、台湾、朝鮮半島、ベトナム北部が原産のクビアカツヤカミキリ(Aromia bungii)は近年日本に侵入した害虫であり、サクラ、カキ、オリーブ、モモ、ウメ、ザクロ、ヤナギ等を加害する。既に国内のサクラが多数加害されており、クビアカツヤカミキリが日本全国に広まった場合の被害総額は220億円と推定されている。現在農林水産省や国土交通省がクビアカツヤカミキリの防除に乗り出しているが、効果的な防除法が確立されていない。一方で、集合フェロモンを用いた防除や発生消長の把握が注目されており、その利用が期待されている。
【0003】
クビアカツヤカミキリ(Aromia bungii)の集合フェロモンは、(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナールであることが明らかとなっている(非特許文献1)。また、(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナールは、2−ペンテン−1−オールをエポキシ化して2,3−エポキシ−1−ペンタノールを得た後、トリフラートに変換し、アリルグリニャール試薬とのカップリング反応、続く2−ブテナールとのオレフィンメタセシスにより合成できることが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H.Yasui et al.,Scientific reports,2017,7(1),7330.
【非特許文献2】K.Mori,Tetrahedron,2018,74,1444.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献2では、高価なグラブス(Grubbs)触媒を用いており、ホモメタセシスを防ぐために多量の溶媒と2−ブテナールを用いてオレフィンメタセシスを行っているため生産性が悪く工業スケールでの大量生産は難しい。更に、2−ペンテン−1−オールから全4工程で総収率6.6%と収率が極めて悪い。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、短工程で簡便かつ効率的な(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールの製造方法及び(2E)−6,7−エポキシ−2−ノネナールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物と、プロパナールとのウィッティヒ(Wittig)反応により、1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物を得て、次いで加水分解反応させることにより短工程かつ簡便に(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールが高収率で得られること、更に当該(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールの製造方法を利用することにより(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナールを効率良く製造できることを見いだし、本発明を為すに至った。
本発明の1つの態様によれば、下記一般式(3)
ArCH(CHCH=CHCH(OR)(OR) (3)
(式中、Arは同じでも異なっていてもよいアリール基を表し、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜18の一価の炭化水素基を表すか、又は互いに結合してR−Rとして炭素数1〜18の二価の炭化水素基を表す。また、Xはハロゲン原子を表す。)
で表される1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物と、塩基として用いる金属アルコキシドとの脱プロトン化反応により、下記一般式(4)
ArP=CH(CHCH=CHCH(OR)(OR) (4)
(式中、Arは同じでも異なっていてもよいアリール基を表し、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜18の一価の炭化水素基を表すか、又は互いに結合してR−Rとして炭素数1〜18の二価の炭化水素基を表す。)
で表される(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物を得る工程と、
前記(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)と、下記式(5)
CHCHCHO (5)
で表されるプロパナールとのウィッティヒ反応により、下記一般式(6)
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜18の一価の炭化水素基又は互いに結合してR−Rとして炭素数1〜18の二価の炭化水素基を表す。)
で表される1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物を得る工程と、
前記1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物の加水分解反応により、下記式(7)
【化2】
で表される(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールを得る工程と
を少なくとも含む(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールの製造方法が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、上述の(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールの製造方法の各工程と、
前記(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールのエポキシ化反応により、下記式(8)
【化3】
で表される(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナールを得る工程と
を少なくとも含む(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナールの製造方法が提供される
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、短工程かつ簡便に(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール及び(2E)−6,7−エポキシ−2−ノネナールを高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールの製造方法における下記一般式(4)で表される(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物と、下記式(5)で表されるプロパナールとのウィッティヒ反応により、下記一般式(6)で表される1,1−ジアルコキシ−2,6−ノナジエン化合物を得る工程について説明する。
【0009】
【化4】
【0010】
一般式(4)で表される(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物におけるArは、同じでも異なっていてもよいアリール基を表す。アリール基の炭素数は、好ましくは6〜7である。アリール基としては、フェニル基、トリル基が挙げられるが、合成のしやすさの観点から、フェニル基が好ましい。
【0011】
一般式(4)で表される(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリ−ルホスホラン化合物におけるR及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜18、好ましくは炭素数1〜6の一価の炭化水素基を表すか、又は互いに結合してR−Rとして炭素数1〜18、好ましくは炭素数2〜6の二価の炭化水素基を表す。
【0012】
及びRの一価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n-オクタデシル基等の直鎖状の飽和炭化水素基、イソプロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルブチル基等の分岐状の飽和炭化水素基、2−プロペニル基等の直鎖状の不飽和炭化水素基、2−メチル−2−プロペニル基等の分岐状の不飽和炭化水素基、シクロプロピル基等の環状の飽和炭化水素基等が挙げられ、これらと異性体の関係にある炭化水素基でも良い。また、これらの炭化水素基の水素原子中の一部がメチル基、エチル基等で置換されていても良い。
及びRの一価の炭化水素基としては、取扱いの観点から、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基が好ましい。
【0013】
−Rの二価の炭化水素基としては、エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基等の直鎖状の飽和炭化水素基、1,2−プロピレン基、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン基、1,2−ブチレン基、1,3−ブチレン基、2,3−ブチレン基、2,3−ジメチル−2,3−ブチレン基等の分岐状の飽和炭化水素基、1−ビニルエチレン基等の直鎖状の不飽和炭化水素基、2−メチレン−1,3−プロピレン基等の分岐状の不飽和炭化水素基、1,2−シクロプロピレン基、1,2−シクロブチレン基等の環状炭化水素基等が挙げられ、これらと異性体の関係にある炭化水素基でも良い。また、これらの炭化水素基の水素原子中の一部がメチル基、エチル基等で置換されていても良い。
−Rの二価の炭化水素基は、脱保護における反応性や精製の容易さ、入手の容易さを考慮すると、反応性が高く、脱保護により生成する副生物が水洗や濃縮によって容易に除去可能な低級(好ましくは炭素数2〜4)炭化水素基が好ましい。これらを考慮すると、R−Rの二価の炭化水素基の特に好ましい例として、エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、1,2−ブチレン基、1,3−ブチレン基、2,3−ジメチル−2,3−ブチレン基等が挙げられる。
【0014】
(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)における幾何異性体としては、((4Z)−6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物、((4E)−6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物が挙げられる。
【0015】
((4Z)−6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物としては、((4Z)−6,6−ジエトキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホラン、((4Z)−6,6−ジメトキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホラン、((4Z)−6,6−ジプロポキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホラン、((4Z)−6,6−ジブトキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホラン等が挙げられる。
【0016】
((4E)−6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物としては、((4E)−6,6−ジエトキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホラン、((4E)−6,6−ジメトキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホラン、((4E)−6,6−ジプロポキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホラン、((4E)−6,6−ジブトキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホラン等が挙げられる。
【0017】
(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)としては、経済性の観点から、((4Z)−6,6−ジエトキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホラン、((4Z)−6,6−ジメトキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホラン、((4E)−6,6−ジエトキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホラン、((4E)−6,6−ジメトキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホラン等の(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホランが好ましい。
【0018】
(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)は、下記一般式(1)で表される6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物と、下記一般式(2)で表されるトリアリールホスフィン化合物との求核置換反応により、下記一般式(3)で表される1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物を得る工程と、前記1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物(3)と塩基との脱プロトン化反応により、(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)を得る工程により調製することができる。
【0019】
【化5】
【0020】
上記一般式(1)で表される6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物におけるXは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられるが、取扱いやすさ又は基質の調製しやすさの観点から、好ましくは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。
6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物(1)におけるR及びRは、上記一般式(1)で表される(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリ−ルホスホラン化合物におけるR及びRの定義と同様である。
【0021】
6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物(1)における幾何異性体としては、(2E)−6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物、(2Z)−6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物が挙げられる。
【0022】
(2E)−6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物としては、(2E)−6−クロロ−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセン、(2E)−6−クロロ−1,1−ジメトキシ−2−ヘキセン、(2E)−6−クロロ−1,1−ジプロポキシ−2−ヘキセン、(2E)−6−クロロ−1,1−ジブトキシ−2−ヘキセン等の(2E)−6−クロロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物、(2E)−6−ブロモ−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセン、(2E)−6−ブロモ−1,1−ジメトキシ−2−ヘキセン、(2E)−6−ブロモ−1,1−ジプロポキシ−2−ヘキセン、(2E)−6−ブロモ−1,1−ジブトキシ−2−ヘキセン等の(2E)−6−ブロモ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物、(2E)−6−ヨード−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセン、(2E)−6−ヨード−1,1−ジメトキシ−2−ヘキセン、(2E)−6−ヨード−1,1−ジプロポキシ−2−ヘキセン、(2E)−6−ヨード−1,1−ジブトキシ−2−ヘキセン等の(2E)−6−ヨード−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物等が挙げられる。
【0023】
(2Z)−6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物としては、(2Z)−6−クロロ−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセン、(2Z)−6−クロロ−1,1−ジメトキシ−2−ヘキセン、(2Z)−6−クロロ−1,1−ジプロポキシ−2−ヘキセン、(2Z)−6−クロロ−1,1−ジブトキシ−2−ヘキセン等の(2Z)−6−クロロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物、(2Z)−6−ブロモ−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセン、(2Z)−6−ブロモ−1,1−ジメトキシ−2−ヘキセン、(2Z)−6−ブロモ−1,1−ジプロポキシ−2−ヘキセン、(2Z)−6−ブロモ−1,1−ジブトキシ−2−ヘキセン等の(2Z)−6−ブロモ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物、(2Z)−6−ヨード−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセン、(2Z)−6−ヨード−1,1−ジメトキシ−2−ヘキセン、(2Z)−6−ヨード−1,1−ジプロポキシ−2−ヘキセン、(2Z)−6−ヨード−1,1−ジブトキシ−2−ヘキセン等の(2Z)−6−ヨード−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物等が挙げられる。
【0024】
6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物(1)としては、経済性の観点から、(2Z)−6−クロロ−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセン、(2Z)−6−クロロ−1,1−ジメトキシ−2−ヘキセン、(2E)−6−クロロ−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセン、(2E)−6−クロロ−1,1−ジメトキシ−2−ヘキセン等の6−クロロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物が好ましい。なお、6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物(1)は、市販のものを用いてもよいし合成したものを用いてもよい。
【0025】
後述する加水分解反応により、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)を収束的に製造することができるため、6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物(1)のE体又はZ体の一方を用いてもよいが、E体及びZ体の混合物、すなわち幾何異性体の混合物を用いてもよい。
【0026】
一般式(2)で表されるトリアリールホスフィン化合物におけるArは、上記一般式(4)で表される(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリ−ルホスホラン化合物におけるArの定義と同様である。トリアリールホスフィン化合物(2)の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン等が挙げられるが、反応性の観点から、トリフェニルホスフィンが好ましい。
トリアリールホスフィン化合物(2)の使用量は、反応性の観点から、6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物(1)1molに対して、好ましくは0.8〜2.0molである。トリアリールホスフィン化合物(2)は、必要に応じて2種類以上を併用して用いてもよい。また、トリアリールホスフィン化合物は、市販のものを用いることができる。
【0027】
1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物(3)調製時には必要に応じてハロゲン化物を用いてもよい。ハロゲン化物を添加しなくても反応は進行するが、添加することで反応時間の短縮ができる。
ハロゲン化物としては、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物等が挙げられるが、反応性の観点から、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等のアルカリ金属ヨウ化物が好ましい。ハロゲン化物は、単独で用いても、複数の金属塩を混合して用いてもよい。
ハロゲン化物の使用量は、反応性の観点から、6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物(3)1molに対して、好ましくは1.0〜2.0molである。ハロゲン化物は、必要に応じて2種類以上を併用して用いてもよい。また、ハロゲン化物は、市販のものを用いることができる。
【0028】
また、反応系中が酸性となり、アセタールが加水分解する危険性を避けるために、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩等、脱プロトン化反応に寄与しない塩基を反応系に添加してもよい。
【0029】
1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物(3)調製時に用いる溶媒としては、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、4−メチルテトラヒドロピラン、ジエチル=エーテル等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等の極性溶媒が挙げられるが、反応性の観点から、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒及びアセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の極性溶媒が好ましい。溶媒は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。また、溶媒は、市販のものを用いることができる。
溶媒の使用量は、反応性の観点から、6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物(3)1molに対して、好ましくは300〜4000gである。
【0030】
1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物(3)調製時の反応温度は、用いる溶媒により至適温度は異なるが、反応速度の観点から、好ましくは60〜180℃である。
1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物(3)調製時の反応時間は、用いる溶媒や反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは5〜35時間である。
【0031】
1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物(3)における幾何異性体としては、(2Z)−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物、(2E)−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物が挙げられる。
【0032】
(2Z)−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物としては、(2Z)−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ブロミド、(2Z)−1,1−ジメトキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ブロミド、(2Z)−1,1−ジプロポキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ブロミド、(2Z)−1,1−ジブトキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ブロミド等の(2Z)−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ブロミド化合物、(2Z)−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ヨージド、(2Z)−1,1−ジメトキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ヨージド、(2Z)−1,1−ジプロポキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ヨージド、(2Z)−1,1−ジブトキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ヨージド等の(2Z)−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ヨージド化合物等が挙げられる。
【0033】
(2E)−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物としては、(2E)−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ブロミド、(2E)−1,1−ジメトキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ブロミド、(2E)−1,1−ジプロポキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ブロミド、(2E)−1,1−ジブトキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ブロミド等の(2E)−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ブロミド化合物、(2E)−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ヨージド、(2E)−1,1−ジメトキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ヨージド、(2E)−1,1−ジプロポキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ヨージド、(2E)−1,1−ジブトキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ヨージド等の(2E)−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ヨージド化合物等が挙げられる。
【0034】
(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)調製時に用いる塩基としては、n−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のアルキルリチウム、カリウム=tert−ブトキシド、ナトリウム=tert−ブトキシド、カリウム=メトキシド、ナトリウム=メトキシド、カリウム=エトキシド、ナトリウム=エトキシド等の金属アルコキシド、リチウム=ジイソプロピルアミド、ナトリウム=ビス(トリメチルシリル)アミド等の金属アミド、水素化ナトリウム、水素化カリウム等の金属水素化物等が挙げられるが、反応性の観点から、金属アルコキシドが好ましく、カリウム=tert−ブトキシド、ナトリウム=メトキシド、ナトリウム=エトキシドがより好ましい。
塩基の使用量は、反応性の観点から、6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物(1)1molに対して、好ましくは0.8〜2.0molである。塩基は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。また、塩基は、市販のものを用いることができる。
【0035】
(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)調製時に用いる溶媒としては、(1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物(3)調製時に用いる溶媒と同様なものが挙げられ、(1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物(3)調製時に用いる溶媒及び溶媒の使用量と同様であっても異なっていてもよい。
【0036】
(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)調製時の反応温度は、用いる溶媒や塩基により至適温度は異なるが、反応性の観点から、好ましくは−78〜25℃である。
(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)調製時の反応時間は、用いる溶媒や反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは0.5〜6時間である。
【0037】
1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物(3)は、1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物(3)調製時と同じ反応系中において塩基との脱プロトン化反応により(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)に導いても良いし、1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物(3)を単離精製した後、塩基との脱プロトン化反応により(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)に導いても良い。
【0038】
プロパナール(5)の使用量は、収率の観点から、(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)1molに対して、好ましくは0.9〜2.0mol、より好ましくは0.9〜1.5molである。
なお、6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物(1)から(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)を調製した場合において、同じ反応系においてウィッティヒ反応を行う場合は、6−ハロ−1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセン化合物(1)1molに対して、上記プロパナールの使用量を用いればよい。プロパナール(5)は、市販のものを用いてもよいし、合成したものを用いてもよい。
【0039】
ウィッティヒ反応に用いる溶媒としては、1,1−ジアルコキシ−2−ヘキセニルトリアリールホスホニウム=ハライド化合物(3)調製時に用いる溶媒と同様なものが挙げられ、(6,6−ジアルコキシ−4−ヘキセニリデン)トリアリールホスホラン化合物(4)調製時に用いる溶媒及び溶媒の使用量と同様でも良いし、異なっていてもよい。
【0040】
ウィッティヒ反応における反応温度は、用いる溶媒により最適温度は異なるが、1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物(6)を幾何選択的に製造する観点から、好ましくは−78〜25℃、より好ましくは−78〜10℃、更に好ましくは−70〜5℃である。
ウィッティヒ反応における反応時間は、反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは0.5〜15時間である。
【0041】
1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物(6)における幾何異性体としては、1,1−ジアルコキシ−(2E,6Z)−2,6−ノナジエン化合物、1,1−ジアルコキシ−(2Z,6Z)−2,6−ノナジエン化合物が挙げられる。
1,1−ジアルコキシ−(2E,6Z)−2,6−ノナジエン化合物としては、1,1−ジメトキシ−(2E,6Z)−2,6−ノナジエン、1,1−ジエトキシ−(2E,6Z)−2,6−ノナジエン、1,1−ジプロポキシ−(2E,6Z)−2,6−ノナジエン、1,1−ジブトキシ−(2E,6Z)−2,6−ノナジエン等が挙げられる。
1,1−ジアルコキシ−(2Z,6Z)−2,6−ノナジエン化合物としては、1,1−ジメトキシ−(2Z,6Z)−2,6−ノナジエン、1,1−ジエトキシ−(2Z,6Z)−2,6−ノナジエン、1,1−ジプロポキシ−(2Z,6Z)−2,6−ノナジエン、1,1−ジブトキシ−(2Z,6Z)−2,6−ノナジエンが挙げられる。
【0042】
1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物(6)としては、経済性の観点から、1,1−ジメトキシ−(2Z,6Z)−2,6−ノナジエン、1,1−ジメトキシ−(2E,6Z)−2,6−ノナジエン等の1,1−ジメトキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物、1,1−ジエトキシ−(2Z,6Z)−2,6−ノナジエン、1,1−ジエトキシ−(2E,6Z)−2,6−ノナジエン等の1,1−ジエトキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物が好ましい。
【0043】
次に、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールの製造方法における下記一般式(6)で表される1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエンの加水分解反応により、下記式(7)で表される(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールを得る工程について説明する。
【0044】
【化6】
【0045】
加水分解反応は、例えば、酸、水、必要に応じて溶媒を用いて行う。
加水分解反応に用いる酸としては、塩酸、臭化水素酸等の無機酸類、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、しゅう酸、ヨードトリメチルシラン、四塩化=チタン等が挙げられるが、反応性の観点から、塩酸が好ましい。
加水分解反応に用いる酸の使用量は、反応性の観点から、1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物(6)1molに対して、好ましくは0.01〜15.00molである。酸は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。また、酸は、市販のものを用いることができる。
加水分解反応に用いる水の使用量は、反応性の観点から、1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物(6)1molに対して、好ましくは18〜3000gである。
【0046】
加水分解反応に用いる溶媒としては、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、4−メチルテトラヒドロピラン、ジエチル=エーテル等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム等の極性溶媒、メタノール、エタノール等アルコール系溶媒等が挙げられる。溶媒は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。また、溶媒は、市販のものを用いることができる。
用いる酸により最適な溶媒は異なるが、反応性の観点から、例えば、酸として、しゅう酸を用いる場合は、テトラヒドロフランが好ましく、塩酸を用いる場合は、無溶媒もしくはヘキサン等の炭化水素系溶媒が好ましい。
溶媒の使用量は、反応性の観点から、1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物(6)1molに対して、好ましくは0〜3000gである。
【0047】
加水分解反応における反応温度は、用いる溶媒により異なるが、反応性の観点から、好ましくは−20〜150℃である。
加水分解反応における反応時間は、用いる溶媒や反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、0.5〜10時間である。
加水分解反応系中の水溶液のpHは、異性化を十分に進行させ、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)をE選択的に幾何純度良く製造する観点から、好ましくは1.0以下、より好ましくは−1.0〜+1.0である。pH値は、例えばpH試験紙や測定対象の液温を25℃としてpHメータを用いて測定できる。
【0048】
このようにして、1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエンにおける2位のオレフィンは、加水分解反応により生成する共役アルデヒドの異性化によりほぼ100%のE体に収束する。仮に、加水分解反応においてアセタール構造の影響により2位のオレフィンが、3位に転位した場合においても、より安定なE体の共役アルデヒドに収束するため不純物が少なく高純度の(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)が得られる。
以上のようにして、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)における6位の幾何はウィッティヒ反応によって高Z選択的に、2位の幾何は共役アルデヒドの異性化によって高E選択的に製造できるため工業的に非常に有用な製造方法である。
【0049】
ウィッティヒ反応工程及び加水分解反応工程は、各々単独で行ってもよいし、加水分解反応工程を、ウィッティヒ反応工程に続けてイン・サイチュ(in situ)で行い、連続的に反応(ワンポット)させてもよい。
連続的に反応させることにより、後処理、濃縮、再仕込み等の時間を大幅に短縮することができる。更に、連続的に反応させることにより、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)をより高収率にて製造できることが知見された。これは、洗浄による1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物(6)の水層へのロスやウィッティヒ反応後の後処理によって得られる反応生成混合物、いわゆるクルード(Crude)の状態で濃縮を行うことによる1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物(6)の分解や高分子化等を防ぐことができたためであるためと考えられる。
ウィッティヒ反応工程と加水分解反応工程を連続的に行う場合は、ウィッティヒ反応終了時に反応系中に酸及び水を添加すればよい。
加水分解反応を、ウィッティヒ反応に続けてイン・サイチュ(in situ)で行う場合における酸の使用量は、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)の収率の観点から、1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物(6)1molに対して、好ましくは0.10〜5.00molである。
加水分解反応を、ウィッティヒ反応に続けてイン・サイチュ(in situ)で行う場合における溶媒の使用量は、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)の収率の観点から、1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物(6)1molに対して、好ましくは1000〜3000gである。
加水分解反応を、ウィッティヒ反応に続けてイン・サイチュ(in situ)で行う場合における水の使用量は、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)の収率の観点から、1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物(6)1molに対して、好ましくは18〜2000gである。
加水分解反応を、ウィッティヒ反応に続けてイン・サイチュ(in situ)で行う場合における反応濃度、すなわち溶媒及びは水の合計重量(g)に対する1,1−ジアルコキシ−(6Z)−2,6−ノナジエン化合物(6)のモル数(mol)は、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)の収率の観点から、好ましくは、1.5×10−4〜2.5×10−4mol/gである。
加水分解反応を、ウィッティヒ反応に続けてイン・サイチュ(in situ)で行う場合における加水分解の反応温度は、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)の収率の観点から、好ましくは0〜30℃である。
加水分解反応を、ウィッティヒ反応に続けてイン・サイチュ(in situ)で行う場合における加水分解の反応時間は、好ましくは0.5〜3時間である。
【0050】
次に、(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナールの製造方法における下記式(7)で表される(2E,6Z)−2,6−ノナジエナールのエポキシ化反応により、下記式(8)で表される(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナールを得る工程について説明する。
【0051】
【化7】
【0052】
エポキシ化反応は、例えば(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)を溶媒中、エポキシ化剤と反応させることで行うことができる。
エポキシ化反応に用いるエポキシ化剤としては、メタクロロ過安息香酸(MCPBA)、過ギ酸、過酢酸等の炭素数1〜7の過カルボン酸化合物、ジメチルジオキシラン、メチルトリフルオロメチルジオキシラン等のジオキシラン化合物等が挙げられるが、取扱いの観点から、メタクロロ過安息香酸が好ましい。
エポキシ化剤の使用量は、反応性の観点から、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)1molに対して、好ましくは1.0〜2.0molである。エポキシ化剤は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。また、エポキシ化剤は、市販のものを用いることができる。
なお、ジェイコブセン・香月エポキシ化反応の条件やShi不斉エポキシ化反応の条件を用いることで不斉エポキシ化を行うこともできる。
エポキシ化剤として過カルボン酸化合物を用いる場合には、過カルボン酸化合物由来のカルボン酸化合物による反応系中の酸性化を防ぐ観点から、必要に応じて炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩等を用いてもよい。
【0053】
エポキシ化反応に用いる溶媒は、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、4−メチルテトラヒドロピラン、ジエチル=エーテル等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、アセトニトリル等の極性溶媒が挙げられる。溶媒は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。また、溶媒は、市販のものを用いることができる。用いるエポキシ化剤により最適な溶媒は異なるが、反応性の観点から、例えば、エポキシ化剤として、メタクロロ過安息香酸を用いる場合は、ジクロロメタン等の極性溶媒が好ましい。
溶媒の使用量は、反応性の観点から、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)1molに対して、好ましくは100〜8000gである。
【0054】
エポキシ化反応における反応温度は、用いる溶媒により異なるが、反応性の観点から、好ましくは−30〜50℃である。
エポキシ化反応における反応時間は、用いる溶媒や反応スケールにより異なるが、生産性の観点から、好ましくは1〜30時間である。
【0055】
(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナール(8)としては、下記式(8−1)で表される(2E,6R,7S)−6,7−エポキシ−2−ノネナール、下記式(8−2)で表される(2E,6S,7R)−6,7−エポキシ−2−ノネナール、これらのラセミ体及びスカレミック混合物が挙げられる。
【0056】
【化8】
【実施例】
【0057】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
実施例1 (2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)の製造(その1)
【0058】
【化9】
【0059】
室温で反応器に(2Z)−6−クロロ−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセン(1−1:X=Cl)(140.56g、0.68mol)、ヨウ化ナトリウム(104.92g、0.70mol)、トリフェニルホスフィン(174.42g、0.67mol)、アセトニトリル(673.56g)を加え75〜85℃の還流条件下で13時間撹拌し、(2Z)−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセニルトリフェニルホスホニウム=ヨージドを得た。撹拌後、30〜40℃に冷却しテトラヒドロフラン(1211.50g)を添加した。続いて−60℃に冷却しカリウム=tert−ブトキシド(70.69g、0.63mol)を添加して1時間撹拌することにより、((4Z)−6,6−ジエトキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホランを調製した後、プロパナール(45.63g、0.77mol)を20分かけて滴下した。滴下終了後、−60℃で90分撹拌することにより、1,1−ジエトキシ−(2Z、6Z)−2,6−ノナジエンを得た。次に、20℃まで昇温し、純水(1061g)、食塩(106.1g)を添加して反応を停止した。分液して水層を除去した後、有機層を減圧下濃縮して濃縮液(91.15g)を得た。
得られた濃縮液と水(48.76g)を室温で反応器に加え撹拌し、20重量%塩酸(75.51g)を40分かけて滴下し、滴下終了後、室温で6時間撹拌した。反応器にヘキサン(56.71g)を加え、30分撹拌した後反応液を分液して水層を除去し、有機層を得た。このとき加水分解反応系中の水溶液のpHをpH試験紙により確認したところ1未満であった。有機層を減圧下濃縮して残渣を減圧蒸留することにより、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)(37.32g、0.27mol)が2工程の収率として39.7%で得られた。
【0060】
(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)
〔核磁気共鳴スペクトル〕H−NMR(500MHz,CDCl):δ0.94(3H,t,J=7.7Hz),2.02(2H,dt,J=7.7,7.3Hz),2.24(2H,td,J=7.3,7.3Hz),2.38(2H,tdd,J=7.3,7.3,1.5Hz),5.26−5.31(1H,m),5.40−5.45(1H,m),6.11(1H,ddt,J=15.7,8.0,1.5Hz),6.82(1H,dt,J=15.7,6.9Hz)9.48(1H,d,J=8.0Hz);13C−NMR(75.6MHz,CDCl):14.12,20.50,25.35,32.66,126.66,133.14,133.23,158.01,193.95
〔マススペクトル〕EI−マススペクトル(70eV):m/z 138(M+),123,109,95,81,67,53,41,27
〔赤外吸収スペクトル〕(NaCl):νmax 3008,2964,2934,2874,2735,1694,1638,1456,1303,1175,1133,1105,973,719,565
【0061】
実施例2 (2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)の製造(その2)
【0062】
【化10】
【0063】
室温で反応器に(2Z)−6−クロロ−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセン(1−1:X=Cl)(140.56g、0.68mol)、ヨウ化ナトリウム(104.92g、0.70mol)、トリフェニルホスフィン(174.42g、0.67mol)、アセトニトリル(673.56g)を加え75〜85℃の還流条件下で14時間撹拌し、(2Z)−1,1−ジエトキシ−2−ヘキセニルトリフェニルホスホニウム=ヨージドを得た。撹拌後、30〜40℃に冷却しテトラヒドロフラン(1211.50g)を添加した。続いて−60℃に冷却しカリウム=tert−ブトキシド(70.69g、0.63mol)を添加して1時間撹拌することにより、((4Z)−6,6−ジエトキシ−4−ヘキセニリデン)トリフェニルホスホランを調製した後、プロパナール(45.63g、0.77mol)を20分かけて滴下した。滴下終了後、−60℃で50分撹拌することにより、1,1−ジエトキシ−(2Z、6Z)−2,6−ノナジエンを得た。次に、20℃まで昇温し、同一反応器内に純水(1061g)、ヘキサン(424g)、20重量%塩酸(200g)を添加して30分撹拌した後、食塩(106.1g)を加えて分液し、水層を除去した。このとき加水分解反応系中の水溶液のpHをpH試験紙により確認したところ1未満であった。有機層を減圧下濃縮して溶媒を除去し、残渣を減圧蒸留することにより、(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)(52.56g、0.38mol)が2工程の収率として56.0%で得られた。
【0064】
実施例3 (2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナール(8)の製造
【0065】
【化11】
【0066】
室温で反応器に(2E,6Z)−2,6−ノナジエナール(7)(15.88g、0.115mol)、ジクロロメタン(571g)を加え0〜5℃で30分撹拌した。撹拌後、メタクロロ過安息香酸(43.92g、0.165mol)を0〜5℃で添加し、25℃で3時間撹拌した。5℃以下に冷却後、反応液にチオ硫酸ナトリウム(12.91g)、水(119.24g)、25重量%水酸化ナトリウム水溶液(19.87g)を添加することで反応を停止した。分液により水層を除去し、有機層を減圧下濃縮して残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n−ヘキサン=5/1)により精製することで、(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナール(8)(15.07g、0.0978mol)が収率85.0%で得られた。
【0067】
(2E)−cis−6,7−エポキシ−2−ノネナール(8)
〔核磁気共鳴スペクトル〕H−NMR(500MHz,CDCl):δ1.01(3H,t,J=7.7Hz),1.43−1.59(2H,m),1.61−1.68(1H,m),1.73−1.80(1H,m),2.44−2.57(2H,m),2.88(1H,td,J=6.5,4.2Hz),2.92(1H,td,J=7.3,4.2Hz),6.13(1H,ddt,J=15.7,7.7,1.5Hz),6.87(1H,dt,J=15.7,6.9Hz),9.49(1H,d,J=7.7Hz);13C−NMR(75.6MHz,CDCl):10.47,21.02,26.15,29.80,56.17,58.26,133.27,156.85,193.72
〔マススペクトル〕EI−マススペクトル(70eV):m/z 154(M+),136,125,112,97,85,67,55,41,29
〔赤外吸収スペクトル〕(NaCl):νmax 2972,2937,2878,2818,2737,1691,1638,1458,1391,1308,1273,1130,1095,1016,976,905,816