(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<発泡成形用樹脂組成物>
本発明の一実施形態である発泡成形用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、温度25℃相対湿度50%の大気下における吸水率が0.05質量%以上2.0質量%以下である無機フィラーと、を含み、発泡成形用樹脂組成物100質量部に対して無機フィラーを1質量部以上25質量部以下含むものである。
【0017】
[熱可塑性樹脂]
本実施形態の発泡成形用樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、液晶性芳香族ポリエステルおよび芳香族ポリスルホン等が挙げられる。例示したこれらの中で、優れた機械的性質および熱特性を有していることから、液晶性芳香族ポリエステルが好ましい。
本実施形態の発泡成形用樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量は、前記発泡成形用樹脂組成物100質量部に対して80質量部以上99質量部以下が好ましく、90質量部以上97質量部以下がより好ましい。
【0018】
本実施形態の発泡成形用樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の一例として、液晶性芳香族ポリエステルを用いる場合を説明する。液晶性芳香族ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示す芳香族ポリエステルである。本実施形態に係る液晶性芳香族ポリエステルの典型的な例としては、下式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある)を有することが好ましく;繰返し単位(1)と、下式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある)と、下式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある)とを有することがより好ましい:
(1)−O−Ar
1−CO−
(2)−CO−Ar
2−CO−
(3)−X−Ar
3−Y−
(4)−Ar
4−Z−Ar
5−
式中、Ar
1はフェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表し;Ar
2およびAr
3はそれぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または上式(4)で表される基を表し;XおよびYはそれぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(−NH−)を表し;Ar
4およびAr
5はそれぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し;Zは酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表し;Ar
1、Ar
2またはAr
3に係る水素原子はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0019】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子を例示することができる。前記アルキル基としては、炭素数が1〜10のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基およびn−デシル基が挙げられる。前記アリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基および2−ナフチル基が挙げられる。Ar
1、Ar
2またはAr
3に係る前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、Ar
1、Ar
2およびAr
3中の置換基の数は、それぞれ独立に、2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0020】
前記Zのアルキリデン基としては、炭素数1〜10のアルキリデン基が好ましく、例えば、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基および2−エチルヘキシリデン基が挙げられる。
【0021】
繰返し単位(1)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位(すなわち、Ar
1がp−フェニレン基)、または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位(すなわち、Ar
1が2,6−ナフチレン基)が好ましい。
【0022】
繰返し単位(2)は、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、テレフタル酸に由来する繰返し単位(すなわち、Ar
2がp−フェニレン基)、イソフタル酸に由来する繰返し単位(すなわち、Ar
2がm−フェニレン基)、または2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位(すなわち、Ar
2が2,6−ナフチレン基)が好ましい。
【0023】
繰返し単位(3)は、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミンまたは芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、ヒドロキノン、p−アミノフェノールもしくはp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位(すなわち、Ar
3がp−フェニレン基)、または4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニルもしくは4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位(すなわち、Ar
3が4,4’−ビフェニリレン基)が好ましい。
なお、本明細書において「由来」とは、原料モノマーが重合するために化学構造が変化し、その他の構造変化を生じないことを意味する。
【0024】
本発明に係る液晶性芳香族ポリエステルが、繰返し単位(1)、(2)及び(3)を含む場合、繰返し単位(1)の含有量は、液晶性芳香族ポリエステルを構成する全繰り返し単位の合計量(モル数)に対して、30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは40〜70モル%、とりわけ好ましくは45〜65モル%であり;繰返し単位(2)の含有量は、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、とりわけ好ましくは17.5〜27.5モル%であり;繰返し単位(3)の含有量は、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、とりわけ好ましくは17.5〜27.5モル%である。
なお、繰り返し単位(1)、(2)、(3)の合計量が100モル%を超えない。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、液晶性芳香族ポリエステルの溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上する傾向があるが、80モル%を超えると、溶融温度や溶融粘度が高くなる傾向があり、成形に必要な温度が高くなる傾向がある。 繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量とのモル比は、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0025】
本発明に係る液晶性芳香族ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。前記液晶性芳香族ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよく、その含有量は、前記液晶性芳香族ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(モル数)に対して、10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0026】
溶融粘度の低い液晶性芳香族ポリエステルを得る観点から、繰返し単位(3)のXおよびYのそれぞれが酸素原子であること(すなわち、芳香族ジオールに由来する繰返し単位であること)が好ましく、XおよびYのそれぞれが酸素原子である繰返し単位のみを繰返し単位(3)として有する液晶性芳香族ポリエステルがより好ましい。
【0027】
本実施形態の発泡成形用樹脂組成物に係る液晶性芳香族ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは280℃以上、より好ましくは290℃以上、さらに好ましくは295℃以上であり、また、好ましくは380℃以下、より好ましくは350℃以下である。すなわち、前記液晶性芳香族ポリエステルの流動開始温度は、280℃以上380℃以下が好ましく、290℃以上380℃以下がより好ましく、295℃以上350℃以下がさらに好ましい。
流動開始温度が高いほど、耐熱性や耐水性が向上し易いが、あまり高いと、溶融させるために高温を要し、成形時に熱劣化しやすくなったり、溶融時の粘度が高くなり、流動性が低下したりする。
流動開始温度が上記範囲内であると、耐熱性や耐水性が向上し易く、成形時の熱劣化や溶融時の粘度上昇や流動性の低下を防ぐことができる。
【0028】
なお、この「流動開始温度」は、フロー温度または流動温度とも呼ばれ、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.8MPaの荷重下において、昇温速度4℃/分で液晶性芳香族ポリエステルの加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度であり、液晶性芳香族ポリエステルの分子量の目安となるものである(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、(株)シーエムシー出版、1987年6月5日発行を参照)。
【0029】
本実施形態の発泡成形用樹脂組成物に係る液晶性芳香族ポリエステルは市販のものを使用してもよいし、公知の方法で製造したものを使用してもよい。
液晶性芳香族ポリエステルの製造方法としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させることにより、液晶性芳香族ポリエステルを製造する方法が挙げられる。
【0030】
また、例えば、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させることにより、液晶性芳香族ポリエステルを製造する方法が挙げられる。
【0031】
さらに、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させることにより、液晶性芳香族ポリエステルを製造する方法が挙げられる。
【0032】
液晶性芳香族ポリエステルの2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量は、例えば、重縮合を行う際のモノマーの仕込み比を変更することにより制御することができる。
例えば、繰返し単位(1)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、繰返し単位(2)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジカルボン酸と、繰返し単位(3)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジオールとを、2,6−ナフチレン基を有するモノマーの合計量、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジオールの合計量が、全モノマーの合計量(モル数)に対して、40〜75モル%になるように調製して、重合(重縮合)させることにより、製造することができる。
【0033】
このとき、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールは、それぞれ独立に、その一部または全部に代えて、その重合可能な誘導体を用いてもよい。
芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの、カルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるものが挙げられる。
【0034】
芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジオールのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるものが挙げられる。
【0035】
また、本実施形態に係る液晶性芳香族ポリエステルは、構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や耐水性、強度が高い液晶性芳香族ポリエステルを操作性良く製造することができる。
【0036】
また、溶融重合は触媒の存在下に行ってもよく、触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0037】
[無機フィラー]
本実施形態の発泡成形用樹脂組成物には、温度25℃相対湿度50%の大気下における吸水率が0.05質量%以上2.0質量%以下である無機フィラーを含む。無機フィラーの吸水率は、好ましくは0.05質量%以上1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.05%以上0.4%以下である。
【0038】
本実施形態において「吸水率」とは、無機フィラーについて熱重量分析(以下、TGAと略すことがある)法により求めた値を意味する。TGA法は、具体的に、熱重量分析装置(TGA−50、株式会社島津製作所製)を用い、10℃/分の昇温条件で25℃から600℃まで昇温させることによって行われる。昇温前後の無機フィラーの質量比から式(S2)に基づいて吸水率は求められる。
TGAに供される無機フィラーには、温度25℃相対湿度50%の環境下に一定時間置かれたものを用いる。一定時間とは、無機フィラーに含まれる水分量が平衡に達する時間以上であればよく、限定されない。
【0040】
本実施形態の発泡成形用樹脂組成物に含まれる無機フィラーは、加熱溶融した上述の熱可塑性樹脂に対して、溶解しないで分散する性質を有している。
【0041】
本実施形態の発泡成形用樹脂組成物は、前記無機フィラーを含むことにより、上記熱可塑性樹脂内の無数の箇所で後述する発泡剤の気化が促され、発泡セルが良好に分散した発泡成形体を成形することができる。また、成形時には、発泡成形用樹脂組成物が無機フィラーを含むことにより、強度および剛性(弾性率)の向上も期待できる。
【0042】
無機フィラーの吸水率は、無機フィラーの材質、粒径、比表面積等の影響を受ける。すなわち、材質、粒径、および比表面積等を適宜選択することによって、温度25℃相対湿度50%の大気下における吸水率が0.05質量%以上2.0質量%以下である無機フィラーを得ることができる。
【0043】
上述の無機フィラーとしては、繊維状であってもよいし、板状であってもよいし、繊維状および板状以外で、球状その他の粒状であってもよい。
【0044】
繊維状無機フィラーとしては、数平均繊維径が好ましくは15μm以上25μm以下であり、より好ましくは16μm以上24μm以下の繊維状無機フィラーが挙げられる。繊維状充填材は、一種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;およびステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
【0045】
板状無機フィラーとしては、平均粒子径が好ましくは10μm以上50μm以下であり、より好ましく15μm以上40μm以下である板状無機フィラーが挙げらる。例えば、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、硫酸バリウムおよび炭酸カルシウムが好ましい。マイカは、白雲母であってもよいし、金雲母であってもよいし、フッ素金雲母であってもよいし、四ケイ素雲母であってもよい。これらの中で、タルクおよびマイカを好ましく使用することができる。
【0046】
粒状無機フィラーとしては、平均粒子径が好ましくは0.1μm以上50μm以下である粒状無機フィラーが挙げられる。例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、窒化ホウ素、炭化ケイ素および炭酸カルシウムが好ましい。これらの中で、酸化チタンをより好ましく使用することができる。
1つの側面として、本発明に係る無機フィラーは、酸化チタン、タルクおよびマイカからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0047】
本実施形態の発泡成形用樹脂組成物に含まれる無機フィラーの含有量は、前記発泡成形用樹脂組成物100質量部に対して1質量部以上25質量部以下である。好ましくは1質量部以上20質量部以下であり、2質量部以上18質量部以下であってもよく、3質量部以上17質量部以下であってもよく、3質量部以上10質量部以下であってもよい。
【0048】
本実施形態の発泡成形用樹脂組成物中の水分率は、発泡成形用樹脂組成物の総質量に対して、10ppm以上400ppm以下であってもよく、15ppm以上150ppm以下であってもよい。発泡成形用樹脂組成物の水分率が上記の範囲内にあると、発泡剤である超臨界流体を発泡成形用樹脂組成物中に良好に分散した状態で取り込むことができ、均一に発泡することができる。水分率が400ppmを超えると、発泡成形用樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の分解が生じる傾向があり、その結果、得られる発泡成形体の機械強度および耐熱性が低下する虞がある。
「発泡成形用樹脂組成物の水分率」は、熱可塑性樹脂を150℃で5時間以上乾燥し、乾燥前後の熱可塑性樹脂について測定される質量の差から算出することができる。
【0049】
[その他の成分]
本実施形態の発泡成形用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、上述の熱可塑性樹脂および無機フィラーの他にさらに添加剤を少なくとも1種含んでもよい。すなわち本実施形態の発泡成形用樹脂組成物は、1つの側面として、上述の熱可塑性樹脂、上述の無機フィラー、および添加剤を含む。
【0050】
例えば添加剤として、フッ素樹脂や金属石鹸類等の離型剤、酸化チタン等の顔料、染料等の着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、および界面活性剤等を成分として加えてもよい。これらの添加剤の含有量は、発泡成形用樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上5質量部以下である。
【0051】
<発泡成形体の製造方法>
本発明の一実施形態である発泡成形体の製造方法は、上述した発泡成形用樹脂組成物と、超臨界流体とを含む混合物を溶融混練する工程と、前記混合物の圧力および温度の少なくとも一方を前記超臨界流体の臨界点を下回るまで下げることで、前記混合物を発泡成形する工程とを含む。
【0052】
上述した発泡成形用樹脂組成物は、後述する発泡成形体の製造方法における取り扱いを容易にするため、押出機により溶融混練し、ペレット化しておくことが好ましい。予め溶融混練することにより、無機フィラーを発泡成形用樹脂組成物内に均一に分散させることができる。
【0053】
押出機としては、シリンダーと、シリンダー内に配置された少なくとも1本のスクリューと、シリンダーに設けられた少なくとも1箇所の供給口とを有する押出機が、好ましく、さらにシリンダーに設けられた少なくとも1箇所のベント部を有する押出機が、より好ましい。
【0054】
超臨界流体は、発泡成形用樹脂組成物を発泡させるための発泡剤として作用する。超臨界流体は、発泡成形用樹脂組成物との反応性がなく、また、常温常圧下(例えば、温度23℃、大気圧)で気体であることが好ましい。
【0055】
ここで「超臨界流体」とは、特定の温度および圧力(臨界点)以上の条件下において物質が示す、気体、液体および固体のいずれでもない物質の状態を示す用語である。特定の温度および圧力である臨界点は、物質の種類によって定まる。
なお本明細書では、「超臨界流体」とは、上記超臨界流体の性質を示す物質(後述の原料ガス)を意味する。すなわち、本明細書における超臨界流体は、気体状態と液体状態との中間の性質を示し、溶融した樹脂内への浸透力(溶解力)も液体状態に比べて強く、均一に溶融樹脂内に分散することができる性質を有する物質を意味する。
また、1つの側面として、「超臨界流体」とは、特定の温度または圧力(臨界点)以上の条件下におかれた物質を意味する。
【0056】
本実施形態に係る超臨界流体としては、例えば、二酸化炭素、窒素、ヘリウム等の不活性ガスや、空気、酸素、水素等を用いることができる。例示したこれらの中でも、窒素は、臨界点が温度:−147℃、圧力:3.4MPaであるため、常温(25℃)は臨界温度以上である。従って、圧力を制御するのみで超臨界流体を調製することが可能であるため取り扱いが容易であり、特に好ましい。
【0057】
本発明の一実施形態である発泡成形用樹脂組成物を、発泡させると同時に成形して発泡成形体を得る場合、発泡成形体の製造方法としては、溶融成形法が好ましい。溶融成形法としては、射出成形法、Tダイ法やインフレーション法等の押出成形法、ブロー成形法、真空成形法およびプレス成形が挙げられる。中でも押出成形法および射出成形法が好ましく、射出成形法がより好ましい。以下、射出成形により発泡成形体を製造する方法について説明する。
【0058】
超臨界流体の使用量は、発泡成形用樹脂組成物100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましい。超臨界流体の使用量が0.01質量部以上であると、発泡によってさらなる十分な軽量化効果が認められ、また、10質量部以下であるとより十分な機械強度が得られる傾向がある。
【0059】
[溶融混練]
図1は本実施形態の発泡成形体を製造するために用いられる射出成形機の模式図である。
この射出成形機1は、上述の発泡成形用樹脂組成物と超臨界流体とを用いて所定形状の発泡成型体を製造する機械であり、本体11と、金型12と、発泡剤を構成する超臨界流体を本体11内に導入するための超臨界流体の導入装置21と、を有している。
【0060】
導入装置21は、上述した超臨界流体の原料ガスが充填されているガスボンベ211と、ガスボンベ211からの原料ガスを臨界圧力まで昇圧する昇圧機212と、臨界圧力まで昇圧された原料ガス(超臨界流体)のシリンダー111内への導入量を制御する制御バルブ213とを備える。昇圧機212において原料ガスを断熱圧縮することにより原料ガスは加熱されるが、到達温度が臨界温度に満たない場合には、必要に応じて、ガスボンベ211からの原料ガスを臨界温度まで昇温する昇温機を用いる。
【0061】
次に、この射出成形機1を用いた発泡成形体の製造方法について説明する。
まず、上述の発泡成形用樹脂組成物をホッパー113からシリンダー111内に投入し、シリンダー111内で加熱混練することで発泡成形用樹脂組成物を溶融させる。一方、ガスボンベ211を開き、原料ガスを昇圧機212で臨界点以上に昇圧、昇温する。得られる超臨界流体を、制御バルブ213を開くことにより、シリンダー111内に導入し、溶融させた発泡成形用樹脂組成物に含浸させ、発泡成形用樹脂組成物および超臨界流体との混合物を溶融混練する。この際、シリンダー内の温度、圧力は超臨界流体に係る物質の臨界点以上とする。
【0062】
[発泡成形]
上述の溶融混練した発泡成形用樹脂組成物および超臨界流体との混合物(以下、溶融樹脂ということがある)をスクリュー112により移動させ、シリンダー111内から金型12に注入する。この際、溶融樹脂の金型12内への注入が終了するまでは、溶融樹脂に含まれる超臨界流体の超臨界状態を維持するため、金型12を型締し、またカウンタープレッシャーをかけておいてもよい。
【0063】
シリンダー111内の超臨界流体を含む溶融樹脂は、スクリュー112によりシリンダー111内から、加熱ヒーター等で所望温度に調温された金型12内に注入・保持される工程で、温度が低下する。さらに、臨界圧力以上であった圧力が常圧に近づき、超臨界状態の原料ガスが気体状態に変遷する。すなわち、溶融樹脂中に分散している超臨界状態の原料ガスが、超臨界状態から気体に変化することにより、体積が膨張し、発泡成形体が得られる。そして、金型12内の樹脂を冷却し固化させた後、所定の冷却時間が経過後に金型12から成形品を取り出す。以上の操作により、射出成形による発泡成形体を得ることができる。
【0064】
本発明の一実施形態である発泡成形体の製造方法では、厚みが1.5mm以上10mm以下となるような薄肉の発泡成形体も好適に製造することが可能である。
なお「厚み」は発泡成形体をマイクロメータ等により複数個所測定し、その平均値とする。
【0065】
[発泡成形体]
本実施形態において、発泡成形体の軽量化率は好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上、特に好ましくは40%以上であり、また、好ましくは90%以下である。すなわち、好ましくは20%以上90%以下が好ましく、25%以上90%以下がより好ましく、30%以上90%以下がさらに好ましく、40%以上90%以下がとりわけ好ましく、48%以上65%以下が特に好ましい。軽量化率が上述の範囲内であると、従来の方法で製造される発泡成形体よりも軽量化と機械的強度のバランスに優れた発泡成形体を得ることができる。
【0066】
本実施形態において、「軽量化率」とは、式(S1)に基づいて求めた値を意味する。
軽量化率(%)=100×(d
B−d
A)/d
B …(S1)
(式(S1)中、d
Bは発泡成形用樹脂組成物の真密度(g/cm
3)、d
Aは発泡成形体の見掛け密度(g/cm
3)を表す。)
発泡成形用樹脂組成物の真密度は後述の実施例における[発泡成形用樹脂組成物の真密度の測定]に記載の方法で求めることができる。
発泡成形体の見掛け密度は後述の実施例における[発泡成形体の見掛け密度の測定]に記載の方法で求めることができる。
【0067】
本実施形態において、超臨界流体の使用量を変更することにより、得られる発泡成形体の軽量化率を上述の範囲内に制御することができる。また、超臨界流体の種類によっても得られる発泡成形体の軽量化率を制御することができる。
【0068】
また、得られた発泡成形体をその後成形加工(二次加工)することとしてもよく、発泡と同時に成形して発泡成形体を得ることとしてもよい。生産性よく成形体を得ることができるため、発泡と同時に成形して発泡成形体を得る方が好ましい。
【0069】
本発明によれば、軽量かつ機械的強度に優れた発泡成形体を成形可能な発泡成形用樹脂組成物および発泡成形体の製造方法が提供される。
【0070】
本発明の発泡成形体は、一般に液晶性芳香族ポリエステルが適用し得るあらゆる用途に適用可能である。例えば、自動車分野としては、自動車内装材用射出成形体として、天井材用射出成形体、ホイールハウスカバー用射出成形体、トランクルーム内張用射出成形体、インパネ表皮材用射出成形体、ハンドルカバー用射出成形体、アームレスト用射出成形体、ヘッドレスト用射出成形体、シートベルトカバー用射出成形体、シフトレバーブーツ用射出成形体、コンソールボックス用射出成形体、ホーンパッド用射出成形体、ノブ用射出成形体、エアバッグカバー用射出成形体、各種トリム用射出成形体、各種ピラー用射出成形体、ドアロックベゼル用射出成形体、グラブボックス用射出成形体、デフロスタノズル用射出成形体、スカッフプレート用射出成形体、ステアリングホイール用射出成形体、ステアリングコラムカバー用射出成形体等が挙げられる。自動車外装材用射出成形体としては、バンパー用射出成形体、スポイラー用射出成形体、マッドガード用射出成形体、サイドモール用射出成形体等が挙げられる。その他の自動車部品用射出成形体としては、自動車ヘッドランプ用射出成形体、グラスランチャンネル用射出成形体、ウェザーストリップ用射出成形体、ドレーンホース用射出成形体、ウィンドウォッシャーチューブ用射出成形体等のホース用射出成形体、チューブ類用射出成形体、ラックアンドピニオンブーツ用射出成形体、ガスケット用射出成形体等が挙げられる。具体的には、EGIチューブ、アームレストインサート、アームレストガイド、アームレストベース、アウタードアハンドル、アッシュトレイパネル、アッシュトレイランプハウジング、アッパーガーニッシュ、アンテナインナーチューブ、イグニッションコイルケース、イグニッションコイルボビン、インサイドドアロックノブ、インストゥルメントパネルコア、インタークーラータンク、インナーロックノブ、ウィンドウガラススライダー、ウィンドウピボット、ウィンドウモール、ウィンドウレギュレーターハンドル、ウィンドウレギュレーターハンドルノブ、ウォーターポンプインペラー、ウォッシャーノズル、ウォッシャーモーターハウジング、エアースポイラー、エアーダクト、エアーダクトインテーク、エアーベンチレーションフィン、エアコンアクチュエーター、エアコントロールバルブ、エアコンマグネットクラッチボビン、エアコン調節ツマミ、エアフローメーターハウジング、エアレギュレーター、エクストラクトグリル、エンブレム、オイルクリーナーケース、オイルレベルゲージ、オイル制動バルブ、ガソリンチャンバー、ガソリンフロート、ガソリン噴射ノズル、キャニスター、キャブレター、キャブレターバルブ、クーラーシロッコファン、クーラーバキュームポンプ、クーリングファン、クラッチオイルリザーバー、グローブドアアウター、グローブボックス、グローブボックスノブ、グローブボックスリッド、コンデンサーケース、コンプレッサーバルブ、コンミュテーター、サーキットボード、サージタンク、サーモスタットハウジング、サイドブレーキワイヤープロテクター、サイドミラーステイ、サイドミラーハウジング、サイドモール、サイドルーバー、サイレンサー、サイレントギア、サンバイザーシャフト、サンバイザーブラケット、サンバイザーホルダー、サンルーフフレーム、シートベルトスルーアンカー、シートベルトタングプレート、シートベルトバックル、シートベルトリトラクターギア、ジェネレーターカバー、ジェネレーターコイルボビン、ジェネレーターブッシュ、シフトアームコーティング、シフトレバーノブ、ジャンクションボックス、シリンダーヘッドカバー、スイッチ、スイッチベース、スターターインターバルギア、スターターコイルボビン、スターターレバー、ステアリングコラムカバー、ステアリングボールジョイント、ステアリングホーンパッド、スピードセンサー、スピードメーターコントロール、スピードメータードリブンギア、スポイラー、スラストワッシャー、スリーブベアリング、センタークラスター、ソレノイドバルブ、タイミングベルトカバー、チェンジレバーカバー、ディストリビューターキャップ、ディストリビューターポイントブッシュ、ディストリビューター絶縁端子、テールゲート、ドア、ドアサイドモール、ドアトリム、ドアラッチカバー、トランクリアエプロン、トランクロアーバックフィニシャー、トランスミッションカバー、トランスミッションケース、トランスミッションブッシュ、トルコンスラストワッシャー、バキュームコントローラー、バックホーンハウジング、ハッチバックスライドブラケット、バランスシャフトギア、パワーウィンドウスイッチ基板ケース、パワーシートギアハウジング、パワーステアリングタンク、バンパー、バンパークリップ、バンパーモール、ヒーターコアタンク、ヒーターバルブ、ピストンバルブ、ヒューズボックス、ピラーガーニッシュ、ピラールーバー、フェンダー、フューエルインジェクター、フューエルインジェクターコネクター、フューエルインジェクターノズルカバー、フューエルストレーナー、フューエルセジメンタルケース、フューエルチェックバルブ、フューエルフィラーキャップ、フューエルフィルターハウジング、フューエルリッド、ブラシホルダー、ブレーキオイルフロート、ブレーキオイルリザーバー、ブレーキリザーバーキャップ、フロントエンドバンパー、フロントフェンダー、ヘッドレストガイド、ヘリカルギアー、ホイールキャップセンター、ホイールセンターハブキャップ、ホイールフルキャップ、ボンネットクリップ、ボンネットフードルーパー、マスターシリンダーピストン、メーターコネクター、メーターパネル、メーターフード、モーターギア、モールクリップ、ライセンスプレート、ライセンスプレートポケット、ラジエーターグリル、ラジエータータンク、ランプソケット、ランプリフレクター、リアシェルフ、リアエンドバンパー、リアシェルフサイド、リッドアウター、リッドクラスター、リッドクラスター、リトラクタブルヘッドランプカバー、リレーケース、リレーターミナルベースケースコイルボビン、ルーフサイドレールガーニッシュ、ルーフレール、ルームミラーステイ、レギュレーターケース、レギュレーターハンドル、レゾネーター、ワイパーアームヘッド、ワイパーアームヘッドカバー、ワイパーモーターインシュレーター、ワイパーレバー、ワイヤーハーネスコネクター、安全ベルト機構部品、回転センサー、各種スイッチ基板、電気配線用バンドクリップ、電動ミラーベース、内装クリップ、排ガスバルブ、排ガスポンプサイドシール、等が挙げられる。
【0071】
その他、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶ディスプレイ、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品、電子レンジ部品、音響・音声機器部品、照明部品、エアコン部品、オフィスコンピューター関連部品、電話・FAX関連部品、および複写機関連部品等が挙げられる。
【0072】
本発明の別の側面は、
超臨界流体を発泡剤として用いる発泡成形に用いられる発泡成形用樹脂組成物であって、
前記発泡成形用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、無機フィラーと、所望により添加剤と、を含み、
前記熱可塑性樹脂は、液晶性芳香族ポリエステルであり、
好ましくは、Ar
1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位およびAr
1がフェニレン基である繰返し単位からなる群から選択される少なくとも1つの繰り返し単位(1)と
Ar
2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位、Ar
2が1,4−フェニレン基である繰返し単位およびAr
2が1,3−フェニレン基である繰返し単位からなる群から選択される少なくとも1つの繰り返し単位(2)と
Ar
3が1,4−フェニレン基である繰返し単位およびAr
3がビフェニル基である繰返し単位からなる群から選択される少なくとも1つの繰り返し単位(3)と、を含み、
全繰り返し単位の合計量を100モル%としたとき、前記繰り返し単位(1)の含有量が、55〜72モル%、前記繰り返し単位(2)の含有量が、20〜24モル%、前記繰り返し単位(3)の含有量が、4〜22.5モル%であり、かつ前記繰り返し単位(1)と前記繰り返し単位(2)と前記繰り返し谷(3)との合計量は100モル%を超えない、液晶性芳香族ポリエステルであり;
前記無機フィラーは、
酸化チタン、タルクおよびマイカからなる群から選択される少なくとも1つであり;
前記無機フィラーの温度25℃相対湿度50%の大気下における吸水率は、0.05%以上2.0%以下であり、
好ましくは0.05%以上1.0%以下、より好ましくは0.05%以上0.5%以下、特に好ましくは0.05%以上0.4%以下であり;
前記発泡成形用樹脂組成物100質量部に対する、前記熱可塑性樹脂の含有量は、80〜99であり、
好ましくは90質量部以上97質量部以下であり;
前記発泡成形用樹脂組成物100質量部に対する前記無機フィラーの含有量は1質量部以上25質量部以下であり、
好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは2質量部以上18質量部以下、さらに好ましくは3質量部以上17質量部以下、
特に好ましくは3質量部以上10質量部以下であり;
前記発泡成形用樹脂組成物中の水分率は、10ppm以上400ppm以下、好ましくは15ppm以上150ppm以下である、
発泡成形用樹脂組成物である。
さらに、前記発泡成形用樹脂組成物は、軽量化率が48〜65%であり、かつ弾性率維持率が79〜85%であってもよい。
【0073】
本発明のさらに別の側面は、
上記発泡成形用樹脂組成物と、超臨界流体とを含む混合物を溶融混練する工程と、
前記溶融混練された混合物の圧力および温度の少なくとも一方を、前記超臨界流体の臨界点を下回るまで下げることで、前記混合物を発泡成形する工程と、を含み;
前記超臨界流体が、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、空気、酸素または水素であり、好ましくは窒素である、
発泡成形体の製造方法である。
【0074】
本発明のさらに別の側面は、
上記発泡成形用樹脂組成物を成形材料とする発泡成形体であり、
前記発泡成形体は、複数の気泡を内包し、
前記式(S1)で表される軽量化率が、20%以上90%以下であり、
好ましくは25%以上90%以下、より好ましくは30%以上90%以下、さらに好ましくは40%以上90%以下であり、特に好ましくは48%以上65%以下である
発泡成形体である。
【実施例】
【0075】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例では熱可塑性樹脂の一例として、液晶性芳香族ポリエステルを用いた。
【0076】
[無機フィラーの吸水率の測定]
無機フィラーの吸水率は、熱重量分析(TGA)法により求めた。具体的には、熱重量分析装置(TGA−50、株式会社島津製作所製)を用い、10℃/分の昇温条件で室温から600℃まで昇温させたときの、昇温前後の無機フィラーの質量比から式(S2)に基づいて求めた。
【数2】
【0077】
[発泡成形用樹脂組成物の水分率の測定]
発泡成形用樹脂組成物の水分率は、上記の方法により測定される無機フィラーの吸水率と、無機フィラーの含有量と、熱可塑性樹脂を150℃で5時間以上乾燥し、乾燥後の熱可塑性樹脂について測定される質量と、から算出した。なお、乾燥後の熱可塑性樹脂の水分率は0%とした。
【0078】
[発泡成形用樹脂組成物の真密度の測定]
発泡成形用樹脂組成物の真密度は、基準サンプルを150℃で5時間以上乾燥し、乾燥後の基準サンプルについて測定される質量と、寸法の測定値から得られる体積と、から算出した。基準サンプルの作製方法については、後述する。
【0079】
[発泡成形体の見掛け密度の測定]
発泡成形体の見掛け密度は、発泡成形体を150℃5時間以上乾燥し、乾燥後の発泡成形体について測定される質量と、寸法の測定値から得られる体積と、から算出した。
【0080】
[発泡成形体の軽量化率の測定]
発泡成形体の軽量化率は、式(S1)に基づいて求めた値を採用した。
軽量化率(%)=100×(d
B−d
A)/d
B …(S1)
(式(S1)中、d
Bは発泡成形用樹脂組成物の真密度(g/cm
3)、d
Aは発泡成形体の見掛け密度(g/cm
3)を表す。)
【0081】
[曲げ強度および曲げ弾性率の算出]
発泡成形体の曲げ強度および曲げ弾性率は、3点曲げ試験により求めた。得られた発泡成形体から、幅13mm、長さ125mm、厚み3mmの試験片を切り出し、この試験片について、万能試験機(テンシロンRTG−1250、(株)エー・アンド・デイ社製)を用い、スパン間距離50mm、試験速度1mm/minの測定条件で実施したときの値を採用した。
発泡成形体と同様に、基準サンプルの曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。
【0082】
[発泡成形体の弾性率維持率の測定]
発泡成形体の弾性率維持率は、基準サンプルの曲げ弾性率に対する発泡成形体の曲げ弾性率の割合を百分率で表した値を採用した。
【0083】
<製造例1(液晶性芳香族ポリエステルAの製造)>
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1,034.99g(5.5モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、ヒドロキノン272.52g(2.475モル:2,6−ナフタレンジカルボン酸およびテレフタル酸の合計量に対して0.225モル過剰)、無水酢酸1,226.87g(12モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを入れた。反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温(23℃)から145℃まで15分間かけて昇温し、145℃で1時間還流させた。次いで、副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温し、310℃で3時間保持した。そして、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、固形状の反応混合物(以下、プレポリマーということがある)を取り出し、室温まで冷却した。
【0084】
プレポリマーを、粉砕機で粒径約0.1〜1mmに粉砕した。粉砕物を窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から320℃まで10時間かけて昇温し、320℃で5時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合物を冷却して、粉末状の液晶性芳香族ポリエステルAを得た。
【0085】
液晶性芳香族ポリエステルAは、全繰り返し単位の合計量を100モル%として、Ar
1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)を55モル%、Ar
2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)を17.5モル%、Ar
2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)を5モル%、およびAr
3が1,4−フェニレン基である繰返し単位(3)を22.5モル%有していた。
【0086】
<製造例2(液晶性芳香族ポリエステルBの製造)>
粉砕したプレポリマー(粉砕物)を窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から310℃まで10時間かけて昇温し、310℃で5時間保持することにより、固相重合を行った以外は、製造例1と同様に行った。固相重合物を冷却して、粉末状の液晶性芳香族ポリエステルBを得た。
【0087】
液晶性芳香族ポリエステルBは、全繰り返し単位の合計量を100モル%として、Ar
1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)を55モル%、Ar
2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)を17.5モル%、Ar
2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)を5モル%、およびAr
3が1,4−フェニレン基である繰返し単位(3)を22.5モル%有していた。
【0088】
<製造例3(液晶性芳香族ポリエステルCの製造)>
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)および無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、1−メチルイミダゾールを0.18g添加し、窒素ガス気流下で30分間かけて150℃まで昇温し、150℃で保持して30分間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを2.4g添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温した。そして、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、固形状の反応混合物(プレポリマー)を取り出した。
【0089】
得られたプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粒径約0.1〜1mmに粉砕した。粉砕物を窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合物を冷却して、粉末状の液晶性芳香族ポリエステルCを得た。
【0090】
液晶性芳香族ポリエステルCは、全繰り返し単位の合計量を100モル%として、Ar
1がフェニレン基である繰返し単位(1)を72モル%、Ar
2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)を18モル%、Ar
2が1,3−フェニレン基である繰返し単位(2)を6モル%、およびAr
3がビフェニル基である繰返し単位(3)を4モル%有していた。
<製造例4(液晶性芳香族ポリエステルDの製造)>
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸 994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸239.2g(1.44モル)、イソフタル酸159.5g(0.96モル)および無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、1−メチルイミダゾールを0.18g添加し、窒素ガス気流下で30分間かけて150℃まで昇温し、150℃で保持して30分間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを2.4g添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温した。そして、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、固形状の反応混合物(プレポリマー)を取り出した。
【0091】
得られたプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粒径約0.1〜1mmに粉砕した。粉砕物を窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から240℃まで0.5時間かけて昇温し、240℃で10時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合物を冷却して、粉末状の液晶性芳香族ポリエステルDを得た。
【0092】
液晶性芳香族ポリエステルDは、全繰り返し単位の合計量を100モル%として、Ar
1がフェニレン基である繰返し単位(1)を72モル%、Ar
2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)を14.4モル%、Ar
2が1,3−フェニレン基である繰返し単位(2)を9.6モル%、およびAr
3がビフェニル基である繰返し単位(3)を4モル%有していた。
【0093】
<実施例1>
液晶性芳香族ポリエステルAの粉末97質量部と、石原産業(株)製の酸化チタン「CR−60」(平均粒子径・・・・)3質量部と、を混合し、(株)池貝製の2軸押出機「PCM−30」を用いて溶融混錬することにより、発泡成形用樹脂組成物からなるペレットを作製した。上記の方法により算出した発泡成形用樹脂組成物の水分率は、42ppmであった。なお、液晶性芳香族ポリエステルAの粉末は、150℃で5時間以上乾燥させたものを使用した。
このときの溶融混錬条件としては、この2軸押出機のシリンダー設定温度を340℃とし、スクリュー回転速度を150rpmとした。ここでいうシリンダー設定温度とは、シリンダーの最下流部からシリンダー長の約2/3の部分までに設けられた加熱機器の設定温度の平均値を意味する。
【0094】
発泡成形用樹脂組成物からなるペレットを発泡させることなく、溶融成形することによって、平板(250mm×360mm×3mmt)形状の成形体を作製し、基準サンプルとした。なお、本実施例において、基準サンプルの軽量化率(%)を0とし、また、基準サンプルの弾性率維持率(%)を100とした。
【0095】
また、発泡成形用樹脂組成物からなるペレットから、日本製鋼所(株)製の全電動成形機「J450AD」およびTREXEL.Inc製の超臨界流体製造ユニット「SCF SYSTEM」を用いて、平板(250mm×360mm×3mmt)形状の発泡成形体を作製した。このとき、設定温度360℃のシリンダー内で樹脂を加熱・計量する際に超臨界状態の窒素を導入し、設定温度120℃の金型に射出することで、金型中で超臨界状態の窒素が気体となった。
【0096】
<実施例2>
液晶性芳香族ポリエステルAの粉末97質量部と、日本タルク(株)製のタルク「X−50」3質量部と、を混合したことを除き、実施例1と同様にして、実施例2の基準サンプルおよび発泡成形体を作製した。上記の方法により算出した発泡成形用樹脂組成物の水分率は、15ppmであった。なお、液晶性芳香族ポリエステルAの粉末は、150℃で5時間以上乾燥させたものを使用した。
【0097】
<実施例3>
液晶性芳香族ポリエステルBの粉末97質量部と、日本タルク(株)製のタルク「X−50」3質量部と、を混合したことを除き、実施例1と同様にして、実施例3の基準サンプルおよび発泡成形体を作製した。上記の方法により算出した発泡成形用樹脂組成物の水分率は、15ppmであった。なお、液晶性芳香族ポリエステルBの粉末は、150℃で5時間以上乾燥させたものを使用した。
【0098】
<実施例4>
液晶性芳香族ポリエステルAの粉末97質量部と、石原産業(株)製の酸化チタン「PFD−309」3質量部と、を混合したことを除き、実施例1と同様にして、実施例3の基準サンプルおよび発泡成形体を作製した。上記の方法により算出した発泡成形用樹脂組成物の水分率は、69ppmであった。なお、液晶性芳香族ポリエステルAの粉末は、150℃で5時間以上乾燥させたものを使用した。
【0099】
<実施例5>
液晶性芳香族ポリエステルAの粉末97質量部と、石原産業(株)製の酸化チタン「CR−58」(平均粒子径0.28μm)3質量部と、を混合したことを除き、実施例1と同様にして、実施例5の基準サンプルおよび発泡成形体を作製した。上記の方法により算出した発泡成形用樹脂組成物の水分率は、120ppmであった。なお、液晶性芳香族ポリエステルAの粉末は、150℃で5時間以上乾燥させたものを使用した。
【0100】
<実施例6>
液晶性芳香族ポリエステルCの粉末49.5質量部と、液晶性芳香族ポリエステルDの粉末40.5質量部と、日本タルク(株)製のタルク「X−50」(平均粒子径22μm)10質量部と、を混合したことを除き、実施例1と同様にして、実施例6の基準サンプルおよび発泡成形体を作製した。上記の方法により算出した発泡成形用樹脂組成物の水分率は、50ppmであった。なお、液晶性芳香族ポリエステルCの粉末および液晶性芳香族ポリエステルDの粉末は、150℃で5時間以上乾燥させたものを使用した。
【0101】
<実施例7>
液晶性芳香族ポリエステルCの粉末52.25質量部と、液晶性芳香族ポリエステルDの粉末42.75質量部と、(株)ヤマグチマイカ製のマイカ「AB−25S」(体積平均粒径25μm)5質量部と、を混合したことを除き、実施例1と同様にして、実施例7の基準サンプルおよび発泡成形体を作製した。上記の方法により算出した発泡成形用樹脂組成物の水分率は、75ppmであった。なお、液晶性芳香族ポリエステルCの粉末および液晶性芳香族ポリエステルDの粉末は、150℃で5時間以上乾燥させたものを使用した。
【0102】
<実施例8>
液晶性芳香族ポリエステルCの粉末49.5質量部と、液晶性芳香族ポリエステルDの粉末40.5質量部と、を混合したことを除き、実施例1と同様にして、実施例8の基準サンプルおよび発泡成形体を作製した。上記の方法により算出した発泡成形用樹脂組成物の水分率は、150ppmであった。なお、液晶性芳香族ポリエステルCの粉末および液晶性芳香族ポリエステルDの粉末は、150℃で5時間以上乾燥させたものを使用した。
【0103】
<比較例1>
液晶性芳香族ポリエステルAの粉末70質量部と、日東紡績(株)製のガラスフィラー「CS3J−260S」(数平均繊維径10μm)30質量部と、を混合したことを除き、実施例1と同様にして、比較例1の基準サンプルおよび発泡成形体を作製した。なお、液晶性芳香族ポリエステルAの粉末は、150℃で5時間以上乾燥させたものを使用した。
【0104】
<比較例2>
液晶性芳香族ポリエステルAの粉末90質量部と、セントラル硝子(株)製のガラスフィラー「EFH75−01」(数平均繊維径10μm)10質量部と、を混合したことを除き、実施例1と同様にして、比較例2の基準サンプルおよび発泡成形体を作製した。なお、液晶性芳香族ポリエステルAの粉末は、150℃で5時間以上乾燥させたものを使用した。
【0105】
表1に実施例および比較例で使用した無機フィラーの吸水率(%)を示した。また、表2に実施例および比較例で作製した発泡成形用樹脂組成物の組成と、得られた発泡成形体の見掛け密度、軽量化率、曲げ強度、曲げ弾性率および弾性率維持率を示した。また、
図2に横軸に発泡成形体の軽量化率を表し、縦軸に発泡成形体の弾性率維持率を表した散布図を示した。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
本実施例において、室温における吸水率が本発明で規定した範囲内である無機フィラーと、発泡剤として超臨界流体を用いた場合、軽量化率が高く、機械的強度に優れた発泡成形体が得られた。
【0109】
以上の結果から、本発明の有用性が確かめられた。