特許第6948344号(P6948344)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6948344中間色反射防止ガラス基板およびそれを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948344
(24)【登録日】2021年9月22日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】中間色反射防止ガラス基板およびそれを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/245 20060101AFI20210930BHJP
   C03C 3/076 20060101ALI20210930BHJP
   C03C 3/078 20060101ALI20210930BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20210930BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20210930BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20210930BHJP
   C03C 3/089 20060101ALI20210930BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20210930BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20210930BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   C03C17/245 A
   C03C3/076
   C03C3/078
   C03C3/083
   C03C3/085
   C03C3/087
   C03C3/089
   C03C3/091
   C03C3/097
   B60J1/00 H
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-552706(P2018-552706)
(86)(22)【出願日】2017年3月13日
(65)【公表番号】特表2019-513676(P2019-513676A)
(43)【公表日】2019年5月30日
(86)【国際出願番号】EP2017055853
(87)【国際公開番号】WO2017178170
(87)【国際公開日】20171019
【審査請求日】2020年2月21日
(31)【優先権主張番号】16164906.6
(32)【優先日】2016年4月12日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
(73)【特許権者】
【識別番号】515327188
【氏名又は名称】エージーシー グラス コムパニー ノース アメリカ
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511214772
【氏名又は名称】ケルテック アンジェニウリ
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ナヴェ, バンジャマン
(72)【発明者】
【氏名】ブーランジェ, ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ブサルド, デニス
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0376058(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0052821(US,A1)
【文献】 特開平03−023238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
C03C 1/00−14/00
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の反射率を減少させ、かつ同時に反射における色を中間に保持するための、Nの単電荷および多電荷イオンの混合物の使用であって、前記単電荷および多電荷イオンの混合物は、前記ガラス基板の前記反射率を最大で6.5%まで低減し、かつ同時に−1≦a≦1および−1≦b≦1であるように前記反射における色を中間に保持するために有効なイオン線量および加速電圧で前記ガラス基板中に注入され、前記加速電圧は、20kV〜25kVであり、前記イオン線量は、6×1016イオン/cm〜−5.00×1015×A/kV+2.00×1017イオン/cmである、使用。
【請求項2】
前記単電荷および多電荷イオンの混合物は、前記ガラス基板の前記反射率を最大で6.5%まで低減し、かつ同時に−0.3≦a≦0.3および−0.3≦b≦0.3であるように前記反射における色を中間に保持するために有効なイオン線量および加速電圧で前記ガラス基板中に注入される、請求項に記載のガラス基板の反射率を減少させ、かつ同時に反射における色を中間に保持するための、Nの単電荷および多電荷イオンの混合物の使用。
【請求項3】
記ガラス基板は、ガラスの全重量の重量パーセントとして表される以下の組成範囲:
SiO 35〜85%、
Al 0〜30%、
0〜20%、
0〜20%、
NaO 0〜25%、
CaO 0〜20%、
MgO 0〜20%、
O 0〜20%、および
BaO 0〜20%
を有する、請求項1または2に記載のガラス基板の反射率を減少させ、かつ同時に反射における色を中間に保持するための、Nの単電荷および多電荷イオンの混合物の使用。
【請求項4】
前記ガラス基板は、ソーダライムガラスシート、ボロシリケートガラスシートまたはアルミノシリケートガラスシートから選択される、請求項1または2に記載のガラス基板の反射率を減少させ、かつ同時に反射における色を中間に保持するための、Nの単電荷および多電荷イオンの混合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間色反射防止ガラス基板およびそれを製造する方法に関する。本発明は、特にグレイジングとしての中間色反射防止ガラス基板の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの反射防止ガラス基板は、ガラス表面上でのコーティングの析出によって得られる。光反射率の低減は、ガラス基板の屈折率より低いか、または屈折率勾配を有する屈折率を有する単層によって得られる。高性能反射防止ガラス基板は、全可視域上の光反射率の有意な低減を得るために干渉効果を利用する多層スタックによって得られる。基板の両面に適用されたそのような高性能反射防止層スタックは、約8%から4%またはさらに低く典型的なガラス基板の光反射率を低減することが可能である。しかしながら、それらは、高い組成および層厚制御による多層析出ステップを必要とするため、困難かつ費用のかかるプロセスとなる。さらに、単一中間色反射防止層および特に通常、物理的蒸着によって析出される多層スタックは、ガラス自体よりも機械的および/または化学的攻撃に対して感応性である。単層反射防止層は、多くの場合、反射において中間でない色を示し、および中間色多層反射防止コーティングは、さらに多数の層を必要とするため、得られる層スタックがさらにより感応性となる。
【0003】
仏国特許第1300336号明細書には、別の反射防止ガラス基板が開示されている。その反射防止効果は、ガラス基板の表面中へ100nmまたは200nmの深さまで10原子%の濃度で希ガスの重イオンを注入することによって得られる。しかしながら、希ガスは比較的高価であり、ガラス基板中において、注入された希ガスイオンのそのような高濃度に到達する必要性は、ガラスネットワークに重大な損傷を生じる危険性を増加させる。さらに、これらのガラス基板は、反射において中間ではない。
【0004】
したがって、当該技術分野において、中間色反射防止ガラス基板を製造する単純で安価な方法を提供することが必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様によれば、本発明の主題は、中間色反射防止ガラス基板を製造する方法を提供することである。
【0006】
本発明の別の態様によれば、本発明の主題は、中間色反射防止ガラス基板を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、中間色反射防止ガラス基板を製造する方法であって、以下の操作:
・N供給源ガスを提供すること、
・N供給源ガスをイオン化して、Nの単電荷イオンおよび多電荷イオンの混合物を形成すること、
・Nの単電荷イオンおよび多電荷イオンの混合物を加速電圧で加速して、Nの単電荷イオンおよび多電荷イオンのビームを形成すること、ただし加速電圧Aは、20kV〜25kVであり、線量Dは、6×1016イオン/cm〜−5.00×1015×A/kV+2.00×1017イオン/cmである、
・ガラス基板を提供すること、
・Nの単電荷および多電荷イオンのビームの軌道にガラス基板を配置すること
を含む方法に関する。
【0008】
本発明者らは、驚くべきことに、Nの単電荷および多電荷イオンの混合物を含み、同一の特定の加速電圧でかつそのような特定の線量において加速され、ガラス基板に適用されるイオンビームを提供する本発明の方法が、低減された反射率をもたらすことを見出した。有利には、結果として生じるガラス基板の反射率は、約8%から最大で6.5%、好ましくは最大で6%、より好ましくは最大で5.5%まで減少する。最も驚くべきことに、注入されたNの濃度が注入深さを通して2原子%未満であり、さらに、反射におけるaおよびbの色座標によって表される反射における色が中間、すなわち−1≦a≦1および−1≦b≦1であるか、または非常に中間、すなわち−0.3≦a≦0.3および−0.3≦b≦0.3であるにもかかわらず、この低いレベルの反射率が達成される。
【0009】
本発明によると、N供給源ガスがイオン化されて、Nの単電荷イオンおよび多電荷イオンの混合物を形成する。加速された単電荷イオンおよび多電荷イオンのビームは、種々の量の異なるNイオンを含み得る。好ましくは、加速された単電荷および多電荷イオンのビームは、N、N2+およびN3+を含む。
【0010】
それぞれのイオンの電流例を以下の表1に示す(ミリアンペアで測定される)。
【0011】
【0012】
本発明によると、重要なイオン注入パラメーターは、イオン加速電圧およびイオン線量である。
【0013】
表面積またはイオン線量あたり一定量のイオンが得られるように、ガラス基板の配置は、単電荷および多電荷イオンのビームの軌道において選択される。イオン線量または線量は、平方センチメートルあたりのイオン数として表される。本発明の目的に関して、イオン線量は、単電荷イオンおよび多電荷イオンの全線量である。イオンビームは、好ましくは、単電荷および多電荷イオンの連続流を提供する。イオン線量は、イオンビームへの基板の曝露時間を制御することによって制御される。本発明によれば、多電荷イオンは、1正電荷より多くを伴うイオンである。単電荷イオンは、1正電荷を有するイオンである。
【0014】
本発明の一実施形態において、配置は、ガラス基板の特定の表面積を段階的に処理するように、ガラス基板およびイオン注入ビームを互いに対して移動させることを含む。好ましくは、それらは、0.1mm/秒〜1000mm/秒の範囲の速度で、互いに対して移動される。イオン注入ビームに対するガラスの移動速度は、処理される領域のイオン線量に影響を与えるビームにおける試料の滞留時間を制御する適切な様式で選択される。
【0015】
本発明の方法は、例えば、本発明のイオンビームによって基板表面を連続的に走査することにより、または例えば単回通過もしくは複数回通過で、全幅において、移動基板を処理する複数のイオン供給源の配列を形成することにより、1mより大きい大型基板を処理するように容易に拡大され得る。
【0016】
本発明者らは、単電荷および多電荷イオンの混合物を含み、同一の加速電圧で加速されるイオンビームを提供するイオン供給源が、それらが単電荷イオンのものよりも低い多電荷イオンの線量を提供し得るため、特に有用であることを見出した。そのようなビームで提供される、より高い線量およびより低い注入エネルギーを有する単電荷イオンと、より低い線量およびより高い注入エネルギーを有する多電荷イオンとの混合物により、中間色反射防止ガラス基板が得られ得るように思われる。電子ボルト(eV)で表される注入エネルギーは、単電荷イオンまたは多電荷イオンの電荷を加速電圧で掛けることによって計算される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、処理される領域下に位置する、処理されるガラス基板の領域の温度は、ガラス基板のガラス転移温度以下である。この温度は、例えば、ビームのイオン電流、ビームにおいて処理された領域の滞留時間、および基板の任意の冷却手段によって影響される。
【0018】
本発明の一実施形態において、いくつかのイオン注入ビームは、同時にまたは連続してガラス基板を処理するために使用される。
【0019】
本発明の一実施形態において、ガラス基板の表面単位面積あたりのイオンの全線量は、イオン注入ビームによる単一処理によって得られる。
【0020】
本発明の別の実施形態において、ガラス基板の表面単位面積あたりのイオンの全線量は、1種以上のイオン注入ビームのいくつかの連続処理によって得られる。
【0021】
好ましい実施形態において、ガラス基板は、低い反射率効果を最大化するように、本発明による方法によってその両表面上で処理される。
【0022】
本発明の方法は、好ましくは、10−2mbar〜10−7mbarの範囲の圧力、より好ましくは10−5mbar〜10−6mbarの範囲の圧力において減圧チャンバー中で実行される。
【0023】
本発明の方法を実行するためのイオン供給源の一例は、Quertech Ingenierie S.A.からのHardion+RCEイオン供給源である。
【0024】
反射率は、光源D65および2°の観測装置角度を使用して、本発明のイオン注入法で処理された基板の側面上で可視光範囲において測定される。反射における色は、10°の観測装置角度を使用して、光源D65下でのCIELAB色座標aおよびbによって表され、かつ本発明の方法で処理された基板の側面上で測定される。CIE LまたはCIELABは、International Commission on Illuminationによって明示された色空間である。
【0025】
本発明は、ガラス基板の反射率を減少させ、かつ同時に反射における色を中間に保持するための、Nの単電荷および多電荷イオンの混合物の使用であって、単電荷および多電荷イオンの混合物は、ガラス基板の反射率を低減し、かつ同時に反射における色を中間に保持するために有効なイオン線量および加速電圧でガラス基板中に注入される、使用にも関する。
【0026】
有利には、Nの単電荷および多電荷イオンの混合物は、ガラス基板の反射率を最大で6.5%、好ましくは最大で6%、より好ましくは最大で5.5%まで低減するために有効なイオン線量および加速電圧でガラス基板中に注入される。同時に、反射における色は、中間、すなわち−1≦a≦1および−1≦b≦1に保持される。
【0027】
処理前のガラス基板の反射率は、約8%である。
【0028】
より有利には、Nの単電荷および多電荷イオンの混合物は、ガラス基板の反射率を最大で6.5%、好ましくは最大で6%、より好ましくは最大で5.5%まで低減するために使用される。同時に、反射における色は、非常に中間、すなわち−0.3≦a≦0.3および−0.3≦b≦0.3に保持される。
【0029】
本発明によれば、Nの単電荷および多電荷イオンの混合物は、好ましくは、N、N2+およびN3+を含む。
【0030】
本発明によれば、ガラス基板の反射率を低減し、かつ同時に反射における色を中間に保持するために有効な加速電圧およびイオン線量は、好ましくは、以下の範囲に含まれる。
【0031】
【0032】
本発明は、低減された反射率を有するイオン注入されたガラス基板であって、Nの単電荷および多電荷イオンの混合物は、本発明の方法に従って注入されている、ガラス基板にも関する。
【0033】
有利には、本発明のイオン注入されたガラス基板は、最大で6.5%、好ましくは最大で6%、より好ましくは最大で5.5%の反射率を有する。それらは、反射における中間色、すなわち−1≦a≦1および−1≦b≦1、好ましくは−0.3≦a≦0.3および−0.3≦b≦0.3も有する。
【0034】
本発明の好ましい実施形態において、本発明のガラス基板中に注入されるイオンは、Nの単電荷または多電荷イオンである。
【0035】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、Nの単電荷および多電荷イオンの混合物は、NおよびN2+のそれぞれよりも少ない量のN3+を含む。本発明のより好ましい実施形態によれば、Nの単電荷および多電荷イオンの混合物は、40〜70%のN、20〜40%のN2+および2〜20%のN3+を含む。
【0036】
有利には、イオンの注入深さは、0.1μm〜1μm、好ましくは0.1μm〜0.5μmの範囲であることができる。
【0037】
本発明で使用されるガラス基板は、通常、2つの対面する主要表面を有するガラス基板などのシートである。本発明のイオン注入は、これらの表面の片方または両方で実行され得る。本発明のイオン注入は、ガラス基板の表面の一部においてまたは全表面で実行され得る。
【0038】
別の実施形態において、本発明は、それらがモノリシックであるか、ラミネーテッドであるか、またはガス層が挿入されたマルチプルであるかどうかにかかわらず、本発明の反射防止ガラス基板を含むグレイジングにも関する。
【0039】
これらのグレイジングは、内外建築物グレイジングとして、およびパネル、ディスプレイウィンドウ、ガラス家具、例えばカウンター、冷蔵ディスプレイケースなどの対象のための保護ガラスとして、また自動車用グレイジング、例えばラミネーテッドウインドシールド、ミラー、コンピュータ用の反光沢スクリーン、ディスプレイおよび装飾用ガラスとしても使用され得る。
【0040】
本発明による反射防止ガラス基板を含むグレイジングは、興味深い追加的な特性を有し得る。したがって、それは、セキュリティー機能を有するグレイジング、例えばラミネーテッドグレイジングであり得る。それは、盗難防止、防音、防火または抗菌機能を有するグレイジングでもあり得る。
【0041】
グレイジングは、本発明による方法によってその片面において処理された基板が、他の面上で析出された層スタックを含むような様式でも選択され得る。層のスタックは、特定の機能、例えばサンシールド性もしくは熱吸収性を有し得るか、または抗紫外線性、帯電防止性(例えば、わずかに伝導性のドープされた金属酸化物層)および低放出性、例えば銀ベース層もしくはドープされた酸化スズ層を有し得る。それは、微細TiO層などの抗汚染性を有する層、または撥水性を有する疎水性有機層もしくは抗凝縮性を有する親水性層でもあり得る。
【0042】
層スタックは、ミラー機能を有する銀を含むコーティングであり得、かつ全ての構造が可能である。したがって、ミラー機能を有するモノリシックグレイジングの場合、面1(すなわち観察者が位置する側面)として処理された面および面2(すなわちミラーが壁部に取り付けられる側面)上の銀コーティングを有する本発明の反射防止ガラス基板を配置することが興味深く、したがって、本発明による反射防止スタックは反射像の分割を防ぐ。
【0043】
(ガラス基板の面が最も外側の面から開始して番号付けられる規約に従って)二重グレイジングの場合、面1としての反射防止処理面、ならびに抗紫外線またはサンシールドのための面2上の他の機能層および低放出性層のための3を使用することが可能である。したがって、二重グレイジングにおいて、基板の1つの面の1つとしての反射防止面と、補足的な機能性を提供する少なくとも1つの層または層のスタックとを有することが可能である。二重グレイジングは、特に少なくとも面2、3または4においていくつかの反射防止処理面も有し得る。モノリシックグレイジング1に関して、反射防止面と関連する帯電防止機能層を析出することが可能である。
【0044】
基板は、表面処理、特に酸エッチング(フロスティング)を受け得、イオン注入処理は、エッチング面または反対面上で行われ得る。
【0045】
基板またはそれが関連するものの1つは、印刷された装飾用ガラス型であり得、またはスクリーンプロセス印刷され得る。
【0046】
本発明による反射防止ガラス基板を含む特に興味深いグレイジングは、ポリマーアセンブリシートから離れてイオン注入処理面を有する本発明の反射防止ガラス基板と、別のガラス基板との間にポリマー型アセンブリシートを含む、2つのガラス基板によるラミネーテッド構造を有するグレイジングである。ポリマーアセンブリシートは、ポリビニルブチラル(PVB)型、ポリ酢酸ビニル(EVA)型またはポリシクロヘキサン(COP)型であり得る。好ましくは、別のガラス基板は、本発明による反射防止ガラス基板である。
【0047】
特に2つの加熱処理された、すなわち曲げおよび/または焼戻しされた基板を有するこの構造により、自動車用グレイジング、特に非常に有利な性質のウインドシールドを得ることが可能となる。基準によると、自動車は、直入射において少なくとも75%の高い光透過率を有するウインドシールドを有する必要がある。従来のウインドシールドのラミネーテッド構造中の熱処理された反射防止ガラス基板の組み込みにより、グレイジングの光透過率が特に向上し、そのエネルギー透過率は、他の手段によってわずかに低減され得るが、なお光透過率基準の範囲内に残る。したがって、ウインドシールドのサンシールド効果は、例えば、ガラス基板の吸収によって改善され得る。基準的なラミネーテッドウインドシールドの光反射値は、8%から5%未満され得る。
【0048】
本発明によるガラス基板は、ガラスの全重量の重量パーセントとして表される以下の組成範囲:
SiO 35〜85%、
Al 0〜30%、
0〜20%、
0〜20%、
NaO 0〜25%、
CaO 0〜20%、
MgO 0〜20%、
O 0〜20%、および
BaO 0〜20%
を有する、いずれの厚さのガラスシートでもあり得る。
【0049】
本発明によるガラス基板は、好ましくは、ソーダライムガラスシート、ボロシリケートガラスシートまたはアルミノシリケートガラスシートから選択されるガラスシートである。特に好ましい実施形態において、ガラスシートは、透明ガラスシートである。
【0050】
本発明によるガラス基板は、好ましくは、イオン注入を受ける側面上にコーティングを有さない。
【0051】
本発明によるガラス基板は、ガラス注入処理後にその最終寸法へと切断される大型ガラスシートであり得、または既に最終サイズに切断されたガラスシートであり得る。
【0052】
有利には、本発明のガラス基板は、フロートガラス基板であり得る。本発明のイオン注入法は、フロートガラス基板の空気側面上および/またはフロートガラス基板のスズ側面上で行われ得る。好ましくは、本発明のイオン注入法は、フロートガラス基板の空気側面上で行われる。
【0053】
本発明の実施形態において、ガラス基板は、あらかじめ化学強化されたガラス基板であり得る。
【0054】
光学的特性は、Hunterlab Ultrascan Pro分光光度計を使用して測定された。
【実施例】
【0055】
特定の実施形態の詳細な説明
以下の表中に詳述された種々のパラメーターに従って、単電荷および多電荷イオンのビームを発生するためにRCEイオン供給源を使用してイオン注入実施例を調製した。使用されたイオン供給源は、Quertech Ingenierie S.A.からのHardion+RCEイオン供給源であった。
【0056】
全ての試料は、10×10cmのサイズを有し、かつ20〜30mm/秒の速度でイオンビームを通るようにガラス基板を置き換えることにより、全表面上で処理された。
【0057】
処理されているガラス基板の領域の温度は、ガラス基板のガラス転移温度以下の温度に保持された。
【0058】
全ての実施例に関して、注入は、10−6mbarの圧力において減圧チャンバー中で行われた。
【0059】
Nのイオンを4mmの通常の透明ソーダライムガラスおよびアルミノシリケートガラス基板中に注入した。本発明のイオン注入法によって注入される前、ガラス基板の反射率は約8%であった。重要な注入パラメーターおよび光学的測定値は、以下の表に見ることができる。
【0060】
【0061】
本発明の実施例E1〜E6から見ることができるように、加速電圧Aが20kV〜25kVであり、線量が6×1016イオン/cm〜−5.00×1015×A/kV+2.00×1017イオン/cmであるイオン注入のために使用される、選択された重要なパラメーターは、一方では、最大で6.5%、最大で6.0%または最大で5.5%の低減された反射率をもたらし、かつ他方では、これらの実施例の反射における色は、中間、すなわち−1≦a≦1および−1≦b≦1である。実施例E3、E4およびE5に関して選択された重要な注入パラメーターは、反射において非常に中間の色、すなわち−0.3≦a≦0.3および−0.3≦b≦0.3をもたらす。
【0062】
さらに、本発明の実施例E1〜E6においてXPS測定を行い、Nの注入イオンの原子濃度が注入深さを通して8原子%未満であることが見出された。