【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、溶鋼の流れを計算する従来のシミュレーションは、その大半が溶鋼を単一の流体と見なして行ったものであり、溶鋼に含まれる気泡や介在物の除去に資する研究例は極めて少ない。気泡や介在物については、浮力による上昇により溶鋼の自由表面から除去されることから、溶鋼の下降を抑制する電磁ブレーキによって、効果的に溶鋼から除去されているものと考えられていた。
【0008】
しかしながら、本発明者らによる検証により、直流磁場を利用した電磁ブレーキを用いることで、溶鋼の流れと共に気泡及び介在物の上昇が著しく抑制され、その上昇の抑制は、密度が同じであれば、気泡又は介在物が微細であるほど顕著となることが明らかになった。従って、微細な気泡や介在物を含んだ状態で溶鋼が固化するという課題が存在する。
そして、近年求められているスループットの増加により、溶鋼の下降速度は速まる傾向がある。従って、溶鋼の下降の速さに対する気泡及び介在物の上昇の速さの相対値は低下していることとなり、上記課題はより顕在化するものと考えられる。
【0009】
また、上記課題は、溶鋼に限ったものではなく、導電性流体全般に共通するものである。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされるもので、電磁ブレーキを作用させた導電性流体から気泡及び介在物の一方又は双方を安定的に取り除
く除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的に沿う
本発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法は、収容体に入れられて流れが生じている導電性流体から気泡及び介在物の一方又は双方を取り除く除去方法であって、前記収容体を間に挟んで鉛直方向に非平行な向きに間隔を空けて第1、第2の印加部を配置し、該第1の印加部から該第2の印加部に向けて発生した直流磁場によって、前記導電性流体中に該導電性流体の流れを抑制するブレーキ領域を設け、前記収容体に対し前記第1、第2の印加部を昇降させて前記ブレーキ領域を上下動させる。
【0014】
本発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法において、前記第1、第2の印加部は水平方向の前記直流磁場を発生させるのが好ましい。
【0015】
本発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法において、前記収容体は連続鋳造設備の鋳型であり、前記導電性流体は溶鋼であるのが好ましい。
【0016】
本発明者らは、電磁場下における導電性流体の流れと気泡の相互作用を計算可能な数値解析コード(数値解析実行ファイル)を開発し(以下、当該数値解析コードを、単に「解析コード」とも言う)、解析コードを用いて、導電性流体中の気泡の動きを解析した。解析コードによる解析スキームは、流れ場及び電磁場の式の離散化に有限要素法を適用し、変形する自由表面の形状をレベルセット法を用いて計算するものである。本解析スキームで用いた流れ場及び電磁場の支配方程式を以下に示す。
【0017】
【数1】
【0018】
【数2】
【0019】
【数3】
【0020】
【数4】
【0021】
【数5】
【0022】
上記の式1及び式2はそれぞれ非圧縮性流体の運動方程式及び非圧縮性流体の連続の式であり、式3は電荷保存則を示し、式4はオームの法則を示す。式5はレベルセット関数Fの移流方程式であり、気液界面(自由表面)の運動学的条件を表す。なお、式1〜式5において、物理量には無次元化を適用し、v、p、Ψ、J、Bはそれぞれ、速度、圧力、電位、電流密度及び磁束密度であり、無次元数G、Γ、Haはそれぞれ、ガリレイ数、表面張力数及びハルトマン数である。そして、ρ
H、μ
H、σ
Hは、位置に依存する値で、それぞれ密度、粘性係数及び電気伝導率の比を表わし、e
zはz軸の正方向の基本ベクトルを意味し、nは気相から液相へ向かう界面上の外向き単位法線ベクトルを意味し、κはnの界面上における発散値を意味し、δ
εは近似デルタ関数を意味する。また、式1のHa
2J×Bの直前のμに類似の文字は気体の粘性係数に対する流体の粘性係数の割合を意味する。
【0023】
また、解析コードによって解析する解析モデルMは、
図1に示すように、気泡Pを含む導電性流体Qからなり、気泡Pの初期形状を球形とし、気泡Pの代表長さLを気泡Pの直径と定める。解析モデルMは5L×5L×10Lの寸法を有し、等分割直交格子により形成されているものとし、直流磁場は水平方向(y方向)に印加されているとする。
解析コードによる解析によって、ハルトマン数(Ha)が0、25、50である3つの解析モデルMを対象に、所定時間経過した際の気泡Pの高さ位置及び気泡Pの形状を求めた結果を
図2に示す。
【0024】
図2に示す結果より、ハルトマン数の増加に伴い、気泡Pの上昇が遅くなり、気泡Pが球形に近づくことが分かる。気泡Pの上昇がハルトマン数の増加に伴い遅くなるのは、導電性流体Qの流れを抑制する電磁ブレーキ(v×B×B)が、気泡Pの浮力による上向きの流れ場と逆向き(下向き)に作用すること、並びに、電磁ブレーキによる導電性流体Qの流れの抑制度がHa
2の大きさに応じて大きくなること(式1参照)に起因する。そして、気泡Pがハルトマン数の増加に伴い球形に近くなるのは、気泡Pの上昇の抑制によって、気泡Pに作用する表面張力の影響が大きくなることが要因である。
【0025】
そして、一様な磁場において、大きさの異なる2つの気泡P1、P2(気泡P1、P2の半径rはそれぞれ0.5L、0.25L)が導電性流体Q内で上昇する様子を解析コードでシミュレーションした結果(2つの気泡P1、P2の重心位置の時間的変化)を
図3に示す。
図3に示す結果より、気泡P1は気泡P2に比べ速く上昇することが確認できる。気泡P1、P2は、大きいほど大きい浮力が作用して、速く上昇することが分かる。このため、導電性流体Qの自由表面に到達するまでに要する時間は、小さい気泡P2が大きい気泡P1に比べて長くなる。
【0026】
図2、
図3に示す結果より、直流磁場の印加によって導電性流体の流れを制御する場合、導電性流体中で直流磁場により流れが抑制される領域(以下、「ブレーキ領域」とも言う)においては、ブレーキ領域に位置する気泡の上昇が大きく抑制され、特に、微細な気泡はブレーキ領域内に留まる時間が長くなることが確認できた。なお、これは介在物についても同様であり、密度が同じ介在物であれば、小さいものが大きいものに比べ、ブレーキ領域内に留まる時間が長くなる。
以上の結果を踏まえ、上述した
本発明に係る気泡又は介在物もしくは双方
の除去方法によって、直流磁場による電磁ブレーキの効果を維持しつつ気泡及び介在物を安定的に除去できることを、
図4に示す気泡・介在物除去装置10を例に説明する。
【0027】
気泡・介在物除去装置10を用いて気泡P’が取り除かれる導電性流体Q’は、
図4に示すように、複数の気泡P’を含み、収容体11に入れられている。
気泡・介在物除去装置10は、収容体11を中心に収容体11の左右にそれぞれ配されたコイル12、13(それぞれ第1、第2の印加部の一例)及びコイル12、13に電流を与える図示しない電源部を有し、コイル12からコイル13に向けた直流磁場Sを発生させて、導電性流体Q’中に導電性流体Q’の流れを抑制するブレーキ領域を設けるブレーキ発生手段14を備えている。ブレーキ領域は、導電性流体Q’において、直流磁場Sが生じている領域である。
【0028】
また、気泡・介在物除去装置10は、コイル12、13がそれぞれ昇降可能に取り付けられたガイド機構15、16、コイル12をガイド機構15に沿って昇降させる駆動源17、コイル13をガイド機構16に沿って昇降させる駆動源18、及び、駆動源17、18の作動を制御する制御部19を有している。気泡・介在物除去装置10においては、収容体11に対しコイル12、13を昇降させる昇降手段20が、主としてガイド機構15、16、駆動源17、18及び制御部19によって構成されている。
【0029】
コイル12、13は、電気が流れている状態で直流磁場Sを発生させる。ブレーキ領域は、コイル12、13の昇降と共に上下に移動する。コイル12の高さ位置に対するコイル13の高さ位置は常に同じであり、コイル12、13は、水平方向の直流磁場Sを発生させる。
なお、以下、特に記載しない場合、コイル12、13には電気が流れているものとする。
【0030】
コイル12、13の基準高さ位置は、
図4に示すように、導電性流体Q’の高さ方向中央より下側であり、コイル12、13が基準高さ位置に配された状態で、基準高さ位置、即ちブレーキ領域に在る気泡P’は、浮力による上昇が抑制されている。
コイル12、13が、
図5(A)に示すように、基準高さ位置から上昇するのに伴いブレーキ領域が上昇し、基準高さ位置で上昇が抑制されていた気泡P’は上昇の抑制が無い状態となって上昇する。上昇したコイル12、13は、導電性流体Q’が存在する所定の高さで停止する。以下、そのコイル12、13の停止位置を上側停止位置とも言う。
【0031】
基準高さ位置から上昇した気泡P’は、
図5(B)に示すように、コイル12、13が停止している上側停止位置まで上昇し、上側停止位置に設けられたブレーキ領域で気泡P’の上昇速度が低下する。
そして、コイル12、13が、
図5(C)に示すように、上側停止位置から基準高さ位置まで降下するのに伴いブレーキ領域が降下することで、上側停止位置に在った気泡P’は、ブレーキ領域による上昇の抑制が解除された状態となって上昇する。
従って、気泡・介在物除去装置10は、気泡P’をブレーキ領域で留めた時間を低減でき、導電性流体Qから気泡P’を安定的に取り除くことが可能である。
【0032】
また、気泡・介在物除去装置10において、収容体11内の導電性流体中に介在物が存在している場合、気泡・介在物除去装置10は、コイル12、13の昇降によって、介在物をブレーキ領域で留めた時間を短縮し、介在物を導電性流体の表面まで効率的に浮上させることができる。導電性流体の表面に浮上した介在物は容易に取り除くことができるため、気泡・介在物除去装置10は、導電性流体から介在物を安定的に取り除くことを可能とする。