特許第6948691号(P6948691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948691
(24)【登録日】2021年9月24日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】気泡又は介在物もしくは双方の除去方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/11 20060101AFI20210930BHJP
   B22D 11/04 20060101ALI20210930BHJP
   B22D 11/116 20060101ALI20210930BHJP
   B22D 27/02 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   B22D11/11 D
   B22D11/04 311J
   B22D11/116
   B22D27/02 U
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-92912(P2017-92912)
(22)【出願日】2017年5月9日
(65)【公開番号】特開2017-213600(P2017-213600A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2020年3月2日
(31)【優先権主張番号】特願2016-108612(P2016-108612)
(32)【優先日】2016年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】河野 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】岩永 貴裕
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−274849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容体に入れられて流れが生じている導電性流体から気泡及び介在物の一方又は双方を取り除く除去方法であって、
前記収容体を間に挟んで鉛直方向に非平行な向きに間隔を空けて第1、第2の印加部を配置し、該第1の印加部から該第2の印加部に向けて発生した直流磁場によって、前記導電性流体中に該導電性流体の流れを抑制するブレーキ領域を設け、前記収容体に対し前記第1、第2の印加部を昇降させて前記ブレーキ領域を上下動させることを特徴とする気泡又は介在物もしくは双方の除去方法。
【請求項2】
請求項記載の気泡又は介在物もしくは双方の除去方法において、前記第1、第2の印加部は水平方向の前記直流磁場を発生させることを特徴とする気泡又は介在物もしくは双方の除去方法。
【請求項3】
請求項又は記載の気泡又は介在物もしくは双方の除去方法において、前記収容体は連続鋳造設備の鋳型であり、前記導電性流体は溶鋼であることを特徴とする気泡又は介在物もしくは双方の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性流体から気泡及び/又は介在物を取り除く除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼から鋳片を生産する技術において、各メーカーは生産性の向上及び品質レベルの向上にしのぎを削っている。一般的に生産性の向上と品質レベルの向上はトレードオフの関係にあり、その2つを同時に達成することは容易ではない。
連続鋳造工程では、鋳型に注がれた溶鋼が温度の低下によって凝固し始めるため、高品質な製品を生産する点においては、鋳型内の溶鋼の流れを制御することが重要である。
【0003】
溶鋼の流れの制御には電磁ブレーキを利用することができ、その具体例が、特許文献1〜6に記載されている。
例えば、特許文献1には、直流磁場印加装置を設けて鋳型内の溶鋼に電磁ブレーキを生じさせ、鋳型の下方に交流移動磁場装置を設けて鋳型内に溶鋼の上昇流を生じさせる技術が記載されている。
【0004】
また、溶鋼の制御についての解析結果が非特許文献1、2に開示されている。非特許文献1には、鋳型内の溶鋼の下降流に対して静磁場を作用させることにより流れが抑制される効果をシミュレーションによって評価した結果が記載されている。そして、非特許文献2には、浸漬ノズルから注入される溶鋼の流れ及び電磁攪拌流を考慮したメニスカスの流動制御についてのシミュレーション結果が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−212723号公報
【特許文献2】特開2000−273581号公報
【特許文献3】特開2001−47195号公報
【特許文献4】特開2002−45955号公報
【特許文献5】特開2002−239691号公報
【特許文献6】特開平8−224643号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】森下雅史、外3名、「スラブ幅方向に静磁場を印加した連続鋳造機内の溶鋼流動挙動に関する基礎検討」、鉄と鋼 Vol.87(2001)No.4、p167−174
【非特許文献2】中島潤二、外1名、「連続鋳造鋳片品質向上のための非金属介在物低減技術の開発」、新日鉄技報 第394号(2012)、p42−47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、溶鋼の流れを計算する従来のシミュレーションは、その大半が溶鋼を単一の流体と見なして行ったものであり、溶鋼に含まれる気泡や介在物の除去に資する研究例は極めて少ない。気泡や介在物については、浮力による上昇により溶鋼の自由表面から除去されることから、溶鋼の下降を抑制する電磁ブレーキによって、効果的に溶鋼から除去されているものと考えられていた。
【0008】
しかしながら、本発明者らによる検証により、直流磁場を利用した電磁ブレーキを用いることで、溶鋼の流れと共に気泡及び介在物の上昇が著しく抑制され、その上昇の抑制は、密度が同じであれば、気泡又は介在物が微細であるほど顕著となることが明らかになった。従って、微細な気泡や介在物を含んだ状態で溶鋼が固化するという課題が存在する。
そして、近年求められているスループットの増加により、溶鋼の下降速度は速まる傾向がある。従って、溶鋼の下降の速さに対する気泡及び介在物の上昇の速さの相対値は低下していることとなり、上記課題はより顕在化するものと考えられる。
【0009】
また、上記課題は、溶鋼に限ったものではなく、導電性流体全般に共通するものである。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされるもので、電磁ブレーキを作用させた導電性流体から気泡及び介在物の一方又は双方を安定的に取り除く除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的に沿う発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法は、収容体に入れられて流れが生じている導電性流体から気泡及び介在物の一方又は双方を取り除く除去方法であって、前記収容体を間に挟んで鉛直方向に非平行な向きに間隔を空けて第1、第2の印加部を配置し、該第1の印加部から該第2の印加部に向けて発生した直流磁場によって、前記導電性流体中に該導電性流体の流れを抑制するブレーキ領域を設け、前記収容体に対し前記第1、第2の印加部を昇降させて前記ブレーキ領域を上下動させる。
【0014】
発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法において、前記第1、第2の印加部は水平方向の前記直流磁場を発生させるのが好ましい。
【0015】
発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法において、前記収容体は連続鋳造設備の鋳型であり、前記導電性流体は溶鋼であるのが好ましい。
【0016】
本発明者らは、電磁場下における導電性流体の流れと気泡の相互作用を計算可能な数値解析コード(数値解析実行ファイル)を開発し(以下、当該数値解析コードを、単に「解析コード」とも言う)、解析コードを用いて、導電性流体中の気泡の動きを解析した。解析コードによる解析スキームは、流れ場及び電磁場の式の離散化に有限要素法を適用し、変形する自由表面の形状をレベルセット法を用いて計算するものである。本解析スキームで用いた流れ場及び電磁場の支配方程式を以下に示す。
【0017】
【数1】
【0018】
【数2】
【0019】
【数3】
【0020】
【数4】
【0021】
【数5】
【0022】
上記の式1及び式2はそれぞれ非圧縮性流体の運動方程式及び非圧縮性流体の連続の式であり、式3は電荷保存則を示し、式4はオームの法則を示す。式5はレベルセット関数Fの移流方程式であり、気液界面(自由表面)の運動学的条件を表す。なお、式1〜式5において、物理量には無次元化を適用し、v、p、Ψ、J、Bはそれぞれ、速度、圧力、電位、電流密度及び磁束密度であり、無次元数G、Γ、Haはそれぞれ、ガリレイ数、表面張力数及びハルトマン数である。そして、ρ、μ、σは、位置に依存する値で、それぞれ密度、粘性係数及び電気伝導率の比を表わし、eはz軸の正方向の基本ベクトルを意味し、nは気相から液相へ向かう界面上の外向き単位法線ベクトルを意味し、κはnの界面上における発散値を意味し、δεは近似デルタ関数を意味する。また、式1のHaJ×Bの直前のμに類似の文字は気体の粘性係数に対する流体の粘性係数の割合を意味する。
【0023】
また、解析コードによって解析する解析モデルMは、図1に示すように、気泡Pを含む導電性流体Qからなり、気泡Pの初期形状を球形とし、気泡Pの代表長さLを気泡Pの直径と定める。解析モデルMは5L×5L×10Lの寸法を有し、等分割直交格子により形成されているものとし、直流磁場は水平方向(y方向)に印加されているとする。
解析コードによる解析によって、ハルトマン数(Ha)が0、25、50である3つの解析モデルMを対象に、所定時間経過した際の気泡Pの高さ位置及び気泡Pの形状を求めた結果を図2に示す。
【0024】
図2に示す結果より、ハルトマン数の増加に伴い、気泡Pの上昇が遅くなり、気泡Pが球形に近づくことが分かる。気泡Pの上昇がハルトマン数の増加に伴い遅くなるのは、導電性流体Qの流れを抑制する電磁ブレーキ(v×B×B)が、気泡Pの浮力による上向きの流れ場と逆向き(下向き)に作用すること、並びに、電磁ブレーキによる導電性流体Qの流れの抑制度がHaの大きさに応じて大きくなること(式1参照)に起因する。そして、気泡Pがハルトマン数の増加に伴い球形に近くなるのは、気泡Pの上昇の抑制によって、気泡Pに作用する表面張力の影響が大きくなることが要因である。
【0025】
そして、一様な磁場において、大きさの異なる2つの気泡P1、P2(気泡P1、P2の半径rはそれぞれ0.5L、0.25L)が導電性流体Q内で上昇する様子を解析コードでシミュレーションした結果(2つの気泡P1、P2の重心位置の時間的変化)を図3に示す。図3に示す結果より、気泡P1は気泡P2に比べ速く上昇することが確認できる。気泡P1、P2は、大きいほど大きい浮力が作用して、速く上昇することが分かる。このため、導電性流体Qの自由表面に到達するまでに要する時間は、小さい気泡P2が大きい気泡P1に比べて長くなる。
【0026】
図2図3に示す結果より、直流磁場の印加によって導電性流体の流れを制御する場合、導電性流体中で直流磁場により流れが抑制される領域(以下、「ブレーキ領域」とも言う)においては、ブレーキ領域に位置する気泡の上昇が大きく抑制され、特に、微細な気泡はブレーキ領域内に留まる時間が長くなることが確認できた。なお、これは介在物についても同様であり、密度が同じ介在物であれば、小さいものが大きいものに比べ、ブレーキ領域内に留まる時間が長くなる。
以上の結果を踏まえ、上述した発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法によって、直流磁場による電磁ブレーキの効果を維持しつつ気泡及び介在物を安定的に除去できることを、図4に示す気泡・介在物除去装置10を例に説明する。
【0027】
気泡・介在物除去装置10を用いて気泡P’が取り除かれる導電性流体Q’は、図4に示すように、複数の気泡P’を含み、収容体11に入れられている。
気泡・介在物除去装置10は、収容体11を中心に収容体11の左右にそれぞれ配されたコイル12、13(それぞれ第1、第2の印加部の一例)及びコイル12、13に電流を与える図示しない電源部を有し、コイル12からコイル13に向けた直流磁場Sを発生させて、導電性流体Q’中に導電性流体Q’の流れを抑制するブレーキ領域を設けるブレーキ発生手段14を備えている。ブレーキ領域は、導電性流体Q’において、直流磁場Sが生じている領域である。
【0028】
また、気泡・介在物除去装置10は、コイル12、13がそれぞれ昇降可能に取り付けられたガイド機構15、16、コイル12をガイド機構15に沿って昇降させる駆動源17、コイル13をガイド機構16に沿って昇降させる駆動源18、及び、駆動源17、18の作動を制御する制御部19を有している。気泡・介在物除去装置10においては、収容体11に対しコイル12、13を昇降させる昇降手段20が、主としてガイド機構15、16、駆動源17、18及び制御部19によって構成されている。
【0029】
コイル12、13は、電気が流れている状態で直流磁場Sを発生させる。ブレーキ領域は、コイル12、13の昇降と共に上下に移動する。コイル12の高さ位置に対するコイル13の高さ位置は常に同じであり、コイル12、13は、水平方向の直流磁場Sを発生させる。
なお、以下、特に記載しない場合、コイル12、13には電気が流れているものとする。
【0030】
コイル12、13の基準高さ位置は、図4に示すように、導電性流体Q’の高さ方向中央より下側であり、コイル12、13が基準高さ位置に配された状態で、基準高さ位置、即ちブレーキ領域に在る気泡P’は、浮力による上昇が抑制されている。
コイル12、13が、図5(A)に示すように、基準高さ位置から上昇するのに伴いブレーキ領域が上昇し、基準高さ位置で上昇が抑制されていた気泡P’は上昇の抑制が無い状態となって上昇する。上昇したコイル12、13は、導電性流体Q’が存在する所定の高さで停止する。以下、そのコイル12、13の停止位置を上側停止位置とも言う。
【0031】
基準高さ位置から上昇した気泡P’は、図5(B)に示すように、コイル12、13が停止している上側停止位置まで上昇し、上側停止位置に設けられたブレーキ領域で気泡P’の上昇速度が低下する。
そして、コイル12、13が、図5(C)に示すように、上側停止位置から基準高さ位置まで降下するのに伴いブレーキ領域が降下することで、上側停止位置に在った気泡P’は、ブレーキ領域による上昇の抑制が解除された状態となって上昇する。
従って、気泡・介在物除去装置10は、気泡P’をブレーキ領域で留めた時間を低減でき、導電性流体Qから気泡P’を安定的に取り除くことが可能である。
【0032】
また、気泡・介在物除去装置10において、収容体11内の導電性流体中に介在物が存在している場合、気泡・介在物除去装置10は、コイル12、13の昇降によって、介在物をブレーキ領域で留めた時間を短縮し、介在物を導電性流体の表面まで効率的に浮上させることができる。導電性流体の表面に浮上した介在物は容易に取り除くことができるため、気泡・介在物除去装置10は、導電性流体から介在物を安定的に取り除くことを可能とする。
【発明の効果】
【0033】
発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法は、収容体に対し第1、第2の印加部を昇降させるので、電磁ブレーキを作用させた導電性流体から気泡及び介在物の一方又は双方を安定的に取り除くことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】気泡の移動が解析される解析モデルの説明図である。
図2】ハルトマン数が異なる同解析モデルの解析結果を示す説明図である。
図3】大きさが異なる気泡の上昇のシミュレーション結果を示す説明図である。
図4】本発明の気泡又は介在物もしくは双方の除去方法を適用する除去装置を示す説明図である。
図5】(A)〜(C)は、同除去装置によって気泡を上昇させる様子を示す説明図である。
図6】本発明の一実施の形態に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法を適用する除去装置が用いられる連続鋳造設備の説明図である。
図7】同除去装置の説明図である。
図8】(A)〜(C)は、実施例における気泡とブレーキ領域の関係を示す説明図である。
図9】実施例及び比較例のシミュレーション結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図6図7に示すように、本発明の一実施の形態に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法を適用する除去装置(以下、「気泡・介在物除去装置30」とする)は、連続鋳造設備32に設けられた鋳型(収容体の一例)31を間に挟み水平方向に間隔を空けて配されたコイル12、13(それぞれ第1、第2の印加部の一例)を有し、コイル12からコイル13に向けた直流磁場Sを発生させて、鋳型31に入れられた溶鋼(導電性流体の一例)Q’’中に溶鋼Q’’の流れを抑制するブレーキ領域を設けるブレーキ発生手段14と、鋳型31に対しコイル12、13を昇降させる昇降手段20とを備える。
【0036】
なお、気泡・介在物除去装置30において、気泡・介在物除去装置10と同様の構成については、同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
連続鋳造設備32は、溶鋼Q’’の流れに沿って鋳型31の上流側に設けられた取鍋33及びタンディッシュ34と、鋳型31から送り出された凝固する工程を経た溶鋼Q’’を所定の経路に沿って搬送する複数のロール35を備えている。
【0037】
鋳型31には、タンディッシュ34から浸漬ノズル36を介して溶鋼Q’’が供給され、鋳型31内の溶鋼Q’’に流れを生じさせている。コイル12、13は、同一高さ位置に配され、ブレーキ発生手段14は、水平方向の直流磁場Sを発生させて溶鋼Q’’中にブレーキ領域を設けることで、鋳型31内の溶鋼Q’’の流れを抑制することができる。ブレーキ領域はコイル12、13の昇降に伴って昇降する。
【0038】
また、浸漬ノズル36は、溶鋼Q’’と共に不活性ガスを鋳型31内に注入するため、鋳型31内の溶鋼Q’’は、気泡P’’を含んだ状態にある。そして、溶鋼Q’’内には、溶鋼Q’’中で浮力により上昇する介在物(例えば、スラグ、Al、SiO)Tが存在している。
昇降手段20は、コイル12、13の昇降に伴ってブレーキ領域を鋳型31に対し昇降させ、気泡P’’及び介在物Tの上昇を鈍化させるブレーキ領域の影響を抑えて、気泡P’’及び介在物Tを溶鋼Q’’の表面まで効率的に浮上させ、気泡P’’及び介在物Tを溶鋼Q’’から安定的に取り除けるようにする。
なお、気泡・介在物除去装置30は、溶鋼から気泡及び介在物の双方を取り除くためではなく、溶鋼から気泡及び介在物の一方を取り除くために採用してもよい。コイル12、13の昇降速度や昇降範囲は、溶鋼から取り除く対象に応じて適宜調整される。
【0039】
また、気泡・介在物除去装置30を用いて溶鋼Q’’から気泡P’’ 及び介在物Tの一方もしくは双方を取り除く除去方法は以下に記すものとなる。即ち、当該除去方法は、鋳型31を間に挟んで鉛直方向に非平行な向き(例えば、水平方向)に間隔を空けてコイル12、13を配置して発生させた直流磁場Sによって、溶鋼Q’’中にブレーキ領域を設け、鋳型31に対しコイル12、13を昇降させてブレーキ領域を上下動させるものである。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った数値実験について説明する。
数値実験は、解析モデルMを対象に解析コードを用いて気泡Pの上昇をシミュレーションしたもので、ブレーキ領域Rを解析モデルMに対して固定した場合(比較例)とブレーキ領域Rを解析モデルMに対して昇降させた(図8(A)〜(C)参照)場合(実施例)とで、気泡Pの上昇を比較した。
【0041】
解析モデルMの最下位置を0位置、最上位置を10L位置として、実施例は、図8(A)〜(C)に示すように、高さ方向に2Lの長さを有するブレーキ領域Rが、ブレーキ領域Rの下端部を基準として2L位置から6L位置の間で昇降し、ブレーキ領域Rが160の無次元速さで降下するものとした。比較例は、ブレーキ領域Rが、下端部を2L位置に配置して固定されているものとした。また、実施例及び比較例共に、気泡Pの初期状態における重心の位置を1L位置とした。
【0042】
シミュレーション結果(実施例と比較例に対応する気泡の重心位置の時間的変化)は図9に示すようになった。なお、図9において、”St”は比較例のブレーキ領域Rの位置を示し、”Moving coil”は実施例を示し、”Static coil”は比較例を示し、Haの値はハルトマン数を示す。
図9に示す結果より、実施例は、比較例に比べて気泡Pが速く上昇することが確認できた。なお、介在物に対しても気泡に対するのと同様のシミュレーション結果が得られるのは言うまでもない。
【0043】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、気泡又は介在物もしくは双方の除去方法を適用する除去装置は、連続鋳造設備以外の設備に設けてもよい。連続鋳造設備以外で当該除去装置を設けることができる例として、チョクラルスキー法によってシリコンの単結晶インゴットを製造する設備が挙げられる。当該設備においては、導電性流体にシリコン融液が採用され、収容体としてシリコン融液を収容する坩堝が採用される。
また、直流磁場は、鉛直方向のものでなければ、水平方向のものである必要はなく、例えば、水平方向に傾斜した方向のものであってもよい。
【符号の説明】
【0044】
10:気泡・介在物除去装置、11:収容体、12、13:コイル、14:ブレーキ発生手段、15、16:ガイド機構、17、18:駆動源、19:制御部、20:昇降手段、30:気泡・介在物除去装置、31:鋳型、32:連続鋳造設備、33:取鍋、34:タンディッシュ、35:ロール、36:浸漬ノズル、M:解析モデル、P、P1、P2、P’、P’’:気泡、Q、Q’:導電性流体、Q’’:溶鋼、R:ブレーキ領域、S:直流磁場、T:介在物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9