【文献】
IWAYAMA, I. et al.,Physica C,2007年,460-462,p.581-582
【文献】
菅原和士,気相拡散法によるMgB2の作製及びその超伝導特性,第49回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集,2002年,p.239
【文献】
AHN, Jung-Ho,International Journal of Modern Physics B,2009年,Vol.23, No.17,p.3503-3508
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0032】
1. MgB
2バルク体
まず、本実施形態に係るMgB
2バルク体について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るMgB
2バルク体10を模式的に示す斜視図である。
【0033】
MgB
2バルク体10は、超伝導を発現する超伝導体である。図示の例では、MgB
2バルク体10は、円盤状の形状(外形)を有しているが、その形状は特に限定されず、例えば、板状、リング状などであってもよい。MgB
2バルク体10は、超伝導バルク磁石であってもよい。
【0034】
MgB
2バルク体10は、塊状の物体である。MgB
2バルク体10は、mm(ミリメ
ートル)以上のオーダーである。すなわち、MgB
2バルク体10は、重心と、目視による外形の表面と、の間の距離が0.5mm以上である。MgB
2バルク体10が円盤状の形状を有している場合、厚さTおよび直径Dが1mm以上である。例えば、厚さTは、1mm以上50cm以下であり、直径Dは、1mm以上1m以下である。なお、MgB
2バルク体10は、cm(センチメートル)オーダーであってもよいし、m(メートル)オーダーであってもよい。
【0035】
MgB
2バルク体10は、MgB
2(二ホウ化マグネシウム)を含む。MgB
2バルク体10におけるMgB
2の純度(MgB
2バルク体10全量に対するMgB
2の割合)は、95at%(アトミックパーセント)以上であり、好ましくは、97.5at%以上である。MgB
2バルク体10におけるMgB
2の純度は、例えば、粉末X線回折におけるリートベルト分析によって求めることができる。
【0036】
MgB
2バルク体10は、MgO(酸化マグネシウム)を含んでいてもよい。MgB
2バルク体10におけるMgOの割合(MgB
2バルク体10全量に対するMgOの割合)は、5at%以下であり、好ましくは、2.5at%以下である。さらに、MgB
2バルク体10は、MgB
2以外のホウ化マグネシウム(例えばMgB
4やMgB
7)を含んでいてもよい。MgB
2バルク体10の組成は、例えば、SEM/EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)で求めることができる。
【0037】
MgB
2バルク体10は、例えば、多孔質である。MgB
2バルク体10の充填率は、70%以上であり、好ましくは、75%以上である。MgB
2バルク体10の充填率を求めるには、まず、MgB
2バルク体10の質量および体積(外形の体積)を測定し、MgB
2の比重に基づいて、求めることができる。MgB
2バルク体10の体積は、例えば、MgB
2バルク体10の形状が円盤状の場合は、直径および厚さを測定することにより求めることができる。
【0038】
MgB
2バルク体10は、例えば、以下の特徴を有する。
【0039】
MgB
2バルク体10では、超伝導体であって、充填率が70%以上であり、MgB
2の純度が95at%以上である。そのため、MgB
2バルク体10は、充填率が高く、かつMgB
2の純度が高い。したがって、MgB
2バルク体10は、高い臨界電流密度および高い捕捉磁場強度を有することができる。
【0040】
MgB
2バルク体10では、充填率が75%以上であってもよい。そのため、MgB
2バルク体10は、充填率がより高い。
【0041】
MgB
2バルク体10では、MgB
2の純度が97.5at%以上であってもよい。そのため、MgB
2バルク体10は、純度がより高い。
【0042】
MgB
2バルク体10では、mm以上のオーダーであってもよい。このような、MgB
2バルク体10では、例えばμm(マイクロメートル)のオーダーである場合に比べて、電流を多く流すことができ、高い捕捉磁場強度を得ることができる。
【0043】
2. MgB
2バルク体の製造装置
次に、本実施形態に係るMgB
2バルク体の製造装置について、図面を参照しながら説明する。
図2は、本実施形態に係るMgB
2バルク体の製造装置100を模式的に示す断面図である。
図3は、本実施形態に係るMgB
2バルク体の製造装置100を模式的に示す斜視図である。MgB
2バルク体の製造装置100(以下、単に「製造装置100」ともいう)は、本発明に係るMgB
2バルク体(例えばMgB
2バルク体10)を製造する
ための装置である。
【0044】
製造装置100は、
図2および
図3に示すように、容器20と、第1壁部30と、第2壁部32と、第3壁部34と、第4壁部36と、を含む。
【0045】
容器20の形状は、内部に空間を形成することができれば、特に限定されないが、図示の例では、円筒状である。容器20は、例えば、互いに対向する第1円盤部22および第2円盤部24と、円盤部22,24に接続された筒部26と、を有している。容器20内(容器20の内部)は、例えば、空気で密閉された空間である。容器20の材質は、例えば、鉄、ステンレス、銅、白金、チタン、ニオブ、タンタルなどである。
【0046】
第1壁部30および第2壁部32は、容器20内に設けられている。壁部30,32は、筒部26に設けられている。
図2に示すように断面視において、筒部26は、互いに対向する第1部分26aおよび第2部分26bを有している。壁部30,32は、第1部分26aに設けられ、第1部分26aから第2部分26b側に向けて延出している。壁部30,32は、第2部分26bと離間している。すなわち、壁部30,32と第2部分26bとの間には、空隙が設けられている。壁部30,32の材質は、例えば、容器20と同じである。
【0047】
第1壁部30は、固体のマグネシウム2が配置される第1マグネシウム配置領域40を規定する。具体的には、第1マグネシウム配置領域40は、第1壁部30、第1円盤部22、および筒部26によって規定される。第1壁部30は、第1マグネシウム配置領域40に配置された固体のマグネシウム2が熱処理によって液体となった場合に、液体となったマグネシウムがホウ素バルク体4に接触することを防止することができる。
【0048】
第2壁部32は、固体のマグネシウム2が配置される第2マグネシウム配置領域42を規定する。具体的には、第2マグネシウム配置領域42は、第2壁部32、第2円盤部24、および筒部26によって規定される。第2壁部32は、第2マグネシウム配置領域42に配置された固体のマグネシウム2が熱処理によって液体となった場合に、液体となったマグネシウムがホウ素バルク体4に接触することを防止することができる。
【0049】
第3壁部34および第4壁部36は、容器20内に設けられている。壁部34,36は、第1壁部30の第1マグネシウム配置領域40側とは反対側であって、かつ、第2壁部32の第2マグネシウム配置領域42側とは反対側の領域に設けられている。壁部34,36は、第1壁部30と第2壁部32との間に設けられている。壁部34,36の材質は、例えば、容器20と同じである。
【0050】
ここで、
図4は、第3壁部34および第4壁部36を模式的に示す斜視図である。壁部34,36は、
図4に示すように、例えば、円盤状の形状を有している。壁部34,36の形状および大きさは、例えば、同じである。壁部34,36には、貫通孔38が設けられている。貫通孔38は、円盤状の壁部34,36を厚さ方向に貫通している。貫通孔38は、複数設けられている。図示の例では、複数の貫通孔38は、三角格子状に設けられている。
【0051】
第3壁部34および第4壁部36は、
図2に示すように、ホウ素バルク体4が配置されるホウ素配置領域44を規定する。ホウ素バルク体4は、元素としてのホウ素を含む原料粉末から成型されたものである。壁部34,36は、ホウ素バルク体4を挟んで支持する。第3壁部34と第4壁部36との間の距離は、例えば、1mm以上である。ホウ素配置領域44と第1円盤部22との間の距離と、ホウ素配置領域44と第2円盤部24との間の距離とは、例えば、等しい。
【0052】
第1マグネシウム配置領域40とホウ素配置領域44とは、連通している。具体的には、第1壁部30と第2部分26bとの間に空隙が設けられ、かつ、第3壁部34に貫通孔38が設けられていることにより、第1マグネシウム配置領域40とホウ素配置領域44とは、連通している。
【0053】
第2マグネシウム配置領域42とホウ素配置領域44とは、連通している。具体的には、第2壁部32と第2部分26bとの間に空隙が設けられ、かつ、第4壁部36に貫通孔38が設けられていることにより、第2マグネシウム配置領域42とホウ素配置領域44とは、連通している。
【0054】
第1マグネシウム配置領域40とホウ素配置領域44とが連通し、かつ、第2マグネシウム配置領域42とホウ素配置領域44とが連通しているため、固体のマグネシウム2を熱処理により気化させて、気体のマグネシウムをホウ素バルク体4に接触させることができる。
【0055】
容器20は、図示せぬ電気炉内に配置され、熱処理される。これにより、マグネシウム配置領域40,42に配置された固体のマグネシウム2を熱処理することができる。
【0056】
なお、
図5に示すように、第2壁部32および第4壁部36が設けられることなく、第2マグネシウム配置領域42が規定されていなくてもよい。この場合、ホウ素バルク体4は、第3壁部34と第2円盤部24とに挟まれて支持される。ただし、気体のマグネシウムを、均一性よくホウ素バルク体4中に拡散させることを考慮すると、
図2に示すように、第2マグネシウム配置領域42を設けることが好ましい。
【0057】
3. MgB
2バルク体の製造方法
次に、本実施形態に係るMgB
2バルク体10の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図6は、本実施形態に係るMgB
2バルク体10の製造方法を説明するためのフローチャートである。以下では、一例として、製造装置100を用いたMgB
2バルク体10の製造方法について説明する。
【0058】
(1)まず、元素としてのホウ素を含む原料粉末からホウ素バルク体4を成型する(ステップS1、成型工程)。具体的には、原料粉末を、例えばダイスなどの装置を用いてプレス成型し、ホウ素バルク体4を成型する。ホウ素バルク体4の形状(外形の形状)は、ペレット状であり、具体的には、円盤状である。ホウ素バルク体4の形状によって、MgB
2バルク体10の形状を適宜設定することができる。
【0059】
ホウ素バルク体4のかさ密度は、原料粉末がホウ素粉末である場合、例えば、0.9g/cm
3以上1.23g/cm
3以下であり、好ましくは、1.0g/cm
3以上1.23g/cm
3以下であり、より好ましくは、1.1g/cm
3以上1.23g/cm
3以下である。ホウ素バルク体4のかさ密度は、例えば、「JIS1628−1997」に準じて測定することができる。
【0060】
なお、原料粉末は、主成分がホウ素粉末であれば、ホウ素粉末以外の粉末を含んでいてもよい。この場合において、ホウ素バルク体4のかさ密度は、例えば、0.9g/cm
3以上1.23g/cm
3以下であり、好ましくは、1.0g/cm
3以上1.23g/cm
3以下であり、より好ましくは、1.1g/cm
3以上1.23g/cm
3以下である。
【0061】
ここで、
図7は、ホウ素バルク体4のかさ密度と、製造されるMgB
2バルク体(Mg
B
2バルク体10)の充填率と、の関係を示すグラフである。
図7に示す充填率は、以下のように求めたものである。
【0062】
原料粉末がホウ素粉末である場合、ホウ素バルク体4のかさ密度をxg/cm
3とすると、ホウ素バルク体4の質量は、1cm
3あたりxgである。Mg+2B→MgB
2より、1cm
3あたりのホウ素バルク体4から生成するMgB
2バルク体の質量は2.125xgとなる。
【0063】
充填率は、下記式(1)で定義される。充填率=実際に存在するMgB
2の質量(g)/全空間がMgB
2で満たされているときのMgB
2の質量(g)×100(%) ・・・ (1)
【0064】
したがって、MgB
2の密度が2.62g/cm
3であることを考慮すると、MgB
2の単位質量あたりの充填率は、(2.125x/2.62)×100(%)と計算できる。以上により、
図7に示す充填率を求めることができる。
【0065】
以上により、ホウ素バルク体4のかさ密度を上記の範囲とすることにより、MgB
2バルク体10の充填率を高くすることができる。
【0066】
原料粉末は、ホウ素粉末であってもよい。原料粉末は、ホウ素粉末およびホウ化マグネシウム粉末を含んでいてもよい。すなわち、成型工程では、ホウ素粉末と、ホウ化マグネシウム粉末と、の混合物からホウ素バルク体4を成型してもよい。ホウ素粉末は、ホウ素の粉末であり、ホウ化マグネシウム粉末は、ホウ素およびマグネシウムからなる化合物の粉末である。ホウ化マグネシウム粉末は、例えば、MgB
2粉末、MgB
4粉末、または、これらの混合物などである。原料粉末は、さらに、B
4C粉末などのホウ素化合物の粉末を含んでいてもよい。
【0067】
原料粉末がホウ素粉末およびホウ化マグネシウム粉末を含む場合、ホウ素粉末に対するホウ化マグネシウム粉末の割合は、例えば、20mol%(モルパーセント)以上40mol%以下である。上記割合を20mol%以上とすることにより、反応工程において、MgB
2バルク体10にクラックが生じることを抑制することができる。さらに、上記割合を40mol%以下とすることにより、気体のマグネシウムと固体のホウ素をと反応させてMgB
2を生成する割合が小さくなることを抑制することができる。
【0068】
原料粉末中のホウ素に対する固体のマグネシウム2の組成比(Mg/B比(原子数の比))は、例えば、0.5より大きく1以下である。(Mg/B比)を1以下とすることにより、マグネシウムの無駄を抑制することができる。
【0069】
(2)次に、
図2に示すように、マグネシウム配置領域40,42に固体(固相)のマグネシウム2を配置し、さらにホウ素配置領域44にホウ素バルク体4を配置し、容器20を密閉する(ステップS2、配置工程)。配置工程は、空気中で行われてもよい。固体のマグネシウム2は、例えば、マグネシウム粉末である。
【0070】
(3)次に、固体のマグネシウム2を気化させ、これによって生じる気体のマグネシウムと、ホウ素バルク体4と、を反応させる(ステップS3、反応工程)。反応工程により、MgB
2バルク体10が製造される(Mg+2B→MgB
2)。反応工程は、密閉された空間(図示の例では容器20内)で行われる。
【0071】
反応工程は、例えば、500℃以上950℃以下の温度で行われる。500℃以上の温度に熱処理することにより、固体のマグネシウム2を十分に蒸発させることができ、反応
時間を短縮することができる。さらに、950℃以下の温度に熱処理することにより、容器20の寿命を長くすることができる。熱処理(焼成)は、例えば、容器20を図示せぬ電気炉内に配置して行われる。
【0072】
酸化マグネシウムの沸点は、非常に高いため、反応工程における熱処理では、蒸発しない。したがって、反応工程における熱処理では、固体のマグネシウム2のみを蒸発させてホウ素バルク体4と接触させることができ、酸化マグネシウムとホウ素バルク体4とが接触することを抑制することができる。
【0073】
なお、マグネシウムの融点は、650℃であり、マグネシウムの沸点は、1100℃である。酸化マグネシウムの融点は、2800℃であり、酸化マグネシウムの沸点は、3600℃である。
【0074】
反応工程における熱処理時間は、例えば、24時間以上100時間以下である。熱処理時間を24時間以上とすることにより、気体のマグネシウムをホウ素バルク体4に均一性よく拡散させることができる。熱処理時間を100時間以下とすることにより、工程の短縮化を図ることができる。
【0075】
以上の工程により、MgB
2バルク体10を製造することができる。MgB
2バルク体10の製造方法は、上記のように、気体(気相)のマグネシウムを輸送し、ホウ素バルク体4中に拡散させてホウ素バルク体4と反応させるマグネシウム気相輸送(MVT:Mg
Vapor Transportation)法を用いている。
【0076】
MgB
2バルク体10の製造方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0077】
MgB
2バルク体10の製造方法では、元素としてのホウ素を含む原料粉末からホウ素バルク体4を成型する成型工程と、気体のマグネシウムと、ホウ素バルク体4と、を反応させる反応工程と、を含む。そのため、MgB
2バルク体10の製造方法では、ホウ素粉末と、マグネシウム粉末と、を混合して得た原料粉末を金属管に詰めた後、金属管の両端を閉じて熱処理を行い、MgB
2を製造する方法(PICT(powder−in−closed−tube)法)に比べて、充填率が高いMgB
2バルク体10を製造することができる(詳細は、後述する「4. 実験例」参照)。
【0078】
さらに、MgB
2バルク体10の製造方法では、PICT法に比べて、酸化マグネシウムの割合が小さく、MgB
2の純度が高いMgB
2バルク体10を製造することができる(詳細は、後述する「4. 実験例」参照)。
【0079】
さらに、MgB
2バルク体10の製造方法では、気体のマグネシウムとホウ素バルク体4とを反応させるため、ホウ素バルク体4中にマグネシウムを均一性よく拡散させることができる。例えば、液体のマグネシウムとホウ素バルク体とを反応させる場合は、重力の影響を受け、ホウ素バルク体4中にマグネシウムを均一性よく拡散させることができない場合がある。
【0080】
さらに、MgB
2バルク体10の製造方法では、高圧合成法を用いずに、気体のマグネシウムとホウ素バルク体4とを反応させて、MgB
2バルク体10を製造することができる。
【0081】
MgB
2バルク体10の製造方法では、原料粉末は、ホウ素粉末であってもよく、ホウ素バルク体4のかさ密度は、0.9g/cm
3以上1.23g/cm
3以下であってもよく、好ましくは、1.0g/cm
3以上1.23g/cm
3以下であってもよい。そのた
め、MgB
2バルク体10の製造方法では、MgB
2バルク体10の充填率を高くすることができる。
【0082】
MgB
2バルク体10の製造方法では、原料粉末の主成分は、ホウ素粉末であってもよく、ホウ素バルク体4のかさ密度は、0.9g/cm
3以上1.23g/cm
3以下であってもよく、好ましくは、1.0g/cm
3以上1.23g/cm
3以下であってもよい。そのため、MgB
2バルク体10の製造方法では、MgB
2バルク体10の充填率を高くすることができる。
【0083】
MgB
2バルク体10の製造方法では、ホウ素バルク体4を成型するための原料粉末は、ホウ素粉末およびホウ化マグネシウム粉末を含んでもよい。そのため、MgB
2バルク体10の製造方法では、原料粉末がホウ素粉末のみから構成されている場合に比べて、反応工程において、MgB
2バルク体10にクラックが生じることを抑制することができる(詳細は、後述する「4. 実験例」参照)。
【0084】
MgB
2バルク体10の製造方法では、原料粉末中のホウ素に対する固体のマグネシウム2の組成比は、0.5より大きくてもよい。
【0085】
MgB
2バルク体10の製造方法では、反応工程は、500℃以上950℃以下の温度で行われてもよい。そのため、MgB
2バルク体10の製造方法では、固体のマグネシウム2を十分に蒸発させて反応時間を短縮することができ、かつ、容器20の寿命を長くすることができる。
【0086】
なお、上記では、ホウ素バルク体4と反応する気体のマグネシウムが、固体のマグネシウムを気化させたものである例について説明したが、ホウ素バルク体4と反応する気体のマグネシウムは、液体のマグネシウムを気化させたものであってもよい。また、ホウ素バルク体4と反応する気体のマグネシウムは、固体から直接気化したものであってもよい。
【0087】
4. 実験例
以下に実験例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実験例によって何ら限定されるものではない。
【0088】
4.1. 試料の作製
上述したようなMVT法により、MgB
2バルク体を作製(製造)した。具体的には、質量0.60gのホウ素粉末をプレス成型し、円盤状のホウ素バルク体を形成した。ホウ素バルク体および固体のマグネシウムを、
図2および
図3に示したような製造装置の容器内に配置した。固体のマグネシウム(Mg)と、ホウ素粉末(B)と、の組成比が、Mg:B=1.1:2の関係を満たすように、固体のマグネシウムを容器内に配置した。固体のマグネシウムは、
図2に示すように、2箇所に分けて配置した。
【0089】
ホウ素バルク体および固体のマグネシウムが収容された容器を、炉内に配置し、熱処理を行った。具体的には、室温から2時間かけて800℃まで昇温させ、800℃で72時間熱処理し、その後、自然冷却した。
【0090】
以上の工程により、質量1.28g、直径約20mm、厚さ約2.0mmの円盤状のMgB
2バルク体を作製した。
【0091】
比較例として、PICT法により、マグネシウム粉末とホウ素粉末との混合粉末を、800℃で熱処理を行うことにより、直径約20mm、厚さ約2.0mmの円盤状のMgB
2バルク体を作製した。
【0092】
4.2. 充填率の評価
MgB
2バルク体の充填率を測定した。具体的には、MgB
2バルク体の質量および体積を測定し、MgB
2の比重に基づいて、充填率を求めた。体積は、MgB
2バルク体を円盤状とし、直径20mm、厚さ2.0mmとして計算した。
【0093】
MVT法により作製したMgB
2バルク体(実施例1に係るMgB
2バルク体)の充填率は、78%であった。一方、PICT法により作製したMgB
2バルク体(比較例に係るMgB
2バルク体)の充填率は、48%であった。したがって、MVT法により作製したMgB
2バルク体は、PICT法により作製したMgB
2バルク体よりも、充填率が高いことがわかった。
【0094】
図8は、MVT法により作製したMgB
2バルク体の断面のSEM像である。
図9は、PICT法により作製したMgB
2バルク体の断面のSEM像である。なお、
図8および
図9は、同じ倍率のSEM像である。
【0095】
図9に示すように、PICT法により作製したMgB
2バルク体には、クレーターのような窪みが観察された。この窪みは、マグネシウム粉末とホウ素粉末との混合粉末を熱処理することによって、マグネシウムが溶融して、生じたものである。すなわち、熱処理を行う前には、窪みの位置にマグネシウムが存在していたといえる。このような窪みが生じたため、PICT法により作製したMgB
2バルク体は、充填率が48%と低かったといえる。
【0096】
一方、
図8に示すように、MVT法により作製したMgB
2バルク体では、
図9に示すクレーターのような窪みは、観察されなかった。そのため、MVT法により作製したMgB
2バルク体は、充填率が78%と高かったといえる。クレーターのような窪みが観察されなかったのは、MVT法では、気体のマグネシウムを、ホウ素バルク体に反応させたためである。
【0097】
4.3. 純度の評価
粉末X線回折により、MgB
2バルク体のMgB
2の純度を評価した。
【0098】
図10は、MVT法により作製したMgB
2バルク体と、PICT法により作製したMgB
2バルク体と、の粉末X線回折の結果である。
図10において、2θ=62°(図中「↓」で表示)のピークがMgOに基づくピークであり、他のピークは、MgB
2に基づくピークである。
【0099】
図11は、
図10に示す粉末X線回折により得られたデータのリートベルト分析により求めたMgB
2とMgOとの割合を示す表である。
【0100】
図10および
図11に示すように、MVT法により作製したMgB
2バルク体は、PICT法により作製したMgB
2バルク体よりも、MgOの割合が70%小さく、MgB
2の割合が大きかった。したがって、MVT法により作製したMgB
2バルク体は、PICT法により作製したMgB
2バルク体よりも、MgB
2の純度が高いことがわかった。MVT法では、マグネシウムと酸素と反応して酸化マグネシウムが生成されても、酸化マグネシウムの蒸気圧は、マグネシウムの蒸気圧に比べて高いため、酸化マグネシウムは蒸発せず、MgB
2の純度が高いたMgB
2バルク体を製造することができた。
【0101】
なお、EDXによる組成分析により、PICT法により作製したMgB
2バルク体では、クレーターのような窪みに沿って、MgOが生成していることが確認された。
【0102】
4.4. MgB
2粉末を含むホウ素バルク体から作製されたMgB
2バルク体の評価
ホウ素粉末とMgB
2粉末とを混合してホウ素バルク体を成型すること以外は、上記の「4.1. 試料の作製」と同様にして、MVT法によりMgB
2バルク体(実施例2に係るMgB
2バルク体)を作製した。ホウ素粉末に対するMgB
2粉末の割合を、30mol%とした。
【0103】
図12は、実施例1に係るMgB
2バルク体(ホウ素バルク体の原料がホウ素粉末)の光学顕微鏡像である。
図13は、実施例2に係るMgB
2バルク体(ホウ素バルク体の原料がホウ素粉末およびMgB
2粉末)の光学顕微鏡像である。
【0104】
図12に示すように、実施例1に係るMgB
2バルク体では、表面に六角形状のクラックが確認された。一方、
図13に示すように、実施例2に係るMgB
2バルク体では、表面に六角形状のクラックは確認されなかった。これにより、ホウ素粉末と、ホウ化マグネシウム粉末と、の混合物からホウ素バルク体を成型することにより、MgB
2バルク体の表面にクラックが生じることを抑制できることがわかった。
【0105】
図14は、実施例2に係るMgB
2バルク体の断面のSEM像である。
図14に示すように、実施例2に係るMgB
2バルク体では、クラックは観察されなかった。さらに、実施例2に係るMgB
2バルク体では、
図9に示すクレーターのような窪みは、観察されなかった。
【0106】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。