(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(変性ビニルアルコール系重合体(A))
本発明の変性ビニルアルコール系重合体(A)(以下、「変性PVA(A)」と略記することがある)は、ビニルアルコール単位、及び下記式(1)で表わされる構成単位を含む変性PVA(A)であって、けん化度が68モル%以上99.9モル%未満であり、かつ1,2−グリコール結合量が1.9モル%未満である。本発明の変性PVA(A)の製造方法は特に限定されないが、原料ビニルアルコール系重合体(D)と、下記式(2)で表わされる化合物とをエステル化反応させて製造する方法が簡便で好ましい。ここで、原料ビニルアルコール系重合体(D)は、下記式(1)で表される構成単位を有さないPVAのことである(以下、「原料PVA(D)」又は「原料PVA」と記載することがある)。
【0013】
【化3】
[式(1)中、R
1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R
2は水素原子又はアルカリ金属である。]
【0014】
【化4】
[式(2)中、R
1は式(1)と同義である。]
【0015】
式(1)中のR
1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、具体的には水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等が挙げられるが、架橋性能の観点から水素原子またはメチル基が好ましい。R
2は水素原子又はアルカリ金属であり、具体的には水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子、ルビジウム原子、セシウム原子が挙げられるが、架橋性能と経済性の観点から水素原子またはナトリウム原子が好ましい。
【0016】
変性PVA(A)の全単量体単位に対する前記式(1)で表わされる構成単位の含有量は特に限定されるものではないが、架橋性能と不溶解分生成のバランスの面から、0.1モル%以上10モル%以下であることが好ましく、0.15モル%以上7モル%以下であることがより好ましい。なお、当該含有量は変性PVA(A)の全単量体単位100モルに対する、式(1)で表される構成単位のモル数である。
【0017】
変性PVA(A)における前記式(1)で表わされる構成単位の含有量は公知の方法で測定可能である。具体的には
1H−NMRによる測定が簡便であり、求め方は特に限定されない。例えば、メチルマロン酸を用いてエステル化反応した変性PVA(A)の場合、変性PVA(A)をD
2Oに溶解し、400MHzの
1H−NMRを用いて測定する。ビニルアルコール単位のメチン由来のピークは3.2〜4.0ppm(積分値a)、メチルマロン酸単位のメチル由来のピークは0.8〜1.3ppm付近(積分値b)に帰属され、次式で構成単位(1)の含有量が算出される。
構成単位(1)の含有量(モル%)=(b/3)/a×100
【0018】
変性PVA(A)の粘度平均重合度(以下、単に「重合度」と略記することがある)は特に限定されるものではないが、200以上4000未満であることが好ましく、500以上3500未満であることがより好ましい。粘度平均重合度はJIS−K6726(1994年)に準じて測定して得られる値である。具体的には、けん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化したPVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](リットル/g)を用いて下記式により粘度平均重合度(P)を求めた。
P=([η]×10
4/8.29)
(1/0.62)
【0019】
本発明において、変性PVA(A)のけん化度が68モル%以上99.9モル%未満であることが重要である。けん化度はJIS−K6726(1994年)に準じて測定して得られる値である。けん化度が68モル%未満であると水溶性が低下し皮膜が作製できない等、ハンドリング性が低下する。けん化度が99.9モル%を超えるものは生産が困難である。けん化度は75モル%以上99.7モル%以下であることが好ましい。
【0020】
本発明において、変性PVA(A)の1,2グリコール結合量が1.9モル%未満であることが重要である。1,2−グリコール結合量が1.9モル%以上であると、変性PVA(A)の耐水性が不十分となる。1,2−グリコール結合量は1.7モル%未満であることが好ましい。1,2−グリコール結合量の下限に特に制限は無いが、1.0モル%以上が好ましい。1,2−グリコール結合量が1.0モル%未満であると、例えば低温で重合する必要があり、生産性が低下する傾向となる。
【0021】
1,2−グリコール結合量は
1H−NMRのピークから求められる。具体的には、PVA(A)をけん化度99.9モル%以上にけん化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃で2日間減圧乾燥したPVAをDMSO−d
6に溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた試料を500MHzの
1H−NMRを用いて80℃で測定した。ビニルアルコール単位のメチン由来のピークは3.2〜4.0ppm(積分値A)に、1,2−グリコール結合の1つのメチン由来のピークは3.15〜3.35ppm付近(積分値B)に帰属され、次式で1,2−グリコール結合量が算出される。
1,2−グリコール結合量(モル%)=B/A×100
【0022】
(変性PVA(A)の製造方法)
原料PVA(D)は、ポリビニルエステルをけん化することによって得られる。ここで、ポリビニルエステルは、ビニルエステル単量体を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等の従来公知の方法を採用して重合できる。工業的観点から好ましい重合方法は、溶液重合法、乳化重合法および分散重合法である。重合操作にあたっては、回分法、半回分法および連続法のいずれの重合方式も採用できる。
【0023】
重合に用いることができるビニルエステル単量体としては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどを挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが工業的観点から好ましい。
【0024】
ビニルエステル単量体の重合に際して、本発明の趣旨を損なわない範囲であれば他の単量体を共重合させても差し支えない。使用しうる他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレンなどのα−オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。このような他の単量体の共重合量は、通常、10モル%以下である。
【0025】
また、ビニルエステル単量体の重合に際して、得られるポリビニルエステルの重合度を調節することなどを目的として、連鎖移動剤を共存させてもよい。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類が挙げられ、中でもアルデヒド類およびケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とするポリビニルエステルの重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル単量体に対して0.1〜10質量%が望ましい。
【0026】
こうして得られたポリビニルエステルのけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシドなどの塩基性触媒、またはp−トルエンスルホン酸などの酸性触媒を用いた、加アルコール分解ないし加水分解反応が適用できる。けん化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素などが挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。中でも、メタノールまたはメタノールと酢酸メチルとの混合溶液を溶媒として用い、塩基性触媒である水酸化ナトリウムの存在下にけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。これにより、原料PVA(D)が得られる。
【0027】
変性PVA(A)の製造方法は特に限定されないが、好適な製造方法は、原料PVA(D)と、式(2)で表される化合物とをエステル化反応させる方法である。エステル化反応の方法としては、公知の酸触媒を用いる方法や熱による脱水を伴う方法等が挙げられる。酸触媒としては塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸のいずれも好適に使用できる。このとき、反応を促進させるために、反応を行う際に加熱することが好ましい。加熱温度は、80〜180℃であることが好ましく、90〜140℃であることがより好ましい。加熱時間は加熱温度との関係で適宜設定されるが、10分〜24時間であることが好ましく、30分〜20時間であることがより好ましい。
【0028】
【化5】
[式(2)中、R
1は式(1)と同義である。]
【0029】
原料PVA(D)と、式(2)で表される化合物とをエステル化反応させる方法としては、式(2)で表される化合物を溶媒に溶解させた溶液を得てから当該溶液に原料PVA(D)の粉末を加えて膨潤させた後、当該溶媒を除去することにより混合粉末を得て、得られた混合粉末を加熱する方法が好ましい。このような手法で反応させることによって、望ましくない架橋反応が進行することを抑制することができ、水溶性の良好な粉末からなる変性PVA(A)を得ることができる。式(2)で表される化合物を溶解させる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールや水などが用いられる。溶媒の除去は加熱又は減圧することにより行うことができ、好適には減圧により行う。原料PVA(D)と式(2)で表される化合物とを反応させた後に、塩基を用いて変性PVA(A)における式(2)で表わされる化合物に由来するカルボン酸部位を中和してもよい。
【0030】
上記エステル化反応に用いる式(2)で表される化合物としては、マロン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、プロピルマロン酸、イソプロピルマロン酸、ブチルマロン酸、イソブチルマロン酸が挙げられ、入手性の観点から、マロン酸またはメチルマロン酸が好ましい。すなわち、式(2)中のR
1が水素原子またはメチル基であることが好ましい。
【0031】
上記反応方法において、加熱する前の混合粉末における、式(2)で表される化合物の含有量は、原料PVA(D)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることが特に好ましい。一方、加熱する前の混合粉末における、式(2)で表される化合物の含有量は、原料PVA(D)100質量部に対して、35質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、25質量部以下であることがさらに好ましく、20質量部以下であることが特に好ましい。
【0032】
(架橋剤(B))
用いる架橋剤(B)としては特に制限はないが、グリオキサール、マロンジアルデヒド、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド類、グリオキシル酸ナトリウム、グリオキシル酸カルシウム等のグリオキシル酸塩類、エタンジアミン、プロパンジアミン、1,3‐ビスアミノメチルシクロヘキサン等のジアミン類、アジピン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド類、リン酸、塩酸、硫酸等の酸類が挙げられる。中でも、グリオキシル酸塩類、ジアルデヒド類及び酸類からなる群から選択される少なくとも1種が架橋剤(B)として好適に使用される。
【0033】
架橋剤(B)の使用方法としては特に制限はない。そのまま用いても、溶媒に溶解して用いても構わない。また、変性PVA(A)と混合する際には、変性PVA(A)水溶液を作製後に架橋剤(B)と混合しても構わないし、変性PVA(A)水溶液の作製時に同時に架橋剤(B)と混合して溶解しても構わないが、変性PVA(A)水溶液を作製後に架橋剤(B)と混合する方法が副反応を抑制する点から好ましい。
【0034】
架橋剤(B)の使用量としては特に限定されないが、変性PVA(A)10質量部に対して、架橋剤(B)が0.01質量部以上5質量部以下であることが好ましい。架橋剤(B)の使用量が0.01質量部未満の場合、架橋体がうまく形成できないおそれがあり、0.05質量部以上であることがより好ましい。一方、架橋剤(B)の使用量が5質量部を超える場合、変性PVA(A)の相対濃度が低下するため架橋体がうまく形成できないおそれがあり、3質量部以下であることがより好ましい。
【0035】
(架橋体(C))
変性PVA(A)が架橋剤(B)によって架橋された架橋体(C)であって、前記架橋体(C)からなる厚み100μmのフィルムを80℃の熱水に1時間浸漬した際の溶出率が10%未満である架橋体(C)が本発明の好適な実施態様であり、前記溶出率が8%未満である架橋体(C)が本発明のより好適な実施態様である。
【0036】
[用途]
本発明のPVA(A)は種々の用途に使用される。以下にその例を挙げるがこれに限定されるものではない。
(1)塩化ビニル分散剤用途:塩化ビニル、塩化ビニリデンの懸濁重合用分散安定剤および分散助剤
(2)被覆剤用途:サイズ剤、繊維加工剤、皮革仕上剤、塗料、防曇剤、金属腐食防止剤、亜鉛メッキ用光沢剤、帯電防止剤
(3)接着剤・バインダー用途:接着剤、粘着剤、再湿接着剤、各種バインダー、セメントやモルタル用添加剤
(4)分散安定剤用途:塗料や接着剤等の有機・無機顔料の分散安定剤、各種ビニル化合物の乳化重合用分散安定剤、ビチュメン等の後乳化剤
(5)紙加工用途:紙力増強剤、耐油・耐溶剤付与剤、平滑性向上剤、表面光沢改良助剤、目止剤、バリア剤、耐光性付与剤、耐水化剤、染料・顕色剤分散剤、接着力改良剤、バインダー
(6)農業用途:農薬用バインダー、農薬用展着剤、農業用被覆剤、土壌改良剤、エロージョン防止剤、農薬用分散剤
(7)医療・化粧品用途:造粒バインダー、コーティング剤、乳化剤、貼付剤、結合剤、フィルム製剤基材、皮膜形成剤
(8)粘度調整剤用途:増粘剤、レオロジー調整剤
(9)凝集剤用途:水中懸濁物および溶存物の凝集剤、金属凝集剤
(10)フィルム用途:水溶性フィルム、偏光フィルム、バリアフィルム、繊維製品包装用フィルム、種子養生シート、植生シート、シードテープ、吸湿性フィルム
(11)成形物用途:繊維、フィルム、シート、パイプ、チューブ、防漏膜、ケミカルレース用水溶性繊維、スポンジ
(12)樹脂原料用途:ポリビニルブチラール用原料、感光性樹脂原料、グラフト重合体原料、各種ゲル原料
(13)後反応用途:低分子有機化合物、高分子有機化合物、無機化合物との後反応用途
【0037】
中でも本発明の変性PVA(A)は、架橋剤(B)を使用することで、分子鎖の動きが三次元方向に拘束され、同種の線状高分子よりも高粘度、高耐水性、高強度、耐熱性、対溶剤性に優れる架橋体(C)が合成できるため、上記(2)被覆剤用途、(3)接着剤・バインダー用途、(10)フィルム用途、(12)樹脂原料用途等に好適に用いられる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。以下の実施例および比較例において、特に断りがない場合、「部」および「%」はそれぞれ質量部および質量%を示す。
【0039】
[PVAの粘度平均重合度]
PVAの粘度平均重合度はJIS−K6726(1994年)に準じて測定した。具体的には、けん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化したPVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](リットル/g)を用いて下記式により粘度平均重合度(P)を求めた。
P=([η]×10
4/8.29)
(1/0.62)
【0040】
[PVAのけん化度]
PVAのけん化度は、JIS−K6726(1994年)に準じて測定した。
【0041】
[PVAの1,2−グリコール結合量]
PVAの1,2−グリコール結合量は前述した
1H−NMRによる分析により、下記式から求めた。
1,2−グリコール結合量(モル%)=B/A×100
(式中、Aはビニルアルコール単位のメチン由来のピーク(3.2〜4.0ppm)の積分値を表し、Bは1,2−グリコール結合の1つのメチン由来のピーク(3.15〜3.35ppm)の積分値を表す。)
【0042】
[変性PVA(A)における式(1)で表される構成単位の含有量]
変性PVA(A)の10%水溶液を調製した。この水溶液を、500gの酢酸メチル/水=95/5の溶液中に5g滴下し変性PVA(A)を析出させ、回収し乾燥させた。単離された変性PVA(A)について、
1H−NMRを用いて変性PVA(A)中に導入された式(1)で表される構成単位の含有量を測定した。なお、当該含有量は変性PVA(A)の全単量体単位100モルに対する、式(1)で表される構成単位のモル数である。
【0043】
製造例1(変性PVA(A1)の製造)
原料PVA(D)として重合度1000、けん化度99モル%、1,2−グリコール結合量が1.6モル%のPVA100部を、式(2)で表される化合物としてマロン酸18.8部をメタノール100部に溶かした溶液中に加え、10分静置後、真空乾燥機によってメタノールを除去した。その後120℃、6時間、乾燥機を用いて熱処理を行うことでエステル化を行い、式(1)で表される構成単位の含有量(マロン酸変性量)4.0モル%の変性PVA(A1)を得た。
【0044】
製造例2〜7(変性PVA(A2〜A7)の製造)
使用する原料PVA(D)の種類、式(2)で表される化合物の種類及び量、熱処理反応条件を表1に示す通りに変更した以外は変性PVA(A1)の製造と同様にして変性PVA(A2〜A7)を製造した。製造結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例1
変性PVA(A1)10部を蒸留水に溶解し10%水溶液100部とし、架橋剤(B)としてグリオキシル酸ナトリウム0.5部を添加して混合撹拌して水溶液を得た。かかる水溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に流延し、23℃、50%RHの条件下で48時間放置後、70℃で5分間加熱処理を行って、架橋体(C)からなる厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの耐水性を以下の指標で評価したところ、溶出率は2.8%であった。結果を表2に示す。
【0047】
(耐水性)
得られたフィルムを80℃の熱水に1時間浸漬して、フィルムの溶出率(%)を測定した。なお、溶出率(%)の算出にあたっては、熱水浸漬前のフィルムの乾燥重量X1(g)および熱水浸漬後のフィルムの乾燥重量X2(g)を求め、下式にて溶出率(%)を算出した。
溶出率(%)=[(X1−X2)/X1]×100
【0048】
実施例2〜5
使用する変性PVA(A)の種類、架橋剤(B)の種類及びその量を表2に示す通り変更した以外は実施例1と同様にして、架橋体(C)からなる厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、実施例1と同様にして耐水性を評価した。結果を表2に示す。
【0049】
比較例1
変性PVA(A)として変性PVA(A5)を用いた以外は実施例1と同様にして、架橋体(C)からなる厚さ100μmのフィルムの作製を試みたが、変性PVA(A5)はけん化度が低すぎるためフィルムが作製できなかった。
【0050】
比較例2
変性PVA(A)として変性PVA(A6)を用いた以外は実施例1と同様にして、架橋体(C)からなる厚さ100μmのフィルムを作製した。得られたフィルムについて、実施例1と同様にして耐水性の評価を試みたが、変性PVA(A6)は式(1)で表わされる構成単位を有していないため耐水性はほぼ発現しなかった。
【0051】
比較例3
変性PVA(A)として変性PVA(A7)を用いた以外は実施例1と同様にして、架橋体(C)からなる厚さ100μmのフィルムを作製した。得られたフィルムについて、実施例1と同様にして耐水性の評価を試みたが、変性PVA(A7)は1,2−グリコール結合量が多すぎるため耐水性が不十分であった。
【0052】
比較例4
変性PVA(A)として日本合成化学工業株式会社製Z−100(アセトアセチル基含有変性ビニルアルコール系重合体)を用い、架橋剤(B)としてリン酸を用いた以外は実施例1と同様にして、架橋体(C)からなる厚さ100μmのフィルムを作製した。得られたフィルムについて、実施例1と同様にして耐水性の評価を試みたが、式(1)で表わされる構成単位を有さないため耐水性はほぼ発現しなかった。
【0053】
【表2】
【0054】
実施例において示されているように、式(1)で表わされる構造を有する変性PVA(A)は、適切な架橋剤を用いると、良好な架橋構造が形成され、架橋体(C)とした際の耐水性に優れ、接着剤や偏光板における偏光フィルムと保護フィルムとの接着層、感熱記録用媒体の保護層などとしての利用が期待できる。したがって、本発明の工業的な有用性はきわめて高い。