(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した冶具による単結晶の固定では、単結晶の直胴部の直径は均一ではなく、かつ、育成直後の単結晶の表面が滑面であるため、単結晶を固定する際に労力がかかることがある。例えば、単結晶の上側を金属製のバンドで固定する場合、上記のように単結晶の表面が滑面で直胴部の直径が変動していると、金属製のバンドが固定時に径の小さい方に移動して、固定位置がずれることがある。特に、近年、単結晶の大口径化により、単結晶は直径がφ200mm程度で直胴部の長さが50mm〜100mm程度の場合もある。このような単結晶は直径に対して直胴部が比較的短いため、上記の金属製のバンドを用いた冶具で固定すると、固定位置が顕著にずれやすく単結晶が倒れて固定できない、あるいは、単結晶の固定に時間がかかる等の問題があった。さらに、上記の金属製のバンドを用いた冶具は、バンドの締付に用いる締結部材などの部材が劣化するため、使用回数に応じて交換の必要があり、労力がかかる。
【0005】
そこで、上記状況に鑑み、本発明は、単結晶の固定位置のずれが抑制され、直胴部が短い単結晶でも確実かつ簡単に固定することができる単結晶固定用治具、及び単結晶の固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するため、本発明者が鋭意研究を重ねたところ、単結晶の直胴部を所定の方法により固定することで、単結晶の固定位置のずれが抑制され、直胴部が短い単結晶でも確実かつ簡単に固定できることを見出すに至った。本発明はこのような技術的発見に基づき完成されている。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、
チョクラルスキー法で育成され、肩部と直胴部
とを含む単結晶を、直胴部の側面における
単結晶の中心軸よりも下側の部分を保持する結晶ホルダと、隣接するアーム同士が互いに回転可能に接続され、前記中心軸と直交する面方向に移動する3つ以上のアーム、及び隣接するアーム同士のうち少なくとも1つのアーム同士を係合する係合部を含み、両端のアームがそれぞれ結晶ホルダの両端に接続され、3つ以上のアームの少なくとも1つにより
前記中心軸よりも上側の直胴部の側面を保持するアーム部と、
肩部を固定する肩部固定部と、を備える、単結晶固定用治具が提供される。
【0008】
また、本発明の第2の態様によれば、第1の態様において、アーム部が、その基端側が、結晶ホルダの一端側に回転可能に接続される第1アームと、その基端側が、第1アームの先端側に回転可能に接続される第2アームと、その基端側が、結晶ホルダの他端側に回転可能に接続される第3アームと、第2アームの先端側の一部と第3アームの先端側の一部とを係合する係合部と、を含む単結晶固定用治具が提供される。
【0009】
また、本発明の第3の態様によれば、第2の態様において、係合部が、第2アームの先端側の一部と第3アームの先端側の一部とを係合する位置を変更可能である単結晶固定用治具が提供される。
【0010】
また、本発明の第4の態様によれば、第2または第3の態様において、係合部が、球冠状のナットと、球冠状のナットを回転可能に支持するナット受けと、を含む、単結晶固定用治具が提供される。
【0011】
また、本発明の第5の態様によれば、第2から第4のいずれかの態様において、第1アーム及び第3アームは、それぞれ、水平面に対して傾斜し、且つ中心軸を含む鉛直面に対して対称に配置され、第2アームは、略水平に配置され、第1アーム及び第3アームにより、直胴部の側面における中心軸よりも上側の部分を保持する、単結晶固定用治具が提供される。
【0012】
また、本発明の第6の態様によれば、第1から第5のいずれかの態様において、結晶ホルダが、単結晶を、直胴部の下端を浮かせた状態で保持する、単結晶固定用治具が提供される。
【0013】
また、本発明の第7の態様によれば、第1から第6のいずれかの態様において、結晶ホルダが、水平面に対して傾斜し、
前記中心軸を含む鉛直面に対して対称に配置される一対の支持面を備え、一対の支持面により、直胴部の側面における
前記中心軸よりも下側の部分を保持する、単結晶固定用治具が提供される。
【0015】
また、本発明の第
8の態様によれば、
チョクラルスキー法で育成され、肩部と直胴部とを含む単結晶を、
直胴部の下端を浮かせた状態で、直胴部の側面における
単結晶の中心軸よりも下側の部分を保持することと、肩部を固定することと、直胴部の側面における
前記中心軸よりも上側の部分を保持し、直胴部の側面を上下方向から挟みこんで固定することと、を備える単結晶の固定方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の単結晶固定用治具、及び単結晶の固定方法は、単結晶の固定位置のずれが抑制され、直胴部が短い単結晶でも確実かつ簡単に固定することができ、単結晶の端面加工において好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きくまたは強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現している。また、以下の各図において、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。このXYZ座標系においては、鉛直方向をZ方向とし、水平方向をX方向、Y方向とする。また、X方向、Y方向、及びZ方向のそれぞれについて、適宜、矢印の先の側を+側(例、+X側)と称し、その反対側を−側(例、−X側)と称する。
【0019】
図1から
図6は、本実施形態の単結晶固定用冶具(以下、単に「固定治具」と称す。)を示す図である。
図1は斜視図である。
図2は+Z側から見た上面図である。
図3は−Y側から見た正面図である。
図4は+X側から見た側面図である。
図5は、
図2に示すA−A線に沿った断面図である。
図6は、
図5に示す「B」の部分(係合部18)の拡大図である。
【0020】
本実施形態の固定治具1は、
図1等に示すように、単結晶Cを固定する冶具である。まず、固定治具1で固定する単結晶Cについて説明する。固定治具1で固定する単結晶Cは、特に限定されない。例えば、単結晶Cは、ニオブ酸リチウムLiNbO
3(LN)、タンタル酸リチウムLiTaO
3(LT)、イットリウムアルミニウムガーネットY
3Al
5O
12(YAG)などの酸化物の単結晶である。単結晶Cの育成方法は、特に限定されない。単結晶Cの育成方法は、一般にチョクラルスキー法(回転引き上げ法)が用いられる。チョクラルスキー法は、ある結晶方位に従って切り出された種(種結晶)Ca(
図1参照)と呼ばれる、通常は断面の一辺が数mm程度の直方体状の単結晶の先端を、同一組成の融液に浸潤し、回転しながら徐々に引き上げることによって、種結晶Caの性質を伝播しながら大口径化して単結晶を製造する方法である。
【0021】
図7は、単結晶の一例を示す図である。チョクラルスキー法で育成された単結晶Cは、
図7に示すように、通常、肩部Cs、直胴部Cb、及び結晶下端部Ctで構成される。肩部Csは、種結晶Caを原料融液に接触させて、同時に引き上げ軸で回転させながら徐々に引き上げることにより、種結晶Caの下部側において原料融液を順次結晶化させて形成される、種結晶Caを頂点とする円錐状の部分である。直胴部Cbは、肩部Csに続く部分であり、引き上げ速度、回転数等を調整することで円柱状に育成する部分である。直胴部Cbはウエハに用いられる部分である。結晶下端部Ctは、直胴部Cbに続く部分であり、単結晶Cの育成が終了したときに、原料融液面から単結晶Cを切り離すことにより形成され、高さが低い円錐状の形状となる。上記のように育成された単結晶Cは、肩部Cs及び結晶下端部Ctを直胴部Cbから切り離して、円柱状の直胴部Cbを形成する端面加工が施される。そして、円柱状の直胴部Cbは、例えばマルチワイヤーソー等の切断装置によりウエハに切断される。
【0022】
本実施形態の固定治具1は、上記の端面加工を行う際に、単結晶Cを固定する治具である。固定治具1は、
図1に示すように、単結晶Cの中心軸AX1(結晶軸)を略水平方向(Y方向)の向きにして、直胴部Cbを固定することにより、単結晶Cを固定する。なお、固定冶具1で固定する単結晶Cの向きは略水平方向に限定されない。固定治具1で固定した単結晶Cは、固定治具1で固定した状態で、その両端部分(+Y側および−Y側の端部分)に位置する肩部Csと結晶下端部Ctを直胴部Cbから切断する端面加工を施すことができる。端面加工の方法は、特に限定されない。端面加工は、一般的にシングルワイヤーソーを用いて行われる。
【0023】
以下、本実施形態の固定治具1について詳細に説明する。本実施形態の固定治具1は、
図1から
図6に示すように、ベース2、直胴部固定部3、肩部固定部4、結晶下端部固定部5(
図4参照)、及び把持部6を備える。ベース2は、固定治具1の下部に配置され、固定治具1の各部を支持する。
【0024】
直胴部固定部3は、直胴部Cbを固定する。直胴部固定部3は、結晶ホルダ8、及びアーム部9を備える。
【0025】
結晶ホルダ8は、
図1に示すように、ベース2に設けられる溝部11の溝に位置決めされて固定される。結晶ホルダ8は、肩部Cs及び直胴部Cbを含む単結晶Cを、中心軸AX1を略水平方向(Y方向)の向きで保持する。結晶ホルダ8は、直胴部Cbの中心軸AX1よりも下側(−Z側)の側面S(円柱側面、外周面)を保持する。結晶ホルダ8は、中心軸AX1と直交する面(XZ平面と平行な面)の断面が略U字状の形状である(
図5参照)。結晶ホルダ8は、水平面(XY平面)に対して所定の角度で傾斜し、中心軸AX1を含む鉛直面PL1(YZ平面と平行な平面)に対して対称に配置される一対の支持面13を備える(
図5参照)。一対の支持面13は、それぞれ、直胴部Cbの中心軸AX1よりも下側の側面Sを、斜め下方から保持する(
図5参照)。各支持面13は、直胴部Cbの側面Sに、中心軸AX1(Y方向)と平行な接線TL1、接線TL2で接する。結晶ホルダ8は、一対の支持面13で直胴部Cbを保持することにより、直胴部Cbにおける、水平方向(X方向、Y方向)のうちの中心軸AX1と直交する方向(X方向)の移動、及び下方(−Z方向)の移動を規制する。これにより、直胴部Cbを確実に保持することができる。
【0026】
一対の支持面13は、
図5に示すように、直胴部Cbの中心軸AX1と直交する面(XZ平面と平行な面)内において、中心軸AX1を通る鉛直方向と平行な直線L1と、単結晶Cの中心軸AX1と接点P1、接点P2とを通る直線L2、直線L3と、がなす角をθ1、θ2とした場合、θ1及びθ2は、30°以上45°以下とすることが好ましい。これにより、直胴部Cbを確実に保持することができる。
【0027】
結晶ホルダ8は、単結晶Cを、直胴部Cbの下端を浮かせた状態で保持する(
図5参照)。この場合、単結晶Cの下方に空間(スペース)ができるので、上記した単結晶Cの端面加工の際、ワイヤー等の切断部材を、ベース2に接触させることなく単結晶Cの下方に移動させることができ、端面加工を簡単かつ確実に行うことができる。
【0028】
各支持面13の直胴部Cbと接触する部分には、弾性部材15が設けられている。弾性部材15は、弾力性があり耐久性があればよく、例えば、ウレタンゴム等が使用される。これにより、直胴部Cbを支持面13で支持させるときに生じるおそれがある破損を抑制し、直胴部Cbを確実に保持することができる。
【0029】
なお、上記した結晶ホルダ8は、一例であって、他の形態でもよい。例えば、一対の支持面13が、それぞれ、ベース2に対して移動可能であり、水平面に対する傾斜の角度、あるいは一対の支持面13どうしの間隔を設定可能な構成にしてもよい。
【0030】
次に、アーム部9を説明する。アーム部9は、隣接するアーム同士が回転可能に接続され、中心軸AX1と直交する面(XZ平面と平行な面)方向に移動する3つ以上のアーム、及び隣接するアーム同士のうち少なくとも1つのアーム同士を係合する係合部18を含み、両端のアームがそれぞれ結晶ホルダ8の両端に接続され、3つ以上のアームの少なくとも1つにより中心軸AX1よりも上側の直胴部Cbの側面Sを保持する。例えば、アーム部9は、第1アーム17a、第2アーム17b、第3アーム17c、及び係合部18を含む。本実施形態のアーム部9は、単結晶Cの中心軸AX1方向(Y方向)に並んで、2つ設けられる。+Y側のアーム部9及び−Y側のアーム部9の構成は同様である。
【0031】
第1アーム17aの基端側(−X側)は、結晶ホルダ8の一端側(−X側)の上部に、中心軸AX1と平行な軸周り方向に回転可能に接続(連結)される。詳細には、第1アーム17aの基端側(−X側)は、第1アーム17aの先端側(+X側)が直胴部Cbの中心軸AX1と直交する面(XZ平面と平行な面)内を第1アーム17aの基端側(−X側)の接続部を中心に回転可能になるように、結晶ホルダ8の一端側(−X側)の上部に接続される。第2アーム17bの基端側(−X側)は、第1アーム17aの先端側(+X側)に、中心軸AX1と平行な軸周り方向に回転可能に接続される。詳細には、第2アーム17bの基端側(−X側)は、第2アーム17bの先端側(+X側)が直胴部Cbの中心軸AX1と直交する面(XZ平面と平行な面)内を第2アーム17bの基端側(−X側)の接続部を中心に回転可能になるように、第1アーム17aの先端側(+X側)に接続される。第3アーム17cの基端側(+X側)は、結晶ホルダ8の他端側(+X側)に、中心軸AX1と平行な軸周り方向に回転可能に接続される。詳細には、第3アーム17cの基端側(+X側)は、第3アーム17cの先端側(−X側)が直胴部Cbの中心軸AX1と直交する面(XZ平面と平行な面)内を第3アーム17cの基端側(+X側)の接続部を中心に回転可能になるように、結晶ホルダ8の他端側(+X側)に接続される。すなわち、各アーム(第1アーム17a、第2アーム17b、第3アーム17c)は、リンク機構により接続されている。なお、上記の各接続部の構造は、それぞれ、ピン等により構成される。各アーム(第1アーム17a、第2アーム17b、第3アーム17c)は、上記の構成により、それぞれ、中心軸AX1方向(Y方向)の移動が規制される。これにより、単結晶Cを固定するときの固定位置の中心軸AX1方向のずれを抑制することができる。
【0032】
係合部18は、第2アーム17bの先端側(+X側)の一部と第3アーム17cの先端側(−X側)の一部とを係合する(
図5等参照)。本実施形態の係合部18は、
図6に示すように、球冠状のナット18aと、球冠状のナット18aを回転可能に支持するナット受け18bと、を備えている。第2アーム17bの先端側(+X側)には、ネジ山19(ネジ部)が形成される。第3アーム17cの先端側(−X側)には、ナット受け18bが形成される。ナット受け18bは、球冠状のナット18aの球冠状の部分の一部がはめ込まれ、回転可能に支持する。ナット受け18bは、第3アーム17cの先端側(−X側)において、長穴21または一方が開放された長穴21(
図2参照)上に、長穴21と連続した構造で形成される。この長穴21は、第2アーム17のネジ山19を通すために形成されている。
【0033】
上記の係合部18による第2アーム17bと第3アーム17cとの係合は、第2アーム17bのネジ山19(
図6参照)を、第3アーム17cの長穴21(
図2参照)に差し込み、第2アーム17bのネジ山19に球冠状のナット18aを取り付け、球冠状のナット18aをナット受け18bで係合することにより行う。球冠状のナット18aの球冠状の部分の反対側の部分18cは、6角ナット状に形成されている。球冠状のナット18aは、6角ナット状の部分18cと一体に形成される。球冠状のナット18aは、6角ナット状の部分18cを回転させることで、球冠状のナット18aとネジ山19とのねじ作用が生じ、球冠状のナット18aを第2アーム17bの軸方向(
図6の+X方向、−X方向)に移動させることができる。すなわち、係合部18は、第2アーム17bの先端側(+X側)の一部と第3アーム17cの先端側(−X側)の一部とを係合する位置Px(
図6参照)を変更可能である。
【0034】
上記のように係合部18による係合する位置Px(球冠状のナット18a)を移動させることにより、各アーム(第1アーム17a、第2アーム17b、第3アーム17c)が変形して直胴部Cbと接触し、アーム部9と結晶ホルダ8とにより直胴部Cbの側面を上下方向から挟みこんで、単結晶Cを固定することができる。上記の各アームが変形する際、第1アーム17aの先端側(+X側)と第2アーム17bの基端側(−X側)とのなす角θ4(
図5参照)と、第2アーム17bの先端側(+X側)と第3アーム17cの先端側(−X側)とのなす角θ5(
図5参照)とは、同じ角度になる。また、この際、本実施形態では、球冠状のナット18aを回転させる(移動させる)ことにより、球冠状のナット18aの締め付けの強さ、係合位置Px、上記のθ4、θ5を調整することができる。これにより、アーム部9で単結晶Cを挟み込む(固定する)ときの強さ、係合位置Px、上記のθ4、θ5を簡単に調整できる。
【0035】
本実施形態では、上記のように、第2アーム17bと第3アーム17cとを上記の係合部18により係合するので、単結晶Cの直胴部Cbの直径が変動する場合であっても、適正な角度を保った状態で固定することが可能となる。例えば、直胴部Cbの直径で10mm程度の変動であれば、上記した係合部18等の機構を用いて対応(調整)が可能である。また、本実施形態では、アーム部9が、球冠状のナット18aとナット受け18bとにより係合されるので、アーム部9が左右方向(±X方向)にずれた場合においても、適切な角度で係合することができ、これにより、アーム部9が直胴部Cbからずれて外れることを防止できる。
【0036】
本実施形態では、第1アーム17a及び第3アーム17cは、それぞれ、水平面に対して所定の角度(θ4、θ5)で傾斜し、且つ鉛直面PL1に対して対称に配置される(
図5参照)。また、第2アーム17bは、略水平方向(X方向)に沿って配置される。本実施形態では、第1アーム17a及び第3アーム17cにより、直胴部Cbの側面Sにおける中心軸AX1よりも上側の部分を斜め上方から保持する。第1アーム17a及び第3アーム17cは、直胴部Cbの側面Sに対して、中心軸AX1(Y方向)と平行な接線TL3、接線TL4で接する。第1アーム17a及び第3アーム17cで直胴部Cbを保持することにより、直胴部Cbにおける、水平方向(X方向、Y方向)のうちの中心軸AX1と直交する方向(X方向)の移動、及び上方(+Z方向)の移動が規制される。これにより、直胴部Cbを確実に保持することができる。
【0037】
第1アーム17a及び第3アーム17cは、直胴部Cbの中心軸AX1と直交する面(XZ平面と平行な面)内において、それぞれの中央部近傍と中心軸AX1とを結ぶ線L4、線L5がなす角θ3を60°〜120°として、直胴部Cbに接触するように設定することが好ましく、90°がより好ましい(
図5参照)。この場合、直胴部Cbを確実に保持することができる。
【0038】
また、上記のように構成される各アーム(第1アーム17a、第2アーム17b、第3アーム17c)は、それぞれ、直胴部Cbの側面Sに対して、接平面となる面方向(法線方向)にのみ可動するように設定されている。これにより、単結晶Cを簡単かつ確実に固定することができる。
【0039】
なお、各アーム(第1アーム17a、第2アーム17b、第3アーム17c)の長さは、固定する単結晶Cの大きさに応じて適宜設定され、特に制限されない。
【0040】
第1アーム17a及び第3アーム17cと直胴部Cbとが接触する部分には、上記した弾性部材15が設けられている(
図5等参照)。これにより、直胴部Cbを第1アーム17a及び第3アーム17cで保持させるときに生じるおそれがある破損を抑制し、確実に直胴部Cbを保持することができる。
【0041】
なお、アーム部9は、上記の例では、単結晶Cの中心軸方向(Y方向)に2つ設けられる例を説明したが、これに限定されない。例えば、アーム部9は、1つでもよいし、3つ以上設けられてもよい。例えば、単結晶Cの直径がφ200mm以上で直胴部Cbの長さが50mm前後のような、直胴部Cbが比較的短い単結晶Cである場合、上記したように直胴部Cbの固定が難しくなるが、本実施形態のように2組以上のアーム部9を設けることで、直胴部Cbの直径変動があっても個別に調整が可能となるので、単結晶Cを確実に固定することができる。
【0042】
なお、上記したアーム部9の構成は一例であって、他の態様でもよい。また、例えば、係合部18の形状は、上記した第2アーム17bの先端側(+X側)と第3アーム17cの先端側(−X側)との形状が反対でもよい。すなわち、第3アーム17cの先端側(−X側)にネジ山19が設けられ、第2アーム17bの先端側(+X側)に上記した長穴21及びナット受け18bが設けられてもよい。
【0043】
また、アーム部9は、4つ以上のアームで構成されてもよい。この場合、例えば、アーム部9は、隣接するアーム同士が互いに回転可能に接続され、中心軸AX1と直交する面(XZ平面)方向に移動する4つ以上のアーム、及び隣接するアーム同士のうち少なくとも1つのアーム同士を係合する係合部18を含み、両端のアームがそれぞれ結晶ホルダ8の両端に接続され、4つ以上のアームの少なくとも1つにより中心軸AX1よりも上側の直胴部Cbの側面Sを保持する構成でもよい。例えば、第1アーム17a、第2アーム17b、及び第3アーム17cのいずれかのアームに代えて、相対的に中心軸AX1と平行な軸周り方向に回転可能な2つのアームを用いてもよい。
【0044】
また、アーム部9は、第2アーム17bが直胴部Cbの側面Sと接触して、直胴部Cbを保持してもよい。この場合、第1アーム17a及び第3アーム17cは、直胴部Cbを保持しなくてもよいし、直胴部Cbを保持してもよい。
【0045】
ところで、前述したように単結晶C(直胴部Cb)の表面は滑面であるため、直胴部Cbの直径が変動している単結晶Cを金属製のバンド等で固定する場合、固定部分がずれやすい。本実施形態の固定治具1は、各アーム(第1アーム17a、第2アーム17b、第3アーム17c)の可動方向が、中心軸AX1方向に可動しないように規制されているので、上記のようなアーム部9で直胴部Cbを固定するときに生じる固定位置のずれを防止できる。
【0046】
以上のように、本実施形態の単結晶固定治具1では、上記した結晶ホルダ8及びアーム部9により、直胴部Cbを上下方向から挟みこんで固定する。この場合、単結晶Cにおける肩部Csと直胴部Cbの境界周辺、及び直胴部Cbと結晶下端部Ctの境界周辺を固定せずにスペースを空けているので、上記した端面加工の際に容易に切断装置で切断することができる。また、本実施形態の単結晶固定治具1では、上記した結晶ホルダ8及びアーム部9により、直胴部Cbを、斜め上方及び斜め下方から対角線方向に挟みこんで固定している。これにより、直胴部Cbにおける中心軸AX1方向(Y方向)及び水平方向(X方向)のずれを抑制することができ、直胴部Cbを確実に保持することができる。
【0047】
次に、肩部固定部4について説明する。肩部固定部4は、
図1に示すように、単結晶Cの肩部Csを固定する。ところで、単結晶Cは、前述したように、肩部Cs、直胴部Cb及び結晶下端部Ctに分かれている(
図7参照)。このような単結晶Cを、単結晶Cの中心軸AX1を水平方向に向けて固定する場合、肩部Csの方向に単結晶Cが倒れやすくなることがある。特に、単結晶Cの直径がφ200mm以上であり、直胴部Cbの長さが50mm前後等の直胴部Cbの長さが比較的短い単結晶Cの場合、上記の単結晶Cの肩部Cs方向への倒れやすさは顕著となる。本実施形態の固定治具1では、肩部Csを固定する肩部固定部4を設けて、上記の直胴部Cbを固定する前に、肩部固定部4で肩部Csを固定することで、肩部Cs側への単結晶Cの転倒を防止することができる。
【0048】
肩部固定部4は、固定する単結晶Cの肩部Cs側(
図1の例では−Y側)に配置される。肩部固定部4は、
図1に示すように、中心軸AX1を含む鉛直面PL1(YZ平面と平行な平面、
図5参照)に対して対称に、2つ設けられる。各肩部固定部4(+X側及び−X側の肩部固定部4)は、同様に構成され、それぞれ、支柱スタンド22、接続部23、及びシャフト24(固定部)を備える。支柱スタンド22は、ベース2上に、上方に延びて起立するように設けられている。支柱スタンド22は、例えば、棒状(管状、円柱状を含む)の部材である。支柱スタンド22には、接続部23が取り付けられている。接続部23は、支柱スタンド22の外周面を挟みこむことにより、支柱スタンド22の上下方向の任意の位置に取り付けることができる。接続部23は、シャフト24の外周面を挟み込むことにより、シャフト24を支持する。シャフト24は、例えば、棒状(管状、円柱状を含む)の部材である。シャフト24は、中心軸AX1方向に沿って配置される。シャフト24と肩部Csとの接触部分には、上記した弾性部材15が設けられている。これにより、肩部固定部4で肩部Csを固定するときに生じるおそれがある破損を抑制し、確実に肩部Csを固定することができる。
【0049】
肩部固定部4は、支柱スタンド22に接続部23を介してシャフト24を取り付け、シャフト24の+Y側の端部を肩部Csに接触させることにより、肩部Csを固定する。シャフト24は、結晶軸AX1方向に沿って、肩部Csに対して離間する方向(−Y方向)から、肩部Csに対して近接する方向(+Y方向)に付勢して肩部Csを押さえることにより、肩部Csを固定する。シャフト24を肩部Csに接触させる位置の高さは、肩部Csの中心軸AX1より上側が好ましく、中心軸AX1の上側における中心軸AXから単結晶Cの結晶径の3/4までの高さであることがより好ましい。また、シャフト24を肩部Csに接触させる水平方向の位置は、単結晶Cの径方向(X方向)における中央部近傍、すなわち、単結晶Cの中心軸AX1と外周との中央部付近であることが好ましい。シャフト24を肩部Csに接触させる高さあるいは水平方向の位置が上記の場合、肩部Csを効率よく固定することができる。
【0050】
なお、本実施形態の肩部固定部4は、肩部Csを切断時まで保持することができる。これにより、肩部Csを切断した時に、肩部Csの重さで肩部Csが倒れることを防止することもできる。なお、肩部固定部4を備えるか否かは、任意である。
【0051】
次に、結晶下端部固定部5(
図4参照)について説明する。結晶下端部固定部5は、固定する単結晶Cの結晶下端部Ct側(
図4の例では+Y側)に配置される。結晶下端部固定部5は、ベース2上に、上方に延びて起立するように設けられている。結晶下端部固定部5と結晶下端部Ctとの接触部分には、上記した弾性部材15が設けられている。これにより、結晶下端部固定部5で結晶下端部Ctを固定するときに生じるおそれがある破損を抑制し、確実に結晶下端部固定部5を固定することができる。なお、結晶下端部固定部5を備えるか否かは、任意である。
【0052】
次に、把持部6について説明する。把持部6は、
図1に示すように、単結晶固定治具1を手で移動させる際に用いられる、容易に把持可能なハンドル形状の部材である。把持部6は、結晶ホルダ8の+X側及び−X側に設けられる。把持部6を備える場合、単結晶固定治具1を簡単に移動させることができる。なお、把持部6を備えるか否かは、任意である。
【0053】
次に、本実施形態の単結晶の固定方法について説明する。
図8は、本実施形態の単結晶の固定方法を示すフローチャートである。本実施形態の単結晶の固定方法は、上記した肩部Cs及び結晶下端部Ctを直胴部Cbから切り離して、円柱状の直胴部Cbを形成する端面加工を行う際に用いる単結晶Cを固定する方法である。このため、単結晶Cにおける肩部Csと直胴部Cbの境界周辺、及び直胴部Cbと結晶下端部Ctの境界周辺は、切断するため固定せず、直胴部Cb及び肩部Csを固定する。本単結晶の固定方法は、
図8に示すように、下部固定工程(ステップS1)と、肩部固定工程(ステップS2)と、上部固定工程(ステップS3)と、を備える。本単結晶の固定方法は、上記した単結晶固定治具1により簡単に行うことができる。以下、本単結晶の固定方法を、上記した単結晶固定治具1の動作に基づいて説明する。なお、本単結晶の固定方法の説明において、上述の単結晶固定治具1の部分で説明した部分については、適宜適用することができ、その説明については省略または簡略化する。
【0054】
下部固定工程(ステップS1)では、肩部Csと直胴部Cbとを含む単結晶Cを、中心軸AX1を略水平方向(Y方向)の向きにして、直胴部Cbの側面Sにおける中心軸AX1よりも下側の部分を保持する。例えば、上記したように、結晶ホルダ8の一対の支持面13に、単結晶Cを、中心軸AX1を略水平方向(Y方向)の向きにして載置することにより、直胴部Cbの側面Sにおける中心軸AX1よりも下側の部分を保持する。
【0055】
続いて、肩部固定工程(ステップS2)では、肩部Csを固定する。例えば、上記したように、肩部固定部4の一対のシャフト24の+Y側の端部を肩部Csに接触させることにより、肩部Csを固定する。なお、肩部固定工程は、下部固定工程と同時に行ってもよい。上記したように、単結晶Cを、単結晶Cの中心軸AX1を水平方向に向けて固定する場合、肩部Csの方向に単結晶Cが倒れやすくなることがあるが、直胴部Cbの固定の前に、肩部固定部4で単結晶Cの肩部Csを固定(支持)することで、肩部Cs側への単結晶Cの転倒を防止することができる。また、肩部Csを固定することにより、肩部Csを切断した時に、肩部Csの重さで肩部Csが倒れることを防止することもできる。
【0056】
続いて、上部固定工程(ステップS3)では、直胴部Cbの側面Sにおける中心軸AX1よりも上側の部分を保持し、直胴部Cbの側面Sを上下方向から挟みこんで固定する。例えば、上記したように、アーム部9の第1アーム17a及び第3アーム17cにより、直胴部Cbの側面Sにおける中心軸AX1よりも上側の部分を保持する。第1アーム17a及び第3アーム17cは、直胴部Cbの中心軸AX1よりも上側の側面Sを斜め上方から保持する。この際、上記のように、各アーム(第1アーム17a、第2アーム17b、第3アーム17c)がリンク機構により、リンクして所定の動作をするので、簡単かつ確実に単結晶Cを固定することができる。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0058】
[実施例]
本実施例では、
図1に示す単結晶固定治具1を用いて、単結晶Cを固定した。その結果、単結晶Cを固定した際、単結晶Cの直径がφ200mm以上であり、直胴部Cbの長さが50mm前後の直胴部Cbの長さが比較的短い単結晶Cにおいても、簡単且つ強固に固定できた。
【0059】
以上のように、本実施形態の単結晶固定治具1、及び単結晶の固定方法は、単結晶Cの固定位置のずれが抑制され、直胴部Cbが短い単結晶Cでも確実かつ簡単に固定することができ、単結晶Cの端面加工において好適に用いることができる。
【0060】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。