(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
かぶり荷電粒子の設計上の分布中心をずらした分布関数と、荷電粒子ビームの設計上の照射中心をずらしていない照射量分布とを畳み込み積分することによって、かぶり荷電粒子量分布を演算するかぶり荷電粒子量分布演算部と、
前記かぶり荷電粒子量分布に基づく位置ずれ量を演算する位置ずれ量演算部と、
前記位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する補正部と、
補正された照射位置に荷電粒子ビームを照射するカラムと、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
前記分布関数の前記設計上の分布中心のずらし量は、前記照射量分布の端部に生じる位置ずれ量を補正するように予め決定された値を用いることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の荷電粒子ビーム装置。
かぶり荷電粒子の設計上の分布中心をずらした分布関数と、荷電粒子ビームの設計上の照射中心をずらしていない照射量分布とを畳み込み積分することによって、かぶり荷電粒子量分布を演算するかぶり工程と、
前記かぶり荷電粒子量分布に基づく位置ずれ量を演算する工程と、
前記位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する工程と、
補正された照射位置に荷電粒子ビームを照射する工程と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビームの位置ずれ補正方法。
ニューラルネットワークモデルを用いて前記設計上の分布中心の前記ずらし量を演算するニューラルネットワーク演算部をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム装置。
前記照射量分布において照射量がゼロの位置については非照射領域として、前記ニューラルネットワークモデルに適用されることを特徴とする請求項7記載の荷電粒子ビーム装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の他の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0020】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の要部構成の一例を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画部150および制御部160を備えている。描画装置100は、荷電粒子ビーム描画装置の一例である。また、描画装置100は、荷電粒子ビーム装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒1と描画室14を有している。電子鏡筒1内には、電子銃5、照明レンズ7、第1のアパーチャ8、投影レンズ9、偏向器10、第2のアパーチャ11、対物レンズ12、偏向器13、及び静電レンズ15が配置される。また、描画室14内には、XYステージ3が配置される。XYステージ3上には、描画対象となる試料2が配置される。試料2には、半導体製造の露光に用いるフォトマスクや半導体装置を形成する半導体ウェハ等が含まれる。また、描画されるフォトマスクには、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。描画される際には、試料上には電子ビームにより感光するレジスト膜が形成されていることは言うまでもない。また、XYステージ3上には、試料2が配置される位置とは異なる位置にステージ位置測定用のミラー4が配置される。
【0021】
制御部160は、制御計算機110,120、ステージ位置検出機構45、ステージ制御機構46、偏向制御回路130、メモリ142、磁気ディスク装置等の記憶装置21,140、及び外部インターフェース(I/F)回路146と、を有している。制御計算機110,120、ステージ位置検出機構45、ステージ制御機構46、偏向制御回路130、メモリ142、記憶装置21,140、及び外部I/F回路146は、図示しないバスにより互いに接続されている。偏向制御回路130は、偏向器10,13に接続される。
【0022】
制御計算機110内には、描画制御部30、パターン面積密度分布演算部31、ドーズ量分布算出部32、照射量分布算出部33、かぶり電子量分布算出部34、帯電量分布算出部35、描画経過時間演算部37、累積時間演算部38、及び位置ずれ量分布演算部36といった機能が配置される。描画制御部30、パターン面積密度分布演算部31、ドーズ量分布算出部32、照射量分布算出部33、かぶり電子量分布算出部34、帯電量分布算出部35、描画経過時間演算部37、累積時間演算部38、及び位置ずれ量分布演算部36といった各「〜部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。描画制御部30、パターン面積密度分布演算部31、ドーズ量分布算出部32、照射量分布算出部33、かぶり電子量分布算出部34、帯電量分布算出部35、描画経過時間演算部37、累積時間演算部38、及び位置ずれ量分布演算部36内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ142に記憶される。
【0023】
制御計算機120内には、ショットデータ生成部41および位置ずれ補正部42といった機能が配置される。ショットデータ生成部41および位置ずれ補正部42といった各「〜部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。ショットデータ生成部41および位置ずれ補正部42内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリに記憶される。
【0024】
偏向制御回路130内には、成形偏向器制御部43および対物偏向器制御部44といった機能が配置される。成形偏向器制御部43および対物偏向器制御部44といった各「〜部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。成形偏向器制御部43および対物偏向器制御部44内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリに記憶される。
【0025】
また、描画されるための複数の図形パターンが定義される描画データ(レイアウトデータ)が描画装置100の外部から入力され、記憶装置140に格納される。
【0026】
図1では、本実施の形態1を説明する上で必要な構成部分以外については記載を省略している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成が含まれることは言うまでもない。
【0027】
電子銃5から放出された電子ビーム6は、照明レンズ7により矩形の穴を持つ第1のアパーチャ8全体を照明する。ここで、電子ビーム6をまず矩形に成形する。そして、第1のアパーチャ8を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム6は、投影レンズ9により第2のアパーチャ11上に投影される。かかる第2のアパーチャ11上での第1のアパーチャ像の位置は、成形偏向制御部43により制御された偏向器10によって偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる(可変成形)。そして、第2のアパーチャ11を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム6は、対物レンズ12により焦点を合わせ、対物偏向制御部44に制御された例えば静電型の偏向器13により偏向され、移動可能に配置されたXYステージ3上の試料2の所望する位置に照射される。XYステージ3はステージ制御機構46によって駆動制御される。そして、XYステージ3の位置は、ステージ位置検出機構45によって検出される。ステージ位置検出機構45には、例えば、ミラー4にレーザを照射して、入射光と反射光との干渉に基づいて位置を測定するレーザ測長装置が含まれる。静電レンズ15は、試料2面の凹凸に対応して、動的に電子ビーム6の焦点位置を補正する(ダイナミックフォーカス)。
【0028】
図2は、実施の形態1におけるステージ移動の様子を説明するための図である。試料2に描画する場合には、XYステージ3を例えばX方向に連続移動させながら、描画(露光)面を電子ビーム6が偏向可能な短冊状の複数のストライプ領域(SR)に描画領域(R)が仮想分割された試料2の1つのストライプ領域上を電子ビーム6が照射する。XYステージ3のX方向の移動は、例えば連続移動とし、同時に電子ビーム6のショット位置もステージ移動に追従させる。連続移動させることで描画時間を短縮させることができる。そして、1つのストライプ領域を描画し終わったら、XYステージ3をY方向にステップ送りしてX方向(今度は逆向き)に次のストライプ領域の描画動作を行なう。各ストライプ領域の描画動作を蛇行させるように進めることでXYステージ3の移動時間を短縮することができる。また、描画装置100では、レイアウトデータ(描画データ)を処理するにあたっては、描画領域を短冊状の複数のフレーム領域に仮想分割して、フレーム領域毎にデータ処理がおこなわれる。そして、例えば、多重露光を行なわない場合には、通常、フレーム領域と上述したストライプ領域とが同じ領域となる。多重露光を行なう場合には、多重度に応じてフレーム領域と上述したストライプ領域とがずれることになる。或いは、多重度に応じたストライプ領域と同じ領域となる複数のフレーム領域に描画領域が仮想分割され、フレーム領域毎にデータ処理がおこなわれる。このように、試料2の描画領域は、複数の描画単位領域となるフレーム領域(ストライプ領域)に仮想分割され、描画部150は、かかるフレーム領域(ストライプ領域)毎に描画する。
【0029】
図3は、実施の形態1の比較例におけるビームの照射域及びその周辺の描画結果の一例を示す図である。実施の形態1の比較例では、従来の帯電効果補正の手法を用いて描画した結果の一例及び従来の帯電効果補正の手法を用いたシミュレーションモデルにより計算された描画位置の一例を示している。
図3(a)では、図面上区別は難しいが、後述する
図17においてm=40、n=20となるようにメッシュ化された設計上の描画位置に対する、実際の描画結果による描画位置とシミュレーションモデルにより計算された描画位置とを重ね合わせた図である。
図3(a)では、ビーム照射域及びその周辺域を合わせた領域の輪郭が矩形に浮き出て見えている。
図3(b)では、実際の描画結果による描画位置からシミュレーションモデルにより計算された描画位置を差し引いたシミュレーションモデルの計算ずれ量(位置ずれ量の補正残差)を示す図である。
図3(b)では、
図3(a)に示す輪郭が浮き出て見える矩形部分を示している。
図3(b)に示すように、従来の帯電効果補正の手法を用いたシミュレーションモデルでは、ある一部の領域Aにおいて、位置ずれを再現できていないことがわかる。
【0030】
図4は、実施の形態1の比較例におけるビームの照射位置の位置ずれを発生させると想定されるメカニズムを説明するための図である。
図4(a)において、試料2面は、グランド電位に保持される。一方、試料2の上方に配置される静電レンズ15には、負の電位が印加される。よって、試料2面から静電レンズ15の配置高さ面までの間には、試料2面から静電レンズ15に向けて(z方向に)電気力線が延びる電場が生じている。かかる電場が誤差等により向きが傾いている場合、或いは/及び、さらに漏れ電場が生じている場合、
図4(b)に示すように、試料2上において左右(x方向)の位置で電位差が生じることになる。そのため、かぶり電子の入射位置が変化する。電子鏡筒1から照射される電子ビーム6自体は、加速電圧が大きいので、かかる電場によって曲がらない。しかし、かかる電子ビーム6の照射によって生じたかぶり電子には大きい加速電圧がかかっていないので、かかる電場の影響を受け、正電位側にずれることになる。その結果、
図4(c)に示すように、かぶり電子Fの分布中心が照射域Eの中心からずれる。
図4(c)では、便宜上、ビーム照射域E内にもかぶり電子Fの分布曲線を示しているが、ビーム照射域E内ではかぶり電子Fによる帯電効果はほとんど発生しないので、実際には描画位置は、ビーム照射域Eの端部から外側に分布するかぶり電子Fの影響(かぶり効果)を主体的に受けることになる。
図4(c)の例では、−x方向にかぶり電子Fの分布中心がずれるので、ビーム照射域Eの−x方向端部の周辺に分布するかぶり電子Fの分布量が増える。その結果、ビーム照射域Eの−x方向端部の周辺で増えたかぶり電子Fの影響によって位置ずれが生じることになると想定される。一方、ビーム照射域Eの+x方向端部から外側に分布するかぶり電子Fの分布量は減少するが、その減少幅は−x方向端部から外側に分布するかぶり電子Fの分布量の増加幅と比べて小さいため、ビーム照射域Eの+x方向端部の周辺では、かぶり電子Fの影響による位置ずれがあまり大きく変化しない。その結果、
図3(b)に示すように、ある一部の領域Aにおいて、顕著に位置ずれが生じることに繋がる。そこで、実施の形態1では、かかるメカニズムを利用して、以下のように帯電効果補正を行う。
【0031】
図5は、実施の形態1における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
図5において、実施の形態1における描画方法は、パターン面積密度分布ρ(x,y)演算工程(S100)と、ドーズ量分布D(x,y)算出工程(S102)と、照射量分布E(x,y)算出工程(S104)と、かぶり電子量分布F(x,y,σ,Δx)算出工程(S106)と、描画経過時間T(x,y)演算工程(S107)と、累積時間t演算工程(S108)と、帯電量分布C(x,y)算出工程(S109)と、位置ずれ量分布p(x,y)演算工程(S110)と、偏向位置補正工程(S112)と、描画工程(S114)と、いう一連の工程を実施する。
【0032】
パターン面積密度分布ρ(x,y)演算工程(S100)として、パターン面積密度分布演算部31は、記憶装置140から描画データを読み出し、描画領域(或いはフレーム領域)が所定寸法(グリッド寸法)でメッシュ状に仮想分割された複数のメッシュ領域のメッシュ領域毎に、描画データに定義される図形パターンの配置割合を示すパターン密度ρ(x,y)を演算する。そして、メッシュ領域毎のパターン密度の分布ρ(x,y)を作成する。
【0033】
ドーズ量分布D(x,y)算出工程(S102)として、ドーズ量分布算出部32は、パターン密度分布ρ(x,y)を用いて、メッシュ領域毎のドーズ量の分布D(x,y)を算出する。ドーズ量の演算には、後方散乱電子による近接効果補正を行うと好適である。ドーズ量Dは、以下の式(1)で定義できる。
(1) D=D
0×{(1+2×η)/(1+2×η×ρ)}
式(1)において、D
0は基準ドーズ量であり、ηは後方散乱率である。
【0034】
これらの基準ドーズ量D
0及び後方散乱率ηは、当該描画装置100のユーザにより設定される。後方散乱率ηは、電子ビーム6の加速電圧、試料2のレジスト膜厚や下地基板の種類、プロセス条件(例えば、PEB条件や現像条件)などを考慮して設定することができる。
【0035】
照射量分布E(x,y)算出工程(S104)として、照射量分布算出部33は、パターン密度分布ρ(x,y)の各メッシュ値と、ドーズ量分布D(x,y)の対応メッシュ値とを乗算することによって、メッシュ領域毎の照射量分布E(x,y)(「照射強度分布」ともいう)を演算する。
【0036】
かぶり電子量分布F(x,y,σ,Δx)算出工程(S106)として、かぶり電子量分布算出部34(かぶり荷電粒子量分布演算部)は、かぶり電子の設計上の分布中心をずらした分布関数g(x,y)と、設計上の照射中心をずらしていない上述した照射量分布E(x,y)算出工程により算出された設計上の照射量分布E(x,y)とを畳み込み積分することによって、かぶり電子量分布F(x,y,σ,Δx)(かぶり荷電粒子量分布)を演算する。以下、具体的に説明する。
【0037】
まず、かぶり電子の広がり分布を示す分布関数g(x,y)は、かぶり効果の影響半径σを用いて、以下の式(2)で定義できる。ここでは、一例としてガウス分布を用いている。
(2) g(x,y)=(1/πσ
2)×exp{−(x
2+y
2)/σ
2}
【0038】
図6は、実施の形態1におけるかぶり電子量分布の計算モデルの一例を説明するための図である。
図6(a)では、照射量分布Eとかぶり電子の分布関数gとを示している。
図6(a)では、設計上の照射量分布Eの中心に、かぶり電子の分布関数gの中心を合わせている。かかる照射量分布Eとかぶり電子の分布関数gとを畳み込み積分すると、
図6(b)の点線に示すようにかぶり電子量分布F(=E・g)が得られる。しかしながら、上述したように、試料2面上に生じている電場の影響等により、かぶり電子の試料2面入射位置は正電位(+)側にずれ量Δxだけずれる。そこで、実施の形態1では、かぶり電子量分布Fの演算の際に、かかるずれ量Δxだけかぶり電子の分布関数gの中心位置をずらして演算する。かぶり電子量分布F(x,y,σ,Δx)は、以下の式(3)で定義できる。
(3) F(x,y,σ,Δx)
=∫∫g(x−Δx−x’,y−y’)E(x’,y’)dx’dy’
【0039】
以上のようにかぶり電子の分布関数gの分布中心位置をずらすことで、
図6(b)の実線に示すようにかぶり電子量分布F(=E・g)が得られる。分布関数gの設計上の分布中心のずれ量Δx(ずらし量)は、照射量分布Eの端部における位置ずれ量を補正するように予め実験等により決定しておけばよい。ずれ量Δxは試料2上に生じる左右で電位が異なる電場によって作用すると想定されるので、個々の描画装置100によってその電場の大きさが異なる。そこで、製造された描画装置100毎に、かかるずれ量Δxを実験等により求めておけばよい。
【0040】
描画経過時間T(x,y)演算工程(S107)として、描画経過時間演算部37は、試料2上の各位置について描画開始時刻(レイアウト先頭或いは先頭フレームの描画を開始する時刻)から実際に描画する時刻までの経過時間T(x,y)を演算する。例えば、該当するフレーム領域(ストライプ領域)がi番目の第iフレーム領域である場合には、描画開始位置S(0,0)の描画を開始する描画開始時刻から1つ前の第i−1フレーム領域(ストライプ領域)までの各位置(x,y)を描画するまでの予想時間を経過時間T(x,y)として演算する。
【0041】
累積時間t演算工程(S108)として、累積時間演算部38は、既に描画が終了した描画単位領域となる例えばフレーム領域(ストライプ領域)の描画にかかった描画時間を累積した累積時間tを演算する。例えば、現在、該当するフレーム領域がi番目の第iフレーム領域である場合には、第1フレーム領域を描画するための時間t(1)、第2フレーム領域を描画するための時間t(2)、・・・第iフレーム領域を描画するための時間t(i)までを累積加算した加算値を算出する。これにより、該当するフレーム領域までの累積時間tを得ることができる。
【0042】
ここで、現在、処理を行なっている該当フレーム領域内を実際に描画する場合、1つ前のフレーム領域までは描画が既に完了しているので、1つ前までのフレーム領域内で電子ビーム6が照射された箇所は帯電部分となる。よって、該当フレーム領域の累積時間tから帯電部分がある1つ前までのフレーム領域内の各位置(x,y)の描画経過時間T(x,y)を差し引いた差分値(t−T)が帯電部分を描画した後の経過時間となる。
【0043】
帯電量分布C(x,y)算出工程(S109)として、帯電量分布算出部35は、照射量分布E(x,y)と、かぶり電子量分布F(x,y,σ,Δx)と、時間の経過に伴う帯電減衰量と、を用いて、帯電量分布C(x,y)を算出する。
【0044】
先ず、帯電量分布C(x,y)を求めるための関数C(E,F,T,t)を仮定した。具体的には、照射電子が寄与する変数C
E(E)と、かぶり電子が寄与する変数C
F(F)と、経過時間が寄与する帯電減衰分C
T(T,t)に分離した。関数C(E,F,T,t)は、以下の式(4)で定義する。
(4) C(x,y)=C(E,F,T,t)
=C
E(E)+C
F(F)+C
T(T,t)
=(d
0+d
1×ρ+d
2×D+d
3×E)
+(e
1×F+e
2×F
2+e
3×F
3)
+κ(ρ)・exp{−(t−T)/λ(ρ)}
【0045】
また、式(4)に用いられる、パターン面積密度ρに依存した帯電減衰量κ(ρ)は、例えば、以下の式(5)で近似できる。ここでは、式(5)が2次関数となっているが、これに限るものではなく、さらに高次の関数でもよいし、低次の関数でもよい。
(5) κ(ρ)=κ
0+κ
1ρ+κ
2ρ
2
【0046】
そして、式(4)に用いられる、パターン面積密度ρに依存した帯電減衰時定数λ(ρ)は、例えば、次の式(6)で近似できる。ここでは、式(6)が2次関数となっているが、これに限るものではなく、さらに高次の関数でもよいし、低次の関数でもよい。
(6) λ(ρ)=λ
0+λ
1ρ+λ
2ρ
2
【0047】
なお、式(4)〜式(6)の各係数d
0、d
1、d
2、d
3、e
1、e
2、e
3、κ
0、κ
1、κ
2、λ
0、λ
1、λ
2については、上述した特許文献1,2と同様に、実験結果及び/或いはシミュレーション結果をフィッティング(近似)して求めればよい。一例として、具体的には、以下のように求める。
【0048】
まず、帯電減衰量κと帯電減衰時定数λと描画経過時間tを用いて、各パターン面積密度ρの帯電量Cの減衰曲線は、指数関数で表した次の式(7)で近似できる。
(7) C=κ・exp(−t/λ)
【0049】
また、パターン面積密度ρ(パターン面積率ρ)が、25%、50%、75%及び100%の各場合について、所定の帯電用パターンの描画直後の測定位置と描画から50分後の測定位置との差をフィッティングすることで、式(5)で近似したパターン面積密度ρに依存した帯電減衰量κ(ρ)を得ることができる。
【0050】
また、パターン面積密度ρ(パターン面積率ρ)が、25%、50%、75%及び100%の各場合について、所定の帯電用パターンの描画直後から50分後までの複数のタイミングでの測定位置と描画から50分後の測定位置との各差をフィッティングすることで、式(6)で近似したパターン面積密度ρに依存した帯電減衰時定数λ(ρ)を得ることができる。
【0051】
以上の結果から、かかる所定の帯電用パターンが描画された照射部の各位置(座標(x,y))における帯電量C(x,y)は、次の式(8)で近似できる。
(8) C(x,y)=κ(ρ)・exp(−t/λ(ρ))
【0052】
そして、上述したように、差分値(t−T)が帯電部分を描画した後の経過時間になるので、式(8)を用いたC
T(T,t)は、次の式(9)に変形できる。
(9) C
T(T,t)=κ(ρ)・exp{−(t−T)/λ(ρ)}
【0053】
なお、式(8)では、帯電用パターン230内の帯電減衰量κ(ρ)がすべての位置で一様であるという仮定のもとに見積もられている。パターン面積密度ρが25%から75%に増加するにつれて負の電荷減衰κ(ρ)の大きさは増加するが、100%のパターン面積密度ρで負の電荷減衰κ(ρ)は再び減少する。実際には、複数のフレーム領域に跨るような所定のサイズの帯電用パターンを描画する場合に、最初に描画された箇所と最後に描画される箇所では相当の時間が経過している。観測される位置ずれ量Yから一様分布を仮定して求めた帯電減衰量κ(ρ)に対して、帯電が減衰する帯電減衰時定数λを適用して設定された補正後の帯電減衰量κ”(ρ)から位置ずれ量Y”を求めると、Y”の方がYより小さくなる。そこで、位置ずれ量Y”がもとの位置ずれ量Yと等しくなるような補正式κ”=L(λ)・κを用いて、帯電減衰量κ(ρ)を補正してもよい。
【0054】
例えば、複数の帯電減衰時定数λを用いて、各帯電減衰時定数λでのκ”/κをプロットした結果をフィッティングすることで、補正式κ”=L(λ)・κを得ることができる。例えば、κ”=(1+3.1082・λ
−1.0312)・κを得ることができる。
【0055】
例えば、パターン面積密度ρが、75%の場合と100%の場合とで帯電減衰量が逆転する場合があるが、かかる補正により、かかる逆転現象は解消し、補正後の帯電減衰量κ”(ρ)は、パターン面積密度ρが25%、50%、75%、100%と順に小さくなっていく。
【0056】
また、実施の形態1におけるモデルでは、まずは、帯電減衰分C
T(T,t)を無視して、照射域の関数は、変数C
F(F)=0、すなわちC(E,F,T,t)=C
E(E)と仮定した。一方、非照射域の関数は、変数C
E(E)=0、すなわち、C(E,F)=C
F(F)と仮定した。また、照射域内は均一に帯電することと仮定した。すなわち、C
E(E)=c
oと仮定した。このc
oは、定数であり、例えば、1である。
【0057】
また、非照射域では、かぶり電子量強度Fが大きくなるほど、帯電C
F(F)が飽和する。そこで、非照射域の変数C
F(F)を次の式(10)のように表すこととした。
(10) C
F(F)=−c
1×F
α
【0058】
上式(10)中のαは、0<α<1の条件を満たす。本発明者の実験によれば、α=0.3−0.4のときに、最も実験結果に近くなり、好適であることが分かった。この好適なαの範囲は、使用する電子ビーム描画装置に応じて変えることができる。
【0059】
ここで、上式(10)のように関数C
F(F)を規定した理由について説明する。
【0060】
パターン密度100%のときのかぶり電子量強度FをF
100とすると、各パターン密度でのかぶり電子量強度は、パターン密度に比例してそれぞれF
100,0.75×F
100,0.5×F
100,0.25×F
100となる。しかし、C
F(F)は、未知の関数である。このため、C
F(F
100),C
F(0.75×F
100),C
F(0.5×F
100),C
F(0.25×F
100)は強度比例せず、しかも各パターン密度で分布形状が互いに異なる可能性がある。このように各パターン密度での分布形状が異なると、パターン密度毎にC
F(F)を規定しなければならず、解析上不便である。
【0061】
そこで、任意のFに対して、パターン密度が変化しても、相似形の分布形状が得られる関数C
F(F)とした。すなわち、関数C
F(F)が次式(11)の関係を満たすように規定した。次式(11)におけるaはパターン密度であり、Aは定数である。
(11) C
F(aF)/C
F(F)=A
【0062】
相似形の関数であれば、C
F(F)全体の強度はパターン面積密度の変化に比例しなくても、分布形状が変わらない。強度については、上記パラメータc
0,c
1の組み合わせにより調整することができる。よって、C
F(F)をパターン密度毎に規定する必要はなく、1つのσに対して1つのC
F(F)を規定するだけでよいため、解析を簡単にすることができる。
【0063】
次に、上記パラメータc
0,c
1,σ
iの最適な組み合わせを決定する。照射域については、c
oという大きさのステップ形状の帯電量分布C
E(E)を仮定し、この帯電量分布C
E(E)と予め計算しておいた応答関数r(x)を畳み込み積分することによって、位置ずれ量p
0(x)を算出する。
【0064】
また、非照射域については、あるαとかぶり電子広がり半径(以下「かぶり半径」という)σを仮定してC
F(F)を計算する。このC
F(F)を複数のかぶり半径σに対して求める。例えば、かぶり半径σは1mm〜24mmまで1mm間隔で仮定される。そして、かぶり半径σ
1〜σ
iに対しての帯電量分布C
F(F)と応答関数rを用いて、位置ずれ量p
1(x)〜p
i(x)を求める。
【0065】
これらの照射域及び非照射域の位置ずれ量p(x)を合成すると、次式(12)のように表される。
(12) p(x)=c
0×p
0(x)+c
1×p
i(x)
【0066】
そして、上式(12)が実験結果を最も良く適合(フィッティング)するパラメータc
0,c
1,σの組み合わせを求める。例えば、レジストA、B、Cについて、フィッティングにより求められたパラメータc
0,c
1,σの最適な組み合わせを求める。しかし、同じ種類のレジストを使用する場合でも、パターン密度が異なると最適なかぶり半径σが異なってしまうことが分かった。物理的に、パターン密度に依存してかぶり半径σが変化しないことが望ましい。また、レジストAについては良好なフィッティング結果が得られたものの、レジストB,CについてはレジストAほど良好なフィッティング結果が得られなかった。本発明者の検討によれば、これらの結果は、照射部の帯電をC
E(E)=c
0とフラットに仮定したことによるものと考えられる。
【0067】
そこで、本発明者は、照射域の帯電量分布についてもかぶり電子の影響を記述するよう
に、上記モデルを修正した。かかるモデルでは、照射域での帯電量分布を次式(13)のように表した。但し、非照射部の帯電量分布は、上記モデルと同様とした。
(13) C(E,F)=C
E(E)+C
Fe(F)=c
0−c
1×F
α
【0068】
修正されたモデルについてパラメータc
0,c
1,σの組み合わせを求める。修正されたモデルは、かぶり半径σがパターン密度依存性をなお有している。さらに、フィッティングにより求められたc
1は、次の式(14)の曲線に乗らなければならないが、乗らないことが判った。
(14) C(E,F)=C
E(E)+C
F(F)
【0069】
そこで、先ず、非照射域の帯電量分布C
F(F)とかぶり電子量強度Fとの関係を、次式(15)のような多項式関数によって表した。次式(15)において、f
1,f
2,f
3は、定数である。
(15) C
F(F)=f
1×F+f
2×F
2+f
3×F
3
【0070】
次に、各パターン密度についてy=0における帯電量分布C(x,0)を算出する。なお、y=0に限定せず、2次元で帯電量分布C(x,y)を算出することにより、以下に行うフィッティングの精度を向上させることができる。
【0071】
そして、非照射域の帯電量分布C(x,0)と、上式(15)のC
F(F)とが最も適合するような最適なかぶり半径σを求める。かぶり半径σが過小である場合や、かぶり半径σが過大である場合には、良好なフィッティング結果が得られない。つまり、かぶり半径σが過小もしくは過大となると、各パターン密度のデータが相互に離れてしまうため、上記パラメータf
1,f
2,f
3を求めることができない。これに対して、最適なかぶり半径σが求められると、良好なフィッティング結果が得られ、上記パラメータf
1,f
2,f
3を求めることができる。
【0072】
次に、上記求めた最適なかぶり半径σを用いて、照射域のかぶり電子量分布Fを求める
。そして、照射域の帯電量分布C(E,F)を照射量分布Eと、上式(3)で求められたかぶり電子量分布Fとを用いて、次式(16)のような多項式関数によって表した。次式(16)では、かぶり電子が寄与する帯電量分布C
Fe(F)が考慮されている。
(16) C(E,F)=C
E(E)+C
Fe(F)
=(d
0+d
1×ρ+d
2×D+d
3×E)
+(e
1×F+e
2×F
2+e
3×F
3)
【0073】
そして、照射域の帯電量分布C(x,0)と、上式(16)の帯電量分布C(E,F)とが最も適合するようなパラメータd
0,d
1,d
2,d
3,e
1,e
2,e
3を求める。
【0074】
このモデルでは、上記した相似形の関数を用いたモデルとは異なり、パターン密度が変化しても、最適なかぶり半径σは変わらない。
【0075】
そして、上式(16)で示した照射域の帯電量分布C(E,F)に、さらに、帯電減衰に起因した帯電量分布を加算すると、上述した式(4)が得られる。これにより、帯電減衰分を補正できる。
【0076】
位置ずれ量分布p(x,y)演算工程(S110)として、位置ずれ量分布演算部36(位置ずれ量演算部)は、かぶり荷電粒子量分布に基づく位置ずれ量を演算する。具体的には、位置ずれ量分布演算部36は、帯電量分布C(x,y)の各帯電量Cに応答関数r(x,y)を畳み込み積分することにより、帯電量分布C(x,y)の各位置(x,y)の帯電量に起因した描画位置(x,y)の位置ずれ量Pを演算する。この帯電量分布C(x,y)を位置ずれ量分布P(x,y)に変換する応答関数r(x,y)を仮定する。ここでは、帯電量分布C(x,y)の各位置で示される帯電位置を(x’,y’)で表し、現在、データ処理を行なっている該当するフレーム領域(例えば、第iフレーム領域)のビーム照射位置を(x,y)で表す。ここで、ビームの位置ずれは、ビーム照射位置(x,y)から帯電位置(x’,y’)までの距離の関数として表すことができるため、応答関数をr(x−x’,y−y’)のように記述することができる。応答関数r(x−x’,y−y’)は、予め実験を行い、実験結果と適合するように予め求めておけばよい。以下、実施の形態1において(x,y)は、現在、データ処理を行なっている該当するフレーム領域のビーム照射位置を示す。
【0077】
そして、位置ずれ量分布演算部36は、該当するフレーム領域の描画しようとする各位置(x,y)の位置ずれ量Pから位置ずれ量分布Pi(x,y)(或いは、位置ずれ量マップPi(x,y)ともいう)を作成する。演算された位置ずれ量マップPi(x,y)は、記憶装置21に格納されると共に、制御計算機120に出力される。
【0078】
一方、制御計算機120内では、ショットデータ生成部41が、記憶装置140から描画データを読み出し、複数段のデータ変換処理を行って、描画装置100固有のフォーマットのショットデータを生成する。描画データに定義される図形パターンのサイズは、通常、描画装置100が1回のショットで形成できるショットサイズよりも大きい。そのため、描画装置100内では、描画装置100が1回のショットで形成可能なサイズになるように、各図形パターンを複数のショット図形に分割する(ショット分割)。そして、ショット図形毎に、図形種を示す図形コード、座標、及びサイズといったデータをショットデータとして定義する。
【0079】
偏向位置補正工程(S112)(位置ずれ補正工程)として、位置ずれ補正部42(補正部)は、位置ずれ量を用いて、照射位置を補正する。ここでは、各位置のショットデータを補正する。具体的には、ショットデータの各位置(x,y)に位置ずれ量マップPi(x,y)が示す位置ずれ量を補正する補正値を加算する。補正値は、例えば、位置ずれ量マップPi(x,y)が示す位置ずれ量の正負の符号を逆にした値を用いると好適である。これにより、電子ビーム6が照射される場合に、その照射先の座標が補正されるので、対物偏向器13によって偏向される偏向位置が補正されることになる。ショットデータはショット順に並ぶようにデータファイルに定義される。
【0080】
描画工程(S114)として、偏向制御回路130内では、ショット順に、成形偏向器制御部43が、ショット図形毎に、ショットデータに定義された図形種及びサイズから電子ビーム6を可変成形するための成形偏向器10の偏向量を演算する。同時期に、対物偏向器制御部44が、当該ショット図形を照射する試料2上の位置に偏向するための対物偏向器13の偏向量を演算する。言い換えれば、対物偏向器制御部44(偏向量演算部)が、補正された照射位置に電子ビームを偏向する偏向量を演算する。そして、電子鏡筒1(カラム)は、補正された照射位置に電子ビームを照射する。具体的には、電子鏡筒1(カラム)内に配置された対物偏向器13が、演算された偏向量に応じて電子ビームを偏向することで、補正された照射位置に電子ビームを照射する。これにより、描画部150は、試料2の帯電補正された位置にパターンを描画する。
【0081】
図7は、実施の形態1における描画方法の要部工程の他の一例を示すフローチャート図である。
図7において、
図5のドーズ量分布D(x,y)算出工程(S102)の代わりに、パターン密度分布ρ(x,y)に関係なく固定のドーズ量分布D(x,y)を用いる点以外は、
図5と同様である。
【0082】
図8は、実施の形態1におけるビームの照射域及びその周辺の描画結果の一例を示す図である。
図8(a)では、従来の帯電効果補正の手法を用いて描画した結果及び実施の形態1の手法を用いたシミュレーションモデルにより計算された位置ずれした描画位置を示している。
図8(a)では、図面上区別は難しいが、所定の量子化寸法でメッシュ化された設計上の描画位置に対する、実際の描画結果による描画位置とシミュレーションモデルにより計算された位置ずれした描画位置とを重ね合わせた図である。
図8(b)では、実施の形態1におけるシミュレーションモデルにより計算された位置ずれした描画位置から実際の描画結果による描画位置を差し引いたシミュレーションモデルの計算ずれ量(位置ずれ量の補正残差)を示す図である。
図8(b)に示すように、
図3(b)に示したある一部の領域Aの位置ずれを良好に低減できる。
【0083】
よって、実施の形態1によれば、実施の形態1で得られた位置ずれ分布に示す位置ずれ量を補正することで、帯電効果補正が不十分とされた一部の領域を含めて帯電現象に起因した位置ずれを補正できる。その結果、高精度な照射位置にビームを照射できる。
【0084】
実施の形態2.
実施の形態1では、シングルビームを用いた描画装置に帯電効果補正を適用した場合について説明したが、これに限るものではない。実施の形態2では、マルチビームを用いた描画装置に帯電効果補正を適用した場合について説明する。
【0085】
図9は、実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。
図9において、描画装置300は、描画部350と制御部360を備えている。描画装置300は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例であると共に、マルチ荷電粒子ビーム露光装置の一例である。描画部350は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイ部材203、ブランキングアパーチャアレイ機構204、縮小レンズ205、制限アパーチャ部材206、対物レンズ207、静電レンズ212、及び偏向器208,209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時(露光時)には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。
【0086】
制御部360は、制御計算機110,120、メモリ112、偏向制御回路130、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプユニット132,134、ステージ制御機構138、ステージ位置測定器139、外部インターフェース(I/F)回路146、及び磁気ディスク装置等の記憶装置21,140,142を有している。制御計算機110,120、メモリ112、偏向制御回路130、ステージ制御機構138、ステージ位置測定器139、外部I/F回路146、及び記憶装置21,140,142は、図示しないバスを介して互いに接続されている。記憶装置140(記憶部)には、描画データが描画装置300の外部から入力され、格納されている。偏向制御回路130には、DACアンプユニット132,134及びブランキングアパーチャアレイ機構204が図示しないバスを介して接続されている。ステージ位置測定器139は、レーザ光をXYステージ105上のミラー210に照射し、ミラー210からの反射光を受光する。そして、入射光と反射光との干渉の情報を利用してXYステージ105の位置を測定する。
【0087】
制御計算機110内の構成は、
図1と同様である。制御計算機120内には、ショットデータ生成部41および照射量変調部47といった機能が配置される。ショットデータ生成部41および照射量変調部47といった各「〜部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。ショットデータ生成部41および照射量変調部47内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリに記憶される。
【0088】
ここで、
図9では、実施の形態2を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置300にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0089】
成形アパーチャアレイ部材203には、縦(y方向)p列×横(x方向)q列(p,q≧2)の穴(開口部)が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。例えば、縦横(x,y方向)に512×512列の穴が形成される。各穴は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。ブランキングアパーチャアレイ機構204は、成形アパーチャアレイ部材203のマトリクス状に形成された複数の穴に対応する位置にマルチビームのそれぞれのビームの通過用の通過孔(開口部)が開口される。そして、各通過孔の近傍位置に、該当する通過孔を挟んでブランキング偏向用の制御電極と対向電極の組(ブランカー:ブランキング偏向器)がそれぞれ配置される。また、各通過孔の近傍には、制御電極に偏向電圧を印加する制御回路(ロジック回路)が配置される。対向電極はグランド接続される。各通過孔を通過する電子ビームは、それぞれ独立に対となる制御電極と対向電極の組に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。マルチビームのうちの対応ビームをそれぞれブランキング偏向する。通過孔毎に配置される制御電極と対向電極の組とその制御回路によって個別ブランキング機構が構成される。このように、複数のブランカーが、成形アパーチャアレイ部材203の複数の穴(開口部)を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0090】
実施の形態1では、上述した個別ブランキング制御用の各制御回路によるビームON/OFF制御を用いて、各ビームのブランキング制御を行う。実施の形態2における描画動作は、
図2で説明したように、ストライプ領域毎に進められる。
【0091】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ部材203全体を照明する。成形アパーチャアレイ部材203には、矩形の複数の穴(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴が含まれる領域を照明する。複数の穴の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ部材203の複数の穴をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a〜eが形成される。かかるマルチビーム20a〜eは、ブランキングアパーチャアレイ機構204のそれぞれ対応するブランカー(第1の偏向器:個別ブランキング機構)内を通過する。かかるブランカーは、偏向制御回路130及び個別ブランキング機構の制御回路によって制御され、それぞれ、少なくとも個別に通過するマルチビーム20の対応ビームを設定された描画時間(照射時間)はビームON、OFFの状態を保つ。言い換えれば、ブランキングアパーチャアレイ機構204は、マルチビームの照射時間を制御する。
【0092】
ブランキングアパーチャアレイ機構204を通過したマルチビーム20a〜eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向された電子ビーム20aは、制限アパーチャ部材206(ブランキングアパーチャ部材)の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向されなかった電子ビーム20b〜eは、
図9に示すように制限アパーチャ部材206の中心の穴を通過する。このように、制限アパーチャ部材206は、個別ブランキング機構によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより、1回分のショットの各ビームが形成される。制限アパーチャ部材206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、DACアンプユニット134からの偏向電圧によって制御される偏向器208及びDACアンプユニット132からの偏向電圧によって制御される偏向器209によって、制限アパーチャ部材206を通過した各ビーム(マルチビーム20全体)が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。また、例えばXYステージ105が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように偏向器208によって制御される。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的には成形アパーチャアレイ部材203の複数の穴の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。このように、電子鏡筒102(カラム)は、電子ビームにより構成されるマルチビームを試料101上に照射する。XYステージ105はステージ制御機構138によって駆動制御される。そして、XYステージ105の位置は、ステージ位置測定器139によって検出される。ステージ位置測定器139には、例えば、ミラー210にレーザを照射して、入射光と反射光との干渉に基づいて位置を測定するレーザ測長装置が含まれる。静電レンズ212は、試料101面の凹凸に対応して、動的にマルチビーム20の焦点位置を補正する(ダイナミックフォーカス)。
【0093】
図10は、実施の形態2におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
図10において、ストライプ領域332は、例えば、マルチビームのビームサイズでメッシュ状の複数のメッシュ領域に分割される。かかる各メッシュ領域が、描画対象画素336(単位照射領域、或いは描画位置)となる。描画対象画素336のサイズは、ビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく任意の大きさで構成されるものでも構わない。例えば、ビームサイズの1/n(nは1以上の整数)のサイズで構成されても構わない。
図10の例では、試料101の描画領域が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域334(描画フィールド)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域332に分割された場合を示している。なお、ストライプ領域332の幅は、これに限るものではない。照射領域334のn倍(nは1以上の整数)のサイズであると好適である。
図10の例では、512×512列のマルチビームの場合を示している。そして、照射領域334内に、1回のマルチビーム20のショットで照射可能な複数の画素328(ビームの描画位置)が示されている。言い換えれば、隣り合う画素328間のピッチがマルチビームの各ビーム間のピッチとなる。
図10の例では、隣り合う4つの画素328で囲まれると共に、4つの画素328のうちの1つの画素328を含む正方形の領域で1つのグリッド329を構成する。
図10の例では、各グリッド329は、4×4画素で構成される場合を示している。
【0094】
例えば、偏向器208によって、照射領域334が試料101上の1点に固定(トラッキング制御)されると、グリッド329内の行或いは列を同じビームが偏向器209によってシフトしながら各ショットを行う。そして、グリッド329内の行或いは列の画素336群の照射が終了したら、トラッキング制御をリセットし、照射領域334を例えば1画素336分ずらして固定(トラッキング制御)する。その際、グリッド329を担当するビームは、前回のビームとは異なるビームが用いられるように制御される。かかる動作を繰り返すことで、ストライプ領域332内のすべての画素336が照射対象となる。そして、必要な画素336にマルチビームのうちのいずれかのビームを照射することで、全体として所望する図形パターンを描画することになる。
【0095】
図11は、実施の形態2における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
図11において、実施の形態2における描画方法は、偏向位置補正工程(S112)の代わりに、照射量変調工程(S113)を実施する点以外は、
図5と同様である。また、以下に説明する点以外の内容は実施の形態1と同様である。
【0096】
パターン面積密度分布ρ(x,y)演算工程(S100)から位置ずれ量分布p(x,y)演算工程(S110)までの各工程の内容は実施の形態1と同様である。実施の形態1では、位置ずれを補正するために、ショットデータに定義される各ショット図形の照射位置(座標)を補正し、補正された位置に偏向するように偏向量を演算した。一方、実施の形態2では、マルチビームを用いて、必要な画素336へのビーム照射の有無及び照射量の調整によりパターン形成する。さらにビーム偏向は偏向器208,209を使ってマルチビーム全体で一括して偏向する。そのため、個別のビームの偏向位置を補正することは困難である。そこで、実施の形態2では、帯電に起因して位置ずれする画素336およびその画素336の周辺の画素の照射量を変調することで、照射後に形成される照射パターン(画素パターン)の位置を補正する。
【0097】
ここで、ショットデータ生成部41は、各画素336への照射時間を演算する。照射時間は、ドーズ量分布D(x,y)に定義されるドーズ量を電流密度Jで割ることで求めることができる。
【0098】
照射量変調工程(S113)として、照射量変調部47(補正部の一例)は、位置ずれ量分布(マップ)が示す位置ずれ量を参照して、マルチビーム20が照射された結果、補正すべき照射位置に照射パターンが形成されるように、マルチビームのうちの対応ビームが照射される画素336(照射単位領域)と当該画素336の周辺の画素336とに照射されるそれぞれの照射量を変調する。
【0099】
図12は、実施の形態2における位置ずれ補正方法の一例を説明するための図である。
図12(a)の例では、座標(x,y)の画素に照射されたビームa’が+x,+y側に位置ずれを起こした場合を示している。かかる位置ずれが生じているビームa’によって形成されるパターンの位置ずれを
図12(b)のように座標(x,y)の画素に合う位置に補正するには、ずれた分の照射量を、ずれた周囲の画素の方向とは反対側の画素に分配することで補正できる。
図12(a)の例では、座標(x,y+1)の画素にずれた分の照射量は、座標(x,y−1)の画素に分配されればよい。座標(x+1,y)の画素にずれた分の照射量は、座標(x−1,y)の画素に分配されればよい。座標(x+1,y+1)の画素にずれた分の照射量は、座標(x−1,y−1)の画素に分配されればよい。
【0100】
照射量変調部47は、当該画素(x,y)のビームの位置ずれによるずれた面積の比率に応じて、当該画素(x,y)のビームの変調率と当該画素(x,y)の周囲の画素(x,y−1)(x−1,y)(x−1,y−1)のビームの変調率とを演算する。具体的には、ビームがずれて、ビームの一部が重なった周囲の画素毎に、ずれた分の面積(重なったビーム部分の面積)をビーム面積で割った割合を、重なった画素とは反対側に位置する画素への分配量(ビームの変調率)として演算する。
【0101】
図12(a)の例において、座標(x,y+1)の画素へとずれた面積比は、(x方向ビームサイズ−x方向ずれ量)×y方向ずれ量/(x方向ビームサイズ×y方向ビームサイズ)で演算できる。よって、補正のために座標(x,y−1)の画素へと分配するための分配量(ビームの変調率)Uは、(x方向ビームサイズ−x方向ずれ量)×y方向ずれ量/(x方向ビームサイズ×y方向ビームサイズ)で演算できる。
【0102】
図12(a)の例において、座標(x+1,y+1)の画素へとずれた面積比は、x方向ずれ量×y方向ずれ量/(x方向ビームサイズ×y方向ビームサイズ)で演算できる。よって、補正のために座標(x−1,y−1)の画素へと分配するための分配量(ビームの変調率)Vは、x方向ずれ量×y方向ずれ量/(x方向ビームサイズ×y方向ビームサイズ)で演算できる。
【0103】
図12(a)の例において、座標(x+1,y)の画素へとずれた面積比は、x方向ずれ量×(y方向ビームサイズ−y方向ずれ量)/(x方向ビームサイズ×y方向ビームサイズ)で演算できる。よって、補正のために座標(x−1,y)の画素へと分配するための分配量(ビームの変調率)Wは、x方向ずれ量×(y方向ビームサイズ−y方向ずれ量)/(x方向ビームサイズ×y方向ビームサイズ)で演算できる。
【0104】
その結果、分配されずに残った分となる、座標(x,y)の画素のビームの変調率Dは、1−U−V−Wで演算できる。
【0105】
そして、照射量変調部47は、得られた変調率を対応する画素の照射量(照射時間)に乗じることで、画素336の照射量変調を行う。
【0106】
描画工程(S114)として、電子鏡筒102(カラム)は、対象画素336と当該画素336の周辺の画素336とにそれぞれ変調された照射量のビームを照射する。これにより、描画部350は、試料101の帯電補正された位置にパターンを描画する。
【0107】
以上のように、実施の形態2によれば、マルチビームを用いた場合でも、帯電効果補正が不十分とされた一部の領域を含めて帯電現象に起因した位置ずれを補正できる。その結果、高精度な照射位置にビームを照射できる。
【0108】
実施の形態3.
上述した各実施の形態において、分布関数gの設計上の分布中心のずれ量Δx(ずらし量)は、照射量分布Eの端部における位置ずれ量を補正するように予め実験等により決定しておけばよいとした。実施の形態3では、ずれ量Δxを求める手法の一例として、ニューラルネットワークモデルを用いて、分布関数gの設計上の分布中心のずれ量Δxを最適化する構成について説明する。
【0109】
図14は、実施の形態3における描画装置の要部構成の一例を示す概念図である。
図14において、制御部160がさらに磁気ディスク装置等の記憶装置144を有する点、及び制御計算機110内にさらにニューラルネットワーク(NN)演算部39を配置する点、以外は
図1と同様である。描画制御部30、パターン面積密度分布演算部31、ドーズ量分布算出部32、照射量分布算出部33、かぶり電子量分布算出部34、帯電量分布算出部35、描画経過時間演算部37、累積時間演算部38、NN演算部39、及び位置ずれ量分布演算部36といった各「〜部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。描画制御部30、パターン面積密度分布演算部31、ドーズ量分布算出部32、照射量分布算出部33、かぶり電子量分布算出部34、帯電量分布算出部35、描画経過時間演算部37、累積時間演算部38、NN演算部39、及び位置ずれ量分布演算部36内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ142に記憶される。
【0110】
図15は、実施の形態3における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
図15において、実施の形態3における描画方法は、パターン面積密度分布ρ(x,y)演算工程(S100)の前に、さらに、ニューラルネットワーク演算工程(S90)を追加した点以外は、
図5と同様である。また、以下、特に説明する点以外の内容は、実施の形態1と同様である。
【0111】
ニューラルネットワーク演算工程(S90)として、NN演算部39は、ニューラルネットワークモデルを用いて、評価パターンの照射量分布Eと、評価パターンの実際の位置ずれ量分布pとを用いて、重み係数g(j,i)、及び重み係数R(k,j)を学習する。
【0112】
図16は、実施の形態3におけるニューラルネットワークの構成の一例を示す概念図である。一般に人間の脳は多数のニューロン(神経細胞)からなる大規模ネットワークであると言われており、ニューラルネットワークはこれをモデル化したものである。
図16に示すように、入力層と中間層の互いの層間の重み係数g(j,i)と、中間層と出力層の互いの層間の重み係数R(k,j)とについて、望ましいと考えられる教師データと実際に得られた出力との二乗誤差が最小になるように求めるものである。具体的には、各層のノード間は、入力層側のノードからの出力値を重みづけ積和演算した合計値を入出力変換関数により変換して出力側への入力値として伝播する。そして、最終出力層の出力結果をもって位置ずれ量の分布データを形成する。そして、ニューラルネットワークモデルでは、最小誤差値になるように重み係数を変えていくことを学習と呼んでいる。
【0113】
図17は、実施の形態3における評価パターンのマップ構成の一例を示す概念図である。
図17では、照射領域と、照射領域を取り囲む非照射領域を設定し、照射領域内に評価パターンを配置する。そして、照射領域と非照射領域との全体領域を、x,y方向にそれぞれ自然数m+1本のグリッド線によって、m×m個のメッシュ状の複数のメッシュ領域に分割する。よって、m×m個のメッシュ領域のうち、中心部のn×n個のメッシュ領域が照射領域となる。例えば、x,y方向に40×40個のメッシュ領域のうち、中心部の20×20個のメッシュ領域を照射領域とする。
【0114】
図18は、実施の形態3における複数の評価パターンのレイアウトの一例を示す概念図である。描画装置100は、レジストが塗布された評価基板300上に、
図18に示すように、パターン面積密度が異なる複数の評価パターン302を描画する。
図18の例では、パターン面積密度ρが3%、5%、10%、15%、20%、25%、50%、75%、及び100%の9種類の評価パターン302を描画する。描画後は、評価基板300を現像し、アッシングすることで各評価パターン302のレジストパターンを得ることができる。そして、各評価パターン302のレジストパターンの位置を測定する。或いは、さらに、各評価パターン302のレジストパターンをマスクとして、下層の例えばクロム(Cr)膜等の遮光膜をエッチングしても良い。かかる場合には、エッチングされた遮光膜の位置を測定すればよい。測定位置は、各グリッド線の交点を測定すればよい。よって、測定データは、評価パターン302毎に、x,y方向それぞれについて(m+1)×(m+1)個の位置について得ることができる。評価パターン302として、例えば、ラインアンドスペースパターン等を用いると好適である。かかる複数の評価パターンについて、x,y方向それぞれに、m×m個のメッシュ領域のメッシュ領域毎の照射量と(m+1)×(m+1)個の位置ずれ量とが対となった教師データを作成し、描画装置100外部から入力して、記憶装置144に格納する。
【0115】
そして、NN演算部39は、記憶装置144から教師データを読み出し、ニューラルネットワークモデルの入力層の各データとして照射量分布E(i)のデータを用い、出力層の各データとして評価パターンの実際の位置ずれ量分布p(k)のデータを用いて、重み係数g(j,i)、及び重み係数R(k,j)を演算する。実際に得られた位置ずれ量分布p(k)のデータから逆伝播させればよい。演算された重み係数g(j,i)、及び重み係数R(k,j)は、記憶装置144に一時的に記憶される。学習に応じて順次更新されればよい。
【0116】
ここで、重み係数g(j,i)のカーネルとして、分布関数gを用いる。よって、ニューラルネットモデルの中間層への入力値は、かぶり電子量分布Fのデータに相当し、また、中間層からの出力値は、帯電量分布Cのデータに相当する。NN演算部39は、9種類の評価パターンについて、順に演算処理することで学習し、重み係数g(j,i)、及び重み係数R(k,j)を一般化させる。なお、各評価パターンについて、x方向の位置ずれ分布とy方向の位置ずれ分布とが得られているので、出力層p(k)のノード数は(m+1)
2の2倍となる。ここで、上述したように、帯電量分布Cの計算において照射領域と非照射領域で計算式を変えている。よって、重み係数R(k,j)を得るために使用する入出力変換関数についても、照射領域用の入出力変換関数と非照射領域用の入出力変換関数とを用意し、照射領域の入力データと非照射領域用の入力データとで演算する際に入出力変換関数を変更する(ノードを変更する)ことが望ましい。照射量分布E(i)のデータは、照射領域に位置するn×n個のメッシュ領域だけではなく、その周囲の非照射領域に位置するメッシュ領域を含むm×m個のメッシュ領域で構成される。よって、NN演算部39は、照射量分布E(i)のデータの入力値から照射領域と非照射領域とを判断すればよい。例えば、入力値がゼロの場合、かかるメッシュ領域は非照射領域ノードと判断し、入力値がゼロでない場合、かかるメッシュ領域は照射領域ノードと判断する。かかるノードに応じて、中間層の入出力変換関数を選択すればよい。言い換えれば、照射量分布において照射量がゼロの位置については非照射領域として、ニューラルネットワークモデルに適用される。
【0117】
図19は、実施の形態3におけるかぶり電子量分布の一例を示す図である。実施の形態3では、NN演算部39によって演算された結果得られたニューラルネットワークモデルの中間層ノードへの入力データであるかぶり電子量分布Fの一例を示す。
図19に示すように、ニューラルネットワークモデルの中間層データによるかぶり電子量分布Fは、分布中心がΔxずれる。かかるずれ量Δxは、パターン面積密度が異なる複数の評価パターン302により最適化された値である。このように、ニューラルネットワークモデルを用いて演算することで、分布関数gの設計上の分布中心のずれ量Δxを最適化することができる。かかる最適化された分布中心のずれ量Δxは、かぶり電子量分布算出部34に出力される。これにより、かぶり電子量分布F(x,y,σ,Δx)算出工程(S106)において、最適化された分布中心のずれ量Δxを使って、実際の描画データに対して、かぶり電子量分布Fを演算できる。
【0118】
パターン面積密度分布ρ(x,y)演算工程(S100)以降の各工程の内容は実施の形態1と同様である。
【0119】
以上のように、実施の形態3によれば、ニューラルネットワークモデルを用いることで、分布関数gの設計上の分布中心のずれ量Δxを最適化することができる。よって、より高精度に位置ずれを補正できる。その結果、高精度な照射位置にビームを照射できる。
【0120】
なお、実施の形態3におけるニューラルネットワークモデルを用いた分布関数gの設計上の分布中心のずれ量Δxの最適化は、実施の形態1のシングルビームを用いた描画装置に限らず、実施の形態2のマルチビームを用いた描画装置についても適用できる。
【0121】
実施の形態4.
実施の形態4では、ニューラルネットワークモデルを用いて帯電量分布等の演算処理を行わずに直接位置ずれ分布を演算する構成について説明する。
【0122】
図20は、実施の形態4における描画装置の要部構成の一例を示す概念図である。
図20において、制御部160は、制御計算機110,120、ステージ位置検出機構45、ステージ制御機構46、偏向制御回路130、メモリ142、磁気ディスク装置等の記憶装置140,144、及び外部I/F回路146と、を有している。制御計算機110,120、ステージ位置検出機構45、ステージ制御機構46、偏向制御回路130、メモリ142、記憶装置140,144、及び外部I/F回路146は、図示しないバスにより互いに接続されている。制御計算機110内には、描画制御部30、パターン面積密度分布演算部31、ドーズ量分布算出部32、照射量分布算出部33、NN演算部39、及び位置ずれ量分布演算部36が配置される。その他の点は、
図1と同様である。
【0123】
描画制御部30、パターン面積密度分布演算部31、ドーズ量分布算出部32、照射量分布算出部33、NN演算部39、及び位置ずれ量分布演算部36といった各「〜部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。描画制御部30、パターン面積密度分布演算部31、ドーズ量分布算出部32、照射量分布算出部33、NN演算部39、及び位置ずれ量分布演算部36内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ142に記憶される。
【0124】
図21は、実施の形態4における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
図21において、実施の形態4における描画方法は、ニューラルネットワーク演算工程(S90)、パターン面積密度分布ρ(x,y)演算工程(S100)と、ドーズ量分布D(x,y)算出工程(S102)と、照射量分布E(x,y)算出工程(S104)と、位置ずれ量分布p(x,y)演算工程(S111)と、偏向位置補正工程(S112)と、描画工程(S114)と、いう一連の工程を実施する。
【0125】
ニューラルネットワーク演算工程(S90)の内容は、実施の形態3と同様である。但し、実施の形態4では、ファイルなどの外部媒体への中間層データの一時保存は必要ではなく、実施の形態3と同様、記憶装置144に格納される教師データを使って、重み係数g(j,i)、及び重み係数R(k,j)を一般化させると共に、演算された重み係数g(j,i)、及び重み係数R(k,j)を記憶装置144に一時的に記憶する。重み係数g(j,i)、及び重み係数R(k,j)は、学習に応じて順次更新されればよい。
【0126】
パターン面積密度分布ρ(x,y)演算工程(S100)と、ドーズ量分布D(x,y)算出工程(S102)と、照射量分布E(x,y)算出工程(S104)との内容は、実施の形態1と同様である。
【0127】
位置ずれ量分布p(x,y)演算工程(S111)として、NN演算部39(位置ずれ量演算部)は、ニューラルネットワークモデルを用いて、照射量分布Eに基づく位置ずれ量pを演算する。具体的には、NN演算部39は、記憶装置144に格納された最新の重み係数g(j,i)、及び重み係数R(k,j)を用いたニューラルネットワークモデルの入力層に、照射量分布Eのデータを入力して、出力層から位置ずれ量分布p(x,y)のデータを出力する。照射量分布Eは、描画領域(或いはフレーム領域)全体について作成されているので、入力層に入力可能なデータ数毎に演算していけばよい。その際、NN演算部39は、照射量分布Eのデータの入力値から照射領域と非照射領域とを判断すればよい。例えば、入力値がゼロの場合、かかるメッシュ領域は非照射領域ノードと判断し、入力値がゼロでない場合、かかるメッシュ領域は照射領域ノードと判断する。かかるノードに応じて、中間層の入出力変換関数を選択すればよい。言い換えれば、照射量分布において照射量がゼロの位置については非照射領域として、ニューラルネットワークモデルに適用される。そして、位置ずれ量分布演算部36は、ニューラルネットワークモデルの出力層から出力されたデータを使って、照射量分布Eに基づく位置ずれ量pを演算(作成)する。ニューラルネットワークモデルを用いることで、実施の形態1〜3で説明したかぶり電子量分布F(x,y,σ,Δx)算出工程(S106)と、帯電量分布C(x,y)算出工程(S109)と、の各演算を代替できる。また、中間層の入出力変換関数に描画経過時間Tと累積時間tとの項目も加え、同様の描画経過時間Tと累積時間tとを経た評価パターンを描画した評価基板を作成し、それらの位置ずれ量を測定し、測定結果を学習させることで、描画経過時間T(x,y)演算工程(S107)と、累積時間t演算工程(S108)と、の各演算を代替することも可能にできる。
【0128】
以下に
図16をベースに具体的な計算手法を説明する。なお、便宜上、xの位置ずれ量の計算分だけ記載するが、yの位置ずれ量の計算についても同様である。まず、仮に最初のフレーム描画に相当する入力層Eがi=4から始まるものとする。つまり、i<4のE(1),E(2),E(3)は非照射領域の入力層ノードとなる。また、最初のフレーム描画の直下の出力層pはk=3であるとする。p(3)は最初のフレーム描画よりも前なのでp(3)=0となる。第1フレーム直上のp(4)は、第1フレーム相当の入力層がE(4)として描画されているため、ニューラルネットワークを通じて位置ずれを計算する。このとき、第1フレームに相当する中間層C(4)は照射領域ノードとしての働きに変化する。
つぎの第2フレーム描画に相当する入力層をE(5)とする。同様に中間層のC(5)が照射領域としての働きに変わり、第2フレーム直上のp(5)はネットワークを通じて計算される。このとき、すでに描画済みの入力層E(4)、中間層C(4)の働きはそのまま残る。一方で、出力層p(4)の位置ずれはすでに第1フレーム描画時に確定しているため、第2フレーム描画後に再計算する必要はない。
以上のようにして、フレーム描画を照射領域の最後まで続けていくことで照射領域に対応するすべての出力層ノードの位置ずれ量を計算すればよい。
【0129】
偏向位置補正工程(S112)と、描画工程(S114)と、の各工程の内容は実施の形態1と同様である。
【0130】
以上のように、実施の形態4によれば、ニューラルネットワークモデルを用いることで、かぶり電子量分布F(x,y,σ,Δx)や帯電量分布C(x,y)の演算を行わずに、照射量分布から直接的に位置ずれ量分布を得ることができる。よって、計算プログラムをより単純化できると共に、より高精度に位置ずれを補正できる。その結果、高精度な照射位置にビームを照射できる。
【0131】
なお、実施の形態4におけるニューラルネットワークモデルを用いた位置ずれ量分布の演算は、実施の形態1のシングルビームを用いた描画装置に限らず、実施の形態2のマルチビームを用いた描画装置についても適用できる。
【0132】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。帯電現象に起因した照射位置の位置ずれは、電子ビーム描画装置に限るものではない。本発明は、電子ビーム等の荷電粒子ビームでパターンを検査する検査装置等、狙った位置に荷電粒子ビームを照射することで得られる結果を用いる荷電粒子ビーム装置に適応できる。
【0133】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。例えば、
図1等における制御計算機110,120は、さらに、図示していないバスを介して、記憶装置の一例となるRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM、磁気ディスク(HD)装置、入力手段の一例となるキーボード(K/B)、マウス、出力手段の一例となるモニタ、プリンタ、或いは、入力出力手段の一例となるFD、DVD、CD等に接続されていても構わない。
【0134】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム装置及び荷電粒子ビームの位置ずれ補正方法は、本発明の範囲に包含される。