(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多相交流電源の相毎に接続され、それぞれ充放電可能なスナバ素子を有する複数のスイッチ回路により前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置を制御する電源制御装置であって、
前記電力変換装置に入力される多相交流の入力電圧及び位相、並びに前記共振回路の特性に基づいて導出される前記電力変換装置の出力電流の振幅、出力電流の位相及び瞬時無効電力を可及的に制御目標に近付けるべく制御する制御手段を備え、
前記電力変換装置の出力電流の振幅は、前記入力電圧及び位相に基づいて導出される階段状波形から高次成分を除去した目標出力電圧波形から導出される
ことを特徴とする電源制御装置。
多相交流電源の相毎に接続され、それぞれ充放電可能なスナバ素子を含む複数のスイッチ回路により、前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置と、
前記電力変換装置を制御する請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の電源制御装置と
を備えることを特徴とする電力変換システム。
多相交流電源の相毎に接続され、複数のスイッチ回路により前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置を制御する電源制御方法であって、
前記電力変換装置に入力される多相交流の入力電圧及び位相、並びに前記共振回路の特性に基づいて導出される前記電力変換装置の出力電流の振幅、出力電流の位相及び瞬時無効電力を可及的に制御目標に近付けるべく制御するものであり、
前記電力変換装置の出力電流の振幅は、前記入力電圧及び位相に基づいて導出される階段状波形から高次成分を除去した目標出力電圧波形から導出されている
ことを特徴とする電源制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者らは、前述の特許文献1に開示した技術を更に改良し、電力変換装置に入力される入力電流の歪みの抑制、電力変換装置から出力する出力電流の脈動の抑制等の出力の安定化に繋がる制御を課題として取り組んだ。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、スイッチング制御のための演算を見直し、電力変換装置からの出力を安定化することが可能な電源制御装置の提供を主たる目的とする。
【0008】
また、本発明は、本発明に係る電源制御装置を用いた電力変換システムの提供を他の目的とする。
【0009】
更に、本発明は、本発明に係る電力変換システムにて実施可能な電源制御方法の提供を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願記載の電源制御装置は、多相交流電源の相毎に接続され、それぞれ充放電可能なスナバ素子を有する複数のスイッチ回路により前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置を制御する電源制御装置であって、前記電力変換装置に入力される多相交流の入力電圧及び位相、並びに前記共振回路の特性に基づいて導出される前記電力変換装置の出力電流の振幅、出力電流の位相及び瞬時無効電力を可及的に制御目標に近付けるべく制御する制御手段を備え、前記電力変換装置の出力電流の振幅は、前記入力電圧及び位相に基づいて導出される階段状波形から高次成分を除去した目標出力電圧波形から導出されることを特徴とする。
【0011】
更に、本願記載の電源制御装置は、多相交流電源の相毎に接続され、それぞれ充放電可能なスナバ素子を有する複数のスイッチ回路により前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置を制御する電源制御装置であって、前記電力変換装置に入力される多相交流の入力電圧及び位相、並びに前記共振回路の特性に基づいて導出される前記電力変換装置の出力電流の振幅、出力電流の位相及び瞬時無効電力を可及的に制御目標に近付けるべく制御する制御手段を備え、前記瞬時無効電力は、前記入力電圧及び位相から導出される目標出力電圧波形と周期的に変化する目標出力電流波形とから導出されることを特徴とする。
【0012】
また、前記電源制御装置において、前記電力変換装置の出力電流の振幅は、前記入力電圧及び位相並びに前記スイッチ回路の切替時間比率に基づいて階段状波形を導出し、導出した階段状波形から高次成分を除去して目標出力電圧波形の振幅及び位相を導出し、導出した
目標出力電圧波形の振幅及び位相並びに前記共振回路の特性及び再帰的に得られる出力周波数に基づいて導出されることを特徴とする。
【0013】
また、前記電源制御装置において、前記電力変換装置の出力電流の位相は、前記入力電圧及び位相並びに前記スイッチ回路の切替時間比率に基づいて階段状波形を導出し、導出した階段状波形から高次成分を除去して目標出力電圧波形の振幅及び位相を導出し、導出した目標出力電圧波形の振幅及び位相並びに前記共振回路の特性及び再帰的に得られる出力周波数に基づいて出力電流の振幅及び位相を導出し、導出した階段状波形、再帰的に得られる出力周波数、前記スナバ素子の充放電条件、導出した出力電流の振幅、並びに目標出力電圧波形の位相及び出力電流の位相に基づいて導出されることを特徴とする。
【0014】
また、前記電源制御装置において、前記電力変換装置の出力電流の位相は、前記階段状波形、再帰的に得られる出力周波数及び前記スナバ素子の充放電条件である静電容量に基づいて導出した第1位相と、目標出力電圧波形の位相及び出力電流の位相から導出した第2位相との位相差から導出され、前記制御手段は、前記位相差を0とすることを制御目標とすることを特徴とする。
【0015】
また、前記電源制御装置において、前記瞬時無効電力は、前記入力電圧及び位相並びに前記スイッチ回路の切替時間比率に基づいて階段状波形を導出し、導出した階段状波形から高次成分を除去して目標出力電圧波形の振幅及び位相を導出し、導出した目標出力電圧波形の振幅及び位相並びに前記共振回路の特性及び再帰的に得られる出力周波数に基づいて出力電流の振幅及び位相を導出し、導出した目標出力電圧波形の位相及び出力電流の位相、出力電流の振幅、前記スイッチ回路の切替時間比率、並びに周期的に変化する目標出力電流波形に基づいて前記電力変換装置に入力される入力電流を導出し、導出した
入力電流並びに前記入力電圧及び位相から導出されることを特徴とする。
【0016】
また、前記電源制御装置において、前記周期的に変化する目標出力電流波形は正弦波であることを特徴とする。
【0017】
また、前記電源制御装置において、前記スイッチ回路の切替時間比率は、再帰的演算又は予め設定されている設定値の読取により得られることを特徴とする。
【0018】
また、前記電源制御装置において、前記制御手段は、前記瞬時無効電力を0とすることを制御目標とすることを特徴とする。
【0019】
更に、本願記載の電力変換システムは、多相交流電源の相毎に接続され、それぞれ充放電可能なスナバ素子を含む複数のスイッチ回路により、前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置と、前記電源制御装置とを備えることを特徴とする。
【0020】
更に、本願記載の電源制御方法は、多相交流電源の相毎に接続され、複数のスイッチ回路により前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置を制御する電源制御方法であって、前記電力変換装置に入力される多相交流の入力電圧及び位相、並びに前記共振回路の特性に基づいて導出される前記電力変換装置の出力電流の振幅、出力電流の位相及び瞬時無効電力を可及的に制御目標に近付けるべく制御するものであり、前記電力変換装置の出力電流の振幅は、前記入力電圧及び位相に基づいて導出される階段状波形から高次成分を除去した目標出力電圧波形から導出されていることを特徴とする。
【0021】
更に、本願記載の電源制御方法は、多相交流電源の相毎に接続され、複数のスイッチ回路により前記多相交流電源からの入力をAC−AC変換し、共振回路を通して出力する電力変換装置を制御する電源制御方法であって、前記電力変換装置に入力される多相交流の入力電圧及び位相、並びに前記共振回路の特性に基づいて導出される前記電力変換装置の出力電流の振幅、出力電流の位相及び瞬時無効電力を可及的に制御目標に近付けるべく制御するものであり、前記瞬時無効電力は、前記入力電圧及び位相から導出される目標出力電圧波形と周期的に変化する目標出力電流波形とから導出されていることを特徴とする。
【0022】
本願記載の電源制御装置、電力変換システム及び電源制御方法は、電力変換装置からの出力を安定化することが可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、電力変換装置に入力される多相交流の入力電圧及び位相、並びに共振回路の特性に基づいて好適な電力変換装置の出力電流の振幅、出力電流の位相及び瞬時無効電力を導出し、導出した結果を制御目標に近付けるべく電力変換装置を制御する。これにより、本発明は、電力変換装置の安定化、例えば、電力変換装置に入力される入力電流の歪みの抑制、電力変換装置から出力する出力電流の脈動の抑制等の安定化に繋げることが可能である等、優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具現化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0026】
<電力変換システム>
図1は、本願記載の電力変換システムの回路構成の一例を示す概略構成図である。
図1に例示する電力変換システム1は、三相交流電源等の多相交流電源10から入力された交流電力をAC−AC変換する。
図1に示す電力変換システム1では、変換された交流電力を、例えば車両に搭載された二次電池等の電力負荷2への充電用に出力する形態を例示している。電力変換システム1から出力された交流電力は、トランスTを介して非接触状態で車両側へ出力され、車両側のAC−DC変換装置により変換された直流電力として電力負荷2へ供給される。なお、AC−DC変換装置は、車両に搭載されていても、車両外に配置されていてもよい。
【0027】
電力変換システム1は、複数のスイッチ回路を有するマトリックスコンバータ110及びLLC回路等の共振回路111を有する電力変換装置11、並びに電力変換装置11を制御する電源制御装置12を備えている。
【0028】
図1に例示するマトリックスコンバータ110は、6組のスイッチ回路を有しており、各組のスイッチ回路は、双方向スイッチとして機能する。入力される三相交流電源10の各相(R相,S相,T相)には、それぞれスイッチ回路として、2つの双方向スイッチが並列に接続されている。各双方向スイッチは、2つのスイッチング素子と、2つのダイオードと、スナバ素子として機能する1つのコンデンサ(スナバコンデンサ)とをそれぞれ備えている。以下では、スイッチング素子S1,S2を備えるスイッチ回路を例示して説明するが、スイッチング素子S3〜S12を備える他のスイッチ回路についても同様である。
【0029】
スイッチング素子S1,S2は、逆導通しない構造をもつ半導体スイッチであり、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ(IGBT)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等の素子が用いられる。スイッチ回路は、2つのスイッチング素子S1,S2を逆並列接続しているため、双方向スイッチとして機能する。
【0030】
スナバ素子として機能するコンデンサC1は、逆並列接続されたスイッチング素子S1,S2のコレクタ−エミッタ間に接続されている。
【0031】
また、スイッチング素子S1,S2のコレクタ−ベース間には、ダイオードD1,D2(
図4A,
図4B等参照)が接続されている。
【0032】
スイッチング素子S3〜S12を備える他のスイッチ回路も同様に、コンデンサC2〜C6及びダイオード(
図4A,
図4Bにて、D3〜D6を図示)を備えている。
【0033】
これら6組のスイッチ回路を有するマトリックスコンバータ110は、三相交流電源10の相ごとに接続され、各スイッチング素子S1,S2,…,S11,S12のオン/オフ切り替えにより、三相交流電源10のうちいずれか2相の相間電圧を出力する。また、R相、S相及びT相からなる三相交流電源10からの出力は、スイッチング素子S1〜S6を用いて形成されるU相側及びスイッチング素子S7〜S12を用いて形成されるV相側に電流の方向に応じて分岐する。各スイッチング素子S1,S2,…,S11,S12のオン/オフ切り替えは、電源制御装置12により制御される。
【0034】
共振回路111は、コンデンサC111と、コイルL111とを直列に接続し、更に電力負荷2に非接触で接続するトランスTの一次側コイルLt1が接続されたLLC回路である。共振回路111の共振周波数は、電力変換装置11から出力する交流電圧の周波数に基づいて決定されている。なお、一次側コイルLt1と共にトランスTを構成する二次側コイルLt2には、AC−DC変換装置を介して電力負荷2が接続されている。
【0035】
電源制御装置12は、入力電圧検出部120、演算部121及びパルス出力部122、その他にも出力電圧検出部123等の各種構成を備えている。
【0036】
入力電圧検出部120は、三相交流電源10から入力を受ける各相の電圧をそれぞれ検出する回路である。
図1に例示する電力変換システム1では、各相R,S,Tの電圧er ,es ,et をそれぞれ検出し、演算部121に入力電圧E、並びに位相θr ,θs ,θt として出力する。
【0037】
演算部121は、入力電圧検出部120が検出した入力電圧及び入力電圧位相の初期値の入力に基づいて、電力変換装置11の変換の対象となる各相の位相差及び位相差に基づく周波数を導出する。そして、演算部121は、導出した位相差及び周波数になるようにマトリックスコンバータ110を制御すべくパルス出力部122へ位相差及び周波数に基づく出力値を出力する。
【0038】
パルス出力部122は、演算部121から出力された出力値に基づいて、マトリックスコンバータ110の各スイッチング素子S1,S2,…,S11,S12を制御すべく、PWMパルス信号を生成し、生成したPWMパルス信号をマトリックスコンバータ110へ出力する。
【0039】
演算部121による演算及び演算結果に基づく各スイッチング素子S1,S2,…,S11,S12の制御の詳細については後述する。
【0040】
このような電源制御装置12は、演算部121により、装置全体を制御されて動作する。なお、演算部121は、VLSI、LSI等の論理回路を用いたハードウェアとして実現しても良く、フラッシュメモリ等の記録回路及び記録回路に記録されたコンピュータプログラムを実行するCPU等の制御回路として実現しても良く、更にはこれらを適宜組み合わせて実現しても良い。即ち、電源制御装置12は、論理回路が搭載された制御基板、本願記載の電源制御方法を実現する電源制御プログラムが記録され、その電源制御プログラムを実行するコンピュータ等の態様で構成される。
【0041】
<制御方法>
図2は、本願記載の電力変換システム1において、三相交流電源10の電圧波形及びスイッチング素子の制御パターンを示す説明図である。
図2(a)は、横軸に時間をとり、縦軸に入力電圧Vinの電圧値をとって、三相交流電源10から出力された各相の電圧値の経時変化を示している。各相の電圧波形er ,es ,et は、位相が2/3π(120°)ずつずれている。電源制御装置12は、各相の電圧の大小関係で分類した6パターンの区間(
図2に示すA〜Fの区間)毎に、その区間に応じた制御パターンで電力変換回路の6組のスイッチ回路の状態(スイッチング素子S1〜S12のオン/オフ状態)を制御する。
【0042】
図2(b)は、横軸に概念的な時間をとって、スイッチング素子S1〜S12の制御パターン及び出力電圧Vout の電圧値の経時変化を示している。なお、横軸は、説明の便宜上、概念的な時間として、時刻T1〜T6〜次の周期の各区間を等分して示しているが、各区間の時間間隔は必ずしも一定ではない。また、
図2(b)に示す制御パターンは、
図2(a)に示した区間Dにおけるスイッチング素子S1〜S12の制御パターンを示している。なお、
図2において、スイッチング素子S1〜S12の経時変化のうちオンとなる区間を斜線にて示している。
【0043】
電源制御装置12は、スイッチング素子S1〜S12のオン/オフの切り替えを繰り返し行うことにより、電力変換装置11から出力される相間電圧が
図2に示すように周期的に変化する。
【0044】
図3は、本願記載の電力変換システム1において、電力変換装置11の出力電圧及び出力電流の関係を経時的に示すグラフである。
図3は、横軸に時間をとり、左側に示す縦軸に出力電圧Vout をとり、右側に示す縦軸に出力電流Iout をとって、出力電圧Vout 及び出力電流Iout の経時変化を示している。なお、出力電流Iout は、
図1を例示して説明した電力変換装置11において、スイッチング素子S1〜S6を用いて形成されるスイッチ回路から電力負荷2側へ出力されるU相の電流を示している。
図3に示すように、出力電圧Vout は階段状の波形を示す階段状波として出力される。階段状波として出力される出力電圧Vout は、時刻T1で反転し、時刻T2で、最後の立ち上がりが起こり最大となる。また、出力電圧Vout は、時刻T3〜T5の間で段階的に下がり、時刻T4で反転し、時刻T5で最小となる(所謂、立ち下がりの最後となる)。また、電力変換装置11は、共振回路111を備えているため、出力電流Iout の位相は、出力電圧Vout の位相より、位相θに相当する時間分の遅延が生じる。なお、本願では、負から正への反転が発生する時刻T1を基準に位相を定義する。
【0045】
図4A及び
図4Bは、本願記載の電力変換システム1における電力変換装置11が備えるスイッチング素子S1〜S6の動作状況を経時的に示すタイムチャートである。また、
図5は、本願記載の電力変換システム1における電力変換装置11が備えるスイッチング素子S1〜S4並びに出力電圧及び出力電流の状況を経時的に示すグラフである。
図4A及び
図4B並びに
図5は、
図2及び
図3に例示したR相からS相へ切り替わる時刻T5以降の制御の状況をt1〜t4の区間に細分化して示している。なお、
図4A及び
図4Bは、
図4A(a)、
図4A(b)、
図4A(c)、
図4B(a)、
図4B(b)の順でスイッチング素子の切替が行われる。
図5に示すVcrは、スイッチング素子S1、S2のコレクタ−エミッタ間に接続されたコンデンサC1の両端電圧であり、Vcsは、スイッチング素子S3、S4のコレクタ−エミッタ間に接続されたコンデンサC2の両端電圧である。また、Ir はR相を流れる電流であり、Is は、S相を流れる電流である。なお、実際には、R相及びS相を流れる電流は、スイッチング状態が変化しない状態においても一定では無く変動するが、
図5では、理解を容易にするため、電流が流れており、かつスイッチングが変化しない状態では一定であるものとして概念的な図示としている。
【0046】
まず、電源制御装置12は、
図2及び
図3に示した時刻T5になった直後のt1において、スイッチング素子S4をオフ状態からオン状態に切り替える(
図4A(a)→
図4A(b))。このスイッチング素子S4の状態の切り替え時には、電流がS相を流れていないので(Is =0)、t1におけるスイッチング素子S4の状態の切り替えがゼロ電流シーケンス(ZCS)で行われる。即ち、t1におけるスイッチング素子S4の状態の切り替えは、ソフトスイッチングで行われる。
【0047】
次に、電源制御装置12は、t2において、スイッチング素子S2をオン状態からオフ状態に切り替える(
図4A(b)→
図4A(c))。このスイッチング素子S2の状態の切り替え時には、コンデンサC1の両端電圧が0Vであるので、t2におけるスイッチング素子S2の状態の切り替えがゼロ電圧シーケンス(ZVS)で行われる。即ち、t2におけるスイッチング素子S2の状態の切り替えは、ソフトスイッチングで行われる。また、スイッチング素子S2をオフ状態にしたことにより、コンデンサC1の充電が開始され、S相の電流Is が流れ始める。なお、スイッチング素子S2を切り替えたt2の直後は、充電が開始されるコンデンサC1にて接続されることにより、一時的に双方に電流が流れることになる。従って、
図5に示すように、t2の直後はコンデンサC1の充電及びコンデンサC2の放電が完了するまで、R相の電流Ir とS相の電流Is とに電流が分けられることになる。
【0048】
電源制御装置12は、t3において、スイッチング素子S3をオフ状態からオン状態に切り替える(
図4A(c)→
図4B(a))。このスイッチング素子S3の状態の切り替え時には、コンデンサC2の両端電圧が0Vであるので、t3におけるスイッチング素子S3の状態の切り替えがゼロ電圧シーケンス(ZVS)で行われる。即ち、t3におけるスイッチング素子S3の状態の切り替えは、ソフトスイッチングで行われる。
【0049】
なお、コンデンサC1〜C6の容量は、共振回路111の共振周波数及び電力負荷2の大きさに基づいて、t1〜t3までの間に放電を完了し、t2〜t3までの間に充電を完了する大きさに設定されている。
【0050】
電源制御装置12は、t4において、スイッチング素子S1をオン状態からオフ状態に切り替える(
図4B(a)→
図4B(b))。このスイッチング素子S1の状態の切り替え時には、電流がR相を流れていないので(Ir =0)、t4におけるスイッチング素子S4の状態の切り替えがゼロ電流シーケンス(ZCS)で行われる。即ち、t4におけるスイッチング素子S1の状態の切り替えは、ソフトスイッチングで行われる。
【0051】
このように、電力変換装置11の転流動作にかかるスイッチング素子S1〜S12の状態の切り替えが、全てソフトスイッチングで行われ、ハードスイッチングで行われることがない。このような電力変換装置11としては、例えば、特開2015−149857号公報にて詳述した技術を適用することが可能である。
【0052】
<制御及び各種演算>
次に、本願記載の電源制御システムにおいて、ソフトスイッチングを実行し、電力変換装置11に入力される入力電流の歪みの抑制、電力変換装置11から出力する出力電流の脈動の抑制等の安定化を実現し、更には入力の力率を向上させるための制御及びそのための各種演算について説明する。
【0053】
入力電流の歪みの抑制は、電力変換装置11から出力する出力電流が正弦波であると仮定した目標出力電流波形に基づく制御により実現する。また、出力電流の脈動の抑制は、電力変換装置11から出力する出力電圧の目標を、階段状波形である出力電圧波形をフーリエ級数展開し、高次成分を除去して得られた出力電圧の基本波の波形(目標出力電圧波形)とした制御により実現する。
【0054】
図6は、本願記載の電源制御装置12の処理を概念的に示すブロック図である。
図6は、上述した目標出力電流波形及び目標出力電圧波形に制御するための演算をブロック図として示している。電源制御装置12は、初期設定又は演算にて得られた時間比率ζ、入力電圧検出部120の検出にて得られた入力電圧E及び位相θ、演算にて得られた出力周波数fに基づいて各種演算を実施する。時間比率ζとは、マトリックスコンバータ110が有する各スイッチング素子のオン/オフの切替の時間比率(スイッチング時比率)であり、スイッチング素子のオン/オフの切替の比率及び切替の時期を示している。なお、時間比率ζは、漸近的に収束する解として再帰的アルゴリズムによる演算にて導出されるが、予め設定した初期設定値を用いることも可能である。出力周波数fは、電源制御装置12からの出力周波数であり、漸近的に収束する解として再帰的アルゴリズムによる演算にて導出される。
【0055】
演算部121は、検出により得られた入力電圧E及び位相θと、再帰的な演算又は予め設定されている初期設定値の読取により得られた時間比率ζと、各スイッチング素子の制御手順となるスイッチングパターンとに基づいて、電力変換装置11から階段状波として出力する出力電圧の波形、即ち、出力電圧波形を作成する。なお、スイッチングパターンは、予め初期値として設定されていても良く、また、演算により初期値及びその他の条件から導出した演算結果を用いるようにしても良い。
【0056】
演算部121は、階段状波形として作成した出力電圧波形をフーリエ級数展開し、高次成分を除去して出力電圧の基本波の波形(目標出力電圧波形)を導出する。更に、演算部121は、目標出力電圧波形に基づく基本波の振幅I1 及び位相φ1 、共振回路111の特性(V=Z(ω)・I)、及び再帰的に得られる出力周波数fから出力電流の振幅Iを導出する。
【0057】
また、演算部121は、階段状波形として作成した出力電圧波形、出力電流の振幅I、スナバ素子の充放電条件及び再帰的に得られる出力周波数fに基づいて、最適な電流位相φiopt(第1位相)を導出する。更に、演算部121は、出力電圧の基本波として導出された目標出力電圧波形の位相φ1 及び出力電流の位相φioutの和として求まるマトリックスコンバータ110に対する出力電流の位相φi (第2位相)と、最適な電流位相φioptとの位相差(φi −φiopt)を導出する。
【0058】
スナバ素子の充放電条件について説明する。
図7は、本願記載の電力変換システム1が備える電力変換装置11からの出力波形を概略的に示すグラフである。
図7は、横軸に時間をとり、縦軸に出力値をとって、出力電圧及び出力電流の波形の変化を示している。
図7中、階段状波は、電力変換装置11から出力される出力電圧Vout の波形を示しており、正弦波は、電力変換装置11から出力されるU相からV相への出力電流iuvの波形を示している。スナバ素子として用いられるスナバコンデンサは、転流時に充放電を行うことにより、スイッチ回路の両端の急激な電圧変化を抑制している。従って、スナバ素子が完全に放電するまで、スイッチ回路を流れる出力電流iuvの方向(極性)が変化しないように制御する必要がある。即ち、
図7では、出力電流iuvが負から正になるまで、即ち、時刻tr から時刻ti に到達するまでに放電を完了しなければならない。具体的には、下記式(1)にて示すように、スナバ素子の静電容量Cの2倍及び出力電圧の変化分ΔVの積が、時刻tr から時刻ti までの出力電流の積分値の絶対値より小さいということがスナバ素子の充放電条件となる。
【0060】
図6に戻り、演算部121は、再帰的な演算又は初期設定値の読取により得られた時間比率ζ、並びに出力電流の位相φi 及び出力電流の振幅Iに基づいて、電力変換装置11に入力される入力電流Iinを導出する。出力電流の位相φi 及び出力電流の振幅Iは、前述の様にフーリエ級数展開を用いて導出した出力電圧の基本波の波形(目標出力電圧波形)に基づいている。更に、演算部121は、検出した入力電圧E及び位相θ、並びに導出した入力電流Iinから、瞬時電力のベクトル理論に基づいて、瞬時無効電力qを導出する。
【0061】
以上のように、演算部121は、電力変換装置11の出力電流の振幅I、位相差(φi −φiopt)及び瞬時無効電力qを導出する。導出される位相差(φi −φiopt)とは、出力電流の位相φi (第2位相)と、最適な電流位相φiopt(第1位相)との位相差(φi −φiopt)であり、位相差(φi −φiopt)を0とすることがマトリックスコンバータ110に対する制御の目標となる。なお、位相差(φi −φiopt)は、0とすることが望ましいが、0の近傍の値であっても良く、即ち、位相差(φi −φiopt)が可及的に0となるように制御すれば良い。また、導出される瞬時無効電力qについては、q=0とすることがマトリックスコンバータ110の制御の目標となる。なお、瞬時無効電力=0とすることが望ましいが、0の近傍の値、即ち、可及的に0となるように制御すれば良い。瞬時無効電力qを可及的に0とすることにより、入力の力率を最高に、即ち、可及的に1となるように制御することになる。導出された出力電流の振幅I、位相差(φi −φiopt)及び瞬時無効電力qは、出力周波数f及び時間比率ζの導出に用いられる変数となる。
【0062】
そして、演算部121は、導出した出力電流の振幅I、位相差(φi −φiopt)及び瞬時無効電力qに基づき、これらの変数が可及的に目標値となるように制御すべく出力周波数f及び時間比率(スイッチング時比率)ζを導出する。出力電流の振幅I、位相差(φi −φiopt)及び瞬時無効電力qに基づく出力周波数f及び時間比率ζの導出は、
図6を用いて例示したように、再帰的アルゴリズムによる演算を繰り返し実行することにより漸近的に収束する解として導出する。再帰的な演算の結果、例えば、入力電圧位相θの初期値と最終値との差が所定値以下になるまで収束した場合に、演算部121は、出力周波数f及び時間比率ζを再帰的に演算する導出処理を終了する。なお、時間比率ζについては、予め設定されている設定値を読み取るようにしても良い。出力周波数f及び時間比率ζを導出した演算部121は、導出した出力周波数f及び時間比率ζとなるようにマトリックスコンバータ110の各スイッチ回路を制御すべく、パルス出力部122へ出力値を出力する。
【0063】
パルス出力部122は、演算部121から出力された出力値に基づいて電力変換装置11のマトリックスコンバータ110を制御する。なお制御目標となる出力周波数f及び時間比率ζの導出に際し、瞬時無効電力qが可及的に0となるように演算が行われる。即ち、力率が可及的に1となる制御目標に基づいて電力変換装置11のマトリックスコンバータ110は制御される。
【0064】
以上のように、演算部121は、入力電圧E及び位相θ等の各種情報に基づいて、電力変換装置11の出力電流の振幅I、位相差(φi −φiopt)及び瞬時無効電力qを導出し、導出結果を可及的に制御目標に近付くように制御すべく、電力変換装置11のマトリックスコンバータ110を制御する。そして、マトリックスコンバータ110の動作を制御することにより、電力変換装置11は、ソフトスイッチングを実現し、入力の力率を1又は可及的に1に近付け、電力変換装置11に入力される入力電流の歪みの抑制、電力変換装置11から出力する出力電流の脈動の抑制等の安定化を実現する。
【0065】
<実験結果>
次に本願記載の電力変換システム1において、電源制御装置12により制御される電力変換装置11の出力を実験した結果について説明する。
図8は、本願記載の電力変換システム1において、電源制御装置12に入力される入力電流の実験波形の一例を示すグラフである。
図8(a)及び
図8(b)は、横軸に時間をとり、縦軸に電流値をとって、三相交流の各相の入力電流の経時変化を示している。なお、
図8(a)及び
図8(b)は、図示の都合上、電流の振れ幅の上下限を抽出し、外形として示している。
図8(a)は、
図6を用いて説明した電力変換装置11から出力される出力電流を正弦波と仮定した目標出力電流波形に基づいて制御した結果を示している。
図8(b)は、比較用の実験であり、出力電流を方形波と仮定した目標出力電流波形に基づいて制御した結果を示している。
図8(a)及び
図8(b)を比較すると明らかなように、出力電流を正弦波と仮定することにより、入力電流の歪みが抑制されている。
【0066】
また、他の実験では、周波数を一定とした従来のソフトスイッチングによる制御と比較して、全高調波歪の抑制等の安定化に関する効果が得られることも判明している。
【0067】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、他の様々な形態で実施することが可能である。そのため、上述した実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。更に、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0068】
例えば、前記実施形態では、電力変換システム1から出力する交流電力を直流に変換する形態を例示したが、直流に変換することなく、交流電力として使用するようにしても良い。
【0069】
また、前記実施形態では、出力電圧波形からフーリエ級数展開に基づいて導出した基本波の波形を用いる形態を示したが、このような基本波に限らず、台形波等の他の交流波形であっても良い。
【0070】
また、前記実施形態では、出力電流の振幅が制御目標に近付くように出力周波数f及び時間比率ζを導出する形態を示したが、演算方法を適宜修正することにより、出力電圧の振幅を出力電流の振幅に代替して用いることも可能である。従って、本発明は、出力電流の振幅に代替した出力電圧の振幅が制御目標に近付くように出力周波数f及び時間比率ζを導出するようにしても良い。
【0071】
更に、前記実施形態では、電源制御装置12にて各種演算を実行する形態を示したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、予め各種演算を実行しておき、実行した結果に基づいて作成された制御テーブルを電源制御装置12に記録しておき、電源制御装置12が、得られた入力電圧等の情報から制御テーブルを参照し、制御方法を決定するようにしても良い。
【0072】
また、電力変換装置11のマトリックスコンバータ110に用いられるスイッチ回路は、双方向スイッチであれば、他の回路構成であっても良い。例えば、還流ダイオードとして機能するダイオードが逆並列接続された2つのスイッチング素子を逆向きに直列接続し、直列接続されたスイッチング素子と並列にスナバコンデンサを接続した回路構成の双方向スイッチを用いることも可能である。