特許第6952892号(P6952892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6952892-硫黄−炭素複合体の製造方法 図000003
  • 特許6952892-硫黄−炭素複合体の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6952892
(24)【登録日】2021年9月30日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】硫黄−炭素複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/168 20170101AFI20211018BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20211018BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   C01B32/168
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 A
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-519362(P2020-519362)
(86)(22)【出願日】2018年11月16日
(65)【公表番号】特表2020-536038(P2020-536038A)
(43)【公表日】2020年12月10日
(86)【国際出願番号】KR2018014136
(87)【国際公開番号】WO2019103409
(87)【国際公開日】20190531
【審査請求日】2020年4月3日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0155407
(32)【優先日】2017年11月21日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウンキョン・チョ
(72)【発明者】
【氏名】センフン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】クォンナム・ソン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ・キョン・ヤン
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−511342(JP,A)
【文献】 特表2016−535716(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/086196(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 − 32/991
H01M 4/38
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)多孔性炭素材を乾燥する段階と;
(b)前記多孔性炭素材に硫黄を混合して乾燥状態でボールミリング(ball milling)工程でミキシング(mixing)した後、熱処理する段階と;
を含む硫黄−炭素複合体の製造方法。
【請求項2】
前記多孔性炭素材はグラファイト、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維及び活性炭素からなる群より選ばれた1種以上である、請求項1に記載の硫黄−炭素複合体の製造方法。
【請求項3】
前記(a)段階の乾燥は、100℃〜150℃の温度で6時間〜36時間行う、請求項1に記載の硫黄−炭素複合体の製造方法。
【請求項4】
前記(b)段階のボールミリング工程は100〜500rpmで、30分〜5時間行う、請求項1に記載の硫黄−炭素複合体の製造方法。
【請求項5】
前記(b)段階の熱処理は、130℃〜170℃の温度で行う、請求項1に記載の硫黄−炭素複合体の製造方法。
【請求項6】
前記(b)段階において、前記硫黄と前記多孔性炭素材を9:1〜5:5の重量比で混合する、請求項1に記載の硫黄−炭素複合体の製造方法。
【請求項7】
前記(b)段階で混合される前記硫黄と前記多孔性炭素材との混合物の重量が10g以上である、請求項1に記載の硫黄−炭素複合体の製造方法。
【請求項8】
前記硫黄−炭素複合体内にロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄を0超過10重量%未満で含む、請求項1に記載の硫黄−炭素複合体の製造方法。
【請求項9】
前記硫黄−炭素複合体内にα−相(phase)の硫黄及びβ−相(phase)の硫黄の内の少なくとも1つを更に含む、請求項8に記載の硫黄−炭素複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年11月21日付け韓国特許出願第10−2017−0155407号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容を本明細書の一部として含む。
【0002】
本発明は、硫黄−炭素複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、エネルギー貯蔵技術に対する関心が徐々に高まっている。携帯電話、カムコーダー及びノートパソコン、ひいては電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡大されながら、電気化学素子の研究と開発に対する努力がさらに具体化している。
【0004】
電気化学素子は、この点で最も注目を集めている分野であり、その中でも充放電が可能な二次電池の開発は関心の焦点となっており、最近ではこのような電池を開発するにあたって、容量密度及びエネルギー効率を向上させるために新しい電極と電池の設計に対する研究開発として進められている。
【0005】
現在適用されている二次電池の中で、1990年代初めに開発されたリチウム二次電池は、水系電解液を用いるNi−MH、Ni−Cd、硫酸−鉛電池などの在来式電池に比べて動作電圧が高く、エネルギー密度が非常に大きいという利点で脚光を浴びている。
【0006】
特に、リチウム−硫黄(Li−S)電池はSS結合(Sulfur−Sulfur bond)を有する硫黄系物質を正極活物質として用い、リチウム金属を負極活物質として用いる二次電池である。正極活物質の主材料である硫黄は資源が非常に豊富で、毒性がなく、低い原子当たりの重量を有している利点がある。また、リチウム−硫黄電池の理論放電容量は1675mAh/g−硫黄(sulfur)であり、理論エネルギー密度が2,600Wh/kgで、現在研究されている他の電池システムの理論エネルギー密度(Ni−MH電池:450Wh/kg、Li−FeS電池:480Wh/kg、Li−MbO電池:1,000Wh/kg、Na−S電池:800Wh/kg)に比べて非常に高いので、現在まで開発されている電池の中で最も有望な電池である。
【0007】
リチウム−硫黄電池の放電反応のうち負極(Anode)ではリチウムの酸化反応が発生し、正極(Cathode)では硫黄還元反応が発生する。放電前の硫黄は環状のS構造を有しているが、還元反応(放電)時にS−S結合が切れながらSの酸化数が減少し、酸化反応(充電)時にS−S結合が再度形成されながらSの酸化数が増加する酸化−還元反応を利用して電気エネルギーを貯蔵及び生成する。このような反応の中で硫黄は環状のSで還元反応によって線状構造のリチウムポリスルフィド(Lithium polysulfide、Li、x=8、6、4、2)に変換されるようになり、結局、このようなリチウムポリスルフィドが完全に還元されると、最終的に、リチウムスルフィド(Lithium sulfide、LiS)が生成される。それぞれのリチウムポリスルフィドに還元される過程で、リチウム−硫黄電池の放電挙動はリチウムイオン電池とは異なり、段階的に放電電圧を示すことが特徴である。
【0008】
しかしながら、このようなリチウム−硫黄電池の場合は、硫黄の低い電気伝導性、充放電時にリチウムポリスルフィドの溶出及び体積膨張の問題とこれによる低いクーロン効率及び充放電に伴う急激な容量減少の問題を解決しなければならない。
【0009】
このようなリチウム硫黄電池システムにおいて、硫黄系化合物を正極活物質として用い、リチウムのようなアルカリ金属を負極活物質として用いる場合、電池で充放電時に発生するリチウム−ポリスルフィドが負極に伝達され、リチウム−硫黄電池の寿命を減少させ、多量のリチウム−ポリスルフィドにより反応性が減少する現象が発生することになる。
【0010】
そこで、このような問題点を解決するために様々な方法が試みられている。
【0011】
複合体に含まれた硫黄(Sulfur)の均一な分布程度と硫黄の結晶性にしたがって、初期放電容量に影響を大きく受けることになるが、初期放電容量を増加させるために反応性の高い硫黄を作ることがLi−S正極活物質の研究において重要な部分を占めている。
【0012】
Li−S電池に用いる硫黄−炭素複合体において硫黄の相(Phase)による反応性の差異があり、最も安定すると知られているα−硫黄(sulfur)と、ここに熱を加えて結晶構造を変えたβ−硫黄(Sulfur)が最も一般的に用いられる硫黄の相(Phase)であるが、これらも反応性の限界があった。特に硫黄を大量にミキシングする場合には、ボールミルで硫黄と多孔性炭素材を混合した後に熱処理をしており、このように製造された硫黄−炭素複合体内に含まれるβ−硫黄(Sulfur)の硫黄の場合、放電容量が低下する問題が発生する。
【0013】
したがって、このような問題点を改善するために、他の硫黄相(Sulfur Phase)であるロシキーアイト(Rosickyite)を導入し、過電圧の発生を低減し、内部の反応性を高めることが必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】韓国公開特許2014−0091293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは多角的な研究を行った結果、反応性の高いロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄を含む硫黄−炭素複合体を製造するために、多孔性炭素材を乾燥した後、硫黄と混合して特定の条件でボールミリングを行うと、ロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄を含む硫黄−炭素複合体を製造することができることを確認し、本発明を完成させた。
【0016】
したがって、本発明の目的は、反応性が高いロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄を多孔性炭素材に担持させることで、過電圧の発生を低減し、内部の反応性を高めることができる物質がコーティングされた硫黄−炭素複合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明は、
(a)多孔性炭素材を乾燥する段階;及び(b)多孔性炭素材に硫黄を混合してボールミリング(ball milling)工程でミキシング(mixing)した後、熱処理する段階;を含む硫黄−炭素複合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、反応性が高いロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄を多孔性炭素材に担持させることで、複合体の比表面積を維持させ、リチウムポリスルフィド(lithium polysulfide)の溶出を抑制することができながらも、従来技術とは異なり、過電圧の発生を低減し、内部の反応性を高めることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例及び比較例に係る硫黄−炭素複合体のXRD分析結果を示したグラフである。
図2】本発明の実施例及び比較例の硫黄−炭素複合体で製造されたリチウム−硫黄電池の初期放電容量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施することができるように添付した図面を参考にして詳細に説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で具現することができ、本明細書に限定されない。
【0021】
図面では、本発明を明確に説明するために説明と関係ない部分を省略し、明細書全体にわたって、類似した部分については類似した符号を使用した。また、図面において表示された構成要素の大きさ及び相対的なサイズは、実際の縮尺とは無関係であり、説明の明瞭性のために縮小又は誇張されたことがある。
【0022】
本明細書及び特許請求の範囲において用いられた用語や単語は通常的かつ辞典的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最良の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるとの原則に即して、本発明の技術的思想に適合する意味と概念に解釈されなければならない。
【0023】
本明細書において使われている用語「複合体(Composite)」とは、二つ以上の材料を組み合わせて物理的・化学的に異なる相(phase)を形成しながら、より有効な機能を発現する物質を意味する。
【0024】
リチウム−硫黄電池は正極活物質として硫黄を、負極活物質としてリチウム金属を用いる。リチウム−硫黄電池の放電時に負極ではリチウムの酸化反応が発生し、正極では硫黄の還元反応が発生する。このとき、還元された硫黄は負極から移動してきたリチウムイオンと結合してリチウムポリスルフィドに変換し、最終的にリチウムスルフィドを形成する反応を伴う。
【0025】
リチウム−硫黄電池は、従来のリチウム二次電池に比べて非常に高い理論エネルギー密度を有し、正極活物質として用いられる硫黄は資源が豊富で価格が低廉であるので、電池の製造コストを下げることができるという利点のため、次世代電池として脚光を浴びている。
【0026】
このような利点にもかかわらず、正極活物質である硫黄の低い電気伝導度及びリチウムイオン伝導特性により、実際の駆動においては理論的エネルギー密度全部を具現することに困難がある。
【0027】
硫黄の電気伝導度を改善するために炭素、高分子などの伝導性素材との複合体の形成、コーティングなどの方法が使用されている。様々な方法のうち、硫黄−炭素複合体が正極の電気伝導性の改善に効果的であるので、正極活物質として最も多く用いられているが、充放電容量及び効率の面ではまだ十分ではない。リチウム−硫黄電池の容量と効率は正極に伝達されるリチウムイオンの量によって異なることがある。したがって、硫黄−炭素複合体の内部にリチウムイオンの伝達を容易にすることが電池の高容量及び高効率化に重要である。
【0028】
硫黄−炭素複合体の製造方法
そこで、本発明では、硫黄−炭素複合体と電解液との反応性及びリチウム−硫黄電池の容量及び効率特性の改善効果を確保するため、ロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄を硫黄−炭素複合体に担持させる硫黄−炭素複合体の製造方法を提供する。
【0029】
まず、本発明に係る硫黄−炭素複合体の製造方法は、(a)多孔性炭素材を乾燥する段階;及び(b)多孔性炭素材に硫黄を混合してボールミリング(ball milling)工程でミキシング(mixing)した後、熱処理する段階;を含む。
【0030】
前記本発明に係る硫黄−炭素複合体の製造方法は、多孔性炭素材を乾燥する(a)段階を含む。
【0031】
前記多孔性炭素材は、正極活物質である硫黄が均一で安定的に固定化することができる骨格を提供し、硫黄の電気伝導度を補完して電気化学反応が円滑に行えるようにする。
【0032】
前記多孔性炭素材は、一般的に様々な炭素材質の前駆体を炭化させることによって製造することができる。前記多孔性炭素材は内部に一定ではない気孔を含み、前記気孔の平均直径は1〜200nm範囲であり、気孔度または空隙率は多孔性全体体積の10〜90%の範囲であってもよい。もし前記気孔の平均直径が前記範囲未満である場合、気孔の大きさが分子水準に過ぎないため硫黄の含浸が不可能であり、逆に、前記範囲を超える場合、多孔性炭素の機械的強度が弱化し、電極の製造工程に適用することに好適でない。
【0033】
前記多孔性炭素材の形態は球状、棒状、針状、板状、チューブ状又はバルク状でリチウム−硫黄電池に通常用いられるものであれば制限なく用いることができる。
【0034】
前記多孔性炭素材は、多孔性構造または比表面積が高いもので当業界において通常用いられるものであればどんなものでも構わない。例えば、前記多孔性炭素材としては、グラファイト(graphite);グラフェン(graphene);デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サマーブラックなどのカーボンブラック;単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)などのカーボンナノチューブ(CNT);グラファイトナノファイバー(GNF)、カーボンナノファイバー(CNF)、活性化炭素ファイバー(ACF)などの炭素繊維;及び活性炭からなる群より選ばれた1種以上であってもよいが、これに制限されない。
【0035】
本発明に係る硫黄−炭素複合体の製造方法は、前記(a)段階では、多孔性炭素材を乾燥処理することにより、後に反応性の高いロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄が多孔性炭素材の表面に担持されるようにすることができる。
【0036】
前記乾燥方法は業界において通常の方法で乾燥することができ、好ましくは、100℃〜150℃の温度で6時間〜36時間乾燥することができる。このように乾燥し、多孔性炭素材内の水分含有量が50ppm以下となるようすることによって、後に反応性の高いロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄が多孔性炭素材の表面に担持されるようにすることができる。
【0037】
この後、本発明に係る硫黄−炭素複合体の製造方法は、多孔性炭素材の硫黄を混合してボールミリング(ball milling)工程でミキシング(mixing)した後、熱処理する(b)段階を含む。
【0038】
前記(b)段階において用いられる硫黄は無機硫黄(S)、Li(n≧1)、有機硫黄化合物及び炭素−硫黄ポリマー[(C、x=2.5〜50、n≧2]からなる群より選ばれた1種以上であってもよい。好ましくは無機硫黄(S)を用いることができる。
【0039】
また、前記硫黄は前記多孔性炭素材の気孔内部だけでなく表面に位置し、このとき、前記多孔性炭素材の外側全体表面の100%未満、好ましくは1〜95%、さらに好ましくは60〜90%の領域に存在することができる。前記硫黄が多孔性炭素材の表面に前記範囲内にあるときに、電子伝達面積及び電解液の濡れ性の面で最大の効果を示すことができる。具体的に、前記範囲領域で硫黄が多孔性炭素材の表面に薄く均一に含浸するので、充放電の過程において電子伝達接触面積を増加させることができる。もし、前記硫黄が多孔性炭素材の表面の100%の領域に位置する場合、前記多孔性炭素材が完全に硫黄で覆われて電解液の濡れ性が低下し、電極内に含まれる導電材と接触性が落ちて電子伝達を受けられず、反応に関与することができなくなる。
【0040】
前記硫黄−炭素複合体は、構造体内の様々な大きさの気孔及び3次元的に相互連結され、定期的に整列された気孔により硫黄を高い含有量で担持することができる。これにより、電気化学反応により溶解性のあるポリスルフィドが生成されたとしても、硫黄−炭素複合体の内部に位置できるようになると、ポリスルフィドの溶出時にも3次元的に絡み合っている構造が維持され、正極構造が崩壊される現状を抑制することができる。その結果、前記硫黄−炭素複合体を含むリチウム−硫黄電池は、高ローディング(high loading)でも高容量を具現することができるという利点がある。本発明に係る硫黄−炭素複合体の硫黄ローディングド量は1〜20mg/cmとなってもよい。
【0041】
前記(b)段階では、硫黄と多孔性炭素材を混合するとき、硫黄と多孔性炭素材の重量比は9:1〜5:5、好ましくは8:2〜7:3であってもよい。もし前記重量比の範囲未満である場合、多孔性炭素材の含有量が増加することによって正極スラリーの製造時に必要なバインダー添加量が増える。このようなバインダー添加量の増加は、結局、電極の面抵抗を増加させることになり、電子移動(electron pass)を防ぐ絶縁体の役割をし、セルの性能を低下させることができる。逆に、前記重量比の範囲を超える場合、硫黄同士が凝集することになり、電子を受けることが難しくなって電極反応に直接関与しがたくなる。
【0042】
前記(b)段階では、硫黄と多孔性炭素材を混合するとき、硫黄と多孔性炭素材の混合重量が10g以上であってもよい。10g以下の少量に混合する場合には、硫黄と多孔性炭素材を乳鉢などで容易に混合することができるが、10g以上の大量に混合する場合には、乳鉢などで容易に混合されないので、ボールミリング工程を通じて混合しなければならない。しかし、大量にボールミル工程を使用する場合、硫黄−炭素複合体の硫黄がβ−相(phase)の硫黄に転換され、放電容量が減少する問題が発生する。そこで、本発明は、50ppm以下で乾燥された多孔性炭素材を用いて、ボールミル工程を行うことにより、前記硫黄−炭素複合体内にロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄を含ませて、放電容量を改善することを特徴とする。
【0043】
前記(b)段階では、硫黄と多孔性炭素材を混合するとき、ボールミリング(ball milling)工程でミキシング(mixing)することができる。
【0044】
前記ボールミリング工程は、通常のボールミリング工程用装備を使用することができ、ボールミリングに使用されるボール(ball)としては、1mm〜5mmサイズのジルコニアボールを使用することができ、100〜500rpmミリング条件で30分〜5時間行うことができる。
【0045】
前記(b)段階では、硫黄と多孔性炭素材をボールミリング(ball milling)した後、熱処理を行う。前記熱処理は130℃〜170℃の温度で行うことができ、熱処理時間は特に制限はないが、15分〜2時間行うことができる。前記温度範囲が170℃を超えると、硫黄が気化する問題があり、130℃未満であれば硫黄が溶けないため、均等に分布されない問題がある。また、前記熱処理時間が15分未満であれば十分溶けて含浸しない問題があり、2時間を超えると、一部の硫黄が気化又は不均一に含浸する問題がある。
【0046】
前記のような製造方法によって製造された本発明の硫黄−炭素複合体は、硫黄−炭素複合体内にロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄を含むことになる。
【0047】
前記ロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄は単斜晶系の硫黄で、不安定な相(phase)として知られており、安定した相(phase)の硫黄よりも反応性が高い。また、単一結晶を形成すると板状及び針状の結晶を形成するが、本発明では熱を加えて炭素素材に含浸するため、単一結晶状態の形状を維持していないため硫黄−炭素複合体に均一に担持されることができる。
【0048】
従来の発明によって、乾燥されない多孔性炭素材に硫黄を混合した後、熱処理をすると、XRD分析の結果、α−相(phase)の硫黄又はβ−相(phase)の硫黄のみが観察される。しかし、本発明の製造方法のように、特定の条件で乾燥された多孔性炭素材を、特定の条件で混合した後、熱処理をすると、硫黄がロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄に変化することになる。また、硫黄−炭素複合体内に含まれる硫黄のうち、ロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄に変化する割合は、硫黄のモル比を基準として0超過10%未満で含むことができる。前記硫黄−炭素複合体内に含まれる硫黄のうち、ロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄の割合が10%以上含まれる場合、ロシキーアイト相(Rosickyite phase)の不安定な形態のため、電極を作る過程と電極を乾燥する温度でも相(Phase)変化を起こし、他の相に転移されるなど、複合体の安定性が低下する問題がある。
【0049】
また、硫黄−炭素複合体内に含まれる硫黄のうち一部はα−相(phase)の硫黄及びβ−相(phase)の硫黄のいずれか以上に変化することになる。
【0050】
硫黄−炭素複合体
本発明の硫黄−炭素複合体は、製造時に特定の条件で乾燥された多孔性炭素材を、特定の条件で混合した後、熱処理を行うことによって、硫黄−炭素複合体の多孔性炭素材の内側及び外側の表面のうち少なくとも一部に含まれた硫黄の相(phase)がロシキーアイト相(Rosickyite phase)に変化するようになり、これにより、本発明の硫黄−炭素複合体はロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄を含むことになる。
【0051】
本発明の硫黄−炭素複合体は、多孔性炭素材;及び前記多孔性炭素材の内部及び表面のうち少なくとも一部に硫黄を含む。
【0052】
前記多孔性炭素材は、正極活物質である硫黄が均一で安定的に固定化することができる骨格を提供し、硫黄の電気伝導度を補完して電気化学反応が円滑に行えるようにする。
【0053】
前記多孔性炭素材は、一般的に様々な炭素材質の前駆体を炭化させることによって製造されることができる。前記多孔性炭素材は内部に一定ではない気孔を含み、前記気孔の平均直径は1〜200nm範囲であり、気孔度または空隙率は多孔性全体体積の10〜90%の範囲であってもよい。もし前記気孔の平均直径が前記範囲未満である場合、気孔の大きさが分子水準に過ぎないため硫黄の含浸が不可能であり、逆に、前記範囲を超える場合、多孔性炭素の機械的強度が弱化し、電極の製造工程に適用することに好適でない。
【0054】
前記多孔性炭素材の形態は球状、棒状、針状、板状、チューブ状又はバルク状でリチウム−硫黄電池に通常用いられるものであれば制限なく用いることができる。
【0055】
前記多孔性炭素材は、多孔性構造または比表面積が高いもので当業界において通常用いられるものであればどんなものでも構わない。例えば、前記多孔性炭素材としては、グラファイト(graphite);グラフェン(graphene);デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サマーブラックなどのカーボンブラック;単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)などのカーボンナノチューブ(CNT);グラファイトナノファイバー(GNF)、カーボンナノファイバー(CNF)、活性化炭素ファイバー(ACF)などの炭素繊維;及び活性炭からなる群より選ばれた1種以上であってもよいが、これに制限されない。
【0056】
前記硫黄は無機硫黄(S)、Li(n≧1)、有機硫黄化合物及び炭素−硫黄ポリマー[(C、x=2.5〜50、n≧2]からなる群より選ばれた1種以上であってもよい。好ましくは無機硫黄(S)を用いることができる。
【0057】
本発明に係る硫黄−炭素複合体において前述した多孔性炭素材の重量比は9:1〜5:5、好ましくは8:2〜7:3であってもよい。もし前記重量比の範囲未満である場合、多孔性炭素材の含有量が増加することによって正極スラリーの製造時に必要なバインダー添加量が増える。このようなバインダー添加量の増加は、結局、電極の面抵抗を増加させることになり、電子移動(electron pass)を防ぐ絶縁体の役割をし、セルの性能を低下させることができる。逆に、前記重量比の範囲を超える場合、硫黄同士が凝集することになり、電子を受けることが難しくなって電極反応に直接関与しがたくなる。
【0058】
また、前記硫黄は前記多孔性炭素材の気孔内部だけでなく表面に位置し、このとき、前記多孔性炭素材の外側全体表面の100%未満、好ましくは1〜95%、さらに好ましくは60〜90%の領域に存在することができる。前記硫黄が多孔性炭素材の表面に前記範囲内にあるときに、電子伝達面積及び電解液の濡れ性の面で最大の効果を示すことができる。具体的に、前記範囲領域で硫黄が多孔性炭素材の表面に薄く均一に含浸するので、充放電の過程において電子伝達接触面積を増加させることができる。もし、前記硫黄が多孔性炭素材の表面の100%の領域に位置する場合、前記多孔性炭素材が完全に硫黄で覆われて電解液の濡れ性が低下し、電極内に含まれる導電材と接触性が落ちて電子伝達を受けられず、反応に関与することができなくなる。
【0059】
従来の発明によって、乾燥されない多孔性炭素材に硫黄を混合した後、熱処理をすると、XRD分析の結果、α−相(phase)の硫黄又はβ−相(phase)の硫黄のみが観察される。しかし、本発明の製造方法のように、特定の条件で乾燥された多孔性炭素材を、特定の条件で混合した後、熱処理をすると、硫黄がロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄に変化することになる。また、硫黄−炭素複合体内に含まれる硫黄のうち、ロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄に変化する割合は、硫黄のモル比を基準として0超過10%未満で含むことができる。前記硫黄−炭素複合体内に含まれる硫黄のうち、ロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄の割合が10%以上含まれる場合、ロシキーアイト相(Rosickyite phase)の不安定な形態のため、電極を作る過程と電極を乾燥する温度でも相(Phase)変化を起こし、他の相に転移されるなど、複合体の安定性が低下する問題がある。
【0060】
また、硫黄−炭素複合体内に含まれる硫黄のうち一部はα−相(phase)の硫黄及びβ−相(phase)の硫黄のいずれか以上に変化することになる。
【0061】
前記硫黄−炭素複合体は、構造体内の様々な大きさの気孔及び3次元的に相互連結され、定期的に整列された気孔により硫黄を高い含有量で担持することができる。これにより、電気化学反応により溶解性のあるポリスルフィドが生成されたとしても、硫黄−炭素複合体の内部に位置できるようになると、ポリスルフィドの溶出時にも3次元的に絡み合っている構造が維持され、正極構造が崩壊される現象を抑制することができる。その結果、前記硫黄−炭素複合体を含むリチウム−硫黄電池は、高ローディング(high loading)でも高容量を具現することができるという利点がある。本発明に係る硫黄−炭素複合体の硫黄ローディングド量は1〜20mg/cmとなってもよい。
【0062】
リチウム二次電池用正極
本発明で提示する硫黄−炭素複合体は、リチウム二次電池の正極活物質として好適に使用が可能であり、特に、正極内に硫黄化合物を含むリチウム−硫黄電池用正極活物質として用いることができる。
【0063】
前記正極は、正極集電体上に正極活物質層形成用組成物を塗布及び乾燥して製作される。前記正極活物質層形成用組成物は、前述した硫黄−炭素複合体を導電材及びバインダーと混合した後、40〜70℃で4時間〜12時間乾燥して製造する。
【0064】
具体的に、前記製造された硫黄−炭素複合体に付加的な導電性を付与するために、前記正極組成物には導電材が追加されることができる。前記導電材は電子が正極内で円滑に移動させるための役割をするもので、電池に化学的変化を誘発することなく導電性に優れ、広い表面積を提供することができるものであれば特に制限はないが、好ましくは炭素系物質を用いる。
【0065】
前記炭素系物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、グラフェン(graphene)のような黒鉛(Graphite)系、活性炭(Active carbon)系、チャネルブラック(Channel black)、ファーネスブラック(Furnace black)、サーマルブラック(Thermal black)、コンタクトブラック(Contact black)、ランプブラック(Lamp black)、アセチレンブラック(Acetylene black)のようなカーボンブラック(Carbon black)系;炭素繊維(Carbon fiber)系、カーボンナノチューブ(Carbon nanotube:CNT)、フラーレン(Fullerene)のような炭素ナノ構造体、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれた1種を用いることができる。
【0066】
前記炭素系物質以外にも、目的により、金属メッシュなどの金属繊維;銅(Cu)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)などの金属性粉末;またはポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料も用いることができる。前記導電性材料は単独または混合して用いることができる。
【0067】
また、前記正極活物質に集電体に対する付着力を提供するために、前記正極組成物にはバインダーを更に含むことができる。前記バインダーは溶媒によく溶解しなければならず、正極活物質と導電材との導電ネットワークをよく構成しなければならないだけでなく、電解液の含浸性も適当に有さなければならない。
【0068】
本発明に適用可能なバインダーは、当該業界において公知のすべてのバインダーが挙げられ、具体的には、ポリビニリデンフルオライド(Polyvinylidene fluoride、PVdF)又はポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene、PTFE)を含むフッ素樹脂系バインダー;スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴムを含むゴム系バインダー;カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロースを含むセルロース系バインダー;ポリアルコール系バインダー;ポリエチレン、ポリプロピレンを含むポリオレフィン系バインダー;ポリイミド系バインダー、ポリエステル系バインダー、シラン系バインダー;からなる群より選ばれた1種又は2種以上の混合物または共重合体であってもよいが、これらに制限されないことはもちろんである。
【0069】
前記バインダー樹脂の含有量は、前記リチウム−硫黄電池用正極総重量を基準として0.5〜30重量%であってもよいが、これらに限定されるものではない。前記バインダー樹脂の含有量が0.5重量%未満である場合には、正極の物理的性質が低下して正極活物質と導電材が脱落することができ、30重量%を超える場合には、正極で活物質と導電材の割合が相対的に減少して電池容量が減少することができる。
【0070】
リチウム−硫黄電池用正組成物をスラリーの状態で製造するための溶媒は、乾燥が容易でなければならず、バインダーをよく溶解させることはできるが、正極活物質及び導電材は溶融させずに分散状態で維持させることができるものが最も好ましい。溶媒が正極活物質を溶解させる場合には、スラリーにおいて硫黄の比重(D=2.07)が高いため、硫黄がスラリーで沈み、コーティング時に集電体に硫黄が集まって導電ネットワークに問題が生じ、電池の作動に問題が発生する傾向がある。
【0071】
本発明に係る溶媒は、水または有機溶媒が可能であり、前記有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン群から選ばれる1種以上を含む有機溶媒が適用可能である。
【0072】
前記正極組成物の混合は通常のミキサー、例えばペーストミキサー、高速せん断ミキサー、ホモミキサーなどを用いて、通常の方法で撹拌することができる。
【0073】
前記正極組成物を集電体に塗布し、真空乾燥してリチウム−硫黄電池用正極を形成することができる。前記スラリーは、スラリーの粘度及び形成しようとする正極の厚さにより適切な厚さで集電体にコーティングすることができ、好ましくは10〜300μmの範囲内で適切に選択することができる。
【0074】
このとき、前記スラリーをコーティングする方法において制限はなく、例えば、ドクターブレードコーティング(Doctor blade coating)、ディップコーティング(Dip coating)、グラビアコーティング(Gravure coating)、スリットダイコーティング(Slit die coating)、スピンコーティング(Spin coating)、コンマコーティング(Comma coating)、バーコーティング(Bar coating)、リバースロールコーティング(Reverse roll coating)、スクリーンコーティング(Screen coating)、キャップコーティング(Cap coating)方法などを行って製造することができる。
【0075】
前記正極集電体としては、一般的に3〜500μmの厚さとすることができ、電池に化学的変化を誘発することなく高い導電性を有するものであれば特に制限しない。例えばステンレス鋼、アルミニウム、銅、チタンなどの伝導性金属を用いることができ、好ましくは、アルミニウム集電体を用いることができる。このような正極集電体はフィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体又は不織布体などの多様な形態が可能である。
【0076】
リチウム二次電池
本発明の一実施例として、リチウム二次電池は前述した正極;負極活物質としてリチウム金属またはリチウム合金を含む負極;前記正極と正極との間に介在される分離膜;及び前記正極、正極、及び分離膜に含浸されており、リチウム塩と有機溶媒を有する電解質を含むことができる。特に、前記リチウム二次電池は、正極内に硫黄化合物を含むリチウム−硫黄電池であってもよい。
【0077】
前記負極は、負極活物質としてリチウムイオン(Li)を可逆的にインターカレーション(Intercalation)又はデインターカレーション(Deintercalation)することができる物質、リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質、リチウム金属またはリチウム合金を用いることができる。前記リチウムイオンを可逆的にインターカレーション又はデインターカレーションすることができる物質は、例えば結晶質炭素、非晶質炭素又はこれらの混合物であってもよい。前記リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質は、例えば、酸化スズ、チタンナイトレートまたはシリコンであってもよい。前記リチウム合金は、例えば、リチウムとNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Al及びSnからなる群より選ばれる金属の合金であってもよい。
【0078】
また、リチウム−硫黄電池を充放電する過程において、正極活物質として用いられる硫黄が非活性物質に変化し、リチウム負極の表面に付着することができる。このように、非活性硫黄(Inactive sulfur)とは、硫黄が様々な電気化学的又は化学的反応を経て正極の電気化学反応にそれ以上関与することができない状態の硫黄を意味し、リチウム負極の表面に形成された非活性硫黄はリチウム負極の保護膜(Protective layer)としての役割を果たす利点もある。したがって、リチウム金属とこのリチウム金属上に形成された非活性硫黄、例えばリチウムスルフィドを負極として用いることもできる。
【0079】
本発明の負極は、前記負極活物質以外に、リチウムイオン伝導性物質からなる前処理層及び前記前処理層上に形成されたリチウム金属保護層を更に含むことができる。
【0080】
前記正極と正極との間に介在される分離膜は、正極と正極を互いに分離又は絶縁させ、正極と正極との間にリチウムイオンの輸送を可能にするもので、多孔性非伝導性又は絶縁性物質からなってもよい。このような分離膜は、高いイオン透過度及び機械的強度を有する絶縁体で、薄い薄膜又はフィルムのような独立した部材であってもよく、正極及び/又は負極に付加されたコーティング層であってもよい。また、電解質としてポリマーなどの固体電解質が用いられる場合には、固体電解質が分離膜を兼ねることもできる。
【0081】
前記分離膜の気孔直径は一般的に0.01〜10μmであり、厚さは一般的に5〜300μmが好ましく、このような分離膜としては、ガラス電解質(Glass electrolyte)、高分子電解質又はセラミック電解質などを用いることができる。例えば、耐化学性及び疎水性のポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス繊維又はポリエチレンなどで作られたシートや不織布、クラフト紙などが用いられる。現在市販されている代表的な例としては、セルガード系列(Celgard2400、2300 Hoechest Celanese Corp.製)、ポリプロピレン分離膜(Ube Industries Ltd.製又はPall RAI製)、ポリエチレン系列(Tonen又はEntek)などがある。
【0082】
固体状態の電解質分離膜は、約20重量%未満の非水性有機溶媒を含んでもよく、この場合には、有機溶媒の流動性を減らすために、適切なゲル形成化合物(Gelling agent)を更に含んでもよい。このようなゲル形成化合物の代表的な例としては、ポリエチレンオキシド、ポリビニリデンフロライド、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。
【0083】
前記負極、正極及び分離膜に含浸されている電解質はリチウム塩を含有する 非水系電解質でリチウム塩と電解液で構成されており、電解液としては非水系有機溶媒、有機固体電解質及び無機固体電解質などが用いられる。
【0084】
本発明のリチウム塩は、非水系有機溶媒によく溶解される物質として、例えば、LiSCN、LiCl、LiBr、LiI、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiB10Cl10、LiCHSO、LiCFSO、LiCFCO、LiClO、LiAlCl、Li(Ph)、LiC(CFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(SFO、LiN(CFCFSO、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4フェニルホウ酸リチウム、リチウムイミド及びこれらの組み合わせからなる群から一つ以上を含むことができる。
【0085】
前記リチウム塩の濃度は、電解質混合物の正確な組成、塩の溶解度、溶解された塩の導電性、電池の充電及び放電条件、作業温度及びリチウムバッテリーの分野において公知の他の要因のような様々な要因により、0.2〜2M、具体的には0.6〜2M、より具体的に0.7〜1.7Mであってもよい。0.2M未満で用いると、電解質の伝導度が低くなり、電解質性能が低下することができ、2Mを超えて用いると、電解質の粘度が増加し、リチウムイオン(Li)の移動度が減少することができる。
【0086】
前記非水系有機溶媒はリチウム塩をよく溶解させなければならず、本発明の非水系有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロキシフラン(franc)、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキセン、ジエチルエーテル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシエトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの非プロトン性有機溶媒を用いることができ、前記有機溶媒は1つまたは2以上の有機溶媒の混合物であってもよい。
【0087】
前記有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリアジテーションリジン(Agitation lysine)、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、イオン性解離基を含む重合体などが用いられてもよい。
【0088】
前記無機固体電解質としては、例えば、LiN、LiI、LiNI、LiN−LiI−LiOH、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、LiSiS、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、LiPO−LiS−SiSなどのLiの窒化物、ハロゲン化物、硫酸塩などが用いられてもよい。
【0089】
本発明の電解質には充放電特性、難燃性などの改善を目的として、例えば、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、N−グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N−置換オキサゾリジノン、N,N−置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2−メトキシエタノール、三塩化アルミニウムなどが添加されてもよい。場合によっては、不燃性を付与するために、四塩化炭素、三フッ化エチレンなどのハロゲン含有溶媒を更に含んでもよく、高温保存特性を向上させるために、二酸化炭酸ガスを更に含んでもよく、フルオロ−エチレンカーボネート(FEC:Fluoro−ethylene carbonate)、プロペンスルトン(PRS:Propene sultone)、フルオロ−プロピレンカーボネート(FPC:Fluoro−propylene carbonate)などを更に含ませてもよい。
【0090】
前記電解質は液体電解質として用いることもでき、固体状態の電解質セパレーターの形態としても用いることができる。液体電解質として用いる場合には、電極を物理的に分離する機能を有する物理的な分離膜として多孔性ガラス、プラスチック、セラミック又は高分子などからなる分離膜を更に含む。
【0091】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示したに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変形及び修正が添付された特許請求の範囲に属するのも当然である。
【0092】
[実施例]
硫黄−炭素複合体の製造
[実施例1]
カーボンナノチューブ4.5gを130℃の真空オーブンで12時間熱処理した。乾燥されたカーボンナノチューブの水分含有量をMETROHM 860 KF Coulometer機器を使用して測定した結果、30ppmであった。
【0093】
この後、前記乾燥されたカーボンナノチューブを乾燥状態(Dry Room)で硫黄(Aldrich社のα−硫黄(sulfur))10.5gと、LK LABKOREA社で製作したLM−BS750(モデル名)のボールミリング装置を使用して、ボールミリング(ball milling)工程でミキシング(mixing)した後、155℃のオーブンで30分間熱処理し、硫黄−炭素複合体を製造した。前記ボールミリング工程は3mmサイズのジルコニアボールを用いて、300rpmのミリング条件で1時間行った。
【0094】
[比較例1]
未乾燥のカーボンナノチューブの水分含有量を実施例1と同様の方法で測定した結果、200ppmであった。乾燥されないカーボンナノチューブ4.5gを硫黄(Aldrich社のα−硫黄(sulfur))10.5gと、実施例1と同様の方法のボールミリング工程でミキシング(mixing)した後、155℃のオーブンで30分間熱処理して硫黄−炭素複合体を製造した。
【0095】
[比較例2]
比較例1と同一のカーボンナノチューブ1.5gを硫黄(Aldrich社のα−硫黄(sulfur))3.5gと乳鉢ミキシング(mixing)した後、155℃のオーブンで30分間熱処理して硫黄−炭素複合体を製造した。
【0096】
カーボンナノチューブの水分含有量の定量方法
前記実施例及び比較例において、カーボンナノチューブの水分含有量の定量方法は、電量(Coulometric)方式を使用した。これは、カールフィッシャー(Karl Fischer)反応を基礎としたもので、試料中の水分量は、ヨウ素(Iodine)を生成するために利用される電子のモル(mole)数から計算される。Faraday法則によれば、電解反応によって1モル(mole)の化学種を生成するのに必要な電気量は96485C/molであり、これは、1mAの電気量を100秒間供給したとき、1.03μmolのIが生成されるということである。このように生成されたIはカールフィッシャー(Karl Fischer)反応に参加することになり、生成されるIがμmol単位で微量の水分結晶が可能である。したがって、ヨウ素(Iodine)を作成するとき、使われる電流を測定し、この電流値から水分量を決定した。
【0097】
実験例1:硫黄−炭素複合体のX線回折分析(XRD)の結果
実施例1及び比較例1〜2で製造された硫黄−炭素複合体に対し、X線回折分析(X−ray Diffraction Spectroscopy,Mettler−Toledo,TGA2)分析を実施し、その結果を図1に示した。
【0098】
図1に示すように、実施例1で製造された硫黄−炭素複合体に含まれた硫黄の相(phase)はα−相(phase)の硫黄、β−相(phase)の硫黄及びロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄が混合された混合相(Mixed Phase)に変換されたことが分かった。これに反して、比較例1で製造された硫黄−炭素複合体の硫黄の相(phase)はβ−相(phase)の硫黄のみ単独で現れ、比較例2で製造された硫黄−炭素複合体の硫黄の相(phase)はα−相(phase)の硫黄のみ単独で現れたことを確認することができた。
【0099】
実験例2:電池性能の評価
実施例1及び比較例1〜2で製造された硫黄−炭素複合体を用いて、硫黄−炭素複合体:導電材:バインダー=90:5:5の重量比でスラリーを製造した後、20μm厚さのアルミニウムホイルの集電体にコーティングして電極を製造した。このとき、導電材としてカーボンブラックを、バインダーとしてはスチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースを用いた。製造された電極を50℃のオーブンで一晩(overnight)乾燥し、リチウム−硫黄電池用正極を製造した。
【0100】
前記リチウム−硫黄電池用正極を正極として用い、分離膜としてポリエチレンを用い、負極として50μm厚さのリチウムホイル用いて、リチウム−硫黄電池コインセルを製造した。このとき、前記コインセルはジエチレングリコールジメチルエーテルと1,3−ジオキソラン(DEGDME:DOL=6:4体積比)からなる有機溶媒に1M LiFSI、1% LiNOを溶解させて製造された電解質を用いた。
【0101】
製造されたコインセルを充放電測定装置を利用して、0.1Cで3回充放電を行った後、0.3Cを印加して充放電試験を行い、その結果を表1及び図2に示した。
【0102】
【表1】
【0103】
前記表1のように、実施例1の初期放電容量が最も優れることが分かり、図2の充放電プロファイル(profile)を考察すると、同じ含有量の硫黄を用いた実施例1及び比較例1の複合体を用いた電池を比較するとき、実施例1の複合体を用いたグラフが右側に多く進行して、同一の硫黄(sulfur)の量対比放電容量が増加したことが分かり、同一のローディングにおいて実施例1の反応性が向上することが分かった。これは、α−相(phase)の硫黄、β−相(phase)の硫黄及びロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄が混合された混合相(Mixed Phase)である実施例1で製造された硫黄−炭素複合体と、β−相(phase)の硫黄のみ単独で含む比較例1で製造された硫黄−炭素複合体の硫黄の相(Phase)の差によるものである。
【0104】
また、比較例2の場合、乳鉢ミキシングを使用したもので、これを大量に作るために比較例1のボールミル工程を使用すると、上記にて考察した比較例1の結果と同様に、放電容量の減少が必然的という問題があることが分かった。
【0105】
したがって、比較例2のように乳鉢ミキシングで少量製造するのではなく、比較例1のようにボールミル工程で大量製造するように製造工程の規模を大きくしたとき、必然的に減少することになる放電容量を、本願実施例1のようにロシキーアイト相(Rosickyite phase)の硫黄を導入することにより、改善することができることが分かった。
図1
図2