【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、モリブデン酸化物前駆体物質と水溶性セルロースとを含む混合水溶液を製造する段階(段階1);および前記混合水溶液を、50〜100℃に昇温した後に無機酸を添加して反応させる段階(段階2)を含む、六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)の製造方法を提供する。
以下、各段階ごとに本発明を詳しく説明する。
【0008】
モリブデン酸化物前駆体物質と水溶性セルロースとを含む混合水溶液の製造段階(段階1)
本発明は、モリブデン酸化物前駆体物質を含む水溶液でモリブデン酸化物前駆体物質を低温沈殿させて、ナノロッド(nano rod)形状の六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)を合成することを特徴とする。
【0009】
前記段階1は、後続の段階でモリブデン酸化物前駆体物質が無機酸を用いた沈殿反応により生成されるモリブデン酸化物が六方晶系(hexagonal)結晶構造のナノロッド(nano rod)形状を有するように、構造形成製剤(structuring agent)としてカルボキシメチルセルロース(CMC、carboxymethyl cellulose)などの水溶性セルロースを含む混合水溶液を製造する段階である。
【0010】
まず、前記段階1で使用するモリブデン酸化物前駆体物質は、後続の低温沈殿反応で六方晶系(hexagonal)結晶構造のナノロッド(nano rod)形状が形成されるようにする面から、水溶液で安定した特徴を有する物質を使用することができる。好ましくは、前記モリブデン酸化物前駆体物質は、モリブデン酸アンモニウム(ammonium molybdate)、モリブデン酸ナトリウム(sodium molybdate)などのモリブデン酸塩や、バルクMoO
3をアンモニア水に溶解した溶液状態のMoO
3−アンモニア(MoO
3−ammonia)溶液のうちの1種以上が挙げられる。
【0011】
前記段階1の混合水溶液におけるモリブデン酸化物前駆体物質の濃度は、Mo金属を基準として、約20mM〜2400mM、あるいは約50mM〜2200mM、あるいは約100mM〜2000mMであってもよい。前記モリブデン酸化物前駆体物質の濃度が約20mM未満の場合には、MoO
3の溶解による収率が低下し、MoO
3が全く生成されない問題が発生することがある。また、前記モリブデン酸化物前駆体物質の濃度が約2400mM超過の場合には、段階1の混合水溶液でモリブデン酸化物前駆体が溶解せず、六方晶系(hexagonal)結晶構造のナノロッド(nano rod)と混ざり合う問題が発生することがある。
【0012】
前記段階1で使用する水溶性セルロースは、セルロース(cellulose)官能基とモリブデン酸化物前駆体との間の相互作用により、モリブデン酸化物が後続の低温沈殿反応で六方晶系(hexagonal)結晶構造のナノロッド(nano rod)形状を有するようにする。好ましくは、前記水溶性セルロースは、水に一定量以上溶解し、セルロース(cellulose)官能基を有する特徴があるものを使用することができる。特に、カルボキシメチルセルロースを用いずに沈殿反応を行う場合に生成されるモリブデン酸化物は、マイクロ(micro)サイズの粒子が生成されたり、ナノサイズの粒子が生成されるとしてもプレート形状や非晶質形状が得られ、本発明のような薄くて長いナノロッド(nano rod)形状が得られない問題がある。
【0013】
特に、前記段階1の混合水溶液において、水溶性セルロースは、後続の段階でモリブデン酸化物が六方晶系(hexagonal)結晶構造のナノロッド(nano rod)形状を有するようにする構造形成製剤(structuring agent)として使用される。このような水溶性セルロースを用いて、高温高圧の水熱合成法を適用しなくても常圧の低温沈殿反応でもナノロッド(nano rod)形状の六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)を容易に製造することができる。このような水溶性セルロースとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC、carboxymethyl cellulose)、ヒドロキシエチルセルロース(hydroxyethyl cellulose)、ヒドロキシプロピルセルロース(hydroxypropyl cellulose)などの1種以上が挙げられる。
【0014】
本発明では、前記段階1で水溶性セルロースを用いてモリブデン酸化物前駆体物質を含む水溶液を製造することにより、既に知られたイオン交換法による陽イオン交換工程などを追加的に行わなくても、陽イオンの種類による変化なしに同一の効果を得ることができて、全体工程段階を簡素化するという利点がある。
【0015】
前記段階1の混合水溶液において、水溶性セルロースの濃度は、水溶液に投入する水の体積を基準として、約5g/L〜100g/L、あるいは約6g/L〜90g/L、約6.5g/L〜80g/Lであってもよい。前記カルボキシメチルセルロース(CMC、carboxymethyl cellulose)の濃度が約5g/L未満の場合には、MoO
3ナノロッド(nanorod)が形成されず、マイクロ(mirco)粒子が形成される問題が発生することがある。さらに、前記水溶性セルロースの濃度が約100g/Lを超える場合には、MoO
3沈殿自体が生成されない問題が発生することがある。
【0016】
また、前記段階1の混合水溶液において、前記モリブデン酸化物前駆体物質と水溶性セルロースの重量比は、1:0.05〜1:5、あるいは1:0.1〜1:4、あるいは1:0.15〜1:3が好ましい。前記重量比が1:0.05未満の場合には、後続の段階で沈殿反応により生成されるモリブデン酸化物の形状が均一に調節されないことがあり、前記重量比が1:5超過の場合には、モリブデン酸化物の沈殿が生じないことがある。
【0017】
一方、前記段階1において、前記混合水溶液に炭素ナノ繊維(carbon nano fiber)、炭素ナノチューブ(carbon nano tube)、酸化グラフェン(graphene oxide)などの炭素系導電材料1種以上を追加的に添加して、六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)を含む複合体を製造することができる。特に、このように得られた六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)と炭素ナノ繊維(carbon nano fiber)、炭素ナノチューブ(carbon nano tube)、酸化グラフェン(graphene oxide)などの炭素系導電材料の複合体は、シュードキャパシタ用電極材料への適用時、優れたエネルギー貯蔵能力と共に導電度を向上させて高い出力特性を示すことができる。
【0018】
この時、前記モリブデン酸化物前駆体物質と炭素系導電材料の重量比は、1:0.01〜1:0.5、あるいは1:0.01〜1:0.4、あるいは1:0.015〜1:0.3が好ましい。前記重量比が1:0.01未満の場合には、炭素系導電材料による導電性向上効果がわずかであり、前記重量比が1:0.5超過の場合には、活性MoO
3の比率が減少して比静電容量が低くなる。
【0019】
前記段階1の混合水溶液を製造する段階は、具体的には、約20〜25℃の常温で約0.5〜1.5気圧、好ましくは約1気圧程度の常圧条件下で行うことができる。
【0020】
前記段階1の混合水溶液に無機酸を添加して反応させる段階(段階2)
前記段階2は、前記段階1の混合水溶液を、約50〜100℃に昇温した後に無機酸を添加して反応させることによって、最終的に六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)を製造する段階である。
【0021】
前記無機酸は、pHを約2以下または0.1〜2、好ましくは約1以下または約0.2〜1に十分に低下させる強酸成分であれば良く、この分野に使用可能と知られた成分であれば特別な制約なく適用可能である。例えば、塩酸、硝酸、硫酸、臭素酸などの酸成分のうちの1種以上を使用することができる。特に、工程の便宜およびコスト節減の面からは、塩酸、硝酸を使用することがより好ましい。
【0022】
前記無機酸の使用量は特に限らないが、前記段階1で使用したモリブデン酸化物前駆体物質と無機酸のモル比が1:0.5〜1:2、あるいは1:0.6〜1:1.8、あるいは1:0.7〜1:1.6となるように使用することが好ましい。前記モル比が1:0.6未満の場合には、前記無機酸の使用による効果がわずかで沈殿が発生せず、前記モル比が1:2超過の場合には、反応効果が実質的により増加しないことがある。
【0023】
また、前記段階2の反応は、無機酸を添加した後、反応液のpHを約2以下または約0.1〜2、好ましくは約1以下または約0.2〜1に調節して行うことが好ましい。
【0024】
一方、前記段階2は、前記段階1の混合水溶液を、反応温度の約50℃以上に昇温させた後に、無機酸を添加して行うことができる。前記無機酸を約50℃未満の温度で投入する場合には、モリブデン−セルロース複合体の形成によって粒子の均一性に問題がある。
【0025】
前記段階2の反応は、約50℃〜約100℃、好ましくは約55℃〜約90℃、より好ましくは約65℃〜約85℃の高温で行うことができる。前記反応温度が約50℃未満の場合には、無機酸を添加しても前記段階2の反応が十分に進行せず、モリブデン酸化物のナノロッド(nanorod)ではない、マイクロ粒子が生成される。また、混合水溶液に含まれている水の沸点によって、前記反応温度が100℃を超える場合には、別途の水熱反応器、コンデンサなどの追加の工程設備が必要になる全体工程効率および費用の増加が生じる。
【0026】
前記段階2の反応時間は、約2時間〜55時間、または好ましくは約3〜50時間、より好ましくは約6〜48時間であってもよい。前記反応時間が約2時間未満の場合には、無機酸との反応が十分になされず、六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)が生成されないことがある。また、前記段階2の反応時間が約55時間を超える場合には、実質的に反応がさらに進行しないことがある。
【0027】
さらに、前記段階2の沈殿反応は、約0.5気圧〜約1.5気圧、好ましくは約1気圧程度の常圧範囲で行うことができる。前記反応圧力が約0.5気圧未満の場合には、水蒸発による濃度変化および追加の設備が必要になる。さらに、前記反応圧力が約1.5気圧を超える場合には、別途の水熱反応器、コンデンサなどの追加の工程設備が必要になる。
【0028】
一方、前記段階1の混合水溶液に炭素ナノ繊維(carbon nano fiber)、炭素ナノチューブ(carbon nano tube)、酸化グラフェン(graphene oxide)などの炭素系導電材料を1種以上追加的に添加した場合に、具体的には、超音波分散機などにより炭素系導電材料を十分に分散させた後、無機酸を添加して沈殿反応を行う段階2を行うことが好ましい。炭素系導電材料が十分に分散しない場合、炭素系導電材料の凝集によって導電度向上効果を十分に得にくい。
【0029】
また、前記段階2を行った後に、生成された六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)と炭素ナノ繊維(carbon nano fiber)、炭素ナノチューブ(carbon nano tube)、酸化グラフェン(graphene oxide)などの炭素系導電材料の複合体に対して、水素を含むガスの雰囲気下で熱処理する段階を追加的に含んでもよい。このような熱処理工程により、h−MoO
3の部分的還元とCNFなどの炭素系導電材料の表面改質による追加的な導電度向上とそれによるエネルギー貯蔵能力の改善効果を得ることができる。
【0030】
前記熱処理段階は、具体的には、4vol%のH
2/Arガスを投入する条件下、約200℃〜350℃、あるいは約220℃〜約340℃の温度で行うことができる。前記熱処理工程が約200℃未満で行われる場合には、前記熱処理段階による粒子の結晶化効果などを十分に得にくいことがある。また、前記熱処理工程条件が約350℃を超える場合には、ナノロッドの凝集と斜方晶系(orthorhombic)形態のモリブデン酸化物(MoO
3)への転換が行われ、結果的に、斜方晶系(orthorhombic)形態のモリブデン酸化物(MoO
3)マイクロ粒子(micro particle)が形成されることがある。
【0031】
六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)
また、本発明は、上述した製造方法で製造される六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)を提供する。
【0032】
本発明の酸化モリブデンは、六方晶系(hexagonal)結晶構造のh−MoO
3を有することを特徴とする。ここで、六方晶系は、六方晶系結晶系の結晶構造を称する。特に、既存の斜方晶系(orthorhombic)結晶構造のα−MoO
3が1.5個のリチウムイオンの貯蔵が可能であるのに対し、h−MoO
3には1.6個のリチウムイオンの貯蔵が可能でより高い容量を有することができる。
【0033】
また、前記六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)は、ナノロッド(nano rod)形状を有するもので、既存のプレート(plate)形態の板状形や非結晶形態や顆粒形態のナノ粒子ではない、薄くて長い棒状を有することを特徴とする。このようなナノロッド(nano rod)形状を有する場合に、広い表面積と容易な電子伝達を特徴とし、高い比静電容量を期待することができる。
【0034】
特に、前記六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)は、直径が約30nm〜約500nmであり、長さが約0.8μm〜約10μmであってもよい。具体的には、前記六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)の直径は、約40nm〜約400nm、あるいは約50nm〜約300nmであってもよく、長さは、約0.9μm〜約8μm、あるいは約1μm〜約4.5μmであってもよい。
【0035】
また、本発明により製造された六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)は、ナノロッド(nano rod)形状を有することを特徴とし、
長さに対する直径の縦横比が約1:2〜約1:100、または約1:5〜約1:50、または約1:10〜約1:40であってもよい。
【0036】
前記六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)は、表面積が広いため、炭素系導電材料、例えば、炭素ナノ繊維(carbon nano fiber)、カーボンブラック、炭素ナノチューブのような材料とうまく混合できる。これにより、前記六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)と炭素系導電材料との複合体形態で提供可能である。
【0037】
シュードキャパシタ用負極
また、本発明は、上述のような六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)を含むシュードキャパシタ用負極を提供する。
特に、前記シュードキャパシタ用負極は、前記六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)を炭素系導電材料との複合体形態で含むことができる。
【0038】
ここで、前記六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)の具体的な結晶構造と形状などと製造方法、および炭素系導電材料の種類などは上述した通りであり、詳細な説明は省略する。
【0039】
また、前記シュードキャパシタ用負極は、前記六方晶系酸化モリブデン(h−MoO
3)ナノロッド(nano rod)のほか、バインダーおよび導電材を追加的に含むことができる。一例として、前記シュードキャパシタ用負極は、カーボンブラック、アセチレンブラック、活性炭素、炭素ナノチューブ、およびバルカンカーボン(Vulcan carbon)からなる群より選択された1種以上の導電材を追加的に含んでもよい。このうち、価格および利便性の面から、カーボンブラック、アセチレンブラックなどを使用することが好ましい。さらに、前記シュードキャパシタ用負極は、ポリビニリデンフルオライド(PDVF、poly−vinylidene fluoride)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、polytetrafluoroethylene)、ナフィオン(Nafion)、およびカルボキシメチルセルロース(CMC、carboxymethyl cellulose)からなる群より選択された1種以上のバインダーを追加的に含んでもよい。このうち、電解質における構造安定性の面から、PVDF、PTFEなどを使用することが好ましい。