特許第6953965号(P6953965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6953965抗菌・抗カビ性を有する光触媒・合金微粒子分散液、その製造方法、及び光触媒・合金薄膜を表面に有する部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6953965
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】抗菌・抗カビ性を有する光触媒・合金微粒子分散液、その製造方法、及び光触媒・合金薄膜を表面に有する部材
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20211018BHJP
   B01J 37/10 20060101ALI20211018BHJP
   B01J 37/12 20060101ALI20211018BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20211018BHJP
   B01J 23/14 20060101ALI20211018BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20211018BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20211018BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20211018BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20211018BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20211018BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20211018BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   B01J35/02 J
   B01J35/02 H
   B01J37/10
   B01J37/12
   B01J37/04 102
   B01J23/14 M
   C09D5/02
   C09D1/00
   C09D7/40
   A01P3/00
   A01N59/16 A
   A01N59/20
   A01N59/16 Z
   A01N25/02
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-190061(P2017-190061)
(22)【出願日】2017年9月29日
(65)【公開番号】特開2019-63712(P2019-63712A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2019年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古舘 学
(72)【発明者】
【氏名】井上 友博
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0177504(US,A1)
【文献】 特許第6106796(JP,B1)
【文献】 特許第4107512(JP,B1)
【文献】 特開平11−241107(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/073695(WO,A1)
【文献】 特開2001−246689(JP,A)
【文献】 特開2013−073828(JP,A)
【文献】 特開2005−060444(JP,A)
【文献】 特開2013−099919(JP,A)
【文献】 特開2010−247450(JP,A)
【文献】 特開2004−183030(JP,A)
【文献】 特開2013−126654(JP,A)
【文献】 特開2014−080851(JP,A)
【文献】 特開平11−228306(JP,A)
【文献】 特許第2686638(JP,B2)
【文献】 国際公開第2010/131653(WO,A1)
【文献】 特開2017−149887(JP,A)
【文献】 特開2016−173979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
A61L 9/00−9/22
C09D 1/00−10/00,101/00−201/10
B22F 9/00−9/30
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散媒中に、i)酸化チタン微粒子とii)抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子との2種類の微粒子が分散され、更に、バインダーが含有されていることを特徴とする抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液であって、i)の酸化チタン微粒子の分散粒子径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)で、5〜30nmであり、i)の酸化チタン微粒子とii)の抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子の2種類の微粒子の混合物の分散粒子径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)で、5〜100nmであり、i)の酸化チタン微粒子とii)の合金微粒子の分散液中の微粒子の重量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が、1〜100,000であることを特徴とする抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液。
【請求項2】
ii)の抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子に含有される抗菌・抗カビ性金属が、銀、銅、亜鉛から選ばれる、少なくとも1種類の金属であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液。
【請求項3】
ii)の抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子に含有される抗菌・抗カビ性金属が、少なくとも銀を含有することを特徴とする請求項に記載の抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液。
【請求項4】
ii)の抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子に含有される抗菌・抗カビ性金属が、合金微粒子の全重量に対して1〜100質量%であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液。
【請求項5】
バインダーがケイ素化合物系バインダーであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液に係る、i)酸化チタン微粒子とii)抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子との2種類の微粒子とバインダーとを含有する抗菌・抗カビ性光触媒・合金薄膜を表面に有する部材。
【請求項7】
(1)原料チタン化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、ペルオキソチタン酸溶液を製造する工程、
(2)上記(1)の工程で製造したペルオキソチタン酸溶液を、圧力制御の下、80〜250℃で加熱し、酸化チタン微粒子分散液を得る工程、
(3)原料抗菌・抗カビ性金属化合物を含む溶液と該金属化合物を還元するための還元剤を含む溶液とを製造する工程、
(4)上記(3)の工程で製造した原料抗菌・抗カビ性金属化合物を含む溶液と該金属化合物を還元するための還元剤を含む溶液とを混合して合金微粒子分散液を製造する工程、
(5)上記(4)の工程で製造した合金微粒子分散液を膜ろ過法により水性分散媒で洗浄する工程、
(6)上記(2)と(5)の工程で得られた酸化チタン微粒子分散液と合金微粒子分散液とを混合する工程、
を有し、上記(2)の工程において、酸化チタン微粒子の分散粒子径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)で、5〜30nmであり、上記(6)の工程において、酸化チタン微粒子と合金微粒子の2種類の微粒子の混合物の分散粒子径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)で、5〜100nmであり、酸化チタン微粒子と合金微粒子の分散液中の微粒子の重量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が、1〜100,000であることを特徴とする抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗カビ性を有する光触媒・合金微粒子分散液、その製造方法及び該分散液を用いて形成される光触媒・合金薄膜を表面に有する部材に関し、更に詳細には、光照射の有無に関わらず、抗菌・抗カビ性を示す、透明性の高い光触媒薄膜を簡便に作製することができる光触媒・合金微粒子分散液、その製造方法、及び該分散液を用いて形成される光触媒・合金薄膜を表面に有する部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者から、生活用品に対して「安全・安心」、「健康・快適」が求められている。特に「安全・安心」に大きく関わっている微生物汚染防止に関する関心は高く、身の回りの様々な製品に抗菌・抗カビ性能が求められている。
【0003】
抗菌・抗カビ剤は有機系材料と無機系材料に大別できる。従来、多用されてきた有機合成系抗菌・抗カビ剤は安価で少量でも効果があるものの、特定の微生物のみにしか効果を発揮できないことが多く、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌、カビなどでその効果に大きな違いがある場合があり、また、耐性菌が発現しやすい、耐熱性が悪い、即効性には優れるが持続性が低い等の問題がある。更に、人体や環境への影響の懸念も高まってきており、抗菌剤については無機系が主流になりつつある。しかしながら、抗カビ剤については無機系では効果が弱いため、現在でも有機系抗カビ剤が大半を占めている状況である。
【0004】
光触媒材料は、近年、無機系抗菌・抗カビ剤として注目を集めてきており、基材表面の清浄化、脱臭、抗菌等の用途で実用化が進んでいる。光触媒反応とは、酸化チタンが光を吸収することによって生じた励起電子及び正孔が起こす反応のことをいう。抗菌剤として作用する機構としては、光触媒反応により酸化チタン表面に生成した励起電子及び正孔が酸化チタン表面に吸着している酸素や水と酸化還元反応を行い、発生させた活性種が微生物に作用し、細胞膜損傷を引き起こして死滅させ、また、長時間作用することで最終的には分解まで至ることによるものであると考えられる。そのため、カビを含む、広く様々な種類の微生物に効果を発揮でき、耐性菌の出現する可能性も低いこと、また、経時劣化がほとんどないことなどがその強みと言える。
【0005】
しかしながら、光触媒反応は、紫外領域の光(波長10〜400nm)や可視領域の光(波長400〜800nm)の照射により引き起こされるものであるため、自然光や人工光の当たらない暗所では原理的にその効果は得られない。一方で、細菌や真菌(カビ)は、光がなくても増殖するため、抗菌・抗カビ製品のように要望される期間、性能の持続性を要求される製品には、光が当たらない暗所でも抗菌・抗カビ性を発現する光触媒材料が求められている。
【0006】
上記のような課題に対応するため、光触媒と光触媒以外の抗菌・抗カビ剤との併用により、光触媒の機能を補完した光触媒材料の検討が行われている。光触媒は、有機物を分解することから、無機系の抗菌・抗カビ剤を使用することが適当である。例えば、特開2000−051708号公報及び特開2008−260684号公報(特許文献1及び2)では、抗菌・抗カビ成分として銀や銅を添加して、暗所での抗菌性や抗カビ性を獲得させることを開示している。
【0007】
一般的に、光触媒は、光触媒粒子を溶媒に分散させ、造膜成分を混合して塗料化して基材に塗布して使用されるが、上記のように、抗菌・抗カビ性能向上のために銀、銅、亜鉛などの金属成分を添加すると、実用上の問題点が発生することが多かった。即ち、銀、銅、亜鉛などの金属やその化合物を担持する方法として、光触媒粒子粉末に金属原料を反応させて担持させる場合は、これを後から溶媒中に分散させるのに多大な労力を必要とするために好ましくなく、光触媒粒子を予め分散させた分散液に金属原料を添加する場合は、光触媒粒子の分散安定性が阻害されて凝集を引き起こす原因となり、様々な基材にこの光触媒薄膜を形成するときに実用上必要とされる透明性を得るのが難しいことが多かった。
【0008】
また、光触媒の原料に銀、銅、亜鉛などの金属やその化合物を添加した後に熱処理を行い、抗菌・抗カビ性金属を含有した光触媒粒子を得る方法では、光触媒粒子の結晶性が低下するために、得られる光触媒機能が低下し、また、抗菌・抗カビ性金属の一部は酸化チタンに覆われて表面に出てこなくなるため、得られる抗菌・抗カビ性も低下するという問題があった。
【0009】
また、暗所での抗菌・抗カビ性を向上させるために銀、銅、亜鉛などの金属やその化合物を多く添加すると、光触媒に届く光量が低下してしまうことなどから、得られる光触媒機能が低下するという問題もあり、実用に足る抗菌・抗カビ性と、様々な基材に応用するために必要とされる透明性を併せ持った光触媒薄膜はこれまで存在しなかった。
【0010】
ところで、銀粒子は他の物質には見られない光学的、電気的、熱的特性を持っているために、様々な分野で利用されており、比較的低い濃度でも抗菌効果が期待できること、真菌を含む広い抗菌スペクトルを有すること、人体への安全性も高いことなどから、抗菌性コーティングに利用されることがある。しかしながら、銀は環境中に微量に存在する硫化水素などの硫黄分と反応して硫化銀になりやすく、これに伴う変色や、抗菌効果の減衰などが課題となっている。
【0011】
一方で、特開2015−034347号公報(特許文献3)によれば、合金は、それを構成する金属元素単体とは異なる性質を示すため、新規な合金を作製することによって、従来の単一金属では得られなかった特性の発現が期待されている。例えば、特開平11−217638号公報(特許文献4)によれば、銀の耐硫化性の向上手段として銀の合金化が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−051708号公報
【特許文献2】特開2008−260684号公報
【特許文献3】特開2015−034347号公報
【特許文献4】特開平11−217638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、光照射の有無に関わらず、抗菌・抗カビ性を示す、透明性の高い光触媒・合金薄膜を簡便に作製することができる光触媒・合金微粒子分散液、その製造方法、及び該分散液を用いて形成される光触媒・合金薄膜を表面に有する部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、水性分散媒中に、酸化チタン微粒子と抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子との2種類の微粒子が分散されている光触媒・合金微粒子分散液が、光照射の有無に関わらず、高い抗菌・抗カビ性を示し、透明性も高い光触媒・合金薄膜が簡便に作製できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0015】
従って、本発明は、下記に示す抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液、その製造方法及び光触媒微粒子と抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子との2種類の微粒子とバインダーとを含有する抗菌・抗カビ性光触媒・合金薄膜を表面に有する部材を提供する。
〔1〕
水性分散媒中に、i)酸化チタン微粒子とii)抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子との2種類の微粒子が分散され、更に、バインダーが含有されていることを特徴とする抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液であって、i)の酸化チタン微粒子の分散粒子径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)で、5〜30nmであり、i)の酸化チタン微粒子とii)の抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子の2種類の微粒子の混合物の分散粒子径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)で、5〜100nmであり、i)の酸化チタン微粒子とii)の合金微粒子の分散液中の微粒子の重量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が、1〜100,000であることを特徴とする抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液。

ii)の抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子に含有される抗菌・抗カビ性金属が、銀、銅、亜鉛から選ばれる、少なくとも1種類の金属であることを特徴とする〔1〕に記載の抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液。

ii)の抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子に含有される抗菌・抗カビ性金属が、少なくとも銀を含有することを特徴とする〔〕に記載の抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液。

ii)の抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子に含有される抗菌・抗カビ性金属が、合金微粒子の全重量に対して1〜100質量%であることを特徴とする〔1〕〜〔〕のいずれかに記載の抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液。

バインダーがケイ素化合物系バインダーであることを特徴とする〔1〕〜〔〕のいずれかに記載の抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液。

〔1〕〜〔〕のいずれかに記載の抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液に係る、i)酸化チタン微粒子とii)抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子との2種類の微粒子とバインダーとを含有する抗菌・抗カビ性光触媒・合金薄膜を表面に有する部材。

(1)原料チタン化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、ペルオキソチタン酸溶液を製造する工程、
(2)上記(1)の工程で製造したペルオキソチタン酸溶液を、圧力制御の下、80〜250℃で加熱し、酸化チタン微粒子分散液を得る工程、
(3)原料抗菌・抗カビ性金属化合物を含む溶液と該金属化合物を還元するための還元剤を含む溶液とを製造する工程、
(4)上記(3)の工程で製造した原料抗菌・抗カビ性金属化合物を含む溶液と該金属化合物を還元するための還元剤を含む溶液とを混合して合金微粒子分散液を製造する工程、
(5)上記(4)の工程で製造した合金微粒子分散液を膜ろ過法により水性分散媒で洗浄する工程、
(6)上記(2)と(5)の工程で得られた酸化チタン微粒子分散液と合金微粒子分散液とを混合する工程、
を有し、上記(2)の工程において、酸化チタン微粒子の分散粒子径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)で、5〜30nmであり、上記(6)の工程において、酸化チタン微粒子と合金微粒子の2種類の微粒子の混合物の分散粒子径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)で、5〜100nmであり、酸化チタン微粒子と合金微粒子の分散液中の微粒子の重量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が、1〜100,000であることを特徴とする抗菌・抗カビ性光触媒・合金微粒子分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光照射の有無に関わらず、高い抗菌・抗カビ性を示す、透明性の高い光触媒・合金薄膜を簡便に作製することができる光触媒・合金微粒子分散液、その製造方法、及び該分散液を用いて形成される光触媒・合金薄膜を表面に有する部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の抗菌・抗カビ性を有する光触媒・合金微粒子分散液、その製造方法及び光触媒・合金薄膜を表面に有する部材について詳細に説明する。
【0018】
<光触媒・合金微粒子分散液>
本発明の光触媒・合金微粒子分散液は、水性分散媒中に、i)光触媒微粒子とii)抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子との2種類の微粒子が分散されているものであり、後述するように、特に、別々に調製した、光触媒(酸化チタン)微粒子分散液と抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子分散液との2種類の微粒子分散液を混合して製造したものである。
【0019】
光触媒微粒子分散液
本発明において、光触媒とは、所定のバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射することにより、光触媒作用を示す物質の総称を指す。このような物質として、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化鉄、酸化ビスマス、バナジン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムなどの公知の金属酸化物半導体の微粒子を1種又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。中でも、400nm以下の紫外光を含む光線の照射下で、特に高い光触媒作用を有し、化学的に安定で、ナノサイズ粒子の合成やそのナノサイズ粒子の溶媒への分散が比較的容易である酸化チタン微粒子を使用することが望ましい。
【0020】
酸化チタン微粒子の結晶相としては、通常、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の3つが知られているが、主として、アナターゼ型又はルチル型を利用することが好ましい。なお、ここでいう「主として」とは、酸化チタン微粒子結晶全体のうち、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上含有することを意味し、100質量%であってもよい。
【0021】
酸化チタン微粒子としては、その光触媒活性を高めるために、酸化チタン微粒子に、白金、金、パラジウム、鉄、銅、ニッケルなどの金属化合物を担持させたものや、錫、窒素、硫黄、炭素などの元素をドープさせたものを利用することもできる。
【0022】
光触媒微粒子分散液の水性分散媒としては、通常、水性溶媒が使用され、水を用いることが好ましいが、水と任意の割合で混合される親水性有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。水としては、例えば、脱イオン水、蒸留水、純水等が好ましい。また、親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、エチレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル等のグリコールエーテル類が好ましい。混合溶媒を用いる場合には、混合溶媒中の親水性有機溶媒の割合が0質量%より多く、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0023】
光触媒(酸化チタン)微粒子分散液中のi)の酸化チタン微粒子の分散粒子径は、レーザー光を用いた動的光散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)(以下、「平均粒子径」ということがある。)が、5〜30nmであることが好ましく、より好ましくは5〜20nmである。これは、平均粒子径が、5nm未満の場合、光触媒活性が不十分になることがあり、30nm超過の場合、分散液が不透明となることがあるためである。なお、平均粒子径を測定する装置としては、例えば、ELSZ−2000ZS(大塚電子(株)製)、ナノトラックUPA−EX150(日機装(株)製)、LA−910(堀場製作所(株)製)等を使用することができる。
【0024】
光触媒(酸化チタン)微粒子分散液中の酸化チタン微粒子の濃度は、後述される所要の厚さの光触媒・合金薄膜の作製し易さの点で、0.01〜30質量%が好ましく、特に0.5〜20質量%が好ましい。
【0025】
ここで、光触媒(酸化チタン)微粒子分散液の濃度の測定方法は、酸化チタン微粒子分散液の一部をサンプリングし、105℃で3時間加熱して溶媒を揮発させた後の不揮発分(酸化チタン微粒子)の質量とサンプリングした酸化チタン微粒子分散液の質量から、次式に従い算出することができる。
酸化チタン微粒子分散液の濃度(%)=〔不揮発分質量(g)/酸化チタン微粒子分散液質量(g)〕×100
【0026】
抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子分散液
本発明において、合金微粒子は、抗菌・抗カビ性を高める金属成分を少なくとも1種以上含んだ、2種以上の金属成分からなるものである。
抗菌・抗カビ性を高める金属成分とは、菌やカビなどの微生物には有害であるが、人体には比較的害の少ない金属成分のことを指し、例えば、フィルムに金属成分粒子をコーティングし、JIS Z 2801 抗菌加工製品の規格試験を行った場合、黄色ブドウ球菌や大腸菌の生菌数の減少が確認される、銀、銅、亜鉛、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、チタン、コバルト、ジルコニウム、モリブデン、タングステンなどが挙げられる(参考文献1、2)。
本発明の合金微粒子は、これらのうち少なくとも1種の金属を含む合金であることが好ましく、特に、銀、銅、亜鉛のうち少なくとも1種の金属を含む合金であることが好ましい。
参考文献1:宮野、鉄と鋼、93(2007)1、57−65
参考文献2:H.Kawakami、ISIJ Intern.,48(2008)9, 1299−1304
【0027】
更に具体的には、例えば、銀銅、銀パラジウム、銀白金、銀錫、金銅、銀ニッケル、銀アンチモン、銀銅錫、金銅錫、銀ニッケル錫、銀アンチモン錫、白金マンガン、銀チタン、銅錫、コバルト銅、亜鉛マグネシウム、銀亜鉛、銅亜鉛、銀銅亜鉛などの金属成分の組み合わせを含む合金微粒子を挙げることができる。
【0028】
合金微粒子中の抗菌・抗カビ性を高める金属成分以外の金属成分は、特に限定されないが、例えば、金、アンチモン、錫、ナトリウム、マグネシウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、イットリウム、ニオブ、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、インジウム、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、タンタル、レニウム、オスミウム、イリジウム、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウム、ラジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、アクチニウム、トリウムのうち、少なくとも1種類から選ぶことができる。
【0029】
合金微粒子中の抗菌・抗カビ性を高める金属成分の含有量は、抗菌・抗カビ性金属が、合金微粒子の全重量に対して、1〜100質量%、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%とすることができる。これは、抗菌・抗カビ性を高める金属成分が1質量%未満の場合、抗菌・抗カビ性能が十分発揮されないことがあるためである。
【0030】
合金微粒子分散液の水性分散媒には、通常、水性溶媒が使用され、水、水と混合可能な水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒の混合溶媒を用いることが好ましい。水としては、例えば、脱イオン水、蒸留水、純水等が好ましい。また、水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、2−ピロリドン、N−メチルピロリドンなどの水溶性の含窒素化合物、酢酸エチルなどが挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
合金微粒子分散液中のii)の合金微粒子の分散粒子径は、レーザー光を用いた動的光散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)(以下、「平均粒子径」ということがある。)が、200nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは70nm以下である。平均粒子径の下限値については、特に限定されず、理論上、抗菌・抗カビ性を有し得る最小の粒子径のものまで使用可能ではあるが、実用上は1nm以上であることが好ましい。また、平均粒子径が200nm超過の場合、分散液が不透明となることがあるため好ましくない。なお、平均粒子径を測定する装置としては、例えば、ELSZ−2000ZS(大塚電子(株)製)、ナノトラックUPA−EX150(日機装(株)製)、LA−910(堀場製作所(株)製)等を使用することができる。
【0032】
合金微粒子分散液中の合金微粒子の濃度は特に限定されないが、一般に濃度が薄いほど分散安定性がよいので、0.0001〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.001〜5質量%、更に好ましくは0.01〜1質量%である。0.0001質量%未満の場合、生産性が著しく低くなるため好ましくない。
【0033】
光触媒・合金微粒子分散液
本発明の光触媒・合金微粒子分散液は、上述の通り、別々に構成された、光触媒(酸化チタン)微粒子分散液と抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子分散液との2種類の微粒子分散液を混合することによって得られるものである。
ここで、光触媒・合金微粒子分散液中のi)の光触媒(酸化チタン)微粒子及びii)の抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子との混合物の分散粒子径は、レーザー光を用いた動的光散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)(以下、「平均粒子径」ということがある。)が、5〜100nm、好ましくは5〜30nm、より好ましくは5〜20nmである。これは、平均粒子径が、5nm未満の場合、光触媒活性が不十分になることがあり、100nm超過の場合、分散液が不透明となることがあるためである。
なお、i)及びii)の微粒子の平均粒子径を測定する装置は、上述の通りである。
また、本発明の光触媒・合金微粒子分散液には、後述するバインダーを含有してもよい。
【0034】
<光触媒・合金微粒子分散液の製造方法>
本発明の光触媒・合金微粒子分散液の製造方法は、最終的に、水性分散媒中に、i)光触媒微粒子とii)抗菌・抗カビ性金属を含有する合金微粒子との2種類の微粒子が分散された状態で得られるものであり、以下の工程(1)〜(6)を有するものである。
(1)原料チタン化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、ペルオキソチタン酸溶液を製造する工程、
(2)上記(1)の工程で製造したペルオキソチタン酸溶液を、圧力制御の下、80〜250℃で加熱し、酸化チタン微粒子分散液を得る工程、
(3)原料抗菌・抗カビ性金属化合物を含む溶液と該金属化合物を還元するための還元剤を含む溶液とを製造する工程、
(4)上記(3)の工程で製造した原料抗菌・抗カビ性金属化合物を含む溶液と該金属化合物を還元するための還元剤を含む溶液とを混合して合金微粒子分散液を製造する工程、
(5)上記(4)の工程で製造した合金微粒子分散液を膜ろ過法により水性分散媒で洗浄する工程、
(6)(2)と(5)で得られた酸化チタン微粒子分散液と合金微粒子分散液とを混合する工程。
【0035】
工程(1)〜(2)は、光触媒微粒子分散液を製造するものである。
工程(3)〜(5)は、合金微粒子分散液を製造するものであり、物理的方法や化学的方法がある中、特に、合成条件調整が容易で、組成、粒径・粒度分布などの制御可能範囲が広く、生産性の点において優位性がある化学的方法の一つである液相還元法を利用するもので、合金の原料になる2種類以上の金属イオンを含んだ溶液に還元剤を混合することで、合金微粒子として析出させるものである。このとき、反応系内に合金微粒子の保護剤を共存させることで、合金微粒子の溶媒への分散性を更に向上させることもできる。
工程(6)は、工程(2)で得られた光触媒微粒子分散液と工程(5)で得られた合金微粒子分散液とを混合して、最終的に抗菌・抗カビ性を有する光触媒・合金微粒子分散液を製造するものである。
以下、各工程についての詳細を述べる。
【0036】
・工程(1):
工程(1)では、原料チタン化合物、塩基性物質及び過酸化水素を水性分散媒中で反応させることにより、ペルオキソチタン酸溶液を製造する。
【0037】
反応方法としては、水性分散媒中の原料チタン化合物に塩基性物質を添加して水酸化チタンとし、含有する金属イオン以外の不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸とする方法でも、原料チタン化合物に過酸化水素を添加してから塩基性物質を添加してペルオキソチタン水和物とし、含有する金属イオン以外の不純物を除去して更に過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸とする方法でもよい。
【0038】
ここで、原料チタン化合物としては、例えば、チタンの塩化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸塩、これらの水溶液にアルカリを添加して加水分解することにより析出させた水酸化チタン等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。その中でも、チタンの塩化物(TiCl3、TiCl4)を使用することが好ましい。
【0039】
水性分散媒としては、前述のものが、前述の配合となるように使用される。なお、原料チタン化合物と水性分散媒とから形成される原料チタン化合物水溶液の濃度は、60質量%以下、特に30質量%以下であることが好ましい。濃度の下限は適宜選定されるが、通常1質量%以上であることが好ましい。
【0040】
塩基性物質は、原料チタン化合物をスムーズに水酸化チタンにするためのもので、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等のアミン化合物が挙げられ、原料チタン化合物水溶液のpHを7以上、特にpH7〜10になるような量で添加して使用される。なお、塩基性物質は、上記水性分散媒と共に適当な濃度の水溶液にして使用してもよい。
【0041】
過酸化水素は、上記原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン、つまりTi−O−O−Ti結合を含む酸化チタン化合物に変換させるためのものであり、通常、過酸化水素水の形態で使用される。過酸化水素の添加量は、チタンのモル数の1.5〜20倍モルとすることが好ましい。また、過酸化水素を添加して原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン酸にする反応において、反応温度は5〜80℃とすることが好ましく、反応時間は30分〜24時間とすることが好ましい。
【0042】
こうして得られるペルオキソチタン酸溶液は、pH調整等のため、アルカリ性物質又は酸性物質を含んでいてもよい。ここでいう、アルカリ性物質としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アルキルアミン等が挙げられ、酸性物質としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸、リン酸、過酸化水素等の無機酸及び蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸が挙げられる。この場合、得られたペルオキソチタン酸溶液のpHは、1〜9、特に4〜7であることが取り扱いの安全性の点で好ましい。
【0043】
・工程(2):
工程(2)では、上記工程(1)で得られたペルオキソチタン酸溶液を、圧力制御の下、80〜250℃、好ましくは100〜250℃の温度において0.01〜24時間水熱反応に供する。反応温度は、反応効率と反応の制御性の観点から80〜250℃が適切であり、その結果、ペルオキソチタン酸は酸化チタン微粒子に変換されていく。なお、ここで圧力制御の下とは、反応温度が分散媒の沸点を超える場合には、反応温度が維持できるように、適宜加圧を行い、反応温度を維持することをいい、分散媒の沸点以下の温度とする場合に大気圧で制御する場合を含む。ここで用いる圧力は、通常0.12〜4.5MPa程度、好ましくは0.15〜4.5MPa程度、より好ましくは0.20〜4.5MPaである。反応時間は、1分〜24時間であることが好ましい。この工程(2)により、酸化チタン微粒子分散液が得られる。
【0044】
ここで得られる酸化チタン微粒子の粒子径は、既に述べた通りの範囲のものが好ましいが、反応条件を調整することで粒子径を制御することが可能であり、例えば、反応時間や昇温時間を短くすることによって粒子径を小さくすることができる。
【0045】
・工程(3):
工程(3)では、原料抗菌・抗カビ性金属化合物を水性分散媒中に溶解させた溶液と該原料抗菌・抗カビ性金属化合物を還元するための還元剤を水性分散媒中に溶解させた溶液とを製造する。
【0046】
これらの溶液の製造方法は、水性分散媒に、原料抗菌・抗カビ性金属化合物及び該原料抗菌・抗カビ性金属化合物を還元するための還元剤を、それぞれ別々に添加し、撹拌して溶解する方法でよい。撹拌方法については、水性分散媒に均一に溶解させることができる方法であれば特に限定されず、一般的に入手可能な攪拌機を使用することができる。
【0047】
原料抗菌・抗カビ性金属化合物としては、種々の抗菌・抗カビ性金属化合物を使用することができるが、例えば、抗菌・抗カビ性金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸などの有機酸塩、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体などの錯塩が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。その中でも、塩化物、硝酸塩、硫酸塩などの無機酸塩を使用することが好ましい。
【0048】
還元剤としては、特に限定されないが、原料抗菌・抗カビ性金属化合物を構成する金属のイオンを還元することができる種々の還元剤がいずれも使用可能である。例えば、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物、フェニルヒドラジン、硫酸ヒドラジニウムなどのヒドラジン類、ジメチルアミノエタノール、トリエチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミノボランなどのアミン類、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸、リンゴ酸、マロン酸、蟻酸などの有機酸類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ベンゾトリアゾールなどのアルコール類、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化トリブチルスズ、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素リチウム、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素カリウム、水素化ホウ素亜鉛、アセトキシ水素化ホウ素ナトリウムなどのヒドリド類、ポリビニルピロリドン、1−ビニルピロリドン、N−ビニルピロリドン、メチルピロリドンなどのピロリドン類、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラフィノース、スタキオースなどの還元性糖類、ソルビトールなどの糖アルコール類などが挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。還元剤を溶解する水性分散媒としては、上記金属化合物に使用する水性分散媒と同様のものを使用することができる。
【0049】
還元剤を水性分散媒中に溶解させた溶液には保護剤を添加してもよい。保護剤としては、還元析出した合金粒子が凝集することを防止できるものであれば特に限定されず、界面活性剤や、分散剤としての能力を有する有機化合物を使用することができる。例えば、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などの界面活性剤、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、メチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミンなどの脂肪族アミン化合物、ブチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、へプチルアミン、3−ブトキシプロピルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オレイルアミン、オクタデシルアミンなどの第一級アミン化合物、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N−N-ジエチルエチレンジアミンなどのジアミン化合物、オレイン酸などのカルボン酸化合物などが挙げられる。
【0050】
水性分散媒(水性溶媒)としては、水、水と混合可能な水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒の混合溶媒を用いることが好ましい。水としては、例えば、脱イオン水、蒸留水、純水等が好ましい。また、水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、2−ピロリドン、N−メチルピロリドンなどの水溶性の含窒素化合物、酢酸エチルなどが挙げられ、水溶性有機溶媒は、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
上記溶媒には塩基性物質又は酸性物質を添加してもよい。塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩、tert−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、などのアルカリ金属アルコキシド、ブチルリチウムなどの脂肪族炭化水素のアルカリ金属塩、トリエチルアミン、ジエチルアミノエタノール、ジエチルアミンなどのアミン類などが挙げられる。酸性物質としては、王水、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸や、蟻酸、酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、蓚酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸などの有機酸が挙げられる。
【0052】
これら2つの溶液の濃度は、特に限定されないが、一般に、濃度が低いほど形成される個々の合金微粒子の一次粒子径を小さくできる傾向があることから、目的とする一次粒子径の範囲に応じて好適な濃度の範囲を設定することが好ましい。
【0053】
これら2つの溶液のpHは特に限定されず、目的とする合金微粒子中の金属のモル比や一次粒子径などに応じて好適なpHに調整するのが好ましい。
【0054】
・工程(4):
工程(4)では、工程(3)で調製した、原料抗菌・抗カビ性金属化合物を水性分散媒中に溶解させた溶液と該原料抗菌・抗カビ性金属化合物を還元するための還元剤を水性分散媒中に溶解させた溶液とを混合し、合金微粒子分散液を製造する。
【0055】
これらの2つの溶液を混合する方法としては、これらの2つの溶液を均一に混合できる方法であれば特に限定されないが、例えば、反応容器に金属化合物溶液と還元剤溶液を入れて撹拌混合する方法、反応容器に入れた金属化合物溶液を撹拌しながら還元剤溶液を滴下して撹拌混合する方法、反応容器に入れた還元剤溶液を撹拌しながら金属化合物溶液を滴下して撹拌混合する方法、金属化合物溶液と還元剤溶液を連続的に定量供給し、反応容器やマイクロリアクターなどで混合する方法などが挙げられる。
【0056】
混合時の温度は特に限定されず、目的とする合金微粒子中の金属のモル比や一次粒子径などに応じて好適な温度に調整するのが好ましい。
【0057】
・工程(5):
工程(5)では、工程(4)で製造した合金微粒子分散液を膜ろ過法により水性分散媒で洗浄する。
【0058】
水性分散媒としては、水、水と混合可能な水溶性有機溶媒、水と水溶性有機溶媒の混合溶媒を用いることが好ましい。水としては、例えば、脱イオン水、蒸留水、純水等が好ましい。また、水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、2−ピロリドン、N−メチルピロリドンなどの水溶性の含窒素化合物、酢酸エチルなどが挙げられ、水溶性有機溶媒は、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
膜ろ過法により、合金微粒子分散液から、合金微粒子以外の不揮発性の不純物、例えば、原料金属化合物中の金属以外の成分、還元剤、保護剤などを洗浄・分離する。合金微粒子分散液中の合金微粒子と不揮発性の不純物の質量比(合金微粒子/不揮発性不純物)が0.01〜10となるまで洗浄することが好ましく、より好ましくは0.05〜5、更に好ましくは0.1〜1である。0.01未満の場合は、合金微粒子に対する不純物量が多く、得られる抗菌・抗カビ性や光触媒性能が十分に発揮されないことがあり、10超過の場合は、合金微粒子の分散安定性が低下することがあるため好ましくない。
【0060】
・合金微粒子分散液中の金属成分濃度の定量(ICP−OES)
合金微粒子分散液中の金属成分濃度は、合金微粒子分散液を純水で適宜希釈し、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(商品名“Agilent 5110 ICP−OES”、アジレント・テクノロジー(株))に導入して測定することができる。
【0061】
・合金微粒子分散液中の金属成分以外の不揮発性不純物の定量
ここで、合金微粒子分散液の金属成分以外の不揮発性不純物濃度は、合金微粒子分散液の一部をサンプリングし、105℃で3時間加熱して溶媒を揮発させた後の不揮発分(合金微粒子+不揮発性不純物)の質量とサンプリングした合金微粒子分散液の質量から算出した不揮発分濃度から、上記ICP−OESで定量した金属成分濃度を引くことで算出することができる。
不揮発性不純物濃度(%)=〔不揮発分質量(g)/合金微粒子分散液質量(g)〕×100−合金微粒子分散液中の金属成分濃度(%)
【0062】
膜ろ過法に使用される膜としては、合金微粒子分散液から合金微粒子と合金微粒子以外の不揮発性の不純物を分離できるものであれば特に限定されないが、例えば、精密ろ過膜や限外ろ過膜、ナノろ過膜が挙げられ、これらのうち、適切な細孔径を有する膜を用いて実施することができる。
【0063】
ろ過方式としては、遠心ろ過、加圧ろ過、クロスフローろ過などのいずれの方式も採用できる。
【0064】
ろ過膜の形状としては、中空糸型、スパイラル型、チューブラー型、平膜型など、適宜の形態のものが使用できる。
【0065】
ろ過膜の材質としては、合金微粒子分散液に対して耐久性があるものであれば特に限定されず、ポリエチレン、4フッ化エチレン、ポリプロピレン、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどの有機膜、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどの無機膜などから適宜選択して使用できる。
【0066】
上記のようなろ過膜として、具体的には、マイクローザ(旭化成ケミカルズ(株)製)、アミコンウルトラ(メルクミリポア(株)製)、ウルトラフィルター(アドバンテック東洋(株))、MEMBRALOX(日本ポール(株))などを挙げることができる。
【0067】
・工程(6)
工程(6)では、工程(2)で得られた酸化チタン微粒子分散液と工程(5)で得られた合金微粒子分散液とを混合し、抗菌・抗カビ性を有する光触媒・合金微粒子分散液を得る。
【0068】
混合方法については、2種の分散液が均一に混合される方法であれば特に限定されず、例えば、一般的に入手可能な攪拌機を使用した撹拌により混合することができる。
【0069】
酸化チタン微粒子分散液と合金微粒子分散液との混合割合は、酸化チタン微粒子と合金微粒子の各分散液中の微粒子の重量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)で、1〜100,000、好ましくは10〜10,000、更に好ましくは20〜1,000である。1未満の場合は光触媒性能が十分に発揮されないために好ましくなく、100,000超過の場合は抗菌・抗カビ性能が十分に発揮されないために好ましくない。
【0070】
光触媒・合金微粒子分散液中の酸化チタン微粒子及び合金微粒子の混合物の分散粒子径に係るレーザー光を用いた動的光散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)(以下、「平均粒子径」ということがある。)は、上述の通りである。
また、平均粒子径を測定する装置も、上述の通りである。
【0071】
こうして調製された光触媒・合金微粒子分散液の酸化チタン微粒子、合金微粒子及び不揮発性不純物の合計の濃度は、上述した通り、所要の厚さの光触媒・合金薄膜の作製し易さの点で、0.01〜20質量%が好ましく、特に0.5〜10質量%が好ましい。濃度調整については、濃度が所望の濃度より高い場合には、水性分散媒を添加して希釈することで濃度を下げることができ、所望の濃度より低い場合には、水性分散媒を揮発もしくは濾別することで濃度を上げることができる。
【0072】
ここで、光触媒・合金微粒子分散液の濃度の測定方法は、光触媒・合金微粒子分散液の一部をサンプリングし、105℃で3時間加熱して溶媒を揮発させた後の不揮発分(酸化チタン微粒子、合金微粒子及び不揮発性の不純物)の質量とサンプリングした光触媒・合金微粒子分散液の質量から、次式に従い算出することができる。
光触媒・合金分散液の濃度(%)=〔不揮発分質量(g)/光触媒・合金微粒子分散液質量(g)〕×100
【0073】
光触媒・合金微粒子分散液には、後述する各種部材表面に該分散液を塗布し易くすると共に該微粒子を接着し易いようにする目的でバインダーを添加してもよい。バインダーとしては、例えば、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム等を含む金属化合物系バインダーやフッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等を含む有機樹脂系バインダー等が挙げられる。
【0074】
バインダーと光触媒・合金微粒子の質量比[バインダー/(酸化チタン微粒子+合金微粒子)]としては、0.01〜99、より好ましくは0.1〜9、更に好ましくは0.4〜2.5の範囲で添加して使用することが好ましい。これは、上記質量比が0.01未満の場合、各種部材表面への光触媒微粒子の接着が不十分となり、99超過の場合、抗菌・抗カビ性能及び光触媒性能が不十分となることがあるためである。
【0075】
中でも、抗菌・抗カビ性能、光触媒性能及び透明性の高い優れた光触媒・合金薄膜を得るためには、特にケイ素化合物系バインダーを配合比(ケイ素化合物と酸化チタン微粒子+合金微粒子の質量比)1:99〜99:1、より好ましくは10:90〜90:10、更に好ましくは30:70〜70:30の範囲で添加して使用することが好ましい。ここで、ケイ素化合物系バインダーとは、固体状又は液体状のケイ素化合物を水性分散媒中に含んでなるケイ素化合物の、コロイド分散液、溶液、又はエマルジョンであって、具体的には、コロイダルシリカ(好ましい粒径1〜150nm);シリケート等のケイ酸塩類溶液;シラン、シロキサン加水分解物エマルジョン;シリコーン樹脂エマルジョン;シリコーン−アクリル樹脂共重合体、シリコーン−ウレタン樹脂共重合体等のシリコーン樹脂と他の樹脂との共重合体のエマルジョン等を挙げることができる。
【0076】
また、上述した膜形成性を高めるバインダーを添加する場合には、加える水性バインダー溶液を混合した後に所望の濃度となるよう、上述のように濃度調整を行った光触媒・合金微粒子分散液に対して添加することが好ましい。
【0077】
<光触媒・合金薄膜を表面に有する部材>
本発明の光触媒・合金微粒子分散液は、各種部材の表面に光触媒・合金薄膜を形成させるために使用することができる。ここで、各種部材は、特に制限されないが、部材の材料としては、例えば、有機材料、無機材料が挙げられる。これらは、それぞれの目的、用途に応じた様々な形状を有することができる。
【0078】
有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂、ポリアセタール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルイミド(PEEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂等の合成樹脂材料、天然ゴム等の天然材料、又は上記合成樹脂材料と天然材料との半合成材料が挙げられる。これらは、フィルム、シート、繊維材料、繊維製品、その他の成型品、積層体等の所要の形状、構成に製品化されていてもよい。
【0079】
無機材料としては、例えば、非金属無機材料、金属無機材料が包含される。非金属無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック、石材等が挙げられる。これらは、タイル、硝子、ミラー、壁、意匠材等の様々な形に製品化されていてもよい。金属無機材料としては、例えば、鋳鉄、鋼材、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛ダイキャスト等が挙げられる。これらは、上記金属無機材料のメッキが施されていてもよいし、上記有機材料が塗布されていてもよいし、上記有機材料又は非金属無機材料の表面に施すメッキであってもよい。
【0080】
本発明の光触媒・合金微粒子分散液は、上記各種部材の中でも、特に、PET等の高分子フィルム上に透明な光触媒・合金薄膜を作製するのに有用である。
【0081】
各種部材表面への光触媒・合金薄膜の形成方法としては、光触媒・合金微粒子分散液を、例えば、上記部材表面に、スプレーコート、ディップコート等の公知の塗布方法により塗布した後、遠赤外線乾燥、IH乾燥、熱風乾燥等の公知の乾燥方法により乾燥させればよく、光触媒・合金薄膜の厚さも種々選定され得るが、通常、10nm〜10μmの範囲が好ましい。
これにより、上述した光触媒・合金微粒子の被膜が形成される。この場合、上記分散液に上述した量でバインダーが含まれている場合は、光触媒・合金微粒子とバインダーとを含む被膜が形成される。
【0082】
このようにして形成される光触媒・合金薄膜は、透明であり、従来のように光照射下で良好な光触媒作用を与えるばかりでなく、暗所においても優れた抗菌・抗カビ作用が得られるものであり、該光触媒・合金薄膜が形成された各種部材は、表面の清浄化、脱臭、抗菌等の効果を発揮することができるものである。
なお、暗所とは、照度が10lx未満である状態をいい、特に紫外線放射照度が0.001mW/cm2未満になるような暗所で本発明の分散液は有効である。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、「原料抗菌・抗カビ性金属化合物」、「光触媒・合金微粒子分散液」、及び「光触媒・合金薄膜」は、それぞれ、単に、「原料金属化合物」、「光触媒微粒子分散液」、及び「光触媒薄膜」ということがある。
本発明における各種の測定は次のようにして行った。
【0084】
(1)光触媒薄膜の抗菌性能試験(暗所、紫外線照射下)
光触媒薄膜の抗菌性能は、光触媒薄膜を50mm角のガラス基材に厚み100nmになるように塗布したサンプルについて、日本工業規格JIS R 1702:2012「ファインセラミックス−光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果」のハイブリッド光触媒加工平板状製品の試験方法に準拠した方法で試験し、次の基準で評価した。
・非常に良好(◎と表示)・・・全ての抗菌活性値が4.0以上の場合
・良好(○と表示)・・・全ての抗菌活性値が2.0以上の場合
・不良(×と表示)・・・抗菌活性値2.0未満がある場合
【0085】
(2)光触媒薄膜のかび抵抗性試験(暗所)
光触媒薄膜の抗かび性能は、光触媒薄膜を50mm角のガラス基材に厚み100nmになるように塗布したサンプルについて、日本工業規格JIS Z 2911:2010「かび抵抗性試験方法」に準拠した方法で8週間後まで評価した。評価は附属書Aに規定のかび発育状態の評価により行い次の基準で評価した。
・非常に良好(◎と表示)・・・かび発育状態が0〜1
・良好(○と表示)・・・かび発育状態が2〜3
・不良(×と表示)・・・かび発育状態が4〜5
【0086】
(3)光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能試験(紫外線照射下)
分散液を塗布、乾燥することで作製した光触媒薄膜の活性を、アセトアルデヒドガスの分解反応により評価した。評価はバッチ式ガス分解性能評価法により行った。
具体的には、容積5Lの石英ガラス窓付きステンレス製セル内にA4サイズ(210mm×297mm)のPETフィルム上の全面に光触媒薄膜の厚みが100nmになるように塗布したサンプルを設置したのち、該セルを湿度50%に調湿した濃度20ppmのアセトアルデヒドガスで満たし、該セル上部に設置したUVランプ(商品品番“FL10BLB”、東芝ライテック(株))で強度1mW/cm2になるように光を照射した。薄膜上の光触媒によりアセトアルデヒドガスが分解すると、該セル中のアセトアルデヒドガス濃度が低下する。そこで、その濃度を測定することで、アセトアルデヒドガス分解量を求めることができる。アセトアルデヒドガス濃度は光音響マルチガスモニタ(商品名“INNOVA1412”、LumaSense社製)を用いて測定し、アセトアルデヒドガス濃度を初期の20ppmから1ppmまで低減させるのに要した時間を比較し、次の基準で評価した。試験は5時間まで実施した。
・非常に良好(◎と表示)・・・2時間以内に低減
・良好(○と表示)・・・5時間以内に低減
・やや不良(△と表示)・・・初期濃度(20ppm)からの低減は見られるが、5時間以内に基準値(1ppm)までは低減できない
・不良(×と表示)・・・初期濃度(20ppm)からの低減が見られない(全く低減されない)
【0087】
(4)酸化チタン微粒子の結晶相の同定(XRD)
酸化チタン微粒子の結晶相は、得られた酸化チタン微粒子の分散液を105℃、3時間乾燥させて回収した酸化チタン微粒子粉末の粉末X線回折(商品名“卓上型X線回折装置 D2 PHASER”、ブルカー・エイエックスエス(株))を測定することで同定した。
【0088】
(5)光触媒薄膜の透明性
基材であるガラス板のHAZE値(%)を測定する。次に、分散液を該ガラス上に塗布、乾燥することで光触媒薄膜を作製し、該薄膜を作製した状態のガラス板のHAZE値を測定する。その差から光触媒薄膜のHAZE値を求める。HAZE値の測定はHAZEメーター(商品名“デジタルヘイズメーターNDH−200”、日本電色工業(株))を用いた。光触媒薄膜の透明性を求められたHAZE値の差から次の基準で評価した。
良好(○と表示) ・・・ 差が+1%以下。
やや不良(△と表示)・・・ 差が+1%を超え、+3%以下。
不良(×と表示) ・・・ 差が+3%を超える。
【0089】
(6)合金微粒子の合金の判定
合金微粒子が合金であるかどうかの判定は、走査透過型電子顕微鏡観察(STEM、日本電子製ARM−200F)下でのエネルギー分散型X線分光分析によって行った。具体的には、得られた合金微粒子分散液をTEM観察用カーボングリッドに滴下して水分を乾燥除去して拡大観察し、平均的な形状とみなせる粒子を複数含む視野を数箇所選んでSTEM−EDXマッピングを行い、合金を構成する各金属成分が一つの粒子内から検出されることが確認できた場合に合金微粒子と判定した。
【0090】
[実施例1]
<酸化チタン微粒子分散液の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液を純水で10倍に希釈した後、10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより、水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの溶液のpHは9であった。得られた沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の、水酸化チタン沈殿物にH22/Ti(モル比)が5となるように35質量%過酸化水素水を添加し、その後室温で一昼夜撹拌して十分に反応させ、黄色透明のペルオキソチタン酸溶液(a)を得た。
【0091】
容積500mLのオートクレーブに、ペルオキソチタン酸溶液(a)400mLを仕込み、これを130℃,0.5MPaの条件下、90分間水熱処理し、その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、酸化チタン微粒子分散液(A)(不揮発分濃度1.0質量%)を得た。
以下、得られた酸化チタン微粒子分散液の各種測定結果を表1にまとめて記載する。
【0092】
<銀銅合金微粒子分散液の調製>
エチレングリコールを溶媒とし、Agとしての濃度が2.50mmol/Lとなるように硝酸銀、Cuとしての濃度が2.50mmol/Lとなるように硝酸銅二水和物を溶解して原料金属化合物を含む溶液(I)を得た。以下、得られた原料金属化合物を含む溶液について表2にまとめる。
【0093】
溶媒として、エチレングリコールを55質量%及び純水を8質量%、塩基性物質として水酸化カリウムを2質量%、還元剤としてヒドラジン一水和物を20質量%、ジメチルアミノエタノールを5質量%、還元剤/保護剤としてポリビニルピロリドンを10質量%混合することで、還元剤を含む溶液(i)を得た。
【0094】
反応器内で160℃に加熱した原料金属化合物を含む溶液(I)2Lに、25℃の還元剤を含む溶液(i)0.2Lを急速混合して得た液を、分画分子量10,000の限外ろ過膜(マイクローザ、旭化成(株))によって濃縮及び純水洗浄を行うことで合金微粒子分散液(α)を得た。以下、得られた合金微粒子分散液について表3にまとめる。
【0095】
酸化チタン微粒子分散液(A)と合金微粒子分散液(α)を各分散液中の微粒子の質量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が100となるように混合し、本発明の光触媒微粒子分散液(E−1)を得た。以下、得られた原料金属化合物を含む溶液について表4にまとめる。
【0096】
光触媒微粒子分散液(E−1)にシリカ系のバインダー(コロイダルシリカ、商品名:スノーテックス20、日産化学工業(株)製、平均粒子径10〜20nm、SiO2濃度20質量%水溶液)をTiO2/SiO2(質量比)が1.5となるように添加し、評価用コーティング液を作製した。
【0097】
評価用コーティング液を光触媒薄膜の厚さが100nmとなるようにPETフィルムに塗工し、80℃に設定したオーブンで1時間乾燥させて、評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0098】
抗菌性試験、抗カビ性試験の評価結果を表5、アセトアルデヒドガス分解試験、光触媒薄膜の透明性を表6にまとめた。
【0099】
[実施例2]
<酸化チタン微粒子分散液の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に塩化スズ(IV)をTi/Sn(モル比)が20となるように添加・溶解したこと以外は実施例1と同様にして、黄色透明のペルオキソチタン酸溶液(b)を得た。
【0100】
容積500mLのオートクレーブに、ペルオキソチタン酸溶液(b)400mLを仕込み、これを150℃の条件下、90分間水熱処理し、その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、酸化チタン微粒子分散液(B)(不揮発分濃度1.0質量%)を得た。
【0101】
<銀銅合金微粒子分散液の調製>
エチレングリコールを溶媒とし、Agとしての濃度が4.50mmol/Lとなるように硝酸銀、Cuとしての濃度が0.50mmol/Lとなるように硝酸銅二水和物を溶解した原料金属化合物を含む溶液(II)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、合金微粒子分散液(β)を得た。
【0102】
酸化チタン微粒子分散液(B)と合金微粒子分散液(β)を各分散液中の微粒子の質量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が800となるように混合し、本発明の光触媒微粒子分散液(E−2)を得た。
【0103】
実施例1と同様にして評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0104】
[実施例3]
<銀パラジウム合金微粒子分散液の調製>
純水を溶媒とし、Agとしての濃度が4.00mmol/Lとなるように硝酸銀、Pdとしての濃度が1.00mmol/Lとなるように硝酸パラジウム二水和物を溶解した原料金属化合物を含む溶液(III)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、合金微粒子分散液(γ)を得た。
【0105】
酸化チタン微粒子分散液(A)と合金微粒子分散液(γ)を各分散液中の微粒子の質量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が200となるように混合し、本発明の光触媒微粒子分散液(E−3)を得た。
【0106】
実施例1と同様にして評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0107】
[実施例4]
<銀白金合金微粒子分散液の調製>
エチレングリコールを溶媒とし、Agとしての濃度が4.00mmol/Lとなるように硝酸銀、Ptとしての濃度が1.00mmol/Lとなるように塩化白金酸六水和物を溶解した原料金属化合物を含む溶液(IV)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、合金微粒子分散液(δ)を得た。
【0108】
酸化チタン微粒子分散液(A)と合金微粒子分散液(δ)を各分散液中の微粒子の質量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が1,000となるように混合し、本発明の光触媒微粒子分散液(E−4)を得た。
【0109】
実施例1と同様にして評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0110】
[実施例5]
<銅亜鉛合金微粒子分散液の調製>
エチレングリコールを溶媒とし、Cuとしての濃度が3.75mmol/Lとなるように硝酸銅三水和物、Znとしての濃度が1.25mmol/Lとなるように塩化亜鉛六水和物を溶解した原料金属化合物を含む溶液(V)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、合金微粒子分散液(ε)を得た。
【0111】
酸化チタン微粒子分散液(A)と合金微粒子分散液(ε)を各分散液中の微粒子の質量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が300となるように混合し、本発明の光触媒微粒子分散液(E−5)を得た。
【0112】
実施例1と同様にして評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0113】
[実施例6]
<銀亜鉛合金微粒子分散液の調製>
エチレングリコールを溶媒とし、Agとしての濃度が3.75mmol/Lとなるように硝酸銀、Znとしての濃度が1.25mmol/Lとなるように硝酸亜鉛六水和物を溶解した原料金属化合物を含む溶液(VI)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、合金微粒子分散液(ζ)を得た。
【0114】
酸化チタン微粒子分散液(A)と合金微粒子分散液(ζ)を各分散液中の微粒子の質量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が300となるように混合し、本発明の光触媒微粒子分散液(E−6)を得た。
【0115】
実施例1と同様にして評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0116】
[実施例7]
<亜鉛マグネシウム合金微粒子分散液の調製>
エチレングリコールを溶媒とし、Znとしての濃度が3.75mmol/Lとなるように硝酸亜鉛六水和物、Mgとしての濃度が1.25mmol/Lとなるように硝酸マグネシウム六水和物を溶解した原料金属化合物を含む溶液(VII)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、合金微粒子分散液(η)を得た。
【0117】
酸化チタン微粒子分散液(A)と合金微粒子分散液(η)を各分散液中の微粒子の質量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が300となるように混合し、本発明の光触媒微粒子分散液(E−7)を得た。
【0118】
実施例1と同様にして評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0119】
[実施例8]
<銀銅合金微粒子分散液の調製>
分画分子量10,000の限外ろ過膜(マイクローザ、旭化成(株))による濃縮・純水洗浄割合を変更したこと以外は実施例1と同様にして、合金微粒子分散液(θ)を得た。
【0120】
酸化チタン微粒子分散液(A)と合金微粒子分散液(θ)を各分散液中の微粒子の質量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が100となるように混合し、本発明の光触媒微粒子分散液(E−8)を得た。
【0121】
実施例1と同様にして評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0122】
[実施例9]
酸化チタン微粒子分散液(A)と合金微粒子分散液(α)を各分散液中の微粒子の質量比(光触媒酸化チタン微粒子/合金微粒子)が5,000となるように混合し、本発明の光触媒微粒子分散液(E−9)を得た。
【0123】
実施例1と同様にして評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0124】
[実施例10]
<銀錫合金微粒子分散液の調製>
エチレングリコールを溶媒とし、Agとしての濃度が1.50mmol/Lとなるように硝酸銀、Snとしての濃度が3.5mmol/Lとなるように塩化錫を溶解した原料金属化合物を含む溶液(IX)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、合金微粒子分散液(ι)を得た。
【0125】
酸化チタン微粒子分散液(A)と合金微粒子分散液(ι)を各分散液中の微粒子の質量比(酸化チタン微粒子/合金微粒子)が100となるように混合し、本発明の光触媒微粒子分散液(E−10)を得た。
【0126】
実施例1と同様にして評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0127】
[比較例1]
酸化チタン微粒子分散液(A)のみから、酸化チタン微粒子分散液(C−1)を得た。
【0128】
光触媒微粒子分散液(C−1)にシリカ系のバインダー(コロイダルシリカ、商品名:スノーテックス20、日産化学工業(株)製、平均粒子径10〜20nm、SiO2濃度20質量%水溶液)をTiO2/SiO2(質量比)が1.5となるように添加し、評価用コーティング液を作製した。
【0129】
評価用コーティング液を光触媒薄膜の厚さが100nmとなるようにPETフィルムに塗工し、80℃に設定したオーブンで1時間乾燥させて、評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0130】
[比較例2]
合金微粒子分散液(α)のみから、合金微粒子分散液(C−2)を得た。
【0131】
比較例1と同様にして評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0132】
[比較例3]
<銀微粒子分散液の調製>
エチレングリコールを溶媒とし、銀としての濃度が4.00mmol/Lとなるように硝酸銀を溶解して原料金属化合物を含む溶液(X)を得た。
【0133】
原料金属化合物を含む溶液(X)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、銀微粒子分散液(κ)を得た。
【0134】
酸化チタン微粒子分散液(A)と銀微粒子分散液(κ)を各分散液中の微粒子の質量比(酸化チタン微粒子/銀微粒子)が300となるように混合し、光触媒微粒子分散液(C−3)を得た。
【0135】
比較例1と同様にして評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0136】
[比較例4]
<原料銀液の調製>
純水を溶媒とし、銀としての濃度が4.00mmol/Lとなるように硝酸銀を溶解して原料銀化合物を含む溶液(XI)を得た。
【0137】
酸化チタン微粒子分散液(A)に原料銀化合物を含む溶液(XI)を分散液中の微粒子の質量比(酸化チタン微粒子/銀成分)が300となるように混合し、光触媒微粒子分散液(C−4)を得た。
【0138】
比較例1と同様にして評価用サンプルを作製し、各種評価を行った。
【0139】
比較例1から分かるように、酸化チタン微粒子分散液のみでは暗所での抗菌性は発現せず、抗カビ性も弱い。
【0140】
比較例2から分かるように、合金微粒子分散液のみでは抗カビ性が弱く、光照射によるアセトアルデヒドガス分解性能は発現しない。
【0141】
比較例3から分かるように、酸化チタン微粒子と銀微粒子の混合物からなる光触媒分散液では抗カビ性及びアセトアルデヒドガス分解性能が弱い。
【0142】
比較例4から分かるように、酸化チタン微粒子に銀溶液を加えた場合、光触媒分散液中の粒子径が増大して透明性が低下し、更に抗カビ性及びアセトアルデヒドガス分解性能が弱い。
【0143】
【表1】
【0144】
【表2】
【0145】
【表3】
【0146】
【表4】
【0147】
【表5】
【0148】
【表6】