特許第6953986号(P6953986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6953986光架橋性重合体、絶縁膜及びこれを含む有機電界効果トランジスタデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6953986
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】光架橋性重合体、絶縁膜及びこれを含む有機電界効果トランジスタデバイス
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/10 20060101AFI20211018BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20211018BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20211018BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20211018BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20211018BHJP
   C08F 8/16 20060101ALI20211018BHJP
   C08F 8/48 20060101ALI20211018BHJP
   C08F 12/22 20060101ALI20211018BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   C08F8/10
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 280
   H01L29/78 619A
   H01L29/78 617T
   C08F8/16
   C08F8/48
   C08F12/22
   H01B3/44 D
   H01B3/44 J
【請求項の数】3
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-199489(P2017-199489)
(22)【出願日】2017年10月13日
(65)【公開番号】特開2019-73597(P2019-73597A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山川 浩
【審査官】 岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/122334(WO,A1)
【文献】 特開2005−093921(JP,A)
【文献】 特開2018−018928(JP,A)
【文献】 特開2018−070805(JP,A)
【文献】 特開平11−052134(JP,A)
【文献】 特開昭50−065301(JP,A)
【文献】 特開昭60−023403(JP,A)
【文献】 特公昭48−003285(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/10
H01L 51/05
H01L 51/30
H01L 21/336
H01L 29/786
C08F 8/16
C08F 8/48
C08F 12/22
H01B 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)、式(2)及び式(3)で表される反復単位からなる樹脂。
【化1】
(式(1)中、Rは水素またはC1〜C6のアルキル基を、AはC6〜C19のアリール基を、Yはハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1〜C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を表す。また、kは0〜(r−2)の整数を表す。ここで、rはAを構成する炭素の総数を表す。)
【化2】
(式(2)中、Rは水素またはC1〜C6のアルキル基を、R〜Rはそれぞれ独立して水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1〜C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を、AはC6〜C19のアリール基を、Yは式(1)で定義した置換基を、jは0〜(s−3)の整数を表す。ここで、sはAを構成する炭素の総数を表す。)
【化3】
(式(3)中、R10は水素またはC1〜C6のアルキル基を、AはC6〜C19のアリール基を、Yは式(1)で定義した置換基を、R11〜R13はそれぞれ独立して水素、C1〜C6のアルキル基、C6〜C18のアリール基、またはカルボキシアルキル基を、R14〜R18はそれぞれ独立して水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1〜C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を、nは0〜(t−4)の整数を表す。ここで、tはAを構成する炭素の総数を表す。また、a及びbは芳香族基A上で互いにオルト位の位置にある(隣接する炭素と結合している)単結合を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂の架橋物を含有することを特徴とする絶縁膜。
【請求項3】
基板上に、ソース電極及びドレイン電極を付設した有機半導体層とゲート電極とをゲート絶縁層(高分子誘電体層)を介して積層した有機電界効果トランジスタデバイスにおいて、該ゲート絶縁層(高分子誘電体層)が請求項2に記載の絶縁膜であることを特徴とする有機電界効果トランジスタデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶液状態で塗工することにより平坦性に優れた膜を形成し、短時間の光照射により容易に架橋し、耐溶剤性(耐クラック性)を有しながらも溶剤に対する濡れ性(オーバーコート性)に優れ、高い絶縁破壊強度を有する樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機電界効果トランジスタデバイスに用いられる高分子誘電体層(絶縁膜層)を形成するための樹脂には高絶縁破壊強度、低漏洩電流、汎用有機溶剤への溶解性、耐溶剤性(耐クラック性)を発現させるための架橋性が求められ、更に架橋後の高分子誘電体層には有機溶剤に対する優れた濡れ性、高い平坦性が要求される。
【0003】
絶縁破壊強度はデバイスを構成する誘電体層を破壊させずに印加できる最大の電界値を指す。絶縁破壊強度が高いほどデバイスとしての安定性が高まる。漏洩電流は本来の導電経路以外の経路、例えばゲート電極から絶縁性の有る誘電体層内を通ってソース電極に流れる電流等の大きさを表す指標である。漏洩電流は金属/誘電体/金属の3層構造からなるMIMコンデンサを作製し、誘電体層内を流れる電流値を測定することで求められる。
【0004】
汎用溶剤への溶解性は印刷法により有機電界効果トランジスタデバイスを製造するのに必須の要件であるが、一方で、有機電界効果トランジスタデバイスにおいて、高分子誘電体層は有機半導体層等のオーバーレイ層と積層されるものとなる。このため、高分子誘電体層上に溶剤を用いた印刷法によりオーバーレイ層を形成する際には、高分子誘電体は本溶剤(印刷法に用いる溶剤)に対して溶解しないことが必要である。従って、高分子誘電体層(絶縁膜層)に対しては、層を形成する際には汎用の有機溶剤に溶解し、かつ、層を形成した後には有機溶剤に対し不溶でなければならないという相反する性能が要求される。
【0005】
このような要求に対応する技術として溶液製膜した高分子誘電体層を架橋する技術が知られている。例えば、ベンゾシクロブテン樹脂、ポリビニルフェノール樹脂が知られているが、ベンゾシクロブテン樹脂は架橋温度が250℃と高くプラスチックを基材として用いた場合、基材が熱変形を起こすため、その使用が難しく、また硬化時間が長く経済性にも劣っていた。更に、ロールTOロールプロセスへの適用が極めて難しい上に、デバイス性能を左右する膜の平坦性も十分とは言えなかった。ポリビニルフェノールは架橋剤としてメラミン樹脂等を用い150℃前後の温度において長時間の硬化反応が必要でありロールTOロールプロセスへの適用が極めて難しい。また、ポリビニルフェノール樹脂の水酸基は完全に消失せず、残存する水酸基による親水性などが原因と推定される漏洩電流の高さが問題となっている。更に、膜の平坦性も十分とは言えなかった。
【0006】
また、高分子誘電体層(絶縁膜層)に用いられる架橋を必要としないタイプの樹脂としてフッ素系環状エーテル樹脂、ポリパラキシリレン樹脂等の利用が提案されている。フッ素系環状エーテル樹脂は製膜後、汎用の有機溶剤には溶解しないため架橋しない状態でも汎用溶剤に対し不溶であるという長所があるが、経済性に劣るものである。更に、本材料は表面張力が低いため基材に対する濡れ性が悪く、塗工または印刷できる基材にも大きな制約があった。また、濡れ性が悪いためピンホールを形成しやすく漏洩電流が高いという問題もあった。ポリパラキシリレン樹脂は真空蒸着法によりモノマーを基板上に蒸着させ、基板上で重合して製膜されるため汎用溶剤には溶解しない長所があるものの、印刷プロセス、及び、ロールTOロールプロセスに対応出来ないという致命的な欠陥を有している。
【0007】
低温で架橋可能であり、かつ架橋時間を短縮する手段として光架橋技術が知られている。例えば、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ビニルフェノール−メタクリル酸メチル共重合体、ポリメタクリル酸アセトキシエチル、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル等の水酸基を側鎖に有するポリマーに対し、シンナモイル基等の光架橋性を有する化合物を反応させた光架橋性ポリマーを高分子誘電体として用いる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、フェノール基を側鎖に有するビニルポリマーに光架橋性基としてクマリンを導入した光架橋性ポリマーが提案されている(例えば、特許文献2参照)。更に、ビニルフェニルスチリルケトン等の光環化性基を有するビニルモノマー類と3−ビニルスチリルフェニルケトン等の含フッ素ビニルモノマーとの共重合体の利用が提案されている(例えば、特許文献3参照)
しかしながら、特許文献1、及び特許文献2で開示されている技術では何れも、水酸基含有ポリマー中に存在している水酸基を全て光架橋性化合物と反応させることは難しく、水酸基の残存は避けられない。その結果、これらのポリマーを絶縁膜として用いた場合には漏洩電流値、及び/又はヒステリシスの増大を招く。また、特許文献1では、未反応の水酸基を無水トリフルオロ酢酸と反応させてエステル化することで残存水酸基量を低減する技術についても開示している。しかし、水酸基を完全に消失させることは極めて難しい上、フッ素化合物の導入により有機溶剤に対する濡れ性が低下するという弊害がある。特許文献3で開示されているポリマーを製膜した場合、該ポリマーにフッ素化合物が導入されているため表面張力が小さい膜となる。有機半導体は通常、汎用的な炭化水素溶剤に溶解して使用するため、この有機半導体溶液は該膜に対して濡れ性が低く、有機半導体溶液がはじかれて均一塗工出来ないという問題が生じる。また、桂皮酸骨格を側鎖に有するモノマーをラジカル重合する場合、桂皮酸骨格中の二重結合とラジカルとの反応を完全に排除できないため、ミクロゲルまたはゲルの生成は避けられない(例えば、非特許文献1参照)。更に、本技術では閾値電圧により評価したヒステリシスが5.6Vと大きく、絶縁膜としての実用性にも課題があった。
【0008】
また、ポリ(桂皮酸ビニル)を有機電界効果トランジスタデバイスの高分子誘電体層として利用する技術が提案されているが(例えば、非特許文献2、非特許文献3参照。)、溶液塗布された高分子誘電体層(絶縁膜層)の平坦性は0.7nm程度であり更なる平坦化が求められていた。
【0009】
これら以外にも感光性樹脂に関する技術が知られており、例えばポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン等の芳香族ビニル重合体に光反応性基を有する化合物をフリーデル・クラフツ・アシル化反応により導入した感光性樹脂に関する技術が1950年代に開示されている。しかし、本技術では感光時間を短縮するため光反応性基を多く導入しようとすると樹脂が製造工程中にゲル化するという問題を有していた。そのため、光反応性基の導入量はポリマーを構成する単量体の総モル数に対し17モル%未満とする必要があった(例えば、特許文献4、特許文献5参照)。更に、光反応性基の導入量に係わらず、樹脂中にはミクロゲルが含まれているという問題をも有していた。従って、光照射により反応(架橋)する該感光性樹脂を前述の高分子誘電体層として用いた場合、以下のような問題が生じる。先ず、絶縁膜層を樹脂溶液の塗工により形成する際、この塗工工程に先立ち異物を除去するため樹脂溶液を精密濾過する必要が有る。この際、ポリマー中の微量のミクロゲルであっても濾過速度の低下、濾材の目詰まりによる濾材の交換頻度増大等による生産性、及び、経済性の低下がおこる。次に、樹脂膜を光架橋して耐溶剤性を付与する工程では、光反応性基の濃度が小さいため、架橋時間が長く生産性が低い上に、光架橋した膜の架橋密度が低くなる。その結果、該膜上に有機半導体の有機溶剤溶液、又はポリマー溶液等を印刷した際、該架橋膜が溶剤を吸収して膨潤する。この膜を乾燥すると膜が再度収縮し、この収縮過程で膜にクラックが発生する。
【0010】
上記のように従来知られている高分子誘電体層(絶縁膜層)に用いられる樹脂は汎用溶剤への溶解性、架橋温度、架橋に要する時間、耐溶剤性(耐クラック性)、溶剤に対する濡れ性、漏洩電流、絶縁破壊強度、膜にした場合の平坦性、樹脂溶液の濾過性に関し何らかの課題を有しており、これらの課題を全て解決できる樹脂及び該樹脂を含む高分子誘電体層(絶縁膜層)が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5148624号
【特許文献2】特許第5960202号
【特許文献3】特許第5938192号
【特許文献4】米国特許2566302号
【特許文献5】米国特許2708665号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス、A−1、9巻、2109頁(1971年)
【非特許文献2】アプライド・フィジクス・レターズ誌、92巻、143306頁(2008年)
【非特許文献3】アプライド・フィジクス・レターズ誌、95巻、073302頁(2009年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、汎用溶剤への溶解性、架橋温度、架橋に要する時間、耐溶剤性(耐クラック性)、溶剤に対する濡れ性、漏洩電流、絶縁破壊強度、膜にした場合の平坦性、樹脂溶液の濾過性の点で優れた性能を有する高分子誘電体層(絶縁膜層)を製造出来る樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の樹脂が汎用溶剤への溶解性、架橋温度、架橋に要する時間、耐溶剤性(耐クラック性)、溶剤に対する濡れ性、漏洩電流、絶縁破壊強度、膜にした場合の平坦性、ミクロゲルの何れにも優れていることを見出し本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は式(1)、式(2)及び式(3)で表される反復単位を含む樹脂、該樹脂を用いた絶縁膜、及び該絶縁膜を用いてなる有機電界効果トランジスタデバイスに関するものである。
【0016】
【化1】
【0017】
(式(1)中、Rは水素またはC1〜C6のアルキル基を、AはC6〜C19のアリール基を、Yはハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1〜C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を表す。また、kは0〜(r−2)の整数を表す。ここで、rはAを構成する炭素の総数を表す。)
【0018】
【化2】
【0019】
(式(2)中、Rは水素またはC1〜C6のアルキル基を、R〜Rはそれぞれ独立して水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1〜C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を、AはC6〜C19のアリール基を、Yは式(1)で定義した置換基を、jは0〜(s−3)の整数を表す。ここで、sはA2を構成する炭素の総数を表す。)
【0020】
【化3】
【0021】
(式(3)中、R10は水素またはC1〜C6のアルキル基を、AはC6〜C19のアリール基を、Yは式(1)で定義した置換基を、R11〜R13はそれぞれ独立して水素、C1〜C6のアルキル基、C6〜C18のアリール基、またはカルボキシアルキル基を、R14〜R18はそれぞれ独立して水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1〜C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を、nは0〜(t−4)の整数を表す。ここで、tはAを構成する炭素の総数を表す。また、a及びbは芳香族基A上で互いにオルト位の位置にある(隣接する炭素と結合している)単結合を表す。)
以下に本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の樹脂は、上式(1)、上式(2)及び上式(3)の反復単位を含む。
【0023】
式(1)中、Rは水素またはC1〜C6のアルキル基を示す。
【0024】
式(1)中のRにおけるC1〜C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。
【0025】
式(1)中、AはC6〜C19のアリール基を示す。
【0026】
式(1)中のAにおけるC6〜C19のアリール基としては特に制限がなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0027】
式(1)中、Yはハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1〜C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を表す。
【0028】
式(1)中のYにおけるハロゲンとしては特に制限がなく、例えば、塩素、フッ素等が挙げられる。
【0029】
式(1)中のYにおけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0030】
式(1)中のYにおけるアルキルエーテル基としては特に制限がなく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0031】
式(1)中のYにおけるC1〜C18のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。
【0032】
式(1)中のYにおけるフルオロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、1,1,1−トリフルオロエチル基、1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロブチル基等が挙げられる。
【0033】
式(1)中のYにおけるシクロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる
式(1)中、kは0〜(r−2)の整数を表す。ここで、rはA1を構成する炭素数を表す。
【0034】
式(2)中、Rは水素またはC1〜C6のアルキル基を示す。
【0035】
式(2)中のRにおけるC1〜C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。
【0036】
式(2)中のR〜Rはそれぞれ独立して水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1〜C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を示す。
【0037】
式(2)中のR〜Rにおけるハロゲンとしては特に制限がなく、例えば、塩素、フッ素等が挙げられる。
【0038】
式(2)中のR〜Rにおけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0039】
式(2)中のR〜Rにおけるアルキルエーテル基としては特に制限がなく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0040】
式(2)中のR〜RにおけるC1〜C18のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。
【0041】
式(2)中のR〜Rにおけるフルオロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、1,1,1−トリフルオロエチル基、1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロブチル基等が挙げられる。
【0042】
式(2)中のR〜Rにおけるシクロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0043】
式(2)中、A2はC6〜C19のアリール基を示す。
【0044】
式(2)中のA2におけるC6〜C19のアリール基としては特に制限がなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0045】
式(2)中、Yは式(1)で定義した置換基と同様の置換基を表す。
【0046】
式(2)中、jは0〜(s−3)の整数を表す。ここで、sはA2を構成する炭素の総数を表す。
【0047】
式(3)中、R10は水素またはC1〜C6のアルキル基を示す。
【0048】
式(3)中のR10におけるC1〜C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。
【0049】
式(3)中、Yは式(1)で定義した置換基と同様の置換基を表す。
【0050】
式(3)中、R11〜R13はそれぞれ独立して水素、C1〜C6のアルキル基、C6〜C18のアリール基、またはカルボキシアルキル基を示す。
【0051】
式(3)中のR11〜R13におけるC6〜C18のアリール基としては特に制限がなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0052】
式(3)中のR11〜R13におけるC1〜C6のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。
【0053】
式(3)中のR11〜R13におけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0054】
式(3)中のR14〜R18はそれぞれ独立して水素、ハロゲン、シアノ基、カルボキシアルキル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、C1〜C18のアルキル基、フルオロアルキル基、またはシクロアルキル基を示す。
【0055】
式(3)中のR14〜R18におけるハロゲンとしては特に制限がなく、例えば、塩素、フッ素等が挙げられる。
【0056】
式(3)中のR14〜R18におけるカルボキシアルキル基としては特に制限がなく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0057】
式(3)中のR14〜R18におけるアルキルエーテル基としては特に制限がなく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0058】
式(3)中のR14〜R18におけるC1〜C18のアルキル基としては特に制限がなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。
【0059】
式(3)中のR14〜R18におけるフルオロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、1,1,1−トリフルオロエチル基、1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロブチル基等が挙げられる。
【0060】
式(3)中のR14〜R18におけるシクロアルキル基としては特に制限がなく、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0061】
式(3)中、jは0〜(s−3)の整数を表す。ここで、sはA2を構成する炭素の総数を表す。
【0062】
式(3)中、nは0〜(t−4)の整数を表す。ここで、tはAを構成する炭素の総数を表す。また、a及びbは芳香族基A上で互いにオルト位の位置にある(隣接する炭素と結合している)単結合を表す。
【0063】
本発明で用いられる具体的な式(1)、式(2)及び式(3)の反復単位を含む重合体は芳香族基を含有し、かつ、酸クロライドと反応する水酸基、アミノ基、チオール基等を含有していなければ何ら制限なく用いることが出来る。
【0064】
本発明において、上式(1)、上式(2)及び上式(3)の反復単位を有する樹脂の分子量に対しては何らの制限もなく、例えば、200〜10,000,000(g/モル)のものを用いることが出来る。得られる樹脂の溶液粘度、及び力学強度の観点から、好ましくは10,000〜1,000,000(g/モル)である。
【0065】
本発明で用いる上式(1)、上式(2)及び上式(3)の反復単位を有する樹脂は光環化性化合物をフリーデルクラフツ・アシル化反応により芳香族基含有重合体に導入することで得られる。ここで、本発明において、該光環化性化合物が一定量以上導入されることで膜とした場合の平坦性が優れ、短時間で光架橋可能となるものであり、芳香族基含有共重合体のみでは平坦性に劣り、光架橋することは出来ない。なお、本発明では、該光環化性化合物の導入の際の温度を15℃以下とすることで、式(2)の反復単位の一部が式(3)の反復単位となるものである(後述するように、式(2)の反復単位の一部が式(3)の反復単位となることでミクロゲルの発生を抑制することができるものである。)。
【0066】
本発明において、光環化性化合物としては、製造が容易な下記式(4)で表される桂皮酸クロリドを用いるのが好ましい。
【0067】
【化4】
【0068】
(式(4)中、R〜Rは式(2)と同様である。)
式(1)の反復単位を含む樹脂に対する前述の酸クロリドの仕込み量は、得られる樹脂の有機溶剤に対する溶解性、及び保存安定性を高めるため、該樹脂が含有する芳香族基1モルに対し0.2〜1.5モルであることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜1.2モルである。反応で芳香族基に導入される光反応性基の量は、有機溶剤に対する溶解性、保存安定性、光架橋のし易さ、及び光架橋後の樹脂層の耐溶剤性(耐クラック性)の観点から、0.2〜1.0モルであることが好ましく、更に好ましくは0.2〜0.7モルである。
【0069】
フリーデルクラフツ・アシル化反応により光反応性基が導入される芳香族基含有重合体としては、後述の反応触媒に対し不活性である限り何らの制限もなく、例えば、石油樹脂;ポリ−α−メチルスチレン、ポリ−p−メトキシスチレン、シンジオポリスチレン等のポリスチレン;ポリビニルナフタレン、ポリビニルビフェニル、ポリビニルアントラセン、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルフェニルケトン等のポリビニルアリールケトン;スチレンブタジエン共重合体;エチレン・スチレン共重合体;スチレン・アクリロニトリル共重合体;スチレン・アルキルアクリレート共重合体;スチレン・アルキルメタアクリレート共重合体;スチレン・α−フェニルアルキルアクリレート共重合体;スチレン・無水マレイン酸共重合体;スチレン・アクリル酸共重合体;スチレン・4−ビニルピリジン共重合体;スチレン・トランス−1,3−ペンタジエン共重合体;スチレン・2,4,6−トリメチルスチレン共重合体;スチレン・p−アセトキシスチレン共重合体;スチレン・ビニル−トリス(トリメトキシシロキシ)シラン共重合体;スチレン・ビニルベンゾエート共重合体;スチレン・ビニルブチルエーテル共重合体;ポリ(スチレン・エチレン・ブチレン)共重合体;ポリ(スチレン・エチレン・プロピレン)共重合体;ポリ(スチレン・エチレン・プロピレン・ブチレン)共重合体;ポリ(エチレン・スチレン)共重合体;ポリ(プロピレン・スチレン)共重合体;ポリフェニルビニルケトン等のポリアリールビニルケトン類;ポリスチレン−b−ポリ(エチレン・プロピレン)−b−ポリスチレン共重合体;ポリスチレン−b−ポリ(エチレン・ブチレン)−b−ポリスチレン共重合体;ポリスチレン−b−ポリ(エチレン・プロピレン・ブチレン)−b−ポリスチレン共重合体;ポリスチレンとポリイソプレンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体の水素添加物;ポリスチレンとポリブタジエンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体の水素添加物;ポリスチレン−b−ポリイソブチレン−b−ポリスチレン共重合体、ポリスチレンとポリイソブチレンからなるマルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー;ポリビニルナフタレンとポリブタジエン又はポリイソプレンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体の水素添加物;ポリビニルナフタレンとポリイソブテンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体;ポリビニルアントラセンとポリブタジエン又はポリイソプレンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体の水素添加物;ポリビニルアントラセンとポリイソブテンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体;ポリビニルビフェニルとポリブタジエン又はポリイソプレンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体の水素添加物;ポリビニルビフェニルとポリイソブテンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体;ポリ(スチレン−co−ビニルナフタレン)とポリイソプレン又はポリブタジエンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体、及びその水素添加物;ポリ(スチレン−co−ビニルナフタレン)とポリイソブテンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体;ポリ(スチレン−co−ビニルアントラセン)とポリイソプレン又はポリブタジエンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体、及びその水素添加物;ポリ(スチレン-co-ビニルアントラセン)とポリイソブテンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体;ポリ(スチレン−co−ビニルビフェニル)とポリイソプレン又はポリブタジエンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体、及びその水素添加物;ポリ(スチレン−co−ビニルビフェニル)とポリイソブテンからなるジブロック共重合体、マルチブロック共重合体、スターポリマー、デンドリマー、グラフト共重合体等が例示されるが、誘電率を低くして漏洩電流を低減させるため、芳香族炭化水素及び脂肪族炭化水素のみから構成されている重合体を用いるのが好ましい。また、これらの共重合体は2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0070】
なお、これらのポリマーはラジカル重合、カチオン重合、または、アニオン重合で得られたポリマーを水素添加する二段階の反応により公知の方法で製造出来る。ポリマー中のポリイソプレン連鎖又はポリブタジエン連鎖に含まれる不飽和結合を水素添加する場合、本発明の重合体の性能を損なわない範囲であれば、該不飽和結合が残存していても良く、該不飽和結合量は5モル%以下が好ましい。
【0071】
該フリーデルクラフツ・アシル化反応は、反応触媒を用いて実施することができる。
【0072】
本発明では公知の超強酸を反応触媒として使用することができ、超強酸であれば何ら制限は無く、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルフォン酸、フルオロアンチモン酸、カルボラン酸等が例示される。該触媒の添加量は、該反応後の中和操作が煩雑になるのを回避し、かつ、反応率の低下を防ぐため上述の酸クロリドに対し0.1〜1.5倍モルであることが好ましい。
【0073】
該フリーデルクラフツ・アシル化反応は発熱反応であり、本反応は反応温度制御が容易な溶液反応により実施するのが好ましい。本発明において用いられる反応溶剤はフリーデルクラフツ反応に対して安定であれば何ら制限なく使用でき、反応に対し不活性である十分に脱水された塩素系炭化水素溶剤、脂肪族炭化水素溶剤、含硫黄溶剤、ニトリル系溶剤等が好適に用いられる。塩素系炭化水素溶剤としては、塩化メチレン、四塩化炭素、1,1,2−トリクロロエタン、クロロホルム等が、脂肪族炭化水素溶剤としてはシクロヘキサン等が、含硫黄溶剤としては、二硫化炭素、スルホンジメチルスルホキシド、ジメチルスルフェート、ジメチルスルホン等が、ニトリル系溶剤としてはアセトニトリルが例示される。
【0074】
また、本反応系においてはミクロゲルの生成を抑制するため、反応温度は15℃以下が用いられ、反応速度及び経済性の観点から、0〜15℃が好ましい。
【0075】
該フリーデルクラフツ・アシル化反応において、反応時間は特に制限されず、例えば、5時間から100時間が挙げられる。反応率及び経済性の観点から、好ましくは10時間から50時間である。
【0076】
また、式(1)、式(2)及び式(3)の反復単位を有する樹脂は溶解性が損なわれない限り、重合体分子が光反応性基の環化に基づくシクロブテン構造を含有していても良い。
【0077】
該光反応性基の環化に基づくシクロブテン構造としては、下記式(5)及び式(6)で表される構造が挙げられる。
【0078】
【化5】
【0079】
【化6】
【0080】
(式(5)、式(6)中、R〜Rは式(2)と同様である。)
上式(1)、上式(2)及び上式(3)の反復単位を有する樹脂を溶剤に溶解させた溶液を用いて種々の基材上に塗工又は印刷することが出来る。
【0081】
該溶剤としては、該樹脂を溶解する溶剤であれば何ら制限なく用いることができ、例えば、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、N−ヘキシルベンゼン、テトラリン、デカリン、イソプロピルベンゼン、クロロベンゼンなどの芳香族炭化水素;塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエチレン等の塩素化脂肪族炭化水素化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の脂肪族環状エーテル化合物;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物;エチルアセテート、ジメチルフタレート、サリチル酸メチル、アミルアセテート等のエステル化合物;n−ブタノール、エタノール、iso−ブタノール等のアルコール類;1−ニトロプロパン、2硫化炭素、リモネン等が例示され、これらの溶剤は必要に応じて混合して使用することが出来る。
【0082】
本発明に係る樹脂は、例えば、スピンコーティング、ドロップキャスト、ディップコーティング、ドクターブレードコーティング、パッド印刷、スキージコート、ロールコーティング、ロッドバーコーティング、エアナイフコーティング、ワイヤーバーコーティング、フローコーティング、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、凸版反転印刷等を用いて印刷することが出来る。なお、本発明の絶縁膜はこれらの方法を用いて形成されるものであるため、本発明の絶縁膜は汎用溶剤に対する溶解性に優れることが必要となる。
【0083】
本発明に係る樹脂を絶縁膜として用いる場合、該膜を形成した状態で用いることができ、また、必要に応じて光架橋(光環化)した架橋物として用いることができる。本発明では、該樹脂を光架橋して用いるとき、得られる絶縁膜が架橋物を含有するものとなり、耐溶剤性の点で好適なものとなる。なお、本発明において該膜を形成した後、光架橋せずに絶縁膜として用いる場合には、該膜を形成するのに用いる汎用溶剤には良好な溶解性を示し、更に、該膜の上部に該汎用溶剤とは異なる溶剤を用いて有機半導体層を形成可能なことが必要となる。この際、該膜が有機半導体溶液に対して耐溶剤性(耐クラック性)を持つとき、該膜を形成した状態のままで絶縁膜として用いることが出来る。なお、耐溶剤性(耐クラック性)に優れるものではない場合、印刷法による製膜ができず、印刷法に比べ経済性に劣る蒸着法等の方法により製膜する必要がある。
【0084】
本発明に係る樹脂を絶縁膜として用いる場合、光架橋(光環化)には放射線が用いられ、例えば、波長245〜350nmの紫外線が例示される。照射量は樹脂の組成により適宜変更されるが、例えば、100〜1000mJ/cmが挙げられ、架橋度の低下を防止し、かつ、プロセスの短時間化による経済性の向上のため、好ましくは50〜500mJ/cmである。紫外線の照射は通常大気中で行うが、必要に応じて不活性ガス中、または一定量の不活性ガス気流下で行うことも出来る。必要に応じて光増感剤を添加して光架橋反応を促進させることも出来る。用いる光増感剤には何ら制限はなく、例えば、ベンゾフェノン化合物、アントラセン化合物、アントラキノン化合物、チオキサントン化合物、ニトロフェニル化合物等が例示されるが、本発明で用いられる樹脂との相溶性が高いベンゾフェノン化合物が好ましい。また、該増感剤は必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0085】
本発明の樹脂は紫外線により架橋出来るが、必要に応じて加熱しても良い。紫外線照射に加えて加熱する場合の温度は特に制限されないが、用いる樹脂の熱変形を避けるため120℃以下の温度が好ましい。
【0086】
また、本発明の樹脂は、短時間で効率良く架橋することができるものであり、架橋に要する時間を5分以内とすることができる。なお、架橋時間の制御に好適であることから、架橋に要する時間を1〜2分以内とすることが好ましい。
【0087】
本発明の樹脂を製膜して有機電界効果トランジスタ(OFET)における高分子誘電体層として用いることができる。該有機電界効果トランジスタは、例えば、基板上に、ソース電極及びドレイン電極を付設した有機半導体層とゲート電極とをゲート絶縁層(高分子誘電体層)を介して積層することにより得ることができる。
【0088】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜は、漏電の原因となる微細な穴(ピンホール)の形成が抑制されるため、低漏洩電流である。また、該絶縁膜は、高分子誘電体層として用いる場合、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、漏洩電流が0.01nA以下であることが好ましい。
【0089】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜は溶剤に対する濡れ性に優れるものであり、高分子誘電体層として用いられる場合、ボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型及びトップゲート・トップコンタクト(TGTC)型の有機電界効果トランジスタデバイスにおいて該層上のS(ソース)電極及びD(ドレイン)電極を覆う適量の有機半導体溶液を塗布したとき、電極上をくまなく覆うことができるものである。
【0090】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜は優れた平坦性を有するものであり、高分子誘電体層として用いられる場合、平坦性の観点から、表面粗さ(Ra)が0.3nm以下であることが好ましい。
【0091】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜を、高分子誘電体層として用いる場合、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該FET素子の閾値電圧が0を超えて2.0V以下、または−2.0V以上で0Vより小さいことが好ましい。
【0092】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜を、高分子誘電体層として用いる場合、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該OFET素子の移動度が0.20cm/Vs以上であることが好ましい。
【0093】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜を、高分子誘電体層として用いる場合、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該OFET素子のオン電流/オフ電流比が10以上であることが好ましい。
【0094】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜を、高分子誘電体層として用いる場合、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子としての実用性の観点から、該OFET素子のソース・ドレイン間電流のヒステリシスが無いことが好ましい。
【0095】
本発明の樹脂から得られる絶縁膜を、高分子誘電体層として用いる場合、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子の絶縁破壊強度が、実用性の判断基準とされる4MV/cm以上であることが好ましい。
【0096】
本発明において、該有機電界効果トランジスタ(OFET)はボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型、ボトムゲート・トップコンタクト(BGTC)型、トップゲート・ボトムコンタクト(TGBC)型、トップゲート・トップコンタクト(TGTC)型の何れでも良い。ここで、これらの各種構造の有機電界効果トランジスタの内、例えば、ボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型素子の構造は、図1で示される。
【0097】
該OFETにおいて、用いることが出来る基材は素子を作製できる十分な平坦性を確保できれば特に制限されず、例えば、ガラス、石英、酸化アルミニウム、ハイドープシリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物等の無機材料基板;プラスチック;金、銅、クロム、チタン、アルミニウム等の金属;セラミックス;コート紙;表面コート不織布等が挙げられ、これらの材料からなる複合材料又はこれらの材料を多層化した材料であっても良い。また、表面張力を調整するため、これらの材料表面をコーティングすることも出来る。
【0098】
基材として用いるプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン−1、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、フッ素化環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリ(ジイソプロピルマレエート)、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリアミドエラストマー、スチレンブロック共重合体等が例示される。また、上記のプラスチックを2種以上用いて積層して基材として用いることができる。
【0099】
本発明で用いることが出来るゲート電極、ソース電極、又はドレイン電極としては、金、銀、アルミニウム、銅、チタン、白金、クロム、ポリシリコン、シリサイド、インジウム・錫・オキサイド(ITO)、酸化錫等の導電性材料が例示される。また、これらの導電性材料を複数、積層して用いることもできる。
【0100】
電極の形成(回路パターンの形成)の際に、前記の高分子誘電体層をUV架橋後、遮光マスクを用い、高分子誘電体層表面に真空紫外(VUV)光を照射することで、親水化した回路パターンを形成することができる。VUV光の照射時間は用いる高分子誘電体の構造、及び光源と高分子誘電体層表面間の距離により異なるが、十分な親水化及びプロセスの短時間化による経済性の向上の観点から、1分〜10分が好ましく、更に好ましくは1分〜5分である。
【0101】
また、BGTC型素子では前記の基材上または有機半導体層の上に電極を形成する。この場合、電極の形成方法としては特に制限はなく、蒸着、高周波スパッタリング、電子ビームスパッタリング等が挙げられ、前記導電性材料のナノ粒子を水又は有機溶剤に溶解させたインクを用いて、溶液スピンコート、ドロップキャスト、ディップコート、ドクターブレード、ダイコート、パッド印刷、ロールコーティング、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、凸版反転印刷等の方法を採用することも出来る。また、必要に応じて電極上にフルオロアルキルチオール、フルオロアリルチオール等を吸着させる処理を行っても良い。
【0102】
本発明で用いることが出来る有機半導体には何ら制限はなく、N型及びP型の有機半導体の何れも使用することができ、N型とP型を組み合わせたバイポーラトランジスタとしても使用でき、例えば式(F−1)〜(F−10)等が例示される。
【0103】
【化7】
【0104】
【化8】
【0105】
【化9】
【0106】
【化10】
【0107】
【化11】
【0108】
【化12】
【0109】
【化13】
【0110】
【化14】
【0111】
【化15】
【0112】
【化16】
【0113】
本発明において、低分子及び高分子の有機半導体の何れも用いることができ、これらを混合して使用することも出来る。
【0114】
本発明において、有機半導体層を形成する方法としては、有機半導体を真空蒸着する方法、または有機半導体を有機溶剤に溶解させて塗布、印刷する方法等が例示されるが、有機半導体層の薄膜を形成出来る方法であれば何らの制限もない。有機半導体層を有機溶剤に溶解させた溶液を用いて塗布、または印刷する場合の溶液濃度は有機半導体の構造及び用いる溶剤により異なるが、より均一な半導体層の形成及び層の厚みの低減の観点から、0.5〜5重量%であることが好ましい。この際の有機溶剤としては有機半導体が製膜可能な一定の濃度で溶解する限り何ら制限はなく、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、デカリン、インダン、1−メチルナフタレン、2−エチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレン、ジメチルナフタレン異性体混合物、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、メシチレン、イソプロピルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、テトラリン、オクチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、1,4−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、γ−ブチロラクトン、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコール、ベンジルアルコール、グリセリン、シクロヘキサノールアセテート、3−メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アニソール、シクロヘキサノン、メシチレン、3−メトキシブチルアセテート、シクロヘキサノールアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1,6−ヘキサンジオールジアセテート、1,3−ブチレングリコールジアセテート、1,4−ブタンジオールジアセテート、エチルアセテート、フェニルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル−N−プロピルエーテル、テトラデカヒドロフェナントレン、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン、デカヒドロ−2−ナフトール、1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフトール、α−テルピネオール、イソホロントリアセチンデカヒドロ−2−ナフトール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、2,6−ジメチルアニソール、1,2−ジメチルアニソール、2,3−ジメチルアニソール、3,4−ジメチルアニソール、1−ベンゾチオフェン、3−メチルベンゾチオフェン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセトフェノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、リモネン等が例示されるが、好ましい性状の結晶膜を得るためには有機半導体の溶解力が高く、沸点が100℃以上の溶剤が適しており、キシレン、イソプロピルベンゼン、アニソール、シクロヘキサノン、メシチレン、1,2−ジクロロベンゼン、3,4−ジメチルアニソール、ペンチルベンゼン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、デカヒドロ−2−ナフトールが好ましい。また、前述の溶剤2種以上を適切な割合で混合した混合溶剤も用いることが出来る。
【0115】
有機半導体層には必要に応じて各種有機・無機の高分子若しくはオリゴマー、又は有機・無機ナノ粒子を固体若しくは、ナノ粒子を水若しくは有機溶剤に分散させた分散液として添加でき、上記高分子誘電体層上に高分子溶液を塗布して保護膜を形成出来る。更に、必要に応じて本保護膜上に各種防湿コーティング、耐光性コーティング等を行うことが出来る。
【発明の効果】
【0116】
本発明により汎用溶剤への溶解性、架橋温度、架橋に要する時間、耐溶剤性(耐クラック性)、絶縁破壊強度、漏洩電流、溶剤に対する濡れ性、膜とした場合の平坦性の点で、優れた性能を有する高分子誘電体層に好適な樹脂を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
図1】;ボトムゲート−ボトムコンタクト(BGBC)型素子の断面形状を示す図である。
図2】;実施例1で製造した樹脂1のH−NMRチャートを示す図である。
図3】;実施例1で製造した樹脂1の13C−NMRチャートを示す図である。
図4】;実施例1で製造した樹脂1の2次元NMR(HMBCモード)チャートを示す図である。
図5】;実施例1で製造したOFET素子においてゲート電圧(VGS)を変化させた際に観測されるソース−ドレイン間電流(ISD)にヒステリシスが見られないことを示す図である。
【実施例】
【0118】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例において用いた有機半導体(ジ−n−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン)は、特開2015−224238号公報の製造方法に従って合成した。また、桂皮酸クロリド(下記式(G))は東京化成製の試薬を用いた。
【0119】
【化17】
【0120】
実施例において、NMR、スピンコート、膜厚測定、ディスペンサー印刷、UV照射、真空蒸着、架橋に必要なUV照射量、高分子誘電体層の溶剤に対する濡れ性、絶縁破壊強度、OFET素子の評価、クラック測定については、以下に示す条件・装置で実施した。
<NMR>
JNM−ECZ400S FT−NMR(日本電子(株)製)を用いて、H−NMR、13C−NMR、及びHMBC(H−detected Multi−Bond Heteronuclear multiple quantum Coherence spectrum)モードで、ポリマーの重水素化クロロホルム溶剤を用いて測定した。なお、ポリマーの化学構造決定は、前述の式(1)、式(2)、式(3)で表される繰り返し単位の含有量(モル%)をそれぞれ、U、U、Uとして、H−NMR測定により得られたピークの積分強度を用いて下記式(a)〜(c)により求めた。
【0121】
=11/6−(I+I) (a)
=(I−I)/(2I)−5/6 (b)
=I/I (c)
(ここで、Iはδ2.6〜δ4.4ppmに存在するピークの積分値の総和を、Iはδ1.4〜δ2.1ppmに存在するピークの積分値の総和を、Iはδ6.5〜δ8.3ppmに存在するピークの積分値の総和を表す。)
<スピンコート>
ミカサ株式会社製MS―A100を用いた。
<膜厚測定>
ブルカー社製DektakXTスタイラスプロファイラーを用いて測定した。
<ディスペンサー印刷>
武蔵エンジニアリング(株)製IMAGE MASTER 350PC SMARTを用いた。
<UV照射>
(株)ジーエス・ユアサ コーポレーション製UV−System、CSN−40A−2を用い、UV強度4.0kWの条件で、搬送速度を変えてUV照射時間を調整した。
<真空蒸着>
アルバック機工社製 小型真空蒸着装置VTR−350M/ERHを用いた。
<架橋に必要なUV照射量>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(コーニング社製Eagle XG)上に樹脂の溶液を膜厚500nmとなるようにスピンコート製膜し、十分に乾燥させた。この時点の初期膜厚(A)を測定した上で、UV照射量を変えて得られた架橋膜をトルエンに1時間浸漬、乾燥後の膜厚(B)を測定した。これらの膜厚を用い、下記式
残膜率=膜厚(B)/初期膜厚(A)×100
で与えられる残膜率が95%以上となるUV照射量を架橋に必要な照射量とした。
<高分子誘電体層の溶剤に対する濡れ性>
樹脂の架橋膜上に表面張力が異なる5種の溶剤(トルエン、テトラリン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン)をそれぞれ1μl滴下した。S電極及びD電極を覆う適量の有機半導体溶液を塗布したとき、液滴を塗布した瞬間の形状を維持するか、又は濡れ広がれば、電極上をくまなく覆うことが出来るため、この場合を良好(1点)として評価した。一方、該液滴が収縮する場合、及び/又は移動する場合には電極上を覆うことが出来なくなるため、液が収縮及び/又は移動した場合を不良(0点)として評価した。全ての溶剤で良好な結果が得られた場合5点となる。
<絶縁破壊強度>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(コーニング社製Eagle XG)に銀を真空蒸着し、厚み30nmの電極を形成した。その後、電極を形成した基材上に誘電体(絶縁体)を製膜し、誘電体層上に金電極を真空蒸着してMIMコンデンサを作製して上記の銀−金電極間に電圧をかけて、絶縁破壊により電流が誘電体層内部を流れ始める電圧を測定し、誘電体層の厚みで割った値を絶縁破壊強度とした。
<FET素子の評価>
有機電界効果トランジスタの一形態であるボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型素子を作製し、ケースレイ社製半導体パラメータアナライザーSCS4200を用い、ソース・ドレイン間電圧をマイナス30ボルトとして、ゲート電圧を変化させることにより、移動度、漏洩電流、オン電流/オフ電流比、ソース・ドレイン間電流のヒステリシス、閾値電圧を評価した。
<クラック測定>
形状測定レーザーマイクロスコープ((株)キーエンス製VK−X100)によりフィルム表面上のミクロクラックの有無を確認した。
【0122】
以下に実施例を示すが、反応、精製、乾燥は全てイエローライト下、又は遮光下で行った。なお、実施例において、イエローライト下又は遮光下で行ったのは、光環化性化合物の光環化反応、及び光環化性化合物が導入された樹脂の光環化反応を防ぐためである。
(実施例1)
<樹脂合成>
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に重量平均分子量28万のポリスチレン(以下、「原料ポリマー」という)10.0g、脱水した塩化メチレン350mL、桂皮酸クロリド8.02gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。上部に3方コックを取り付け、下部を密閉した30mLの滴下ロートにトリフルオロメタンスルホン酸(以下、「TFMS」という)18.05gを仕込んだ。上記のシュレンク管と滴下ロートを窒素ボックスから取り出し、窒素シールした状態でシュレンク管と滴下ロートを連結させた。シュレンク管への窒素フローを停止し、滴下ロート上部の3方コックを塩化カルシウム管に連結後、窒素フローを停止した。次に、シュレンク管を低温恒温槽中で冷却し、マグネチックスターラーで撹拌下、滴下ロートからTFMSを18分かけて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、2℃で28時間反応させた。飽和炭酸水素ナトリウム15gを溶解させた飽和水溶液150mLを添加してTFMS及び系内の塩酸を中和した。反応物を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。更に水層を塩化メチレンで3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を1.5Lのメタノールに注いで再沈殿させ、ポリマーを濾過により単離する操作を2回行った後、40℃で減圧乾燥して13.9gの樹脂1を得た。更に、得られた樹脂10gを200mLのトルエンに溶解させて0.2μmのテフロン(登録商標)フィルターで吸引濾過して樹脂溶液1を得た。濾過時間は25mL/分であり、迅速な濾過が可能であった。また、濾過工程における濾過速度の低下は無く、ミクロゲルの影響は見られなかった。
【0123】
H−NMR、13C−NMR、及び2D−NMRによる分析の結果、得られた樹脂1(下記式)は式(1)、式(2)及び式(3)で表される構造単位をそれぞれ58.4モル%、36.4モル%、5.2モル%有していることを確認した。
【0124】
【化18】
【0125】
なお、樹脂1に係るH−NMRを図2に、13C−NMRチャートを図3に、2次元NMRチャート(HMBCモード)を図4に示した。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ7.62(brs,−CH=CH−Ph),7.39〜6.51(m,芳香族,−CH=CH−Ph),δ4.5(brs, −C(O)CH−CH(Ph)−),δ2.57(brs,−C(O)CH−CH(Ph)−),δ3.14(brs, ―C(O)CH−CH(Ph)−),2.04(brs,−CH―CH−),1.78〜1.40(bm,−CH−)
<絶縁膜の作製及び評価>
サイズ5cm×5cm、厚み100ミクロンのPETフィルム(帝人デュポンフィルム製)上に、スピンコータ―を用いて厚み550nmの絶縁膜を作製後、紫外線を照射(室温)して光環化(光架橋)した。このフィルムをトルエンに1時間浸漬後、取り出して常温でトルエンを揮発させミクロクラックの有無を確認した。
【0126】
作製した絶縁膜の構成、評価結果等を表1に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
架橋に必要な照射量(残膜率が95%以上)は、300mJ/cmであった。また、架橋後の絶縁膜においてクラックが確認されず、耐溶剤性に優れることが確認された。さらに、得られた絶縁膜は、平坦性及び溶剤の濡れ性に優れることが確認された。
<OFET素子の作成及び評価>
洗浄、乾燥した30×30mmのガラス(基材)(コーニング社製Eagle XG)にアルミニウムを真空蒸着し、厚み50nmのゲート電極を形成した。電極が形成された基材の上に、得られた樹脂1のトルエン溶液(5wt%)を500rpm×5秒、1000rpm×20秒の条件でスピンコートし、100℃で10分間乾燥した後(絶縁膜の形成)、300mJ/cmの紫外線を照射(室温)して架橋した膜厚520nmの高分子誘電体層を形成した。ゲート電極及び高分子誘電体層が形成された基材上に金を真空蒸着して厚み50nm、チャンネル長100μm、電極幅500μmのソース電極、及びドレイン電極を形成した。その後、直ちにペンタフルオロベンゼンチオール30mmolのイソプロパノール溶液に浸漬し、5分間経過した時点で取り出し、イソプロパノールで洗浄後、ブロー乾燥した。その後、有機半導体(ジ−n−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン)の0.8wt%トルエン溶液60nLをディスペンサにより印刷した。溶剤を揮発させ50℃で1時間乾燥した後、ボトムゲート・ボトムコンタクト(BGBC)型の有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表2に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
絶縁破壊強度は4MV/cm以上であり優れた絶縁性能を有することが確認された。また、ソース・ドレイン間の電流にヒステリシスは見られず、漏洩電流も小さく絶縁性能に優れていた。該ヒステリシスが見られないことについては、図5に示した。
(実施例2)
<樹脂の合成>
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に原料ポリマー10g、脱水した塩化メチレン260mL、桂皮酸クロリド19.2gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。上部に3方コックを取り付け、下部を密閉した100mLの滴下ロートにTFMS26gを仕込んだ。上記のシュレンク管と滴下ロートを窒素ボックスから取り出し、窒素シールした状態でシュレンク管と滴下ロートを連結させた。シュレンク管への窒素フローを停止し、滴下ロート上部の3方コックを塩化カルシウム管に連結後、窒素フローを停止した。次に、低温恒温槽中で冷却し、マグネチックスターラーで撹拌下、滴下ロートからTFMSを10分かけて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、1℃で55時間反応させた。飽和炭酸水素ナトリウム36gを溶解させた飽和水溶液360mLの内、100MLをゆっくりと滴下した。残りの飽和炭酸水素ナトリウム溶液を1Lのビーカーに入れ、氷100gを添加して冷却した。このビーカーに反応溶液を注いで、2時間撹拌した後、分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。更に水層を塩化メチレンで3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。このポリマー溶液を3Lのメタノールで再沈殿させる操作を2回行い、濾別後、50℃で減圧乾燥して17.9gの樹脂2を得た。更に、得られた樹脂10gを200mLのトルエンに溶解させて0.2μmのテフロン(登録商標)フィルターで吸引濾過して樹脂溶液2を得た。濾過時間は20mL/分であり、迅速な濾過が可能であった。また、濾過工程における濾過速度の低下は無く、ミクロゲルの影響は見られなかった。
【0131】
H−NMRによる分析の結果、得られた樹脂2(下記式)は式(1)、式(2)及び式(3)で表される構造単位をそれぞれ36.5モル%、62.5モル%、及び1.0モル%有していることを確認した。
【0132】
【化19】
【0133】
H−NMR(400MHz,CDCl):δ7.62(brs,−CH=CH−Ph),7.39〜6.51(m,芳香族,−CH=CH−Ph),δ4.5(brs, −C(O)CH−CH(Ph)−),δ2.57(brs,−C(O)CH−CH(Ph)−),δ3.14(brs, ―C(O)CH−CH(Ph)−),2.04(brs,−CH―CH−),1.78〜1.40(bm,−CH−)
<絶縁膜の作製及び評価>
サイズ5cm×5cm、厚み100ミクロンのPETフィルム(帝人デュポンフィルム製)上に、スピンコータ―を用いて厚み540nmの絶縁膜を作製後、紫外線を照射(室温)して光環化(光架橋)した。このフィルムをトルエンに1時間浸漬後、取り出して常温でトルエンを揮発させミクロクラックの有無を確認した。
【0134】
作製した絶縁膜の構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0135】
架橋に必要な照射量(残膜率が95%以上)は、200mJ/cmであった。また、架橋後の絶縁膜においてクラックが確認されず、耐溶剤性に優れることが確認された。さらに、得られた絶縁膜は、平坦性及び溶剤の濡れ性に優れることが確認された。
<OFET素子の作成及び評価>
樹脂2を用いて、UV照射量を200mJ/cmとした以外は実施例1と同様の手法を用いて、絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。
【0136】
作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表2に合わせて示す。
【0137】
実施例1と同様に有機電界効果トランジスタデバイスとして優れた性能を有することが確認された。
(比較例1)
<樹脂の合成>
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に原料ポリマー5.0g、脱水した塩化メチレン150mL、無水塩化アルミニウム3.9gを仕込み、室温、撹拌下で溶解させた。上部に3方コックを取り付け、下部を密閉した30mLの滴下ロートに桂皮酸クロリド4.0gの塩化メチレン溶液30mlを仕込んだ。上記のシュレンク管と滴下ロートを窒素ボックスから取り出し、窒素シールした状態でシュレンク管と滴下ロートを連結させた。シュレンク管への窒素フローを停止し、滴下ロート上部の3方コックを塩化カルシウム管に連結後、窒素フローを停止した。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、滴下ロートから桂皮酸クロリドを10分かけて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で28時間反応させた。反応溶液を再度、氷水で冷却した後、35%塩酸水溶液20mlを滴下した。この状態で5時間撹拌後、反応溶液を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。この塩化メチレン層を4回繰り返し水洗した。水層は塩化メチレンで3回抽出し、分液した。得られた塩化メチレン層を合わせて1.5Lのメタノールで再沈殿させ、ポリマーを濾過により単離する操作を2回行った後、50℃で減圧乾燥して5.9gの樹脂3を得た。得られた樹脂5gを100mLのトルエンに溶解させて0.2μmのテフロン(登録商標)フィルターで吸引濾過したが、濾過開始5秒程度で濾過不可となり、ミクロゲルによるフィルター閉塞が顕著であった。そこで、本溶液を順次5μm、3μm、1μm、0.5μm、0,2μmのフィルターで吸引濾過して樹脂溶液3を得た。
【0138】
H−NMRによる分析の結果、得られた樹脂3(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ85モル%、及び15モル%有していることを確認した。
【0139】
【化20】
【0140】
H−NMR(400MHz,CDCl):δ7.62(brs,−CH=CH−Ph),7.39〜6.51(m,芳香族,−CH=CH−Ph),2.04(brs, −CH―CH−),1.78〜1.40(bm,−CH−)
<絶縁膜の作製及び評価>
サイズ5cm×5cm、厚み100ミクロンのPETフィルム(帝人デュポンフィルム製)上に、スピンコータ―を用いて厚み570nmの絶縁膜を作製後、紫外線を照射(室温)して光環化(光架橋)した。このフィルムをトルエンに1時間浸漬後、取り出して常温でトルエンを揮発させミクロクラックの有無を確認した。
【0141】
作製した絶縁膜の構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0142】
架橋に必要な照射量(残膜率が95%以上)は500mJ/cmであり、実施例1及び実施例2と比較して架橋速度に劣ることが確認された。
<OFET素子の作成及び評価>
得られた樹脂溶液3を用いて、UV照射量を500mJ/cmとした以外は実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。ここで、UV照射量が500mJ/cmであるとき、残膜率が95%以上となるものである。
【0143】
作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表2に合わせて示す。
【0144】
絶縁破壊強度で劣り、高分子誘電体層としての性能が不十分であることが確認された。
(比較例2)
<樹脂の合成>
窒素ボックス内で300mLのシュレンク管に原料ポリマー5.0g、脱水した塩化メチレン150mL、桂皮酸クロリド4.0gを仕込んだ。上部に3方コックを取り付け、下部を密閉した30mLの滴下ロートにTFMS0.36g及び塩化メチレン15mLを仕込んだ。上記のシュレンク管と滴下ロートを窒素ボックスから取り出し、窒素シールした状態でシュレンク管と滴下ロートを連結させた。シュレンク管への窒素フローを停止し、滴下ロート上部の3方コックを塩化カルシウム管に連結後、窒素フローを停止した。次に、シュレンク管を氷水で冷却し、滴下ロートから桂皮酸クロリドを10分かけて滴下した。滴下とともにポリマー溶液の色は赤紫色に着色した。滴下終了後、氷水浴を除き、室温で28時間反応させた。反応溶液を再度、氷水で冷却した後、飽和炭酸水素ナトリウム2.2gを溶解させた反応溶液を中和した。反応物を分液ロートに移し、塩化メチレン層を分離した。更に水層を塩化メチレンで3回洗浄、分液してポリマーの塩化メチレン溶液を得た。この溶液を1.5Lのメタノールに注いでポリマーを再沈殿させ、濾過によりポリマーを単離する操作を2回繰り返した後、50℃で減圧乾燥して5.0gの樹脂4を得た。得られた樹脂5gをトルエン100mLに溶解させた後、0.2μmのフィルターで吸引濾過したが、約50mL濾過した時点で濾過速度が急激に低下し、その後、濾過不可ととなり、ミクロゲルによるフィルター閉塞が顕著であった。そこで、残された溶液50mLを順次5μm、3μm、1μm、0.5μm、0,2μmのフィルターで吸引濾過して樹脂溶液4を得た。なお、濾過速度低下前の平均濾過速度は50mL/分であり、実施例1及び2に対して劣っていた。
【0145】
H−NMRによる分析の結果、得られた樹脂4(下記式)は式(1)及び式(2)で表される構造単位をそれぞれ95モル%、及び5モル%有していることを確認した。
【0146】
【化21】
【0147】
H−NMR(400MHz,CDCl):δ7.62(brs,−CH=CH−Ph),7.39〜6.51(m,芳香族,−CH=CH−Ph),2.04(brs, −CH―CH−),1.78〜1.40(bm,−CH−)
<絶縁膜の作製及び評価>
サイズ5cm×5cm、厚み100ミクロンのPETフィルム(帝人デュポンフィルム製)上に、スピンコータ―を用いて厚み560nmの絶縁膜を作製後、紫外線を照射(室温)して光環化(光架橋)した。このフィルムをトルエンに1時間浸漬後、取り出して常温でトルエンを揮発させミクロクラックの有無を確認した。
【0148】
作製した絶縁膜の構成、評価結果等を表1に合わせて示す。
【0149】
架橋に必要な照射量(残膜率が95%以上)は600mJ/cmであり、実施例1及び実施例2と比較して架橋速度に劣ることが確認された。また、架橋後の絶縁膜にクラックの発生が確認された。
<OFET素子の作成及び評価>
得られた樹脂溶液4を用いて、UV照射量を600mJ/cmとした以外は実施例1と同様の手法を用いて絶縁膜を形成後、有機電界効果トランジスタデバイスを作製した。ここで、UV照射量が600mJ/cmであるとき、残膜率が95%以上となるものである。
【0150】
作製した有機電界効果トランジスタデバイスの構成、評価結果等を表2に合わせて示す。
【0151】
絶縁破壊強度で劣り、高分子誘電体層としての性能が不十分であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0152】
プリンテッドエレクトロニクス技術により製造出来る高品質の有機電界効果トランジスタデバイスに好適な樹脂を提供できる。
図1
図2
図3
図4
図5