特許第6954531号(P6954531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6954531高機能分化誘導細胞の濃縮方法及び高機能分化誘導細胞集団
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954531
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】高機能分化誘導細胞の濃縮方法及び高機能分化誘導細胞集団
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20211018BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20211018BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20211018BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20211018BHJP
【FI】
   C12N5/10ZNA
   C12Q1/02
   A61L27/38 300
   !C12N15/31
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-177607(P2017-177607)
(22)【出願日】2017年9月15日
(65)【公開番号】特開2019-50771(P2019-50771A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2020年8月18日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療実用化研究事業「種々のバリエーションを有したヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞の作製と毒性評価系への応用」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】水口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】高山 和雄
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−503304(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/147975(WO,A1)
【文献】 The FASEB Journal,2020年,Vol.34,p9141-9155
【文献】 Biomaterials,2018年01月18日,Vol.161,p24-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00−28
C12Q 1/00−70
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、CYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法:
1)多能性幹細胞のCYP遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子を導入する工程;
2)前記薬剤耐性遺伝子を導入した細胞を、分化誘導処理する工程;
3)前記分化誘導処理して得た細胞を、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤存在下で培養する工程;
4)前記薬剤存在下で生存した細胞を収集する工程。
【請求項2】
前記工程1)の多能性幹細胞のCYP遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子を導入する工程が、当該薬剤耐性遺伝子とレポーター遺伝子と共に導入される工程である、請求項1に記載のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法。
【請求項3】
前記工程1)の多能性幹細胞のCYP遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子を導入する工程が、CYP遺伝子座をターゲッティングするドナーベクターを用いて遺伝子導入する工程である、請求項1又は2に記載のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法。
【請求項4】
前記工程1)のCYP遺伝子座をターゲッティングするドナーベクターが、CYP遺伝子座と相同なホモロジーアームを有し、当該ドナーベクターのホモロジーアームの間に薬剤耐性遺伝子及びレポーター遺伝子が搭載されている、請求項3に記載のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法。
【請求項5】
前記工程2)の分化誘導方法が、多能性幹細胞から分化誘導肝細胞又は分化誘導小腸上皮細胞へ分化誘導する方法である、請求項1〜4のいずれかに記載のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法。
【請求項6】
CYP遺伝子座が、CYP3A4遺伝子座、CYP1A2遺伝子座、CYP2C19遺伝子座、CYP2D6遺伝子座、CYP2E1遺伝子座及びCYP2C9遺伝子座より選択される1つ又は複数の遺伝子座である、請求項1〜5のいずれかに記載のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法により得られたCYP強発現分化誘導細胞集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工多能性幹細胞(iPS細胞: induced pluripotent stem cells)又は胚性幹細胞(ES細胞: embryonic stem cells)等の多能性幹細胞(PSC: pluripotent stem cells)由来の分化誘導細胞群から高機能分化誘導細胞を選別し濃縮する方法に関する。さらには、上記濃縮方法により濃縮された高機能分化誘導細胞集団に関する。
【背景技術】
【0002】
多能性幹細胞は多分化能と自己複製能を有する未分化細胞であり、組織損傷後の組織修復力を有することが示唆されている。このため、多能性幹細胞は各種疾患の治療用物質のスクリーニングや再生医療分野において有用であるとして、さかんに研究されている。多能性幹細胞のうちiPS細胞は、線維芽細胞などの体細胞に特定の転写因子、例えばOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYC等の遺伝子を導入することにより、体細胞を脱分化して作製された人工多能性幹細胞である。分化多能性を持った細胞は理論上、肝臓や小腸等を含む全ての組織や臓器に分化誘導することが可能である。
【0003】
多能性幹細胞から分化誘導肝細胞への分化誘導方法としては、液性因子を培地中に加えたり、適当な細胞外マトリクス、フィーダー細胞、マトリゲル等を選択して用いる方法などが試みられてきた。しかしながら、これらの方法により得られた分化誘導肝細胞の薬物代謝酵素活性は低いことが報告されている(非特許文献1〜5)。幹細胞から成熟肝細胞へ分化させるには、幹細胞から中内胚葉、内胚葉細胞、肝幹前駆細胞の分化の工程を経ることが必要である。各分化の工程において、培養系にアクチビンA(activin A)、BMP4(bone morphogenetic protein 4)、FGF4(fibroblast growth factor 4)、レチノイン酸、又はDMSO(Dimethyl sulfoxide)などの液性因子や化合物が用いられている。また、肝臓発生にHEX(hematopoietically expressed homeobox)、HNF4α(hepatocyte nuclear factor 4 alpha)、HNF6、FOXA2(forkhead box A2)等の転写因子が必要であることが報告されている(非特許文献6)。
【0004】
次世代遺伝子治療用ベクターシステムを用いてES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞から効果的に分化誘導肝細胞に分化誘導させる場合の遺伝子導入方法について開示がある(特許文献1)。特許文献1ではアデノウイルスベクターを用いて多能性幹細胞に、例えばHEX遺伝子、HNF4α遺伝子、HNF6遺伝子及びSOX17(Sry-related homeobox 17)遺伝子から選択されるいずれか1又は複数の遺伝子を導入することで、効果的に分化誘導肝細胞へ分化誘導させうることが開示されている。
【0005】
多能性幹細胞から分化誘導小腸上皮細胞への分化誘導方法としては、液性因子を培地中に加えたり、適当な細胞外マトリクス、フィーダー細胞、マトリゲル等を選択して用いる方法などが試みられてきた。しかしながら、これらの方法により得られた分化誘導小腸上皮細胞の薬物代謝酵素活性は低いことが報告されている(非特許文献7、8)。幹細胞から成熟小腸上皮細胞へ分化させるには、幹細胞から中内胚葉、内胚葉細胞、腸管前駆細胞の分化の工程を経ることが必要である。各分化の工程において、培養系にアクチビンA、FGF4、Wnt3A、R-spondin、Noggin、EGF(epidermal growth factor)などの液性因子や化合物が用いられている。また、小腸発生にCDX2(caudal type homeobox 2)、ISX(intestine specific homeobox)等の転写因子が必要であることが報告されている(非特許文献9)。
【0006】
次世代遺伝子治療用ベクターシステムを用いてES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞から効果的に分化誘導小腸上皮細胞に分化誘導させる場合の遺伝子導入方法について開示がある(特許文献2)。特許文献2ではアデノウイルスベクターを用いて多能性幹細胞に、例えばFOXA2遺伝子、CDX2遺伝子から選択されるいずれか1又は複数の遺伝子を導入することで、効果的に分化誘導小腸上皮細胞へ分化誘導させうることが開示されている。
【0007】
上記の如く、国内外の多くの研究者らにより、多能性幹細胞から分化誘導肝細胞や分化誘導小腸上皮細胞の分化誘導方法や作製方法が試みられている。しかしながら、上記の方法により作製された分化誘導肝細胞の場合、肝マーカーであるアルブミン陽性率は80%を超えるが、薬物代謝酵素CYP(シトクロムP450)を強発現する細胞の割合は10-20%程度であり、肝機能・純度はヒト初代培養肝細胞と比較すると十分とはいえない。また、上記の方法により作製された分化誘導小腸上皮細胞の場合、小腸マーカーであるVillin陽性率は60%を超えるが、CYPを強発現する細胞の割合は20%程度であり、小腸機能・純度はヒト初代培養小腸上皮細胞と比較すると十分とはいえない。多能性幹細胞由来分化誘導肝細胞及び/又は小腸上皮細胞を用いた創薬を実現するためには、機能と純度を向上させる技術が必須である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO2011/052504号公報
【特許文献2】国際公開WO2016/14975号公報(基礎出願:特願2015-51745)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hepatology. 51, 297-305 [2010]
【非特許文献2】PLoS One. 6, e24228 [2011]
【非特許文献3】Hepatology. 55, 1193-203 [2012]
【非特許文献4】J Hepatol. 62, 581-9 [2015]
【非特許文献5】Drug Metab Dispos. 45, 419-429 [2017]
【非特許文献6】Nature Reviews Genetics. 3, 499-512 [2002]
【非特許文献7】Sci Rep. 5, 16479 [2015]
【非特許文献8】Drug Metab Dispos. 43, 603-10 [2015]
【非特許文献9】Development. 133, 4119-29 [2006]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、iPS細胞又はES細胞等の多能性幹細胞由来の分化誘導細胞群から高機能分化誘導細胞を選別して濃縮する方法、具体的には、分化誘導細胞群からCYP強発現分化誘導細胞を選別して濃縮する方法を提供することを課題とする。さらには、上記濃縮方法により濃縮された高機能分化誘導細胞集団を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために、まずCYP遺伝子座に薬剤耐性遺伝子が挿入された多能性幹細胞を樹立した。その後、当該薬剤耐性遺伝子を導入した多能性幹細胞を分化誘導処理し、得られた分化誘導細胞群を当該薬剤耐性に対応する薬剤存在下で培養することにより、高機能分化誘導細胞を選別して濃縮することに成功し、本発明を完成した。
【0012】
即ち本発明は、以下よりなる。
1.以下の工程を含む、CYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法:
1)多能性幹細胞のCYP遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子を導入する工程;
2)前記薬剤耐性遺伝子を導入した細胞を、分化誘導処理する工程;
3)前記分化誘導処理して得た細胞を、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤存在下で培養する工程;
4)前記薬剤存在下で生存した細胞を収集する工程。
2.前記工程1)の多能性幹細胞のCYP遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子を導入する工程が、当該薬剤耐性遺伝子とレポーター遺伝子と共に導入される工程である、前項1に記載のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法。
3.前記工程1)の多能性幹細胞のCYP遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子を導入する工程が、CYP遺伝子座をターゲッティングするドナーベクターを用いて遺伝子導入する工程である、前項1又は2に記載のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法。
4.前記工程1)のCYP遺伝子座をターゲッティングするドナーベクターが、CYP遺伝子座と相同なホモロジーアームを有し、当該ドナーベクターのホモロジーアームの間に薬剤耐性遺伝子及びレポーター遺伝子が搭載されている、前項3に記載のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法。
5.前記工程2)の分化誘導方法が、多能性幹細胞から分化誘導肝細胞又は分化誘導小腸上皮細胞へ分化誘導する方法である、前項1〜4のいずれかに記載のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法。
6.CYP遺伝子座が、CYP3A4遺伝子座、CYP1A2遺伝子座、CYP2C19遺伝子座、CYP2D6遺伝子座、CYP2E1遺伝子座及びCYP2C9遺伝子座より選択される1つ又は複数の遺伝子座である、前項1〜5のいずれかに記載のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法。
7.多能性幹細胞由来分化誘導細胞中CYP強発現分化誘導細胞を30%以上含むことを特徴とするCYP強発現分化誘導細胞集団。
8.前項1〜6のいずれかに記載のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法により得られたCYP強発現分化誘導細胞集団。
9.CYP強発現分化誘導細胞が、CYP強発現分化誘導肝細胞又はCYP強発現分化誘導小腸上皮細胞である、前項7又は8に記載のCYP強発現分化誘導細胞集団。
10.CYP強発現分化誘導細胞集団が、ヒト初代培養肝細胞におけるCYP発現量と同等又はそれ以上のCYPを発現してなるCYP強発現分化誘導肝細胞を30%以上含むことを特徴とする、前項9に記載のCYP強発現分化誘導細胞集団。
11.CYP強発現分化誘導細胞集団が、ヒト小腸細胞におけるCYP発現量の1/10量又はそれ以上のCYPを発現してなるCYP強発現分化誘導小腸上皮細胞を30%以上含むことを特徴とする、前項9に記載のCYP強発現分化誘導細胞集団。
12.CYPが、CYP3A4、CYP1A2、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1及びCYP2C9より選択される1つ又は複数のCYPである、前項7〜11のいずれかに記載のCYP強発現分化誘導細胞集団。
13.前項7〜12のいずれかに記載のCYP強発現分化誘導細胞集団の、薬物毒性評価又は薬物動態評価のための使用方法。
14.前項7〜12のいずれかに記載のCYP強発現分化誘導細胞集団を使用することを特徴とする、薬物毒性評価方法又は薬物動態評価方法。
15.前項7〜12のいずれかに記載のCYP強発現分化誘導細胞集団を有効成分として含む移植用組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高機能分化誘導細胞の濃縮方法によれば、多能性幹細胞由来の分化誘導細胞では従来得られなかった高機能分化誘導細胞集団を容易に得ることができる。具体的には、高機能分化誘導細胞集団が、CYP強発現分化誘導細胞集団であり、より具体的にはCYP強発現分化誘導肝細胞集団及び/又はCYP強発現分化誘導小腸上皮細胞集団を容易に得ることができる。
【0014】
上記方法により得られた高機能分化誘導細胞がCYP強発現分化誘導肝細胞の場合は、成熟肝細胞のマーカーであるCYP3A4、CYP1A2及びCYP2C19等がヒト初代培養肝細胞とほぼ同等に発現することが確認された。また、胆汁酸排泄能もヒト初代培養肝細胞とほぼ同等であり、細胞毒性のある薬物に対してもほぼ同等の細胞感受性を示した。上記方法により得られた高機能分化誘導細胞がCYP強発現分化誘導小腸上皮細胞の場合は、小腸細胞のマーカーであるANPEP(Aminopeptidase N)、Villin及びISX等がヒト小腸細胞の1/10程度又はそれ以上発現することが確認された。上記濃縮方法により得られた高機能分化誘導細胞集団は、具体的にはCYP強発現分化誘導肝細胞集団及び/又はCYP強発現分化誘導小腸上皮細胞は、薬物毒性評価又は薬物動態評価に使用することができる他、移植用組成物として肝細胞及び/又は小腸上皮細胞の再生のために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】薬剤耐性遺伝子導入ヒトiPS細胞を作製するためのヒトiPS細胞のCYP3A4遺伝子座をターゲッティングするドナーベクターの構造を示す図である。(実施例1)
図2】CYP3A4タンパク質のN末端側又はC末端側にNeo(ネオマイシン)耐性遺伝子及びEGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)遺伝子を付加したときの各発現カセット(CYP3A4 (control)、NeoR-EGFP-CYP3A4、CYP3A4-NeoR-EGFP)の模式図である。各発現カセットを遺伝子導入した細胞におけるCYP3A4活性を測定した結果を示す図である。(実施例1)
図3】本発明の多能性幹細胞の肝細胞への分化誘導方法を示す図である。(実施例2)
図4】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞について分化誘導肝細胞へ分化誘導した過程におけるアルブミン(ALB)産生量を経時的にELISA法により計測した結果を示す図である。(実験例2−a)
図5】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞のCYP3A4発現を細胞免疫染色で確認した写真図である。分化誘導25日目におけるCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞についてCYP3A4(赤色)の染色画像(図5A)及びCYP3A4陽性細胞とEGFP陽性細胞がmergeしていることを示す画像(図5B)である。(実験例2−b)
図6】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞のCYP3A4活性を経時的に解析した結果(図6A)及びCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞から分化誘導肝細胞への分化誘導過程におけるEGFP陽性細胞率をフローサイトメトリー(FACS)で経時的に解析した結果(図6B)を示す図である。(実験例2−c、実験例2−d)
図7】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞について、FACSで解析し、EGFP陽性の細胞の割合(EGFP陽性細胞率)を計測した結果を示す図である。(実験例2−d)
図8】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞をG418(ネオマイシン)含有培地で培養したときのNeo耐性能を有する細胞のみが生存し、Neo耐性遺伝子発現細胞が濃縮された様子を示す概念図である。(実施例3)
図9】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞における肝関連遺伝子の遺伝子発現解析を確認した結果を示す図である。薬物代謝第一相酵素であるCYP1A2、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6及びCYP2E1の相対的発現量(図9A)と薬物代謝第二相酵素であるUGT1A1(UDP glucuronosyltransferase family 1 member A1)、UGT2B4、GSTA1(glutathione S-transferase alpha 1)、GSTA2、薬物トランスポーターであるMDR1(multidrug resistance protein 1)、MBCRP(breast cancer resistance protein)、BSEP(bile salt export pump)、MRP2(multidrug resistance-associated protein 2)、肝関連核内受容体及び転写因子であるAhR(arylhydrocarbon receptor)、CAR(constitutive androstane receptor)、PXR(pregnane X receptor)、PPARα(peroxisome proliferator-activated receptor alpha)、HNF4α、HNF1α、c/EBPα(CCAAT-enhancer-binding protein alpha)並びに肝機能関連遺伝子であるALB、αATの相対的発現量(図9B)を示した。(実験例3−a)
図10】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞にG418を作用させることによる、CYP3A4活性の違いを確認した結果を示す図である。(実験例3−b)
図11】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞にG418を作用させることによる、CYP3A4、CYP2D6、CYP1A2及びCYP2C19活性の違いを確認した結果を示す図である。(実験例3−b)
図12】細胞免疫染色によるCYP3A4陽性細胞及びEGFP陽性細胞の観察結果を示す写真図である。CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞にG418を作用させることで、CYP3A4発現細胞が濃縮されることが確認された結果を示す図である。(実施例3−b)
図13】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞にG418を作用させることによる、CYP誘導能を確認した結果を示す図である。(実験例3−c)
図14】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞にG418を作用させることで、EGFP陽性細胞率の変化を確認した結果を示す図である。(実験例3−d)
図15】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞にG418を作用させることによる、細胞毒性試験結果を示す図である。肝毒性を示すことが知られている各薬物を含む培地で細胞を培養したときの細胞生存率を確認した結果を示す図である。(実験例3−e)
図16】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞にG418を作用させることによる、胆汁酸排泄能を確認した結果を示す図である。(実験例3−f)
図17】本発明の多能性幹細胞の小腸上皮細胞への分化誘導方法を示す図である。(実施例4)
図18】本発明の多能性幹細胞の小腸上皮細胞への分化誘導方法を示す図である。(実施例5)
図19】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導小腸上皮細胞にG418を作用させることで、EGFP陽性細胞率の変化を確認した結果を示す図である。(実験例5)
図20】CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導小腸上皮細胞における小腸関連遺伝子の遺伝子発現解析を確認した結果を示す図である。小腸マーカーであるVillin、ANPEP、ISXの相対的発現量を示した。(実験例5)
図21】多能性幹細胞由来分化誘導肝細胞や分化誘導小腸上皮細胞から高機能な分化誘導肝細胞及び分化誘導小腸上皮細胞への濃縮を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、多能性幹細胞由来の分化誘導細胞群から高機能分化誘導細胞を選別して濃縮する方法に関する。さらには、上記濃縮方法により濃縮された高機能分化誘導細胞集団に関する。ここで「多能性幹細胞」とは、多分化能及び/又は自己複製能を有する未分化細胞であればよく、特に限定されないが、例えばiPS細胞やES細胞等の多能性幹細胞が挙げられる。本明細書において、iPS細胞やES細胞等の多能性幹細胞から人為的に分化誘導処理して得られた細胞、例えば肝細胞や小腸上皮細胞に関し、人為的に分化誘導処理していない各細胞と区別するために、「分化誘導肝細胞」や「分化誘導小腸上皮細胞」と表記することとする。本明細書において、肝細胞や小腸上皮細胞に特定されず、多能性幹細胞から人為的に分化誘導処理して得た細胞を、単に「分化誘導細胞」と表記する場合もある。
【0017】
「iPS細胞」とは、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、受精卵、余剰胚やES細胞を利用せずに分化細胞の初期化を誘導し、ES細胞と同様な多能性や増殖能を有する誘導多能性幹細胞をいい、2006年にマウスの線維芽細胞から世界で初めて作られた(Cell. 126: 663-676、2006)。さらに、マウスiPS細胞の樹立に用いた4遺伝子のヒト相同遺伝子であるOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYCを、ヒト由来線維芽細胞に導入してヒトiPS細胞の樹立に成功したことが報告されている(Cell, 131: 861-872, 2007)。本発明で使用されるiPS細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたiPS細胞、又は今後開発される新たな方法により作製されるiPS細胞であってもよい。
【0018】
「ES細胞」とは、一般的には胚盤胞期胚の内部にある内部細胞塊(inner cell mass)と呼ばれる細胞集塊をin vitro培養に移し、未分化幹細胞集団として単離した多能性幹細胞である。ES細胞は、M.J. Evans & M.H. Kaufman(Nature, 292, 154, 1981)に続いて、G.R. Martin(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78, 7634, 1981)によりマウスで多分化能を有する細胞株として樹立された。ヒト由来ES細胞についても、既に多くの株が樹立されており、ES Cell International社、Wisconsin Alumni Research Foundation、National Stem Cell Bank(NSCB)等から入手することが可能である。ES細胞は、一般に初期胚を培養することにより樹立されるが、体細胞の核を核移植した初期胚からもES細胞を作製することが可能である。また、異種動物の卵細胞、又は脱核した卵細胞を複数に分割した細胞小胞(cytoplasts, ooplastoids)に、所望の動物の細胞核を移植して胚盤胞期胚様の細胞構造体を作製し、それを基にES細胞を作製する方法もある。また、単為発生胚を胚盤胞期と同等の段階まで発生させ、そこからES細胞を作製する試みや、ES細胞と体細胞を融合させることにより、体細胞核の遺伝情報を有したES細胞を作る方法も報告されている。本発明で使用されるES細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたES細胞、又は今後開発される新たな方法により作製されるES細胞であってもよい。
【0019】
本明細書において「高機能分化誘導細胞」とは、薬物代謝酵素シトクロムP450であるCYPを強発現した分化誘導細胞をいい、以下単に「CYP強発現分化誘導細胞」ともいう。CYP遺伝子は薬物や毒物など生体外異物を代謝する遺伝子のスーパーファミリーである(蛋白質・核酸・酵素:Vol.43, No.3 ,203-215(1998))。発明において、薬物代謝酵素であるCYPとしては、CYP酵素群に含まれる酵素であって薬物代謝に関連する酵素であればよく、特に限定されないが、例えばCYP3A4、CYP1A2、CYP3A5、CYP3A7、CYP2C8、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1及びCYP2C9より選択される1つ又は複数のCYPが挙げられ、好適にはCYP3A4、CYP1A2、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1及びCYP2C9より選択される1つ又は複数のCYPが挙げられ、最も好適にはCYP3A4が挙げられる。分化誘導されたCYP強発現細胞が肝細胞の場合は「CYP強発現分化誘導肝細胞」といい、分化誘導されたCYP強発現細胞が小腸上皮細胞の場合は「CYP強発現分化誘導小腸上皮細胞」という。従来技術の欄で既述の如く、公知の方法により作製された分化誘導肝細胞や分化誘導小腸上皮細胞等ではCYP強発現細胞の割合は10-20%程度であり、細胞の機能及び純度はヒト初代培養肝細胞やヒト小腸細胞と比較すると十分とはいえなかった。本発明の方法によれば、CYP強発現分化誘導肝細胞やCYP強発現分化誘導小腸上皮細胞を30%以上含まれるように濃縮することができる。
【0020】
本発明のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法は、以下の工程よりなる。
1)多能性幹細胞のCYP遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子を導入する工程;
2)前記薬剤耐性遺伝子を導入した細胞を、分化誘導処理する工程;
3)前記分化誘導処理して得た細胞を、薬剤存在下で培養する工程;
4)前記薬剤存在下で生存した細胞を収集する工程。
【0021】
CYP強発現分化誘導肝細胞は、ヒト初代培養肝細胞の48時間培養時点におけるCYP発現量と同等又はそれ以上のCYPを発現する。本明細書において、CYP強発現分化誘導肝細胞の「濃縮」とは、分化誘導肝細胞群から、上記CYP強発現分化誘導肝細胞が、少なくとも30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上含まれるように濃縮することをいう。CYP強発現分化誘導細胞が分化誘導小腸上皮細胞の場合は「CYP強発現分化誘導小腸上皮細胞」という。CYP強発現分化誘導小腸上皮細胞は、ヒト小腸細胞におけるCYP発現量の1/10程度又はそれ以上のCYPを発現する。本明細書において、CYP強発現分化誘導小腸上皮細胞の「濃縮」とは、分化誘導小腸上皮細胞群から、上記CYP強発現分化誘導小腸上皮細胞が、少なくとも30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上含まれるように濃縮することをいう。従来技術の欄で既述の如く、公知の方法により作製された分化誘導肝細胞や分化誘導小腸上皮細胞等ではCYP強発現細胞の割合は10-20%程度であり、細胞の機能及び純度はヒト初代培養肝細胞やヒト小腸細胞と比較すると十分とはいえなかった。本発明の方法によれば、CYP強発現分化誘導肝細胞やCYP強発現分化誘導小腸上皮細胞を30%以上含まれるように濃縮することができる。
【0022】
上記工程1)の多能性幹細胞のCYP遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子を導入する工程において「CYP遺伝子座」とは、CYP3A4遺伝子座、CYP1A2遺伝子座、CYP3A5遺伝子座、CYP3A7遺伝子座、CYP2C8遺伝子座、CYP2C19遺伝子座、CYP2D6遺伝子座、CYP2E1遺伝子座及びCYP2C9遺伝子座より選択される1つ又は複数の遺伝子座をいう。好適にはCYP3A4遺伝子座、CYP1A2遺伝子座、CYP2C19遺伝子座、CYP2D6遺伝子座、CYP2E1遺伝子座及びCYP2C9遺伝子座がから選択される1つ又は複数の遺伝子座をいい、最も好適にはCYP3A4遺伝子座をいう。
【0023】
前記工程1)の多能性幹細胞のCYP遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子を導入する工程において、薬剤耐性遺伝子としては、ネオマイシン耐性(NeoR)遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子や今後開発される薬剤耐性遺伝子から好適なものを選択することができる。前記工程3)で培養に用いられる薬剤は、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤である。例えばNeoR遺伝子を導入した細胞を培養する場合は、ネオマイシン(Neo)存在下で培養する。ここで薬剤耐性遺伝子に示す「薬剤」と、後述する細胞毒性試験等に使用される評価対象としての「薬物」は、本明細書において区別して使用される。
【0024】
前記工程1)の薬剤耐性遺伝子を導入する工程において、薬剤耐性遺伝子とレポーター遺伝子を共に導入することができる。レポーター遺伝子を導入することにより、所望の細胞の濃縮の程度をより明確に確認することができる。本発明で使用されるレポーター遺伝子としては、EGFP、GFP(Green Fluorescent Protein)、Venus、DsRed(Red Fluorescent Protein)や又は今後開発されるレポーター遺伝子から好適なものを選択することができる。特に好適にはEGFPである。
【0025】
前記工程1)の多能性幹細胞のCYP遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子を導入する工程は、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。例えば、CYP遺伝子座をターゲットとするドナーベクターを用いる遺伝子ターゲッティングの手法によることができる。遺伝子ターゲッティング方法についても、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。多能性幹細胞に対する遺伝子ターゲッティングの方法は、例えば特開2017-18026号に開示される方法を適用することができる。
【0026】
前記工程1)のCYP遺伝子座をターゲットとするドナーベクターとして、例えばCYP遺伝子座と相同なホモロジーアームを有し、当該ドナーベクターのホモロジーアームの間に薬剤耐性遺伝子及びレポーター遺伝子が搭載されているベクターを使用することができる。
【0027】
前記工程2)により分化誘導肝細胞又は分化誘導小腸上皮細胞へ分化誘導するのが好適である。薬物代謝酵素であるCYPは、人為的に分化誘導処理したものではない肝細胞や小腸上皮細胞に強発現されている。本発明の分化誘導肝細胞や分化誘導小腸上皮細胞から、CYP強発現分化誘導肝細胞やCYP強発現分化誘導小腸上皮細胞を濃縮して得ることができれば非常に有用である。
【0028】
多能性幹細胞から分化誘導肝細胞又は分化誘導小腸上皮細胞へ分化誘導する方法は、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。
【0029】
分化誘導肝細胞への分化誘導において、細胞凝集塊(胚様体)を形成させたり、液性因子を培地に加えたり、適当な細胞外マトリクス、フィーダー細胞、マトリゲル等を選択して用いる方法を適用することができる。幹細胞から成熟肝細胞へ分化させるには、通常、幹細胞から中内胚葉、内胚葉細胞、肝幹前駆細胞を経ることが必要であり、各分化の過程において、培養系にアクチビンA、BMP4、FGF4、レチノイン酸、HGF(hepatocyte growth factor)、OsM(Oncostatin M)又はDMSOなどの液性因子や化合物を用いることができる。また、肝臓発生にHEX、HNF4α、HNF6、FOXA2、SOX17、HNF1α等の転写因子が必要であることが知られている。さらに、ベクターシステムを用いて特定の遺伝子をiPS細胞又はES細胞等の幹細胞に導入し、肝細胞に分化誘導させることもできる。特定の遺伝子としては、例えばHEX遺伝子、HNF4α遺伝子、FOXA2遺伝子、HNF1α遺伝子及びSOX17遺伝子から選択されるいずれか1又は複数の遺伝子が挙げられる。分化誘導方法は、上記に限定されず、今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。
【0030】
分化誘導小腸上皮細胞への分化誘導において、多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程、前記分化誘導により得られた内胚葉細胞をALK5阻害物質(SB431542)、Wnt3a及びEGFから選択されるいずれか一種又は複数種の物質を含む系で培養する工程を含むことができる。また、工程のいずれかにおいて、CDX2遺伝子及び/又はFOXA2遺伝子を導入する工程を含んでいても良い。分化誘導方法は、上記に限定されず、今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。
【0031】
本発明のCYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法において使用可能な培養液としては、例えば、以下に例示される培養液を用いることができる。各培養液に添加する物質は、目的に応じて、適宜増減することができる。使用する試薬は同等の機能を発揮しうるものであれば、製造・販売元は下記に限定されない。
(A)ヒトES/iPS細胞未分化維持培地としては、ReproStem(商品名)、iPSellon(商品名)、Essential 8(商品名)、TeSR-E8(商品名)StemFit(R)AK03N(商品名)、StemFit(R)AK02N(商品名)などの各種幹細胞維持培地を使用することができる。
(B)分化誘導用培地として、例えばRPMI1640培地(Sigma社)に1×Glutamax(Thermo fisher scientific社)、B27 Supplement(Thermo fisher scientific社)、ペニシリン/ストレプトマイシンを含む培地も使用することができる。内胚葉細胞を分化誘導する際に使用する培地は同等の機能を発揮しうるものであれば、上記に限定されない。
(C)肝幹前駆細胞から肝細胞への分化誘導にはHepatocyte Culture Medium(HCM、Lonza)を使用することができる。肝幹前駆細胞から肝細胞への分化誘導する際に使用する培地は同等の機能を発揮しうるものであれば、上記に限定されない。
(D)肝幹前駆細胞用培地としてDMEM/F12培地を用いることができる。DMEM/F12培地には、10%FBS、インスリン(10μg/ml)、トランスフェリン(5μg/ml)、亜セレン酸ナトリウム(20 nM)、ニコチンアミド(10 mM)、DEX(デキサメタゾン、10-7 M)、HEPES(20 mM)、NaHCO3(25 mM)、L-グルタミン(2 mM)、ペニシリン/ストレプトマイシンを添加して使用する。肝幹前駆細胞を培養する際に使用する培地は同等の機能を発揮しうるものであれば、上記に限定されない。
(E)内胚葉細胞から小腸上皮細胞への分化誘導にはdifferentiation DMEM-high Glucose培地、10% Knock Serum Replacement(Thermo fisher scientific社)、1 % Non Essential Amino Acid Solution(Thermo fisher scientific社)、ペニシリン/ストレプトマイシン、1×Glutamax(Thermo fisher scientific社)を含むDMEM-high Glucose培地(Wako社)を使用することができる。
【0032】
本発明の分化誘導方法の工程において、培養している細胞上に基底膜マトリックスを含む溶液を重層し、さらに培養することができる。基底膜マトリックスは生物において、細胞の外に存在する超分子構造体であり、細胞外マトリックス(Extracellular Matrix: ECM)ともいい、ECMと略される。本発明の方法に使用可能な基底膜マトリックスとして、例えば「Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出した可溶性基底膜」について市販されているマトリゲル(商品名) が挙げられる。培養基材への基底膜マトリックス等の重層は、自体公知の方法、又は今後開発される方法によることができる。本発明の細胞の培養に使用する培養容器等の培養基材には、基底膜マトリックス等をコーティングしたものを用いて培養することができる。
【0033】
例えば、分化開始の24時間〜1時間前に、4℃の分化誘導用基本培地を用いて100倍希釈したマトリゲル希釈液を培養基材に重層し、分化誘導処理開始時に培養基材に付着されなかった溶液を除去したのちに、分化誘導用培養基材として使用することができる。
【0034】
前記工程4)の薬剤存在下で生存した細胞を収集する工程では、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を用いて、培輸した細胞を収集することができる。前記工程1)〜3)の工程を経ることにより、「高機能分化誘導細胞」、具体的にはCYPを強発現した分化誘導細胞を収集することができる。
【0035】
本発明は、本発明の方法により濃縮して得られた高機能分化誘導細胞集団、即ちCYP強発現分化誘導細胞集団にも及ぶ。分化誘導細胞が分化誘導肝細胞の場合は、例えば48時間培養したヒト初代培養肝細胞におけるCYP発現量と同等又はそれ以上のCYPを発現してなるCYP強発現分化誘導肝細胞が、少なくとも30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%含まれる細胞集団を、CYP強発現分化誘導肝細胞集団という。分化誘導細胞が分化誘導小腸上皮細胞の場合は、ヒト小腸細胞におけるCYP発現量の1/10程度又はそれ以上のCYPを発現してなるCYP強発現分化誘導小腸上皮細胞が、少なくとも30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%含まれる細胞集団を、CYP強発現分化誘導小腸上皮細胞集団という。
【0036】
本明細書において、CYP強発現分化誘導細胞とはCYP3A4、CYP1A2、CYP3A5、CYP3A7、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1及びCYP2C9より選択される1つ又は複数のCYPが強発現している細胞をいう。好適にはCYP3A4、CYP2D6、CYP1A2及びCYP2C19から選択されるCYPが強発現している細胞をいい、CYP3A4を強発現している細胞が最も好適である。本発明のCYP強発現分化誘導細胞が分化誘導肝細胞の場合は、上記CYPの他さらに薬物トランスポーターであるMDR1、BCRP、BSEP、MRP2、肝関連核内受容体及び転写因子であるAhR、CAR、PXR、PPARα、HNF4α、HNF1α、c/EBPα並びに肝機能関連遺伝子であるALB、αATから選択されるいずれか1種又は複数種の因子が高発現していてもよい。本発明のCYP強発現分化誘導細胞が分化誘導小腸上皮細胞の場合は、上記CYPの他さらにApoa4(apolipoprotein A4)、Apoc2、Apoc3、Fgf19(fibroblast growth factor 19)、Car1(carbonic anhydrase 1)、Car2、Slc2a2(solute carrier family 2 member 2)、Slc9a3、UGT1A1(UDP glucuronosyltransferase family 1 member A1)、UGT1A3、CES2(carboxylesterase 2)から選択されるいずれか1種又は複数種の因子が高発現していてもよい。
【0037】
ここで、CYP強発現分化誘導細胞の濃縮方法において、遺伝子を導入する遺伝子座のCYPの種類と、発現する酵素群は、必ずしも一致していなくてもよい。例えば、CYP3A4遺伝子座に薬剤耐性遺伝子を導入し、前記薬剤耐性遺伝子を導入した細胞を分化誘導処理し、前記分化誘導処理して得た細胞を、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤存在下で培養することで、CYP3A4のみならず、CYP1A2、CYP3A5、CYP3A7、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1及びCYP2C9やUGT1A1、GT2B4、GSTA1やGSTA2等も発現可能である(図9参照)。
【0038】
本発明は、本発明のCYP強発現分化誘導細胞集団を、薬物毒性評価又は薬物動態評価に使用する方法にも及ぶ。さらに、上記濃縮方法により得られるCYP強発現分化誘導細胞集団を用いることを特徴とする、薬物毒性評価方法及び/又は薬物動態評価方法にも及ぶ。さらに、当該CYP強現分化誘導細胞集団を用いることを特徴とする、薬物-薬物間相互作用の検査方法や薬物代謝酵素誘導試験方法にも及ぶ。このようにして得られたCYP強発現分化誘導細胞集団に対して、医薬品候補化合物を添加することで、薬物代謝・薬物吸収、薬物毒性及び/又は薬物動態、薬物-薬物間相互作用、薬物代謝酵素誘導等について、各々検査し、評価することができる。従来は初代培養のヒト肝細胞やヒト小腸上皮細胞は入手が困難であり、また個体差による性状の違いが問題であったり、多能性幹細胞由来の分化誘導細胞ではCYPの発現が十分でなかったのに対し、本発明の方法により、安定的に優れたCYP強発現分化誘導細胞集団を提供可能である。
【0039】
本発明は、本発明のCYP強発現分化誘導細胞集団、具体的にはCYP強発現分化誘導肝細胞及び/又はCYP強発現分化誘導小腸上皮細胞を有効成分として含む、移植用組成物にも及ぶ。移植用組成物には、細胞移植のための当該CYP強発現分化誘導細胞集団と、細胞を維持するための培地、緩衝液、又は生理食塩水等の医薬的に許容可能な担体が含まれていてもよい。肝臓や小腸の移植は、脳死患者の他、生体ドナーから移植される場合もある。しかしながら、肝臓や小腸の移植を分化誘導細胞により行うことができれば、血縁生体ドナーの負担を軽減化することができ、移植を必要とする患者にとっても非常に有用である。特に肝臓及び小腸を同時に移植する場合もあり、非常に有用である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の理解を深めるために参考例、実施例及び実験例を示して本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。
【0041】
(参考例1)各種培地組成
本実施例で示す培養方法では、ヒトiPS細胞に対する培地が必要である。本参考例では、各種培養に使用可能な培養液の組成について説明する。
【0042】
培地1:ヒトES/iPS細胞未分化維持培地としては、ReproStem、iPSellon、E8、mTeSR、StemFit(R)AK03N、StemFit(R)AK02Nなどの各種幹細胞維持培地を使用することができる。以後、当該培地を「培地1」という。
【0043】
培地2:RPMI1640培地(Sigma社)に1×GlutaMAX(Thermo fisher scientific社)、B27 Supplement(Thermo fisher scientific社)、ペニシリン/ストレプトマイシンを含む培地を使用することができる。以後、当該培地を「培地2」という。
【0044】
培地3:肝幹前駆細胞用培地としてDMEM/F12培地を用いることができる。DMEM/F12培地には、10%FBS、インスリン(10μg/ml) 、トランスフェリン(5μg/ml)、亜セレン酸ナトリウム(20 nM)、ニコチンアミド(10 mM)、DEX(10-7 M)、HEPES(20 mM)、NaHCO3(25 mM)、L-グルタミン(2 mM)、ペニシリン/ストレプトマイシンを添加する。以後、当該培地を「培地3」という。
【0045】
培地4:肝幹前駆細胞から肝細胞への分化誘導用培地としてHCM培地を使用することができる。HCMにはEGFを添加しない。以後、当該培地を「培地4」という。
【0046】
培地5:内胚葉細胞以降の分化誘導にはdifferentiation DMEM-high Glucose 培地(10% Knock Serum Replacement(Thermo fisher scientific社)、1 % Non Essential Amino Acid Solution(Thermo fisher scientific社)、ペニシリン/ストレプトマイシン、1×GlutaMAX(Thermo fisher scientific社)を含むDMEM-high Glucose培地(Wako社))を使用することができる。以後、当該「differentiation DMEM-high Glucose 培地」を「培地5」という。
【0047】
(実施例1)NeoR遺伝子導入ヒトiPS細胞の作製
本実施例では、ヒトiPS細胞のCYP3A4遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子としてNeoR遺伝子とレポーター遺伝子としてEGFP遺伝子が導入されたiPS細胞の構築について説明する。本実施例では、ヒトiPS 細胞株としてYOW-iPS(Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 111, 16772-7 [2014])を用いた。
【0048】
まず初めにヒトiPS細胞のCYP3A4遺伝子座をターゲットとするドナーベクター(Donor vector)を構築した。本実施例で作製したドナーベクターはCYP3A4遺伝子座と相同なホモロジーアーム(homology arms)を有し、左腕(left arm)及び右腕(right arm)のいずれも約1,000 bpである。ドナーベクターのホモロジーアームの間にNeoR遺伝子及びEGFP遺伝子が搭載されている。相同組換えが起こることにより、CYP3A4とNeoR遺伝子、EGFPが融合したmRNAが発現できるヒトiPS細胞株を取得することができる。相同組換え効率を向上させるために、左右のホモロジーアームを設計した中央付近にて、CRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR associated proteins 9)ベクターを用いてDNA2本鎖切断を誘導した。本実施例では、CYP3A4遺伝子座の複数個所を切断するために、2種類のgRNA(guide RNA)をそれぞれ設計し、CRISPR/Cas9ベクターにそれぞれ搭載した(図1参照)。
【0049】
用いた2種類のgRNAの配列は以下のとおりである。(下記配列の下腺部分)
sgRNA1; fwd: CACCtagaactctgaaatgaagat(配列番号1)
rev: AAACatcttcatttcagagttcta(配列番号2)
sgRNA2; fwd: CACCatggactgcataaataaccg(配列番号3)
rev: AAACcggttatttatgcagtccat(配列番号4)
CRISPR/Cas9ベクターとしてpX330 (Addgene, no 42230, http://www.addgene.org/42230/)を用いた。
【0050】
T2Aの配列は以下の通りである。
GAGGGCAGAGGAAGTCTGCTAACATGCGGTGACGTCGAGGAGAATCCTGGACCT(配列番号5)
E2Aの配列は以下の通りである。
CAGTGTACTAATTATGCTCTCTTGAAATTGGCTGGAGATGTTGAGAGCAACCCTGGACCT(配列番号6)
【0051】
NeoR遺伝子の配列は以下の通りである。(配列番号7)
atgggatcggccattgaacaagatggattgcacgcaggttctccggccgcttgggtggagaggctattcggctatgactgggcacaacagacaatcggctgctctgatgccgccgtgttccggctgtcagcgcaggggcgcccggttctttttgtcaagaccgacctgtccggtgccctgaatgaactgcaggacgaggcagcgcggctatcgtggctggccacgacgggcgttccttgcgcagctgtgctcgacgttgtcactgaagcgggaagggactggctgctattgggcgaagtgccggggcaggatctcctgtcatctcaccttgctcctgccgagaaagtatccatcatggctgatgcaatgcggcggctgcatacgcttgatccggctacctgcccattcgaccaccaagcgaaacatcgcatcgagcgagcacgtactcggatggaagccggtcttgtcgatcaggatgatctggacgaagagcatcaggggctcgcgccagccgaactgttcgccaggctcaaggcgcgcatgcccgacggcgatgatctcgtcgtgacccatggcgatgcctgcttgccgaatatcatggtggaaaatggccgcttttctggattcatcgactgtggccggctgggtgtggcggaccgctatcaggacatagcgttggctacccgtgatattgctgaagagcttggcggcgaatgggctgaccgcttcctcgtgctttacggtatcgccgctcccgattcgcagcgcatcgccttctatcgccttcttgacgagttcttc
【0052】
EGFP遺伝子の配列は以下のとおりである。(配列番号8)
atggtgagcaagggcgaggagctgttcaccggggtggtgcccatcctggtcgagctggacggcgacgtaaacggccacaagttcagcgtgtctggcgagggcgagggcgatgccacctacggcaagctgaccctgaagttcatctgcaccaccggcaagctgcccgtgccctggcccaccctcgtgaccaccctgacctacggcgtgcagtgcttcagccgctaccccgaccacatgaagcagcacgacttcttcaagtccgccatgcccgaaggctacgtccaggagcgcaccatcttcttcaaggacgacggcaactacaagacccgcgccgaggtgaagttcgagggcgacaccctggtgaaccgcatcgagctgaagggcatcgacttcaaggaggacggcaacatcctggggcacaagctggagtacaactacaacagccacaacgtctatatcatggccgacaagcagaagaacggcatcaaggcgaacttcaagatccgccacaacatcgaggacggcagcgtgcagctcgccgaccactaccagcagaacacccccatcggcgacggccccgtgctgctgcccgacaaccactacctgagcacccagtccgccctgagcaaagaccccaacgagaagcgcgatcacatggtcctgctggagttcgtgaccgccgccgggatcactctcggcatggacgagctgtacaagtaa
【0053】
上記作製したドナーベクターを用いて、ヒトiPS細胞のCYP3A4遺伝子座に対するターゲティングを行なった。ヒトiPS細胞への遺伝子ターゲッティング方法、使用した試薬・キットは、特開2017-18026号公報の開示に従った。ネオマイシン耐性のコロニー取得効率を表1に示した。3回の独立試行実験(1st、2nd、3rd)を行った。各回で24コロニーを解析し、「no integration or random integration colony(インテグレーション無しの株又はランダムインテグレーション株)」「heterozygous colony(片アリル改変株)」「homozygous colony(両アリル改変株)」の数を計測した。上記作製したドナーベクターを使用することで、21-25%の効率で両アリル改変株の取得が確認された。
【0054】
【表1】
【0055】
本実施例により作製されたNeoR遺伝子とEGFP遺伝子が導入された両アリル改変株、即ちNeoR遺伝子とEGFP遺伝子が両アリルに導入されたiPS細胞を、以下「CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞」といい、以下の各実施例において使用する。
【0056】
同手法によりCYP3A4タンパク質のN末端側(NeoR-EGFP-CYP3A4)又はC末端側(CYP3A4-NeoR-EGFP)にNeo耐性遺伝子及びEGFP遺伝子を付加したときに、CYP3A4活性に及ぼす影響を評価した。NeoR-EGFP-CYP3A4、CYP3A4-NeoR-EGFP又はCYP3A4をそれぞれ発現するプラスミドを293細胞にトランスフェクションしたのちに、CYP3A4活性をP450-GloTM CYP3A4 Assay Kits((Promega)を使用して測定した。CYP3A4の基質としてLuciferin-IPAを用いた。CYP3A4活性値はluminometer(Lumat LB 9507, Berthold)を用いて測定した。なお、得られたCYP3A4活性値は蛋白質量にて補正した。その結果、CYP3A4遺伝子のC末にNeo耐性遺伝子、EGFP遺伝子を付けることでは、CYP3A4活性はほぼ低下しないことが確認された(図2)。
【0057】
(実施例2)CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞から分化誘導肝細胞への分化誘導
1)CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞から分化誘導肝細胞への分化誘導
本実施例では、実施例1で作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞から分化誘導肝細胞(hepatocyte-like cells)への分化誘導について説明する(図3参照)。
【0058】
CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞は、フィーダー細胞上にて、Tiss. Cult. Res. Commun., 27: 139-147 (2008) に記載の方法に従い未分化維持培養した。未分化細胞用培地は上記培地1のうち、ReproStem(商品名)を用いて培養した。
【0059】
上記CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞を、Activin Aを100 ng/ml含む上記培地2を用いラミニン(laminin:LN)上で培養した。より詳しくは、75% LN111-E8、25% LN511-E8上にて4日間培養し、分化誘導処理を行い、以下の実施例及び比較例による分化誘導肝細胞作製のための内胚葉細胞(definitive endoderm cells)を作製した。内胚葉細胞から肝幹前駆様細胞(hepatoblast-like cells)の分化誘導では、75% LN111-E8, 25% LN511-E8上にて20 ng/ml BMP4、20 ng/ml FGF4を含む上記培地2で5日間培養した。肝幹前駆様細胞を純化する場合は、LN111-E8に接着する細胞を40 ng/ml HGF(Hepatocyte growth factor)、20 ng/ml EGFを含む培地3で平均7日間培養した。肝幹前駆細胞から肝細胞への分化誘導では、LN111-E8上にて培養している肝幹前駆細胞上にさらにtype IV collagenを含む培地で24時間培養したのち、HGFを含む培地2で4日間、OsMを含む培地4で11日間、順次培養した。なお、以後の実施例において、分化誘導日数は肝幹前駆様細胞の純化に要した日数を除いたものを表記している。
【0060】
(実験例2−a)アルブミン産生量の確認
実施例1で作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞について、実施例2の方法で分化誘導肝細胞へ分化誘導した過程におけるALB産生量を経時的にELISA法により計測した。Day 23(分化誘導23日目)にはほぼALB産生能はプラトーに達し、約7,000μg/ml/24hr/mg proteinとなった。一方、対照としてのヒト初代培養肝細胞(primary human hepatocyte:PHH)では4時間培養した場合に既に約10,000μg/ml/24hr/mg proteinが産生された(図4)。
【0061】
(実験例2−b)CYP3A4発現の確認
実施例2の分化誘導方法により作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞のCYP3A4発現を確認した。分化誘導25日目におけるCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞についてCYP3A4(赤色)の染色画像を確認した(図5A)。CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞ではCYP3A4発現細胞はEGFP陽性となるため、CYP3A4陽性細胞とEGFP陽性細胞がmergeしていることが確認できた(図5B)。
【0062】
(実験例2−c)CYP3A4活性の確認
実施例2の分化誘導方法により作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞のCYP3A4活性を経時的に解析した。CYP3A4活性はP450-GloTM CYP3A4 Assay Kits(Promega)を用い、CYP3A4の基質としてLuciferin-IPAを用いた。CYP3A4活性値はluminometer(Lumat LB 9507、Berthold)を用いて測定した。なお、得られたCYP3A4活性値は蛋白質量にて補正した。CYP3A4活性は48時間培養したヒト初代培養肝細胞(PHH 48hr)での活性を1としたときの相対値で示した。CYP3A4活性値は(Day 23)にはCYP3A4活性値はほぼプラトーに達した。分化誘導25日目におけるCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞のCYP3A4の活性は約0.3であった(図6A)。
【0063】
(実験例2−d)EGFP陽性細胞率の確認
CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞から分化誘導肝細胞への分化誘導過程におけるEGFP陽性の細胞の割合(EGFP陽性細胞率)をFACSで経時的に解析した。分化誘導22日目(Day 22)にはほぼプラトーに達し、約21-22%であった。したがって、CYP3A4を発現する細胞の割合は21-22%程度であることが示唆された(図6B)。分化誘導25日目のEGFP陽性細胞率は22.5%であった(図7)。これによりEGFP陽性細胞率はCYP3A4発現細胞の割合と同程度であることが示唆される。
【0064】
(実施例3)CYP3A4発現分化誘導肝細胞の濃縮
本実施例では、上記1)の方法で作製した分化誘導22日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞を250μg/mlのG418(ネオマイシン:Neo)含有HCM培地(培地4)で3日間培養した。本実施例での培養開始時の細胞密度は1.25-4×105 cells/cm2であった。細胞を3日間培養後、Neo耐性能を有する細胞のみが生存し、Neo耐性遺伝子発現細胞が濃縮された。培養期間中、培地交換は毎日行った(図8)。
【0065】
(実験例3−a)薬物代謝酵素発現の確認
本実験例では、実施例2及び実施例3で作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞について、薬物代謝酵素の発現及び活性について確認した。
【0066】
本実験例では、以下の細胞について、確認した。
・実施例2で作製した分化誘導25日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞(Control HLC)
・実施例2で作製した分化誘導22日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞を実施例3の方法で3日間G418処理した細胞(Neo+HLC)
・分実施例2で作製した化誘導25日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞をセルソーターにかけ、EGFP陽性細胞をソートした細胞(EGFP+HLC)
・48時間培養したヒト初代培養肝細胞(PHH 48hr)
・4時間培養したヒト初代培養肝細胞(PHH 4hr)
【0067】
薬物代謝酵素の発現は、Real-time RT-PCR法で測定した。48時間培養したヒト初代培養肝細胞(PHH 48hr)の測定値を1とし、発現量は相対値で示した。遺伝子発現量はReal-time RT-PCRにより評価した。
図9Aには薬物代謝第一相酵素であるCYP1A2、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6及びCYP2E1の相対的発現量を示し、図9Bには薬物代謝第二相酵素であるUGT1A1、UGT2B4、GSTA1、GSTA2、薬物トランスポーターであるMDR1、BCRP、BSEP、MRP2、肝関連核内受容体及び転写因子であるAhR、CAR、PXR、PPARα、HNF4α、HNF1α、c/EBPα並びに肝機能関連遺伝子であるALB、αATの相対的発現量を示した。
「Neo+HLC」及び「EGFP+HLC」の各々について、「Control HLC」に比べて高い遺伝子発現量を示した。さらに、「Neo+HLC」及び「EGFP+HLC」では多くの遺伝子について、「PHH 48hr」細胞よりも高い遺伝子発現を示すことが確認された。
【0068】
(実験例3−b)各種薬物代謝酵素活性
(CYP3A4活性の測定)
各細胞についてCYP3A4活性を測定し、「PHH 48hr」での活性を1として相対的活性を確認した。
【0069】
CYP3A4の基質としてMDZ(midazolam、Wako)を用い、反応産物としてOHMDZ(1'-hydroxymidazolam)を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)により測定し、酵素活性を測定した。各細胞について、各々5μMのMDZ(Wako)を含むHCM培地(培地4)で2時間培養したのち培養上清を回収し、培地の2倍量のアセトニトリル(Wako)と混合し、各検体とした。各検体はAcroPrep Advance 96-Well Filter Plates((Pall Corporation)を用いて処理したのち、各検体に含まれるOHMDZの量を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)/MSを用いて計測した。UPLC解析はAcquity UPLC(Waters)を使用し、MS/MS解析はQ-Premier XE(Waters)を使用した。各検体に含まれるOHMDZの量は蛋白質量にて補正した。「PHH 48hr」での活性を1としてCYP3A4の相対的活性を確認した。
その結果、「Neo+HLC」では「Control HLC」よりも高いCYP3A4活性を示し、「PHH 48hr」と同等のCYP3A4活性を有することが確認された(図10)。
【0070】
(CYP3A4、CYP2D6、CYP1A2及びCYP2C19の活性測定)
各細胞についてCYP3A4、CYP2D6、CYP1A2及びCYP2C19について各々活性を測定し、「PHH 48hr」での活性を1として相対的活性を確認した。
【0071】
CYP3A4の基質としてMDZ(midazolam、Wako)、CYP2D6の基質の基質としてBUF(bufuralol、Santa Cruz Biotechnology)、CYP1A2の基質としてPHE(phenacetin、Cambridge Isotope Laboratories)及びCYP2C19の基質としてS-MP(S-Mephenytoin、Toronto Research Chemicals)を用い、各酵素反応産物を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)により測定し、酵素活性を測定した。各酵素反応産物としてはそれぞれOHMDZ、APAP(acetaminophen)、OHB(1'-hydroxybufuralol)及び OHSMP(4'-hydroxy-S-mephenytoin)を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)により測定し、酵素活性を測定した。
【0072】
各細胞について、5μM MDZ、5μM BUF、10μM PHE又は50μM S-MPを各々含むHCM培地(培地4)で各細胞を2時間培養したのち、培養上清を回収し、各々代謝産物を測定し酵素活性を解析した。その結果、各酵素について、「Neo+HLC」では「Control HLC」よりも高い活性を示し、「PHH 48hr」ほぼ同等の活性を有することが確認された(図11)。
【0073】
細胞免疫染色によるCYP3A4陽性細胞及びEGFP陽性細胞の観察により、実施例2の方法による分化誘導22日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞を実施例3の方法で3日間G418を作用させることで、CYP3A4発現細胞が濃縮されることが確認された(図12)。
【0074】
(実験例3−c)薬物代謝酵素(CYP)誘導能
「Neo+HLC」、「EGFP+HLC」及び「PHH 48hr」について、CYP1A2、CYP2B6及びCYP3A4の各CYP誘導能を確認した。CYP1A2誘導能はオメプラゾール(omeprazole)、CYP2B6誘導能はフェノバルビタール(phenobarbital)、CYP3A4誘導能はリファンピシン(rifampicin)を用いて評価した。オメプラゾールはCYP1A2の、フェノバルビタールはCYP2B6の、リファンピシンはCYP3A4の基質である。各細胞を50μMのオメプラゾール(Wako) 500μMのフェノバルビタール(Wako)又は 20μMのリファンピシン(Wako)を含む培地4で培養したのち、CYP1A2、CYP2B6及びCYP3A4のmRNA量をReal-time RT-PCR法により調べた。Real-time RT-PCRはTaqMan Gene Expression Assays(Applied Biosystems)により評価した。各々について、「Neo+HLC」の方が「Control HLC」よりもやや高いCYP誘導能を有していることが確認された(図13)。
【0075】
(実験例3−d)EGFP陽性細胞の確認
実験例3−aと同じ対象細胞について、EGFPの発現について確認した。
実験例1に示す「Control HLC」、「Neo+HLC」及び「EGFP+HLC」について、FACSによりEGFP陽性細胞率を解析した。その結果、EGFP陽性細胞率は各々21.7±3.4%、81.5±6.7%及び92.5±4.9%であった。これにより、G418を作用させることによりEGFP陽性細胞率は21.7%から81.5%にまで向上した。さらに、「EGFP+HLC」細胞のEGFP陽性細胞率は、ソート前の21.7%から92.5%にまで向上した(図14)。
【0076】
(実験例3−e)細胞毒性試験
実験例3−aと同じ対象細胞について、肝毒性を示すことが知られている薬物を用いた細胞毒性試験を実施した。
図15に示す各濃度のアセタミノフェン(acetaminophen)、アミオダロン(amiodarone)、ベンズブロマロン(benzbromarone)、デシプラミン(desipramine)、イソニアジド(isoniazid)、ネファゾドン(nefazodone)、トログリタゾン(troglitazone) 及びイミプラミン(imipramine)各々を、HCM培地(培地4)に加えた培養液を用いて、各細胞について細胞密度約1.25-2×105 cells/cm2の各細胞を37℃で1日間培養したときの細胞生存率を確認した。
【0077】
その結果、いずれの薬物についても、「Neo+HLC」の方が「Control HLC」よりも細胞生存率が低下していることが確認された(図15)。「Neo+HLC」は「Control HLC」に比べて薬物代謝酵素であるCYP活性が高いことから、各薬物について反応性代謝物がより多く産生されたために、強い細胞毒性が生じたものと推測された。この結果より「Neo+HLC」は高感度に薬物の肝毒性を検出できることが示唆された。
【0078】
(実験例3−f)汁酸排泄能
実験例3−aと同じ対象細胞について、胆汁酸排泄能を確認した。胆汁酸排泄能は、CLF(cholyl-lysyl-fluorescein)又はd8-TCA(d8-taurocholate、Martex)を用いて測定し、各細胞におけるBEI(biliary excretion index)により評価した。
各細胞をHBSS緩衝液を用いて3回洗浄したのち、HBSS緩衝液又はCa2+(-)HBSS緩衝液を用いて10分間静置した。その後、各細胞を5μm CLF又は2.5μM d8-TCAを含むHBSS緩衝液を用いて10分間培養した。CLF又はd8-TCAの取り込み反応は、4℃のHBSS緩衝液に置換することによって停止させた。1% Triton X-100を用いて細胞を溶解したのちに、細胞溶液中に含まれるCLF量をマイクロプレートリーダー(Genios)を用いて測定した。細胞溶液中に含まれるd8-TCAを測定する場合はLC-MS/MSを用いた。LC解析は Acquity UPLC(Waters)を用いて実施し、MS/MS解析はQ-Premier XE(Waters)を用いて実施した。BEIは以下の計算式を用いて算出した:BEI = 100*(HBSS-HBSS(Ca2+(-))/HBSS%。その結果、いずれの薬物についても、「Neo+HLC」の方が「Control HLC」よりも高い胆汁酸排泄能を有していることが確認された(図16)。
【0079】
(実施例4)分化誘導小腸上皮細胞の作製
本実施例では、実施例1で作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞から分化誘導小腸上皮細胞(enterocyte-like cells)への分化誘導について説明する(図17参照)。
【0080】
CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞は、フィーダー細胞上にて、Tiss. Cult. Res. Commun., 27: 139-147 (2008) に記載の方法に従い未分化維持培養した。未分化細胞用培地は上記培地1のうち、ReproStem(商品名)を用いて培養した。
【0081】
上記CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞を、Activin Aを100 ng/ml含む上記培地2を用いマトリゲル上で培養した。より詳しくは、 50μg/cm2の濃度でGrowth Factor Reduced(GFR)Matrigel(R)Matrix(Corning社)をコートした細胞培養用マルチプレート(住友ベークライト社)上にて4日間培養し、分化誘導処理を行い、以下の実施例及び比較例による分化誘導小腸上皮細胞作製のための内胚葉細胞(definitive endoderm cells)を作製した。内胚葉細胞から腸管前駆細胞(intestinal progenitor cells)の分化誘導では、マトリゲル上にて5μM BIO(6-bromoindirubin-3'-oxime)、10μM DAPT(N-[N-(3,5-Difluorophenacetyl-L-alanyl)]-(S)-phenylglycine t-butyl ester)を含む上記培地5で4日間培養した。腸管前駆細胞から小腸上皮細胞への分化誘導では、1μM BIO、2.5μM DAPTを含む培地5で11日間、1μM BIO、2.5μM DAPT、2μM SB431542、250ng/ml EGF、Wnt3Aを含む培地5で15日間、順次培養した。
【0082】
(実施例5)CYP3A4発現分化誘導小腸上皮細胞の濃縮
本実施例では、CYP3A4発現分化誘導小腸上皮細胞の濃縮について示す。実施例4で作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導小腸上皮細胞を250μg/mlのG418含有「培地5」で3日間培養した。細胞を3日間培養後、Neo耐性能を有する細胞のみが生存し、Neo耐性遺伝子発現細胞が濃縮された。培養期間中、培地交換は毎日行った(図18)。培養開始時の細胞密度はおおよそ1-1.5×105 cells/cm2であった。
【0083】
(実験例5)
本実験例では、実施例5で作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導小腸上皮細胞について、GFP陽性細胞率について確認した。
【0084】
本実験例では、以下の細胞について、確認した。
・実施例4で作製した分化誘導34日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導小腸上皮細胞(Control HLC)
・実施例4で作製した分化誘導31日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導小腸上皮細胞を実施例5の方法で3日間G418処理した細胞(Control ELC)
・実施例4で作製した分化誘導34日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導小腸上皮細胞をセルソーターにかけ、EGFP陽性細胞をソートした細胞(EGFP+ELC)
・ヒト成人小腸細胞(Small Intestine)
【0085】
「Neo+ELC」について、FACSを用いてEGFP陽性細胞率を解析した。「Control ELC」及び「EGFP+ELC」細胞についても同様に確認した。その結果、「Neo+ELC」細胞、即ちG418を作用させることによりEGFP陽性細胞率は23.5%から70.5%にまで向上した(図19)。
【0086】
「Small Intestine」での発現量を1とし、図20にはVillin、ISX、ANPEPの相対的発現量を示した。「Neo+ELC」及び「EGFP+ELC」の各々について、「Control ELC」に比べて高い遺伝子発現量を示した。また、「Neo+ELC」及び「EGFP+ELC」では多くの遺伝子について、「Small Intestine」よりも高い遺伝子発現を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の高機能分化誘導肝細胞及び/又は小腸上皮細胞集団の濃縮方法によれば、従来得られなかった高機能分化誘導肝細胞集団及び/又は高機能分化誘導小腸上皮細胞集団、即ちCYP強発現分化誘導肝細胞集団及び/又はCYP強発現分化誘導小腸上皮細胞集団を容易に得ることができる。
【0088】
上記濃縮方法により得られたCYP強発現分化誘導肝細胞集団は、成熟肝細胞のマーカーであるCYP3A4、CYP1A2及びCYP2C19等がヒト初代培養肝細胞と同等に発現することが確認された。また、胆汁酸排泄能もヒト初代培養肝細胞と同等であり、細胞毒性のある薬物に対しても同等の細胞感受性を示した。CYP強発現分化誘導小腸上皮細胞集団は、小腸細胞マーカーであるVillin、ISX、ANPEPの小腸上皮細胞よりも高い遺伝子発現を示すことが確認された。上記濃縮方法により得られた高機能分化誘導細胞集団は、薬物毒性評価又は薬物動態評価に使用することができる。高機能分化誘導細胞集団に医薬品候補化合物を添加し、肝毒性等のマーカーの発現変動を解析することで、生体での医薬品候補化合物の毒性を事前に予測することが可能になる。これにより、毒性の問題により排除されるべき医薬品候補化合物を早期にスクリーニング可能となり、創薬の加速化が期待される。その他、高機能分化誘導肝細胞及び/又は高機能分化誘導小腸上皮細胞集団は移植用組成物として肝細胞及び/又は小腸上皮細胞の再生のために使用することができる。
図1
図2
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図17
図18
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図20
図21
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]