【実施例】
【0040】
以下、本発明の理解を深めるために参考例、実施例及び実験例を示して本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。
【0041】
(参考例1)各種培地組成
本実施例で示す培養方法では、ヒトiPS細胞に対する培地が必要である。本参考例では、各種培養に使用可能な培養液の組成について説明する。
【0042】
培地1:ヒトES/iPS細胞未分化維持培地としては、ReproStem、iPSellon、E8、mTeSR、StemFit
(R)AK03N、StemFit
(R)AK02Nなどの各種幹細胞維持培地を使用することができる。以後、当該培地を「培地1」という。
【0043】
培地2:RPMI1640培地(Sigma社)に1×GlutaMAX(Thermo fisher scientific社)、B27 Supplement(Thermo fisher scientific社)、ペニシリン/ストレプトマイシンを含む培地を使用することができる。以後、当該培地を「培地2」という。
【0044】
培地3:肝幹前駆細胞用培地としてDMEM/F12培地を用いることができる。DMEM/F12培地には、10%FBS、インスリン(10μg/ml) 、トランスフェリン(5μg/ml)、亜セレン酸ナトリウム(20 nM)、ニコチンアミド(10 mM)、DEX(10
-7 M)、HEPES(20 mM)、NaHCO
3(25 mM)、L-グルタミン(2 mM)、ペニシリン/ストレプトマイシンを添加する。以後、当該培地を「培地3」という。
【0045】
培地4:肝幹前駆細胞から肝細胞への分化誘導用培地としてHCM培地を使用することができる。HCMにはEGFを添加しない。以後、当該培地を「培地4」という。
【0046】
培地5:内胚葉細胞以降の分化誘導にはdifferentiation DMEM-high Glucose 培地(10% Knock Serum Replacement(Thermo fisher scientific社)、1 % Non Essential Amino Acid Solution(Thermo fisher scientific社)、ペニシリン/ストレプトマイシン、1×GlutaMAX(Thermo fisher scientific社)を含むDMEM-high Glucose培地(Wako社))を使用することができる。以後、当該「differentiation DMEM-high Glucose 培地」を「培地5」という。
【0047】
(実施例1)NeoR遺伝子導入ヒトiPS細胞の作製
本実施例では、ヒトiPS細胞のCYP3A4遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子としてNeoR遺伝子とレポーター遺伝子としてEGFP遺伝子が導入されたiPS細胞の構築について説明する。本実施例では、ヒトiPS 細胞株としてYOW-iPS(Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 111, 16772-7 [2014])を用いた。
【0048】
まず初めにヒトiPS細胞のCYP3A4遺伝子座をターゲットとするドナーベクター(Donor vector)を構築した。本実施例で作製したドナーベクターはCYP3A4遺伝子座と相同なホモロジーアーム(homology arms)を有し、左腕(left arm)及び右腕(right arm)のいずれも約1,000 bpである。ドナーベクターのホモロジーアームの間にNeoR遺伝子及びEGFP遺伝子が搭載されている。相同組換えが起こることにより、CYP3A4とNeoR遺伝子、EGFPが融合したmRNAが発現できるヒトiPS細胞株を取得することができる。相同組換え効率を向上させるために、左右のホモロジーアームを設計した中央付近にて、CRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR associated proteins 9)ベクターを用いてDNA2本鎖切断を誘導した。本実施例では、CYP3A4遺伝子座の複数個所を切断するために、2種類のgRNA(guide RNA)をそれぞれ設計し、CRISPR/Cas9ベクターにそれぞれ搭載した(
図1参照)。
【0049】
用いた2種類のgRNAの配列は以下のとおりである。(下記配列の下腺部分)
sgRNA1; fwd: CACC
tagaactctgaaatgaagat(配列番号1)
rev: AAAC
atcttcatttcagagttcta(配列番号2)
sgRNA2; fwd: CACC
atggactgcataaataaccg(配列番号3)
rev: AAACc
ggttatttatgcagtccat(配列番号4)
CRISPR/Cas9ベクターとしてpX330 (Addgene, no 42230, http://www.addgene.org/42230/)を用いた。
【0050】
T2Aの配列は以下の通りである。
GAGGGCAGAGGAAGTCTGCTAACATGCGGTGACGTCGAGGAGAATCCTGGACCT(配列番号5)
E2Aの配列は以下の通りである。
CAGTGTACTAATTATGCTCTCTTGAAATTGGCTGGAGATGTTGAGAGCAACCCTGGACCT(配列番号6)
【0051】
NeoR遺伝子の配列は以下の通りである。(配列番号7)
atgggatcggccattgaacaagatggattgcacgcaggttctccggccgcttgggtggagaggctattcggctatgactgggcacaacagacaatcggctgctctgatgccgccgtgttccggctgtcagcgcaggggcgcccggttctttttgtcaagaccgacctgtccggtgccctgaatgaactgcaggacgaggcagcgcggctatcgtggctggccacgacgggcgttccttgcgcagctgtgctcgacgttgtcactgaagcgggaagggactggctgctattgggcgaagtgccggggcaggatctcctgtcatctcaccttgctcctgccgagaaagtatccatcatggctgatgcaatgcggcggctgcatacgcttgatccggctacctgcccattcgaccaccaagcgaaacatcgcatcgagcgagcacgtactcggatggaagccggtcttgtcgatcaggatgatctggacgaagagcatcaggggctcgcgccagccgaactgttcgccaggctcaaggcgcgcatgcccgacggcgatgatctcgtcgtgacccatggcgatgcctgcttgccgaatatcatggtggaaaatggccgcttttctggattcatcgactgtggccggctgggtgtggcggaccgctatcaggacatagcgttggctacccgtgatattgctgaagagcttggcggcgaatgggctgaccgcttcctcgtgctttacggtatcgccgctcccgattcgcagcgcatcgccttctatcgccttcttgacgagttcttc
【0052】
EGFP遺伝子の配列は以下のとおりである。(配列番号8)
atggtgagcaagggcgaggagctgttcaccggggtggtgcccatcctggtcgagctggacggcgacgtaaacggccacaagttcagcgtgtctggcgagggcgagggcgatgccacctacggcaagctgaccctgaagttcatctgcaccaccggcaagctgcccgtgccctggcccaccctcgtgaccaccctgacctacggcgtgcagtgcttcagccgctaccccgaccacatgaagcagcacgacttcttcaagtccgccatgcccgaaggctacgtccaggagcgcaccatcttcttcaaggacgacggcaactacaagacccgcgccgaggtgaagttcgagggcgacaccctggtgaaccgcatcgagctgaagggcatcgacttcaaggaggacggcaacatcctggggcacaagctggagtacaactacaacagccacaacgtctatatcatggccgacaagcagaagaacggcatcaaggcgaacttcaagatccgccacaacatcgaggacggcagcgtgcagctcgccgaccactaccagcagaacacccccatcggcgacggccccgtgctgctgcccgacaaccactacctgagcacccagtccgccctgagcaaagaccccaacgagaagcgcgatcacatggtcctgctggagttcgtgaccgccgccgggatcactctcggcatggacgagctgtacaagtaa
【0053】
上記作製したドナーベクターを用いて、ヒトiPS細胞のCYP3A4遺伝子座に対するターゲティングを行なった。ヒトiPS細胞への遺伝子ターゲッティング方法、使用した試薬・キットは、特開2017-18026号公報の開示に従った。ネオマイシン耐性のコロニー取得効率を表1に示した。3回の独立試行実験(1st、2nd、3rd)を行った。各回で24コロニーを解析し、「no integration or random integration colony(インテグレーション無しの株又はランダムインテグレーション株)」「heterozygous colony(片アリル改変株)」「homozygous colony(両アリル改変株)」の数を計測した。上記作製したドナーベクターを使用することで、21-25%の効率で両アリル改変株の取得が確認された。
【0054】
【表1】
【0055】
本実施例により作製されたNeoR遺伝子とEGFP遺伝子が導入された両アリル改変株、即ちNeoR遺伝子とEGFP遺伝子が両アリルに導入されたiPS細胞を、以下「CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞」といい、以下の各実施例において使用する。
【0056】
同手法によりCYP3A4タンパク質のN末端側(NeoR-EGFP-CYP3A4)又はC末端側(CYP3A4-NeoR-EGFP)にNeo耐性遺伝子及びEGFP遺伝子を付加したときに、CYP3A4活性に及ぼす影響を評価した。NeoR-EGFP-CYP3A4、CYP3A4-NeoR-EGFP又はCYP3A4をそれぞれ発現するプラスミドを293細胞にトランスフェクションしたのちに、CYP3A4活性をP450-Glo
TM CYP3A4 Assay Kits((Promega)を使用して測定した。CYP3A4の基質としてLuciferin-IPAを用いた。CYP3A4活性値はluminometer(Lumat LB 9507, Berthold)を用いて測定した。なお、得られたCYP3A4活性値は蛋白質量にて補正した。その結果、CYP3A4遺伝子のC末にNeo耐性遺伝子、EGFP遺伝子を付けることでは、CYP3A4活性はほぼ低下しないことが確認された(
図2)。
【0057】
(実施例2)CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞から分化誘導肝細胞への分化誘導
1)CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞から分化誘導肝細胞への分化誘導
本実施例では、実施例1で作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞から分化誘導肝細胞(hepatocyte-like cells)への分化誘導について説明する(
図3参照)。
【0058】
CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞は、フィーダー細胞上にて、Tiss. Cult. Res. Commun., 27: 139-147 (2008) に記載の方法に従い未分化維持培養した。未分化細胞用培地は上記培地1のうち、ReproStem(商品名)を用いて培養した。
【0059】
上記CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞を、Activin Aを100 ng/ml含む上記培地2を用いラミニン(laminin:LN)上で培養した。より詳しくは、75% LN111-E8、25% LN511-E8上にて4日間培養し、分化誘導処理を行い、以下の実施例及び比較例による分化誘導肝細胞作製のための内胚葉細胞(definitive endoderm cells)を作製した。内胚葉細胞から肝幹前駆様細胞(hepatoblast-like cells)の分化誘導では、75% LN111-E8, 25% LN511-E8上にて20 ng/ml BMP4、20 ng/ml FGF4を含む上記培地2で5日間培養した。肝幹前駆様細胞を純化する場合は、LN111-E8に接着する細胞を40 ng/ml HGF(Hepatocyte growth factor)、20 ng/ml EGFを含む培地3で平均7日間培養した。肝幹前駆細胞から肝細胞への分化誘導では、LN111-E8上にて培養している肝幹前駆細胞上にさらにtype IV collagenを含む培地で24時間培養したのち、HGFを含む培地2で4日間、OsMを含む培地4で11日間、順次培養した。なお、以後の実施例において、分化誘導日数は肝幹前駆様細胞の純化に要した日数を除いたものを表記している。
【0060】
(実験例2−a)アルブミン産生量の確認
実施例1で作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞について、実施例2の方法で分化誘導肝細胞へ分化誘導した過程におけるALB産生量を経時的にELISA法により計測した。Day 23(分化誘導23日目)にはほぼALB産生能はプラトーに達し、約7,000μg/ml/24hr/mg proteinとなった。一方、対照としてのヒト初代培養肝細胞(primary human hepatocyte:PHH)では4時間培養した場合に既に約10,000μg/ml/24hr/mg proteinが産生された(
図4)。
【0061】
(実験例2−b)CYP3A4発現の確認
実施例2の分化誘導方法により作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞のCYP3A4発現を確認した。分化誘導25日目におけるCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞についてCYP3A4(赤色)の染色画像を確認した(
図5A)。CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞ではCYP3A4発現細胞はEGFP陽性となるため、CYP3A4陽性細胞とEGFP陽性細胞がmergeしていることが確認できた(
図5B)。
【0062】
(実験例2−c)CYP3A4活性の確認
実施例2の分化誘導方法により作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞のCYP3A4活性を経時的に解析した。CYP3A4活性はP450-Glo
TM CYP3A4 Assay Kits(Promega)を用い、CYP3A4の基質としてLuciferin-IPAを用いた。CYP3A4活性値はluminometer(Lumat LB 9507、Berthold)を用いて測定した。なお、得られたCYP3A4活性値は蛋白質量にて補正した。CYP3A4活性は48時間培養したヒト初代培養肝細胞(PHH 48hr)での活性を1としたときの相対値で示した。CYP3A4活性値は(Day 23)にはCYP3A4活性値はほぼプラトーに達した。分化誘導25日目におけるCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞のCYP3A4の活性は約0.3であった(
図6A)。
【0063】
(実験例2−d)EGFP陽性細胞率の確認
CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞から分化誘導肝細胞への分化誘導過程におけるEGFP陽性の細胞の割合(EGFP陽性細胞率)をFACSで経時的に解析した。分化誘導22日目(Day 22)にはほぼプラトーに達し、約21-22%であった。したがって、CYP3A4を発現する細胞の割合は21-22%程度であることが示唆された(
図6B)。分化誘導25日目のEGFP陽性細胞率は22.5%であった(
図7)。これによりEGFP陽性細胞率はCYP3A4発現細胞の割合と同程度であることが示唆される。
【0064】
(実施例3)CYP3A4発現分化誘導肝細胞の濃縮
本実施例では、上記1)の方法で作製した分化誘導22日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞を250μg/mlのG418(ネオマイシン:Neo)含有HCM培地(培地4)で3日間培養した。本実施例での培養開始時の細胞密度は1.25-4×10
5 cells/cm
2であった。細胞を3日間培養後、Neo耐性能を有する細胞のみが生存し、Neo耐性遺伝子発現細胞が濃縮された。培養期間中、培地交換は毎日行った(
図8)。
【0065】
(実験例3−a)薬物代謝酵素発現の確認
本実験例では、実施例2及び実施例3で作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞について、薬物代謝酵素の発現及び活性について確認した。
【0066】
本実験例では、以下の細胞について、確認した。
・実施例2で作製した分化誘導25日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞(Control HLC)
・実施例2で作製した分化誘導22日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞を実施例3の方法で3日間G418処理した細胞(Neo+HLC)
・分実施例2で作製した化誘導25日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞をセルソーターにかけ、EGFP陽性細胞をソートした細胞(EGFP+HLC)
・48時間培養したヒト初代培養肝細胞(PHH 48hr)
・4時間培養したヒト初代培養肝細胞(PHH 4hr)
【0067】
薬物代謝酵素の発現は、Real-time RT-PCR法で測定した。48時間培養したヒト初代培養肝細胞(PHH 48hr)の測定値を1とし、発現量は相対値で示した。遺伝子発現量はReal-time RT-PCRにより評価した。
図9Aには薬物代謝第一相酵素であるCYP1A2、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6及びCYP2E1の相対的発現量を示し、
図9Bには薬物代謝第二相酵素であるUGT1A1、UGT2B4、GSTA1、GSTA2、薬物トランスポーターであるMDR1、BCRP、BSEP、MRP2、肝関連核内受容体及び転写因子であるAhR、CAR、PXR、PPARα、HNF4α、HNF1α、c/EBPα並びに肝機能関連遺伝子であるALB、αATの相対的発現量を示した。
「Neo+HLC」及び「EGFP+HLC」の各々について、「Control HLC」に比べて高い遺伝子発現量を示した。さらに、「Neo+HLC」及び「EGFP+HLC」では多くの遺伝子について、「PHH 48hr」細胞よりも高い遺伝子発現を示すことが確認された。
【0068】
(実験例3−b)各種薬物代謝酵素活性
(CYP3A4活性の測定)
各細胞についてCYP3A4活性を測定し、「PHH 48hr」での活性を1として相対的活性を確認した。
【0069】
CYP3A4の基質としてMDZ(midazolam、Wako)を用い、反応産物としてOHMDZ(1'-hydroxymidazolam)を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)により測定し、酵素活性を測定した。各細胞について、各々5μMのMDZ(Wako)を含むHCM培地(培地4)で2時間培養したのち培養上清を回収し、培地の2倍量のアセトニトリル(Wako)と混合し、各検体とした。各検体はAcroPrep Advance 96-Well Filter Plates((Pall Corporation)を用いて処理したのち、各検体に含まれるOHMDZの量を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)/MSを用いて計測した。UPLC解析はAcquity UPLC(Waters)を使用し、MS/MS解析はQ-Premier XE(Waters)を使用した。各検体に含まれるOHMDZの量は蛋白質量にて補正した。「PHH 48hr」での活性を1としてCYP3A4の相対的活性を確認した。
その結果、「Neo+HLC」では「Control HLC」よりも高いCYP3A4活性を示し、「PHH 48hr」と同等のCYP3A4活性を有することが確認された(
図10)。
【0070】
(CYP3A4、CYP2D6、CYP1A2及びCYP2C19の活性測定)
各細胞についてCYP3A4、CYP2D6、CYP1A2及びCYP2C19について各々活性を測定し、「PHH 48hr」での活性を1として相対的活性を確認した。
【0071】
CYP3A4の基質としてMDZ(midazolam、Wako)、CYP2D6の基質の基質としてBUF(bufuralol、Santa Cruz Biotechnology)、CYP1A2の基質としてPHE(phenacetin、Cambridge Isotope Laboratories)及びCYP2C19の基質としてS-MP(S-Mephenytoin、Toronto Research Chemicals)を用い、各酵素反応産物を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)により測定し、酵素活性を測定した。各酵素反応産物としてはそれぞれOHMDZ、APAP(acetaminophen)、OHB(1'-hydroxybufuralol)及び OHSMP(4'-hydroxy-S-mephenytoin)を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)により測定し、酵素活性を測定した。
【0072】
各細胞について、5μM MDZ、5μM BUF、10μM PHE又は50μM S-MPを各々含むHCM培地(培地4)で各細胞を2時間培養したのち、培養上清を回収し、各々代謝産物を測定し酵素活性を解析した。その結果、各酵素について、「Neo+HLC」では「Control HLC」よりも高い活性を示し、「PHH 48hr」ほぼ同等の活性を有することが確認された(
図11)。
【0073】
細胞免疫染色によるCYP3A4陽性細胞及びEGFP陽性細胞の観察により、実施例2の方法による分化誘導22日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導肝細胞を実施例3の方法で3日間G418を作用させることで、CYP3A4発現細胞が濃縮されることが確認された(
図12)。
【0074】
(実験例3−c)薬物代謝酵素(CYP)誘導能
「Neo+HLC」、「EGFP+HLC」及び「PHH 48hr」について、CYP1A2、CYP2B6及びCYP3A4の各CYP誘導能を確認した。CYP1A2誘導能はオメプラゾール(omeprazole)、CYP2B6誘導能はフェノバルビタール(phenobarbital)、CYP3A4誘導能はリファンピシン(rifampicin)を用いて評価した。オメプラゾールはCYP1A2の、フェノバルビタールはCYP2B6の、リファンピシンはCYP3A4の基質である。各細胞を50μMのオメプラゾール(Wako) 500μMのフェノバルビタール(Wako)又は 20μMのリファンピシン(Wako)を含む培地4で培養したのち、CYP1A2、CYP2B6及びCYP3A4のmRNA量をReal-time RT-PCR法により調べた。Real-time RT-PCRはTaqMan Gene Expression Assays(Applied Biosystems)により評価した。各々について、「Neo+HLC」の方が「Control HLC」よりもやや高いCYP誘導能を有していることが確認された(
図13)。
【0075】
(実験例3−d)EGFP陽性細胞の確認
実験例3−aと同じ対象細胞について、EGFPの発現について確認した。
実験例1に示す「Control HLC」、「Neo+HLC」及び「EGFP+HLC」について、FACSによりEGFP陽性細胞率を解析した。その結果、EGFP陽性細胞率は各々21.7±3.4%、81.5±6.7%及び92.5±4.9%であった。これにより、G418を作用させることによりEGFP陽性細胞率は21.7%から81.5%にまで向上した。さらに、「EGFP+HLC」細胞のEGFP陽性細胞率は、ソート前の21.7%から92.5%にまで向上した(
図14)。
【0076】
(実験例3−e)細胞毒性試験
実験例3−aと同じ対象細胞について、肝毒性を示すことが知られている薬物を用いた細胞毒性試験を実施した。
図15に示す各濃度のアセタミノフェン(acetaminophen)、アミオダロン(amiodarone)、ベンズブロマロン(benzbromarone)、デシプラミン(desipramine)、イソニアジド(isoniazid)、ネファゾドン(nefazodone)、トログリタゾン(troglitazone) 及びイミプラミン(imipramine)各々を、HCM培地(培地4)に加えた培養液を用いて、各細胞について細胞密度約1.25-2×10
5 cells/cm
2の各細胞を37℃で1日間培養したときの細胞生存率を確認した。
【0077】
その結果、いずれの薬物についても、「Neo+HLC」の方が「Control HLC」よりも細胞生存率が低下していることが確認された(
図15)。「Neo+HLC」は「Control HLC」に比べて薬物代謝酵素であるCYP活性が高いことから、各薬物について反応性代謝物がより多く産生されたために、強い細胞毒性が生じたものと推測された。この結果より「Neo+HLC」は高感度に薬物の肝毒性を検出できることが示唆された。
【0078】
(実験例3−f)汁酸排泄能
実験例3−aと同じ対象細胞について、胆汁酸排泄能を確認した。胆汁酸排泄能は、CLF(cholyl-lysyl-fluorescein)又はd8-TCA(d8-taurocholate、Martex)を用いて測定し、各細胞におけるBEI(biliary excretion index)により評価した。
各細胞をHBSS緩衝液を用いて3回洗浄したのち、HBSS緩衝液又はCa
2+(-)HBSS緩衝液を用いて10分間静置した。その後、各細胞を5μm CLF又は2.5μM d8-TCAを含むHBSS緩衝液を用いて10分間培養した。CLF又はd8-TCAの取り込み反応は、4℃のHBSS緩衝液に置換することによって停止させた。1% Triton X-100を用いて細胞を溶解したのちに、細胞溶液中に含まれるCLF量をマイクロプレートリーダー(Genios)を用いて測定した。細胞溶液中に含まれるd8-TCAを測定する場合はLC-MS/MSを用いた。LC解析は Acquity UPLC(Waters)を用いて実施し、MS/MS解析はQ-Premier XE(Waters)を用いて実施した。BEIは以下の計算式を用いて算出した:BEI = 100*(HBSS-HBSS(Ca
2+(-))/HBSS%。その結果、いずれの薬物についても、「Neo+HLC」の方が「Control HLC」よりも高い胆汁酸排泄能を有していることが確認された(
図16)。
【0079】
(実施例4)分化誘導小腸上皮細胞の作製
本実施例では、実施例1で作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞から分化誘導小腸上皮細胞(enterocyte-like cells)への分化誘導について説明する(
図17参照)。
【0080】
CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞は、フィーダー細胞上にて、Tiss. Cult. Res. Commun., 27: 139-147 (2008) に記載の方法に従い未分化維持培養した。未分化細胞用培地は上記培地1のうち、ReproStem(商品名)を用いて培養した。
【0081】
上記CYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞を、Activin Aを100 ng/ml含む上記培地2を用いマトリゲル上で培養した。より詳しくは、 50μg/cm
2の濃度でGrowth Factor Reduced(GFR)Matrigel
(R)Matrix(Corning社)をコートした細胞培養用マルチプレート(住友ベークライト社)上にて4日間培養し、分化誘導処理を行い、以下の実施例及び比較例による分化誘導小腸上皮細胞作製のための内胚葉細胞(definitive endoderm cells)を作製した。内胚葉細胞から腸管前駆細胞(intestinal progenitor cells)の分化誘導では、マトリゲル上にて5μM BIO(6-bromoindirubin-3'-oxime)、10μM DAPT(N-[N-(3,5-Difluorophenacetyl-L-alanyl)]-(S)-phenylglycine t-butyl ester)を含む上記培地5で4日間培養した。腸管前駆細胞から小腸上皮細胞への分化誘導では、1μM BIO、2.5μM DAPTを含む培地5で11日間、1μM BIO、2.5μM DAPT、2μM SB431542、250ng/ml EGF、Wnt3Aを含む培地5で15日間、順次培養した。
【0082】
(実施例5)CYP3A4発現分化誘導小腸上皮細胞の濃縮
本実施例では、CYP3A4発現分化誘導小腸上皮細胞の濃縮について示す。実施例4で作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導小腸上皮細胞を250μg/mlのG418含有「培地5」で3日間培養した。細胞を3日間培養後、Neo耐性能を有する細胞のみが生存し、Neo耐性遺伝子発現細胞が濃縮された。培養期間中、培地交換は毎日行った(
図18)。培養開始時の細胞密度はおおよそ1-1.5×10
5 cells/cm
2であった。
【0083】
(実験例5)
本実験例では、実施例5で作製したCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導小腸上皮細胞について、GFP陽性細胞率について確認した。
【0084】
本実験例では、以下の細胞について、確認した。
・実施例4で作製した分化誘導34日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導小腸上皮細胞(Control HLC)
・実施例4で作製した分化誘導31日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導小腸上皮細胞を実施例5の方法で3日間G418処理した細胞(Control ELC)
・実施例4で作製した分化誘導34日目のCYP3A4-NeoR-EGFP iPS細胞由来分化誘導小腸上皮細胞をセルソーターにかけ、EGFP陽性細胞をソートした細胞(EGFP+ELC)
・ヒト成人小腸細胞(Small Intestine)
【0085】
「Neo+ELC」について、FACSを用いてEGFP陽性細胞率を解析した。「Control ELC」及び「EGFP+ELC」細胞についても同様に確認した。その結果、「Neo+ELC」細胞、即ちG418を作用させることによりEGFP陽性細胞率は23.5%から70.5%にまで向上した(
図19)。
【0086】
「Small Intestine」での発現量を1とし、
図20にはVillin、ISX、ANPEPの相対的発現量を示した。「Neo+ELC」及び「EGFP+ELC」の各々について、「Control ELC」に比べて高い遺伝子発現量を示した。また、「Neo+ELC」及び「EGFP+ELC」では多くの遺伝子について、「Small Intestine」よりも高い遺伝子発現を示すことが確認された。