(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記海洋資源揚鉱用バルンは、前記バルン本体の下部に設けられて前記集鉱管に着脱可能に接続されるカップラと、前記バルン本体と前記垂下手段とを繋ぐとともに当該バルン本体の浮上時に前記垂下手段に沿って当該バルン本体を案内するリードワイヤと、を有する請求項3に記載の海洋資源揚鉱装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の各実施形態および変形例について、図面を適宜参照しつつ説明する。各実施形態および変形例は、深海に存在するレアアース泥等の海洋資源の揚鉱技術として、従来のポンプリフト方式やエアリフト方式に替わる、採鉱装置およびこれを備える海洋資源揚鉱装置、並びに、海洋資源の採鉱方法の例である。
なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す実施形態ないし変形例は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記実施形態ないし変形例に特定するものではない。
【0022】
[第一実施形態]
まず、本発明に係る海洋資源揚鉱システムの第一実施形態の全体構成について説明する。
図1に示すように、第一実施形態の海洋資源揚鉱システムは、目的とする海域の海上Cに停泊される採鉱母船A及び回収船Bと、海洋資源揚鉱装置100(以下、単に「揚鉱装置」ともいう)と、ロボットアーム104a付きの無人潜水機104と、を備える。回収船Bには、吸引回収装置105が装備されている。
【0023】
吸引回収装置105は、同図に示すように、船上に立設された多段ブームを有する回収アーム57と、回収アーム57のブーム先端に設けられた吸引カップラ55と、吸引カップラ55に接続されて多段ブームに沿って配管された吸引ホース54と、吸引ホース54の基端部に船内で接続されてバルン本体10内に貯鉱された混合物Maを吸引回収する吸引ポンプ56と、を備える。
【0024】
これにより、吸引回収装置105は、後に詳述するように、海底Dの集鉱装置3から切り離されたバルン本体10が、海水Wと混合物Maとの比重差で海上Cまで浮上した後に、回収アーム57を駆動して海上Cに浮上したバルン本体10の上部カップラ12に吸引カップラ55を接続し、次いで、吸引ポンプ56を駆動して吸引ホース54を介してバルン本体10内に貯鉱された混合物Maを回収船Bに吸引回収可能になっている。
さらに、吸引回収装置105は、バルン本体10内に貯鉱された混合物Maを回収船Bに回収した後に、吸引カップラ55で上部カップラ12を保持しつつ回収アーム57の駆動によりバルン本体10を回収船B上に回収可能になっている。
【0025】
無人潜水機104は、遠隔操作型の無人潜水艇であり、同図に示すように、海上Cの採鉱母船Aの動力供給装置46から水中ケーブル45を介して動力が供給されるように構成されている。採鉱母船A上には、動力供給装置46の駆動をオペレータの操作に応じて制御するコントローラ(図示せず)が設けられている。無人潜水機104は、海上Cの採鉱母船Aから海中に投入され、海中で、揚鉱装置100に対してロボットアーム104aの操作により、必要な作業が行えるように構成されている。
なお、無人潜水機104の電源は、採鉱母船Aの動力供給装置46から水中ケーブル45を介して電力を供給する構成に限定されず、無人潜水機104内に内蔵したバッテリから供給してもよいし、採鉱母船Aからの水中ケーブル45とは別途の水中ケーブルにより供給してもよい。
【0026】
次に、第一実施形態の揚鉱装置100について詳しく説明する。
第一実施形態の揚鉱装置100は、
図1に示すように、海底Dで採掘された鉱物を集鉱する集鉱装置3と、集鉱装置3に着脱可能に設けられる複数の海洋資源揚鉱用バルン1(以下、単に「バルン」ともいう)と、採掘装置として集鉱装置3と一体に装備されるとともに複数機のダウンホールモータを併設してなる複列ダウンホールモータ2と、を備える。
【0027】
第一実施形態の揚鉱装置100は、同図に示すように、海上の採鉱母船A上に配置されたウインチ29から滑車28aを介して延びる垂下手段であるワイヤロープ28によって吊り下げられ海中に投入される。本実施形態では、海上の採鉱母船Aが海底Dでの所定の揚鉱スケジュールに従って航行することにより、上記バルン1、集鉱装置3及びその内部にある複列ダウンホールモータ2が海底Dで一体に移動するように構成されている。
【0028】
そして、この揚鉱装置100は、海上Cの採鉱母船Aから海底Dのレアアース泥床ODに向けて投入され、複列ダウンホールモータ2を稼働することにより、レアアース泥床ODの泥質堆積層中のレアアース泥Drを解泥するとともに、解泥したレアアース泥DrとエマルションEmとを混合してレアアースを吸着結合したエマルションの混合物Maとし、さらに、集鉱装置3に装着されているバルン1に貯鉱させるものである。
以下、第一実施形態の揚鉱装置100の各装置の構成について詳しく説明する。なお、本明細書において、「解泥」とは、泥質堆積層の泥を解きほぐすことをいう。また、「泥質堆積層」とは、「非レアアース泥堆積層」および「レアアース泥堆積層」のいずれをも含む意味である。
【0029】
まず、第一実施形態の集鉱装置3について詳しく説明する。
第一実施形態の集鉱装置3は、
図2に拡大図示するように、平面視が円形のベースプレート4と、ベースプレート4に基端部が固定されるとともに、下方に向けて拡径する円錐台状枠体である集鉱ホッパ5と、ベースプレート4の上面に基端部が接続されるとともに上方に向かって張り出すように設けられた複数の集鉱管6と、を備える。
【0030】
ベースプレート4の周縁部には、適所に複数の垂下用ワイヤ28hが装着され、複数の垂下用ワイヤ28hは、上部中央の一箇所の位置に集められて、連結ジョイント28jによりワイヤロープ28の先端に着脱可能に接続されており、ワイヤロープ28によって集鉱装置3全体が吊り下げられるように構成されている。
【0031】
また、第一実施形態の集鉱装置3には、海底Dでの採掘作業を海上Cの採鉱母船Aからオペレータが監視するために、水中照明機7および水中カメラ8が装備されている。水中照明機7および水中カメラ8は、不図示のアンビリカブルケーブルを介して海上Cの採鉱母船Aに接続され、稼働のための電力が供給されるとともに、海上Cの採鉱母船Aとの間で必要な信号を授受可能になっている。
【0032】
この例では、水中照明機7は、上記補強支柱6sの下端側の適所に水平に張り出す支持アーム7aの先端に海底D側に向けて固定され、海底Dでの必要な範囲を所期の明るさで照明可能になっている。また、水中カメラ8は、水中照明機7を装着した側とは反対側の補強支柱6sの下端側の適所に水平に張り出す支持アーム8aの先端に海底D側に向けて固定され、水中照明機7で照明された範囲を撮像可能に設置されている。
【0033】
ここで、この集鉱装置3は、沈降時のウェイトを兼ねており、集鉱装置3の自重により自身の沈降時の姿勢を安定させるとともに、複数のバルン1とともに海中に投入された際に、集鉱装置3の自重によりバルン本体10を海底Dにまで確実に沈め且つバルン本体10の内部に混合物Maを十分に貯鉱した際にも、その自重によりバルン本体10の浮上を阻止するとともに作業時の姿勢が安定する質量に設定されている。
【0034】
複数の集鉱管6は、第一実施形態の例では、ベースプレート4の周方向に離隔して8本が等配されている。第一実施形態では、各集鉱管6の途中部分と集鉱ホッパ5の周縁部の適所とが補強支柱6sにより相互に連結され、集鉱管6の張り出し姿勢が保持されている。これにより、第一実施形態の集鉱装置3は、複数のバルン1を着脱可能なバルンマガジンを構成している。
なお、複数の集鉱管6相互の配置は、装着された隣り合うバルン1相互の集鉱時の拡充状態において、隣接する他のバルン1に干渉しないように配置され且つ適所にて屈曲して形成されている。なおまた、複数のバルン1に対する集鉱および揚鉱時に、隣接する他のバルン1に干渉しないように揚鉱スケジュールが設定される。
【0035】
各集鉱管6の基端部は、集鉱ホッパ5の上部に画成された安定室部分5sに連通するように、ベースプレート4の上面に形成された接続用の開口部に連結されている。また、各集鉱管6は、集鉱管6の上部にカップラ6cが装着されており、このカップラ6cを介してバルン1の下部カップラ11が着脱可能に接続される。本実施形態では、集鉱管6の上部には混合物導出部6dが形成されている。混合物導出部6dは、カップラ6cの位置よりも更に上方に、混合物導出部6dの先端6eが張り出して形成され、浮上するエマルションの混合物Maをバルン本体10の内部に確実に導けるように構成されている。
【0036】
集鉱管6のカップラ6cと下部カップラ11とは、上記無人潜水機104のロボットアーム104aの操作により、相互の接続状態を解除可能に構成される。これにより、各集鉱管6は、レアアースを吸着結合したエマルションの混合物Maを通過させてバルン本体10内に貯鉱可能になっており、また、貯鉱後には、集鉱管6の上端からバルン本体10を切り離せるようになっている。
【0037】
次に、第一実施形態の海洋資源揚鉱用バルン1についてより詳しく説明する。
第一実施形態の海洋資源揚鉱用バルン1は、集鉱装置3とともに海上Cから海底Dに沈められて、集鉱装置3により海底Dで採掘された鉱物としてのレアアース泥Drを、レアアース泥Drと吸着結合したエマルションEmの混合物Maとして貯鉱するとともに、海上まで揚鉱するものである。
【0038】
詳しくは、バルン1は、
図2に示すように、海中で混合物Maを内部に貯鉱するバルン本体10を備える。バルン本体10は、可撓性を有するとともに水および油が漏れないように構成された化学繊維等のシートから袋状に形成されている。
バルン本体10は、その内部に混合物Maが貯鉱されていない沈降時には、略紡錘状(同図左端の形状)をなす萎縮状態とされ、内部に混合物Maが貯鉱された浮上時には、上部に向けて拡径する円錐状(同図右端の形状)をなす拡充状態に変形可能に形成されている。バルン本体10の下部には、上記集鉱装置3の集鉱管6に着脱可能な接続口を有する下部カップラ11が設けられ、上述した、集鉱管6の上端のカップラ6cに着脱可能に装着される。
【0039】
バルン本体10の下部には、円形の開口部10sが形成され、この開口部10sの周方向の適所には、複数の連結ワイヤ10wの上端が装着され、複数の連結ワイヤ10wの下端と下部カップラ11の上部とが相互に連結されている。
これにより、下部カップラ11とバルン本体10とが、複数の連結ワイヤ10wで相互に繋がれ、バルン本体10の下部の開口部10sが海中に開口するように構成されている。また、下部カップラ11は、上記集鉱装置3の集鉱管6に着脱可能な接続口を有しており、上述した、集鉱管6上部のカップラ6cに着脱可能に装着されるように構成されている。
【0040】
また、バルン本体10の上部には、上記吸引カップラ55と着脱可能かつ内部流路を開閉可能な上部カップラ12が設けられている。上部カップラ12は、内部流路を開状態のときに、バルン本体10の内部と外部とを連通させ、集鉱装置3とともに海中に沈められるときには、バルン本体10の外部から内部に海水が充填可能となる。
また、上部カップラ12は、内部流路が閉状態のときには、バルン本体10の内部と外部との連通状態を遮断するとともに、上述した吸引カップラ55と接続可能となる。なお、吸引カップラ55と接続された状態では、上部カップラ12の内部流路が開状態となる。
【0041】
さらに、バルン本体10の上部中央には、浮力体14が装着されている。浮力体14は、沈降時におけるバルン本体10の沈降姿勢を安定させるとともに、後述するように、海中で混合物Maをバルン本体10の内部に貯鉱した後に、バルン本体10の下部カップラを集鉱管6から切り離すことにより、バルン本体10が混合物Maと海水との比重差で海上まで浮上するときに、バルン本体10の浮上力および浮上姿勢を補助する程度の浮力を有する。
【0042】
ここで、第一実施形態のバルン1は、バルン本体10とワイヤロープ28とを繋ぐとともに当該バルン本体10の浮上時にワイヤロープ28に沿って当該バルン本体10を案内するリードワイヤ13を有する。このリードワイヤ13は、
図2に示すように、リードワイヤ13の一端が、バルン本体10の上部中央に連結されており、リードワイヤ13の他端が、ワイヤロープ28に沿ってスライド移動可能に外嵌するガイド用浮力体13gに連結されている。
【0043】
ガイド用浮力体13gは、ワイヤロープ28に対して海上Cにて容易に着脱可能な着脱構造を有している。この着脱構造として、本実施形態では、ガイド用浮力体13gをワイヤロープ28に沿って分割された二つの分割体から構成し、二つの分割体相互を係脱可能な係合部を設けている。なお、ワイヤロープ28に対する複数のガイド用浮力体13gの積層順は、所定の揚鉱スケジュールに従うバルン1の揚鉱順序に対応して積層されている。
【0044】
また、リードワイヤ13の途中部分には、リードワイヤ13の浮遊姿勢を安定させるために、複数のリード用浮力体13fが、リードワイヤ13の適所に配置されている。本実施形態では、6個の浮力体3aは、ワイヤ延在方向に離隔してリードワイヤ13の適所に取り付けられており、海中にあるときには複数の浮力体3aによりリードワイヤに浮力が付与される。
【0045】
そして、バルン本体10は、
図1および
図11に示すように、海中で混合物Maをバルン本体10の内部に貯鉱した後、無人潜水機104によるロボットアーム104aの操作により、下部カップラ11と集鉱管6のカップラ6cとの接続を解除することで、ウェイトを兼ねた集鉱装置3から切り離すことにより、バルン本体10が混合物Maと海水との比重差で海上Cまで自ら浮上するように各部の相対質量が設定されている。
【0046】
次に、第一実施形態の複列ダウンホールモータ2についてより詳しく説明する。
第一実施形態の複列ダウンホールモータ2は、
図2に示すように、上記ベースプレート4の下面中央に下方に向けて垂下された姿勢で固定される。この複列ダウンホールモータ2は、全体を支持するための採掘装置支持筐体73を有する。採掘装置支持筐体73は、上下に延びる鋼製フレームから形成された筐体構造を有し、その上端がベースプレート4の下面中央に固定され、下端側が下方に垂下された状態で保持される。
これにより、本実施形態の複列ダウンホールモータ2は、複列ダウンホールモータ全体の中心位置と同軸上に上記集鉱ホッパ5が位置し、集鉱ホッパ5下部が下方に向けて拡径して海中に開口している姿勢で、複列ダウンホールモータ2を囲うように集鉱ホッパ5が配設される。
【0047】
さらに、第一実施形態の複列ダウンホールモータ2は、採掘装置支持筐体73内の中央に駆動流体供給管72が配置され、ベースプレート4の上面中央には、複列ダウンホールモータ2を駆動するための駆動流体供給ホース26が接続されている。
そして、駆動流体供給管72の上端がベースプレート4の位置で、不図示のカップラを介して駆動流体供給ホース26に接続される。なお、集鉱ホッパ5の内周面と駆動流体供給管72の外周面との間には、複数のサポートリブ5rが水平方向に張り渡されており、駆動流体供給管72の垂下姿勢が高剛性で保持されている。
【0048】
また、駆動流体供給管72の下端には、扁平円筒状に画成された駆動流体分岐室71が設けられ、一の駆動流体供給管72に供給された駆動流体を、各ダウンホールモータ2A〜2Lそれぞれに等分に分岐して供給可能になっている。各ダウンホールモータ2A〜2Lの基端部、即ちハウジング15から一体に延びる連結ハウジング23は、集鉱装置3のベースプレート4の中央部に支持されている。ベースプレート4の周囲には、周方向に離隔して等配された複数の集鉱管6の基端部がそれぞれ接続されている。
【0049】
複列ダウンホールモータ2は、
図4に示すように、複数のダウンホールモータが、各軸線を縦にして並列配置されている。第一実施形態の例では、同図(b)に平面視の配列状態を示すように、単位となるダウンホールモータ2A〜2Lの12基により構成されている。
特に、複数のダウンホールモータ2A〜2L相互は、隣り合うダウンホールモータとは、回転方向が逆になるように構成されており、複列ダウンホールモータ2全体として、駆動時の反力が相殺されるようになっている。なお、以下、複列ダウンホールモータ2を構成する複数のダウンホールモータ2A〜2Lのうち、任意の一のダウンホールモータについては、「符号2X」を付して説明する。
【0050】
一のダウンホールモータ2Xは、
図5に示すように、上下方向に延びる連結ハウジング23と一体に形成されたハウジング15を備える。連結ハウジング23内には、ダウンホールモータ2Xの駆動流体として、海水および海水よりも比重が軽い(小さい)エマルションEmが注入される駆動流体供給路23aが形成される。なお、各連結ハウジング23の上端には、上述した駆動流体分岐室71から駆動流体供給管72を介して
図2に示す駆動流体供給ホース26が接続される。
【0051】
駆動流体供給ホース26は、
図1に示すように、採鉱母船A上のホースリール27に巻回されるとともに、採鉱母船A上に設置された圧送ポンプ(図示せず)に連結されている。採鉱母船A上には、圧送ポンプの駆動をオペレータの操作に応じて制御するコントローラ(図示せず)が設けられている。圧送ポンプは、オペレータの操作に応じて、駆動流体として、海水およびエマルションの一方を選択して複列ダウンホールモータ2に供給可能に構成されている。
【0052】
図5に示すように、連結ハウジング23と一体に形成されたハウジング15は、上部ハウジング16と、上部ハウジング16の下端に同軸に装着された中空円筒状の下部ハウジング17とを有する。ダウンホールモータ2Xは、使用時には、ハウジング15の軸線を上下方向として海中に配備される。ハウジング15は、内部が軸方向に沿って貫通しており、上端部及び下端部に開口を有している。
【0053】
ハウジング15の上部ハウジング16の上部開口に連通する流路が、海水およびエマルションEmをダウンホールモータ2Xに導入する駆動流体供給路18になっている。この駆動流体供給路18が、海水またはエマルションEmの導入口を構成する。本実施形態では、駆動流体として、海水または高圧のエマルションEmが、駆動流体供給ホース26から連結ハウジング23の駆動流体供給路23aを介して駆動流体供給路18に選択的に導入される。
【0054】
上部ハウジング16の下端には、インロー凸部16tが設けられ、下部ハウジング17の上端には、インロー凹部17dが設けられている。インロー凸部16tとインロー凹部17dとは、インロー嵌合され、その状態で相互が連結されている。そして、上部ハウジング16には、第1シャフト20が回転自在に支持され、下部ハウジング17には、第2シャフト30が回転自在に支持されている。
【0055】
上部ハウジング16は、軸方向で下部の位置に、第1シャフト支持部51を備えている。第1シャフト支持部51は、複数の軸受51jと、複数の軸受51jを上下の軸方向から自身の鍔部で挟持するようにそれぞれ装着される第1のブッシュ41及び第2のブッシュ42と、第1のブッシュ41の内周面と第1シャフト20の基端部21の外周面との間に介装された第1のシール61と、第2のブッシュ42の内周面と第1シャフト20の基端部21の外周面との間に介装された第2のシール62と、下部開口に装着される円環状の支軸部キャップ82と、を有する。
【0056】
第1シャフト支持部51は、上記インロー嵌合による連結時に、上部ハウジング16内の凹の段部に装着された複数の軸受51jおよびその両側の二つのブッシュ41、42が、上部ハウジング16の下部開口部に装着された支軸部キャップ82によって軸方向に挟圧されることにより、装着状態が保持される。
【0057】
その装着状態において、第1シャフト支持部51は、上部ハウジング16の軸線に対して所定の偏心距離Eだけ偏心した位置に第1シャフト20の基端部21を支持するように複数の軸受51jが軸線方向に沿って配置され、複数の軸受51jを介して第1シャフト20の基端部21を回転自在に支持する。第1シャフト支持部51の複数の軸受51jの両側は、第1のシール61および第2のシール62により、第1シャフト20の基端部21の外周面と上部ハウジング16の内周面との間がシールされる。
【0058】
下部ハウジング17には、軸方向の上下に離隔して、二つの第2シャフト支持部52、53が設けられている。上部側を支持する第2シャフト支持部52は、複数の軸受52jと、複数の軸受52jを軸方向の上方から自身鍔部で挟持するように装着される第3のブッシュ43と、第3のブッシュ43の内周面と第2シャフト30の外周面との間に介装された第3のシール63と、を有して構成されている。
【0059】
また、下部側を支持する第2シャフト支持部53は、複数の軸受53jと、複数の軸受53jを軸方向の下方から自身鍔部で挟持するように装着される第4のブッシュ44と、第4のブッシュ44の内周面と第2シャフト30の外周面との間に介装された第4のシール64と、円環状のフロントキャップ81と、を有して構成されている。
【0060】
第2シャフト30の外周面には、軸方向の中央部に、凸の段部31mが形成されており、上下の軸受52j、53jの凸の段部31m側の側面が、凸の段部31mの側面に当接するように装着されるとともに、下部ハウジング17の下部開口部に装着されたフロントキャップ81の装着によって軸方向に挟圧されることにより装着状態が保持される。なお、フロントキャップ81は、図示しない複数の埋め込みボルトにより下方から固定される。
【0061】
その装着状態において、上下の第2シャフト支持部52、53は、下部ハウジング17の軸線に対して同軸となる位置に第2シャフト30の外周面を支持するように、複数の軸受52j、53jが軸線方向に沿って配置され、複数の軸受52j、53jを介して第2シャフト30の外周面を回転自在に支持する。
【0062】
また、第2シャフト支持部52、53の複数の軸受52j、53jの上下の側は、第3のシール63および第4のシール64により、第2シャフト30の外周面と下部ハウジング17の内周面との間がシールされる。なお、本実施形態では、各シャフト20、30を支持する複数の軸受51j、52j、53jに、スラスト荷重およびラジアル荷重を受ける深溝玉軸受を使用しているが、これに限定されず、種々の軸受を用いることができる。
【0063】
ここで、第一実施形態のダウンホールモータ2Xは、上述した下部ハウジング17内に、流体モータ機構を構成する駆動機構部70が設けられている。
詳しくは、第1シャフト20は、基端部21と、基端部21の先端側に形成されたインナロータ部22とを一体に有して構成されている。基端部21の上面には、上述した駆動流体供給路18に連通して、基端部21の軸方向に沿って駆動流体導入路25が形成されている。基端部21の駆動流体導入路25は、基端部21とインナロータ部22との境となる位置まで延設されている。
【0064】
そして、基端部21とインナロータ部22との境となる位置には、複数の駆動流体導出口24が、駆動流体導入路25の先端部と下部ハウジング17の内部とを連通するように径方向に形成されている。つまり、第1シャフト20には、駆動流体供給路18側から順に連通形成された、駆動流体導入路25および駆動流体導出口24によって、自身基端側の連結ハウジング23内部の駆動流体供給路23aから導入されたエマルションEmを自身先端側の駆動流体導出口24から吐出可能な駆動流体流路が設けられている。
【0065】
さらに、インナロータ部22は、第1シャフト20の基端部21の先端から軸方向に沿って同軸に下方に向けて垂下された状態で延設され、その延設された部分に、雄ねじ状の外周面を有している。一方、第2シャフト30は、金属製で中空円筒状をなす外筒部31と、外筒部31内に配置されたゴム製のアウタロータ部32とを一体にして構成され、アウタロータ部32は、雌ねじ状の内周面を有している。
【0066】
第一実施形態の駆動機構部70は、内周面に(N+1)条雌ねじを有するアウタロータ部32と、外周面にN条雄ねじを有するインナロータ部22とを備える。そして、アウタロータ部32の回転軸線CL2に対し、インナロータ部22の回転軸線CL1は、相互の軸心が所定の偏心距離Eだけ離れた平行な2軸となるように配置され、インナロータ部22とともにアウタロータ部32が、N/(N+1)の回転角度で連れ回り駆動可能に構成されている。但し、Nは1以上の自然数である。
【0067】
ここで、第一実施形態の例では、駆動機構部70は、隣接する他のダウンホールモータ2Xに対して回転方向を逆にするために、一のダウンホールモータ2Xにおいて、インナロータ部22の螺旋部22rが、左巻き2条雄ねじになっており、アウタロータ部32の螺旋部32rの形状が、120度間隔の頂点を有する横断面が3角リング形状の左巻き3条雌ねじになっている。
【0068】
さらに、当該一のダウンホールモータ2Xに隣接する他のダウンホールモータ2Xは、インナロータ部22の螺旋部22rが、右巻き2条雄ねじになっており、アウタロータ部32の螺旋部32rの形状が、120度間隔の頂点を有する横断面が3角リング形状の右巻き3条雌ねじになっており、複列数に応じて、続く他のダウンホールモータ2Xにおいて同様に螺旋部のねじ巻方向が互い違いに設定されている。これにより、
図4(b)に回転方向のイメージを矢印にて示したように、隣り合うダウンホールモータ2X相互の回転方向が、互いに逆方向に設定されている。
【0069】
そして、各ダウンホールモータ2Xは、インナロータ部22外周面の螺旋部22rがアウタロータ部32の螺旋部32rに内装され、相互の隙間には、駆動に応じて独立した密閉空間とされるキャビティKが軸方向の複数個所に画成されている。
【0070】
第2シャフト30の先端には、掘削用のビット90が装着される。本実施形態では、第2シャフト30の外筒部31の先端は、フロントキャップ81よりも下部ハウジング17の下方に張り出してビット装着部33とされている。ビット装着部33の外周面には、ビット90を接続可能な雄ねじが形成され、ビット90は、自身基端部が第2シャフト30先端のビット装着部33に接続される。
【0071】
各ダウンホールモータ2Xのビット90の下面には、海水またはエマルションEmを吐出するビットノズル91が、中央部から放射状に複数に分岐して開口しており、複数のキャビティKを経た高圧の海水またはエマルションEmをビットノズル91から噴射可能になっている。なお、ビットノズル91を設ける位置は、本実施形態のようにビット90自体に形成する他、ビット90の近傍に設けることができる。
【0072】
これにより、各ダウンホールモータ2Xは、インナロータ部22とアウタロータ部32とが、インナロータ部22の回転軸線CL1とアウタロータ部32の回転軸線CL2とを並列に且つ所定の偏心距離Eだけ離してそれぞれ回転自在に支承される。そして、各ダウンホールモータ2Xを駆動するときは、駆動流体供給路18、駆動流体導入路25、駆動流体導出口24を介して駆動機構部70の上部の位置31uに、海水またはエマルションEmを導入し、インナロータ部22とアウタロータ部32とで画成されるキャビティKに高圧の海水またはエマルションEmを流し込む。
【0073】
これにより、各ダウンホールモータ2Xは、ねじポンプの原理(逆作動)でインナロータ部22とアウタロータ部32とが所定比率で回転され、アウタロータ部32と一体の第2シャフト30を回転部として回転駆動し、その外筒部31を延設してなるビット装着部33に装着されたビット90を回転しつつ、ビット90の回転による掘削力と、ビット90のビットノズル91から噴射されるエマルションEmの流体力とによってレアアース泥床ODの泥質堆積層を解泥可能になっている。
【0074】
さらに、各ダウンホールモータ2Xの外周であってビット90の上部の位置には、複数の攪拌翼212〜217を有する攪拌部218が設けられている。本実施形態の攪拌部218は、ビット90と一体に形成された中空円筒状の攪拌軸200を有する。攪拌軸200は、ハウジング15の外周面を囲繞するようにハウジング15と同軸に配置される。攪拌軸200は、ハウジング15との間に軸受201が介装され、ハウジング15と干渉することなく、回転部である第2シャフト30と一体で回転するように構成されている。
【0075】
ここで、攪拌部218は、複数の攪拌翼として、6枚の攪拌翼212〜217を有する。各攪拌翼212〜217は、中心部がそれぞれ攪拌軸200と一体に設けられ、相互が軸方向上下に離隔配置されている。各攪拌翼212〜217は、攪拌軸200の中心から径方向に放射状に延びる複数の羽根を有する。攪拌部218は、各ダウンホールモータ2Xが駆動されると、第2シャフト30の回転とともに、6枚の攪拌翼212〜217をも同時に回転し、所期の攪拌動作が行えるようになっている。
【0076】
次に、上述した第一実施形態の海洋資源揚鉱装置100を備える海洋資源揚鉱システムを用いた海洋資源の揚鉱方法について説明する。
海洋資源としてのレアアース泥Drを吸着結合したエマルションEmの混合物Maを揚鉱するには、先ず、採鉱母船A及び回収船Bを目的とする海域の海上に停泊させる。
そして、
図6に示すように、複数のバルン1を集鉱装置3に装着した状態の揚鉱装置100を、海上の採鉱母船A上に配置されたウインチ29から滑車28aを介して延びるワイヤロープ28によって海底Dのレアアース泥床ODに向けて沈める(揚鉱装置沈下工程)。
【0077】
この揚鉱装置沈下工程においては、バルン1の上部カップラ12は開いた状態となっており、バルン本体10の下部の開口部10sからバルン本体10内に海水が入り込む。なお、第一実施形態では、採掘装置としての複列ダウンホールモータ2が装備された集鉱装置3を複数のバルン1とともに海上の採鉱母船Aから海中の採鉱位置に投入することになる。また、揚鉱装置100の投入に際し、複列ダウンホールモータ2は、各ダウンホールモータ2A〜2Lのビット90が、集鉱ホッパ5の下端から下方に張り出しているので、ビット90をレアアース泥床ODに押し当てる位置に配備する。
【0078】
そして、同図に示すように、ダウンホールモータ2の海中への投入と同時に、無人潜水機104を海上の採鉱母船Aから海中に投入する(無人潜水機投入工程)。無人潜水機104を海中に投入した後、オペレータが採鉱母船A上から無人潜水機104を操作し、無人潜水機104のロボットアーム104aにより海底Dに到達した各バルン1の上部カップラ12を開から閉に切り替える(カップラ閉鎖工程)。
【0079】
なお、本実施形態のバルン1は、
図2に示したように、下部カップラ11とバルン本体10とが、複数の連結ワイヤ10wで相互に繋がれた状態でバルン本体10下部が海中に開口している。そのため、ワイヤロープ28によって揚鉱装置100を海底Dのレアアース泥床ODに向けて沈める際の降下速度によるものの、降下速度を速めると、バルン本体の上部カップラ12が閉の場合、下部の開口部10sからバルン本体10内部への海水の流入量が多くなり、各バルン1が広がりすぎる懸念がある。そのため、降下時には、バルン本体10の上部カップラ12を開にして、降下時のバルン本体10の萎縮姿勢を安定させ、海底Dに到達した後に、上部カップラ閉鎖工程にて、各バルン1の上部カップラ12を開から閉に切り替えている。
【0080】
次いで、
図7に示すように、オペレータが採鉱母船A上から無人潜水機104を操作し、無人潜水機104のロボットアーム104aの操作により、所定の揚鉱スケジュールに従い貯鉱順が設定された対象のバルン1について、集鉱管6に接続されたバルン1の下部カップラ11の開閉弁を開状態に設定する(集鉱管路接続工程)。ここで、集鉱管6に接続された状態では、複数のリード用浮力体13fおよび上部の浮力体14の作用により、萎縮状態のバルン本体10の上端が海中で浮遊して紡錘状の沈降姿勢が安定している。このため、無人潜水機104による下部カップラ11の開閉作業を容易に行うことができる。
【0081】
そして、集鉱管路接続工程の後、複列ダウンホールモータ2を稼働するとともにワイヤロープ28の昇降操作により揚鉱装置100を昇降させ、
図8に示すように、泥質堆積層中のレアアース泥Drを解泥するとともに、解泥したレアアース泥DrとエマルションEmとを混合してレアアースを吸着結合したエマルションの混合物Maとするとともに、混合物Maを集鉱ホッパ5から集鉱管6を通して、集鉱管路接続工程を経たバルン1のバルン本体10内に混合物Maを貯鉱する(貯鉱工程Pr)。
【0082】
ここで、複列ダウンホールモータ2の稼働に際しては、採鉱母船A上の駆動流体圧送ポンプを駆動して高圧のエマルションEmを駆動流体供給ホース26から連結ハウジング23内の駆動流体供給路23aに注入し、複列ダウンホールモータ2の駆動流体供給路18に導入する。そして、駆動流体供給路18に導入された高圧のエマルションEmは、第1シャフト20の駆動流体導入路25を介して駆動流体導出口24から導出され、各ダウンホールモータ2Xの駆動機構部70の上部の位置31uに供給される(
図5の符号M1)。
【0083】
さらに、高圧のエマルションEmは、インナロータ部22とアウタロータ部32との対向空間に画成された複数のキャビティKに順次に導入される。これにより、各ダウンホールモータ2Xの駆動機構部70は、キャビティKに作用するエマルションEmの導入圧により、インナロータ部22とアウタロータ部32とが所定比率で連れ回りを開始する。
【0084】
つまり、各ダウンホールモータ2A〜2Lの駆動機構部70において、エマルションEmの導入圧が第2シャフト30の回転駆動力に変換される。各駆動機構部70で第2シャフト30が回転駆動すると、第2シャフト30の先端に設けられた各ビット90が共に回転する。駆動流体供給路18から導入されたエマルションEmは、各駆動機構部70の下部の位置31sを経て(
図5の符号M2)、各ビット90先端のビットノズル91から装置外に噴射される(
図5の符号M3)。
【0085】
これにより、この複列ダウンホールモータ2は、
図9に拡大図示するように、各ダウンホールモータ2A〜2Lのビット90の回転による掘削力と、ビット90のビットノズル91から噴射されるエマルションEmの流体力とによってレアアース泥床ODのレアアース泥Drを解泥できる。そして、この複列ダウンホールモータ2では、各ダウンホールモータ2A〜2Lのビット90が回転駆動されると、ビット90の上部の位置にビット90と一体に設けられた攪拌部218の複数の攪拌翼212〜217が共に回転する。
【0086】
これにより、各ビット90および各攪拌部218の複数の攪拌翼212〜217の回転による流れに導かれ、解泥されたレアアース泥Drおよびその周囲の海水WがエマルションEmとともに集鉱ホッパ5内に送り込まれる(
図5、
図9の符号M4)。さらに、集鉱ホッパ5の下部に導かれたレアアース泥Drは、各攪拌部218の複数の攪拌翼212〜217により攪拌されつつ集鉱ホッパ5の上方に移動していく。
【0087】
集鉱ホッパ5内に導入されたレアアース泥DrとエマルションEmは、集鉱ホッパ5内で相互に混合される。そして、レアアース泥DrがエマルションEmに接触することにより、レアアース元素が濃集したアパタイトがエマルションEmに吸着される。これにより、海中で液液分離された混合物Maとしてアパタイト吸着エマルションが生成される。
【0088】
そして、複列ダウンホールモータ2が引き続き駆動されると、集鉱ホッパ5内の混合物Ma(アパタイト吸着エマルション)は、次第に集鉱ホッパ5上部の安定室部分5sを経て集鉱管6の端部まで満たされていく。そのため、集鉱ホッパ5の下部から一定の距離を超えて上部の安定室部分5sまで移動した混合物Maは、海水Wとの比重差によって各集鉱管6内で浮上を開始する。そして、各集鉱管6の上部には、バルン1が接続されているため、
図8に示すように、浮上を開始した混合物Maを、集鉱管6を通してバルン1のバルン本体10内に貯鉱することができる。
【0089】
以降、ビット90の張り出し長さに応じた所定の掘削深度まで掘削後、
図10に示すように、採鉱母船Aを水平方向に移動させるとともにワイヤロープ28の昇降操作により揚鉱装置100を昇降させて、所定の掘削深度での採鉱を継続する。同図白抜きの矢印は、採鉱母船Aを水平方向に移動させるとともにワイヤロープ28の昇降操作により揚鉱装置100を昇降させて、所定の掘削深度での採鉱を継続するイメージを示している。
第一実施形態では、採鉱母船Aを水平方向に移動させることで、集鉱装置3と共に複列ダウンホールモータ2を一体で水平方向に平行移動させながらレアアース泥床ODからレアアース泥Drを間欠的に続けて採鉱することができる。
【0090】
そして、駆動流体として供給されるエマルションEmは、海水よりも比重が軽く、また、このエマルションEmとレアアース泥Drとが結合された混合物Maも海水よりも比重が軽いものにすることができる。そのため、同図に示すように、エマルションEmにレアアース泥Drを吸着させた混合物Maをバルン1のバルン本体10内で海水と置換させて充填させることができる。
【0091】
そして、この貯鉱工程の後、同図に示すように、オペレータが採鉱母船A上から無人潜水機104を操作し、無人潜水機104のロボットアーム104aにより、集鉱管6のカップラ6cに対するバルン本体10の下部カップラ11接続状態を解除して、
図11に示すように、集鉱管6のところで集鉱装置3からバルン本体10を切り離す(バルン接離工程)。
【0092】
集鉱装置3からバルン本体10を切り離すと、
図11に示すように、バルン本体10は、海水Wと混合物Maとの比重差で海上Cに向かって浮上を開始する(揚鉱工程Ps)。このとき、バルン本体10とワイヤロープ28とはリードワイヤ13で繋がれており、このリードワイヤ13によって、バルン本体10の浮上時に、ワイヤロープ28に沿って当該バルン本体10が案内される。
そして、
図1に示すように、切り離されたバルン本体10が海水Wと混合物Maとの比重差で海上Cまでワイヤロープ28に沿って浮上した後、洋上で待機している回収船Bの吸引回収装置105でバルン本体10内に貯鉱された混合物Maを吸引して回収する(混合物回収工程)。
【0093】
この混合物回収工程においては、混合物Maを吸引する吸引ホース54の先端に設けられ且つ回収アーム57の先端に配置された吸引カップラ55を、海上Cに浮上したバルン本体10の上部カップラ12に接続し、吸引ホース54に接続された吸引ポンプ56の駆動により、バルン本体10内に貯鉱された混合物Maを吸引して回収する。回収された混合物Maは回収船Bに設けられた図示しない回収器に収容される。
【0094】
最後に、この混合物回収工程の後、回収アーム57を駆動して、回収アーム57の先端に取り付けた吸引カップラ55及び上部カップラ12を介して、混合物Maを回収済みの空のバルン本体10を回収船B上に回収する(バルン回収工程)。
本実施形態のバルン回収工程では、
図12に示すように、アーム型ロボット106を搭載した補助作業船Fを用い、補助作業船Fの作業者がアーム型ロボット106を操作して、ガイド用浮力体13gの着脱構造の係合部を解除する。これにより、ガイド用浮力体13gを分割された二つの分割体とすることにより、ワイヤロープ28からリードワイヤ13を取り外して回収船B上に回収する。そして、回収船B上に回収されたバルン本体10を、他の集鉱装置3に再度装着し、
図6に示した状態で海底Dに再度投入して上記一連の工程を繰り返すことにより、海上から海底までの揚鉱用配管の延設することなく、海洋資源を連続的に揚鉱することができる。
【0095】
このように、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱用バルン1、海洋資源揚鉱装置100及びこれらを備える海洋資源揚鉱システム、並びに、これらを用いた海洋資源の揚鉱方法によれば、レアアース泥Drを吸着結合した海水よりも比重の軽いエマルションEmの混合物Maを海底Dでバルン1内に貯鉱するとともに、その混合物Maを貯鉱した状態のバルン1自身と海水Wとの比重差で海底Dから海上Cまで当該バルン1自身を浮上させ、吸引回収装置105により当該混合物Maを海上Cにて回収できる。そのため、海上Cから海底Dまでの揚鉱用配管を設置することなく、レアアース泥Drを吸着結合したエマルションEmの混合物Ma(アパタイト吸着エマルション)を効率良く回収できる。
【0096】
つまり、従来のポンプリフト方式では、深海からの海洋資源の揚鉱には水深分の揚程を圧送することが必要で多大なエネルギーが必要であり、また、エアリフト方式では、エネルギー効率が悪く、ポンプリフト方式以上の多大なるエネルギーが必要となり、さらに海上から深海の海底まで配管を設置することに多大な費用と時間を要したところ、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱システム、バルン1、海洋資源揚鉱装置100及び海洋資源の揚鉱方法によれば、使用エネルギーの大幅な削減が可能で、多大な費用と時間を要した海上から深海の海底までの揚鉱用配管の設置を不要とすることができる。
【0097】
そして、エマルションEmは、海水よりも比重が軽く、また、このエマルションEmとレアアース泥Drとが結合された混合物Maも海水よりも比重が軽いものにすることができる。そのため、解泥したレアアース泥DrをエマルションEmに吸着させた混合物Maを浮上させて海底Dにて集鉱管6を通してバルン1のバルン本体10内に円滑に貯鉱することができる。なお、バルン本体10自体の質量は、相対的に非常に軽いため、混合物Maを貯鉱した状態のバルン本体10を海水Wと混合物Maとの比重差で海底Dから海上Cまで容易に浮上させることができる。
【0098】
特に、従来のポンプリフト方式では、深海からの揚泥には水深分の揚程を圧送する多大なエネルギーが必要となり、エアリフト方式では、エネルギー効率が悪く、ポンプリフト方式以上のさらなる多大なエネルギーが必要となるところ、第一実施形態に係るバルン1、海洋資源揚鉱装置100、海洋資源揚鉱システム及び海洋資源の揚鉱方法によれば、前述したように、安定した運転性能を確保するとともに、採鉱、集鉱および揚鉱に要するエネルギーを大幅に削減可能なので、エネルギー効率を大幅に向上させることができる。
【0099】
ここで、レアアース泥Drに含まれるレアアースの品位はppmオーダーである。そのため、揚鉱前に海底で選鉱を行い、不要な脈石を予め取り除くことができれば、揚泥にかかるコストを大幅に減らす上でより好ましい。これに対し、本発明を完成する過程での研究によれば、レアアース泥Dr中のアパタイトには、高品位にレアアースが吸着されていることから、上記エマルションEmにアパタイトを吸着させることにより、レアアース泥Drから不要な脈石を除き、高品位にレアアースが吸着されているアパタイトを効率良く液液分離できる。そのため、エネルギー効率を向上させる上でより好適である。
【0100】
また、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱装置100によれば、各バルン1は、集鉱装置3の上部に設けられた集鉱管6の上端に着脱可能に接続されるので、集鉱ホッパ5内で順次に生成された混合物Maを、集鉱ホッパ5から集鉱管6へと効率良く移動させて混合物Maを安定させつつ、海水Wとの比重差によって混合物Ma自ら集鉱管6内を浮上させ、混合物Maを、集鉱管6内を通過させて複数のバルン本体10内で海水と置換させて順次に効率翼良く充填させることができる。
【0101】
そして、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱装置100によれば、集鉱ホッパ5の上部に上記バルン1を複数配置しており、所定の揚鉱スケジュールに従って順次にバルン本体10内に混合物Maを充填後に、貯鉱状態のバルン本体10を、海水と混合物Maとの比重差で海底Dから海上Cまで順次に自ら浮上させるので、エマルションEmにレアアース泥Drを吸着させた混合物Maを容易に且つより多く海上Cまで揚鉱できる。このため、前述したように、従来のポンプリフト方式やエアリフト方式で必要とする海上から海底までのライザー管等の揚鉱用配管の延設を不要とする構成として極めて優れている。
【0102】
特に、第一実施形態の揚鉱装置100によれば、バルン本体10とワイヤロープ28とを繋ぐリードワイヤ13を有し、このリードワイヤ13によって、バルン本体10の浮上時に、ワイヤロープ28に沿って当該バルン本体10を案内するので、潮流等の影響がある場合でも、所定の浮上位置までバルンを円滑に且つ確実に案内しつつ浮上させることができる。
【0103】
また、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱システムによれば、吸引回収装置105が海上の回収船Bに配置され、海上Cに浮上したバルン本体10の上部カップラ12に接続される吸引カップラ55を先端に設けた吸引ホース54と、吸引ホース54に接続され、バルン本体10内に貯鉱された混合物Maを吸引回収する吸引ポンプ56とを備えるので、海上の回収船Bに配置された吸引ポンプ56を駆動することにより、バルン本体10内に貯鉱された混合物Maを、吸引ホース54を介して効率良く吸引回収できる。
【0104】
また、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱システムによれば、無人潜水機104は、遠隔操作型の無人潜水機であり、海上の回収船Bから水中ケーブル45を介して動力が供給されるので、海上の採鉱母船Aから無人潜水機104を駆動して、集鉱装置3の集鉱管6に接続されたバルン1の接続状態を解除して集鉱装置3から確実に切り離すことができる。
また、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱システムによれば、混合物Maが吸引回収されたバルン本体10を回収する回収アーム57を備えるので、混合物Maが吸引回収されたバルン本体10を効率良く回収し、回収されたバルン本体10を他に用意した集鉱装置3に装着して再度利用することができる。
【0105】
また、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱装置100において、採掘装置は、海水および海水よりも比重が軽いエマエルションで駆動する複列ダウンホールモータ2であり、複列ダウンホールモータ2が備える各ダウンホールモータ2Xには、各ダウンホールモータ2Xを駆動するエマルションEmを噴射するビットノズル91が形成されるとともに各ダウンホールモータ2Xを駆動することにより回転する掘削用のビット90が装着されているので、海底のレアアース泥を一のダウンホールモータにより採鉱する採鉱装置と比べて、複数のビット90の回転による掘削力とビットノズル91から噴射されるエマルションEmの噴射による流体力とで泥質堆積層中のレアアース泥Drを効率良く解泥する上で好適である。
【0106】
特に、第一実施形態に係る複列ダウンホールモータ2によれば、複列の連数を偶数とし、隣り合うダウンホールモータ2X相互は、回転方向が互いに逆方向に設定されているので、採鉱機器本体となる集鉱装置3が受ける掘削時の反力が相殺される。そのため、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱装置100のように、アンカー等の保持手段で保持することなく、海中にて浮いた状態に維持しつつ採鉱、集鉱および揚鉱を行う集鉱装置3であっても、集鉱装置3の掘削時の姿勢がより安定するとともに、複数のダウンホールモータ2Xによる同時掘削により、採鉱効率を大幅に向上させることができる。また、集鉱装置3の掘削時の姿勢を保持するための、特段の姿勢制御装置およびプログラム等の制御手段が不要な上、そのような姿勢制御のためのエネルギーを消費するという問題もないという優れた効果を奏する。
【0107】
また、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱装置100によれば、各ダウンホールモータ2Xには、ビット90の上部の位置にビット90とともに回転する攪拌翼212〜217が設けられ、更に、複列ダウンホールモータ2を囲う位置に配設され、下方に向けて拡径して海中に開口する集鉱ホッパ5を有する集鉱装置3を備えるので、複数のダウンホールモータ2Xのビット90の回転による掘削力とビットノズル91から噴射されるエマルションEmの噴射による流体力とで泥質堆積層中のレアアース泥Drを効率良く解泥しつつ、集鉱ホッパ5内にて、ビット90の上部の位置にある攪拌翼212〜217でレアアース泥Drと海水W及びエマルションEmを混合し、レアアース泥Drを吸着結合したエマルションEmの混合物Ma(アパタイト吸着エマルション)を効率良く生成することができる。
【0108】
また、特許文献1に記載されるようなターボ形のポンプの場合、機器はかなり複雑な形状のため、深海(例えば水深6000m)の高圧下では、局部的形状や各部の肉厚に強度的に十分な考慮が必要となる。これに対し、第一実施形態の海洋資源揚鉱装置100であれば、各ダウンホールモータ2Xが円筒形状のシンプルな形状のため、深海の高圧下での強度的対応に優位な形状である。よって、安定した運転性能を確保する上で好適である。
【0109】
さらに、特許文献1に記載されるようなターボ形のポンプの場合、機器はかなり大型かつ複雑な形状のため、複数のポンプの、各号機相互の接続に大きな横幅を必要とする。これに対し、第一実施形態の海洋資源揚鉱装置100であれば、各ダウンホールモータ2Xは単純な円筒形状のため、シンプルな配管接続が可能である。
【0110】
また、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱装置100において、複列ダウンホールモータ2は、その基端部が集鉱装置3に支持されるとともに基端部にエマルションEmの導入口(駆動流体供給路18)が設けられ、導入口にエマルションEmを供給可能に海上の採鉱母船Aに駆動流体供給ホース26で連結されるので、海上の採鉱母船Aから駆動流体供給ホース26を介してエマルションEmをダウンホールモータ2の導入口に安定して供給できる。
【0111】
また、第一実施形態に係る複列ダウンホールモータ2によれば、従来のダウンホールモータのような、高圧の駆動流体で作り出されたロータの回転力を、ユニバーサルジョイントを介してシャフトに伝達していた構成と比べて、各ダウンホールモータ2Xは、アウタロータ部32の回転駆動にユニバーサルジョイントが不要なので、駆動機構部70の全長を短くしてコンパクトに構成できる。
【0112】
また、第一実施形態のダウンホールモータ2Xによれば、アウタロータ部32の回転駆動にユニバーサルジョイントが不要なので、ユニバーサルジョイントやその連結用ロッドも不要なことから、これらの強度に依存するという問題も解消される。また、インナロータ部22の回転よりも減速されたアウタロータ部32の回転力をビット90に直接伝達できる。そのため、第1シャフト20のトルクよりも大きな回転トルクを、第2シャフト30の先端に設けられたビット90に効率良く伝達可能なので、より高トルクに対応できる。
【0113】
さらに、このダウンホールモータ2Xによれば、インナロータ部22の外径よりも大きなアウタロータ部32の外筒部31を支承する大きな軸受52j、53jを有する第2シャフト支持部52、53によって、ビット90に加わる負荷を受けることができる。そのため、駆動機構部70の全長をコンパクトに構成しつつも、より信頼性の高い海洋資源揚鉱装置100を提供できる。
また、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱装置100は、海上の採鉱母船Aからワイヤロープ28を介して揚鉱装置100が昇降可能に垂下されるので、海上の採鉱母船Aの航行にて、複列ダウンホールモータ2を海底D上で容易に移動させることができる。
【0114】
以上、本発明の第一実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。
【0115】
例えば、上記実施形態では、海洋資源の一例として、レアアース泥床ODの泥質堆積層を解泥してレアアースを揚鉱する例を説明したが、本発明を適用可能な海洋資源は、レアアース泥床のレアアースに限定されるものではない。
つまり、本発明は、海水よりも比重の軽い(小さい)エマルションと海底で採掘された鉱物とを含む混合物とし、この混合物をバルンに貯鉱するとともに、混合物を貯鉱した状態のバルン自身と海水との比重差で海底から海上まで当該バルンを浮上させ得るものであれば、海底で採掘された種々の鉱物を揚鉱対象とすることができる。
【0116】
また、例えば上記第一実施形態では、バルン1及びロボットアーム104a付きの無人潜水機104はそれぞれ採鉱母船Aから海中に投入する例を示したが、これに限らず、それぞれ回収船Bから海中に投入してもよい。また、無人潜水機104は、回収船B上やその他の船舶からオペレータが操作してもよい。
【0117】
また、例えば上記第一実施形態では、垂下手段としてワイヤロープ28を用いた例で説明したが、本発明はこれに限らず、海洋資源揚鉱装置を垂下して支持可能であれば、種々の構成を垂下手段として採用できる。例えば、ワイヤロープ28に替えて、アンビリカブルケーブルを垂下手段とすることができる。
この場合、揚鉱装置100は、深海にレアアース泥が存在する海域で、アンビリカブルケーブルによって垂下された状態で海中に配備される。ここで、このアンビリカブルケーブルは、ダウンホールモータ2に駆動流体を供給する供給ホースとしての駆動流体供給管の他、その管路に沿って設けられた電力線および信号線が一体形成された複合ケーブルであり、設置深度等に応じて垂下に必要な強度を保てるように、鋼線や炭素繊維等を用いた複合強化構造を有して構成されることが好ましい。このような構成であれば、一のアンビリカブルケーブルにより、揚鉱装置100を垂下するとともに、ダウンホールモータ2に駆動流体を供給する他、必要な電力の供給および信号の授受が可能となる。
【0118】
また、上記第一実施形態では、集鉱ホッパ5等を含む集鉱装置3を設けた例を示したが、これに限らず、集鉱ホッパ5等を含む集鉱装置3を設けない場合であっても、海水よりも比重の軽いエマルションと海底で採掘された鉱物との混合物を海洋資源揚鉱用バルン1内に貯鉱し、その混合物を貯鉱した状態のバルン1自身と海水との比重差で海底から海上まで当該バルン1を浮上させる構成であれば種々の態様とすることができる。
但し、より効率良く採鉱する上では、集鉱ホッパ5等を含む集鉱装置3を設けることが望ましい。また、採鉱母船Aと回収船Bとを別の船で構成しているが、一つの船で構成してもよい。
【0119】
また、例えば上記第一実施形態では、海洋資源揚鉱システムの一例として、海洋資源揚鉱用バルン1を用いるとともに、吸引回収装置105が海上の回収船Bに配置され、ロボットアーム104a付きの無人潜水機104を用いつつ、海上Cに浮上したバルン本体10内に貯鉱された混合物Maを回収船Bに回収する例を示した。
【0120】
しかし、本発明に係る海洋資源揚鉱システムの構成はこれに限定されず、海洋資源揚鉱用バルン1および無人潜水機104を用いずに、ポンプやエアリフトを用いて揚鉱するライザー管や、エマルションによる比重差を利用した揚鉱管を用いて揚鉱してもよいし、また、回収船Bを用いずに、採鉱母船Aに揚鉱設備を装備して揚鉱してもよいし、さらに、他の支援船を用いてもよい。
【0121】
例えば、海洋資源揚鉱システムに、採鉱機器本体として海洋資源を下端の集鉱口から集鉱するとともに揚鉱するためのライザー管を用いる場合には、複列ダウンホールモータ2は、偶数基のダウンホールモータ2Xが、該ライザー管の内部に且つ前記開口部に臨む位置に装着すればよい。以下、本発明に係る海洋資源揚鉱システムの他の実施形態ないし変形例について説明する。
【0122】
[第二実施形態]
まず、本発明に係る海洋資源揚鉱システムの他の構成例として、本発明の第二実施形態について説明する。なお、第二実施形態に係る海洋資源揚鉱システムは、上述した第一実施形態に係る海洋資源揚鉱システムに対し、回収船Bに替えて、採鉱母船Aに揚鉱設備を装備して揚鉱する点、並びに、無人潜水機104および海洋資源揚鉱用バルン1に替えて、エマルションによる比重差を利用した揚鉱管を用いて揚鉱する点が相違する以外は、第一実施形態に係る海洋資源揚鉱システムと同様の構成を有する。そのため、以下の説明では、相違点について説明し、第一実施形態と同一または対応する構成については、同一の符号を付すとともに、詳細な説明は適宜省略する(以下、他の実施形態ないし変形例について同様)。
【0123】
第二実施形態に係る海洋資源揚鉱システムは、
図13に示すように、目的とする海域の海上Cに停泊される採鉱母船Aと、海洋資源揚鉱装置100(以下、単に「揚鉱装置」ともいう)と、を備える。第二実施形態では、採鉱母船Aに、吸引回収装置105が装備されている。
【0124】
第二実施形態の吸引回収装置105は、第一実施形態での回収アーム57に替えて、船上に、吸引ホース54を巻回する吸引ホースリール57が装備されている。吸引ホース54は、エマルションによる比重差を利用して混合物Maを揚鉱する可撓性パイプからなる揚鉱管である。
採鉱母船Aの船内には、吸引ホース54の基端部に接続されて吸引ホース54の洋上の位置まで揚鉱された混合物Maを吸引回収する吸引ポンプ56が設けられている。吸引ポンプ56で吸引回収された混合物Maは、採鉱母船Aに設けられた図示しない回収器に収容可能に構成されている。
【0125】
第二実施形態の揚鉱装置100は、
図14に拡大図示するように、ベースプレート4には、上記第二実施形態の吸引ホース54の下端が、第一実施形態の複数の集鉱管6に替えて、揚鉱装置100の上部に接続されている。なお、第二実施形態では、第一実施形態の集鉱管6を設けない構成に伴い、補強支柱6sを設けていないことから、水中照明機7および水中カメラ8は、それぞれの支持アーム7a、8aが、集鉱装置3の集鉱ホッパ5下端に直接固定されている。
【0126】
ここで、上記第一実施形態では、レアアース泥Drは、レアアース泥床ODの表層部分から存在する例として示したが、7000ppm程度の良質なレアアースは、海底下の4〜6m程度の深さに多く存在することが知られている。
そのため、この第二実施形態では、海底Dの表層部分の非レアアース泥層NDとなる鉱床面の口切部分では採鉱せずに、海水を駆動流体として複列ダウンホールモータ2を駆動して掘削し、その後、海底下の4〜6m程度の所定深さでは、エマルションを駆動流体として複列ダウンホールモータ2を駆動して採鉱する例を示す。
【0127】
具体的には、第二実施形態の複列ダウンホールモータ2は、集鉱ホッパ5の下端から下方に張り出している各ダウンホールモータ2A〜2Lのビット90の張り出し位置は、上記第一実施形態よりも、海底下の4〜6m程度の所定深度に届く分だけ長く設定されている。なお、上記非レアアース泥層NDとは、良質なレアアースが相対的に少ない層であって、レアアースが一切存在しないという意味ではない。
【0128】
次に、第二実施形態に係る海洋資源揚鉱システムを用いた海洋資源の揚鉱方法について説明する。
海洋資源としてのレアアース泥Drを吸着結合したエマルションEmの混合物Maを揚鉱するには、先ず、採鉱母船Aを目的とする海域の海上に停泊させる。そして、
図13に示したように、複列ダウンホールモータ2が装備された集鉱装置3に第二実施形態の吸引ホース54を装着した状態の揚鉱装置100を、海上の採鉱母船A上に配置されたウインチ29から滑車28aを介して延びるワイヤロープ28によって海底Dのレアアース泥床ODに向けて沈める(揚鉱装置沈下工程)。
【0129】
次いで、
図15に示すように、集鉱ホッパ5の下端から下方に張り出している各ダウンホールモータ2A〜2Lのビット90をレアアース泥床ODに押し当てる位置に配備する。その後、採鉱母船Aから駆動流体供給ホース26を介して駆動流体として高圧のエマルションEmを供給して複列ダウンホールモータ2を稼働するとともにワイヤロープ28の昇降操作により揚鉱装置100を昇降させ、
図16に示すように、泥質堆積層中のレアアース泥Drを解泥するとともに、解泥したレアアース泥DrとエマルションEmとを混合してレアアースを吸着結合したエマルションの混合物Maとする。
【0130】
なお、上述したように、この第二実施形態では、海底Dの表層部分の非レアアース泥層NDとなる鉱床面の口切部分では、海水を駆動流体として複列ダウンホールモータ2を駆動して掘削し、その後、海底下の4〜6m程度の所定深さでは、エマルションを駆動流体として複列ダウンホールモータ2を駆動して採鉱する(以下、同様)。
つまり、上記第一実施形態で説明したように、採鉱母船A上には、圧送ポンプの駆動をオペレータの操作に応じて制御するコントローラが設けられ、圧送ポンプは、オペレータの操作に応じて、駆動流体として、海水およびエマルションの一方を選択して複列ダウンホールモータ2に供給可能に構成されているので、オペレータは、レアアース泥床ODにおいて、非レアアース泥層NDに対応する深度では、駆動流体として海水を選択し、海底下の4〜6m程度の所定深度では、駆動流体としてエマルションを選択して掘削および採鉱操作を行う。
【0131】
これにより、上記第一実施形態で説明した作用機序にて、複列ダウンホールモータ2が引き続き駆動されると、集鉱ホッパ5内の混合物Ma(アパタイト吸着エマルション)は、次第に集鉱ホッパ5上部の安定室部分5sを経て吸引ホース54の内部まで満たされていく(貯鉱工程)。そして、集鉱ホッパ5の下部から一定の距離を超えて上部の安定室部分5sまで移動した混合物Maは、海水Wとの比重差によって吸引ホース54内で浮上を開始する(揚鉱工程)。
【0132】
以降、ビット90の張り出し長さに応じた所定の掘削深度まで掘削後、
図17〜
図19に示すように、採鉱母船Aを水平方向に移動させるとともに、ワイヤロープ28の昇降操作により揚鉱装置100を昇降させて、所定の掘削深度での採鉱を継続する。同図白抜きの矢印は、採鉱母船Aを水平方向に移動させるとともにワイヤロープ28の昇降操作により揚鉱装置100を昇降させて、所定の掘削深度での採鉱を継続するイメージを示している。
【0133】
このように、第二実施形態の海洋資源揚鉱システムであっても、吸引ホース54により、エマルションによる比重差を利用して混合物Maを洋上の位置まで混合物Ma自ら浮上させることができる。そして、洋上の位置まで揚鉱された吸引ホース54内の混合物Maを海上Cの採鉱母船Aに配置された吸引ポンプ56を駆動することにより、吸引ホース54を介して効率良く吸引回収できる。
そして、第二実施形態の海洋資源揚鉱システムにおいても、第二実施形態の揚鉱装置100がアンカー等の保持手段で保持することなく、海中にて浮いた状態を維持しつつ、採鉱、集鉱および揚鉱作業を行うところ、上記第一実施形態同様の複列ダウンホールモータ2を用いて採鉱を行うので、上記第一実施形態同様に、揚鉱装置100の姿勢をより安定させるとともに採鉱効率を向上させることができる。
【0134】
[第三実施形態]
さらに、本発明に係る海洋資源揚鉱システムの他の構成例として、本発明の第三実施形態について説明する。
第三実施形態に係る海洋資源揚鉱システムは、
図20に示すように、採鉱機器本体として潜水艇100を備える。同図に示す例では、潜水艇100は、内部に貯鉱室100aが画成された中空卵型の筐体100bを有する。筐体100bの周囲適所には、浮上および潜航するための複数のスラスタ100cが装備されている。
【0135】
筐体100bの上部には、甲板100dが設けられ、筐体100bの下部には、集鉱口100sが開口している。貯鉱室100aの内部には、甲板100dの下面から昇降装置100kが垂下姿勢で支持され、集鉱口100sに臨む位置には、集鉱ホッパ5が配置されている。
集鉱ホッパ5は、昇降装置100kにより貯鉱室100a内で昇降可能に支持されている。集鉱ホッパ5の上部は、貯鉱室100aの内部に開口している。また、甲板100dには、潜水艇100が浮上した際に、貯鉱室100a内に貯鉱したレアアース泥Drを吸着結合したエマルションEmの混合物Maを回収するためのカップラ100eが装備されている。
【0136】
第三実施形態に係る複列ダウンホールモータ2は、偶数基のダウンホールモータ2X(この例では、2A、2Bの二基(
図21に示す第一変形例参照))が、該潜水艇100の内部に且つ開口部に臨む位置に装着されている。同図の例では、甲板100dの下面から下方に複列ダウンホールモータ2が垂下されるように、採掘装置支持筐体73の基端部が、甲板100dの中央部に一体で固定されている。甲板100dの中央には、駆動流体供給ホース26が接続され、採掘装置支持筐体73の駆動流体分岐室71に連通しており、複列ダウンホールモータ2を駆動可能になっている。
【0137】
第三実施形態の例では、潜水艇100の貯鉱室100aの内部の適所には、コンピュータを含む制御部およびバッテリが圧力容器に収容された制御装置100gが装備されている。また、上記駆動流体供給ホース26は、複数の配線と駆動流体の供給管路とが一体形成されたアンビリカブルケーブルとされており、海上の採鉱母船Aから複列ダウンホールモータ2への駆動流体の供給の他、海上の採鉱母船Aと制御装置100gとの間で、必要な電力および信号の授受が可能に構成されている。また、潜水艇100の筐体100bの下部の適所には、水中カメラや水中照明機、音響センサ、姿勢センサ等のオペレータが遠隔操作するために必要な機器100fが装備されている。
【0138】
このような構成により、第三実施形態に係る潜水艇100を備える海洋資源揚鉱システムによれば、潜水艇100は、第一実施形態同様に、海上Cの採鉱母船Aから海底Dのレアアース泥床ODに向けて投入され、採鉱母船Aからオペレータが遠隔操作して、潜水艇100を採鉱機器本体として、下部の集鉱口100sから張り出す複列ダウンホールモータ2を海底Dで稼働できる。
【0139】
これにより、同図に示す潜水艇100を備える、第三実施形態に係る海洋資源揚鉱システムによれば、レアアース泥床ODの泥質堆積層中のレアアース泥Drを解泥するとともに、解泥したレアアース泥DrとエマルションEmとを、潜水艇100の下部の集鉱口100sから集鉱ホッパ5内で混合してレアアースを吸着結合したエマルションの混合物Maを生成できる。さらに、第三実施形態に係る海洋資源揚鉱システムによれば、集鉱ホッパ5の上部から貯鉱室100aに貯鉱して、潜水艇100内部の貯鉱室100aにレアアース泥Drを貯鉱後に、潜水艇100自らの浮上により採鉱母船Aまで揚鉱できる。
【0140】
そして、第三実施形態の海洋資源揚鉱システムにおいても、潜水艇100がアンカー等の保持手段で保持されることなく、海中にて浮いた状態を維持しつつ、採鉱、集鉱および揚鉱作業を行うところ、上記第一および第二実施形態同様の複列ダウンホールモータ2を用いて採鉱を行うので、上記第一および第二実施形態同様に、潜水艇100の姿勢をより安定させるとともに採鉱効率を向上させることができる。
【0141】
[本発明に係る採掘装置の他の構成例および変形例について]
また、本発明に係る採掘装置についても、上述した第一ないし第二実施形態の構成例に限らず、種々の変更、改良を行うことができる。例えば上記実施形態では、レアアース泥床ODの泥質堆積層を解泥する採掘装置は、単位となるダウンホールモータ2Xとして、駆動流体により駆動するダウンホールモータを例に示したが、これに限定されない。
【0142】
例えば、単位となるダウンホールモータ2Xとしては、電動機を用いて駆動するビットないし攪拌翼を有する構成や、電動ポンプや水流を利用したジェットポンプと攪拌翼とを使用した構成等、レアアース泥床ODの泥質堆積層を解泥可能な採掘機であれば、種々の採掘機をダウンホールモータ2Xとして採用できる。
但し、駆動流体として海水よりも比重の軽いエマルションを海上から供給して駆動するダウンホールモータを採用することは、レアアース泥を採掘しつつ、レアアース泥、エマルションおよび海水を混合攪拌し、高品位にレアアースが吸着されているアパタイトを吸着結合したエマルションの混合物を前記採鉱機器本体により揚鉱する上で好適である。
【0143】
また、例えば上記実施形態では、各ダウンホールモータ2Xは、ねじポンプを駆動機構部70に使用し、その出力を、ユニバーサルジョイントを介することなく出力軸となるビット装着部33に出力し、これにより、省スペース化を実現し、駆動機構部70での駆動力を効率良く伝達する構成例を示したが、これに限らず、駆動機構部70での出力を、ユニバーサルジョイントを介して出力軸に出力する一軸偏心ねじポンプで構成してもよい。
【0144】
また、例えば上記実施形態では、レアアース泥床ODの泥質堆積層を解泥する採掘装置は、単位となるダウンホールモータ2Xとして、ダウンホールモータ2A〜2Lの12台を並列配置してなる複列ダウンホールモータ2を用いた例について説明したが、本発明に係る複列ダウンホールモータ2の並列配置構成は、これに限定されず、ダウンホールモータ2Xを偶数基備えて並列配置し、隣り合うダウンホールモータ相互のビットの回転方向を、互いに逆方向に設定する構成であれば、種々の態様を採用することができる。
【0145】
例えば、
図21に上記第一実施形態の複列ダウンホールモータ2の第一変形例を示すように、単位となるダウンホールモータ2Xとして、ダウンホールモータ2Aおよび2Bの2基を左右に並列配置してなる複列ダウンホールモータ2を用いることができる。
この第一変形例においても、同図に各ビットの回転方向のイメージを矢印でそれぞれ示すように、隣り合うダウンホールモータ2Aおよび2B相互の回転方向が、互いに逆方向に設定されている。よって、採鉱機器本体の姿勢をより安定させるとともに採鉱効率を向上させることができる。
【0146】
また、例えば、
図22に上記第一実施形態の複列ダウンホールモータ2の第二変形例を示すように、単位となるダウンホールモータ2Xとして、ダウンホールモータ2A〜2Dの4基を左右および前後に並列配置してなる複列ダウンホールモータ2を用いることができる。
この第二変形例においても、同図に各ビットの回転方向のイメージを矢印でそれぞれ示すように、隣り合うダウンホールモータ(2Aおよび2B、2Cおよび2D、2Aおよび2C、2Bおよび2D)相互の回転方向が、互いに逆方向に設定されている。よって、採鉱機器本体の姿勢をより安定させるとともに採鉱効率を向上させることができる。
【0147】
また、例えば、
図23に上記第一実施形態の複列ダウンホールモータ2の第三変形例を示すように、単位となるダウンホールモータ2Xとして、ダウンホールモータ2A〜2Fの6基を用いている。そして、この例では、6基のダウンホールモータ2A〜2Fの配置を、平面視で六角形となるように、前後、左右および斜めの位置に並列配置してなる複列ダウンホールモータ2を用いることができる。
この第三変形例においても、同図に各ビットの回転方向のイメージを矢印でそれぞれ示すように、隣り合うダウンホールモータ(2Aおよび2B、2Aおよび2C、2Cおよび2E、2Eおよび2F、2Bおよび2D、2Dおよび2F)相互の回転方向が、互いに逆方向に設定されている。よって、採鉱機器本体の姿勢をより安定させるとともに採鉱効率を向上させることができる。
【0148】
また、例えば、
図24に上記第一実施形態の複列ダウンホールモータ2の第四変形例を示すように、単位となるダウンホールモータ2Xとして、ダウンホールモータ2A〜2Hの8基を、平面視で、左右に4基および前後に2基を行と列に沿って矩形状に並列配置してなる複列ダウンホールモータ2を用いることができる。
この第四変形例においても、同図に各ビットの回転方向のイメージを矢印でそれぞれ示すように、隣り合うダウンホールモータ相互の回転方向が、互いに逆方向に設定されている。よって、採鉱機器本体の姿勢をより安定させるとともに採鉱効率を向上させることができる。
【0149】
また、例えば、
図25に上記第一実施形態の複列ダウンホールモータ2の第五変形例を示すように、単位となるダウンホールモータ2Xとして、ダウンホールモータ2A〜2Pの16基を、平面視で、左右に4基および前後に4基を行と列に沿って矩形状に並列配置してなる複列ダウンホールモータ2を用いることができる。
この第五変形例においても、同図に各ビットの回転方向のイメージを矢印でそれぞれ示すように、隣り合うダウンホールモータ相互の回転方向が、互いに逆方向に設定されている。よって、採鉱機器本体の姿勢をより安定させるとともに採鉱効率を向上させることができる。