(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ライザー管と、該ライザー管内に設けられて圧送されたリーチング用浸出溶液を駆動流体として供給する駆動流体供給管と、該駆動流体供給管の先端に装備された請求項1〜4のいずれか一項に記載の海洋資源採鉱装置と、を備えることを特徴とする海洋資源揚鉱装置。
前記ライザー管の下部開口部を囲繞するとともに、前記ライザー管の配置時に海底に打ち込まれて採掘坑の坑口をシールする円筒形アンカーを更に備える請求項6に記載の海洋資源揚鉱装置。
前記パッカーは、前記ライザー管の下部に装着されて該下部の開口部を囲繞するように設けられた可撓性の集鉱スカートと、該集鉱スカートの下縁に設けられた複数のアンカーと、を有する請求項9に記載の海洋資源揚鉱装置。
前記採掘・選鉱工程は、前記ダウンホールモータの掘進方向として、レアアース鉱床に対し、採掘坑の入り口からレアアース泥堆積層に至るまでは竪穴を掘削し、レアアース泥堆積層に到達後はレアアース泥堆積層の延在方向に沿って横穴を掘削して前記採掘坑を掘進する請求項11〜14のいずれか一項に記載の海洋資源の揚鉱方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の各実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。各実施形態は、深海に存在するレアアース泥等の海洋資源の揚鉱技術として、従来のポンプリフト方式やエアリフト方式に替わる、海洋資源採鉱装置および海洋資源の採鉱方法、並びに、海洋資源揚鉱装置および海洋資源の揚鉱方法を含む海洋資源揚鉱システムの例である。
なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す各実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0018】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態について説明する。
図1に示すように、第一実施形態の海洋資源揚鉱システムは、目的とする海域の海上Cに停泊される採鉱母船1と、海洋資源揚鉱装置100(以下、単に「揚鉱装置」ともいう)と、を備える。本実施形態の採鉱母船1には、リーチング用浸出溶液を用いる選鉱水溶液循環式採鉱システムが装備される。
【0019】
同図に示すように、採鉱母船1の上部中央には、揚鉱装置100を垂下するためのデリック機構が装備された採鉱やぐら14が立設されている。採鉱やぐら14の船内下方には、以下不図示の、ライザ昇降装置と、ライザテンショナと、が装備されている。また、採鉱母船1の船底部には、複数基のスラスタが適所に装備されている。
ライザ昇降装置は、ライザー管101および駆動流体供給管23の昇降動作およびその制御を行う装置を含んで構成される。ライザテンショナは、風速や波高、潮流が時々刻々変化する海況下にて、ライザー管101および駆動流体供給管23の昇降位置の補正制御が可能な複数の可動アームを含んで構成される。また、複数基のスラスタは、自動船位保持システム(DPS)によって採鉱母船1を定点保持可能に自動制御され、時々刻々変化する海況下にて採鉱母船1を定点保持可能に構成されている。
【0020】
海洋資源揚鉱装置100は、深海にレアアース泥が存在する海域で、ライザー管101の軸線を上下方向として海中に配備され、海上Cに停泊する採鉱母船1まで海水が満たされた状態で海底Bまで延設される。第一実施形態の海洋資源揚鉱装置100は、ライザー管101と、ライザー管101内に略同軸に支持された長尺な中空円筒状の駆動流体供給管23と、駆動流体供給管23の先端に連接されたダウンホールモータ2と、ライザー管101の下端に設けられたパッカー103と、を備える。
【0021】
本実施形態では、ライザー管101に沿って圧縮空気供給管102が配管され、洋上の採鉱母船1からパッカー103内に圧縮空気を注入可能になっている。本実施形態の圧縮空気供給管102は、複数の分岐管路102a,102b,102cを有する。各分岐管路102a,102b,102cは、ライザー管101の途中部分の適所にそれぞれ離隔した位置に接続されている。これにより、各分岐管路102a,102b,102cからライザー管101の途中部分にも圧縮空気が供給され、揚鉱を補助して安定した揚鉱が可能になっている。
【0022】
パッカー103は、ライザー管101の下部に装着されて該下部の開口部を囲繞するように円錐状に設けられた可撓性の集鉱スカート104と、集鉱スカート104の下縁に沿って円環状に設けられた下部フレーム105と、下部フレーム105の周方向に離隔して適所に設けられた複数のアンカー106と、を有する。
【0023】
パッカー103内には、駆動流体供給管23の先端に、掘削部となるビット90が装着されたダウンホールモータ2が略同軸に配置される。パッカー103は、下部フレーム105の内側が下方に開口している。この開口部分が、後述するレアアース選鉱溶液Maの吸込口になっている。パッカー103の集鉱スカート104上部中央は、ライザー管101に連通している。なお、本実施形態の駆動流体供給管23は、管路に沿って電力線および信号線が一体形成されたアンビリカブルケーブルを構成しており、ダウンホールモータ2に駆動流体を供給する他、必要な電力の供給および信号の授受が可能になっている。
【0024】
ライザー管101は、その上端部が、海上に停泊する採鉱母船1の揚鉱設備に接続され、レアアース選鉱溶液Maを海上まで揚鉱する選鉱溶液回収部を構成する。ライザー管101は、長尺な中空円筒状の管路であり、複数のライザー単管が略同軸に連接されて構成される。
各ライザー単管は、設置深度等に応じて、鋼管や、炭素繊維強化プラスチック等の複合強化プラスチック管を適宜用いて構成される。また、ライザー管101の途中部分には、渦励起振動等の不意の挙動を抑制するフェアリングが装着される。パッカー103とライザー管101の下端との接合部には、ライザー管101の緊急離脱機構を有する不図示の噴出防止装置が設けられる。
【0025】
本実施形態の海洋資源揚鉱装置100は、船上から駆動流体供給管23を通してレアアース泥床ODの採掘坑底まで送られるリーチング用浸出溶液Lsを駆動流体Mとしてダウンホールモータ2を駆動する。そして、ダウンホールモータ2の先端部のビット90から駆動流体Mを噴射してレアアース泥床OD中のレアアース泥Drを採鉱するとともに、その採鉱と同時に海底Bでリーチング用浸出溶液Lsにより選鉱可能になっている。
【0026】
本実施形態のダウンホールモータ2は、
図2に示すように、流体モータ機構を構成する流体モータ部130が、ステータ120が固定型であってユニバーサルジョイント185を使用して回転駆動力を伝達するように構成されている。
詳しくは、ダウンホールモータ2は、同図に示すように、駆動流体供給管23の下端に位置する流体モータ部130と、流体モータ部130の下部に設けられた動力伝達部180と、動力伝達部180の下部に設けられた駆動軸支持部160とを有する。
【0027】
流体モータ部130には、円筒状のハウジング131内に、螺旋状の内周面を有するステータ120が固定されている。ステータ120内には、螺旋状の外周面を有するロータ110が回転自在に支持され、ロータ110とステータ120との間に複数のキャビティKが画成される。また、ハウジング131の上部には、駆動流体Mを導入するための上記駆動流体供給管23の先端が接続される。
【0028】
駆動軸支持部160には、円筒状のハウジング170内に、スラスト荷重およびラジアル荷重を受ける軸受150を介してシャフトである駆動軸140が回転自在に支持されている。駆動軸140の先端は、ビット装着部140sとされている。ビット装着部140sは、ハウジング170の下方に張り出している。ビット装着部140sの外周面には、掘削用のビット90を接続可能な雄ねじが形成されている。
【0029】
また、駆動軸140の上部には、動力伝達部180のハウジング181内に連通する複数の連通口141が形成されている。複数の連通口141は、駆動軸140の軸方向に沿って形成された連通路142を介してビット90の先端に吐出口91mが開口するように形成された吐出部であるノズル91に駆動流体流路として連通している。
そして、ロータ110の下端と駆動軸140の上端とは、動力伝達部180のハウジング181内にそれぞれ張り出しており、ロータ110の下端と駆動軸140の上端相互は、ユニバーサルジョイント185を介してハウジング181内で回転駆動力を伝達可能に接続されている。
【0030】
このダウンホールモータ2によれば、駆動流体供給管23から流体モータ部130のキャビティKに高圧の駆動流体Mとしてリーチング用浸出溶液Lsを導入することで、流体モータ部130が、一軸偏心ねじポンプの作動原理の逆作動により、回転部であるロータ110に回転力を与え、ロータ110の下端を出力軸とし、ロータ110の回転を、上下の継手部182、184および連結ロッド183を有するユニバーサルジョイント185を介して駆動軸140に伝達可能になっている。
【0031】
ここで、このダウンホールモータ2には、ハウジング181自体が所定の傾倒角度の範囲で屈曲が可能な屈曲機構190が、連結ロッド183の部分に内蔵されている。なお、この種の屈曲機構190としては、例えば、特許第3730570号公報や特許第5364104号公報に開示される周知の構造を採用することができる。
【0032】
本実施形態のダウンホールモータ2には、同図に示すように、屈曲機構190が連結ロッド183の部分に設けられている。この屈曲機構190には、不図示の姿勢検出センサが設けられており、アンビリカブルケーブルである駆動流体供給管23に設けられた電力・駆動信号供給ケーブルを介して、海上に停泊する採鉱母船1のオペレータが、ダウンホールモータ2の随時の姿勢を監視可能になっている。
本実施形態の屈曲機構190は、屈曲部での屈曲が可能な屈曲構造194と、ハウジング181の屈曲方向を制御するために、ハウジング181内で複数の連通口141それぞれの領域に区分する複数の圧力室191と、これら複数の圧力室191それぞれへの駆動流体Mを導入する流路を開閉可能に配置された複数の開閉弁192と、各開閉弁192に対応して各圧力室191に配置された傾倒用アクチュエータ193と、を備える。
【0033】
複数の開閉弁192は、アンビリカブルケーブルである駆動流体供給管23に設けられた電力・駆動信号供給ケーブルから伝えられた駆動信号に応じて開閉駆動される。これにより、この屈曲機構190は、複数の開閉弁192の開閉に応じて対応する圧力室191が開閉されると、当該圧力室191に設けられた傾倒用アクチュエータ193の駆動により、屈曲構造194部分でのハウジング181内の周方向での圧力室191相互に意図的な圧力不均衡を生じさせ、これにより、下の継手部184の位置から先の駆動軸支持部160が、下の継手部184を中心として、所期の方向に傾倒作動するようになっている。
【0034】
[第一実施形態における動作および作用効果]
次に、第一実施形態の海洋資源揚鉱装置100の動作並びにこれを用いた海洋資源の揚鉱方法、並びに、その作用効果について説明する。ここで、本実施形態では、海底のレアアース泥床ODにて、レアアース泥Drの堆積層Dが露出しておらず、深海の非レアアース泥堆積層DNの下部に分布するレアアース泥堆積層Dからレアアース泥Drを選鉱回収するものである。
【0035】
詳しくは、レアアース泥Drを選鉱回収する際は、まず、
図1に示すように、採鉱母船1を目的とする海域の海上に停泊し、自動船位保持システムによって採鉱母船1を定点保持する。次いで、上述した海洋資源揚鉱装置100を採鉱やぐら14から海中に降ろし、海中のレアアース泥床ODの所期の位置に海洋資源揚鉱装置100を配置する。ライザー管101、駆動流体供給管23およびダウンホールモータ2の各配管内には、海底に配備される当初は海水Wが満たされる。
【0036】
所期の位置において、同図に示すように、ライザー管101のパッカー103をレアアース泥床ODに対向させる。次いで、複数のアンカー106を海底面下の所定深度まで自重または他の打設装置により打ち込み、下部フレーム105を海底面に隙間なく当接させて集鉱スカート104内に密閉空間を画成する。このとき、ダウンホールモータ2は、ビット90がパッカー103の下端から張り出しているので、ビット90をレアアース泥床ODに押し当てる位置に配備する。
【0037】
本実施形態では、駆動流体供給管23の基端部は、駆動流体導入部として採鉱母船1に装備された、不図示の駆動流体供給ポンプを介してリーチング用浸出溶液貯留槽に接続される。ライザー管101の上端部は、採鉱母船1に装備された揚鉱設備に接続される。そして、採鉱母船1から、海洋資源揚鉱装置100に対し、駆動流体供給管23から駆動流体Mとして高圧のリーチング用浸出溶液Lsを圧送する。
【0038】
ここで、本実施形態では、駆動流体Mとして、硫酸アンモニウム水溶液を用いてリーチング用浸出溶液Lsを作り、このリーチング用浸出溶液Lsを駆動流体供給管23からダウンホールモータ2に駆動流体Mとして供給する。
特に、硫酸アンモニウム水溶液は、一般的にリーチングで使用される硫酸や塩酸と異なり、肥料にも使用されており、環境に対する安全性が高いといえる。そして、硫酸アンモニウム水溶液であれば、
図3に示すように、低濃度でも比較的高い浸出率でレアアース泥中の、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)などのレアアースを溶出可能である。
また、
図4に示すように、比較的短時間でも比較的高い浸出率でレアアース泥中の、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)などのレアアースを溶出可能である。
【0039】
上記のように配置された海洋資源揚鉱装置100において、採鉱作業時には、ダウンホールモータ2には、高圧の駆動流体Mが、上記駆動流体供給管23の駆動流体供給路13から導入され、ハウジング131の上部に供給される(
図2の符号M1)。このダウンホールモータ2によれば、駆動流体供給管23から流体モータ部130のキャビティKに高圧の駆動流体Mを導入することで、流体モータ部130は、一軸偏心ねじポンプの作動原理の逆作動により、駆動流体Mの導入圧が回転駆動力に変換される。
【0040】
これにより、回転部であるロータ110に回転力を与え、流体モータ部130は、ロータ110の下端を出力軸とし、ロータ110の回転がユニバーサルジョイント185を介して駆動軸140に伝達され、駆動軸140の先端に設けられたビット90が共に回転する。また、駆動流体供給路13からハウジング181に導入された駆動流体Mは、複数の連通口141から連通路142を介して、ビット90先端のノズル91から装置外に噴射される。
【0041】
ここで、このダウンホールモータ2には、上述のように、ハウジング181自体が所定の傾倒角度の範囲で屈曲が可能な屈曲機構190が、連結ロッド183の部分に設けられており、採鉱母船1から、アンビリカブルケーブルである駆動流体供給管23に設けられた電力・駆動信号供給ケーブルを介して、傾倒用アクチュエータ193を駆動することにより、駆動軸支持部160が、下の継手部184を中心として、所期の方向に傾倒作動させることができる。
【0042】
そのため、ダウンホールモータ2は、
図5に示すように、ダウンホールモータ2の掘進方向として、レアアース泥床ODに対し、所定の掘削深度まで、つまり、採掘坑Eの入り口Fからレアアース泥堆積層Dに至るまでの非レアアース泥堆積層DNでは竪穴を掘削し、所定の掘削深度まで掘削後、つまりレアアース泥堆積層Dに到達後はレアアース泥堆積層Dの延在方向に沿って横穴を掘削して採掘坑Eを掘進することができる。
【0043】
これにより、この海洋資源揚鉱装置100は、ビット90の回転による掘削力と、ビット90のノズル91から噴射されるリーチング用浸出溶液Lsの流体力とによってレアアース泥床ODのレアアース泥Drを解泥しつつレアアースを選鉱できる。そして、ビット90の回転力とリーチング用浸出溶液供給時の残存圧力とによる流れに導かれ、解泥されたレアアース泥Drおよびその周囲のリーチング用浸出溶液Lsがパッカー103内に送り込まれる。
【0044】
以降、
図6に拡大図示するように、駆動流体供給管23を張り出させたフィード長に応じた水平方向へのフィード動作Uにより、所定の掘削深度での採鉱および選鉱を継続し、駆動軸140先端に装着されたビット90によってレアアース泥床ODのレアアース泥堆積層Dに沿って効率良く採鉱しつつ選鉱することができる。
【0045】
本実施形態では、海上の採鉱母船1から駆動流体供給管23を所定速度でフィードさせることで、駆動流体供給管23と共にダウンホールモータ2を一体で水平方向に掘進させながらレアアース泥床ODからレアアース泥Drを連続的に採鉱しつつ選鉱することができる。なお、同図白抜き矢印は、屈曲機構190による傾倒作動で、ダウンホールモータ2の掘進方向を縦方向から横方向に変えているイメージを示している。
【0046】
特に、この海洋資源揚鉱装置100によれば、流体モータ部130を経た駆動流体Mは、駆動流体流路としてのハウジング181内を通り、連通口141から連通路142を順に介してビットに形成された吐出部であるノズル91から噴射される。そして、その流体力によってビット90による掘削力との協働により効率良くレアアース泥Drを解泥することができる。これにより、この海洋資源揚鉱装置100は、駆動流体Mとしてリーチング用浸出溶液Lsを駆動流体供給管23からダウンホールモータ2に供給することにより、海底のレアアース泥堆積層Dのレアアース泥Drを解泥しつつ選鉱できる。
【0047】
さらに、この海洋資源揚鉱装置100は、リーチング用浸出溶液供給時の残存圧力により、解泥されたレアアース泥Drを周囲のリーチング用浸出溶液Lsとともにパッカー103内に送り込み、海中で液液分離されたレアアース選鉱溶液Maを採掘坑E内およびパッカー103内にて効率良く生成できる。
【0048】
また、パッカー103内に導入されたレアアース泥Drとリーチング用浸出溶液Lsは、パッカー103内で相互に混合される。そして、パッカー103に導かれたレアアース泥Drは、レアアース泥Drがリーチング用浸出溶液Lsにより永く接触することにより、リーチング用浸出溶液Lsにレアアース泥Dr中のレアアースが一層効率良く浸出される。これにより、海中で液液分離されたレアアース選鉱溶液Maとしてレアアース泥Dr中のレアアースが効率良く選鉱される。海洋資源揚鉱装置100が引き続き駆動されると、パッカー103内のレアアース選鉱溶液Maは、次第にパッカー103上部のライザー管101まで満たされていく。
【0049】
特に、本実施形態によれば、ライザー管101に揚鉱用の圧縮空気を注入するエアリフト手段としての圧縮空気供給管102と、採掘坑Eの坑口Fを封止するパッカー103と、を備え、パッカー103は、ライザー管101の下部に装着されて該下部の開口部を囲繞するように設けられた可撓性の集鉱スカート104と、該集鉱スカート104の下縁に設けられた複数のアンカー106と、を有するので、パッカー103が形成する密閉空間に、レアアースの溶解したレアアース選鉱溶液Maと溶解進行中のレアアース泥およびリーチング用浸出溶液Lsが貯留される。
【0050】
この密閉空間において、上記
図3ないし
図4に示すような、各種レアアースの浸出時間と浸出率のデータから推察されるレアアースが十分に溶解する所定時間の貯留後、レアアースが十分に浸出したレアアース選鉱溶液Maを、ライザー管101に圧縮空気供給管102から圧縮空気を注入してエアリフトで揚鉱できる。そのため、パッカー103の密閉空間にて一定の浸出時間を確保することにより、レアアース泥Dr中のレアアースを選択的に且つ十分に浸出したレアアース選鉱溶液Maを揚鉱できる。よって、より高効率にレアアースを揚鉱する上で好適である。
【0051】
その後、
図7に示すように、
図1に示した圧縮空気供給管102から圧縮空気をパッカー103内に注入する。同図に符号Aを付す矢印は、圧縮空気供給管102から圧縮空気をパッカー103内に注入しているイメージを示している。これにより、注入された圧縮空気Aとレアアース選鉱溶液Maとがパッカー103内にて撹拌混合され、
図8に示すように、パッカー103内に貯鉱されたレアアース選鉱溶液Maを、エアリフトの浮上力によりライザー管101内に浮上させる。
【0052】
ライザー管101は、海上の採鉱母船1まで延設されているため、本実施形態の海洋資源揚鉱装置100によれば、レアアース選鉱溶液Maを、リーチング用浸出溶液供給時の残存圧力と、ライザー管101に注入された圧縮空気によるエアリフトの浮上力とにより、ライザー管101から洋上の採鉱母船1の回収設備に回収できる。
【0053】
特に、本実施形態では、圧縮空気供給管102は、複数の分岐管路102a,102b,102cを有し、各分岐管路102a,102b,102cがライザー管101の途中部分の適所に接続されているので、ライザー管101の途中部分にも圧縮空気を供給することができる。これにより、ライザー管101が長い場合でも、揚鉱を補助して安定した揚鉱を行うことができる。
そして、上述した一連の海洋資源揚鉱工程の終了後、
図9に示すように、ダウンホールモータ2とパッカー103を深海の海底面上に引き上げ、揚鉱スケジュールに従い、採鉱母船1を所定距離移動してレアアース泥床ODの他の位置にて上述した一連の海洋資源揚鉱工程を繰り返す。
【0054】
このように、第一実施形態の海洋資源揚鉱装置100によれば、海底設備としては、駆動流体供給管23を内蔵するとともに圧縮空気供給管102を付設したライザー管101を用い、このライザー管101の下部に配置したパッカー103内に、一台のダウンホールモータ2を設けるだけで、リーチング用浸出溶液Lsによる流体モータ機構を構成する流体モータ部130の駆動により、ビット90の回転による掘削力とリーチング用浸出溶液Lsの噴射による流体力とでレアアース泥Drを解泥しつつ、レアアース泥Drとリーチング用浸出溶液Lsとを混合し、レアアース選鉱溶液Maを生成することができる。
【0055】
そして、順次に生成されたレアアース選鉱溶液Maをパッカー103からライザー管101へと移動させてレアアース選鉱溶液Maを安定させつつ、リーチング用浸出溶液供給時の残存圧力により、海底から船上まで延設したライザー管101にてレアアース選鉱溶液Maを揚鉱できる。そして、リーチング用浸出溶液供給時の残存圧力よりライザー管の下部に設けられたパッカー103からライザー管101内にレアアース選鉱溶液Maを導入することができる。
【0056】
ここで、レアアース泥Drに含まれるレアアースの品位はppmオーダーである。そのため、揚鉱前に海底でリーチングを行い、不要な脈石を予め取り除くことができれば、揚泥にかかるコストを大幅に減らすことができる。すなわち、第一実施形態の海洋資源揚鉱装置100によれば、安定した運転性能を確保するとともに、採鉱効率を向上させることができる。
【0057】
また、特許文献1に記載されるようなターボ形のポンプの場合、機器はかなり複雑な形状のため、深海(例えば水深6000m)の高圧下では、局部的形状や各部の肉厚に強度的に十分な考慮が必要となる。これに対し、本実施形態の海洋資源揚鉱装置100であれば、ライザー管101およびダウンホールモータ2が円筒形状のシンプルな形状のため、深海の高圧下での強度的対応に優位な形状である。よって、安定した運転性能を確保する上で好適である。また、本実施形態のダウンホールモータ2は、採鉱時に、駆動流体供給管23を回転させないので、駆動流体供給管23の強度や摩擦にも有利である。
【0058】
さらに、特許文献1に記載されるようなターボ形のポンプの場合、機器はかなり大型かつ複雑な形状のため、複数のポンプの、各号機相互の接続に大きな横幅を必要とする。これに対し、本実施形態の海洋資源揚鉱装置100であれば、ライザー管101およびダウンホールモータ2が円筒形状のため、シンプルな配管接続が可能である。
【0059】
また、従来のポンプリフト方式やエアリフト方式では、深海の非レアアース泥堆積層の下部に分布するレアアース泥堆積層からレアアース泥を船上まで揚泥する場合、レアアース泥堆積層上部に堆積している非レアアース泥も船上まで揚鉱するか、クローラドリル等で非レアアース泥堆積層を掘削排除した後に、レアアース泥を船上まで揚鉱する必要があった。これに対し、本実施形態によれば、クローラドリル等の設備も不要であり、深海の非レアアース泥堆積層DNの下部に分布するレアアース泥堆積層Dから効率的なレアアースDrの選鉱回収が可能となる。
【0060】
なお、本発明に係る海洋資源揚鉱装置およびこれを用いた海洋資源の揚鉱方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記第一実施形態では、リーチング用浸出溶液Lsとして、硫酸アンモニウム水溶液を用いた例で説明したが、本発明に適用できるリーチング用浸出溶液Lsは、硫酸アンモニウム水溶液に限定されず、例えば、希硫酸、または希塩酸を含むものであってもよい。
【0061】
図11に、0.5mol/Lの希薄な塩酸によるレアアース泥の浸出試験の結果示すように、希硫酸をリーチング用浸出溶液Lsとして用いても、リーチング掘進によりレアアース泥Drからレアアースを選鉱しつつ採鉱できる。そのため、採鉱効率を向上させることができる。また、
図12に、0.5mol/Lの希薄な塩酸によるレアアース泥の浸出試験の結果示すように、希塩酸をリーチング用浸出溶液Lsとして用いても、リーチング掘進によりレアアース泥Drからレアアースを選鉱しつつ採鉱できる。そのため、採鉱効率を向上させることができる。
【0062】
また、例えば上記第一実施形態では、レアアース選鉱溶液Maを洋上まで揚鉱する手段として、リーチング用浸出溶液供給時の残存圧力と、ライザー管101に注入された圧縮空気によるエアリフトの浮上力とを併用して、レアアース選鉱溶液Maを浮上させる例を示したが、これに限定されない。例えば、リーチング用浸出溶液供給時の残存圧力のみによって揚鉱してもよいし、また、ライザー管101に注入された圧縮空気によるエアリフトの浮上力のみによって揚鉱してもよい。
【0063】
[第二実施形態]
具体例として、本発明の第二実施形態について説明する。
図13に示すように、第二実施形態では、上記第一実施形態に示したエアリフト手段である圧縮空気供給管102を設けておらず、また、パッカー103に替えて、採掘坑Eの坑口Fをシールする円筒形アンカー108を備える点が相違する。
円筒形アンカー108は、ライザー管101の下部開口部を囲繞するとともに、ライザー管101の配置時に海底Bでレアアース泥床ODに打ち込まれて、採掘坑Eの坑口Fをシール可能に構成されている。他の構成は上記第一実施形態と同様である。
【0064】
この第二実施形態の構成によれば、海底設備としては、駆動流体供給管23を内蔵したライザー管101の下部に配置した円筒形アンカー108内に一台のダウンホールモータ2を設けるだけで、リーチング用浸出溶液Lsによる流体モータ部130の駆動により、ビット90の回転による掘削力とリーチング用浸出溶液Lsの噴射による流体力とでレアアース泥Drを解泥しつつ、レアアース泥Drとリーチング用浸出溶液Lsとを混合し、レアアース選鉱溶液Maを生成できる。
【0065】
そして、駆動流体供給管23を所定速度でフィードさせることで、リーチング掘進によりレアアース泥Drからレアアースを選鉱しつつ採鉱できる。そのため、採鉱効率を向上させることができる。そして、深度に応じて、エアリフトを用いることなく、リーチング用浸出溶液供給時の残存圧力によりライザー管101で揚鉱可能である。
【0066】
[第三実施形態]
また、他の具体例として、本発明の第三実施形態について説明する。
図14に示すように、第三実施形態では、上記第一実施形態に対し、パッカー103に替えて、採掘坑Eの坑口Fをシールする円筒形アンカー108を備える点が相違する。他の構成は上記第一実施形態と同様である。
【0067】
この第三実施形態の構成によれば、海底設備としては、駆動流体供給管23を内蔵するとともに圧縮空気供給管102を付設したライザー管101を用い、このライザー管101の下部に配置した円筒形アンカー108内に、一台のダウンホールモータ2を設けるだけで、リーチング用浸出溶液Lsによる流体モータ部130の駆動により、ビット90の回転による掘削力とリーチング用浸出溶液Lsの噴射による流体力とでレアアース泥Drを解泥しつつ、レアアース泥Drとリーチング用浸出溶液Lsとを混合し、レアアース選鉱溶液Maを生成できる。
【0068】
そして、駆動流体供給管23を所定速度でフィードさせることで、リーチング掘進によりレアアース泥Drからレアアースを選鉱しつつ採鉱できる。そのため、採鉱効率を向上させることができる。そして、リーチング用浸出溶液供給時の残存圧力と、圧縮空気供給管102からライザー管101に注入された圧縮空気によるエアリフトの浮上力と、によりライザー管101で揚鉱可能である。
【0069】
[ダウンホールモータの他の実施形態]
また、例えば上記第一実施形態では、ダウンホールモータ2は、ねじポンプを流体モータ機構に使用し、その出力を、ユニバーサルジョイントを介して出力軸に出力し、これにより、省スペース化を実現し、流体モータ機構での駆動力を効率良く伝達する構成例を示したが、これに限らず、流体モータ機構での出力を、ユニバーサルジョイントを介することなく出力軸に出力する構成としてもよい。
【0070】
以下、具体的な他の実施形態を説明する。なお、当該他の実施形態では、ダウンホールモータを駆動する流体モータ機構が上記第一実施形態(ないし第二、第三実施形態)とは相違するが、その他の構成は上記第一実施形態(ないし第二、第三実施形態)と同様なので、以下、相違点について説明し、上記第一実施形態(ないし第二、第三実施形態)と同様または対応する構成については同一の符号を付すとともに、その説明を適宜省略する。
【0071】
当該他の実施形態のダウンホールモータ2は、
図15に示すように、中空円筒状のハウジング10を備える。本実施形態では、駆動流体供給管23の先端部分は、ダウンホールモータ2のハウジング10の上部を構成している。そのため、以下、駆動流体供給管23の先端部分を「上部ハウジング11」と呼称する。
このダウンホールモータ2は、自身基端部が上部ハウジング11先端(つまり、駆動流体供給管23の先端部分)に接続されている。ビット90の位置は、パッカー103の下端から張り出している。これにより、ダウンホールモータ2は、上部ハウジング11の駆動流体供給路13に高圧のリーチング用浸出溶液Lsが駆動流体Mとして供給されると、ビット90でレアアース泥床ODを掘削しつつ、レアアース泥床ODから掘削したレアアース泥Drをリーチング用浸出溶液Lsとともにパッカー103内に導くようになっている。
【0072】
詳しくは、ハウジング10は、上部ハウジング11と、上部ハウジング11の下端に同軸に装着された中空円筒状の下部ハウジング12とを有する。ダウンホールモータ2は、使用時には、ハウジング10の軸線を上下方向として海中に配備される。ハウジング10は、内部が軸方向に沿って貫通しており、上端部および下端部にそれぞれ開口を有している。ハウジング10の上部開口に連通する駆動流体流路が、駆動流体Mをダウンホールモータ2に導入する駆動流体供給路13になっている。
【0073】
この例では、駆動流体Mとして高圧のリーチング用浸出溶液Lsが駆動流体供給路13に導入される。駆動流体供給路13が内部に形成された駆動流体供給管23は、その上端部が、不図示の駆動流体供給ポンプを介して採鉱母船1のリーチング用浸出溶液貯留槽に接続され、駆動流体供給部を構成している。
【0074】
上部ハウジング11の下端には、インロー凸部11tが設けられ、下部ハウジング12の上端には、インロー凹部12dが設けられている。インロー凸部11tとインロー凹部12dとは、インロー嵌合され、その状態で相互が連結されている。そして、上部ハウジング11には、第一シャフト20が回転自在に支持され、下部ハウジング12には、第二シャフト30が回転自在に支持されている。
【0075】
上部ハウジング11は、軸方向での下部の位置に、第一シャフト支持部51が設けられている。第一シャフト支持部51は、複数の軸受51jと、複数の軸受51jを上下の軸方向から自身の鍔部で挟持するようにそれぞれ装着される第一のブシュ41および第二のブシュ42と、第一のブシュ41の内周面と第一シャフト20の基端部21の外周面との間に介装された第一のシール61と、第二のブシュ42の内周面と第一シャフト20の基端部21の外周面との間に介装された第二のシール62と、下部開口に装着される円環状の支軸部キャップ82と、を有する。
【0076】
第一シャフト支持部51は、上記インロー嵌合による連結時に、上部ハウジング11内の凹の段部に装着された複数の軸受51jおよびその両側の二つのブシュ41、42が、上部ハウジング11の下部開口部に装着された支軸部キャップ82によって軸方向に挟圧されることにより、装着状態が保持される。
【0077】
その装着状態において、第一シャフト支持部51は、上部ハウジング11の軸線に対して所定の偏心距離Eだけ偏心した位置に第一シャフト20の基端部21を支持するように複数の軸受51jが軸線方向に沿って配置され、複数の軸受51jを介して第一シャフト20の基端部21を回転自在に支持する。第一シャフト支持部51の複数の軸受51jの両側は、第一のシール61および第二のシール62により、第一シャフト20の基端部21の外周面と上部ハウジング11の内周面との間がシールされる。
【0078】
下部ハウジング12には、軸方向の上下に離隔して、二つの第二シャフト支持部52、53が設けられている。上部側を支持する第二シャフト支持部52は、複数の軸受52jと、複数の軸受52jを軸方向の上方から自身鍔部で挟持するように装着される第三のブシュ43と、第三のブシュ44の内周面と第二シャフト30の外周面との間に介装された第三のシール63と、を有して構成されている。
【0079】
また、下部側を支持する第二シャフト支持部53は、複数の軸受53jと、複数の軸受53jを軸方向の下方から自身鍔部で挟持するように装着される第四のブシュ44と、第四のブシュ44の内周面と第二シャフト30の外周面との間に介装された第四のシール64と、円環状のフロントキャップ81と、を有して構成されている。
【0080】
第二シャフト30の外周面には、軸方向の中央部に、凸の段部31mが形成されており、上下の軸受52j、53jの凸の段部31m側の側面が、凸の段部31mの側面に当接するように装着されるとともに、下部ハウジング12の下部開口部に装着されたフロントキャップ81の装着によって軸方向に挟圧されることにより、装着状態が保持される。なお、フロントキャップ81は、図示しない複数の埋め込みボルトにより下方から固定される。
【0081】
その装着状態において、上下の第二シャフト支持部52、53は、下部ハウジング12の軸線に対して同軸となる位置に第二シャフト30の外周面を支持するように、複数の軸受52j、53jが軸線方向に沿って配置され、複数の軸受52j、53jを介して第二シャフト30の外周面を回転自在に支持する。
また、第二シャフト支持部52、53の複数の軸受52j、53jの上下の側は、第三のシール63および第四のシール64により、第二シャフト30の外周面と下部ハウジング12の内周面との間がシールされる。なお、本実施形態では、各シャフト20、30を支持する複数の軸受51j、52j、53jに、スラスト荷重およびラジアル荷重を受ける深溝玉軸受を使用しているが、これに限定されず、種々の軸受を用いることができる。
【0082】
ここで、このダウンホールモータ2は、上述した下部ハウジング12内に、流体モータ機構を構成する駆動機構部70が設けられている。
詳しくは、第一シャフト20は、上記基端部21と、基端部21の先端側に形成されたインナロータ部22とを一体に有して構成されている。基端部21の上面には、上述した駆動流体供給路13に連通して、基端部21の軸方向に沿って駆動流体導入路25が形成されている。基端部21の駆動流体導入路25は、基端部21とインナロータ部22との境となる位置まで延設されている。
【0083】
そして、基端部21とインナロータ部22との境となる位置には、複数の駆動流体導出口24が、駆動流体導入路25の先端部と下部ハウジング12の内部とを連通するように径方向に形成されている。つまり、第一シャフト20には、駆動流体供給路13側から順に連通形成された、第一の駆動流体導入路23、第二の駆動流体導入路25および駆動流体導出口24によって、自身基端側の第一の駆動流体導入路23から導入された駆動流体Mを自身先端側の駆動流体導出口24から吐出可能な駆動流体流路が設けられている。
【0084】
さらに、インナロータ部22は、第一シャフト20の基端部21の先端から軸方向に沿って同軸に下方に向けて垂下された状態で延設され、その延設された部分に、雄ねじ状の外周面を有している。一方、第二シャフト30は、金属製で中空円筒状をなす外筒31と、外筒31内に配置されたゴム製のアウタロータ部32とを一体にして構成され、アウタロータ部32は、雌ねじ状の内周面を有している。
【0085】
駆動機構部70は、内周面に(N+1)条雌ねじを有するアウタロータ部32と、外周面にN条雄ねじを有するインナロータ部22とを備える。そして、アウタロータ部32の回転軸線CL2に対し、インナロータ部22の回転軸線CL1は、相互の軸心が所定の偏心距離Eだけ離れた平行な2軸となるように配置され、インナロータ部22とともにアウタロータ部32が、N/(N+1)の回転角度で連れ回り駆動可能に構成されている。但し、Nは1以上の自然数である。
【0086】
この例では、駆動機構部70は、インナロータ部22の螺旋部22rが、左巻き2条雄ねじになっており、アウタロータ部32の螺旋部32rの形状が、120度間隔の頂点を有する横断面が3角リング形状の左巻き3条雌ねじになっている。そしてインナロータ部22外周面の螺旋部22rがアウタロータ部32の螺旋部32rに内装され、相互の隙間には、駆動に応じて独立した密閉空間とされるキャビティKが軸方向の複数個所に画成されている。
【0087】
第二シャフト30の先端には、掘削用のビット90が装着される。本実施形態では、第二シャフト30の外筒31の先端は、フロントキャップ81よりも下部ハウジング12の下方に張り出してビット装着部33とされている。ビット装着部33の外周面には、ビット90を接続可能な雄ねじが形成され、ビット90は、自身基端部が第二シャフト42先端のビット装着部33に接続される。なお、ビット90の下面には、駆動流体Mを吐出する吐出部であるノズル91が、中央部から放射状に複数に分岐して開口しており、複数のキャビティKを経た高圧の駆動流体Mをノズル91から噴射可能になっている。
【0088】
これにより、このダウンホールモータ2は、インナロータ部22とアウタロータ部32とが、インナロータ部22の回転軸線CL1とアウタロータ部32の回転軸線CL2とを並列に且つ所定の偏心距離Eだけ離してそれぞれ回転自在に支承される。そして、このダウンホールモータ2を駆動するときは、インナロータ部22と一体の第一シャフト内部に連通形成された駆動流体流路を介して駆動機構部70の上部の位置31uに駆動流体Mを導入し、インナロータ部22とアウタロータ部32とで画成されるキャビティKに高圧の駆動流体Mを流し込む。
【0089】
高圧の駆動流体Mは、インナロータ部22とアウタロータ部32との対向空間に画成された複数のキャビティKに順次に導入される。駆動機構部70は、キャビティKに作用する駆動流体Mの導入圧により、インナロータ部22とアウタロータ部32とが所定比率で連れ回りを開始する。
これにより、このダウンホールモータ2は、ねじポンプの原理(逆作動)でインナロータ部22とアウタロータ部32とが所定比率で回転され、アウタロータ部32と一体の第二シャフト30を駆動軸として回転駆動し、その外筒31を延設してなるビット装着部33に装着されたビット90を回転しつつ、ビット90の回転による掘削力と、ビット90のノズル91から噴射されるリーチング用浸出溶液Lsの流体力とによってレアアース泥床ODの泥質堆積層を解泥可能になっている。
【0090】
つまり、駆動機構部70において、駆動流体Mの導入圧が第二シャフト30の回転駆動力に変換される。駆動機構部70で第二シャフト30が回転駆動すると、第二シャフト30の先端に設けられたビット90が共に回転する。駆動流体供給路13から導入された駆動流体Mは、駆動機構部70の下部の位置31sを経て(
図15の符号M2)、ビット90先端のノズル91から装置外に噴射される(
図15の符号M3)。
【0091】
これにより、当該他の実施形態のダウンホールモータ2を備える海洋資源揚鉱装置100であっても、第一実施形態(ないし第二、第三実施形態)同様に、ビット90の回転による掘削力と、ビット90のノズル91から噴射されるリーチング用浸出溶液Lsの流体力とによってレアアース泥床ODのレアアース泥Drを解泥できる。これにより、ビット90の回転力とリーチング用浸出溶液供給時の残存圧力とによる流れに導かれ、解泥されたレアアース泥Drおよびその周囲のリーチング用浸出溶液Lsがパッカー103内に送り込まれる。
【0092】
以降、所定の掘削深度まで掘削後、第一実施形態(ないし第二、第三実施形態)同様に、駆動流体供給管の張り出し長さに応じた水平方向へのフィード動作により、所定の掘削深度での採鉱を継続できる。そして、海上の採鉱母船1から駆動流体供給管23を所定速度でフィードさせることで、第一実施形態同様に、駆動流体供給管23と共にダウンホールモータ2を一体で水平方向に掘進させながらレアアース泥床ODからレアアース泥Drを連続的に採鉱することができる。
【0093】
そして、当該他の実施形態のダウンホールモータ2によれば、上記第一実施形態に対して、高圧の駆動流体で作り出されたロータの回転力を、ユニバーサルジョイントを介してシャフトに伝達していた構成と比べて、アウタロータ部32の回転駆動にユニバーサルジョイントが不要なので、駆動機構部70の全長を短くしてコンパクトに構成できる。
【0094】
また、当該他の実施形態のダウンホールモータ2によれば、アウタロータ部32の回転駆動にユニバーサルジョイントが不要なので、ユニバーサルジョイントやその連結用ロッドも不要なことから、これらの強度に依存するという問題も解消される。また、インナロータ部22の回転よりも減速されたアウタロータ部32の回転力をビット90に直接伝達できる。そのため、第一シャフト20のトルクよりも大きな回転トルクを、第二シャフト30の先端に設けられたビット90に効率良く伝達可能なので、より高トルクに対応できる。
【0095】
さらに、当該他の実施形態のダウンホールモータ2によれば、インナロータ部22の外径よりも大きなアウタロータ部32の外筒31を支承する大きな軸受52j、53jを有する第二シャフト支持部52、53によって、ビット90に加わる負荷を受けることができる。そのため、駆動機構部70の全長をコンパクトに構成しつつも、より信頼性の高い海洋資源揚鉱装置100を提供できる。
[総括]
【0096】
以上説明したように、上述した各実施形態によれば、リーチング用浸出溶液を駆動流体とするダウンホールモータを備える海洋資源揚鉱装置を用いることにより、リーチング用浸出溶液を駆動流体として流体モータ機構を駆動する動力のみで、ビットでの掘削およびビットのノズルからの駆動流体の噴射によりレアアース泥を解泥しつつ選鉱できる。さらに、効率良くリーチングする上で、レアアース泥とリーチング用浸出溶液との攪拌混合に必要なエネルギーをも流体モータ機構を駆動する動力のみで賄える。
【0097】
そして、レアアース泥に含まれるレアアースの品位はppmオーダーであるところ、上述した各実施形態によれば、リーチング用浸出溶液に海底の採掘坑内やパッカー内でレアアース泥を接触させて、レアアースが浸出したレアアース選鉱溶液をライザー管から回収するので、海底で選鉱を行い不要な脈石を取り除くことができる。そのため、レアアース泥自体を海底から船上にすべて揚泥して、そのあとで選鉱する揚鉱方法と比較して、採鉱効率を大幅に向上させ、レアアース回収にかかるコストを大幅に削減できるのである。